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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/09/05 17:29
'13,04,04 upload ※自分でも何だかなぁと思う展開が気に喰わず再構築に時間ばかり過ぎてしまいました。
'13,06,16 誤字修正
'15,01,04 斑鳩閣下の名前変更
'15,09,03 誤字修正


Side 武


「・・・最終的な損失予測は、最悪で10騎と成りますか・・・。」

悠陽殿下の唇から零れたのは、そんな一言だった。


帝都浜離宮、来賓室。
今日此処に集まったのは、護衛として入り口に控える月詠さんたち従姉妹を含めて12名。
今まで見てきたシミュレーション結果に他に言葉を発する者はない。
落ち着いた部屋の雰囲気には若干そぐわないが、白壁のスクリーンに映されているのは敵性輝点が消えた新潟地方の地図画面。
現状考え得る装備に於けるコンバットシミュレーションが終了したままになっている。

その状況地図を背景に、オーバーラップしているのは今まで示された各条件違いの装備・状況に依る損耗数の一覧表だった。


殿下がその冥夜にそっくりな相貌に、微かな憂いを滲ませている。
同席している斯衛軍の総大将である紅蓮閣下や、斯衛軍第2連隊を率いて今回参戦する斉御司巴大佐=トモ姉は、その数字に一瞬一応の安堵を示したが唯の1騎さえ喪いたくないと言う殿下の願いは他も同じ、すぐさまその表情を引き締めていた。
戦場には魔物がいる。
その10騎の中に、自分の部下や自分自身が含まれてもなんら不思議はない。


「・・・最後は帝国軍との連携練度にかかっている。
此方の連携はこの1週間である程度煮詰められたが、帝国軍[あちら]は所詮モデル、本番で思惑通り動いて呉れるのかは不明確だからな。
・・・明日から行う合同JIVES演習の中でどこまで詰められるか次第、・・・だな。」

その沈黙にも彼方は相変わらず軽く斬り込むが、その数字の重さを一番判っているのもこのコンバットシミュレーションを組んだ当の本人だろう。
オレや、純夏が00ユニットから引き出した“1周目”や“2周目”の情報をリファレンスに作られたシミュレーション。そこに表されるのは、事細かに知り得なかったオレの記憶や、数字でしか示されなかった純夏の情報だけではない。
以前作って貰ったオリジナルハイブ潜入ミッション同様、いや、寧ろ今現在実在の兵士をそのままトレースしてモデル化している分、より生々しい戦況経過が再現されていた。
下手な誤魔化しや希望的観測が意味のないことであることを誰よりも知る彼方、そこに遠慮や手心などあるワケもなく考え得る限りの情報を叩き込んだ、極めて冷徹で恐らくは正確な予測結果。


「・・・すまんね。もう少し伝が在ればよかったのだが・・・。」

彼方の指摘に謝罪で応える榊首相、本来名目上でもその帝国軍サイドのTOPである。勿論現実は完全に名前だけで何の影響力も無いのは今更である。
しかも首相自身が殿下を護るために徹底した隔離を行い、世間的には寧ろ離反しているようにさえ見えるため、榊首相は親米派と見做され、上層部だけではなく帝国軍現場サイドにも忌避されているのは周知の事実。
帝国海軍や元帝国陸軍が殿下親派なのは、クーデターを起こすコトの是非は置いても、疲弊した帝国軍の共通感情に近い。
元より可能な限りの暗部を抱えての殉職を覚悟していただけに今の状況は首相にしても在り得ない程の僥倖。
僅かでも首相から参謀本部に話が通り、現場付近の警備に配されている第12師団と綿密な連携が取れれば、この数字は悠陽殿下が望む様に限りなく0に近づく。
こんなことなら少しくらいは統合参謀本部にも伝を作っておけば良かったと独りごちても後の祭りである。

