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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/06/20 23:51
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Side マーティカ(ソビエト連邦陸軍実験部隊イーダル試験小隊)


ドンッッ!!

合成ボードの壁を思い切り殴りつけた。
壁は拳型に凹み腕全体に鈍い痛みが伝わるが、強化装備の所為で骨折までは至らない。
―――自傷行為ですら中途半端、それさえ忌々しい。

いっそ毀れてしまえばいいのに・・・。


同じ隊のイーダル2・3・4は控室に入る事もなく、そそくさと離れていく。
所詮、他国の実験小隊に合わせる様補充された人数合わせの人員に過ぎない。
形式的に模擬戦にも出ていたが、未だ名前すら知らない一般衛士。

唯一、私の副操縦士[コ・パイロット]であるスィミィ・シェスチナ少尉だけが控室にいる。
けれど、ソレ[●●]は、私が隣でここまで激昂していても、怯えるでもなくただそこに座っているだけ。
焦点の合わない虚ろな目は、実際目の前のモノを何も認識していない―――。


ガンッ――!!


それが更に私を苛立たせる―――。


壁に八つ当たりした反動か、先刻の模擬戦でブツケた背中の痛みを感じる。
蘇るその時の失墜感―――。




ガクンと視界が落ちた。

JIVESにより表示されるコンソールの画面、そこに自機の損傷度が示されていた。
レッドアウト―――機動不能を示す。
JIVESの判定では人間で言う胴を両断された状態なのだ、動けるわけがない。

訓練された思考は、瞬時に状況を認識した。

だが、その事実を認められない、―――認める訳にはいかなかった。
作られた兵士として、存在意義[●●●●]を否定されたことに他ならない。


『〈идол[イーダル]-01〉、大破判定、戦闘続行不能、〈Argos-05[●●]〉の勝利です。』


だがアナウンスは、なんでもないコトの様に、淡々と事実のみを伝えた、あの瞬間―――。


噛み締めた唇に鉄の味。

失墜・・・。


―――何故ッ!?

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!


私は、今日最後の模擬戦で、“元廃棄処理決定者[紅の姉妹]”に、無様なまでに敗北したのだった。










コチラの機体はSu-47pz。
そして勿論プロミネンス計画参画機であるこの機体には、既にLTEとはいえXM3が換装されているのである。
搭載機体を一世代進化させる、との言葉通り第3世代機として最後発とも言えるSu-47はXM3の搭載により素晴らしい性能を発揮した。

XM3の開発者[プログラマー]だと言う御子神大佐の帰国以降、プロミネンス計画の参加小隊にはXM3LTEが配布されている。
テロ時の小隊壊滅から極めて速やかに補充が行われ、御子神大佐の訪問時には既に十全に機能していたイーダル試験小隊。
当時の〈идол[イーダル]-01〉であったクリスカとイーニァはテロ時の無理による機能不全と見做され最終的には転籍となったが、すぐに私が〈идол[イーダル]-01〉となり、小隊にも欠員は無かった。
つまりユーコンではアルゴス試験小隊に次いで、尤も早期にXM3を導入できた小隊となる。
そして私自身もイーニァに代わるプラーフカ対象の補充として、スィミィという新しいバディを得ていた。
その恩恵もあってだろうが、私のXM3慣熟速度は異様に早い。
同じ様にXM3を得て同様に慣熟をすすめる各試験小隊との模擬戦、それらに於いても全てを圧倒していた。
他の開発に掛かりっ切りだった為、他隊との模擬戦を実施していないアルゴス試験小隊を除けば、全勝と言うのがここ2週間の状況だったのだ。

個人の応答レベル的にも直ぐ様3にまで上がり、すでに4に近い数値。
それがスィミィとのプラーフカによる私の知覚領域拡大の恩恵であることも理解している。
しかしその一方で何度並列同調効果[ナストロイカ]によって意識の融合状態になっても、スィミィの意識は何時も同じ、何の感情もない空っぽのままだった。
何に対しても一切興味を示さない素の状態と同じ、自我さえ無いように感じる空虚な心は、私の神経を逆なでしつつも底知れない不気味さを漂わせる存在でもある。
それでもサポートとして私の知覚領域が広がるのは確実で、相手の動きがゆっくりに見えるまでに至るのは戦闘に於いて強力な武器にはかわりない。
今思うとイーニァとの意識融合は、イーニァ任せの自発的な攻撃衝動による圧倒的な攻撃力、未来を予期する直観のような勘の鋭さが強みであり、私はその過剰な破壊衝動の抑制役だった。
イーニァが私に怯えを示していた為か、融合率は最高時のクリスカに届かない事は判っていた。
それに比べ今は常に私が主導的に動ける状態であり、その際安定的に得られる知覚速度の大幅な向上は、寧ろ私の望む極めて扱いやすいものだった。

