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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/02/03 21:19
'13,04,18 upload  ※遅延謝罪・冗長注意 ・・・文才の無さは今更です
'13,02,03 誤字修正


Side 純夏


彼方くんの移民船“蠱毒”疑惑に、よっぽどわたしは蒼い顔してたらしい。
だってあり得る未来の一つとしてそれが事実だと知っているわたしには、そんな裏が在ることが衝撃的。
タケルちゃんが気づいて、手を握ってくれた。
・・・そこに存在する温もりに安堵する。
あんな目に遭うのはわたしだけで十分、大事なタケルちゃんをあの状況にするわけにはいかない。

彼方くんもそんなわたしに気付き、少しバツの悪そうな顔をした。
寧ろわたしの様子から、移民計画が本当にヤバいと言うことが判ったのだろう。



「・・・とは言え、移民計画は当面置いておくしか無いが・・・。
創造主は、力押しのBETAを全面に置きながら、何らかの傀儡級を作り、“目的”を回収する対象の生物を追い込み、“力”が発現しやすいように誘導している、と言うことか・・・」


漸く斑鳩中佐が自分を納得させるように言う。


「創造主は炭素系生物を生命体として認めていない、と上位存在は言っているが、その反面何らかの防衛反応をしてくることは想定している。
傀儡級の有無に拘わらず、BETAにも“災害”に対する“対処”が組み込まれているわけで、創造主が最初から動かない岩石だけを対象としていないことは、明白。

なにせ探索範囲はこの広大な“全宇宙”。
その中には、人類のようにBETAにとっての“重大災害”を引き起こす対象もいれば、更に科学技術が発達し、あるいは強力なPK等の超常能力を有していて、もっと激しい“甚大災害”や“激甚災害”を引き起こし、BETA如き容易く駆逐する力を持った対象だって在るかも知れない。

それでいて、圧倒的な技術力を背景に一方的に殲滅しても、“目的”は得られず、何の意味もない。
その為に必要なのが・・・・。」

「・・・諜報活動、と言うわけですな。」


間髪入れず鎧衣課長が返した。


「・・・どんなレベルで、何が出てくるか判らない“対象”に対応し、“目的”を最大限得られる状況に追い込むには、対象の内情を何も知らず闇雲に侵攻するなど非合理。
当然相手を綿密に調べ、そして戦略を決めるのが常道・・・と言う事ですかな。」

「・・・人間だって戦争であれ、政争であれ同じこと、ですか。
情報を制したものが闘争を制するのは、古今東西変わらない真理。
細菌から有効物質を抽出するためには、まずその可能性を確認し、効率的に回収する手法を模索し、誘導体[ベクター]を用いてコンディションを整え、そして抽出する様に・・・。
それが最も合理的で、効率が高い、と言う事になりますね。」


鎧衣課長と斑鳩中佐の言葉に、彼方くんは黙って頷く。


「・・・・・・・・・君の言う理屈は重々解る。・・・だがしかし、本当にそんな存在が実在するのか?」

「じゃあ、ちょっと考えてみてくれ。」


続く榊首相の問に、彼方くんは、質問で返す。


「・・・BETAの喀什落着最初期、ヤツラの戦略と言えばとにかく物量だけ。
当時は飛び道具も持たず、特殊な能力を持つわけでもない。

月面基地[ルナベース]で苦戦したとは言え、月での人類側は補給体勢さえままらなず、一方のBETAは無酸素で動けるアドバンテージが大きかった。
逆に補給を気にせず戦える地表では、対等どころか誰も苦戦するなど思わなかったわけだ。

其れなのに、開けてみれば何故かBETA優位に状況は推移した。

気がつけば今、ユーラシアをほぼ丸ごと占拠され、世界人口の8割以上を喪い、人類はあと10年とさえ言われている。


―――何が起きた?

こうしてみるとこの30年のBETA大戦。
余りにもBETAに都合よく侵攻が進んでいると思わないか?」

「「「・・・・・。」」」

「・・・一例を挙げれば、本格的な侵攻の始まったオリジナルハイヴの落着・1973年から、第4計画が開始される1995年までの22年間、人類は世界人口の半分とユーラシア大陸の大部分を喪った。
その22年間、世界を護る事を主導すべき国連の主要な計画が、実質オルタネイティヴ3だけ。
1981年に漸くバンクーバー協定発効したって実質変化なし。
目的、費やした年月・費用、人命、そして得られた成果、・・・少なくとも人類の取るべき戦略として、余りにもおかしくないか?
計画を主導したソ連に至っては自国の領土をほぼ失い、自国民の9割以上が喰い散らされる中で、計画の目的が“コミュニケーション”だぜ?」

「ムウ・・・」

「・・・既に過去の事だし、確かに忘れ形見として稀有の才能も生み出したから、全否定はしない。
それでも、もう少し遣り様があるだろう?
客観的に見れば、何者かにミスリードされて居たようにしか、思えない。
・・・・その“コミュニケーション”を利用してBETA技術の鹵獲が可能だ、とか言われてな。」

「「 !!! 」」

「・・・その事を含め、実際BETAの侵攻は最初から出来すぎなんだ。

まず、オリジナルハイヴの落着地点が、これ以上無いってくらい絶妙[●●]

共産主義国家間の国境付近で、世界の紛争地域である、アフガニスタン、カシミール地方にも隣接し、その先にはイラン。更には当然油田地帯であるペルシャ湾。
この時点で近隣広範囲に多大な影響を及ぼす可能性が高い戦略核はまず使用できない。
内陸で海からも遠いことから、船舶による大量派兵は出来ず、更に南は昆侖、北は天山山脈、東はタクラマカン砂漠という地理的条件であり、大量陸送も極めて困難な地域。

一方では既に火星や月で得られた情報から、BETAの保有する技術が人類より高いことは伺われている。
月での戦闘を見てもBETAには戦略など有りそうに見えず、攻撃は只管物量だけだという情報。
無尽蔵に湧いてくるような物量に対し、月面基地は限られた人数でありながら、1967年から1973年に基地の放棄を決定するまで、6年半も拮抗していたんだからな。
当然、その技術を是が非でも鹵獲したい中国は、国連の支援を断って単独での攻略を敢行した。
結果的に初動が不足し、戦術核程度では破壊できない強固なハイヴ構造を早々に構築されてしまった。

