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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡
Name: maeve◆e33a0264 ID:520f0d2a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/02/08 10:00
'14,12,28 upload  ※なんと1年半ぶりに投下。
        いきなり欝だし。
相も変わらずクドくて話がちっとも進んでいません。
        読まなくても大筋には影響しないので、読み飛ばし可。
        少しは状況の進む次話を明日には連投します。
'15,02,08 誤字修正



Side 有間長門(帝国本土防衛軍大尉 第14師団第3戦術機甲連隊第3大隊長)


ザリッ! と言う奥歯で砂を噛むような感覚が、間接思考制御のフィードバックによって伝わる。

それは硬質なスーパーカーボンの装甲を切り裂く小気味よい感触でも、その中にある管制ユニットの塊を断ち割るソリッドな手応えでもなく、ノイズのような唯々空虚な後味。

咄嗟に回避した“紫”の武御雷を、意識するでもなく追撃しようとしたオレ[●●]を阻む“赤”―――。


―――ギャリッ!!


一触―――。

・・・成程、只者ではないだろう、その捌き方だけでも、卓抜した技量が伺える。
この重い撃震のウェイトを載せた斬撃を、蹈鞴も踏まずにいなしてみせた。

その“赤”い武御雷に牽制の一刀で機先を制しながら、後方跳躍で“間”を稼ぐ。





・・・・・・ヤッちまったなァ。

抑々、この“紫”に乗る女が、贋物で在ることを明示し、米国の手先、国連横浜基地の陰謀を暴露する予定が、その姿に激昂していきなり逸っちまった・・・。
いまも“赤”の冷たい刃のような糾弾に、興奮したまま暴露の台詞を吐いていくオレ[●●]の裡には、それをただ傍観している自分[●●]がいる。


「―――笑止ッ!!・・・貴様こそ、一体誰を警護しているか理解しているのか?!
恐れ多くも“紫の武御雷”を乗っ取ったそこな羅紗緬[ビッチ]は、煌武院悠陽殿下などではないっ!!」

そんな、自分の言葉すら遠く―――。


―――もう戻れない―――。

判っている。
判っていた。

この愚挙が、或いは崇敬して止まぬ殿下の意に沿わぬかも知れないことも、大隊長の自分が謀反を起こすことで、慕ってくれた部下や、同じ連隊の同僚達にどれだけの重い咎を負わせることに至るのかも、自分[●●]は理解している。


そして口元がニィッと釣り上がる。

――オレ[●●]には関係ない。
戻る[●●]場所など、もう何処にも存在しない。“戻れない”などと憂う事自体が可笑しかった。



「・・・確か、そこな羅紗緬が演習に参加したのも殿下が第2帝都城に姿を見せた日からだと記憶している。
斯衛がドコまでグルなのかは知らんが、粗奴は我等帝国軍を謀りBETA侵攻の肉盾とする憎き米国の手先、横浜の妖狐が傀儡。
将軍家遠縁で在りながら、その容姿が殿下に近しいことを利用して殿下とすり変わり、国家を謀ろうという悪逆米国毛唐の肉便器とも成り果てた卑しき羅紗緬、冥き忌み名を持つ女である事も、既に知れている。」

言葉だけは冷静に喚き続けるオレ[●●]の口は止まらず、そしてそれを傍観する自分[●●]も空虚なままそれを見ているだけ・・・。



―――そうか。

乖離している意識に自分[●●]は理解する。

・・・もう自分[オレ]は狂ってしまっているのだな・・・。

狂いたくても狂えず、死にたくても死ねず、無くなりたくても無くなれず、ただ無為に流れた日々。

漸く―――。

―――それももう、終わる。

望む場所[●●]に逝ける。



そうだ―――。

オレ[●●]現実[ここ]に残された、ホンのささやかな、けれど掛け替えの無いモノまでも理不尽に奪った米国、その米国に擦り寄る国賊政権、そしてその手先たる国連横浜基地。
かつてオレ[●●]に残された温もりを無慈悲に奪い去り、闇に見出した一筋の光明を今また己が野望で弑逆せしめた逆賊、香月夕呼[●●●●]
残念な事に、この[きっさき]が巣穴に隠れた妖狐に届くことは叶わないが、それに連なる穢れた者が殿下の名を騙り“紫”に搭乗[]る事すら万死に値する。

その奸計を暴くことにより妖狐に一矢報いる―――。
・・・所詮最後っ屁程度にしか為らんがな。

そう思い至ると、声を出さずにケタケタ哄った。



――しかし流石斯衛。

流れるような動作で“紫”の守護に回った今、そうそう届かない。
こんな狂気の謀反人に、積極的な協力者など居ないとも思ったが、今は第3大[モーラー]隊が包囲陣形を敷いている。
ぶちまけた疑義に帝国軍はその推移を見守り、斯衛軍も一方的な殲滅を躊躇っている。
それだけでも御の字。

とは言え、殿下を騙る羅紗緬[ビッチ]のどす黒い腸を引きずり出し、妖狐の策謀をこの手で頓挫させたかったが、それは叶いそうにない。
ならばその“替え玉”の正体を公に晒し、仕掛けられた欺瞞を暴くことにより、帝国軍将兵にその謀略を知らしめることで忌まわしき妖狐に一太刀浴びせるのみ。




外面は素のまま、狂気に駆られるオレ[●●]の言動をただ眺めるばかりの自分[●●]

――どうしてこうなった?

