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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] カウントダウン3 後編
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/30 21:49
どこまでも突き抜けるような青空。文明による大気汚染は皆無に等しく、鮮やかな青色が眩しい。

人の手が入っていないお陰なのだろう。大地を被う木々も鬱蒼と生い茂っており、どれも背が高い。

第六管理世界。そこの辺境とも言える地域のアルザス。そこを縦断するあぜ道から外れたところで、幼い一団が騒いでいた。

もっともそれは見た目だけであり、守護騎士二名のせいで平均年齢はおそろしく高いのだが。

「おーし、それじゃあ野営の準備すっぞー!」

「はい!」

「ああ」

「了解や」

とてもキャンプを楽しみにきたという服装ではない、普段着のヴィータ。狼形態のザフィーラは慣れた様子でタープの部品を、次元転送で呼び出した荷物の山から引きずり出す。

それを感心した様子で見ているのはシグナムとはやて。ちなみにリインフォースは、寄ってくる虫と格闘中だ。

「はー……やはり一流の騎士ともなれば、キャンプの準備だってぞうさもないのでしょうか」

「や、私より前の夜天の主と放浪している最中に身に付けたらしい」

「そうなのですか。経験がものをいうのですね」

小さく頷くと、シグナムは腕まくりをしてヴィータの元へと駆け寄った。この日のために買ってもらったトレッキングシューズが、小さな足跡を地面につける。

ポールを組み立てている段階だから、邪魔にはならないか。

騎士たちの姿を眺めながら、はやては深々と空気を吸い込んだ。しかし、あまりにも緑の匂いが濃すぎてむせてしまう。

ベルカ自治領もかなり自然が多い方だが、ここと比べることはできないか。まったく人の手が入っていない地域なのだから。

「はやてちゃん、はやてちゃん! 虫除けのために結界を張って! 張ってください!」

「り、リイン、どうしたん?」

「蚊が凄い勢いで寄ってくるですよ! なんとかしてくださいー!」

本気で頭を抱えるリインの様子に、はやては苦笑してしまう。

文字通り虫除けスプレーを浴びたのに、その効果がないのか。

「害虫害獣除けの結界なー。……ちょお待って」

断りを入れて、はやては蒐集された魔法の中から適当な術式を一つ選び、発動する。

白い古代ベルカ式が足元に。眼前にミッドチルダ式の魔法陣が展開すると、結界が完成する。

マルチタスクをいくつか割けば維持し続けても大した負荷ではないだろう。

周りをぐるぐると回っていた虫が不自然な離れ方をすると、ようやくリインフォースは安堵する。

そしてはやての肩に突っ伏すと、溜息を吐いた。

「あうー、大自然はリインの敵ですよー。森の中を行けば虫に食われ、空を行けば大型猛禽類の餌食。生存競争が厳しすぎです」

「あはは。けど、これで虫は大丈夫やから安心し」

「ありがとですよ、はやてちゃん。……けど、安心しては駄目です。この世界には竜がいるのです。大型猛禽類なんて目じゃないです」

「せやね。まー、ヴィータやザフィーラがいるし大丈夫やろ」

「そうなんでしょうか。リインはまだ実物の竜を見たことがないからなんとも言えないですよ」

自分より大きいものがよっぽど怖いのか。へたれたリインの頭を指先で撫でながら、はやては苦笑する。

「エスティマくんが言うには、人を襲うような竜は隔離されて管理下に置かれてるらしいし、心配するようなことはないと思う」

まだ彼が海で働いていたときに、この世界へ来たことがあると言う。その時の経験からなのだろうが、四年も経っているらしいし絶対とは言い切れないか――

……うん。皆強いし、怖がってもしゃーない。今はキャンプを楽しまんと。

「はやてー、タープ張ったよー!」

「あ、うん。今行く」

リインフォースを肩にぶら下げたまま、はやてはヴィータに呼ばれて調理場の設営を行う。

……外で料理を作るのは初めてやけど。

今日も美味しいご飯を作ろう。小さな握り拳を作って、彼女は騎士たちの元に急いだ。




















リリカル in wonder



















「あー、腹が立つ。俺を人攫いか何かと勘違いしているんじゃないのか?」

「まぁ、そう怒らずに。あの人たちの言いたいことも分かるでしょう」

「そりゃまあ、そうだけどさ」

だからって言い方ってもんがあるだろ、と溢す俺に、エクスは苦笑する。

アルザスへ到着すると、俺ははやてたちと別行動を取ることになった。

野営の許可されている地域からル・ルシエの集落がある場所まで少しばかり距離があるためなのだが……見事に無駄骨だったわけで。

そもそもこの世界にきた理由はキャンプではなく、近い内に集落から追放されるキャロの保護。もとい、スカウト。

だったのだが事情を聞いたところ、困っていることは何一つ無いから帰れ、と一蹴された。

……あー、失敗しました、なんて言ったら睨まれるんだろうな。

高ランク魔導師になれそうな子を保護しに行くので休暇をください、と中将にお願いしたら渋い顔をしながらも許可をくれたからこそこうやって遊びに来られたのだ。

世間一般では祝日でも俺にとっては平日。仕事は普通にあったのです。

「それにしてもエスティマさん、少し高望みしすぎだったのではありませんか?
 あのキャロという女の子は、この土地の守護竜に選ばれた巫女らしいですし……引き抜こうとしても、そう簡単には」

「うん、そうなんだよね。……っかしいなぁ」

そう。

変な話だが、現時点でのキャロはル・ルシエの中で祭り上げられているような状態だった。

この歳で守護竜に――と。いわゆる神童扱いだ。

……何か覚え間違いでもあっただろうか。彼女はヴォルテールに気に入られたから追放されたのだと思っていたが、違うのか?

過ぎた力があったからこそ……だよなぁ。あ、まだフリードが生まれてないからか? ちらっと見えたキャロは、カンガルーみたいに大きな鞄を抱えて卵を持ち歩いていたし。

それとも、原作で描かれなかった何かがあるのか。

分からないなぁ。

「そんな困った顔をしないでください。主が見たら、きっと心配します」

「ん、そうだね。……変な顔、してた?」

「ええ。眉間に皺を寄せて」

くすくすと口元を隠して笑うエクス。思わず眉間を人差し指で擦ってしまう。

「ああ、それにしても外は良いですね。緑の匂いも、最近はご無沙汰でしたから」

「ん……ずっと屋内で研究だっけ?」

「そうなんですよ。古代ベルカ語の翻訳などが聖王教会には溜まりに溜まっていて。仕方がないのは分かっているのですが。
 ……今日は仕事の話はなしです、エスティマさん。私は今、自由なんです。
 ああ、今日の晩ご飯はなんでしょうか……久し振りの、電子レンジで暖めてないご飯。
 その後の露天風呂も楽しみだなぁ」

『旦那様』

「なんだ」

『リインフォースEXはどうしてしまったのでしょうか』

「疲れてるんだよ」

『納得しました。状態が休日の旦那様と酷似しています』

「……それはないだろ」

言われ、休日の過ごし方を思い出す。

朝の九時に起床。

ちなみに一度、六時にシグナムが起こしにくるもスルー。なんで子供は日曜日に早起きするんだろう。いや、俺も身に覚えがあるけどさ。

ニュースを見ながら朝食。シグナムと軽い番組争奪戦が勃発する。

昼までだらだら。

昼食を食べ、三時頃までだらだらとデバイスを弄る。

外へ行きたがるシグナムに押されて買い物へ。たまにエクスを除く八神家が一緒に来る。最近、来るようになった。

帰宅して七時。ご飯を食べる。風呂に入る。色々な、そう、色々な物事の処理。寝る。

……いや、疲れてるんですよ?

