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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] sts 六話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:d2eca28f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/09 11:48

父のエスティマ・スクライアは、時空管理局ミッドチルダ地上部隊のエース。
母はいない。弟妹もいない。父子家庭というやつだ。
……正確にいえば、私はあの人の娘というわけではないのだが。

けれど、あの人――父上は私を娘として扱ってくれている。
それを嬉しいと思う反面、どうしても気負うものがある。
……私は守護騎士であり、主人を守るための存在なのに。

……そう考える私は、シグナム・スクライア。今はただの非力な学生でしかない者だ。

友人たちと雑談しつつ帰路につき、交差点で別れると、自宅へと早足で進む。
まだ日の高い時間だ。道を往く人は主婦や私と同じ学生、それと教会の関係者の姿がちらほらと見えた。

そんな彼らを横目で見ながら家に着くと、父上から預かった鍵でドアを開く。
冷たい空気の流れる部屋。こうして帰ってくる度に、親子二人で住むには少し広いと感じてしまう。
けれど、それも父上が帰ってくれば別なのだ。がらんとしたこの部屋にも暖かみが宿る。

靴を脱いで揃えるとリビングへ。まず真っ先に確認するのは留守番電話。
チカチカと光っているボタンを押せばいつものように、

『ああ、シグナム。すまない。今日も遅くなる……そうだな、八時には帰るから。はやての作ってくれた夕食が冷蔵庫に――』

……またか。
そう思ってしまう思考を、頭を振って打ち消す。
父上は今、大変な時期なのだ。首都防衛隊の一部隊を任されて、毎日を戦っている。
それを応援こそすれ、ワガママなんていってはいけない。

気付かない内に握り締めていた手を解くと、自室で制服から運動着へ。
今日は、シスターシャッハのレッスンがない日。毎日相手をして欲しいけれど、そんな贅沢はいってはならない。

着替え終わると、レヴァンテインと携帯電話、それに財布を持って市民公園の公共魔法練習場へ。
軽いランニングのつもりで走り辿り着くと、そこには顔見知りの教会騎士団の人たちが素振りをしていた。

彼らに挨拶をして、レヴァンテインを起動する。
今の私では扱えないので、レヴァンテインは機能制限を受け、刀身が短くなっている。
なんとも情けない話。溜息を吐きたいのを必死にこらえて、私は素振りを始める。

こうやって素振りをして、何か変わるのだろうか。早く追い付きたいと思うのならば、もっと……。
雑念が腕を重くする。それを振り払うように力を込めて、深呼吸。

焦らなくていいと父上はいってくれる。記憶を初期化されたのだから、また地道に経験を積んでいかなければ、と。
けれど、それは無理な話だ。
だってそうだろう? それを鵜呑みにして何が守護騎士だ。
まどろみのような心地よい日常へ身を浸らせれば、きっと私は守護騎士ではなくなる。

それでは意味がないのだ。
きっとこうしている今だって父上は戦っている。それを眺めることすら許されない私は――。

「痛……っ」

ずるり、とレヴァンテインが手の中で滑った。それで血豆が潰れて、鋭い痛みが走る。

「……すまないなレヴァンテイン。汚してしまって」

『Nein』

……今日はもう止そう。
レヴァンテインを待機状態に戻して、タオルで掌を拭うと私は公園をあとにする。
ひどく足が重い。どうやら今日は、いやに考え込んでしまう日らしい。

家に帰っても、やっぱり父上は帰っていなかった。
時刻は夕方の六時。当たり前だ。時間まで、まだ二時間はある。

痛みを耐えながら手を洗ってテーピングを施すと、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
父上のいっていたご飯は、ちゃんと入っていた。

