15:「痛みと治癒」****** 滑走路に降り立つ。 今回はオーバーランして転ぶと右肩が心底痛そうだったので、何時も以上に、それこそ失速しそうなほど速度を落として着陸した。 それでも結構ギリギリで停止するとか……どんだけだよ。 それにしても地面の上に立ってるって言うのはやはり安心感があるね。 今此処で意識失って倒れても、せいぜいが顔面強打くらいで済むだろう。 っていうか、あれ? もしかして、戦闘後帰還して滑走路に降り立って、ストライカー脱ぐまで起きてそうなのってこれが初めてか? ……うわー、なんつーか、情けないな……正気を保ってた率が三割とかその、なんだ、ショボくね? 気落ちした視界の先、格納庫の中では芳佳とリネットが何かを話しているのが見える。 遠目にもその様子は楽しげに見えた。 まぁ、そうだな、嬉しいよな。 特にリネットは今まで鬱屈してた分、開放感も強いだろうし、初戦果を上げた興奮もあるだろう。 それを手伝って、側で支えていてくれた芳佳もそれを共感できる。 楽しさは二人で分かち合えば、倍以上の喜びとなるとはいったい誰が言ったんだっけか。 うん、これであの二人は当分大丈夫だろう。 何にせよ、良かった。 誰も傷つくことなく、帰る場所が無くなりもせず。 その上オレも生きてる。 言うことなしである。 オレは傷ついたって言うより、どっちかってーと自業自得だからな……ノーカンで。「お疲れ様、バッツ中尉」 左手から近づいてくる、アイドリング状態のストライカーユニットの駆動音と、声。 あ、ミーナさん、お疲れ様っす。 無事な方の手を挙げて応えを返した。「リネットさん、上手くやってくれたわね」「ん」 まぁ、これだけ痛い思いしたんだ、やってくれなくちゃ困る。 実際のところ、戦闘中は痛さが限界を越えてたのか脳内麻薬が頑張ってくれてたのか、感覚無くなってたんだけどね。 着地の衝撃の所為もあるだろうが、地面に降り立って安心したらとたんにじわじわ痛みはじめるし……たまらんね。 これは折れてる系の痛みだし。 血が表に出てないけれど、きっと内出血凄いだろうし……きっと今夜熱とか出るなぁ。 面倒くさい。 とりあえず芳佳に治癒魔法して貰いたいが、今すぐはなんというかその、いやだ。 今のところは黙って医務室行って応急処置と鎮痛剤でも貰うか。「? あら……そういえばヴィルヘルミナさん」「……ん?」 ミーナさんの呼び方が普段のそれに戻る。 みんな無事に帰ってきて、ようやく戦闘思考を解除したんだろう。 事後処理はもう暫くして、美緒さんたちが帰ってきてからだな。 デブリーフィングとか超面倒くさそうだな……前回はオレ帰ってきてすぐぶっ倒れてたから結局出席しなかったし。 どうせオレは報告書とか書けないしー。 撃墜もしてないから特に書くこともないしな。「三つ編みが……」 ん、三つ編み? 反射的に左手を伸ばして、出撃前にエイラが結んでいた三つ編みの辺を触って、それが解けているのに気付く。 あー、保護魔法消したときの風圧で解けたのか? あんまり固く結んでなかったとはいえ、保護魔法解くまでは解けてなかったように思えるしな。 ……って、あれ、無茶したの速攻バレ、る?「……貴女、まさか」 ミーナさんの顔に緊張が戻ってくる。 あ、やっべ、この人勘鋭すぎ! 三つ編みが解けて、髪が乱れてるだけでたどり着くとかおかしいだろ、常識的に考えて! あわてて、何でもない、飛行中にほどいた、と誤魔化しかけたところで。 軽い言葉と共に、エイラが背後からオレの右肩を叩いた。「ヴィルヘルミナ、おつかれー。 流石の速さだったな。 やっぱお前のユニット、はやいよなー」「――」 ぽん、と。 