最近では思い出しことすら億劫で苦痛だった。
この期に及んで浮かび上がる記憶。









―――自分[●●]が帝国陸軍の衛士として任官したのは、既に二昔――77式撃震が国産としてラインオフした翌年の事だった。
以降国内では最初期の衛士と言うこともあり、撃震と言うよりも戦術機そのものの機動習熟・教導教本の骨格作りや、戦術機による対BETA戦術構築にまで幅広く携わって来た。
無論、自分は指導的な立場として等ではなく、一般部隊に於ける運用とその検証と言った意味合いであった。
それでも当時戦術機は採用されたばかりの最新鋭兵器であり、それを用いて新たな戦術を構築していく自負も少しは在ったし、対BETA戦の切り札とされた戦術機ならば戦える、と言う仄かな希望も抱いていた。


しかしその希望を嘲笑うかのように徐々に悪化していく世界情勢。
国連や、大東亜との協力の一環として大量の派兵を行う大陸の状況は、日増しに混迷の一途を辿り、それは国内にも暗い翳を落としていく。

自分自身は結局大陸遠征に参加しなかったが、気がつけば何時しか消えていく同僚や後輩達。
それは暗に転属であったり、明に大陸遠征への抜擢であったりしたが、何れにしろ笑顔で送り出した彼らの姿を2度と見ることは無かった。
それら人員の異動に連れ、部隊はその度縮小し、本隊ですら幾度もの配置転換を経て再編され、98年の時点では本格的に帝国方面への侵攻を開始したと言われるBETAの本土防衛に向け、その要として九州に派遣されていた。
暗い世相に底知れぬ不安と、その一方で神風に代表される如く、帝国は大丈夫だという、今思えば何の根拠もない希望的観測が交錯する。



――そして訪れたBETAの西日本大侵攻。

抱いていた微かな希望や無責任な楽観は、全てどす黒い絶望に塗り替えられた。

緒戦佐賀のBETA殲滅でこそ部隊は湧いた。
イケル、と部隊の誰もが思った。

だが、その見込は脆くもたった1日で崩れ去った。
折りしもの台風にも乗じ、BETAは意表を突いて警戒の薄かった山陰地方に上陸、そのまま一気の侵攻を許した。
古来より神州を守護する筈の神風すらが、BETA侵攻には何の効力も発揮せず、寧ろBETA有利に働いた。
完全に後手に回った本土防衛軍は、殆ど為す術も無くドミノ倒しの様に各地で呆気無く防衛線を喪って行った。

状況は自分の居た九州の防衛も同じ、北からの圧倒的な圧力に対し、戦線は次々に崩壊し、援軍はおろか補給すらままらな無い中で防衛戦がはじまった。



圧倒的な物量―――。

すり切れるほど聞かされたBETAの侵攻を表すその表現は、しかし人間同士の戦争しかしたことのない人類に取っては寧ろ直感的ではない。
シミュレーションで見飽きていたはずの光景が、現実に目の前にしたときには全く異なる。

―――言うなれば圧倒的な質量[●●]

BETA侵攻で自分が受けた印象は感覚的にコレが正しかった。
映像[●●]には存在しない圧迫感。
大質量故の空間の歪みとでも言えばいいのだろうか、視覚を超えて全身に受ける圧力に覚える畏怖が半端ない。

これでは、どんなに事前の訓練[シミュレーション]でハイスコアを出したところで、実戦では“8分”と言われるわけだ。


誰が迫り来る波高20mの津波に、自動小銃で立ち向かうのか。

誰が巨石駆け下る土石流に、刀で切り結ぶことが叶うのか。


その日、自分は戦術機搭乗20年目にして、そんな絶望と共に死の8分を越えた。



瓦解した戦線は凄惨の一言に尽きた。
避難すらままならず、取り残された住民を後方に置いての戦闘はまともな戦いにすらならず、敗走しかない。
にもかかわらず、統合参謀本部からの命令は撤退を認めず“死守せよ”の一文のみ。
地区作戦本部の度重なる避難援助や救援具申にも、本土防衛軍統合参謀本部は梨の礫。
北から押し潰されるように壊滅して南に追いやられた避難民や各部隊に対し、死ねと言わんばかりの指示であった。


結局、BETAの圧力に押し寄られる形で敗走に敗走を重ね、護る民すら全て喪った1ヶ月後、辛うじて生き残った各部隊の敗残兵が当時の厚木に戻ってみれば、そこで待っていたのは統合参謀本部の理不尽な譴責。
生還した事がまるで“悪”であるかのようなその言い草は、西日本陥落が九州の防衛部隊に在ると言わんばかりの口調。
統合参謀本部の責任転嫁に巻き込まれたことに気づいたのは後の話。

そして、BETAの侵攻どころか、その姿さえも軍事機密として知らされていない帝国臣民もまた同じ。
何故護れなかったのか――。
アレだけ国民生活を圧迫し予算を喰い潰してまで整備した軍が、僅か1週間も保たずに戦線崩壊と言う現実。

BETA―――その余りにも圧倒的な質量―――。
それは堤防を凌駕する高さの津波に、人が抗おうとする如き無謀。
その現実をも知らず、知らされす、ただ軍部主導のマスコミ報道に踊らされる大多数。
西日本からの敗残兵は、国土を護れなかった無能として蔑まれ、あからさまな罵倒や怨嗟を叩きつけられた。

けれど、自分もまたその時は、何も返せなかった。
侵攻からたった1ヶ月で、西日本を喪失。
その結果、1,300年の栄華を刻んだ帝都は炎上し、歴史も街も文化も、なにより人も、その全てを灰燼に帰した。
西日本全体では、実に3,600万もの帝国臣民がBETAに喰われ、今も2,500万人がBETAの追撃に晒されながら落ち延びている。

――未曽有と言う言葉すら生ぬるい激甚被害。


結局。
自分のこれまでの20年は、何だったのか―――。

軍団規模であった防衛部隊が次々に壊滅し、防衛線が呆気無く崩壊する。
命を賭してSDSを発動しBETAと共に散る部下の犠牲も、一時の足止めにしか成らず。
最後は余りにも無策な統合参謀本部のゴリ押しに、最小限の戦力だけを残して抗戦しているように見せかけ、大多数を後方に退くよう命じて基地と共にBETAに呑み込まれた司令――。
そこまでの犠牲を払ってしても、救えなかった避難民。

