戦闘の終了。アルディラの召喚術を最後に正体不明の召喚獣達は現れくなった。
周囲には私達が手にかけた彼等の骸。しょうがなかったとはいえ彼等を死に追いやった。ズキと、胸に痛みが走る。
傲慢なのは解ってます。でも思わずにはいられません。殺さずに済む方法はあったのではないのかと、そう思わずには。
………やめましょう。今は、それを考えている暇はないです。彼等がまだ居るのだとしたら、島のみんなが危険に晒されてしまう。なんとかしなくちゃいけない。
「緊急事態ね……。あの召喚獣達が森を破壊したと見て間違いない。他の護人を集めましょう。一刻を争うわ」
『アア』
「はい」
冷静に語るアルディラはいつもの彼女です。先程の様なおかしな様子は見られません。ファリエルもちらと窺いますが、あの時の荒々しい雰囲気は鳴りをひそめています。気にはなりますが、これも今は後回しです。
そういえば、気になると言えばウィル君が如何して此処に? いえ、おかげで助かりましたけど、あの召喚術の手際の良さは……。
話を聞こうと、後ろに居るウィル君に振り返る。
「ウィル君、あの、さっきのこと何ですけど……ウィル君?」
「……………」
様子がおかしい。息を荒く吐き体を揺らしている。消耗している?
「ど、如何したんですか? まさか、何処か怪我を!?」
「い、え…………ちょっ、と……っ」
次には、手を地面に付け座り込んでしまった。
「ウィル君っ!?」
「!」
「っ!?」
近寄りその体を支える。今も音を立て呼吸が繰り返されおり、頭がぶれたと思えば私の胸の中に収まってしまった。
!! そうだ。この子は、昨日酷い出血を……!!
顔が青褪ていくのが解る。
何故気付かなかったのか。昨日、あれ程身にしみていた筈なのに。
いえ、今はそんな事は如何でもいいです。兎に角、早くウィル君をどうにかしなくちゃいけません。
私はウィル君の体を持ち上げようと背に手を回す。
『ワタシガヤロウ』
「えっ?」
『ワタシガヤル』
そう言って、ファルゼン――ファリエルはウィル君の体を悠々と抱き上げる。彼女の胸にウィル君が収まった。
「ま、待ってください! 私が……!!」
『ワタシノ方ガ適任ダ』
有無を言わせない何かがありました。私はそれに何も言い返す事が出来ません。
『先ヘ行ク』と言い残し、ファリエルは此処を後にしました。ウィル君と、一緒に。
「私達も行きましょう。……アティ?」
「………………」
理由は解らない。如何してそんな気持ちになったのかも。
ただ、遠ざかっていく彼と彼女が、酷くもどかしく思えました。
然もないと サブシナリオ2 「ウィックス補完計画その2」
「…………………」
「あ、起きた」
「……イスラ?」
「うん。大丈夫?」
「…………だいじょぶ」
体を起こし、周囲に視線を巡らせる。此処は……リペアセンター?
「何で……」
「過度の運動による貧血です」
「ク、クノン……」
声がする方向に振り向けば、そこには尻眉を上げ俺を睨む様にして、いや睨んでいるクノン。
機械的な物言いだったが、それも何処か刺々しく聞こえた。不味い。怒ってらっしゃる……!
そして思い出す。ジルコーダが全滅したのを見届けて、その後眩暈を感じ倒れたのだと。
「私はあれ程注意した筈なのですが?」
「うっ……。ご、ごめんなさい」
「許しません」
「そげな!?」
何か容赦なくない!?
こんな冷たい娘でしたっけ彼女!? って、おいこら! そこ、イスラ笑うな!!
