<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7038] sts 十二話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:4dc5c200 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/29 23:10
廃棄都市区画のとある場所に、六課の指揮車が停まっている。
その周りを囲む局員は、交替部隊と呼ばれる者たちだ。

本来ならばひと気が皆無といって良い場所に部隊が展開している。
どうにも穏やかではない状況の中、トレーラーの指揮スペースにエスティマはいた。
部下からの指示を聞きながら、画面に流れてくる情報を頭に入れ、彼はマルチタスクで考えごとをしている。

こんな場所に部隊を展開しているのには一つの理由がある。
友人――職場違いの同僚、と妙な関係でもある――のヴェロッサに以前から頼んでいた調査の報告がきたのだ。
エスティマが頼んでいたこととは、結社が生み出そうとしているであろう聖王クローンの研究を行っている施設の捜索。

もう歴史はエスティマの知っているものから外れて一人歩きを始めているが、スカリエッティの切り札である聖王のゆりかごがミッドチルダに存在している以上、それが使われないわけがない。ならば、聖王のクローンは必ず生み出されるだろう。
聖王のクローン――ヴィヴィオが誕生する前に研究を中止させることが出来れば、ゆりかごの浮上も阻止できるはず。阻止できずとも、時間を稼ぐことはできるだろう。

そう考えてエスティマはヴェロッサに依頼を行っていたのだが、つい先日、友人からきた報告は見事に期待を裏切ってくれる内容だった。
ヴェロッサが研究施設を発見したときには既に聖王のクローンは完成。警備が厳重だっため施設に踏み込むことができず。
そして今日、完成した聖王のクローンが外へと運び込まれるため、輸送中のそれをなんとしてでも保護して欲しい。

後手後手に回った末に厄介ごとを押しつけられたような形だ。なぜこんな事態になるまで――そう考え、エスティマは溜め息を吐く。
協力を求めた相手が間違いだったのかもしれない。少し考えれば分かることだというのに、友人というだけで無条件に信じすぎたのか。

ヴェロッサ・アコースは管理局に籍を置いているとはいえ、そもそもが聖王教会の人間だ。
管理局と教会の仕事が同時に舞い込んでくれば――それぞれに思惑のある仕事で、しかも内容が被ったりした場合――どちらを優先するのかなど自明の理だろう。

聖王教会がクローンの完成を見逃すことにも、当たり前か、とエスティマは思っている。納得できないが。
聖王に近しい血族や側近の騎士たちを信仰対象とする宗教団体。もう古代ベルカが絶えて久しい今、血族そのものであるヴィヴィオの生誕は彼らにとっての悲願なのだろう。
もっとも、それが聖王教会の総意とも思えない。教会の中には、今の体制のままで良いという者たちもいるだろうから。
組織である以上、思惑が交錯するのは仕方がない。エスティマの所属する管理局も一枚岩というわけではないのだから。

しかし、その後始末をされる側の人間としてはたまったものではない。
教会のいざこざに巻き込まれるのはこれが始めてではないのだ。アギトの言葉が真実ならば、イクスヴェリアは結社ではなく、教会が保護しているらしい。秘密裏に。
その時に泥を被る羽目になり、今度は聖王クローンの保護を行わなければならない。エスティマにとっても見逃せることではないのでこうして現場に出て来てはいるが、正直なところ、あまりいい気はしなかった。

いい気はしないが、無視はしない辺り、やはりエスティマ・スクライアはお人好しなのだろう。
なんだかんだで彼は聖王教会に恩がある。闇の書事件のあとにはやての面倒を見てくれたこともあるし、シグナムのことでも世話になった。
それに、六課の設立に協力してもらったこともある。

気に入らないというだけでそれらを無かったことに出来るほど、彼は不義理ではないのだ。それが良いことかはともかく。

『兄さん』

唐突にフェイトから念話が届き、エスティマはいつの間にか俯いていた顔を上げた。

『どうした?』

『アコースさんがきたよ』

『分かった。外に出る』

端末をそのままに、エスティマは気怠げな動作で椅子から腰を上げた。
どうなるか、と胸元に手を伸ばす。いつもならばそこにいるSeven Starsの感触がないことに小さな不安を抱きながら、彼は外へ出た。
今、Seven Stars、それにカスタムライトは手元にない。以前から進めていたsts計画が第一段階に達したため、それの組み込みをシャーリーが隊舎で行っているのだ。

