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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] sts 二話
Name: 角煮◆904d8c10 ID:21e37608 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/20 12:15


「中将。スクライア三佐が到着したようです」

「通せ」

手元にある書類の内容を頭に入れながら、オーリスの言葉にレジアスは短く答えた。
各部隊の指揮官が集まっての会議を先程まで行っていたはずだが、もう終わったのか。
そこまで考え、ようやく始まるのかとレジアスは溜息を吐きたい心地となった。

『結社』などという違法研究者集団がミッドチルダに生まれてから三年。それに対抗するべく生まれたと言っても過言ではない部隊、機動六課。
陸からすれば明らかに異常である戦力を掻き集めた部隊が、ようやく動き始めるのだ。
三年間で一部の部隊を除き、ミッドチルダ地上部隊は疲弊しきっている。その為に海や聖王教会の力を借りることに、レジアスは我慢のならない――

というわけではなかった。
今のミッドチルダの状況は、もはや地上の戦力だけでなんとかできるような次元の話ではないのだから。
元より地上部隊は最高評議会からの援助があって成り立っていた部分もあったのだ。それがすり替わっただけ。もし最高評議会がまだ存在している状態で海や聖王教会からの横槍があれば話は違ったのだろうが、もう彼らはいない。

皮肉なことに、背に腹を変えられない事態が三者が協力している状況を実現させたのだ。

だからと言って、やはり自分たちの管轄で好き勝手されるのは面白くないのだが、幸いにも機動六課には陸の人間が部隊長として存在している。
最低限、陸にとっての悪い状況は回避してくれるだろう。

……それに、エスティマを始めとした三課の者たちには無理をしてもらったからな。
そのつもりはなかったとしても、この三年間を耐えることができたのは、首都防衛隊第三課を使い潰す形で運用し続けてきたからだ。
魔導師ではないレジアスにはいまいちピンとこないことだが、エスティマの専属医から無視できないダメージが蓄積していると報告もきている。彼だけではなく、その部下たちにも。
エスティマも八神も、指揮を執る立場になったことで少しでもダメージを回復できればいい。そのための火除けとなり、その上で結社の戦力を削ってくれるのならば、六課もそう悪くはないだろう。

今更だが、レジアスも陸の有する二人のストライカーを失うつもりはないのだ。六課が結社を潰すことに成功したとしても、その後がある。
その時のための戦力を手放したくはない。
力を借してくれるのならば、海だろうが聖王教会だろうが頭を下げよう。だが、ただでは転ぶつもりはないのだ。

「失礼します」

男にしてはやや高めの声と共に、執務室の扉が開く。
部屋に入り敬礼をしたのは、エスティマとその補佐官であるシャリオ。
二人が自分たちの前まで進んでくると、レジアスは小さく頷いた。

「ご苦労。どうだ、六課は」

「はい。選抜した新人の育成がある程度進むまで、大きな行動を取ることはできません。
 まだ完全稼働といえない状況ですが、それでも三課だけで動くよりはマシでしょう」

「そうか。……海や聖王教会の方はどうだ?」

「はい。海の方は、基本我々と変わりません。
 聖王教会の方は、アコース査察官に身内の調査をお願いしましたが……すんなりとはいかないでしょうね」

「……本当に大丈夫なのか?」

「まぁ、個人的な依頼、と頼んでおきましたから」

そう言い、エスティマは困ったように笑った。

彼の言う依頼とは、聖王教会の中に結社へ聖王のクローン作成依頼をした人物がいるかどうか、ということだ。
身内を疑う、という物騒な話にレジアスはいい顔をしなかったが、無視できることでもないのか。
最高評議会は、聖王のゆりかごというロストロギアを保有していたことが分かっている。
最高評議会が暗殺されたため所在は不明だが、存在することは確かなのだ。
もしそれが敵の手に渡り、その起動キーである聖王のクローンが作られたら――その可能性を潰すためにも必要なことだと、エスティマは言っている。

だが、エスティマの言っていることが当たっていたとしても、物事が上手く回ることはないだろう。
司祭によって聖王の遺伝子データが盗み出されたというだけでも充分な汚点。更に結社へ聖王クローンの作成を依頼しているのだとしたら、表沙汰にする前に消されるはずだ。
エスティマが頼み事をしたアコース査察官は管理局に籍を置いているとはいえ、それ以前に彼は聖王教会の人間なのだ。
いざとなったら管理局と聖王教会のどちらを優先するかは、深く考えなくとも分かるだろう。