「言いたい事は山ほどありますが、今は緊急事態です。私が戻るまで此処で絶対安静にしていて下さい」
「! 待って、緊急事態って?」
「あの森をおかしくした原因が解ったんだって。召喚獣らしくて、それを退治しに行くらしいよ」
イスラが横から答える。俺の知っている通り、集落事に守りを固めて護人とカイル達が巣を叩きにいくらしい。クノンもアルディラの留守を守る為に俺に構ってる暇はない、と。
「有事の際に備えて治療態勢を整えておかなければいけません。私は行きますが、くれぐれもこの部屋を出ないように。いいですね?」
俺に釘を刺すクノン。前科があるせいか念を入れてくる。
当たり前と言えば当たり前だが……
「……ごめん、クノン。それ聞けない」
「ダメです。許しません」
「それでも、聞けない」
クノンは俺を本当に怒った様に睨みつけてくる。確かに自分でも我が侭を言っている事は解っている。体の調子が悪いことも。
だが、ダメだ。それでも行かないと。みんなが傷付くのを見過ごす訳にはいかない。待っていることは、もう出来ない。
「行かしてくれ、クノン」
「ダメです」
「お願いします」
「ダメです」
「この通り」
「ダメです」
「行かして」
「ダメです」
「居さして」
「ダメで…」
「よし! ダメならしょうがない!! では、行ってくる!!」
「……(シュッ!!)」
「ぐおっ!!?」
「おおぉ!? 腕が伸びた!!」
一直線に伸びた魔手は服の襟を掴み首を絞め上げた。反動で尻餅をつく俺、そしてズルズルと俺を回収するワイヤードフィスト。
てめ、それ反則……!! 死ぬよ、マジで死ぬよ!?
現在進行形で首を圧迫される俺はもがき苦しむ。引き摺られながら。
首をタップするがフラーゼンな彼女はそれをシカトする。そして目をキラキラさせて伸び縮むする腕を見るイスラ。てめー、どういう趣味してやがるんだ。
クノンの足元に辿り着き、ようやく開放された。ゲホゲホと咳き込む俺。
いいなぁと呟くイスラ。殺してやりたい。
「絶対安静です。では、此処に居て下さい」
そう言って部屋を出ていこうとするクノン。
いかん、ああは言っているが絶対ドアをロックするつもりだ。前に注射から逃げまくっていた俺を閉じ込めた時と同じ様に! 笑って注射を構え近寄ってくる看護婦さんは今でも俺のトラウマです!!
「ゲホッ! ゴホッ! あ、アルディラ姉ふぁんの指示でございまふ!」
ピタッ、と止まるクノン。振り向き訝しむ顔で俺を見てくる。さすがにアルディラの指示となればクノンも聞きざるを得まい。
「……アルディラ様からはその様なことはお聞きしていませんが?」
「極秘って奴ですよ、極秘」
(はい、嘘ー)
黙れ、変態。
「何と言われたのですか?」
「メイメイさんの所言って道具とか譲渡の件をつけて欲しいって。ほら、あの人普通に頭おかしいでしょ? だから結構よく話す僕にお願いしたんだ。僕しか頼める人いないって」
「…………………」
眉を寄せるクノン。内容が内容なだけに、誰かを代打代わりする事も出来まい。あのへべれけ具合は島中に轟き渡っているからな。
「……それは、本当なのですね?」
「……うん」
すまん。クノン。騙したりなんかして。でも、行かなくてはいけない。
「…………点滴をします。それまでは此処で待っていて下さい」
部屋を出るクノン。怒ってるな、あれは。
「嘘だって解ってるよ、クノン」
「だろうね…」
「如何してそこまでするのか知らないけど、程々にね」
「…………」
俺はジルコーダ討伐に加わるとは言ってないのだが……いや今更か。俺が運ばれてきた理由は知っているだろうし。
「せっかく会えたんだから、これでお別れなんてやだよ?」
「不吉なこと言うな……」
「ふふっ、そうだね」
「でも」と言葉を切るイスラ。その顔は笑みのまま、俺を見詰めている。
「ウィルが居なくなったら私は悲しいよ。だから、約束」
「…………約束する」
にこっと微笑むイスラ。……くそっ、顔が熱い。
何か顔見られるのが嫌だったので、こっちからクノンの所へ行くと伝える。イスラは特に気にする事もなく分かったと了承した。
「ウィル」
「何?」
「頑張って」
「……任せろ」
互いに笑い合って、俺は部屋を後にした。
「俺の時はキュウマが事件の発端だった。でも、違った。キュウマは何もしていない」
「ふ~ん」
今居るのはメイメイさんのお店。討伐に向かうのはまだ時間があるそうなので余裕はある。
メイメイさんと向かい合いこれまでの事を話していく。俺の知る未来と明らかに変化が起きていると。
「……ファリエルかアルディラが、何かしたとしか思えない。信じたくないけど…」
だが、納得してしまっている俺もいる。前に「彼女達」から聞いた。ファリエルはハイネルの妹で、アルディラは恋人だったそうだ。
何であんな奴にこんな可愛い妹と綺麗な恋人がいるのかと俺は激しく世界の不条理を嘆いた。
普通に可笑しいだろ!? ハイネルだよ、ハイネル!? 白いよ!? ていうかクソだよ、アイツ!? 有り得ないって!?