月面戦争の資料の殆どが何故か消失していて検証のしようも無かったが、BETAがハイヴを拠点とすること、それを構築する速度、そしてハイヴ構造が戦術核にも耐えられる強度を有するって事すら、地球侵攻が始まるまで誰も調査せず、その認識も持って居なかったと言う事になる。
実際今以て月にあるハイヴの数や規模すら判っていない。
実質的に月面基地を奪われ、相手を“敵対的”、と位置づけながらあまりにも迂闊。
オルタ1やオルタ2が在ったにも拘らず、BETAそのものの構造やコミュニケーションに興味が向いていて、BETA全体の取る戦略という意味での調査が圧倒的に不足しているとしか思えない。

それでも中国は頑なにハイヴの単独撃破を狙ったが、遂には航空戦力に対応した光線属種の出現により、制空権どころか、戦略核を含む航空兵器全てを完全に封殺されてしまった。」

「「「・・・・・。」」」

「・・・ああ、ついでに言えば、BETAが落着した1973年は、推定だが世界人口が丁度50億人に達した年、だそうだ。

これらを考えると、月での膠着、地球へ侵攻したタイミング、場所、全てが一つの戦略に見えるのは俺だけか?。

・・・課長は諜報のエキスパートとして、どう思う?」


指名された鎧衣課長は苦渋を滲ませる。


「・・・・・・・・・・相手はBETA故、情報戦など無いと頭から否定していて、今の今まで思い至らなかったのが正に汗顔の窮み。
言われてみれば情報戦として見た場合、人類側の対応は余りにもお粗末で、逆にBETA側は当時の地球の国際関係、社会情勢や地理的条件まで鑑み、落着時期、落着位置、その後の侵攻に至る戦略構築していた、と言われてもおかしくないですな。
創造主の使う数字が十進数とは限りませんが、先の香月博士の試算による10億分の1と言う確率と、逆に地球上で100億に達すれば人類的にも人口過剰と考えられる状況から言えば、5という数字は得られる目的の期待値として妥当。
それすらも地球の面積規模や食料生産能力から人口が飽和するポイントがBETA側に事前に知れていたと言う事に他なりますまい。
そのスレッショルドに達するのを予測した上で、侵攻を開始した、と言っても過言ではない。

落着前の情報戦で初手を完全にミスリードされた中国は、その失地挽回もあり、その後も中国は同じ共産主義国家であるソ連とだけ組み、圧倒的優位な立ち位置での第3計画による異星種との交流という“夢”をみて、ただ波状攻撃を仕掛けるのみ。
元々中国共産党の上層部は面子を重んじる国民性故、今更国連、ひいては米国に出しゃばられる訳には行かなかったでしょうから・・・。」

「―――そこを突かれて結局BETAにその基本戦略である“物量”を揃えるだけの、時間と再利用[●●●]できる“資源”を与えてしまった。
さっき武が言ったように“資源”は兵士級に再利用と上位存在は言ったが、それ以外に使っていないとは言っていない。
とすれば同じ“素材”、その時主に生産しているBETAにも使っていた可能性は高い。

元々BETAの個体自体それほど優秀とは思えないが、その最大の脅威は物量、故に最大の弱点は落着直後、最初期に於ける物量の少なさだろう。
喀什での落着映像を見ると、その後のアサバスカと違いユニット3基が同時に降りてきている様に見える。これも最初期の物量不足を補い、確実にハイヴを構築する戦術だと言える。

そして次にBETAは、そのアサバスカに2つ目の落着ユニットを降下させた。

当然喀什の轍を踏みたくない米国は喉元にハイヴを建設される恐怖もあって、光線属種の出現は愚かハイヴの建設さえさせない最初期に戦略核まで持ち出して徹底的に潰した。
その過剰とも言える攻撃でカナダの半分を喪ったが、ハイヴ建設を阻止した事で国際的な非難はそれほど多くない。

だが一方、そこで米国にBETA技術が鹵獲されてしまったことが、中国とソ連をいよいよ退けなくした。
言い方は悪いが、ソ連と中国の中央にとって、地方の少数民族は寧ろ減って欲しかったりする存在だったからな。
その結果行われた焦土作戦と人海戦術は、結局ユーラシアのBETAに膨大な物量を備えさせる結果になり、ジワジワと人類が圧迫される今の状況の礎を完成させてしまった・・・・。」

「「・・・・。」」


展開される彼方くんの指摘に、皆沈黙してる。
アサバスカに落着させ殲滅されたユニットさえ、一種“撒き餌”だと言われてしまうと、軍事戦略なんか森羅の知識でしか知らないわたしだって驚く。
米国がBETA技術を独占しちゃった事で、中国ソ連の態度が硬直したのも確実だろうし。


「・・・そう言う観点で見ると、BETAのその後の侵攻進路も極めて戦略的に見えてくる、と言うか実際極めて有効な戦略なのですな。」


そう継いだ鎧衣課長の声は、諦観さえ滲んでいた。


「・・・かの地は南北を山脈、東を砂漠に囲まれているとは言え、BETAにとって東の砂漠如きは何でもないはず。
なのに在ろうことかBETAは西進してソ連領内でも中央と仲の悪いイスラム民族地域を横断。動きの悪いソ連軍を尻目に瞬く間に壊滅させ、カスピ海まで抜けた。
これが喀什から早々に北進し一気にロシアを含めた中央に及べば、危機感を感じたソ連軍の対応も全く違っていた可能性がある。
それを避けるようにカスピ海辺りに次のハイヴを建設したかと思えば、そのまま北進し、測った様[●●●●]に東欧諸国かソ連領でありながら、微妙に“ロシア”ではない地域のみを主に蹂躙している。

実際カスピ海南端のイラン領マシュハドハイヴを除けば、フィンランドのロヴァニエミにHv-8が建設される1981年まで、建設されたハイヴはみなソ連領内に存在する。
その間、BETAの技術鹵獲を諦めきれないソ連は少数民族を犠牲にしつつ第3計画に固執し、西側諸国は当初手出しが出来ず、結果、時間と資源を蓄えたBETAの物量に、一気にヨーロッパを含むユーラシア全域を喪うに至った・・・・。」

「ムウ―――!」

「・・・・・大国間の確執や覇権、それに絡むBETA技術の鹵獲と言う要素は、さほど示唆しなくとも、つまりは“傀儡級”等が存在しなくても同じ様に推移する可能性は高いとも思う。
・・・だが、改めて侵攻初期に“BETA”の取った“戦略”を考えると、ユニット落着前には人類の情報が完全に漏洩していた、と言わざるを得んな。
そしてその情報は・・・・最早人類でなければ判じ得ない内容で在ることは疑いの余地もない。」


