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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/09/05 17:34
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'15,09,05 誤字修正


Side 冥夜


画面に映るは、帝都城内裏豊明殿―――。
簀が上がり、長いまつげを伏せた姿が顕になる。

―――その立ち姿は一幅の絵の如く。


大日輪の釵子。
正絹純白の水干を纏い、梔子の五衣、紫紺の裳を重ねた政威大将軍としての正装。


そして眼差しを上げる。
勁き意志を宿す、玲瓏たるその瞳で正面を見据えた。



  我が親愛なる日本国民の皆様。
  長きにわたり多大な苦難を強いている事、誠に申し訳なく思います。


その声が流れてゆく。
周囲には此度の演説を聞こうと大勢の人が居たが、身じろぎひとつしない。



  尚戦乱の終わりは未だ見えず、皆様の心には不安の大きなうねりとなって
  押し寄せていることでしょう。

  しかし正しく今―――、ワタクシは明日に繋がる曙光を感じております。

  昨日新潟の地に生じた未曾有の大侵攻。
  27,000にも及んだ全てのBETAを、同胞の一命をも喪うことなく殲滅せしめたことを、
  ここにご報告致します。



そう―――。
此度の全ては曙光。
直前の事変故、私自身はあの方の“影”となりJIVES訓練には参加すること叶わなかった。
そして予測されていたという現実のBETA侵攻発生。
当初14,000と言う数字を耳にした時、覚悟も決めた。

だが、その後の信じられぬ様な展開―――。

関わった全ての将兵に、紛れも無く希望の光を灯すものであった。



  これは[ひとえ]にご助力を戴いた帝国連合艦隊、
  帝国海軍、帝国本土防衛軍、そして帝国斯衛軍、国連太平洋方面第11軍、
  全ての皆様の果敢と精勤の賜物。
  ―――改めて心より万謝致します。
  誠、大儀でありました。

  そしてこれこそが日本の目覚めを願い、不撓不屈を以って日々の鍛錬を為してきた成果であり、
  在るべき日本人としての真の姿であることを改めて確信致しました。
  延いては人類が一丸となり立ち向かう事で、強大な敵にも抗し得るという証でも在ります。



此度のBETA侵攻。
後の統計に拠れば、総BETA湧出数は最大師団級―――。

当初だけでも大型・中型種で14,000超、小型種を加えると20,000超に及んだ。
更に湧出しようとしているBETAを連合艦隊が艦砲射撃による面制圧で2,000程度阻止している。
そして大勢の決した瀬戸際でHQを狙ったように突如湧出した大深度地下侵攻。
これが約5,000。

合計では、総数27,000に達したと言うことだった。
実質的に佐渡島ハイヴに存在するBETAの凡そ10%。
それをほぼ2時間半で殲滅せしめ、怪我人はそれなりの数出ていたが死者は0という快挙を越える大偉業を成し遂げた。



  だからこそ、私達はその明日を信じ、更に強靭な精神を持って歩まねばなりません。
  此度、ワタクシ煌武院悠陽は、改めて全ての権限を政威大将軍に集約しその行使を行うとともに、
  全責任を負う所存にございます。
  今日まで民と国の為、その身を捧げた者達、そして己の責務に殉じた者達の心を忘れる事なく、
  数多の英霊の遺志を背負い、私は歩み続けます。
  本日此処に日本という国の、長きに渡る雌伏の日々は終わりを告げ、
  再起を果たすことをお約束致します。



“新潟の奇跡”

既に、そう呼ばれているその報は瞬く間に世界を駆け巡った。

伝説と成った西日本からの撤退、多摩川のBETA防衛、そして“奇跡のOS”と呼ばれ始めたXM3供与に続く、姉上の4度目の奇跡。
嘗て、27,000にも及ぶBETAの大侵攻を人的損耗0で殲滅した事例など一度もないのだ。

勿論、様々なプラス要因は在る。
抑々が実弾演習と称して斯衛軍1連隊相当が当地に遠征していたこと。
単騎世界最高戦力と目される白銀少佐を含む国連太平洋方面第11軍が新装備の実戦実証という名目で随行していたこと。
“ 奇跡のOS” XM3が参加した全機に導入されていたこと。

しかし、それらを除いても、圧倒的な戦果。
XM3だけでは最早説明が付かなかった。

余りにタイミングの良い演習と侵攻の発生にBETAの侵攻予測までしたのではないかという憶測も彼方此方から聞こえるが、その点に付いては斯衛も地方軍も黙して語らず。
各国の注目は、公開された“新装備”に向いた。

