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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/06/19 20:13
'15,06,12 upload
'15,06,19 誤字修正


※視点変更が多めです ご容赦m(_ _)m



Side タリサ

ふゥ~~~ッ。
PXの椅子に座って大きく息をつく。
なんせ、今朝は早くから大忙しだった。


昨日でXM3トライアルの日程は全て完了、今日はそのゲスト部隊が帰還する日・・・なんだけどな。
今回来たのは緊急性の高い・・・つまり世界中のBETA最前線から無理を押してXM3を得に来た部隊ばかり、当然休みなんか無く急いで帰国するわけで、そのために基地周辺は昨夜から世界中のHSSTが集まって来た。
今朝の宇宙帰還機整備場や駐機場は足場の無いくらいにHSSTがひしめき合っていて、その間をカーゴに載せられた戦術機がクロスする、と言うカオスな戦場だった。
ゲスト全14中隊、内、ソ連租借地のБ-01基地から来た部隊は早朝陸路で出たし、国連北極海方面第6軍ペトロパブロフスク・カムチャツキー基地の部隊もアントノフ6機で通常滑走路から早々に飛び立ったが、他の12中隊分、戦術機合計145機、加えてA-00中隊の6機は、全てカーゴ付きのHSSTで帰還。
つまり76機ものHSSTがこの時期に集まったのだ。

結果予備まで含め3本の衛星軌道用滑走路をフルに使い、信じらんねェ事にHSSTがほぼ5分間隔での蜘蛛の子を散らす様な殺人的な離陸が敢行された。
・・・よく事故起きなかったな。


何故そんな過密で―――と、言うのも実は天気が急激に下り坂。
北極圏の境界である北緯66.34度にほぼオンラインのこの土地、長い冬は殆ど明けない夜と雪に閉ざされる。
最低気温は-40度に落ちることも珍しくない。
昨日あたりからこの地方に、何度目かの、しかもこの冬最強クラスの寒波が近づきつつある。
既に朝からチラついていた雪は、その密度と速度を順調に増し、漸くA-00が搭乗した最後の機体が南西の空に低く飛び立った時には、直ぐに白くかき消され見えなくなるほどになっていた。
この後、3,4日、ブリザードも交えた荒天が予想されている。

つまり今日の午前中に飛び立たなければ、ユーコン基地が暫く雪に閉じ込められるのは必至、その所為で本来今日一日8時間掛けて飛び立つ予定だったHSSTを、午前中の2時間に詰め込んだんだから、そりゃあ忙しいわ。


それでも無事にみんな飛び立てば、慌ただしかった基地の空気が一変。
気が抜けたような安堵と、後に残されるのは何処か空虚な空気、所謂一つの祭りの後ってヤツか・・・。
白い闇に閉じ込められるような陰鬱な天候も相まって、殊更寒々しく感じた。


慌ただしい数珠繋ぎ離陸のため、降りしきる雪の中、各滑走路の空域哨戒に当たっていたアルゴス隊は10:00から出ずっぱり、A-00やツェルベルス、ロレーヌのメンバーとも朝のPXで顔合わせしたきりになってしまったのが心残り。

ま、戦術機乗りの別れの挨拶なんて、それぞれの離陸直前、音声で交わした“Good Luck”しかねェけどな。
お互い、運がよければまた逢うことも在るだろう。




―――けど、ま、確かに濃いメンバーだった。
単騎世界最高戦力と噂に高い“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”は正しく看板に偽りなし。
こちとらもそれなりにXM3を使いこなしてる自負は在るってのに、模擬戦で勝てる気がしねェ。
威圧感ハンパねェとか、強者のオーラ出まくり、とか言うレベルさえ超越してやがる。
―――まるっきり普通。
イマイチ意味分かんねェけど、“無碍の境地”ってヤツ?
けど相手をするコッチに取っては寧ろ空気?
そう、空気を相手にしているような感覚。
此方の攻撃は全部スカされて、けど、在り得ない所から重い一撃が来る。
その尽くがクリティカル―――ほぼ一撃で戦闘不能とJIVES判定される。
日本で言う“武道の達人”と言うのはこんな感じなのか、と実感させられちまった。