紅蓮閣下[ししょう]は唸り、榊首相の呟きが自嘲じみて聞こえる。
確かに全部状況証拠だし、確証もなく、証明も難しい。
だから彼方くんは仮説と言うけど、これだけ示されちゃうと、否定なんか出来ないよ。


「・・・・・何れにしろ何らかの形で“傀儡級”が存在する可能性が非常に高い、と言うことですね・・・。」

「・・・・勝てるのか、そんな相手に・・・?」

「「「・・・・。」」」


うぅ~、空気が重い。
ラザフォード機関で重力が増したみたいだよ。
ループしているわたし達も経験したこと無いって言うのか、実は今までも在ったんだろうけど、ずっと表に出なかった驚愕の事実にタケルちゃんも黙っちゃうし、正直居た堪れない。


「・・・でも、彼方く・!、失礼しました、御子神大佐は何らかのアイデアをお持ちなのですよね?」

「・・・此処では何時もどおりで良いよ、鑑。・・・なんでそう思う?」


穏やかな言い方に安心する。
やっぱり、いつも通りの彼方くんに戻っている。


「・・・彼方くんなら、今夜から遠征って時に、士気を挫く事を言いそうに無いって言うか、・・・それこそ合理的で必要があるからこそ明かしたんじゃないかな、って思う。
それに、此処数日、密かに煤けてたけど、今はそんな風に見えないし。」

「・・・嫁のが鋭くなったぞ、武。」

「・・うっせ、センシングとマルチタスクは純夏の十八番だ。オレは一衛士でしか無い。」

「・・・なんだかんだ言ってもこの考察さえ全てその一衛士が得た創造主の情報に基づくものだ。
お前がその情報を齎してくれなかったら、更に泥沼。
もっと偉そうにしてていもいいんだぜ?」

「・・・そう言われればそうなんだが、そんな事はしない・・・って言うより、確かに余裕だな、彼方。」

「・・・余裕なんか無いが、気にしても仕方ない、ってとこかな。」


軽い冗談の応酬に漸く場が少し和らいだ。
そして彼方くんは皆を見回す。


「実際、俺の仮説は、今、人類の置かれている状況を何か変えたか?」

「・・・・あ・・。」


そう言われれば、そうだ。
何も変わっていない。
彼方くんの仮説は、隠されていた可能性を露わにしただけ。
今まで居なかった敵を増やしたわけではなく、隠れていた敵の存在を予測しただけなのだ。


「・・・俺に取っては、“知る事”よりも、“知らない事” の方が恐怖なんだよ。
知らなければ、想定外の事態が発生したときに、戸惑い、対処が遅れる。
けれど知っていれば、何故そんな事態が起きたのか予想が出来、それに対し何をすればいいのか、即座に行動に移れる。
だから、鑑の言うように、この土壇場になって悪い情報でも流した。
首相や課長も言うように、“傀儡級”の有無に拘らず襲撃の可能性が高いしな。
BETA以外の攻撃もあり得る、と思っていれば、警戒もするし対応もできるだろう。」

「・・・・フム、成程な。・・・・・なら・・・もう仮説で構わん、お前の想定を全部話せ。」

「・・・・・・・・了解。」


空気が軽くなり、開き直った様な斑鳩中佐の言葉に、彼方くんは肩を竦めてみせた。


Sideout




Side 武


「・・・と言われても、もう殆ど話したんだけどな。」


彼方の語り口は、軽い。
オレを含めて開き直った感のある皆。
純夏の言葉が重圧感を払拭してくれた。


「・・・先刻チラッと話した様に、ユニット落着前後にBETAが取った出来過ぎ戦略を考えると、BETAには“目的遂行”を担当する上位存在より上、謂わば戦域司令の存在が予想される。

月のハイヴ規模が今一不明なので微妙だが、それでも火星最大のマーズ0:フェイズ9より大きいことは無いだろう。
実はタイタンにもハイヴが存在するとの断片情報も横浜ハイヴのクラッキングで得ているが、それ以上の情報が何も無いから確証はないんだけどな・・・・、そこは恐らく外宇宙用の光速に近い移送システムの中継基地、って言う所だと予想している。
太陽系最外殻に近く且つ重い惑星であれば、重力カタパルトで少しでも初期加速を稼げそうだし、地球は勿論、月や火星にも長距離輸送用の構造物が見当たらなからな。ハイヴの打ち上げる移送ユニットで数十億光年を跳躍していける、とは到底思えないのでな。
BETAがワープやハイハードライヴみたいな空間跳躍技術を得ているとしても、それが空間干渉するものである以上、空間に影響を与える恒星質量圏のような大質量近辺での跳躍は避けるだろう。

その辺を考慮すれば、火星のマーズ0が太陽系最大のハイヴであり、恐らくはそこに居る反応炉が恒星系司令、・・・そうだな、敢えて名前をつけるとしたら、差詰め星系統括[スキマー]級と言ったところか。
・・まあ、防衛戦略上全く別の場所に引き篭っている可能性も無いわけじゃ無いけどな。」

「マーズ0の反応炉が星系統括[スキマー]級か・・・。」


斑鳩中佐の相槌に、皆も頷く。
“傀儡級”が彼方の言った様な存在であるとすれば、その上位があの出来の悪い初期のAIとしか思えなかった重頭脳級ではしっくり来ない。
かと言って、重頭脳級が“傀儡級”の指令で動いているとも思えない。


「で、星系統括[スキマー]級・・・もう、めんどうだからマーズ0と呼ぶけど・・・マーズ0は推定フェイズ9、俺の試算じゃその体積規模から言って、150年位前に落着したと見積もっている。

穿った見方をすれば、人類側の第1種接近遭遇より前に、探索端末を地球に飛ばして対象探査とかサンプル摂取[キャトルミューティレーション]とかを繰り返していた・・・、とも考えられるが、火星でも月でもその手のBETA由来飛行物体は一度も確認されていないから、これは流石にちょっと無理な妄想だな。

・・・けれど、BETAが炭素系生命体を擁する地球に注目していたのは確実で、何らかの調査を継続していたとは思われる。

ただ実際には人類とBETAの接触した、1958年のヴァイキング、それがトリガーになって、その時点からBETAは人類に対する本格的な侵略を始める。」

「・・・・それは、どういう事なのだ?」


トモ姉の疑問も当然、それはBETAが“待っていた”と言う事なのか?


