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No.3907の一覧
[0] 然もないと [さもない](2010/05/22 20:06)
[1] 2話[さもない](2009/08/13 15:28)
[2] 3話[さもない](2009/01/30 21:51)
[3] サブシナリオ[さもない](2009/01/31 08:22)
[4] 4話[さもない](2009/02/13 09:01)
[5] 5話(上)[さもない](2009/02/21 16:05)
[6] 5話(下)[さもない](2008/11/21 19:13)
[7] 6話(上)[さもない](2008/11/11 17:35)
[8] サブシナリオ2[さもない](2009/02/19 10:18)
[9] 6話(下)[さもない](2008/10/19 00:38)
[10] 7話(上)[さもない](2009/02/13 13:02)
[11] 7話(下)[さもない](2008/11/11 23:25)
[12] サブシナリオ3[さもない](2008/11/03 11:55)
[13] 8話(上)[さもない](2009/04/24 20:14)
[14] 8話(中)[さもない](2008/11/22 11:28)
[15] 8話(中 その2)[さもない](2009/01/30 13:11)
[16] 8話(下)[さもない](2009/03/08 20:56)
[17] サブシナリオ4[さもない](2009/02/21 18:44)
[18] 9話(上)[さもない](2009/02/28 10:48)
[19] 9話(下)[さもない](2009/02/28 07:51)
[20] サブシナリオ5[さもない](2009/03/08 21:17)
[21] サブシナリオ6[さもない](2009/04/25 07:38)
[22] 10話(上)[さもない](2009/04/25 07:13)
[23] 10話(中)[さもない](2009/07/26 20:57)
[24] 10話(下)[さもない](2009/10/08 09:45)
[25] サブシナリオ7[さもない](2009/08/13 17:54)
[26] 11話[さもない](2009/10/02 14:58)
[27] サブシナリオ8[さもない](2010/06/04 20:00)
[28] サブシナリオ9[さもない](2010/06/04 21:20)
[30] 12話[さもない](2010/07/15 07:39)
[31] サブシナリオ10[さもない](2010/07/17 10:10)
[32] 13話(上)[さもない](2010/10/06 22:05)
[33] 13話(中)[さもない](2011/01/25 18:35)
[34] 13話(下)[さもない](2011/02/12 07:12)
[35] 14話[さもない](2011/02/12 07:11)
[36] サブシナリオ11[さもない](2011/03/27 19:27)
[37] 未完[さもない](2012/04/04 21:58)
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[3907] 5話(上)
Name: さもない◆8608f9fe ID:94a36a62 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/21 16:05
「ん~! さて、今日も頑張りましょう!」

うんと大きく体を伸ばし、アティは部屋を出ていく。島の召喚獣達の交流、それがアティが自分を張り切らせている理由である。

島の住人達に認められ、今日から島を自由に回れる事になった。だが、それは護人達の決定であって、島の住人全てがアティ達を受け入れてくれている訳ではない。
この島の過去からすれば当然のこと。人間と此処の召喚獣の溝はそう簡単に埋まる物ではない。
だが、アティは信じている。いつか島の住人達と自分達が何の隔たりも無く接しあう事が出来る日が来るだろうと。お互いの言葉を交し合えばきっと解りあえると、そう信じている。
今日もまたお互いの距離が縮まればいい。 そんな事を考えながらアティは船を下りていった。

「あら、先生。もう行くの?」

後方より声。
振り向けば甲板にスカーレルとヤードが出てきた所だった。

「はい。何だかじっとしていられなくて。スカーレルとヤードさんも一緒に行きますか?」

「あたしはもうちょっとしたら行かせてもらうわ」

「私もそうさせてもらいます。と、そういえば……アティさん」

「何ですか?」

「今日は授業はないのですか? さっき、ウィルが1人で部屋に居ましたが…」

「……………ぇ?」

「先生、貴方忘れてたの……?」



「あああ~~~~~~~~~~~~~!!?」




己の出せる最高の速度でアティは船内を駆けていく。ソノラに先生うるさいと注意されたが今はそれどころではない。
何てことだ、自分の本業を忘れていたなんて! 私の馬鹿、と悪態をつきながら目的地の前で急停止、ウィルの部屋のドアを開け放つ。