だが実際に殿下に恭順する現場部隊の意志は兎も角、中央の幕僚・統合参謀本部は未だ本土防衛軍、即ち裏では利権を食い荒らしてきた国賊達の巣窟と言っても良かった。
今回の合同演習には現場サイドの意志もあり丸投げするカタチで承諾したが、現場との過度の接触は旧帝国陸軍の懐柔とも取られかねない。
彼らは彼らで水面下では首都防衛隊を煽ってクーデターを画策している途上なのだ。もし今回の演習相手が地域防衛に専念する地域参謀でなければ、合同演習も認めなかった公算が強い。合同演習を申し入れた際、何故今それが必要なのかとの疑義が出たのも確かなのだから。

しかも事前に行われた鎧衣課長の報告によれば、新潟以降に実施される大粛清に備え様々な情報が集められる中、その惨憺たる実情も明らかになっており、報告を受けた榊首相も激怒を通り越してあきれ果てたという。
一斉検挙の動きを事前に察知されれば合同演習そのものを邪魔され、斯衛との連携が取れないまま結果現地守備隊がBETAに殲滅させられる可能性が高い。そのため情報部も今はそれらの奸賊も泳がせ、動かぬ証拠集めに腐心している状況である。


他方、もし帝国軍へのXM3正規版の頒布を早めれられればV-JIVESによる連携も行えたが、この短期間での大量のCPU供給は物理的に不可能。しかもクーデターの可能性が0になった訳ではないから帝国軍全部隊への供給は躊躇われた。

結果、侵攻に先んじた地域参謀本部との接触摺り合わせが難しい状況にあるのはしょうがない。

殿下の大権奉還を以て一気呵成に逆臣を包囲殲滅する――。
その為にも新潟防衛戦では極力被害を抑えたい。だが、焦ってコトを仕損じる訳には行かないのだ。




「・・・とは言え、これとても何の策も無ければ先の彼方の予測にある通り、万に届く臣民を喪い本土の護りに穴を穿たれる所でありましょう。
それを阻む装備・献策の数々、深く、この上なく深く感謝いたします。」

漸く殿下が口元に微かな笑みを刻む。
現状では割り切らざるを得ない損耗、それでも今の最善はオレが体験してきた過去の被害に比べれば確かに桁違いなのだ。



先刻示されたシミュレーションに於いて、最初の想定はオレが体験した“1周目”の世界群、全くの不意打ちで師団級が上陸した例である。
その際実際に防衛に当たった第12師団は初動の遅れもあり完全に後手に回った。上陸を果した大群に対し五月雨式の攻撃は悪手、徐々にその戦力を損耗し撤退する機会さえ失った。その援護に入った第14師団も友軍が潰滅に追い込まれたことで戦線を食い破られ、最終的に北関東から首都近郊にまでBETAの侵攻は及んだ。
いくつかのパターンがある“1周目”の傍系記憶では最大約10,000近いBETAが侵攻した記憶もあり、その際にも最終的に首都防衛軍の働きにより漸くその勢いを押しとどめたものの、その人的被害は5桁に及び戦術機だけでも凡そ300を優に上回る戦力が喪われたこともある。

次の想定は、オレが前の周の記憶から夕呼先生にBETA侵攻を進言して警戒させた“2周目”の世界。
その状況に於いては、予め配置されていた第12師団と、早めに第14師団が投入された事によりどうにか上陸したBETAの水際での殲滅に成功している。警戒情報により帝国軍日本海艦隊が配された事も、事態が優位に推移した要因らしい。
それでも第12師団は、有する戦術機機甲師団6大隊分216機の損耗が40%を越え、部隊全体の損失も30%に達し、所謂軍規定に於ける“全滅”と言う状況に陥った。
更にその裏で極秘裏に決行されたヴァリキリーズのBETA捕獲作戦でも作戦自体は成功であったが、A-01には3名の欠員を生じることになった。
桜花作戦以降に確認した記憶では、辻村中尉、相原少尉が戦死。遠乃少尉が再起不能の重篤な怪我により後送。作戦時の細かい状況までは記されておらず結果としての“情報”としてしか判らないが、今同じ隊にいて共に訓練している彼女たちが喪われる、それが取り得る一つの未来の“事実”だと思うと、今も背筋を怖気が這い登る。

