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No.3907の一覧
[0] 然もないと [さもない](2010/05/22 20:06)
[1] 2話[さもない](2009/08/13 15:28)
[2] 3話[さもない](2009/01/30 21:51)
[3] サブシナリオ[さもない](2009/01/31 08:22)
[4] 4話[さもない](2009/02/13 09:01)
[5] 5話(上)[さもない](2009/02/21 16:05)
[6] 5話(下)[さもない](2008/11/21 19:13)
[7] 6話(上)[さもない](2008/11/11 17:35)
[8] サブシナリオ2[さもない](2009/02/19 10:18)
[9] 6話(下)[さもない](2008/10/19 00:38)
[10] 7話(上)[さもない](2009/02/13 13:02)
[11] 7話(下)[さもない](2008/11/11 23:25)
[12] サブシナリオ3[さもない](2008/11/03 11:55)
[13] 8話(上)[さもない](2009/04/24 20:14)
[14] 8話(中)[さもない](2008/11/22 11:28)
[15] 8話(中 その2)[さもない](2009/01/30 13:11)
[16] 8話(下)[さもない](2009/03/08 20:56)
[17] サブシナリオ4[さもない](2009/02/21 18:44)
[18] 9話(上)[さもない](2009/02/28 10:48)
[19] 9話(下)[さもない](2009/02/28 07:51)
[20] サブシナリオ5[さもない](2009/03/08 21:17)
[21] サブシナリオ6[さもない](2009/04/25 07:38)
[22] 10話(上)[さもない](2009/04/25 07:13)
[23] 10話(中)[さもない](2009/07/26 20:57)
[24] 10話(下)[さもない](2009/10/08 09:45)
[25] サブシナリオ7[さもない](2009/08/13 17:54)
[26] 11話[さもない](2009/10/02 14:58)
[27] サブシナリオ8[さもない](2010/06/04 20:00)
[28] サブシナリオ9[さもない](2010/06/04 21:20)
[30] 12話[さもない](2010/07/15 07:39)
[31] サブシナリオ10[さもない](2010/07/17 10:10)
[32] 13話(上)[さもない](2010/10/06 22:05)
[33] 13話(中)[さもない](2011/01/25 18:35)
[34] 13話(下)[さもない](2011/02/12 07:12)
[35] 14話[さもない](2011/02/12 07:11)
[36] サブシナリオ11[さもない](2011/03/27 19:27)
[37] 未完[さもない](2012/04/04 21:58)
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[3907] サブシナリオ7
Name: さもない◆5e3b2ec4 ID:7f8d6cd5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/13 17:54
「ならぬと言ったらならぬ!」

「どうしてだよ!?」

声を荒げるスバルとミスミ様。
こうして声を張って言い争うことは決して珍しくない親子ではあるが、今日の所は少し様子が違った。
真剣な目で睨み合い、どちらもこの場を退こうとする気配をみせない。

「ど、どうしたんでしょうか?」

「……喧嘩ですかね?」

風雷の里に足を運んだ俺とアティさんは、鬼の御殿から聞こえてきた声に引かれ、今こうして繰り広げられている親子喧嘩を目の当たりにしていた。
何時になく激しいやり取りにアティさんは唖然とし、俺は「前」に見たこの光景を思い出耽るようにして目を細めていた。


遺跡で事が起きてまだ二日。
彼女達に暫く時間を与えようと決めたアティさん達は、それの尾に引かれながらも以前の通りのサイクルを取り戻している。
現状の放置はただの逃避ではあることは解っているが、ファリエルとアルディラが消耗しているのは事実だ。彼女達を休ませる為に俺もみんなの意見に反対はしていない。

まぁ、俺はこれからお見舞い兼お話しをしに度々行く心算だが。例え拒絶されたとしても。
アティさんもきっとやるだろうし、何よりこのまま彼女達を放っておくのは俺自身が許しはしない。
嫌われようが罵られようが、彼女達の笑顔が戻るならお節介でも何でもやってやる。
ああ、絶対に。


「そなたのような子供が出る幕ではないわ! 戦いは遊びではないのだぞ!」

「言われなくたって、オイラそれくらい分かってるよ!!」

スバルとミスミ様は納まることなく声を散らし合っている。
見兼ねたアティさんが側に控えているキュウマとゲンジさんへ事情を尋ねに向かった。

二人が揉めている内容はスバルの戦闘参加について。
「レックス」の記憶を参考にしなくても、自ずと聞こえてくる二人の会話を聞いてれば察しがつく。
スバルがミスミ様に、本気で戦場へ飛び込みたいと望んでいるのだ。

「本来ならば既にミスミ殿が笑い飛ばして終いなのじゃがな」

「今日ばかりは、スバル様が一向に引こうとしないのです」

ゲンジさんは悟ったように、キュウマは仕方なしと苦笑するように説明する。
ミスミ様とはまた別の立場にいる彼等は止めることはせず、あくまで中立を保ってスバル達を見守っていた。

……今は全く関係ないことなのだが、キュウマがこの場に居合わせていることに対して何だか不思議な感じがする。
「俺」の時は「キュウマ」が事件を引き起こしたので、「この時」は姿を現さなかったのだ。
この一大事にあのクソ野郎、と「当時」は怒り募らせていた「俺」だったが……いざこうやって同じ場面でキュウマがいる所を前にすると、また変な感覚に襲われる。

別におかしいという訳ではないのだが、映画の全く同じシーンでの風景の違いとでも言えばいいのか、そんな印象を受けてしまう。
どちらが本当だとか、そんな区別はない筈なのに。

ダメだな。また感傷みたいなものに袖を引っ張られている。
今スバル達を支えられるキュウマがちゃんといる。それでいいではないか。
思うことなんて、何もない。

「自惚れるでない!」

「あうっ!?」

ミスミ様の平手打ちがスバルの頬を捉えた。
父親が自分と同じ年頃で活躍したことを引合いに出したスバルをミスミ様は戒める。
お前に父親と同じことが出来るものか、と。
それでも食い下がって反抗するスバルだったが、繰り返してミスミ様の手が一閃された。

「っ……! 母上なんてっ…………だいっ嫌いだあっ!!」

涙を振り撒き、スバルは座敷を飛び出していく。
顔を伏せ遠ざかっていく背中が、また何時もより小さいものに見えた。

「スバル君!?」

「僕が行きます」

追いかけようとするアティさんを押し止めて外に出る。
男には男、女性には女性。話を聞くというのならそれが適材適所だろう。

ミスミ様の方をアティさんに任せ、俺は小さくなってしまったスバルの背中を探しにいった。








然もないと  サブシナリオ7 「ウィックス補完計画その7 ~母と子と教訓と~」








俺が御殿の塀を越えた頃にはもうスバルは見えなくなっていたが、里の中を回っていると程なくしてその姿を認めた。
青々とした空を映す大蓮の池。そのほとりにスバルは身動き取ることなく胡坐をかいていた。
此方に向いている背に近寄っていく。

「……兄ちゃん」

「隣いい?」

僅かに首を持ち上げるスバルに尋ねる。
スバルを俺の顔を暫く見たあと、目を背けるようにしたあとコクリと頷いた。
許可を得た俺はスバルのすぐ隣に腰を下ろす。視線は前に固定してこの空間にただ身を委ねた。

「…………」

「……」

「…………」

「……」

「……兄ちゃん、連れ戻しにきたんじゃないのか?」

「いや。僕はスバルを追いかけてきたけど、連れて帰ろうと思って来た訳じゃないよ」

「…………」

「今スバルが何を思っているのか聞きたいな、って」

顔を向けてスバルと相対する。今は力がないやんちゃそうな吊り目と視線を絡ませた。
スバルは此方を窺っていたが、やがて顔を俯けるように視線を池へと落とした。

「…………母上は解ってくれない。オイラが何も出来ないって決めつけてる」

「……」

「母上の言う通り、オイラ子供だけど、でもちゃんと戦える。自分のことくらいちゃんと守れる。キュウマだってそう認めてくれたんだ。……なのに」

スバルはぽつぽつと胸の苦情を語り出す。
言っていることは全て事実。決して自惚れではなく、他者にも評価された実績もある。
それでも自分を認めようとしないミスミ様に、スバルはやりきれないと言った表情で不満を述べていった。

