<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7038] sts 十五話 上
Name: 角煮◆904d8c10 ID:4dc5c200 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/17 01:51

蛍光色の灯りに照らされた研究室の中で、スカリエッティは上げていた顎を下げ、目を瞑った。
ゆっくりと腕を持ち上げると、振り下ろし、鍵盤型キーボードを一斉に押し込む。
すると眼前に開いていた画面が一斉にブラックアウトし、研究室の中には機器の放つ唸り声のような音だけが響く。

椅子に全身を預け、放心した様子でスカリエッティは天井を見上げる。
薄く目を伏せ、だらしなく緩んだ口元を引き締める。苦々しく引き結ばれた唇は、彼の心情を現していた。

「……これは」

小さく呟いて、スカリエッティはじっと天井を見上げていた。
先ほどまで彼が見ていた映像。それは、廃棄都市群で行われたいた戦闘映像だ。
スカリエッティがずっと観察していたその戦い。彼が気に入っているエスティマの戦闘を見ることができたことで、満足はできた。
が、そのエスティマの戦う姿に、どうしても違和感を抱いてしまうのだ。

以前の彼ならば自分を犠牲にして命を削りながらも戦いに身を投じていたというのに。
しかしType-Rやチンクと戦ったエスティマからは、微塵もそういった部分を見ることができなかった。

なぜ、こうなってしまったのだろうか。
エスティマの身体が限界に近いことは、制作者であるスカリエッティが一番良く知っている。
プロト・レリックウェポンであるエスティマ・スクライアは、現在稼働しているType-Rや聖王の器を完全なものにするための叩き台。
トライアンドエラーを行い改善点を浮き彫りにするための存在であり、それが正常稼働している今の状態は奇跡――綻びが出ている今の状態を正常稼働といえるかはともかく――に近い。
けれどエスティマ・スクライアという人物は、そういったことを分かった上で自分に敵対しているはずなのだ。

だというのにそれをねじ曲げ、全力を出さずに戦っている。
なぜ、彼がそんな風に変化したのか――どんな心境で宗旨替えを行ったのか。

それを頭の中でひたすらに考え、スカリエッティは小さく溜め息を吐く。
そして鍵盤型キーボードのボタンを人差し指で叩くと、浮かび上がったウィンドウへ声をかけた。

「……ウーノ」

『はい、ドクター。なんでしょうか』

「少し、考えたいことがある。一時間ほど一人にしてほしい。
 妹たちの修理は手順通りに頼むよ」

『了解しました』

「ああ」

『……あの、ドクター』

呼ばれ、スカリエッティはずっと天井に向けていた視線をウーノへと。
通信画面の向こうにいる彼女は、眉尻を下げてじっとスカリエッティへ視線を向けていた。

「なんだい?」

『何か、あったのですか?』

「……そうだね。ああ、そうとも。
 期待外れ……とも少し違うか。
 そもそも彼は……これも人としての揺らぎと考えるべきか?
 いや――」

ぶつぶつと呟くスカリエッティを見詰め続けるウーノ。
彼女がどう思っているのかなどは微塵も考えず、スカリエッティは思考に没頭する。

邪魔をしては悪いと思ったのだろう。では、と小さく断りを入れて通信を切った。














リリカル in wonder












味気も飾り気もない部屋の中、俺はフィアットさんと向き合っていた。
パイプ椅子に座っている彼女は、白い拘束着に身を包んで俯き加減になっている。

先の戦闘で逮捕した戦闘機人三体は、どれもがデチューン――身体機能を落とされ、今は見た目相応の力しか持っていない。
ISも封じ、装備品もすべて押さえた。もう自力でここ、海上収容施設から逃げ出すことは不可能だろう。
今、俺は事情聴取のためにこの場所へと赴いていた。

「フィ――戦闘機人、チンク」

「……ああ」

あやうく別の名を呼びそうになった。なんとか言い直しつつ、彼女への質問を続行する。
言葉をかけられた彼女は、俯きがちだった顔を上げ、まっすぐに俺へ視線を向けてくる。