そして最後に示された今の“現況”に於ける様々な想定。
夕呼先生の帝国軍への“警告”は行われていないが、既に此処に集うメンバーには“予測”としてBETA上陸の可能性が極めて高い事が伝えられている。
このループ世界に来てから実際まだ3週間も経っていない。その間人類サイドには色々とした気もするが、BETA サイドには何の干渉もしていないから“予定”通り侵攻は起きるだろう。
侵攻が無いなら無いでも連隊規模の実弾JIVES訓練は貴重な経験であり問題はないが、主観記憶でも傍系記憶でも新潟侵攻に関しては日付を違えた例は無い。

それを前提に悠陽殿下を伴い斯衛第2連隊から2大隊、そして第16斯衛大隊が、当地の第12師団と共に広域JIVESによる“実弾演習”を敢行する。
国連横浜軍のA-0大隊も“2周目”同様A-01中隊だけではなく、新たに創設されたA-00中隊も仮配属迄含め全騎が新装備の実戦証明との名目の下、この演習に参加する事が申し渡され、受諾されている。

警戒情報は流していないのだが、殿下の視察に合わせやはり“2周目”と同じく帝国海軍も随伴することに成る。
これで斯衛参戦によりBETA新潟迎撃戦力として、記憶にある中でも最大と成ることは間違いない。
第14師団の投入を待たず、殲滅が可能となる筈だった。


そして少なくとも斯衛部隊とA-01中隊、加えてオレと純夏については、今週に入ってからプロファイリングから構成された帝国軍第12師団の行動モデルを用いて、様々なパターンで連携強化をシミュレートしてきた。

その結果が、被害想定10騎と言う数なのだ。




彼方のコンバットシミュレーションに示された各々の状況差を詳細に比べてみれば、各装備の“ご利益”も見えてくる。
今回追加された“状況”が無い場合の最良、即ち“2周目”の記憶にある帝国軍に於ける被撃墜総数96騎の喪失に対し、XM3の全機配備に依る被害想定は戦術機の人的物的損耗を確かに50%以下にした。
加えて作戦初期からの斯衛軍計3大隊の投入は、その損耗を更に半分に減じた。

そして最後、被害想定を10騎にまで落とした、つまり損耗率の低減という意味では60%以上の効果を生み出したのがA-0大隊による装備投入、とりわけこの会議に出席を要請され今隣で居心地悪そうに居る純夏=“森羅”の存在だった。



そう、今日の夕刻には戦地に出立するというこの段階に於いて、殿下や首相、各大隊指揮官がこの浜離宮に雁首揃えているのは、今回の迎撃戦で初めてお披露目される装着型00ユニット、対BETA戦術支援システム・“森羅”を扱う純夏との顔合わせの為だった。




「・・・して、そなたが鑑純夏さん、なのですね?」

「は、はいっ!、煌武院殿下にあらせられましては、ご、ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます!」

微笑む殿下に型通りの言上、多少つかえたが噛まなかっただけ純夏にしては上出来。
紅蓮閣下が苦笑いしながら、久しぶりに見ただろう愛弟子の元気な姿に、孫を見るように嬉しそうに頷いていた。

殿下も笑みを携える。

「此処は非公式の場、その様な言葉遣いは必要在りませぬ。ワタクシもそれ故純夏さんとお呼び致しました。
寧ろ、この忙しい折に慌ただしく呼び出してしまい、忝なく思います。」