XM3。
それが各戦線で戦術機の機動能力を向上し、死者を皆無としたことは疑う余地もない。

更には、“Amazing5”と呼ばれる5騎の突出した戦術機。
取り分け、その内の4騎を擁し異様な戦果を上げた国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊―――。

連隊規模のBETAを1弾で殲滅するS-11X炸裂榴弾。
突撃級の衝角すら断ち切った74式戦闘長刀“改”。

そして―――。
HQへの大深度地下侵攻を殲滅せしめたのは、“ 白銀の雷閃[シルバー・ライトニング]”と共に“殿下”の搭乗していた“紫”の武御雷が使用した電磁投射砲と思しき光芒を発した突撃砲。
その齎した戦果は、初陣参戦での単独BETA殲滅数レコードともなる3,000。
尤もそう言われても、私は実質引き金を引いていただけ。
寧ろ過分なレコードなど入れ替わった姉上が引き取ってくれて本当に良かった、とホッとしている。



実際にはこの後に、世間には明かしていない突然の謀反も起きたが、戻ってきた姉上と入れ替わり事無きを得ている。

そして昨日、あの胸に縋った―――。
画面に映る姉上をみてまたそう思う。

私の存在を明かし、その上で血を分けた妹と公言し、姉上と呼ぶことすら許容してくれた。
勿論モーラー大隊の襲撃以降の事は緘口令も敷かれた故、世間一般に公知されたわけではない。
だが参加した将兵の数だけでも相当数、周辺地方軍は当時の回線を傍受している。
軍内部にはほぼ認知されていると考えるのが妥当であろう。
事実今朝になってこのPXでも、私の顔を見て引く者が多かった。

けれど、望むことすら許されないと思っていた。
物心もつかぬ日に裂かれ、そして決して二度と交わることもないと諦念していたその道は今、望外の奇縁を以て重なっている。


だが、これは始まりに過ぎぬ。
年内に落とすべきハイヴは2つ―――。

武と純夏、この新潟でその存在を魅せつけた彼らと彼の地に赴くことは規定。
気を引き締めなおさねば・・・。




唐突に画面が切り替わる。

これは・・・?


―――海上、だろうか。
光る大海原に、浮かんでいるのは小さな六角形の周囲に大きな六角形が6片集まり、全体として大きな六角形を形成する花弁の様な構造物。

更にその外側に、それら全てを合わせたよりも大きな六角形も薄く浮かび上がりつつある。
縮尺が上手くつかめないが、かなりの大きさであることは、波が殆ど見えない距離から判る。



  日本国民の皆様。

  本日ここに、更なるご報告を申し上げます。

  長らく準備に時間を取られ公表が遅れましたが、漸く太平洋上に浮かぶギガ・フロート、
  通称“高天原”の本格稼働が開始されたことをお知らせ致します。
  画面がご覧になられる方は、現在の“高天原”のライブ映像を御確認いただいて居ります。


PXがざわついた。


  今後、日本帝国軍・帝国斯衛軍は本格的な反攻作戦を実施する計画を推進しております。
  しかして、一度BETAに蹂躙された国土は、奪還を為してもその養生に暫くの時間を要します。

  “高天原”はその間、皆様に提供する仮初の大地。
  年内に現在見えている6葉の管理区域・居住区域の他、外片に造成途上のギガ・フロート1基、
  凡そ1000平方kmの面積を水耕地として開放致します。、

  その後も3年後に計18基、5年後には計30基にまで拡張致します。
  10年後、最終的に1基当たり40万、合計で1200万人が居住し、
  様々な労働が可能な環境を作り上げる予定で居ります。


な―――。

花弁が増えるように、六角のギガ・フロートが増殖する姿が画面にオーバーレイされる。
5年後の合計が3万平方km!?
日本の国土の12分の1にも相当する面積ではないか!
何というスケールっ!!

姉上はこんな超弩級プラントを極秘裏に用意していたというのかッ!?


