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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/06/05 13:06
'13,01,17 upload ※亀更新ゴメンナサイm(_ _)m 明けに1週間無NET環境に居たら細かいプロットが飛んでしまった^^;
リハビリに1週間、まだなんか変・・・。
'13,05,10 誤記訂正
'13,05,15 誤字修正
'15,01,04 斑鳩閣下の名前変更
'15,01,24 語句統一
'15,06,05 誤字修正


Side 巴


耳障りな警戒音がコックピットを満たす。
点滅するワーニングの表示。

中隊単位の対人演習のさなか、相手は国連横浜基地の極秘特務部隊という美味しい設定だったのに・・・。
対峙していた国連ブルーのXFJ Evolution4が、長刀を退いた。
網膜投影の中にその甥っ子と幼なじみが現れ敬礼すると、XFJ Evolution4は一気に噴射跳躍で離脱した。
仮想空間であるがこのまま引き続き、次の“状況”に移行する。

同時にV-JIVESに於いて対人戦で撃破されていた部隊の機体や、自らの機体もその損傷がリセットされ、自分の小隊、及び各中隊を預けた部下達の顔が次々と網膜投影にポップアップしてくる。

その網膜に映る部下達の表情も、鳴り響くアラートに一葉に諦め顔。
そして告げられるアナウンス。


『―――Code991、Code991発令。全軍直ちに対人演習を終了し、対BETA防衛戦に移行せよ。
繰り返す。Code991、Code991発令。全軍直ちに演習を終了・・・・・』

案の定の中身を聞きながら、部隊間通信に言葉を被せる。

「各個、状況終了に伴う機体・装備の検証を行え!
不備あらば即刻各小隊長に具申しろ!」

『『『『『『『 Yes、Ma’am!』』』』』』』

不特定多数の返答が届くのを聞きながら、これで何度目だろうか、と頭を巡らした。





帝都城内のシミュレータ、そして北の丸駐屯地に属する帝国斯衛軍第2連隊に属する戦術機にXM3正規版が導入されたのが、先々週末。
それ以降、先週の始めから連隊規模で行って来たのが、このBETA新潟上陸に対する防衛戦を想定したシミュレーション演習だった。
これは殿下より内々に打診されたXM3検証の為の実弾演習、正確には11月11日を中心とした5日間の大規模な実弾演習がその後決定され、それを想定した訓練である。
つまりは斯衛軍がBETA侵攻戦を前提としたJIVESによる大規模実弾演習を計画、その演習地として新潟近郊を選んだ、と言うことだった。
そして実際にその地を護る本土防衛軍にも協力・参加要請を打診したのだ。

本来皇帝家や将軍家を含む五摂家の守護を預かる斯衛軍が、対BETA戦闘をしたのは首都防衛線に端を発する撤退戦とその後のBETAの関東侵攻、特に多摩川まで押し込まれた横浜侵攻戦までだ。
その後の横浜ハイヴ攻略・本土奪還戦に於いては、基本帝都防衛に廻り、前線での接敵はほとんど無い。
実際、’98年のBETA東進迄で、軍としての斯衛全体の損耗も50%近かったのである。
今現在で残っているのは、帝都城やその周辺を警護する第1、第2連隊、そして皇帝のおわす第二帝都城、仙台周辺を警護する第24連隊の3連隊と精鋭たる遊撃である第16斯衛大隊、あとは調布基地の実験中隊等分隊がいくつか、更に個別に警護を行う独立警護小隊が若干数存在するだけである。
総数としては1個師団に届くかどうかという規模だった。
そしてそのほぼ3割が、’98年以降新規に任官した新兵ばかり。第1連隊も第2連隊もつい先日漸く定数に達したばかりなのである。
それもつい先日此処に来て、極秘事項ながらさらに警護対象が増え、第1連隊・第2連隊からそれぞれ1大隊づつを派遣しており、再び定数を一気に割る状況に陥った。
故にBETA実戦を経験して居ない、即ち“死の8分間”を潜り抜けていない者が3割近く存在する、と言う事に他ならなかった。

しかし事実上喉元に刃を突きつけられている帝国の現状に在っては、斯衛と言えど一度事が起きればBETA侵攻の前面に立たねばならない。故に3割が新兵では話にならない。
此度の演習は、その様な状況を鑑み有事の際に備える、と言うことから計画されており、流石に幕僚参謀本部も異を唱えず、対応を実際に新潟沿岸を警護する東部方面参謀に丸投げした次第であったという。



