「ふむ、愚民がそれなりに集まったようだな」
「ランスさん、それは言いすぎかと……」
ウルザちゃんに窘められつつ、今回の徴兵で集まった愚民達を見やる。
どいつもこいつも、正義やら大儀やらに惹かれてやってきたのだろうが、実際そんなものは無い。
あるのは、オレ様が正義で、オレ様が正しいという真理だけなのだ。
ということで、やつらには、精々必死になって働いてもらおう。
まあ、オレ様の活躍には及ばないだろうがな、がはははは!
「あああああ、あのぉ!」
「むっ、なんだ、呼んだかがきんちょ?」
「むー、今の声は鈴々じゃないのだー」
「何を言っている。がきんちょなんざ一人しかいないんだから、お前に決まっておろうが」
「ランスは、もう少し背の低い女の子に優しくした方がいいと思うのだ……」
「ぼいんぼいんになったら考えてやるぞ、がはははは!!!」
「あのーっ!!!」
なにか、ガキっぽい声が聞こえたので、がきんちょかと思って対応してやると、どうもそうではないらしい。
がきんちょとは違う声が聞こえたので、仕方なく辺りを見回すと、なんか帽子の頭の方だけ見えた。
で、そのまま視線を下に下ろしてみると、なんかおどおどしたガキがいた。
その身長は低く!
その胸は平坦で!
その尻には肉感が無い!
間違いなく、ただのガキだった。
この際、一人だろうが二人だろうがあんまり関係無いだろう、うん。
「ねぇ、君達どこから来たの?」
最近出番の無くなっていたマリアが、がきんちょどもの目線に合わせて腰を落とし、話しかけている。
ちなみにマリア、今回も本当は仕事が無いので留守番だったのだが、留守番は寂しいとのことで無理矢理ついてきた。
素直にオレ様と離れ離れになるのが寂しいといえばいいのに……。
まぁ、ちゃんと可愛がってやるがな、ぐふふ。
「えええええとでしゅねっ!」
「あわわわ、朱里ちゃん、噛んじゃってるよ。ちょっと落ちつきゃないとっ」
「そ、そうだね。こういうときは深呼吸して……すーはーすーはー。
よしっ!改めて……あああああにょっ!」
「うん、なにかな?」
「私達はですね水鏡先生という方に兵法とか色々学んでそれを人々の役に立てようとしてでも先生と喧嘩して
でもやっぱり人の為に働きたいって気持ちを抑え切れなくてそれで最近特に名高い公孫賛様の軍が募兵をしてるって話を聞いて
しかもその軍には天の御使い様もいらっしゃるらしくこれはここに行くしかないだろって話しになって
私と雛里ちゃんで来て見たら既に募兵が終わっていて出発する直前だったのでとりあえず私の話を聞いていただこうと
こうして直接お話させていただいてるのでしゅ!」
とりあえず長かったので、オレ様は途中から聞くのをやめた。
「で、結局どういうことだ?」
「ん~、とりあえず知識があるから雇ってくれってことじゃないかな?」
「ははははいっ!そういうことです!」
「わわわ私達は、孫氏に始まり、古今東西大抵の軍略書などは覚えているので、役に立つと思います!」
「だって、ランス。どうするの?」
ふ~む、正直こんなちびっこどもには興味が無いんだが……。
本の名前とか、言われてもさっぱりわからんし、そもそもオレ様という英雄がいる限り、軍師がいなくても負けはしないのだ。
「ランスさん、ランスさん。あのね、うちのご主人様が雇っておいた方が良いって言ってるんだけど……」
ご主人様?………ああ、あの男の事か。
にしても、いずれオレ様がいただく劉備ちゃんが他の男のことをご主人様と呼ぶなど不愉快だ。
「ふむ、劉備ちゃん。あの男のことをご主人様って呼ぶの禁止な」
「えっ?なんで?」
「あたりまえだろう。正式にオレ様の配下に加わったのだ。とすれば本来のご主人様はオレ様だ。
なのに、あんなヘタレをご主人様と呼ぶのはおかしいだろ。
あんな奴、ヘタレで十分だわ。がはははは!」
「う~ん……そう言われるとそうなんだけど……」
「では決定。決まり!オレ様が言うんだから変更無しっ!」
その後、劉備ちゃんが不満を言っていたが黙殺しておいた。
ついでに、朱里ちゃんと雛里ちゃんはあのヘタレの言葉を聞き入れて雇っておいた。
何だかんだ言って、あのヘタレ、実は中々優秀なのだ。
いつも馬車馬のように働くし、新しいことも考える。
そして何よりオレ様の為に働くしな。オレ様は英雄だから、邪魔をしないものには寛大なのだ。がはははは!