そしてその部下(?)もハンパねェ。
神宮司教官は言うに及ばず、周りの新兵[ルーキー]でさえ皆“レベル5er[ファイヴァー]”というある意味異常な集団。

なのに、普段の様子はあまりにも普通すぎて、寧ろ歳相応っぽいそのギャップは笑えた。
何時も気を張っていた唯依みたいなのが、真面目、あるいは堅物と言われる日本人の典型だと思っていたから、気のおけないその雰囲気は、ちょっとした驚きではあったけど、悪いもんじゃなかった。



一度は此処に集い、そしてまた散っていった彼らを待っているのは、BETAとの戦い。

残るアタシたちに、何処か取り残された感があるのはそう云うことかも知れない。
けど、実際XFJ計画は正式に完了しているから、アタシとユウヤだって何時原隊復帰命令が来てもおかしくはない。
まあ、ユウヤは米国内の基地だろうから、そうそう前線に立つことはないだろうが、アタシは違う。
戻れば、即、最前線―――。
それでも、XFJから正式にボーニングの所有となった2号機が在るから、もう暫くはこの雪とも付き合わなきゃなんねェんだろうけどな。
無理とは判っちゃいるけど、あのXFJでBETAとガチやりてェなァ・・・。

ユウヤはこの前の超高速空中戦で“レベル5er[ファイヴァー]”に達したらしいし、“紅の姉妹”も既にそのレベル・・・、あいつらに一矢報いるためにもアタシもまずはそこを目指すコトにすっか・・・。

―――勿論、今日明日の休暇で十分英気を養ってから、だけどな!




「チョビ、クリスカしらね?」


そんな事を考えていたら、通りかかったユウヤにいきなり聞かれた。


「ん、あ?
一緒じゃなかったのか?
・・・そういえば、朝食の後、珍しく見かけたソ連の“這い寄る者[ストーカー]”っぽい似非学者に声掛けられてたけど・・・その後は空域哨戒で一緒だったんだろ?」

「えッ!?、あの白衣男[コモオタ]が居たのか?、―――このあたりに?」

「あ、ああ・・・。
と言っても2,3言だったから、無事戻ってきた挨拶程度だろ?
別にトラブルっぽい状況でも無かったし・・・。」

「・・・そうか、判った。」


ユウヤは思案顔。
戻ってきた女が心配なのも分かるケドよォ、行き過ぎは嫌われるぜ?


「それよかユウヤ、今夜も高速慣熟飛行訓練の申請してるんだって?
またバーチ・クリーク辺りか?
クレージー山地まで行くと滅茶苦茶荒れるぞ?
・・・昨日の日曜まで出ずっぱりだから、明日まで休みだってのに・・・。」

「・・・まあ、な。
白銀少佐と戦って、まだまだって事が判ったからな・・・。
あの時、掴んだ感覚を忘れたくねぇんだ。
それにBETAは天気なんか関係ねぇよ。」

「解かるけどよ、自主訓練とは言え付き合うヴィンセントやオペ娘も居るんだぜ?」

「ああ、悪いとは思ってるが、こればっかりはな。
一応今日は1本にしといたから、19:00には終わる。」

「確かに・・・。
酷いときは4本とかだったもんな。
―――ま、ホドホドになッ!」

「ああ、―――Thanks。」


言って踵を返すユウヤ。


なんでもない、何時もの日常。

―――そんなとこにも、“深淵[●●]”はぽっかり口を開けてたりするんだよな。


Sideout




Side ステラ

ユーコン基地 医療センター 13:00


「・・・だいぶ顔色も良くなってきたわね。」

「すまん・・・。」


静養室に戻り声を掛けると、謝罪が返ってきた。
その声も、もうしっかりしている。
傍らに置かれたサーモメーターも基準値を示している。


「―――熱も無いようだし・・・、ここの所強行軍だったんでしょ?
ちょっと疲れが出たのね。」

「・・・・・・かも知れん。」


帰還するゲスト部隊を見送った空域哨戒から戻ったドレッシングルームで、蒼い顔をしたクリスカを見つけたのは少し前。
大したことはないので大げさにしたくない、と言う彼女をそれでも医療センターに連れてきたが、確かにさしたる異常は見当たらず、ただの貧血だろうとのこと。
その後、休ませれば顔色も戻った。