管理局が後手へ回るのはいつものことだが、仲間同士で足を引っ張り合って手遅れになったら目も当てられない。

「……保険の方はどうなっている」

「ロングアーチ00の連絡待ちです」

「そうか」

それだけ応え、レジアスは溜息を吐いた。

結社の保有する違法研究技術。それはあまりにも魅力的な力だ。
それに目を向けてしまうのは、管理局や聖王教会だとしても変わらない。
実現不可能。あるいは、実現してはならないと定められていた奇跡を形にする集団は、力以上に彼らの再現する技術が絡んでこの上なく面倒だった。

我先にとぶら下げられた餌に食らい付こうとするのは、どこの組織も同じか。
そういったものに目が眩まない人物をエスティマに揃えさせたつもりではあるが――彼や彼女たちの上が何を考えているのかは、さっぱり分からない。
……コレが権謀術数にもう少し長けていたら。
レジアスはじっとエスティマに視線を注ぐが、彼は首を傾げるだけだ。

聡いのかそうでないのか。何も考えていないのか、違うのか。




















リリカル in wonder




















中将の執務室を後にして扉が閉まると、シャーリーは張っていた肩を落として盛大に溜息を吐いた。
このフロアは人通りが少ないから良いが、上司と顔を合わせたあとにこうなるとはねぇ。

「シャーリー、疲れた?」

「当たり前ですよー。私は一介の技術者でしかないのに……なかったはずなのにぃ」

もう嫌、と今にも叫び出しそうな様子の彼女。

再びシャーリーは溜息を吐くと、脇に抱えたバインダーを胸へと抱え直した。

「ああ……もう、私はデバイス弄りだけをしている時間だけが至福です」

「そうだねぇ」

ここ最近、ずっとデバイスを弄ってないな俺も。
貫徹しながら趣味に時間を注いでいた頃が懐かしい。

行こうか、とシャーリーの肩を叩いて、先に進ませる。
ボタンを押し、馬鹿みたいな階数を表示しているエレベーターのパネルを見上げた。

「そうだ、エスティマさん。新人の子たちのデバイスなんですけれど」

「うん。何かあった?」

「ランスターさんとナカジマさんはともかく、キャロちゃんとエリオくんはどうしましょうか。
 二人とも専用のデバイスを持っていますから……カスタマイズの方向で行くか、新規作成で行くかで結構迷っていて。
 なのはさんからも意見をもらったんですけど、エスティマさんはどう考えているんですか?
 ほら、エスティマさんは二人と長い付き合いみたいですから」

付き合いの長さで言ったらスバルもなんだが……それは意図的に除外。

余計なことを考えないようにして、んー、と声を上げる。

「キャロはブーストデバイスを新規作成する方向で。今彼女が使っているのは、俺が作ったのだからバランス悪いんだ」

「みたいですね。一点特化でエスティマさんらしい仕様だなー、って思いました」

「どういう意味だそれ」

「どういう意味でしょう」

む、とシャーリーを睨んでみるも、彼女は得意げに笑うだけだ。
くそう……俺だって時間があればA級ライセンス取りたいっつーの。そうすればもっと良いの作ったっつーの。

「で、エリオだけど」

「はい」

「……S2U、スペックだけ見れば性能良いんだよね」

「そうなんですよねぇ。一世代前のモデルですけど、そんじょそこらの子より性能良いし」

「ああ。だから無理に新規作成するよりも、使い慣れている今のをカスタマイズする方が良いとは思うんだけど」

流石はクロノというかリンディさんというか、外見はS2Uでも中身はほぼ別物なのだ、あれは。
OSは近代ベルカとミッドチルダの両方に対応し、カートリッジも搭載している。
クロノが使っている時には存在しなかった変形機構も、だ。

「……俺はカスタマイズの方向に一票。本人の意思となのはの意見を参考にして、シャーリーが決めて」

「うわ、最後は私任せですか!?」

「頑張れA級マイスター」

ひどー! と声を上げるシャーリーを無視しつつ、ようやく到着したエレベーターに乗り込む。

しかし、カスタマイズか。S2U・ストラーダとかになるのかな、名前。
この後は108に顔を出すつもりだったのだけれど、シャーリーには先に六課へ戻ってもらうとしよう。
なのはだって早く教導を始めたくてうずうずしているだろうしね。