「そ、そんな事は・・・勿体ないお言葉です。」

「では、出来ればあの者・・・冥夜と同じ様にワタクシにも接して頂けますでしょうか?」

「え?、あ・・・。」


オレの家柄から幼少から冥夜と親交のあったこの世界の純夏は、冥夜と殿下との関係に疑問を持ち薄々判っていた様だし、これまでの世界の様々な俺の傍系記憶も00ユニットとしての記憶も全て有する今の純夏は、要するに殿下と冥夜の関係も知っている。
純夏にとっても今周囲に居るメンツ、紅蓮閣下とトモ姉は小さい頃から馴染んだ師匠とお姉さん感覚だし、一方のオヤジ陣、榊首相や鎧衣課長が委員長と美琴の父親と言うことも理解済み。直接知らないのは巌谷中佐と斑鳩中佐くらいだが、それとて今部隊を同じくする篁大尉の叔父と彼方の姉の内々の婚約者である事は聞いていた。
要するに、皆近しい者の関係者だったりするわけだ。

オレが未だ17歳の感覚でいたとて、幾多の記憶を以て相応の分別を付ける様に、純夏もまたこの世界のオレの記憶に在る純夏そのままではない。


にぱっと笑う。

「ありがとうございます。
では、公の場以外では、冥夜の親戚[●●]の、同じ歳の友人、と言う事ですね!」

純夏の応えに殿下は少し目を見開き、そして嬉しそうに微笑んだ。

「・・そなたに感謝します。ワタクシの事は冥夜同様、悠陽、と。」

「あ、えっと・・・タケルちゃんが“殿下”と呼んでいるので、普段はそれで。
でも渾名みたいなものと思って下さい。わたしの事は、純夏でかまいませんので・・・。
もし、立場を隠さなければいけない場合と・・・・何時か冥夜と一緒に[●●●●●●]パジャマトークとか出来た時にはそう呼ばせて貰います。」

「「「 !!! 」」」

いくら本人に請われたと言っても、流石に月詠大尉の前で殿下の名前を呼び捨てる度胸は、今以てオレにもない。純夏もその空気を読んだのだろう。そんな強者は彼方だけだ。
そして、純夏が続けた言葉には殿下本人だけではなく、周囲の人も小さく息を呑んだ。

「・・・・・・是非もありません。そなたの心使いに万謝を、そしてその時を楽しみにしましょう。
・・宜しくお願いしますね。」

「はい!」

輝く様な笑顔に決意を込めた様に、純夏は応えていた。






「で?、遠征隊の指揮官まで集めて、この土壇場に俺らを呼んだのは、あと何が知りたいんだ?」

そこはかとなく流れる和やかな空気を断ち切ったのは、やっぱり彼方。

「・・・前の記憶は無くてもその性格は全く変わらんな、お前も。」

斑鳩中佐が苦笑する。月詠大尉が同意するように小さく頷いている。

「・・・まあ正直圧倒的な情報能力なのだよ。
V-JIVESのログを詳細に見せて貰ったが、ミサイル防衛の為のAEGIS艦と対潜哨戒機とを相当数合わせたような能力の上に、浅い深度ながら地中のBETAにまで対応していた。
その情報処理能力を戦術機サイズに収めるなど到底不可能。

それが仮想現実の中だけでなく、現実の侵攻でも実現出来ると成ると、BETAに対する戦略そのものを変えてしまう可能性すらある。
その疑問に対する君の応えが、00ユニットだからな、の一言。
・・・榊首相以下、その意味を知るものがこんな会議を招集するのも仕方ないだろ?」

呆れ顔の巌谷中佐が苦笑いしながら応える。
オレはもう技術的な背景を理解することすら諦めた。だが技術廠としてはそこんとこ詳しく、というのは当然だし、戦略が変わるとなれば、司令官としても見過ごせない、と言う事か。
そしてそもそも00ユニットというのは、香月博士の率いるオルタネイティヴ第4計画の当初目的そのものであった。
恐らく榊首相がとるものも取り敢えず此処に居るのもその単語故だ。