そう叫びたかったが、「彼女達」に不快な思いをさせそうなで止めた。あれだよ、過去は美化されるってヤツ。きっとそうだ。ファリエルに関しては血が繋がってないんだよ、きっと。
話が逸れたが、兎に角「キュウマ」の時と同じように核識がハイネルの振りをして彼女達を誑かしているのだとしたら、説明がついてしまう。「剣」を使えば自分は蘇るだとかその手の事を言えば。
想いが強い程、それは甘美で激烈な猛毒だ。それは彼女たちを惑わせる。
狂った意思は、彼女達の願いを利用し、更にアティさんを贄にしようとしている。または「俺」や「キュウマ」に実行した。ふざけている。嘗め腐っている。何様のつもりだ。
やはりあれは生かしておけない。存在を許してはいけない。「俺」や「キュウマ」だけの問題だったら此処まで思わなかったが、あれはアティさん含め女性に手をかけやがった。
酌量の余地はない。最初から与えるつもりなど皆無だが。兎に角潰す。必ず潰す。捻り潰す。
「イスラだって女に成ってた。違いが有り過ぎる。……これって、やっぱり俺が居るからなんじゃないか? 俺が居るから、ファリエルとアルディラはおかしくなって、イスラも変わって……。全部俺のせいなんじゃないか?」
異邦人である俺が居るから、変化が生じているのではないか。そう思わずにはいられなかった。
メイメイさんは暫く俺を見詰め、そして眼鏡を取る。いつも様なおちゃらけた雰囲気が消え、ゆっくりと口を開いた。
「ウィル、貴方忘れてるんじゃない? この世界は貴方の居た『世界』ではなく別の世界、平行世界だって」
「!!」
「貴方の知る未来の通り世界が動いてく訳じゃないのよ? 酷似している事もあるかもしれないけど、それは貴方の知っている未来と同一じゃない。必ず相違があるわ」
「…………」
「だから貴方が此処に居るという理由だけで護人である彼女達が狂気に走ったり、他人の性別が変わったりなんかしない」
「でも…………」
「大体普通に考えて可笑しいでしょ? 元が男の人が、貴方が現われていきなり女に成っちゃうなんて」
「それは、そうだけど…」
「彼女達だって同じ。貴方の行動は確かに色々な事象に影響するけど、彼女達に関しては貴方が原因ではないわ。彼女達が選択した結果よ」
「でも、『俺』の時はっ」
「それともなぁに? 自分が居るだけで彼女達の運命が変わってしまうなんて思ってるの? 自己陶酔者なのかしら、貴方は?」
「むっ……」
「そんな難しく考えなさんな。未来より不鮮明で不確かな物なんてこの世にはないんだから」
「…………」
「この世界が貴方の知る未来と似た道程を辿るのは間違いないでしょうけどね。でも今回ので解ったでしょ? 絶対はないって。貴方の知りうる未来は参考程度にしておきなさい」
「……解った。今一納得出来ないけど」
「頑固ねぇ、貴方も」
苦笑するメイメイさん。だか、しょうがない。納得出来ないのだから。
俺の知る「ファリエル」と「アルディラ」は決して人を危険な目に合わせて自分の望みを叶える人ではなかったから。イレギュラーのせいとしか思えない。
これがキュウマだったら何とも思わない。俺が気に掛けるのは女性だけだ。野郎なぞどうでもいい。
取り合えず、此処は平行世界だという事は肝に銘じておこう。俺の知っている世界ではないという事を。決して思い通りにいかない事を。
「あ、そういえばメイメイさん。話変わるんだけど、剣借りてもいいか? あいつ等相手に投具だけじゃキツイんだ。ていうか貰いたいんだけど……」
「ええ、いいわよ。それくらい」
「マジでかっ!? やった、恩に着る!!」
ダメ元で言ってみたのだが、ついている!