冷たいご飯。暖めればいいのだろうけど……。

『Machen Sie es zum Abendessen?』

「いい。父上と食べる」

レヴァンテインにそういうと、コップに牛乳を注いで一気に流し込んだ。
……早く身長が伸びて欲しい。

リビングを眺めながら、これからどうしようかと考えてしまう。
今日は珍しく宿題はない。それなのに鍛錬を早めに切り上げてしまったため、やることがなくなってしまった。

テレビを見るといっても、あまり興味はない。父上とだったら一緒に見てもいいのだけれど。

特に何を考えるわけもなくリビングをぶらついて、ふと、脚を止める。
目の前にあるドアは、父上の部屋のだ。

あまり入るなといわれているけれど……。

そっと、自分でも分からないけれど音を立てないようにドアノブを回す。
扉を開いて感じたのは、私たちの家の匂いに混じった油臭さ。デバイス整備に使うオイルの匂い。

カーテンが開けたままにされていたので、父上の部屋は夕陽で朱色に染まっている。
両側を本棚とデバイスの工具やパーツが詰まった棚に囲まれ、奥にある窓の下には大きめの机が。

入り口のすぐそばにある安物のパイプベッド――けれどマットレスは良い物を使っている――の上には、寝間着が放ってあった。

「……しかたのない人です」

私のと比べたら随分と大きいそれを畳んで、ベッドの隅に置いておく。
そして――そして、そのままベッドに倒れ込んだ。
枕に顔を埋めれば、父上の使っているシャンプーの香りがする。

……どうしても独りぼっちでいると、寂しい、と思ってしまう。
分かっている。父上は立派な人で、仕事は大勢の人を救うための貴いものなのだ。
それを私のワガママで邪魔してしまうなんて、あってはならない。
あってはならないけれど……。

「……まだですか、父上」

……。

……――。

『Stehen Sie bitte auf』

「……んぅ?」

いつの間にか眠っていたようだ。

レヴァンテインに起こされて、目を擦りながら――って、いけない。涎が枕にっ。
そもそもシャワーも浴びてないのに布団に寝てはいけないといわれているのにっ。
どうしようどうしようと慌てると、いつの間にか夜になっていたことに気付く。

何時だろうと目を凝らすと、ベッドサイドにあるデジタル時計が深夜の十時を示していた。

音を立てずに部屋を出る。リビングは真っ暗なままだが、細かな寝息が聞こえてきた。
術式を発動させずに、構築だけで、足元に魔法陣を展開して部屋をうっすらと照らす。

どうやら父上は帰っていたみたいだ。腕を目の上に置いた状態で、ソファーで眠っている。

……ここで寝ているのは、やっぱり私がベッドを占領していたせいだろうか。

そっと近付いてソファーにかけてある制服を手に取ると、父上の部屋へ持って行った。
そして、冷蔵庫の晩ご飯を温める。
……もう十時か。夜食になってしまうけれど、しょうがないか。

「……ん、シグナム?」

「はい。お帰りなさい、父上」

「あちゃ、眠ってたか。少し横になるだけのつもりだったのに。
 ああ、俺がやるから――」

「いえ、今日は私がやります。父上は待っていてください」

参ったなぁ、と頭をかきながら父上は立ち上がると、部屋の電気をつける。

私が温めた夕食をテーブルに並べると、夕食開始。
こうやって二人で夕食を食べるのは、我が家の習慣だ。ただ、週に一、二回は八神家のお世話になるけれど。

夕食のときに話すことは、今日学校であったことなど。
……それを少しぐらい脚色したって、きっとバチは当たらないだろう。

けれど、この話をしている最中にいつも思ってしまう。
もっと面白い話をすることはできないだろうか、と。

けれど、違う話をしたら父上は退屈じゃないだろうか、とも。
だからいつも無難な、ただの報告に近い話になってしまうのだ。

「……んー」

「ど、どうしました?」

「いやね。変な風に眠ったから目が冴えてさ」

「ご、ごめんなさい」

私がベッドで寝ていたから――と思って謝ったのだけれど、父上はなんで謝られているのか分からない様子。

「たまには夜更かしするか」

「えっと……」

「シグナム、眠い?」

「だいじょうぶです!」

思わず声を荒げてしまった。
けれど、父上は苦笑しながら夕食を食べる。

「……それじゃあ、レンタルDVDでも借りて映画でも見ようか。
 何がいい?」

「え、ええと、ですね……」

そのあとは、父上と一緒に映画を借りにいった。
なんだか父上は執拗に怪獣特撮映画を薦めてきたけれど、私はそんなに子供じゃない。
結局借りたのは、私の選んだヒューマンドラマもの。……背伸びをしたと少し後悔。