その作業に入ってからヴェロッサの報告がきたのだから、なんともタイミングが悪い。
魔力リミッターのかかっている自分ではまともな戦闘を行えないと分かっているが、戦うことのできない状態というのは、エスティマを少しだけ神経質にさせている。

ドアを開いて差し込んだ日光に目を細めつつ足を進めると、フェイトからの念話の通りにヴェロッサの姿があった。
何やらフェイトと話している――そしてフェイトは若干引いている――よう。口説いているようにも見えた。
が、彼はエスティマの姿を見付けると話を切り上げ、片手を上げる。

「やあ、エスティマ」

「……よう」

「急に悪かったね。できることなら、僕ももう少し早く連絡をつけたかったのだけど」

「別に今更だろう。それで、首尾の方は?」

「ん、ああ」

エスティマの不機嫌そうな様子に、ヴェロッサは一瞬だけバツの悪そうな表情をした。
しかしそれをすぐに打ち消すと、普段の微笑みを取り戻して、口を開く。

「猟犬たちを配備して、クローンを運んでいる車両はしっかりと補足しているよ。
 予定どおりのルートを通ってくれている。このままなら、十分もしない内にここへ来るんじゃないかな」

「そうか。……それじゃあ俺は指揮に戻る。場合によっちゃあお前にも手伝って貰うことになるだろうから、準備だけはしておいてくれ。
 ……ああ、それと、ウチの妹をあんまり弄って困らせるなよ」

「了解」

参ったね、と両手を挙げるヴェロッサを一瞥して、エスティマは再び指揮車に戻ろうとする。
その時だった。

「部隊長、索敵範囲内に魔力反応が二つ……推定、オーバーS!
 対象のトレーラー、進路を変更しました!」

「……なんだって?」

部下からの報告を受け、エスティマは舌打ちしたいのを堪えながら指揮車に飛び込んだ。
戦術スクリーンを見てみれば、そこには確かに見覚えのある反応が二つ。こちらへと接近してくる。

「Type-Rが二体……この速度は空戦型か」

面倒なのが出て来た、とエスティマは眉間に皺を寄せた。
いざクローンを確保しようするタイミングでの横槍。もしかしなくても、こちらの動きが読まれていたと考えるべきだろう。

戦闘機人が出て来る場合を想定してフェイトは連れてきたが、まさか二体――それも空戦型だなんて。
もしこれにガジェットが加われば、投入された戦力はマリアージュ事件のときと大差ない。
なんの意図があってこんな――。

そこまで考え、思考を打ち切り、エスティマは部隊の指揮へとシフトする。

「各員、迎撃準備。
 フェイト、戦闘機人の足止めを頼む。
 交替部隊は二手に分かれ、片方はアコース査察官と協力し結社のトレーラーから対象を保護。
 救援要請を出す。スターズとイェーガーが到着するまで耐えるぞ!」

『了解!』

『兄さん……』

「フェイト、聞いての通りだ。少し無理をしてもらう。なんとか時間を稼いでくれ」

『うん、任せて。頑張って抑えるから!』

安心させようとしてくれたのだろうか。強い語調だが明るい声で、フェイトは応えた。
良くできた妹だよ、と苦笑しつつ、エスティマは六課へと通信を送る。













リリカル in wonder












「うう……身体が重いですよぅ……」

「ご、ごめんね」

エスティマたちが戦闘態勢に入る少し前。
六課の開発室では、シャーリーとリインフォースⅡが薄暗い部屋の中でデバイスの最終調整を行っていた。
作業もあらかた終わり緊張感が抜け始めると、人間サイズになったリインフォースが机に突っ伏す。

