17 「今と昔と」****** まばらに雲が浮かぶ空を、二条の白い軌跡が切り裂いていく。 高速で飛ぶウィッチたちが姿勢を変えたときに、ストライカーユニットの整流翼の先端から生まれる飛行機雲。 鮮やかな円弧が青空に描かれていくのを、美緒とミーナは滑走路から眺めていた。 飛んでいるのはトゥルーデとハルトマン。 ストライクウィッチーズが世界に誇る二大エース。 その機動は文句のつけようの無いほどに熟練したもので、しかしそれを見上げる二人の表情は浮かないものだった。「バルクホルン……ノれてないな」「ええ、遅れがちね」 美緒が呟く。 誰の目から見ても完璧に近いトゥルーデの飛行に、違和感を感じていた。 トゥルーデをよく知らない者なら勘違いじゃないかと思うだろう。 彼女の飛行はもう一人の天才であるエーリカと同じく、それほどまでに完成型に近いのだ。 だが、トゥルーデをよく知り、己も経験をつんだウィッチである美緒には完璧に近い――すなわち”完璧でない”事が違和感の対象になる。 完璧主義者のトゥルーデが、ミスともいえないほんの些細な姿勢制御の揺らぎを連続で許したり。 僚機との速度あわせに何時もよりほんの少しだけ時間がかかったり。 長年の相棒であるエーリカとの連携機動に、ごくわずかな乱れを見せたり。 そんな、傍から見れば気づかないような小さな相違が一見鮮やかに見える飛行機雲から透けてしまう。 看過できない異常だった。「調子が悪そうだな。 次のシフトは外したほうがいいか?」「他が使えるようになってきたとはいえ……エースが一人抜けるのは少し不安ね」 視線を空から地上に向けてミーナがそう答える。 視線の先には滑走路をランニングしている芳佳とリネットの姿があった。。 今さっき言ったとおり、芳佳もリネットも使い物になりつつある。 芳佳は元々技術的にも魔力的にも適正が高く、その精神性も好ましいものだ。 碌な訓練や知識も無しにストライカーを飛ばすその才能も大きいが、明るく前向きでひたむきな性格がそれを大きくサポートしている。 リネットも先のネウロイ撃墜のお陰で自信をつけ、その才能を正しく開花させつつあった。 良く笑うようになったのも、隣に居る芳佳が良い影響になっているのは明らかである。「ふむ、確かにな。 火力が不足する……いや、ヴィルヘルミナを使うのはどうだ?」 ヴィルヘルミナの主武装はMk108、30mmという大口径を持つ機関砲。 十分な大火力と評価されている20mmを超える口径、しかも弾頭は破壊力に定評のある薄殻榴弾である。 小型ネウロイ程度なら一撃で外殻ごとコアを粉砕するだろうその威力はMG42を二丁扱うバルクホルンの穴を補うのに十分だとの判断。 だが、美緒のその言葉をミーナは否定する。「それも問題があるわ。 確かに彼女の火力は十分だけれど、Me262は格闘戦を行うストライカーじゃないから」「ああ、そういえばミーナも昨日使ったんだったな……そうか、格闘戦は無理か」「ええ。 とはいっても、機体特性を見極めるよりも操作するだけで手一杯だったのだけれど」「お前にそう言わせるとは、相当じゃじゃ馬なストライカーユニットらしいな……ふむ。 と、言うことは瞬間火力では勝っても継続火力ではどっこいどっこい、いや、寧ろ張り付くことの出来るバルクホルンの方が有利か」「そういうことね」 ブリタニア防衛戦線に出現する主な敵である大型ネウロイ、その最大の武器は巨体故の火線数である。 いかにネウロイのビームに対して魔力シールドが効果的だとはいえ、集中砲火を受けきることは現実的ではない。 人類側の最高戦力のひとつであるウィッチが大型ネウロイと戦うためには、ある程度近距離に張り付いてその火線数を制限する必要があり。 