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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] sts 八話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:d2eca28f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/20 21:57
「ええ……よろしくお願いします」

ロングアーチ00への連絡を終えると携帯電話をポケットに突っ込んで、俺は溜息を吐いた。
のんびりしている暇がないのは分かっている。すぐにでも管制室に戻らないといけない。

フェイトはトーレと。ヴィータたちはウェンディと。なのははマリアージュに。
そして……はやては、フィアットさんと、だ。

マリンガーデンへと辿り着いたマリアージュと共にいた彼女と初老の男。男の方はトレディアだろうか。確証はないが、そちらはともかく。
彼女の顔を俺が見間違えるわけがない。
彼女が戦場に出てきているというのに、俺はここから動けず。

唇を引き結んで、思わず制服の上からリングペンダントを握り締めた。

Type-Rよりも前のモデルとはいえ、彼女だって立派な戦闘機人だ。あの人とぶつかって、はやてが無事である保証はない。
ザフィーラが向かってくれてはいるが、もし間に合わなかったら……。

嫌な想像が頭を過ぎり、よりキツく手を握り締める。
あの二人が戦うところなんて、正直見たくもない。どれだけ巡り合わせが悪いんだ。

……いつまでもこうしちゃいられない。
俺は止まっていた足を管制室へと向け――その瞬間、ねらい澄ましたかのように携帯電話が震えた。

ロングアーチ00からかと思ってディスプレイを見れば、表示されていた名前はオーリスさん。
通話ボタンを押すと、冷ややかな声が届いた。

『スクライア三佐。戦闘中に管制室から離れるのは感心しませんね』

「……すみません。けど、なんでそれを」

『さきほど、そちらに連絡をしましたから。用事は一つだけです』

そこまで感情の籠もらない声で言い切ると、一拍置いて、オーリスさんは咳払いを一つ。

『今から五分間、結社によるジャミングで地上本部からそちらの様子を把握することができなくなるでしょう』

「……はぁ」

『ですから、勝手に限定解除などを行わないでくださいね、三佐。
 ……では、これで。中将は戦果を期待していますよ』

ブツリ、と通話が切れる。
今のは……やっぱりそういう意味だろうなぁ。

「規律に厳しいのか、違うのか。まぁ、形振りかまってられないのはどこも一緒だけどさ」

『急いでください旦那様。五分は、貴重です』

「分かっているさ」

釘を刺してくるSeven Starsを指先でつつくと、俺は今度こそ管制室へと戻る。
インチキだが、この五分で形勢を逆転できれば。
いや、するしかないんだ。


















リリカル in wonder

















沿岸地域上空。シグナムたちがノーヴェと戦っている場所からそれほど遠くない上空で、黄金色の魔力光とISの光が交差を繰り返していた。
バルディッシュを握り締めながら、フェイトは表情を歪ませる。

一瞬の交差のあと、トーレは鋭い弧を描いて、再びフェイトへと突撃してきた。
射撃魔法で迎撃を――そんな考えが浮かび上がるも、一瞬でそれを却下する。

もし兄ならば、稀少技能を使った上で射撃魔法を撃つことは有効だろう。
しかし自分では、相手の速度から考えて簡単に避けられるであろうことが予想できる。

なのはのように誘導弾を使えば、まだ戦いようがあるかもしれない。
しかし、誘導弾より直射弾を使い慣れている自分だ。この局面で不慣れな魔法を使う気にはなれなかった。

「くっ……バルディッシュ!」

『sonic move』

選択の末に使用したのは、得意といっても良いであろう魔法。
発動すると共に、視界が一気に引き延ばされる。

ハーケンフォームのバルディッシュを肩に担いで、お互いに得物を振り抜く。魔力刃とインパルスブレードが激突し、激しく紫電を散らした。
どうやら単純な推力ですら負けているらしい。トーレは両手に持った刃を交差させてバルディッシュを押さえ込み、そのまま押し出す。

フェイトは額に汗を浮かべながら、

『Plasma Lancer』

どういう形であれ動きを止めたトーレに射撃魔法を放とうとする。
スフィアが発生すると同時に、トーレは舌打ちしつつフェイトから離れた。

だが遅い。出来る限り最高の速度で生み出されたスフィアからは、即座にプラズマランサーが射出される。
が――

「射撃など、無粋な……!」

肉薄する黄金色の射撃魔法を、トーレはすべて切り払った。
再びトーレの番とでもいうように、彼女は右の突きをフェイトに放つ。
フォトンランサーを使用したため、フェイトは接近戦へ思考をシフトするのが一拍遅れてしまった。

主人の虚をフォローするようにバルディッシュがディフェンサーを発動。
魔力光とISが瞬いて、夜空を照らす。

光に照らされたトーレの顔は、フェイトとはまた違った意味で歪んでいた。
不満をありありと浮かべ、目を細め、彼女は歯を噛み締める。

「歯応えがない……手を抜くか、それとも私を侮辱するか……!」

とんでもない、とフェイトも目を細める。
もし地に足を着いて戦うのならば、長物を使っている自分が有利だっただろう。
しかし空戦で、小回りや速度は向こうが上だ。接近戦が得意といっても、それは速度あってこそ。
純粋な白兵戦の技量では、ベルカの騎士に及ばない。

違った歴史ならば、トーレとも良い勝負ができただろう。
しかしそれは、もしもの話だ。
はやてがガジェットを破壊したことでAMFは消滅しているが、それでもフェイトとトーレの間には、埋めがたい技量の差がある。