ちなみに、朱里ちゃんと雛里ちゃんには真名を教えてもらったんだが、これはオレ様に抱かれたいということだろう。
だがしかし、いかんせん体型がお子ちゃま過ぎる。
もっとボインボインになってからなら抱いてやるからな。がははははは!!!
「現状、最も私達が討伐すべき黄巾党はこの地にいる者達だと思います」
自己紹介やらなんやらのごたごたが片付いた後、朱里ちゃんと雛里ちゃんは今後の展望を説明しだした。
その声は、先程までの慌てたり頼りなさそう立ったりする声とはことなり、凛として、しっかりと芯を伴ったものだ。
なるほど、確かに自らを軍師として雇えと言ってくるだけはありそうだ。
内容の方は細々しすぎていてようわからんが、ウルザちゃんやら白蓮ちゃんやらが頷いてることから考えて、それなりにいい案なのだろう。
そして、鈴女の放った忍者が持ち帰ってきた情報を元に、次ぎ狙うべき具体的な敵や、その作戦なんかも説明していた。
その辺も、正直よく聞いてなかったんだがまあいいか。オレ様は天才だし、オレ様の思ったとおり動けばいいだろう。
ということで、戦闘が始まったわけだが
「なんでオレ様がこんなところで隠れてるんだ?」
「やっぱり話を聞いてなかったんですね、ランスさん……」
オレ様は狭っ苦しい渓谷で何もせずに、隠れていた。
隣にいるウルザちゃんに聞いてみると、どうにも他の奴らが釣ってきた山賊を一気に叩き潰すらしい。
「ランスさんの隊には、敵の本陣を突き抜けていただくことになります。
そして挟撃。一網打尽にしてしまいます。よろしいですか?」
「むっ、それは中々危険ではないか?」
「ええ、危険です。ですから、無理だと判断されるなら私と一緒に前に出るだけでもかまいませんよ?」
「む、ウルザちゃんと一緒というのは魅力的だが、このオレ様に不可能は無い。
余裕で当たり前のようにこなして見せるわ!」
とはいえ、オレ様が英雄かつ最強なのは疑いようが無い事実なのだが、いかんせん兵隊どもが心もとないな。
ここは一丁発破でもかけてやるか。
「聞けっ、兵隊どもっ!貴様らは……雑魚だ」
ウルザちゃんの部隊の奴らは、何事が起こったかと驚いているようだ。
が、オレ様の部隊はそれ程動揺していない。さすがオレ様、特に何をしなくても、隊を率いるだけでその効果が出るとは。
「貴様らは雑魚だ。どれくらい雑魚かといえば、英雄たるオレ様の100分の1ほどの実力も無いくらい雑魚だ。
が、……だ。
オレ様の部隊は、これから最も危険な任務をこなす事になる。
敵陣の中央を突破し、背後から襲い掛かるという任務だ。
さて、ここで質問だ。何故オレ様の隊が、一番危険な役目を引き受けるか分かるか?
それはな、お前らを率いているのが英雄たるオレ様だからだ!
お前らは雑魚だが、英雄たるオレ様が指揮をとれば、そこらの雑魚とはまったく別の雑魚になる!
英雄たるオレ様の部下だ!つまり最強のオレ様の部下だ!
であれば、貴様らは最強の雑魚だっ!!!
相手は高々山賊、最強の雑魚たる貴様らの敵なんぞではない!
