<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38827] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:14aa3c64 次を表示する
Date: 2018/06/30 21:43
※オリ設定の嵐です。要注意重点で。
※俺の○×はこんなんじゃねえ! と言われかねん表現が多用されています。ご容赦ください。
※今も昔も地理と歴史は駄目駄目です。勘弁してください。
※人によっては一部グロテスクかと思われる描写有ります。
(※2013/11/10初出。2015/01/17、アニメ第一話よーやっと見れた記念にpixiv様にて投稿始めましたnovel/show.php?id=4799810)
(※2018/6/30、その他板への移動に伴い題名変更)





 こちら『あさうみ2000』! クソッたれ、バケモノだ! ……喰ってる、喰われてる!!


                           ――――――――回収されたブラックボックスより




 平静25年、天気明朗なれど波高し。




 最初に、手元のメモ。続いて、今しがた自分が乗って来たバス(という名前のお古の軽トラック)に目をやってみます。

「えぇと。大帝国海軍ブーゲンビル飛行場発、ブイン仮設要塞港行き……うん。これなのです……よ、ね?」

 手元のメモと、バス(という名前のお古の軽トラック)に書いてあった文字、そして、バス停(ヤシの木)の表示に間違いはありませんでした。
 ブイン仮設要塞港。
 それが私、艦娘式暁型駆逐艦、電(イナヅマ)が新しく配属されることになった基地の名前なのです。
 が、

「……要塞?」

 潮風で風食し、角っこが取れて丸みを帯びたコンクリート製の護岸。その隣の砂浜から直接伸びた古ぼけた木板の桟橋。そしてその桟橋の端っこで麦わら帽子をかぶって釣り糸を垂らしているおじいさんと猫とカモメ。
 どう見ても故郷のと変わらない田舎の港です。本当にありがとうございました。

「気のせいじゃないよ、艦娘のお嬢ちゃん。間違いなく、ここがブイン基地さ」
「え?」

 運転手さんのその言葉が信じられず、命令受領書の裏に書いてあった走り書きに再び目をやってみました。

「……え?」



 ウチの如月ちゃんがエロ過ぎて困る&ウチの如月ちゃん轟沈追悼の艦これSS

『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ 最初はグー』



「ここが、ブイン基地」

 そこは基地とは名ばかりの、二階建てのプレハブ小屋でした。適当な大きさの板切れを近くのヤシの木にヒモで括り付けただけの看板には、やる気の感じられない文字で『1F:食堂、通信室、あとついでに基地司令の執務室』『2F:各提督執務室(201~204号室)』と殴り書きされていただけなのです。
 はっきり言って、ショックでした。
 私と同じ工場で少し前に生産されて、佐世保や呉の鎮守府に配備された私と同じ電ちゃん達から届いた手紙は、それはもう幸せいっぱい夢いっぱいでした。

(私が配属されたこのブインだって、南太平洋に浮かぶ、常夏の楽園だって聞いてたのに……)

 あたりを見まわしてみれば、恐ろしく澄み渡った青い空、天高くに広がる白い雲、どこまでも続く遠浅の紺碧、純白の砂浜、寄せては返す優しい波の音、南国の定番ヤシの木に……まとわりつく疫病バエや蚊を尻尾で追い払う牛さんに、手入れのスキをついて中途半端に伸び始めた雑草まみれのイモ畑、そして私の足首をコツコツコケーと軽くついばむニワトリさん達。
 うぅ、記憶の中にある原型(オリジナル)の電のお母さん。電は早速くじけそうです。涙が出そうです。






 ブイン基地(という名前のプレハブ小屋)の203号室。
 そこが私の提督がいる、執務室です。私の配属先は第203艦隊だそうです。
 まさかとは思いますが、部屋割り=艦隊名なのでしょうか……
 人の気配と話し声がしますね。男の人と、女の人の声です。何を喋っているのかまでは分かりませんが、どうも険悪そうです。天候不順で到着が丸一日遅れたのがいけなかったのでしょうか。

(……)

 ノックを前に最終確認。
 状況1:室内に提督以下、先任艦隊全員が揃っており、一糸乱れぬ厳格そうな雰囲気だった場合。

 ――――艦娘式暁型駆逐艦、電(イナヅマ)! 現時刻を持って提督の指揮下に入りました! 高性能をご期待ください! いざ、暁の水平線に勝利を刻まん事を!!
(何か硬すぎるかも……)

 状況2:室内に提督以下、先任艦隊全員が揃っており、和気あいあいとした雰囲気だった場合。

 ――――えっとぉ、初めましてぇ~。私は~、艦娘式暁型駆逐艦の~、電って言います~。よろしくお願いいたしますね~♪
(何か絶対に違うかも……)

 状況3:その他の状況だった場合。

 ――――艦娘式暁型駆逐艦、電です。世に平穏のあらん事を。
(これなのです!)

 ノックを4回。
 つい緊張しすぎて返事よりも先に扉を開けちゃったのは内緒です。

「し、しつれいしみゃ!?」

 扉を開けた私の目の前は、何かの辞書でした。
 ごっすん。と、私の顔面から聞こえてはいけないような音がしました。ですが、こんなナリでも私は艦娘――――戦闘艦です。分厚い広辞苑の顔面直撃程度でどうにかなるような安っぽい装甲の持ち合わせはありません。でも痛いものは痛いのです。涙が出そうなのも気のせいなのです。

「ぐーか! ぐーで殴りやがったな! オレを! 乙女の顔を! ぐーで! このクソ提督ぶっ殺す!!」
「上ォォォぅ等だこのクソ軽巡! 億兆倍にして熨斗もセットの半額セールだこの野郎! 折って畳んで昨日作った干物と一緒に庭の隅っこで日干しにしてやる!!」

 真っ白い将校用の軍服に身を包んだ男の人――――多分この人が提督さんだ――――が、私よりもずっと大きな身長で、龍の角のような機械製の耳をピコピコといからせ、左目に機械的な眼帯をした艦娘さんともの凄い悪口を言い合いながら大ゲンカを繰り広げていました。
 予想外にも程があります。