というかこれ、日曜日の親父の姿じゃねぇか……。

「何これ……子供の、それも思春期のそれじゃねえだろ」

「お互い大変ですねぇ」

エクスと一緒に遠い目をする。

そうこうしている内に、キャンプを張っている場所へとたどり着いた。

もうタープもテントも張り終わり、今は夕食の準備をしているのか。少し離れたところで、リインが作ったのであろう氷をシグナムが溶かして水にしていたりする。

が、俺の姿を発見したシグナムは自分の仕事を放り投げると、こっちへ駆け寄ってきた。

「父上!」

「ん、どうした」

「釣り、釣りがしたいです!」

「ここら辺、たしか狩猟が禁止されていたような気がするから止めておきなさい」

「……そんな、ばかな」

ガガーンとショックを受けた風のシグナム。

しかし諦めの悪い我が娘は、拳を握って何かを訴えるように顔を上げた。

「じゃ、じゃあ、竜を狩っていわゆる漫画肉を食べるのは……」

「アウト」

「そんなっ……!?」

更に追い打ちを受け、その場に膝を着きそうなシグナム。

よしよし、と頭を撫でていると、不意に野菜の皮を剥いているはやてと目があった。

彼女はにっこりと笑みを浮かべると、再び作業に戻ってしまう。

んー、材料からして、今日はカレー? バーベキューかと思っていたけれど。いや、カレー+αなのかもしれない。

「……父上」

「どうした?」

「何をすれば良いのですか、ここで」

「んー、野鳥観察とか楽しいぞー。あと虫」

「虫はきらいです」

おや。

んー、何かすることってあるかなぁ。

良いと思うんだけどね、野鳥観察とか。癒されて。鳥だけじゃなくて動物もいけます。

しかし、このお子様は動かないのを好まないだろうし。

「……じゃあ、暗くなる前にバドミントンでもするか」

「……え? いいのですか?」

「良いとも。……普通にやっちゃつまらないし、デバイス使ってやるかー」

「デバイスをつかうのですか」

「ああ。スリッパ卓球というものが存在するように、デバイスバドミントンだってあっても良いでしょう」

『Nein』

『そのようなことに使わないで下さい』

「お前ら、アイゼンだってゲートボールに使われてるんだから気にするなって」

『私はハルバードです。ラケットではありません。レジャー用品と同列に扱わないでください。どんな恥辱ですかこれは』

『Ich denke so auch』

「いいではないか、レヴァンテイン。父上、今、羽をもってきますから!」

「転ぶなよー」

卸ろしたての上に歩きづらい靴を履いているから、シグナムの走る姿はどこか危なっかしい。

それでもはしゃぐ彼女の後ろ姿に苦笑しながら、俺は皆に念話を送った。

『手伝いできなくてごめん。シグナムと遊んでるよ』

『気にせんでええよ。ご飯ができたら呼ぶね』

『いつも遊んでやれない分、しっかり付き合ってやれよ』

『気兼ねなく遊ぶと良い』

『リインも、リインも遊びたいですよー!』

反応は様々。

気の良い奴らだ、と思いながら、俺はシグナムとデバイスバドミントンで遊ぶことに。

……ちなみにエクスだが。

彼女は椅子に座ってぼーっとしながらお茶を啜っていた。ずっと。





























「やっぱり良いなぁ、露天風呂」

「屋外で風呂に入るというのには、違和感があったが――成る程、悪くない」

湯気の立ち上るお湯を手で掬い、顔を洗う。シグナムと遊んで少しだけ汗が出たな。

ちなみに今入っているのは、即席露天風呂。

穴掘って地面にフィールドバリアを展開し、リインフォースに作ってもらった氷を炎熱で溶かしてお湯を沸かした代物である。

魔法様々。

少しだけ温くなってきたので、魔力を炎熱変換して温度を上げる。

戦闘に使えるレベルじゃないけれど、お湯を沸かすぐらいなら俺だって出来るのだ。

氷の塊からお湯にするのは骨が折れるのでシグナムにやってもらったが。

湯船――もとい、フィールドバリアの縁に肘を置いて息を吐く。空を見上げれば満天の星空。本当、悪くない。

虫除けの結界が張ってあるからだろう。少し離れたところから聞こえる虫の鳴き声が、清々しさを助長する。

これはなかなか悪くない。

ちなみにこちらは男湯。離れたところに作られた女湯からは楽しそうな話し声が聞こえてくる。

無論、覗きとかはしません。今のあそこは、次元一おっかない女湯です。

「ザフィーラ」

「なんだ?」

「ほーら電気風呂」

「む……これはなかなか。
 ……よせ、止めろ! それ以上出力を上げるな!」

いつもむっつりとしているザフィーラの慌てる姿が面白くて、あっはっはと笑い声を上げる。

「まったく、何をいきなり子供じみたことをするんだお前は」

「お子様ですよ俺は。いやー、しかし悪かったねザフィーラ。無理に着いてきてもらって。
 女所帯だとどうにも肩身が狭くて」

「気にするな。俺も楽しませてもらっている。そもそも、お前のところの家族旅行に割り込んだようなものなのだ。
 すまないな」

「良いって。はやてがいなかったら食事とかどうなっていたのか分からないしね。
 仲の良いご近所さんと一緒に旅行ってのもアリでしょうよ」

「仲の良いご近所さん、か。……なぁエスティマ」

「何?」

「お前ももういい歳だ。好きな女の一人ぐらいはできたか?」

「……え、ザフィーラ、熱でもあるの?
 っていうか俺、まだ十三歳なんですけど。いい歳とか言わないでよ」

「失礼な奴だなお前は。俺でもこういった話はするぞ」

温い、と言われたのでお湯の温度を上げる。

少しずつ暖かくなる風呂に二人同時に溜息を吐くと、話の続きを。

「いやな。古代ベルカでも今のミッドチルダでも、社会に出る年齢が早いのは変わらない。
 そうして多くの人と触れ合っている内に、好きな女でもできたのではないかとな。
 ましてや、お前の場合は一つの部隊を任されている立場だ。魔導師ランクも高い。
 言い寄ってくる者だって少なくないだろう?」