「……愛されてるなあ」

「……?」

スバルの話を一通り聞いた俺は笑いながらそう口にした。
俺の突拍子のない発言に、背の低いスバルは俺を仰ぎ見る形のまま目を丸くする。

「スバルには戦は早い。引っくり返しちゃえば、スバルを戦に出したくない、そういうことだからさ」

「!」

「ミスミ様はスバルのことをとても大切に思ってる。だから、愛されてるなって」

「……っ」

俺の言葉を聞いて、スバルは口をぎゅっと結び眉を一杯に寄り合わせた。

ミスミ様が頭ごなしにスバルの言い分をはね除けるのは、一重にスバルが確かな地の力を持ってしまっているからだ。
戦場に出ても十分な力量、少なくとも足手纏いにはならない、それだけの能力。
スバルが有しているそれを、正論で否定することは出来ない。

だからミスミ様はスバルの言葉を切り捨てる。耳を塞ぐように聞かぬと言って取り合わない。
スバルを、たった一人の子を危険に晒さない為に。
ミスミ様がスバルに向ける、一途な愛だ。

「スバルも解っているんだろう?」

自分に注がれる惜しみない愛情、ミスミ様に誰よりも愛されているという事実。
この子もそれを理解している筈だ。

「……解ってる、解ってるよっ、それくらい! 解ってるけどっ…………でも、母上の優しさに甘えてるだけじゃ、オイラ……っ!」

自分の願ってることは叶わない。
顔を歪めているスバルが抱いているのはその言葉。ミスミ様を守るという望みは、親愛を受け止めるということと同時には成り立たない。
だからスバルもミスミ様の真意を解っていながらあの場で引き下がることは出来なかった。

(やっぱ親子か……)

ミスミ様とスバル、どちらも相手のことを等しく想っている。
母親のことで悩みそしてその身を案ずるスバルの姿を見て、俺はほのかな苦笑いを漏らした。

「スバル、もう一度ミスミ様と話をするといい」

「…………」

「ただ、今度は自分が何を考えているのか何を想っているのかちゃんと伝えるんだ。怒鳴り合って自分の意見を主張するだけじゃなくてさ」

「何を想っているのか……」

「うん。自分の気持ちを知ってもらう、それが本当の話をする為の最初の一歩なんだって、僕は思うよ」

そういう俺も、平和な彼女を見て感化された口だが。
ああ、毒されている。間違いない。少なくとも「俺」はこんなことをさらっと言える人間ではなかった。
半ば人生やり直しに等しいここに来て、俺の中で何かが変わってきている。

……それも構わない、と思ってしまっている所から、既に手遅れなんだろうが。
まぁ、悪い気はしない。

意識を切り替える。
目の前には、俺の言った言葉を受け止めて黙り考え込んでいるスバル。
恐らくはこれでもう一度ミスミ様と話が出来るだろう。あっちの方もアティさん達がいるから心配はしていない。
今度はスバルもミスミ様も冷静かつ真摯に互いの言葉を聞ける筈。
もう本来ならすることはない、が…………少し、老婆心ながら語らせてもらうか。

「男は女性を守ってやらなくちゃいけない」

「えっ?」

「泣かせてもいけない」

「……兄ちゃん?」

「僕の母さんの言葉。女性はみんなか弱い生物なんだから、男は何が何でも女性を守る生物なんだ、って。すごい男女差別、ひどいだろ?」

そう言っておどけて笑ってやる。
実際、女性の方がいろんな面で強かったなんてことはざらだ。代表格は女傑か。……いかん、腹痛くなってきた。
スバルは何と言えばいいのか分からないようで困った顔をしていたが、俺はそれに構わず続けていく。

「僕の母さんちょっと頭ぶっとんじゃってる人でさ、価値観だとか考え方だとかが普通の人と変わってた。僕もそれ聞いて育ったから母さんのこと言えないんだけど……」

勿論これは「ウィル」の母親ではなく「俺」の母親だ。
生まれてすぐ母親を亡くしてしまった「ウィル」にはそれに関する記憶はほぼない。不用意にこんな話をするのはまずいかもしれないが、そこは母親代わりの人がいたとでも言って誤魔化せばいいだろう。

ちなみに「俺」の母親は普通にバリバリ生きている。アリーゼを軍学校に入学させて村戻った以来から会ってないが、恐らくピンピンしているだろう。
昔と何ら変わらず全く老けてなかったような気もするし。……何者なんだ、母さん。
そういえば、髪の色違うけど母さんアティさんに少し似てるな。今更だけど。
……当たり前だったりするのか?

「兎に角、そんな母さんは僕に何時もさっき言ったことを繰り返して聞かせてた。僕のルーツは多分それ」

語るまでもないと思うけどね。

「これは全部母さんの言ってたこと。……『女性は守ってあげないといけない。泣かせてもいけない。そして、女性の為に剣をとったなら、自分の命も責任をとらなければいけない。好意の有無は関係ない。絶対に、倒れちゃいけない』」

「……どうして?」

「もし死んじゃったら、守られてしまった女性は自分のせいで男がいなくなったと思っちゃうからだってさ」

いきなり話されて混乱しているだろうが、取りあえず母の独自理論について尋ねてきてくてくれたスバルに、俺は母の言ったことをそのまま引用して返答してやる。
そしてその言葉に何か気付いたのか、スバルははっとして目を見開いた。

「……いいか、スバル。僕達は誰かの為に戦うことを決めたら、絶対生きて帰ってこなくちゃいけない」

見開かれたスバルの瞳を真っ直ぐ覗きこむ。

「守ってそれでハイお仕舞い、それじゃあ絶対いけないんだ」

固まってしまったスバルも、俺の目から瞳を背けようとはしなかった。

「守るって決めた人、そして自分を含めた全員を救う方法を模索しろ。足掻くことを止めるな」

トン、と指をその小さな胸板に押し当てた。

「それが、何かの為に戦うってことを決めた奴の責任」

「…………」

「忘れるなよ」

ミスミ様を絶対に泣かせるな。
それを言外に伝えて、胸から指を離した。
スバルは指されていた胸に手を当てじっとそこを見つめた後、もう一度俺を見返してから、力強く頷いた。

「兄ちゃん、オイラ絶対母上の前から消えない。それで、ずっと母上を守ってやる!」

「ああ、約束だ」

破るなよ? と笑みを浮かべながらスバルの頭をクシャクシャとかき混ぜる。
スバルも笑いながら俺に為すがままにされた後、「おう!」と大きく返事をした。

立ち上がり、微笑み合いながら二人並んで鬼の御殿へ帰っていく。
歩いている内にふと、自分は余りいい見本じゃないな、とこれまでの戦闘を振り返りながら思ったが。
それのせいでこの子が無茶するようなら、それもどうにか出来るように自分が尽くそうと、根拠もなくそう思った。


隣の笑顔も、自分が守ろうとするモノの一つなのだ。













「では……始め!」

合図と共にスバルがミスミ様目掛けて駆ける。
振りかぶられ一気に下ろされた斧撃は、しかしミスミ様が横にゆるりと避けることで空を切った。
間を置かずミスミ様の槍が羽ねあげられ、スバルは慌てながらもそれを的確に回避。直ちに応戦する。

「っ! はぁあああっ!」

「遅い!」

銀と銀の軌跡が交錯し合う。


元服、という仕来りがシルターンの鬼人族には存在する。
子が親に挑み、己の力を示すという一種の儀式的催し。これを経ることで鬼人族の子は一人前として認められるという。
本来父親が請け負うそれを、ミスミ様が担ってスバルを相手にしていた。
これも彼女なりのけじめのつけ方なのだろう。

