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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/08/28 20:08
'15,08,21 upload  ※イロイロ迷いましたが、こんなカタチになりました。
'15,08,28 誤字修正



Side XXX


昏い微睡みの中から、ゆっくりと意識が浮かび上がる。
靄が晴れるが如く、思考が鮮明に巡り始める。
それとは裏腹、永い眠りから目覚めたかの様な茫洋とした記憶―――現在の状況が掴めない。


うっすらと開いた瞼の隙間から見えたのは、国連のBDUを羽織った見知らぬ男。

―――侵入者!?

反射的に跳ね起きようとしたその機先を制し、フワリと額に当てられた掌。
攻撃の意図は感じられない柔らかい感触―――、しかしそれだけで、全ての動作を封じられていた。

・・・この男、リーディングが出来ない!?
―――いや、出来ないわけではないが、なんだこの宇宙人のような思考は・・・!?
全てのイメージが混沌―――全く意味が汲めない。
色彩でさえも暖色寒色入り交じり、フラッシングするように切り替わってゆく。


「―――無理すんな。
まだ完全には、身体[●●]が馴染んでいない。
何も心配はいらないから、もう少し休め。」


男は抑揚の少ない落ち着いた声でそう言って、掌を離す。


え?
あ―――!

“身体” が―――在る!?


反射的に飛び起きようとした運動感覚―――。
広がる視界、包みこむ音、流れる香り、そして感触・・・。
全て喪ったはずの―――“繭化”。

・・・そうだ!
漠然とした記憶を手繰れば、今先刻目覚める前は“繭”としてスィミィの抑制部品となり、ブリッジスと戦っていた!
怯えて暴れるスィミィを宥めて・・・、抑えて・・・、そして・・・。
最終的には、クリスカとイーニァ、そしてあろうことか、そこに意識融合してきたブリッジスに敗れた。

“繭”になったその姿をブリッジスに見られたくはない、いっそ殺してくれ・・・そうクリスカに懇願した気もするが、その際発動したS-11の起爆シーケンスに強制介入、起爆自体は阻止できなかったので指向性を強引に変更し、・・・そこで記憶は途切れている。


「・・・その様子だと、元の自我や“繭”だった記憶もちゃんと在るみたいだな・・・。
俺の知っている“繭化”術式と違い、扁桃体だの海馬周辺側頭葉だの随分イロイロな部位を残していると思ったが・・・、サンダークのヤツ、俺が再生する可能性を想定してたってコトか・・・。」

「な―――!?」


その言葉に、“繭化”直前サンダーク大尉に言われた最後の科白がフラッシュバックする。

―――我が国では[●●●●●]、切れ過ぎるナイフは喜ばれないのだ―――

まさか―――!?


「―――まあ、混乱しているだろうが、ココは“国連横浜基地”、俺は御子神彼方、だ。」

「!!―――貴方が・・・御子神大佐ッ!?」

「ソ連から、アラスカ租借地内で起きたS-11爆発については新型機極限テスト中の事故、とアナウンスがあった。
パイロット2名は墜落時の衝撃でKIA・・・残骸は機密保持のためS-11で自爆、だそうだ。」

「あ・・・。」

「・・・実態は、ブリッジスに撃墜され、T-50の自爆に巻き込まれる寸前で接収。
俺がアラスカでアイツと会ったとき、山小屋で眠ってたあの子[●●●]と、スリープモードに入っていた“繭”を託された。」


―――つまり、クリスカに殺してくれと頼んだ時に降って湧いたS-11起爆のどさくさ、咄嗟の判断で、破壊や放置ではなく“繭”のまま回収してくれた―――、と言うことか。
機体との接続を切られ、非常用バッテリーによる強制スリープモードに入ってしまえばその間の記憶などあるわけない。

もう一度、自分の手足を見る。
“繭化”により全て喪った筈の、自分の身体。
大佐は再生と言ったが、記憶に在るのと寸分違わぬ姿と感覚。

見回せば清潔なベッドの周囲には幾つかの専門的な医療機器。
機密区画らしく窓もないが、雰囲気は実験施設ではなく、医療施設の一角と言った感じ。


―――取り敢えずは、“再生”という僥倖に恵まれたことは間違いない。
だが・・・何故?

“繭化”、そしてS-11―――。
それらが本来ブリッジスの追跡・殲滅と、撃墜された場合T-50の機密漏洩防止を意図したモノであるコトには疑う余地もない。
だがその一方で、これらは“私達”という存在を完全に隠蔽してくれる隠れ蓑にもなる。
・・・微妙に設定されていた起爆までの刻限が刹那のチャンス、と言うことか。
T-50と同じく“繭”も最重要機密である以上、撃墜されても残骸の回収は必須だが、全てを灰燼に帰せばそれ以上の追跡はない。

―――細い、余りにも細い一縷の可能性。
それでも―――私に取って乾坤一擲とも言える救いを齎した・・・?
あの大尉が、唯の“消耗品”に温情を掛けたと・・・?