前回、傷ついた神経細胞の治療にと横浜に行った“紅の姉妹”は、今回のXM3トライアルを機に横浜のA-00部隊と一緒に帰ってきた。
予定では治療で2,3ヶ月と聞いていたのだが、実質二十日足らず、相変わらずアノ人はどんなマジックを使ったのやら・・・。
なのでユウヤが殊の外浮かれていたのだから、そのクリスカが体調を崩したと知れば、確かに大騒ぎするかも知れない。
イーニァにはさりげなく先に戻ってもらい、クスリをもらうからと此処に来た。


帰任後アルゴスに所属した二人には、以前の様な、妙に突き放した態度や過剰に人見知りの様子もなく、寧ろクリスカは控えめで、イーニァは元気いっぱい。
トライアルでチーム単位の模擬戦も数こなした今では、名前で呼び合うくらいにはアルゴスメンバーとも打ち解けている。
タリサとイーニァが、どこか張り合っている風なのが微笑ましい。
その辺は、上手くとりなしてくれたA-00のメンバーに感謝だろう。
横浜の治療中馴染んだらしい彼女らが、訓練以外にも積極的に私達と行動してくれたことで、自然に接することが出来た。
これがベッタベタのユウヤだけだったら、二人はユウヤの影に隠れそうだから、今もぎくしゃくしていたかも知れない。


「横浜で全快したからって、まだ病み上がり、体力はもどっていないのだから無理しちゃダメよ。
今日午後と明日は休暇扱いだから、ユウヤにでも甘えて、ゆっくり休みなさい。」

「・・・・・・。」


私の言葉に、不思議そうに見つめ返してくるクリスカ。


「・・・何?」

「・・・その、・・・甘えるとはどのようにすれば良いのだろうか?」

「え―――」

「・・・申し訳ないのだが、私はその辺の経験や知識が全く無くて・・・どの様に接すればユウヤが喜ぶのか、解らないのだ。」


・・・小さく息をつく。
素直じゃない唯依に比べ、此方は本当に判っていない様子。
変にスれている娘よりはよっぽど良いけど・・・。
ユウヤの相手は、ホント難儀な娘ばっかりね。
イーニァの方が、よっぽど素直に甘えてるのに。


「この前の夜は、ユウヤにくっついて離さなかったじゃない?」

「あ!、あれは・・・、危険なコトはしてほしくなかっただけで・・・。
我を通して困らせてしまったと、後で反省したのだが・・・。」

「―――呆れた。
アレくらいで良いのよ。
ユウヤはちっとも困ってなかったわ。」

「・・・・・・そうなのか?」

「ええ。
一緒にいて、寄り添っていればいいのよ。
貴女が一緒にいたいと思うなら傍に居れば良いし、触れたいと思うなら手を伸ばせば良い。
―――よっぽどのヘタレじゃ無かったら、あとは勝手に男がヤッて呉れるわ。」

「そういうものなのか・・・。
しかし・・・・・もう―――」


憂いを帯びて思案する顔はかつての冷たいソ連兵のそれではない。


「そう言えば・・・・・・ユウヤは、―――唯依とはどうなのだろうか?」

「あらあら・・・。
横浜で唯依に訊かなかったの?
私は過去のことを気にしないタイプだけど、クリスカは昔の女も気になる?
ホントは・・・私が言っていいことじゃないけど、傍から見ても唯依は唯依なりに折り合いを着けたみたいよ?」

「・・・以前、唯依に私達の関係を“コイガタキ”と言われた事がある。」

「―――そうね、世間一般的に見てそう言う関係だったコトは間違いじゃない。
・・・そしてユウヤは貴女を選んだ。
勝ち負けじゃないけど、貴女がユウヤの傍にいる権利を得たのよ。」