言ってみるものだ。ほぼ文無しである身では嬉しいことこの上ないし、守銭度の身としてもありがたい。
よし、一番高そうで性能のいい物選ぼう。そういえば高価と言えばやはり杖なのだろうか? まぁ、俺は杖より断然剣派だが。
「レックス」の時は武器防具の購入は一切しなかった。もっぱら戦利品だった。誓約の儀式で揃えたりもしたが。
何より武器にしてみれば「剣」があったし。気味悪いのこの上なかったが結局使いまくってた。あれ越える武器もないしな。
兎に角武具に金を掛けてはいなかったのだ。
故にこうズラーと並んであってもどれが高いとかは解らない訳で。使えそうなのは何となく解るんだけど。
「ウィル。これなんてどう?」
「ん? それって……サーベルか?」
メイメイさんが手に持つのは見た目シンプルな細剣だった。湾曲した片刃でない直刀。両刃であり刺突も可能なそれは、サーベルとしては珍しい類だ。
柄や鍔等の彩色はほとんど黒一色。僅かに朱色が鍔に有るくらいで、細剣、サーベルの多くが割りと鮮やかな装飾を施されている点からもこれは珍しい。切れ味は確かに良さそうだが……
「ダメだ、メイメイさん。俺は細剣なんて使ったことないし、それだとすぐ折れる。知ってるだろ? ジルコーダの殻滅茶苦茶固いって」
そう、あの召喚蟲の纏う甲殻は半端なく固い。鎧と比べてみても遜色がない程だ。毒を持つ種類もいるし、繁殖力も含めればあれほど達の悪い召喚獣はそうはいないと思う。
女王などまんま怪物だ。あれはシャレになっていない。はっきり言って戦いたくないのが本音である。切実に。
少しズレたが、とにかく奴等相手に俺が細剣使っても壊すのは目に見えている。
「普通の片手剣でいい。簡単に折れたりしないやつ」
「大丈夫よ。これはガチンコサーベルっていってね、その名の通り正面から切り合おうが叩こうが全く問題ないわ。そんじょそこいらの剣よりずっと丈夫なんだから」
ガ、ガチンコ……。なんつーネーミングセンス。
「それに無理だなんて言ってるけど忘れたの? 今の貴方は『ウィル』なのよ。『レックス』が知らなくても体が、記憶が覚えてるわ。剣の扱い方をね」
「……んー」
ホンマかいなというのが正直の感想。俺自身は全く身に覚えのない剣術を、体がうんやらなんやらで扱えると言っても信用出来ない。普通に今まで振ってきた自分の剣の方がずっといい様な気が……。
「なぁに? メイメイさんの言うこと信用出来ないの?」
「んー、まぁぶっちゃけ。全然信用出来ない」
「貴方こういう時だけオブラートに包もうとしないわよね……。じゃあ言っときますけど、今のその体だと『レックス』が普段扱ってた剣振るうのは違和感あるわよ? 剣によっちゃあ満足に使えない物もあるかもしれない。それこそ両手でもったりしないとね。それは貴方のスタイルに反するんじゃないの?」
「うっ……」
「騙されたと思って持っていきなさい? ちゃんと貴方の力になる筈だから」
「……解った。使ってみる」
「そうよ! メイメイさんのウィックス君の為に見繕って上げたんだから、もう絶対役に立つんだから! にゃは、にゃははははははははは!!!」
(だから心配なんだけどな)
「変な事考えてなーい?」
「まさか」
「ふーん」
勘やっぱ鋭いな。俺も表情崩すことなく平然と答えるが。
この人と化かし合いやったら、他の人の様にうまくいかないのは間違いない。
剣を鞘ごと受け取り地面と平行になる様に腰へ装着する。ぶら下げると少し腰落とすだけで下に付いちゃうからな。
鞘から引き抜き軽く振ってみる。メイメイさんが「あぶにゃい!?」言ってるが無視。何かを傷付ける程馬鹿ではない。縦、横、斜めと順々に軌跡を描く。
軽い。ウィルになって筋力は落ちているのに、それでも尚軽く感じられる。それに速い。流れる様にして一気にトップスピードまで持っていける。取り回しもいい。
「これ本当に敵をぶっ叩いたりしても折れない?」