「ウィル君!!」

「おおっ!? せ、先生? ど、どうしたの?」

「ごめんなさい! 私、ウィル君との授業のことすっかり忘れてて……!!」

何事かと目をひん剥けるウィルに対して、アティはすぐ目の前で頭を下げる。暫く呆けるウィルだったが、そのアティの姿を見てそういう事かと察知した。

「気にしないでください。先生が色々忙しいのは解ってますから」

「でもっ!」

「平気ですって」

苦笑しながらウィルはアティそう伝える。
ウィルは「レックス」の際に、この時期の多忙さを経験している。アティもこの島を奔走することになるだろうと解っていた。真面目で他人を思い遣る彼女なら尚更だとも。

ウィルの場合、「レックス」の時はアリーゼの授業を理由に船の中に引き篭もるつもりだったが、それは叶わず島の交流に駆り出された。
何故自分なのだと異を唱えれば、人間代表のお前が居なければ上手くいく物も上手くいかないと言われた。何時そんな事になったのだと心の汗を流しながら何日も島のあっちこっちを回り、島の子供達の授業を頼まれ(強制され)、不満が爆発したアリーゼに謝りまくる等々etc……。
そんな自分の事を棚に置いといてアティを非難するという事はウィルにはちょっと出来ない。
それにアティが大変なら授業はやらなくてもいいとも思っている。軍人として学ぶ事はもう既に身に着けているのだから、ウィルはアティには島の方を先に優先して欲しかった。


「今大変なんですから、僕のことは置いといて貰って構いませんよ」

「………いえ、ダメです。しっかりけじめを付けなくちゃ。私は、ウィル君の教師ですから…」

「あの、そんな思い詰めなくても……」

「本当にごめんなさい、ウィル君……」

暗いって。
ウィルはずーんと影が差しているアティにツッコむ。ヘコむ時の度合いは似てるなーと自分を比べ、ウィルはそう思った。
見てて気分のいいモノではないので、アティを促しさっさと授業を始めていった。




「召喚師ウィルが命じる。我が声に答えよ――来い、テテ」

手に握るサモナイト石が発光し部屋を淡く照らす。ポンッと小気味のいい音が鳴り、目の前にテテが召喚された。

「うん、文句なしです。すごいですウィル君」

詠唱簡略化してもっと手っ取り早く出来ます等と心の中で呟く。
何度も修羅場を潜り抜けてきた身、この程度は屁でもない。まぁ、疑われる様な事をする筈もないが。

「前にも教えられましたから」

「そうでしたね。でも、ウィル君の年で此処まで召喚術を扱えるのは本当にすごいんですよ? 私感心しちゃいます」

笑顔で俺を誉めてくれるアティさん。騙している此方としては罪悪感がバリバリです。すんません。

「これだったら平気ですね。ウィル君、護衛獣を呼び出してましょうか」

「護衛獣、ですか…?」

正直必要ないんだよな。ねこ居るし、変なの出てきても嫌だし。
レックスだった時も養う金とか面倒臭かったから呼んでない。今更だけど終わってるな、俺。

「先生、ぼくにはねこが居るからいいです。呼び出すのも面倒なので」

「め、面倒……。で、でもねことは護衛獣の契約を交わした訳ではないんですよね? それだったらきちんと護衛獣と契約した方がいいと思うんです。こんな状況だからウィル君一人で居る時何か困ることがあるかもしれませんし」

確かにねことは護衛獣の契約を交わしていない。サモナイト石に通常の契約を刻んだだけだ。
ねこの場合はキユピーと同様なのだろう、生い立ちが特別で誰かに召喚された訳でも契約した訳でもない。厳密にははぐれとは言えないのだ。
だから護衛獣の儀式もすることなく、普通にその場で契約してねこの召喚術を行使出来る様になっている。俺の傍を離れないので、まんま護衛獣と変わらないのだが。

「ウィル君は相性のいい獣属性の召喚獣がいいと思います。ウィル君はどの属性とでも契約出来ますけど、やっぱりそっちの方が都合がいいでしょうし」

獣属性か……。ぜひドライアードと契約を結びたい。

「……もうちょっと待って貰っていいですか? 色々考えたいんで」

「ウィル君がそう言うんならいいですけど……早い内にした方がいいと思いますよ? ずっと共にするパートナーなんですから」

「解りました」

アティさんの言う通りなのだが、こればっかはな。譲れない物があるのだ。


「じゃあ、今日はこれでお終いです」

「ありがとうございました。あっ、先生。今日もし良かったら釣り行って貰ってもいいですか?」

「別にいいですよ。珍しいですね、ウィル君が釣りに行かないなんて」


いやね、多分彼居るだろうしね。そう、彼。アレの弟君。アレ本人じゃないけど、お腹痛くなっちゃうんです。………そろそろ遭遇するな。装備(幸運値補正あるやつ)と胃薬準備しないと。