・・・フッ。


どうせ考えても判らないし、今更確かめる術もなければ、その意味もない。
リーディングの“制御”を可能なかぎり外していた私ですら、サンダーク大尉の思考は結局読めなかったのだから。

それに、・・・今の状況とて所詮は仮初―――時計じかけの、見せ掛けの“自由”。

大尉に取っては、おそらくは何方に転んでも良い、戯れ程度の気紛れなのだ。
私がブリッジスを殺せず、スィミィを抑えるコトは恐らく読んでいたのだろう。
その上で、S-11の起爆に巻き込まれ、すべてを終わらすならそれも良し。
生き延びて僅かばかりの時間、再生の幸運に恵まれたのなら、それもまた良し・・・。

―――それが全て。


運命の天秤がコチラに傾いた、とすれば、私はさしずめ御子神大佐への貢物だろうか。

あとは、この大佐の胸先三寸。
大尉の言う“切れ過ぎるナイフ”、けれど、それ以前に得体のしれない私達をどう扱うのか・・・!



まずは、当面最大の疑問を訊こうと顔を上げたとき、ノックの音がした。

入ってきたのは、ウサミミを着けたような見覚えのある面影の少女と、そして・・・。


「ッ!、まちかぁぁッ!」


私を見るなり勢い良く抱きついてきた白く華奢な肢体を抱きとめる。


「スィミィ―――!!」


私はそのまま泣きじゃくる“妹”を抱きしめた。












「人心地ついたかな。」

「はい・・・。」


スィミィは、私が目を覚ましたことに安心したのか、泣き疲れて抱きついたまま眠ってしまっていた。
甘えるような安らかな寝顔。
その身体に毛布を掛け、白い髪を指ですきながら、決意する。


「・・・私を再生していただいたコトと、既に私達が祖国では亡き者となっている状況は理解しました。
御子神大佐には大変感謝しています・・・。
そして・・・厚かましいコトも、図々しいコトも十分理解しています。
その上で、御子神大佐にお願いがあります!
スィミィを・・・、どうかスィミィを助けてください!」

「・・・起き抜けに随分と唐突だな。」

「無礼は重々承知しています。
私はどうなっても、・・・どんな代償、―――どんな扱いを受けても構いません。

―――折角再生していただいた身体ですが、私達のDNAには機密漏洩防止の為、時限装置が組み込まれています。
この身体が同じ遺伝子を元にした“再生”である以上、避けられない“枷”です。
私は必須蛋白の最終投与である11月20日から約2週間で細胞が自壊しますが、スィミィはその後2週間ほどで自我崩壊による自閉モードに移行します。
それを・・・、それを大佐に何とかして欲しいんです!」


そう、再生したところで同じ遺伝子に組み込まれた“枷”は外れていない―――。
こうして“繭”から再び身体を得たが、元が同じDNAである限り、ПЗ[ペー]計画計画を離れた今、待っているのはクリスカと同じ末路―――。

大佐がアラスカでユウヤに会ったのなら、それは知っているだろう・・・。

遺伝子操作による細胞の自壊プロセスを阻止することは困難だが、スィミィの自我崩壊はインプラントに依るレセプター妨害だったはず・・・。
大佐の技術力なら、十分に対処が可能だと思うからこその懇願。






先刻、泣きじゃくるスィミィを宥めながら、どうすればこの娘を助けられるか、すっと考えていた。
祖国からも捨てられた今の私には、対価とするものが何も無い。

能力や身体を提示したところで、身体は大佐が再生してくれたモノだし、それすら時間が限られている。
それでも、自壊まではあと1週間? 10日?
ПЗ[ペー]計画の技術を内包した身体[サンプル]の提供、或いは、色仕掛けと言う手段は一応在る。
・・・大佐が興味を示すのか、それは判らないにしても。

今まで、同じ遺伝子を有する似たような存在が多い中、私は自分の容姿に思うことなどなかった。
容貌肢体など皮一枚の差違、それよりも能力の高さこそが本来の存在理由であった。
ただ、その集団に於いても、周囲の男性に対し自分がとりわけ煽情的な存在であることは、リーディングから感じとっていた。
所謂、“男好きのする”雰囲気を纏っているらしい。

それは成長するにつれ度合いを増し、研究所、そしてユーコンに来てからも同じ。
元々“心を読む化物”と畏怖されたり気味悪がられたりする存在であったが、大抵の男は私を前にした時劣情の色を浮かべる。
本来、そういった対策も兼ねて、我々発現者には頭部に制御装置が装着されているのだが、小さい頃から敢えて積極的に情報収集をしていた私の抑制クライテリアはかなり甘く、その手の情動も全て受けるまで低くなっていた。