「ええ。簡単には折れないわ」
だとしたら確かに今の俺には最適かもしれない。
片手で十分に扱えるし、剣速も十分。てか余りあまる。これで「俺」の剣の使い方も反映出来るというなら文句なしだ。基本的に「俺」の剣の使い方はスパンと斬るよりブッタ斬るだったしね。
問題があるとすれば軽過ぎるってことか。
速さに適しているせいか、重い一撃をこれで繰り出すのは無理っぽい。あくまで斬るのが主流か。まぁ、なんとかなるか? ガチンコ出来る程丈夫らしいし。
「色々とありがとう、メイメイさん。助かった。じゃ、行ってくる」
「あー、ウィル。待って」
「?」
メイメイさんが近寄って俺の手にある物を渡す。この赤い果実は……
「ジュウユの実? 何で? ていうか、これ結構貴重なんじゃあ……」
「貴方今も貧血抜けきってないでしょ? ジュウユの実は増血作用あるからね。幾つか持ってけば、憂いなしってやつよ」
「……いいのか? 何か色々貰ってるけど?」
「まぁ、店の主人としてはどうかと思うけど、今はそんなの関係ないただのメイメイさんだからね。お友達に手を貸してあげるのは当然でしょ?」
「お友達ね……」
メイメイさんの言い方につい苦笑してしまう。そんなこと言う柄でもないだろうに。
「それに、言ったじゃない? 出来る範囲で貴方の力になって上げるって。こんなことくらいなら、お安い御用よ」
「メイメイさん………」
微笑を浮かべ、穏やかな眼差しで俺を見詰めるメイメイさん。温かく見守ってくれる、そんな優しさがあった。
とても、綺麗だった。
「解った!さすがメイメイさん!太っ腹だな!!」
では、遠慮する事はあるまい!!
「へっ……?」
「じゃあ、とりあえず薬草の類は全部貰っとくとして、ミナーシの滴も頂こうかな。レーセーの滴は……今回はいいか」
「ちょ、ちょっと?」
「おお!? イチゴキャンディー! メロン味まで! すげー、これ普通売ってないのに。ということで、あざーす」
「こ、こらっ! ま、待ちなさい!?」
「アクセサリも貰おう。磁気ネックレスに防犯スカーフ、目覚まし時計は……いらね」
「やめい!? 何普通に取ってんのよ!?」
「力なるゆーたやん。ええやないか、このくらい」
「その喋り方やめなさい!? 貴方が言うとムカつく!! って、そうじゃない! やっぱ、お金払いなさい!!」
「じゃ、メイメイさん。俺行くよ」
「って、速っ!? 何時の間に!? ま、待ちなさいっ、レックス!!?」
「出世払いで頼む!!」
「貴方が出世できる筈ないでしょうがーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
風と共に去りぬ。
「はぁ…………やられたぁ」
好きなだけ物色され、道具の類がほとんど持ってかれた。何気に古くなってる物には一切手が出されていない。主婦か、あの男は。
「ったく、もう……」
溜息を吐き、参ったと言わんばかりに手で顔を覆うメイメイ。此処までやり込まれたのはあのウィルが初めてである。ていうか、コソ泥まがいな事やってのけるの者などあれ以外いない。
この島以外にも色々の繋がりがあるメイメイでも、あそこまで人に翻弄される事はなかった。
「本当に不思議ね、貴方っていう人は……」
疲れた表情で、それで何処か嬉しそうにメイメイはそう呟く。
本来傍観者の位置に立つメイメイは、物語の人物達に助言を与えることはあっても深く繋がることはない。それが決められた役割であり、メイメイの使命であるからだ。
酒を飲み飄々としているも、1つ壁の向こう側に居て他人と距離を置くため。他者と深く関わることはない様にするためだ。
だがあのウィルは、「レックス」は、何の躊躇もなしにその壁を粉砕し近寄ってくる。越えてくるのではない。粉砕である。
遠慮ない。躊躇いない。ずうずうしい。そして、鈍感。あらゆる意味で鈍感。アティの事はあまり言えないくらい鈍感。鈍い。