本当に軽い音がして、痛みが脳髄を焼き切らんばかりにほとばしった。 ――――! 痛い! 痛い痛い痛い痛い! 出る! 死ぬ! 生まれる! エイラ、こんのてめぇ、殴るぞ! 泣かすぞ! いや、待て待て、落ち着けオレ、エイラは悪くない、悪くない、ビー・クール、ビー・クール。 女の子殴るのはダメよ、オーケイ? オーケイ。 神経を駆けめぐる刺激でパニックになりかける頭を必死に理性で押さえつける。 痛くて身体が硬直する。 動きが取れない上に、倒れ込みたくてもストライカーユニットのお陰で無理だ。 こんな時でも自分の表情筋が上手く動いてくれないことに感謝するというか絶望するというか。 絶叫しなかった自分を褒めてやりたいです。 良くやったぞ、グッジョブ。 でも脂汗がだーらだら出ます。 背中がじっとりと湿って不快指数が急上昇。 いや、そんなことよりも、、うぎゃー、いてー!「……右肩ね、ヴィルヘルミナさん」「ヴィルヘルミナ?」 ミーナさんの厳しい視線と、エイラのいぶかしげな視線が此方に向けられる。 あーうー、バレるのもうちょっと後が良かったんだけどな…… バレてしまっては仕方ない、無駄に抵抗するとオレが痛いのが増えるだけだ。 おとなしくしておこう。 ミーナさんが無言でオレの右側に回り、触れるか触れないかの微妙なタッチで右腕全体を触ってくる。 その手が肩関節や鎖骨の辺りを撫でるたびに、オレの身体が面白い様にぴくぴくした。 反射行動だから仕方ないが、鬱陶しいやら微妙にいやらしいやら痛いやら。 主に痛いだけなんだが。「MG42は……投棄したのね。 スピードを出す為に、少しでも軽くして。 ……ヴィルヘルミナさん、貴女、保護魔法を切ってMk108を撃ったわね?」「って! お前、無茶しすぎ!」 二人とも、非難するような目で此方を見てくる。 だろうな……だけどさ、仕方ないじゃん。 だって。「速度が……必要……だったし、オレしか……いなかった、から」 そう伝える。 それを聞いた二人は、苦い顔をしながらもそれ以上の追求をしては来なかった。 欲しい結果をたぐり寄せたいときに、自分自身の優先度を下げて、取れる手段を増やす。 それは、少なくとも芳佳よりは勝負事の経験を積んでて、目の前の二人よりは修羅場を越えていない中途半端なオレにとっての、たった一つの切り札だ。 そりゃあ、自分の身は可愛いさ……でも勝負時に出し惜しみしちゃダメだろ。 死ぬはずは無かったし。 ……ミーナにも、エイラにも、たぶんあっただろうしな、そう言う事が。 特にミーナとか。 ミーナさんが一瞬考え込む様に目を伏せた後、しょうがないわね、と溜息混じりに呟く。 エイラも似た様な感じだった。 続いて聞かれた歩けるか、という問いには頷いて答える。 まぁ、歩いたら振動で痛そうだけど……何とかなんだろ。「エイラさん、医務室まで付き添ってあげてくれる? 私は宮藤さんを呼んでくるから」「……ミーナ、それ……駄目」 了解、というエイラの言葉を遮って伝える。 またしても変なモノを見る様な目でオレを見てくる二人。 ああ、いや、オレだって今すぐにでも治癒魔法かけて貰いたいけどさ。 アレ気持ちいいし、痛いのが薄れるなら望むところだ。 だけど、さ。 格納庫の方を見る。 そこでは、まだリネットと芳佳の二人が仲良さそうにはしゃいでいて。「……もう少し、喜ばせて……あげたい」 うん、まぁもうちょっとだけ。 勝利の味って奴を味あわせてやろうぜ。 リネットの満面の笑顔とかこっち来てからオレ初めて見たし。 特にリネットにとっては上げて落とす、みたいな事になりかねないし……自意識過剰かも知れないけどさ。 