家に帰って、真っ暗な部屋でスナック菓子を食べながら映画を見るのは、なんだか悪いことをしているようで楽しかった。
いつもは夜更かしをするなって父上はいっているのに。

けれどどうしても睡魔に打ち勝つことができなくて、日付が変わる頃には眠くなってしまい、映画のエンディングを見ることはできなかった。
次の日は二人とも寝坊して、慌ただしく支度をして――

この日は、特別な日というわけではなかっただろう。
けれど、父上と一緒に夜更かししたこの日は、私にとって――



















無機質なアラーム音によって、ゆっくりと意識が掬い上げられる。
つい三時間ほど前に、眠気が取れなくて仮眠を頂いたのだ。
疲れは取れたが、あまり気分は良くない。

なぜだろうか。何か夢を見ていた気もするから、悪夢でも見たのかもしれない。
息苦しさを感じて、思わず胸元を押さえてしまう。

「……またか」

こんなところばかり成長して。また新しく下着を買う羽目になる。
少しだけ憂鬱になりながら、洗面所へいって顔を洗うと、これからの予定を思い出す。

この間あった美術館の自爆テロで、警邏任務のシフトが厳しくなった。
そのせいで、これから私はギンガと一緒に見回りだ。

……見回り、か。
もうすぐ大事なランク昇格試験があるというのに。
いや、仕事は大切だ。サボろうという気は起きない。
けれど、目標としているものがすぐそこまで迫っているせいでどうしても焦りを感じてしまう。

AAAランク。それだけの実力がつけば父上の守護騎士として、ようやく戦うことができる。
そのためだけに、ずっと腕を磨いてきた。
次の試験こそ、必ず目標を達成せねば。
そうすれば、きっと私は以前の――以前の、なんだろうか。

幼少時の生活が脳裏を過ぎ去り、頭を振った。
あの時間にはもう戻れない。無邪気に父上を見上げていた頃には。
別に今が不幸というわけではないのだ。真っ直ぐに目標へと近付いている毎日は、充実しているといえる。

……そうだ。後悔なんてしていない。
自分の意思であの家を出たのだから。それが正解だといえる結果は、今の私という形になっている。

この身は主の剣である。ただ守ってもらっていたあの頃など、夢のようなものとして忘れてしまえ。
……そう思うのに、気分は少しもよくなってくれなかった。
まるで嘘を吐いているように、気分が悪い。




















リリカル in wonder



















「娘たちの調整は終わったよ。待たせてすまなかったね、トレディアくん」

「分かりました。
 ……それにしても、ありがとうございます。ガジェットだけではなく、ナンバーズまで」

「いやいや、私もイクスヴェリアには興味があるのさ。そう畏まらないでくれたまえ」

蛍光色の照明に照らされた執務室に、二人の男と女がいる。
ジェイル・スカリエッティに、トレディア・グラーゼ。それに、ナンバーズ・ウーノ。

ウーノは二人を見つめながら、いよいよか、と胸中で呟いていた。
ナンバーズとガジェットを投入した、イクスヴェリアの奪取。そしてトレディアの持ち込んだマリアージュの本格的なお披露目でもある。

ただ、好意的な笑みを浮かべてトレディアと話しているスカリエッティの腹の中は違う。
イクスヴェリアにもマリアージュにも大した興味はない。
彼が今回の作戦でやろうとしていることは、ナンバーズType-Rの有用性を世界に知らしめることだった。

自分の作った作品たちに正当な評価を――ガジェットのようなやっつけ仕事ではなく、技術と知識の粋を集めて生み出された娘たちのための舞台。
トレディアの行おうとしている願いや行動は、ただの踏み台に過ぎないのだ。

それを知らず、これから行われることに興奮を滲ませるトレディアに、ウーノは哀れみすら込めた視線を送った。
彼は出身世界の紛争を止めるべく、マリアージュの大量生産を行うためにイクスヴェリアを――そして、多くの人に戦うことで受ける痛みを知らしめることで争いをなくそうとしている。