ディフェンサーに突き込んでいた刃を放し、トーレは距離を取る。
そして一気に加速をつけると、その勢いを乗せた刃をフェイトへと――

「どうすれば――分かった、バルディッシュ!」

肉迫するトーレを視界の中央に置いて、フェイトは彼女を見据える。

「フェイトお嬢様、引導を渡しましょう!」

そしてお互いの手が届くほどの距離まで彼女が近付くと、

『Full drive.
 sonic form』

高速でカートリッジが炸裂し、フェイトの姿が掻き消えた。
インパルスブレードが空を切り、トーレは目を見開く。
しかしすぐに我を取り戻すと、彼女は再び顔に獰猛な笑みを張り付けた。

「そうだ……それとやりたかった……!」

トーレの視線の先。フェイトの姿は、さきほどと違ったものになっている。
マントが消失し、服の両袖がなくなっている。厚手のワンピースを着たような状態。

真・ソニックではない、通常のソニックフォーム。ようやく出された限定解除により、この状態へと移行したのだ。
ハーケンフォームのバルディッシュを構えて、フェイトはトーレへと。

刃を交わす二人の間に、もはやスピードの差はない。
あるとしたらやはり、近接戦闘の技量か。

しかし今度は、フェイトがその差を力押しで誤魔化そうとする。
フルドライブとなり出力の上がった魔力刃でトーレのインパルスブレードと切り結ぶ。
が、一層、色を強めた魔力刃はインパルスブレードに食い込み、それを切断した。

「ハハ、これほどとは……!」

しかし、形勢が逆転しようとしている場面だというのに、トーレは一切怯まない。
むしろ笑みさえ浮かべている。

「まだ笑って……!?」

「当然ですとも! これが楽しくなかったら嘘だ!」

互角、もしくはやや不利となった状況だというのに笑みを浮かべるトーレが信じられず、フェイトは困惑する。
戦うことで楽しみを感じる。フェイトだってそういったことが全くないわけではない。しかしそれは、命のやりとりとは無縁な、スポーツ感覚でやる模擬戦などだけだ。
負ければ未来のなくなる実戦でそんなことをいう神経が、フェイトにはとても理解できなかった。

「私は純粋に戦いのを望む! そう、戦闘機人として!」

フェイトの瞳に、微かな哀れみが浮かんだ。
戦闘機人として。その言葉には、自分の存在をただ一つに定めているような響きがあったからだ。

「あなたは……」

――随分と昔。母親に認めてもらいたくて戦っていた、自分のように。
フェイトの目には、トーレがそう映ったのだ。

「投降してください。ちゃんと罪を償えば、あなただって……!」

「何を! これは、私が望んだことだ!」

しかし、

「戦闘機人として! 戦うことほど存在を充実させることはない!」

返ってきたのは拒絶の言葉だった。
自分が進まなかった――彼女は、自分が兄のお陰で踏み越えなかった一線の向こう側へ至った者なのだと、理解する。

「戦うだけの人生なんて……!」

しかし、理解したからといって納得できるわけではない。
黄金色の魔力光を撒き散らしながら、フェイトはハーケンを振るう。
トーレは半ばで断ち切られたインパルスブレードを交差してそれを受け止めた。

「それが私だ! 戦闘機人だ!」

バルディッシュを蹴り飛ばしてフェイトを弾くと、トーレは両手首のインパルスブレードと刀を再構築。
それに最大までエネルギーを回し、限界まで巨大化させた。

「確かに人として生きる、人並みの幸せを求める。そう願う者も中にはいるでしょう。
 しかし、私は違う! 戦闘機人であることに誇りを持っている!
 あなたの兄であるエスティマ様だって、この私と同じ存在だ!」

「……それは、それだけは聞き捨てならない!」

ギリ、とバルディッシュを握り締め、ハーケンとインパルスブレードが閃光を放ち、残光を放ちながら舞い踊る。

「兄さんはあなたなんかとは違う!」

「違いませんよ、お嬢様! あの人は戦ってすべてを手に入れる類の人間だ! すなわち、私と同類でしょう!」

「違う……! 兄さんは好きで戦ってなんかいない!
 ……そうだ。あなたみたいな人がいるから、兄さんは……!」

そうだ、とフェイトは叫びを上げる。
戦闘機人がどんな風に兄を捉えているのかは知らないが、フェイトにとって今の発言は許せなかった。
兄が戦っている理由を把握しているわけではない。しかし、戦うこと自体が好きではないことだけは分かる。

戦って色々なものを手に入れたのは結果にすぎない。本来ならば兄は、スクライアで自分と――兄妹に囲まれて過ごしていたはずだったのだ。
穏やかな日常がきっと似合う人。
だというのにずっと闘い続けているのは、目の前の――自分の欲求を満たすためだけに戦う者が後を絶たないから。