「もう一度問います。結社の本拠地となっている研究施設の場所は、分からないのですね?」

「ああ。出入りは基本的に転送魔法か、妹のISで行っていた」

「……はい。では、次を。結社との戦闘を行った際、行方不明となった魔導師。
 それらは――」

「どれもサンプルとして保管されている。死んでいない限りは、どれも仮死状態で保存されているはずだ」

「……分かりました」

小さく頷いて、俺は手元にある書類へと視線を向ける。
ここへくる前は白紙同然だった紙には、びっしりと走り書きが並んでいた。
彼女から聞き出した結社の情報。それらのメモ書きだ。

大体聞くべきことは聞き尽くしたか。
彼女からの情報で目新しいものは少なかった。
ナンバーズとはいっても、やはり純戦闘用だからか。これがクアットロだったら違ったのかもしれない。いや、奴ならそもそも情報を吐かないか。

「捜査協力に感謝します。協力的な態度は、裁判でも有利に働くでしょう」

「助かる。妹たちも、よろしく頼むよ」

「善処します」

小さく息を吐いてバインダーへとメモを収めると、ここまで、と念話で会話を監視している者たちへ指示を送る。
そうして二十秒ほど待つと、いつの間にか詰まっていた息を吐くように、ネクタイを緩めた。

そして、

『Seven Stars、三分経ったら教えてくれ』

『了解です。しかし、何故でしょうか』

『少し、この人と話がしたいんだ。プライベートでな』

録画が切れた今だからこそ。けれどあまり長くいれば怪しまれるから、三分ほど。

『分かりました』

Seven Starsに指示を出すと、俺はずっと強張らせていた表情を解す。
気を抜けば緩めてしまいそうだったからだ。それを隠すために力を入れ続けていたものだから、疲れて仕方がなかった。

そんな俺を見て、フィアットさんはくすくすと笑い声を上げる。

「慣れないことをしているからだ」

「……似合ってないことぐらい、分かっています」

「いや、似合っていないわけではなかったぞ。
 凛々しい顔もまた、悪くない。……そうだな、しばらく見ない内にずっと大人っぽくなった」

彼女は柔らかな笑みを浮かべて、懐かしむような目をする。
……そういえば、この人とゆっくり話すのは、酷く久し振りだ。
そんな顔をしたってしょうがないのかもしれない。
そういう俺だって、どんな表情をしているのか。

「そういうフィアットさんだって……」

「……私だって?」

「大き……く……」

「……ど、どうだ?」

「……可愛らしいままですね」

「失礼だなお前は! これでも少しだけ身長が伸びたりしたぞ!?」

「まぁまぁ。昔のままというのも、それはそれで」

「だから成長したといっているだろうに! 本当に相変わらずだなお前は!」

ぷんすかと怒る彼女。
そんな様子と言葉に、ああそうか、と思い出す。

そういえば俺はよく、この人のことをからかって遊ん……もとい、可愛がっては怒られていたような気がする。
それもまた、ずっと昔のことだけれど……もう、昔じゃないのか。

『旦那様』

『……なんだ』

『口元が緩んでいます。だらしがない』

『うるさい。茶々を入れるな』

指先でSeven Starsを弾くと、フィアットさんとの会話に戻る。
時間がないっつーのに、コイツは……。

「……これでも、気にしているのだ」

ぷぅ、と彼女は頬を膨らませ、呟いた。

「……え?」

「歳だけくってもこのなりだ。お前ばかり大人になって……少し悔しいよ。
 もう、並び立つこともできない」

「……フィアットさん」

「ああ、あまり気にするな。ただの感傷だ。
 ……今のお前も悪くないぞ?」

「そうですか?」

「ああ。いい男に……格好良くなったよ」

「えっと……それは、どうも」

今度は俺が笑われる番か。何が面白いのか、彼女は笑みを絶やさず、輝くような表情を。
そんなフィアットさんを直視するのがどうにも気恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。

