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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/03/06 21:15
'13,04,28 upload
'15,01,04 斑鳩閣下の名前変更
'15,01,31 語句統一
'15,03,06 誤字修正


Side 巴(斉御司巴帝国斯衛軍第2連隊長)


「・・・それで、依然彼方からの連絡は無し、・・・か?」

「・・・残念ながら何もありません。こっちからの呼びかけも、今は繋がりません。」


応えたのは、ピンクの“森羅”専用強化装備のままの純夏ちゃん。
その隣で今は紫の斯衛軍服に着替えた“殿下”が、辛そうに俯く。
・・・姉上。
声には出さずに、確かにその口元が動いた。

純夏ちゃんはすぐその肩を抱く。
何も言っていないが、森羅を装備した彼女は恐らく通信管制など秘匿回線に至るまでバックグラウンドで処理しているのだろう、彼方が何らかの連絡を入れるとすれば、間違いなく純夏ちゃんなのだ。

周囲に居る者は“殿下”の事情を知り、その護衛となっている者だけ。
タケ坊は、流石に“明日”を前に部隊から離れるわけには行かず、今は居ない。
閣下も、崇継も、そして“殿下”の直衛を務める月詠中尉も沈鬱な表情。




此処は、三条市でも奥早出・守門と言った山際に近い裾野に建設されていたスポーツ施設跡地。
跡地と言っても西日本から佐渡までBETAが蹂躙した際、幸いにも山中は通過しておらず、建物も周囲の植生もほぼ完全に残っていた。
今回の合同演習にあたり、帝国軍東部方面参謀本部及び、斯衛軍統合司令室は、合同参謀本部を設置している。
拠点は3地点。
帝国軍東部方面参謀本部は弥彦山山麓に近い燕市公民館跡、国連太平洋方面第11軍は燕市スポーツ施設体育センター跡、そして帝国斯衛軍はここ三条市グリーンスポーツセンター跡地に陣を敷いた。
臨時新潟防衛総合司令室も、この地に置かれている。


予測される佐渡からの侵攻で尤も可能性が高いのは、横浜ハイヴ奪還を含む首都圏への侵攻である。
佐渡からの場合、そのまま海底を真直南進すれば旧柏崎に達し、旧小千谷、旧魚沼を抜けて旧関越道を進みそうだが、実際はそうでもない。
日本海の海底地形を見ると判るのだが、佐渡南東海底から富山湾に掛けては急峻な海淵を伴う深い海盆が繋がっており、かなり切り立った地形となっている。
一部には谷を渡る峰も在るのだが、狭窄した尾根筋は大群の侵攻には適さない。
それ故BETAが侵攻すると考えらるのは、一旦佐渡の北東側のなだらかな海底を進み、そこから南進して新潟平野に上陸するルートだった。
元々呼吸を必要とせず進むBETAは海底の侵攻でも問題ないのだが、水の抵抗自体が大きく進軍速度は制限される。
よって海盆の迂回地点から目標の関東に向けた近場に上陸する、と予測されていた。
それが今回シミュレーションで繰り返している、新潟空港から弥彦山麓までの範囲である。
その範囲にBETAが上陸した場合、防衛戦が突破されれば信濃川沿いに小千谷まで遡るのは必至で、合同参謀本部を設置したこの3地点はそれを遮る防衛ラインそのものでもあった。
新潟平野は元々広く水田が広がっていた平らな土地であり、光線属腫の射程が取りやすく脅威に晒されやすい為、最終拠点である総合司令室は山際の尾根間にあったこの施設を利用している。


ここは、そのグリーンスポーツセンターの研修室。
臨時に殿下の居室とされたことで電気も煌々と点いてはいるが、纏う空気は重い。




「・・・でも、大丈夫だと思います。」


その沈んだ雰囲気を断ち切るように、キッパリと純夏ちゃんは言い切った。


「・・・純夏、それは・・・?」


一縷の希望を繋げたい、そんな縋るような表情で“殿下”が確かめる。


「通信が繋がらなくなった[●●●●●●●●]、からです。
彼方くんが単独で危機に陥るなんてまるで考えられないし、捜索中の状態なら繋がらないことは無い。
・・・そう考えると、逆に何らかの進展があったからこそ繋がらない、と考えるのが一番しっくりするんです。」