「あらあら。大丈夫?」

 床に座り込んだまま、目の前の大ゲンカをただ眺める事しかできなかった私に手を差し伸べてくれたのは、緩やかに波打つ黒の長髪が綺麗な、女の人でした。
 ですがその人の背中には、大きな金属製の部品(煙突?)があり、前髪には紫色の蝶の羽のような髪留めが、そして後ろ髪を結えていた簪だと思っていたのは、背中から伸びていた電探の帆でした。

 ――――この人も、艦娘さんだ。

「可愛い新人さんね。初めまして。私は艦娘式睦月型駆逐艦2番艦『如月』よろしくね」
「は、はい。よよろしくお願いいたします。世に平穏のあらん事を」
「な、なかなか斬新な挨拶ね……」

 そう言って、如月さんは何故かひきつった笑顔になってしまいました。やはり、遅刻したのが駄目だったのでしょうか。

「それはそうと……おほん。総員、傾注!」

 一瞬で如月さんは今まで浮かべていた柔和そうな笑顔を消し、引き締まった表情になって、そのまま教本にでも乗せられそうなほどきれいな敬礼をしました。

「ようこそ、駆逐艦『電』。我々、ブイン基地所属井戸少佐麾下第203艦隊は、貴女の着任を歓迎します!」

 壁際でけんかの行方を見守っていた他の方々――――多分、私や如月さんと同じ艦娘だと思います――――も、一瞬遅れて一糸乱れぬ敬礼をとりました。
 提督さんと、あの艦娘さんはまだ取っ組み合いの喧嘩を続けています。

「じゃあ、改めて自己紹介ね。私は、艦娘式睦月型駆逐艦2番艦の『如月』よ。よろしくね」

 元の温和な笑顔に戻った如月さんに続いて、他の艦娘さん達も自己紹介をしてくれました。
 如月さんの次に答えてくださったのは、金の飾り紐をあしらった巫女さん服のようなものを着た、溌剌とした雰囲気の艦娘さんでした。

「Hi! ワタシは艦娘式金剛型戦艦の『金剛』デース! 4649ネー☆ 所属はお隣の202号室の、水野中佐の202艦隊ネー」

 なんで203艦隊に? と聞き返すよりも先に、私の提督のトコの紅茶切れたからおすそ分けして貰いに来てただけデース。と、金剛さんが答えてくれました。図々しい。
 思っていたよりもブイン基地というのはご近所付き合いが多いのでしょうか。
 二人目。弓道着と胸当てと赤く短い袴を履き弓掛を挿した、真っ直ぐな黒髪と肩盾のような飛行甲板が特徴の、大和撫子の見本のような艦娘さんです。

 黙っていれば大和撫子の見本のような艦娘さんなのですが……一心不乱に食べる姿は残念の一言です。

「ハッフ! ホフ! ハフハフホフホフホフマン大佐!  我々に援軍(お代わり)はあるのですか!? うおおおおおぉぉぉン! 今私がしているのは食事ではない、これが予の間食である。でも今の私はまるで艦娘式発電所だ!! あ、私はこの203艦隊所属の艦娘式正規空母『赤城』です。あと早速で悪いんだけど何か胃に溜まるもの持ってない? 入渠中って食べるか寝るかお風呂入るかお布団の上で資材(ボーキサイト)齧って漫画読むくらいしか自由が無いし」

 ごめんなさい。帝国を出る際の検疫で唯一持ってこれたポンカン飴は、昨日全部食べちゃいました。

「そっかー。ヤシもヤシガニも、今日の上限までたべちゃったしなー」

 赤城さんは、口の端から甲殻類か何かの脚を覗かせながら……い、いえ見間違いです! きっとヤシの実か何かのスジです。私は何も見ていませんし、聞いてません『うん。すごく好きなのよ……ヤシガニ』なんて呟きも聞こえていません!
 三人目。探査灯のような形状に機械化された左目が特徴の、セーラー服の艦娘さんです。バトーさんの御息女? どなたですか?

「初めまして。重巡洋艦の古鷹といいます。わたしもこの203艦隊の所属なんですよ」
「よ、よろしくお願いします」
「本当はあと二人いるんですが、今遠征に出ているんですよ。あと、後ろの二人は203艦隊の司令官である井戸少佐と、同艦隊の総旗艦である軽巡洋艦『天龍』さんです。今の二人は、まぁ、その……あの……」

 古鷹さんがチラリと後ろを振り返って、それきり言い詰まってしまいました。
 無理もないと思います。

「ヲ級の変異種と護衛艦隊をオレと赤城と古鷹の三人共同で全艦撃沈! リ級を単独で3隻!! 黄金は無理でも銀剣はどう考えても確実だろ! なのに何でオレだけ出場停止なんだよ!? 二人も一緒じゃねぇのかよ!!」

 天龍さんが納得がいかない、といったように提督さんに詰め寄ります。
 軽巡単独で重巡3隻を撃沈。
 いったいどこの戦意高揚映画の主人公でしょうか。確かにその戦果なら銀剣突撃徽章も――――授与条件が一会戦中に、単独で軽巡以上を7隻轟沈ですから――――まぁ、ひょっとしたら夢ではないです。
 しかし、その提督さんは、天龍さん以上の大声で怒鳴り返しました。

「五月蝿ェぞ! 手前ェがソロでやった重巡3隻が問題なんだよ!! 何なんだよあの報告書は!『タンカー掴んで木刀の代わりにしました。途中で折れました。次はもっと頑丈なタンカー寄こしてください』だぁ!? ふざけんじゃねぇぞ! 三月に一回の大補給の機会フイにしやがって! 昨日の合同会議の時に俺がどんだけ肩身の狭い思いしたと思ってやがる!! 一兵卒から基地司令まで、廊下で誰かとすれ違うたびに舌打ちされるんだぞ!? 給食のおばちゃんにだって露骨に量と中身減らされてるんだぞ!? 具の入って無い雑煮ってなんだよ!? 今日もまた基地司令から直で呼び出し食らってるんだぞ!? 通信中継とはいえ大将以下勢揃いの軍法会議だよ! 俺の胃の痛さが解るかこのヤロウ!!」

 天龍さん、それは流石に……

「知るか馬鹿! テメーだってあの時オレに乗ってたじゃねーか! しかも『コイツら絶対ブッ殺す!』ってオレと一緒に思ってたじゃねぇか! ならテメーだって同罪だろうが!!」