そしてその連隊規模の仮想演習を実現しているのが、搭乗する戦術機そのものをシミュレータ化し、連隊規模の演習すら可能とする大規模通信シミュレータ。
通称でV-JIVES とかVartual-JIVESとも呼ばれている。

元々JIVESに於いては、実際に戦術機を動かすことにより機動関連の演算を絞って演算量を減らすことでデータリンク時の負荷を減じ、現状実装された戦術機のCPUで仮想空間構築を可能としている。つまり戦術機の機動によるよる複雑な反力やモーメント計算を全て現実挙動で済ませ、対象であるBETAの挙動やその接触に因る反動や効果のみを計算することで成立させているのだ。
しかし、その為には対象となる部隊規模が、実際に機動する広大な演習区域が必要となり、加えて現実に消費される推進剤、反動を考えれば実弾、と言った物的消耗が発生することとなる。

しかしV-JIVESに於いては、XM3用に換装されたCPUの大幅に上昇した演算性能により、自らの戦術機そのものの複雑な挙動計算を可能とした。これによって戦術機の現実機動を伴うコト無く、仮想空間に於ける機動を完全再現し、データリンクを介し大規模な師団規模のシミュレーション演習を現実のモノとしたのだ。
勿論その演算は重く、XM3用のCPUでなければ実現しない為、現状帝国軍に頒布されているXM3LITEでは実現出来ていない事が難点であるのだが。
それでも機体や弾薬を消耗するJIVESではなく、仮想現実で師団規模の演習が可能なシステムは、連隊規模の戦術を検証する上で、極めて有用なシステムとなった。

それを用い、昨日からは、国連横浜基地と基地間通信を利用して大規模な演習を行っているのである。





『―――状況。』

連隊長・大隊長クラスへの秘匿回線が開く。
相手は〈Thor-1〉=国連太平洋方面第11軍A-0大隊A-00戦術機概念実証試験部隊の隊長機。先刻まで対峙していた甥っ子の機体。ぶっちゃれば、白銀少佐:タケ坊の複座に座るそのナヴィゲータ、鑑少尉:タケ坊の幼馴染純夏ちゃんの声だ。

実は横浜基地に所属する機密部隊がこの演習に参加するように成ったのは、今週に入ってから、つまり昨日から。
参加したのは、国連太平洋方面第11軍A-0大隊に属するA-01中隊・伊隅ヴァルキリーズと呼ばれる〈Valkyrie-01〉から〈Valkyrie-12〉の12騎、そして先のA-00中隊から隊長機である〈Thor-1〉が1騎。
因みに同じ部隊に所属し、プロミネンス計画のブルーフラッグでラプターを撃破したと話題の御子神大佐と篁大尉の参加は今日もない。
A-0部隊については連絡用にそれぞれの中隊長名は知らされているが、極秘部隊ゆえ、その他の隊員名や顔は網膜投影にも映されないし、声も直接にはやり取りできない。本来は鑑少尉の名前も当初確認できなかった。
また演習という公務中であることもあり、個人的私的会話など気軽にできる環境ではなかったが、昨日の演習参加でタケ坊の幼なじみ、純夏ちゃんの生存を確認したのである。
BETAの横浜侵攻時にMIA=死亡とされていただけに、嬉しい限りであった。
もちろん、昨日の演習後に短いが挨拶をされた。タケ坊には一度連れてこい、とは言っておいたが・・・。


『0926、BETA群はH21ハイヴ主縦坑近くの開孔より湧出、両津湾より海中進攻に移行。
 1028、BETA群は佐渡海盆を迂回し北東部より南下を開始。
 1036、開孔よりの湧出停止、進攻規模は、確認された中型種以上で約10,000。
 1043、総数の10%が南下に転じたことより、帝国軍東部方面参謀本部及び斯衛軍統合司令室は、旅団規模の本土侵攻と断じ、Code991を発令、新潟を中心とする海岸線一体にデフコン-1を通達。
現在帝国本土防衛軍第12師団が該当地区に展開中。』

過去聴き慣れたよりも少し大人びた声で、まるで見ていたように告げる〈Thor-1〉。
話しているのは複座に座る鑑少尉なのだが、その言葉は〈Thor-1〉、つまり国連太平洋方面第11軍A-0大隊長:白銀武少佐の言葉と同義となる。