それはスィミィを完全に性能向上の部品と見做し、制御を乱す感情や意志さえ奪った状態・・・。

苦々しい感情がジワリと湧き出す。
しかし―――私達は、所詮都合で造られた仮初の命。
今はそれを斟酌する時ではない。
今後自らを高め、軍に不可欠な存在にまでなれれば、また違う世界が見えてくるだろう。
クリスカやイーニァの様な意味のないモノを求めてむざむざ廃棄される轍は絶対踏まない。

その為にも・・・。

XM3を先行実装したアルゴス隊、しかも一度は“紅の姉妹”を廃棄処分[●●●●]に追い込んだXFJ-01との模擬戦は、自らの能力を示す機会として期するものも多大だった。




だが、そんな行き過ぎた自信は、昨日あっさりと打ち砕かれた。
白銀の雷閃[シルバーライトニング]”の招待中隊との模擬戦、それに続いて午後実施されたプロミネンス計画参加小隊とA-00小隊との模擬戦に於いて、イーダル小隊は物の見事に完封された。

無論、イーダルの場合、参加単位は小隊であるが、実質的には小隊として挑んだわけではない。
数合わせの隊員など空気であり、私は“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”の如く、相手小隊を1騎で殲滅するつもりだった。

それが、1対4どころか、1対1でも敵わないなんて・・・。


機動は確かにゆっくりと見えるのに、裏へ裏へと回り込む〈Garm-03〉の動作に反応がついて行けない。
加速された知覚に対し、機体の応答はその上がり幅が少ない。
今までの相手はそれで十分だったのだが、瞬時に一切無駄のない的確な動きをしてくるA-00はそんな容易い相手ではなかった。
ゆっくりに見える視界の中で、自分もゆっくりしか動けない様なもの。
そして同じゆっくりでも粗い動きのSu-47に対し、XFJ-01は肌理の細かい滑らかな機動をしてくる。

XM3を得て格段に上がった筈の機動なのに、再び思い通りに動かない焦燥にイライラした。
加えて相手が“新兵[ルーキー]”だという先入観が焦燥を増幅させ、知覚と操作に齟齬を生み、益々機動を乱した。

後で聞けば、A-00小隊は全員が“レベル5er[ファイヴァー]”に達しており、到底新兵[ルーキー]の範疇に収まらない。
その強襲前衛である〈Garm-03〉がそんな隙を見逃すわけもなく、気付いた時には鮮やかな“隅落とし”と言う投げで墜とされていた。



模擬戦後明らかにされた相手のレベル故、表立った譴責こそ無かったが、何れにしろ戦闘経験は浅い筈の新兵[ルーキー]に為す術も無く敗北したのである。
それまでの万能感に酔っていた私への周囲・・・特にサンダーク大尉の視線が冷たかったのは言うまでもない。




その汚名返上とばかり挑んだ今日のトライアル。

そこでアルゴス隊として、“紅の姉妹”が在籍して居ることに初めて気がついた。
私やスィミィはイーダル小隊としてプロミネンス計画に参加しているが、基本はПЗ[ペー]計画の検証でしかない。
外部に漏れることを警戒し私やスィミィは歓迎式典や歓迎会などの公式行事には参加していなかった。
その為、教導座学で見かけるまで知らなかったのだ。

“廃棄”されたはずの存在がいまもそこに在ることにザワつく心を宥めつつ、午前中のプロミネンス参加小隊向け教導の課題を最高点で通過した後、午後のトライアルと言う名の模擬戦の相手は、奇しくもその“紅の姉妹”が駆るXFJ-01。