ガラスに手を当てて、少しずつ――それでも結構なスピードで――下へと降りてゆく景色を眺める。
目の前に広がるクラナガンは三年前の決起から復興を遂げていた。人の通りが少ない場所などはまだ爪痕が残っていたりもするが、視界を広くして眺めてみれば完全に立ち直ったように見える。
基本的に襲撃されたのは管理局に関係のある施設。だが、ガジェットを狙って放たれた物理破壊設定の砲撃魔法やら何やらで周囲にも被害は出たのだ。
俺も直接じゃないにしろ、撃墜したガジェットの破片でそれなりに損害を出したはず。

……あの黒煙で染まった街並みは、今になっても夢に見る。
今考えれば、事前に止める方法はいくらでもあったと思える。スカリエッティがあんなことをするとは、どう頭を捻ったところで当時の俺が気付けるはずもなかったが。
それでも、出来ることはあったはずだ。
拘りを捨ててひたすらにスカリエッティを追っていれば。保身を考えず、執れる手段をすべて使っていれば。

……今更だと分かってはいるけど。

あの事件を止めることができたのは、きっと俺だけだったから。どんな手を使ってでも稼働中のナンバーズを先に減らしておけば、もしかしたらスカリエッティはテロに踏み切らなかったかも知れない。
状況に流されるままテロを許し、スカリエッティも取り逃がした。三年かかってもナンバーズを一人も捕らえることができていない。
どこまで無能なんだって話だ。三課が決して無能だったわけじゃない。はやてやザフィーラ、リインフォースにシャーリー。これだけの味方がいて何もできなかったんだ、俺は。

……今日からもう、不様は晒さない。

無意識の内にガラスに爪を立てて、俺は唇を噛んだ。






























「四人とも、データには目を通した?」

全員を見回しながら問うと、僕を含めた四人がほぼ同時に頷いた。

その様子に、なのはさんは満足した笑みを浮かべる。

「うん。なら早速――と言いたいところだけど、訓練施設のセットができるメカニックの人が出ちゃってるから、少し話をしようか。
 まずは私が皆にする教導のことを。
 ティアナとスバルは局員として現場に出たことはあるけれど、武装隊経験はなし。
 エリオとキャロは、現場に出たことはないよね。
 だから、ってわけじゃないんだけど、今からしばらくの間――体力や技術、コンビネーションが一定水準に達するまでは基礎の固め直しをやろうと思っているの。
 地に足を付けて、確実に技術を習得できる地盤を作るから。
 教導内容は地味になると思うけれど、着いてきてね」

「はい!」

スバルさんが大きく声を上げ、驚きながら僕たちも続いた。

……基礎の固め直しか。

なのはさんの話を聞いて、そうだろうな、と思う反面、どこか落胆したような気持ちも湧いてくる。
つい最近まで僕は訓練校に通っていた。基礎技術はそこで教わったし、それとは別に訓練校に入る前からも――リンディ母さん。稀に兄さんにも――だ。
並の武装隊員としては充分な戦力になれると思ってはいるのだけれど――分かってる。僕らが戦うことになるであろう相手のことを考えれば、並の武装隊員では足りないことぐらい。

頭では分かっているのに、どうしても納得できない部分がある。

……兄さんに知られたら、天狗の鼻をへし折ってやろう、と怒られそうだ。そのつもりはないのだけれど……いや、少しはあるのかな?
早く現場に出て、局員として役に立ちたい。その気持ちに待ったをかけながら、僕はなのはさんの話をじっと聞いた。

「次は、基礎訓練を終えたあとのことを。
 小隊単位で分けてあるけれど、基本的に四人は一組で動くことになるの。
 場合によっては交換部隊の人たちと一緒になると思うけれどね。
 だから、コンビネーションは二人じゃなく、四人で行うって頭に入れておいて。
 ……事前に伝えるのはこれぐらいかな。あとは、教導の中で一つずつ教えるから」

