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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/03/06 20:56
'2013,02,23 upload  ※多忙により長らくご無沙汰してしまいました
'2013,04,24 誤字修正
'2015,03,06 語句修正


Side 唯依


だだっ広い極秘エリア70番ハンガー。初めて来たときにはその広さに圧倒された。
元H-22、横浜ハイブその主縦坑に連なる主広間に当たる。そのハイブ地下構造はモニュメントはフェイズ2なのに地下茎はフェイズ4規模と言われ、主縦坑の最大直径は約200m、主広間は更に拡がり、直径で約400m近いドーム形状を成している。
米国に存在するドーム型球場をそのまま5個程飲み込む容積、とでも言えばいいのだろうか。
今やその中には幾多のクレーンやホイストが乱立し、多数のプラットフォームが設置されている。
極秘エリア故人口密度は確かに低いが、それでも相当数が忙しげに動いているのは確かだった。

私はその片隅で戦術機整備用のドックに繋留されている山吹色の武御雷・Type-Fを見上げている。一旦分解した筈だが既に組み立て作業は完了し、機体に取り付いている整備兵も今は細かい調整に入っている。
調布基地で引当以来、ユーコンでの苦楽も共にした自分の愛機だと言うのに、目にするのも3日ぶり、最後に搭乗したのもユーコンでの模擬戦だったか。今までは大規模な修理や補修にも技術開発の一貫として携わっていたから、整備中であっても3日も見なかったのは初めてだろう。

普段は余り人の居ない70番ハンガーも、今はいつもより騒がしい。
既に、この機密エリアには、XG-70bの受け入れ準備も始まっているのだ。
明後日には専任の技術者を更に30人ほど受け入れることに成るため、逆に対外的な機密度の高いG-コア関連の戦術機や装備は、既に最下層の最重要機密エリアにドックを移設中。
G-コアそのものに付いては高天原のコア・セクションに工房がある。
この層の更に下層には、反応炉がある。その反応炉を取り囲む壁一枚隔てた広間の一つに、新たな機密ハンガーが設置され、そこに移動することになるらしい。
さすがにフェイズ4相当の地下構造、この手のスペースと隠し通路には事欠かない、と言うことか。

私の場合、中枢である反応炉エリアには単独でのセキュリティパスが許可されていないが、BETA反応炉の現物に特に興味はないし、破壊工作の為の反応炉モデルなら仮想現実で嫌というほど見慣れている。
今更どうということもない。
・・・と言うか、余りに常軌を逸脱し天元突破した上官の所為で、今や滅多なことでは驚かなくなっていた。
例えたった3日で武御雷が“改”に変わっていようとも・・・。



余りにも慌ただしい海外出張から4日早朝に帰国した。
寧ろ遠征とか表現したほうが正しいような気もするが、そこに突っ込んではイケナイ。飽く迄目的は模擬戦と技術供与だったのだから。
そして帰国後は、それこそ自分の機体のそばにすら近寄れない程に、目の回るような忙しさだった。


XFJ計画の事実上の完了と、ブルーフラッグ戦に於ける新装備と対戦経緯・結果。その後に起きた表裏の事態。決着とその後の推移。その他諸々の周辺事項の後始末。
国連軍に移籍後療養のため招聘扱いとしたクリスカとイーニァを社少尉に託し、来る11日の新潟に備えた訓練も最小限の参加にとどめて報告書作成に専念することで、XFJ計画の総括まとめも漸く目処が立った。とは言えどうにか本編が終わったところで付帯事項が山のようにあり、まだまだ責任者の仕事は終わらないのが実情。
先に帝都城に登城し、口頭による報告は既に完了しているにだが、それで書面の報告が省略されるわけではない。“記録”に残すことは必要不可欠な行程である。
そして今回実際使ったのはXFJ Evolution4であるが、表面上基本はPhase3の積み残しを消化するための仕儀、ブルーフラッグに関しては全て私の責任下にある。
逆に言えば今回の報告書ではXFJ Evolution4の内容に触れなくて良い事が救いであった。
それにしたって、ラプターを撃墜するために齎されてた技術は、本来とてもではないがこの短期間に出される内容とは思えない密度なのだ。
それこそ米国の軍事ドクトリンを根底から覆すような装備というのはこんなにポンポン出てくるものではないはずだ。