「・・・・此処に居るってことは“兄貴”と“御前”は背景を知っているのか?。」

「はい。両名にはもはや隠しても意味はない、とワタクシが判断致しました。榊や第4計画との関係も説明してあります。」

「・・・妥当な判断か。青は早めに味方に付けたほうが何かと都合が良いか。
・・・但し喀什攻略[x-day]まではこれ以上第4計画絡みの告知は控えて置いてくれ。」

「・・・確と。」

珍しい事もある。寧ろオープンに見える彼方から釘を刺すとは。

「・・・ついでと言ってはなんだが、此方からも幾つか伝えたいことがあるので、まずは其方の疑問に答えておこう。
・・・V-JIVESで鑑が示した能力は実戦でも遣えるのか、ということだが、結論から言えば余裕で出来る。」

そして彼方はディスプレイに映る情報を変えた。
先程と同じ戦域の地図、そこに示されたのは無数の、3色の輝点。

「・・・此処に示した位置に、3次元フェイズドアレイレーダー、地下探査加速度センサアレイ、水圧用圧力トランズデューサアレイついでに無人自律制御のパッシブ・アクティブのエコーやソナーを配している。
一基当たりの素子数は、ざっと平均で言えば3次元配置20×20×20で8,000個程度、それが総数で500基あるから合計40万個のセンサーが既に稼働している。
それらのアレイシステム一基で凡そ400の個体追尾が可能だから、その全てを掌握する00ユニットは理論上は200,000体までのBETAを個々に識別・追尾が可能、と言う事になる。」

「「な・・・」」

相変わらず呆れかえるような数字がぽんぽん飛び出す。
オレだってその性能を純夏に聞かされた時は絶句したのだ。
捕捉した全てのBETAに対しデジタル・ビーム・ホーミング(Digital beam forming)をオープンエリアのみ為らず、海中や地下に対してまで行い、追尾する。
勿論エリア内にBETAが均等にばらまかれる訳ではないから、実戦での追尾数は実質的にその1/3から1/4にまで落ち込むとは言うが、今迄の記憶からしても今回の侵攻は師団級から旅団級の侵攻である。その規模なら小型種までほぼ完全に追尾出来る事になる。
と言うか、完全に追尾出来るだけの数を揃えた、と言う方が正しいのだが。

これを日本の海岸線全てに、と言われればかなりの無理が生じるが、当面の侵攻が確定的であり、上陸する地域が限られているのだから重点的に配備出来る。
勿論装備は使い捨てではないので、将来的に佐渡が奪還できれば、他に移設すれば良い。


「・・・あの正確な情報を齎す、その要が00ユニット、と言う訳か・・・」

500に登るフェイズドアレイシステムを同時に司るのである。
その性能のデタラメさが技術畑である巌谷中佐には判るのだろう。
フェイズドアレイシステム自体は既に存在するものだし、1システム当たりの追尾数だって実際そんなに驚く程の数でもない。
実際元の世界でも1980年代には300を越える追尾数を持つAEGISシステムが実装されて居たという。宇宙技術等10年以上進歩していた感のあるこっちの世界ではそれ以上であってもおかしくない。
そのシステムをこの世界のパーツを使って小型アクティブ化しただけだと彼方は言っていた。
実際航空機やミサイル用のレーダー素子、対潜水艦様の圧力トランスデューサは在庫が埃を被っていた。BETAは空を飛ばないから、対空レーダーの配備数は極端に減っていたらしい。

但し、コレだけの数を戦術機サイズで一手に制御できる演算システムが他にあるかと言われれば、それは別の話。
結局00ユニット、それがこのシステムのキーアイテムなのだ。



「つまり・・・鑑君[]、その00ユニット、と言う事で間違いないのだね?」

榊首相が微妙な顔で訊いてきた。

「・・気を遣わなくてもいい。
[]00ユニットではなく、装着型[●●●] 00ユニットの適合者だ。」

「!!、なんとっ!?」

その場のニュアンスを、彼方の受け答えで理解した。
榊首相は、知っているのだ、第4計画の、“暗部”を。

「勿論、この事は第4計画同様、トッププライオリティの極秘事項だ。
鑑の存在も隠す為に態々A-0部隊長の武と複座にした。
V-JIVESの時から鑑の通信音声は電子処理して声紋も取れない合成音声に変換しているからそのうちアイギスとかのキャラでも被せるかもな。
00ユニットにも、当初目論んだスペックでさえ、その圧倒的すぎる性能に脅威論さえ出た。
今後は“森羅”と呼称してくれ。」