「・・・・・・。」

「ま、世界的には男性数が圧倒的に少ないから、複数の婚姻を認める国も多くあるし、私も上手くシェア出来るなら否定するコトも出来ないけど、今のところBETA被害の殆ど無い米国は、基本重婚は認めないでしょうしね。

―――貴女は覚えてないかも知れないけど、私達が居たレストランに倒れこんできたとき、ユウヤは大佐に貴方達の全責任を取る、と言い切ったのよ。」

「―――ッ!」


一瞬嬉しそうにし、そして目を伏せ唇を噛む。


「・・・その・・・もし私が消えれば・・・、ユウヤは再び唯依を選ぶのだろうか・・・?」

「無理ね―――。
プライドの高い唯依は譲られたって絶対受け取らないし、ユウヤも此方がダメならあっちと切り替えられる器用な性格じゃないわ。
それは、誰も幸せになれない選択よ。

そんな無駄なこと考えないで、ずっとユウヤにくっついてなさい。
そしたら貴方の体調も良くなるから。」

「・・・そうか・・・。」

「疲れているから、そんなコト思うのよ。
新潟にも参戦したんでしょ?
結果は完勝だけど、内容は激戦、紙一重だったと聞いているわ。
あれからまだ1週間しか経っていないのだから。

このままもう一眠りしなさい。
暫く静かにしておいてあげるから。」

「・・・わかった。
すまない―――。」


ブランケットを掛ける。

その戦闘機動とは裏腹、―――ホント華奢な娘だ。
線が細い、と言うか、何処か存在感が希薄。
この娘が拘るのは、戦うこととイーニァのコトだけ、いつも自分のコトは二の次だった。
高飛車な態度とは矛盾する過剰な祖国への滅私奉公―――、いつ消えてもおかしくないと感じていた。

そこに唯依との応酬もあり、ユウヤと言う要素が加わったのは、この娘にとってもいい事だったのだろう。
心情的にはずっと唯依を応援してたけど、唯依自身が納得したのなら、この儚い娘を応援することも吝かじゃない。
女心に鈍感で、機微に疎いあのユウヤが固執したのはこの娘―――。
レッドシフト、Su-47評価試験、そしてインフィニティーズ戦といろいろ在ったみたいだし、ずっとバタバタだったけど、こうして無事戻ってきてくれて、本当に良かった。


彼女たちがどんな運命を辿ってきたのか、私は知らない。
冷酷なソビエトの、一時は最高戦力とまで言われた彼女たち。
何を喪ったのか、何を奪われたのか―――。
とても私では想像も出来ない過酷な運命に翻弄されてきたのだろう。


だからせめてその手にした小さな幸せを、自ら手放すようなことはしてほしくない。


この世界がもっと優しければ・・・。


Sideout



Side ジアコーザ

ボーニング社アルゴス隊専用ハンガー 13:00


オレとそして、アルゴス隊専属のオペ娘の一人―――ニイラム・ラワムナンド軍曹は二人して蛇に睨まれたカエルのように固まっていた。
ここはアルゴス隊専用ハンガー、機体を収めた後に機動記録を紙で貰う、オレに取っては何時もと全く変わらないパターン化した行程の一つに過ぎない。

なのに・・・。


目前には、ニコニコ笑っているチビッ子、横浜から復帰したばかりのイーニァ・シェスチナ少尉。



仲良しなんだねッ!・・・それが唐突に掛けられた言葉。

俺の反論も、ニイラムの否定も、全て封殺するようなその笑顔。
唇が、上手く言葉を紡げない。
これが、金縛りってヤツなのか?
・・・脂汗が浮く。


その様子に気付いたのか、不思議そうに、じぃーッと見詰められる。

なんか、見透かされるような気がするが、別に気にすることでもない、と思っていたら。
傍らのニイラムが紅潮していく。

―――おォ。

何時も超然と取り澄ましたコイツの赤面など初めて見た。

クッ、可愛い・・・じゃん。


―――ってそうじゃない!