そういった格闘戦こそがウィッチの戦い方である。 Me262の速度はそれ自体が驚異的な武器であるが、それでもウィッチ単体を大型ネウロイと同列まで引き上げてくれるような夢の兵装ではない。 今後の改良、あるいは運用方法によって良くはなっていくのだろうが、現状では単機を主戦力として取り扱うのは難しいと二人は判断した。 口をふさぐように手をあて、依然としてバルクホルンの軌跡を眺めながら、美緒が唸る。 「むぅ……しかし、体調でも崩したか? 完璧主義者のバルクホルンらしくも無い」「何か、気にかかっているみたい」「気になること?」 美緒は訝しげにミーナのほうを見て、その視線が滑走路を眺めているのを悟った。 リネットではない、もう一人。「……宮藤か?」「ええ。 ……宮藤さんが来てからよ、トゥルーデのあの様子」「ふむ……宮藤ぃ! 顎を引け! もっと腕を振って走れー!」 息を切らしながら半ばやけくそ気味に「はい!」と返事をしてくる芳佳の姿勢が正されるのを見て、満足げに頷いてから彼女はしばし黙考する。 何か気になっていることがあれば、真正面から向き合ってみるのも一つの手だろう。 延々と自分の中で悩むよりは、良い方向だろうが悪い方向だろうが結論が出たほうが良い。 結論は、出せるうちに出しておいたほうが良い。「……組ませてみるか、宮藤と」 返事は無いが気配でミーナが頷いた事を感じた美緒は、今後の飛行訓練のスケジュールを頭の中で修正しはじめ。 ミーナは視線を地上から再び空へと向けた。******「ヴィルヘルミナ、デートしよう!」 そんなエーリカの台詞に慌てるやら驚くやら、むしろコレは新手の美人局ですかと警戒するやら一通り動揺したのが30分ほど前。 まぁ美人局はエーリカの薄い胸では無理だとすぐに思い当たって棄却したけど。 けだるい昼下がり。 現在、バルクホルンを先頭に三機で鏃陣形をとって、大陸の方に向けて飛行中です。 午後はバルクホルンの補助というか指示に従っての業務、ってシフトには書いてあったけど、偵察任務だったのね。 いい加減他人のシフト表も見て覚えるようにしないとな……効率的なフラグ立て的な意味で。 精神的には男だけど、女の体で女相手にフラグ立ててどうすんだという感じであるが。 しかもフラグ立てる相手が半分以上ローティーンとかねーよ。 男相手にフラグ立てるのもごめんだけどな。 あ、午前中はミーナさんと座学でした。 美緒さんと話し合いがあるとかで半分くらい自習だったけど。「偵察は楽だよねー」 エーリカが無意味にロールしながら心底気楽そうに言う。 お前何時も楽そうじゃねえか……「気を引き締めろハルトマン」「敵にも滅多に遭遇しないから大丈夫だよ」「そう言う問題ではない!」 うん、そう言う問題じゃないと思うよエーリカ。 っていうか、偵察対象何なの? 単なる定期哨戒とかそんな感じなの? 彼方に見える真っ黒で巨大な積乱雲――ネウロイの巣から隠れるように雲に身を隠しながらの飛行。 眼下には瘴気の影響の見られない、緑豊かな大地。 しかし、少し飛ぶ方向を変えて都市部へと向かえばネウロイの兵站地になっている荒廃した町を見ることが出来るのだろう。 まぁ、どっちに町が有るとかわからないんだけどね。 ヨーロッパ周辺の地図とかまったく! 覚えてないから!「……はぁ」 エーリカと一通りじゃれあって疲れたのか、バルクホルンが飛びながら肩を落とす。 その肩の力の抜けた姿は、最近ではあまり見られなかったものだ。 それを見て、ああ、なるほどと思う。 つまり、昔馴染みだけの状況を作り出して、気分転換させてあげようというのね。 