……許さない。

『Zamber form』

更にカートリッジを炸裂させ、フェイトはバルディッシュを変形させる。

「あなたは自分のエゴを押し通しているだけ……その歪み、ここで断ち切る!」

「吠えましたね、お嬢様!」

魔力光とISの光が、最高潮に達する。
両者は武器をかまえ、雄叫びを上げながら最高速で、引かれ合うように――

『フェイトちゃん!』

『なのは!?』

灼熱していた思考が、不意に届いたなのはの念話によって冷める。

『交差するタイミングに砲撃を撃ち込むから。上手く避けて』

『分かった!』

なのはの念話に返事をして、フェイトは神経を研ぎ澄ませる。
そして指定された、交差するタイミングに――

『Maneuver ON』

兄の技術である、慣性無視の機動を発動。
激突するタイミングの寸前で速度を殺さぬまま、直角に真上へと機動を変化させる。

その際のGに胃に酷い重みを感じたが、かまっている暇はない。

そして、指定されたタイミング。
インパルスブレードを空ぶったトーレへと、桜色の砲撃が突き刺さろうとするが――

「水入りか……!」

トーレもまた慣性を感じさせない動きで、まるでステップでも踏むかのように、紙一重で砲撃を避けた。

「今日はここまでに。フェイトお嬢様、また会いましょう」

「逃がすとでも……!」

後退しようとするトーレを追おうとするが、シグナムたちのことを思い出して、フェイトは動きを止める。
……そうだ。自分のなすべきことは、あの戦闘機人の相手じゃない。

去ってゆくトーレの後ろ姿を見ながら、フェイトは唇を噛んだ。

「フェイトちゃん、大丈夫?」

「うん」

「よかった。それにしても、あの戦闘機人……」

視線を向けると、なのははトーレの去った方に視線を投げていた。

「あのタイミングで避けるなんて……」

言葉には微かな悔しさが滲んでいた。
確かに、あれを避けるのは普通じゃないだろう。自分はなのはから念話があったから別だが、不意打ちの中距離砲撃を避けるなど普通ではない。

しかし彼女は頭を振ると、表情を改める。

「行こう、フェイトちゃん。シグナムたちを助けてあげないと」

「うん、なのは」

頷き、二人はシグナムたちの元へと。

急行しているフェイトの頭の中には、トーレの言葉が残っていた。
……違う。兄さんはあの戦闘機人と同類なんかじゃない。

「そうだよね、バルディッシュ」

『sir』

主人の問いを、バルディッシュは肯定する。
彼女のデバイスもまた、戦闘機人の発言に対して思うところがあるようだ。

そんな二人に、なのはは不思議そうな顔をする。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

















リリカル in wonder

















「この……!」

シュベルトクロイツを突き込むも、紙一重で避ける戦闘機人に、はやては焦りを覚える。
マリアージュはかかってこない。この戦闘機人は、一人で自分の相手をするつもりなのだろう。

熱くなっている一方で、冷静な自分がいる。戦闘機人の相手をしている場合ではないと、分かってはいる。
しかし目の前の少女を見ていると、どうしても堪えきれない衝動が身体を突き動かすのだ。

術式を構築しながら、敢えて魔法を使わず、はやては騎士杖を振るう。

「……センスがないな」

「余計なお世話や!」

横薙ぎしたシュベルトクロイツをバックステップで避け、チンクはスティンガーを投擲してきた。
それらをシールドバリアで弾いて、突撃。はやては大上段から騎士杖を叩き付ける。

チンクは前進することによって、刃を避けて腕で騎士杖を受け止める。
そしてボディースーツでロッドを受け流しながら接近すると、掌をはやての鳩尾へと。

咄嗟に騎士杖を引き戻して受け止めるが、その衝撃にはやてはたたらを踏む。
足元がふらついた瞬間を狙って、チンクは後ろ回し蹴りで足を払った。

衝撃の後、浮遊感。飛行魔法でなんとか体勢を立て直そうとするが、独楽のようにチンクは動き、縮めた足をバネにして跳び蹴りを。
今度こそ防ぐことはできず、胸に足裏が突き刺さった。
かは、と空気を吐き出しながら吹き飛ばされ、はやては地面を転がる。

騎士杖を支えに立ち上がろうとする自分を見据える戦闘機人。
構図そのままに見下されている気がして、どうにも我慢がならない。

……こうなることは分かっていた。自分が接近戦を挑めばどうなるかなんて。
しかし、

「まだまだ……!」

あまり痛みに耐性がないせいか、蹴られただけでも随分と響く。
萎えかけそうな意思を叱咤しながら、はやては立ち上がった。

「……まだ分からないのか? お前では私を倒すことなどできない」

「分からんなぁ。私、阿呆やなくても馬鹿やから。あんたを前にして引くことなんかできんわ」

「……そうか」

呟き、チンクは再びスティンガーを指に挟んだ。
間髪置かずに、それを投擲。しかし、投げナイフていどで破れるほどはやてのバリア出力は低くない。六課でも上から数えた方が早いぐらいなのだから。
甲高い音を立てて弾け、地面に転がるナイフを見ながら、はやてはマルチタスクの一つを使って目の前の戦闘機人を分析する。

それも、戦闘とはまったく関係ない、不謹慎な用途で。

……外見は、まぁ悪くない。小柄というよりも子供な身体も、そっち方面の趣味な人なら喜ぶだろう。
エスティマにそっちの趣味は――まぁ、ないだろう。ずっとシグナムの面倒を見ていたのだし。考えたくもないことだけれど。
性格はどうなのだろうか。まず間違いなく最悪だとは思うけれど、それは敵として対峙しているからなのかもしれない。