いい意味で素直。悪い意味で馬鹿。
思う存分それを発揮し、勝手に他人の領域へズカズカと入り込んでくる。壁粉砕して。
え、何それ? 食えんの? と言わんばかりにだ。
しかもそれを他者に不快とは思わせない。「レックス」の持ち味というか、気付いたら居なくなってる薄さというか。兎に角そういう存在だ。
久々に他人と食事をすると言ったメイメイの言葉に、ウィルはその次の日から普通にメイメイの店へご飯を持って来る様になった。そして、一緒に食べる。特に会話もないまま、気付いたら何か話しかけ飯を食べる。そして、居なくなる。
何がしたいと突っ込みたくなる。だがそれでも、決して気まずい雰囲気にならない。不思議存在である。
あくまで、何処へ行っても何処に在ろうとも自分のまま。自然体でいるのがあのレックスの持ち味なのだろう。そしてやる事為す事ブッ飛んでいる超変態。それがレックスだ。メイメイはそう思う。
あれは如何なる者も巻き込み滅茶苦茶にしていく。
良い意味とか、悪い意味とかそういうレベルじゃない。奇天烈な方向に持っていく。最悪である。
そして、それはメイメイにも当てはまってしまう。
「毒されてるなぁ、私も……。向こうの『私』が気をつけろって言った意味がよ~く解ったわ」
何かもう既に手遅れだがとメイメイは苦笑する。
だが、不愉快ではない。こうしてレックスと戯れるのは、決して不愉快では。
いや居心地がいいと言えるだろう。責務を違えている様な気もしなくはないが、場合が場合だし許される範疇の筈。
こうしてあのレックスに会えたのは幸運なのか、不幸なのか。
少なくとも後悔はないと思う。変わってしまった事を嘆く事は、決してないと思う。何故ならば、今自分の気分は晴れやかなのだから。
「頑張りなさいな。応援してるし、見守ってる。助けてあげる。疲れたら休みに来てもいい。此処は貴方が唯一レックスでいられる場所なんだから」
「だから、頑張りなさい。『レックス』」
穏やかな、笑顔だった。
ウィル(レックス)
クラス (偽)生徒 〈武器〉 縦、横×剣 縦、横×杖 投(Bタイプ)×投具 〈防具〉 ローブ 軽装
Lv12 HP98 MP133 AT67 DF49 MAT78 MDF61 TEC89 LUC20 MOV3 ↑2 ↓3 召喚数3
機C 鬼C 霊C 獣B 特殊能力 ユニット召喚 ダブルアタック 隠密
武器:ガチンコサーベル AT40 LUC5 CR20% (蛇毒針 AT30 毒30%)
防具:empty
アクセサリ:プリティ植木鉢 耐獣 MDF+5 LUC+5
6話現在のウィルのパラメーター。
ATよりMATが上昇しており、どちらかと言えば召喚師型。といっても現段階では大差もそこまでないので区分させる意味はない。ウィルにとっては物理だろうが召喚術だろうが、それらは手段の内の1つでしかないのでどちらが突出しようがいいらしい。
やはりTECが急カーブを描いて上昇しだしている。珊瑚のオカマ的ネエさんより高い。元暗殺者のTEC上回る辺りやはり変態と言える。クソ忍者? あんなエセでは話にならない。
今回武器をメイメイさんに譲り受け、本格的に近接戦闘を展開出来る様になった。LUC付属効果がある武器を選んでくれる辺り、メイメイさんは非常に出来た人物と言える。というか、そこまでLUCを気にしなければいけない時点で結構泣ける。
防具は軽装さえもこの体じゃ一気にスピードが落ちるとの理由で使用していない。ローブは邪魔とのこと。装甲より速さを取るリアル系の鏡である。
アクセサリはレックス時には毎度おなじみだった「プリティ植木鉢」を装備。
余談だが、この「プリティ植木鉢」をレックスが初めて手に入れた際、仲間に引き摺られ戦場に駆り出されこれを被り兜して使用。