当初の第4計画では、BETAが調査したと見られる脳髄や素体候補の情報を量子電導脳を有する00ユニットに移植し、人類の意思を有する非炭素系情報端末としてBETAとの接触を果たすコトを目指していた。
横浜ハイブで発見された“生きている脳髄”、そしてA-01部隊に集められた“素体候補”を消費[●●]することで00ユニットという代物が得られる筈だった。


疑問を理解し微笑みながら純夏が応える。

「・・・わたしは、量子電導脳を有する装着型00ユニット:対BETA戦術支援システム・“森羅”の適合者[●●●]です。
そして、榊首相がご存じの通り、横浜ハイヴで発見された生存者“生きている脳髄”の中で、唯一の生還者[●●●]です。」

「「「「「「 え!? 」」」」」」

純夏のその応えには榊首相だけではなく、そこまでばらすとは思っても居なかったオレも含めて殆どの人間が固まった。


Sideout




Side 悠陽


その当事者自身の口から語られた内容は、余りにも衝撃的で在りました。

‘98のBETA横浜侵攻で捕獲され、人類に対する実験対象となり脳髄だけなるまで解剖されながら生き存えていた、否、生き存えさせられていたこと。
明星作戦で横浜ハイヴの制圧と共に接収されたが、当時は勿論身体は愚か意識さえ復元の見込みなど立たず、一方では第4計画の為の素体候補として秘密裏に維持されたこと。
同じく接収された他数体の脳髄が次々と力尽きる中、唯一“生存”していたこと。
BETAが行った“実験”の内容には触れませんでしたが、想像も出来ないほど酸鼻を極めるモノであった事だけは間違いないのでしょう。

爪が喰い込むほど拳を握り締めていました。、


元々第4計画は、BETAとのコンタクトの可能性が示唆された非生命体である量子電導脳に、人の意識を移植することによって、対BETA諜報端末を構築する事を目的としていたことは存じていましたが、その素体第一候補がBETAに接触した“経験”を有する“生きている脳髄”であったことは秘匿事項としてワタクシには知らされず、取り分け榊が隠匿していた様子。
故に先程迄の榊の態度なのでありましょう。

この前のデフォルトもしかり、一体いくつの“闇”をワタクシに明かさず済ますつもりだったので在りましょうか。
視線に非難を込めても、飄々と透かすばかり、彼方の“じじい”と言う呼び方も真っ当です。



けれど、その救いのない凄惨な状況を一変させたのも、白銀と彼方の復隊であったとは。

白銀は、試作型00ユニットを用いて第4計画の目的としたBETA情報の収集を完璧に遣り遂げ、結果人格移植型00ユニットの必要性を無くしました。
そして彼方のハッキングにより、BETAが蒐集したヒトゲノム情報による遺伝子操作技術を鹵獲したことで、脳髄だけで生存していた純夏の完全再生までをも可能にしてしまったとのこと。

この技術は、既に擬似生体を完全調整する技法として各医療機関に敷衍されていますが、まさかそれがBETA情報の鹵獲による純夏再生の副産物であるとは、思いも至りませんでした。

即ち純夏は第4計画当初の予定にあった00ユニットという非生命体では無く、脳幹の遺伝子情報を以て再生された正真正銘、生身の人間として生還したと言うことになります。
そう、此処に居るのは、地獄の横浜ハイヴからの唯一の生還者なのです。

その上で、此方も奇跡とも言える幾万ものBETAの群を、文字通り潜り抜けてきた運命の相手・白銀との再会を果たし結ばれた者。
しかも、真那の話に依れば、純夏はあの者の存在も許容している様子。