「はい!」

「うん。……それじゃあ、まだ少し早いけど、先に外へ出てウォーミングアップを始めようか」

一時的に解散して、僕たちはそれぞれ更衣室へ。

訓練用のトーレーニングウェアは、もうロッカーに入れてある。

キャロたちと別れて、まだ慌ただしさのある六課の廊下を歩きながら、僕はこれから一緒に教導を受ける人たちのことを思い浮かべた。

スバル・ナカジマさん。ポジションはフロントアタッカー。僕と同じ近代ベルカ式の使い手。
ランクはつい先日Bに上がったばかり。ミーティングの前に聞いた話だと、シューティングアーツという格闘技と魔法を組み合わせたスタイルらしい。
同じ前衛ポジションだから、少しだけ気になる。どんな風に戦うのだろう。

ティアナ・ランスターさん。ポジションはセンターガード。ミッドチルダ式のガンナー。
ナカジマさんと同じ部隊出身で、ペアを組んでいたらしい。おそらく、僕たち新人の中ではこの二人のコンビネーションが一番だと思う。少なくとも今は。
魔導師ランクはともかく、魔力ランクは低いみたい。高さは、ナカジマさん、僕、キャロ、ランスターさんの順だ。
おそらくランスターさんは、力押しではなく技術で勝負する人だろう。カートリッジが普及している今でも、元となる魔力資質の高低である程度のスタイルは決まってしまうし。

ただ、決して魔力がすべてというわけではない。魔力資質が高くなくても中には兄さんのような人だっているのだし。
なんでもできる上で、大規模氷結魔法という切り札を持つ兄さん。だからだろうか。ランスターさんが兄さんのイメージと被ってしまい、もしかして一番強いんじゃないか、と思ってしまう。

次に、キャロ。兄さんたちが集まるときに何度も顔を合わせていたので、彼女がどんな魔法を使うのかは知っている。
攻撃は召還に頼りっきりで、個人ではバックアップのみ――兄さん曰く、ユーノさんにそっくりとのこと――だけれど、豊富な援護スキルを持っている彼女は同じ小隊員として心強い。
これから一緒に戦うことになるのだし、今まで以上に仲良くしよう。

「……よし!」

自分の名前が入ったロッカーを見上げ、拳を握る。

ここが新しいスタートだ。
今日から局員の一人として、頑張っていかないと。
僕を引き抜いてくれたエスティマさん。送り出してくれたハラオウンの家族に恥をかかせないため。それに、今もミッドチルダで生活している父さんと母さんを守るためにも、一生懸命戦おう。






























通信士のシャリオさんが到着すると、私たち新人は訓練場へと移動して早速訓練を始めることになった。

海上に浮かんだ練習場が廃棄都市群と良く似たフィールドにセッティングされると、私たちはデバイスを起動させてウォーミングアップを始める。

「……スバル。アンタ、まだそれ使うつもりなの?」

「え? うん。特に問題ないから」

「ま、良いけどね」

私の手元に視線を向けながら、ティアが呆れの混じった声を上げた。
視線の先にあるのは、両手をすっぽりと包むように装着された手甲型アームドデバイスがある。カートリッジシステムが搭載されていること以外なんの変哲もない代物だ。
これとローラーブーツは私が自分で作った。シューティングアーツと近代ベルカ式に対応したデバイスとなると、どうしても自作しないといけないからしょうがないのだけれど。

……うん、分かってるティアが言いたいのはそういうことじゃない。
もっと良いデバイスを持っているのだからそっちを使えばいいのに、ってことだ。
勿論私だって頭では分かっている。形から入る――というのは、ナカジマ家のご先祖様がいた世界の諺だっただろうか。
良い道具を使えばそれだけ上達も早くなるって分かっているんだけど、ね。

けれど、妙な拘りを捨てきれない私にティアは踏み込んでこない。
いや、過去に踏み込まれたことはあるけれど、この話題はそれっきりになっている。
自分のデバイスにカートリッジを装填して調子を見ながら――アンカーガンを改造した拳銃型デバイス。ドア・ノッカー、だったか――視線をイェーガー小隊の方に移した。