これでEvolution4のプロトタイプやらCCCAやMACROTなどの対外的には伏せるべき技術の数々までが報告対象だったら私は既に死んでいるかもしれない。
G-コアに代表されるEvolution4の根本に纏わる様々な案件。
御子神大佐はEMLだって持ち出している。使ったのはノーマルモードでの長距離狙撃だけであるが、その精度も格段に向上していたりする。

余りに早い供出速度に慣れてしまいその場その場は流していたが、こうして改めて資料にすると、その量と質に呆れるしか無い。
私が報告資料に使ったのは、どう見てもその10分の1程度しかないのだから。


本来技術は生み出せば良い、と言うものではない。広く使われてこその新技術である。
進化を認知してもらい、必要量と提供時期を見極め、量産に向けた段取り、そして生産し頒布する、そこまでが開発である。
勿論、大佐の齎す技術は、大方がG-コアに基づくモノなので、試作レベルの延長に成りかねないのだが、それでもダウングレードすることにより一般化は可能で、他の一般機に演繹できる要素もあるのだ。
そこにビジネスが成立する可能性が転がっているからこそ、高が小娘の私にあれほどの企業が押しかける。

そつのない大佐が書類仕事を蔑ろにしているわけではない。
寧ろ電脳空間では様々なプログラムを操る大佐にとってレポートなどは自動作成に近いらしく、簡単な報告書として殿下に提出する分についてはとっくに纏められている。元々の発案者である大佐の元には、原理から構造概念、そこから試作するための起案書や設計図が始めから存在しており、基本それらを纏めて実証結果を付属すれば報告書になってしまうのだ。
但しEvolution4に関わるそちらは現段階で最高ランクの極秘資料であり、目にするのは殿下の周囲のみ。
なので、特許はおろか技術開示もまだまだ先。
結果的に言えば、今回限定解除された技術に関する元締めは私とみなされ、開発から生産に移る段階の利権に関しての仕事は、ほとんどを私が被ることになった、と言うわけだ。

・・・それらの雑事に忙殺されていた3日間。


すでに細部調整に入っている武御雷・・・、その“改”。

そう、武御雷が既にこの状況にある、と言うことは、私が報告書に拘束されていたその間、御子神大佐は嬉々として武御雷を弄っていた、と言う事に等しい。
確かに私が望んだこととは言え、釈然としないのはどうしようもないだろう?

・・・私だって弄りたかった!!



御子神大佐には、今後Evolution4という計画が控えている。

こちらに付いては、主導は明確に御子神大佐となり、私は補佐という立場に成る。
実際にはその為の技術はほぼ出揃っていると考えてイイ。
既にその提案書を見せてもらったが、次期主力という言葉を借りただけの、全くの別プロジェクトと言っても過言ではない。
XFJ Evolution4は、その先鞭に過ぎず、ハイネマン氏の世代概念に沿えば、既に齎された技術で第4世代を飛び越し、第5世代・真空低/無重力下での戦術機にまで達しているのではないか、と言う内容なのだから。

そしてその実験的装備が、今目の前に聳える私の武御雷“改”に施されているモノなのだ。


先日の悠陽殿下との謁見に於いては、私も大尉という大任まで拝領してしまい、ほとんど幸運だけで齎された成果に若輩の身で在り得ないと辞退したかったのだが、その際に御子神大佐が打診したのが武御雷の改造許可だった。
G-コア含め、周辺の概要と XFJ Evolution4のアレコレを既に聞き及んでいた殿下の反応は、喜色満面に近かった。

当然対象と成る機体は、勿論実験部隊である私の山吹。
帝都城から横浜基地に戻ったときには、既に自分の機体がバラバラにされていた時には横目で大佐を睨んでしまった。
しかし、その内容はといえば、ユーコンで約束した“魔改造”、それを施してくれるという。