―――つまり、周囲の男の頭の中では何度犯されたか判らない、と言うことだ。
しかも、潜在的に畏怖する存在への心理的対抗なのか、その内容は常に暴力的―――時には猟奇的なモノであったりする。
リアルではないから受け流しているが、耐性の低い娘なら1回でPTSDになるレベルの内容ばかり。
まあ、想像の中であっても自分の中に不潔なものを挿入されたり、表現すらはばかれる暴力を振るわれたりするのは、正直気分の良いものではない。
だが幼少からの耐性によりスルー出来ている私に取って、この容貌肢体と纏う雰囲気は逆に男を誘う使える“道具”ともなったのだ。
無論その反動で“行為[SEX]”は私に取って嫌悪の対象となったが・・・。
・・・そういえば自分が抱かれる姿を想像して、また実際身体を触らせて嫌悪が湧かなかったのは、ブリッジスのみ―――だったな。

そんなだからユーコンに来た頃には、リーディング規制が掛けられた上位者ですら、その僅かな表情の変化から大方の劣情が知れる様になっていた。
・・・ロゴフスキー[ゲス]など、その最たる存在だった。

サンダーク大尉自身は、噂レベルの情報ではあるが“白き結晶”のDNA提供者が肉親だったとかで、その手の行為を極端に嫌悪していた。
その為か、イーニァのバディ候補だった私はそんな状況に陥るコトは無かった。
しかし、ロゴフスキーがПЗ[ペー]計画の担当佐官になって以来、周囲は最悪。
能力の発現しなかった個体や、能力の限界が低い個体から淘汰されていく時、技術的な検査の必要性が無い者については処分と称して自分たちの慰み者とし、時には証拠の残らぬ様、廃棄処理手続き後、党幹部への貢物としたり、果ては前線の慰安用に回していた。
実際ベリャーエフがその手配を行う片棒を担いでいたから、ヤツの無謀な作戦実行にもサインをしたのだろう。
その本人[ベリャーエフ]は潜在的に発現者を畏怖していたのかEDだったらしいが、技術的な検査では本来検査とは関係ない淫楽殺人紛いの好き勝手を遣っていたのだから、どっちも同類だ。


そんな下衆と比較するコト自体が失礼かも知れないが、高位の佐官が全てとは言わないまでも、英雄色を好むという例えもある。
リーディングが出来ない御子神大佐がどういう性癖を有しているのか知る由もないが、少しでも、ПЗ[ペー]計画の内容や、色香に興味を示してくれれば、交渉の[いとぐち]になる・・・。








そして今、無言で私を見つめる瞳を見返す。
それは底知れない深淵を覗き込んでいるような戦慄を覚えた。
読めない意識は、色すら特定できず、そしてその表情にも何の劣情も感じない。


―――甘かった・・・。

交渉の余地など、どこにもない。





「・・・・・・機密漏洩防止措置のコトなら、気にしなくていい。」


永い沈黙の末、なんでもない事のようにそう言う。


「・・・・・・はい?」

「FADD・・・指向性蛋白って呼んでるんだっけ?・・・の欠失については、遺伝子欠陥を修復して自己生成出来る様にしている。
君は身体の再生時に更新したし、その子もじき再分化による細胞更新が完了する。
もう必須蛋白欠失によるネクローシス・プロセスや精神崩壊は発動しない。

実際ビャーチェノワ・・・ってクリスカの方な・・・は、別の問題で遺伝子の発現に手間取り、一時は危険な状況に陥ったが、今は無事発現して何の問題もなく元気にしている。
・・・暫くは作戦従事中で逢えないが、な。」

「え・・・?
私・・・もですかッ!?
自壊プロセスが発動しない・・・?」

「―――ああ。」


遺伝子欠陥の修復?
Body再生の片手間で?
しかも、自壊プロセスが発動したクリスカを、あの状態からさえ回復した、と・・・?


「寧ろBody再生についてのESP遺伝子発現の方が運任せだったが、これも拒絶反応は確認されていない。
―――君が2次クローンだったのが幸運だったな。
本来、ESPの様な偶発的遺伝子発現は確実じゃないから身体と脳の発現遺伝子が異なると、拒絶反応を起こしやすいんだが、強発現者からの2次クローン、しかも更に人為的発現強化されていた事が幸いして、問題なく合致した。」

「な・・・・・・。」

「・・・序でに言えば、その子については外科切除された脳内組織は全部再分化して再生したし、神経結合を阻害したり成長を抑制していたインプラントは全部除去した。
再生した組織はまだ上手くリンクされていないから機能し始めるにはもう少し時間が掛かるが、脳自体の発達は未だ3歳相当―――、“合一”・・・君の認識で言うナストロイカ・・・すると共有知識が一気に増えて急速に成長するみたいだが、何れにしろ盛んに発達する時期だから問題なく回復するだろう。
その子がよく眠るのもその為だ。
アルビノそのものには手を加えていないが、紫外線に対する網膜組織や皮膚組織の耐性については、一般レベルに強化した。

