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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/05/06 12:07
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'16,05,06 タイトル修正



Side ユウヤ


リルフォート歓楽街地区。
幸いにもテロや侵攻したBETAの被害を受けなかった一角に、今のオレ達のいきつけがある。
前とは違い、無愛想なマスターのやっている店だが、料理と酒の品揃えは良い。
皆も必要以上に馴れ合うのを無意識に避けているのかもしれないが、今はそれが気楽だった。


集まっているのは、アルゴス小隊のメンバーに、専属整備のヴィンセント、XFJ計画専任オペレーターのリダ・カナレス、ニイラム・ラワムナンド、フェーベ・テオドラキスを合わせた8人。
所謂いつもの面子。
唯依やドーゥル中尉、そして御子神大佐は後から来るとの事だった。


そう、本来ならアルゴス試験小隊のブルーフラッグ祝勝会であった。

プロミネンス計画に参加したインフィニティーズは、謂わば米軍の圧倒的有利を知らしめる示威行為そのもの。
明らかに上から目線の米軍に喧嘩を売られた様なものだったのだ。
所詮寄せ集めでは、明確な軍事ドクトリンに基づく米国製戦術機には及ばない、という無言の圧力。
その為にも圧倒的な戦力と技能を有する全米最強部隊を送り込んで来たのだ。

だが圧倒的に有利と思われたステルス性を持つF-22EMDを、プロミネンス計画側のアルゴス試験小隊が正面から打ち破り4-0と言う完全スコアで勝利したのである。

これは基地上げてのお祭り騒ぎになってもおかしくない状況だった。



なのにリルフォートが静かなのは、その後に起きた強襲の後味が悪すぎた。


選りにもよってインフィニティズの後催眠暗示に依る、御子神大佐の襲撃。
画策したのは、米軍少将であった基地司令。

国連基地として米軍に対し、当然の激烈な抗議。

それに対し、今のところ米国国防省は、個人的思想に依るテロと回答し、既に航空機で米国内に逃亡した少将は、抵抗を示した為撃墜されている、と聞いた。
そこにどんな陰謀が絡んでいるのか、下々のオレ達には判らないが、撃墜が証拠隠滅であることくらい理解できる。

今中尉以上が居ないのも、その所為で基地上層部は大騒ぎなのだ。


しかも、その襲撃をアルゴス試験小隊が丸腰のまま防いでしまった。

対人戦最強と謳われた実弾装備のインフィニティズを相手に、無手で完全撃破した。
これは、米軍にとっては個人的テロ発生どころの騒ぎではなかった。

圧倒的な実力差が無ければ、そんなことは不可能。
その不可能を、機動により為してしまったということなのだ。

もともと戦術機はその機動性を最大の武器に、対BETA兵器として進化していたモノ。
ステルス性という、対人兵器として特化した機能に偏った戦術機が、本来の存在価値であるその機動性を突き詰めた機体の前に敗れ去る。
それは進化の方向性を間違えた事を突きつけられた様なもの。
ステルス戦術機による世界支配を目論んだ米軍の戦術機ドクトリン、それを完全に崩壊させた。


上級将校の勇み足に見せかけた陰謀の失敗、そしてドクトリン崩壊。

米国国防省や議会まで含めてさぞや全米の軍関係者が蜂の巣を啄いた状態に成っているだろう。



そしてこの勝利によってオレ達XFJ計画に課せられた懸案も全てクリアし、XFJ計画そのものも最高のカタチで完遂と成った。

実際先ほど基地で極小さなセレモニーが行われ、その達成に対する殊勲も讃えられた。
本来は一つの計画完遂であるのだから、基地を上げての祝典とするのが通例ではあるが、大騒ぎの最中である事と、渦中の御子神大佐や唯依は明日にも帰国するため、急遽ハルトウィック大佐が招集した。
プロミネンス計画としても、米軍の横槍を完膚無きまでに叩き潰し、今後国連計画としての独立性を主張出来る。
更には、その機動の原動力であるXM3の供与も約束されているのだからその最大限の感謝を示した、という側面もあるのだろう。
実際横浜で推進されている計画で、XFJ計画の一部を引き継ぐらしく、今後もその関与が示された。
プロミネンス計画やフェニックス計画としては諸手を挙げて歓迎する事だろう。
今後テロやその際のBETA殲滅に対する勲功も合わせ、小隊員は皆中尉に昇格することも考慮されているという。
ただし、その場合はアルゴス試験小隊という枠を越え、XM3関連の教導に携わることに成るというので、今期末に再編含め検討、ということだった。
ここに一緒に居るXFJ専任オペレータの皆に関しては、今後も継続するフェニックス計画専任という事になる。

要するに唯依以外、今後も暫くくされ縁という事だ。



なので、祝勝会に加え、XFJの打ち上げ・解散会、と色々あり、一方でヴィンセントは再び嘘みたいなオッズをひっくり返した第1戦以上の大金をゲット、ついでにCPのオペレータ達の間でも行われた賭けでは、フェーベの独り勝ちという状態。
その金で飲み食いには困らない。

