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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/05/06 11:59
'12,10,30 upload
'12,11,05 誤字修正
'15,01,04 斑鳩閣下の名前変更
'15,01,24 大幅改稿(pcTEに準拠:Side 榮二)
'15,08,28 誤字修正
'16,05,06 タイトル修正



Side 巴(斉御司巴帝国斯衛軍第2連隊長)


演武場の傍らに建つ管制棟。

そのブリーフィングルームに呼び出されたのは、日本帝国斯衛軍第2連隊隊長の私、そして第16大隊隊長斑鳩崇継中佐と、その副官の御子神遥華少佐だった。
・・・うん、相変わらずい良い雰囲気だこと。さっさとくっつけ。

そして、其処に居たのは、紅蓮閣下の他に、なんと煌武院悠陽殿下。
直衛の月詠大尉が付いているから、本人だ。静養で那須に向かった筈ではなかったのか。数人が護衛に随伴したはず。
・・・とすれば向こうが影。連隊長の私にまで言わないなど、中々面白そうな事に成っているではないか!


「休みの折り、突然の招集済まんな。だが儂の負け様は見て貰えたか?」

「は!、まさか閣下が不知火に敗れるとは、・・・・しかし、あの不知火、そしてあの衛士は一体・・・」

一応目配せして最上位者の私が応える。

あれだけの騒ぎ、しかもライブ映像まで流していた。当然崇継も遥華も見ていたらしい。
勿論、記録も在ろうがそれこそライブの臨場感は相当なものだった筈。・・・私だって出来るなら観戦エリアで見たかった。
こんな面白いコトをするなら、事前に知らせてくれても良いと思う。
国内衛士最高峰と言われる閣下の敗北。動きの良すぎる不知火に、異次元の機動を持つ衛士。誰もが興味津々。ここに来る道すがらだって、行き交う演武場周辺の会話は、それ一色だった。

当然だ。
全ての衛士が目標としていた紅蓮閣下を下したのだ。しかも今拝顔するに、そのことに閣下はまるで悪びれていない。むしろなにか面白い玩具でも見つけた子供のように、瞳をキラキラさせている。

「うむ、それを説明しようと思ってな。
実は、ここにおわす悠陽殿下が膠着したBETA大戦をどうにかしたいと、前々から技術開発の要請を行っていらっしゃった。
その中の一つが、今国連横浜基地で、極秘計画を進めている香月女史だ。」

「・・・・。」

横浜の魔女。牝狐と呼ばれる人物。私は別に好きでも嫌いでもないが、国連を米国と重ねる節がある国内じゃ、嫌われ者だわね。極秘計画だって、親米派と見られる榊首相が招致したものだし。寧ろ殿下との繋がりがある方が驚いてしまう。

「その女史から、今回の提供があった。・・・それが先ほど儂を負かした衛士本人が考案した、新しい戦術機のOSだ。」

「!、戦術機の新OS! それがあの不知火ですか!?」

「その通り。尤も、衛士自身の腕もべらぼうだがな。
彼奴は、自分の理想とする機動概念を実現するために、あのOSを発案した。プログラムを組んだのは別の者だが、その後極秘に検証を続け、その実証を得たことで、此度帰国し公開する運びとなった。」

そこで閣下は言葉を区切る。私と遥華に少し言いづらそうに口ごもった。

「・・・先に話しておくと、その発案者と作成者だが、・・・少し事情が複雑でな、心して理解してくれ。
発案者は、’98年のBETA横浜侵攻に巻き込まれ負傷した。それを救助したのが、先の香月女史が指揮する機密部隊でな。しかも負傷により記憶喪失に陥った為、そのまま機密部隊に戦地任官となった。以来約3年間、過酷な任務を生き抜いてきた。今年の春先に部隊そのものが壊滅した最後の作戦でも唯一生き残り、先のOSの実戦証明と、多大な成果を齎したこと、一方でそのショックにより記憶を取り戻したことによりこの度帰国し、国連太平洋方面第11軍横浜基地に正式任官となった。」

その来歴に顔がこわばる。
横浜? 記憶喪失? 機密部隊に戦地任官?

・・・・・・まさか・・・?