「まー、いるにはいるけど、忙しいから相手にしてないよ。邪険にもしてないけど。
 それに、好きな人って言ってもねぇ……」

言いつつ、首元に下がったリングペンダントを掌に乗せる。

……好きな人。どうなんだろうな。

かけがえのない人はたくさんいる。約束を交わした人もいる。

けれど、その中に特別な人は――

「……分からない、かな。いや、魅力的な人はいっぱいいるんだけどね」

そう嘯く。

もともと視野が狭くなる傾向のある俺のことだ。一人の女の人に惚れ込んだら、きっと何もできなくなるだろう。

だから、今は誰か一人を大事にしようとは思わない。

そんな俺の内心に気付かず、ザフィーラは先を続ける。

「ほう。魅力的な、か。例えば誰だ?」

「シスターとか、カリムさんとか、エクスとか。あと……オーリスさんとか」

オーリスさんの名前を出した瞬間、中将の顔が脳裏にちらついた。それだけでアウトです。

「ベルカ系の女が好みか」

「いや、どうだろ」

「ならば、年上が趣味なのか?」

「……そうなるのかな?」

その時、なぜか女湯の方で悲鳴じみた声が上がったけれど、何を叫んだのかは聞き取れなかった。

いやだって、この身体の同い年っていうと……ねぇ。

会話を続行。

「そういうザフィーラはどうなんだよぅ」

「俺か?……俺は、主を守ることに手一杯でそういうのはな」

「うっそだー。お前だって男なんだからいるだろ?」

「む……いや、な」

そこまで言って、ザフィーラは口の端を持ち上げると、目を瞑る。

表情は何かを懐かしんでいるようだった。

そしてたっぷり十秒ほど黙った後だ。

「馬鹿な奴と笑われるかもしれんが」

「うん」

「生涯愛すると誓った女がいる。だから、その手のことはここ最近、考えたこともない」

「へー、誰誰?」

「歴代の夜天の主、その中の一人だ。もっとも、記憶も掠れて声も、顔すら思い出せんがな」

「……ごめん」

「気にするな。話を振ったのは俺の方だ」

……踏み込んじゃまずい話でした、はい。

なんとも居心地が悪くなり、視線を意味もなく夜空に投げる。

生涯愛する。……そういうのは、格好いいと思う。ザフィーラが言うように馬鹿な奴と笑う人だっているだろうけれど。

実現不可能で信じられないと思えることだからこそ、尊いものがあるように。

……ただ、俺にはまだ無理かな、そういうの。

色々な要素が絡んでいるけれど、結局は自分のことだけで手一杯なんだ。

誰かを好きになるのも、きっと障害となるものを片付けてからになるだろう。

「ただまぁ、お前はそれで良いのかもしれん」

「え?」

「好きな女がいない、という話だ。
 もしできたら、自堕落っぷりに拍車がかかりかねん」

「なんだと」

「間違ったことは言ってないと思うぞ?」

「なんだと」



























風呂上がりに皆でかき氷を食べた後、雑談して就寝。

……の予定だったのだが、寝付くことができなかったため、俺は男組テントから這い出て睡魔が押し寄せてくるまで暇を潰すことにした。

最小にしてあったランタンの灯りを明るくすると、ステンレス製のマグカップにコーヒーを入れる。

湯気の上がるカップを片手に椅子に座ると、起動したトイボックスをテーブルに置いた。

ついでに、少しだけ肌寒かったので普段着型バリアジャケットの装備を。

この世界だと今は夏らしいが、やはり夜ともなれば冷える。早朝のことを考えて、少しだけ身震いした。

いや、大丈夫。男組テントにはザッフィーがいるのだ。一緒に寝ればぬくいはず。

向こうからしたら男に抱き付かれてたまったもんじゃないだろうが。

コーヒーをちびちびと飲みつつ、片手でキーボードを打つ。留守の最中に何かなかったかメールを確認してみるが、これといったものはない。

あるとするならば、他の部隊が担当した研究施設への踏み込みで妙なことがあったことぐらいか。

最高評議会傘下の研究施設に踏み込むも、もぬけの空……そんなことが数回連続で、か。

俺が駆けずり回っていることをいい加減、鬱陶しく思い始めたのだろうか。やっぱり中将も信用されていないのかもな。

その内、警戒の意味も込めて罠でも張られるかもしれないが……さて。

こっちとしてはそれも好都合。

最高評議会の手札がどんなものか熟知しているわけではないが、ナンバーズがそこに入っていることだけは確実だろう。

……罠だろうとなんだろうと、かまわない。それで捕らえることができるのならば。

そこまで考え、しかし、不意に三課の――はやてたちの顔が脳裏に浮かんできた。

俺は良い。何をやられたって負けてやらない。どれだけ傷付こうと最終的に勝てば良い。

約束を――そう、Larkやフィアットさんと交わした約束さえ守ることができるのならば。

だが、彼女たちを巻き込むことは……いや、今更だ。

来てしまったならしょうがない。今の三課の状態でスカリエッティを追うしかない。

……なら、危険を冒すことは避けるべきだろうな。

大切なものを取り戻す対価として同等のものを差し出すだなんて馬鹿げている。何かを払うとしたら、それは自分自身の血肉だけで充分だ。

……そのはず、なんだけどな。

少しだけ温くなったコーヒーを一気に呷ると、背もたれに体重をかけて夜空に視線を向ける。

ミッドチルダと違い、この世界はやたらとデカイ衛星が飛んでいるわけでもないようだ。

不自然に瞬いている星は、きっと人工衛星か何かか。こうやって眺める夜空だけは、どの世界もそう大差ないかもしれない。

や、ミッドチルダの夜空は良く分からないことになっているけれど。

「……お」

ぼんやりと空を眺めていると、ふと、見知った星座を見つけた気がして声が出た。

しかし、良く見てみれば別物。一つだけ足りないのだ。

『旦那様。どうかなされましたか?』

「ああ。北斗七星があったと思って驚いたんだけど、そんなことはなかったよ」

『北斗七星……私の名前の元になったものですか?』

「ちが……うんそうだよ」

煙草ですよ元ネタ、とは言えない。カスタムライトも。

『旦那様。北斗七星とはどんなものなのでしょう。以前、星の配置だけは教えてもらいましたが、あまりピンときませんでした』

「だろうね。んー……北斗七星、どんなだったかなぁ」

星座云々のことは小学校以降触れてないからなぁ。

星座にまつわる伝承とかも、中二病の時に調べたっきりだから大分忘れているし。

『何かないのですか?』

「んー……あー、あったあった。死兆星ってものがあってだな」

『はい』

「北斗七星の隣にある星で、それが見えなくなると死ぬっていうね」

『北斗七星は関係ないではありませんか。ちゃんと思い出してください』

「ん? 珍しくムキになってるな。どうしたんだ」

『別に。ただ、興味があっただけですから』

それっきりSeven Starsは黙り込んでしまった。夕飯前にラケット扱いしたし、それもあって拗ねてしまったのかもしれない。

人差し指でデバイスコアをつついてみるも反応はない。

拗ねる……ね。こいつもこいつで、人間臭くなったんだか違うんだか。

「……半ばこじつけだけなんだけどさ。
 北斗七星は、ひしゃくの先端を真っ直ぐ伸ばすと北極星を捕まえることができるんだ。夜空の中で動くことのない天の北極。
 それと同じように、暗闇の中で俺の手に入れたい何かを掬い上げるのがお前の役目だ、Seven Stars」