スバルが御殿に戻ってミスミ様と改めて話を交わした。
ミスミ様もアティさん達と話して落ち着いたのかスバルの想いの丈を全て聞き届け、こうして元服の儀をやることとなった。


父親のように強くなりたい。そして強くなってミスミ様を父親の代わりに守る。泣いているミスミ様はもう見たくない。
「以前」「俺」が聞いたことのあるそれをスバルはアティさんに語ったらしい。
ミスミ様もアティさん口からそれら言葉を聞いて今回の儀式を決心したそうだ。

「っ……。スバル君……」

「……激しいですね」

未熟な面が抜けていないスバルをミスミ様は容赦なく振り払う。流石に急所は避け峰打ちに留めているが、それでも攻撃の苛烈さは凄まじい。
一方のスバルもまた負けられないという気概を背負って、放たれる攻撃に怖じることなく何度もミスミ様に立ち向かっていた。
火花を散らす戟斧。撃ち出される妖術。加減のない母と子のぶつかり合い。それはスバルとミスミ様の想いの深さをそのまま表している。

(スバル……)





「その程度か、スバル!」

「くっ……!」

強い。
こうして得物を何合も交わし合うことで改めて実感させられる。
自分の母親はここまで強い。今の自分では到底及ばないほどに。

守る。
この言葉の意味を、重みを、身体の髄に叩きつけられる。
母を守るということは、今直面しているこの力同等、或いはそれ以上の力と刃を交え張り合わなければならないということだ。
刺し違える、そんな選択肢は打ち捨てて、相手を打倒しなければいけない。

軽々しい言葉ではないのだ。責も無く口にしていいものではないのだ。守るという言葉は。
父親が絶えた理由も解っている。
決して、半端な想いで達成できるものではないのだ。

(それでも……!)

自分は、守る。守りたい。
あの母親を守ってやりたい。
影で涙を流すあの小さな背中を。父親が支えてやれないあの泣き崩れる身体を。
愛する母親を、側で守ってやりたい。

仲間達を、島のみんなを、この今という時間を守りたい。
犯される日常を。血を流し、それでも戦い続ける強い仲間達を。
大切な時間を、大切な人達と共に並んで守っていきたい。

(見てるだけは、もう嫌なんだっ!)

蘇る光景は血塗れのウィルの姿。剣で貫かれ息絶え絶えになっている様は、今まで触れることのなかった死という現実を自分に叩きつけてきた。
ウィルに限った話ではない。あれが、アティにも、他のみんなにも、そしてミスミにもなり代わってもおかしくないのだ。
側にいてくれた人が、自分から遠ざかっていってしまうあの絶望的な感覚。
初めて、“怖い”と、そう思った。

もう知ってしまった。その感情を。胸を毀れた刃で削られるようなあの痛みを。“怖い”の本当の意味を。
大切な人達の帰りを待ち続けることは、もう不可能だ。

(だから、オイラは……っ!!)

ウィルを見る。
攻め立てる槍の僅かな間隙を縫って、此方を見つめ続けている彼を見やる。
ボロボロに傷付き、それでも戦う理由の為に奔走し、そして必ず守り、生き残ってきた彼の勇姿を脳裏に現像させる。
自分を含めた全員を守って見せろ。そう言った彼の顔を思い出す。

母を見る。
振り下ろされた一撃を受け止め、鋭い眼差しで自分を見据えてくる彼女を見定める。
憂いに染まり、伴侶がいない今を嘆き、静かに涙を零す彼女の姿を胸に刻み込む。
慈愛の目で見つめる、彼女の穏やかな顔を瞳に焼き付ける。

(父上のように、みんなを守ってっ!)

母とこの島を守った、もう会えない父親へと想いを馳せる。


「スバルーーーーーーーーーーッ!!!」


大気が圧縮され陣風が巻き起こる。
ミスミの咆哮に従い、風の刃が乱舞した。

(絶対っ……!)

牙を剥き駆け抜ける疾風。
視界が風の姿と色で染まり、引導を渡さんとうなり声を轟かせてくる。

(絶対にっ……!!)

風刃が眼前へと翻り。

そして、相対する己の身体から、猛る電流が迸った。



「母上の前から、居なくならねええええええええええええっっ!!!!」



──────雷光







「相も変わらず……」

とんでもないな、と目の前で起こった雷撃に呟きを漏らす。
スバルが叫んだと同時に放出された凄まじい雷は、風刃をはねのけミスミ様へと命中した。
目を眩むほどの光の塊を直撃したミスミ様はそのまま力尽き、今は仰向けに倒れた態勢でアティさんに抱えられている。

倒れ込む寸前にアティさんが受け止めたので怪我らしい怪我もないが、スバルは泣きついてミスミ様に謝っている。
そんな泣き顔で心配するスバルを、ミスミ様はあやすように慰めていた。

「終いじゃな」

「そうみたいですね」

「……お前は終始落ち着いておったな」

「え?」

「いやなに、そわそわと体を揺らしておった若造と比べ、お前は随分冷静だったからな。どっちがいい大人なのか解らん」

「……先生ですからね。良くも悪くも何でも一生懸命になっちゃう……」

「ははっ、的を得ていますね」

寄り添うようにしているスバル達を、俺とキュウマとゲンジさんは離れて見つめる。
軽口を交わしながらも、声には安堵の音色がそれとなく響き渡っていた。

「それに……」

「うん?」

「……スバルとミスミ様なら、どっちも解り合って元の鞘に収まるだろうって、なんとなく解ってましたから」

「……ふふっ、違いない」

「ええ、自明です……」

目に涙を溜めつつも笑顔のスバルに、やはり笑みでその頭を撫でるミスミ様。
どちらの気持ちも受け止め認めた親子の光景が、何時までもそこに在り続けた。













「…………」

立派に拵えられた墓の前で両手を合して佇む。
此処で眠っている良人へ、ミスミは何時もそうしているように冥福を祈っていた。

里の山際に位置する鎮守の社。周囲が木で囲まれているこの場は静寂に包まれている。
目の前で行われたスバルの元服も見守ってくれましたか、とミスミは目を瞑りながら語りかける。
自分達の息子は大きくなったと、寂しくも笑いながら我が子の成長を話し思い浮かべていた。

スバルを立派に育てていく。
この墓前でそう約束したのがつい昨日のことのように思える。
そして僅か一つの夜が明けた内に、あの子は自分の足で立ち、前を向き、強い意志を携え自分の胸から巣立っていった。
そんな風にも感じた。

本当にあの子は良人に似ている。そう苦笑の思いを禁じえない。
一度言い出したら止まらない気性も、あの何事にも曲がろうとしない一途な眼差しも。全てが良人にそっくりだ。
似なくてもいい所もすっかり受け継いでしまっている。
そうすると、今日この日を迎えることは必然だったのかもしれない、とそんなことを朧げに思う。

やれやれと、側を離れても自分の手を煩わす亡き良人に溜息交じりの文句を添えた。
瞳は柔和な形を保ちながら。


「……では」

また来ます。
そう言って社に礼を告げ、ミスミは踵を返した。
数枚ほどの大きな板石が敷かれる通路を過ぎて、階段に拵えられた鳥居をくぐっていく。
空は燦々と晴れ渡っており、千切れた白雲がまるで足跡のように連なっていた。
空の上から見守っていたのかもしれない、と自分の想像にくすりと一笑して、ミスミは石段をゆっくり下っていった。

「……ん? あれは……」

階段の半分も過ぎた所で、階下に広がる光景をミスミは気付く。
ちょうど開けているそこにはスバルとウィル、それにパナシェとマルルゥが笑い合って戯れていた。
みな年相応の幼い顔で、走り合って遊びに興じている。

「…………」

自然と此方も笑みが浮かぶ。
穏やかな顔つきになるのが自分でもよく分かった。

この光景はとても尊いものだ。ミスミにはそれがはっきりと分かる。
本音を言ってしまえば、スバルにはあそこにずっと居て欲しかったのだが、それも仕方無しだろう。あの子が自分で選び定めたのだから。
それに例えスバルが戦いに身を投じても、この光景は失われない。失わせはしない。