普通に考えたらおかしな思考だ。単純な話で、殴られて怒らない人間はいない。仕返しをしてやりたいと思うのが当たり前だろう。
どういった経緯で彼がこの手段をとろうとしているのか、ウーノには理解できない。

営利目的などではなく、ひたすらに理想を追い求めていることから、彼が純粋であることは分かる。

だからこそウーノはトレディアを哀れむのだ。
スカリエッティと手を組むのがまず間違っていた。
確かに、彼にとってスカリエッティと手を組むのは魅力的なことだったのだろう。
しかしスカリエッティからすれば、トレディアなど数多くの協力者の内の一人にしかすぎないのだ。

他人と自分、期待と欲望を天秤にかければ、自分の生みの親は間違いなく後者を取る。
そんな者に理想の大事な部分を任せてしまうのは、賭にしてもあまりに分が悪い。

だから、これから起こる戦闘はスカリエッティの一人勝ちとなるだろう。
いや……戦闘がどうなろうと、トレディアの夢が破れるのはすでに分かっていることだった。

マリンガーデンの海底に位置する遺跡。その中で眠っているロストロギアともいえる者の調査レポートは既に入手している。
トレディアが欲しているものがどういう状態なのかは、把握しているのだ。

ただ、トレディアがそれを知らないはずがないのだが……。

「それじゃあトレディアくん、観戦しようじゃないか。我々の作品が彩る舞台をね」

「……いえ。申し訳ありませんが、私は現場に出ようと思っています」

トレディアの言葉に、ウーノは目を細めた。
これから激戦区になろうとしている場所に出向いて――いよいよウーノは、この男が何を考えているのか分からなくなってくる。

「分かった、いいだろう。チンクを護衛につけようじゃないか。
 作戦開始時刻も少し遅らせないとだね」

「ありがとうございます。それでは」

靴音を上げながら、トレディアは執務室をあとにする。
首を捻りたい心地になっていると、そのウーノにスカリエッティは笑みを浮かべた。

「何か不思議なことでもあったかね? ウーノ」

「はい、ドクター。彼が何を考えているのか、私にはさっぱり……」

自慢ではないが、常人の思考回路からずいぶんと離れたスカリエッティの秘書を長年務めてきているのだ。
あの手の輩が考えていることは大体分かると思っていたウーノだが、トレディアに関してはさっぱりだった。

クク、と短く笑い声を上げて、スカリエッティは背もたれに体重をかける。
ギシリ、と軋んだ音に一拍遅れて、彼は口を開いた。

「彼は凡人で、弱い人間なのだよ、ウーノ」

「弱い、ですか」

「そう。弱い。弱いからこそあんな理想を抱いているのだ。今の行動も、それに起因する。
 ……そうだね。それに気付けないのは、きっとウーノが見てきた弱者とベクトルが違うからなのだろう」

ずっと見てきた弱者、とはなんだろうか。
眉根を寄せるウーノとは違い、スカリエッティは心底楽しそうな笑みを浮かべ続ける。

「達成困難な目標にぶつかったとき、どうするか。諦めてしまうか、歩み続けるか。
 弱者は常にその二択を迫られていると思わないかい? そして彼は、諦めた側の人間だよ。
 妥協に妥協を重ねて歪んだ人間。それが間違っているとはいわないがね。
 まぁ、私にはまったく無縁の話なのだが」

……ああ、そうか。
ようやくスカリエッティのいいたいことが分かり、ウーノは納得できた。

つまりこの人は、例の少年――いや、今はもう青年だったか――とトレディアを比べていたわけだ。
……まったくこの人は。どれだけあの青年に期待しているのだろう。

自分の手がけた作品が歯向かってくる、という状況も一役買っているのだろうが、それだけではないはず。
……そうだ。
きっとこの人がさっき挙げた強者と弱者を使って例えるならば。
この人は、強者である自分に屈せず挑み続けるエスティマ・スクライアの姿勢が心底から気に入っているのだろう。

それは、ガラスを隔てた場所にいる動物を刺激する楽しみに似ているのではないだろうか。























……そろそろ実戦に出ないとまずいんじゃないかしら。
そう思っているのは、きっと私だけじゃないはず……というか、エリオ辺りはもう我慢が限界近い気がする。

それも分からなくはない。結社対策部隊の一員として呼ばれたはずなのに、やっていることは訓練、訓練、訓練、だ。
いや、今の私たちじゃ役に立たないから鍛えられているっていうのは充分に理解しているんだけど。