返答はない。

ただ、黒い宝玉は頷いたように小さく光を放っただけだ。

そんな様子に苦笑して、コーヒーのおかわりでも入れようかと腰を上げる。

その時だ。

視界の隅で動く影を見つけ、首を傾げる。

パジャマの上から上着を羽織ったちぐはぐな姿。そんなことする必要もないだろうに、腰を屈めて何かから隠れるように脚を進めている。

彼女――はやては男組のテントまで行くと、そっとファスナーに手を掛けた。

中にはザフィーラしかいないわけだが。何か用事でもあるのだろうか。

「はやてー」

「え!? な、何!?」

その場で飛び上がりそうな勢いで驚く彼女。周囲を忙しなく見て俺の姿を見つけると、完全に硬直する。

なんぞ。

「何やってんの?」

「え、えーと……何をやっているでしょう?」

何故に疑問系。

「ほらほら、もう夜も遅いんだからちゃんと寝ないと駄目だろ? ゴーホーム」

「そんなこと言ったらエスティマくんも。せっかくの休みなんやからちゃんと寝なきゃあかんよ?」

「そうなんだけどさ。いや、普段は平日じゃんか、今日。だから身体が寝付いてくれなくてね」

「お仕事が身体に染みついてる、と」

「そういうこと」

困った人やなぁ、と溜息を吐きながら、彼女は俺の隣に座る。服の裾を尚したり髪の毛を手櫛で整えたりと、妙に落ち着きがない。

「はやても寝付けなかったの?」

「あ、うん……ちょおヴィータたちと話し込んでて、気付いたら私だけ起きてる状態だったんよ」

「そっか。お子様リインは最初に寝たろ?」

「あったりー。ちなみに二番目はエクス。エスティマくんと違って、日頃の疲れが限界に達したみたいや」

「酷い話だ」

デスマ組まれてるみたいだし……うっ。

「どうしたん?」

「いや、なんでもない」

不思議そうに首を傾げるはやて。うん、常にリインフォースⅡの製作現場のような状況に身を置いてるって聞いたらドン引きすると思うよ。

はやては空になった俺のマグカップを見ると、自分の分と一緒にコーヒーを煎れてくれた。

ありがと、と受け取り、口を付ける。焼けるような刺激が喉に痛いような心地良いような。

「やー、しかしエスティマくんと旅行に行けるとは思わんかったなぁ。ようやっと家族サービスをする気になったか」

「そうだね。今までシグナムと旅行に行くなんてことなかったし。これで満足してくれたかどうかは分からないけれど」

「シグナム、楽しそうやったよ? 昨日なんか買ってもらった靴とかずっと眺めてたらしい。パパさんの面子は保たれたと思う」

「そか。なら、良かったかな」

……シグナム、か。

あの子が真っ直ぐに育ってくれていることは、何かの奇跡なんじゃないだろうか。

遊びに連れて行ってやることも少なくて、仕事のことで心配させて。滅多にないが、帰らないことだってある。

子供は勝手に大人になる、と言うけれど、真っ当な大人になれそうな今の彼女は、育った環境を考えれば、本当に信じられないぐらいの良い子だろう。

散々な扱いを受けているのに俺のことを父と慕い、周りの大人たちには滅多にワガママも言わず。

本当に、俺には過ぎた娘だ。

「ね、エスティマくん」

「ん?」

「シグナムとシャマルの管理局入り、もうすぐやね。
 ……あの子たちは、前の自分がやったことを受け入れてくれるかな」

「分からない。養っているだけの駄目親父だからね、俺は。
 あの子が何を考えているか、正直なところ……どうにも。
 良い子すぎるんだよ、シグナム。管理局に入らないといけない理由を話しても、きっと我慢する。そんな気がする」

だからこそ、せめて恵まれた――シグナムの境遇に理解のある配属先を探してやりたい。

何も知らないあの子に投げ付けられる誹謗中傷。それから守ってくれる人がいる部隊。

いつくかの候補は考えているが、まだ彼らに話を切り出してはいない。

「シャマルはともかく……シグナムはやっぱり、三課に入れるの?」

「いや、そのつもりはないよ」

「え?」

どうして、といった、心底からの声。

はやてと目を合わせず、湯気を上げるコーヒーの水面に視線を落としながら、俺は応える。

「シグナムのランク、シスターに聞いてみたんだよ。どんなもんか、って。
 返答は、空戦Bランク相当。偏った魔法しかない古代ベルカ式なのに、あの歳でBランク。素質も腕前も、ミッド地上じゃ一線級だ。
 ……けど、三課に入ったらただのお荷物になる」

「そんな言い方って……」

「でも、事実だ。一等危険な任務を割り振られて、スケジュールも人を殺せる三課に入ったら成長する前に潰れる。
 だったら俺は、もっと安全なところにあの子を送りたい」

「……エスティマくんがそう言うなら、きっとシグナムは我慢して受け入れる。
 けど、本当にそれでええの? 我慢させることになるんよ?」

「誰も彼もが、自分のやりたいことをできるわけじゃないさ。それに相応しい実力がなければね。
 ……そう。あの子が三課でも戦えるだけの実力をつけたら、その時は――」

「それも不器用なパパさんの愛情?」

「どうだろ。俺の都合を押し付けているだけかもな」

むしろ、そっちのウェイトが大半を占めている気がする。

……けれど、あの子を三課に迎え入れて潰したくないというのは本当だ。

愛着がないわけじゃない。潰れるのが目に見えている場所へ入れることなんか、できやしない。

俺のことを父と慕ってくれるのならば、せめて、大切にはしてあげないと。

「やっぱ、子は親に似るんかなぁ」

「え?」

「シグナム、変なところでエスティマくんとそっくりになりそうで怖いなーって。
 律儀に理不尽なことに付き合ったりとか」

「……好き勝手にやっているだけで、理不尽に付き合った覚えはないけど?」

「そう思ってるのは本人だけやって。
 うん、でも……そんなところが――」

背筋を伸ばし、はやては口ごもりながら言葉を紡ぐ。

心持ち、語り口に熱が入っているような気がするが――

その時だ。

何かが爆ぜる音と、耳に痛い不快な咆吼。

慌てて音の聞こえた方に目をやると、夜空が薄く橙色に染まっていた。

「またか……!」

「え、何?」

「……ううん、なんでもあらへん。あらへんよ」

今にもテーブルを殴り付けそうな勢いで怒声を上げたかと思えば、すぐに落胆した様子になるはやて。

そんな彼女に首を傾げながらも、俺はSeven Starsを握り締めて立ち上がった。

流石に今の物音を無視できなかったのだろう。それぞれのテントからヴィータとエクス、ザフィーラが顔を出す。シグナムとリインはおやすみですかそうですか。

「おいエスティマ、何かあったのか?」

「分からない。ただ、様子は見に行ってみようと思う。
 エクス、トイボックスを貸すからこの世界の管理局に連絡の準備をしておいて。
 それと……今はミッドだと早朝か。一応、いつでもオーリスさんに通信を繋げることができるように頼む」

「え、えと、こういう場合は……」

「非常時は管轄に関係なく迅速に対処。そして担当世界の管理局に連絡」

まだ管理局に入って日が浅いせいだろう。テンパっているはやてにそう告げて、俺はキャリーバッグからカスタムライトを取り出した。

回転式弾倉型カートリッジシステムを搭載した純白の片手槍。いや――ガンランス。デバイスコアに当たる部分は黒く、ボディは白だが、形状は以前俺の使っていたものと――そう、Larkのものと一緒。