「どうした?」

「……平然と格好いいとかいわれても、反応に困ります」

「初心な奴め。
 てっきりそういったことに慣れたものだと思っていたが……そうか。
 まだ私にも目があるらしい」

「えっと……?」

問いかけても、なんでもないよ、とフィアットさんは首を振る。
その際に長い髪がふわりと揺れた。

「なぁ、エスティマ。もうちょっと近くにきてくれ」

「へ?」

「ようやく会うことができたのに、前ほどお前を近くに感じられない。
 すぐそばで、お前の顔を見せてくれ。
 ……見たいんだ、エスティマ」

そういう彼女の頬は、薄く朱に染まっていた。拘束着に包まれた身体を少しだけ、くすぐったそうに揺する。
顔が熱い。きっと俺も、似たような顔をしているのだろう。
彼女の願いを叶えようと、俺は一歩踏み出して――

『旦那様、時間です』

『……分かったよ』

「ごめんなさい、フィアットさん。
 これ以上ここにいると、怪しまれますから」

「……分かった」

残念そうに、彼女は溜め息を吐く。
そんな彼女へ、またきますよ、と声をかけ、俺は急ぎ足で部屋から外へ。

すると、

「……待ってるぞ。また会えるのを。
 ――待ってるからな!」

「あ――」

振り向き、言葉を返そうとすると自動ドアが閉まってしまった。
ああもう、と拳を握る。
仕方がないとは分かっているけれど、時間が足りない。くそ。

ひとけのない廊下を未練たらしい足取りで進みながら、俺は首元のSeven Starsへ恨み言を向ける。

「……Seven Stars、空気を読め」

『読みました』

「どこがだ」

『……時計を見て下さい』

いわれ、Seven Starsの表面に視線を落とす。
見れば、そこに記されていた時刻はフィアットさんと会話を始めてから五分が経っていた。
外に出てから、というのを考えれば……話していたのは四分?

「……悪い」

『分かればいいのです』

といいつつ、チカチカと光って抗議するような態度を見せるSeven Stars。
悪かったって、と表面を指先で擦りながら、廊下を淡々と進む。

そうしていると、廊下の先に見覚えのある姿があった。
どうも、と頭を下げると、応じて彼――ゲンヤさんは手を挙げる。

「どうも、ゲンヤさん。どうしたんですか?」

「ああ、お前がきてるって聞いてな。
 ちょいと話でもと思ってよ。立ってするのもなんだ、そこの休憩所へ行くか」

「はい」

ゲンヤさんに誘われ、自販機の並ぶ休憩所へと俺たちは向かった。
他に人はいないようだ。自販機でコーヒーを買ったとき、コトリと紙コップの落ちる音が響いた。
どうぞ、とゲンヤさんにミルクと砂糖の入ったものを。俺はブラックのを手にとって、椅子に並びながら口を付ける。

「……やっぱり、ナンバーズの様子を?」

「ああ。けど、俺だけじゃねぇ。暇のある佐官は、大体顔を見にくるんじゃねぇか?
 なんてったって、世間を騒がしてる戦闘機人だ。
 自分たちがどんな奴に手を焼いていたか、一度見ときたいんだろうよ」

「そうですか」

見せ物じゃないんだが……そう思うも、俺がそれをいうのも筋違いな気がする。
言葉に出来ない微かな苛立ちをコーヒーと一緒に飲み込んで、ゲンヤさんとの会話を続けた。

「ま、それはそれだ。俺がここへきたのは戦闘機人の嬢ちゃんたち以上に、お前ぇに話があったからだしな」

「と、いいますと?」

「クイントのことだ……例の遺留品、リボルバーナックルがあいつのだって判断されたよ。
 どうすんだ、エスティマ。ギンガは多分、薄々勘付いてるぜ。アイツが生きてるかもしれねぇってな。
 流石に確信するほどじゃねぇようだが、それもいつまで保つか」

「……ですか」

「ああ」

ゲンヤさんは俺の答えを待つように――実際待っているんだろう――口を閉じた。
クイントさんに関することは、可能な範囲でこの人に教えてあった。
無論、他言無用で。助けられるかどうかも分からない状態です、と言い添えて。