ならばオレも協力しないとな。「気を……落とさない。 エーリカは……何時もこうだし」「えー、ヴィルヘルミナ酷いなぁ」「いいや酷くない。 まったくもって的を得ている」 ぶーたれるエーリカの横顔は、それでも少し安心した様子だった。 視線を前に戻そうとした瞬間、視界の右端で何か光ったような気がした。「? ヴィルヘルミナ、どうしたの?」「……なんか……光った?」 エーリカにそう答えながらバッグの中から手探りで双眼鏡を引っ張り出して、何か光ったように思える方角を見る。 望遠鏡の狭い視界で走査することしばし。 見えたのは編隊を組んで飛ぶ、六体の黒い流線型。 ネウロイ……だよな?「……ネウロイ?」「バッツ、報告は明確にしろ」「10時方向下方、六機……見たこと無い……でも、ネウロイ」 減速してこちらに並んでくるバルクホルンに双眼鏡を手渡して、そのままオレは押し黙った。 エーリカも先ほどまでの雰囲気を消し去り、MG42のファイアリングロックを外して弾倉のチェックをしている。「小型ネウロイ……ラロス改、旧式だな……距離は……6000、高度は3000といったところか。 こちらには気づいていないようだ。 勢力圏内の哨戒中か」「どうするの、トゥルーデ?」「敵は倒す、それだけだろう」 エーリカの問いにそう即答するバルクホルン。 ネウロイの居る方角を見るその表情はここ最近デフォルトとなった思いつめたような表情で。 ……ファッキンネウロイ! もう少し空気読め! ああ、いやオレが見つけちゃったのが最大の過ちな様な気がしないでもないけどしょうがないじゃないか!「三航過以内で仕留めるぞ。 増援を呼ばれては厄介だ」「了解」「……了解」 偵察任務ということで、コレ一本しか持って来てないMG42を背中から引っ張り出して初弾を装填。 セーフティを解除。 あー、そういえば初めての小型機戦か……当たるかなぁ、オレの射撃。 とりあえず、一撃離脱に徹することにしよう。 Me262で格闘戦は無理だわ。「バッツが初撃、そこから私とハルトマンで仕留める」「ヴィルヘルミナ、格闘戦に持ち込んじゃだめだよ」「……わかって、る」 危なくなったら私のほうに逃げてきてね、と言ってくれるエーリカ。 ありがたい話であるが、オレってそんなに不安げな存在かなぁ……と自問して。 うん、出撃のたびに怪我してるからな。 軽く凹む。 そんなオレとエーリカを黙ってじっと見ているバルクホルンの視線が少し怖かった。「……よし、行くぞ」 鏃編隊を組んだまま、ネウロイの集団の左斜め後方に着くような軌道を取る。 MG42のグリップと一緒に微かな恐怖と緊張を握り締め、ストライカーユニットに力をこめて。 断頭台の刃のように、バルクホルンの手が振り下ろされる。 振り下ろされる先は無論ネウロイだ。 体を傾け、降下軌道を取ると同時に、エーリカ達に合わせる為に抑えていた速度を開放する。 重力を味方に付けたオレは高度を燃やして絶対の武器である速度を精錬する。 速く、速く、もっと疾く! その望みに応える様に咆哮するMe262の魔道エンジン。 魔法によって強化された視覚が六つの黒いナニカを捉える。 軽く方向修正。 数秒後、こちらに気づいたのか、ネウロイが散開する。 が、遅い。 こちらもトップスピードにはまだ足りないが、それでも既存のストライカーより100km以上は速いはず。 反応が遅すぎるぜ! 一番手前、一番遅れて旋回を始めた個体に向けてMG42を向ける。 ああ、相手が人間じゃなくて本当に良かったな、なんて暢気な事を思いながら、トリガー。 後ろから追いかける形とはいえ、圧倒的な速度差。 交差は一瞬だ。 弾着も確認せずにそのままネウロイの集団の中を突っ切る。 