それに、芳佳は特に疲れてるはずだ。 何だかんだ言って、あいつも初陣なんだ。 精神的にごっそり消耗してるに違いない。 きちんと休憩を挟んでからのほうが、あいつもやりやすいだろ。 どうかな、と言う感じでミーナさんやエイラの方を見る。「……」 「……」 呆れた顔でした。 呆れながらも、エイラなんかは「ホント馬鹿だな……」とか言ってくれて。 ミーナさんも、デブリーフィングが終わるまでは待ってくれるらしくて。 とりあえず医務室で鎮痛剤を貰ってくることにして、エイラに付き添って貰って医務室に向かうことにした。 あー……デブリ終わって早いところ解散できると良いなぁ。 自分で言い出したことだから我慢するけど、やっぱ痛いぜ。 ……何か痛みで気持ち悪くなってきた。****** 夜。 鎮痛剤と解熱剤の副作用で眠りについてしまったヴィルヘルミナに治癒魔法をかけていた芳佳は、ふと、机の上に置かれた時計を見た。 九時半。 ヴィルヘルミナに、治癒魔法を中止してもう休めと言われた時間だ。 言った当の本人は、ずいぶんと安らかな寝顔で寝入っている。 その寝顔を見て、ようし、と芳佳は気合を入れなおす。 スモックの下の肩部。 内出血で二倍ほどに膨れ上がっていたとは到底思えないほど元の華奢な太さに戻っていた。 もう少しで完治させることができるはず。 もう少しだけ頑張れば、ヴィルヘルミナは明日を気持ちよく迎えられる。 そう芳佳は自分に言い聞かせて、額ににじんでいた汗をぬぐい深呼吸した。 一回五分から十分ほど治癒魔法をかけるたびに、間に一時間以上の休憩を挟んで。 芳佳は、最初はいったい何処でこんな怪我を負ったのだろうか不思議に思ったが。 すぐにその理由に思い至ってからは、間に挟んでいた休憩時間が酷くもどかしく感じられていた。 今回の”敵”は非常に高速度で飛翔していて、新型機を駆るヴィルヘルミナですら容易には追いつけない相手で。 だからその容易でない状況を覆すために、なにかとんでもない無茶をしたのだろう。 そして無茶をしなければならなかった理由のひとつに、自分とリネットを守る事が含まれていたのだろうと芳佳は考えていた。 本当なら、こんなに時間をかけなくてもいいはずなのだ。 拙い魔力のコントロールでも、全力かつ連続で治癒魔法を掛け続ければ、もっと早くに完治していたはずで。 芳佳は当然そうするつもりだった。 彼女にとってヴィルヘルミナは、今回も含めて二回、身体を張って助けてくれた相手である。 その誰かを護ろうと飛ぶ姿は、芳佳の心に強く焼き付いていて。 ヴィルヘルミナを自分が助けられるなら、全力を尽くすつもりだったのだが。 その当の本人が、痛みに苦しんでそれをすぐにでも取り除いて欲しいと思っている本人が、それを止めたのだ。 曰く「芳佳も……疲れてる」 だそうである。 芳佳は、自分は少し飛んで、リネットを支えていただけだから大丈夫だと言ったが、にべも無く却下された。 食い下がってみたりもしたが、やはりいつもの無表情で、同じ言葉を繰り返し言われるだけだった。 当然、納得は行かなかったのだが。 その後、はじめてヴィルヘルミナに治癒魔法を施したときに何故止められたかよく理解した。 治療を開始してから数分も持たず、いつもより早く体力が尽き、意識が簡単に途切れそうになって。 付き添っていたエーリカに止められたのだ。「初めて戦った後はみんなそんなもんだよ」 戦った後はみんな興奮してね、興奮してると心はがんばれるんだけど、身体が付いていかないんだよ。 そう言うエーリカに、芳佳はエーリカやヴィルヘルミナもそうだったのか、と聞き返したのだが。 