俺がそのことを知ったのは、隊長――ゼスト・グランガイツ――と協力するようになってからだ。
二人が生きていると知って、俺はすぐにでも助け出したいと思ったが、しかし、未だに行動を起こせないでいる。

結社の研究施設を探索し続けているあの人に頼めば、今すぐクイントさんやメガーヌさんを助け出すことはできるだろう。
けれどそれは、獅子身中の虫というカードを切ることとイコールになる。

結社に捕らわれている人は一人や二人ではないのだ。
あの連中に対抗する部隊の運営を任されている今、自分の気持ちに整理をつけるためだけに隊長へGOサインを出すわけにはいかない。
すべての捕らわれた人を助ける準備が整うまで、クイントさんを助けることはできない。

そして、そのことを知れば何かしらの反応を見せるであろうギンガちゃんとスバルに言うこともできない。
まだ俺に怨みを向けている内は良いのだ。
けれどそれが戦闘機人――ノーヴェへと向いたとき、どんな無茶をするのか想像もできない。

無論、暴走しないという可能性もある。
けれど、あの二人がどんな風に激情を抱く人間か知っているからこそ、伝えようとは思わない。

だから、

「……現状維持で。まだ知らせるわけにはいきません。
 どう足掻いたところで、あの二人が真相を知る手段はありませんから」

「……そうだな。俺がお前ぇの立場だったら、そうするだろう。
 悪ぃな、気苦労かけて」

「いいえ。本当に大変なのはゲンヤさんだって、分かってますから。
 ……すみません。クイントさんも娘さんも、助けることができず」

「気にすんな。確かに、思うところがないわけじゃねぇ。
 けど、精一杯やってるお前ぇにケチつけるつもりはねぇよ。
 やりたいようにやれば良い。頭の片隅に、女房のことを入れててくれれば俺ぁ満足だ」

「……はい」

短く応じて紙コップを口に運ぶと、いつの間にか中身はなくなっていた。
くしゃりとそれを握りつぶして、さて、と小さく呟く。

これから六課に戻って、調書をまとめて……やることはたくさんあるな。
早く状況を進めないことには、クイントさんを助けることもできない。

向こうの戦力を削り取れた今だからこそ、油断は禁物か。

「それじゃあゲンヤさん、俺はそろそろ」

「ああ。……ああ、そうだ、エスティマ」

「はい?」

「今日はシグナムを連れてきてるんだ。
 アイツ、お前に――」

と噂をすれば、

「ナカジマ三佐――っと、父う……スクライア三佐」

ゲンヤさんを呼びにきたのだろう。曲がり角から姿を現したシグナムは、俺を見て目を白黒させた。
が、すぐに素に戻ったのは流石か。
コホ、と小さく咳払いをして、シグナムは背筋を伸ばすと、ゲンヤさんへと。

「ナカジマ三佐、107の方が話があると」

「ん、おお、そうか。じゃあちょっくら行ってくる。
 シグナム、お前ぇはここで待ってろ」

「は?……あ、いえ、しかし――」

「じゃあな」

「あ、あのっ!」

ひらひらと手を振りながら、ゲンヤさんは足早に去ってしまう。
それを見送るシグナムは、どうしたものかと途方に暮れているようだった。

……はて。
ゲンヤさんは俺にシグナムのことで伝えたいことがあったようだけれど、なんなのだろうか。
シグナムに視線を向けてみれば、あの子は心底困り果てたようにしている。

