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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/08/28 20:32
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Side クリスカ


ふと目覚めれば、そこは見慣れた戦術機管制ユニットの中だった。
けれど、何時ものフロントシートではなく、サイドのエマージェンシーシート。
一瞬、何故こんな所に、と想う。

少しの覚悟と、殆どの諦観を持って臨んだ“施術”のはず、初めはぼんやりと視界を眺めていただけだった。
が、すぐに傍らから声が掛かる。


「目が覚めたかクリスカ。」

「・・・ゆ、ユウヤ・・・?」


声の主を確認しても現実感がない。
何故、ここに・・・?
これは一体、如何なる状況?

―――呆然と見詰め返す。
2度と逢うことはないと覚悟を決めた相手・・・。


「クリスカぁ~ッ!」


更に後ろから抱きつかれる。


「“繭”になんかなっちゃ、イヤだよぅ!」

「・・・・・・!!ッ」


リーディングをしなくとも受けたのは、圧力さえ持った押し寄せるような膨大なイメージ。
イーニァの“経験”を時間的に圧縮して一気に流し込まれた。
それだけでも、自分が如何に間違った選択をしてしまったのか、理解できてしまった。

ベリャーエフ博士が言った延命の“施術”とは即ち“繭化”・・・。
ちゃんと考えれば、イーニァが私の“繭化”など望まないのは判り切ったこと。

更に思い返せば解除ワードによる記憶の復活が切っ掛け。
以前の経過観察時にベリャーエフ博士から聞かされた自壊プロセスの内容を思い出した動揺と混乱。
ソレすらも国家の貴重な資料と考えていた以前の思考と、今ではイーニァも巻き添えになる、という言葉に、まんまと誘い出されてしまった・・・と言うことなのだ。

―――そして、その愚かな私の選択により、ユウヤが取った行動も、イーニァのプロジェクションで全て理解してしまった・・・。


「!!・・・貴様は―――なんて馬鹿なコトを・・・。
私なんかに貴様の未来と引き換える価値など在りはしないのにッ!
私は、もう―――!」


グイッと腕を引かれる。
背中にイーニァが抱きついたまま、ユウヤの胸に抱き込まれた。


「・・・知ってる。
けど・・・、だからこそ、オレはおまえと一緒に居るって、決めたんだ。」

「あ・・・。」


そのままユウヤの勁い輝きに包まれる。
・・・・・・ダメだ。
反論したくとも、何も言えない。

イーニァが、伝えてくれた経緯。
博士を殴り飛ばし、サンダーク大尉の提案を一蹴し、ユウヤが自分の祖国を喪っても私の、・・・私達のそばにあることを選んでくれたユウヤの言葉。
―――そして何よりもそれを顕すユウヤの中の一点の瑕疵もない、その輝きに言葉を失った。


勿論、それで全ての不安がなくなるわけでもない―――。


「それも・・・大丈夫だ。
オレを・・・そしてなによりイーニァを信じろ。
もし・・・そう[●●]なっても、トリガーの対象をサンダークからオマエに変えちまったイーニァなら、次はちゃんとオレに変える。」

「あ・・・あぁ!・・・そうだな・・・。
きっと・・・!、そうだ!」


ユウヤは、やはり発現者なのでは無いだろうか?
何故、言葉にしない私の気持ちを汲んでくれるのか。
その唯一の杞憂さえそう断言されると、確かに、と思えてしまう。
このまま私の存在が無くなっても、ユウヤが居ればイーニァは・・・私の分身はユウヤのそばに在り続けられる・・・。


「・・・しかし・・・私の浅慮が貴様にこんな途を選ばせてしまったのだな・・・。
謝って済むことではない・・・。
私は、・・・私には、もう何も還すコトが出来ないと言うのに・・・。」

「クリスカ―――。
オレの気持ちは見てるだろ?
・・・・・・そこに一片でも“後悔”があるか?」

「・・・・・・。」

「そんなん、誰だって同じだよ。
軍人、特に戦術機パイロットなんて言うまでもないし、一般人だって同じだ。
先刻まで話して居た奴が、1時間後に突然居なくなることだって、往々にして在る。」


遠い目をするユウヤ。
そこにあるのは・・・悔悟?