ПЗ[ペー]計画主任技師であるベリャーエフからは、XM3を得る対価に、転籍と言う形で譲渡[廃棄]された、としか聞いていなかった。
指向性蛋白[ABS]のことは、自らも投与されているので知っている。
それは人工的に生み出された第5世代クローンである自分たちでは身体機能上体内で作り出せない必須アミノ酸、つまり第5世代人工生命体はその供給無しに生存を継続することが出来ない。
一方第6世代は指向性蛋白[ABS]が生死には関わらないが、その突出した能力ゆえに精神の脆弱性を抱えるため、その安定を母集団に委ねていると聞いていた。
それが真実かどうかは知らないが、イーニァも今はその精神をクリスカに紐付けされていた。
それが機密漏洩の都合上脆弱性を敢えて残したのか、元々技術的に限界であったのか、私には関係ない。

XM3の対価として何故彼女たちが選ばれたのか、経緯など知る由もないが、転籍して横浜に渡ればクリスカは間を置かず自壊に至ることは自明。
そしてクリスカが自壊すれば、イーニァは精神安定を欠き自我崩壊に至る。
そもそも無理な最大プラーフカにより人格維持が厳しいくらい神経系が損傷して復帰は絶望的、死に損ないの廃棄は決定的であり、単に廃棄先が横浜だっただけのはず・・・。


それが1 0日余りでこの変貌―――。

確かに、ABS無投与による自壊進行にはまだ少しの猶予が在るかも知れない。
しかし、もはや修復など望めなかった筈の神経細胞は、何事も無かったかのようにまで回復していた。



―――そして何よりも、対峙した模擬戦に於いて、プラーフカも無しに私を一蹴した。






模擬戦後―――。

自らの存在意義[●●●●]すら喪いかねない状況に動揺しパニックしていた私の視界には、そのクリスカとイーニァが、ブリッジスと楽しげに会話し去っていく姿。
その二人はソビエト[コチラ側]に居た頃には見せたこともない笑顔だった。


転籍した二人は間を置かず、治療も虚しく極東の地で果てる。
そうなれば、サンダーク大尉が最も気に掛けているブリッジスの気を引くのはプロミネンス最強となった自分・・・。
そんな予定調和を構想していただけに、その光景が信じられなかった。

あの位置に居るのは、自分の筈。
そこに何故、死に損ないが居るのか?






おかしい。

何かがおかしい。


スィミィ・シェスチナを得て、私は進化したはずでは無かったのか?

何がおかしい?


そして私はそこに在る“モノ”を眺める。


―――スィミィ・シェスチナ少尉。

ベリャーエフ曰く、最後の第6世代。
もともと同じ細胞からのクローン体、容姿は多少の調整範囲内であり、薄紫の髪、アメジストの瞳を基本としている作られた存在。
なのにスィミィは白髪紅眼、余りにも儚い透き通りそうに白い肌―――遺伝子欠損状態からの促成成長―――所謂アルビノだった。
しかも、最近公表されたヒトゲノム情報を利用して超短期間に成長させたため、その精神は全くの未成熟、与えられた命令を実施することしか出来ない、という人間以前の代物。
―――それは同じ作られた存在である私にとっても、色素と共に自我や感情までがが抜け落ちた不気味な生き物だった。

そしてそれ故に、確固たる自我すらなく、ただそこにいる。
恐らく食事をしろと命令しなければ、そのまま餓死するだろう。


コイツ[●●●]は、本当に私の進化[●●]に寄与しているのか?


その虚ろな紅い瞳に、冷たい物が背筋を這い上がる感覚が私を捉えて離さなかった。


Sideout




Side ヘルガローゼ(Helgarose von Falkenmayer西ドイツ陸軍第44戦術機甲大隊第1中隊第3小隊中尉)

A-00中隊専用野外格納庫 衛士控室 22:30


 幾分開け広げた感のあるA-00中隊の機密意識だが、現物装備に関してはきっちりと区分されている。
故にここは臨時に割り当てられたA-00中隊専用野外格納庫―――。
だが今、その衛士控室では幾つかのテーブルで戦術機議論や機動議論が行われている。
その衛士控室も中隊規模だけに、ブレーメル少尉によれば他の野外格納庫と違いそれなりに広いらしい。