然もないと  5話(上) 「自分の居場所って結構曖昧だと思う」






案の定、釣りに行ったアティさんは浜辺で倒れている人間を見つけリペアセンターへ連れて行ったらしい。記憶あんま自信無かったけど当たって良かった。

でもどうしようかな、イスラ。アレの弟だったり俺を島から閉じ込めていたり色々発覚した時は、この鬼畜がっ!と叫んだりおっかなびっくりだったけど、イスラも相当不幸だったらしいからな。死にたいなんてどんだけって感じですよ。俺なんかより不幸…………なのか?
何で断定できないんだろうか。畜生、泣けてきた。適格者はみな不幸の星の元に生まれる運命なのか。クソエルゴッ!!

いやまぁ、どうするかなんてそりゃあ捕まえて連絡する手段押さえてこっちの情報流さない様にするんだけど。いくら同族でも野郎に情けなどかけん。決して何度も嵐をお見舞いしてくれたからとかそういう理由じゃない。ないったらない。
問題は出来るのかという一点。この体だし、何よりあっちにはジェノサイダーブレイド(キルスレス)がある。万が一にも個人戦闘では勝ち目が無い。こいつスパイですなんて言ってもみんな信じてくれないだろうしね。

帝国軍にいる内は「剣」抜かないだろうけど、それでも帝国軍に合流してしまった時点でアウト。手は出せなくなる。やはり、ヤルには孤立している今、そして奇襲だ。
正面から行っても勝てる確立も低いのだから、仕掛けるのは無色の奴らに連絡を入れるその時。人気を避けるその瞬間。そこを狙う。
リペアセンター居る間はまだ平気の筈。それにそこで仕掛けても何やってるんだと白い目で見られそうだし。

こんな感じか。一先ず連絡する手段を無効化できればいい。どうせ無色来るんだろうし。最悪のタイミングで現れないならまだ対処のしようもある。

方針も決まったの俺も島へと駆り出すとしよう。………ジャキーニさん達に会ってないな、そういえば。





ユクレス村 実りの果樹園


という訳で、ジャキニーさん達の所に来てみた。オウキーニさんを筆頭に、海賊のみんながせっせと畑を耕している。ジャキーニさんは、あんま乗り気じゃないみたいだ。ブチブチ文句を言ってあんま働いていない。だが、そんな彼が1番土いじりに才能を持っているという事実。本人は気にしていたみたいだけど、こっちかしてみれば喜劇でしかなかい。

「おはようございます」

「ああ、おはようさんです! ってあれ、あんたは……」

「初めまして、ウィルって言います。先生の、カイルの仲間です」

「なるほど、これからよろしくたのんます。うちはオウキーニ言います」

笑顔で握手をしてくれるオウキーニさん。誰にでもありのままで接するその人柄は非常に好感が持てる。これでジャキーニさんと海賊をやっていたと言うんだから驚きである。いや、ジャキーニさんもいい人だけど。
ことのついでに、ジャキーニさんにも自己紹介する。ジロリと睨まれたが、その髭カッコいいですね、と誉めると目茶苦茶喜んで自分のことを話し始めた。変わっていない。

「がっはっはっは、お前わかっとるのぉ! うむ、気に入った! わしの舎弟にいれてやろう!」

「恐縮です」

「何、気にするな! ふははは「何言ってんだよ、ヒゲェ!!」ぶげらっ!!?」

カイルの渾身の右ストレートがジャキーニさんの顔面に炸裂。

「が、がが、ガイル!? 何ずるんじゃ!?」

「何じゃねえだろう! 人様の客人を勝手に子分にするんじゃねぇよ!!」

「ふ、ふんっ、し、知ったことか! おまえ「ヒゲヒゲさ~ん! サボったらいけないのです、よっ!!」お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!!!?!??!!」