「―――だからこそ、オレはクリスカとの今を大事にしたいんだ。
オマエの存在だけで、オレだってオマエに還せない程の大きなモノを貰っているんだ。」

「・・・ユウヤ―――。」

「・・・その為ならなんだってするさ。
そして、それを決めたのは、他の誰でもない、オレ自身だ。
だからさ、クリスカに謝られると、寧ろ困る。

逆にオレの我儘で、クリスカが助かるかも知れないサンダークの提案さえ蹴飛ばしたんだぜ?
・・・謝るのはオレの方だ。」

「・・・ズルイ言い方だ。
そんな風に言われたら、謝ることも出来ないではないか。
そして・・・貴様にわが祖国は絶対合わない・・・。
大尉の提案は、私でも受けないから問題ない。」


抱きしめていた腕を離し、真っ直ぐに瞳を覗き込まれた。


「―――なら、お相子だ。
気に病むコトはないからな。」

「・・・・・・ウン―――。」


もう一度、イーニァ共々、勁く抱きしめられた。







漸く落ち着き、状況が見えてくる。
ユウヤが出してくれた流動タイプのレーションを吸いながら相談。


「・・・問題は、何処に向かうか、だな。
既に推進剤も電源も半分を切った。
まあ、統合補給支援機構[JRSS]があるから、いずれ補給は出来るが、手持ちのレーションに関しては、3人だと3日程度が限度。
天候は2,3日荒れるらしいが、その間に目処だけは着けたい。」


網膜投影にマップが映る。


「・・・米国に戻る気は、無いのだな―――。」

Phase4[コイツ]に、イロイロついてちゃいけないモノが着いちゃってるからな。
機密漏洩疑惑の関係で、戻るわけにはいかないんだ。
そう考えると・・・一番現実的なのは、アサバスカか―――。」


アサバスカ迎撃戦跡地[グランドゼロ]
あぁ―――、BETAの落着ユニットを核殲滅した死の大地。


「半壊した核不発弾がまだ大量に残存していると聞くが・・・?」

「確かに重度放射能汚染で広範囲が立入禁止だけどな、逆にそのために通常の軍でさえ立ち入らない市街地なんかが放置されていて、数千以上の不法難民が流入し幾つかの独立したコミュニティが形成されているんだそうだ。
これらのコミュニティは各国人権保護団体やNGOの支援で成立しているから潜伏するにはちょうどいい。
ま、中には例の難民解放戦線他武装組織が支援している暗黒流星街もあるから、そうそう長居する気も無いけど。」


環境的に厳しいが、確かにそんな所に入り込んでしまえば、そうそう追っ手が掛かることもない。



「―――ユウヤの故郷は?、何処?」


そんな思惑とは関係なく、熱心に地図を見ていたイーニァが聞いてきた。


「故郷?・・・うーん、認めたくはねェが、物理的には・・・。」


マップが移動する。
北アメリカ大陸を縦断・・・南部。
ここからだと、距離にしてほぼ5,000km―――。
確かに行ってみたいが、無理な相談だろう。


「わぁ、どんなところ?」

「・・・まぁ、オレ自身にはあんま、いい思い出もねェからな。
存在しない親父のせいで滅茶苦茶だったから。
今はもうみんな死んじまったけど、お袋は頑なに親父を庇い続けるし、ジイさんはそれで何時も逆上、バアさんは完全無関心。」

「Hmm、それが貴様の家族か・・・皆個性的で楽しそうだな・・・。」

「あれを個性的と言うのはオマエくらいだぜ・・・。
まあ、いいけど、それが毎日でさ、外では良いとこの家柄のハズが日系の容姿で虐められるし、嫌になって逃げ出したことが在るんだ・・・。」


幼少期のユウヤ―――。
周囲の家族の対応。
その意味を、今更ながらに反芻し、理解しているのだろう。


「―――で、さ一度だけ計画的に集めた物資―――菓子とかジュースとかをデイバックに詰めて家を飛び出したことがあんだ。
ホンの4,5時間の、ささやかな逃避行という自己主張、だったんだろうな。
結局ジイさんの敷地を出ることすら出来なかったんだけどな。」

