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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/05/06 12:00
'12,11,04 upload
'12,11,06 ほんのちょっと追記
'13,01,19 誤字修正
'15,01,24 大幅改稿(pcTEに準拠)
'15,12,26 誤字修正
'16,05,06 タイトル修正



Side 唯依


私は一体、何を遣って来たのだろう・・・。


講堂の片隅に座りながら、一人自省する。


遠く離れてしまった、今では心から“仲間”と呼べる彼ら。

幻だった“恋”、そして決してそう呼ぶことはない“兄”。


自分が必死に積み上げたその全てを、軽々と凌駕してしまったかのようなOS。
それは、命がけの死闘を、悩みぬいた日々を、あっさりと否定された様な気がしたのだ。




昨夜の話では、叔父様はプロミネンス計画参画について、8月の弐型Phase2ロールアウト時点での離脱も視野に入れていたらしい。
AH戦を目的としたブルーフラッグは、対BETA戦を想定したXFJの本筋から外れる、と考えていたからだという。

しかし、帝国軍総合参謀本部は、対人戦に拘ったとの事。

元々の対象は違っても、XFJ計画が謳って居るのは、“他国第三世代機と同等以上の機動性及び運動性”であり、その比較対象機がEF-2000やF-22Aなのだから、評価には最適と言われてしまえば、叔父様もそれを跳ね除けるだけの明確な根拠はなく、ズルズルとAH評価に突入した。

そして巻き込まれた大規模テロ。

テロの一環で開放された連隊規模に及ぶBETAの襲来。
それにより、BETA侵攻を留める為極秘裏に設置されていた、核起爆による最終防衛手段:“レッドシフト”発動の瀬戸際にまで立たされた。
基地所属の部隊や米軍の働きもあり、その侵攻はテロ自体とともに何とか撃退したものの、テロ主導者は逃亡、開発部隊やプロミネンス計画そのものにも多大な犠牲を出すこととなった。

その復興初端、22日に私自身は狙撃された。
一時は生死の境を彷徨ったらしいが、父様の遺品である懐中時計が弾道を僅かに逸らし、心臓を避けた僥倖により一命を取り留めた。
基地は、テロ残留犯の犯行と位置づけたが未だ犯人は不明。

だが意識を回復した後、私自身は巌谷中佐にその意図を伺った。
帰国命令に厳罰も辞さない覚悟で抗命した居り、背景を説明してくださった。

XFJ計画擱座によるソ連製戦術機の売り込み・・・。

ユーコンに蔓延る国際的な陰謀の禍根は深い事を、身を以て知らされたのだった。
尚更こんな脅迫に屈するわけには行かない。
必死の説得に、私は継続を承諾していただけた。


そして復帰した私を待っていたのは、迎えてくれる笑顔と、そしてユウヤからの分厚い上申書だった。

内容は正に驚愕の一言。
よくぞここまで不知火弐型Phase2を理解し、改善点を見つけてきた。
更に示された対策も確かな機動に裏打ちされたもの。

私が死んだと偽って療養する中、ユウヤは失意や悲嘆に暮れること無く、私が望んだであろうことを為すために只管騎乗を繰り返したという。

その情熱と想いに負けぬよう、そしてSu-47を凌駕すべくハイネマン氏に帰国後実施される予定だったPhase3実施の前倒しを打診した。
そこで得られた了承、そして知らされた驚くべき真実―――。



ユウヤに流れる血は、自分と同じ血―――。
それは紛れもなく父の血。
ビャーチェノワ少尉に呟いた“恋敵”など幻。
余りにも儚く消えた “初恋”。


その日私は、ステラに抱き締められて泣いた。




―――後日、約束だった肉じゃがを饗した折、ユウヤの生い立ちや、その母の秘めた想いに触れ、そして自らの父と母の想いを知った。
そして、私は篁家当主の証である緋焔白霊を、ユウヤに託した。





イーダル1衛士の不調により延期されていたSu-47との評価試験が25日になって漸く再開。
不知火弐型Phase3で1on1を実施したユウヤは、Su-47と拮抗し最後はイーダル1の自爆という形で決着した。
恐らく衛士の再不調に依るものと思われるが、ソ連側はそれを隠蔽し情報を開示しない。
前回の不調から衛士の万全を期し、半月以上の時間を掛けたのだ。
これ以上の引き伸ばしは此方としても認められるものではなく、評価試験は完了となった。