「・・・“目的”に対する調査は、創造主が数億年規模で行っていると予想できる。
“変化する力”、それを発現する生物の特徴、反応レベル、サンプル数や発現確率、それらを把握していると考えれば、対象とする生物がそのレベルに達するのを待っていた、と言う事。
なにせ、創造主の時間スケールが違いすぎるんだ。
少なくとも数十億年存在していると考えられる創造主に対して、炭素系生命体の“旬”は極めて短い可能性がある。
100年前なら人口が少ないし、100年後なら・・・そうだな、例えば人類は今のレベルのまま、恐竜の様に今後数億年、維持発展していけると思うか?」

「あ・・・・。」


そうか・・・。
彼方の言葉に考えてしまう。
この世界は元より人類は滅亡の危機に瀕している。
一方でオレの“本体”は、この世界の純夏が再構築した“元の世界”に戻った。
引換にこの彼方が居るのだから確実なんだろう。
だが、元の世界にも問題が何も無いわけではない。
環境問題、人口問題、エネルギー問題。トリレンマと言われる人類の未来への重大な課題。
確かに還ったオレの世代、その子どもの世代位までは大丈夫かもしれない。
しかし、その孫は? ひ孫は? そして1000年後は? と聞かれると途端に答えに詰まる。
果たしてBETAが来なかった元の世界でさえ、彼方の言う数億年、人類は繁栄し続けることが出来るのだろうか。


「・・・可能性が無いわけじゃないが、炭素系生物は変化が激しい故移ろいやすいのも確か。
その儚さを理解しているから、BETAは“旬”を待っていたんだろう。
マーズ0の出来た150年、・・・下手するともっと長い時間。

そして資源回収を始める一つの条件閾値[スレッショルド]として、“他惑星への移動体製作”と言う項目を設定したとしてもおかしくはない。
それは、対象とする生物が、ある一定レベルに達したと言うサイン。

火星調査船による接触、その時点で漸く人類は創造主の目的“候補”として、BETAに認められた、と言うことさ。」

「・・・。」

「何れにしろ、その時から人類は異星種であるBETA、まあ当時はBETAではなかったが、マーズ0に興味を持たれた。
まずは月に前線基地を作る。
そこでサンプルを捕獲し、目的獲得の可能性を判断、可なら侵攻戦略を組み立てる。

実際1967年早々にはサクロボスコ事件が起き、BETAは対象生物の“被験体”を得たわけだ。
そこでBETAは人類を最終的に“対象資源”として認定した。

尤もその時に鹵獲した人類知識だけでは、喀什ユニット落着時の戦略が組まれたとも思えないので、第1次月面戦争を通して効率のよい資源回収の為に情報収集を兼ねて秘密裏にサンプルを集めた、と考えるのが妥当。
その時のサンプルの中から、BETA由来の“BITA”、ぶっちゃけ、“傀儡級”が作られたと推測している。
流石にどんな手法であれ直接接触無しで傀儡化するのは難易度が高いだろう。

その具体的な人数など知り様も無いが、最低でも一人。
人類の情勢を分析し、侵攻タイミングや、ユニット落着位置、更に撒き餌を打つ位置とタイミング、ハイヴ構築後の侵攻方向までを、落着ユニットに規定し、プログラム化した者が居るはず。

事実、当時の記憶をひっくり返せば、現在の米国・第5計画の移民船計画責任者や、CIA長官は月面基地[プラトー1]に居た事が在るみたいだしな。」

「!! なんと!?」

「中国やソ連は調べていないが、月面基地[プラトー1]から帰国した者が軍や研究機関、政治組織の上になってもおかしくはない。
元々共産圏では、月面基地に行ける程の者は本の一握り、権力中枢に近い者だったみたいだからな。
・・・尤も九條に付いては、その事実は無いみたいだが・・・。」

「・・・・九條兼実は、プラトー1に行ったことがあるぞ。」

「・・・え?」


応えたのは巌谷中佐。


「・・・ヤツがまだ九條当主になる前は、新設された航空宇宙軍の佐官だった。
一応軍歴は在るのだよ、ヤツにも。
あれは1971年だからサクロボスコ事件の4年後だったか、帝国が機械化歩兵装甲の導入と研究開発を決定した際、実機視察の話が持ち上がった。
実際当時そのFP(Feedback Protector)が稼動していたのがプラトー1だけだったからな。

で、極秘裏の視察に数名が赴き、その中の一人が当時宇宙軍の九條兼実だった。
ほんの2週間足らずの視察だったと記憶しているが、帰国直後、報告もそこそこにヤツはいきなり除隊してしまったらしい。
で、残されたメモと写真や動画からヤツの分のレポートを密かに書かされたのは、当時斯衛に任官したばかりのオレだった・・と言う訳だ。
技術系で、敢えて斯衛軍の新任尉官を指名したのは、帝国軍内じゃ軍務放棄とも取れる醜聞が都合悪いからだろう。
航空宇宙軍の佐官、しかも“青”がご乱心ということで、記録は厳格に削除された筈。
勿論オレの手元にもその資料は何も残っていないし、当初名前も教えて貰えなかった。
相手が“青”って事で、仕方なく斯衛も協力したらしいって上司が零していたのと、その時期に除隊した“青”がヤツだけだったから判った。」

「・・・なんか、確定的だな。」


衝撃の事実に、独り言が零れた。
流石の彼方も思案顔。


「「「・・・・・。」」」

「・・・・・・誤差範囲内、彼処までカルマに振る“発現”も、まあ有りっちゃ有りか。

っと、九條の話は驚いたが、貴重な情報感謝、更なる傍証になるな、これで。

――――で、話を戻すと、鎧衣課長も言ったもう一つのトリガー、50億人という目安[スレッショルド]を以て、マーズ0は喀什落着ユニットを射出した、と俺も思う。
戦略構築含め丁度準備が整った、と偶然で済ませるには、月面基地の長期膠着が不自然だからな。

後の経緯は先刻の通り。

“創造主”の目的を獲得するための、対象を徐々に追い詰めるプロセス[●●●●●●●●●●●●●●●]に見事に乗せられた、と言うのが現在人類の置かれた状況だ。」

「「「・・・・・・・・・。」」」


永い沈黙。
けれど、今回の沈黙はそれ程重いものではなかった。
はっきり言えば、先程彼方が言ったように、なんら状況が悪化したわけではないのだから。
寧ろ今の人類が置かれている状況が、よりはっきりしただけ。
それ故、各人が彼方の仮説を元に、過去の経験に照らし合わせ、検証をしている様な雰囲気。