デバイスコアを紐から取り外すと、カスタムライトのデバイスコアに当たる部分をスライドさせて、スタンバイモードのSeven Starsを挿入する。

「スタンバイ、レディ」

『ドライブ・イグニッション』

そして、エクステンドギア・カスタムライトが起動する。

片手槍の長さだったロッドが一気に延びて、両手用に。日本UCAT型のバリアジャケットを装備すると、アクセルフィンを発動させて空へと上がった。

――カスタムライト。エクステンドギアのノウハウを元に生み出した、Seven Starsの強化外骨格。

スタンバイモードのSeven Starsをデバイスコアに当たる部分に挿入することで起動。

カスタムライト単体でもストレージデバイスとして運用することは可能だが、Seven Starsを中枢にはめ込むことによってインテリジェントデバイスとしての機能を無理矢理に持たせた機体。

これによって液体金属を使用せずとも、擬似的にSeven Starsを使って戦うことができる。

……もっとも、この用途は本来想定されたものではない。はやてが三課に入ると聞いて、急造した緊急措置だ。

本来の使い道は――

「おいエスティマ! 一人で先行するんじゃねーよ!」

ソニックムーヴで急行しようとしていたところに、ヴィータの声が届く。

地上に視線を向ければ、寝ぼけ眼のシグナムとリインの姿があった。

ガリガリと頭を掻きながら、どうしたものか、と溜息を一つ。

取り敢えずは、

「エクスは管制をお願い。ザフィーラは護衛で。リインフォースは……」

「はいです!」

「……ヴィータとユニゾン」

「なんでリインとのユニゾンをそんなに嫌がるですか!?」

「嫌がってないよ。俺とはやてはリミッターがかかっているから、ヴィータとユニゾンするのが一番だって。うん」

何も間違ったことは言っていません。

「それじゃあヴィータ、はやて。行こう」

「分かった」

「おう」

「父上、私は!」

空へと上がろうとすると、今度はシグナムの声が上がる。

こちらを見上げる彼女の表情は真剣そのもの。口は硬く引き結ばれている。

ついさっきまではやてと話していたこともあるからか。どう声をかけたら良いのだろうと迷ってしまい、

「シグナム。オメー、まだ局員じゃねぇだろ? ここで大人しくしてろ」

「ですが、私だっていれば何かの役に……!」

「前線でガチンコできねぇレベルのベルカの騎士がなんの役に立つんだ。今日はそこで現場の空気に慣れてろ」

あまりにもな言い草に、シグナムはヴィータを睨み付ける。

しかしヴィータはそれを気にした風もなく視線を逸らすと、俺の肩を叩いてきた。

「急ぐぞ」

「……ああ」

「シグナム、エクスのお手伝い頼むな?」

「……はい」

納得のいかない表情をするシグナムに苦笑し、セットアップを完了したはやても空へと上がる。

そして最後に、リインフォースとユニゾンして白い騎士甲冑をヴィータが身に纏うと、俺たちは夜空を緋色に染めている原因へと向かう。

それぞれの魔力光を吐き出しながら空を疾駆している最中だ。

『ヴィータ、悪い。憎まれ役をやらせて』

『気にすんな。事実だろ』

短く念話を交わし、徐々に見えてきた光景に眉根を寄せる。

酷い――いや、なんと言えば良いだろうか。

生い茂った木々が火の手に犯され、焦げ臭い匂いが鼻を突く。野火、いや、山火事か。

それだけならば大規模災害と一言で片付けられるだろうが、これは違う。

踊る炎の中で蠢く影がある。大木よりも巨大な姿。竜だ。

もういい加減に慣れたと思っていたが、流石にこの光景には面食らう。炎の中に竜。まるでファンタジーだ。

「うわぁ、これは……」

はやても俺と同じ気分なのだろう。大火災とそれを引き起こした竜という組み合わせに、頬を引き攣らせていた。

……っと、いつまでも呆けている場合じゃないな。

「ヴィータと俺がトップで引きつける。はやては逃げ遅れた人がいないか――」

「ざけんなタコ。なんのためにアタシがリインとユニゾンしていると思ってんだ。
 フロントはアタシに任せて、オメーはセンター、はやてはバックス。
 足早いんだから、エスティマが救助者を引っ張り上げてはやてが治療だ」

「……あの、俺の立場は」

「行くぜリイン! トカゲモドキなんざ、アタシらだけで充分だ!」

『はいです!』

俺をガン無視して、ヴィータは雄叫びを上げながら突撃を開始。

……俺の、出番。

「あ、あはは、エスティマくん。ヴィータも色々と気にしてるんよ。分かってあげて?」

「気にしてるって?」

「……エスティマくんが倒れたときのこと。間に合わなかった、って」

「そっか」

……本来ならばなのはを心配するところに、俺が割り込んでいることになるのかね。

なら、これも仕方がないことなのか。

「はやて、エリアサーチをばら撒く」

「了解や」

気を取り直して、こちらも救出作業を開始。

はやては竜が暴れ回っている地点から離れたところで消火作業と救助者の転送を。俺は駆け回りながらエリアサーチをばら撒いて、発見した怪我人を安全地帯へと運ぶ。

捜索途中で空いた時間でエクスへと連絡を取り、近隣部隊がどれぐらいで着くのかを確認すると、軽く舌打ちしたい気分になった。

……流石辺境。空士部隊もすぐには駆け付けられないようだ。

……しかし、何があってこんなことになったのだろうか。

大災害が起きるような日に旅行がぶち当たったのは偶然なのか? そんなこと――

……いや、自意識過剰なのかもな。

「はやて! これから指定する場所の避難は完了した! 氷結魔法を頼む!」

『了解!』

パチパチと木の爆ぜる音の合唱が響く中、救出者を抱えて空へと。

遠目に見えるのは白い魔力光と、巨大な魔法陣。甲高い射出音が鳴り響くと、半透明のキューブが森へと落ちて氷結が始まる。

ヴィータと竜の格闘は今も続いているようだ。術者の危険に呼応して暴走するならば、ル・ルシエ全体の危機である今、パニックに陥った召還魔導師の数だけ竜は出てくる、か。

いくらヴィータといえども、無尽蔵にわき出てくる魔獣を相手にするのは分が悪いだろう。意地でも負けようとしないのだろうが、俺にはそれが怖い。

救助者を一カ所に集めると、カートリッジを四発ロードして治癒魔法陣とサークルプロテクションの発動。それを切っ掛けにして、魔法を使える者はそれぞれ治療魔法を怪我人へとかけ始めた。