その後、報告書作成に忙殺された私は、その経過を殆ど追うことも出来ず、今日漸く報告書提出して机から解放され、その姿を見たのだった。




まあ、経緯に関しては色々愚痴も蟠りもあるがそれは追々解消するとして、改めて“愛機”を眺める。

改修の大まかな内容くらいは、聞かされている。
基本的に不知火“改”やXFJ Evolution4と同じ、主機のG-コアへの換装とそれに伴う所謂オール電化、つまり噴射跳躍ユニットの電気推進器化だ。
武装に関しても当然のように装備する87式突撃砲にはEMLC-01Xが装着される。

但しXFJ Evolution4とは異なり、武御雷には肩部スラスターを装着するスペースはない。
全身ブレードエッジ化されている武御雷のフレームは、スラスターを設置するとしてもそのフレーム変更を余儀なくされ、その作成だけでも半月以上が掛かるだろう。腕の荷重を支え且つスラスターを保持することに成れば強度計算も必要となる。巨大な外殻フレームとなると試作でも型作成が必要となり、そうそう簡単に出来るものではないのだ。


しかも御子神大佐の予定では、年内にH-1に打って出て大勢を極める事を前提に、準備が進んでいる。その中ではフレーム改修などの暇が在るはずもなく、基本は“不知火”に行った換装と同じである。
燃料電池ジェネレータ主機の除去と、それに伴うMgイオンタンク・バッテリー、更には噴射跳躍ユニットの燃料タンク、推進剤関連のパイピングや関連補機の撤去。
それらに換わるG-コア換装であれば、外殻フレームとの繋ぎ所謂マウンティングパーツのみの新作だけで済むだろうから1,2点なら試作で十分間に合う。
と言うか、既に予定されていたかの様に、それらのパーツは揃っていたらしい。

報告書作成の忙しい合間をぬって、最低限参加した新潟想定戦では、武御雷でもCCCAに準じた動作を織り込んでいた。実戦の勘どころを維持する為と、書類作成に鬱屈した私の一種のストレス発散の場でもあったが。
その際に見せる武御雷の動きは、極めて自然で、想定された噴射跳躍ユニットによる3G相当の加速にもXFJ Evolution4並に機体の乱れがなかった。
けれどこの動きをソフトウェア上のマジックではなく、実機で行うには、肩部スラスターが必須となるだろう事は予測していた。

しかし今目の前にある武御雷“改”には、それがない。
即ち先述の変更に掛かる時間的な問題から、肩部スラスターの搭載は見送られた、という事だ。

これまでシミュレーションに於いてはCCCA用にカスタマイズされたシミュレータで調整してきたが、こればかりは徒労に終わりそうだと溜息を付いた。


その一方で唯一外観から変化しているのが、腰部に装備された可動式エンジンユニット、所謂“噴射跳躍ユニット”だった。
空力制御用に存在した大きなフィン翼が廃され、途中から3つに分岐された峰は、それぞれが別方向に向いたバーナー部に続いている。その形状自体が空力を意識した翼形状を有するが、つまりバーナーが3つ存在する。
そして本来可動式であり腰部ピボットを中心に動作する可動機構が全て廃され、着脱以外はほとんど固定という極めて剛性の高い構造に変更されていた。


確かに戦術機に於いて跳躍ユニットの可動機構は弱点だ。
機動に対するレスポンス、そして機構的な脆弱性。
高機動に成れば成るほどその稼働は激しく、そして損耗も早い。それでいて跳躍機動のレスポンスはその可動性によってほぼ決まってしまう。

・・・・これは・・・3次元ベクタースラスターか・・・?


見上げたバーナーノズルには見覚えがある。

XFJ Evolution4の肩部スラスターとして使用したSE112-FHI-500、宇宙に於ける主に衛星姿勢制御用の小型スラスター。戦術機の肩部に装着できる位に全長が短くコンパクト。
それを片側で3基、各々3軸に配されていた。
それら個々の推力を調整することにより、固定されていながら逆噴射機構を含めてどの方向にも推力を得る、と言うことなのだろう。