基地の騒ぎや、米軍の激震などオレ達には関係ない。
この一角だけが、盛り上がっていた。


本当は、あんな襲撃がなければ、きっと此処でレオン達とも飲り合っていただろうに・・・・。


あの後、炭素屑に成り果てたF-22EMDから救助されたインフィニティーズは、誰も強襲の事を記憶していなかった。
自分たちが行った強襲の映像を見せられて愕然としていたらしい。
それが操られて悪事の片棒を担がされたことへのショックなのか、実弾装備を以てして無手のアルゴス小隊に敗れた衝撃なのか、判らないが。

検査入院という拘束。暗示が完全に抜けているのが確認されなければ、出てこられない。

その後は、恐らくMPによる事情聴取。

後催眠暗示中で在ったことが証明されればその責任能力はなく、軍事法廷に成ることは無いが、最強の部隊とも言われる教導部隊が安易に暗示に掛けられてしまったコトに付いてはは批判も集まろう。
殲滅についてはインフィニティーズの不甲斐なさを指摘する者もいたが、過去インフィニティーズと模擬戦闘を繰り広げ、その強さを知っている者の方が、その衝撃が大きい。


つまりはステルス無効環境下では、XM3装備のXFJやACTVにさえ競り負ける、と言うことが明確に示された。
強襲に於いて実弾装備をしながら無手の相手に負けた、と言うのは最早何の言い訳もできない。


勿論、そんな事が出来るのは、現状XM3を装備し、CCCAやMACROTまで伝授されたアルゴス小隊だけなのだが・・・。
後催眠暗示中で柔軟な判断はできないとは言え、F-22EMDのアビオニクスと最強と言われたインフィニティズの技量を以てしても、マーカーを振り切り弾幕を躱す機動をされた。
勿論射線予測まで行ったCAP-RTと言う裏技あっての機動だが、事実は事実。
それを御子神大佐だけではなく、オレ達も実施してしまった。
誰でも演繹出来、普及可能である、という証明に違いはなかった。。


そう、それを知らない一般の観客は、3対1でも正面からぶつかり、勝利したアルゴス隊を絶賛した。
アルゴス試験小隊は、“ラプター・クラッシャー”と渾名されているという。
ヴァレリオに依れば“キラー”ではないのがミソ[●●]らしい。

しかし、一方で1対3という圧倒的に不利な状況に於いて逃げに徹し、相手の消耗を誘った戦術は、そのまま見れば“卑怯”とも取れた。
相手の消耗後に手足を引きちぎったやり方もやり過ぎた。
故に御子神大佐を積極的に賞賛する声は殆ど無かった。


「しかし、オレも片付けに駆り出されて観てきたけど、確かに凄いね、御子神大佐は。
あのラプターの手足を無手であんな壊し方する人は初めて見た。
余程戦術機に詳しくて、機動を理解し、そしてユウヤの言うMACROTを極めて居ないと無理だね。」

「あれは・・・、ちょっとエグ過ぎです!」

「ドS・・・。」

「鬼畜ね。」

オペレータ3人娘が口を尖らせる。あの蹂躙戦は余程怖かったと見える。リダなんか涙目だ。
あの時皆が幻視したという、御子神大佐が纏った黒い霊光に、少なくともユーコン基地では“漆黒の殲滅者[ダーク・アニヒレーター]”なる二つ名まで定着しつつある。
これも“ブラック”ではなく“ダーク”なのがミソ[●●]だとか。


「・・・そうだね。
大佐は多分、もっと簡単に済ますことも出来た。
マークを振り切る機動が可能なら、逃げずに仕掛けることも出来ただろうな。」


・・・流石にヴァレリオは解っているか。


「! なのに嬲るように消耗を誘ってから、手足をちぎったんですか?」

「超ドS・・・。」

「極鬼畜ね。」


ヴァレリオが苦笑している。


「・・・インフィニティズは後催眠暗示で周囲の状況なんか頓着していなかったからな。
誘えば乱射する彼らを、フレンドリィファイアで潰すのは、簡単だっただろうな。
・・・・但し、その場合、彼らはタダじゃ済まないけどね。」

「!!・・・・・」

「まさか・・・?」

「そんな・・・!」

「・・・・戦術機はああなっても、大佐に斃されたレオンとガイアスはカスリ傷もないとさ。
ブレーザー中尉は打撲で、シャロンはおでこにコブ作ってたなぁ~。」

「・・・うっせ。あれでオレはイッパイイッパイだ。」

「う~~~、あたしも遣りたかった~~っ!!」


チョビが騒いでいるが、オレは、オレ達は思い知っている。
インフィニティーズに勝てたのは、偏に御子神大佐の齎した装備・戦術故であることを。
そして、その装備を100%使い切る技量―――。
“紅の姉妹”、“衛士としての篁唯依”以上に遥かに遠い、目標。