  明日より避難民の皆様を優先とし、移住受付を開始したします。
  先日、噴火の兆候が観測されたことにより、やむを得ず一時避難をお願い致しました天元山の皆様も、
  ご希望により優先的に案内させて頂きたく存じます。
  また、この“高天原”は同様に国土を失った日本国以外の避難民の方々にも
  10%を目処に開放を予定しています。
  更にそれとは別に、3年後に完成する内の3基については、
  EU連合、中華人民共和国、ソビエト連邦に1基づつ租借の交渉に応じる用意があります。


何という―――存在。
私など、まだまだ届かぬ。


  日本国民の皆様―――。

  希望を捨てないで下さい。
  夢を諦めないで下さい。
  未来を閉ざさないで下さい。

  どうか、皆様のお力を、今暫くお貸し下さい。
  輝かしき明日を信じ、各々が為すべきを為せるよう未来を見据え、共に歩んで参りましょう。



高天原―――さながら“奇蹟の大地”―――であろうか。
だが、姉上は新潟に赴いた将兵のみならず、全ての日本国民に、否、世界の人々に紛れもない希望の光を灯した。


―――唯感謝を胸に。
為すべきを為す―――。


両の拳をギュッと握りしめた。



Sideout





Side 慧

横浜基地屋上 11:00


11月の空が高い。
屋上もそろそろ寒いな。

それにしても基地全体がざわついて居る様に聞こえる。
午前中の殿下の演説は、それほどのインパクト。


「悪いな、遅れたか?」


手すりに座って空を見てたら、後ろから声がした。


「白銀、おそ・・・。」


その手元に視線が惹かれる。
アレは・・・。


「コレを用意してたんだが・・・余計なお世話だったか?」


目の前で振られると、目が追ってしまう。
白銀は、笑って渡してくれた。


この前初めて食べさせてもらった。
焼きそばパン―――。
最優先事項。



とは言え、本来上官にあたる白銀に此処まで来てもらった理由は勿論大事。
代わりに持っていた手紙を渡す。

少佐なのにプライベートでは同期の様に振舞う。
最初は皆畏まっていたが、余りのあけすけな態度に馬鹿らしくなり、普段はこんな扱いに戻った。
その方が気楽でいいと本人が言う。


「これは?」

「・・・今朝になって届いた、あの人[●●●]からの手紙。
読んでみて―――。」


遠慮無くパンに齧り付く。
至福。

誰からの手紙なのか、白銀は既に知っている。
以前手紙を見られたときに、名前だけは教えた。
その時は気にしなかったが、今回の内容・・・。
上官の立場でもある白銀には些か問題のある話かもしれない。

この場での喫食は不謹慎かな。
―――でも私にはこれくらいがちょうどいい。


文面を開き目で追った白銀の表情が変わる。
暗喩とか、私じゃないと理解できない所もある筈なんだけど・・・。

―――不思議。
白銀は理解しているみたい。
当然その示す内容の危うさ[●●●]も。



ずっと、気にしてた。
忘れたいのに。
心のなかに押し込めて、沈めようとしてきたけど、澱のように何時までも残り、ふとした折に浮かび上がる。

恥じていた?
憎んでいた?
嫌っていた?

“敵前逃亡者”と言う、烙印。


―――違うね。

ヘタレの癖に、常に前を向き。
どんなにおちゃらけていたって、ただ一向に明日を追い求める。
あの[●●]地獄のハイヴを潜りぬけ、尚も挑むその闘志。
生きることに、生かすことに、常に真摯。
それが私が見た白銀武という男。

そんな白銀に比して、気付かされた。

私はただ忌避していただけ。
触れること、思い出させること、―――その全てから逃避していただけ。


ポツリポツリと届くこの手紙―――。
昔を、忘れたいことをイヤでも思い出させるから苦手。


そしてまた時折この基地で私を名指して面会を求めてくる人がいる。
大抵は軍務でこの横浜基地を訪れた大東亜連合の関係者。
仕方なく会えば、その誰もが私に謝罪し、私の父さんに礼を伝えてほしいと言う。
見ず知らずの人に謝られ、そして感謝されても私には身の置き場がない。


だけど昨日―――。
撤収作業を終え、あとは陸路で帰るとだけというその時。
“影”を務めていた御剣とともに、A-00部隊の詰め所を訪れたのは、煌武院悠陽殿下その人。

御剣のコトは皆薄々察していたし、敢えて触れる者もいなかったが、謀反からの経緯は誰もが知っている。
殿下が御剣を血縁上の妹だと認めたのも皆聞いていた。
そこにいらしたのも、白銀や篁大尉と何か御用があるのかと思ったんだけど。

個別に声を掛けて頂いたのは、207Bのメンバー、その一人ひとりだった。

榊。
珠瀬。
鎧衣。

其々に複雑な事情も絡む同期たち。
今までは、ずっとその部分に触れるのはお互い避けていたんだけど、鑑が来て以来変わった。
今では、皆がお互い大凡把握している。

その一人ひとりにお言葉を添えられ、私の番になったとき。
まさか、殿下の口からあの言葉[●●●●]が紡がれるとは思っても居なかった。
心に留め置く言葉。
恩師―――。