エーリカは笑いながらうなずき、ヴィルヘルミナは一瞬考え込むように動きを止めた後、二回の頷きをかえした。 誰だってそうなのだから、芳佳まで無理して倒れて余計な心配事を増やさないでくれ、という言葉に彼女は素直に従うことにしたのだった。 そして今。 これが今日最後になるはずの治癒魔法で。 体力も自分では十分回復したと思っているし、部屋には誰もいない。 怪我も、あと少しで完治させることが出来る。 「もうちょっと……できるよね」 芳佳の自分に向けた問いかけは、ただ確認のためであって。 起こす行動はすでに決まっていた。 自分はまだまだ半人前で、多くの人に助けてもらっている。 そのために、ヴィルヘルミナが傷ついてしまった。 それでも。 自分にもきっと、自分を助けてくれる多くの人や目の前のウィッチと同じように、多くの人を助け守ることが出来るはずだから。 だから、これまで以上にがんばっていこうと、そう芳佳は思う。 一日でも早く、自分が手を伸ばせる人々の数が多くなれば良いと、そう願って。 ヴィルヘルミナの肩に手をかざし、魔法を発動させる。 芳佳の頭に犬耳が生え、柔らかな青い魔力の光がヴィルヘルミナを包み込む。 その光は、今日彼女が見せたどの魔力の輝きよりも、少しだけ強く見えた。****** トゥルーデは、目の前の扉のノブを握った。 鍵はかけられていない。 そのまま押し開く。 暗い室内。 薄明かりの中に浮かぶシルエットは、備え付けの机と小さなチェスト。 廊下からの光に照らされたそこは、彼女の部屋以上に閑散としていた。 彼女は視線を部屋の隅、窓際へと流していく。 視線の先には、机と同じく、部屋に備え付けのベッド。 四角いはずのシルエットは、しかし丸みを帯びた影を持っている。 ベッドで眠っている者と、そこに突っ伏しているもう一人。 ヴィルヘルミナと芳佳だった。 トゥルーデはそのままベッドに歩み寄る。 芳佳の寝顔を見て眉をひそめた後、肩を軽く揺すった。 呻き声を上げる芳佳に、小声で語りかける。「おい、新人」「ん……ぅ? ……あ、えと、バルクホルンさん?」「……消灯時間は過ぎているぞ、自室にもどれ」「あ、あれ……私?」 寝ぼけているのか、混乱した様子を見せる芳佳を見て、トゥルーデの表情が渋いものへと変わっていく。 情けない、と毒づきながら、強い口調でトゥルーデは言った。「大方、無理をし過ぎて気を失ったのだろう。 明日もあるんだ、早く自室に帰って寝ろ」「で、でもヴィルヘルミナさんの怪我が……」「他人の心配をしている余裕があるのか?」 責める様な口調。 疲れと寝起きで意識のはっきりしない芳佳は、ただ気圧されるばかりで。 すみませんでした、と小さく呟いて退室していった。 ドアが小さな音を立てて閉じられる。 芳佳が小走りに廊下を駆けていく音が聞こえて、それっきり。 ヴィルヘルミナの規則的な寝息の音だけが部屋を支配する。 芳佳が逃げるように部屋を出た後、トゥルーデはじっとヴィルヘルミナのことを見つめていた。 十数分間か、あるいは数分か。 闇に目が慣れてくる。 カーテンの隙間からから差し込む月明かり星明りでも、十分に色々なものが見えるようになって来たころ。 トゥルーデは、ヴィルヘルミナが左手に何かを握り締めているのに気づいた。 そして、それが何なのかに気づいて、表情を歪める。 真鍮製のコンパス。 縋るように、離さないように握られたそれを見て、トゥルーデの表情が歪む。 く、と呼気が口から漏れて。 月が雲に隠れたのか、窓から差し込む光が弱まる。 こらえ切れなくなったように、言葉が漏れ出た。「他人の心配をしている余裕があるのか……か。 どの口が言えたものか」 皮肉げに、あるいは自嘲を含んだその声音は、微かに震えていて。 