恐らくは装備・戦術・技量、何れも人類の最高峰。
其れが御子神大佐であり、そして白銀少佐なのだ、と・・・。




カランっと音がして、扉が開いた。


「・・・すまん、遅くなった。」

「唯依、遅いぞ~・・・って唯依だけ?」


入ってきたのは、唯依一人だった。
私服にフライトジャケット、手には四角いアルミケースを持っている。


「あ、うん・・・。
ドーゥル中尉と御子神大佐は、事後協議でどうしても抜けられないそうだ。
楽しんでこい、と私だけ来ることになった。」

「ちぇーっ!、大佐と飲みたかったなぁ・・・。」

「お詫びに支払いは、全て御子神大佐が持つそうだ。」

「流石大佐! 太っ腹だねぇ!!」

「それと・・・、あ、マスター、差し入れの持ち込みなのだが、構わないだろうか? 持ち込み料は支払うが?」

「10ドル・・・、が正規だが大佐にはこの前キングサーモンも戴いた。
フリーで構わん。」

「ありがとう。ではシャンパングラスをお願いしたい。」

「唯依、それは?」

「勝利と、襲撃の際の援護、その礼だそうだ。」

「そんな・・・、装備を揃えてくれたのは、大佐なのに?」

「そんな事はない。
実際みんなは、実弾による命の危険さえ顧みず、援護に廻り、見事指揮機を斃した。
与えられた装備を短時間で使いこなし、勝利に結びつけたのは紛れもなく皆の技量、と大佐も賞賛していた。」


顔を見合わせる。
VGもステラも素直な賞賛に照れくさそうだが、正直嬉しい。

唯依は、厳重なケースを開く。一部を解除するとプシュっと小さな音がする。


「・・・随分厳重なのね・・・。」

「・・・窒素封入して温度と気圧を管理しているそうだ。
私は洋酒には詳しくないので、よく知らないが・・・。」


そして取り出したのは、極薄い紅を帯びた金色に輝く液体を満たしたボトルだった。

丁度シャンパングラスを持ってきたマスターが固まる。
取り落としたグラスを、オレが受け止める。


「・・・・く、クリスタル・ロゼ・・・?」


ボトルを見れば1983のヴィンテージ。
・・・ルイ・ロデレール?

VGが驚いたように立ち上がり、ステラが両手を口に当てて目を見開いた。


「・・・・・凄えェ! こんなモノが残っているなんてっ!!」

「・・・いいの?、こんなのを頂いちゃって?」

「? 飲まないとあとは劣化するだけだから、遠慮無く開けろと言われたけど、そんなに凄いものなの?」

「・・・・・・・あのね唯依、それは’83年にフランスのシャンパーニュで創られたシャンパンの最高峰と言っても良いお酒なの。
熟成に本来最低でも3,4年掛かるから、欧州陥落の直前に出荷された最後のヴィンテージだと思うわ。
つまり、欧州が喪われた今、2度と創られない幻・・・・。
シャンパンは早飲みだし、保管も難しいから米国国内にだって、もう残っていないかも知れない代物なのよ。」

「・・・今、オークションに出せば、恐らく金満の米国なら好事家が10万ドルは下らない値を付けるだろうな。」

「「「「・・・・・10万ドルっっっ!!??」」」」


知らなかった全員が目を剝き、マスターが頷いていた。


「・・・・・・・そうか。
まあ、・・・御子神大佐のやることだ、今更だな・・・。
敵に回れば峻烈だが、身内と認めれば、途方もなく甘いらしい。
マスターにもこの前のお礼にご相伴頂けと承っている。」

唯衣はそう言って苦笑しただけだった。
・・・なるほど、そう言われればそうだ。
・・・唯依は既に余程驚いてきたのだろう、その達観ぶりで理解した。

そして・・・。コレが饗されると言う事は、少なくともオレ達は、その大佐に認められている、と言うことだ。
それが、何よりも嬉しい。

マスターが抜栓を任され、静かにコルクを回す。
間違っても素人が開けて噴かせるわけにもいかないだろう。


「じゃあ、唯衣、XFJの責任者として一言言えよ。」

「う・・・コホン。
此度はこちらの都合による急な要請と、そして完全勝利での完遂、本当にありがとう。
そして、・・・今後とも宜しく頼む。」

「勿論!」

「当たり前だろっ!」

「こちらこそ。」

「・・・ああ。宜しくな。」

「・・・・では、アルゴス試験小隊の勝利を祝い、人類の勝利を祈願して、乾杯っ!」


キン、と澄んだ音。

口にした高貴な液体は、驚くほど飲みやすいのに、極めて精緻で複雑。口腔に鮮やかな泡を残し、スッと喉を通って行った。










バタンっ!とドアが開いたのは、宴もたけなわ、皆が勝利の美酒に盛り上がっていたときだった。

見ればまだ腕を吊った亦菲が凶暴ケルプの如く仁王立ちしていた。


「・・・ユウヤ! 貴方等一体、何をしたのっ!?」


チョビがその様子にヘヘンと鼻で笑う。


「・・・なにって、インフィニティーズ戦勝利の打ち上げだ。」

「ラプター相手に、完勝、しかも実弾装備相手に、素手で封殺など、あり得ないでしょ?!
一体なんのトリックを使ったのよっ!?」


・・・・成る程、どうやらまだ入院している病院での観戦だったらしい。CPで唯依の解説を聞いていたなら兎も角、大佐が公開した対ステルス装備もまだ聞き及んで居ないのか。