それを見て小さく頷き、再び空へと上がって――

「……嫌」

掠れた記憶を呼び起こす、いつか聞いた覚えのある声が耳に届いた。

思わず目を見開く。嫌な予感しかしない。この場で昏倒させてでも、とカートリッジロードをSeven Starsに命じようとし、

「嫌あぁぁぁぁぁああああ!」

噴き上がる膨大な魔力に、思わず目を細めてしまった。

俺の発動した治癒魔法陣と重なるように展開された、ピンク色の菱形。召還魔法陣。

母親だろうか。隣にいる女性に押さえ付けられて、落ち着くように叫ばれても少女の悲鳴は止まらない。

膨大な魔力が少女、キャロから発せられ……いや、違う。

オーバーSなんて括りでは収まらない、化け物そのものの力がゆっくりとその姿を現す。

鎧じみた黒い体躯に、折りたたまれた巨大な翼。拗くれた二本の角を持つ真竜。

アルザスの守護竜ヴォルテール。はやての氷結魔法が届かず、未だに紅蓮に染まる森の中に黒い火竜が降臨した。

俺も、はやても、ヴィータも。ついさっきまで暴れていた竜すらも動きを止めた中で、ゆっくりと瞼が開かれる。

金色の瞳に宿っている色は、優しげなものではなく狂乱。

ヴォルテールは歯を剥き出しにして周囲を見渡すと、まるでその光景に怒りを覚えたかのように咆吼を上げた。

ビリビリと震動する大気は、音だけではなく気迫のようなものも含まれている気がする。

重々しい音と共にヴォルテールは一歩踏み出すと、巌のような拳を作って近くにいた竜を大地に叩き伏せた。

断末魔と共に聞こえたのは、湿った布を叩き付けたような破裂音。

ヴォルテールの動きは止まらない。一撃で、文字通りに粉砕した竜を棒立ちになっている竜に投げつけて動きを止めると、畳まれていた翼を広げる。

そうして、森を燃やしている炎を集め――

「射線上から退けヴィータ! はやて!」

『いきなりなん――』

「急げ!」

問答無用と上げた叫びに、ヴィータとはやては移動魔法を発動してヴォルテールから距離を離す。

一拍置き、ヴォルテールから放たれる殲滅砲撃、ギオ・エルガ。射線上にいた竜を跡形もなく蒸発させて直進し、遠くにあった山の山頂部分に着弾。爆ぜた。

……なんだこれ。

人間の使う魔法を嘲笑うかのような大威力。なのはの使うスターライトブレイカーすらも凌駕しているだろう、これは。

勝てる勝てないの問題ではなく、こんなものと関わり合いになりたくない。心の底から。

今の一撃を放ってもヴォルテールの暴走は治まらない。

チャージ時間を短縮したギオ・エルガを連射して、逃げ惑う竜を一方的に蹂躙する。歯向かってきた竜を拳で潰す。咆吼を上げる。

その光景に、俺は呆然とするしかなかった。

……なんだこの圧倒的な暴力は。

どうやって倒せって――

『旦那様』

「……なんだ」

『エリアサーチの消滅を確認。AMFです。ガジェットの存在を確認しました』

「ガジェットだと?」

なんでアルザスにガジェットが。

ガジェットが行うことは、レリックと同種の高エネルギーを持つマテリアルの回収のはずだ。

それなのにこの世界へ姿を現すとは、一体どういうことなんだ。まさかレリックがこの世界にもあったのか?

いや、それとも――

ギリ、と奥歯を噛み締める。

見たこともないはずの高笑いが脳裏に浮かび、胸の内に熱が灯った。

「エクス! オーリスさんを通して中将に連絡、限定解除の申請を!」

『はい』

「はやては上空で待機。最大威力の砲撃魔法の準備を! ヴィータ、時間を稼ぐぞ!」

『ちょお、エスティマくん!?』

『エスティマ、正気か!? 落ち着け! 長距離転送で救助者を移送すればそれで良いじゃねぇか!
 こんなもんに付き合う義理はねぇって!』

「見逃してやる義理もないんだよ! これ以上の勝手なんて、させてたまるか!」

消費したカートリッジをクイックローダーで装填し、ガンランスの刃に魔力刃を発生させるとアクセルフィンに魔力を送る。

一気に接近して、擦れ違い様に目元を斬りつけた。すぐさま反転し、ラピッドファイアをヴォルテールの目に向けて連射。

砲口からサンライトイエローの光が連続して吐き出され、苦悶の声が上がる。

迎撃でギオ・エルガの連射が殺到するが、それらの全てを回避して、ラピッドファイアのフルオート砲撃を叩き込み続ける。

十発に一度のカートリッジロード。計六十発を吐き出し終えると、回避行動を取りつつ排莢、装填。

弾着の煙でヴォルテールがどれだけのダメージを受けたのか分からないが――

その瞬間だ。

燃え盛る木々から立ち上る黒煙を引き裂いて、腕――否、尻尾が横薙に迫ってきた。

舌打ち一つし、

『――Phase Shift』

稀少技能を発動して、回避すると同時に再び接近。斬りつけて離脱。

……効いてないのか。非殺傷とはいえ、かなりの魔力ダメージを叩き込んだというのに。

豆鉄砲を受けた野犬が苛立つように――実際そのていどの効果しかなかったのだろう――ヴォルテールは俺へと目標を定めて、再び火球の連射。

大振りな攻撃だ。面で吹き飛ばされない限り、当たらない自信はある。

だが、負けないだけで勝てはしない。この世界の空士部隊が到着したのだとしても、果たしてヴォルテールを止められるかどうか。

キャロは……いや、おそらくヴォルテールをコントロールするのは不可能。できるのならばもうやっているはずだし。

だとしたら打てる手はなんだ。ミストルテイン、大規模氷結魔法、殲滅砲撃。どれも力技すぎて思わず苦笑する。しかも全部はやて頼みだ。

『詠唱完了! 離れてヴィータ、エスティマくん!』

回避運動を取りつつ射撃魔法を叩き込んでいた俺とヴィータは離れ、上空にいるはやては小さく頷く。

そしてシュベルトクロイツを振り上げ、足元に巨大な古代ベルカ式の魔法陣を展開すると、

「遠き地にて、闇に沈め……デアボリックエミッション!」

広域殲滅魔法を発動。黒い球体がヴォルテールを中心にして発生し、その巨体を飲み込んだ。

今までの苛立ちや怒りといった類ではなく、痛みを受けた叫びが緋色の夜空に木霊する。

……これで少しは。

しかし、それすらも甘い考えだったと嘲笑うようにデアボリックエミッションの中から火柱が上がる。黒い球体は爆ぜ、ヴォルテールは再び姿を現した。

そして――

「――っ、ヴィータ!」

「分かってるよ!」

『カートリッジロード。
 ――Phase Shift』

『Gigantform!』

上空にいるはやてへとギオ・エルガを放とうとしたヴォルテールに、俺とヴィータは一気に接近。

俺は膝裏を全力で叩き、ヴィータはギガントフォームに変形したアイゼンで顔面を殴り付ける。

夜空を縦断する紅蓮の火柱。無理矢理転ばせたことで外せたが――!

再び稀少技能を発動し、ヴィータを小脇に抱えて離脱する。急加速にヴィータは悲鳴を上げたが、許して欲しい。

くそ、これでも駄目ならどうする?