勿論、我がツェルベルスやベルナデットのロレーヌも基地格納庫群に各々専有領域を割り当てられているが、基地から若干離れたエリアに中隊規模を格納できる施設として割り当てられたのはA-00中隊のみ。
昨夜から今朝早朝までずっと此処でXM3正規版の換装が行われていたらしい。

当然この場所も本来機密エリアで、A-00の責任者、具体的には白銀少佐か神宮司大尉の承認した者しか立ち入ることが出来ない事になっていた。


が、その衛士控え室に今居るのは合計20名。
ツェルベルスは第3小隊の4名に加え大隊長中隊長の2名、ロレーヌのベルナデット、レインダンサーズの中小隊長3名、アルゴス小隊が小隊員6名、そしてA-00は、中隊長の神宮司大尉、榊少尉[Cz]珠瀬少尉[Miky]鎧衣少尉[Mikt]の4名。

今日も白銀少佐は居ない。
徹夜で換装をかんばってくれた整備関係者の慰労という名目で、今夜はリルフォートに出かけたらしい。
中隊からも彩峰少尉[K]が補佐として随伴したとか。
それでも、私達の目標は寧ろ白銀少佐ではない。
解らないことを頭で理解しようとすると、実は白銀少佐より神宮司大尉やA-00中隊員の説明の方が理解しやすいのだ。
白銀少佐という天才から個々にその技術を会得しつつ在る彼女らは、謂わば彼と我々凡人との境界に立ち、上手に翻訳してくれる位置に在るのである。
だから、今も他隊の視線を引きずる白銀少佐を他所に、懇親会で上手く顔を繋いだこの3隊はA-00に集まってくる。
そんな我等に神宮司大尉もあっさり野外格納庫立ち入りの許可をくださったのだった。



今日、基本得意な分野に別れてXM3のトライアルと言う名の教導が行われた。
昨夜美琴[Mikt]が区分した専門性―――戦域指揮、近接格闘、剣術、射撃、空中機動、それに加えてブリッジス少尉やマナンダル少尉が専門とする高速飛行に分かれ、A-00 + アルゴスの衛士が個別の指導に当たる。
指導と言っても受講側も完全な初心者である訳がなく、寧ろそれなりの腕を有する者が抜擢されてこのユーコンにきているのだから、ミニ模擬戦をしながら質疑形式で従来OSとの機動差を理解していく、と言った内容。
講師側は適宜交代をしながら、午前、午後とテーマを変更可能とし、各個の習熟を深める方向だった。

現実に即した実践は何よりも得難い。
彼らが通ってきた道だからこそ、躓きや落とし穴も見えている。
簡単な疑問でも、調べたり検証が必要であれば、その解決には時間がかかる。
それを問えば即座に答えてくれる指導者が存在することで、その進度はとてつもなく早くなる。
無論、自分で解決すべき問題に関しては、その方法のみを伝え、自らが実践することで理解させる。

これらはナビゲーションAIである“まりもちゃん”にも反映されているとも聞く。
しかしどれほどそのAIが高性能だって、本人とその愛弟子の直接指導に勝るワケもない。


故にその効果は劇的で、初めてXM3に搭乗した者でも、もう既にレベル3に届いた者まで居た。

イルフリーデやベルナデットもその中に入る。

私はと言えば、同じ剣術を最初に取ったアイヒベルガー様やジークレンデ様と共に、寧ろじっくりと吟味するように検証を行っていたため、今日のところはレベル2止まり。
それでもXM3というOSの有用性は予想以上であった。
“奇跡のOS”・・・その呼称も納得出来る。

ルナテレジアも動作より射撃の精度を重視したため、2止まりだったらしい。
先の二人のように、苦笑する美琴[Mikt]の前で、狂ったような空中戦を繰り広げたりしていない。
それでも今の段階であんな模擬戦が成り立つのは間違いなく、才能アリ、だとか。


「2人とも空間把握の能力が破格なんだよね。
イルフィは、スカッシュが大得意って言ってたから、四角い空間でボールの反射を空間・時間的に予測する能力が鍛えられていると思うし、ベルは元々戦闘機動が動きながら4丁の突撃砲を駆使するスタイル、これも同様に空間・時間的に弾道を予測するモデルが出来ていないと成立しない技能だからねェ。」