何よりもその事実に、打ちのめされていた。
叱責や、譴責、真実を知らぬ世間が理解してくれなくても、構わない。
けれど、その全てが無駄で、無能であったことを如実に示すかの様な被害の現実[●●]に、自分は押し潰された。



そんな自分にたった一つ、残っていた救い。
関西からの避難民の最後尾にいて、追いすがるBETAに呑み込まれそうだった家族が、間一髪で船に拾われ関東まで逃げ延び、無事再会出来たこと――――。
最後尾にいて間一髪BETAの顎を逃れたからこそ、その実物を知る妻と一人娘だけが、BETAと相対した自分の武勲を讃え、死地から帰還した自分を心底喜んでくれたのだ。

――それがなければ、自分はあの時点で潰れていた。


この温もりを護る―――。

それだけが自分の存在意義[●●●●]であり望みと成った瞬間だった。




しかし、そんな数多の市井、悲喜交交の些事など微塵も関係なく、未だBETAの東進は予断を許さず―――。


BETA、は避難民を追いかけてきた勢いそのままに、中京から北陸までを蹂躙、達した佐渡島にハイヴを建設し始める。
そのハイヴ建築に一旦止まったかに見えたBETA。

幾多の譴責はあったものの、殆どの西部方面隊が壊滅する状況と人員不足に、即時再配置を言い渡された自分は、再編された本土防衛軍に於いて家族の残る首都防衛隊への配属を希望した。
が、結局第14師団に回され、今後第2帝都―――BETAの侵攻次第では直ぐにでも首都となる仙台の守備に任じられていた。
配属の決まった時点では、家族も仙台の兵舎に入れると通知は在った。

その矢先、突如東進を再開したBETA。
住民の避難が遅れていた神奈川地区、特に横浜は予想以上に早かった侵攻にあっという間に蹂躙され、多くの犠牲者を出した。
当時まだ狛江の親類宅に身を寄せていた自分の家族も、首都機能の移転という事態に追われ、宮城の兵舎への移動が間に合わず、取り残されていた。


東京壊滅―――。

誰もが予期したそれを救ったのが殿下の為した“奇跡”。



当時、皇帝陛下と共に仙台へと退避する予定を、自ら断って新帝都に慰留したと言われる殿下は、その後帝都城守護に当たるべき在京斯衛軍を全て多摩川防衛線に敷き、迫り来るBETAとの徹底抗戦を指示したと言う。
京都に続く帝都決戦、生きて退く事のない覚悟だったとも噂される。

この時の彼我戦力差は言うに及ばず。
誰もが即時潰滅する防衛線を予見し、帝国の落日を憂いていた。


だが。
奇跡はそこで起きた。
BETAはその防衛線を前に突如反転、何を感じたのかそのまま南退し、結果的に新帝都陥落の回避に至ったのだった。

その後BETAは横浜にハイヴを築いて居たことが判明するのだが、その時に敷かれた多摩川防衛線は今以て破られること無く明星作戦まで機能し、殿下の決意と威光が新帝都を守護したと実しやかに讃えられた。

更にはその年明け、皇帝陛下への年次報告会に於いて、何らかの疑義が起きたと言われている。
詳しい内容は公開され無かったが、何らかの形で京都陥落の責を問われるかも知れないと噂されていた殿下は逆に皇帝陛下から労いの御言葉が掛けられた、との事で、少なくとも自分の家族をも救ったあの“奇跡の退避行”は紛れもない殿下のご采配であったことが明らかにされた。

その事実に、震撼した―――


こう言っては不敬に問われそうだが正直に言えば、それまで自分は自らの一人娘とさほど変わらぬ御歳の殿下に、何の期待も持っては居なかった。
京都の防衛戦で戦死された前職に替り急遽抜擢された余りにも年若き姫君。
一部では、西日本の喪失・帝都防衛の失敗を、殿下の責と押し付ける為の贄に過ぎない、と言う心無い噂もあった。
就任直後の混乱でしかも帝国軍については指揮権さえ干犯されているのも周知の事実、そこに責を求めるのは余りにも本末転倒なのだ。
元々理不尽な命令と建関しかしない統合参謀本部に辟易していたこともあり、これはBETA大禍の責任を取らされるだけの、哀れな“生贄の山羊[スケープゴート]”なのだろう、と言う位の認識しか無かった。


それだけに、殿下の顕した2度にわたる“奇跡”は鮮烈だった。

勿論多摩川防衛戦が、一方ではBETAサイドの何らかの偶然に依る事象なのは、おぼろげに理解していた。
殿下の気迫がBETAを退けた等という迷妄を鵜呑みにする若い兵卒ほど青くも無かった。
だが、あの撤退戦は違う。
BETAに対抗する明確な意思と、民草に心配る広い視野、そして時機を外さぬ施策。
そこに在るのは、確かな叡智。
であるならば、多摩川の奇跡とて、“何か”を持って居られる“殿下”故の奇跡には違いない。
全てを喪った自分を、唯一必要としてくれた家族は、殿下の起こした2つの奇跡に救われたのだから。

天禀―――そこに、一縷の希望を幻視してしまった。

年端もいかぬ姫君に、過度の期待を課すことこそ人生の先達として控えるべきこと、と理解していながら、尚も傾倒せずには居られなかった。

ならば、これからの帝国を背負う殿下の為にこの生命賭けよう。
一番大事な、家族―――帝国臣民の為、心砕いて居られる殿下のために―――。


・・・そう心に誓ったはずなのに・・・・・。






―――殿下に齎された幸運もそこまでだった―――。


その翌年99年春、16歳以上の未婚女子に兵役を課す徴兵法の修正案が可決成立し、即時施行された。
臣民に更なる苦役を強いるこの法案に殿下は相当の難色を示されたと伝え聞くが、前年のBETA大禍にて壊滅に近い損耗をしていた軍部、そして何より帝国の存亡を賭け、横浜ハイヴの攻略・本州奪還を目指す明星作戦に必要な人員を確保する必要があると判断した政権の意向は如何ともし難く、干犯された仕儀にて殿下の承認すらなく可決されたらしい。