 提督さん、それはさすがに駄目ですと電は思います……

「あ、あはは……ごめんなさいね電ちゃん。本当は皆、貴女の歓迎会をしたかったのだけれども、この様子じゃあ――――」

 突如として、今までの雰囲気をすべて引き裂くような、けたたましく、不吉なサイレンの音が鳴り響きました。
 そのサイレンはこの部屋の中だけではなくて、島中に配置された拡声器を通じて、ブイン島の隅から隅まで鳴り響いていました。

『緊急放送。緊急放送。203艦隊第一種戦闘配置。203艦隊第一種戦闘配置。定期巡回中の201艦隊より緊急入電。ブイン島沖東150キロの地点にて有力な深海棲艦を確認。雷巡チ級、軽空母ヌ級を複数認む。応援求む。繰り返す。203艦隊第一種戦闘配置。203艦隊第一種戦闘配置』

 出撃。
 そのためにブインくんだりまで来たはずなのに、サイレンと共に響いてきた放送の内容を聞いた私の頭は真っ白になってしまいました。
 今の今まで骨肉以下の醜い子供の喧嘩を繰り広げていた提督さんと天龍さんが、一番最初に反応しました。

「天龍、水野中佐と202艦隊は!?」
「はい。水野中佐は現在、特殊任務を遂行中です。第202艦隊の所属艦は、入渠中だったそこの紅茶……金剛を除いて水野中佐と共に全艦出撃中です」
「Oh,ソーデシター。ワタシの提督からの伝言Forgottonデシター。水野中佐麾下、第202艦隊所属、艦娘式金剛型戦艦『金剛』は、提督不在の本日のみ、かつ緊急の場合に限って一時的に203艦隊総司令、井戸少佐の指揮下に入りマース」

 そりゃあ助かる。と提督さんは言い、続けて私たちの方に振り替えると、今までとはまるで別人のように違った引き締まった表情で叫びました。

「第203艦隊総員! ドッグに向かって駆け足、すゝめ!!」
「「「了解!!」」」

 艦隊の皆さんに遅れること一瞬、私も敬礼を返してそのままプレハブ校舎を飛び出し、すぐ裏のイモ畑と隣接した港のドックに向かって駆け出しました。





「報告! 第203艦隊総司令井戸提督麾下、軽巡洋艦『天龍』以下3隻+1現在地! 2隻遠征中!!」

 203のドックこと、ブイン港の桟橋の端っこに整列した私達と対峙する形で天龍さんの報告を聞いた提督さんが、説明を始めました。

「よろしい。諸君らも知っての通り、当ブイン基地の201号室に在住の、オーストラリア海軍のファントム・メナイ少佐率いる第201艦隊が定期哨戒中に航空戦力を含む有力な敵部隊と遭遇、現在も遅滞戦闘を継続中である。少佐の艦隊は旗艦の『愛宕』……ああ、今は『ハナ』だったな。兎に角、旗艦以外は全て通常戦力である。少佐ならば負けはしないだろうが、それでも元々の数が――――」

 それにしても、この提督さんも天龍さんも、第一印象がアレすぎたからかもしれませんが、こういう真面目な表情をしているとなんだか違う人みたいです。
 おっとっと。提督さんの話に集中しなければ。

「――――したがって、我々第203艦隊は全力を持って敵主力の側面から打撃ををかけ開囲を試み、201艦隊の撤退をより確実なものとする。何か質問は?」
「はい! ハイハイハイ! 提督、全力ってことは、オレも――――」
「お前は黙って謹慎してろ、天龍」

 あっさりと断られた天龍さんの機械耳は、彼女の表情の落ち込み方と連動するかのように、ぺたんと倒れてしまいました。

「代わりにと言っちゃあなんだが天龍、新人のお守を頼む。お前にしか出来ないし、お前にしか頼めないんだ。頼む」

 ――――お前にしか出来ないし、お前にしか頼めないんだ。

 そう言われた途端、今度は天龍さんの表情が今までに無いくらいに明るく輝き、機械耳もピコピコと激しく振り動いていました。

「え……オレに任せろ! 任せとけ!!」

(……なんだか、原型(オリジナル)の電が実家で飼ってた犬みたい)
「電、お前は今日のところは見学だ。配属初日で連携も何もあったもんじゃないからな」
「りょ、了解しました」
「よろしい。では編成を発表するぞ。隊形は単縦陣。前衛から順に如月、古鷹、金剛、赤城」
「「「「はい!」」」」
「なお、金剛と赤城は艦隊に随伴しなくても良い。入渠中だしな。後方からの支援に徹してくれ。赤城、金剛、水上機の無線周波数を合わせておけ」
「「了解しました」」

 こないだヘシ折ったタンカーの中にあったのが補給用のボーキサイトだったので、動かせる艦載機は赤城に載っているので全部だ。と提督さんは言いました。
 戦艦の決戦火力で地均し(この場合は海均しでしょうか?)、快速の駆逐艦で傷口を広げ、重巡洋艦の砲打撃で撃ち漏らしを片付ける。と言ったところでしょうか。でもそれなら集中砲火を受ける如月さん(駆逐艦)と古鷹さん(重巡洋艦)の配置が逆の方がいいのでは?
 そう意見具申しようとしたちょうどその時、提督さんは私と天龍さんの配置を発表するところでした。なので、結局言えませんでした。

「天龍、電は金剛の艦橋にて待機」
「「はい!」」
「なお、本作戦の作戦旗艦は如月とし、私も同乗する」

 私も同乗する。

 その一言を聞いた瞬間、如月さんはこの世全ての法悦を極めたような表情のまま、何故か自分の体を抱きしめるようにして、内股でガクガクと痙攣していました。凄く艶っぽくて、でもとても破廉恥な雰囲気でした。
 一方の天龍さんは、可愛がってもらっていた飼い主から突如として殴るけるの暴力を受けた時の子犬のような表情をしていました。絶望や恐怖には鮮度があるって本当だったんですね。とっても素敵です、天龍さん。