「・・・XM3の話くらい聞いていないのか?」

「!! ・・・・それは・・・聞いたけど・・・だけでじゃ無理でしょっ!?」

「・・・それ以上は、機密だ。
オレの口からは何も言えない。
テストパイロット[●●●●●●●●]として、そのくらい解るよな?」

「!!・・・・。」


悔しそうに目を伏せる。

コイツが絡んでくるのに、弐型の情報収集という目論見があることくらいはオレにだって解る。
その弐型の性能が一気に上がり、あまつさえ最強と言われたF-22EMDを斃したのだ。
各国の試験小隊、そして全ての視線がこちらに向いているのも解る。
今迄はF-22EMDに向けられていたその視線が、弐型に向けられることになるのだ。

・・・・・・・成る程、御子神大佐の狙いはそれ[●●]か。


国連部隊として、適度な情報公開と視線の集約。

XFJが事実上完遂と言いながら、横浜の引き継ぐXFJ。
あの御子神大佐がコレで終わらせるはずもなく、何らかの改修が継続されるのは明白。
その事実を隠すために、此処ユーコンでPhase3 の情報を小出しにする。
全てを引き上げてしまえば、その目は帝国や横浜に集中せざるを得ないが、帝国内より此処の方が組安し、と思うのは仕方ない。
何時までもそれが通用するとは思えないが、きっと僅かな間でも、その矛先を逸らせれば十分なのだろう。

謂わばXFJ情報の陽動部隊なのだ。


XFJをプロミネンス計画に残し、託してくれることで嬉しかった反面、軍略的に何の意味があるのだろうと疑問だった。
それを漸く理解した。

勿論その意義も解るし、そして利用されたとも思わない。
陽動部隊など、本来信用されていない者に任す事ではない。
少なくとも、いくつもの重要機密に関わることを伝授されている身なのだから。
それならそれで、任された事を全うするだけだ。


「今は、チーム[●●●]の語らい中だ。
機密にも関わる。
・・・・関係者以外は、遠慮して欲しいな。」

「!!、私はユウヤのよ「オレは承諾してないぞ」・・・!」


其れじゃなくても、まだ弱っているクリスカやイーニァも居る。
これ以上コイツに勝手に引っかき回されては、オレとしても溜まったものではない。


「・・・!、篁中尉、あなたの所為ねっ!!
そもそもあなたは疑惑を掛けられて、逃げ帰ったんじゃなかったのよ?」

「・・・このインフィニティーズ戦を以てXFJ計画Phase3は全て完遂した。
崔中尉が心配しなくても、私は明日には帰国し、その後国家存亡・・・、いや人類の存亡を賭けた作戦に臨むことになるだろう。」

「!!・・・・そうだったわね、日本も半分BETAに囓られた様なものだったわ。
同じトコに居たよしみで死なないようには祈ってあげる。
・・・・二度と此処には来て欲しくないけど。」

「・・・・心配は痛み入る。もとより死ぬ気は無い。」

「・・・・ユウヤ、私は諦めてないからね! 覚えていなさい!」


・・・・・相変わらず、台風のような女だ。


Sideout




Side フランク・ハイネマン


何度も何度も、その映像、そしてデータを検証した。
自室に戻った私は、今は暗くなったモニターを見つめるともなく見つめている。



御子神彼方・・・・。

XM3と、基本的に再現可能な既存技術の組み合わせだけのXFJとACTVでF-22EMDを撃破してみせた。

それもブルーフラッグの演習戦だけではなく、第5計画派が画策した強襲策さえ打ち破り、ラプター4機、6億ドルを無手で炭素屑に変えた。

それが米軍、というよりは実質第5計画派が推していたドクトリンの崩壊であることは明らかで、G弾によるBETA主要ハイヴ殲滅と、その後の世界制覇という米国の支配構想自体が、既に成立しなくなっている。


しかも、先程極秘に伝えられた情報に依れば、第4計画派を極秘に強襲した非合法部隊が白銀少佐と思われるXFJ 1騎に、撃破されたらしい。
A-12で構成された中隊12機が瞬殺だったとの事で、その様子は衛星監視で捉えられ画像は荒いが、御子神大佐と同等以上の機動をしていたと言う。