そしてその言葉の正確さは、既に昨日目の当たりにしていた。




実際にこの演習に携わり、そしてまったく、と頭を抱えてしまったのが、事此処に至っても未だに帝国軍と斯衛軍、そして国連軍は命令系統が全て異なると言うことだった。

勿論今回の方面参謀本部や斯衛統合司令部は情報交換も協力体勢も取ってはいるが、基本的に上に成ればなるほど仲が悪い。
特に本丸の幕僚とも成れば例の九條も絡み始め、斯衛上層部との仲は壊滅的だ。
それが判っているから流石に有事の際の命令系統は現場、各方面隊の参謀本部が執る。
それでも、今回のように斯衛、そして更に帝国軍には嫌悪すらされている国連軍が出てきた日には、混乱すること必至なのが現状である。

事実、先週までのシミュレーションに於ける結果は散々だった。


現状帝国本土防衛軍は、このシミュレーションには参加していない。
と言うか、帝国軍に頒布されたXM3はLITE仕様のためこのV-JIVESに参加できない、というのが正しい。
故にこの演習において帝国本土防衛軍は全てがNPCとして動作していた。
それは、全く別の命令系統で、勝手に動く部隊。
シミュレーションの中で、彼らはNPCで在りながらその動作は“如何にも” 帝国本土防衛軍が取りそうな行動パターンを示す。
そりゃあもう、苦笑が漏れるくらいに・・・。



元々皇帝家や将軍家を含む五摂家の守護を本分とする斯衛が、海岸線の上陸侵攻を防衛する状況に成ること自体が稀有である。
今回の演習やその目的は前述の通りだが、斯衛その本分に悖る、との指摘があったのも事実だ。頭の堅いモノは、何処にでも居るのである。
その指摘に対し、煌武院悠陽殿下が視察に赴く、という付帯事項を発端とし、実弾演習は一気に実現へと傾いた。
お飾り、と認識されて久しい殿下とは言え、皇帝から国政の全てを預かる名目上の国家元首。
その為、殿下の視察とそれに伴う実弾演習として統合幕僚監部でも特に問題なく受諾された。

実弾演習の際の協力や配備に付いては、現場である東部方面参謀が受理し、推進している。
と言うか、寧ろこちらは協力的。
実際、現場の将兵は帝国軍でも元々陸軍出身者が多く、その後大陸派兵からの帰還や陸軍そのものの損耗に依る再編で本土防衛軍に組み込まれた。
故に将軍家や殿下に対する忠誠は元々の本土防衛軍よりも高かったりする。

その殿下が帝国斯衛軍第2連隊中2大隊と第16斯衛大隊を警護と言う名目の元に最前線を訪れ、演習を視察するのである。
この管区を担当する第12師団が逸らないわけがなかった。

先週からずっとV-JIVESで行っている演習は、そんな裏事情を加味し、第12師団相当のNPCと共に対BETA戦演習を行う、という内容なのだ。
恐らく現実でも第12師団は第12師団で実弾演習に向けた演習を繰り返している事が容易に想像できた。




そしてコレだけ繰り返し行う演習の中で余りにも心許ないのが、BETA侵攻防衛戦に於けるBETA情報の少なさだった。

先週までのシミュレーションでCPより通知されたのは、BETAがH21から湧出した時刻、海中侵攻した規模程度で、事前情報としては大まかな上陸予測地点が示されるのみ。
場合によっては200km近い日本海沿岸が対象となるのである。
上陸が開始されれば、レーダー網で位置は判る。沿岸でも一部地区には海中にもパッシブソナーが配され、100m程度の接近は感知できた。

だが、それでは圧倒的に遅いのである。

元来人類との意思疎通など出来ず、何を考えて行動しているのか今以て全く不明なのがBETAである。
同じ炭素系生命体に見えるが、実際には呼吸もせず、宇宙空間ですら活動できる。
現時点でH21から湧いたBETAが何処に向かうのか、すら解らず、上陸されて初めて侵攻された、と認識される。