『しかし、こんなチビ共が私たちとほぼ同じ……ハラオウンの方はAランクじゃない。
 流石エリート部隊ってところかしら。新人を集めるにしても念が入ってるわね』

『上には上がいるってことじゃないかな。ほら、なのはさんだって九歳の頃にはAAAランクだったらしいし』

『どんな九歳よ。広報の誇大妄想を真に受けないで、もう』

念話を打ち切ると、ティアは毅然とした態度で、それでも私には分かる程度に言葉尻を優しくしながら、イェーガーの二人に声をかけた。

「これからチームを組むんだし、呼び捨てで呼ばせて貰うわよ。
 えっと、エリオにキャロ。私たちもアンタらも、お互いに何ができるか分からない状態だから、今回は自分のできることだけをやってみましょうか」

「はい!」

「はい!」

「……あんま固くならなくて良いからね」

多分、年下の子たちにどう接して良いのか分からないのだろう。
バツが悪そうに頭を掻くティアの姿に、思わず苦笑してしまう。

『それじゃあ四人とも、準備は良いね?』

なのはさんの言葉が聞こえると、地面に青い魔法陣が現れ、そこからゆっくりとターゲットが姿を現す。
徐々に浮かび上がってくる姿を見て、私は目を細めた。

ガジェットドローン。三年前からそれほど珍しくもなくなった、AMF搭載型の機械兵器。
並の局員では手こずる相手だけれど……これがこの部隊にとって、普通の相手なのだろうか。

『それじゃあ、始めるよ!』

「はい!」

四つの声が上がり、訓練が開始される。

ビルの屋上から私たちの様子を眺めてるなのはさんを一瞥すると、私は拳を握って術式を組み立てた。

――あの日、クラナガンが燃えた日に助けられた恩は、この部隊で返します。
憧れを憧れのままにしないため、しっかりと力を付けてよう。

































「良く動く。やっぱり新人はあれぐらい元気じゃないとな」

『旦那様。確かに陸の基準で考えれば優秀なのでしょうが、彼らはこの部隊の戦力になるのでしょうか』

「才能は折り紙付きだ。それに、戦力にならないのなら戦力になるよう育てればいい。手間を惜しんだら何もできないぞ」

『そうですか』

眼前に浮かんだディスプレイに映るフォワード部隊の動きを見て、少しずつ不安が解けてゆく心地となる。

俺の使える最後の原作知識とも言える、新人フォワードの才能。それに間違いはないようで一安心だ。
その中でも目を惹くのは、やはりエリオか。
ハラオウンに預けられていたことだけあって、動きは基本に忠実だ。やや速度に偏ってはいるが、戦い方そのものはミニマムクロノといった感じ。
スバルが追い込んだガジェットを設置型バインドで捕らえ――AMFで無効化されたが、着眼点は悪くない。というか、本当にミッド式と近代ベルカを一緒に使っているのか。

キャロはキャロで、ほぼ原作と同じような動きを。ガジェットから攻撃が飛ぶようなことがないから、今はあの子の援護スキルが輝いていない。

ティアナは……なんだろう。使っているデバイス、どこかで見たことあるな。
あの頭の悪いフォルムとか、カートリッジの口径とか。
深く考えないでおこう。

そして、スバル。使っているデバイスを見て、思わず眉尻が落ちた。
リボルバーナックルがノーヴェに使われてしまっているから、その代わりになるものを贈ったのだが、やはり使ってくれていないか。
……ギンガちゃんは使ってくれているから安心していたのだけれど、やっぱりスバルは違う、か。

もうここまで来ると、恨みとか憎悪とかじゃなくて、習慣になっているんじゃないか。思わずそんなことすら考えてしまう。

……後ろ向きな考えは止め。深く考えないように。

じっとディスプレイを眺めていると、

「おや、部隊長さん。こんなところで油を売っていてええんですか?」

背後から声がかかった。

「……今は休憩中。すぐに次の所へ行くさ」

「そか」

振り向かずに応えると、彼女――はやてが俺の隣へやってきて、ディスプレイを覗き込んだ。

「……うん。荒削りやけど、悪くない。一月ぐらい鍛えたら、前線に出られるんやないか?」

「そこら辺はなのは次第だろうけどね」

「そか。まぁ、教導隊所属の人が集中的に教えてくれるなんて、かなりの贅沢や。
 生かさず殺さずのラインを見極めて、しっかり育ててくれるやろ。私やフェイトさんも協力するしなぁ」