間違いなく殿下はそう仰った。





「・・・それで、彩峰はどうしたいんだ?」


パンを食べ終え、その事を思い返していると、白銀はそう聞いてきた。


「・・・その前にひとつだけ聞かせて・・・。
白銀は、私の父さんのこと・・・どう思っているの?―――知ってるんでしょ?」

「ああ―――。
そうだな。
・・・自らの信じる道を貫いた人・・・かな。
尊敬する人だよ。」

「・・・・・・敵前逃亡・・・したのに?」

「それは一つの見方でしか無いだろ。
確かに拠点防衛という立場で見れば、司令部は壊滅したんだからそういう見方もできる。
けど、地域防衛、あるいは人命救助と言う見方をすれば、当然必要な措置だったとも言える。

その時点でどちらが間違っていて、どちらが正しいなんて言えない。
後の歴史次第で、世間的な評価なんかいくらでも変わっちまうからな。
もし司令部の防衛がもう少しマトモで、BETAの侵攻を防げていたら今頃中将は光州の守護者って言われていたかも知れないだろ。」

「・・・・・・。」

「・・・けどさ、昨日も殿下が言ってたけど、中将は自らの信念に従い、どちらがより国の為になるか量った。
そして自らの信じることに則り、実行した。
俺は何よりもそれを尊敬する―――。」

「・・・・・・。」

「そりゃ後の結果だけを見て色々言う事はできるし、立場が違えば見方も違う。
事実司令部は壊滅し、それも自らの選択の結果だから本人は何の抗弁もなく潔く責を取った。
それすら覚悟の上の選択だったとも言える。
・・・けどさ、今になってみれば、自分たちも追い詰められた立場にある大東亜圏の国々が、これほど帝国に協力してくれているのは、間違いなく中将の判断が正しかったお陰だと想うぜ。」

「 !! 」

「・・・ただまあ、残された者・・・特に家族は堪ったものじゃなかっただろう、とも思うけどな・・・。」


白銀は、世間的な正誤ではなく、その在り方を尊敬できると言ってくれた。

そして・・・。

残された者の想いも。



「なら・・・お願い・・・止めて。」

「は?」

あの人[●●●]を、止めて!」


その胸に詰め寄る。


「・・・。」

「私には、まだ力がない・・・あの人を止められるだけの力はない!
だから上官でもある貴方にお願いするしか無い!
あの人のしようとしていることは、きっと国のために為すべきことじゃないッ!」


その肩をふわりと抱かれた。
そのまま胸に引き込まれる。


「―――大丈夫だ。
心配しなくていい―――。」

「・・・。」

「彼らがしたかったのは、国を糾し、殿下に復権を齎すこと。
その殿下は既に今日、大権奉還を成された。
この後、彼らの暴きたかった奸臣も粛清される。
だから、彼らが起つ理由が無くなった。」


―――白銀ズルイ。
不意打ち。
クッ! 榊が嬉しそうに言ってたヤツね、同じ手にヤラれるなんて!

そんな事、耳元で囁かれたら[心臓][子宮]に被弾。
―――損傷・・・甚大。

安堵―――しちゃう。

全身から力が抜ける。



―――でも、そっか。

父さんは、人として国のためになると信じたことを為したんだ。
それが良いか悪いかは別にして、その事だけは素直に腑に落ちる。


―――今度、手紙書いてみようかな。

そう思いながら、白銀の胸に縋ったままだった腕をその背に回し、抱きついた。


Sideout





拝啓 津島様


はや暦には冬が立ち、木枯らし舞う時節とも成りました。
御身におかれましてはご健壮のことと祈念致します。

過日幾度も便りを戴きながら、永きに渡り返信すら出来ず誠に申し訳なく思います。
亡き父の遺し痕は今以てあまりに深く、未だ若輩なる私には、何が真実で、何が虚偽か判断が付かず、惑乱するばかりに御座います。
どうかご容赦ください。


それでも先頃、唯一確信致した事も在ります。
父は、父が信じた為すべき事を為す途[●●●●●●●●●]に、覚悟を以て殉じた[●●●●●●●●]のだ、と言う事です。
結果はどうアレその在り方は尊敬すべき、と言って呉れた者が居りました。
今はその事を誇りとし、日々の精進を重ねようと決意いたしました。

凡そ不器用な父は、遺される者の想いまで斟酌出来ず、今更ながらにしか気付けなかったこと、甚だ遺憾なれど、その結果のみを省みそれに拘泥すること無き様、自らの途を歩まんと志す次第です。