「・・・・成程、彼方であればこそ、それもあり得る、か・・・。」


彼方をよく知るだろう崇継が、寧ろ呆れと若干の安堵を携えて、ため息を落とした。








過日、浜離宮での秘密会合を終え、地下の極秘ルートで帝都城に戻った筈の殿下は、そこで忽然と姿を消した。
御傍付きであった月詠摩耶大尉ですら、気づかぬうちに。
私や崇継そして閣下も、予想外に濃い彼方の長話に押されすでに刻限の差し迫った出立へと気が向いていたのは確かだ。
その隙を突かれるように実行されたであろう拐取は、鮮やかすぎるほどであった。
一切の痕跡が認められれなかった。


九條、ひいては第5計画派の標的は第4計画派であり、現段階に於いては何の力も持ち得ない殿下にその矛先が向くことがない、という油断もあった。
勿論続く大粛清に向けて城内の警戒度は高く、九條や、その繋がりありと見做される所謂“捕縛対象”は、係累に至るまで帝都城から完全に遠ざけており、草々その膝下で殿下の拐取等が実行される状況には無かった。
何よりも今の段階で殿下を弑逆したところで、国連横浜基地と繋がりを持つのは榊首相であって殿下ではない。例え政威大将軍が新たに指名されるとて、その第1候補は此処に居る斑鳩家当主・崇継だったりする。
既に第4計画と第5計画の本質を知る崇継がその判断を誤るわけがない。

それは余りにも九條や第5計画派に取っても利のない策略。
故に、完全に別派閥の思惑や、殿下自身のお考え、と言う可能性さえもが考慮された。
けれど、BETA侵攻が予想されるこの状況に於いて殿下自身が身を隠す意味など見いだせず、さりとて現在に至るまで別派閥の誘拐犯から何の連絡も要求もない。



事態が生じたあと対策に再度集まった折り、単身・・・と言うか、その場で自らの失態であると切腹まで申し出た月詠大尉のみを連れ、捜索に出たのは彼方だった。
せめてもと第2連隊の1大隊を付けることも勘案したが、それも彼方に却下された。
使うかどうかも解らない手数ならば、新潟を頼む、と。
技術大佐として、用意すべきものは全て用意した。実戦で俺は居なくても戦況はそれほど変わらないが、大隊一つは全く意味が違う、と言われればその通りで引くしかなった。
彼方は帝都城と、横浜基地でいくつかの指示や仕込みをしたあとに、いつの間にか姿を消したという。

そして今は連絡を絶った彼方に任せるしか無いのが現状である。



そう―――極めて冷酷な言い方をすれば、今、殿下が喪われても状況は変わらないのだ。
しかし、此度のBETAの再侵攻が現実のものとなれば、最悪は帝国そのものが滅ぶ事にもなりかねない。
斯衛連隊規模、帝国軍まで含めれば師団規模の出征を目前にした今、殿下の失踪を公にすることも出来ず、広域捜索など掛け様もなかった。

窮余の策として、A-00中隊に仮配属となっていた“殿下の遠縁”に上官であるタケ坊から影武者を指示して貰い、その警護小隊もA-00に臨時編入する事でその警護を任せつつ、合同実弾演習は強引に挙行されたのである。
警護担当者が、殿下の御傍付きである月詠大尉[●●]と従姉妹で、その風貌も極めて似ていることも好都合だった。
故に中尉[●●]は今、度の無い眼鏡をかけている。


そして少なくとも此処に居るものは、“青”を纏う今の“煌武院悠陽殿下”派。
殿下と“遠縁の娘”の内情も知っている。
私と崇継は今まで直接の面識がなかったが、閣下にとっては弟子でもあり、どうも既にタケ坊の“嫁”と言う事情もこれまでに垣間見た彼女らの風情からなんとなく察せられた。
思ったよりもタケ坊がヤルのかと思ったのだが、そっち方面は尻に敷かれている感が否めない。
・・・ま、それこそがタケ坊だが。
その上で純夏ちゃんとも仲がいいことで、タケ坊の代わりに純夏ちゃんが今此処に居たりする。

勿論“殿下”は、此処に来てからも部隊へ露出は最小限とし、演習中は本人の希望もあって常に戦場を見据え、その姿は遠景でしか伝えていない。
ここにいる事情を知るものも部隊指揮官として実弾演習に参加してしまう状況では、総合司令室に居てもらうわけにも行かないのだ。
さりとて居室に引きこもるわけにも行かない。
流石は殿下の縁者にして閣下の弟子ともあり、“殿下”になり切った時の威風堂々たる覇気は戦場に在るものとして申し分なかった。
他者に接触させないための苦肉の策も、戦場にて共に戦う姿、と好意に受け取られ斯衛・帝国軍問わず士気を高めたのは思わぬ棚ボタであった。