暗くなった室内では、トゥルーデの表情をうかがい知る事は本人にすら出来ず。 そのまま彼女は踵を返し、音を立てぬように部屋の外へと向かっていった。 ****** 陽気に照りつける太陽の光を背中に感じる。 たっぷりと陽光に照らされた、心地よい暖かさを持つ滑走路に寝そべって。「……ん!」 鈍い炸裂音と共に肩に衝撃が走る。 くすぐったい様な軽い痛みが走るだけで、なんともない。 軽く肩を回す。 ほんの少しだけ引きつった様な感覚が残ったが、それも何回か回している内に綺麗さっぱり無くなった。 ……芳佳さんサイッコォォォォ! 一日でほぼ完治とかマジないわ。 この世界、事故での死傷率めっちゃ低いんじゃねえの? 治癒魔法使いのところに生きてたどり着きさえすれば何とかなりそうな気がしないでもない……さすがにそんな事は無いんだろうけどさ。 なんかこんな世界だと即死級の事故から転生、とかそういう二次創作が発展しなさそうだな。 普通に治癒魔法で助かりました! よかったね! 完! もうあんな無茶はしないよ! みたいな流れになりそうだ。 あれから一日。 今日も今日とて、芳佳さん達と一緒に訓練です。 流石に基礎体力訓練は参加してもそう意味がないだろうとのことで、練成訓練、特に射撃訓練に参加することに。 今朝のミーティングで、なんかミーナさんがこっちチラチラ見ながら美緒さんと話し合ってたのが気になる。「ふむ、外れたが……肩はどうだ? ヴィルヘルミナ」 その美緒さんが、頭上から問うてくる。 このまま射撃訓練しても大丈夫だろうか、と聞いているのだろう。「結構……平気」「……もっと明確に、ハッキリと」 ぐぅ、オレだってもっとハキハキ喋りたいんだけどな! こればっかりはなんというか容赦してください。 えーと、うーんと、どうやって言ったもんだか……!「……軽く……痛痒感が、残るけど……この程度なら、問題は……ない」「そうか。 それならこのまま続けても大丈夫だな」 長文を、頑張って出来るだけ詳細に喋って微妙に消耗したオレには目もくれず、頷きながら的を見る美緒さん。 まぁ、良いんだけどね……なんか美緒さん苦手になりそう……「では、宮藤はリネットと交代で、隣の的を狙って撃て。 ヴィルヘルミナは……ふむ。 この前の宮藤のマガジンあたりの命中率を超えるまで、ずっと長距離射撃の訓練だ」 うぇー、だるいなー、と思ってたら。 超えるまで昼食の時間が来てもずっとやって貰うからな、と続ける美緒さん。 なん……だと……? いや、ちょっと、あんた! 昨日からまっずいオートミールしか食って無くて! 今朝もオートミールだったんだぞ!? あんな腹に貯まらない上に不味いモノ食い続けて。 いやまあ、エーリカやリネットにあーん、して貰ったのはある意味お腹一杯になったけどさ…… 何にしろ、昼食でようやくまともなモノ食えると思ったのに……! それに、このMk108って、バレルの短さもあって精度めっちゃ悪いんですけど。 よく考えたら弾体も重いし、絶対長距離射撃向きじゃないって! バルクホルンもこいつで狙撃は無理だなって言ってたし。 MG42だったら命中率7割行けるけど、こいつじゃ無理だってば!「ほう……不満そうだな。 だが、ミーナと少し話し合ってな。 今回のことも、お前が遠距離射撃を的確に命中させる技量を持ってさえいれば、無茶をしなくても良かったのだろうという結論に至ったんだ」 いや、そりゃそーだろうけどさ……! その、人には得手不得手つー物があると思うんです。 それに、あんまりMk108撃つと左目がちょっと霞んでくるんだよ……多分火傷の影響だけどさ。