そう、人間サイズだ。
普段は魔力消費を抑えるため三十センチほどの大きさで活動しているリインフォースだが、今は違う。
というより、これからは違う、というべきか。

「うう……リインが間違ってました。
 蒼天の書が百科事典ぐらいの大きさになるぐらいなら、って思ったけれど、そっちの方が良かったかもですよ。
 歩くの面倒ですーっ」

「……え、問題はそこ?」

「ビッグな問題ですーっ!
 大きくなったら、前と比べてできないこととか多いのです!
 ザフィーラの背中でごろごろとかできないのですよ!?」

「……そういう問題?」

「あうう……これから色々と大変そうです……。
 とりあえずお洋服を新しく買わないとだし、ああ、デスクも……。
 ベッドも新調しないとです。まったく」

「……あれ? なんだか楽しんでいるような気が」

胸を張りながら夢見がちな顔をしているリインⅡに突っ込むも、無視される。

リインⅡが人間サイズになったことには、理由があった。
デバイスの面から魔導師を可能な限り強化する、という主旨の元に進められているsts計画。
その過程でリインⅡを強化改造する必要がでてきたのだ。

ユニゾンに関する機能を強化するため、初期は蒼天の書を大型化する方向で話が進んでいたのだが、そのストレージデバイスの持ち主であるリインⅡが待ったをかけ、そうするぐらいなら自分のデータ容量を増やすです、となったのだ。
が、どうやら本人はそのことを軽く後悔しているようである。

……後悔しているのかどうかは微妙か。

あーうー、と困ったふりをしつつ新生活を楽しみにしているようなリインⅡを横目に、シャーリーはキーボードを叩く。
魔導師でないためマルチタスクを彼女は使えない。が、会話をしながら問題なく作業ができている辺り、彼女の有能さがよく分かる。

「……っと、Seven Starsとカスタムライトの最終調整ももう終わりそうですねー。あとは部隊長が帰ったきたら起動実験」

「ですです。エスティマさんで実験したら、今度はなのはちゃんやフェイトさんとですー」

「忙しいですねー」

ねー、と顔を合わせながら作業を続ける二人。
なのはやフェイトの名が上がったのは、勿論二人とのユニゾンにリインⅡが対応したからだ。
守護騎士たちとはやて、それにエスティマだけだったはずのところに更に二人を追加し、ユニゾン後の機能を追加。
そこまでのことをしたため、人間サイズになるほどに容量を増加する必要が生まれたのだ。

ダウングレードすれば元に戻れるとはいえ、結社との戦いが終わるまで彼女は今のままだろう。

この魔改造されたリインⅡとのユニゾン実験が完了すれば、sts計画の第一段階は終了する。
そこから先は――

『二人とも』

「んー?」

「なんです? Seven Stars」

二人が同時に首を傾げると、少しの間をおいてアラートが隊舎に響き渡った。
何事かと二人がディスプレイに目を落とせば、外に出ている交替部隊が戦闘機人と戦闘を開始。
残っている二小隊は救援に、と情報が流れてくる。

「た、大変です! ちょっと行ってくるですよ!」

「はい、行ってらっしゃ――」

「シャーリー!」

リインⅡが飛び出そうとすると、逆に開発室へ飛び込んでくる者がいた。
はやてだ。彼女は息を弾ませ、髪の毛を乱しながらノックもなしに部屋へと上がり込む。

「ど、どうしたんですか?」

「Seven Starsとカスタムライトの準備せな。エスティマくんに届けんと!
 リインも早ぅ!」

怒鳴り声一歩手前の勢いで捲し立てるはやてに、いつもの余裕はない。
その剣幕に圧されながらも、シャーリーは言葉を返した。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! まさか使うつもりですか!?
 まだ起動実験もやってないんですよ!?」

「それでも、エスティマくんを守る手段の一つぐらいは準備せんと」

「だから、なんでそんなに――」

「忘れたんか? エスティマくんはレリックウェポンなんやで?
 戦闘のどさくさ紛れで結社に捕まっても、なんらおかしくあらへん。
 フェイトさんがいるっちゅうても、流石に二体相手にするのは無理や」