それでも、素では肉親を心配する一人の少女でしか無い。




「・・・当面そちらは彼方に任せるしか手がないのう・・・。
儂らは、明日に迫ったBETA再侵攻を阻止し、殿下の戻られる“場所”を死守するしかあるまいて。」

「フム・・・。やはり“明朝”で間違いないのだな?」

「―――はい。
此処に来てハイヴ全体のポテンシャルと言うか、緊張感が高まって居るように感じられます。
恐らくは、遠征するBETA群に、エネルギー供給を施しているんじゃないか、と・・・。
まだ侵攻レベルとは言えませんが、斥候レベルでは海底に存在しているBETAの密度も、急上昇しています。」


崇継の問に、あっさり応える純夏ちゃん。
タケ坊も暫く見ないうちに飛んでもないチートになっていたが、純夏ちゃんもそれに負けていなかった。
幼少より今ここにいる“殿下”と同じ、閣下の“弟子”として精進し、剣術では無いものの拳闘を極めし者。
フィニッシュブローは、タケ坊を成層圏まで打ち上げる威力があると聞く。
閣下の奥義すら伝授された謂わば“皆伝”。
その上で、00ユニットという破格の情報端末“森羅”の、現状唯一の適合者。
聞くところによると、戦術機機動もタケ坊並に熟せるらしい。
“森羅”を展開した純夏ちゃんは、十分化け物クラスだそうだ・・・ただし対人戦は。

対BETA戦となると、“知識”は在るらしいが、その知識と“機動”が繋がらない。
すなわち、対人戦は幼少からの積み重ねにより“経験”に培われた動作モデルが既に確立されているが、生BETAと戦ったことの無い純夏ちゃんは、その動作モデルが構築されていないのだ。
“森羅”と適合する事でなまじ知識があり選択肢が多いことから、どうしても考えてしまい反応が遅れる、ということ。
復活して時間が浅く、シミュレーションでの経験もまだまだ足りず、それよりも戦域管制に集中してもらうため、結局この演習でもA-00中隊に警護小隊を引き込む数合わせも含め、V-JIVESの時と同様にタケ坊の複座に収まることとなった。



「それにしても・・・・大したものよね。
実際、“森羅”無しの第1回演習では、帝国軍の損耗が56騎。
昨夜の第2回は、最初こそ“森羅”の齎す情報の確度に戸惑ったみたいだけど、結果的に彼らも損耗は18騎にまで減らしたし、今日午の第3回では遂に一桁、8騎だったわ。
全て“森羅”の齎す情報の恩恵といっても良い。
正しく純夏ちゃん様々よねぇ~。
斯衛[こっち]は、初回にロストした4騎に特別教練したら、2回目にはビビる奴もいなくなったし。」


私が言うと、皆が苦笑いしている。
斯衛は事前から正規のXM3を与えられ、連隊規模のV-JIVESを使えるあれだけ恵まれた環境で、密度の濃い教練を繰り返してきたのだ。
今更実物に近いBETAに気を呑まれ“死の8分”すら超えられないなど、情けなさすぎるだろう。

それに加え、回を重ねるうちに帝国軍の損耗も目に見えて減少した。
“森羅”が参入したことで、不意打ちが無くなった。
戦域全体のBETA密度と、総数、時間的推移までが知らされることに依って、逐次戦力の再配分が実施できる。
その戦術に慣れている斯衛や国連横浜軍は、剰余戦力による帝国軍の側面援護も出来る。
それに加え、帝国軍側も斯衛や国連軍の戦術からも学び、応用しているらしい。
初回の各個撃破から、今では誘引し集中殲滅する戦法を試すようになっていた。


「最初の“全滅ショック”が効いたんだろう。
連隊規模の実弾演習で、師団規模に当たる想定等基地のシミュレータ程度では不可能、草々出来る経験ではない。
尤も、それでも何のフォローも無しに、初回いきなり損耗が56騎のみとは寧ろ驚いたがな。
事前のV-JIVES想定では8割、良くて7割の損耗だったからな。
―――第12師団“鋼の槍[スティールランス]”連隊、思った以上に剛の者が揃っているらしい。
それだけに初回の反省で戦術を変え、2回目以降参加した“森羅”が齎す情報の価値にすぐ気づき、3回めにはもう“森羅”情報を上手く使っていた。
適応性も極めて高い―――。」