「こらティアナ、集中!」

「は、はい!」

不意に聞こえたなのはさんの声で背筋を伸ばして、少し下がっていたドア・ノッカーの銃口を跳ね上げる。
ヴァリアブルバレットを形成して――前は一発でもギリギリだったのが、今では複数のクロスファイアにコーティングすることができるようになった――スフィアを狙い、発射。

うん。一日一日は微々たる進歩しかしていないけれど、六課にくる前の自分と比べれば、間違いなく強くなっている。
なのはさんの教導は私たちに力を与えてくれていて……ああもう、力がついていることが分かるからこそ、焦れったいのに。

こんなことをしていていいのか。もっとこの部隊は貪欲になって、それこそ血眼で結社を追うはずなんじゃないのか。
それを行っていないのは、小隊二つがまだ完成していないからなんじゃないか。

お荷物っていう意識が少しずつ強くなっている。そんなことない、となのはさんはいってくれるんだけど。
溜息吐きたいのを堪えて、横目でスバルを見る。

ウィングロードを駆けながら拳でダミーを砕く姿は、とても悩んでいる風に見えない。
あれはあれで割とナイーブなところがあるんだけど……やっぱり信じてる人に引っ張ってもらっているのが大きいのかしら。

キャロにも焦りらしい焦りは見えない。けど、それも当然かもしれない。
キャロは戦うことを新人の中で最も嫌っているように見えるし、そもそもあの子の役目はフォワード陣がロストロギアを確保したときの封印担当。
学んでいる戦闘技術は、そのほとんどが自衛のためのもの。持って生まれた宝を腐らせないように、召還魔法に関する手ほどきも受けてはいるけれど。

はぁ……私はまだ、この部隊の役に立っていない。

「……んー、ちょっと休憩するよー!」

号令一つ。それで、私たちは腕を止める。
私たちだけではなく、エリオとキャロも身体を止めて息を切らせながら地面に座り込んだ。

なのはさんは少しだけ肩を落として――それでも顔を顰めたりとか、そういったマイナスのものは一切見せず――口を開く。

「なんだか最近、集中が途切れることがあるね、ティアナにエリオ。
 何か訓練のことで疑問があったりするかな?」

「え、と……」

思わず私は口ごもってしまう。
だけど、

「……なのはさん」

幼いということもあるのだろうけど、根が真っ直ぐなエリオは躊躇いながらも手を挙げた。

「うん、どうしたの?」

「あの……僕たち、こんなことをしていていいのでしょうか。
 確かに未熟だけど、それでも訓練漬けの毎日じゃ、なんだか交替部隊の人たちにも申し訳なくて……」

「……ティアナも?」

「……はい」

そっか、と頷くと、なのはさんは考え込むように視線を地面に。
けどすぐに顔を上げると、元気付けるような口調で声を出した。

「焦らなくてもいいんだよ……ってだけじゃ、納得できないよね。
 それじゃあ、私たちがエリオたちに期待していることを、少しだけ教えてあげる」

「期待、ですか?」

「うん。私たちが相手にしようとしている結社、その主力となっている戦闘機人。
 皆には、これを倒せる魔導師になってもらおうと思っているの」

にっこりと笑って言われた衝撃の事実に、私たちは固まってしまう。
え……っと。てっきり私は、ガジェットとかの露払いだと思っていたんだけど。

だって戦闘機人って、質に差はあるけれど、ストライカー級の相手だ。
それに勝つだなんて……。

「あ、あはは……違う違う。皆が思っているようなことじゃないよ。
 一人一人をそこまで育て上げる腕なんて、私にはないし。
 私たちが期待しているのは、四人で一人の戦闘機人に匹敵するチームになってくれることなの」

……四人で一つの、か。
成る程。それなら、私たち四人が集められたのもなんとなく分かる。

フロント、ガード、センター、バックス。
一人だけではどこかバランスの悪い、それぞれに突出した技能を持つ者たちだけど、それを一つにまとめることができれば、と。

……まったく、なのはさんも難しいことを期待してくれるわ。
それともこれは部隊長の差し金だったりするのかしら?