「・・・・・・。」

「その頃はお袋とオレは屋敷から出て、敷地内の一軒家に住んでたんだけど、なにせ南部の大地主、見える範囲地平線まで敷地って言う規模でさ、まるで絶海の孤島みたいに周りには何にもないトコだった。
だから、子供の足で飛び出したって何処まで行っても変わり映えしない平原・・・。
しかも夕方だったんで、あたりはすぐ暗くなって、妙な動物の鳴き声までする始末。
足元も見えないほど暗くて、スゲェビビってた。

けど、その日はたまたま満月で、ちょうど雲が晴れて何にも無いと思っていた平原が明るい月明かりに見渡せたんだけどな。

―――そん時見た風景だけは今も忘れない・・・。」


脳裏に飛び込んできたのは、満月の月明かりに浮かぶなだらかな起伏をした広大な野原、その野原を全て埋め尽くす青紫色―――。
ユウヤの思い出をそのまま映した幻想的なイメージが、視界全体に広がる。


「―――わぁぁ!」


同じイメージを受け取ったイーニァが嬉しそうな声を上げた。
これがユウヤの故郷・・・。
このまま米国に行けるなら、こんな景色も見てみたかったと思う。
5,000km・・・そして春はそれ以上に今の私には余りにも遠い―――。


「―――ブルーボネットって言う地元特有の花らしくてさ、州の花にも成ってる。
ちょうど家出した春が盛りで、家から丘一つ越えたところが群生地に成ってるらしいんだけど、何時も町に行く途とは反対側で、他の花畑は規模が小さかったから知らなかったんだ。
・・・この時の光景には子供心にも圧倒されて、呆然と見入っちまった。
コーンフラワーブルーより、ちょっと紫に近い青で―――あ・・・。」


一瞬動作が止まったユウヤは、突然ガサゴソとグローブボックスをかき回すと、何か小さな箱を取り出した。


「昨日さ・・・、本当は夕食に誘おうと思ってて、そん時クリスカにコレを渡すつもりだったんだ―――。」


箱の中には、今イメージで見た花色によく似た透き通る青紫色の大きな石をあしらった指輪。
今見せてくれたあの遠いユウヤの故郷を一つに凝縮したような存在。
戦闘一辺倒で、一般常識に大きく欠ける私でさえ見惚れるほどの美しい宝石、そしてそれが意味することくらいは、知っていた。


「・・・・・・コレ・・・を、私・・・に・・・?」

「ああ―――。
イーニァにはコッチな。」


指輪の台座の下には、同じ石で作ったと思われる色合いの、少し小ぶりのペンダントが揃っていた。


「―――オマエと、・・・そしてイーニァとも“家族”になる証として、・・・受け取ってほしい。」


そんな―――。
コレがユウヤの母親から渡された、謂わば形見であることも読めてしまう。

そんな大事なモノを人工生命体である私が―――?


「イーニァは、勿論良いよな?」

「ウンッ!」


嬉しそうにペンダントをつけてもらうイーニァ。
そして次に未だ呆然とする私の左手を摂ると、強化装備をグローブだけ外す。
自分の薬指が、吸い込まれるように指輪に嵌るのを、信じられないように見ていた。


「・・・証人も、紙切れも無いけど、これでオレ達は家族・・・良いだろ?」

「あ・・・、ユウヤ・・・ユウヤァッ!」









暫く3人で抱き合って、そしてその胸でトクントクンと正確なゆっくりとしたリズムを刻むユウヤの鼓動を感じていると、何時しか私は耳馴染んだメロディを口ずさんでいた。
同じ曲で育ったイーニァもそれに合わせてハミングしている。