成程、と思う。
実際、見えない敵は脅威だ。ラプターだって、それ故に最強だった。
だが、気づいてしまえば、警戒し対処はできるのだ。


「・・・お前の言う“傀儡級”仮説の可能性が高いことも理解した。まだ納得していないがな。
確定ではないが、そんな存在が居ることを念頭に置いておいた方が良いことも確かだろう。
で、当面の対応を決めるに当たって、いくつか確認したい。」


流石に第16斯衛大隊長。もう“対処”を検討し始めたらしい。
彼方の仮説が正しければ、星系統括[スキマー]級を含むBETAの対人類戦略が大筋で見えたことになる。
そう、これは敵の強大さを知らしめた“絶望”ではなく、その“目的”を打ち破る可能性を秘めた“希望”。
だからこそ、純夏が指摘したように、彼方は第4計画の初戦とも言えるこのタイミングで明かしたのだ。
オレが辿ってきた、幾多のループ、その傍系記憶に於いて、少なくともオレが生存している時間内に人類が勝利した記憶は皆無。
桜花作戦が成功した後の分岐記憶ですら、戦況はやがて拮抗し、劣勢に追い込まれてる裡に記憶が終了する。
仮説が正しければそれも道理で、桜花作戦で打破したラスボス“上位存在”に加え、隠れボスの“傀儡級”、真ボス“創造主”の現身である“星系統括級”が元々居たわけだ。
今回は、それが初めて明らかになった、と言える。


「BETAと“傀儡級”の間に、“連携”はあるのか?」

「・・・俺の仮説見解が正しいとは限らないから検証も欲しいが、基本的に無いと考えている。
恐らく、上位存在も“傀儡級” も自律して行動するスタンドアローンタイプ。
送り出してしまえば、マーズ0は待つだけの存在。
状況が激変しない限り、次策は打ってこないと思う。
それでも地球上のハイヴが“上位存在を送り出した惑星”に向けて射出ユニットを数回打ち上げているというし、光通信と思しき光条も観測されているから、既に喪われた40億人のうち、目的候補素体はマーズ0に送られ、通信はその定時報告と取れる。情報源を他に持たない限り、マーズ0からの“指示”はないだろう。

一方“傀儡[パペット]級”はBITAというか、基本人類種。故に特殊な通信手段は持っていないと判断する。
・・・そういう意味では、パペットと言うより自律行動する“自動人形[オートマタ]”なのかも知れないな。」

「・・・何故自律行動と言い切るのですか?」


先刻までとは違う、ハリのある声の殿下。
彼方がその変わり様に微笑む。
それを理解した殿下は、平静を装いつつ、目元を赤らめ彼方を睨む。
・・・彼方のイケズ! とのセリフが聞こえそう。
此処でそれ[アイコンタクト]の応酬は如何なものか、と言いたいが、密かに純夏の手を握っていたオレが言えることじゃない。


「マーズ0が人の機微まで完全把握しているとは、思えないからさ。
星系統括であるマーズ0は戦略戦術に長け、上位存在よりも余程洗練されたAIであると推測できるけれど、それは所詮どこまで行ってもAIに過ぎない。
人の“感覚”を理解できるとは思えないから、マーズ0が直接操作すれば必ず齟齬が生じる。

抑々、BETAと人類では言語体系からして異なる。
オルタネイティヴ1も3もあれだけ苦労したんだ。
武の齎した上位存在との会話ログだって、試作00ユニットが繋げた無意識領域と高度にリンクした“オペレータ”が上位存在の意図を翻訳したからこそ日本語の会話ログになっただけで、知ってのようにBETAが人類の言語を理解しているわけがない。」

「・・・では、“傀儡級”とは、全くの人間である、と言うことですか?」

「で無ければ、人類の社会に溶け込めないだろう?
言語、歴史や背景、習慣、風習、文化なんてものは、作ろうとして作れるのもじゃない。

“傀儡級”とは飽く迄素体の記憶や知識を元に、“創造主の目的獲得に利する”という行動原理のみを強制的に植えつけられた[●●●●●●●]存在、と予測している。

だから、二重身[フルコピー]か、寄生蟲[後付け制御]洗脳[一部書き換え]であって、新作の生人形[ホムンクルス]じゃない。」

「!!・・・そうなのか? 突然触手が伸びて襲ってきたりはしないのか?」

「「 ・・・しないって。」」


突然割り込んだのは、トモ姉。
顔を見合わせた彼方と斑鳩中佐がハモった。


「・・・・御前はパラサイト[]が脳内仮想“傀儡級”か?」

「うむ・・、パラサイトと聞いた時から何故かイメージがこびり付いてな。
・・・更に怖いのがアウトブレイク[]の様な遺伝子干渉ウィルスの猖獗を起こすことだ。
自分の身体が乗っ取られ、変貌し、人類に敵対するなど考えただけでもぞっとする。」

「フム・・・・そういう意味では、俺は先祖返りの覚醒[ミトコンドリア]とかの方が嫌ですね。
汚染も侵蝕もされてもいないのに、“自分”の内部にその因子があると言われると太刀打ち出来ない。

それも彼方の仮説が正しいとすれば、“創造主”は数十億、下手すれば宇宙創世期近傍から百億年以上存在している可能性もあると言うことです。
先刻の培養と言う事で言えば、地球に炭素系生命を培養したのだって創造主かもしれない[●●●●●●●●]訳です。
上位存在は人類を“異星起源の被創造物”と呼びました。
実際、地球上に有機コロイドをぶちまけたのも、細胞内にミトコンドリアを仕込んだのも、コラーゲンをばら蒔いたのも、“創造主”である、との可能性だってあるのです。」

「「 !! 」」

「・・・兄貴、宇宙だけでなくSF好きなだけあって鋭いな。
・・・・創造主が“培養”した寒天培地の一つに“地球”があっても、確かにおかしくはない。」

「!、なんと!?」

「確かに・・・。
そして創造主が炭素系生物を、“生命体”と認めないのは、正しく自らが培養した“所有物”と考えているからという推論も成り立ちます。
尤も、生きる時間スケールが違いすぎて見做していない、という可能性もありますが。
いずれにしたって、創造主にとっての人類は、人間にとっての細菌並の認識しかないのでしょう。」