なので、今回も初期の演習に於いては、Code991とデフコン1の発令に本土防衛軍NPCは過敏に反応。
大まかな上陸予測地点に大挙殺到して迎撃する。
しかしそれは最終的に相対する総数すら不明の迎撃戦。
それ故、最初は戦線維持しているが、やがて戦域毎に上陸するBETA数が異なるために応戦する友軍には戦域毎の過不足が生じる。
それに対してCPである方面参謀本部が各戦域の状況を見ながら戦力を割り振る、と言う図式になる。
それでも今回の布陣に付いてのみ言えば、戦線に穴をあける前に斯衛が適宜補佐出来ればいいのだが、今度は指揮系統が異なるため、方面参謀本部からの要請は遅れ斯衛は更に後手に回り、結局穴の開いたエリアでの防衛線に移行する・・・。

元々10,000を越える侵攻BETAに防衛戦力として余裕などあるワケもなく、更には状況を見ながらの配分であるため、一箇所に大量のBETA上陸が発生した時など、どうしても後手に廻り、結果戦線のそこ此処に穴が開く状況になる。

今回示された戦域も弥彦山から新潟空港付近まで、海岸線で約50km。
NPC帝国本土防衛軍を含めて全戦力とみなしても、今回参加する部隊人員は戦術機全部で100エレメント程度。
その人員で海岸線を全て網羅するとエレメント単位の守備範囲は500m。
侵攻規模が10,000ともなれば、その500m範囲に100体が上陸するわけだ。
つまりは戦術機2 vs BETA100と言う現実。
XM3が実装されたとて、全ての衛士がタケ坊の様に動けるわけがないのである。


これが先週までのシミュレーションの流れ。

最初の演習に於いては、本土防衛軍NPCの8割を損耗し斯衛軍も19騎を失うていたらく。
XM3に完熟しつつ在る中でこの数字なのだから、それがなければどうなっているのだろう。
斯衛も全てが抜かれ、関東への侵攻をも許したかも知れない。

結局10,000のBETAですら防御するのは危うい、それがこの国の現状であると、改めて思い知らされた。


初回以降、それでも大隊間の連携を強化し、NPC帝国軍を補佐するように廻り、穴を埋める指示を繰り返すが、シミュレーションに於けるBETAの侵攻方法も毎回同じではない。
その時々で時間や出現パターンを変えてくる。
それに対処をしながら次々と露見する問題点を検討していく。

最終的に先週土曜の結果として、帝国軍NPCの損耗は半数近い52騎、斯衛軍も7騎の犠牲に抑えることとなったが、逆に言えばそこまでしか出来なかった。
これは、新潟防衛線を想定した此度の大規模実弾演習視察に於いて、とても殿下の前で披露できるレベルではなかった。






その暗鬱な空気をひっくり返したのが、昨日の〈Thor-1〉白銀少佐と鑑少尉だった。



『続いて、BETA上陸予測。』

来た。

『第一波。
1117 旧新潟空港周辺 推定数500
1120 西海岸公園 推定数600
1120 海辺の森 推定数700
1122 小針浜海水浴場 推定数800
1122 五十嵐浜 推定数700
1123 四ツ郷屋海水浴場 推定数600
1130 越前浜海水浴場 推定数500
1133 角田浜海水浴場 推定数400 』

今回は上陸地点が多い。
今までは上陸地点が絞られ、2,3箇所からの上陸が延々と続く蟻の行列の様な侵攻だった。
それが今回は8箇所からほとんど時間差無く上陸を敢行すると言うのだ。

『続いて第ニ波。
1204 旧新潟空港周辺 推定数500
1208 西海岸公園 推定数500
1209 海辺の森 推定数600
1210 小針浜海水浴場 推定数800
1213 五十嵐浜 推定数900
1214 四ツ郷屋海水浴場 推定数800
1220 越前浜海水浴場 推定数600
1222 角田浜海水浴場 推定数500 』


ちらりと時計を見る。1049―――。第1波まで30分無い。
今回のBETA侵攻は面制圧、それも2波に分けた旅団級。
実際新潟沿岸は平で断崖が無いため、広範囲から上陸が可能である。前線防衛として海岸付近には地雷が敷設してある地雷原があるが、これらは数にもカウントされていない小型種が特攻して起爆してしまうだろう。
BETAの上陸は遅くとも5分で100体、開けた地形ならその倍、200体が一気に上がる。
先週までの設定でも、此処まで大規模な同時侵攻はなかった。