「とりあえず、私たちの考えているのは今話したことだから。
 ……それと、せっかくだから教えちゃおうかな」

「何をですか?」

「うん。皆が今の調子なら、実戦も近いよ。エス……部隊長もそのつもりだから」

その一言で、目に見えてエリオが元気になった。
現金なもんね……ま、私も人のことはいえないけど。

「それじゃあ休憩終わり。訓練に戻る――」

と、その時だ。
夕陽が沈もうとしていた訓練場が、サイレンと共に赤く明滅する。
アラート――それも、一級警戒態勢の?

「なのはさ――」

声をかけようとなのはさんを見ると、私たちに向けたことのない表情になっていたことで、思わず言葉を止めてしまう。
宙を睨むようにして、そっと胸元のレイジングハートを握り締めていた。

そして間を置かずに、ブリーフィングルームへ集まるよう通達が届く。

私たちはデバイスを待機状態にすると、駆け足で隊舎へと戻った。























「交替部隊は現地部隊から避難誘導の引き継ぎを頼む。
 スターズ、イェーガーは?」

「はい。八神小隊長とヴィータ三等空尉は、現地から向かうとのことです。
 高町一等空尉とフェイトさん、新人たちは、ブリーフィンブルームに」

「分かった」

『エスティマ、俺はどうする?』

『待機してくれ。あのクソマッドのことだ、隊舎を狙うってこともありえる』

『承知』

オペレーターから届く情報をマルチタスクで聞き分け、グリフィスと足元にいるザフィーラに指示を出しながら、込み上げてくる罵倒を辛うじて飲み込む。
落ち着け。醜態を曝していい立場じゃないんだ。

帰宅ラッシュから微妙にズレた時間帯。それほどここから遠くない湾岸地区に、多数のマリアージュと戦闘機人が出現。転送魔法によって、ガジェットが次々に転送されてくる。
それと遭遇した108陸士部隊が戦闘機人の内、一体と交戦中。

他の戦闘機人とマリアージュはまっすぐに進行中。目的地はマリンガーデンと予想される。

意味が分からない。なんだこの規模は。
いつぞやのアインヘリアル防衛戦ぐらいの規模があるぞ。

どこにこれだけの戦力を注ぎ込む必要が……。

そこまで考え、頭を振る。

いや、今は目の前の事態に対処しなければならない。

グリフィスからなのはたちが揃ったと報告を受けて、俺は通信ウィンドウを開く。
画面の向こうにはフォワード陣、それにフェイトがいる。

軽く息を吐いて落ち着くと、口を開いた。

「見ての通り一級警戒態勢だ。湾岸地区に戦闘機人とマリアージュ、ガジェットが出現した。
 対象はマリンガーデンの方向に進行している。
 現在確認された戦闘機人は、陸戦型のⅨ、ⅩⅠの二体だ。質問は?」

『兄さん、マリアージュって……』

「分かってる」

フェイトの疑問はもっともだ。交戦した彼女だからこそ、ともいえるだろう。
しかし、俺たちに分かることはない。
自爆したマリアージュの破片らしいものはなかったので、調べるにも調べられなかったのだ。
もしかしたらマリアージュは、簡易量産型の戦闘機人なのかもしれない。

……何かが引っ掛かる。何かを忘れている。
蜘蛛の巣が頭の中に張ったような感覚を覚えるも、先を続けた。

「本部からの通達で、マリアージュを戦闘機人の一種と分類することになった。
 戦闘機人の量産型、というのが見解だ。他に何かあるか?」

画面に映る部下たちを眺める。
フェイトやなのははいいとして、新人たちはどこか不安な面持ちだ。
いや、その中で一人だけ、不安と他の感情を混ぜた視線を感じるが、今は無視するしかない。

「なら、指示を出すぞ。
 高町一等空尉、君は火砲支援でマリアージュの相手を頼む。
 スクライア嘱託魔導師は戦闘機人と交戦している108の応援を。
 配置はデバイスに転送する」