その改正法の即時施行に4月、16になったばかりの一人娘が寂しそうに笑いながら訓練所に出征していった。
自分の事よりも引き上げ者用の仮設兵舎に残る母親を逆に心配していた、その儚い笑顔が娘を見た最後の姿だった。


我が娘は、悲しいことに戦術機特性には恵まれなかった。
それは自分の血を引いたせいでもあろう。

元々自分にもギリギリの戦術機特性しか無かった。
故に習熟には他の人以上に時間が掛かり、此処まで来るのにも20年以上掛かっている。
それでも無い才能を地道に積み上げて這い上がって来た。


不器用で、習熟に時間が掛かる故に最前線に出て死ぬことも出来ず、習熟に時間を掛けたからこそ、伸び悩む後輩の良きアドバイザーと成り得、前線に送るには後進の教導を鑑みれば惜しく、さりとて教導隊に属するほどの腕にも達していない。


不器用で愚直、故に牛歩でも歩みは止まらず、その末に際限無し―――。

それが九州にて基地と共に沈んだ司令が自分を評して語った言葉であり、20年間もBETAとは直接相対せずに居ながら、地獄の九州戦線を生きて落ち延びた理由でもあった。
戦術機特性に恵まれ、器用に操作していた同期、教えたことを即座に吸収し自分を追い越して行った後輩達程、大陸派兵にも抜擢されそこであっさりと戦死していた。
さりとて昇進に執着することもなく、その経験だけで生き延びた。
今も同じような年代で生きている者は、殆どがもっと上・・・佐官以上に昇格している中での大尉――。
後方に下がることも叶わず、最前線での大隊長として今も在る。


その才能の無さを受け継いでしまった不器用な娘が習熟に掛ける為の時間は、今の情勢が許さなかった―――。


―――結果、たった3ヶ月の歩兵訓練の後、いきなり初陣で明星作戦の前線補給部隊に駆り出された。
陽動により誘引されたBETAの隙を突き、ハイヴに突入する戦術機甲部隊の補給物資を配置する謂わば特攻に近い最前線。
後で知ったが、元々物量を誇るハイヴ攻略の為、損耗前提の強引な作戦に於いて、経験の浅い者ほど最前線に置き、経験の有る者をバックアップとして長期の戦線維持を目論んでいたらしい。

その最前線で米軍に依る突然の新型爆弾投下通告。
娘は退避の混乱に戦場に置き去りにされる形でG弾の爆発に巻き込まれた。

分子レベルまで分解されると言う爆発域に巻き込まれた娘は、一筋の遺髪さえも残さず、その身は2度と植生を育まぬ、呪われた地の土に還った。


更に自分が宛てがわれた兵舎に帰って来たとき、そこで待っていたのはひとり寂しく自分を置いて逝ってしまった妻の亡骸であった。
元々アレルギー体質で重度の重金属汚染に身体が弱っていた妻は、度重なる逃避行の疲弊と、何よりも一人娘の死に、一気に体調を崩し娘の後を追っていた。



自分は存在意義[●●●●]すら喪い―――残されたのは、何処へ向ければいいのかも解らぬ、怨嗟のみ。






一月を経て、漸く全ての感情を抑圧し、虚脱した心を繁忙の日常で塗りつぶし、その傍ら自らの納得を得る為に大隊長権限の及ぶ範囲で調べ始めて見れば、明星作戦は無謀と言える内容であった。

勿論、ハイヴの規模が通常通りであったのなら、或いは妥当な作戦内容だったかもしれない。
しかし米軍、国連軍、帝国軍、大東亜軍まで借り出し、外殻構造のサイズや建設期間からフェイズ2と思しきハイヴを攻めてみれば、湧き出すBETAはフェイズ2どころではなかった。
その圧倒的劣勢の中、主権国家の使用承認もなく炸裂したのは米国の有する新型爆弾。
結局その威を借りて人類初のハイヴ攻略戦は達成されたものの、調べてみれば内部構造はフェイズ4相当と言う完全な調査不足の勇み足。
そして新型爆弾と言えば聞こえはいいが、核でも破壊できぬモニュメントを消し飛ばし、幾多の友軍を巻き添えに周辺BETAを殲滅したその威力には、永久に植生が喪われるという効果も相まって、試用を強行した米軍の思惑とは裏腹に、脅威論が噴出、G弾推進派批判論が台頭する状況に陥った。

つまりは杜撰な調査、始めから数多の損耗を前提とした力押し作戦、米軍の威力も不明だった新型爆弾の試用強行―――。
どう見ても矛盾だらけの欠陥作戦としか思えなかった。
明確な文章こそ存在しなかったが、参加した友軍の犠牲を厭わず、恰もG弾の使用を前提とした米国主導の作戦立案で在ったかのようにも取れた。
実際G弾に巻き込まれた当時の米軍の数は、国連軍や帝国軍・大東亜軍に比して皆無と言えるほど少数であった。

それでも結果はBETAの駆逐、世界初の完全なハイヴ攻略を達成しており、損耗を度外視すれば作戦目的の完遂であった。


当時の米国大統領の弁ではないが、理性的に考えてれば、確かにそのまま横浜ハイヴが存在した場合、帝国の置かれた状況は更に悪い事になっていたかも知れない。
多数の犠牲を前提とした作戦立案も止むなしであろう。
状況の推移からみてG弾が使用されていなければ、明星作戦そのものが失敗に終わっていた可能性も否定出来ない。
しかし、それは飽くまで結果論であり、事前の調査不足による見込みの甘さや、帝国主権の承認すら無いまま投下された新型爆弾の使用には、相応の責任が問われて当然だというのに、それすら有耶無耶と成った。