ところが、その日の内に突然不知火弐型Phase3に嫌疑が掛けられた。
米国武器技術不正流用容疑―――。
チームメンバーは全員拘留、任意事情聴取と言う名の、取り調べを受ける事態に陥った。

担当した捜査官の口ぶりでは、Phase3に特殊なオプションが装備されている事に自信を持っている様子。
自白を誘導する様な、そして自国の技術を自慢する様な話に正直腹が立ったが、ただ只管耐え、事情聴取は膠着していた。

Phase3機体の査察―――。
その結果次第ではXFJは瓦解する。
唯の疑惑、唯の尋問であるなら、何日でも耐えるのみ。
私自身の行動に何の恥じ入るところも無いが、私の与り知らぬ所で政治絡みの謀略に巻き込まれているとしたら・・・?


しかしその危惧を他所に、事態はまたも急転回。
何故か夜には“高度な政治的判断”との事で、無罪放免。
機体査察の実施も取りやめられた。

そして訳がわからぬ内に、巌谷中佐に急遽日本に呼び戻されたのだ。




当然、今回の評価試験、及び不正流用疑惑に関する詳細報告だと思い厳しい譴責を覚悟して帰路についたのだが、疑惑については僅かの問答で納得してしまった様子。
正直拍子抜けしたのも確かだった。


だが、その安堵も束の間。

私を待っていたのは、奈落への崩落。



―――見せられたのは、自分の努力の全てを否定される様な、映像だった。








[]の不知火を駆って、見たこともない3次元機動で光線属種のレーザー照射を躱し、師団級のBETAを翻弄していく。
ユーコン事件で自分たちがあれだけ苦労した光線級を含むBETAの群れを、唯の作業のように無力化していく様は、当初、在り得ない、との想いしか抱けなかった。
シミュレーションなら、設定次第でいくらでも無双は出来るのだ。

しかし確認すれば、難易度はS。
国際的に訓練の統一を図るため、レギュレーションが厳密に定められているシミュレーションである。
記録映像の欺瞞など出来ないのだ。
スコア340万は、連隊規模のBETAを単騎で制圧したということ。
つまりこの衛士が居れば、ユーコンの街は陥落しなかった。

内心絶望を感じながら、何の冗談ですか、と返した私に、叔父様が次に見せてくれたのは、その日の午後に行われたという、模擬戦の映像。
嘘も偽りも通じない、実機でのJIVES実写映像。
“赤”の武御雷に対したのは、[]の不知火。
その不知火が、さっき見たシミュレーションと同じ3次元機動で、“赤”の武御雷、それも金の彩色角は国内最高峰の衛士と言われる紅蓮閣下を翻弄していた。
機体の圧倒的な性能差を覆し、殆ど一方的に攻め続け、最後には腕一本と引換に大破判定を奪った。





・・・判ってしまったのだ、私は。

自分も、そしてユウヤの駆る不知火弐型Phase3でさえ、この不知火には勝てない、と。

武御雷さえ凌駕するこの不知火が、既にXFJ計画の目標に十分届いているだろう、と言うことも。




機動が、その概念が、違いすぎる。

武御雷のパワーに敏捷性を以て拮抗し、紅蓮閣下の技量を3次元機動で凌駕する。


それは、この半年自分が、そしてユウヤが遣って来たことを、全て否定されたとしか思えなかった。

文字通り何度も命を賭け、地ベタに這いつくばって成し遂げたものさえ、今目の前にあるこの輝きの前には、余りに矮小に思えてしまう。







昨夜、叔父様の計らいと斯衛軍第2連隊隊長の斉御司大佐のご好意により、飛び入りで教導に参加させて頂いた。

体験したXM3は、チュートリアルからして、その動きが違う。
重く動きの悪い鎧でも脱いだかのような、応答性と敏捷性。
自律機動に一切縛られない動きは、それだけでも世界が違った。