「では状況を開始する。如月以下、順番に展開始め!!」
「如月、提督と一緒にイきます、イっちゃいます!『展開』ッ!!」

 如月さんは、無駄に洗練された無駄しかない無駄に艶やかな掛け声と共に三回転半月面宙返りで海に飛び込み、直後、もの凄い大爆音と閃光が周囲を包み込みました。
 光と音が過ぎ去った後、海の上には人の形をしたものは無く、あったのは鋼鉄の艦船が一隻だけでした。

『駆逐艦『如月』解凍作業終了いたしましたわ。さ、提督。如月はいつでもオッケーですわ』
「よし。総員、搭乗開始」

 その艦のどこからともなく響いてきた如月さんの声と共に降りてきたタラップを駆け上がり、提督はそのまま艦橋へ。私たちはそのまま甲板の縁付近で待機です。

『展開』の二文字が示す通り、圧縮保存状態――――俗に言う『艦娘』としての私達は、いわば待機状態なのです。
 軍事関係にあまり詳しくない民間の方はよく勘違いされがちなのですが、我々はあくまで戦闘艦なのです。こちらの姿――――全長数十メートルオーバーの戦闘艦の方が我々の本来あるべき姿なのであり、艦娘としての姿は日々進化を続ける深海棲艦に対抗するべく生み出された形態の副産物なのであり、日々の整備・保守点検を容易にするためなのであり、ごはんがおいしくてお布団ふかふかなのです。

「如月、抜錨! 最大戦速で目標海域まで進め! 搭乗中の各艦。沖に出次第、間隔をあけて順次展開に入れ!」




 ブイン島が小さな点になった頃、最後に残った金剛さんの『展開』が終了し、私と天龍さんはそちらに移りました。私と同じ駆逐艦程度ならほんの数秒で回復する程度の爆音と閃光だけで済むのですが、彼女と同じ大戦艦クラスの『展開』時には、小型のキノコ雲が発生するほどのエネルギーが周辺に爆発的な勢いで放出されるので、本当にこういった沖合でしか『展開』できないのです。
 もし、基地周辺で彼女達が『展開』するようなことがあった場合、それはもうその基地は陥落寸前で、そんなことを気にかけている場合じゃあないのだと思います。

『提督、第203艦隊+α、作戦参加中の全艦、配置完了しましたわ』
『金剛さん、赤城です。水上機隊が敵艦隊を目視確認。今そちらに諸元を送りますね』
「Oh,サンキューデース」

 そんな事を金剛さんの艦橋で考えている内に、ついに敵艦隊を捕捉しました。まだ水平線の向こうですが、ここからでも黒煙がいくつも上がっているのが見えました。

「かんむすさんかんむすさん。でーたがとどいたのですよ」
「しょげんにゅうりょくしょげんにゅうりょくしょっぎょむっじょ」
「このいっせんに、こうこくのこうはいはありなのですか?」

 艦橋の隅っこにある補助席に座っている私たちを尻目に、あたりでは妖精さん達――――展開時の余剰エネルギーを利用して作られた艦娘式戦闘艦の無人運用システム群の総称――――が、忙しなげに動き回っていました。赤城さんに搭載されている艦載機や、対空砲座の運用、ダメコン要員も全てこの妖精さん達が賄っているのです。私たち艦娘だけでもひとまずの運用は出来ますが、艦内装置の操作や舵取りやキングストン弁の自抜などの大雑把なものに限られてしまいます。
 例外は――――

『GOODデース! 全砲門、オープンファイヤー!!』

 無人の艦長席の隣に立つ金剛さんが、水平線の彼方を指さして号令をかけました。
 直後、防音・防衝撃処理が施されているはずの艦橋が大きく震えました。









【提督、金剛さんからの第一砲が着弾しました。弾着評価、近、近、直、遠。挟差。軽巡ヘ級の撃沈を確認】
「第一射で挟差、かつ直撃とは……流石は『魔術師』水野中佐の右腕といったところか」

 艦長席に深く座して状況を静観していた井戸が、顎の無精の剃り残しを何度も何度も撫でつけながら呟いた。
 駆逐艦としての本来の機能と形状を取り戻した『如月』に、井戸は手招きをし、それに呼応したかのように井戸の背後の虚空から艦娘状態の如月が顕現――――妖精さんシステムのちょっとした応用だ――――し、井戸の背後から手を回してそのまましだれかかるようにして顔を近づけ、囁いた。

【ねぇ、提督……そろそろ、欲しいの】

 妖精さんと同じ、疑似的な物質となるまで緊密化された情報体状態になっている今の如月に匂いなどあるはずがないのだが、その囁きに乗って微かに甘い香りが己の鼻腔に届いたように井戸には思えた。

「……そうだな。そろそろ包囲の外側からの攻撃だと気づかれるだろうし、頃合いか」
【! 提督、では!】

 如月の立体映像の表情が明るく輝く。ともすれば、先ほどの天龍にも負けないくらいだ。

「うむっ。203全艦に緊急連絡だ。これより作戦旗艦『如月』は超展開に入る! 超展開中の支援、よろしく頼まれたし!」

 井戸からの通信に答えるかのように、古鷹と金剛らによる砲打撃の圧力が一層強くなった。敵――――深海棲艦隊も、そちらに気を取られていて、艦隊から少し離れて単独で接近する『如月』にはまだ気づいていない。
 艦長席の背もたれに深く身を預けた井戸に、まるで幽霊が取り憑くかのようにして如月の映像が重なっていく。
 それと合わせて駆逐艦『如月』の方でも大きな変化が起こっていた。何と、被弾や破損は無いのに艦体が垂直方向を向き、その船底を大気に晒し始めたのだ。

「【如月、超展開!!!】」

 如月と井戸の掛け声に答えるかのように、船体が太陽のように激しい光を放ち始め、輝く。
 丁度その時、井戸の脳裏には次々とありえない記憶と思い出が次々と浮かんでは消えていった。

 母様からもらったお下がりの蹴鞠、マスコミにリークされた我々の存在、隣の美代ちゃんと一緒に行った町合同での予防接種、『愛宕』の適性個体が見つからない、同じような金属の破片を何枚も何枚も触らせ続ける検査、進まない開発と迫る納期とTeam解体の危機、校長室に呼ばれた私、悪魔の囁き、厚生省人事部の入江さん、化石のような選民思想の攘夷過激派、そして――――

 間違い無い。これは如月の記憶だ。混入している。
 混ざるはずが無いモノが混ざった結果の拒絶反応として、井戸の体が大きく痙攣する。

 自分は今艦長席に座っているし座らせているしさっきは背後から首筋に手を回して耳元で囁かれたけどこれでもちっとも振り向いてくれない提督のイケズでも私はそんな貴方がいや待て俺は私は誰だ誰かしら白い服なら海軍さんかでも最近は女性の提督も多いしそうだ鏡だ自分の顔を見よう艦娘式に乗る者なら必須の折り畳み式の小さな鏡だ左ポケットを漁って出す。見る。男だ。男の顔だ。自分かそうじゃなくて、男の顔だ。
 なら俺は男だ。鏡の中の顔が男なら俺の方は井戸だ。ブインの203の井戸だ。
 以前はここまで記憶の混同は酷くなかったのに。如月での超展開は初の実戦だからか?