「どうした、シグナム」

「は、いえ、その……なんでもありません」

「そうか……ああ、そういえばシグナム」

「はい」

「戦闘機人を撃退したみたいだな」

「は、はい! 全力を出しました!」

と、いきなり声を荒げる。慌てているとも違う。なんだろうか。
心の中で首を傾げていると、Seven Starsがチカチカと光り始める。

『旦那様』

『なんだ』

『レヴァンテインがいっています。
 褒めてやって欲しい、と』

『褒める?』

『戦闘機人を撃破したからではないでしょうか』

『ああ、なるほど……』

「えっと、シグナム」

「はい」

名を呼ぶと、シグナムは直立不動ながらもどこか犬を連想しそうな表情を見せた。
ポニーテールが今にも揺れ出しそうな、そんな感じ。

「……よくやったな」

「はい」

……褒めてはみたものの、シグナムは口を開かない。
それがまるで、次の言葉を待っているかのよう。
少し考えた末に俺はゆっくりと口を開いた。

「守護騎士として、頑張ってくれたんだな。
 これからも期待しているよ」

「はいっ!」

顔を輝かせて、威勢良くシグナムは答えた。
その際にポニーテールが一跳ねして、なんだか耳でも見えてきそうな具合。

頭を撫でたくなるも、流石にそこまで子供扱いはどうよと思い、自重した。


















デスクに向かい、部下たちから上がってきた報告書を確認しながらも、どこか上の空でなのはは作業をしていた。
彼女の頭の中には、一人の少女のことが浮かんでいる。

前の出動の際に保護した少女、ヴィヴィオ。生命操作技術で生み出された女の子。
彼女は今、先端技術医療センターにて保護されている。

本来ならば聖王教会の持つ医療施設へ搬入されるはずだったのだが、些細な違いにより、彼女は管理局の施設へと預けられていた。
それは、ヴィヴィオの保護に回っていたはやてが管理局員として動いていたこともあるし、ヴェロッサがエスティマに感じていた罪悪感がそれを許したということもある。

が、それはあまり関係のないことだ。
本来あるべき流れと同じく、なのははヴィヴィオへと興味を示していた。
クローンである以上、母親という存在はいないはず。それはなのはも分かっている。
しかし、うわごとの『ママ』という言葉が、どうしても耳に残ってしまうのだ。

可哀想だと思うのは、別に悪いことではないだろう。
けれど、自分はあの子に対して何をしてやれるのか。
そう考え始めると、なのはは途端に動けなくなってしまう。

自分が出来ることなんて――

「……止めよう」

考え込んだところで、答えらしい答えなんか出ないのだ。
自分のやりたいことは決まっている。そこへもっととらしい理由を付けなきゃ動けないというわけでもない。
考えるより先にやるべきことはあるはずだ。

いつの間にか俯いていた視線を上げて背筋を伸ばす。
すると、視界の隅に友人の――はやての姿が映った。
彼女はどこか放心した様子でキーボードを叩いている。心底疲れ切ったような表情は、どこか触れることを躊躇わせた。
そんなはやてと、なのはが電算室にいたからだろうか。
気がつけば、少し前まで一緒にいた部下たちの姿はいつの間にか消えていた。

あっちゃー、と思いながらも、なのはははやてへと近付いた。
後ろに立ってみても、彼女が気付いた様子はない。
時折思い出したように指がキーボードを叩くも、すぐに止まって思考に没頭しているようだった。

ウィンドウを見てみれば、どうやらはやてもなのはと同じように報告書へ目を通していたようだ。
開いている画面に目を移し、なのはは目尻を下げる。
そこに映っていたのは、デバイスが記録したのであろうエスティマと戦闘機人の抱き合っている姿だった。

「はやてちゃん」

「んっ……あ、ああ、なのはちゃん。どうしたん?」

肩を揺すられ、名を呼ばれると、ようやくはやては、なのはに気付いた。
薄く微笑むはやて。なのはは、それに嫌な儚さを感じてしまう。

「手伝ってあげるから、早く終わらせよう」

「え、けど……」

「駄目だよ、疲れてるときに無理しちゃ。ね?」

「……うん。ごめんな、なのはちゃん」

「気にしないで」

そうして、二人は作業に戻る。
報告書のチェックとはいっても、もうそこそこに終わらせてあったのか。
おかしなところを修正し、三十分も経たないうちに仕事を終わらせると、二人は女子寮へと戻った。