いわれ、シャーリーは思い出したように指先を動かし始めた。
開いていたウィンドウをすべて閉じ、作業台に乗せられていたSeven Starsとカスタムライトを手に取って立ち上がる。
そして調整用の端末を脇に抱えると、先に行ってます、と開発室を飛び出した。

「リイン、行くで!」

「はいです!」

はやての声を聞いて、二人もシャーリーの後に続く。二人は同時に飛び出すと、屋上のヘリポートを目指した。















第一種警戒態勢が敷かれ、フォワード陣は全員、屋上のヘリポートへと集まっていた。
陸戦の新人たちとシャーリーが乗り込むと、焦ったようにヘリは浮上を開始する。

やや荒っぽい運転に新人たちは顔を顰める。シャーリーは身体を揺らしながらも、情報端末を叩いていた。

『……フォワード陣、聞こえますか?
 部隊長が不在なので、代理として指示を出させてもらいます』

薄暗い機内に浮かび上がった通信ウィンドウに、グリフィスの顔が映る。
彼は落ち着き払った様子で――そうなるよう務めているのだろう――状況説明を始める。

『救援要請があったあと、ジャミングにより交替部隊との通信が途絶。AMFも展開されているため、長距離の念話も通じません。
 近隣部隊に協力要請をし回復に努めていますが、未だ部隊長たちとは連絡が取れていない状態です。
 フォワード陣は戦闘区域に急行し、交替部隊の状況の把握を至急、お願いします。
 魔力リミッターの解除はクロノ・ハラオウン提督に要請しました。
 高町一尉と八神一尉は、交替部隊のところへ先行してください。
 ヴィータ副隊長は戦闘区域に入るまで外からヘリの護衛を。ザフィーラは中で待機をお願いします。
 ガジェットの出現が予想されるため、それに合わせて次の指示を出します』

「了解!」

返事をすると、グリフィスとの通信が切れる。次いで、ヘリの両脇をバリアジャケット姿の両隊長が通過して行った。
後部に座った者たち――スバルは、俯き、視線を握り締めた手に落とす。

「……スバル?」

「ん、何? ティア」

「どうかしたの? なんか思い詰めたような顔をしてるけど」

「んー、そっかな。……うん、そうかも。
 けど、心配しないで。ちょっと考えごと」

「なら、良いけど……」

気遣ってくれたティアナだが、自分よりも彼女の方が余裕のない顔をしているとスバルは気付いていた。
隠しているようだが、ティアナがエスティマに――自分がなのはへと抱いている類の――憧れを向けていることに、薄々スバルは気付いている。
そんな彼女だからこそ、今の状況は落ち着かないのだろう。
自分とティアナの立場を入れ替えたら、おそらく相方以上に取り乱すかもしれない。なんとか平静を装っている分だけマシだろう。

そう思いつつも、けれど、とスバルは胸中で呟く。
エスティマを助けに行くというこの状況に、どうしてもスバルは思うところがある。
助け出す――母を助けてくれなかった人を助ける?
そのことに軽い抵抗を覚えつつも、スバルは頭を振った。

――私はあの人と違う。助けてみせる。

そうだ、とスバルはより拳をキツく握り締めた。

姉や父は母を見殺しにした彼を、まるで許しているかのように振る舞っている。
けれど、自分だけはそうしようと思えなかった。
だってそうでしょう、と誰にもとなくスバルは問いかける。

もし自分まであの人を許してしまったら、母のことを皆が忘れてしまう。
家族が母が死んだことを忘れ去るわけがないと分かってはいる。しかし、いなくなった時に感じた悲しみや苦しみを一度でも忘れてしまったら、きっと自分は母を過去の人と思ってしまうだろう。

母のことを自分の中で色褪せさせないためにも、スバルはエスティマに抱いている憎しみを薄れさせようとしない。
苦しく、辛い記憶だったとしても、それだって思い出の一つなのだ。
それを忘れてやるものかと、スバルは意地になっていた。