君に関しても、同じく切除された組織の再生もしている。
ゆっくりと馴化していけば良い。

・・・ああ、あとは二人・・・というかあっちのビャーチェノワやシェスチナ含め4人・・・とも無理な遺伝子操作で短くなっていたテロメアも平均的な長さに修復しておいた。

・・・要するに健康上の問題は、既に一切無い―――。」

「・・・・・・。」



もう―――返す言葉もない。

・・・なるほど、コレがあのサンダーク大尉をして畏怖させたテクノ・モンスター[技術チート]
その片鱗を知っていたなら、大尉があそこまで気を使う訳だ。
私達ПЗ[ペー]計画の忌み子が持つ幾重にも絡み付いていた重い縛鎖を、尽く絶ち切ってしまうとは・・・。

コレは確かに味方にすれば絶大・・・。


「・・・ありがとうございます―――。」


果たしてサンダーク大尉は、此処迄の予測をしたのだろうか。


「―――対価は、私の全てを―――。」


真っ直ぐ見詰める。
ブリッジスは否定してくれたが見る人によっては、所詮人ではない創りだされた人工生命体。
しかも事実上のKIA認定だから、軍籍上も既に存在しない幽霊扱い。
そんな“貢物”であるなら、非合法の人体実験だってヤリたい放題。
先刻の反応を見る限り、生半可な誘惑など歯牙にも掛けないだろう雰囲気はある。
けれど私はどんな扱いを受けても構わないのだ。
この腕の中の“妹”が無事でいるなら・・・。


「・・・気の早いヤツだな、そう急くな。
君達の身請けは、別の人だ。」

「・・・それは―――今の私達はどの様な立場にあるのですか?」

「書類上は昨年オホーツクで拾われたロシア系難民と言う扱い・・・だったんだがな。
今、君にどうしたい?と訊くのも、後は好きに生きな!と言うのも、意味はないだろ。」

「・・・。」


訊かれても答えられる返事などなく、さりとて祖国に捨てられて言葉も習慣も全く異なる異国で好きに生きていく術も宛も在るわけがない、と言う以前に、そんな“希み”など私が求めていいのか?


「で―――再生や治療の為に横浜基地に出入りする都合上、ふとした縁でとある有力武家[●●●●●●●]が引き取った養女、という事にした。
勿論、その経緯に俺との接点は一切無い。」

「は?―――あぁ!?」

「KIAとなった軍籍や名前を使うわけには行かないからな。
と言って一般人のままココの機密区画には入れないから、極秘の臨時スタッフにして・・・その為の背景にその家格が都合良かったんだ。
なので君は、九條[●●]真愛[まちか]、15歳。
前の名前[ビャーチェノワ]は気軽に呼ぶわけに行かず、といって九條だと紛らわしいから、今後は真愛[まちか]と呼ばせてもらう。
そしてその子は、九條[●●]透未[すいみ]、・・・流石に3歳って訳には行かないから、難民で出生の記録も無い事だし、10歳とした。
もう戸籍登録もしたから、当面の異議は受け付けない。」

「・・・。」


絶句。

―――余りにも予想外の言葉。

養女?

モルモットとして賽の目に切り刻んでも、肉人形として陵辱の限りを尽くしても構わない私達に、態々帝国の籍を与える・・・だと?
日本帝国の社会構成は以前、対戦相手である篁大尉の背景として情報を一度見ただけなので虚覚えだが、“九條”は確か、かなり高位の貴族・・・帝国では武家だったか・・・の筈。
その武家が・・・私を―――、私達を養女に?
どう考えても在り得ない。
しかも、それを大佐がそんな簡単に決めていいことなのか?


「・・・何か問題が?」

「!、違いますッ!
何の宛もない私達に否応なんてありません。
でも・・・こんな・・・得体のしれない者を養女だなんて・・・。」

「真愛達の様な状況だからこそ、打診したとき、養子にしたがった家が3つも在ったんだがな・・・。」

「・・・?」

「―――T-50はS-11で消し飛んだ・・・対戦した戦術機・衛士諸共、と言う事になっている。
ブリッジスも表向きMIAだし、爆発以降は裏の情報筋からも完全に姿を消した。
推進剤や電力の補給さえしていないのだから、爆発に巻き込まれたと見るのが妥当。
少なくとも計画を知るソ連上層部はそう思っているし、仕掛けたサンダークですら真愛の生存・再生など万に一つも無いと踏んでいるだろう。
そのサンダーク本人も既にユーコンには居ないし、ПЗ[ペー]計画も終了。

イロイロ仕掛けてくれたコトに、意趣返しの一つも考えたが、実際今はかける手間のほうが惜しい。
ま、綺麗サッパリ後始末[吹き飛ば]してくれた上に、真愛の再生が想定外に上手く行って気分いいから、チャラにしてもいい。
今回残された神経組織の範囲で言えば、鑑の時より更に厳しい状況からの再生だったから、今後予期される事態への大きな収穫とも言えるからな。