量産すれば、たった数千円のCPUと、製造コストすら掛からないソフトウェアだけで、成し遂げた莫大な成果。
CPUの量産が間に合わないため、当面はこの北の丸に駐屯する部隊、独立護衛小隊に優先的に配されるが、CPUさえ既存の仕様で動作するというデチューン版XM3Liteも供されているらしい。
殆どコストを掛けず、今ある戦術機全体のレベルを一気に底上げしてしまう画期的な技術。
・・・正に奇跡のOS。
戦術機の革命とも言えるOSだった。


そして、その極みとも言える、白銀少佐の機動。
一体どんな操作をしているのか。
その差をまざまざと見せつけられるような、鮮烈な挙動だった。


その思いは、教導後に見せられた技術資料を見て、さらに深まる。
この自然な動きが何故なのか、それがパーソナライズと、統合制御。
ルーキーからベテランまでに合わせて機体反応を調整し、慣熟すれば慣熟するほどに、向上する機動性。
その終着点が、あの白銀少佐の機動なのだ。
これを組んだのは、“神”かとさえ思う。



素晴らしいOS。そしてこのOSが齎すだろう輝かしい成果。

それが、素晴らしければ素晴らしい程、輝かしければ輝かしい程、私は自分の情け無さに、身を竦めるばかりだった。




今朝、朝一に挨拶した叔父様には、控えめながらユーコンに戻ることを打診した。
日の光を避ける様に・・・。

しかし昨夜も言われた通り、Phase3の評価試験が終了した今、もはやユーコンで遣ることはない。
プロミネンス計画に於けるXJF計画は、実質完了と言う事になる。
あの地で、これ以外に遣ることがあるのか? それがXFJ計画の仕事か?、と問われれば、返す答えはない。

これ以上プロミネンス計画に参画する意味はない、それがXFJ計画そのものの推進者である巌谷中佐の判断であるなら、自分に意見具申する事など何も無い。
不知火弐型Phase3に関しては、費用がボーニング持ち出しである事もあり、当面アルゴス小隊に留めおくが、私の武御雷については、既に移送の手続きも取られていた。

勿論、今の状況で自分がユーコンを突然去る事が、不義理に当たることは叔父様も認識していた。
代わりに供されたのが、昨夜見せられた驚愕のシミュレーション映像らしい。
人類から空を奪った光線属種の照射を悉く躱し逐次殲滅していく異次元の機動。
そして限定的ながら、それを実現した新OS【XM3Lite】の提供も考慮の余地がある、と打診していた。





ユウヤはこの映像と、私の代わりに供される新OSに、何を思うのだろう。

それを知る術すら、私には残されていなかった。




一方でXFJ計画の責任者としての巌谷中佐に指示されたのは、XM3の“理解”と“慣熟”。
未だXFJ計画自体は存続しているのだから、XFJのOSがXM3に成るのは当然の事と言える。

けれど、事此処に至り、私の出来ることなど何もない。
これほど完成されたOSの何処を弄れと言うのか?

ユーコンに戻ることも成らず、よしんば戻っても遣ることはなく、ただ想いを持てあますのだろう。
そして、帝国斯衛軍中央評価試験中隊は、新たな上官を迎える。


・・・・私の居場所など、もう何処にもないのだ。








「それでは、XM3特別教導に当たり、XM3製作者である国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊技術少佐、併せてこの都度、帝国斯衛軍中央評価試験部隊にも技術少佐として籍を置くことと成った、御子神彼方少佐にお話を戴く。」


会場がどよめいた。

あの、とか、弾劾者とか、生きていたんだ、と言うざわめきが聞こえたが、私には何のことだか判らなかった。

壇上に飄然と現れた男性に、時ならぬ拍手が湧いた。


既に概念発案者である同じ国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊に所属する白銀武少佐は、昨夜の教導後に挨拶を済ませていた。
今は壇上の後方に座している。少佐でありながらヘッドギアを外せば、まだ少年の面影さえ残る同じ歳。
チュートリアルに続く初期教導は、相当に厳しく、動かない者には容赦ない叱咤が飛んだ。
このOSは動いてナンボだと。