【うふふっ。提督ったら、そんなにビクビク震えちゃって……んもう、可愛い】

 脳裏に直接囁かれたイメージには、ユーモアと茶目っ気が多分に、そして侮蔑や嘲笑、優越感に近い概念が多少含まれていた。

 ――――このヤロウ、わざとか。

 ここいら辺、天龍だったらしっかり弁えてくれているし、あー見えてこちらを立ててくれもするから超展開もやりやすいんだがなぁ。という愚痴に近い概念が如月にも伝わったのか、嫉妬や侮蔑、焦燥や劣等感といった概念が一瞬だけ滲んだような気がした。

【んもう。こういう時に他の女の事なんか、考えちゃ駄目よ】
 ――――それもそうだな。超展開はどうなった?

 その時にはもう、先程まで駆逐艦として海に浮かんでいた如月は存在しておらず、代わりにいたのは、艦娘としての如月だった。外観は多少機械の部分が多くなっており、背中の煙突からは心臓の鼓動のように規則正しく排煙と汽笛を吐き出し続けており、左胸の心臓――――動力炉から燃えるような輝きの光が装甲越しにも見えているとはいえ、普段艦娘としてブインにいる時の如月とそう変わらない形状をしていた。
 ただ、そのサイズが異常であった。
 超展開――――文字通り、展開状態の艦艇をさらに展開させることによって得られた、全く新しい戦闘艦の形態。一言でいえば艦娘を巨大化させただけともいえるのだが、それだけでないのが超展開の“超”たる所以である。

【如月、超展開完了しましたわ。機関出力120%。維持限界まであと180秒】
 ――――よろしい。では、行こうか。
【はい! さぁ、深海凄艦さん達。この如月が、極楽浄土の快楽でイかせて差し上げますわ、海の底まで!】

 艦長と艦娘、二人の意識を繋ぎ合わせて大きな一つとし、艦の装備品や超展開中の艦そのものを手足の如く扱い、戦場を圧倒する。
 この超展開も、艦娘の量産システムも、日々進化・増殖を続ける深海棲艦に対抗するべく、世界中からの非難を浴びつつも帝国の陸海両軍の技術を総動員して生み出された、鬼子の如くに忌み嫌われた技術なのである。

“お前たちは、お前たちの孫や娘たちと同世代の子供達を兵器として加工するのか!?”

 艦娘の量産方法はいたって単純で、存在する艦娘のおおよそ殆どはクローン養殖品である。
 栄えある母体として選抜されたオリジナルは、クローニングを容易にするためにスープ状に加工され、未分化の細胞塊(カルス)単位で培養され、薬品処理で急速成長と老化停止処置を施された後に、各地の鎮守府や造船工場に出荷されている。

“ごくわずかな手間と資源であいつらと相対できる戦力を量産できるでしょうに。何をお怒りになられているのですか?”

 一方、超展開機能を持った戦闘艦の製造方法はかなり複雑、かつ心霊力学的(オカルト)な方向に傾いた技術である。
 旧大戦時の戦闘艦の残骸を片っ端からサルベージし、集められた被験者に片っ端から物理的に接触させ、親和値の高い個体を選抜。
 それを艦娘の母体として先述の方法でクローンを製造し、その過程で、あるいは出荷先の工場や鎮守府で親和値の高かった艦の破片の一部を移植。肉体に馴染ませながらクローンを完成させるとあら不思議。破片でしかなかったはずの戦闘艦も同じく(圧縮保存状態でとはいえ)完成している。
 そのあたりの詳細な理論は紙面および軍機の都合により省略させていただくが、手っ取り早く言ってしまえば、ビリー・ミリガンやヴィネガー・ドッピオに代表されるような一部の多重人格者が、人格の交代と共に身長や体格がまるで異なってしまうという現象を、医学・薬学・心霊力学的に再現したものである。更なる詳細を知りたい方は各人で『21グラム理論』『音叉的な類比感染呪術について』『心霊力学基礎論』『異なる植物間における細胞融合を、動物細胞と無機金属類の異種融合へと応用した際に確認された各種反応について』などの学術書や論文を熟読していただきたい。

 そして肝心の被験者の徴収には、市町村あるいは学校単位で予防接種とでも銘打って集められることが多い。最悪の場合はテロや大事故に見せかけた拉致もありうる。

 閑話休題。

 だが、鬼子でもなんでも、それが使えるのならば使うしかない。実際に帝国はそう言うレベルにまで追い詰められていたのである。
 南方の資源地との海路はほぼ完全に寸断され、操業中の漁船だろうが護衛満載のタンカーだろうが何だろうが、深海凄艦の連中は兎に角片っ端から襲い掛かってくる。空輸では輸送量よりも消費の方が大きすぎるし、迂闊に低空を飛ぼうものならヲ級やヌ級の艦載機に雲霞の如く集られて、文字通りの意味で食われる。
 絶対無敵を誇るイージス艦隊も、途切れた南方資源地への打通作戦の失敗と続く撤退戦でその数を大きく減じて以来、再建の目途は立っていない。
 虎の子の対艦ミサイルは確かに有効だった。火力神話は健在だった。だが、数の暴力はもっと偉大であった。おまけに徐々に徐々に耐性の高い個体が現れ始めており、コストパフォーマンスという名前の怪物に膝を屈する日も近いだろう。
 某国では核の集中運用も大真面目に検討されていたようだが、政治的に色々とあったらしく、実行はされなかった。
 おまけにその筋からの情報によると、最近では合衆国の西海岸や帝都湾の近海にもその姿が見え始めたそうだ。合衆国もベトナムでの敗北以来重たくなっていた腰をついに上げたそうだし、大本営はいつまで噂話を噂話のままで留めておけるのだろう。
 ふと、井戸は思った。こんな娘達を最前線で指揮して戦わせている自分は死んだら極楽浄土なぞ良くて門前拒否だろう。きっと。だが、天龍や如月達はどうなるのだろう。
 そういえばこないだ逮捕された共生派の連中、変な事言ってたな。たしか、深海凄艦と言うのは元々――――

【……提督、維持限界まであと170秒ですわ】
 ――――カカト・スクリュー、全力運転開始! まずは最寄りの雷巡から片づける!!