と・・・話が逸れたが―――もしそんな真愛[まちか]の存在がその筋にバレたら、何が起きる?」

「―――!!ッッ」


ПЗ[ペー]計画の遺児―――。
中止になった極秘計画とはいえ、当然ソビエトの上層部や米国の諜報機関、そして耳敏いテロ組織の一部にも知られている。
実際レッドシフトの混乱時、計画の強奪を試みたテロリスト組織も在ったらしいし、米国の諜報機関も一部クリスカやイーニァの確保に動いていたとの情報もある。
確かに大尉は計画の終焉をT-50の限界性能試験とし、 S-11[ピリオド]を打った。
しかし外部から見れば、中止の理由など判る訳も無く、ESP発現者の軌跡として、ブルーフラッグ、レッドシフト阻止、Su-47評価試験、そしてソビエト上層部の一部のみだがT-50限界性能試験、その戦績だけが残る。

それは、明らかに常人を凌駕する性能―――。

殊に、“未来視”同士の戦闘であったT-50限界性能試験[vs XFJ-01]はどう映るのか・・・。
相手であったXFJ-01も今の話では、存在を隠蔽している・・・。

そんな所に私達の存在が明らかに成れば・・・。
あの性能が、人工的に創出出来る可能性を求めて手が回ることは確実・・・!


冷たいものが背筋を這い上がる。

万が一ПЗ[ペー]計画の残滓を漁る組織に知られたら、拉致監禁・実験から解剖コースだってあり得る、と言うコト。
対価として大佐がそれを望むなら構わないと言ったが、それとは話が違う。
それがソビエトであれ米国であれ、あるいはテロ組織でも同じ、囚われてしまえば、薬物、催眠、人質、拷問・・・意志を奪う手段などいくらでもあるのだ。
先刻、大佐は機密漏洩防止措置を外し、テロメアさえ修復したと言った。
ならばその最悪の事態に陥ったとき、自壊プロセス[救済]すら得られないと言う事・・・。


「・・・理解した様だな。
幸い表立った活動期間が短いから“紅の姉妹”ほど有名ではないし、特に従軍期間の短い透未[すいみ]は殆ど認知されていないが、それでもその白い容姿は目立つ。
成長すれば印象も変わるだろうが、数年はマズい。
それは真愛[まちか]も同じ・・・。
・・・確かに人目を惹き付ける溌剌とした霊光[オーラ]を纏っている。
記憶に残りやすいタイプだから、用心するに越したことはない。

なので真愛達の真実を知るのは、俺と夕呼[副司令]と篁・・・あとはここにいる社と後で会うだろう鑑くらいしか居ない。
A-00のメンバーや、此処の第4計画関係者は、ビャーチェノワを知っているから当然会えば似ているとは認識されるが、この機密区画には入れないし、そのメンツに会わせる気はない。
無論ブリッジスや“紅の姉妹”は会えば判るだろうが、その機会も当分無い。

本当は、名前も全く違う語感に変えたかったが、透未がどうしても[●●●●●]了承しなかった。
まあ、発音上は“マティカ[レレレ]”と“シー[]ィ”に近いから許容した。」


あぁ―――、今となっては私達と祖国を繋ぐ唯一のモノ・・・。
祖国に捨てられた今でも、彼の国が故郷で在ることだけは変わらない。
植えつけられた郷愁かも知れないが、幼いこの娘にそれを振り切る理性はまだ無いだろう。


「・・・その危うい状況を理解して、極秘裏に任せられて、且つ護ることが出来る所が少なくてな。
手っ取り早く俺の義妹にするコトも考えたが、この後ここ“横浜”は目立ちすぎる。
当然俺の傍では更に悪目立ちして、変なところから露見するリスクが高い。
その意味でも、多少無理が通せる家格でありながら、暫くのゴタゴタで余計な係累が少なく、俺とも確執在ると見られている“九條”が逆に都合よかっただけだ。」

「・・・そんなリスクを・・・それは多大な迷惑を―――。」

「ああ、そこは心配しなくてイイ。
姉となる当主の頼子に了承を取って、高位武家のお家のコトだから、一応政威大将軍にもことわりを入れたところで、悠陽本人と聞きつけた義兄予定者からクレームが来た。」

「・・・やはり・・・?」

「逆だ、逆。
何故、煌武院や斑鳩ではないのか、とね。」

「・・・はい?」

「―――ここにいる社と、先刻言った鑑という発現者[センパイ]が頑張ってくれたお蔭で、この国の最上層部にはESP発現者の価値が凄まじく高いんだ。
なにせ、鑑に加え、ここにいる社が先日遂に“森羅”という重要システムとの接続に成功する快挙を為した。
これは、対BETA戦略上、極めて重大な意味を持つ。」