しかし教導中の厳しい指摘とは裏腹に、事後は年相応に気さくな雰囲気の挨拶。
あの凄いOSを発案した人物とは思えないほど腰が低かった。
15の歳に戦地任用され、以来機密部隊で極めて危険度の高い任務を潜り抜けてきたという。
その部隊のたった一人の生き残り。
同じ’98年に繰り上げ任官しながら、この差は何だろう、と更に落ち込んだ。


「紹介戴いた御子神彼方だ。
失敬に当たるとは思うが、XM3教導中は階級を無視して構わないとの言を紅蓮閣下より戴いているので、此処では敬語省略して話させて貰う。」


少し高圧的な言葉に、場が少し鼻白む。
昨日の白銀少佐の人懐っこさとは正反対だ。


「・・・XM3の初期教導にあたり、その概念を説明するが、其れに先立って貴官らに感謝を伝えたい。
・・・BETA禍以降永きに渡るその間、帝国を、そして殿下をまもりぬいてくれたこと、深く感謝する。
・・・ありがとう。」


え?との戸惑い。
シンと静まる講堂。


「貴官等がその時間を作ってくれたからこそ、漸く貴官等に報恩できるOSを届けることが出来る。
このOSは、貴官等の、此までの精勤の成果だと誇って欲しい。」


そしてにっこり破顔した。

再びの巻き起きた拍手と、そして歓声。

・・・そうだった。
あのルーキーにまで心配ったOSを組んだ人なのだ。
現場の苦労をおもんばかっていないわけがない。



それに比べて私は・・・・。

こんな現場の重い期待を本当に理解していたのだろうか?
それを何時しか忘れ、XFJ計画を完遂する事そのものが、目的になっていたのではないか?


「それでは、煌武院悠陽殿下のご依頼と、此処に居る白銀武少佐の発案により、実現した新OS【XM3】についての説明を始めよう。
と、言っても昨夜のウチにチュートリアルを実行している貴官等は、既にXM3の実現した機能、先行入力やキャンセル、コンボ等については理解していることと思う。

そこで今回は、それら機能の基礎概念を理解して貰い、今後の慣熟に生かして貰いたいと考える。

さて些か唐突ではあるが・・・この中で、野球の投球には自信のある者は居るだろうか?
そうだな、投球の初速が140lm/hを越える、と言う者が居れば、挙手願いたい・・・、うん、貴兄の名前は?」

「は!、第16大隊所属、田中優中尉であります!」

「職業野球の無い今、140km/h越えるのは凄いな。
どの位練習した?」

「は、小学校でリトルリーグに参加以来、徴兵までの10年、また今も身体作りの傍ら、同期とキャッチボールを続けております。」

「そうか。では田中中尉に尋ねよう。
戦術機の体格は、人体の約10倍、つまり10倍のリーチを有する。
戦術機を使えば、140km/hの10倍の1400km/h、つまり音速を超える[●●●●●●]ボールを投げられると思うだろうか?」

「え?・・・・・・・・・自分には、無理だと愚考します。」

「うん。今までのOSでは無理だろう。
そしてXM3は、其れを可能とすることを目指したOSなんだ。」

「え・・・・?」


あっさりと言い切る。
御子神少佐は、講堂をぐるりと見回し、徐に話を進めた。


「では、まず何故田中中尉が140km/hで、ボールが投げられるのか、を考えてみよう。

人体の運動は、骨格による関節を、筋肉で動かす事で成り立っている。
つまり人の運動で、直線的な伸縮という運動は関節の遊び程度しか出来ず、その大部分が回転運動で成り立っていると言うことになる。
我々は、生まれて以降赤子の頃から、この回転運動を使って如何に動くか、という訓練をしている。
当然生まれたばかりは、何も出来ない。
全身の筋肉を、統合して動かす制御モデル、所謂動作の“脳内モデル”が皆無だからだ。
それが、座る、這う、立つ、歩く、走る。
赤ん坊が成長に連れ、徐々に身体を自在に動かせるようになるのは、脳の発達に伴い、これらの動作モデルを順次形成していくからである。
全ての動作は、徐々にそして何度も訓練し、脳内にそのモデルを構築することによって全てを実現してきているのだ。

先の田中中尉の投球術も同じである。

彼は小学校以来、否恐らくはそれ以前から“投げる”と言うことを“訓練”してきた。
それがリトルリーグで更に進化し、投球に必要な筋肉量を増やしたり、関節の自由度をより大きく使うフォームに変更したりしてきた。
元々肩や全身の筋肉が強い等の個人的資質も在っただろうが、結果として、田中中尉の脳には、140km/h級の速球を投げる動作モデルが形成された事になる。


ここで、それは、一体どのようなモデルなのであろうか?