 井戸の思考はそのまま如月にも伝わっていたはずだが、如月は完全にそれに対して触れないでいた。井戸も彼女の意図に乗っかり、目の前の問題を片付ける事に集中した。
 水中で水をかき回し続けるカカト・スクリューの回転数がさらに増し、人間でいうところの歩行動作の補助も借りて、如月は腰まで海水に浸かりながらも、駆逐艦の名に恥じぬ速度で、未だにこちらに背を向けて魚雷を吐き出し続ける雷巡チ級に向かって突撃していった。

 雷巡チ級――――異形の頭部のような下半身と、完全な人型の上半身からなる深海凄艦であり、従来の艦隊戦に文字通りの意味での格闘戦という概念を持ち込んだ戦犯であり、超展開を含めた艦娘システムを開発せざるを得なくなった最大の要因である。
 雷巡チ級以前までに確認された種の中には、軽巡ヘ級やホ級のように、腕や頭が確認できるものがいる。それらは兵装の保持や姿勢制御の補助システム(例えるなら、原付ボートにオールを用意したようなもの)であると考えられてきたし、実際にそういう使われ方をしていた。
 だが、この雷巡級は違った。
 遠距離では砲弾をばら撒き、魚雷で逃げ道を塞いで接近し、その巨大な腕で艦橋を直接殴り壊し、艦上構造物を片っ端から薙ぎ払ってくるのだ。
 たとえ戦闘艦が被弾による損害を計算されて建造されているといっても、加害方法の如何が前提なのだ。大砲や魚雷の直撃ならまだしも『殴られました。物理的に』など誰にも予想できる筈が無い。
 火力はあっても足の遅い重巡では割に合わない。駆逐艦や水上機母艦では火力が足りない。戦艦や正規空母はそもそもの数が足りていない。
 はっきり言って、超展開機能を含めて艦娘は、このチ級と戦うために開発されたといっても過言ではない。
 座学でとはいえ、その事を知っている如月は自らの提督に向けて攻撃衝動を発信する。が、その井戸からは逆にどうどう、と飼い犬を宥めるかのような概念が流れてきた。

【い、犬っ!? わ、私が犬っ……!? 提督の犬……提督だけの飼い犬……提督専用の雌犬……ぁ】
 ――――如月、61センチ酸素魚雷、安全装置の解除と弾頭活性化。
【わ、わんっ! じゃじゃなくてハイ!】

 如月の自我命令により、その左腕部に装着された投射管の中にある魚雷4発の弾頭が全て活性化され、投射管の最終以外の全ての安全装置が解除される。

 ――――合図で飛ぶ。一撃で首を取る。動作制御任せた。
【いつでもイけますわ!】
 ――――よし、飛べ!!

 その合図で、文字通り如月が跳んだ。駆逐艦サイズの構造物が、文字通り下半身の屈伸運動で跳躍したのである。
 この時点で、雷巡チ級も己の背後から忍び寄っていた死神の存在に気が付き、背後に回頭しようとしていたが、もう遅い。

 ――――61センチ魚雷、撃ェい!!

 如月が上方より落下しつつ渾身の左ストレート。チ級が上半身を無理矢理ひねり、下半身で全速で回避しようとするが、致命的なまでに手遅れだった。
 如月の拳がチ級の顔面に突き刺さるのと同時に、その衝撃によって魚雷発射管の最終安全装置が解除。限界までたわめられた金属バネと圧搾空気の力によって装填されていた魚雷が発射され、即座に着弾。意図的に指向性を持たされた4発分の弾頭炸薬による爆発はさながらネコ科動物の爪の如くに伸び、チ級の頭部構造をいとも容易く貫き、その大部分を消し飛ばした。
 頭部の消し飛んだチ級が自己再生の素振りすら見せずに、その体組織を急速にグズグズに劣化させつつ海の底へと還って逝く。

 ――――【次!!】

 如月と井戸が同時に吼える。

『提督、重巡洋艦の古鷹です。周囲に敵影無し。メナイ少佐の艦隊はすでに安全圏に達した模様で……ま、待ってください! 二時方向、空母ヲ級が急速浮――――』

 古鷹との通信が不自然に途切れた。
 通信を中継するために上空を旋回していた水上偵察機が一機、火と煙を上げながら墜落していくのが遠目に見えた。妖精さんはすでに落下傘を使って脱出していた。
 直後、如月の左右を縫って、古鷹から発射されたいくつもの魚雷が新たに表れたヲ級に向かって突き進み、赤城がなけなしのボーキサイトを食って補充した対艦爆撃仕様の攻撃機の編隊が波飛沫を被るほどの超低空からの匍匐飛行と、高高度からのウミドリ・ダイブによる立体的な連携攻撃を仕掛けた。
 全て無駄だった。
 空母ヲ級。
 二対の太く長い触手を持った異形のクラゲを頭にのっけた、完全な人型をした少女型の深海凄艦であり、数年前の硫黄島打通作戦において、初めてその存在が確認された比較的新しい艦種である。
 空母の名の通り、クラゲ様の器官の内外に無数の飛行小型種を寄生させており、それを人類側の艦載機の如くに操って戦場を制圧するのがヲ級の基本的な戦闘行動である。
 だが、今現在如月と井戸の前に立つ個体はまるで違っていた。
 その特徴的な二対の触手を俊敏かつ正確無比に動かして、近づく魚雷を、吐き出された爆弾を、不用意に接近しすぎた爆撃機のいくつかを。
 そのことごとくを例外無く迎撃していた。
 数秒間ほど続いた爆発と砲煙の後、そこにいたのはまるで無傷のヲ級本体と、根元から吹き飛ばされ、それでもその半分以上がすでに自己再生を終えていた二対の触手、そして残骸となって波間で洗われている艦載機の残骸だけだった。