もっとも……エスティマがこの戦闘機人に惹かれているなんて、まだ分からないことだけれど。
この戦闘が終わったらきっちり聞き出そうと、決める。

「いいのか? マリアージュのことを放っておいて」

「さて、なぁ」

術式を構築しながら、はやては完全に立ち上がる。再び騎士杖をかまえると、呼吸を整えた。

「それにしても、随分と余裕やね」

「本気を出すまでもないだろう?」

「はっ、優位に立ってると思い込んでるんか」

「実際にそうだろうさ。……八神はやて、お前を殺しはしない。
 ただ私の勝手で、圧倒はさせてもらう」

「できるもんなら。その余裕も、今になくしてやるわ」

切っ先を戦闘機人に向けて、はやては慣れない調子ながらも魔力刃を形成する。
どう考えても悪足掻きだ。魔力刃なんて滅多に使わないから、慣れていないせいで余計な負荷がかかる。

そして、それは見透かされているのだろう。
戦闘機人は微かに片眉を持ち上げただけで、別に興味もないといったように、戦闘態勢を維持した。

『はやて、何をしてるんだ! 一人でその人の相手をするだなんて――』

唐突にエスティマから通信が入る。当たり前だろう。ザフィーラがくるまで上空で待機しているはずだった自分が、こうして地上で戦闘を行っているのだから。
そんな報告を受ければ、焦りに焦った彼が通信を入れるのも無理はない。
わがままを押し通して悪い、と思う一方で、一つ、気に障ることが。

……その人?

敵をそんな呼び方するなんて、どういうことなん?
今すぐにでも聞きたくはあったが、すべてはこの戦闘が終わってからだ。

『はやて!』

通信に応えず、はやては再びチンクに向けて騎士杖を突き出した。
魔力刃によってリーチは伸びた。それを利用して、ひたすらに突きを繰り出す。

しかし戦闘機人には当たらない。長い髪を翻しながら、ステップを踏んで彼女は避け続ける。
そして再びチンクは接近して――

――今や。

騎士杖をかいくぐり打撃を叩き込まれる刹那、はやては意図的にリアクターパージを発動させる。
さすがに向こうも予想はしていなかったのだろう。
バリアジャケットの爆ぜた勢いに、二人は弾き飛ばされる。

上着を失い、黒いボディースーツと、頭にベレー帽を引っ掛けているだけとなったはやて。
彼女は地面を転がりながらも、接近戦を挑んでいる最中に構築し続けていた魔法を発動させる。

「……チェーンバインド」

トリガーワードを呟いた瞬間、地面にいくつも設置された魔法陣が展開する。
そこから伸びたバインドが戦闘機人に巻き付いて、チンクを締め上げた。

「形勢逆転やね。私を甘く見てるからそういう目に会うんよ」

「くっ……このていど!」

ギリギリと音を立ててバインドが一本一本引き千切られる。
しかし、

「ストラグルバインド」

あらかじめ設置しておいたバインドを更に発動。チンクを雁字搦めにして、動きを止める。
締め上げられ、チンクの顔が苦痛に歪む。

それを見据えながら、はやては砲撃魔法の構築を行う。

「チェック。私の勝ち――」

そして戦闘機人を昏倒させようとした瞬間、嫌な機械音に気付いてはやてはフィールドバリアを展開した。
次いで、衝突音。威力を殺しきることができず、バリアを展開しながらもはやては吹き飛ばされる。

見てみれば、自分を狙ってきたのはマリアージュだった。
数は随分と減っている。残りはどこへ行ったのか。

一撃飛んできたことを切っ掛けに、マリアージュから次々と質量兵器による砲撃が届く。
傾斜をつけて生み出したシールドバリアでそれを防ぐが、完全に防ぐことができない。

徐々にヒビの入るシールドに顔を歪め、どうするかと思案する。
やはり空へと上がるのが一番だろう。しかし、ここから離れてせっかく捕まえた戦闘機人を取り逃がしてしまいたくはない。

どうするか。そう考え――

僅かな照明しか残っていないマリンガーデンが、光に照らされた。

「きたか」

『主……上空で待機していて欲しいとあれほど……』

呆れと焦りの混じった念話。送ってきたのはザフィーラだ。
上空に生み出された光の繭が弾けると、その中から大きな影が地上へと落ちてくる。

僅かな音を立てて降り立ったのは、白い毛並みの狼だった。
リインフォースとのユニゾンを果たし、体色を変えたザフィーラ。
彼は敵であるマリアージュをざっと流し見ると、顔を僅かに上げる。

そして、咆吼を上げた。
普段の人の声ではなく獣の声帯から発せられたウォークライ。

敵を威嚇するための叫びと共に、ユニゾンザフィーラはマリアージュへと突撃する。
雨のように降り注ぐ砲弾は、ザフィーラの前面に展開したバリアに弾かれる。

質量兵器による攻撃をものともせずに、ザフィーラは近くにいたマリアージュへと襲い掛かった。
迎撃のためにマリアージュの腕が変形する。肘から先を鋭い刃と成す。
が、それを軽やかに避け、ザフィーラはマリアージュの喉笛に噛み付いた。

鋭い牙が肉を断ち、そのままザフィーラは敵を頭から地面に叩き付ける。
ブチブチと肉を噛み千切って顔を上げると、次の獲物へ。
倒れ伏したマリアージュに背を向けた瞬間、動きを止めたそれは、地面から生えた無数のライトブルーの刃によってバラバラにされた。

四肢を動かし、ジグザグに移動しながらザフィーラはマリアージュへと躍りかかる。
あと一歩で、という距離にまで近付くと、四肢を縮めて地面に這うように。
そして飛び掛かり、今度は前脚をマリアージュの腹へと叩き付けた。