舐めてるのか貴様と仲間達の逆鱗に触れ、アルディラにシャイニング・ウィザードをかまされた。ベイガーで強化チタンが埋め込まれている彼女のシャイニング・ニーは植木鉢ごとレックスのこめかみを粉砕、陥没。「脳漿をブチまけろ!!」と叫びレックスをマットに沈めた彼女は以後「閃光のアルディラ」と呼ばれる様になる。
ど頭(たま)カチ割られたレックスは「くろっ!?」と叫び地に伏した。鼻血出しながら。カイルやヤッファ達が慣れない召喚術やストラで必死にレックスの蘇生を試みる傍ら女性陣は一切治療に加わらなかった。アリーゼさえも。ていうかアルディラとクノンが機神ゼルガノンかました。何も残らなかった。然もあらん。
アティ
クラス 魔剣の主 〈武器〉 横×杖 〈防具〉 ローブ
Lv13 HP97 MP144 AT51 DF50 MAT91 MDF84 TEC57 LUC55 MOV3 ↑3 ↓3 召喚数3
機C 鬼C 霊A 獣C 特殊能力 抜剣召喚 暴走召喚 ユニット召喚
武器:機幻の杖 AT30 MAT12 TEC5
防具:鱗のローブ DF9 MDF11 TEC2
アクセサリ:かきかたの本 MP+10
6話現在のアティのパラメーター。
2ndクラスで上級――Aランクの召喚術を行使出来てしまう天然鈍感殺戮兵器。ウィルの言う通りやはり頭の何処かがおかしいのかもしれない。
完璧な召喚型であり、全ての属性を扱える万能召喚師。霊属性だけが突出しているが、このパラメーターで全属性扱える時点で既に破格。
何気に近接も結構いける。6話でのジルコーダ戦でも実際疲弊していなければ2,3匹くらいはガチで殺れたかもしれない。証拠にアズリアを吹っ飛し、ゼリー達を赤屍さん並にジェノサイドしている。「剣」の力と言えばそこまでだが、ウィルがその姿に戦慄している所からも先生の能力の高さが窺える。
実は帝国軍時代でアズリアと何度も切り結んでいたらしい。某狸が遭った襲撃回数程ではないが割と自己訓練で打ち合う事は多かった様だ。アズリアとは知己とも言える程の仲にまでなっている。
抜剣召喚したら鬼人の如き強さを発揮するのは間違いない。ただ、その性格故に力を抑えてしまう点から「レックス」程の脅威に成り得ないと予想される。だが、切れると恐らく容赦がなくなると思われ。ギガスラッシュを拝む日が来ないことを祈る。
また抜剣するのに非常に抵抗を持っている。誰の、いや何の畜生のせいかはもう言うまでもないが、実際相当気にしているらしい。スバルやパナシェの怯えた目がそれを助長させている。然もあらん。
武器及びアクセサリはメイメイさんから購入又は貰い受けた物。鱗のローブだけはウィルから売ってもらった。子供と売買するのはどうかと思うアティだったが、ウィルの「実際お金なんてのは建前で先生に貰って欲しいんですけどね」という照れ隠しの言葉に顔を綻ばせ1500バーム払った。アティはウィルも素直ではないなーとホクホク顔で嬉しがっているが、それが釣り上げられた物だとは微塵にも思っていない。誓約の儀式も済ませどう処理しようか悩んだウィルが小遣い稼ぎに利用した。
ちなみにメイメイさんの店で売ったら10バーム。腐っている。
本編とは直接関係ないが、補完の意味合いを兼ねて「レックス」の歩んだ軌跡を公開。
今回は1~2話。
島に漂着。何故自分がこんな浜辺にいるのか思い出そうとして最初に思い出したのが、子供の頃の夢はみんなを守れるセロハンテープになりたいという事だった。幼少の頃から奇天烈だったらしい。
だいたい記憶がはっきりし、自分が家庭教師になった事、生徒とパスティスを向かう途中だった事、海賊に襲われ更に嵐で海に投げ出された事を思い出す。海賊の宝をふんだくろうとした事を後悔した。
アリーゼを発見、合流。目を覚ましたアリーゼに「ひっ!」と思いっきり怯えられ、死にたくなった。取り合えず現状を説明しようとしたが、そこでゼリーが出現。多勢に無勢。しかも仲間の1人は役には立たない。装備もない。アリーゼを囮にして逃走しようかと思ったが、自称女性のジェントルマンのレックスとしてはそんな事出来る筈もなく、己のみで此処を切り抜ける事を決意する。