しかし。

確かに、跳躍ユニットそのものを駆動する必要が無く、3軸の電気推進器の制御だけで噴射方向を決められるから、そのレスポンスは格段に向上するだろう。
しかし、SE112-FHI-500を使用した肩部スラスター・XFE112-FHI-400の推力は約400kNだった筈。
3基合わせれば合計で1,200kNだが、この構成に於いては推進軸は互いに直行しており、本来の主軸方向の最大出力は3基の構成する立方体の対角ベクトル成分に相当する。要するに合計では1200kNでも、最大推力は凡そ680kN程度しかないことになる。
XFJ Evolution4の跳躍ユニットXFE512-FHI-1500の1812kNに比べれば1/3強でしかない。
XFJ Evolution4の機動重量が12t前後、武御雷もほぼ同等と考えれば、最大機動Gは1G前後。
元々山吹の武御雷、つまりType-Fに搭載されている噴射跳躍ユニットであるFE108-FHI-225も460kNは搾り出しているので、確かにパワーアップはしているがそれ程驚くような数字でもない。


そしてそこまで考えて、私は苦笑いする。

今までの“改”同等なら、機体は30%の軽量化が為され、その推力は1.4倍強に達し優にType-Rを優に凌ぐ出力の向上である。
本来それだけでも、破格ではないか。
その上で、このベクタースラスターが齎す機動のレスポンスは未知のモノだ。

単なる数字だけ追い求めても意味はない。
逆にこの範囲なら、過剰な慣性反動を生じること無く、動けるのかも知れない。
それが重々判っているのに、“おとなしい”と感じてしまう理不尽。

かなり、御子神大佐に毒された、と自分でも思わずには居られなかった。










だが・・・。


・・・正直に言おう、まだまだ私は未熟だ。

御子神大佐自身が“魔改造”と言い切った改修が、そんな常識的なもので収まるはずがなかったのだ。

この日の午後、武御雷“改”に乗り込んだ私は、とんでもない現実を思い知ることになる・・・。


その時の私は知る由もなかった。


Sideout




Side 武


『・・・此の様に、G弾の大量使用は地球重力圏に大規模な作用を引き起こし、海洋海面の大幅な偏差を生じる可能性が指摘されました。
この帝国大学応用量子物理研究室によるシミュレーション結果は、既に英国・欧州合同原子核研究所、米国・ローレンスバークレー研究所、及びフェルミ研究所でも検証がなされ、同様の結果を得ている事が確認されました。』

午前の慣熟訓練が終わり、PXへと喫飯に来た折り、オレは片隅に設置されっているテレビのニュースから流れれくる言葉に苦笑する。
BETAに対する最前線国家であるこの世界の日本では、所謂一般的な娯楽としてのテレビ放送は少ない。民放も僅かに2社、娯楽を製作する余裕が無い。
ニュースと学校施設が設けられない避難所等に於ける教育、辛うじて歌番組や2,3本の連続ドラマ等が放送されている。元の世界に於ける戦時中、と言ったところか。
それでも即時性は高く、周囲に居る冥夜達は、凍った様にニュース画面を見つめていた。
オレや純夏にとっては今更な情報である。

ホンの2週間前、オレのループと共に引きこまれた彼方がオレの経験したバビロン作戦以降の世界、謂わば“The day after”での“大海崩”をシミュレーションで再現した。
その情報は第5計画派を追い込むために夕呼先生からリークされ、世界各地に残った研究機関にて検証されて居たわけだが、鹵獲したアヴェンジャーとの引換にG-11[グレイ・イレブン]を供出させる為、マスコミにまで公表され始めた、と言うことだ。

勿論第5計画派は必死に検証結果を否定していることだろう。
検証確認した各研究機関は、更に詳細検討の必要あり、としながらも公式にも予測の妥当性の高さを認めた。欧州系の研究機関だけではなく、米国も認めている。
米国とて第5計画派一統ではないのだ。
名だたる検証先に、ロスアラモス研究所の名前が見当たらないのは、G弾の開発元として公表を差し控えているとしか思えない。
しかしそれにしたってシミュレーション予測が間違ってると言う見解も出さない。
シミュレーションのベースと成っている係数は、地球上で唯一のG弾爆心地、ここ横浜の観測結果。
以前キリスト教恭順主義の国連職員によって暴露されたG弾のデータにも基づくシミュレーション結果である。理論やデータに矛盾や誤りが指摘できない無い以上、これを否定したら研究者としての資質を自ら否定する事になる、と彼方は哄っていた。