――なぜ彼女はこんな風になってしまったのだろうか。
本来ならば母親の死を乗り越えるはずだった少女が根深く、暗い感情を抱き続けているのは、やはりエスティマがお人好しだからなのだろう。
弁解も弁明もせず、スバルがどんな感情を抱こうと好きにさせている。
もし本来の流れと同じように、明確な母の敵が――エスティマが偽悪者ぶらなければ――現れなければ、スバルは前を向くことができていただろう。

考え込んでいる内に、ヘリは廃棄都市区画へと突入する。

『おい、聞こえるか! 案の定ガジェットの反応がありやがる。
 交替部隊が包囲されないよう、ここで数を減らしとくぞ!』

「はい!」

ヘリと並走しているヴィータから通信が入り、新人たちは立ち上がる。
ヘリの最後部が開き降下準備が整うと、それぞれデバイスを起動させながら地上へと飛び降りた。




















『兄さん! なのはたちはまだ――く、このっ!』

地上から交替部隊の援護射撃を受けつつ戦闘機人と戦っていたフェイトだが、形成は圧倒的に不利だった。
しかし、それも仕方がないだろう。Type-Rのオットーとディードを相手にしているのだから。

今すぐ飛び出したい衝動に駆られながら、エスティマはじっと戦術画面を見詰めていた。
どういうつもりか、戦闘機人は全力で――TDモードを使って――フェイトに当たっていない。

レリックコアを開放して魔力と戦闘機人が戦闘に使用するエネルギーを一気に開放するのがTDモードだと分析されている。
だとすれば、長期戦を想定して力を温存しているのだろうか。

だとしたって、このままではじり貧に違いはない。
早く救援がきてくれることを祈りながら、エスティマは戦術スクリーンを睨みつつ部下に指示を出す。

そうしていると、画面の端にスターズ01とイェーガー01のマーカーが出現した。
はやては途中でなのはと分かれ、聖王クローンの確保に動いた方へと向かい始める。
なのはは真っ直ぐにこちらへと。

通信のジャミングは行われているが、AMFはそれほど濃くはない。
この距離ならば、とエスティマはなのはに念話を送った。

『なのは、聞こえるか、なのは!』

『エスティマくん? 大丈夫なの?』

『なんとか。今はフェイトが一人で持ちこたえてくれてる。早く合流してくれ』

『分かった。
 エスティマくん、Seven Starsとカスタムライトを積んだヘリがもうすぐ着くから、合流する準備をお願い。
 グリフィスくんが限定解除の申請をクロノくんにお願いしたから、もうすぐ戦えるようになずはず』

『了解だ』

なのはとの念話を打ち切って、エスティマは椅子から腰を上げつつマイクを掴む。

「交替部隊、救援が到着した。このまま後退しつつ、合流する。
 スクライア嘱託魔導師、じきに限定解除の申請が通る。高町一等空尉の援護を受けつつ耐えてくれ。
 俺はこれからデバイスを運んでいるヘリと合流し、戦線に加わる。少しの間、この場の指揮権を交替部隊の小隊長に預ける」

『了解!』

返事を聞くと、エスティマは指揮スペースの隅に置いてあったデバイスを手に取った。
一般局員の使う長杖型汎用デバイス。
エクステンド・ギアに対応したそれのアタッチメントに、魔力刃形成用の銃剣と自動式弾倉のカートリッジを装着。
無事に起動したことを確認すると、エスティマはプレートメイルのバリアジャケットを展開し、空へと上がった。

リミッターがかかっているため、今の魔力ランクはBだ。技術が落ちるわけではないが、元手となる魔力が少ない状況で戦場に出るのは心許ない。
両肩のアクセルフィンを羽ばたかせ、エスティマは大気を裂いてヘリを目指す。
途中、なのはと擦れ違うも、頷き合うだけで二人は言葉を交わさなかった。

『シャーリー、今、そっちに単身で向かっている。
 三分ほどで着くだろうから、それまでにSeven Starsとカスタムライトの準備を頼む』

返事を期待せずに、エスティマは念話を送る。
そして――

「……あれは」

進む先、空中で仁王立ちをしている姿を見付け、エスティマは眉根を寄せる。
誰だかなど考える必要もない。戦闘機人が着ている青いボディースーツ。それに、両足首に展開されたインパルスブレード。
そして何より、一騎打ちを望んでくるような馬鹿は一人しか記憶にない。