けれど、と思う。
欲しかったのは、正しくこの情報。

先週一週間、防衛戦を繰り返して想ったのは、海中からの上陸際を叩きたい、と言うことだった。
さしものBETAも海中では動きが鈍い。加えて一番厄介な光線属種の照射もない。
だが、海中のBETAを捕捉する装備に乏しく、哨戒艇などを用いてソナーを駆使しても得られる情報に対し、佐渡ヶ島からの照射リスクが高い。
大規模な湧出は衛星から監視できる。海中に於けるBETAの動向は、得られれば僥倖、位の扱いでしかなかった。

しかし昨日、演習後に交わした話によれば、鑑少尉はBETAの行動をある程度予測できる装備の、現状唯一の適合者である、ということだった。
詳細は機密とのことだったが、正確な予測は、V-JIVESのシミュレーション情報を不正に得ていたわけでなく、現実に新潟でも実現しうる観測・予測情報なのだという。


元々佐渡からの本土侵攻は、本土に最も近い羽茂港辺りまで陸上を移動し、そこから三条から柏崎にかけての沿岸に上陸する、と今までは考えられていた。
今まで小規模単位のBETA上陸はほとんどがそのルートだったからである。

元よりBETAの海中侵攻は、泳いでいるわけではなく、海底を踏破して渡ることが観測されている。地球産の動物種と異なり、その比重が1.2近いBETAは泳ぐことが出来ない。呼吸を必要とせず、肺の様な大きな浮き袋も持たないからだ。

しかし今回の想定の様な大規模侵攻に於いてBETAは、H21から近い島北東側のクビレ部である両津港周辺にて入水し、海底を一旦北東に進んだ後転進して南進、新潟から弥彦山のエリアに上陸する、これが鑑少尉が弾いた結果だった。

それは、佐渡南岸の海底に佐渡海盆が存在している事による。
海盆はその名の通りお盆状に海底が陥没している地形であるが、佐渡海盆は佐渡ヶ島付近では急峻に切り立って沈下しており、その斜度は30度を越える。
元々突撃級や二足歩行である光線級・重光線級などは、陸上でも斜度が急な山地を迂回する傾向が強く、一種の集団行動をとる大規模侵攻に於いては、海盆を迂回することが妥当という予測だった。

そして佐渡海盆の南西側は地形が複雑に入り組み、ほぼ海底が平坦なルートは、ほとんど幅のない狭い峰の様な状況となっている。
その為、小規模の斥候個体などが通過するには問題ないが、大規模な集団となると縦に長く細くならざるをえない。

先週の演習時、三条や柏崎に上陸した侵攻モデルに於いては、それを考慮してか、確かに細い上陸が延々と続いた。


他方佐渡海盆を北東部に迂回すれば、若干の遠回りにはなるが、その後新潟付近の海岸は、ほぼ平坦となる。
大群の移動に対するボトルネックが存在しないため、上陸時には大規模な水平展開が可能となり、今回の演習で示されたような面制圧に近い侵攻となる。

・・・一番厄介なパターンだ。


予測された現実に起こりうる主な大規模侵攻パターンは、その2種のルートを中心にあとは比率だけの混合型、と鑑少尉により予測されていた。
当然先週からのシミュレーションにも反映されているわけで、道理で様々な出現状況があり得る訳だ。



そして精緻な観測と行動原理に基づいた緻密な予測。
BETA情報が一変するわけだった。






『帝国本土防衛軍は、旧新潟空港周辺、西海岸公園、海辺の森周辺に、戦術機部隊・戦車部隊各3中隊を中心に配備中。』

鑑少尉の観測報告は方面参謀本部にも通している。

昨日、齎された鑑少尉の予測と、その正確性が実証されたため、参考情報として方面参謀にも通知することとしたのだ。
シミュレーションに於いてNPCにそんな情報が必要かと言われるかも知れないが、このNPCを形成するAIは、実際の人間が操っているのではないかと疑うくらいに聡い。
事実昨日までは闇雲に吶喊していたのに、今回は与えられた情報と自分たちの位置、そして戦力から対応できる範囲をきっちり抑えてきた。