美琴[Mikt]にそう説明されれば、なるほど、と納得してしまう。
つまりは、ベルナデットが“天然”と称するイルフリーデの直観と、イルフリーデが“野性的”と称するベルナデットの偏差射撃能力は、元を正せば同じ才能と言えなくもない、と言うことだ。

因みに二人とも午後は壬姫[Miky]の指導する射撃でまた鉢合わせしてたから、確かに似たもの同士ではあるわけだ。


今ここでも些細なことで言い争っている二人と苦笑気味の美琴[Mikt]を横目に周囲を見回せば、ブリッジス少尉・マナンダル少尉と笑いながら話しているブラウアー中尉。
相手が女性ばかりと今まで引いていたが、アルゴス隊に男性が居ると聞いて今日は付いてきた。
貴族らしからぬぞんざいな口調も寧ろアルゴスでは受けが良いらしい。
ブリッジス少尉には、相変わらずビャーチェノワ少尉とシェスチナ少尉がくっついているが・・・。

ルナテレジアは、ブレーメル少尉やレインダンサーズの小隊長2人とともに、千鶴[Cz]と何か図を広げて説明に聞き入っている。
断片的に聞こえる単語から推測すると“新潟の奇跡”の概説だろう。

アイヒベルガー様とジークリンデ様は、神宮司大尉やジアコーザ大尉と穏やかな大人の話。
ジアコーザ少尉が何かと姉の小間使いの様にフライドポテトを用意しているのはご愛嬌。
そういえば先刻立ち寄った街中のレストランで大量にテイクアウトしていた。

微笑ましくなるような空間が、ここには確かに存在した。




ふと、美琴[Mikt]が立ち上がると神宮司大尉に具申する。


「大尉、大佐から伝えられた時間まで、あと10分程です。」

「あら、そうね。
じゃあ、彼方クンのオススメ、拝見しましょうか。」

「―――神宮司大尉、一体何を?」

「ジークリンデ大尉もご一緒しませんか? 勿論アイヒベルガー中佐も。
外に出ますので、防寒対策だけは厳重にしてくださいね。」


何の事か解らなかったが、言われて結局全員で出ることにした。

行き先は、この野外格納庫の屋上―――。





「・・・何かあるの?」


屋上への厳重な扉を開け、順番に出て行く。
訊いたベルナデットに美琴[Mikt]が微笑む。


「出れば判るよ。」


灯火がなければ真っ暗な屋上・・・の筈が、屋上に残る雪が薄ぼんやりと仄明るい。
見上げれば、まだ闇に慣れていない目にも満天の星空を背景に、緑の靄がゆったりと棚引くように揺らめいていた。

彼方此方で小さな歓声が上がる。


「 !!、ノーザン・ライツッ!?」

「うん―――。
先刻のトライアル後、御子神大佐から連絡が在ったんだ。

今日のユーコン標準時で、22:50―――。
屋上でも、外でもいいから空見上げな、って。

・・・多分、タケル達も何処かで見ていると思うよ。」


耐極寒仕様ジャケットの襟を立て、屋上を進んだ。
・・・流石に寒い。
ユーコンの11月の平均気温は-6℃程度、今は既に-10℃を優に下回っているのだろう。
それでも全員が外に出て、空を見上げていた。


戦術機を納める格納庫は周囲の木々とほぼ同じくらいの高さを持つ。
その屋上は、ほぼ全天周に遮るものがない。
本部の建物は遠く、滑走路は木々の向こう。
建物周囲の照明は死角、視界に入る人工の明かりは屋上への出入口位で、それも消すことが出来る。


暗闇に目が慣れたのか仰ぎみれば、隙間なく星が散りばめられた様な雲ひとつ無い全天に、先刻よりも明るい光の靄が畝っている。
緑、そしてより高いところには、赤が混じる。

ゆったりとした緩慢な動きは、登り始めた Große Bär[北斗七星]の方角から真上に流れてくる。
徐々にその形を変えながら、やがてゆったりとした淡い赤から緑のグラデーションを持つ、光のドレープをはためかせた。