舌打ち一つし、エスティマはカートリッジを炸裂させつつ魔力刃を長杖の先端に形成した。
それに応じて、トーレは両腰から柄を――インパルスブレードと同質の刃を持つ、刀を抜いた。

「待っていましたよ――エスティマ様ぁ!」

「またお前か……! 退け、構ってる暇はない!」

トーレを無視して進むか、この場で戦うかで一瞬だけ躊躇う。
ここで戦っても勝機は薄い。なんだかんだで、トーレは空戦型戦闘機人の中では最も相手をするのが面倒なのだ。
しかし、トーレを出し抜いてヘリに到達したとしても大人しくSeven Starsを手にさせるだろうか。

……こいつなら塩を送ってきてもおかしくはないか。

そう思いつつも、エスティマは甘い考えを捨てた。
敵はトーレ一人というわけではないのだ。この廃棄都市群は、どこにだって身を隠すことができるのだから。
後続のナンバーズがどのタイミングで出て来るのか分かったものではない。

六発のクロスファイアを撃ち放つ。が、トーレは回避行動を取りながら二刀を振るい誘導弾を切り払う。
なら、とエスティマはカートリッジを炸裂させ、ショートバスターを。
僅かなチャージ時間の後、収束したサンライトイエローの砲撃がトーレへと――

「このような子供だましで……!」

「分かっているさ」

ショートバスターを放つ際、トーレに見えない角度で生み出した二発のクロスファイアを背後に移動させる。
そして長杖を腰だめに構え、更にカートリッジを二発炸裂させ、魔力刃の出力を上ると、トーレへと斬りかかった。

衝突したインパルスブレードと魔力刃が、それぞれ触れた相手引き裂こうと火花を散らす。
しかし、所詮は一般局員用に製造されたデバイスか。交差する形で受け止めているインパルスブレードに、魔力刃を切断されようとしていた。

――今……!

タイミングを計って、エスティマは背後からクロスファイアを射出する。
一発は顔面狙いの一撃を。もう一発は時間差を置いて、下から弧を描いて後頭部を狙う。

が、

「ぬるい……!」

瞬間、トーレの姿が掻き消えた。ISのライドインパルスか。
それに気付いた瞬間、エスティマもカートリッジを炸裂させ、マガジンを入れ替えながら稀少技能を発動させた。

目視の難しい速度で、二人は空で激突し、ビルの合間を駆け、衝撃波でガラスを破砕しながら交差を繰り返す。

「それでこそですよ、エスティマ様!」

音速超過の速度で激突してきたトーレを、エスティマはデバイスのロッドで受け止める。
火花を散らしながら溶断されようとしているそれに焦りを抱きつつ、トーレの腹に蹴りを叩き込む。
呻き声を上げるトーレ。しかし、腕からは僅かに力が抜けただけで、動きそのものは止めなかった。

ロッドを両断され、エスティマは下部のそれを投げ捨てる。
握りの悪いデバイスを右手に持ちながら、デバイスに頼らず左手に紫電を散らし――

微かな鼓動を胸に感じた瞬間、デバイスが爆発した。

「オーバーロード!?」

おそらく、限定解除がなされたのだろう。本来のエスティマの魔力に耐えきれず、汎用デバイスは砕け散ったのだ。
稀少技能が切れ、大きな隙が生まれたことで、咄嗟にフィールドバリアを展開する。間に合うか否か。
しかし、エスティマの予想した攻撃はこなかった。

トーレは二刀のインパルスブレードを消し、エスティマを見下ろしながらそれを腰に戻す。
そして落胆したように溜め息を吐き、

「全力でないならば、斬る価値もなし。
 ……これならばお嬢様にお相手頂いた方が、いくらかマシか」

失礼、と一瞥し、トーレはフェイトたちの戦う方向へと飛び去った。
彼女の後ろ姿を苦虫を噛んだような顔で眺める。

口にしたように、あのままフェイトの所へと向かうつもりなのだろう。
限定解除が出来るようになったとはいえ、Type-R二体のところにトーレが加わる。
嫌な想像をどうしても抱いてしまい、エスティマは急ぎながらアクセルフィンを再形成した。