此処でそれはマズいだろッ。
褐色の肌だから気付かれ難いが、このままでは周囲にもバレる!



「・・・イーニァは飯喰ったのか?」

「ううん、まだだよッ。
クリスカがご用事だから、ユウヤ探してたの。」

「ユウヤは戦術機の事で、ちょっと司令部行ったぞ。
なら、今日はこの後休みだし、昼はこのジアコーザ兄さんが、イタリアンの旨い店でパスタなんぞを奢ってやるが・・・、行くか?」

「・・・いいの?」


視線がニイラムに向く。


「あ~、あぁ、よければラワムナンド軍曹もどうかな?」

「!、は、私で宜しければ、喜んでお供します。」


そこッ、潤んだ瞳で見るなァ!
―――コイツ、今度は何を妄想したんだ?
全く・・・そう言うのは然るべき状況下で、是非見せてくれ。


けど―――おかしいだろ?

衛士がオペレータと話すのは頻繁にある。
今の状況だって、プライベートとはかけ離れた、事務的な何時もの行動だけ。
もちろん此方は何時も通りの馴れ馴れしさで、それに対する相手の反応も、何時も通り浮気な男を嫌悪するような極めて素っ気無いものだった。

・・・何処をどう考えてもバレる要素はない。


今回も姉貴にしつこく釘を刺された。
基地内外、複数の女と関係在るのも確かだが、それでも同時進行[フタマタ]はしてない・・・つもり。


―――テロの時、ナタリーのコトは、正直ショックだったからなぁ・・・。

進行形で自分の腕に中に居た筈の女が、ユウヤやチョビに銃を向けてきたわけだ。
寧ろ助けられる形で情報提供を受けたと聞いたが、その為に仲間のテロリストに射殺された。
結局、俺の知らない所で、俺の知らない理由で、勝手に逝っちまった―――。
テロだ、思想だ、難民開放だ、主義主張は人の数だけあるだろうが、そんなことを言う前に何故理解してやれなかったのか、何故気づけなかったのか・・・。
結局上辺だけしか見ていなかったのかと、正直かなり凹んだ。

幸い、と言うのが遣り切れないが、あの後のBETA侵攻にも遺体は残っていたらしく、埋葬されていた。
漸く基地も自分も落ち着いてから、こっそり郊外にある小さな墓に花を手向けに行ってみれば、そこで偶然逢ったのがニイラムだった。

ナタリーの店はアルゴスの行きつけだったから、オペレータ・メンバーも面識在るのは知っていた。
それが、たまたま訪れたのか、或いは彼女達に何らかの繋がりがあったのか、それは聞いていない。
多分・・・お互い怖くてそこは今も踏み込まずに居る。
それでも、なんとなく何時もの軽い調子でリルフォートに誘えば、何故かそのままついてきて、なんとなくそのまま収まっちまった。


トンガッた眼鏡とひっ詰めた髪で隠しているが、それを取って髪を解いてみれば、生粋のオリエンタル・ビューティー、結構な別嬪さんだ。
アーリア系の血が混ざるインドには、彫りの深い、それでいてオリエンタルな雰囲気の美人が多いと聞くが、その例にもれない。
実は伸びやかなプロポーションを、何時もイカツイ制服に隠している。
それでいてヨガをやっているせいか、異様に身体が柔らかかったりする。
切れ長の瞳の奥に、イマイチ読めない不思議な感性の持ち主。
それ故か、ヨーロッパ人が東洋人に求めるどこか神秘的なオーラも纏う。
まあ、恐らく彼女の場合そこはミステリアスってよりは、ニヒリズムってヤツかも知れないんだけどな。
意識して入れ込まないようにしている節がある。
多分・・・喪ったときに自分が辛いから―――。

いろんなモノを無くしてきたのは誰もが同じ。
このユーコンは、多かれ少なかれ、そんな奴らがより集められた最果ての地なのだ。


だから、そんな仮面を溶かして、快楽に声を忍び、褐色の艷めかな肢体を打ち振るわせる、その姿が思いの外、気に入ってしまった。
・・・互いの瑕を舐め合うような、行為なのかも知れないがな・・・。