【提督……このヲ級】
 ――――ああ、間違いない。三日前に撃沈したのと同じ、例の変異種だ。





『……井戸提督と、井戸提督のところの如月ちゃんがヲ級の変異種と交戦に入って15minitesデスかー……』
『この距離だと砲撃は巻き添えの可能性がありますし、魚雷はさっきので看板ですし……』
『お腹空いたー。ねー、古鷹ちゃーん。ボーキサイトもーないのー?』
『やめてください戦闘後の会計で死んでしまいます』
『Hmm……この後方からの支援は無理デスカー。井戸提督のところの古鷹さん、敵艦隊の増援は?』
『さっきのヲ級が1隻だけですね……このままここにいても意味が無いですし、これより私達後方支援部隊はプランBに移行しようと思うのですが、赤城さんに金剛さん、どうでしょう』
『オッケーデース!』
『プランBは何?』

『『零距離直接火砲支援』』



 如月の12センチ単装砲が吠える。ヲ級の触手がそれを弾く。4、5発も当てればさしもの触手も耐えきれずに千切れ飛ぶが、他の触手が受け持っている間に再生を終える。さっきからその繰り返しだ。先の飽和攻撃の時に比べれば明らかに再生能力は衰えているが、それでもこちらの12センチ砲弾が尽きるのが先だろう。
 いや、尽きた。

『ていとくさんていとくさん。こうげきぶたいはぜんいんぶじなのですよ』
『でもかんさいきはこっぱみじんなのです。あとでふるたかさんがでんたくかたてにめそめそなのです』
『やあやあさめさんさめさん。ぼくらときみたちどちらのかずがおおいか、あの古鷹さんまでいちれつにならんでかぞえてあげましょう』

 如月と一つになっている井戸の意識に、撃墜された妖精さん達からの通信が、囁きとなって流れてきた。

『あとあと、あのしょくしゅはながくないです。せいぜいにばしんがせきのやまみたいです』
『でもはやいです。みじかくてはやいとかさいあくなのです』
『たすけて鉄棒ぬらぬら先生』

 ――――それは良い事を聞いた。こっちは拳一つ分だぞ糞ッたれめ。

 井戸が無意識に体を動かそうとし、井戸と繋がっている艦娘としての如月が中継し、艦体としての如月が動作を完了する。
 その誤差、僅かに0コンマ002秒未満!

【ついでに言うと提督。私に挿入ってた酸素魚雷はその四本で最後ですわ】
 ――――最悪だ、畜生め。

 左半身を相手に向けた状態で屹立し、指先までまっすぐ伸ばした左腕は肩まで上げ、軽く握った拳の右腕は胸元に。
 とある陸軍将校が編み出し、気が付いた頃には陸海を問わず広く伝わっていた防衛術の型。
 名を、桜花の構え。

【次の出撃までに、火炎放射器でも作っておいたらどうかしら? 流石に炎までは防げないと思うの】

 軽量二脚型の如月、射突型酸素魚雷、左手に火炎放射器。

 ――――……良い案だな。

 小ジャンプ移動、亜空間とっ突きカウンター、熱暴走という謎の単語が井戸の脳裏をよぎったが、目の前のヲ級がそれ以上の考察を許さなかった。
 こちらの弾切れを悟ったのか、ヲ級の変異種が未だ不完全な再生しか終えていない4本の触手の先端をこちらに向けて、大波小波をかき分けて急速接近してきた。
 またしても井戸と如月の意識が重なる。

 ――――【え?】

 艦載機は?
 という二人の疑問に答えたわけではないのだろうが、ヲ級頭部のクラゲ様の器官にへばりつくようにして寄生していた最後の小型種が数匹、音も無くその肉の中に沈んでいった。直後、触手が完全に再生した。

【成程。エサですの】
 ――――航空母艦としては大失敗作としか思えんがな。

 兎に角余計な邪魔が入らないなら好都合と考えた二人もヲ級を迎え撃つべく、桜花の構えを維持したまま最大戦速で走り出す。
 先手は、ヲ級が取った。
 単純明快な真っ直ぐの突きが4つ同時に発射された。牽制、フェイント、そういった無駄な要素の全てを廃したが故の速度と精密さが如月の頭と心臓にそれぞれ2発ずつ伸びる。
 それを予想していた井戸と如月はすでに弾切れで無用の鉄塊となっていた12センチ砲の砲塔を部分脱落(パージ)。盾にして防御。

 ――――良し、刺さっ

 突き刺さった4つ全て触手を強引に振り回され、砲塔を手元から奪われる。

【ンアーーーー!!】

 しかもそれを奪っただけでなく、元々器用に動く触手の力を利用して、上下に左右にと勢いをつけてハンマーのように振り回し、如月を何度も何度も殴りつけてきた。
 我慢して近づこうにも一定の距離を保ったまま、近づこうとも遠ざかろうともしない。

 ――――このままハメ殺すつもりか……!
【はっ、ハメ!?】

 提督が私を提督を私が提督が私を……と如月の方から何やら実際卑猥な概念が流れ込んできたが、今の井戸にそんな事を構っている余裕は無かった。
 元々、井戸と如月の同調率は訓練の時でもさしたる数値ではなかったのだ。当然、超展開中の今現在も同じような数字であり、その微妙な齟齬からくる不快感や違和感に、如月のフィードバックで受けるダメージ感覚によって脳がボロ雑巾の如く絞られている幻覚、そして目の前のヲ級変異種。この3つの敵を同時に相手取って井戸は戦っているのである。
 如月の動きが鈍る。止めを刺す好機と見たヲ級が天高くハンマーを振り上げる。

 ――――待ってたぜ、この瞬間を!!