「そうだね。頼むよ、小隊長さん」

「うん」

それっきり会話が途切れてしまう。
いつからだろうか。余計な会話というものを、彼女と続けることが難しくなってしまったのは。
シャーリーやリイン、ザフィーラがいればまた違うのだけれど、二人っきりになると駄目なのだ。
見えない境界線が引かれてしまったような錯覚。今が勤務時間ということや、前とは違って部下が多くいる、というのもあるだろうが、原因はそれだけじゃないはずだ。

「あ、あんな、エスティマくん」

そして、それは彼女も思っていることなのだろうか。
無理矢理といった感じで口を開くと、上擦った声で言葉を紡ぐ。

「何?」

「今日は何時頃帰ってくるの?」

「いつかな。これから108に出向くし、本局に行ってクロノとユーノにも会うつもりだ。
 早くても夕方。多分、夜になる」

「ご飯は――って、そうか。ここ、食堂があるんやった」

「それに、女子寮と男子寮で別れてるだろ? 前みたいに飯を作ることもないよ。
 今まで面倒かけて悪かったね」

「……うん」

「じゃあ、もう行くから」

「ん、頑張ってな」

はやてに片手を上げて応え、俺は逃げるようにその場を後にした。
なんつーか……もっと上手い具合にやれないのだろうかと、自分自身に呆れてしまう。

変に意識するからこんなことになっているんだろうが、はやてを意識しないようにするなんてこと、不可能だ。
……ギスギスしているな。原因は俺なんだから、文句は言えないんだろうけれど。

もっと軽い男になれたら良いのに。






























ゆっくりと、それでも逃げるように隊舎へと向かうエスティマくんの背中を見ながら、私は顔を俯けた。

部隊が新しくなって、それが切っ掛けで意識の持ち方も変わると思ったのだけれど、そう簡単なことじゃなかったみたい。
やっぱり根が深いな。仕方がないけれど。

擦れ違っている、とは言わない。けれど、肝心な歯車の一つが噛み合っていない状況は、あの日からずっと続いている。
私とエスティマくんの関係は何も変わっていない。三年も経ったのに、だ。
時間の経過と共に変わるのが自然な人間関係がそのままな違和感は、ここにきて無視できなくなっている。

どんな風に接すれば良いか分からないなんて言うほど、もう私は子供じゃない。
前と同じ関係に戻れないのならば――エスティマくんがそれを望んでいないのならば、また違った何かになれば良いのだと、分かってはいる。

すっぱりと割り切った男女の関係や、仕事仲間。深く考えなくても例を簡単に思い浮かべることができる。
けれど彼は変なところで頑固だから、責任や確執、そういったものをなかったことに出来ないのだろう。

困った人、と口の中で呟いた。

色んな経験や人との摩擦の中で変化らしい変化をしていない彼を好ましくは思うけれど、煮え切らないが抜けないのはどうなのだろう。
大事なことを忘れない部分だけは凄いと思うのだけれど、今のエスティマくんはそれに囚われて身動きが取れなくなっているような気がする。

それが何かは分からない。想像するのならそれは、闇の書事件のことや三年前のテロといったところだろうか。
その時に救えなかった人に対する負い目がのし掛かって、もう彼は限界なんじゃないだろうか。

身体もそうだが、心も。

薬を欠かしていないことは知っているし、彼の前の家の洗面所に血の跡があったことも珍しくなかった。
魔導師が胃潰瘍。普通に笑い話になりそうだけれど、私は笑えない。

一度彼の心根が折れたことを知っているから余計に。

強いからこそ色んなものを抱え込めると思い込んでしまって、それに潰されてしまう弱い人。駄目な男の人。
子供の私はそれを支える人になりたいと思っていたけれど、今は違う。
いや、根っこの部分である、支えたいというのは変わっていないのだけれど――少しだけ、変わったのだ。

あの人を理解してあげたい。しがらみや重荷を背負い込む理由を。

他人の幸せを考えて自分を蔑ろにし、底なし沼に沈もうとしている彼を引っ張りあげたい。駄目なら、一緒に沈んだって良い。

ただ問題は、肝心な部分で他人を遠ざける彼の悪癖だけれど……。

「もう今の関係も限界やで、エスティマくん。
 あなたは、どうしたいの?」

返事を期待せず、ぽつりと呟いた。





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