本当は職場の近いメンバーは相手にしない、と決めていた。
周囲に隠すのも別れた後も面倒くさいから。
勿論、何時ものお誘いは社交辞令、褒め言葉の一種だから止めはしないが。

けど、あのテロの後、立ちゆかない状況にこれでプロミネンスも終わり、少なくともそろそろ原隊復帰かな・・・とか感じていたから、つい一度くらい、と思ってしまった。

それが予定外に壺って、深く嵌り込んで・・・、今に至ると言うんだから男女の仲はままならない。


お互い、周囲に知られたくないのは同じだったので、完璧に隠蔽していた筈なのだ。
会うのはリルフォートにある密かに借りたアパートメントの一室。
階段からは他の部屋の出入口から見られること無く入れる角部屋。
通りの違う出入口が2つ在る優れもので、出入りする場所も変えていた。
食事でさえ、わざと気軽に誘うが、他に人が居るとき以外全て無下に断られる。
こんなだから実際、無理じゃね?とチョビに憐れまれたコトはあるが、他の誰にも、一欠片の疑いを持たれたこともない。



それを、一目で完全に見ぬかれた・・・ってコトか・・・。



ホント随分と勘の鋭いお子ちゃまだ。
不思議ちゃんでもある。
以前の人見知りは、少なくともアルゴス隊のメンバーには見せない。
くまのミーシャを抱えてクルクルと変わる表情を見ているのは確かに可愛い。

・・・胸は確かに立派だが、流石にお子ちゃまに手を出すほど不自由はしていないからな!



「姉ちゃんはどうしたんだ?」

「クリスカはお薬貰って来るって。
ちょっと貧血気味?、とか言ってた。」

「そっか、此処んとこ忙しかったからな。
ゆっくり休めって。
そういや、二人で日本の新潟防衛戦にも参加したんだって?」

「うんッ!
カナタがエボ4貸してくれたから、BETAやっつけちゃって良いって。
いっぱい倒して、いっぱい褒められた!」


・・・そういえば、レッドシフトでも単騎で1,500くらい屠ったんだっけ。
今この基地が健在なのは、この娘達のお陰と言っても過言ではない。


ホントは、例えどんなに腕が良くても、こんな子供にそんなコトして欲しくない・・・。
けどよう、結局ソビエトはそう云う国で、そして世界はこんな子どもでも能力が在るなら前線に送っちまう。