「この曲は・・・・・・いい曲だな・・・。」


何処の、誰の曲かも記憶にない。
どこかもの悲しくて、でも優しい感じの、・・・綺麗な曲。


「―――この曲は、私達の故郷の思い出なんだ・・・。
ユウヤの故郷の話を聞いていたら、つい・・・な。」

「・・・おまえらの故郷・・・?」

「うん・・・私達の故郷だ・・・。」

「まさか、あの研究施設ってコトはないから―――ソ連のどこかか?」

「そうだ・・・。
でも、場所はわからない・・・街の名前も知らないんだ・・・。」

「・・・なんか目印になるような建物とかなかったのか?」

「・・・微かに記憶している。
・・・真っ白な建物と、私と一緒に生まれ育った姉妹たち。」

「・・・!」

「高台から見える遠くの町並み・・・。
金色の尖塔を持つ白い建物・・・。」


故郷の風景をユウヤにプロジェクションする。


「・・・これが・・・二人の・・・。」

「そうだ・・・だが、もう、BETAに壊されてしまっていると思う・・・。」

「・・・かもな。」

「・・・うん。」

「二人の故郷か・・・。」

「・・・・・・。」

「行ってみたかったなぁ・・・」

「ん・・・?」

「おまえらの故郷・・・行ってみたかったな・・・。」

「・・・・・・ユウヤ。」

「あ、なんだ・・・?」

「私は・・・。」


私に残された時間は少ない。
伝えなければならないことは、沢山ある。
今は可能な限り、伝えなければ・・・。


Sideout





Side デイル・ウェラー

ユーコン某所DIA事務所 09:33


朝・・・と言ってもこの時期のユーコン、太陽はまだまだ顔も出さない。
事務所内の淀んだ空気、徹夜明け独特の倦怠感。

昨夜のソビエト施設損壊事故[●●]についての向こう側の公式な報告書。


「・・・結局ソ連は戦術機試験の暴発事故―――で押し通した訳か。」

「は。
テロとすれば、プロミネンス側の検証も受け入れなければなりません。
それを嫌い、自軍の事故とすることでビャーチェノワ少尉の略取そのものを無かったコトにしてしまうつもりかと・・・。」

「・・・その間、先の政治的合意を覆しかねない爆弾を抱えたブリッジスは米国に戻れず、領域侵犯者として抹殺すればいい、と。」

「そう言うコトでしょう・・・。
―――あ、あと、その“暴発事故”により、モグラが1名、死亡しています。」

「は?・・・何故だ?、何か危険要素があったのか?」

「いえ、事故そのものに関わることではなく・・・他のモグラに拠れば、死因は脛骨骨折・・・とか。」

「!!・・・スペツナズの得意技―――か。
ブリッジスの脱出補助していて、見つかったか・・・。」

「―――いえ、それも違いますね。」


少し前に入ってきて報告を待っていた別のメンバーが否定した。


「なに?」

「・・・先程裏が取れました。
此方のビャーチェノワ少尉サポートメンバー・・・昨日朝の彼女とベリャーエフの接触を報告しなかった護衛ですが・・・と、殺されたモグラ・・・此方はビャーチェノワ少尉の施設入場報告を3時間余り遅延させた担当ですね・・・は、共にCIAとの接触がありました。」

「CIA・・・ッ! つまり第5計画派かッ!?」

「恐らくは・・・。
ブリッジス少尉に対するラプターショックの逆恨みってヤツでしょう。
第4計画と近い“紅の姉妹”やブリッジス少尉をハメれば、相手方の戦力削減にも繋がると考えた様です。
モグラはむしろブリッジス少尉の脱出を妨害するのにベリャーエフを炊きつけた節があります。
むしろ、事態の推移を推し量ると少尉の脱出を援護したのがスペツナズかと・・・。
実際サンダークは“紅の姉妹”奪還に釘を刺していたようですから、“魔窟”の癇に触りXM3供給停止を恐れたと推察されます。」

「―――ブリッジス少尉の脱出を致命的に妨害したのが、選りに選って我が国組織の確執で、逆に彼を生かしたのは、ソビエトの特殊部隊だ、と言うわけか―――!?
しかし第5計画・・・G弾は死に体だというのに、何という・・・余計なことを―――ッ!!」


だから今回はCIAの色濃い国家安全保障証ではなく古巣のDIAで動いていたというのに・・・。
いつもソビエトのダブルを警戒していたが、まさか第5計画派のダブルがDIA協力メンバーの最先端に迄入り込んでいたとは・・・。
これではもう一度、組織内部も洗い直す必要がある。
何時裏切られるかも判らない現状では、迂闊にブリッジスを原隊復帰させることも出来ない。