「・・・そして一方、このOSを組んだ者は、’99年の明星作戦時、G弾の余波により発生した落雷に打たれ、昏睡に陥った。当時周囲に居た者が、日本国内を席巻しているBETA禍を逃れ、海外にて療養させた。漸く今年になって意識は覚醒したが、個人的な記憶野は落雷の影響で回復不能との事だ。それでも、残されていた過去の自分の記録から、自分が何者で今まで何をしてきたか、は理解している。」


隣で今度は、遥華が引き攣った顔をしている。
そう、この娘の超絶無頼破天荒天元突破な弟は、明星作戦以来行方不明。
本来隊長だけでいい要件に、敢えて副官を連れてきた理由がそれだとしたら・・・。


「・・・判って居る様だな。・・・白銀、御子神、入れ。」

閣下の声に、その背後のドアから入ってきた2人の男。
一人は、さっきの模擬戦から直ぐだけ在って、強化装備のまま。もう一人は国連軍のC型軍装。

その顔には、確かに見覚えが在った。


「!!、タケ坊っ!!」
「彼方っ!!」

遥華が弾かれるように飛びつく。
閣下も、殿下も生き別れた肉親の再会に、笑顔で無礼講の様だ。
そして私も歩を進める。

記憶にあるタケ坊よりもずっと背が高く、凛々しく成っている。久方ぶりに見た甥は、照れたような笑いと、懐かしさか、微かに目を潤ませている。
私だってこみ上げてきそうなものをどうにか押しとどめ、口元に笑を刻んでいる。

一丁前に、腹筋まで綺麗に割って、・・・って!、コイツが閣下を下した衛士ィ~?!

・・・しかもまだ17の筈、とっさに階級章を見れば少佐とは、・・・・タケ坊のクセに生意気な!!


私はゆっくりとその正面に立つ。遥華はもうとっくに弟の胸に飛び込んで泣きじゃくっているが、私はそんな事はしない。

「・・・・・ご無沙汰してました、トモ姉。」

170近い私を、越す長身。私を懐かしそうに見るその頭に手を回すと、思い切り引きつけ、そのまま胸に抱き込んだ。

「!!!」

小学校以来の私のスキンシップ。当時はまだ私だって20代だから、オバサンなんて絶対呼ばせない。胸に抱き込むと真っ赤になる甥っ子が可愛くて、コイツが中学になっても止めなかった。
・・・当時亡くした母親の代わり、と言う意識も少しは在ったかも知れない。
そのころはもう2次性徴もあっただろうけど、ムラムラしたってコイツには純夏ちゃんも冥夜様も居たし・・・。発散をそっちでしてくれれば、あの娘達にも喜ばれるだろうし。

今も私の胸に顔を埋めて絶句し、目を白黒させ、真っ赤になっている。
・・・相変わらずウブなやつだ。ちっとも変わらん。誘引体質のクセにヘタレ健在だな。さっきの話じゃ海外経験も長いというのに、未だチェリーか?

・・・うん、これがタケ坊だ!


因みに私だってまだ32だ。形も崩してないし、大きさも顔を埋めるほどにはあるぞ?

「・・・よくぞ、戻ってきた!」

「!!、・・・うん、ただいま、トモ姉・・・」

その言葉を聞いて、漸くタケ坊が確かに戻って来たのだ、と言う実感が湧いた。

窒息寸前でタップが入るまで、ギュウギュウに抱きしめてやった。



殿下と閣下あとは月詠大尉が、私の腕の中でぐったりしたタケ坊をみて苦笑いする中、ふと隣を見れば、漸く遥華が弟の胸から泣きぬれた顔を見上げて話している。
コイツはお姉ちゃん属性のくせにメチャ涙もろい。しっかり者且つドジっ娘と言う矛盾した属性持ち。
それなのに、何故が剣を持たせると鬼神の様な強さを発揮する。
その傍に立つのは斑鳩崇継。昔っから誰とでも別け隔てなく接した崇継。九條繋累だが、特に御子神彼方とは呼び捨てで呼ぶことを許すほどに仲がよかった。
その事がきっかけとなり、あの“弾劾”前から、遥華は崇継と仲がいいと聞いた。


「・・・悪いな。個人的な記憶は無いし、武みたいに回復する望みも皆無。
けれど“記録”は浚ったから、自分が過去何をしたか、一応の事は分かっている。」

「・・・そうなんだ・・・・。でもお姉ちゃんとしては、見てくれるの?」

「・・・流石に血縁は切れん。俺が血縁と認めるのは3親等以内だが。
どうも遥華には、イロイロ苦労掛けたらしいし、・・・・尤も昔の俺も崇継が居たから当時から心配はしていなかったみたいだが・・・。」