マルルゥの放った矢がジャキーニさんの額に突き刺さる。

「あ、あんさーんっ!!?」

「スコーンいったぞ、スコーン」

「あやっ、外れてしまったのですよ~。あっ、まるまるさぁん! おはようございます!」

何所に当てる気だったんだ、マルルゥ。いくらジャキーニさんでも死ぬぞアレは。
見ててこっちも嬉しくなる様な笑みを浮かべてこっちに来るマルルゥと挨拶を交わす。ニコニコと笑う妖精のすぐ下で矢が刺さった頭を抱えゴロゴロと転がっている男の図。誰が言うまでもなくシュールだ。ああ、これだよ、コレ。喜劇。なつかしい。


「だから、陸に上がるのは嫌なんじゃ~~~~~~~~~~~っ!!!!!!」



いや、ホントなつかしい。





ちょっと感傷に浸った後、ユクレスの広場に行ってみると超必死で走っているスバルとパナシェがいた。何か叫んでる。
何だ何だと後方を窺うと……半泣きのアティさんが2人を追いかけていた。何をやっているんだあの人は。

「ちぇい」

「うぐぅ!!?」

目の前を通り過ぎるアティさんのマントを掴み進行を阻止する。ちょっとどうなのよその声はと思ってしまう奇声を上げ、アティさんは地に倒れ伏した。

「何やってるんですか」

「こっちの台詞ですよソレは! ホント死んじゃいますよ!?」

「はいはい。で、どうしたんですか? 朝っぱらから幼い子供を追い回して。変態ですか、あなたは」

「言うに事欠いて貴方がそれを言いやがりますかっ!!!!」

怖っ……!!!


話を聞く所に寄ると、どうやら前回俺が話した夜叉アティさんにスバルとパナシェが心底恐怖していたらしい。アティさんの顔を見た瞬間全力で逃走を開始。ショックを受けたアティさんは誤解を解かなければと、話をする為に2人を追い掛けていたと…。

いや、それアティさん悪いでしょ。何怖がらせてるんですか、そんなのビビるに決まっていえ嘘ですごめんなさい僕が悪かったです申し訳ございせんですからその眼で睨むのやめて下さい生きてる心地がしないんです本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁあああぁ!!!!!!



射殺されるかと思う程の眼差しにあっさりと屈服した俺はスバルとパナシェを捕まえ誤解をどうにか解いた。死活問題だったので俺も必死でした。

誤解が解けた後、じゃあこれから遊ぼうという事になり、風雷の里――大蓮の池へ移動。池には大小あるが、人1人が十分乗れる蓮が幾つも浮かんでいた。
スバル達はそれに足場にして進んでいく。アティ先生も習って乗ってみるが、蓮がアティさんの体重を支えきれずゆらゆらと揺れる。汗をタラリと流し尻込みするアティさんだったが、スバルに挑発されて俄然やる気になった。

「村の河童娘と言われた実力見せてあげます!」

だから、どうなのよそれは。


軽快なステップで蓮の上を飛んでいくアティさん。なるほど、確かに河童娘の名は伊達ではない。
ていうか、河童と言われて何とも思わなかったのだろうか、あの人は。

「スバルくんっ、賞品は頂きです!!」

「させぬわ」

「うわっ?! ウィ、ウィル君!? 何ですかいきなり!?」

「いえ、あまりにも自称河童娘がトロかったので負かしてやろうかと」

「むっ、信じてませんね! いいです、こっちこそウィル君を負かして上げます!」

「ふん。河童だが菜っ葉だが知りませんが、そんな田舎臭い物が僕に勝てると思っているんですか?」

「河童を舐めないでください!! 菜っ葉だって私の村では特産品です!!」

知ってます。

「いいでしょう。―――ついてこれるか?」

「貴方がついてきてください!!」

荒れ吹く風を物ともせず、俺たちはそこを駆け抜けた。



「ところで先生、蓮が震えてますよ」

「それがどうしました!そんなの沈む前に飛べば――」

「重そう(ぼそっ)」

「ぶっ!!?」


華麗に水中へダイブしなさった。





鬼の御殿へ水浸しになったアティさんの着替えを借りに来た。何か非難がましい視線を送られたが無視。

「どうもすいません、うちの先生が」

「何、気にするでない。困った時はお互い様じゃ。ゆるりと構えよ」

「感謝します」

「何だ、偉く畏まって」

「いえ、忍者の真似事でもと」

「ふふっ。中々様になっておるぞ、ウィル」

「ありがたき幸せ」

「くくっ、あはははははっ!! あまりわらわを笑わせるな、腹が捻れてしまう」

ふむ、やはりミスミ様のやりとりも和む。こんな人が母親だなんていいなぁ、スバル。
俺の母親なんて………やめよう、本当に腹が捻れてしまう。拒絶反応ってやつだ。


「すいません、ミスミ様。こんな服を貸して頂いて………」


と、襖を開けて姿を現すアティさん………………って、何ィ!!?