猫や犬が前脚で飛び掛かるのならば、それほどの衝撃はないだろう。
しかし、大型犬よりも尚巨大なザフィーラが加速して突撃すれば、どれほどの重さが乗るだろうか。

ザフィーラによって吹き飛ばされたマリアージュは、近くにいた味方に衝突。
そしてまた、地面から生えたライトブルーの刃によってバラバラに解体される。

マリアージュを圧倒するザフィーラの姿を見て、さすが、とはやては感心した。
やはり自分と違って接近戦を得意とする者は迫力や戦い方が違う。

……さて。

「戦闘機人さん。こっちの勝ちは確定したようなもんや」

「そう思うか?」

声をかけると、バインドで拘束されたチンクは僅かに口の端を持ち上げた。
そんな状態で強がるなんて、と思いながら、はやては気を引き締める。

「……さて、聞かせてもらおうか。なんの目的があって、あんたらはマリンガーデンにきたんや?」

「海底遺跡だ。そこに眠るロストロギア目当てに、私たちは攻め込んだ」

「へぇ、素直に教えてくれるんか?」

「ああ。……私たちの勝ちだからな」

その言葉にはやてが、何を、と思うよりも早く。
チンクは足元にテンプレートを展開する。

「IS発動、ランブルデトネイター」

その上、

「……自爆しろ、マリアージュ」

「なっ……!? ザフィーラ、防いで!」

しかし、遅い。
はやてたちができたことは、己の身を守ることだけだった。

チンクがはやてとの戦闘で撒き散らしたスティンガーと、ザフィーラに一方的に蹂躙されていたマリアージュが、閃光を放ちながら爆発する。
そして同時に。

先行し、地下に潜ったマリアージュ。マリンガーデンを支えている柱に取り付いた彼女たちもまた、爆ぜた。
爆炎と轟音に続いて、金属の軋む音がマリンガーデンに響き渡る。

そして――

海上に建てられていたマリンガーデン。その一部のフロアは崩壊。
はやてたちはそれに巻き込まれた。




























グラーフアイゼンを両手で掴み直して、ヴィータは荒い息をなんとか整えようとしていた。
ちら、と視線を横に流せば、ヴィータと同じように息を荒くしたシャッハの姿が見える。

二人はデバイスを構えつつも、攻めあぐねている状況をどう打破しようかと念話を交わしていた。

『どうするシスター。五分だけだが、限定解除の許可が下りたぜ』

『ギガントですか……あまりオススメはできませんね』

『同感だ』

ヴィータの握るグラーフアイゼンは、第一形態のハンマーフォルム。
思うところがあり、彼女はそのままの形態で闘い続けている。

「どうしたんスか? こないならこっちから行くっスよ?」

その二人に対して、場違いな陽気な声が浴びせられた。
戦闘機人、ナンバーズType-Rのウェンディ。

彼女はデバイスの先端を二人に向け、足元にテンプレートとミッドチルダ式の魔法陣が混ざったような、歪んだものを形成する。
そして、宙には魔力光と共に無数のスフィアが浮かび上がった。
十や二十じゃきかない数。直射弾だからといっても、これだけの射撃魔法を制御できるのは流石に戦闘機人か。

「ほら、上手く避けるっス!」

丁寧にも掛け声を添えられ、一拍遅れて一斉にスフィアが瞬く。
射撃魔法の発射速度は、早い。それに威力も高いといっていいだろう。

ヴィータとシャッハはその優れた反射神経を使って、ビルの合間を動き続けながら魔力光のシャワーを避ける。
……ずっとこんな感じだ。

射撃型の戦闘機人。一撃の重さはないものの、大量のスフィアから放たれる射撃魔法は、厄介なことこの上ない。

「……っと!?」

射撃魔法が放たれて生まれた一瞬の隙を突いて、ビルの狭間から深緑の魔力弾が放たれる。
戦闘機人の気が逸れた。ヴィータは瞬時に魔法を構築し、

「アイゼン!」

『Pferde』

射撃魔法の弾道を読み切り、移動魔法を発動して、隙間を縫うようにヴィータは急接近する。
視認の難しい、人によっては不可能な速度。
だというのに、戦闘機人はヴィータを目で追う。

そして振るわれたアイゼンに合わせてデバイスを持ち上げ、ハンマーを盾ともサーフボードとも見えるそれで受け止めた。
重い手応えを感じながら、ヴィータは顔を歪める。

……やっぱりそうだ。エスティマのデバイスと打ち合った感じに似てやがる。

ベルカ式の使い手である二人は、どうしても非殺傷設定での攻撃で犯罪者を捕まえるのが不得手である。
そのため、相手が魔導師である場合はデバイスの破壊をしてから戦闘能力を奪う、というのが常套手段なのだが、それが戦闘機人には通じない。

どんな材質なのだろうか。どれだけ打ち込んでも、傷こそつくが破壊はできない。
ギガントならば破壊できるのか? しかし、それは分の悪い賭けだ。
破壊できるか分からないもののために速度を犠牲にして取り回しの悪い武器を持てば、今度はあの弾幕を抜けられるかが微妙。

しかし、戦闘機人本体を狙って攻撃しようにも、異常といっていい反応速度で絶対に防がれる。
現に、

「――烈風一陣!」

戦闘機人の意識がヴィータへと向いている隙を突いて、シャッハが地面から飛び出し、ヴィンデルシャフトを一閃した。
しかし、それも防がれる。甲高い音と火花を散らして敵のデバイスを削るが、やはり破壊できない。