そして逃走。アリーゼ抱えて。あまりの速攻にゼリー達は愚かアリーゼも抱えられた事には気付かなかった。お姫様抱っこされていると気付いたアリーゼは赤面。1話にしてアリーゼフラグが立たった。逃げまくるレックスだったが、進行上にいた召喚獣(キユピー)が追いかけてきたゼリー達に襲われる。アリーゼの懇願によって本人は勘弁して欲しかったが反転、救助に向かう。
そこで「剣」と接触。シカトした。自分はキチガイではないと言い聞かせ、キユピーを間一髪でゼリー達の攻撃から助け出す。シカトし続けたせいか、別の声(ハイネル)が呼び掛ける様になるがそれも虫。額に青筋浮かべながら笑うハイネルが強引に「剣」をレックスの前に召喚。嫌々ながらも「剣」をとりゼリー達を2秒で全滅させた。
ぜってー面倒事に巻き込まつつあると予感する。キユピーを助けてくれた事で感謝するアリーゼに和みつつも幸先不安を感じまくっていた。
神業的な釣り(既に釣りは神域に達していた)を披露し食事。アリーゼの感心を集めつつ浜辺を後にする。林にて上手く進めないアリーゼに手を貸し感謝される。本来ならば「俺は君の先生だから助けるのは当たり前」などと言う筈なのに、「女性を助けるのは当たり前」などとほざき好感度を下げるどころか上げてしまう。実は天然のタラシだったりする。
岩浜でソノラ、スカーレルと遭遇。話し合いで穏便に済ませようとしたがなし崩し的に戦闘に突入。げんなりしつつキユピーを前線に押し出し隙を見計らいスカーレルに顔面に砂を投げ目潰しをする。悶えるスカーレルをサモンマテリアルで沈めた。海賊でもどうかと思う外道でセコイ戦法にソノラとアリーゼは顔を引き攣らせ、そしてレックスは動きの止まっているソノラにキユピーをブン投げる。投げの速度もプラスされたキユピーのすてみタックルはソノラの鳩に直撃。ソノラは意識が刈り取られ戦闘は終了した。
アリーゼの軽蔑の眼差しが痛すぎた。
浜辺で拾ったロープでソノラ、スカーレルをふん縛り拘束。海賊だから遠慮はしてはいけないとアリーゼを説き伏せる。目を覚ました2人から色々聞き出し船へと案内させる。人質にして上手いこと船を手に入れられないかと画策するレックスだったが、ありえない数のはぐれに襲われている船を目にしてアリーゼ抱え逃走。もうこの時点でカルマ値は三段階くらいに成ってたりする。
森に身を隠そうとするレックスだったが、アリーゼの何かを訴えかけてくる揺れる瞳に良心が耐えられなくなりUターン。御免蒙りたかったが、他に手がないので抜剣。戦場を一望できる崖から飛び降り、はぐれに襲われていたソノラを危機一髪で救い出す。ちなみに同じタイミングでカイルがはぐれに殴られたがそちらへ向かおうとする素振りも見せなかった。優先されるべきは女性らしい。
いきなり現れ助けてくれた白髪の剣士にソノラが見惚れつつ、レックスは片っ端からはぐれを斬りまくる。シャルトスに怯え逃げ出すはぐれにも容赦がない。全滅させた後、一悶着あったがカイルに気に入られ客人として招待される事になる。
その日の夜会話はソノラとアリーゼを選択。てめーシステム無視してんじゃねーよ的な暴挙だった。ソノラに連れ出され、その帰りにアリーゼと遭遇し、何か色々話す。
海賊の仲間になる事に不安を感じてそうなアリーゼに、君のせいでこうなったんだけどなー思わないでもなかったレックスだったが、「アリーゼだけは守る」と声を掛けてやる。昼間人として如何かと思う行動をしていたが、それは自分を守る為だったから? とアリーゼは盛大に勘違いし顔を赤くさせる。事実アリーゼだけは守っていたから強ち間違いでもないが、アリーゼが思う程この赤いのは綺麗な存在ではない。証拠に既に船内を散策し、宝がない事に軽く落胆していた。救えない。然もあらん。