エスティマは大破したデバイスを握ったまま、ヘリを目指す。
ごめん、直してやるから、と煙を上げるストレージデバイスに声をかけつつ、彼はようやくヘリにたどり着く。

エスティマが到着したことに気付いたアルトが後部ハッチを開くと、エスティマはそこに乗り込んだ。
中では椅子に座ったシャーリーが、忙しなくキーボードを叩いている。
リインⅡとザフィーラは、そんな彼女を心配そうな顔で眺めていた。

端末から伸びるコードが既にハルバード状態のSeven Stars、カスタムライトだけではなく、蒼天の書にも繋がっているのを見て、エスティマは目を細める。

「シャーリー? それに、リインⅡまで……」

「あ、はい! 今、ダウングレードを急いでますから――」

エスティマの顔を見ずに、シャーリーは休まず手を動かし続ける。
彼女の様子を見ながらエスティマは、いや、と頭を振った。

「ダウングレードは中止してくれ。起動と実戦、両方のテストをやるぞ」

「ちょ……!?」

「リインフォース、Seven Stars!」

「は、はいです!」

『了解しました』

「ちょっと待ってくださいよ!」

「セットアップ!」

制止するシャーリーを無視して、エスティマは日本UCAT型のバリアジャケットを装着し、リインⅡとのユニゾンを開始する。
あまりにも強引な行動だが、それはフェイトやなのはたちが劣勢に立っているからだろう。
敵は三体だけというわけじゃあない。いつ後続の戦闘機人が出て来るのかも分からない今、戦力は多い方が良い。

エスティマの脳裏に浮かぶのは、先のマリアージュ事件、それと三課が壊滅した時のこと。
自分の力が及ばず、親しい者たちを失った、失いかけた出来事だ。
……もうそんなこと、許しはしない。

しかし、焦りからの行動だからなのか、

「システムエラー……言わんこっちゃない!」

嘲笑うかのように、甲高い音に続いて、Seven Starsと繋がっていた端末の画面にエラーメッセージが溢れる。
そのエラーメッセージをエスティマは見ると、Seven Starsのデバイスコアへ視線を移した。

「フルドライブだ、Seven Stars」

『はい』

改造されたリインⅡは、高出力の魔力に対応したユニゾンデバイスとして調整されている。
そのため、通常出力では安定した起動状態を維持できないのだろう。
本来ならば起動テストで浮き彫りとなるはずだった穴が、このタイミングで露呈する。
運用を強行したのだから仕方がないのだが。

黒いデバイスコアが瞬き、フルドライブ・エクセリオンが始動した。
エスティマの身体が魔力光に包まれ、薄暗いヘリの中がサンライトイエローに照らされる。
出力を徐々に上げているのか、Seven Starsの駆動音が低音から高音へと、少しずつシフトしてゆく。

「……まずいぞ、エスティマ」

「どうしたザフィーラ」

「高エネルギー反応だ。これは確か、砲撃タイプの……俺は外に出てヘリを守る。
 急げよ」

言葉をかけ、ザフィーラはヘリの外へと降りた。
それを見送りながら、エスティマは唇を噛み締めつつ、呟く。

「……動いてくれ、リインフォース」



















老朽化したビルの屋上から、ディエチはエスティマたちを乗せたヘリを、ズームアップした目で見ていた。
イノメースカノンを構え、エネルギーを注ぎ込む。
その隣に立つ観測手のクアットロは、にやけた笑みを浮かべ、片手で口元を隠していた。