私も先日衛士演習を通過し、今は正規任官を待つ身ともなりました。
国連軍の所属故、貴兄との途は違えど、輝く未来を信じ新たな歩を進めます。


願わくば貴兄の征く途が、父の信じた途に悖る事無きを、父の覚悟を涜す事無きを希むばかり。
真の正道を、堂々とお徹しください。


冬来たりなば春遠からじ。
人類の春も遠からんことを切願し筆を置くこととします。


敬具











Side 唯依

21:00 A-00部隊執務室。


昨日新潟を昼過ぎに撤収し、陸路で昨夜遅く横浜に帰還した。
世間は“新潟の奇跡”や“大権奉還”、“高天原”で大騒ぎの様子。
その喧騒を他所に、参加したA-01中隊や、仮配属の訓練兵は隊長・中隊長以外1日休暇が言い渡されたらしいが、A-00戦術機概念実証試験部隊としては別。
寧ろ戦闘後からが本格的な調査となる。

勿論、クリスカやイーニァは無理、戦闘後の検査に回っている。
そして色々と戦闘経緯の報告がある白銀少佐も除外。
残っているのは、大佐と神宮司大尉、鑑少尉だけ。

と言っても鑑少尉は“森羅”のまとめが膨大な為、他には手を出さない。

各機体の整備による状況把握や検査・測定の手配、記録されている機動の整理、戦果の確認。


それらの整理に漸くめどが着いたのは、夕食を喫食した後の午後9:00。
既にまとめ段階に入っており、専門ではない神宮司大尉も鑑少尉も既に居ない。
残った大佐と二人だけで、モニターの確認をしていく。


実戦に置けるG-コアの戦時消耗特性把握  予測誤差範囲内
         EMLC-01X連射時  50%増/1門当たり
         IRFG起動時    30%増
 別添 A-00 Rep.001-011111 参照


試製S-11X炸裂弾効果範囲         予測誤差範囲内
 別添 A-00 Rep.002-011111 参照


試製IRFG 反ラザフォード質量軽減装置 被験者 篁唯依 白銀武 鑑純夏
                  起動時バイタル 要注意所見無し
                  起動後バイタル 要注意所見無し(40時間経過後) 
 別添 A-00 Rep.003-011111 参照


試製01型電磁投射砲筒  機関部   通常使用と偏差無し
             砲筒部   各部摩耗 想定内 推奨交換中央値 50,100発
 別添 A-00 Rep.004-011111 参照


試製74式“改”近接戦闘長刀     予測誤差範囲内
                   特記 剣術熟練者ほど刃先摩耗小
 別添 A-00 Rep.005-011111 参照


試製120mm対BETA弾          通常弾同等
                   詳細不明


大まかに纏めると以上。
効果の在ったものは、概ね良好。
損耗や摩耗が無いわけではないが予測の範囲内であり実用上の問題点も出ていない。


最も危惧していた試製74式“改”近接戦闘長刀の結果も満足行くものだった。

御子神大佐に言う、“ネタ”武器、心配していたのはその刃先摩耗。

試製74式“改”が表面振動を利用し防汚を目的としたものだが、“ネタ”武器は通常は振動させることにより切れ味を増すという高周波ブレード・振動刀等と呼ばれる装備設定があると言う。
―――大佐はありえない、と失笑していたが。

切れ味に関係する“振動”は、刃に沿った方向、つまり伸縮方向の振動が必要となる。
しかし刃物は、その構造上刃面に垂直な方向が最も剛性が低く振動しやすい。
これは刃物の形状から避けることは出来ず、切れ味に対して有効なほど伸縮方向に振動を加えると、刃面に垂直な方向には必ず振動が発生し、その振幅も鋒に行くほど大きくなる。
切れ味に重要な刃先が対象に当たった時、刃面に垂直な振動が加わったらどうなるか。
刃筋を立てることが剣の極意だと言うのに、全く無関係に振動などされたら堪ったものではない。
刀を扱っている以上、最も忌むべき力の加え方なのだ。
余程凝った構造を取らなければその方向の振動は抑えられず、逆にそんな構造をとれば、複雑化による重量増加、作成難易度上昇、結果生産コストが跳ね上がり、幾許かの性能向上と全く吊り合わない仕様となる。