先に言ったように、人体の運動は、殆どが回転運動である。
その時、関節の強度や、筋肉の性能から、人類のみならず、ほ乳類では最大で20rad/sec程の角速度を発揮できるとされている。
だが、田中中尉のリーチは、70cm程度。
最大の角速度でも指先の速度は14m/sec、つまり時速にすれば50km/h程度の速度しか出ないことになる。

では、田中中尉は、どのようにボールを投げる?」

「・・・全身で投げます。
こう・・、大きく踏み出すことで足の力を腰に溜め、更に速度を腕に乗せるような・・・。」

「その通り。
足による踏みだし、その重心移動と腰の回転、肩の回転のタイミングを合わせ、その回転を腕の振りにのせる。
肩だけではなく肘を使い、最後に手首のスナップや、指の力まで使ってボールを押し出す。
即ち70cmのリーチではなく、全身、正に足先から指先までの距離約2m、それらを全て連動させて、全ての関節で20rad/secを発揮する。
結果的に重畳された指先は40m/sec、時速にして144km/hの速度を実現しているわけだ。

身体の成長、筋肉の充実、そして脳内モデルによるそれら全身の動きを統合した精緻な投球術、それをもたらしたのは、過去10数年に渡り田中中尉が磨いてきた努力から投げられるようになった、と言うことになる。」

「・・・。」



「次に何故戦術機では、それが出来ないのか、それを今度は考えてみよう。

今までのOSにも間接思考制御という搭乗者の思考をある程度反映するシステムが搭載されている。
しかしその自由度は少なく、また習熟するまでに長い時間が掛かる。
戦闘機動を覚えるだけでも大変なのに、投球など遣る価値も暇もない、と言うことだろう。

更に今までのOSには、機会都合で決められた自律機動による“硬直時間”が存在する。
態と不安定な状態から踏み出して投げる、人体では自然な投球動作が、“不安定”機動として、硬直させられかねない、と言うことになる。

つまり全身を連動してボールを投げるような動作を実現するのは、間接思考制御を最大限使わなければならず、そしてそれを実現しようにも、自律機動がそれを阻害する、故に田中中尉は出来ないと応えた。


ここで、XM3の特徴である機能を思い出して欲しい。

“先行入力”と“モジュレーション”は、滑らかな機動と緩急を付けた人体の動きを実現するもの。
“キャンセル”は自律制御そのものの制限。

そして“コンボ”は、一連の動作の登録、つまり、“脳内モデル”そのものの実現に当たる。


即ちXM3は、人体が実現する動作の基本である“脳内モデル”を、戦術機の内部[●●●●●●]に再現することを目指したOSである、とも言い換えることが出来る。」


シンと鎮まっていた会場が息を呑む。

いつの間にか聞き入っていた私は、昨夜の資料が思い出される。
“統合機動制御”・・・これは、人体の動作システムを、そのまま戦術機に実現する事だったのか!


「その為に、今まで静的な領域、つまり硬直時間によって無理矢理抑制していた反動やバランスを取り戦術機の保護を図る自律機動を、全体の動作の中で動的に処理することを組み込んだ。
人体と同じように自律機動のみならず、その機動の元と成る電磁伸縮炭素帯や、燃料電池スタックの流量まで、全ての制御を統一した機動モデルの支配下に置いた。
そこから、搭乗者の意志、即ち先行入力による行動を最適な機動で実現しつつ、発生する反力やバランスを失墜を、他の稼働部位、つまり全身で動きながら対応していく。