「自分たちが包囲されているのも知らないで、暢気にヘリなんか飛ばすからいい的になるのよ。
 ディエチちゃん、どう?」

「……固い狼が出て来た。撃ち落とせるとは思うけど、第二射までの間にヘリが浮上したら手間かな。
 あと、なんかヘリの中に馬鹿みたいな魔力反応がある。なんだろう」

「そ。まぁ、任せなさいな。何があろうと、撃ち落とせば関係ないわ。
 IS発動、シルバーカーテン」

クアットロの足元にテンプレートが展開し、魔力を使用しない、幻影が発動する。
魅せる対象はザフィーラ。砲撃の虚像を見せると、馬鹿正直に防御魔法が展開。
空振りに終わったそれに、焦った様子が透けて見えて、クアットロは腹を抱えて笑った。

「見てみなさいディエチちゃん、見事に騙されてるわよ、あの狼!」

「……煩い、気が散る」

遊んでいるとまた足元掬われるんじゃ、と嫌な汗をディエチは流した。
何度か戦場に出たことのあるディエチだったが、クアットロと組むと大抵はロクでもない目に遭うのだ。
結社設立の時もそうだった。幻影で姿を隠し、不意打ちの砲撃を叩き込めば必ず勝てると言われてほいほいやってみたものの、実際は抜き打ちのリミットブレイクで負けたり。

今度は違うと良いなぁ、と思いながらも、ディエチはイノメースカノンのチャージ終了を確認して気を引き締める。

ヘリと合流しようとしているのだろう。空戦の三人組と戦っている二人の魔導師と展開している部隊は、徐々にだが後退していた。
このまま挟み撃ち、と作戦通りにことが進めば良いけれど。

「クアットロ、チャージ完了。あの狼をヘリから引き離して」

「了解了解」

散弾の幻影でも見せているのだろうか。青い狼は、空中を飛び回りながら防御魔法を次々に展開している。
が、それらのすべてが空振りに終わっている。もうそろそろネタを見破られてもおかしくはないだろう。

だから、この一撃で、

「IS、ヘヴィバレル――発射っ!」

トリガーを引き絞ると、武装の中に蓄積されたエネルギーが開放される。
刹那の間、砲身の先端に橙色の球体が生まれ、次いで、それが解き放たれる。
熱風と衝撃が吹き荒れ、ヘヴィバレルの通過した屋上の縁が炭化し、異臭を放った。

歯を食い縛りながら、ディエチは砲撃の反動に耐える。
エネルギーの放出が終わるまでは目標を逃さないと、目を据わらせる。

ザフィーラが一拍遅れて本命の砲撃に気付くも、遅い。
身体が焼かれることにも構わず、ザフィーラは射線に割り込んで防御魔法を展開。
が、間に合わなかった砲撃はヘリを目指し、空を灼く。

そして、砲撃がヘリに到達する、その刹那――

音速超過で、長大な古代ベルカ式のトライシールドが、展開された。
ヘリを守るように現れた防御魔法には傾斜がつけられている。滑るように進路をねじ曲げられた砲撃は、そのまま虚空へと消えていった。

「え……?」

スコープを覗き込むディエチは、呆然と砲撃を回避させた何かを見ようと、目を見開く。
灰色の煙と剥がれ落ちた防御魔法の残滓が舞い散る中に、一つの影がある。

その姿を、ディエチは――否、ナンバーズは良く知っていた。
しかし、記憶にある彼とは姿形が多少、異なっている。

両腕に握るデバイスは、白金のハルバードと、純白のガンランス。
しかし、それを握る腕には幾重にもベルト――拘束具型の魔力制御弁――が巻き付いている。

その他の違い――最も大きなものは、背中から生えている一対の翼か。
漆黒色のそれは、スレイプニールと呼ばれる魔法だったはず。

……何、あれ。あんな姿は知らない。データにない。

腕を一閃し、まとわりつく煙りを一掃する。そうして姿を現したのは、

「ロングアーチ01、エスティマ・スクライア……」

誰にともなく、彼は呟く。
彼は両肩と背中の飛行補助魔法を大きく羽ばたかせ、ヘリを飛び越え、空高く舞う。
そして身震いするように莫大な魔力を放出すると、

「――目標を、駆逐する!」

声高に宣言し、戦線へと加わった。








前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.049731969833374