ウサミミがぴくぴく動く。
視線を向けると、小さくVサインを作ってみせた。
かなりユニークなうさぎのぬいぐるみを抱いているところなど、確かにイーニァっぽい。


「斯衛軍の最上層部だけが知る極秘情報だから、範囲は極めて限定的ではあるが、な。

そして元の名前や経緯こそ伏せたが、君達二人が第3計画縁の発現者だと言うことは伝えてある。
・・・それは、社と同じく“森羅”接続の可能性が高いってことだ。
しかもオフレコだが、戦術機に乗せたらブリッジスと互角・・・“レベル5er[ファイヴァー]”以上は確実、ともな。

頼子自身もお家改革の一環として斯衛従軍を上申、近く斯衛軍第1連隊に配される予定だから、戦術機手練の供は是が非でも欲しい存在、養子縁組の要請は願ったり叶ったり、是非もなかった。

“森羅”接続可能性大で、且つ超一流の衛士を“家”に入れることが出来るなら、あの程度のリスクなど関係なく、当然他家も躍起になる。

・・・ちなみに、頼子が五摂家・・・西洋風に言えば公爵家相当か?・・・である九條家当主、義兄予定者は同じく斑鳩家当主、悠陽も煌武院家当主にして現政威大将軍・・・大統領、ソ連なら書記長みたいなもんだ。
他、斉御司は、流石に縁者の武が二人も確保しているから控えたみたいが、残る崇宰だって帝都に居れば獲得に参加しただろう。」

「!!!―――ッッ!
なぜ!?
例え能力が在るにしても、格式があるはず・・・私達みたいな寄る辺ない者をッ?」


“森羅”がどれ程のモノかは知らない。
公爵家に当たるという五摂家がこぞって求めるほど価値の在るコトなのか?
どう考えても、リスクが高く、怪しい出自としか思えない。


「―――正しく言うとおり、寄る辺ない[●●●●●]からさ。
直系の血縁者さえ無く、祖国はKIA判定、生み出したプロジェクトは解散。
戻るところが何処にもないと言うことは伝えた。
それはつまり、[]が全く無いということだ。」

「!!・・・裏切りや謀略の可能性が皆無・・・ってコトですね・・・。」

「ああ。
勿論ちゃんとその家族として庇護者として信頼を得ることが前提だが、そうなればそれだけの能力を有する真愛達は、誰よりも鋭利な懐刀になる。
透未にはまだまだ親代わりの存在が必須だから分離も不可、それに真愛だってまだ未成年。
真愛は今までの経緯から相当聡明だと知れるし、何よりも透未の事を大事にしている。
その真愛が一度得た強大な庇護を捨てるとは考えられないさ。」

「・・・切れ過ぎるナイフは喜ばれない―――、“繭化”されるとき、そう大尉に言われました。」

「・・・家族間ですら密告を推奨したソビエト[あの国]ならでは、だな。
だが日本[ここ]は、刀文化の国だ。
刃物は、鋭利であればあるほど、重用される。」

「・・・私は・・・私自身は決して清廉なんかじゃない・・・。
自分の欲に墜ちることだって・・・。」

「欲も野望も無いヤツの方が珍しいんじゃないか?
この国にも“下克上”と言う言葉が在るからな、けれどそこは有能な部下をキチンと統べてこその上位と言う意識が強いのも確かだ。」

「・・・。」


確かに今の私達には、何の後ろ盾もない。
それでいて出自が知れれば狙われる存在。
だが万が一出自が知れたところで、引き取った側からすれば何の“醜聞”にもならない存在。
・・・確かに庇護が得られるなら、力を尽くすことも吝かではない。

しかし、受け入れられたのがそれだけの理由とは到底思えなかった。


サラッと言ったが、日本帝国の公爵家に当たると言う五摂家?、その当主二人を敬称も付けず名前で呼び、残る一人は義兄?、そしてもう一家は、白銀少佐の係累・・・。
フォーカード揃えた様なものだ。
・・・どんだけなんだ、この人・・・。
(後日、篁大尉が最後の崇宰家係累と聞いて目眩がした・・・。)

間違いなく、頼んだのがこの大佐だからこそ、なのだろう。


「先々真愛が遣りたいことが明確になったとき、それに沿った手配をするコトは了承してもらっている。
もし―――ブリッジスの傍に戻るなら、・・・来年以降ならなんとかしよう。」


その名に一瞬心が揺れる。
・・・ユウヤ・ブリッジスの傍―――。

だが、即座に否定する。
クリスカが無事に居る以上、私の付け入る隙はない。
例えクリスカを失っていても、彼は彼の母と同じく一途に想い続けただろう。
その上で傍に居ることが出来るのは・・・、心重ねたイーニァくらいしかいない。

T-50で戦ったとき、彼らは3人で[●●●]ナストロイカに至るという信じ難いコトを実現してみせた。
あの中に入れるとは思えないし、もし入れてもそれはスィ・・・透未[すいみ]を置き去りにすることになる。
透未の自我を覚醒させたのがブリッジスに向けられた殺気だった為か、どうしても彼が苦手らしい。
冷静に考えればイーニァの興味に惹かれて私がブリッジスを意識したのは確かだが、一方で初めて私を、私自身をバディと選び、心から懐いてくれる透未を孤独にすることなど出来るわけがない。


「・・・それには、及びません。
ブリッジスの傍に行っても、当てられるだけです。」

「・・・そうか。
ま、それからのことは、何れにしろ天王山[クリティカル・ポイント]を乗り切ったら、考えよう。

で、―――だ。

一つ確認だが、真愛[まちか]に戦う意志はあるか?