しかし、ブリッジスがこのまま米国に戻れず、ソビエト領内を彷徨する状況はマズい。
幾らあの機体がJRSSにステルス付きとは言え、一切の整備なしでは稼働時間は限られる。
可及的速やかに米国に戻れるよう取り計らなければならない。


・・・心情的には問題があるが・・・背に腹は代えられぬ・・・か。

私は意を決すると、受話器を取った。


Sideout






Side ステラ

統合司令部B01 C-108 15:00


「わけわっかんねぇっ!!」


途中、交代で仮眠をとったとは言え徹夜明け、それももう午後。
タリサの叫びが全員の気持ちを代弁していた。

〈Argos-01〉、ユウヤとイーニァのMIAから既に既に20時間以上―――。
天候は回復の様子も見せず荒れ狂っているが、夜は明けても動きは無かった。
捜索隊の出動さえ無い。
ずっとブリーフィングルームに待機していたが、さっきドーゥル中尉とラワヌナンド軍曹が入ってきた。

結局未だに救難信号も受信されていない。
そしてクリスカも戻らず、MPは脱走や拉致も視野に入れ捜索を開始していた。
VGが聞き込んだリルフォートの飲食街に彼女が立ち寄った様子もなく、けれどそこで会った顔見知りのランジェリーショップ店員から、情報を得ていた。
彼女は化粧室を貸して欲しいと申し出た後、そのまま裏口から出てしまったらしい。
商品の不正持ち出し等ではないので、なにか用事ができたのだろうと思っただけだったが、その後、2,3人の男が店内の様子を伺っていたのを他の店員が見たと聞いて、気になったという。


そして昨夜21:00頃に発生したという、ソビエト占有区画施設でのテロ発生騒動―――。
当初、戦術機による施設破壊との話で、一時はソ連の哨戒部隊を初め、プロミネンス計画の警護部隊や、米国側フェアバンクスの部隊まで動き出す事態となった。
しかし、その後自国戦術機実験の事故による施設破壊と訂正され、テロ・コードの発令は取り消された。
当然米軍やプロミネンスの警護部隊は退いたが、何故かソ連側の哨戒部隊はそのまま残り、更には最寄りのБ-01基地からも1個大隊が国境線の哨戒行動に出ているという


訳わからない・・・コトもない。
余りにも連続した事態に繋がりが在るとすれば、当然一つの疑念がある。

そしてこのブリーフィングルームに、ハイネマン氏が顔を出すに至って、私の疑念は確信に変わった。




「・・・実はPhase4にはYF-23由来のステルス技術が搭載されているのだよ。」


ブリーフィングが始まった直後、思ったとおりのハイネマン氏の言葉。
“ステルス”・・・それこそがミッシングリンクであったキーワード―――!
それを認めてしまえば、全部繋がるのだ。


タリサの見た、クリスカへのベリャーエフの接触。

私が感じたクリスカの逡巡。

VGが聞き込んだランジェリーショップ店員の話とクリスカの失踪。

そしてユウヤのMIAと、ソ連施設の事故。


―――簡単に言えば―――自分の女を拐かされたユウヤが、ステルス戦術機で殴り込んだ[●●●●●]―――、と言うコトね・・・。


当然ソ連はクリスカを拐取したコトがバレるからテロとは言わないし、でもソ連領に実質領域侵犯している〈Argos-01〉を放置しておくわけにもいかない。

けれど、解らないのは、首尾よく奪還できたなら何故、ユウヤは戻ってこない―――?
拐取の状況はクリスカが証言してくれるから、何も問題は無いのに・・・。

あ―――。



「・・・ハイネマンさん・・・一つ質問宜しいでしょうか?」

「構いません。」

「・・・以前XFJ計画が受けた機密漏洩疑惑って・・・もしかして“ステルス[それ]”ですか?」

「・・・その通りです。
私としては、日本側に提出義務のないボーニング独自のPhase4から付けた[●●●●●] んですが、当局は形状がYF-23に似ているというだけで、以前から疑って掛かっていました。
しかもブリッジス少尉も以前から付いていて査察対象となった、と勘違い[●●●]している様なのですよ。」