「いい天気じゃ……」

上から降り注ぐ日差しに目を細めながら、階段の下部の所で腰を下ろす。
暖かな日溜りの場所で、ミスミは子供達を見守り続けた。












夢。
夢を見ていた。
暖かく、幸せな夢。

そう、夢だ。
もう叶うことのない、とても綺麗な夢。

すぐ隣、左手には自分が愛した良人がいた。豪快に笑い、もはや聞き慣れた大きな声が耳朶をくすぐっている。
右手にはスバル。今と変わらない姿の息子が自分の腰にしがみついており、良人と自分へ随喜の顔で頻りに話しかけていた。
二人とも笑みを浮かべ、そして彼等に挟まれている自分も幸せそうに微笑んでいる。

三人で共に、一面穏やかな白を装う空間を歩んでいく。
どこまでもどこまでも。いつまでもいつまでも。


それは有り得ない光景で、ミスミが置き忘れていった過去の情景だ。望んでやまなかった一つの願いでもある。
だから、これは夢だ。今は迎えることのない、掛け替えのない夢。

悲しみは、ない。寂寥も、ない。
ないと言ったらそれは嘘なのかもしれないが、少なくとも、今この時はない。

これがほんのひと時の夢幻だったとしても。消えることが約束されている僅かな時間だったとしても。
今自分は確かに、幸せの中に居るのだから。

無粋な想いはなしだ。
今は幸せを噛み締め、愛する二人の温もりにただ抱かれる。
引き寄せ、手を繋ぎ、肌に触れ、温もりを感じ、目の端に水滴を溜め、そして笑う。
二人と共に。満面の笑みで。言葉を交わし。他愛もない話をして。

頬を伝う雫には構わず、胸が思うままに、笑い合う。


とても美しい夢。
どこまでも優しいまどかな夢。
いつまでも続かない、約束の時間。

やがて、温かさと一緒に景色が遠くなり。
黎明のような光が世界を真っ白に染め上げる。
そして────










「………………」

────目が覚めた。

「……ここは」

視界の全景を彩るのは淡い茜色。
僅かに薄い青の色を残す空を見ながら、ミスミはまだ上手く働かない頭でどうやら眠ってしまったようだと認識する。
階段に座ったままの態勢で、暫くその場で時間を過ごした。

子供達は帰ってしまったかと、かなかなと鳴る虫の羽音を耳にしながらぼんやり思う。
動き回る影もなければ遊びの声音も響いてこない。夕焼けに染まりつつある果敢なくも雄大な景色があるだけだ。

回想とはまた違う感情の回帰。未だ手に残る自分とは違う他者の温かみ。
まだ少しは何も出来そうにない。夢心地が抜けきらない己の身体を感じながらミスミはそう思った。
ぬるま湯に浸かるように、もう少し夢の残滓を感じていたかった。

「…………うん?」

ぼうっと茜色をただ瞳に映していたが、ふと違和を感じた。
“未だ残る温かみ”、ということはどういうことか。あの幸せの時間は夢だった筈。
終わってしまった夢の余韻を、目覚めた今もこうして感じるのはおかしくはないか。

眠気眼で首を小さく傾げながら、ミスミは力を身体にこめてみる。
具体的には今自分の左手が握るこの小さくも柔らかいふにふにとした何かの触感を楽しむように…………

「…………って、なぬ?」

頭が鮮明になり意識がはっきり確立する。
左手の何かを離さないまま、首をばっと横に回転させ隣を窺った。


「……どうもー」


瞳が捉えたのは、苦笑いを浮かべるウィルの姿だった。

「は、はえっ!?」

自分でもよく解らない奇声をあげミスミは上体を横に傾ける。
幾分も離れていない、というか肩が触れ合う距離にいるウィルから少しでも距離を取ろうとした。
しかし、下半身がまるで何かにがっちり固定されているようで、身体自体は全く動かない。
大して成果もあげられずミスミは変わらない位置に留まることになった

「なっ、何故そなたがそこにいる?! というか、何故ゆえわらわはそのたの手を、って、のわっ!?」

一向に掴めない現状に絶賛混乱中のミスミは気恥かしさから頬を赤くする。
口から動揺に塗れた声がまくし立てられるが、その自らの言によってまだウィルの手を握っていることに気付き自爆。
慌ててウィルの手を解放して、羞恥で熱を宿す左手を片方の手で抱くように握りしめた。

「ど、どういうことじゃ!? ウィ、ウィルッ、早急に説明をんぐっ?!」

「……しー、でお願いします」

自分の口をウィルの手が塞ぐ。
驚きに次ぐ驚きで冷静さを見失っていたミスミだったが、ウィルの口に人差し指を立てるジェスチャーにぴたりと身体の動きを止める。
ちょいちょい、とウィルが指す自分の脚の方へ目を落とせば、そこには太腿へ被さるようにして眠りこけるスバルの姿があった。
自分の脚を枕にして猫のように丸まりしがみついている。

「……これは」

「遊びが終わった頃に此処にいたミスミ様に気付きまして。寝てるようだからじゃあ起きるまで待ってよう、とスバルが。ぼくはまぁ、おまけみたいなもんです」

スバルを呆然と見下ろすなか、横からのウィルの説明に納得を得る。
つまり自分はスバルとウィルに寝顔をこれ見よがしに晒してしまっていたわけか。
別段恥ずかしがることでもなかったが、先程の演じてしまった恥態によりそうも言ってられない。
再びこみ上げてくる羞恥で顔を紅潮させながら、ウィルに文句を言った。

「それならば起こしてくれれば良かったろうに……。わざわざわらわを待たなくとも……」

「母上を休ませてあげたい、ってスバルが言ったんですよ。つい昼まで試合やってて、ミスミ様を倒しちゃった訳ですし。寝かしてあげたいって」

「むぅ……」

補足される内容にミスミは口を閉じるしかない。
経緯の大元がスバルの思いやりであるだけに、言い返す言葉が見つからないのだ。

しかし納得がいくかどうかはまた別問題。
スバルの頭を撫でながら、それでも不満だという顔でミスミは口を尖らせた。

「一人損をした気分じゃっ」

「いや、損っていう程でも……」

それを聞いたウィルは苦笑。ミスミは彼から視線を外し拗ねたような顔でふいっ、と前を向いた。
ウィルの手を握ったのは間違いなく自分の所為だろう。夢の内容そのままに、寝ぼけて彼の手を取って引き寄せてしまったといったところか。

とんだ失態だ。
ミスミにもそれなりの矜持がある。いい年した女が乙女のような振る舞いをしても似合わない、少なくともミスミはそう思う。ましてやスバル、ウィルの前ではそういったものは殊更引ける。
前者は親という立場から、後者は何だかんだで気に入っている為。凛然とした態度で見栄をはっておきたかったのだ。
そのような思惑から、ミスミは眉を寄せるしかない

(…………待て。それならば……)

そっと自分の頬を触れてみる。
指が撫でるそこは、僅かに水で濡れたような跡。目元は赤くなっているかもしれない。
そよぐ風にひんやりとした冷気をかもし出す湿り気に、ミスミはやはり涙も流れてしまっていたかと悟る。

そしてまた、同時に誰かが涙を拭ってくれたことも。

頬半ばで切れる水の軌跡とほのかに残る他者の温かみ。
思わず目を見開き、頬に指を当てたままミスミは隣を見やった。

「ウィル、お主……」

「拙者は何も見てないでござる」

澄まし顔であさっての方向を向いて笑みを浮かべるウィルに、ミスミは言葉を無くし、そして顔を綻ばせる。
馬鹿者、と呟く一方で、心の際へ静かに押し寄せる細波のような感情が打ち寄せてきた。

「とんだ狸じゃ……」

小言を呟く。崩れてしまいそうな笑みを湛えながら。
それに気付いているのかいないのか、ウィルは口元を緩やかに曲げたまま山頂に傾く夕日を眺めていた。

(リクトとは、やはり似てないかもしれん……)

口にする言葉はそっくりそのままだが、性質はほぼ真逆、捻くれ且つ控えめだ。
良人のような大雑把とは程遠い。一定の距離間、それも此方が不快に思わない心地良い距離を保ってくれる。

(気付いた時には踏みこまれているが……)

そしてさらりと距離を埋め、近付いてくる。ごく自然に。
嫌悪は湧かない。多分それはウィルの本質であり役得だ。
此方が何か思う時には必ず手を貸し側にいてくれる、そんなさりげない優しさ。
好ましい、とミスミは思う。

(良い男(おのこ)とは、みなそういうものなのか?)