『つまり、ユーラシア大陸に於けるG弾の大量使用は、地球重力系に大規模な潮汐作用を齎し、結果として少なく見積もっても1,000m、最大では5,000mもの海水の異常偏移が生じる事を示唆しています。
5,000mもの海水偏移は人類の生活圏の殆どを水没させ、大規模な気候変動の引き金となることは明白で、G弾の使用は、人類の糧道を自ら断ち切る行為に等しいと言えます。』

G弾=人類自決兵器。
そのセンセーショナルな見出しは、その後新聞にも度々使用され世論を煽るだろう。
殊に唯一の爆心地を持つ日本では、事前通告も無しに使用され数多の犠牲も強いられたことからもG弾に対する拒否反応が強い。
更には5,000mどころか、20m海水位が上がっただけで、帝都は水没する。
センセーショナルなニュースであることには違いない。


「・・・全然驚いて無いみたいだけど、・・・白銀はこのコト知っていたの?」

テレビ画面に苦笑いしていただけのオレに気付いた委員長が指摘してきた。

「・・・ああ。元々彼方がシミュレーションしてみせた事柄だからな。」

その言語に驚く207Bのメンバー。
尤も、彼方に言わせれば、オレが経験した“事実”が在ったからこその予測だという。
桜花作戦に至ることが出来ず、バビロン作戦が発動してしまった“1周目”の世界群、その“The day after”では確かに“大海崩”が生じた。
しかし、桜花作戦が成功した“2周目”の世界、その後オレが元の世界に還らずに残った謂わば“Continued days”の世界群では“大海崩”が生じなかったと言う事実。
これは彼方に指摘されて気が付いたのだが、その差がヒントになったらしい。

“2周目”の世界ではバビロン作戦は発動しなかったが、甲21号作戦は実施されていた。それは柏木や伊隅大尉の犠牲と共に、G弾20発分と言われる凄乃皇弐型の爆発に因って佐渡島が消滅した。
その使われたG-11[グレイ・イレブン]総量は、“1周目”のバビロン作戦決行時には及ばないまでも、“大海崩”を引き起こしてもおかしくないだけの相当量であった筈。
にも関わらず発生しなかった“大海崩”。

そこから辿り着いた推論に当てはめると、今の横浜にも同じ推論に達することができる観測結果が存在する、とのことだった。
これは、結果を知っているからこそ見出すことのできた推論。
何も知らなければ、確実に見落としている事象だったらしい。


「・・・食事しながら教えてくれないかしら。その辺の知っていること・・・。」

丸い眼鏡がキラリと光る。
仮配属ながら既に207BはA-00に組み込まれた。
オレはその部隊長ということで、直属の上官に当たる。が、プライベートでの呼び方は元のままでいいと言って言い含めたし、彼女たちもそれを了承した。
ついでと言っては何だが、嬉しいことに皆の態度もさして変わらなかった。
普段純夏や冥夜とバカをやっているとことも見られている所為らしいが。
要するに委員長や彩峰は基本オレに対しては無遠慮。

「彼方の受け売りで良ければ構わないけど、オレに高度な計算式とか無理だぞ。」

「そこまで期待していない、概要だけでいい。」

言外にバカと言われているようだが彩峰の言い方はいつものコト。

「わかった。じゃあ喫飯しながらな。」







「そもそもだ、G弾がなんで爆発するか、ってとこからなんだけど・・。」

各自席につき、自分の食事を摂りながらも興味を向けてくる。
例外は話を知っている純夏位だが、純夏の場合は彼方の説明を丸覚えしている。
と言って、本当に理解しているかどうかは、判断に悩む。
“森羅”を装備している今、規格外の性能であることは認めるが、普段の態度は以前と全く変わらないと言うか・・・、正直バカっぽい。
勿論、純夏が委員長キャラや、それこそ夕呼先生キャラに成られても困るわけだが。
そう、思いながら純夏を見ると、すっ、と目を細め、視線を閃かせる。

!、ヤバッ!