「あの、私たちは……!」

声を上げたのはティアナだった。

「……お前たちがあれの相手をするのは、まだ早い。
 今回は隊長、副隊長だけの出動になるだろう。その場で待機を。
 シャーリー!」

「はい!」

「デバイスから送られてくる戦闘映像をブリーフィングルームへ頼む!」

「了解です!」

その後に細かい指示をなのはたちに出し、いよいよ本格的な戦闘態勢へ。
六課初の全力稼働の相手にしては、少し難易度が高いが……負けてたまるか。

『エスティマ』

『何? ザフィーラ』

『あまり気負うな。指揮官は余裕をもって構えているものだ。
 お前の、大隊指揮官としての初陣。失敗がないわけがない。今から焦ってもしょうがないだろう』

『そうはいってもね……』

『お前の集めた部下を信じるといい。ミスの一つや二つ、俺たちがカバーしてやろう』

そういって鼻を鳴らし、ザフィーラは尻尾を揺らす。
……見透かされてる。参ったな。

『……ありがとう』

『気にするな』























戦闘の始まった街を見下ろせる位置。ビルの屋上に、チンクとトレディアはいた。
目の中のカメラをズームアップしながら、チンクは妹を見る。相手は108陸士部隊のフォワードか。
その中に見覚えのある姿を見付けて、チンクは眉尻を下げた。

桃色の髪をポニーテールにまとめた娘。あれは確か……。

「君は行かないのかい?」

「私はあなたの護衛ですから」

「そうか」

思考を遮るようにかけられた言葉。トレディアは短く返して、皮肉げに口角を釣り上げた。

「少し、質問してもいいかな?」

「どうぞ」

「君たち戦闘機人は、戦うために生み出された存在だ。
 それに疑問を持ったことはないのかい?」

なぜそんなことを聞いてくるのだろう。
それは戦闘機人として生まれた者ならば、誰もが一度は抱く問いだ。
ふと、姉妹たちのことを思い出してみる。
ウーノは自分の有り様を見付けているのだろう。おそらく、ドゥーエも同じく。
トーレは戦闘機人という意味では純粋な存在だ。流されるままに戦っているのではなく、自ら望んで闘争に身を投じているだろう。そうある自分に価値を見出している。
クアットロは、自分たちはそういうものだと思考停止している節がある。そういうものだから、何をしてもいいという免罪符にして楽しんでいる気もするが。
セインは境遇がどうあれ、今を一番楽しんでいるだろう。
そのあとに起動した妹たちは、まだそういった障害にぶつかっていないはずだ。

そして、自分は……。

「疑問、というほどのものは抱いていません。時期がきたら分かることでしょう」

「……そうか。気の毒だとは思うよ。人でありながら、兵器として生きることを運命付けられた君たちは」

「そうでしょうか。それほど、悪いものでもないと思っていますが」

トレディアにそう応え、チンクは頭の中に一人の青年を思い浮かべる。
ずっと昔に交わした約束を、彼はまだ覚えているだろうか。

もう言葉を交わしたことすら、懐かしいと感じてしまうだけの時間が経ってしまった。

もし彼が約束を覚えていて、それを果たしてくれるなら。
もし彼が約束を覚えていなかったら。

この二択できっと自分の未来は変わるだろう。

そう考え、苦笑する。
トレディアが怪訝な目を向けてくるが、かまわない。

約束を覚えていなかったら――そんなことを考えるくせに、ちっともそんな気はしない。
きっと彼は律儀に約束を守ろうとしている。

そのために彼が設立したのがあの部隊――というのは、流石に度を過ぎた乙女的思考だろうか。
けれど、どうしても思ってしまうのだ。

「……きたか」

「きましたね」

喧噪の上がる夜空に瞬く、桜色と金色の魔力光。
自分たちを追い詰めるべく生み出された部隊が目の前へと出てくるのを見てしまえば、彼が自分を忘れているなど有り得ないと実感できるのだ。

「行きましょう。ここでは少し目立つ」

そういって、チンクはトレディアを目で促した。

今夜もまた始めよう。私と彼の、人生を賭けた鬼ごっこを。



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