迎撃に放たれた射撃魔法を避けて距離を取ると、二人は再び息を整えるべく戦闘機人の様子を窺った。
もう長期戦は覚悟の上だ。あれだけ派手に魔法を使っているならば、向こうが先に息切れをするだろう。

それまで食らい付いて、なんとしてでも一撃を叩き込まなければ収まらない。

そんなヴィータたちを余所に、攻撃を防いだ戦闘機人は、未だに余裕を見せている。

「あちゃ、外装が……」

やるっスねぇ、と呟いて、戦闘機人はデバイスに声をかけた。
瞬間、デバイスの外装が剥がれ落ちる。

露わになったフレームは、金一色。傷は一つもついていない。
それを見て、やっぱりそうだ、とヴィータは確信した。

戦闘機人の使っているデバイスは、エスティマが使うインチキ臭いデバイスと同じ系列なのだろう。
魔力を込めれば込めるだけ、その性能を増す代物。盾という形状は、材質である液体金属の特性を最大限に生かしているかもしれない。

戦闘機人は予備の外装を虚空から呼び出し、デバイスは新品同様の状態へと戻る。
また振り出しかと、ヴィータたちはどうしても気を重くしてしまう。

誘導弾を使おうにも、向こうの射撃能力が高いため撃ち落とされる。その上、手数は負けている。
シスターも、ベルカの騎士らしさがこの戦いでは裏目に出ている。近接戦闘に特化した彼女と射撃戦に特化した戦闘機人が相手では分が悪い。
そして、二人の持つ一撃の威力も、優れた反射能力とあの胡散臭いデバイスによって防がれる。

手詰まりというわけではない。しかし、分は悪い。
もしこの場にいる面子が違うのならば、とヴィータは歯噛みする。

決してシャッハが悪いわけではないし、ましてや、弱いわけでもない。
だが、高い防御能力を持つ敵を相手にするには、フロント二人だとどうしても手数や使える手段が少なくなる。

せめて近接戦闘ではなく、サポートに特化した味方が一人でもいれば……。
そんな風にどうしても考えてしまうのだ。

「んー、なんだかお二人とも、お疲れのようっスねぇ。
 もうそろそろトドメを刺して、楽にしてあげるっスよ」

重い音を上げて、戦闘機人はデバイスを構える。そして歪んだ魔法陣を展開し、彼女の周囲にいくつものスフィアが浮かんだ。
射撃魔法ではない。あれは、機雷か何かか。

二人はデバイスを握り締め、相手の出方を窺う。
向こうが決めるつもりならば、こちらはそれを凌ぎきって一撃を叩き込むだけだ。

魔力光がビルの合間に満ち、緊張が臨界寸前にたっしようとする。
その時だ。

「……えぇ? 撤収っスかぁ?
 んー、分かったっス」

スフィアは解除されないが、戦闘機人はデバイスを下ろすと、溜息と共に肩を下げた。

「んじゃ、さいならっス。また会うことがあったら、その時こそはトドメを刺してやるっスよ」

それじゃー、と陽気な声と共に、戦闘機人は手を振る。
そして、なんの前触れもなく彼女の身体が地面に吸い込まれた。

僅かな波紋と共に、ずぶずぶと吸い込まれてゆく。
呆気にとられたシスターはすぐに我を取り戻して後を追おうとするが、ヴィータはそれを手で制した。

「一人で行っても無茶だろ」

「ですが、ヴィータ……!」

「分かってる。分かってるよ」

キツく手を握り締め、ヴィータは戦闘機人の消えた地面を睨み付ける。
見逃してもらった。そういう形になるだろう。
倒されもせず、倒せもせず。まるで情けをかけられたような形。

ベルカの騎士である二人にとって、それはこの上ない屈辱だった。































うっすらと開いた目へ最初に飛び込んできたのは、黄色い照明に照らされたコンクリートの残骸だった。
何があった、と思い出しながら、はやては頭を押さえつつ起き上がる。

「……起きたか」

「ん……って、あんたは!?」

声のした方を向き、はやてはシュベルトクロイツを握り締め――ようとするが、手元に騎士杖の感触はない。
バリアジャケットこそ着ているものの、武器はないようだ。

なんで、と考え、爆発に巻き込まれたことをはやては思い出す。
ならばここは瓦礫の下だろうか。デバイスがなければ、脱出は難しいかもしれない。

そんな風に現状を確認するはやてに視線を向けているのは、戦闘機人のチンクだった。
彼女は瓦礫の一つに腰をかけて、開いた胸元から取り出したアクセサリーを指で弄っていた。

チリン、と涼しげな音を上げるリングペンダント。
見覚えのあるそれを目にして、はやては瞳を揺らめかせた。

……なんでエスティマくんと同じ物を。

そんな言葉が喉元まで出かかるが、彼女は必死に我慢した。

再びはやては現状確認に戻る。
今の自分がいるところは、てっきり瓦礫の隙間だと思っていたが、どうやら違うようだ。

戦闘機人を中心にして発生しているバリアフィールド、だろうか。それが瓦礫を押し退け、自分たちを守っている。
パラパラと当たるコンクリート片に嫌な予感を抱きつつも、はやては戦闘機人に視線を向けた。