良人の場合は、此方の都合関係無しに不躾に足を踏み入れてきた。
心の壁を取り払って、そして豪快に笑い飛ばす。怒る気にもなれず、どうしてか許してしまう。方向性は同じではあるが、ウィルとは全く正反対だった。
理屈なく距離を埋めてくる者。それが良い男の一つの条件なのかもしれない。

(ふふ……)

結局似ているのか似ていないのか。
よく解らないそれにミスミは頬を緩ませ笑った。

「此処の夕日は変わらないですね……」

と、隣でウィルがそんなことを呟く。
感慨深げなその言葉に、ミスミは笑みを浮かべたままウィルへ顔を向ける。

「なんじゃ、何時もこうして……──────」

夕日を眺めていたのか。
そう続けようとしたが、言葉は出てこなかった。


夕日を見つめるウィルの顔に、一人の青年の顔を幻視する。


優しげな顔立ち。精悍な容貌に残る子供のようなあどけなさ。
伸びている髪は赤の色で、柔らかそうなそれが撫でられるように風に揺れている。
穏やかな眼差しは情に溢れており、深い蒼の瞳は、粋美の輝きをそっと携えていた。

「……………………」

思考が停止する。持ち合わせていた言葉もどこかに姿を消してしまった。
これは誰かとか、どうして此処にいるだとか、何故喜々を浮かべているだとか、そんな疑問も形にならない。
その部分だけ世界から切り取られたかのような眼前の光景に。
ただただ目を奪われていた。

「スバル、熟睡しちゃってますね」

「!!」

青年が此方に顔をひょいと寄せてスバルの顔を窺う。
埋められた距離に心臓が跳ね、ビクッ! と身体全身が不自然に震えた。
夕日の色と混ざった、茜色とはまた違う赤模様が頬に浮かび上がってくる。

「? ミスミ様?」

「あっ、えっ、そ、そなたはっ………………え?」

「……何かあったんですか?」

治まらない動悸に四苦八苦していたミスミだったが、瞳が映すウィルの姿に唖然と声を零す。青年は、忽然と姿を消した。
目の前には訝しい顔をするウィルが此方を見つめているだけだ。赤髪の青年などいない。

「……ミスミ様?」

「…………」

先程までの光景は何だったのか。その問いがミスミの中で繰り返される。
目を服の裾でごしごしと拭い、前を見る。ウィルだ。間違いない。ウィルがいる。というかウィルしかいない。

「…………」

「…………みひゅふぃひゃま?」

両手を用いてウィルの頬を伸ばす。弾力を備えるほっぺがみょーんと伸びた。
他の誰でもない。ウィルだ。
「何やってるんですかアンタ……」と非難がましい視線が送られてくるが、ミスミはそれに取り合わず、瞳を丸くしたまま頬をみょんみょん引っ張ってみる。変化無し。

目の前にいるのはウィルである。疑念を差し込む余地はない。
では、あの青年は……幻? 幻覚?

遂にボケてしまったのかとミスミの頭に嫌な懸念が一瞬過るが、一先ずそれは無しの方向で思考を進める。
信じたくなかったし、それに自分が目にした像は幻にしては余りにも克明だった。
見た覚えのない者の顔を幻視するのは少し無理がある……ような気がする。

(未来視か……? しかしあれは高位の巫女の専売特許のようなもので、わらわが扱うのはお門違いというかなんというか……)

「……はにゃひてくひゃひゃい」

ウィルの頬を引っ張ったまま思考に耽るミスミだったが、「離してください」の文句にはっと気付き指を解いた。
頬を赤くしながら「す、すまんすまん」とどもりながら謝罪しつつ、呆れたような顔のウィルを見つめる。

あれがウィルの未来像だったとしても、少し無理があるような気がする。
ウィルという少年の面影を全く残していないし、どちらかというとあれは別人だ。
髪や瞳の色も違った。

(じゃが……)

纏う雰囲気は、一緒だったと思う。
時折見せる優しげな笑み。どこか遠くを見つめる眼差し。
瞳の奥に控える、意志の光。

「なんだったのかのう……」

「何がですか……」

ぷにぷに、と指でウィルの横顔をつつく。
悔しいが、一瞬見惚れてただけに一層気になる。依然頬に余る熱を感じながらミスミは口惜しげに言葉を吐きだした

もう諦めたのかウィルも疲れた顔をしてミスミにいいようにさせている。
どうやら答えは見つかりそうにない。

「……それより、どうしますか、スバル? 起こしますか?」

「……ふむ」

幻の件は取り敢えず置いておき、溜息の色を窺わせるウィルの意見に一思案。
ウィルの言葉に考える素振りを置いてスバルへと目を落とす。
昼に一端の顔を見せていた息子も、今は可愛らしい寝顔をしていた。

顔が解れるのを自覚しつつ、横のウィルにそっと視線を這わせる。
少年もミスミと同じように穏やかな顔つきだ。
我が子を見守るような、教え子の成長を喜んでいるような、そんな表情だった。

(…………)

良人の影が重なる。
青年の影が重なる。


それぞれ違う各々の瞳が、深緑の瞳と重なった。





「……いや、もう少しこうしていよう」

「分かりました」

自然と、笑みが浮かぶ。

「ウィル」

「スバルのことは好きか?」

「当たり前じゃないですか」

「では、わらわのことも好きか?」

「…………そりゃあ、勿論」

「好きか?」

「……好きです」

「……ふふっ」


少年に良人の姿を重ねるのは失礼なのかもしれない。
ただ、今だけはそれも許して欲しい。こうして思い出に浸るのも今回で最後にするから。

過去との別離。
良人を愛した記憶はそのまま。思い出は胸の中にある。
掛け替えのない想いは、そっと胸にしまっておくことだけに留まろう。
キュウマが言っていたように。あの人が遺した言葉の通りに。
良人の影を引きずるのは、もう止そう。
子は自分から離れた。ならば自分も前へ進み、変わらないといけないと思うから。


少年に青年の影を見出してしまうのは身勝手なのかもしれない。
ただ、少し期待させて欲しい。いつかはあの青年のようにたくましくなって、その時もまたこの子を見守っていて欲しいから。

未来の願望。
最初は親が子へそうするように向けていた視線を、何時の間にか別の物へ変えていた少年。
愛した良人の面影を思わせ、けれど良人とは違う言葉を、笑みを投げかける男。
笑いが抑え切れない付き合いに。心地良さを預ける言動に。
隣にいることを許していた。
そんな少年の成長を、息子と同じように見届けていきたい。