足取りの重いはやてを引っ張り彼女の部屋へとたどり着くと、ソファーに座らせて、なのははキッチンへと。
ごめん、というはやてに笑いかけながら、なのははお茶の準備をする。
キャラメルミルクを作る手間などないから、戸棚の中にあった紅茶を入れて、即席のミルクティーを作ると、リビングへと戻る。

しかしテーブルに紅茶を置いても、はやてはそれに手を付けなかった。
夜になり、冷えた部屋の中に湯気がもやもやと伸びてゆく。

どうしたんだろう、となのはは考え、すぐに思い至る。
直接見たわけではないが、新人たちが噂していたことを、なのはは耳に挟んでいた。

撃破した戦闘機人をエスティマが抱き留めた。無論、下卑た尾びれはついていない。
新人たちは偶然そうなったものだと思っているらしい。
ただ、はやてがどんな気持ちをエスティマに抱いているのか薄々と分かっているようだったため、話題にはなってしまったようだが。

けれど、となのはは思う。
抱き留めたとしたって、はやてのこの状態は流石に過剰反応過ぎやしないかと。
ここまで落ち込むのは何か理由があるはずだ。
エスティマとほぼ同じ年月を友人として過ごしているなのはは、そう思っていた。

はやては強い子だ。そうでなければ、十年に近い年月を一途に待ち続けたりなどできない。
そして、そんな友人の姿がなのはは好きだった。
だからこそ、今のように弱ったしまった彼女を励ましてあげたいと思うのだ。

「はやてちゃん、どうしたの?」

「……ん」

「そんなに落ち込むなんて、何かあったとしか思えないよ。
 ね、話してみて? 愚痴ぐらいなら聞いてあげられるし、もし力になれるならそうするよ?」

「……うん」

そうして、ぽつぽつとはやては語り始める。
エスティマと戦闘機人にどんなことがあったのかは分からない。
けれど、はやての知らないところで二人は知り合っていたこと。
エスティマが結社を追っていた理由の一つに、あの戦闘機人を逮捕することがあったこと。
そして、二人の仲は友達のようなものではないだろうということ。

つっかえながらも最後まで話しきると、はやてはまた弱々しい笑みを浮かべた。

けれどなのはは、まだどこか釈然としないものを感じる。
事情は分かった。エスティマに好きな人がいるのかもしれない。確かにそれはショックだろう。
けれど、そんなこと――そう、"そんなこと"だ――で諦めてしまえるほどに、はやての想いは弱かっただろうか。
こんなにも打ちひしがれるには、まだ何かがあるのではないだろうか。