「崇継にしては珍しくべた褒めだけど、実際練度は高いと思うわ。」

「・・・国土を守護する武士として頼もしい限り、ということじゃな。
故に・・・・こんなトコロで喪うわけには行かぬ。」

「「――御意。」」

「・・・殿下もずっとそれを気にして居られた。
必ずや彼方が連れてきてくれるだろう殿下を落胆させん為にも、不甲斐ない戦は出来ぬ。
―――心せよ。」

「「「「はっ!」」」」



閣下の言葉に気を引き締める。
明朝――。
今度はシミュレーションではないのだ。
そこで死したものは、二度と戻ることはない。

そして此度の実戦証明、既に帝国という範疇だけでは無い。
BETAに追い詰められる人類の、曙光となれるか否か。

置かれた状況は厳しく、課せられた希望は重い。


その緒戦がを迎える夜がキシキシと更けていった。


Sideout




Side 千鶴


無機質なLEDライトの下、錆びついた鉄製のドアを、音がしないよう慎重に開け屋上に出る。
もうすぐ日付も変わる。物資の節約も含め22:00に消灯となった後、シェラフを抜け出し此処に来た。

明朝は5時に起床の予定。
勿論、次の第4回目の演習も抜き打ちのため、もしかしたら4時に叩き起こされることもあり得る。
体を休めるもの衛士の任務だと解っているが、高ぶった神経では中々寝付けなかった。

国連太平洋方面第11軍が駐する燕市スポーツ施設体育センター跡。
初冬の日本海側、夜空には低く雲が立ち込め、残念ながら星空は望めない。
なだらかに広がる新潟平野は、今は何の明かりもなく闇に沈んでいた。



昨夜、横浜を発ちこの陣に入った。

迎えてくれたのは、先発した白銀少佐を始めとするA-01、伊隅ヴァルキリーズや遠征してきた整備兵、兵站を行う輸送部隊の面々。
そして、午前11時に開始された第3回目の合同実弾演習から遂にA-00部隊員として参加したのだ。


――今まで積み重ねてきたモノ。

それが揺らぐほど生半可な鍛え方をしてきた積りはないが、本物の戦術機を駆り現実の大地を翔け、師団規模の軍を以って師団規模のBETAと対峙する様は、やはり今までのシミュレーションとは一線を画す。

今日の演習で佐渡島より湧き出たBETAは9,000―――。
そのBETA群に対し帝国軍・斯衛軍・国連軍の合同軍は、若干の犠牲を出しつつも見事BETAを内陸に通すことなく、殲滅せしめた。
JIVESの演習であることは、理解している。
それでもこの演習に参加し、実際にBETAを殲滅し、勝利を手にして生き残ったという高揚感は、早々に消えることはなかった。

その熱を冷まし、明日に備えて少しでも体を休めるために、此処に来た。





私達がA-00中隊に仮配属になることを知らされたのは、総合戦技演習から帰国した次の日。
そしてその夜、戦技演習合格を祝ってくれた会場で、A-01伊隅ヴァルキリーズやA-00部隊に所属する先輩衛士達にも正式に紹介された。

A-01部隊には、嘗ての同期、涼宮や柏木達も先任として在籍していた。
A-00部隊は、一応訓練兵の同期でありプライベートでは白銀と呼ぶ彼が、教官に言われた通り少佐でA-0大隊長で、“教官”も大尉で副部隊長。
時折シミュレータールームで会い、BETAの行動パターンや過去の戦術を調べていた私に様々なデータをくれた御子神さんは、なんと技術大佐で部隊顧問だったりした。
他にもA-00部隊には斯衛軍の篁大尉が出向していたり、一時的な所属だとは聞いたが国連アラスカ基地に居たというビャーチェノワ少尉やシェスチナ少尉までもが在籍していた。

―――余りにもの面子に面食らったのは確かね。

同じ敷地に居ながら極秘部隊と言うことで半年隔てられていた茜たちとは徐々に打ち解けたけど、白銀と教官を除けば雲の上の人、同じA-00部隊の人にはそんなに簡単に慣れることなんか無理。
茜達にも、羨望半分、同情半分と言う目で見られた。
比較されるのがあの人達じゃキツイわねェ、と言った柏木の言葉が的を得ている。