魔力の続く限り全力攻撃を続けるのが最善か。それとも何か別の手で。

その時だ。

『旦那様。限定解除、承認されました。リミッターの全解除が可能です』

「……全解除?」

『はい。この世界の地上部隊からの後押しがあったようです』

「そうか」

有り難い話だ。

……よし。

「はやて、限定解除が承認された! もう一度、今度は全力全開で頼む!」

「分かった!」

「ヴィータ、俺が正面からアイツの動きを止める。背後から手加減無しのを!」

「任せな!」

二人に指示を出して、俺は距離を取りつつヴォルテールの前へと。

『旦那様、よろしいのですか? 彼の者に手札を明かして』

「切り札は他にある。これはただの狼煙だ」

『了解しました』

そしてカスタムライトからSeven Starsのデバイスコアを取り出し、

「幸福を示す七。
 闇夜に輝く七ツ星。
 力続く限り白金に輝く斧槍。
 俺が望む形となり、力となれ。
 幸いを切り開く揺光。
 Seven Stars、セットアップ!」

『ドライブ・イグニッション。
 カウリング・ガンハウザーをセレクト』

黒いデバイスコアを中心にして渦を巻く液体金属。魔力を通すことで一本の槍となり、金色に染まる。

装着されるのは重厚な砲撃戦用の外装、ガンハウザー。

左手に持ったカスタムライトは片手槍へ。それを経て、ロッドをヘッドへと完全に収納する。

外装の下部。砲門の下に新しく刻まれたスリット。カスタムライトの隠し武器となっているピックが起き上がると、それをスリットに通して連結。ロック。

……二連装の砲口。二つの回転式弾倉。

そう。

これが。

「Seven Stars・カスタムライト!」

『モードB・EX。
 フルドライブ。エクセリオン、スタート』

これこそがカスタムライトの真骨頂。

各外装に対応した、外付けの強化外骨格。

モードBの場合は砲口が二つになって、という単純すぎる強化。しかし、だからこそ、今まで以上の無理が利く。

二つの砲口、ガンランスの刃を向け、

「……ケリを付ける」

『――Zero Shift』

稀少技能が完全開放される。

視界の全てが遅い。

雲の流れも、立ち上る黒煙も、踊る炎さえも。

そんな中で動けるのは俺と、Seven Starsのみだ。

「ハウリングランチャー」

『カートリッジ、全弾ロード』

「ファイア!」

連続する炸裂音と共に、ガンハウザーの大口径カートリッジとカスタムライトのカートリッジ。合計十二発の圧縮された魔力が弾ける。

ぎちり、と軋む胸に顔を顰めながらも歯を食いしばると、俺は砲撃魔法――ディバインバスターを放つ。

着弾を待たず、少しだけ横にずれて第二射。第三射。第四射。

おそらく上空のはやてから見れば、サンライトイエローの扇ができているように見えるだろう。

狙いは一発目を顔面。そこから徐々に下へとずらし、十二発目の砲撃を撃ち終えたところで、俺は稀少技能を解除した。

音速超過の全力砲撃。たった一人で放たれた弾幕。ディバインバスターのバリエーション、ハウリングランチャー。

全て狙いを違わずヴォルテールへと突き刺さり、

「轟天爆砕――」

ぐらり、と上体を傾けたヴォルテールの背後には、最大出力のアイゼンを振りかぶったヴィータの姿がある。

「――ギガント、シュラーク!」

延長し、しなったロッドに遅れて叩き付けられた鉄槌。ヴォルテールの咆吼と同種の轟音が上がると共に、巨体が地面へと崩れ落ちた。

「駄目押し行くよー! 響け、終焉の笛――」

足元に展開されたミッドチルダ式の魔導陣。眼前に展開された古代ベルカ式の魔法陣。それぞれが白の魔力光を放ち、

「――ラグナロク!」

振り下ろされたシュベルトクロイツ。一拍の間を置いて放たれる、拡散砲撃。

うつ伏せに倒れたヴォルテールを押し潰すように、白光が大地を塗り潰す。

非殺傷でなければ間違いなく地形を変えるであろう砲撃だ。

これだけの全力攻撃を受ければ……。

煙が晴れ、倒れ伏したヴォルテールの姿が見えてくる。

うっすらと浮かび上がる巨体はピクリとも動かない。

しかし、

「……おいおい」

「……嘘や」

「……マジかよ」

地響きのような唸り声を上げながら、ヴォルテールは必至に身体を持ち上げようとする。

しかし、腕を支えに身を起こそうとしても果たせず、崩れ落ちる。

それを三度繰り返した後、ようやくアルザスの守護竜は止まってくれた。

……二度と相手にしたくねぇ。


























ヴォルテールを沈黙させた後、俺たちは再び消火作業に戻って、遅れて到着した空士部隊と共に夜を徹して対処に奔走した。

夜明け頃には消火作業も終了したのだが、ヴォルテールの放った殲滅砲撃のおかげで随分な被害が出たことに。

焼け落ちた部分を九十七管理外世界の単位で示すなら33万ヘクタール。大火災と充分に言えるだろう。

行方不明者は三名。重傷者はなく、軽傷が大半だったのは魔法を使える人が多かったからか。

……それにしても疲れた。休暇だったはずなのになぁ。

腰に差したカスタムライトに視線を落として、溜息を一つ。

ハウリングランチャーを撃つことは出来たが、オーバーヒートで逝っちまった。今回のことは予想外だったので、追加予算の名目にはなると思うが……ねぇ。

幸いなことに稼働データはSeven Starsに収まっているから、今回のことを試作四号機に反映させることはできるのが不幸中の幸いか。

なんてことを考えていると、だ。

「……おいこの野郎」

ドスの利いた声と共に、鈍い痛みが後頭部に。

なんだ、と見てみれば、ヴィータが目を据わらせて俺を睨み付けている。リインとのユニゾンは解除したのか、いつもの赤いドレスを着ていた。

俺を叩いたのはアイゼンの石突きか。

「痛いな。何するんだよ」

「エスティマ。オメー、今回の事件で何発のカートリッジ使った? 一度に十二発ロードなんて、アタシは初めて見たぞ。
 それにフルドライブ。どれだけの負荷が溜まったのか、分かってんのか?」