面制圧に出てきたBETAに対し、下らないプライドで戦力を散らせば、飲み込まれるのが判っている。今現在各方面隊のトップは、国内のぬるま湯に浸かってきたものではなく、大陸派兵や本土防衛で最前線に立ち続けた陸軍の将兵である。BETA相手にプライドなど何の価値も無いことは骨身に染みていた。
その気質さえ再現したAIなのだ。
つまりはXM3教導におけるナヴィゲーションAI[まりもちゃん]アグレッサーAI[たけるくん]と同等の“人格”を有しているのであろう。
ならば命令系統上、混戦は避けたい。エリアを分けているのなら分担して事に当たるのが妥当、との判断をNPCのAIが行っている事に呆れる。
それも、恐らくは昨日の演習に於いて、1個中隊+単騎で2,000のBETAを喰った〈Thor-1〉タケ坊とヴァルキリーズの戦果も考慮してのことだろうから。





此方、擁する斯衛軍の陣容は3個大隊総数108騎。
とは言っても、実際の演習に於いては、殿下が視察に来るため、1個大隊分はその警護に動けない。

BETA上陸予測では中央部の密度が濃い、が第2波では若干西側の密度が上がる。
その数から齎される面密度は斯衛と言えど1エリア辺り2個中隊でギリギリ。
だが、先週からのBETA漬けで最初は呆気無く死んでいたルーキーも腹が据わって来ていた。

昨日はその情報そのものに振り回され十全の戦果を出せなかったが、今日からは違う。


「・・・白銀少佐、これは命令ではないが、越前浜と角田浜をA-0大隊に任せていいか?」

『は。了解しました。』

帝国軍と違い最早斯衛軍に国連横浜基地、特に白銀少佐に対する侮蔑や軽視はない。自らの生存率を上げるXM3を実現し、その教導に於いても多大な恩恵をうけている。
示す技量は衛士の極み、単騎世界最高戦力と言って憚る者のない“白銀の雷閃”。

そして白銀少佐に鍛えられた“戦乙女”もまたその名に恥じぬ輝きを魅せた。


昨日の演習にて、A-0大隊の後援もあり、斯衛軍は初めて死亡判定0を達成したのだ。
帝国軍NPCの損耗も、現段階で19騎に迄減少出来ている。
現地に於けるJIVES演習にて、どこまで詰めることができるか。



「・・・では、第2連隊は第4大隊、403中隊は護衛として待機、401、402中隊は小針浜。
第5大隊、同じく503中隊が待機、501、502中隊は四ツ郷屋に向かえ。
・・・五十嵐浜は任せて良いな、崇継。」

『承りました。』

16大隊も同様に1個中隊を護衛相当として残す。予定総数が最も多いエリアだが、そこは武御雷配備の精鋭部隊。存分に働いてもらおう。

「・・・では各機散開!、BETA共を蹴散らせ!!」

『『『『『『『 Yes、Ma’am!』』』』』』』


Sideout




Side みちる


『光線級6体、重光線級2体、上陸まで60秒。位置37.80191、138.82959、角田浜ほぼ中央。』

部隊間通信に鑑の声が徹る。
部隊中心から海岸までは凡そ200m。先鋒の突撃級を平らげ、要撃級と戦車級の掃除に掛かったところ。
新潟だろうがヴォールクだろうがBETAの動きには変わりがない。XM3に最も早くから馴染んできた隊のメンバーは、今朝の段階で全員がレベル3に上がった。

「〈 Valkyrie-06[風間]〉、〈 Valkyrie-08[朝倉]〉、迫撃榴弾装填。40秒後に指示ポイントに発射して。」

データリンクに依る情報が展開されているという中隊CP、私の複座に座る涼宮が指示を飛ばす。

『『了解』です』

「〈 Valkyrie-07[遠乃]〉、〈 Valkyrie-05[相原]〉重光線級は火力が足りないから120mmで狙撃できるポジション確保、各エレメントバディはフォロー。」

『『了解』よ』

基本、鑑は観測機材による精密なBETAの行動予測を頒布しているに過ぎない。
だが、それがどれほど重要か、思い知らされた。
物量が最大の脅威であるBETAとの戦いは、いつ尽きるとも知れない相手との消耗戦だった。
倒しても倒しても湧いてくる。
弾薬や推進剤、そして装備や機体に到るまで、無限ではないのだ。
常に尽きるかも知れない不安の中戦闘を継続するのは極めて過酷な状況である。