ままならねぇもんだなぁ・・・。


Sideout





Side ヴィンセント

ボーニング社アルゴス隊専用ハンガー 17:50


「何もこんな日にまで慣熟飛行にしなくたっていいだろ?」

「こんな日だからさ。
最悪の状況での限界を知らないと、いざって時振り回せないだろ。」

「だからって、イーニァまで乗せるなんて・・・。
一応エマージェンシー・ハーネスも一番性能の良い奴に替えといたから、強化装備ならそこそこ動けるけど・・・。」

「わたしが、お願いしたの。
ユウヤの高速機動が知りたいって!」

「・・・そう云う訳だ。
勿論無理はしないさ・・・。
―――ま、許せ。」

「!、なんだよ急に・・・、オマエが謝るなんて気味悪いな―――」

「・・・午後半日休暇のはずなのに、自主訓練なんかで手間かけさせたからな・・・。
オペ娘[リダ]にも言っといてくれ。」

「―――付き合うのは1時間きっちりだかんな。
悪いと思ってんなら、謝罪なんかより晩飯奢れ。」

「そうだな、・・・いつか[●●●]、・・・な。」

「ああ、どうせオマエはそうだろうさ。
期待せず、気長に待ってるよ。」


昨日トライアルが終わったばっかりだって言うのに・・・、クリスカとイーニァが還ってきて、漸く落ち着けるって言うのに・・・、コイツの戦術機バカは多分死んでも治らない。
インフィニティーズ戦の後、本当に狂ったかと思うまで、そして正に機体の限界ギリギリまで攻め込んだ騎乗。
速度域が高すぎて、これだけ広大なユーコンでも通常の演習区ではすぐ隣の区画に逸脱する。
その為、演習区外で飛行訓練することも常態化していた。
当然、国境を跨る国連管理地ではあるが、演習区域外と言うことは、米国領との緩衝地帯に成るわけで、米国人のユウヤだから認められていた、とも言える。
当然、機密保全の立場上、安全も考慮されてしかるべきだが、米国との共同開発であるXFJ、乃至、フェニックス計画の一環というのも大きい。
無論、ソビエトの租借地である北側は、兵器である戦術機での侵入厳禁、無用に立ち入れば撃墜されても文句は言えない。

ユーコン基地の南側、東から南東はじきにカナダ領。
南東側の、連隊規模のBETAに蹂躙された爪あとも、今は雪に覆われている。
南はバーチ・クリークを超えてクレージー山地、南西は同じくホワイト山地、何れも100km程度の距離がある。
バーチ・クリークの西寄りには人口にして数十人の小さな集落も在るが、それ以外は人も住まない無人の大地。
大抵は南から南東にかけてのなだらかな丘陵と湿地帯が主な飛行空域になる。
その地を流れるアッパー・マウス・バーチは、[River]ではなく小川[Creek]と記される様に極浅い川だが、ポプラや白樺の林の間を幾重にも蛇行し、その流れの変遷で多くの三日月湖など湖沼を形成していた。
テロの時のBETA進路からは僅かに外れていたため、被害は無い。
天気のいい時なら、蛇行するクリークの木々の間を限界ギリギリで翔け抜けるのがユウヤの日課だった。
夏場なら、カヌーや釣りも楽しめるらしいが、勿論今の季節、既に全面凍結している。
白い大地、屹立した木々達だけが、その流れを示していた。


CPの許可にハンガーを出て行くXFJ-1号機、Phase4を見送る。

外に出れば、吹き荒れる白い闇が直ぐにその姿をかき消す。
シャッターが閉じ、入り口付近に舞っていた雪が勢いを喪ったように舞い落ちた。



試験中隊に実弾や大型の実戦装備が無いのは、あのテロの後も変わっていない。
けれどユウヤの高速機動では、2振の長刀をカナード代わりに使用するため、強度や空力特性も考慮して刃引された74式近接戦闘長刀の装備が特別に許可されていた。
刃引されているとは言え、強度は同じ・・・模擬戦で使うシリコンラバーでは撓ってしまい空力デバイスとしてまともに機能しないのだ。
なので、本気で振るえばそれなりの殺傷力も有する。
重量で斬るタイプではないので、飽くまでそれなり、だが。

しかし、実はこのトライアルで白銀少佐とハンガーで話す機会があった。
その際、テロの時に実弾が無くて困ったことも話題になった。
今回少佐達は招聘された時の条件として機密保安上実弾や戦闘長刀を持ち込んでいるが、勿論模擬戦中は野外格納庫に封印されていた。
だが、既存の試験小隊には相変わらず、短刀以外の実戦装備は携行不能なのを聞いた白銀少佐から貰ったのが、XFJ-01の前腕部ナイフシースに格納できる65式近接戦闘短刀と同じサイズのダミー装備。
実はダイヤモンド・ナノロッド凝集体[ Aggregated diamond nanorod](ADNR)と言うスーパーカーボンよりも更に硬い物質で構成されたそれは、スーパーカーボン長刀用のタッチアップシャープナー、つまり砥石だった。

バレればギリギリ反則っぽいが、機動用に認められたユウヤの74式近接戦闘長刀は実質刃がついていないだけなので、スーパーカーボンが研げる物さえあれば、多少時間はかかっても刃を付けられる。
尤も通常ダイヤモンド並みの硬さの持つと言われるスーパーカーボンを研げるものは少なく、大型の設備が必要になるのが常なので、特に問題なく認可されたという経緯も在る。
ところが、このダイヤモンド・ナノロッド凝集体[ Aggregated diamond nanorod]、ビッカース硬度でダイヤモンドの2倍強と言う代物。
XM3で細かい操作も可能になり、戦術機で戦闘長刀を研ぐなんてギャグみたいなことが可能なのだ。
勿論こんなモン、横浜以外じゃ、手に入んないんだろうなぁ。
今回、タッチアップでもゴリゴリスーパーカーボンが研げるそれが、右腕の前腕部には格納されていた。