この2つの事実から少なくとも既に横浜に対して、ステルスは何の脅威でもない、と言う事になる。
それは直ぐに帝国に齎されることだろう。



更にリークされたG弾の大量使用に依る地球環境の壊滅的被害予測。
以前キリスト教恭順主義の国連職員によって暴露されたG弾のデータに基づくシミュレーションは、地球規模の重力偏向を引き起こし、大幅な潮位変動を齎す、と言う物。
その影響はどんなに小さく見積もっても数100m、最大では数kmに及ぶ海水面の偏移が生じるのだ。
第5計画派は、その信憑性の否定に必死だが、この僅かな時間でさえ検証した各研究機関からは、更に詳細検討の必要あり、としながらも予測の妥当性を認めた。
私自身も簡単な検証をしたが、その予測は極めて正しいと認めざるを得なかった。


・・・・人類自決兵器。

一部ではG弾は、既にそう呼ばれ始めていた。
そのG弾神話の凋落に対し、XM3による機動は通常兵器によるBETA殲滅の希望を示した様なものなのだから。



当然第5計画派内部でも、慎重派からはG弾使用に関し疑問の声が上がっている。
元々第5計画の主流派は、G弾によるBETA殲滅とその後の世界支配を目論見、その陰には、移民派が存在した。
その移民派は、米国だけではなく、各国財界人に対し、万が一の時の避難及び移民、その搭乗権をエサに協力を取り付けている“影”の主流派だ。

そしてその協力を取り付けたはずの財界からも疑問の声が湧き上がっていた。
―――バーナード星BETA汚染疑惑。
これも元を正せば横浜の情報らしい。
検証をすればするほど欺瞞ではなく、真実に近いということが判る種類の情報。




・・・既に状況は大きく動き始めている。



今、自分が属するボーニングも、上層部は第5計画派で占められていた。
但し、ボーニング程の巨大企業ともなると全社が一つの方向に偏っては、リスクヘッジが出来ない。
なので、使いふるし再生の様なフェニックス計画を立ち上げ、XFJ計画への参入も第4計画派や、反第5計画派まで巻き込み、米国議会承認までさせた。
その責任者を押しつけられたのが、私、と言うわけだ。

しかし私に取って、ユーコンという土地は存外合っていたのかも知れない。
表向きACTVと言うF-15の焼き直しをしながら、F-14の思想を継ぐSu-47への協力、そしてYF-23の魂を受け継がすべくXFJ Phase3を手掛けてきた。


その中で運命のように引き合わされた兄妹。


滅び行く世界でボクらの、そして君達の子がどんな輝きを魅せてくれるのか。
それが密かに楽しみで仕方なかった。


そのテーブルを根本からひっくり返したのがあの男、・・・御子神彼方。






何しろこのOSは異常だ。

その動き見たときは驚いた。
戦術機に可能な動きじゃない。
戦術機の世代を1世代上げてしまうのに等しい。


渡された仕様書を見て更に驚愕した。
その内容も破格だったが、その構成がおかしかった。

一見しただけで判るような人間がそうそう居るとは思えないが、このシステムは異常だ。
それは様々な思想がゴチャマゼになって、それでいて統一のとれた美しい動作をする。
まるで幾つもの微生物が徐々に集まって形作られた大型生物の様。
全く方向性の違う、矛盾する相反した要素までをも含む、そんな構成。
どう考えても、一人の人間が考えたものではない。
思考のパターンがバラバラなのに、それを絶妙に組合せ、突出した全体最適を実現する。
そんなロジックを含んだシステムだった。


このOSは、少なくとも数年、多数の人の手によって改修を繰り返してきたはず。

第5計画派は、仕様書さえ開示されれば、あるいは搭載された機体が手元に残れば、簡単に同等以上のOSを作れると思っていたらしいが、これは無理だ。
設計思想、アーキテクチャ、アルゴリズム、どれを取っても10年以上の隔たりを感じる。
そのシステムロジックに至っては、気付かなければ永遠に手にすることはない。

少なくとも今の戦術機に使われているCPUでちゃんと動くOSを作るには、今のOSメーカーが必死になってどんなに総力を挙げても最低5年は掛かる。

それ程隔絶したシロモノだった―――。
・・・ソフトウェアに関しては、ボク以上の天才だと、認めざるを得なかったよ。



しかし、どうやったら、こんなロジックが成立するのか―――。
それが解らなくて本人に質問したら、あっさり答えてくれた。


―――なんとまあ、それがゲームとは。

極東の街の片隅で、子供たちが造り、遊び、そして自ら考え、書き換えることで進化して行ったゲーム。
その生き残った一人が白銀武であり、ゲームを組んだのが御子神彼方。
こんな発想を生んだその街が、横浜で在ったことも何かの因縁かもしれない。