試製74式“改”は刀身であるスーパーカーボンの表面にC60カーボンナノフラーレン層を形成し、そこに電流を流すことにより表面性状を整え、微細な超音波表面振動を誘発する。
更に印加する電圧は、刃面の表裏で完全に逆位相となる波形とし、刃先で問題と成る方向の振動を発生させない様にした。
その甲斐あって、試製74式“改”は振動させない状態よりも寧ろ良好な刃持ちを示した。
刃先に汚れが着き過剰な力が発生する事が無かったためと推測される。
更にこの傾向は、剣に対する熟練度でも違う。
紅蓮大将など剣術に長けた達人クラスの方が顕著となり、余り頓着していなかった紅の姉妹の方が劣化が進む。
最終的には動く対象に対しても常に正確に刃筋を立てられる方が劣化が少ないのは以前と変りなかった。



「そう言えば、試製120mm対BETA弾と言うのは、あれで宜しかったのですか?」


そう、今回検証した中で、唯一何の成果もないのがこの試製弾だった。
事前から効果はないとも言われていたので、気にもしていなかった。


「ああ。
お陰で目処は立ったかな。」

「 ? 」


先刻まで大佐は件の試製弾発射時の映像をチェックしていた。
相手は何れも要撃級。
正確に胴体部に当たれば、通常弾でも致命傷を与える。
それは今回試した3発の試製弾も同じ。
私もその3発、そして通常弾の映像を比べたが、どれもが要撃級を一撃で沈黙させただけの映像だった。


「・・・それならば良いのですが、―――報告書はこれで宜しいですか?」

「ああ、ご苦労様。」

「ハッ! それではお先に失礼します。」

「あ、ちょっと待った。」

「―――何か?」

「―――そういえば、昇進祝いを渡して居なかったな、と思ってさ。」

「はい?」

「何か欲しい物はあるか?」


余りに唐突な質問に戸惑う。


「―――他意はないから気にするな。
無理言って引っ張ってきたが、予想以上に助かってるんだ。
検査の手配とか、整備部のヤツ等、篁からの依頼だと気合が違うからな。
―――普通即日でなんか上がってこない。」


苦笑い。
そう言われればそうだ。
戦術機の各部損耗状況から、使用した装備に到るまで、かなりのボリュームある検査なのだ。
因みにユーコンのドックにはまだ私のポスターが掲げられたままだとか。


「そんな・・・戴けません。
それを言ったら2階級特進した大佐だって・・・。」

「俺のは単に対外上の都合だ。
篁の昇進は、正当な論功行賞に基づいたもの、まりもが言っていただろう? 誇れって。」

「・・・。」


―――全く。
此度の装備、“森羅”を除けばそれを齎したのは全て大佐だというのに。


「しかも昇進祝いを部下から貰う奴なんて居るか。
―――逆は無いと俺が恥を斯くと思うが?」


ちょっと強引。
でもニヤニヤ笑っているから自分でも判っているのだろう。

そこまで仰るならと少し思案。


「―――以前、殿下に正宗 銘・一の太刀を見せて貰いました。」


今思い出しても、ため息が漏れる。
あまりの素晴らしさに息を飲むどころか呼吸を忘れるほどの業物であった。
神韻と言うのは正にあのようなモノを表すのだろう。

ユーコンでユウヤに緋焔白霊を託してしまったため、今私の手元には携刀がない。
篁家とてそれなりの武家故、京都の蔵にはそれなりにあったと聞いたが、帝都防衛の折り殆どが持ち出せなかったと聞く。
今は母のもとに数振りが残るが、それも重要文化財級の古刀で在るためおいそれと常備するわけには行かない。

大佐はかなりのマニアらしく、多数の銘刀を所持しているとも聞く。
XSSTにも殿下の節刀に似た刀を準備していた位だ。
身近に無いと修練もままならないため、無銘で構わないから一振り探していた。
今後の参考に、幾つか見せて[●●●]頂きたかった。


「太刀、か。
そういえばブリッジスに渡したと言ってたな。
―――OK、一振り譲ろう。」

「え?! まさか、今後の参考に見せていただくだけで十分ですッ!」

「―――そんなけち臭いこと出来るか。
それとも篁は俺に恥をかけ、と?」


意地悪そうに笑いながら言う。
――ズルイです、大佐。
そんな言い方されたら断れないじゃないですか。


「・・・・・・良いのですか?」

「構わん―――どんなのが良いんだ?
篁は、悠陽と違って普段から振りたいんだろ?」


国内でも多くの刀鍛冶が喪われた今。
その価値は無銘の軍刀であれとても尉官クラスが簡単に手にできるものではないのだが、ここは大佐のご厚意に甘えるしかない様だ。


「はい・・・。 勿論無銘で良いので、扱いやすければ・・・。」

「確かに、古刀は美術品的な価値の方が高いからなぁ。
実用という意味ではな・・・。
無銘―――か、なら俺の鍛えたものでもいい?」

「え?、大佐の?」

「一応、それなりに極めたんだぜ、鍛造も。
コア・セクションに個人の工房があるから、今は思考が行き詰まった時や、G-コアの調整の合間、精神統一替わりに鍛ってる。
もちろん古刀と違い、素材も処理も拵えも全て現代技術だが。
・・・これも気に入ってるレベルの自作。」