後ろを振り向けば、上手く致命的な部位に当たったのか煙を吐きながら墜落していく一機のネウロイ。 そしてオレへと機首を向けつつある残りのネウロイ達。 普通のストライカーや戦闘機だったらここで大ピンチ勃発なんだろうが、そうは問屋がおろさない。 奴らが機首をこちらに向け終わる頃にはオレは十分な距離を稼いでいて。 後続のエーリカとバルクホルンが再び背後からたっぷりと殴りつけるはずだ。 それを信じて、速度を殺さないようにゆっくりと大きな旋回軌道をとる。 体やユニットの重量を軽くして、高度を稼ぐのも忘れない。 誰にも追いつかれない速度で悠々と円弧を描きながら、ネウロイ達のほうを見た。 予想通りオレの方に気をとられたネウロイ達は、後続のエーリカ達に気づかなかったらしい。 そろって突入してきた二人にそのまま一機ずつ撃墜されるのが見えた。 半数を一瞬で落とされて、ネウロイの陣形が崩れる。 このままオレとエーリカ達で交互に、そして一方的に殴り続けるのがロッテやケッテでの一撃離脱戦の基本……のはず。 速度に優れるドイツ製戦闘機のお得意戦法だ。 実際は相手が散開したり、相互を援護できる陣形を取ったりするからそこまで一方的には出来ないだろうけどな。 エーリカが離脱する。 それを見て、姿勢を修正。 ネウロイへと体を向けた瞬間、先ほど離脱したばかりのエーリカが急激に方向転換。 何だ、という疑問の答えはすぐにわかった。 珍しい、エーリカの焦った声がインカムを通して聞こえてくる。『っ、トゥルーデ!』「あの……馬鹿……!」 バルクホルンが離脱出来ていない――いや、あの化け物に限ってそれは無いだろう。 離脱しようとしなかったのだ。 流麗な曲線を持つネウロイが、バルクホルンの後ろに三機追従している。 何やってんだあいつ……! ネウロイ達からビームではない、光る何かが連続して発射される。 ビームじゃないなら曳光弾、つまり実弾だろう。 ウィッチが実弾にどれほど防御力があるか知らんが、ビームよりもはるかに連射性が高いのは見ればよく判る。 放たれる弾丸全部が曵光弾なんてはずは無い。 見えている分の数倍の弾丸がバルクホルンに襲い掛かっているはずだ。 バルクホルンはそれを鋭い旋回で器用に避け、さらに体を起こして増した空気抵抗で減速、旋回半径を縮小。 そのまま足を振り上げる。 支えの無い空中で体が縦に半回転。 上手い。 彼女の眼前には、無防備なネウロイの後姿がどうぞとばかりに並んでいるだろう。 振りぬいたMG42から放たれた無数の光が、追従してきたネウロイのうちの一機を回避行動も取らせずに撃ち貫くのが見えた。 そのまま姿勢を戻さずに落下するバルクホルン。 失速寸前だった速度が落下によって回復される、が。 残りの二機のネウロイが二手に分かれる。 一機は上に、もう一機はバルクホルンと併走するように落ちていく。 上に向かったほうはそのまま宙返りをはじめた。 バルクホルンの後ろを取るつもりだろう。 二方向から攻められたら流石に厳しいはずだ。 くっそ、まだ距離がある、調子に乗って距離とりすぎた! 間に合わないか……ッ!?『当たれぇっ!』 バルクホルンの上を取ろうとしたネウロイを魔力を帯びた弾丸が貫き、煙を上げ、そのまま白く砕けていく。 その横を通り抜けていく小さな影。 エーリカだ。 間に合ったか……僚機を失ったことが無いって伝説は伊達じゃないな。 バルクホルンと最後の一機は落下しながら撃ちあい、煙を上げはじめたネウロイが機体を起こしきれずに地面に激突するのが見えた。 周囲を見渡し、増援か残敵が居ないかを確認。 コンパスを取り出し、使い魔にも手伝ってもらうことにする。 