 都合十数発目にしてようやく待ち望んでいた真上からのハンマー振り下ろしを右肩一本の犠牲で受け止め、引き戻されるよりも早く左手で触手を掴みとり、触手の引き戻しに合わせて如月も同時に全力でヲ級に向かって跳躍。

 ――――人類なめんな、エロ触手!!

 砲弾の如き速度で射出された如月は左の拳を振り上げ、そこに残された61センチ酸素魚雷の射出管に激発信号を送る。ヲ級と目が合った。海の底のように光を返さぬ薄い緑の瞳は、確かに怯えの感情を宿していたように見えた。
 如月怒りの拳が振り下ろされんとしたまさにその時、引き戻しの終わった触手が再び射出されようとしていたが、自らが突き刺して武器としていた12センチ砲の重量が枷となって、迎撃は絶対的に遅れた。
 それでも恐怖に突き動かされたヲ級は力任せに砲身をバラバラに引き千切って触手を撃ち出し、如月の艦装甲を貫き、左腕を肩口からもぎ取って、間に合わなかったはずの迎撃を成功させる。

【左兵装保持腕大破! 右腕も信号が通りません! 提督!!】

 如月の恐慌的な概念に対し、返答を返すという事すら蒸発させた井戸が如月を前進させる。
 貫通した触手によって拘束されていた左舷わき腹装甲を、力任せに前進することによって触手ごと強引に引きちぎり、足元に伸びていた別の触手を足場にして全力で前方に跳躍。
 狙うは死人色の首筋。限界近くまで口を開け、

 ――――衝角、突撃。

 今度こそ、本当に、ヲ級にはなす術は無かった。







 本日の戦果:

 駆逐イ級        ×6
 軽巡ヘ級        ×0.5(202艦隊との共同撃破のため)
 雷巡チ級        ×1
 空母ヲ級(未確認変異種)×1
 小型飛行種       ×100弱(※小型飛行種は撃墜手当に含まれず)

 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上




 本日の被害:

  駆逐艦『如月』:大破(左右兵装保持腕脱落、主装甲全破損、索敵装備半壊、超展開用大動脈ケーブル断裂、主機異常加熱etc etc ......)
 重巡洋艦『古鷹』:小破(至近弾による一部装甲の破損)
 軽巡洋艦『天龍』:健在(出場停止処分による)
  駆逐艦『電』 :健在(今日は見学)
   戦艦『金剛』:小破(元々入渠中だった事による。本作戦中での被害は皆無)
   空母『赤城』:小破(元々入渠中だった事による。本作戦中での被害は皆無)
 軽巡洋艦『那珂』:たぶん健在(現在遠征中につき詳細不明)
  駆逐艦『大潮』:きっと健在(現在遠征中につき詳細不明)

  零式艦戦21型:健在2、 未帰還機16
    九九式艦爆:健在10、未帰還機8  
    九七式艦攻:健在1、 未帰還機37

 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除(※1)(※3)
 各種物資の最優先配給(※2)(※3)

 以上


 ※1 ただし、やんごとなき一族からお預かりした大事なタンカーを武器代わりにした挙句に大破させ、国民の血税の結晶ともいえる各種補給物資を海の藻屑と化した井戸少佐を除く。

 ※2 ただし、やんごとなき一族からお預かりした大事なタンカーを武器代わりにした挙句に大破させ、国民の血税の結晶ともいえる各種補給物資を海の藻屑と化した井戸少佐は緊急の必要性が無い限り、高速修復触媒以外の全ての物資は必要最低限の配給量とする。

 ※3 追記。Team艦娘TYPEに今度の新しい実験体として送らなかっただけ有難く思え。(By基地司令)




 みなさんおそようございます。重巡洋艦の古鷹です。
 現在のブイン島は現地時刻で午前3時。夜逃げには絶好の機会です。逃げたいです。この書類の山から。この現実から。
 そしてこの、圧倒的歯車小宇宙の如く暴力的で鬼のようなボーキサイトの消費量から。
 備蓄残量がマイナスってどういうことですか。ふるたかちゃんはもうわけがわからないよ。

「「お、終わった……この仕事も、この艦隊も……」」

 提督のその絶望の呻きは、まさに今の私の心情と同じでした。もしかしたら、今の提督と私が超展開をしたら、歴代最高の同調値を出せるのではないでしょうか。
 せっかくの大金星を上げたというのに、この被害総額では元の木阿弥、いえ、それ以下です。
 遠征に出ていた大潮ちゃんと那珂さんが、例のタンカーの沈没地点と周囲の海底図をマッピングしてきてくれたのと、沈没した貨物の一部を引き揚げてくれたおかげでこの基地全体の資源不足はどうにかなりそうです。
 が、詳しくは軍機の壁に阻まれて解らないのですが、どうもあの二人、もっと厄介なものまで引き上げてしまったようなのです。昨日の戦闘終了後にお二人が基地に帰った途端に憲兵隊に拘束されて、今も返ってきません。
 スピーカーが自動的にオンになりました。おかしいですね。主電源は落としてあるはずなのですが。

『諸君、私だ。基地司令だ』

 基地司令からの最優先放送でした。抜き打ち検査じゃあるまいし、何もこんな時間にやらんでも。と思ったのは井戸提督や、就寝中だった他の部屋の方々も同じようでした。あ、提督の表情が私と一緒です。ちょっと、嬉しいかもです。

『作戦を伝える。さる先日、第203艦隊の遠征部隊が、深海凄艦のオリジナルを発見・回収した』

 !?

 という書き文字が、私と提督の頭上に浮かんだような気がしました。

『大本営はすでに動いている。今日より二週間以内には本土から増援として十個艦隊および合衆国の孤立艦隊が到着する予定である。諸君らはほぼ確実に発生するであろうブイン島要塞攻防戦に参加してもらう。詳細は本日〇六三〇時の朝礼のついでに伝達する。以上だ。英気を養え』

 基地司令の唐突な辞令に、私も提督も、そして今しがたの放送でたたき起こされた他の艦隊の艦娘さん達や提督さん達の動揺がここまで聞こえてきました。
 ですが目下のところ、最大の問題は――――

「目覚ましは〇六一五時に合わせておきますね」
「……パーフェクトだ、古鷹」

 それではみなさんおやすみなさい。








 提督たちの戦いはこれからだ!


 続かない!!


次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.025913000106812