そして、あわよくば――――





「うむ、ウィル。先程のようにもう少しこっちへ寄れ。人肌が恋しゅうてかなわん」

「は、はぁ……」

「……ふふっ。家族水入らずというやつじゃな」

「僕がスバルのお兄ちゃんですか?」

「………………まぁ、よい。今はそれで」

「?」


空が夕焼けの色に埋め尽くされる。
薄い雲がたなびき、茜に透く白がよく映えていた。
三人寄り添うようにして、ゆたやかな西日を真っ直ぐ浴びる。


夢の続き。
未来の情景。

息子と少年の二人に挟まれて。
ミスミは温かさに包まれていた。

















スバル

クラス 鬼の子 〈武器〉 縦×斧 〈防具〉 着物

Lv13  HP108 MP87 AT74 DF63 MAT61 MDF57 TEC49 LUC65 MOV3 ↑3 ↓3 召喚数1

鬼C   特殊能力 逆境 火事場のバカ力 「遠距離攻撃・召雷」

武器:風薙の戦斧 AT108 TEC10 CR10%

防具:エイモンカラクサ DF29 MDF10 TEC13

アクセサリ:empty


11話前のスバルのパラメーター。
少し未熟が抜けきらない鬼人族のサラブレット。レベルがまだ周囲と見劣りしている。近中距離の間合いを持っているが、遠距離攻撃は息切れしがち。ガチンコ上等。ていうか彼のボイスには魅力効果があるような気がしてならない。
武器はウィルの誓約の儀式で出してもらった。鬼子君の中では宝物。めっちゃ大事にしている。

話は逸れるが親父さんの戦闘能力はいかほどのものだったのか結構気になる。実際、カイル並みの能力で斧装備とかだったら結構外道。序盤中盤は間違いなく敵無しだろう。防具も着物だろうからTECも補正上昇。最強装備だったらMDFも軽装重装の比ではないほど高くなる。鬼か。いや鬼だった。
スバルの最終進化系見るからにMOVも4とか持ってそう。勇猛果敢とか覚えてたら更に鬼。彼の纏わる話からして素で覚えてそうで困る。最後に火事場のバカ力。いっそ殺して。
素で前衛系最強ユニットだったかもしれない。ビバ轟雷の将。

父親リクトに尊敬を抱き、身近のお兄ちゃん的存在の狸を指標とする。
曰く、「父上のように強くなる! そんでオイラもいつかは兄ちゃんみたいになる!」。終わった。

ウィルの教訓をそのまま倣い、女性(マルルゥ除く)を守るを以後モットーとする。「守る=優しくする」に変換されるのはもはや仕様である。
将来、純真ピュアな熱血ハートはそのままで無節操にフラグたてる具合が予想される。熱血だけに主人公補正も狸の比ではないと思われ。新しい出会い(女の子)の度に相棒のワンちゃんに溜息を連発されるのももはや仕様。然もあらん。




ミスミ

クラス 疾風の鬼姫 〈武器〉 突×槍 突×刀 〈防具〉 着物

Lv18  HP154 MP183 AT87 DF56 MAT101 MDF83 TEC64 LUC70 MOV3 ↑3 ↓3 召喚数3

鬼A   特殊能力 ユニット召喚 「遠距離攻撃・風刃」 祓いの印 祓いの儀式 待機型「見切り」

武器:竜尾のナギナタ AT80 MAT6 TEC8 CR10%

防具:ゲントウボタン DF35 MDF15 TEC11 LUC5

アクセサリ:紅蓮札 耐鬼 「毒・眠り」無効 MP+8 MAT+3 MDF+3


11話前のミスミのパラメーター。
何気にもう2ndクラス。召喚術頼らなくても「風刃」で敵をばったばった吹っ飛ばしてくれるすごい女性(ひと)。この女性の前では憑依召喚も吹っ飛ぶ。うんこも吹っ飛ぶ。
近接でも召喚術でもサポートでも何でもござれで忘れられた島女性陣の中でも一、二を争う剛の者という噂。というか恐らく最強の未亡人。余りの強さに男が寄ってこない。ちなみにこの時点でゴウセツ使用可能。レックスはこれで寸断された。

彼女の戦稽古はウィルの中でアレに次ぐトラウマの象徴。中でも蒼氷の滝での一騎打ガチ三本勝負は真面目に命の危機だったらしい。滝に落とされかけ永遠凍結になるところだったとか。くたばる訳ではないので抜剣も発動しない。死ぬっちゅうより完全永眠。抜剣者を生身で事実上抹殺に追い込んだ“歴史史上初の偉人”(ファーストターミネーター)。「地獄に落ちろ狸ぃいいいいいいっ!!!」と引導を渡しに飛びかかってきた忍者はそのまま滝壺に突き落とした。「未亡人には逆らうな」とは赤狸談。
アレ、マッド、オニヒメのトライアングルはこの世界のおいても不変の真理としてウィルに刻み込まれ、(死の)不安と(死の)恐怖に駆り立てている。こればっかりは悲劇。

イスラ反乱においての共闘を通してヴァルゼルドとは仲が良い。切れまくっていたミスミの姿にこれまたブチ切れまくっていたヴァルゼルドが共感した結果。物騒な経緯である。ビジュ率いる小隊が止めの一撃にて最後に聞いた言葉は「『脳漿をブチまけろ!!』」だったらしい(ちなみに出所はヴァルゼルド殲滅の際のアレ)。
以後流行る。




本編とは直接関係ないが、補完の意味合いを兼ねて「レックス」の歩んだ軌跡を公開。
今回は8~9話。


先日の帝国軍戦闘において、島脱出を前提にするにしても今以上の地力をつけなくては命が危ういと悟ったレックスは修行という名の「剣」蹂躙を開始。いよいよ高速召喚に着手し始める。「剣」に埋まる莫大な技術知識を必要な分だけ掘り起こしていった。自分でもそう簡単にマスター出来なかった召喚術式の簡略化を着実に修めていくレックスを見てハイネルは素で驚愕。変態狸の確かな能力の裏付け、精神面における抜群のセンスを垣間見た。
それを見せつけられたハイネルは嫉妬も多少入れ混じった警告でレックスに制止を促す。「止めろ、取り返しのつかないことになるっ!? 破滅するぞ!?」と叫んだが、「はいはい滅びのバーストストリーム」と言われ流される。ハイネル破滅フラグその2がたった。

赤狸ラトリクスへ。「剣」で色々開発しているが、やはり逃げるに越したことはない、つうかもはや一刻の猶予もない、と帝国軍もといアレの脅威に怯えアルディーラさんの元へ出陣。曰く付きの例のボートを持っていき「これ改造してみない? きっと海陸用機体作成の参考になるでよ?」と嘘臭い笑みを浮かべながら提案。アルディーラさん食いつく。「嵐も突っ切れるくらいの出力とか欲しくね?」とそれとなく提案。「そうね、どうせテストだし派手に逝きましょうか」とマッドな笑みを浮かべるアルディーラ少尉。ミスった、と瞬時に悟るレックス。表面上はにこやかな様を保ちつつ冷や汗を垂らした。その様子を影で看護婦さんが見つめているのは気付かなかった。
スクッラプ場から使えそうなパーツ見繕ってきて、と姉さんに言われ目的成就の為にも大人しく従う。ヴァルゼルド遭遇。くっちゃべった後にバッテリー持っててやる。取り敢えずアホな子だと認識。それから以後ちょくちょく顔を出すようになる。

青空教室終えた後にアリーゼの授業へ。杖の護身術も様になってきており、筆記の方は言わずもがな順調なので、ちょっとした実技訓練やってみる。接近戦で思いのほか戦えることに驚愕しつつ、まだ投擲物に対しての見切りが甘いかなーと考慮。ガンガン投具ブン投げて反射神経養ってもいいのだが女の子にしていいことじゃないので、落ちてくる大量の木の実を回避する方法を採用。
木の下に生徒を配置し幹に蹴りをかますレックス。降ってくる沢山の木の実。はわわわっ、と必死に回避するアリーゼ。ボトッと出現する蜂の巣。ビキッと凍結する空間。サバイビー勃発。足が止まった瞬間死に直結するという物騒な概念空間の中、必死でキラービーから逃げ惑う赤狸と哀れ生徒。ちなみに幸運Zを誇る狸に蜂の九割九分が殺到した。赤いのキユピーをブン投げ囮にし、アリーゼ脇に抱えて全力離脱。逃げおおせた。
「何やねんアレッ…!?」と四つん這いになりぜぇーぜぇー息を切らすダメ教師。抱かれたことで顔を赤くしながらもダメ教師の背をさする善良生徒。好感度上昇。本来ならば「見切り」だけマスターさせる筈が、迫りくる蜂回避により「俊敏」も習得させてしまう。着々とスーパーアリーゼ化。余談だが暫くキユピーがぐれた。