―――本来なら、この国の徴兵年齢にさえ達していない二人、まして幼い透未[すいみ]を巻き込むコトになる。
“森羅”接続者としてなら基本完全隠蔽されるが、かえって目立つリスクもあるから、いっそ参戦しないことも選択肢の一つ・・・。」


クスンと笑いが零れる。

―――全く・・・。
あの醜い“繭”から私を救い出し、新たな身体を与え、ПЗ[ペー]計画の呪縛を全て解き、今また庇護を与えてくれると言うのに、その将来の希望にまで気を配るこの人は、紛れもなく私達を人として認め、人として生きろと示唆している。


「―――私達が唯一還せるコトを、取り上げないで下さい。
大佐は、化物と蔑まれ祖国にも捨てられて寄る辺無かった私達に居場所まで作ってくれました。
戦うことが、取りも直さず自分たちの居場所を護ることに繋がる―――ならば、私達に戦わないという選択肢は在り得ません。」

「―――了解。
なら、“紅の姉妹”と同じく、プラーフカなしのナストロイカ・・・“合一”が出来るよう社に教えて貰え。
後は、“森羅”の適合可能性か・・・。
社、どう思う?」

「・・・接した感覚で言えば、透未[すいみ]さんは同じ第6世代ですが、ПЗ[ペー]計画に著しく影響されて、かなり戦闘に特化している感触があります。
まだ幼く自我も未成熟なので、戦闘しながらの“森羅”接続は却って混乱を招くかもしれません。
寧ろ、真愛[まちか]さんが“接続”や“制御”に特化しているので、戦闘を透未さんに任せれば、“森羅”を使って戦況を見ながら制御もできるキャパシティを感じます。」

「・・・その上で“合一”すると、どうなるんだろうな・・・。」

「・・・ちょっと興味、あります。」


ちろん、とウサミミ少女が私を見る。
背筋がゾクンとしたのは、きっと錯覚だろう・・・。


「ああ・・・紹介が遅れたが、第4計画の社霞特務少尉だ。」

「―――社です。
宜しくお願いします。
ご想像のとおり第3計画の出身で、元の名前はトリースタ・シェスチナになります。」


今まで紹介をすっ飛ばしてとぼけていた大佐に僅かに視線を流しつつ、淡々とロシア語で言う。
決して表情が豊かな訳ではないが、穏やかな柔らかさを感じさせずに居ない。
思ったとおり、“姉妹”―――それも数少ないシェスチナ姓を持つ先達。
300番目[トリースタ]、と言うことは、ベリャーエフが対外的[●●●]に最終としたと言っていた発現者。
秘密裏に継続された研究では、イーニァが同じ300番代・・・バディはその後になるので、私の知る中では最年長・・・それでもロットで言えばイーニァと同じくらいの筈・・・。


「因みに、社も武の嫁の一人だ。」


・・・何処か私達と違うのは、育った水のせいだと思っていたが、発現者にして既に売約済み[リア充]とは・・・。
・・・しかし白銀少佐と言えば、ユーコンに4人も嫁を連れてきたのでは無かったか?


「・・・帝国の風紀はどうなっている・・・?」

「・・・人口減対策の時限立法で、来年から一夫八妻まで認められるんです・・・。」


なん・・・だ、と?









「・・・ま、今日のところはゆっくり休め。
消化器系も再生したばかりだから、悪いが食事は暫く流動食。
透未は先刻社と済ませた。
後のことは、社に訊いてくれ。」


ブリッジスが日本国籍だったら或いはシェアも・・・、と暫く白くなっていたら、大佐にそう言われた。
―――考えたら彼が日本に帰化することなど在り得ないし、あの堅物がそうそう軟化する訳がない。

意味ない妄想を止め、気を取り直して居住まいを正す。




「・・・最後に一つだけ、お訊きしても良いですか?」

「・・・ああ、―――どうぞ。」

「では・・・。
―――大佐は“繭化”された私と透未を託されて、多大な手間を掛けて再生、そしてПЗ[ペー]計画の全て呪縛から解放までして呉れました。
確かに、私達の能力が有用だから、その為に確保した・・・そう言われてしまえばそれまでです。
でも、だったら戸籍など与えず、影で使い潰したって良いコト・・・。
機密漏洩防止措置などそのままにして、指向性蛋白だけを供与すれば、情報が漏れたときのリスクヘッジも要らない。
なのに、そうしなかった・・・。