明るく微笑む同じ歳の同性に対し、深い畏敬の念さえ抱かずには居られません。


そして聞き及んでいたものとは異なる00ユニットの着地に、榊も少しは肩の荷が降りたのでしょうか、何時ものしかめ面が幾分穏やかに見えるように思います。

もし、純夏が当初計画通りの00ユニットであったなら、全てを呑み込んで何も語らなかったのでしょう。
・・・“じじい”も“じじい”、“頑固じじい”と言うべきでありましょう。



「して、“森羅”とは?」

「以前も言ったが、上位存在とのログは衝撃的だ。第4計画は対BETA戦略を策定する方向にシフトしている。
00ユニットは、対BETA諜報システムとしては不要になったが、今後XG-70の制御や、今回の戦術支援システムの様に、量子電導脳自体は使い道が多い。
そこで装着型としてセンセに改修してもらったんだが・・・。」

「・・・何か問題でも?」

「ああ。・・・今のところ鑑が唯一[●●]の適合者なんだ。他の人間だとノイズが激しくて頭痛が酷く、とても情報管制など出来ないのさ。」

「・・・そうで在りましたか。」

「まあ、センセが今汎用型を模索している。少し時間は掛かりそうだが、そのうち出来るだろう。」

「それは重畳、ではそれ以降“森羅”が量産されるように成れば・・・」

「ああ。先程巌谷中佐が言っていたように、対BETA戦略が変わる、だろうな。・・・但しハイヴ戦は別だが。」

「え?、あ・・・」

「・・・ハイヴ内で通信できないことが問題。そこんとこクリアしないと広域データリンクをベースとした情報戦はハイヴ内では展開できない・・・・んだが、それは追々だ。
喀什攻略[x-day]と佐渡までにはなんとかするか、無しでも大丈夫なだけの戦術を組むしかないだろう。」

「・・・。」

「ま、当面の新潟侵攻について、そっち[●●●]の問題はないと想ってくれて構わない。」

「・・・油断は禁物です。
純夏のH21ハイヴに対する広域探査でも、今のところハイヴ蠕動規模から予測される侵攻数は師団から旅団規模としていますが、想定数が最大級の師団規模、具体的には10,000を超えると、今までのシミュレーションも破綻する可能性があります。」

「あいもかわらずタケ坊は心配性だな。まあ、指揮官としては念には念を入れる位で構わないだろう。
その点については、近衛軍第2連隊長と第16大隊長の名前で一応統合参謀本部を通し、第14師団にも現場のバックアップをしてくれるよう申し入れをしている。
建前は、有事に際し12師団が訓練で抜けている穴をカバーしてもらうって事で、今回のコンバットエリアを囲うように配備される。
・・・万が一の際には、彼らも参入するさ。」

「巴・・・ソナタの配慮に感謝を。ですが、滞り無く進んだのですか?」

「――相変わらず、兼実の腰巾着が難癖は付けていたがな。申し入れ自体は問題なく。」

斑鳩ももう呆れることすら無駄というような平坦な回答をします。


「・・・そうですか。」

「・・・しかしG弾の危険性が世論を騒がしている今以て、九條の態度は変わらんな。」

吐き捨てるような巴の侮蔑。

表向きは第5計画派や米軍排斥を掲げる本土防衛軍、そして九條一統にも第5計画派の窮状に対する変化は見られません。
しかし、実際にはつい先日XFJ計画に乗じて彼方を誘い出し、また第4計画の訓練スケジュールを横流しして双方の抹殺を要請した様子。しかしそれが逆に第5計画側に甚大な被害を与え、今の関係は冷え切っているとも報告を受けています。
九條にとって残された失地挽回の機会はクーデターのみ、今はそれに掛かり切りであり、このタイミングで九條が何かを仕掛けるとは考えにくいのも確かです。