「おー! うむ、似合っておるぞ、アティ!! やはりわらわの目に狂いはなかったなんだ」

「そ、そうですか? 何だか自分では恥ずかしいんですけど………」

アティさんが来ているのは…………着物。自身の髪と同じ鮮やかな緋色で彩られておりそれに白の帯が巻かれている。

シルターンを起源にするその衣は似合う人と似合わない人がはっきり分かれる。似合う条件は体の線が細かったり醸し出す雰囲気だったり色々あるが、兎に角似合わない人は絶対似合わない。どんなに綺麗ですごいプロポーションでも、そう例えば緑の豪華な服を着ちゃってる年増とか呼ばれちゃう人とかその他色々。

だが、目の前の人は。

もうなんていうか………うん、似合い過ぎ。半端ない。
微妙にいつも周りに飛び出している髪形は、今は綺麗に梳かされておりまるで極上の絹の様に見える。
ほっそりとしている体に着物がぴったりと合っており、嫌でも目が離せない。一挙一挙に思わず目がいってしまう。

………何だこの物体は!? 無色の新兵器かっ!? 視界に入っただけで対象を魅了に陥れる超極悪の付属効果!?
なめんな、死ぬわ!!何も出来ずに全滅だ!!!

ていうか体の線ヤバイ!? ぴったり重なり合って更に帯がきつく結ばれているのか、滅茶苦茶強調されちゃってマス! 尻とか腰とか胸とか胸とか胸とか胸とかっ!!!
何気にでかいとは思っていたが、まさかここまでとはっ! 信じられねぇ、アンタは一体何なんだっ!!?

口をあんぐり開けてその姿に見入ってしまう。いや、見入ざるを得ない。それほどまでに、目の前の女性は優美さと艶美さを兼ね備えていた。
俺の視線に気付いたのか、アティさんが顔をほんのり赤く染めて此方を見詰める。
うおぃ!? そ、それはアカンてっ!?

「え、えっと……どうですか、ウィル君?」

「………………………………………(つい)」

絶対攻撃の前に、俺は反撃すら出来ず視線を横にずらした。やばい、絶対顔赤くなってる。

「あう………。ひ、ひどいですよ、ウィル君! 私だって恥ずかしいんですから、そんなあからさまに逸らさなくても……!」

「ふふふふ………」

ちゃうわ、ボケッ! この天然鈍感河童娘がっ!! いい加減にしろよお前っ!?
そしてミスミ様笑わないで下さい!? くそっ、絶対あれは俺がどう思っているのか気付いている!
くそぃ、屈辱だっ! めっさ屈辱だっ!! 何も出来ないまま蹂躙されるなんて、こんなワンサイドゲームなんて!!

「どうも、こんにちわ」

と、そこに現れた哀れな子羊、もとい、こういうのに全く免疫を持っていない召喚士ヤード。

「おお、ヤード。どうした、何か用か?」

「いえ、特に御用はな……………ぃ……」

会話の途中である一定の方向を見て固まってしまうヤード氏。はい、犠牲者二号。

「あ………ぇ……っ、と……ぁ」

正視する事が出来ず、忙しなく目をあちこち向けるヤード氏。言わずもかな、もちろん顔は赤い。

「ヤードさん?」

「! は、はいっ!!」

「わっ!? ど、どうしたんですか、いきなり叫んで?」

「い、い、い、いえっ!! おお、お、お気になさりゃずに!」

噛んでるよ。
ていうか、あれ話しかけてる人が誰だか解ってないな。身に覚えの無い麗人(だと思っている)に声掛けられて緊張しまくってる。

「………ヤード。それ、先生」

「…………………………………え゛」

時が止まる。ヤードの。

「ヤ、ヤードさん? だ、大丈夫ですか?」

「っっッ!!!」

顔を覗き込むアティさんに首から顔全体まで一気に赤くなるヤード氏。叫ばなかった彼はよくやった。あの天然から繰り出された凶悪スキルに耐えた彼に敬意を表したい。そして悪いが贄になってくれ。

「………じゃあ、僕もう行きます。まだ用があるんで」

「あっ、じゃあ私も……」

「そんな格好で出歩くつもりですか? 正気ですか、あなたは」

どれ程犠牲者を出せば気が済むのだ。

「そ、そこまで言わなくても!?」

「言うに決まってるでしょうこの鈍感」

「ど、どんかん………!」

絶対アレ意味履き違えてる。センスないとか感性が鈍いとか絶対そんな事考えてる。この馬鹿娘ぇ!!