・・・つまり、私達は貰い過ぎです―――。

今後の戦いだって、言った様に自分たちの居場所を確保するためのものでもあって、大佐個人に還すコトではない。

・・・私達は、結局何一つ大佐に還せない・・・。

―――そこまでして、大佐自身には何の利益が在るんですか?」


脳だけからの再生などそうそう需要があるとも思えないが、脊髄の損傷で全身麻痺や、BETAとの戦闘で四肢を欠損するなど同じ技術が使えることもあろう。
なんでもない事のように言っていたが、それは横浜でしか出来ないとんでもない技術なのだ。
そこに研究開発含めどれだけの費用が掛かるのか―――。

見れば大佐の傍らで社少尉も頷いている。
身内から見ても、この人はそうなのか。


「―――今までが、ソ連しか知らないから理解出来なくても仕方ないか・・・。

なら質問を質問で還すようで悪いが、真愛は先刻、自分はどうなってもいいから、透未を助けてくれと言った。

―――それで、君に何の利益があるんだ?」

「え?・・・・あ・・・。」


言われて思い当たる。
確かに透未が助かるなら、私はどうなってもと望んだ。
何が還って来る?
―――きっと、自己満足だけだ。


「・・・けれど、それで良い、―――だろう?

自分より幼い者や、取り分け母親の子供に対する対価を求めない行為は、“無償奉仕”とか、“無償の愛”とか呼ばれるが、本来は人間という種が存続していくために必要な本能的行動―――、なんだろうな。
個人が持っているリソースを、次代に、その次代に、と注いでいくからこそ、一つの種が連綿と続いてゆく・・・。」

「・・・。」

ПЗ[ペー]計画もそうだが、その国に生まれたコトに恩を着せ、命を以て還せ、などというのは極めてナンセンス。
それを当然のように強要していたら、次代など育たない。
―――そんな国に、未来など無いのさ。」

「・・・・・・。」

「今、この世界の人類は、滅亡の瀬戸際に在る。
実際次代を残すべき若い命を犠牲にして、辛うじて生き延びているような状態だ。
この状態が続けば、よしんばBETAを駆逐できたとしても、人類は先細るだけ。
本気で人類の存続を目指すなら、BETA殲滅と共に若い世代をどれだけ保全できるか、が鍵になるってことだ。

無論、恩を返すな、戦うな、と言う意味ではなく、飽くまで有しているリソースの配分、・・・バランスの問題。
現状は、そのバランスが大幅に狂っている。」

「・・・・・・。」

「ま、俺の場合は、たまたま相続したリソースがべらぼうだったから、個人単位で見れば確かに損している様に見えるかも知れないが、“種の存続”と言う観点で見れば、まだまだ足りない位だ。

俺に恩を感じるのは構わないし、今は人類存亡の秋―――、戦力は多いに越したことはないから、手伝ってもらうことも在るだろう。
けれど受けた恩を全部還す必要なんてない。
何よりも命を捨てるなど最大の冒涜、―――必ず生き抜け。

そして、その分を君より幼い者や、あるいは将来の自分の子供に惜しみなく注いでやれば、それでいいのさ。」

「・・・・・・・。」



渦巻く様々な想い。


―――正直、その応えは私に取って衝撃的だった。

自分の子供・・・?
人工生命体という意識が、何よりも自分に在ったのか、そんなこと・・・今まで考えたコトすら無かった。
だが、祖国を追われ拾われた先で、手にした僥倖、人工生命体の枷が外れた今、自然そうなる成り行きも在ると言うこと・・・。


産み出してくれた恩。
育ててくれた恩。
・・・例えば、今こうして命を救われた恩。

けれどそれは、そもそも全て返せるものではないし、また一方的に恩着せられるものでもない。

私達は、ソ連という自分たちを生み出した国にずっと恩を着せられてきたとも言える。

恩を還すことが悪いとは言わない。
だが個人の有するリソースなんて、限られている
そのリソースを次の世代に重きを置かなければ、人という種は衰退する。

“無償奉仕”と見えるのは、次世代に繋ぐための分配そのもの、と言うコトか・・・。

そこに個人の利益など問題外。
そうしてこそ人の世は受け継がれていく―――。

―――その流れの中に、私も居る・・・。


今、初めて自分自身が“人間”で在るコトを、認めることが出来た気がした。




「―――尤も、誰も彼も救う救世主なんかじゃないから、相手はかなり[●●●]選ぶが、な。」


・・・今はこの、傲慢な庇護者に出会えた幸運に感謝しよう―――。


Sideout






※ごめんなさい、連休前に上げる予定がかなりズレこみました。
  どうも連休前後は何かと落ち着かず、文章が進みません。
  つまり繋ぎのプロットが真っ白・・・orz
  次は更に時間をいただくかも知れませんがご容赦下さい。



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