それで[●●●]帰ってこない・・・と。」


単独での潜入による奪還・・・それはそのまま査察の疑惑を証明してしまうような行為。
政治決着を覆す行為ともなれば帰って来ないのも当然。
けど・・・コレはハイネマン氏がその“当局”と“握った”わね―――。
諸事情をチャラにして、ユウヤが帰ってこられるように、Phase4からとしたわけだ。


「―――ブレーメルは理解している様だが・・・マナンダルはどうだ?」


ハイネマン氏の話をドーゥル中尉が継いだ。


「・・・解っちゃぁいます・・・けど、・・・だったら少し位相談してくれたって良いのに・・・。」

「・・・以前の査察もそうだが・・・、米国は国防に関する機密に特に五月蝿い。
米国籍の自身はともかく、他国籍である我々が関わると、迷惑がかかると言うブリッジスの配慮だろう。」

「―――で、そのユウヤ以外他国籍のアルゴス隊にどうしろ・・・ってんです?」

「・・・ソ連は、テロではなかったとすることで、ブリッジスの襲撃そのものを無かった事にしてしまった。
それでいて国境線を固め、帰還を許さない構えをとっている。
ブリッジスが帰還すれば、ビャーチェノワの略取が明らかになり、更に彼女たちが受けていた様々な実験内容にも踏み込まれる可能性がある。
そうなれば国際的非難は免れないからだ。
当然不法領域侵犯として殲滅し、ビャーチェノワ略取の事実隠蔽を図るだろう。
しかも機体はステルス搭載機体・・・ステルス技術に立ち遅れたソ連には垂涎の的だ。
他方ブリッジスはブリッジスで、ステルス搭載を明らかに出来ないと考え、米国領への帰還を避けている。」

「え?・・・だってPhase4からで問題無いって・・・。」

「〈Argos-01〉の通信は途絶している。
遠距離の秘匿回戦すら完全に切っている状態だ。
どうやってそこのコトを伝えるのだ?」

「あーーね。」

「・・・接近して部隊内通信を繋がせるしか無い、ってコトか。
けどステルスなんだろ?
幾らアルゴスのマルチスタティックレーダーだって、ある程度包囲できなけりゃ捜索は困難、しかもソ連領と来ている。
お手上げじゃね?」

「Phase4に搭載されているのは、F-22Aに搭載された形状や第1世代のパッシブステルスではないのだよ。
YF-23に付けられた、第2世代ステルス―――これは簡単に言うと、ハッキングにより戦術機I/Oそのものを欺瞞してしまうものだ。
データリンクそのモノは支配できないが、データリンクからの接続を書き換え欺瞞する。
統一規格で制御ユニットのI/O周りを米国の特許に頼っている限り、逃れることが出来ないステルス技術なのだ。」

「・・・マルチスタティックも関係ねェのか。
じゃあ、どのみち探し出せないってコトじゃん。」

「旧OS、XM3もLITEやLTEはそうなるが・・・XM3の正規版だけは違う。
正規版は制御のサンプリング周波数を引き上げるために、ファームウェアも全て刷新しているのだ。
つまり、正規版にはアクティブ・ステルスのハッキングが無効であり、欺瞞が一切通じない。」

「「「「 !!! 」」」」

「・・・それでアルゴスって訳ですか。」


そうか―――。
正規版はまだ日本帝国の一部とアルゴス、そして昨日帰還した6中隊にしか実装されていない。
勿論帝国は論外、今回換装された6中隊中、5中隊は欧州の国連基地所属、残る1中隊はソ連であるがカムチャッキー国連基地の所属中隊。
当然昨日の今日で戻ってこれるわけもない。