奴らに殺された友を思い出せ!
奴らに殺された家族を思い出せ!
奴らに殺された恋人を思い出せ!
そしてその怒りを力に変えろ!
貴様らの思いは、怒りは、命は…………オレ様が預かる!
ただ、黙ってオレ様に付いて来い!!!!」
オレ様の演説(もちろんこの間白蓮ちゃんがしてた演説を真似てみただけだが)を終えて数瞬の静寂を経て……
『う……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』
この渓谷を揺るがすのでは無いかと思われるような、兵隊どもの雄たけびが木霊した。
兵隊どもは口々に怒り口にし、そして隣の奴と剣をぶつけている。
正直やりすぎたかもしれん。興奮しすぎで暑苦しい。
「ランスさん凄いですね……。まさかここまで素晴らしい演説が聞けるとは思いませんでした」
「オレ様は天才だからな、これくらいは当然だ。まぁ、若干やりすぎな気もするが……」
「……そうかもしれませんね。声が響いて、黄巾党達に聞こえてないことを祈るばかりです」
しばらくして、鈴女の忍者部隊が報告に来た。
概ね、作戦通りらしい。
ということで、オレ様は部下に指示を出しながら待つ。
待つ…
待つ………
待つ……………
がああああああああああああ!!
暇じゃーーーーー!!!
伝令っ!こんな早く来るんじゃねええええええええええ!
暇で暇でしかたないので、ウルザちゃんにエロイ事でもして時間を潰そうと思ったのだが、
「報告、前方より砂塵が上がっております!恐らく、味方及び黄巾党かとっ!」
と、報告が来た。
ちっ、どうせならもう少し早く、あるいは遅く来ればいいものを……。
そんなことを考えていると、とうとう渓谷の中にまで敵が入ってきた。
オレ様の出番のようだなっ!
さっきから、待たされたりお預け食らったりでイライラしてるんだっ!さっさと突っ込んでぶっ殺してやる!!
「行くぞっ!!オレ様に……続けええええええええええええ!!!!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
乱戦の中に突っ込んでいくオレ様達。
盗賊どもは、オレ様達の登場に驚いたのか、あるいは勢いに飲まれたのか、驚いてやがる。
それを、部下と共に切って先に進んでいく。
むっ、直ぐ先に黒のポニー発見っ!!
そしてそれに群がるような山賊ども!
てめえら、それはオレ様の女だっ!死ねえええええええ!!!
「ふっ、助けに来たぜっ!関羽ちゃんっ!」
「っ、助かりますっ、ランス殿っ!」
関羽ちゃんに群がっていた山賊どもをぶっ殺して、関羽ちゃんに話しかける。
声は元気だが、疲れは隠せていない。
こんなところでオレ様の女を殺させるわけにはいかねえしな、一旦下げさせるか。
「お前達は一旦下がってウルザちゃん達と合流しろ。ここから先は、英雄たるオレ様の出番だ」
「いえっ!こんなところで下がる訳にはっ」
「オレ様の女をこんなところで殺される訳にはいかんのだっ!一旦下がれ!
それとも、英雄たるオレ様の力を信じられないか?」
「っ……」
一瞬言葉につまり関羽ちゃん。
オレ様の言葉に心打たれたのか、顔は赤い。
「分かりました、一旦下がります」
「そうだ、それでいい。後は英雄たるオレ様に任せろっ!」
「ランス殿……ご無事で……」
「当たり前だ、関羽ちゃんと一発やれるまで死ねるか」
「ラっ、ランス殿っ!!」
「がはははは!」
このまま、関羽ちゃんを口説きたいところだが、さっきから盗賊どもがちょっかいを出してきて邪魔だ。
さっさと殺して、終わらせるか。
「行くぞっ!!」
『応っ!』
オレ様が敵の真っ只中に突っ込んでいくと、部下どももそれに続く。
落ち着きは取り戻したみたいだが、それでも結局はただの雑魚だ。
目の前に立ちはだかる雑魚どもをなぎ倒しながら、オレ様は敵陣に突撃して行った……。