当然、最初は制御の範囲を越えれば、転ぶ。
赤ん坊が、何度も転ぶように。
その中から、自分に合った最適な制御が出来るように成るわけだ。」


人の動作の成長過程を、戦術機で実現したOS。
それがXM3。
つまり人の動作で実現できるものは、すべて戦術機で実現できることになる。

白銀少佐の3次元機動は、さながら体操選手の床運動か。
しかも戦術機にはスラスターがあり、人体には出来ない平行移動が可能なのだ。

それらを組み合わせたのが、あの機動。


「では、XM3に関して赤ん坊である貴官等が、習熟するのは、永い時間が掛かるのか、と言うことであるが、それに付いては、“データリンク”が大きな意味を持つ。

人の動作に於いては、自分で体験し獲得していくしかない。
勿論視覚情報や、伝聞によるイメージで動作を構成して見る事も可能だが、それを自分のモノにするには、それなりの時間が掛かる。

しかし、戦術機の場合は、違う。
実際に今動かしているXM3の基礎モデルを組んだのは、全て白銀少佐だ。

そして複雑なモデル・コンボであっても、貴官等で動かす事が出来るのだ。
つまり、バック転をしたこともない者が、戦術機ならコマンド一つで出来る事と成る。

もちろん、それは白銀少佐の機動であり、クセがある。
その動作を“自分のもの”にするためには、勿論慣熟が必要となる。
だが、全てを自ら組むのと、手本があり、それを自分に合わせテイミングしていくことでは、掛かる時間がどれだけ違うか、判るだろう?

そして、その様に構成された成果が、コレだ。」


現れたのは演壇後方のスクリーン。
其処には、サイズ比としてボールくらいの石を手にした“不知火”。

それは、大きく振りかぶる。
リズムに乗るように上がる脚。十分に溜めたそこから、踏み出しと共に旋回する腰、上体の撓りと、腕の振り。
正しく体重を乗せた、流れるようなフォーム。

そしてその握られたボール大の石がリリースされた瞬間、どんっ!、と巨大な音がし、マッハコーンを残して虚空に消えた。


どよどよとざわめきが拡がる。


「・・・人体の10倍のスケールを有する戦術機。本体力を発揮し、荷重に耐える筋肉や骨格は、スケールの2乗に比例し、その重量は3乗に比例する。
その差を埋めたのは、CNT(カーボンナノチューブ)を初めとする複合材料であり、電磁伸縮炭素帯という筋肉を遥かに凌駕する出力を誇る技術である。
故に、人体以上の間接角速度を発揮する事の可能な戦術機に於いては、今見せた投球動作だけではなく、斬撃に於ける超音速剣すら可能となる。


つまりXM3とは、戦術機の全てを動的に統合制御しつつ、動作モデルを搭乗者に合わせて構築するシステムである。

今、貴官等の機体に換装しているOSにも、これらシミュレータで培われた個人の挙動がフィードバックされる。そしてなによりも白銀少佐の3次元挙動の基礎動作も反映されている。

だが、それを咀嚼し体得することでしか、それらは使いこなせない。
各自の特性や動作には個性があるからだ。
搭乗者の“クセ”を含んで制御を洗練していくテイミングや、過剰な反応を抑制するレベリングも同じく其れを補助していくが、最終的にそれらを成長させるのは、各人の予測に基づく創造力である。


このようにXM3は何も闇雲に即応性だけを求めたOSではない。
そして各人が精進することによって常に進化し続けるOSである。
その成果はデータリンクを介して、個にも全体にも反映される。


その事を意識して習熟して欲しい。」


三度、期せずして拍手が湧き上がる。

示された明確な概念は、極めて直観的で判りやすい。
そして何よりも、これなら自分でも出来る、と希望を抱かせるものだった。
コンボやキャンセルと言った機能重点の説明ではなく、その在り方。

単純に言えば、弛まぬ努力こそが、極致に至る道。
そう明言してくれたのだから・・・。



「ここまでで何か質問はあるか?」


2,3の質問に、御子神少佐は的確に応える。
そして続けて問われた質問。


「御子神少佐、及び白銀少佐は、斯衛軍と併属で、国連軍に所属しています。
なぜ、米国の犬と成り下がった国連軍に所属するのか、なぜ斯衛軍に戻ってきて下さらないのですか?」