実質的にこのユーコンで〈Argos-01〉を捕捉できる可能性が在るのは、アルゴス隊に残る4機だけと言う事になる。


「―――けど、ユウヤのヤツ、ソ連領内なんだろ?
いくらプロミネンスだって言っても、アルゴス隊にソ連が領域侵入を認めるわけねェし、近づくことも出来ねぇぜ?」


タリサの言葉にハイネマン氏は静かに頷く。


「―――アクティブ・ステルスは、謂わばソフトウェアなのだよ。
勿論専用の高速演算DSPを実装した専用ボードは必要となるが、基本ポン付けで動作する。
残っていた専用ボードは2枚、今朝方XFJ-01の2号機と3号機にも装備させてもらった。」

「!!―――潜入ミッション・・・ですか。」

「―――戦闘は必要ない。
と言っても当然見つかれば戦闘行動になる可能性は否めないがな。

XFJ-01のレーダーは最新型とは言え前方120度範囲で、約180km。
世代としてはBASEが古いACTVは120km程度だったので、2基しかない演算ボードはXFJ-01に装着した。」

「・・・米国は、米国籍以外の私達がステルス機に乗ることを容認しているのでしょうか?」

「ソフトウェアなので、もし持ち去られたとしても当然不法なアクセスや解析が在ればプログラムそのものを消去するセキュリティーが組み込まれている。
今回は、時限式でもあるから、25日の0時には、自己消去する事も含めてね。
それに、高速演算の為のDSPは、米国でしか生産されない。
更には、長いこと塩漬けにされたカビの生えた技術、XM3正規版には通用しないなら存在意義は何れ亡くなる。
―――問題は無い。

あとは君達の行動予測に掛かっている。
―――任せるよ。」

「―――つまり、我々のミッションは、与えられたデータから〈Argos-01〉の進路を予測。
XFJ-01のレーダで捕捉し、国境に関わらず接近。
可能であれば、随伴して帰還。
不可能であっても、ステルスは既に機密として問題はなく、何時でも帰れると・・・そう伝えれば良い―――ということだ。

では、続けて検討に入る。
ラワヌナンド軍曹、データを。」

「はい。
こちらは、NORADから提供された、短時間IRトレーサの履歴から、〈Argos-01〉と思しき位置を示したものになるます。
ブリザード下なので、数点しか補足できていませんが、襲撃した施設の周辺で3点、その他はソビエト哨戒部隊の包囲を抜け、北東方面に逃走していると見受けられます。
但し、これらの行動は、包囲を突破するのに大出力を使用した為、辛うじてセンサーが拾ったと考えられ、実際、演習地区から施設襲撃までの軌跡は皆無ですので、今どの方向に向かっているのか、不明です。」

「北東・・・。取り敢えず向かうとしたら、カナダか。」

「―――妥当ね。
米国に戻れず、かと言ってソ連に追われない状況としては最善。
当然カナダだってソ連軍戦術機の侵入は許さないだろうし、アサバスカの飽和核攻撃の所為で、米国ともしこりを残すカナダは、米国の言いなりでもない―――。」

「・・・素直過ぎね?」

「―――最初のAH演習、それ以降の行動傾向などからも明確ですが―――
ブリッジス少尉は示威的、或いは直情的に見えて、その実、自己犠牲を厭わず、相手の心理要因を考慮した重層的な戦術を好む傾向があります。」

「・・・初手は当然ブラフ。目的地は別で裏がある、とすれば東南か?
―――東南といえば・・・!アサバスカ迎撃戦跡地[グランドゼロ]ッ!!」

「・・・アサバスカ―――。」

「・・・旦那らしい選択といえば選択かもな。」

「それこそ直情的過ぎね?
それに難民解放戦線の暗黒流星街もあんだろ?
戦術機なんか持ち込んだら、ヤバいだろ。」

「ステルスなんだし、隠せばいいだろ?
基本世界にも捨てられた難民達・・・来るものは拒まないって言うし。」


ステルスという鍵は見つかったけど・・・、なんか未だ腑に落ちないのよね。
事態が発生して既に1日―――。
当然6,400km離れていても情報はとっくに把握しているはず。
あのひとは意味のない事はしないだろう。
だとすれば、この逃避行さえ必要なことだと?
ユウヤやクリスカに試練を与えるようなこの状況が?

ウーーン。

まだまだ私達には見えない裏がたくさん在りそうね・・・。


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