斑鳩中佐の推論に、巌谷中佐が同調する。
確かに上位存在は、人間を被創造物と言った。あの時は、被創造物であるBETAと同じ、と解釈したが、人間そのものを被創造物であると言っているとも取れる。
そして、創造主の時間スケールから言えば、それが事実であってもおかしくはない、と言うことだ。
思わず呻きが漏れる。


「っつ・・・しかし、人類の“創造主”である可能性もあるのか・・・。」

「・・・別に創造主が地球生命の起源であろうがなかろうが、関係ない。
俺の命は俺のモノであって、[創造主]のモノではない。
産み育ててくれた事に感謝すれ、殺されそうになれば抵抗する。
生命として自我を得たからには、決めるのは自分、それが生命ってものだ。」

「「「・・・・。」」」

「・・・・まあ、彼方だし・・・。」


衝撃的仮説に対し、即座に言い切る彼方は、やっぱり傍若無人? 傲岸不遜?
呆れるような皆にツッコミを入れたのは斑鳩中佐。
流石、彼方の義兄になろうっていう強者。

・・・けれど、そうなのだ。
その明確な意志に、創造主[オヤ]干渉[しんりゃく]を絶ち切ってこその“自立”、生命体の証明といえるのではないかと思ってしまう。


「―――で、話戻すと、触手やウィルス媒介やミトコンドリアDNAは取り敢えず考えなくていいと思う。
不可能ではない可能性はあるが、恐らくが創造主がそれらの手法を人類に使うことは無い。
少数に使ったところで、過剰な能力や変貌は目立ちすぎてすぐ排斥される。
かと言って全体に使うことで“目的獲得”出来るなら、抑々BETAを使う意味が無いからな。」

「・・・傀儡種が目的回収に利する、と言うのなら、継続培養して搾取する、と言う発想は無いのか?」


榊首相の問に、何かが頭に引っかかった。
培養って・・・子ども?
純夏がまた、ぎゅっと手を握って来たので、すぐその断片的な映像は消えたけど。
傍系記憶の断片に、そんな情景が在るのかもしれない。


「・・・彼方流に効率重視で創造主、乃至、星系統括級の立場で言えば、今回の収穫が“アタリ”ならば、絶滅させずに少数残し再繁殖を待つかも知れません。
バーナード星辺りが、丁度良い牧場[●●]とも邪推出来ます。
反対に“ハズレ”だった場合は、今の地球の状況でも生き残るだろう地球土着細菌からやり直しても、炭素系生命体の進化速度を考えれば7,8億年待てばいいわけですから、イモータルの創造主なら培養し直す方を選択すると考えられます。」

「・・・成程、然も有りなん、・・か。」

「・・・しかし、御子神大佐の“傀儡級”、“創造主の目的獲得に利する”という行動原理のみを植えつけられた人類種と言うのは、どの様な存在となるのだ?」

「・・・流石巌谷中佐。
・・・・実は・・この仮説の要でありながら一番曖昧なのも、その点、なんだ。」

「「「・・・・。」」」

「・・・先刻言ったように、BETAと人類では余りにも言語体系、正確には情報交換I/Fが違いすぎる。
“創造主の目的獲得に利する”と俺が言葉で言うのは簡単だけど、その言語をBETAはもたない。
そんなBETAがどうやって人類に?、と言うのが実際俺も最後まで疑問だった。

だが、武の“銀河作戦”の折り、無意識空間にある情報から“オペレータ”は上位存在の概念[●●]を言語に翻訳してみせた。

そこから類推して、“イメージ”あるいは“概念”そのもの、という極めて曖昧な形で強制的に刻み込まれたのではないか、と推測している。
こればっかりは、試してみるわけにも行かないからな。

―――で、植えつけられた行動原理の強迫概念、これが問題。

例えば、“神に殉じる”とか、・・・此処に居る人間なら“殿下に報じる”、そんな行動原理を持った人が、どんな行動をするか、と言う事。」

「・・・・・・・成程、そう云うことであるか。」

「え? どういう事ですか?」

「・・・考えてみなさい、シロガネタケル。
私も首相も、閣下や大佐、中佐、ここに居る斯衛軍・政府関係者は皆、殿下に報じようとしている。
もっと言えばあの[●●]大尉ですら同じ[●●]、なのだよ。」


鎧衣課長の納得に疑問を発すれば、すぐさま質問で返される。
だが、その例えに気がつく。


「・・・・・つまり個人によって、その概念の捉え方、そして行動の仕方が全く異なる、と言うことですか・・・。」

「そういう事だよ、シロガネタケル。
いっそ“傀儡級”が斉御司大佐が恐れるように、変貌したり触手を振り回してくれるなら、何と容易い事か。

・・・実は私は、諜報の観点から言って御子神殿の仮定する“傀儡級”にはずっと懐疑的であったのだ。
抑々コミュニケーションを取れない種族間で、“傀儡”など成立しない、そう思っていたからね。
・・だが、今御子神殿が示した方法なら符に落ちる。理解できるし、納得もするのだよ。

強度の後催眠や、洗脳の手法にも似たようなものはある。
通常は条件を限定し、行動を単純化していくが、反対に条件を広く概念化していくと、その発現が人により変わる、とも言われている。
恐らくは、“傀儡級”に植えつけられた行動原理の“脅迫概念”、これはその捉え方もそれに対する反応も各個人の資質によって大きく異なると考えられる。

・・・そういうことだね、御子神殿。」

「・・完璧。」

「・・・そして、諜報の観点から言わせてもらえば、極めて対処し難い間諜、と言う事に他ならない、のだがね。」


鎧衣課長は苦笑した。


「・・・だろうな。
概念による行動原理の強制は、その概念をどこまで理解し、どう捉えるかでその行動が変わる。
創造主の概念に神を重ね、BETAを使徒と重ねればそれに恭順する可能性もあるし、一方で神の概念が薄い人物は創造主を飛ばしてBETAに利する、と解釈するかも知れない。」

「・・・そして、そのレベルの“傀儡級”は、最悪自分が“傀儡級”であることすら知らず、深層心理にBETAの利益を優先するように強力な暗示をうけつつ、人類としての役割を粛々と熟している可能性もある、ということなのです。」

「・・・時限爆弾、いや条件により発動する論理爆弾みたいなものか・・・。」

「兄貴や御前は、そんなに心配しなくていい。
今のところだが、行動原理の強制は、継承や蔓延しないと考えている。
ある種、物理的な操作により強制的に精神を縛る手法だから、先刻のウィルスと同じく、蔓延してしまえば“目的”そのものの発現を阻害する可能性が高い。