基本リーディングは封印している純夏だが、持ち前のアホ毛センサーによる第六感はもはやESPレベル。これ以上の思考をあわてて低層に押し込める。・・・クワバラクワバラクッカバラ。

「正式には五次元効果爆弾とか言うらしいけどな、空間の3次元に、時間の1次元、それに重力傾斜に影響するから5次元らしい。
G-11[グレイ・イレブン]の原子核を格子崩壊させると、空間崩壊を引き起こしその歪で局所的な重力偏差を生じる。一度崩壊し始めると外部から減速させない限り、全質量を消費するまで継続する。その時生じるのが多重乱数指向重力効果域、つまり爆心地だ。」

「「「「・・・・」」」・・・白銀、偉そう・・・。」

茶々入れる彩峰に視線入れつつ。

「当然、その内部や境界面は方向も強さも出鱈目な重力の嵐。
現状重力場を留める防御なんてないから、巻き込まれればどんな物質だろうが、構造どころか原子核と電子も引き剥がされたプラズマ状態に分解されてしまう、と言うことは知っているんだろ?」

「・・・ああ。その当たりまでなら我等も聞き及んでいる。G弾によって蹂躙されたこの横浜の地に或る者として、な。」

オレは頷いた。

「で、G弾は原子核を完全消費するから、中途半端な放射性物質とか排出しない。代わりに爆心地に半永久的な重力異常を引き起こし植生が回復しない、と言われている。」

「・・・そう言われてますぅ。」

「じゃ聞くが、ここ横浜基地は明らかにその影響を受けたと言われる10km圏内、植生は回復しないが重力異常なんて感じたことあるか?」

「「「・・・」」・・ない・・・ね?」

「・・ウム。」

「・・彼方が言うには、元々質量って言うのは、それを決定すると言われるヒッグス粒子に因って決まるポテンシャル量で、そのポテンシャルによって空間が歪む量で引力が決まる。
それが地球という大きな塊で集合したのが地球重力圏で、基本は内側に引き込む一定値、それが重力になる。」

「うん。」

「けど、先刻も言ったように、G弾の齎す重力は、多重乱数指向。それも自分の質量は使い尽くすからポテンシャルは0の、謂わば無指向性の重力波動を周辺質量に付加した、と言うのが横浜の土壌から観測された結果だそうだ。
G弾による重力偏差を、地球の重力場に於けるアインシュタインの重力場方程式の動的剰余項に当てはめた、と彼方は言っていたけど、彩峰に言われるまでもなくオレは数式なんぞさっぱりだからな。」

「恥ずかしくない・・・別に私も同じ。」

「・・まあ重力場方程式とかまで行っちゃうとね、普通は無理ね。でも・・・無指向だから通常の地球重力には影響ないって訳ね?」

「厳密には、動物には、ってことらしい。三半規管の応答速度には引っかからないとかで。
実際計測器には測定されるし、植物は重力に沿って根を伸ばす向性を持っている。それを阻害されるせいで、植生が回復しない。
しかも動的とは言え、重力場には減衰が少ないから振幅の半減期が2万年とか聞いた。
G弾の格子崩壊によるインパクトは通常の質量同士の移動や衝突に比べると非常に大きいらしくて影響が長く残るんだと。」

「それで半永久的なんだね・・・。」

「まあ、効果範囲が一つの動的重力場を形成しているからなんで、土壌を上手く散らせば効果を減らすことも出来るということだけどな。
実際爆発当時の影響を受けた大気なんかはとっくに拡散しているだろうし。・・・尤も半径10kmも掘って、入れ替えることは、現実的には難しいだろう。」

「・・・成程。しかしG弾が付与した効果が乱数指向性であるのに、なにゆえ“大海崩”などが生じるのだ?」

「そこは固有値と、波動の重畳の影響、と言うことだ。」

「固有値?」

「そ。物体には共振しやすい波がある、って知ってるか?」

「音叉とかそういう奴?」

「ああ。構造体には振動や音に対して振幅を増幅する特定の周波数が在ると言う事で、これを固有振動数とか固有値とか言うらしい。
音叉の場合、楽器の調律とかに使うのが本来だから標準で440Hzという数値に成るように造られている。同じ音叉を近くに置いて片方を鳴らすと、振動数が等しい音叉が励振されて鳴り出す、というのが所謂共鳴現象。」