そして今世界的に世論沸騰を通り越して水蒸気爆発を起こしそうなG弾脅威論。
第5計画派が失地したこのタイミングで、香月博士によりリークされた、G弾による“大海崩”の誘発リスクと、バーナード星BETA汚染の可能性。


「寧ろバーナード星BETA汚染説の方が第5計画派の反発が大きかったな。
故に地球脱出を目論む九條もその目的を違わず、と言ったところだろう。
ここまで来ると呆れるさえ通り越してその執念に畏敬の念すら覚える。
第5計画派も当面一般庶民感情は捨てて支配層の囲い込みに躍起、と言うことか。」

崇継も苦笑いを携え、口を挟みます。

そう、世論爆発したG弾脅威論に比べ、比較的冷静に受け止められたのは寧ろバーナード星BETA汚染説の方でありました。
第5計画派は即座にスペクトル変動が自転や公転伴う季節変化による地表面格差だと言い繕い、それらしい[●●●●●]時間経過に依るスペクトルの遷移を示して来ました。
天体観測の為の機材が健全な国はその殆どが米国の属国化している以上、そう言われてしまえば、独自の観測手段が限られ、それ以上の反論が難しいとのこと。
彼方が裏から確認したところ、ハッブルもチリ・アカタマ高地の電波望遠鏡も都合の悪い過去データがバッサリ削除され、都合の良いデータに差し替えられていたとの事。
実際上位存在が言うBETA数と過去観測されたスペクトルからの類推ですが、そのデータの所有権自体は確かに米国側にあります。データの改竄を指摘する事はこちらもハッキングの違法行為を暴露する事に成るため、寧ろこちらからデータ改竄の濡れ衣を着せられる可能性もあり悪手。
今後の長期的な観測を要すると言われてしまえば、データが差し替えられるのは承知の上で、今それ以上の追求は出来なかいとのこと。
それ以前に、ワタクシには第5計画派はBETA汚染を承知で居ながらそれを覆い隠し、あたかも希望が在るように演じる、その真意が理解できません。


「・・・世論がどう動こうが、遂行能力を既に有しているバビロン作戦はいくらでも強行できると思っている、と言うのが此処に来る直前の夕呼先生のコメント。
勿論ニヤニヤと良い笑顔をしていた夕呼先生だからね。
流石第5計画派も無傷とは行かず、秘密裏にアヴェンジャーの鹵獲機体引渡しの代償に、本来配備されていない筈の予備弾頭に付いてXG-70系の運用燃料と言う名目で第4計画に譲渡されることが取引されたらしい。
表向きG弾の配備数見直しと計画の再検討が公表された裏では、一応それ以上の追求を第4計画側からしないってことで。
けどその一方で今後も第5計画を推進する為に国連以外の大口スポンサーをここで失うわけにはいかず、それを繋ぎ止めるバーナード星移住計画擁護の方を重要視した、と言う事らしいよ。」


ワタクシの疑問に応えるカタチっで白銀が横浜第4計画廻りの情報を齎してくれました。

成程、流石は香月博士、抜け目有りません。
弾頭という形で秘密裏に移譲される事は、今の国内世論情勢からもリスクが高いことが懸念ですが、XG-70他の燃料としてG-11の剰余が無い以上、G弾頭を解体して得るのは致し方ないこと。


「・・・ともあれ、当面の相手は“BETA”と言う事だな。暫く九條の影を気にしなくて良いのはまこと有り難い。」


そんな紅蓮のカッカという笑い声にも、尚も思案顔の彼方。


「・・・彼方は何を危惧しておられるのですか?」

ワタクシの言葉に、全員が彼方を見ました。


「・・・水を差すようで悪いが、・・・俺は恐らく今回の防衛戦で何らかの妨害工作がある、と考えている。それが九條か、・・第5計画派なのかは判らないが、覚悟だけは持っていてくれ。」


今までの楽観的な流れに真っ向棹さす発言に、空気が止まりました。


Sideout




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