私達は私達と思うしか無い。
A-00の先任は勿論、半年も早く衛士になった茜たちにだってそんな簡単に追いつけるとも思う程自惚れてもいない。




それでも、私たちの原点は、銀河作戦―――。
白銀の経験したあの追体験が、私達の基準点なのだ。

―――神宮司教官にA-00部隊への仮配属が言い渡され、そして試XFJ-01式が自分の機体として渡されたあの日の前日。
南の島のたった1日のバカンスの夜。
私達は6人で集まり、議論を尽くした。


私は、私たちは、確かに衛士への切符を手にした。
そこで、何をしたいのか。
何が出来るのか。
衛士に成ればそれで願いが叶う、と思っていた頃とは違う。
結論なんか出なかったし、想いも、希望もバラバラ。

それでも、6人に共通した願いが1つだけ、在った。


―――何よりも、白銀の傍に居たい、と・・・。



人類の永続も、その為のBETAの殲滅も、崇高な目標であり、重要な手段である。
生きて、生きながらえて、けれどその時にもし、一人しか生き残って居なかったら、それに何の意味があるのだろう。
自らの生存や、見知らぬ人類の存続は、目標であって[]の目的ではないのだ。
だったら、道半ばで死んでもいい。[]に居て、その存在を護る事が出来たのなら、笑って死んで行ける。
それが私の、私達にとっての、白銀武と言う存在だった。


冷静に考えれば、たかが男、である。
何故こんな短期間に惹かれてしまったのか、何処がそんなに気に入ったのか、自分でもよくわからない。
ある意味ヘタレなのに、愚直なまでに人類の永続を目指し足掻くことを諦めないその姿勢に、何処か諦観してしまった感のある外の男と違うものを感じた、と云えばそう言えるかも知れない。
強いて言えば、魂が惹き合った?
そんな言い方の方がしっくりくる。
まあ時期はずれの知恵熱に浮かされているだけかもしれない。
脅迫じみた吊り橋効果―――種の絶滅に瀕した本能的な生殖衝動かも知れない。
今の時代少ないとは言え、他に若い男が居ないわけではない。

・・・・それでも、この先生きながらえ天寿を全う出来たとしたって、白銀以上の存在には出会えない・・・そんな予感が在った。
勿論競争率が高いことも、中でも御剣や鑑がかなり進んだ位置に居ることも理解している。
それでも諦められないし、喪うくらいなら共有でもいい、寧ろ女として相手にされなくても必要とさえされるなら、傍に居たい。


タケルちゃんはね、ヘタレなの。
[]で支えてあげないと、ダメなんだ。


ポツンと言った鑑の言葉が、全てだった。




以来、その為には何をすればいいのか、本気で考えた。今も考えている。

その意味でも、A-00部隊への仮配属は行幸だった。
色々確執も確かにあったが、訓練部隊として苦楽を共にしてきた“仲間”が、今後も同じ部隊で切磋琢磨していける。
何よりも白銀の傍に居られる。
そして、その位置を確実にするためには何をしなくてはならないか。


抑々A-00中隊は、正式名称も“概念実証試験中隊”なのである。
言葉通り、所謂テスト部隊と言うシロモノ。
特殊潜行部隊と付いて“実戦”を標榜しているA-01とは、同じA-0大隊でありながらその趣は全く異なる。
そしてそのメンバーは、単騎世界最高戦力と言われプラチナ・コードの実行者でXM3の基礎概念を作った部隊長や、それを作成しユーコンのブルーフラッグ戦ではF-22EMDまで撃墜してしまった顧問、そしてそのXFJを成功に導いた立役者から、片や教導では富士教導隊でも折り紙つきのエキスパートと言われた副部隊長、更に単騎に依るBETA殲滅数のレコードホルダーなど、世界的な二つ名持ちばかり、錚々たるエースが揃っているのは間違いない事なのよね。

そこに訓練部隊を卒業したばかりの207Bが、仮配属ながら編入されているのは、初期からXM3馴致という環境の特殊性故で間違っても自らの実力ではない、とハッキリ自認している。


だがそう考えると、A-00と言う環境は、逆に極めて恵まれた環境でもあった。
帰国後すぐに特務に付いている白銀や鑑は多忙で既に同じ訓練には参加しないが、教官は付きっきりで教練をしてくださった。
A-01部隊の先任は勿論、更には篁大尉も、後にはリハビリの一環としてシミュレータを始めたビャーチェノワ少尉やシェスチナ少尉にも模擬戦を行なって頂いた。
年齢とかだけではない、私達が安穏のうのうと学生や訓練生を続けていた時、過酷な実戦に身を置きそして生き抜いてきた偉大な先任達。
模擬戦で負けるのは当然、負けることすら嬉しい、そんな気持ちさえ在った。
負けることは学べること、自分の足りないことを気づかせてくれること。
それらを貪欲に飲み込み、咀嚼し、理解していくその毎日。