加えれば困ったことに、このOSの正規版には欺瞞が利かない。
つまりアクティブ・ステルスを一切無効化してしまう。
I/Oまで含めて統合制御しているから、第2世代であっても偽装用のコードなど取り付く島もなく刎ねられる。

―――F-22EMDなんて歯牙にも掛けないわけだ。
そしてPhase3となった機体はYF-23譲り。


不味いね・・・。

ちょっと強くし過ぎたか・・・。


元々ステルスなんて、YF-22に対抗するためだけに付けた。
けれど彼がその気になれば、戦域データリンクそのものを支配してしまう事もできる。
・・・もう持っている可能性さえ無くはない。
ますます対人戦のステルスなんて意味がなくなる。



そう―――世界は変わり始めているようだ。


彼にも見抜かれたが、私の遣りたかったことは概ね順調で、そして遍くそれで満足していた。

けれど、既に横浜には、アレ[00ユニット]が誕生している。

かつて期待し、我慢して待望し、そして大いに失望した第4計画。
この土壇場に来て、やり遂げた。




彼が示した2つの数字。

―――第6世代の礎。



それは、インフィニティズとのAH戦でも見て取れた。

彼の駆る横浜製[●●●] XFJ。
エイジが言った開発コードは“Evolution4”―――。


―――あれは既に別物だ。

私とて、そこまで目は曇っていない。
出力や恐らくはレスポンスまで制限してPhase3らしく見せていたが、襲撃に際しての機動は隠しようがなかった。
重量バランス、瞬時加速、旋回性能―――。
どれをとっても、違う。

“Evolution”と冠するだけの事はある。
XM3によって、第3世代機が3.5、乃至第4世代に極めて近くなっている今、既にその上、第5世代機に届いている。

彼が示したあの“数字”―――、それを証明するに十分だった。



・・・困ったね。

戦術機はもう一つ上のステージに上がる事が必要みたいだ。


0Gから1Gでの機動。
大気圏脱出と再突入。


今までと全く違う領域で考える必要がある。

“次世代”の戦術機開発―――。

これに絡まないという選択肢は有り得ない。
何よりも彼に侮られたままと言うのは悔しいではないか。














ところで、彼は去り際に数枚の絵をおいて行ったんだよ

VAF-25
VAF-29
VAF-35
vFFR-41

―――君はどう思う?


Sideout




Side 唯依


達成感。

開放感。

そうXFJ計画の責任者としては、今日ほど目出度い日はないのだ。


ここに来る前繋いだ通信で、巌谷の叔父様にも手放しで褒められた。
ステルスに偏っていたドクトリンの崩壊は、既に帝国軍内部でも大きな衝撃と成っているらしい。
そしてラプターを完全に打ち破ったXFJの評価は鰻登りだと言う事だった。

雑事の残っていた御子神大佐は、しかし私に差し入れを持たせ行ってこいと言ってくれた。
明日には帰国する。
打ち上げに御子神大佐が同行出来なかったのは残念だが、大佐とはこの後も引き続きEvolution4もあり、幾らでも機会は在る。

私が行く建前として持たせてくれた差し入れも、やはり破格らしい。
もう今更驚かないが。
17歳と本来は州法上引っかかる年齢だが、2度と目にすることは無いと皆が言うシャンパンの乾杯だけは目を瞑って貰った。
帝国でのお屠蘇など、お酒は初めてではなかったが、お酒が美味しいと心から思ったのは初めてだった。

楽しい雰囲気に宴は進んだが、そこに現れたのは、崔中尉。





けれど崔中尉に問われるまでもない。

私が明日帰国すれば、次に待っているのは、オリジナルハイヴ攻略。
白銀少佐を以てして、BETA地獄と呼ぶ地上最大の難関。
そこに挑むこと前提で、横浜に出向した。
今、御子神大佐が構築している装備ですら足りない、という物量。
現状装備での損耗率は40%。

生き残れるように祈ってくれる、と言ったように明日をも知れぬ身なのは、確実なのだ。
負けても生き残れるAH戦やシミュレーションではない。
負ければそれは即ち“死”。
なにも残せない、なにも残らない。