そう言って置かれたのは、一振りのナイフ。
ユーコンの、そして先日PXの厨房でもキングサーモンを三枚に卸したあのナイフだ。


「刃渡りで約1尺。
所謂短刀を敢えてドロップポイントで作った。
形式は洋風だが製法はまんま日本刀だな。」


無機質なカイデックスシースを鞘走れば、歯厚が8mmはあるフラットグラインド。
ドロップポイントなのでそりもなく、鎬もない。
だが、完全鏡面のフラットなのに、湾れと乱れを掛け合わせたような刃紋が浮かび、そこから刃に向かい、緻密な沸がさざ波のように走る。先に行くほど、細かくなる沸は、匂いと化し、その粒度と引き替えに自ら輝くような神気を帯び、刃先は光の一線となって見えた。
形状はナイフであるが、確かに完全な日本刀鍛造なのだ。


「現代技術を駆使して鍛えたから。
その刃紋、接合強度が最強に成るまで試したらそうなった。
波紋を周波数解析すると1/fゆらぎだったのは笑ったけど。」

「・・・。」


ゴクリと唾を飲み込む。
これだって、相当の業物だ。
ユーコンで見た時から、誰か高名な鍛冶師の作と思っていた。
剣に携わった者なら、それだけでも魅了されずに置かない逸品。
これが、大佐の自作とは・・・。
戦術機の材質、製法に於いてもその知識は並々ならぬ物がある大佐。
自らの経験で、鋼の扱いまで理解しているのだ。


「・・・これと同じレベルの現代刀が在るのですか?」

「そいつは普段使いのユーティリティ、そこそこ[●●●●]さ。
・・・ああ、この前出来た会心があるけど・・・ちょっと篁には異端・・・でもないか。
ちょっと待ってな。」


そう言って大佐は一度背後のクローゼットに消えた。
そして戻ってきた時には、随分と長い布巻を持っていた。
布を取り払い、取り出したのは、長刀。


―――長い。

大太刀、或いは野太刀と呼ばれる3尺以上の太刀。
江戸期には幕府により3尺以上ある太刀の帯刀が禁じられたため、それ以上尺の有った有名な銘刀は殆どが大磨上されその刀身を短く詰められている。
故に現存する大太刀の多くが儀礼用で、人の振るうことの出来ない重いものばかり。
実用性の在る大太刀は殆ど現存せず、大佐が殿下に譲られた3尺3寸の正宗などレア中のレア物。
世が世なら国宝指定間違いなしの極品。


だが大佐に掛かれば、無ければ作ればいいじゃない、と言わんばかり。


鞘に収まる刀身は、殿下に見せていただいた正宗の3尺3寸を超え、ほぼ4尺、1.2m。
反りは緩めで7cm程度に見える。
柄も長い刃長に合わせ1尺3寸・・・40cm位あり、その全長で言えば私の身長程。
鞘が漆黒に透明感在る編み込みを幾重にも重ねたような一体成形。
妖しくくゆる最高品質のドライカーボンの塊。
そして鍔も鞘と同質の漆黒で塙を形取り、一房の羅紗が編まれている。
柄は同質の刻みに、やはり漆黒の糸が菱に編み込まれていた。


だが、無造作にその長大な大太刀を渡された瞬間感じたのは、軽い!、という事だった。

全長で5尺を越える大太刀でありながら、刃丈2尺7寸だった嘗ての帯刀―――緋焔白霊とほぼ同等。
1kgちょっとしか無い。


「・・・拝見しても?」

「勿論。」


力を込めると、コツン、と小気味良い手応えがあり、鯉口が切れる。
長刀故、通常の腰の位置ではなく、腕を伸ばした状態から鞘走る必要があるが、鞘元、手を添える部分が僅かに回転して反れる機構を有しており、私のリーチでも1.2mの刀身が無理なく抜けた。