とすれば、少なくともその処置が可能な月のハイヴ、つまり月面基地に居た事のない者、物理的に1973年に生まれていなかった世代である28歳未満には“傀儡級”は居ない。
今回遠征する斯衛軍については、問題ない。」

「・・・その分帝国軍上層部を警戒しなければならないって事だな。」


彼方と鎧衣課長が頷く。
けれど、妙に細かい年齢設定に疑問を持つ。


「・・・しかし28歳と言うのは随分若くないのか?」

「ああ、月面基地の運用規模と引揚者は一応記録にある分は調べた。
“傀儡級”候補者の具体的人数は、言ったとおり不明だが、基地の規模から言って略取され秘密裏に“傀儡級”にされた可能性がある人数は、最大でも100人を越えないとみている。
・・・これは今後課長に検証と追跡調査を頼むしかないけどな。
で、基地要員に勿論子供なんか居なかったんだが、最終的な引揚者の中に妊娠中の女性が数名いて、その内、後期の妊婦が2名と生まれた筈の子供がな、帰国後行方不明なんだ。」

「「・・・・。」」

「・・・可能性としては低いが、無いわけじゃない・・・か。」

「杞憂である可能性も高いが、・・・ちょっと引っかかるのがな。」

「!!、成程。・・・可能性は有りますな。」

「・・・当面は関わらないと思うけど、警戒と情報収集は宜しく。どうせ既に遣ってるだろうけど。」


鎧衣課長が頷く。


「とはいえ・・・色々なパターンが考えられる“発現”で、最も厄介なのが先の例とは逆に、創造主やBETAのイメージを完全に把握し、人類種のインテリジェンスを完全に有しながら創造主に組みしている、という場合。
初期の落着戦略を組み立てた人物や、第5計画の移民計画責任者、あとその28歳なんかは、かなり怪しいな。」

「・・・人類の立場、BETAの侵攻度合い、創造主の目的、それらを完全に理解した上で、どうやって人類を追い詰めるかに智謀を巡らすタイプ、ということか。」


忌々しげなトモ姉。人類に仇なす確信犯[●●●]ハラグロ、一番キライなタイプだな。







「以上・・・・・俺の仮説は、こんなところ。
あとは、如何に対処して行くか、という事さ。」


「・・・・・何れにしろ“傀儡級”は、自ら執行する[エグゼキューター]でもなく、煽動する[アジテーター]でもなく、内通する[スパイ] でもなく・・・。
正しく最初に彼方が言った通り、脅迫概念という遺伝子[情報]をを植え付けられた誘導者[ベクター]ということか・・・・。」

「・・・確かに厄介な存在が潜む可能性が見えてきたわけですね。

時に彼方、ワタクシもずっと疑問に思っている事が在るのです。
話を聞けば聞くほど、創造主は彼方の言う“目的の対象”を知性体と見ている様にしか思えないのですが、それでも創造主は炭素系生命体を“生命”と見做さないのでありましょうか?」

「・・・・最終的には創造主じゃないから、本当の所は解らないけどな、色んな意見は先刻から出てる。
人類が珪素基質の半導体を現象と見做すように、神経細胞の反応を現象と見ている、とか、自らの創造物であるから気にしていない、とか、時間スケールが違いすぎて知性の安定性が儚い、とか、な。

抑々人間だって細菌は生命体だと認識しながら、何万、何億と平気で殺す。そこに罪悪感を持つ人間なんか居ないだろう?
創造主がいい加減に伝えた可能性もあるし、上位存在がその辺誤認した可能性もある。

存在する時間も時間だが、その規模だってヘタすれば創造主はそこらの衛星クラスの大きさだって事もあり得る。
寧ろ創造主が衛星規模を有しているなら、人類が感染[●●]して繁殖[●●]し、毒素でも生産[環境破壊]すれば創造主を倒せる、かもな。
勿論、その場合の白血球はBETAだろうけどな。」

「・・・・。」


無言の殿下に彼方が一息つく。


「・・・・これから話すのは、今の馬鹿馬鹿しい空想と同じレベルの、一つの寓話。

“傀儡級”の存在よりも、更に突飛で、自分でもほんとどうしようもないと思う、空想。

・・・そのつもりで聞いてくれ。」


悠陽殿下がコクリと頷く。
ぶっ飛んだ彼方が、寓話とまで言うとは、一体何を?





「・・・・・・珪素系生命体が炭素系生命体と全く異なるプロセスで誕生した可能性については話した。
そこで思い出して欲しいのは、珪素系生命体は、果てしない再結晶化の中で、謂わば思考する領域を一番最初に形成した、と言うことだ。
勿論所謂半導体の反応が最終的に“意識”や“自我”を有するには相当の偶然と時間を要したと考えられるが、な。
そこから珪素系生命体というか上位存在の言う“生命”とはそのまま“自我を持つ思考体”、つまり知的生命体[●●●●●]のみであるってことで、炭素系生命体の有する我々が通常生命の活動とみなしている代謝を始めとする様々な機能は、すべて“現象”と言うことになる。
実際珪素系生命体には殆ど無縁の現象だしな。
つまるところ、珪素系生命体は、極めて永く、そして増殖しながらも、決してその基本の組織は変化させていない。拡張し、同質のものを刻を重ねて積み上げ発達してきた生命体、と言えるわけだ。


一方の炭素系生命は、その誕生からして、唯の化学現象だった。
それが変化し、交配し、環境にそぐわない物は容赦なく淘汰される。
常に生と死は隣り合わせであり、寧ろ死ぬことによって世代がかわり、そこに進化を生じ、変遷してきた生命。
人間だって、化学反応と生命の代謝活動は区別できないし、もっと言えば思考や意識がどのレベルに達すれば、“知的生命体”と言えるのか、明確な閾値を持っていない。

それを一括りに“現象”とするのは、珪素系生命体としては仕方ないことかもしれない。



それでもその炭素系生命体の中で、唯一“知的生命体”と言えるまでに進化した人類。
遥かな時を経た進化と淘汰、誕生と死滅、全ての“変化の果て”に、持ち得た知性。
確かに創造主の言うように、今のままでは定着しないかもしれないし、ひどく儚いかもしれない。
しかしだからこそ、死が有るからこそ短い生を懸命に生き抜き、環境に抗い、他者を乗り越えてまで進化してきた人間の知性や精神には、創造主とはまた違った物の見方が本能的に備わっている。
人類は、細菌やウィルスでも生命と呼び、例えば珪素系のAIが本当の自我を有することが出来たら、それもやがて生命と認めるだろう。
変化や違いを認め受け入れる、それを常として進化してきた人間は、本能的にというか、その発現過程からして根源的に、そんな精神構造を有している。