その危機感の所為なのか、それとも計画の成就と僅かなアルコールで気が大きくなっていたのか。

私は、2次会から河岸を変える途中、ユウヤにアルゴス試験小隊専用野外格納庫に来るよう頼んだ。





「すまん、態々。」

「そんなことは何でもない。
唯依から話って、珍しいな。
・・・なんの話だ?」





















「・・・私は・・・・ユウヤが好きだった・・・。
つまり、男性として好ましいと・・・思っていた。」

「え・・・・・・・。」


その鳩が豆鉄砲を喰らったような顔に、やっぱり今以て思っても居なかったんだと思う。


「私は明日には日本に還る。
その後は・・・・、さっき言ったように恐らく帝国の、人類の存亡を賭けた戦いが待っている。」

「!!」

「・・・生き死にも解らないが、その前に、・・・・せめてそんな気持ちを持っていた奴も居たと伝えておきたかった。」

「・・・唯依・・・・・オレは・・・・。」

「―――応えなくて、良い。」

「え?」

「ユウヤが私を女として見ていなかったのは、さっきの表情で判る。」

「ぐ・・・。」

「そもそも貴様は鈍感すぎる。
崔中尉をはじめ、リダ・カナレス、フェーベ・テオドラキス両兵長も難からず気にしている様子。
―――気付いていたか?」

「・・・うぐぐ・・・。」

「―――そして、ユウヤは彼女[ビャーチェノワ少尉]を選んだのだな・・・。

「!!・・・・・・・ああ、そうだな・・・・。
ホント今更だけど・・・・唯依のコトは・・・多分好きだと思う。
今、面と向かって言われるまで気がつかなかった超鈍感大馬鹿野郎だけど。
でも、その為にアイツらを捨てることは・・・・・オレには出来ない。」

「フ・・・判っている。
言ったろう?
気持ちだけ知っていて貰えばそれで良い、と。
・・・寧ろそうじゃないと困る。

私の気持ちは、以前緋焔白霊を貴様に託したときに、決別した―――。

・・・ただ、余りに何も気づいてもらえなかったのが悔しくてな。」

「ぐ! はぁ―――、その為にこんなトコに呼び出したのかよ・・・。」

「そちらは[つい]でだ。」

「序で?」

「―――刀は渡せたが、まだ渡せていないものがある。」

「・・・。」

「ユウヤ、・・・最後に一度だけ、試合わないか?」

「!、ああ、―――それで此処か。
―――確かに、それ[●●]は残ってたな!」



















夕方から降りだした11月初頭の雪が舞い散る。


私とのV-JIVESによる模擬戦を終えたユウヤは、再び街に還るらしい。

最後に、すまん、そしてありがとうとハグされたが、自分でも驚くほど素直に受け入れることが出来た。



その“兄”の感触を刻むように、まだ11月始めの降りしきる雪の中、その姿が消えてもそこに立ち尽くしていた。






その雪が目前で一瞬逆巻く。

風に煽られた雪が舞い上がり、散ってゆく。


そこに、主翼を立てたXSSTが舞い降りていた事に初めて気がついた。






「あれ? こんな雪ん中で何してる? しかも強化装備で・・・。」

「あ・・・はい、ユウヤと試合を―――。」

「―――ああ、そっか。
ま、いくら強化装備でも寒いだろ。」


詰所に入ると、ほっとするような、暖かな空気。

気温だけではなく、それを醸すその存在。



「・・・・で、この後どうする?」

「・・・この後・・・ですか?」

「1・愚痴に付き合え
 2・ヤケ酒に付き合え
 3・泣きたいから一人にしろ
 4・泣きたいから胸を貸せ
・・・選択肢は、こんなもんか。」

「・・・2でも良いですか?」

「・・・了解。」


ふらりと立ち上がり、取ってくると一言。
そういえば先程のシャンパンもXSSTから引っ張りだしていた。

けれど、提示された選択肢―――。
大佐はやはり気付いていたのだろう、私のユウヤへの気持ち。


真実を知った時にはその運命の理不尽さにステラに縋りつき、ただ泣いた。
だが、今は違う。
まあ、鈍感な朴念仁への意趣返しも出来たし、伝えたかったことも伝えた。

同じ父の血を引く存在。
そしてハイネマンさんも認めたという才女、透徹した父への想いを一途に貫き通した尊敬すべき女性。
―――その才を、気質を受け継ぐ息子。

彼ならば、何れ辿り着くだろう。

だから大佐に頼んだのはヤケ酒ではなく、これも祝杯だろうか。
今日お酒が初めて美味しいと思えた。
未成年、そしてこの試合を決めていたからさっきは一口しか飲まなかった。

けれどここでなら、―――今日だけは少しくらい羽目を外したい。


そう思っていると、ボトルとワイングラスを持った大佐が戻ってきた。


Sideout





Side ステラ


「あらあら、陥としちゃったんですか? それとも略奪?」


酔い覚ましに訪れた野外ハンガーの衛士詰所に居たのは、ソファに座る大佐に、膝枕のように縋って眠る唯依。
その肩には、大佐のフライトジャケットが掛かっている。


「怖いこと言うな。
・・・ブリッジスにけじめを付けた、と本人は言ってた。」


・・・なるほど。


「・・・・・それで慰めたついでに?」

「いや、酒が飲みたいというから、デザートワインをな・・・。」


そこにある黄金色の液体を残すボトルを見て固まる。


「―――そ、それはまさか―――?」

「・・・ああ、ブレーメルは詳しいらしいって言ってたな。
シャトー・ディケム・・・’76年ものだ。
まだあるから飲むか?」

「 !!!、是非ッ!! 」


言われるまでもない。
今は喪われた貴腐ワインの最高峰。
しかも’76と言えば、伝説のグレート・ヴィンテージではないか!