「・・・固有値で揺らせばモノが壊せる?」

「通常は振動を抑えようとする減衰が強いから、現実には余程脆くないと壊れないらしいけどな。
この固有値が、地球全体で構成されている地球重力圏にも在るんだそうだ。
さしずめ水の満たされたゴムボールを叩くと、伸び縮みしてカタチを変えるのを思い浮かべてくれればいい。
月の引力によって海水が引かれるのが潮汐。同じ様なことが重力圏の固有振動でも起きる。
但し地球の重力圏は元々巨大で重いから、その固有周波数は極めて低いとの事。
1秒間に1サイクルの振動することを1Hzと言うんだけど、地球重力圏の固有振動数は、地球重力系の共振周波数は、えっと確か約3×10のマイナス9乗とか10乗Hzだったかな・・・。
確か106年位で1サイクルという、滅茶苦茶に長い波なんだと。

つまり“大海崩”は、106年を1サイクルとする “重力津波”、と言う事らしい。」

「「「「「“重力津波”・・・。」」」」

「・・・それがG弾の影響で引き起こされると言うわけね。でもG弾の付与した影響は乱数指向性だから本来影響無いんでしょ?」

「乱数指向性じゃなかったら、既に関東は沈んでいる。シミュレーションで使ったG弾は50発。それで5,000m級の津波を生み出した。
50発で5,000mなら、横浜の2発でも200mだろ?」

「・・・200mの津波?、関東平野は沈んでいるね。」

「そう、横浜だけなら問題ないとさ。残された重力偏差が乱数指向性だから。
けど、横浜と違う場所でG弾が使用されると、波動の重畳という作用が起きる。
乱数であった指向性が、2点間のベクトルに直交方向で整えられる。」

「!!、それが波動の重畳?」

「ベクトル積とかテンソル積とか言っていたけど、細かい式はオレには無理。
ただ地球重力圏に対する固有周波数では共鳴されるカタチで重畳されるらしい。
それでも“2点”までは、まだ重畳された結果のベクトルが一定方向では無いために、地球重力圏を振動させる起振力としては足りないとの事で、“大海崩”には至らない。」

「・・・・ちょっとまって!、2点間のベクトルに直角の方向に重畳されるの?、じゃあ3点以上になったら・・・・・。」

「 あ 」

「 え 」

「・・・・。」

「・・・鋭いな、そういうコトだそうだ。
G弾の動的重力偏差が3点以上になったとき、元々乱数指向性だった波動は、地球重力圏の固有周波数を有する波に関して、3点が形成する[]に対して垂直な方向、つまり地球地表面の3点で言えばどんな取り方をしてもほぼ重力方向[●●●●]に重畳される。

これが“大海崩”重力津波を引き起こす原理だそうだ。」

「「「「・・・・・。」」」」

「・・・不安か?」

「・・・いえ・・・、ただ・・・そんなの良く予測できたな、と思って・・・。」

オレもそう思う。と言うか、それが結果を知っている強みだと彼方にも言われたわけだ。

「・・・ま、G弾を使いたがって居たのは米国だけだからな。
他の国は基本反対だった。ただ他に手段がなく、使うか滅びるかその二者択一を迫られていただけだ。」

「「・・・・。」」

「皆に与えられたXM3装備の弐型、・・・慣熟してBETAなんかに負けると思うか?」

「「「!!」」」

「・・・負けぬ、・・な。」

「・・・だね。」

「そうだ。・・・ここで詳しいことは言えないが、明後日にはA-00部隊も遠征に赴く。お前らも一緒だぜ。」

「え? 遠征?」

「ああ。・・・BETAに対する人類の反撃の狼煙。その魁としてな。G弾なんかで自滅したくないだろ?」

「・・・当たり前ね。」

「・・・ウム!」

見回したオレに、207Bの皆は確りと頷いてくれた。


Sideout



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