そう、事も有ろうに、その無謀な作戦に散った娘を含む帝国臣民・将兵の亡骸の上に、国連軍[●●●]の基地が再建されたのだ。

その推進は、国連のとある極秘計画を担当するという香月夕呼[●●●●]
国連の計画推進責任者と言う事で、帝国陸軍白陵基地を貸し出した経緯などもあり、新聞などでも何度か目にしたことのある名前であったし、軍内部でもその強引な遣り口や技術廠との守銭奴的な確執などを、“魔女”・“雌狐”のあだ名と共に聞き及んでいた。
しかしこの地で散った数多の将兵を足蹴にし、その遺族の神経を逆撫でしながら居座る様は、最早禍々しくさえある。
自分が香月夕呼[●●●●]を屍を煎じる“魔女”、その魂をも喰らう雌狐どころか、“妖狐”として認識した瞬間であった。






家族を喪ってからも、既に大隊長という位に在り部下を率いていた自分は、人が生きていく為に必要な決定的なモノを欠いたまま、その全てを押し殺していた。
明星作戦以降、西日本からのBETA駆逐も一応は成った。
大陸に退却するBETAに追撃による大損害も与え、歴史的大勝利とも喧伝された。
冷静に見ればそれは本土に拠点を持たないBETAが、佐渡島や大陸に一時退いた、と言う方が正しい見方かもしれない。
奪還した地域は、既にBETA汚染、或いは戦闘時のレーザー拡散用重金属、弾薬に含まれる劣化ウランに汚染されており、その殆どが農地としてすら使えない。
幾つかの拠点と成る基地機能を復帰させたのみで、結局大部分が放置されるままになっている。

一方で佐渡島のH-21ハイヴは今尚拡大を継続しており、来年にはフェイズ5規模にまで成長すると見られていた。
日本海沿岸での間引き作戦も功を奏せず、一度大規模な再侵攻が起きれば、今敷かれている防衛線など瞬時に瓦解する。
その危機的な状況にも拘らず、相変わらず統合参謀本部は無策―――。



そんな閉塞の中で誘われたのが、戦略研究会なるその実質は“維新”を考える若い衛士達の集まりだった。
実際にその会合にも何度か出席し、幾人もの知己を得た。
自分と同様の経験を有する者も多数いたし、想いを同じにする者の集まりだということは理解できた。
まだ核心を示さず表面的な範囲で、此方の真意を測りかねている様子であったが、そこはかとなく理解してしまった。

恐らくは機を伺い政権に巣食う国賊を排し、“殿下”の正道を敷く礎と為らんとす―――。

理想は理解もした―――だが核心への参加は、自分から辞退した。


全てを喪ったこの身とて、唯一今も崇敬する殿下に道を拓く、その誘いは甘美であったが、もしそんな“機会”が与えられてしまったら、自らが“狂う”だろうことを予見してしまった。
喪うものなど無い今、死ぬことは怖くもないが、若い者の理想を自らの狂気[●●]が穢してしまうことを恐れた。
空虚な何も無い精神と鬱屈し押し殺し続けた怨嗟はそれぞれに相まって殆ど狂気と化し、一度開放すればそれだけで済まないことを自覚していた。
最早今は薬を飲まなければ、眠ることすら出来ない迄に昂っているのだから・・・。


―――自分は理想を掲げて蜂起するには、余りに喪いすぎてしまった。
賛同はする、しかし自らの業深きゆえに、同道は出来ぬ―――、と。


と言うのもそれ以前に、戦略研究会に関わる話の中で知ってしまったのだ。

明星作戦の実行を提案したのが、抑々あの香月夕呼[●●●●]本人であると言う事を―――。


それは戦略研究会を紹介してくれた佐官の話である。

戦略研究会の目的から言えば、米国傀儡、手先とも言える国連横浜基地、そこに巣食う“妖狐”も敵性対象と言う事は類推できる。

“妖狐”が国連の極秘計画として推進している内容は、勿論公にされていない。
しかし、BETA反抗を目論むものであり、その内容を国連が承認し、現政権が招致したからこその土地や設備の貸与であり、国連予算の執行であることくらいは認識している。

だが、これは噂レベルですが、と前置きした上で漏らされたその内容。

その計画は、BETAの情報を何らかの方法で獲得する事を目標としているらしい。
その上で、“生きている[●●●●●]”反応炉の確保を必要とした計画責任者=“妖狐”は、横浜にハイヴが建設され始めたことを知り、その強奪作戦を国連に提案した。

―――それが“明星作戦[オペレーション・ルシファー]”。


ハイヴの拡大は日本帝国の存続に重大な危機を齎すことからも、帝国軍や帝国政権としても放置はできない。
BETAのこれ以上の拡大を抑え、ユーラシア大陸に封じ込めたい国連にしても太平洋への出口と成る日本列島を奪還したい。
そして米国は表向き国連に同調しながら、その裏、開発した新型爆弾の威力実証をする機会が欲しい。
―――故に利害が一致した帝国と国連軍、それに追随する米軍と大東亜軍は、急速にその立案が進められたと言う。
途上、帝国軍の戦力不足が露見し、足並みを揃える為に急遽かつ強引に徴兵法の改正が行われた。
勿論、国連の計画を誘致した現政権がバックアップ、と言うよりは本来帝国軍を統括する立場として主導的に動いたからである。
極秘計画を推進する立場の“妖狐”は是が非でも“生きた[●●●]反応炉”を確保したい思惑があったため、国内の徴兵は勿論、新型爆弾をBETA相手に試用してみたいと言う米軍の独断強行も当て込んでいたのではないか、と言う憶測さえ立った。