『角田浜第1波、残り300。』


その“果て”を知らせてくれる鑑。彼女が司るは、対BETA戦術支援システム・“森羅”。


現実の佐渡ヶ島周辺や今回の戦域を囲むように多数設置した3次元フェイズドアレイレーダーに加えて本格的な本土再侵攻に備え、各種の地下探査加速度センサアレイ。域内の海底にも多数設置された水圧用圧力トランズデューサアレイ、パッシブ・アクティブのソナー。
更に佐渡付近の海中にも無人自律制御のエコーやソナー。

立体的に配置されたそれらのセンサーを用いて、フェーズド・アレイ・レーダーやその発展形ともいえるデジタル・ビーム・ホーミング(Digital beam forming)をオープンエリアのみ為らず、海中や地下に対しても行っている。
構成された超高感度のマイクロフォンが拾う圧力変動の位相差、そして周波数レンジから、動体の個体数やそのサイズ、移動速度、移動方向まで割り出す。
中型以上で10,000、小型種まで含めれば、15,000に届こうかという群体に対し、その動きをトレースしている。

海・陸・地下の大規模探知網を構築しているという事だった。
それらの情報をリアルタイム処理するシステムが鑑の適合している装備なのだと聞いた。

つまりは海底を侵攻するBETAの動向を常に把握出来ることに成る。

そんな事が出来るなら早く遣ればよかったのでは?、と言いたいが、コレだけの数の多点参照フェイズドアレイシステムを構築するには、通常駆逐艦級1隻分の大規模クラスタが必要になるという。
野戦と成る迎撃戦でそれだけの設備を構築する余裕など無い。

それを鑑は操ることができる、と言うことだ。


そして鑑の操る“森羅”は、それだけに留まらない。
観測された情報に基づくBETA行動予測。
そうして得たデータから、BETAのプロファイリングモデルを介し、その行動や侵攻方向を“予測”している。
そのモデルも過去観測されたBETAの行動についても在るだけプロファイリングし、構築されたBETA行動モデル。
それに拠って、BETAの大規模侵攻ルートも絞り込めた。



それらの情報を各大隊や中隊の指揮官に送り、殲滅のその手法自体は任せてしまっている。
鑑のコールサインは〈Thor-1〉、A-0大隊長の白銀と等しくなり、その言は隊長権限と成るため、“命令”も可能ではあるのだが、それはしない。
それは涼宮も判っているらしく、与えられた情報の整理と戦術の構築によって任された戦域のBETA殲滅を全うする。


今もそれら与えた情報から、分散した各部隊に対し、侵攻状況とBETA行動の変化、次の状況を個別に伝え続けている。
明確な情報が与え続けられれば、“終わり”が見えているし、到底殲滅不可能な物量なら“撤退”
も可能。勿論、戦域全体を俯瞰している鑑は、他所に余裕が生じれば、兵力を回すなどの“要請”も行うだろう。

そう、鑑が“森羅”で把握しているのは、BETAだけではないのだ。

地形・天候・環境からBETA動向、対する友軍や、今は居ないが第3勢力的な存在に到るまで、“全て”を把握するかのような存在。
ユーコンで御子神大佐が打ち破ったという“戦域支配戦術機”。
今鑑は、“森羅”を用いて本当の意味での“戦域支配”を実現して見せていた。

今は既にその言葉を疑う者も居ない。
昨日今日のたった2日で、その情報や予測の有用性を見せつけた。


・・・唯一の弱点は、量産が効かないことね。

上官の言葉を不意に思い出す。
なるほど、生半可な攻撃用新装備よりも遥かに有効なシステム“森羅”。
量産化し、ユーラシア全土に張り巡らせることが出来れば、BETA殲滅も夢ではない、と言うことか。



『角田浜第1波殲滅完了―――。』


埋め尽くすようなBETAの中にあって、白銀のXFJ Evolution4だけは、無人の野を往くが如く。


突撃級の背中を八艘飛びし、光線級の照射さえ初期照射で躱す技量の持ち主には、この程度の面密度もはや“作業”のレベル。
“面”ではなく、幾重にも重なったBETAの“津波”ですら経験してきた者なのだから。


尤も、白銀も能力では“化物”クラスだが、その機動を行う戦術機に同乗して、平然と状況を伝える鑑も同類だ。



XM3、そして“森羅”、それを実戦証明するという新潟実弾演習。


・・・中々愉しいコトになりそうだ、と思うのは不謹慎なんだろうな。


Sideout



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