「じゃあ、ヤード。後は頼んだ」

「って、ええっ!!? いや、ちょっと、待ってください!! わ、私もっ!!」

「ヤードさんも私と一緒に居るのは嫌なんですかっ!?」

「ぶっっ!!?!?!」

自覚なし! もうちねっ!! ちね、この人間凶器!! 何だその殺し文句はっ!?
もうダメだ。さっきからミスミ様が笑いを押し殺して低く唸っている。これ以上の醜態を晒す訳にはいかない。一生笑いの種にされてしまう。即刻戦場を撤退しなければ。
噴出するヤードの横を通り過ぎる俺。魔ってと俺を引き止める為に顔を向けるヤード、そして一瞬だけ交差する視線。アイ・コンタクト。


――ウィル! 私を置いていかないでください!?

――悲しいけどこれ、天然なのよね。

――ちょっ!!?


足早にヤードの横を抜ける。ごめん、俺君の事救えない。
背中に縋るりついてくるヤードの視線を一杯に受けながら、俺はその場から離脱した。










狭間の領域 異郷の水場



危ねー。マジ危ねー。シャレ抜きであれ落ちる所だった。もう1人の自分に落とされるなど救えない。
あー、でも綺麗だったな、アティさん。ホントに。

…………理不尽だー!!何であれが俺!?ないよ、マジないよっ!!遣りきれねーーーっ!!!

湖の辺で蹲り、盛大に溜息を吐く。心が「レックス」とウィルのお互いの気持ちでぐらぐらと揺れる。本当にウィルだったら何の問題もなく、憧れやら好意を抱けたのに。
生き殺しですよ、コレ。


「………貴方がウィル君ですか?」

突然かけられる声。何時の間にそこにいたのか、何者かが俺のすぐ横に立っていた。顔を上げてみると……

「……何だ、フレイズか」

(いきなり何だ呼ばわり………)

どうでもいいわー、みたいなぞんざいに反応する。本当どうでもいいし。フレイズの顔が引き攣っているが気にしない。

「ウィ、ウィル君。貴方と話したい事があります。っと、自己紹介がまだでしたね。私の名はフレイズ。もう聞いているかも知れませんが、これからよろしく」

「はい、よろしくお願いします、女タラシのフレイズさん」

「なっ!? な、何ですか、その女タラシというのはっ!?」

「ファリエルがそう言ってました。節操のない犬天使だと」

ガクッと地面に四つんばいになる金髪天使。「ふぁ、ふぁりえる様……」とか呟いてる。
どうでもいいけど邪魔だなコレ。

「…………は、話があるのです」

ふらふらと立ち上がるフレイズ。身に纏うオーラが暗い。
あなた本当に天使? ああ、そういえば今は違うんだっけ。

「ファリエル様のことです」

「…………」

態度改め真剣な顔付きになるフレイズ。ボロクソに言われようが主人のことを案ずるその姿勢。護衛獣の鏡だな。
別にファリエル犬とか言ってないけど。

前回にも聞いた通り、ファリエルの事は島のみんなには話さないで欲しいという内容だった。俺はファリエルが早くみんなと打ち解ける様にしてやりたいのだが………。まぁ、それもファリエルの気持ち次第。強制はしない。お節介はするけど。
とりあえず俺からは何も言わないとフレイズに伝えた。

そういえばアティさんも知っているけどいいのかと尋ねると、もう既に話をしたという金髪。やはりタラシだ。手が早い。
抜け目ねーと目の前の天使見詰めた。そしてすぐに、


光りが森の奥から見え、次には雷鳴が耳を振るわせた。


「!」

「あの光りは、タケシーの? ………ウィル君、それではまた」

羽を広げ、フレイズは光りが上がった森の奥へと飛んでいく。バサバサと羽ばたく音はやがて聞こえなくなった。

……確か、タケシーが住みかを他の召喚獣に襲われたんだっけ? そんでそれを退治しに行くと。
前は、俺も付き合わされた。私1人で行きますとかフレイズが言ったから、はいそれじゃあ頑張ってと俺は引き返そうとしたら、やっぱ付き合ってくださいとか言って連行された。何故に!?と抗議したら何かムカついたからとほざきやがった。
楽勝等と言ってたが、着いてみれば20は居たはぐれの群れ。オイてめー何が楽勝だと叫び、俺は泣く泣く戦った。もちろん抜剣したけど。