世間的には、横浜ハイヴはG弾で壊滅した、と言われている。
調査が行われたハイヴ跡についてその規模がフェイズ4相当であったと言う事以外、詳細内容は公開されていない。
そこにハイヴが存在したのだから反応炉が在ったことは間違いないが、今も本当に“生きた反応炉”がそこに存在しているのか、は依然機密であり定かではないのだ。
だが、周辺地域に重力異常を起こし、永遠に植生も回復しないと言われ、長期的には人体にさえどんな悪影響を与えるかも知れない横浜ハイヴ跡地に、巨大な基地を再建したからには何らかのそこに拘る事由が在ると考えるのが妥当であろう、―――と言うのがその佐官の結言だった。


―――全て・・・全て繋がった。


己が計画の推進の為、無謀な明星作戦を提案したのは、“妖狐”。
その為に徴兵法が改正され、一人娘を徴兵させたのも、元を糺せばその作戦が事由。
決行した作戦で想定外のハイヴ規模に危惧し、前線の犠牲を無視して米軍の新型爆弾投入を容認したのも、あの“妖狐”。


――殿下に齎された2度の奇跡で救われた命を、虫けらのように踏みにじった。
オレ[●●]の全てを奪った元凶――。

それが香月夕呼[●●●●]という存在であった。

何時か、米国に、現政権に、そして何よりも香月夕呼に一矢報いる―――。

明確な指向性を得た怨嗟は、しかし勿論直接的な繋がりや関連などあるワケもなく、長い間ただ澱となって淀むばかり。
その澱は“狂気”も醸成していたが既に気にもとめなかった。







契機は此度唐突に訪れる。


切っ掛けは、先月末突如公開された戦術機の新概念OS、XM3―――。

自分が唯一信奉する殿下の御依頼に依る成果として紹介され、実際に体験して瞠目した。
その開発に“横浜”が絡んでいると言う噂に、警戒はしたがOSそのモノは秀逸で、他意は感じられなかった。
実際設計者の品性と製品は別物と割り切るしかない。
で無ければ基本概念を米軍[てき]の作った兵器[せんじゅつき]など使えないと言う事になる。
それが我が力に成るなら使うことを厭ってはいられない。

そのXM3を使った理想的な機動として白銀少佐の映像も公開され、少なからぬ衝撃も受けた。
そして確かに横浜由来ではあるが、OSそのものの製作者は“妖狐”ではなく、白銀少佐と片や殿下が信を置くという御子神技術少佐であるという噂であり、殿下の御依頼という事にも、そう云うものかと納得した。


次いで入ってきた報は、XM3の実戦証明に殿下自らが出陣し、新潟で実弾演習を新潟で行うと言う物―――。

参加は、斯衛軍1個連隊、帝国軍第12師団より1個連隊、そして国連横浜軍特務部隊[●●●●]
しかも自分が指揮する第14師団の“剛の大鎚[スレッジハンマー]連隊”に、演習後半の地区防衛バックアップを要請してきた、と言う。



―――心がザワついた。

殿下視察の一助となれる―――。

一方、国連横浜軍特務部隊―――正式には国連太平洋方面第11軍A-0大隊。
正に憎き“妖狐”麾下の直属部隊。

今その大隊の隊長である白銀少佐は、多くの衛士に希望を齎すXM3の発案者。
そして顧問となった御子神大佐は殿下の懐刀にして、最近ではそのXM-3を装備した不知火弐型を駆り、アラスカブルーフラッグ戦でF-22を駆るインフィニティーズを下した人物。
奢りたかぶった怨敵米軍に頂肘を加えたとして帝国軍内部でもその評価は高い。
その働きにより試製XFJ-01が承認され、20余年に渡る主力戦術機更新論争にも遙々目処が着いたとも聞く。

―――彼らは、“妖狐”の詐術に使われているだけであって、罪は無いのかもしれない・・・。
そうに違いない。
此度は殿下直々のご采配、何よりも恙無き完了の一助として精勤をと自らを諌めていた。



昨日、後方援護に赴く前日に当たり、第2帝都城外殻警備の離脱報告に参内した。
報告相手は崇宰征尚少将。
前職政威大将軍の長子にして、第2帝都そして皇家を守護する斯衛軍第24連隊を預かる皇家守護司。
斯衛の将官にして、五摂家崇宰家現当主。

第14師団第3連隊とは同じ第2帝都の守護を預かるとて、以前から幾度かの会合がもたれ面識はあった。
市内を預かる斯衛と近郊から日本海沿岸までを守備範囲とする帝国軍では本来接点も無いのだが、有事の際には連携も必要と言う提案が斯衛より為された為だ。

第14師団の配置は、太平洋沿岸警備の第1連隊、日本海沿岸警備の第2連隊。
そして第3連隊は第2帝都外殻警備が主であり、今回打診された新潟実弾演習後方支援は警護範囲が比較的狭く人員に余裕のある第3連隊に回ってきていた。
なので遠征準備に追われる連隊長の代理として、第14師団全体を指揮する本土防衛軍川端少将と共に自分が訪れたのだった。


ふと、“紫”が視界を過ぎった気がした。
そこは内裏外苑―――。
本来なら隔絶されている内裏外苑に、今は幾つかの工事が入り、内部を垣間見ることの出来ることがある。

そこに見てしまった。

―――紫を基調とする直衣に身を包む、鮮やかな紫髪の御姿。
赤の斯衛服に伴われた紛れもないその御身を・・・・。


―――何故?