「と言っても、グラスが取りにいけないから、これを洗ってくれ。」


膝に居る唯依を見ると、大佐は自分の空になったグラスを差し出す。


「・・・このままで構いませんか?」

「・・・好きにしろ。」


差し出し返したグラスに無造作に琥珀色の液体が注がれる。
しかし、ちゃんと判っているのだろう、乱暴に見えても細く注がれたそれは、一切泡立つこともなく、グラスに沿って液面が弛む。
それだけで馥郁とした甘い香りが辺りを満たした。



そっと口に含む。





―――そしてわたしは、ひっそりと涙した。









「けど、ユウヤとケリをつけたら大佐ですか。
・・・わたしにすれば羨ましい限りの男運の良さです。」

「・・・そんなに器用な娘でもないだろ。
・・・俺はおそらく父親代わりさ。
技術系って事で重ねている節もあるしな。
今は躓いても、また直ぐに自分で歩き出す。」

「・・・一緒に歩いてあげないんですか?」

「・・・何故、俺が?」

「・・・・そうですね。
客観的に見ていて貴方の何が凄いって、この娘を自然で居させられること。
自省癖の強い唯依はなにかとすぐ落ち込みます。
いつも貴方はその機先を制して唯依の意識を前に向けている。
・・・鈍感なユウヤの一挙手一投足に一喜一憂していた唯依をずっと見てきましたから。

そんな貴方だから、唯依は素直に甘えたんでしょう?
見栄も外聞も、飾りも強がりもなく。

もし逆の立場でも、これはユウヤには無理です。」


そうね、でもこれは今度は唯依が自分でそれに気付くか、ね。
彼に父親を重ねてしまったら、なかなか大事なことには気付けない。
大佐は、確かに父親の視点から観ているくらいに達観しちゃってる節があるから、決してそれを自分から言うことはないでしょう。

この若さで、まったくどれだけの経験をしてきたのかしら。


「それに、その程度にしか思っていないなら、なぜそれ程唯依を構うのですか?」

「え・・・・・?」


・・・珍しい。御子神大佐のきょとんとした顔など初めて見た。
暫しの思案顔。


「・・・・・・・・ああ・・・、成程な・・・・。ブレーメルの指摘で、思い当たったよ。」

「・・・お聞きしても?」

「ああ。そういえば記録にあったな。
・・・・・・今はもう戻ることも叶わない、俺が喪った故郷にいた幼馴染と無意識に重ねていたらしい・・・。脳味噌の記憶には無くても、魂の記憶には自覚しないだけで残っているのかもな。
まあ、ソイツとは二度と会えないが向こう[別世界]で宜しく遣っているだろうから、いいけど。
・・・・・・気付かせてくれて礼を言う。」


喪った故郷、二度と会えない向こう[天国]の幼馴染。
コレだけの事を為せるこの人でも喪ったものは数多くあるのだ。
それでも、前に進む意志は剛毅。


「・・・いえいえ。
でもそれなら、わたしだって大佐には2度も泣かされたんです。
責任とって下さい。」

「は?」

「最初は、キングサーモンのお寿司―――。
喪った故郷をまざまざと思い起こされました。」

「・・・。」

「そして、さっき―――。
人類が既に喪ってしまった偉大な文化。
この偉大なワインが2度と造られることはない―――その継承が途絶えてしまったことへの慚愧や哀悼でしょうか。」

「・・・。」

「わたし、負けるのが嫌いです。
わたしに取って、過去負けは“死”であり“喪失”でしかありませんでした。
狡くても卑怯でも、勝たなければ全てを喪います。

初めは、インフィニティーズに勝つなんて言って、何を考えているんだろうと思ってたんですよ。
客観的に見て、勝てる要素なんてありませんでしたから―――。
勝てないまでも、負けないためにはどうすれば良いか。
それがずっと私の命題だったんです。

でも貴方は破格の技術、周到な準備、的確な戦略を構築し、正面からインフィニティーズを撃破した。
そして想定外の事象にすら的確に対応し、全てを護るためなら卑怯な手段も平然と実行する。

そう、・・・貴方が傍にいれば、負ける気がしない。
・・・・わたしも狡い女なんです。」

「・・・。」

「出来れば、ステラと呼んで下さい。」

「・・・そうだな、気遣いが出来て、強か[●●][綺麗なおねえさん]は嫌いじゃない。」

「・・・。」

「OK、ステラ[●●●]、プライベートではそう呼ばせてもらう。」


わたしはニッコリ微笑む。


タリサは本命のドーゥル中尉が居るからよく解らないけど、ユーコン組ではこれで一歩リードね。
あの大佐のえげつない戦い方に、本質を見ようともしないで、退いてる娘も多いし・・・。

何時も彼が隣にいる状況に慣れてしまって、何時までも過去[ユウヤ]を引きずってると、わたしが貰っちゃうからね、唯依。


Sideout



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