結果は敵影確認できず。 つまり戦闘終了だ。 とりあえずトゥルーデとエーリカに合流するか……ふう、一時はどうなることかと思ったぜ。 速度を落とし、二人に近づいて。「トゥルーデ、危ないよ!」 そんなエーリカの声が聞こえてきた。 大いに同意だ。 バルクホルンよ、イラつくのは判る。 判るけどな、頼むから生死の関わる場面では落ち着いてくれ。 大人びてはいるが、お前もまだ女の子なんだぞ? オレと違って無茶したら後で後悔するかもしれないんだぞ? そんな感じの事を言おうと口を開いたら。「……問題は、無いし、無かった。 私の事など気にするな。 ネウロイは倒せた……それで良いだろう」 そんな台詞を、悲しそうな、鬱陶しそうな顔で言うもんだから。 ――カチンと来た。 「……バルクホルン」「なんだ、バッツ……お前もか? 敵の勢力圏内で悠長な話をする気は無い……帰ってからにしてく」 最後まで言わせずに。 気づいたらバルクホルンの襟首を右手で掴んでいた。 イラつきが最高潮に達する中で、頭の冷静な部分が何やってんだとツッコミを入れてくる。 何やってるかって? わかんねーよ……本当に何やってんだオレ!「……離せ、バッツ」「……いい加減に、しろ」 氷と炎に意識が分かれたような感覚。 自分の意思で喋っている自覚はある。 だけど、止められない。 止まらない。 ここで止めては、オレはオレ自身を曲げることになる。 バルクホルンの目が険しくなる。 その視線を真っ向から受け止める。「手を離せ、バッツ」「どれだけ……オレが、オレ達が心配したか……心配してるか……」「手を離せと言っているだろう、バッツ!」「大事な……物を、失ったからって……ずっと、それに囚われ」 言い終わる前に、腕に強い痛み。 バルクホルンがMG42を持った腕でオレの手を払った痛みだ。 彼女の視線が刺すように鋭い。 正直目を合わせてるのがつらくなってきました。 だが逃げない。 腹の奥でどろどろと燃え盛る感情が、オレに逃げることを許さない。 その刺すような視線のまま、バルクホルンが叫んだ。「お前に……多くのことを忘れてしまったお前に、何も知らないお前に何が解るというんだ!」「トゥルーデ、言い過ぎ!」 エーリカの咎める様な小さな叫び。 バルクホルンの表情が、苦々しいものに変わる。 自分が何を言ったのか理解して、後悔している、そんな表情だ。 ……そうさ、解らんよ。 所詮お前とオレは別の人間さ。 ある程度は経緯を知ってるとはいえ、完全理解には程遠い。 それにヴィルヘルミナなんて皮を被って、いくら頑張っても、オレはヴィルヘルミナにはなれない。 そんなのは解ってるし、ヴィルヘルミナになるつもりなんてのは毛頭無い。 オレは何処まで行ってもオレだからだ。 記憶喪失なんて嘘も――そっちが勝手にそう思い込んだだけだが――ついてるしな。 だけどな。「……解らない、けど」 命の恩人で、この世界で出来た最初の知り合いの一人で、オレのことを気にかけてくれて。 戦友で、迷惑もたくさんかけて、助けてもらって、年下で、守りたい人の一人で。 そう言う相手を。「……大切な……人を、心配しては……駄目なの?」 答えは無い。 高空の風がオレ達の間を吹き抜けていく。 ああくそ、前半のぬるい雰囲気は何処に行ったんだよ……はい、オレの所為で因果地平の彼方へ吹っ飛んでいきました。 うぎぎ、自己嫌悪自己嫌悪……「……帰投するぞ」 沈黙が数十秒場を支配した後、バルクホルンがそう呟く。 オレも、エーリカも、ただ了解とだけ告げて。 鏃の先端を飛ぶバルクホルンに追従していった。 ******「どうしたの、電気もつけないで」 夜。 待機室。 