アリーゼと島をほっつき歩いていたら火事騒動が。うん絶好の火事日和だね、と訳の分からない戯言ほざきながら自分の部屋帰ろうとする腐れ。ダメですー!? と後ろから両手で服を引っ張って止めようとするアリーゼ。両足で踏ん張るもザザザッと引き摺られるが、程なくしてやって来たカイルのランニング・エルボーで赤いの沈黙させそのまま連行。
帝国軍が上げたと思われる火事の二件について、効率悪っと考えるが、それよりも如何にして身を隠すかと赤いのは思案する。が、アリーゼとソノラに両脇を固められ実行不可。涙を呑みつつ、どうせならアルディラとミスミ様が良かった…、と心の中で思う。喋ってもないのにソノラから零距離射撃を叩きこまれ、アリーゼからは足をつねられた。後者はともかく前者で虫の息と化す。

やがてフレイズより帝国軍発見の報。ホント勘弁してくださいと胃薬片手に泣きながら向かう。そして昨日続いてアズリアとご対面。「剣」で完治した筈の紫電絶華を被った左手がズキズキと疼き腹もビキビキと唸るなか、アズリアは戦うことはしようとせず「そこをどけ」と前に進もうとする。ここしかない! と目をキュピーン光らせ赤いの「どうぞー!!!」と速やかに道を開ける。腰を直角に折った低姿勢で。ボコられる。カイル達構わず戦闘に突入。カイルとヤッファにスローイングされ戦場のド真ん中に放り込まれたレックスは撤退不可に超嘆きつつなんやかんやで戦う。

兵士を二、三人も片づけた所でアズリアと相対。何故かぽっかりと空けた二人のみの空間、もうお腹一杯ですと血を吐きそうな身体を抑えながら剣を構えていたが、ふとアズリアの悲しそうというかなんというか、とにかく寂しそうな目をしていることに気付く。「お前も、信じてくれないのか…?」とぽつりと言われた言葉に、レックスもデフォで泣く態勢を止めちょっと困ったような顔をする。害悪とはいえ、以前の付き合い(殺し合い)からアズリアの性格を少なからず知っているレックスは今回の事件が彼女の指示のもと行われたとは思っておらず、一部隊の単独行動かもしくは第三勢力の仕業かと考えており、「いやお前そういうキャラじゃなくね?」と言ってあげる。腹さすりながら。目に見えて顔が輝くアズリア。ちょっと犬耳見えた。
好機と見た赤狸は「行けよアズリア。お前には行く所があるんだろ?」とイイ笑顔で言葉を送り、「…ああ!」とアズリアも促され走り出す。一人で。誘導成功。「た、隊長ー?!」とゴリラの絶叫が迸るが瞬時に飛びかかり口を塞ぐ。憂いが無くなった狸は容赦なく殲滅戦を展開した。

これでコイツ等捕えておけば後々楽になると転がっている帝国軍を縄でふん縛ろうとするレックスだったが、マルルゥのSOS信号、ひいてはスバルが捕まったとの報せに、帝国軍放り出して駆け出す。「「「「「「「ちょっ!!?」」」」」」」と余りの瞬速ぶりに目をひん剥くカイル達だったが、慌てて彼等も駆け出す。帝国軍放置。
激走するレックスは自分の考えの浅はかさ、というかアレのことで一杯一杯だった自分を呪いつつギアを全開、子供達に手を出したらぬっ殺すとマジになって疾風となる。やがて遠目から帝国軍を視認、把握。スバルの他にも人質がいることを確認し、取りあえずその場では攻撃はせず突っ込む。

登場したレックスにワカメがお馴染みの笑い声を上げるが「はいはいワカメワカメ」と言って無視。「剣」渡すからさっさと人質解放しろと要求するレックスだったが、視界に現れたイスラに流石にびっくり。子供達と遊ぶ姿に偽りはなかっただけに驚きを隠せない。嫌な笑みを浮かべるイスラはこの時を待っていたと言わんばかりに「アズリアの弟だったのさ!」と自分の正体を高らかに暴露。赤いの盛大に吐血。「ぐばぁ!?」と大地を血の色に染め地にひれ伏す。残酷な真実に胃が砕け散った。「あっははははははははははははは!!」と笑いまくるイスラ。散々辛酸を嘗めさせてくれた赤いのへ復讐を果たした彼は有頂天だった。

嫌味ではなく素で笑いまくっているイスラとピクピク悶える瀕死レックス。蚊帳の外に置かれたビジュ含む帝国軍とスバルゲンジパナシェその他もろもろは汗を流し見守るばかり。土地勘がなくレックスに遅れて登場したアズリアも後頭部にでかい汗を湛えるばかり。
やがてイスラの爆笑に段々我慢ならなくなってきたレックスは血反吐を吐きながら復帰。ふつふつと怒りを募らせる赤いのは、アズリアの存在を意識外に叩きだし戦闘シークエンスへ移行。ようやく笑いが治まったイスラは腹立つ笑みのまま「剣」を差し出すように指示する。レックス中指をおっ立て「死ね!!」とトリガーワードを撃発。大爆破。接敵する前に放っておいたライザーが人質を囲む帝国軍を道連れにした。イスラ含むみなが虚を突かれる。レックス全武装を投擲。投具はもちろん装備していた剣までブン投げ、スバルを捕まえていたビジュや残存兵士を蹴散らし人質から隔離した。全オプションパージしたレックスは抜剣、ビクティム・ビークよろしくファイナルウェポンひっさげ突貫。この間僅か三秒。

イスラぶったまげるなか、怒りの向くまま敵を屠る白髪鬼。結界張ろうとしていたミスミもそれに便乗しダブル無双。まだ息のあった兵士達を瞬殺していく鬼コンビ。偉く息の合う共闘ぶりにミスミは昔のことを思い出しつつ興奮。フラグ成立。「後はテメェだけだモミアゲェエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」とイスラに踊りかかる修羅。だがイスラも汗流しながらジョーカーを切り、全弾発射もとい召喚術の一斉射撃を敢行。森に忍ばせていた召喚師達から超火力が放たれる。自分の背後にスバル達がいることからレックス本気と書いてマジモード。「剣」出力全開で砲撃ブッタ斬った。凄まじい碧の輝きと斬鉄剣レックスの姿にスバル途轍もない憧れを抱き、ミスミほか召喚獣の女性陣一斉に頬を染める。好感度激上。スーパーレックスタイム終了。
カイル達到着する頃には全てが終了。意識飛んだレックスだけがぶっ倒れていた。

夜会話。ベッドに寝かしつけら大量の見舞い客とやり取りしたレックスの元、最後にファリエルやってくる。正体隠さなきゃいけないって不便やねー、などと世間話をする。何気に看護もしてくれるファリエルに、負担をかけて悪い気がしたので大丈夫と声をかけるが、「たまには私にも意地を張らせてください」とやんわり笑顔で告げられる。申し訳なく思いつつもやっぱこの子ええ娘やー、と感涙する思いでファリエルを誉めちぎる。慌てふためく幽霊尻目に、貴方はそのまま優しい貴方でいてくださいと涙ながら懇願した。


ぶっ倒れてから一夜。いつも通りの朝食。今日も部屋に閉じこもるなよと海賊達に忠告を受け、コイツ等にファリエルの爪の垢でも飲ましてやりたいとちょっと泣きそうになる。昨日ダウンしたんだから少しくらいの思いやりはあってもいいのではないか、と静かにご飯を頂きつつ思った。