殿下は[]新潟にいらっしゃる筈。
しかし、彼処は紛れもなく“内裏”。
市井のものが出入りするような場所ではなく、さりとて他の五摂家高位には、あの紫髪を有する御方は居られない・・・。


連隊総司令官である川端少将が崇宰少将と話をする間、次の間にて控えた自分の相手をしてくれたのは、本土防衛軍で帝都城に参与する仲御門中佐―――。
幕僚である統合参謀本部に連なるエリートでもある。
だが統合参謀本部の佐官には珍しく、元帝国陸軍や西日本の防衛戦に於ける敗残兵にも色々気を配ってくれる方で、最近では入手も難しくなった向精神薬[トランキライザー]も融通してもらっている。
“戦略研究会”を紹介してくれたのも中佐だったし、何よりも明星作戦の提案者が“妖狐”であることを教えてくれたのも彼であった。



その中佐に先程垣間見たお姿を尋ねると、不味いものを見られたと渋い顔。
聞けば、極秘事項と釘刺されつつ教えてくれた。
今回の新潟遠征に謀略の疑義あり、との密告を受け、崇宰少将が陛下の名で極秘に殿下を招聘したという。

にも拘らず、新潟に現れた“紫の武御雷”には、守護司としても困惑しているらしい。
殿下を騙るのが贋物[●●]には違いなく、さりとて“紫”の機体は本来殿下しか扱えぬはず。
“紫の武御雷”そのものが贋物[●●]だとすれば、それもまた問題。
無論陛下には殿下より何らかの説明がされているらしいが、まだ中佐レベルにも情報は落ちて居らず、その真意は不明との事。
元々謀反の疑義と言う事で、招聘そのものが些か強引だったこともあり、本来殿下が此処に存在する事自体が極秘事項。
殿下の止事無き不在で演習そのものが中止、少なくとも延期になる予測が、何故が“替え玉”を使ってまで強行された。
当の“替え玉”を殿下が認識しているかどうかも今の下々には解らないという。

既に謀反の疑いそのものは晴れているらしいが、寧ろ強行された演習に別の何者か[●●●]の“謀略” ではないか、と疑念が新たに生じているため、その確認が取れるまで逗留するらしい。


更に、これは飽くまで、噂だよ噂、と前置きしながら中佐は語った。

煌武院悠陽殿下は生来双子であったが、煌武院家では双子は世を分けるとの忌み事であり、殿下の対となった子は冥き忌み名を与えられて遠縁に養子として引き取られているとのこと。
その忌み子は長じて自らの出生の秘密を知り、監禁されるような生活を強いられる我が身の不遇に対し、洋々たる殿下の状況を逆恨み。
敢えて米軍傀儡の国連軍を志願するような唾棄すべき復讐者であること。
任官に依る危機をなるべく回避するために、基地で要職にある上位者を篭絡し、訓練兵を延々と1年も続けた後、先日総合戦技演習にも手管を使って合格し、“妖狐”の配下に潜り込んだのではないかとのこと。
そして此度の演習では殿下の不在をいい事に、本来一卵性の双子という遺伝情報を利用して、“紫”の武御雷が有する生体認証を突破し殿下の“替え玉”としてのうのうと安全な位置で演習に参加しているらしい、と。
斯衛がどこまで認識しているのか、なぜ替え玉を容認しているのかは不明だが、斯衛の紅蓮大将が弟子としていたとう言う情報もあり、その事が何らかの理由で演習を強行したい斯衛の利害と一致したのではないかとの憶測があった。
だが、これを機に“妖狐”が斯衛、ひいてはXM3を餌に帝国軍まで懐柔しようとしているとも考えられる。
最終的に“妖狐”はユーラシア攻略を目論む米軍の新たな足がかりとして横浜基地の拡大を目論見、現政権だけでなく,実権はなくても斯衛や帝国軍現場サイドに絶大な支持を受ける殿下の影響力を我が物にする為、殿下の弑逆も目論んでいるかも知れぬ―――、とも。


その言には流石に自分[●●]も半信半疑であったが、オレ[●●]が滾るのを抑制するのに苦労した。
しかし此処の内裏で姿を見かけた殿下の、“影武者”が新潟に存在することは紛れもない事実――。

冷静になれと制する自分[●●]が居る反面、爆発しそうなオレ[●●]が限界まで来ていた。


「・・・・仲御門中佐。」

「何かな?」

「・・・誠に僭越で在りますが、崇宰閣下にお願い申し上げたい儀が一つ・・・・。」

「・・・叶うか否かは別として、聞くだけ聞きましょう―――。」


殿下を騙る贋物が、双子であるとするならその容姿で惑わされる可能性がある。
問答無用に討てば良いが、それよりも更に “妖狐”に一撃を加えるためには決定的に贋物であることを周囲に知らしめる必要がある。
その為の情報が欲しかった。




新潟に出立するという今朝未明、第3大隊の警護担当エリアで不審車輌が発見され、追跡したところ車内から身元不明男女の遺体が発見された。

本来、直ぐ警察に届けるべき案件であったが、その特異性[●●●]故、部隊預かりとなった。
無残に頭部の潰された男性の方は、国連軍のBDU姿。
―――そして男性同様、容貌の解らぬ女性の遺体に残る長い髪は紫、そして装束はあの第2帝都城下で垣間見た紫の直衣そのまま―――。


状況、タイミング、余りにもオカシイ、と自分[●●]が思う間もなく、オレ[●●]の中で何かが弾けて飛んだ。


目の前でハレーションが起こり、視界が歪み、自分[●●]は意識が薄れていくのを感じていた。





山々を縫うように翔る撃震、それを駆るオレ[●●]の頭には、最早その後発生したCode991によるBETAの侵攻すら興味無く。
ただ只管“紫”の武御雷を穢した妖狐麾下の淫売の正体を白日に晒し、叩き切る事しか考えていない。

勝手な情報と勝手な判断は、明らかに反逆行為であることは承知しているが、今のオレ[●●]には何の呵責もない。
“妖狐”に、そして横浜に連なるだろう“米国”に一矢を報いる最大の好機。
殿下の弑逆が“妖狐”の手のものか、“米国”の仕業かは知らぬ。
既に喪うものなど何も無いオレ[●●]、崇敬した殿下亡き今、後がどうなろうと構わない。