「ふむ。まあ疑問はもっともだとは思う。
色々と細々した理由はあるが、ここでは其れには触れないでおこう。
我らが国連軍に所属する理由は、主に2つある。
その一つは、BETAとの戦いは、佐渡を取り戻せば終わり、では無いことだ。
つまり、ハイヴは世界中にある。
そして根源たるH1、オリジナルハイヴにしても、海外に存在する。
BETAとの戦いを見据えたとき、斯衛軍ではその行動に常に規制が伴ってしまう。
・・・それとも貴姉は、悠陽殿下に喀什まで遠征させたいと思うかな?」

「 !!!、 つまり国内のみ成らず海外ハイヴの排除を視野に置いた為、ですか?」

「そう言うことだ。
そしてもう一点、それは其処が横浜基地であるからだ。」

「横浜基地?」

「そう。貴姉は我らのハイヴ攻略戦を見て貰えたかな?」

「 !!、あのプラチナ・コードはやはりお二方が?」

「そう。で、おかしいとは感じなかったか?」

「・・・・・。」

「具体的には、S-11たった2発で反応炉を撃破し、モニュメントを崩壊させてハイヴ崩落させたところ、だ。」

「!!、は。確かに違和感を感じ、何度もデータを確認いたしました。」

「では横浜基地が何処に建てて居るのか、知っているか?」

「・・・!!、H22!」

「・・・敵を知らなければ戦なんか出来ない。
あの反応炉を2発で壊滅させた位置も、ハイヴを崩落させた情報も、全て横浜基地のH22を精査することによって得られたものだ。

米国の一部勢力が間違った方向に向かっていることは俺も感じている。
しかし、人類の存続という大命題を前にしたとき、国家間の争いなど二の次、と考えている。
故に必要と考える事を実施している。
何よりも、俺など居なくとも2年もの間斯衛は、正道を全うしてきた。
何れ全てを壊滅させた暁には、斯衛に戻ろう。
その時まで、貴君等に任せたい、と言うのは、俺の我が儘か?」

「!!、・・・はッ!、承知致しました。
小官は自分の持てる全てを以て、御子神少佐のご期待に添えるよう、精進いたします!」


全ハイヴの殲滅・・・。
遙か遠き理想としか思えなかったそれが、御子神少佐が言うと、出来るような気がしてしまう。





「さて・・・」


演壇の御子神少佐が声を上げると、少しざわめいていた会場が、すっと静まる。


「今後の教導について伝えるよう。
今後も、城内第2演武場に於いては、今日明日、及びその後も3日に一度、白銀少佐が登城し教導を行う。
とは言っても武の身も一つ故、特に個人教導を行う者は、此方で指定させていただく。
これは日々の訓練記録を元に、教導の必要性が在る者を優先的に行う為である。

このOSの習熟に於いては、先も言ったように日々の習熟が何よりも重要である。

その為の施策として、城内のシミュレータのみならず、今回CPUを換装し、XM3を搭載した戦術機にも、シミュレータモードを搭載した。

これにより戦術機に乗りながら、仮想現実の中で戦術機を動かすことなく、訓練することが可能となった。

まあGや傾きを体感させる程度には機体が動くことになるがな。

また、そのモードではデータリンクを用いた連隊規模の連携シミュレーションも可能である。
必要に応じて適宜司令官の下、訓練するといい。


そして更に、シミュレータモードに於いては、状況設定やBETA配置の他に、ナビゲータAIとアグレッサーAIを実装した。

今回の教導の成果は、各人毎に数値化してあるが、本人と上位者にしか公開しない。
その数値を元に、擬似教導を行ってくれるのが、ナビゲータAI・“まりもちゃん”である。」


ディスプレイに示される、3頭身にデフォルメされたアニメキャラに、御子神少佐の後ろに座っていた白銀少佐がずっこけた。


「網膜に示される彼女に聞けば、自分の現状スペック、コンディション、得手・不得手、それに対する有効な訓練方法を提示し、訓練モードのナビゲーションを行ってくれる。
また、コンディションが極端に低下したときは、中止勧告や、外部へのアラートも実施するお助けキャラだ。
勿論、CPUリソースを喰うから、シミュレータモード限定で、実機単独では動作しないからそこは期待しないように。