「……自分で爆破したのに生き埋めか。世話ないなぁ」

「予定どうりだ。脱出手段はある」

「そか。ところで、私に捕まるっちゅー可能性は考えとらんの?」

「やってみればいい。そのときは即座にハードシェルを解除するが。まぁ、押し潰されて終わりだろうな」

なんとも単純な脅しだ。
八方塞がり。戦闘機人も自分も、救助を待つしかないようだ。

ザフィーラは大丈夫だろうか。リインフォースとユニゾンしているからあのていどの爆発でどうにかなるとは思えないが、心配なものは心配だった。
それにしても、命令無視してその挙げ句にこの様。
なんとも酷い話だ、とはやては自嘲する。
今なら、人が散々口を酸っぱくしても言うことを聞かなかったエスティマの気持ちが分かるかもしれない。

「……八神はやて」

「なんや?」

「エスティマは元気にしているか?」

「……なんでそんなこと」

「言いたくないのならば、別にいい」

そういって、戦闘機人は再びアクセサリーを弄った。
軽やかな音を立てるそれに、はやてはじっと視線を注ぐ。

それに気付いたチンクは、微かな笑みを浮かべて――はやてにはそれが、どこか勝ち誇っているように見えた――口を開いた。

「どうした?」

「……その、リングペンダント」

「ああ。これがどうかしたのか?」

「私の知り合いに、それを持ってる人がいるんや」

「そうか。奴はまだ持っているのか」

そういって、くすくすとチンクは笑う。その笑みが、今まで見てきた戦闘機人の表情とは別の性質込められているようで、はやては呆気にとられた。
子供というには少し無理があるが、それでもその無邪気さは童女のよう。
なんでそんな顔を――そう考え、エスティマのことだからだ、とはやては判断した。勘で。

「……その人とあんたは、どういう関係なんや?」

「どう、とは?」

「そのままの意味。犯罪者のあんたと、局員の彼にどうして繋がりがあるんや?」

「どうしてだろうな。犯罪者だから……というのは言い得て妙か」

いいながら、戦闘機人は何かを思い出すような顔付きになった。昔を懐かしんでいるような表情だった。
それがどうしてもはやてには癪だった。

「……その人な。多分、あんたのことで気を病んでる。
 あんたが思ってるより、ずっと。そんな顔ができるのは、それを知らんからや。
 なんのつもりなん? 後生大事にそんなもん首に下げて。
 あんたは彼のなんなんや」

「私はアイツの……」

そこまでいって、チンクは言葉を止めた。
先を聞きたいような、そうでないような。ぐるぐるとよく分からない感情が胸の中で渦巻く。

そして、

「おそらく、大切な人間だろう」

その一言で、はやての我慢は限界に達した。

「それが分かってる癖に、あんたは何をしとるんや!
 自分がどれだけエスティマくんの心の中で場所取ってるか……分かってる癖に!」

「ああ、分かってる」

「だったらなんで早く捕まらないんや!? あんたが逃げ続けている限り、エスティマくんはずっと宙ぶらりんな態度を――
 そう、あんたのせいで……っ」

この戦闘機人とエスティマの間に、何があったのかは分からない。
しかし、一つだけ理解した。

結社と対峙し続けている生き方も、一途に誰かを想い続けているような態度で、他の人にギリギリでなびかないのも、すべては目の前にいる敵のせいだと。
自分の勝手でエスティマを苦しめるその態度に、はやてはたまらなくなった。

しかし、それはチンクも分かっているのだろう。
眉尻を下げ、俯き加減に、彼女は口を開く。

「……アイツが決めたんだ。自分の手で私を捕まえる、と。
 ならば私はその通りにしようと決めたのだ。
 他の誰にも捕まらず、ただアイツが私に辿り着くのを待とうと。
 ……それでアイツが納得するなら、私はそうしてやりたい。アイツの意思を尊重してやりたい。
 それがアイツの信頼を裏切った私にできる、アイツに対しての罪滅ぼしだ。
 ……そうだ。私はアイツの望むことすべてを、受け入れてやりたい」

自分の意思ではなく、エスティマにすべてを委ねると。
そう、チンクはいう。

言葉尻や表情、雰囲気から、はやては目の前の敵がエスティマを想っているのだと確信した。
しかし、その在り方がどうしようもなく気に入らない。

待つだけで自分からは一切動かない。それなのにエスティマの心に住んでいる戦闘機人。
彼女のやっていることは、まるではやてのことを嘲笑っているようだから。

……始まりは本当に些細なことだった。偶然といってもいいだろう。
しかしそこから少しずつエスティマ・スクライアという人間を知っていって、駄目なところも引っくるめて魅力的に思える彼に振り向いて欲しくて、色々なことしてきた。

けれど、背中は手の届く場所にあるというのに、どうしても肩を掴んで振り向かせることができない。
きっとエスティマの視線の先には、この戦闘機人がいるのだろう。

……まるで今までやってきたことが全て無駄だったといわれたような、そんな気分だ。

「……なぁ」

「ん?」

「アンタはエスティマくんのことを、どう思ってるんや?
 彼がどう思っているのかは、この際どうでもいい」

「……私、は――」

「私はな」

自分から話を始めておいて、はやてはチンクの言葉を遮る。
瞳に激情を乗せながらも、淡々と声を出す。

「私は、エスティマくんのことが大好き。
 彼は本当にしょうもない人で……けど、しょうもないのは、どうしても大事なことを優先してしまうから。
 私は彼のそばで、取りこぼしたことのフォローをしてあげたい。
 そして、目指していたものを掴んだとき、誰よりも早く祝福してあげたい。
 そう……今までそうしてきたし、これからもそうするつもりや。
 折れそうな心を必死に保って、歯を食いしばる彼の横顔が、笑顔になるように」