杞憂・・・ならばいいが―――。


そう・・・、引っ掛かったのは、ユウヤの言葉。
あの周りの迷惑など一顧だにしない、呆れるほどに我武者羅で、それでいて何か期待させずに置かない、無理のしがいが在るユウヤ。
今回の対“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”だって驚愕の超高速戦闘を魅せてくれた。
それもこれも、あの狂気の騎乗から、ついにはハイネマンさんまで動かしてしまったPhase4という機体のお陰でもある。
尤もその後のトライアル、地上戦ではボコボコにされてたし、そもそもその程度で天狗に成るようなレベルの戦術機バカでもない。
故に、こうした地道な自主訓練なのは、判る。


―――だからこぞ、あの零れた一言が不自然。


何時もの様に、此方の迷惑なんか顧みず、征けばいいのに・・・。


鉄砲玉みたいに飛び出して行ってもいいからさ・・・ちゃんと還って来いよ―――。


Sideout



Side リダ・カナレス(XFJ計画専任オペレーター 伍長)

総合司令室 CPルーム 18:10


今夜の訓練プランは、1本だけ―――。
何時ものコース、何時ものメンバー+1。
インフィニティーズ戦直後の、取り憑かれた様な機動から見れば、随分落ち着いて見えます。

Phase3での遷移音速域飛行は、それはそれは限界ギリギリで、管制しているコチラでさえ1本終わると緊張でヘトヘトになる始末。
それを多い時には、正規の訓練時間に4本、日付が変わるまでまた4本とかヤるんです。
それも、ブリッジス少尉だけではなく、マナンダル少尉まで・・・。
それはもう大変でした。
訓練域も、演習区では手狭になって、外縁の無人域まで拡げてしまうし、地面近くを飛行されるとレーダーロストする事もあって何時もヒヤヒヤ。


けど、その介あってか、今回ぶっつけ本番で白銀少佐に挑んだPhase4は、善戦していました。
結果は惜敗でしたが、機動でなら完全に白銀少佐を上回っていたんだけどなぁ・・・残念です。


今回は、トライアル明けての最初の自主訓練。
ブリッジス少尉だけ、それも挙動を確かめる様に1本。
天候は勿論最悪ですが、近い状況は前にも在りました。
何よりもPhase4に変わった空力装備により、時速200マイル以上、大体320km/hの速度域における機動が非常に安定して居るのが、レーダーを追っていてさえ判ります。


「こちらCP、〈Ardos-01〉指定空域東端まであと5,000―――。」

『―――了解。』


その瞬間、2,3度、レーダーの輝跡が瞬きます。

進路変更に伴う、電波障害・・・?

何時ものこと・・・。

そう、考えた瞬間でした。


ピィ―――――――――――――――――


突然の連続音。

え?
何ッ!?
何の警こk・・・・ッ!!

「!!、〈Argos-01〉機影ロストッ!!
通信―――途絶ッ!!
ブリッジス少尉、シェスチナ少尉、データリンク切れましたッ!!
―――共にバイタル不明ェッ!!!」


状況を悲鳴の様に叫びつつ、頭の中が、真っ白になりました―――。



「カナレス伍長、アルゴス隊招集を。
私は司令部に報告に赴き、NORADの衛星情報取得を申請してくる。
以降、呼びかけの継続と、救難信号の探知を継続しろ。」

「い、Yes,Sir―――。」


―――そうです。
不死身のブリッジス少尉が、訓練でMIAなんて在り得ません―――。
カムチャッカでも、レッドシフトでも、ブルーフラッグだって絶体絶命を何度もくぐり抜けてきたエースが!

こんな所で―――!!


Sideout



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