―――寧ろ全ての人類がBETAに喰われてしまえば清々する。


叶うことなら、殿下を亡き者にし“紫”を穢した“替え玉”を討つ。
それだけでも、傀儡の擁立と言う妖狐の目論見を阻止できる。


だが、その“替え玉”羅紗緬を護るのは腐っても斯衛――-。
思い通りに行かない事もあろう。

“替え玉”の正体を暴露し、“妖狐”の奸計を白日に晒す。


その素性を暴いて尚擁護に回るなら、斯衛は既に“妖狐”に懐柔されている“敵”。
その暴露したオレ[●●]が斯衛に討たれて死ねば事実を強引に隠蔽したとして、帝国軍には重大な懐疑が生じる。


・・・尤も、そんな後のコトはどうでもいい。
それで終わり。
狂ったオレ[●●]に相応しい最期だろう。

部隊もちょっとは巻き込むかも知れんな。



そう思いトレイル陣形で雁行する周囲に意識を向ければ何故か沸いている。

・・・・上陸BETAの殲滅?

ああ―――もうそんな事はどうでもいい。

大隊の秘匿回戦を開いた。



「・・・此方〈Mauler-01〉、モーラー大隊総員に告げる。
トレイルを継続しながら傾注して欲しい。
今情報に在ったように上陸BETAの殲滅という偉業を達成為されようとしているその“殿下”なのだが・・・・、ある信頼できる情報筋から殿下が謀略により“贋物”にすり替っている可能性が出ている―――。」

網膜投影に映る部隊員が一斉に息を呑む。
緘口令は敷いているが、今朝の事件を知る者も数名居る。
本人であることに懐疑的なのが大多数であるが、本人ではないと言う確証も無い。

「―――これは極秘情報である為、未だ確証はない。
だが、事が真実なら、上陸BETA殲滅という偉業を以て、“贋物”が、認知されてしまうことにも成りかねぬ。」

オレ[●●]が全てを喪った明星作戦以降、この隊で演じ続けてきた〈Mauler-01〉はこんな冗談や嘘は言わない実直な性格。
それだけに、事の重大さは知れよう。

「・・・・・・故にこの後援護地区到着次第、私は単騎で偽殿下と相対し、その真贋を問う。」

『!!、無茶です、隊長ッ! 反逆と見做されます!』

「・・・殿下が御無事でご本人なら、その後の極刑も厭わぬ。
―――殿下は我等が戴く最後の希望―――。
反対に、もし此度の情報が真実で、殿下の存在を穢す様な輩なら、誅殺も辞さぬ。」

『『『『『『 !! 』』』』』』

「・・・・だが、これは謂わば私の我儘。
曖昧な情報で部隊を巻き込むわけには行かない。
諸君は当初予定通り後方2kmに展開し、要請在るまでバックアップとする。」

『・・・・待ってください!、隊長はどうやって?』

「なに、着任の挨拶に見せかけて接近する。」

『『『『『『 ・・・・ 』』』』』・・お供します――。』

「・・・・・死ぬぞ?」

『真偽の判断は、今は着きません。単騎では反逆と見做され制圧されたら、それで終わりです。
けれど大隊が包囲展開していれば、その抑止力になります。』

「・・・・反逆の片棒を担ぐ事在るまい・・・。」

『隊長が反逆と考えているなら、そもそも単騎突入をおやめください。』

「・・・・そうだな。殿下の存在を穢す逆賊を誅しに行くのだったな。
―――判った。
好きにしろ。
但し、上意の命令は受けていない。
正道が此方に在ったとて、友軍との戦闘は厳罰。
・・・・それでも良いと言う者だけ、付いてきてくれ。
此処で残り、BETAを討つことこそ本懐、出来ればこんな些事で命散らさず、そちらを全うしてほしい。」

『我らとて殿下の指揮下で戦うことを切望して来たのです。
それが贋物であったなら、死んでも死にきれません。
我々は隊長の吶喊後、周辺斯衛を包囲します。
勿論、殿下の真贋が判明するまで此方からの攻撃はしません。
しかし、認めず封殺に及べば、殿下は贋物と見做し、それを目論む斯衛諸共排除します。』


・・・・地獄への道連れが増えた。
一応はそれなりに忠告はしたのだから、自分で選んだのなら仕方ない。

それもこれも―――もうどうでも良いことだ。

オレ[●●]にとっては、この身が死を迎える、その甘美な瞬間が待ち遠しくて堪らなかった。







『・・・有間大尉、――その方に尋ねよう・・・・』


その涼やかな声音に、最早掻き消えんばかりにうっすらとしていた自分[●●]が明確に自意識[●●●]を取り戻す。
意識は在ってもいまも表層[●●]になれない。
全てを喪った自分[●●]に残っているのは殿下に対する感謝と崇敬のみ。


この“紫”が“替え玉”なのか・・・?
そうであるならば、僅かに残る自分[●●]オレ[●●]に迷わず迎合し消え去るだろう。

しかし、そうでないならば・・・・。


Sideout



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※本来’13,07,12に投下するはずだった文章でした。
 ここまでは書いておきながら、次の展開がどうにも決まらず更新停止。
 大遅延の言い訳はしません キリッ)
 ・・・って訳ではありませんが、詰まるところ実力不足。
 詰め過ぎた設定に収拾が・・・orzってとこです。
 一時は全削除も検討しましたが、時間を置いて脳内設定を初期化し再度読み直しました。
 で、やはりケリは着けたいな、というのが自らの感想。
 こうなるともう、自己満足でしょうが。
 既に愛想尽きた読者様も大勢いらっしゃるでしょうが、ぼちぼちと行きますので宜しかったらお付き合い下さい。
 
 そしてこの後、尚も設定を積み上げる蒙昧―――。



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