「―――!!」


鞘を置き、チャキ、と刀身を翻した瞬間、知らず、背筋が粟立つ。

鏡面に磨き上げられた地金は、僅かに青味をを帯びて見える。
刃紋は鍔元から切っ先まで、湾れと乱れを伴う、大佐の言う1/fゆらぎ。
沸から匂いへの遷移も完璧で、微塵の乱れもない。
そこに筋金が、綾織のごとく絡む。


一際強い刃先の閃光。

それどころか、刃金自体が幽かに蒼い燐光を纏っている。

それだけでも、この刀の完成度、凄味が感じられる。


「これは・・、しかし・・・」

「・・・自画自賛すれば現代刀の、まあ一つの到達点かな。
総て機能を突き詰めた在り方しかない。」

「・・・・」


軽く構える。

手に吸い付く様な柄の握り。
刃長4尺に達する大太刀でありながら、切っ先が手の内にあるような感覚。

軽い、―――が決して不足無く、それでいて重心位置がかなり手前、3尺の刀と同じくらいの位置にあり、構えがブレもしない。

緋焔白霊に慣れた私なら、片手でも扱えそうな程の扱いやすさ。

その一方で感じる、この長尺を真に使いこなすには、相当の技量を要求されるだろう、底知れない奥深さ。
これは大佐の目指す道具・・・武器・兵器の在り方そのものだ。


「・・・これは鋼ではないのですか?」

「―――Ti-Zr。
特殊な二元合金で、鍛造すると極めて強固なマルテンサイト相を作る上に、比重が鋼の6割程度。
靭性が高いから刃厚も比較的薄く仕上がる。
芯金は同一素材でも可能な限り靭性を高め、徐々に組成率を遷移した層を何層も重ねることで、外に成る程匂いが立つ。
その表面に現れている遷移組織が、内側にも立体的に組成されている。
普通の3尺だと逆に軽すぎるんで、このサイズになったけどな。
加えて柄も鍔もカーボンだから、その刃長で1260gに抑えた。
まあ伝統的な拵えが好みなら変えるけど。」

「え?・・・まさか!?、これ、を・・・戴けるのですかッ!?」

「自作なら値も付かない[プライスレス]、気兼ね無く受け取れるだろ?
それに・・・篁が実戦に使う日本刀として相応。
ユーコンじゃ強化装備すら無しでBETAと戦ったとも聞いた。
兵士級や闘士級ならともかく、戦車級とガチならこの位必要。」

「はあわッ! あ、あれは若気の至りで・・・、あの、生身では二度と遣り合う気はないのですが・・・。」

「なら、普通の長さが良いか?」

「!!、・・・これが[●●●]良いです―――。」


したり笑顔の上司に、嬉しいのと悔しいのと恥ずかしいのがない混ぜになった変な表情を向けてしまったかもしれない。


「―――どうぞ。」

「あ、ありがとうございますッ!」



―――ひと目で魅入られた。

確かに素材・製法・熱処理、すべて古典的とはいえない現代技法であろう。
美術品としての価値は、古刀と比べるまでもない。

だが、実戦―――。
その一点に於いて、これ以上の刀、望む事叶わない。
基本極めれば切っ先しか使わぬ剣に於いて、3尺と4尺では、その間合い、そしてその速度が33%も異なる。
通常は刀身を長くすることで重量が増大するため、大太刀を振り回すには相当の膂力を必要とする。
しかしこの大太刀はその比重により重量負荷を受けることなく、さらに絶妙な重心調整をすることで3尺の刀身とほぼ同じ感覚で扱える。
架空と言われる佐々木小次郎の剣ではないが、キチンと扱えるのであれば有利であること間違いない。


「―――銘は何と付けたのですか?」

「つい先日鍛えた自作だからな、まだ特に無い。―――篁が好きに付けな。」

「では、“縹緲蒼月[ひょうびょうそうげつ]”、と。」

「・・・早いな。」

「刀身を―――見た瞬間、浮かびました。」

「そっか。―――気に入られたんだな。」

「え?」


気に入ったのではなく、気に入られた?


「ほら、偶にあるだろ?、魂を持つかの如き刀が―――。
俺もコイツは途中から導かれるように[●●●●●●●]鍛ったからな。」


・・・・・・それは伝説の業物、例えば鬼丸国綱とか、鬼包丁村正とか、蛍丸とか、雷切とか?

よしッ・・・・・・スルーしよう。

今のは大佐の独り言。
私は何も聞いていない。

私が気に入ったのだ。―――全てはそれで良い。








勿論、この時の私は知る由もなかった。

後日、この刀が本当に“β切蒼月”と呼ばれるようになることなど・・・。


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