「・・・凄いな・・・。」


初めて見る、幻想的な光景に漏れた自分の呟きに、頷く気配。
視線は揺らめく光の襞に釘付け。

次々に現れ、幾重にも重なり、そして見えない風に煽られるかのように棚引くドレープ。
それらが真上に到達することで囲まれるような放射状に見える。

気がつけばそのドレープは全天周、視界一杯に広がっていた。



アラスカのオーロラは有名で、映像くらいは見たことがある。
勿論北欧でも以前は見られたが、今はそれを言っても詮無い。


「・・・確か一昨日が新月だったけど、夜に雲が出ちゃったんだよね。
運が良ければ見られると言われてたんだ。
それでも昨日の夜は北の空が少し赤いな、と思った程度だった。
今日はまだ月齢2日で早々に沈んでくれたし、この快晴―――。」


美琴[Mikt]の言葉は、今宵絶好の観測条件、と言うことか。
全天を覆う光のベールに、居合わせた人々はただ無言で空を見上げるだけ。



「―――もうすぐ50分なんだけど・・・。」


そして美琴[Mikt]がそう小さく呟いたとき・・・。




ピシッ―――。


鋭利な呼気にも似た大気の裂ける様な音が聞こえたような気がした。
同時に、天の一角に強い光が溢れ、重なるドレープに沿って光の筋を落とす。

その一部は緑端を突き抜け、桃色に変化しながらより低空まで降り注ぐ。

緩やかだった襞の動きは、強い風に煽られ、複雑にはためくかの如く、見る間にその形を変えていく。


「―――WAOOOOOッ! Break Upだッ!!」


ユーコンに常駐し、オーロラもそれなりに見慣れている筈のVGが声を上げた。

―――BreakUp・・・オーロラ爆発!?


確か、極地の空を彩るオーロラの中でも、極めて明るく活動的な、極稀にしか見られない現象だと聞いた。


それは正しく天頂から溢れ出し零れ落ちるような光の奔流、様々にその色彩を変化させながら、最後には一際明るい桃色の光になって空から垂れる。
その位置がそれまでよりも近く、まさに周囲を取り囲む様に視野の全てを埋める。


「・・・スゲェ、スゲェッ!、スッゲェッ!!
ユーコン[ここ]が中心の大爆発なんて、何十年に1度の幸運じゃんッ!!」


マナンダル少尉が大騒ぎしている。
そう、いまこの大爆発を起こしているドレープ群の間に、ユーコンが存在する。
光帯は緩やかに北東から南に徐々に流れていたが、丁度真上に来たとき爆発が起きた、と言う事になる。

それ故、光は放射状に降り注き、視界に満ちる。



その余りに荘厳で、神秘的、例えるものが無い美麗な光の氾濫を、ただ声もなく眺めているしかなかった。







やがて、ショウは終わったとばかりに光の氾濫が止み、元の緑の靄と控えめなドレープが揺れ、オーロラの光に遠慮していた星の海がその背後に戻ってくる。

BreakUpそのモノは、多分5分前後だっただろうか。



「ファンタスティコォ~~~ッ!!!」


ジアコーザ少尉が叫んだ。
それに釣られ、一斉に感嘆の言葉が聞こえる。


「・・・ウン、大佐が見逃すなよと言っただけある!
規模でも10年に一度、位置や天候も含めれば、此処に住む人でも一生に一度見られるかどうかの一大スペクタクルに間違いないッ!」


美琴[Mikt]も興奮気味。
実質5分程度の時間、確かにオーロラ観察をしている最中にでも発生しないと、見逃すだろう。
太陽表面の爆発[フレア]によりコロナの荷電粒子放出が主因、と言われているから、太陽表面を観測していれば予測も出来るだろう。
御子神大佐はそれを態々伝えて来たわけだ。


「明日からは寒波の接近で天気は下り坂だから、最後の機会。
こんな凄いものが見れたなんて、最高に運がいいよ、ボクら!」


このプロミネンス計画を母体として集った部隊。
そして太陽の祝福とも思える壮大なオーロラ大爆発[Break Up]