更に試01式を手にした翌日には、教導モードやアグレッサーモードだけでは飽きたらず、白銀にも内緒、譴責覚悟で御子神大佐に迄依願に赴いたのだ。

その私たちの願いを怒るどころか面白いこと考えるな、と2つ返事で快諾してくれた大佐は、白銀語で言えばマジにチートだったけど。

大佐が私達5人に作ってくれたのは、例の“銀河作戦”追体験時に使った仮想現実[VR]シミュレータ:“VRS”による模擬戦闘システムだった。
映像や音を合成するのではなく、感覚を齎す電気信号そのものを合成する。
これにより再現される感覚は、リアルそのもの。
その上で、御子神大佐はシミュレータやJIVESに登録されているCASEシチュエーションを、全てVRSに“翻訳”してしまった。

そのリアリティは、構成された銀河作戦からも解るように、今回のJIVES以上。
BETAが炭素装甲を喰い破る映像[●●]ではなく、BETAに自分の手足が喰いちぎられる感触も感覚[●●●●●]も忠実に再現出来るのだ。
当然ショック症状を引き起こしかねないので、バイタルをフィードバックしながら痛覚は抑制しているが、自分の脚や腕が喰い千切られる感触と映像は、正直グロである、スプラッターである。
けれど、現実の敗北では当然そういうエンド、それがBETAと戦うということであった。

そして、このシステムの最大の特徴は、仮想現実の再現速度を加速させ、現実時間よりも早い速度で展開出来ること。
つまり、倍速や3倍速で訓練が実行できるということは、同じ時間で人の3倍訓練できるということに他ならない。

単純に技術的には10倍速も可能だが、受動だけではなく能動も行うと言うことで3倍以上は脳神経系に対する負荷が高すぎるらしく、封印。
尚且つ脳の反応速度が落ちたら即強制終了と言うセーフティも付けられて、お願いしたその日の夜には手元に届いた。

それ以来訓練が終わっても、ベッドに入って仮想現実に入り込んでいたのだ。
リンクすれば対人戦も、小隊単位の作戦行動も実施できる。
集中力が切れて、そのまま眠りに入ってしまうのが、此処のところの通例だった。



そんな無茶振りの成果なのか、今日の初JIVES演習でも今更BETAに慄いたりはしない。
リアリティで言えばJIVESよりVRSの方が圧倒的に怖い。あの歯に筋肉や骨が断たれる感触まで知っているのだ。
勿論、そんな補助を借りたって所詮即席の三夜漬け、圧倒的に戦術機の搭乗時間が足りない私達では神宮司大尉や、白銀の指示に従うだけで精一杯であった。
それでも最低限のオーダーは熟せた、と思っている。
全体に貢献できたとはとても言えるレベルではないが、自らのノルマを果たすことで、全体の目標に到達したという達成感。

それを積み重ねることでしか、白銀の傍に居るすべはないのだから。







・・・・それにしても・・・。

冷たげな夜風で、高揚した意識も漸く覚まされたのか、代わりにいくつかの疑問が浮かんでくる。

―――ま、どうせNeed to know、今の私には考えた所で意味は無いけど。


そう、思いを馳せた時、ギギッと小さな音がした。
振り向けば、トクンと何かが胸の奥で弾ける。
そこにはLEDのカンテラの明かりの中、白銀が少し驚いた顔で立っていた。




「・・・消灯時間は過ぎているが?」

「・・・それは上官としてのお言葉ですか?」

「・・・プライベートで構わないさ。眠れないのか?」


砕けた口調にフワリと雰囲気が軽くなる。


「・・・ええ。一応これでもJIVES初陣なの。
まだまだだって事は、自分でも解っているつもりよ。
消灯時間もわかってる・・・学生じゃないから、明日に支障を来すようなバカはしないわ。」

「そういうとこ、委員長はシッカリしてるもんな。
うん、それに初めてのJIVESにしては、驚異的だってまりもちゃんが言ってたぞ。」

「・・・・え?」

「今日のオーダーは、半分出来れば合格レベル、70%で上出来だったらしい。
それを皆はほぼ100%、完遂したからな。
・・・・オレも凄いと思った。
斯衛の新人ですら初陣はビビったBETAを、ものともしなかったもんな。」