そんな疑問を押し殺し、なのはは柔らかい口調ではやてへ声をかける。

「……うん。けどさ、はやてちゃん。
 エスティマくんがどうしたいのかは、まだ分からないよ」

「……けど」

「なんだかんだいっても、エスティマくんは人の気持ちを大切にする人だから。
 もしはやてちゃんの気持ちに応えられないのなら、もっと前にいってるはずだもん」

残酷な言葉だと分かりながらも、なのはは諭すように言葉を続ける。
はやては迷ってしまっているのか、俯いた顔を弱々しく振った。

「……そうかなぁ」

「そうだよ。ね、はやてちゃん。
 まずは、エスティマくんが何を考えているのか聞いてみようよ。
 怖いかもしれないけどさ」

「けど……」

しかし、はやては頭を振る。
何をそんなに怖がっているのだろう。
それが分からなければ、きっと力になってあげることはできない。

「けど……」

なのはは、じっとはやてが口を開くのを待つ。
そうしている内に、ぐすぐすと鼻を鳴らす音が響き始める。
それでも、なのははじっと待った。

「けど……しゃあないやんか……。
 私だって、エスティマくんが不義理を嫌ってることぐらい知ってる。
 けど……!」

段々と冷え切っていた声に感情が交ざり始める。
怒りだろうか。悲しみだろうか。
いや、きっとそれらの混じった何かだ。

「エスティマくんがあの人を好きかどうかなんて、私には分からない。
 けど……!」

こほ、と咽せて小さな咳をすると、はやては、

「けど、私は……!
 私には、一度だってエスティマくんの方から抱き締めてくれたことなんてなかった……!」

それが十分な証明になっているのでは、とはやては嗚咽を漏らす。
細かく肩を震わせる彼女の背中を、ただなのははゆっくりと撫でた。

……そっか。ようやく分かった。

胸中でそう呟いて、なのはは小さく唇を噛む。
微かな怒りが湧いて来るも、それは余計なお節介で、茶々を入れるものじゃないと自制する。
筋違いだと分かってもいる。

「……ごめんね、はやてちゃん」

「ううん……え、ええんよ」

必死に泣き声を押し殺しているのか。
裏声になりそうな声をはやては上げた。

そんな彼女をただ宥めながら、なのははどうするのかと自分自身に問いかける。
余計なお世話だとしても、自分が関係のないことだとしても。
……友達が泣いているのをただ慰めるだけだなんて、できっこない。

無論、こんな状況を造り出しているエスティマにも事情があるだろう。
彼がどんなことを考えているのか。まずはそこからかもしれない。

女の子を一人泣かせているんだから、それだけの理由はあるんだよね?

誰にともかく問いかけて、なのはは小さく手を握り締めた。

















「くそ、くそ、くそっ……!」

声と共に、ガンガンと断続的な金属のひしゃげる音が響く。
酷く耳障りなそれを生み出しているのは、クアットロだった。

解いた髪を揺らしながら、ひらすらに彼女は壁に埋め込まれたガジェットを蹴り付けている。
それでも怒りが収まることはないのか、口元は苛立ちを現すように酷く歪んでいた。

それを背後から見ているトーレは、腕を組んだ状態でじっと妹の姿を見ていた。
ここまで苛立っているクアットロも珍しい。
が、そうでもないのかもしれない。
エスティマに関わる戦闘に参加した後は、大体こんな感じか。
いつもならばエスティマを傷つけたことのプラスマイナスでいくらか溜飲を下げているようだったが、今回ばかりは違う。

完全なる敗北など、いつぐらい振りか――そうだ、自分が本格的にエスティマへ興味を持ち始めた、あの戦闘機人事件でのことだった。
奇しくも同じ戦場で再び泥を付けられる。これも何かの縁なのかもしれない。

「……エスティマ様、か」

「……トーレ姉様、申し訳ありませんが、その忌々しい名を出さないでもらえません?」

「ああ、すまない」

軽く返し、トーレは再び思考へと。

あの人との決着を付けるには、どうすれば良いのだろうか。
今回の戦闘を最後に、結社は最終作戦への準備を始めるという。

聖王のゆりかごを飛ばし、それで本局へと攻め込み、我々の掲げる目標を管理局へ呑ませようと。
その戦いでは、おそらく、自分はエスティマと戦うことはできないだろう。

未だ目覚めていないナンバーズのⅦ番、セッテ。
彼女は今回の戦闘データを組み込んで目覚める、結社最強の戦闘機人であり――エスティマに対する最大の切り札となる。
ならば、最早自分は用済みだ。おそらく梅雨払いとして、ゆりかごの浮かぶ空域を押さえる役目に就かされるだろう。

……それで良いのだろうか。
見定めた敵と相まみえることなくこの戦いに終止符を打ってしまうことに納得してしまっても良いのだろうか。
結社の保有する戦力として、勤めを果たす義務があると分かってはいる。
しかし――

「……私は、戦闘機人だ」

戦うために生み出され、そのために生きている存在だ。
望み、望まれ――力を振るうことこそを至高とする。
そしてエスティマ・スクライアもまた、自分と同じ存在のはず。
力によって友や立場を得て、そして、これからもそうしてゆくだろう者。

戦うことで生きてゆく――そんな、自分と同じ立場にある彼との純粋な戦いを。
それを果たすことが出来るのならば。
闘争者の頂である、最強の名を手にするならば。

結社にいることで、その極みを手にすることができないのならば。

自分は――



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.052573919296265