休日など迎えず今日も島を奔走。授業やったりモグラ叩いたり鬼姫様に呼び出されたり。流石に昨日の今日で帝国軍出て来ないだろうと思いつつ、暇な時間を見つけラトリクスへ。改造ボートの進行状況をアルディーラさんに聞きにいった。「ああ、もう出来ているわよ」とさらっと言われ驚愕。ボートの面影も残っていない戦車のような形状に汗が止まらなかった。名前はポセイドン号らしい。いずれ空と陸バージョンに変形する機能をつけたいだと笑みを浮かべながら語ってくれた。勝手にしてくれ思った。看護婦さんが自分達を見ていたことに気付き声をかけるが、シカトされる。凹む。

その後にテスト運転の名目でボートを預かり、ひぃひぃ言いながらリアカーで海岸まで持っていく。これで舞台は整ったと希望に溢れる顔を浮かべる赤いの。不安要素には目を瞑り、やはり決行するのは深夜だと計画して準備を始める。食糧かき集めてる時アリーゼから何の準備をしているのかと尋ねられるが、「天体観測さ」と清々しい笑顔にサムズアップで交わす。自分も行きたいと言われてたが子供は寝てなきゃダメだと言い繕った。頬を膨らませるアリーゼを見ながら、自分の行動にこれでいいのかと心境複雑な疑問を抱くが、背に腹はかえられないと割り切る。取り敢えず脱出可能だったらもう一度戻ってこようと決め、そして後ろめたい気持ちからアリーゼの頭をクシャクシャ撫でた。
「!!?」と初めてかもしれないレックス主導のスキンシップに顔を真っ赤にさせるアリーゼだったが、その後は終わるまでずっとレックスにされるがままだった。一頻り撫でられたあと、アリーゼ嬢は意を決して「今度二人っきりで島の外れにいってみませんか!?」と誘う。「二人っきり」をかなり強調したが、今夜島を発とうと思っているレックスは罪悪感みたいなものが過っており大して届かず、アリーゼの真意など気付くことなく苦笑いして了承した。華咲いたような笑顔を浮かべるアリーゼと、がしがしと髪をかくレックスだった。

深夜。後戻りは出来ない、と良心に蓋をしながらポセイドンに乗り込むレックス。アリーゼの笑顔がずっと頭にこびり付いており、ここまできて行くか行くまいか迷ったが、アレにまつわる事件を思い出し瞬時本能を肯定した。死ねば何も出来ない、だけど生きてれば何でも出来る、と確かな道理を心で謳った。
エンジン点火。さてどうなる、と緊張した面持ちで動力部を見守っていたが、その二秒後音が消える。在り得ないオーバーブーストで聴覚が意味を失い視界の全てが斜線と化した。仰け反って吹っ飛びそうになる赤いの。ブォオオオオオオオオッッ!と咆哮するラトリクス社製マークのブラックエンジン。そして発生する嵐。ていうか竜巻。刹那、衝突。
竜巻のどてっ腹に風穴開けたポセイドン号は、程なくして大切山おろしをかまされ天高く舞い上がった。

翌朝。朝食にも顔を出さず、部屋にもいないレックスにアリーゼは不安を感じる。まだ天体観測から戻ってきていないのかと島中を探してみるが、見るかることはなかった。不安が不安を呼び嫌な予感が過るようになったアリーゼは走り出してカイル達にレックス探索を頼もうとするが、そこでジャキーニの乱が発生。焦燥に駆られながらも鎮圧に参加。速攻で終わらせようとアリーゼは加減無しの召喚術を準備する。
そして戦闘開始。そしてその直後放赤いの出現。突然姿を現した赤いのにその場にいるみながぎょっとするなか、アリーゼはほっと息をついた。が、すぐに自分の教師の様子がおかしいことに気付く。何故か全身ズブ濡れ。歩みを進めるたびに靴がカポカポ音を鳴らし、水滴をポタポタと滴り落とす。瞳は前髪に隠れて見えず、異様な空気を纏っていた。「「「「「「「…………」」」」」」」とジャキーニ一家もカイル達も口を閉ざす。何ダアレハ、というのがこの場にいる全員の見解だった。そんな沈黙が下りる戦場だったが、ジャキーニに召喚されたサハギンが近付いてきた赤いのに飛びかかる。「「「「「「「あっ」」」」」」」と気付いた瞬間、サハギンは空の星と化していた。レックス暴走。「……うがぁあああああああああああああああっ!!!」と顎部ジョイント引き千切る勢いで駆け出した赤いのはジャキーニ一家に突撃、獣じみた動きで殺戮の限りを尽くした。「「「「「「「何があった…」」」」」」」と目の前で繰り広げられるジェノサイドに、カイル達を汗を流しながら心を一つに合わせた。乱鎮圧。

竜巻に吹っ飛ばされ海に叩きつけられた憂さ晴らしを済ませた赤狸。結局脱出は不可能なのかと盛大に凹んでいると、アリーゼと半日ぶりの再会を果たす。再会するのはもうちょっと長くなる予定だったんだけどなあと涙を堪えつつ、怒ったり心配したり首を傾げたりして百面相をしているアリーゼに「じゃあ昨日の行った通りどっか行こうか」と声をかける。顔を赤くするアリーゼ。頷いて、二人だけで出掛ける。
レックスの案内でイスアドラの温海へ。普通の浜辺でのんびりできたらいいと思っていたアリーゼは驚嘆の声を漏らす。もしかして朝居なかったのは此処を探していたから? とアリーゼは脈数上げながら想像を膨らませる。ぶっちゃけ早朝流れ着いたのが此処だっただけだった。赤いのがただで起きてたまるかと利用しただけである。救いがないくせに好感度上がる。
温海に足をひたしてはしゃぐアリーゼとキユピーを見て和むレックス。今度は女性(みんな)連れてきて水着姿見よう、と野望を密かに打ち立てる。やがてアリーゼに引っ張られ、苦笑しながらも水遊びに興じた。半日遊び通し、ご飯も魚釣って此処で済ませた。

アリーゼと夜会話。楽しかった、また来ましょう、とまだ興奮した表情でアリーゼに言われる。レックスそれに相槌をうち、今度はみんなで来ようと言ったら臍を曲げられた。首を傾げだが、すぐにアリーゼは機嫌を戻し笑顔で色々お喋りを開始。何時になく饒舌なアリーゼに少し狼狽えたが、聞いてて飽きなかったのでレックスは笑みを浮かべながら聞き手に回る。アリーゼがはっと正気に戻るまでお喋りは続いた。
その後は遊び疲れ寝てしまったアリーゼに肩を貸して星を眺めていたが、流石にこのままじゃいけないかと撤収。こういうのも偶にはいいな、と思いながらアリーゼを起こさないように帰り部屋へと運んだ。
最後に一日中サボり通したということでカイル達に折檻を喰らい、一日が終わりを告げた。
ちなみにボートは既に回収済み。


アルディラに呼び出されラトリクスへ。クノンの様子がおかしいと聞き少し心配になったレックスは、取り敢えず与太話をしにクノンの元へ行ってみる。遭遇した瞬間嫌な顔され死にたくなったが、めげずに話かけてみる。そして話をする内に段々とヒートアップしてくるクノン。自分への不満からレックスへの文句に変わり、もう一度自分への不満に変わった所で「アルディラ様と笑みを交わす貴方が許せない!」とシャウトされる。電流をピカチュウしながら。
……何この修羅場? と頭の警鐘を聞きながらじりじり後退するレックスだったが、クノンの泣きそうな顔を見て踏み止まる。前進してクノンの腕を確保、強引にアルディラの元へ連行する。抵抗するクノンはピカチュウどころかライチュウしてくるが、レックス気力と漢の使命ではねのける。移動する間にもクノンに言葉を送り続けながら説得、溜まってるものアルディラに直接ぶちかませと言い聞かせる。クノンは顔を伏せながら、赤いのは意識が吹っ飛びかけながら、ようやくアルディラの部屋へ到着。言葉のガチンコしてもらった。
一方的にクノンのターンだったが、アルディラがそれをしっかり受け止め問題解決。泣く泣くクノンの頭を撫でるアルディラに感動しながらも、身体に力が入らないレックスはそのまま意識がブラックアウト。入院した。


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