ストレートな賛辞に顔が熱くなる。
月が出てなくて良かった。


「・・・そう言う白銀は、悩み事?」

「・・・・・。」

「・・・・・・・本当はね、色々聞きたいこと、在った。
――例えば、“森羅”の声は、電子的加工がしてあったけど間違いなく彼女[●●]の声だったし、戦闘中ずっと遠景で姿が見えていた煌武院悠陽“殿下”は、どう見てもあの娘[●●●]だった。」

「 !! 」

「まだ仮配属で任官もしてないし、褒められて素直に嬉しいけど、まだまだ自分の事に精一杯で、茜達のレベルにも届いていないのは自分たちがよく知っている。」

「・・・・。」

「それでも白銀が悩んいることを共有もできないで、Need to knowの一言で納得しなきゃいけないのが一番不甲斐ないわ。」




今回の遠征は当初XM3初期導入効果実戦検証という名目で、中隊長である〈Garm-01〉神宮司大尉以下、ガルム隊に〈Garm-02〉[]〈Garm-03〉[彩峰]〈Garm-04〉[鎧衣]の3名、
対BETA戦術支援システム、及び、新型炸薬弾の実戦検証として、大隊長でもある〈Thor-01〉白銀少佐以下、ソール隊に〈Thor -02〉[]〈Thor -03〉[御剣]〈Thor -04〉[珠瀬]の3名が付くことに成っていた。
〈Fenrir-01〉篁大尉と〈Lopt-01〉御子神大佐は、個別に効果検証する必要のある試作運用装備があり、単独、且つコールサインも別々であった。

それが木曜の夜、白銀少佐と鑑が先発する段になって慌ただしく編成が変更された。
〈Thor-02〉〈Thor-03〉のコールサインが事実上の欠員と成り、鑑は白銀の複座に、御剣は極秘特務として完全に別行動、極秘任務の内容すら知らされなかった。
御子神大佐が遠征から外れ、代わりに今回は参加を見送るはずだった“紅の姉妹[スカーレットツイン]”ビャーチェノワ少尉とシェスチナ少尉が、なんとブルーフラッグ戦でF-22EMDを撃墜したXFJ Evolution4御子神機に騎乗して〈Fenrir-02〉として参加することになった。
彼女らは元所属したユーコン基地でのテロの時に身体を毀していたらしいが、横浜基地でのリハビリが予想外に効果を発揮し衛士復帰することになった。
回復に伴い私達との模擬戦も行われたシミュレーションに於いて、弐型に必要とする機動適性が極めて高かった事により実際に搭乗した所、2人別々の模擬戦では篁大尉に敵わなかったが、初めての機体にも拘わらず複座でならばほぼ互角に渡り合ったのだ。
調子が戻ったのなら、世界でも名の知れた衛士であるその腕を休ませておく余裕はない。本人たちの早く実戦の勘を取り戻したいと言うたっての希望もあり、御子神大佐不在で操縦者が居なくなるXFJ Evolution4に搭乗して同行している。
更にワケあり御剣を警護していた帝国斯衛軍第19独立警護小隊を一時的にA-00中隊所属とし、〈Freja-01〉月詠真那中尉を小隊長とする〈Freja-02〉[神代 巽 少尉]〈Freja-03〉[巴 雪乃少尉]〈Freja-04〉[戎 美凪少尉]が参加することとなり、木曜の深夜には白銀・鑑と共に先発した。
結果としてA-00中隊は、ソール隊2機3名、ガルム隊4名、フェンリア隊2機3名、フレイア隊4名の正規規模と成ったが、小隊毎に目的の異なるバラバラな布陣での遠征だった。

鑑が“森羅”のオペレータで在ることはいい。
元々の目的にも入っている。
特殊技能持ちと聞いていたから、適性が高かったのだろう。
基本、情報提供だけであり、決して命令はせず、具体的な行動は各部隊の指揮官やCPにまかせているのだが、その正確無比な情報が齎す効果は実際絶大であった。
海中を進むBETAの現在位置のみならず、その行動も予測し、光線属種の上陸位置と時刻まで次々と言い当てた。
これが鑑の特殊技能なら、極めて重要な役割、と言った神宮司大尉の言葉も理解できる。
だとすれば、仮配属なんかには言えない最重要事項だろうし、ここで軽々しく名前を言うことも憚られる。


そして、今の白銀の態度。

横浜基地で上官面してる時は、もう少しポーカーフェイスも出来ていたと思うけど、無防備なのは相手が私だから、と自惚れてもいいのかしら。
半分はカマをかけたんだけど・・・。