―――またこのメンバーで、こんな時間を過ごしたい。

夢のようだった光景を心に刻みながら、唐突にそんな想いに駆られた。


Sideout



Side ベリャーエフ

イーダル小隊専用野外格納庫 地下研究施設 ミーティングエリア 22:50


「どう言う事なのだ?」


底冷えのする言葉、その背後には今日の模擬戦の映像。
〈Argos-05〉としてXFJ-01を駆る“紅の姉妹”と、現идол[イーダル]-01〉、マーティカとスィミィの一戦。
同じSu-47であっても、XM3装備していないXFJ-01に対して優勢であった。
XM3装備で一旦付けられた差は、LTEの搭載で詰まっている筈。
にも拘らず、そこには厳然とした格の違いが存在している。


「か、観測された映像からの数値で言えば、“紅の姉妹”の機動が、融合率が最大値を記録した時の動作を、僅かだが上回っている―――。」


記録された数値を比較しながら答える。
機体やXM3搭載の違いがあるが、それらハードの応答性は問題にするほど大きな違いはない。
そこにあるのは、衛士の違い・・・それも相当な値であることは間違いない。
大規模な神経細胞損傷を受けていたクリスカでは到底出し得ない数値。
それ以前に屈託ない日常生活を送る2人が観測されている。
・・・尤も横浜に転籍となったクリスカとイーニァがユーコンに復帰したことは、昨日知ったのだが。


「それは・・・あれだけボロボロだった神経細胞を修復するだけでなく、投薬も後催眠暗示[プラーフカ]も無しで意識融合を自律制御している、ということか・・・。」

「・・・か、確証は無いが、恐らくは―――。」

「だとすると・・・外から見る限りイーニァの破壊衝動もなりを潜め極めて理性的―――あの魔窟[●●]にとんでもない素材を与えてしまったのかも知れぬな・・・。」

「・・・・・・。」


神経細胞の修復だって驚異的だ。
元々横浜が技術供出したという、ヒトゲノム情報による生体適合技術。
今回スィミィの超促成培養が叶ったのもその技術が在ったからである。
―――しかし、脳内の神経細胞は違う。
思考や意志によってその繋がり方が全く異なる神経細胞は、ただ無秩序に構成して良いものではない。
それは重々承知している、否、思い知らされた。
そうした無作為の結果が、無感情で無意志になったスィミィの精神だからだ。
どうにか命令を聞くように馴致できたが、結局はそれだけ。
最後の第6世代は、拙速すぎた都合本位の促成培養に因り意志を持たぬ生体部品に留まってしまった。

クリスカのあそこまで欠損した神経細胞の修復も同じことで、適当な細胞修復や無秩序な連結の構成は、寧ろ人格破壊に直結する事になる。
それが今のクリスカの日常を見る限り何の齟齬もない。
ソビエトではその端緒すら掴んでいない脳内神経細胞の再生を、僅かに10日余りという短期間で完了させた。
“横浜”・・・恐るべき魔窟である。


「―――指向性蛋白は?」

「ぜ、前回20日を目処に最終投与した。
い、何時もよりも5割り増しなので、若干の誤差が出る可能性は否めないが、発現は20±2日と推定される。
今までの統計で言えば、既に可逆限界を超えている。
観測結果では、既に軽度の自覚症状は現れている様子だから確定的だが、周囲には気付かせないようにしている。
―――あ、あと5日以内に崩壊に至る。」

「・・・そうか。」

「ど、同志サンダーク大尉、クリスカ・ビャーチェノワ少尉とイ「・・・諦めろ。」・・・。」


言い掛けた具申を途中で潰された。
最後まで聞く気もない戯言、とでも言うのか。


「な、何故!?
極めて貴重なサンプル、回収すべきだ!」

「・・・まだ崩壊は始まっていない様だが、既に可逆限界を超過している事は貴様の観測より明らか。
この短期間であのボロボロだった神経系を治癒した事は驚異的だが、それだけだ。」

「し、しかしッ!、神経系さえ健全なら、可逆限界を超過しても“繭化”すれば、“性能”の維持は可能だ!」

「―――アレらは既に転属ではなく転籍、人事権は実質御子神大佐が有している。
此方からは既に復隊を強要することも不可能なのだよ。
もし強制的に拐取などしようものなら、その生死に関わらず我がソビエトには間違いなく査察が入り、ПЗ[ペー]計画の内容まで全て奪われるキッカケになりかねん。」