 だから、とはやては置いて、

「その邪魔をするのなら、私は容赦せんわ」

「……お前がどう思おうと関係ない。私がどう思おうとも。
 選ぶのはアイツだ」

「せや。だから……エスティマくんが誰かを選ぶまで、私は彼の側に立つ。
 敵であるアンタにできんことをな」

リングペンダントを握り締めるチンクと、毅然とした態度を取るはやて。
二人は視線を絡ませたまま、まるで先に逸らした方が負けとでもいうように、睨み合っていた。
































湾岸地区の一角。フェイトとなのはが目指している場所では、未だシグナムとノーヴェの戦闘が続いていた。
いや、もはや戦闘ではないか。

レヴァンテインを構えるシグナムには、既に活力というものが残っていない。
目に宿っているのは濃い疲労のみで、闘士ももはや萎えかけている。

ギンガは戦闘機人に腕を吹き飛ばされたっきり、起き上がらない。
たった一人でノーヴェの相手をし続けている状況が、シグナムの精神をごっそりと抉ってゆく。

「おら、どうした? もう限界か?」

返事をする余裕もない。ひどく手を抜かれた拳をレヴァンテインで受け流す。
が、そこから続いた回し蹴りに反応できず、横っ腹に打撃を受ける。

バリアジャケットの上から響く衝撃に、顔を歪め――
顔面を左手に掴まれ、持ち上げられ、そのまま地面に叩き付けられる。

後頭部への衝撃で意識が明滅し、全身の疲労も相まってこのまま気絶したいと、誘惑にかられる。
そうすればどれだけ楽だろう。もうこの戦いとも呼べない蹂躙と目を合わす必要もなくなる。

――しかし、

ここで負けてしまったら……そう、負けるわけには。
もう力では戦闘機人に勝てないのだと、理解してしまった。磨いてきた技術も圧倒的な力を前に、粉砕されたのだ。

けれど、戦うしかない。私は守護騎士だ。
守る対象がいるならば、それを守るのが役目で……それを果たせないのならば、父上の守護騎士になどなれるはずがない。

「ぐ……っ」

意識が飛んでいた。
走馬燈のように何かを考えていたような気がしたが、シグナムは深く追求せず、身体を動かした。

「流石はプログラム。頑丈だな」

顔に押し付けられた戦闘機人の腕を掴んで、レヴァンテインで相手を突き刺そうとする。
が、腕に力を込めた瞬間に手首を踏みつけられた。

ローラーブーツのブレードがギロチンのように、手首へと填り込む。
骨を砕かれそうな感触と痛みに息をするのも忘れ、シグナムは喘いだ。

「これで終わりにしてやるよ……」

押し付けられた指の隙間から、戦闘機人の拳にスフィアが形成されたのが見えた
魔力の集束する音と、瞬く魔力光。

どこへ撃ち込まれるのだろうか。そこにパンツァーガイストを集中すれば、防げるだろうか。
……不可能だ。

諦めに心を蝕まれ、ついにシグナムはレヴァンテインから手を離す。
目を閉じ、そして砲撃魔法が放たれようとして、

「そこまでにしておけ」

野太い声と共に、魔力の集束する音が止んだ。
何が、と目を開けば、さっきまでいなかった長身の男が戦闘機人の腕を掴んでいる。

フードで顔が隠れているため、鼻から下しか分からない。誰だ、と思う余裕もなく、シグナムは戦闘機人と男を見ていた。

「……なんだよオッサン。アンタの出番はないはずだろうが」

「あるていどは好きに動くことを、お前たちの親から許されているものでな。
 ……撤退命令が出たぞ。それに、ここもじきに包囲される。
 遊ぶのは勝手だが、お前が余計な手間をかけたことで味方に損害が出ると思わんのか?」

「……ちっ」

舌打ち一つし、ノーヴェはシグナムを解放し、立ち上がった。
ノーヴェから離されたシグナムだが、もはや戦う気は失せている。
呆然と二人を眺めることしかできなかった。

二人の身体は紫色の魔力光に包まれる。法陣こそ出ていないが、じきに転送が始まるのだろう。
そのとき、シグナムは自分に視線が注がれていることに気付いた。

フードを被った長身の男。彼は口を開かず、じっとシグナムを見ている。
向けられた目がどこか柔らかい気がして、馬鹿な、と思った。

戦闘機人を止めてくれはしたが、相手は敵だろうに。

そして、周囲に魔力光が満ちると、二人の姿は掻き消えた。
たった一人残ったシグナムは、気絶したギンガ以外の誰もいない空間で、のそのそと起き上がる。

そして地面に転がったレヴァンテインを手に取ると、それをぎゅっと抱き締めた。

胸に鍔元を押し当てて、ぎゅっと目を瞑る。
戦闘の最中からずっと堪えていた様々な感情――恐怖や悔しさ。そういったものが溢れ出して、我慢の限界を超えた。

「くっ……ううっ……レヴァンテイン、私は……」

『……』

嗚咽を漏らす主人に対して、レヴァンテインは何もいわない。
いえる言葉を持たない。

「私は……っ!」

磨き続けた技を破られ、父から借りた力も届かず。
挙げ句の果てには、あの男が止めなければ、死すらも受け入れようとしていた。

この様で何が守護騎士だろうか。何を守れるというのだろうか。

「私は…………守護騎士に、なれない……」

ぽつり、と呟いた言葉。
誰にも聞かれることのなかった声は、いやに響いた。









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