人類は変化を受容するからこそ、創造主を生命体と素直に認められるが、創造主は不変を常とする故に、変化の末に発現した炭素系生命体を知的生命体と見做せない、と言う推論が出来る。」

「・・・・。」

「・・・創造主が認めなくとも、人類が“知的生命体”であることは、間違いない。
科学技術的には遅れていそうだが、人類が科学技術に目覚めたのは何時だとは示せないが、例え2,000年としたって、相手は数十億存在するんだ、卑下することもない。
“知的生命体”として、どちらが優れているなどと抑々比べるまでもない。“不変”と“変化”を比べる様なナンセンスだからな。
何れの形態も、偶然と時が磨き上げた知性であり、その価値は変わらない。」

「・・・・。」

「・・・・何時の時だかな、永い永い過去の刻、と言うヤツだな。
そこで一つの齟齬が生じた。

・・・・多分、ホンの偶然、だったんだろうな。
創造主に取っては介塵の現象に過ぎない炭素系生命に、どうやって“変化する力”を見出したのか迄は知らない。
だが創造主は、何らかの偶然でその力を感知し、なぜかそれに興味を持ち、固執[●●]した。

創造主は、他の珪素系生命体の存在を認識しているから、珪素系生命体にもある程度数が存在すると考えられる。
その中で態々炭素系生命体に興味を持ったんだから、創造主は珪素系生命体でもきっと変わり者[●●●●] なんだろう。
珪素系生命体に直接弄るには難しい、基質もスケールも異なる“炭素系生命体”を扱うに当たって、抽出・操作用のBETAを作った。
丁度細菌やウィルスを直接操作出来ない人間が、ベクターや操作系の試薬を作るのと同じ感覚だろう。
だが、どうやら創造主の周囲に存在した炭素系生命体では“目的”の“変化する力”を抽出することが出来なかった。


ここで諦めれば、宇宙は平和だっただろうな。
夕呼センセの理論では、平行世界が存在するそうだから、別の世界ではそう成っている世界も在るかもしれない。


ところが、この世界の諦めきれない創造主は、それ故に、“全宇宙”に求めるため、BETAを作って放出した。」

「!!・・・」

「・・・人の有する“変化する力”が、人間の“意思”に依存することは夕呼センセも確認している。
そしてその“意思”を以て“無意識領域”と言う“根源”に繋がる力、とも予測している。
数えきれない生と死を刻んできた遺伝子、その変化の終焉で発現した人の意志、そして今も生と死の狭間にあり変化し続ける生命体、そんな存在だからこそ一つの可能性として発現する“変化する力”。
創造主は、一部の炭素系生命体にその力を発現させるプロセスや、確率を高める手法には至ったかも知れない。
けれどその力は、変化を受容し違いを認める炭素系生命体の精神故に備わる力。
それを不変を基質とする創造主には取り込めない。
“目的”を受け入れる資質を自らが得ていないのに、変化しないこと積み重ねてきた珪素系生命体がそうそう簡単に理解できるワケがない。

ある種、人が不老不死を求める様なモノかな。
不老不死とは一種の不変、変化を基本とする炭素系生命体の基質がそれを受け入れないのに、不老不死になるってことは、最早炭素系生命体の身体を捨て、人でなはないモノ[●●●●●●●●]になるってこと。
人として永遠を望みながら、人ではなくなる矛盾。


創造主自らが否定している“炭素系生命体”を生命と認め、故に有する変化を容認し肯定できなければ、それすら理解できない、っていう創造主に取っては皮肉な矛盾が存在する。

神に近いが、神ではなく、その“力”が理解出来ない故に、神になれない、みたいな。


・・・・・それが俺の考えた創造主の寓話、さ。」



「・・・・全能のパラドックス、か。」

「微妙に・・・、まあ当たらずとも同じようなニュアンスは含む、かな、それは。

尤も、それもBETAを送り出した時点の創造主の認識だから、何十億年経ったかしらないが、意識が変わって変化している可能性も否定はできないが、・・・全ては遙か遥か遠い彼方の、遭うことも無いだろう変わり者[●●●●]の寓話さ。

・・・これで満足かな、悠陽。」

「ええ。・・・本当に久方ぶりに、彼方の“寓話”を拝聴させていただきました。」

「・・・成程、“兄さま”の話は、寓話が多かったんだっけな。
ま、ものがたりの話は置いておいても、俺は一方的に生命と認めない、と理不尽に搾取されるつもりもない。」

「・・・当然です。

・・・そして彼方、それでもBETAに克つ事は可能・・・なのですね?」

「・・・今回が試金石だろう。

BETAを殲滅し、BITAの妨害を打破する。
それが出来れば、俺達は上位存在をぶっ潰し、年内に佐渡ヶ島を奪還するだけ、って事だ。」

「「「・・・・・。」」」

「元々 “BETA”の役割は、“資源”の回収者[コレクター]であり、運搬者[キャリアー]であると上位存在もはっきり言っている。
一方で基本人類種である“傀儡級”はその手段を持たない。
“傀儡級”の存在を知らない上位存在麾下のBETAは、“傀儡級”でも捕食対象でしか無いだろう。
回収者であり運搬者であるBETAが居なければ、実は“傀儡級”何も出来ない。
故に、遣ることに変化はない。
傀儡級に謀略の時間を与えない、それが最大の防御でもある。」


煌武院悠陽殿下は、居住まいを正した。





「・・・・然と承りました。

ここに、政威大将軍・煌武院悠陽として帝国斯衛軍に命令し、国連太平洋方面第11軍A-0大隊に要請致します。」


怜悧な声音に、全員がその場で臣下の礼を執る。



「・・・・・可及的速やかに上位存在を叩き、佐渡を奪還しなさい!!」

「「「「「「 はっ!! 」」」」」」


全員の覇気が承和した。

























その日、XSSTで横浜基地に戻り、遠征の準備に掛かろうとした俺達に、衝撃の知らせが舞い込んだのは、19:00を回った頃だった。





――――煌武院悠陽殿下が、帝都城から姿を消された―――、と。


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