「!ッ・・・。」

「―――加えてそんなコトをして御子神大佐の機嫌を損ねれば、間違いなく我が邦だけXM3の供給を停止させられる。
その状況を想像してみたことが在るのか?
それらを踏まえての具申、と理解して良いのかね?」

「・・・。」

「・・・本来なら横浜で治療中に自壊してくれれば良かったのだが、ここに戻ってきてしまった以上これ以上関わると、逆に自壊そのものにも疑問を持たれかねん。」

「―――ぷ、プラーフカの処理をせず、推定融合率98%・・・。
これを諦めろとッ!?」

「スィミィの融合率が上がらないことに焦るのは理解するが、なに、切れかかる電球の、刹那の輝きに過ぎんだろう―――。
そう思って捨ておけ。」

「・・・・・・。」

「そんな埒も明かない事でなく、マーティカとスィミィの融合率改善についてはどうなっている?」

「!―――て、手は尽くした。
これ以上の改善となると“繭化”しか、残っていない。」

「・・・根本的な事を訊くが・・・、ヒトゲノム情報による超促成栽培が可能だというのは何を根拠としていたのかね?」

「・・・擬似生体の馴化や、自己細胞増殖に依る臓器移植例だ・・・。」

「・・・その中に脳神経系の再生例は?」

「・・・クッ!、無い―――。」

「・・・つまり最後の第6世代が人形に成ったのは予想の範疇である、と?」

「―――じ、人格は互いに填れば融合率の向上に繋がるのはわかるが、その場合相手の制定が極端に狭められる。
対象人数が限られる以上、その範囲で最大効率に辿りつく可能性は低い。
逆に相性が悪ければ、平均値にも届かない。
く、クリスカとイーニァのペアが、寧ろ特殊な例だったと考えたほうが良い。
人格の平坦化はその不安定な要素を排除したと考えている。」

「つまり700番目のポテンシャルなら、精神が未熟でも高い融合率が得られる、と?」

「・・・す、スィミィ単体の数値は歴代2位という高水準、十分な性能に届くはずだッ!」

「・・・マーティカとイーニァの融合率に届いたのかね?」

「・・・クッ―――。」

「・・・つまりその結果は最高に近いポテンシャルを以てして、凡庸な数値しか出せん失敗作に貶めた、と言う解釈で良いかね?」

「―――。」

「ここまで来ても人格は影響しない、と言い張るのかね?」

「・・・・・・。」

「“レベル5er[ファイヴァー]”とは言え新兵[ルーキー]に及ばず、プラーフカなしの“廃棄予定者”に負けたモノを凡庸と言わず、なんと言う?
ПЗ[ペー]計画は、最高の衛士の創出を目指した。
量産が効かないからこそ、“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”級の衛士を、だ。
元々そこそこの性能など必要ないのだよ。」

「・・・・・・。」


ちっくっっしょうっ!!

何故それがオレの所為になる?
そもそもテロの時に加え、2度も無謀な最大プラーフカを行ったのはオマエじゃないかッ!
結果稀有のペアを壊し、XM3と引き換えに横浜に譲渡したのもッ!!
次の素体熟成を早急に求めたのもッ!!!
それでいて手の届く範囲に戻ってきた逸材を接収する事に何故躊躇う!?


「・・・ゲストが帰る19日以降、試作中の先行実証機が1機回されてくる事になった。
まだ計画すら正式に公表されていない極秘機体だが、今となってはXM3前提で開発することが急務、LTEの換装がプロミネンスでしか行えない故の措置との事だ。」

「!!、ま、まさか、“PAK-FA”か?」

「・・・スフォーニ設計局は来月と予想されるLITEの供与を待つ間も惜しいらしい。
まあ、データリンク前提のLITEはそもそも搭載できんから、LTE一択なのだがな。」

「・・・。」

「・・・だが、開発する以上は当然既存の機体を凌駕することが求められる。
それに合わせて融合率95%を必ず出せ。
―――言い訳は聞かん・・・これは最後通告だ。」

「―――ッ!!、わ、判ったッ!」


Sideout



※PAK-FA(T-50)の初飛行は2010頃ですが運用開始予定は2016、けどF-35の量産検証が2006以降、運用開始が2015以降で在ることを思えば先出してもいいですよね?
メカデザインなんかしないから出来る無茶ぶりですが



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