「や、ヴィータだってギガント使ってたじゃ――」

「アタシは良いんだよ! 本気の出しどころぐらいは見極めてんだ!」

何その理不尽。

お説教のマシンガンと共に、ゴツゴツと石突きで頭を小突かれる。

ちょ、やめ、痛い。痛い。痛いって。

「痛いっつってんだろうが!」

「痛くしてんだから当然だ! ったく、今日みたいなことばっかしてたら、今度こそ本当に死んじまうぞ!
 お前、本当に馬鹿だな! バーカ!」

「こっの、言わせておけば……!」

「ヴィータ、ストップ! エスティマくんも落ち着いて!」

慌てた様子で飛び込んできたはやてが、俺とヴィータの間に押し入る。

視線が交差しないように困り顔で割り込むと、手で俺たちの頭を押さえ付けた。

「ほら、二人とも喧嘩はあかんて! ヴィータ、乱暴はあかんよ?
 エスティマくんも! 流石に私だってあれは見過ごせん」

そう言い、押さえ付けた頭を無理矢理に下へと。

「二人ともあかんことしたんやから、謝り」

「……悪かった」

「……すまねぇ」

「よろしい」

はやての手が頭から退くと、俺は後頭部をさすりながら目を逸らす。

……そりゃ、端から見たら酷い無茶をしたってことぐらい分かっているさ。

けど、丸く収まったからそれで良いじゃないか。

そう考え、いや、と苦い顔をしてしまう。

悪い思考だ。結果論がすべてってわけじゃないだろうに。

溜息一つ。

「……ヴィータ」

「なんだよ」

「心配させてごめん。けど、大丈夫だから。定期検診は欠かしてないし、どれだけの無理が利くかは把握してる」

「そもそも無理をすんなって話なんだけどな」

「無理無茶無謀が求められる立場の人間に何を」

「だからってそれを率先してやるのは何か間違ってるだろ。
 ……ああ、クソ!」

苛立たしげな声を上げて、ヴィータは灰の積もった地面を蹴り付けた。

……はやてからヴィータが俺のことを心配しているのだと聞いている以上、今の彼女にどう声をかけたものかと考えてしまう。

そうしていると、だ。

「……あの、スクライアさん」

妙にしわがれた声に呼ばれ、振り返った。

そこにいたのは、ル・ルシエの部族服である外套をまとった一人の老人。

彼はおずおずといった様子で、しかし、はっきりと口を開く。

「あなたにお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」

「はい」

「……昨日の話ですが、いくつかの条件付きで受けさせていただきたい」

「と、言いますと?」

「アルザスの大地が焼けてしまった。ここの修繕が終わるまで、我々は難民として各地を転々とすることになるでしょう。
 ……ですから、せめて。
 申し訳ないのですが、魔導師として働ける者を管理局に雇って貰えるよう口利きをしていただけませんか」

昨日、エクスとル・ルシエを訪れた時とは違う、酷く腰の低い物言い。

……どう答えたものかな。

管理局に入れるよう口利きしたと仮定した場合。

大半はこの世界の地上部隊に配属されるだろうが、ミッドチルダにはどれだけの数がくるか。

中将からすればおそらく、ないよりはマシ、といった程度のはず。

それに、彼らは強力な魔導師というわけではない。まだ数は確認されていないが、ヴォルテールによってかなりの竜が殺された。竜使役のできない彼らは、ただの魔導師でしかない。

そして竜使役が可能だとしても、こんな騒動の後だ。引き取ってくれる部隊があるかどうか。

『エスティマくん、どうするん?』

『流石に今すぐ答えるわけにはいかないよ。口約束でも勝手なことをしたら上司に睨まれる』

『そうやね』

おそらくはやての想像した上司は首都防衛隊の総隊長だろうが、俺の方は責任者の中将である。

本当、どうしたもんか。

『可哀想やから、なんとかしてあげたいけれど』

『責任負わされる覚悟でなんとかしてあげるだけの根性がないからね、俺には』

それではやてとの念話を打ち切り、老人に向けて口を開く。

取り敢えず、今日のところは保留となった。

……管理局が駄目なら、実家頼りになるかね。





























火災現場周辺の警戒やら何やらで騒がしくなってきたのでキャンプは中断。

もう一日はここで過ごす予定だったが、俺たちはミッドチルダへ帰ることにした。

のんびりと遊ぶ環境じゃないのだ。風に乗って灰は飛んでくるし、川は濁って楽しむようなものではなくなっているし。

動物の影だってめっきり減った。ここから元の環境に戻るまで、どれだけの時間がかかるのだろうか。

……それはともかくとして。

帰り支度を始めた一向。その中にいるシグナムは、すっかりしょげてしまっている。

睡眠不足で元気がないというのもあるだろうが、ヴィータの言葉と、せっかくの旅行が台無しになったことが響いているのだろう。

……ん、よし。

帰り支度を中断すると、俺はシグナムへと近付いてぽんと頭に手を乗せた。

驚いたように彼女は顔を上げるが、すぐに表情は暗いものへ。

「……父上」

「ごめんな、シグナム」

「いえ、しかたがありません。運がなかったのです」

「そうだな……なぁ、シグナム」

「はい」

「遊園地と温泉、どっちが良い?」

「え……いや、私は……」

「五秒以内に答えないと両方になります。一、二、三、四……」

「お、温泉でっ!」

「じゃあ遊園地な」

「そんな子供っぽいところにきょうみはありません!」

荷物は適当なロッカーに預けるか、聖王教会に無理矢理転送して預かってもらうかで良いだろう。

金にはまだ余裕があるし、たまの散財ぐらいは由とするべきかな。

ぐりぐりとシグナムの頭を撫でていると、うーうー唸って彼女は俺の手から逃れてしまった。

ありゃ。

「父上は行きたいのですか、遊園地」

「いや……うんまぁ、行きたいな遊園地。すげー行きたい」

「ならば仕方がありません。あわせましょう」

しかたがないのです、と満足げに頷くと、シグナムはリインフォースのいる方に走って行った。

そしてお子様二人と共に、何やら盛り上がり始める。

……これで良いのかな?





























暗い、暗い部屋。

天然の光源は何一つなく、部屋を照らす物は人工的な、蛍光色のライト。

いくつものディスプレイに囲まれ、手元の鍵盤型キーボードを叩きながら、黄色の目を爛々と輝かせる男がいる。

ジェイル・スカリエッティ。碩学にして狂人。違法研究に手を染めなければ、間違いなく歴史に名を残しているであろう天才。

彼はモニターに映る昨晩の戦闘映像を見ながら、口を三日月の形に歪めていた。

ユニゾンしたヴィータ。夜天の主。聖王教会の誇る精鋭だが――しかし、彼の眼は二人を追っていない。

目を釘付けにしているのは、白いバリアジャケットに身を包んだ一人の少年だ。

手に持った二連装の大口径砲撃戦用デバイス。自分の作り上げたそれを、自己流でアレンジするとは。

満面の笑みを浮かべて、スカリエッティは届くわけのない声を上げる。

「ハハ。
 嗚呼……久し振りだねエスティマくん。
 少し見ない内に、また面白いことを始めたようじゃないか。
 エクステンドギア。成る程、凡人のための技術かと思えば……そういった使い道もあると。
 ハハハ。
 嗚呼、エスティマくん。
 日増しに力を増す君に、私は追い付けているだろうか。
 いや、追い付けているだろう。そして君も私に追い付き、それが延々と繰り返されるのだろう」

くは、と引き攣った吐息と共に、頬を涎が伝う。

それに構わず、スカリエッティは盛大に両腕を振り上げると、こひゅう、と喉を鳴らした。

「そのための障害を!」

金切り声を上げ、右手側にデータウィンドウが。

「そのための敵を!」

そして、左手側にも。

「嵐の中でこそ輝く君に、最高のプレゼントを持って、最高の敵として立ちはだかろう!」

は、と連続した歓喜の笑いが部屋の中に木霊する。

……新たに開かれたウィンドウ。

そこに映っている、レリックウェポンシリーズ。そして――ナンバーズType-R。

それらを引き連れて彼がエスティマの前に姿を現すのはまだ先のこと。

今はまだ、エスティマの敵に相応しいものを用意できてはいないから。

今は、まだ。



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