執務室から自室に向かう途中、通りがかったミーナは月光を受けて佇むトゥルーデを見つけていた。 返事は無い。 トゥルーデはそのまま窓の外、月明かりに照らされた黒い海を眺めていた。「妹さんの事でも……考えていたの?」 息を呑む音。 暗闇の中、トゥルーデの肩が微かに震える。 やっぱりね、とミーナは心の中でため息を吐く。 抑えきれない心配の情が、眉尻を微かに下げさせた。「……あれは、貴女の所為じゃ無いわ」 ミーナのその言葉に、バルクホルンは首を振る。「……いいや、もっと早く、ネウロイを攻撃することが出来ていたら……クリスまで巻き込むことは無かったはずだ」「敵の侵攻を遅らせて、街の人が避難する時間を作ったわ!」「それでも、国を守れなかったのは……事実だ」 二人の脳裏に、今でも焼きついて離れないビジョン。 暗いはずの夜が、燃え盛る街の炎で真昼のように明るいのだ。 羽を休めた宿が、遊びまわった商店街が、何気ない光景に平和と幸せを感じた遊歩道が破壊されていく。 それが見知った街だろうと、見知らぬ町だろうと、励起させる感情は同じだ。 すなわち、喪失感。 空を飛ぶ彼女たちはその光景の全てを否応無しに視界に、そして記憶に収めていた。 普段は意識して思い出そうとしない、その記憶。 その一端と、そしてミーナ自身の喪失を思い出して。 彼女は搾り出すように言った。「それは……貴女だけじゃないわ」「……ッ、すま、ない」 ミーナの与り知る所ではないが、トゥルーデは昼間、ヴィルヘルミナに対して放ってしまった言葉を思い出していて。 同じ過ちを繰り返したと、トゥルーデの声が沈む。 その姿まで小さく弱弱しく見えてくるようだった。 「そうだ、休暇も溜まってることだし、しばらく休みを取ったらどうかしら」 お見舞いにも行ってないでしょう? そうミーナは続ける。 彼女の記憶が正しければ、トゥルーデはヨーロッパ撤退戦でブリタニアに渡って。 その後、無事を確かめる為の一度しかトゥルーデは見舞いに行っていないはずだ。 それも、501が正式に発足されてからでは無く、撤退直後のごたごたした時期にである。 それでなくても、ミーナにはトゥルーデに休息が必要なように見えた。 元々がオーバーワーク気味なのだ。 ここに来て精神的な支えが弱くなっている。 大きなミスを起こす前に暫く休みを取って欲しい。 だが、そんなミーナの望みとは裏腹な答えをトゥルーデは返した。「その必要は無い」 振り向く。 何時もどおりの、固い決意を秘めた力強い表情が、しかしどこか怯えているように見えて。 「私のこの命はウィッチーズに捧げたのだ。 ……クリスの知っている姉は、あの日死んだ。 次の作戦にも必ず出撃させてくれ」 足早に、確固とした足取りで退室していくその姿が、何かから急いで逃げているように見えて。 旧知の友をどうにか助けてあげることは出来ないのかと、ミーナは目を閉じた。------kdのイメージバルクホルン:中二脚・1000マシダブルトリガー。 OBは無し。ヴィルヘルミナ:軽二脚・ハングレとマシンガン(ただしダブルトリガー不可)、無限OBアセン。そして常時OB。 ただしQB無し。 曲がれない! 止まらない!AC4やってる人にしかわかんねーネタだな!ちょっといらん子中隊手に入れたのでラロスとか出してみた。39年時点で新型だから44年だとほぼ型落ちだろ。しかし……本当に使い魔の扱い悪いな! この作品に足りないのは何よりも、もふもふ分だ! もっふもっふ。あと、Arcadia用のメアド取った。ヴィルヘルミナさん書いてくれるというとかこっちに連絡あるとかそういう奇特な方がいらっしゃったら此方までどうぞ。ウィルスとかはノーサンキューな!