そしてアグレッサーAIが“たけるくん”だ。」


再び現れたキャラに今度は会場に笑いが零れる。

“まりもちゃん”は誰だか判らなかったが、“たけるくん”は明らかに白銀少佐のデフォルメ。


「笑っているが、このたけるくんの戦闘機動は、白銀武少佐をほぼ9割方再現している。
搭乗機体も吹雪・不知火・武御雷の3機から選択できる。
最初は手抜きをしているが、撃破すると本気度が上がる。
因みに本気度100%は、十分人外相当に達する。

タケルくんの不知火乗機・100%で、仮想人格によるヴォールクを単騎突入させると、10回中3回、反応炉破壊による自爆で終了した。

そのくらいの再現性と強さを持っていると、思って貰って構わない。

これらを使いこなし、先行入力やコンボに習熟すると、分岐といった上位概念が開放される。

そこまでが教導の一区切りといえるため、先ずは上位概念開放を目指して切磋琢磨して欲しい。」





コレは何?

私は戦慄していた。

それは会場の隅で蒼い顔をしている叔父様も同じだろう。

戦術機をシミュレータ化し、連隊規模の演習すら可能とする大規模通信シミュレータ、一人の衛士の戦闘機動を忠実に再現する仮想人格。
その思想だけでも尋常ではない。
アイデアというレベルではなく、実用可能な機能として実装して見せたのだ。
確かに必要なのは今回XM3に合わせて換装されるCPUとそして、システムだけだ。

しかし、こんな発想は無かった。

しかも、それをあっけなくぽんと提供する。
これらを開発委託したら、どれだけの金額と期間が掛かるのか。
特許やライセンスがどれ程になるのか。
それだけでも、想像も出来ない。





「・・・武、なんかあるか?」

「ああ、技術的な系統立てた説明は苦手だ。
彼方に任す。」

「解った。実機模擬戦の準備でもしてな。」


壇上での軽い会話さえ、最早気にならない。





「―――では、諸君。
XM3の導入教導に際し、我等から一言だけ添えよう。


我らは、BETAを駆逐し人類を永続する、その為の手段の一つとして、このXM3を作り上げた。
教導に関する周辺含め、全てが同じ思想の元に構成されている。
より多くの将兵が、このOSを使いこなすことで、より多くの成果が期待できることと信じている。


・・・だが、敢えて言おう。

我らはより多くのBETAを滅する事よりも、より多くの諸君等の生存を望む。
なぜなら、人類の存続のためには、諸君等の生存が大前提なのだ。

BETAの先鋭より民を護る、その諸君らが死して一体誰が民を護るであろう?

故に性能に奢った過信や慢心は、決してするな。
新型OSとて、例え白銀少佐とて単騎でハイヴを責めれば、自決してもたった1つのハイヴしか墜とせない。
装備は決して万能ではないのだ。

そしてBETAから地球を、月を、太陽系を奪還するためには、今後も数多の将兵が必要であり、その全体技量の底上げこそが、その礎なのだ。

故にここではまだ詳細を明かすことは出来ないが、護るための盾、攻めるための矛を別途開発途上である。
それらが配備されれば、より安全に迅速にBETAを駆逐することが叶おう。
今回の教導はその為の布石であると理解して欲しい。


因って、無駄に命を散らすな。

それらを理解して、人類の凱歌のために研鑽に勤しんで貰えることを願う。


・・・以上!!」




今、漸く新OSの概念と到達点、そして開発理念までも知った。


その概念は既存の思考を凌駕し。
その到達点は人を超え。
その理念は唯愚直なまでの人類の永続。


到達点は、想像の埒外にあった。
その性能ともたらされる成果を思い、震撼したのも確かだ。
その余りにもまぶしい燦めきに

しかしそれを、込められた理念を以て諫めたのもまた、彼らだった。


得られた成果に慢心せず、目前の成果ではなく、大局の目的を目指す姿勢。
求めるのは人類の永続のみ。


初めパラパラと湧いた拍手は、次第に大きくなり、更には一部が起立すると、それは波のように全体に拡がる。

万雷のスタンディングオベーション。


いつの間にか、私も立ち上がり拍手をしながら、自らの陥っていた自省さえ忘れ、御子神少佐の紡ぐ未来に、想いを馳せていた。


Sideout



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