今回も巻き込まれずに済みました、と。……ホント複雑だな。

放っておく訳にもいかないのでファリエルに救助を要請。たまたま近くを通りかかっていたソノラとスカーレルにも加わってもらいフレイズを救出した。
助けに来て貰った事に感謝され悪い気はしなかったが、すぐにソノラの元へ向かいお嬢さん発言をかますタラシ。気にくわかなかったのでファリエルにファルゼンボイスで『イヌ…』とぼそっと呟いてもらった。
肩を震わせ乾いた笑みを上げる天使仮を拝めた。スカーレルがドン引きしてた。















「何ですか、話って?」

ミスミ様に頼まれた島の子供達の為の学校。受けるのはスバル君とパナシェ君だけで、学校と言える程の規模ではないんですけど。
最初はウィル君が居るからと言って断って、でもその後ゲンジさんに叱責されこの話を受けることにしました。
私はまだ教師として未熟だとそう感じて。私ももっと教師として勉強しなくてはいけないとそう思ったから。
それをウィル君に伝えなければいけません。

……正直に言って、気が重いです。
朝にウィル君の事を放っておいて別の子達に教えることになったなんて。それに自分がやってみたいという私情も入っているのも事実です。

彼はどう思うのか不安ですけど、でも話さなくちゃあいけません。それに、きっとウィル君は解ってくれると思います。この子は賢いから。
………よし、話しましょう。

「実は、今日ウィル君が居なくなった後……」

「ヤードを昏倒させたんですか?」

「何でそうなるんですか!?」

「あれ、てっきりその事かと思ったんですけど」

「違います!」

うう、せっかく決心したのに。

「でも、ヤード変な感じになってませんでしたか?」

「う…」

確かになってました。私がヤードさん見ると目逸らされましたし。
そんなに私に似合っていなかったのかずっと顔赤くさせて。吹き出すのを必死に我慢してる様な……。

「……ウィル君、そんなに私変だったでしょうか?」

結構自分ではいいなぁなんて思ったんですが………って、何ですかその目は!?

「ホント救えないですね」

「ええっ!?」

それ程ですか! 救えない程美的感覚ダメですか!?

「もう何ていうかズレてるっていうか、いえもうズレまくってます」

「あうっ!」

うう、そんな。根本からダメだなんて。自信無くします……。
まぁ、失う自信なんて最初から無いんですけど…。

「……勘違いしてると思うから言っときますけど、似合わないとか奇天烈とかそういう意味じゃないですよ」

「え……? ど、どういう意味何ですか?」

「自分で考えて下さい、鈍感」

うっ……。また言われました。

「…じゃ、じゃあ、ウィル君はどう思ったんですか?」

ちょっと聞いてみましょう。

「……馬子にも衣裳」

「……微妙ですね」

「豚に真珠」

「ひどくなってますよ!?」

………もういいです。ウィル君に聞いた私が馬鹿でした…。

「…でしたよ」

「………えっ?」


「綺麗、でした」


視線を横に向けて、ポツリとウィル君はそう言いました。頬を赤く染めて…。
て、照れ隠しなんでしょうか。何だか私まで顔が赤くなってそうです………。
……………。

「ありかどうございます、ウィル君」

「…いえ」

こういうウィル君は新鮮です。こんな顔、初めて見ました。何だか嬉しいです……。
新しい彼を見れるのが。不器用な彼の優しさが。

―――うん、嬉しいです。



「せ、先生。それで話って何なんですか?」

………話さなきゃ。

このままでいたいけど。こうやって、彼の優しさを感じていたいけど。

……話さなくちゃあ。

きっと解ってくれる。彼だったら、きっと。


「実は………」





……私は、心の何処かで彼に頼っていた。

彼だったら平気だと、決め付けていた。

彼の優しさに、甘えてた…。

彼だって一人の人間で。………まだ、子供なのに。

彼が涙を押し殺してた姿も、一人月を寂しそうに見上げていた姿も、知っていたのに。

私はそれを忘れ、彼に甘えていた。


全てが終わった後で、私はそれを後悔せずにはいられなかった。


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