「・・・・ま、委員長には隠し切れないのは、仕方ないか・・・。」


肯定――。

けど、本当にあの娘があそこに居る、ということは、あの御方に何かあった[●●●●●]、と言うこと。


となると問題は2つ、ね。


ひとつはあの御方の不具合とはなにか。
恐らくは白銀の悩み事とはそれだろう。
しかも悩んでいるということは、現在進行形なのだ。
それが病気や怪我なら、心配することはあっても悩むことは無い。
甚だ不敬だが、もし既に亡くなっている状態なら心配さえせず悼むことしか出来ない。
悩むのは、判らないから悩むのであり、演習に参加できない状況に在りながら悩むという事は・・・・拐取・・・ね。

抑々、こんな時期に態々新潟で斯衛まで引っ張りだして、実弾合同演習っていうのも唐突だったわ。
事実上殆どの実権を簒奪されているお立場。
ウチの父とも折り合いが悪いと噂だし・・・。
それでも斯衛は殿下派だし、帝国軍も海軍や元陸軍なんかは崇敬している節はあるけど、象徴的な意味が強い筈。
その殿下がいきなり師団規模で実弾演習って、一瞬だけどクーデター? って思ってしまったのも確か。

そのタイミングで殿下が拐取されたとなると、その阻止工作?


そしてもうひとつは、そんな事態に陥りながら、中止されることなく不具合を隠蔽してまで、強行されたこの演習・・・。
御子神大佐を除いて、A-00の持てる戦力を全てつぎ込んでいる、とも見える。

実際此処ではクーデターなど微塵も感じないし、寧ろ対BETA戦術として有効な装備の実戦検証は粛々と進んでいる。
斯衛に取っても、帝国軍にとっても、そして国連軍にとっても新人を鍛える上で極めて有意義な演習。


だからといって、あの御方を見捨ててまで挙行するその意図は、クーデターでないとすれば・・・・・!!


背筋を悪寒が疾走る。

・・・まさかっ・・・!?







「白銀・・・、アンタは正規の立場上プライベートだって自分から口には出来ないと思うから、私の独り言くらい聞いてくれる?」

「・・・・ああ。」

「今回、実戦証明をしている“森羅”、あの凄まじい探知能力を前提としてJIVESを実施している・・・ってことは、現実[●●]でも同じ事が出来るって事。
――それが佐渡島にも及んでいるとすれば、止事無き事情[●●●●●●]にも拘わらず、この演習を強行した理由も理解できる――。」

「 !! 」

「でも、正直言うわ。
初めに何も知らない私がこの演習の事を聞いて思ったのは、殿下は遂に事を起こす[●●●●●]の?、って事よ。
それくらい、今回の事は唐突だった・・・・。」

「え――――、あっ!!!!」

「私は状況も知らない、背景も知らない。
部外者だから全然的はずれかもしれないけど、部外者故に内情を知っている人とは、違う感覚で見ることも出来る。
―――あの御方が、唯一逆らえない存在[●●●●●●●●]が絡んでる、という事も有り得ると思うわ―――っっ!!」


いきなり抱きしめられたッ!!

すこし汗臭い白銀の匂いと、女性とは違う硬い筋肉の感触に心臓が跳ね上がる。


「・・・凄ェよ、委員長ッ・・・、最高だ!」


耳元で囁かれ、恥ずかしくて突き飛ばしそうに成った抵抗を、すんでのところで止めた。
耳朶に絡む白銀の息に背筋までゾクゾクさせられて痺れた、と言うのもあるが。
・・・・うん、これは役得だ。
ドキドキしながらもそっと身体を柔らかくし、意識的に擦り付き、頬を寄せる。
胸が当たってたって構わない、・・・寧ろ擦り付けたほうが効果的かしら?


「ッ!!、ごめんっ!、いきなりっ!」


・・・・・・チッ!


「・・気にしないわ。」

「ごめん、委員長、ちょっと出かけてくる。―――ホント有難う、すっげぇ感謝してる!」

「・・・・じゃあ、ご褒美は後日って事で了承しとくわね。」

「え?、あ、うん、判った。ホント、サンキューな!!」


駆けていく後ろ姿に手を振りながら見送る。
言質は取った。
ご褒美をもらうためにも、先ずは生き残ることね。


暫し後、駐機スペースから離れ、蒼い炎を残して飛び去るXFJ Evolution4を見送ってから私も踵を返した。


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