「Mk108……は、長距離向きじゃ……無い」「銃の所為にするか……良いだろう、ちょっと貸してみろ」 にやり、と不敵に格好良く笑う美緒さん。 無駄に男前度上げやがって……吠え面をかくと良いわ! Mk108を美緒さんが耳と尻尾を生やしてから手渡す。 彼女はその重さにちょっとびっくりして、しかし華麗に伏射の体勢を取った。 砲声が三発とどろき、一拍遅れてから四発目が続いた。 最初の三発は多分弾道を見るためだろうな……どれどれ。 双眼鏡を借りて覗いてみれば。 的には、大きな穴が一つ。 「続けていくぞ」 テンポ良く、一定のリズムを保って砲撃音が響き渡る。 五発あたり約三発の割合で、標的が砕かれていった。 うげぇ、なんだこいつ……凄いを通り越してキモい。 美緒さんって近接戦闘一辺倒じゃなかったんだな……「……と、まぁ、こんなものだ」 そう言って此方を見るその顔に、紫色に輝く魔眼一つ。 うわ! ずるい! チートだぞチート! ズーム機能付きのスコープで狙ってる様なモンじゃないか!「魔眼……」「わっはっは、お前だって撃つときに魔法で重量の制御をしたりするんだろう……持てる魔法を使うのは悪いことではないぞ」 そりゃ、そうだけどさ。 なんかこう、釈然としないぞ。 そんなオレの思いは軽く無視して、Mk108を見て少し考え込む美緒さん。「しかし、魔法を使ってこれか……確かに精度は宜しくない様だがな。 弾丸自体の進み方は素直じゃないか。 自分の銃の癖を見抜くのは大事なことだぞ。 宮藤もリネットも、自分の得物の事はしっかりと理解してやれよ」 正論過ぎてぐぅの音も出ないな…… ついでになんかオレ、ダシにされた気がしないでもないし。 凹むオレを横目に、はい、とリネットと芳佳の言葉が元気に響く。 リネットと芳佳は、自分の持ち位置へと向かう前に「頑張ってください、ヴィルヘルミナさん!」「ヴィルヘルミナさんなら大丈夫だよ!」 そう、笑顔で励ましてくれた。 その笑顔が年相応に可愛らしくて。 うん、こんなに可愛い女の子に励まされて、奮起しない奴が居たらそいつは確実にフニャチンだよな。 まぁ、仕方ない……昼飯のためにも、頑張るとしますか!「あ、そういえばヴィルヘルミナさん」 昨日以来、オレの口調や表情に怯えなくなってくれたリネットが、笑顔で声をかけてくる。 その笑顔は、彼女本来の明るさを十二分に見せてくれた、可愛らしいもので。 恥ずかしながら、少し見惚れてしまった。「何……リネット?」「お昼ですけど……朝作ったオートミールの残りが有るので、それも食べてくださいね!」 ……彼女が一体何を言っているのか理解しがたかったのは、決してその笑顔の所為だけではなかっただろう。 ああ、うん……はい。 今、急にやる気が萎えたけど。 まぁ……その、なんだ。 頑張るか……一応リネットの手作り料理だしね……ハハハ。 結局、その日の昼食は。 定時より少し遅れて、お腹一杯オートミールを食べることになったのだった。 次に戦闘があったなら、決して無茶はすまいと心に決めた瞬間だった。------ 今回のヴィルヘルミナの怪我:右肩部脱臼、上腕単純破裂骨折および右鎖骨亀裂骨折。 見栄を張りまくるええかっこしいなお陰で、要らん長期間、苦しみを被ることに。 このおばかさぁん! なんていうか、本エピソードは非常に難産でした。 プロットはすらすら立ったのになー。 創作の時間も取れないし……更新期間が開きまくっているのが恥ずかしく思います。 次回予告。ト「ヴィルヘルミナー!」ヴ「バルクホルン……ん、トゥルーデ!」芳「ああっ、エーリカさんが鎖鎌を握った!?」 大嘘です。 わかる人居るのかこのネタ。