「! ん、もう!」

「・・・漸くご帰還か、放蕩者。」

「好きで昏睡してたわけではないけどな、漸く還ってきた。・・・ただいま、かな。」

「「おかえり!」」

「・・・・苦労掛けたか?」

「否、問題ない。
で・・・? 今後は戻れるのか? 流石にこれ以遥華や殿下を悲しませるのは勘弁だぞ?」


流石、斑鳩の若き当主。イケメン顔に爽やかな笑顔。ハンサム兄貴も板についてきた。それでいて京都の防衛戦以来“阿修羅”の二つ名も未だに健在。




「・・・では、その辺のお話を進めましょうか。」

殿下が割って、朗らかに告げる。

ナルホド、先程から妙に機嫌が良いのはそのせいか。
宗家を盛大に謀り、その腕をも喰いちぎって護ってくれた“守護神”が還ってきたのだ。それはそれは、殿下も喜ばしいことだろう。

しかし、此処から先は茶々は無しだな。・・・相当、重い話が在るのだろうから。






「・・・以上が武が発案し、俺が組んだ新OS【XM3】の概要だ。これを公表し、モノにするために俺と武は戻ってきた。今後は基本国内に居る。
但し所属は基本国連軍とし、斯衛は併属だけどな。」

「・・・戦闘機動を連続して入力出来る“先行入力”、定型化した挙動パターンを1コマンドで設定出来る“コンボ”、それらのタイミングを調整する“モジュレーション”、そして戦術機の自律機動まで含めてブレイクする“キャンセル”、か。」

「・・・しかも、モニタリングによるパーソナライズ、個人の機動志向に合わせたテイミング、機体反射速度を抑制するレベリングまでソフトで実現しているのね。」

「・・・反応速度33%向上だけでも、目が回りそうだ。そして、そのXM3の齎す世界が、あの閣下撃墜であり、この光線属種の照射回避機動か。」


殿下の要請を受け、簡単な概念を説明してくれてた御子神彼方技術少佐。
モニター画面には、シミュレーションながらタケ坊、もとい白銀少佐の操る不知火が、次々と光線級の照射を躱し、殲滅していく様子が映し出されている。
さっき見た3次元機動の敏捷性[アジリティ]から予測はしたが、こうも鮮やかに実現できているとは思わなかった。
射線回避という、消極的な使い方ではないのだ。敢えて照射を誘引し光線属種の位置を見極め優先的に撃破する、積極的な使い方をしている。
これはBETA戦に於ける戦術機戦闘の概念すら引っ繰り返す機動だ。


「・・・導入に反対する理由は全くないな。
寧ろこれが行き渡れば、衛士の生存率は飛躍的に高まるだろう。」

「確かに今までのOSに馴染んでいるから、切り替えは大変でしょうが、今まで出来なかった機動が出来るようになり、更に上を目指せるなら、切り替えない者は居ないでしょうね。」

「換装に必要なCPUボードパックに付いては、第16大隊用の36基、第2連隊用の108基に付いては既に用意している。第1、24連隊、各警護小隊や実験部隊に付いては来週末までに200基、欠員もあるから、足りるだろう。」

「また斯衛軍優先? 統合参謀本部がうるさいわよ?」

「そこは巌谷中佐に頼んだ。現行搭載のCPUで動くデチューン版を頒布してもらう。」

「ナルホド。・・けど太っ腹ね!、ガメツイと言われる上司は良いのかしら?」

「・・・センセには他の情報[モノ]を鱈腹食わせてるよ。」

「あらあら、あの女性を“満足”させるなんて、・・・ヤル[●●]わね。」

御子神少佐・・・被るわね、彼方でいいわ彼方で。

「・・・あのヒトは貪欲だけど、“量”より“質”に拘るからな。」

・・・平然と切り返すとは、喰えないわねホント。
寧ろ傍らの悠陽殿下が、楚々と近づくと、その彼方の軍服の裾をコネコネしている。

こんなのを見てしまうと、忠臣の身としては、これ以上弄って主に拗ねられても困る。


御子神彼方、面と向かうのは初めてだが、ナルホド、面白い奴だ。


「・・・夕呼先生は彼方に任せれば良いとして・・・」

おずおずと切り出す白銀少佐。
タケ坊、アンタは神経細っそいわねぇ! そこはアンタが引きつる所じゃ無いでしょ!?
聞くところによると、確か横浜の特務部隊は伊隅ヴァルキリーズ、女ばっかの中隊でしょう?
こんなんで大丈夫なのかしら?

「・・・ま、ぶっちゃけ、発案者であり、3次元機動概念の構築者である武が、この後から月曜まで教導に入れる。既に第2演武場隣の仮想訓練棟に設置された36基のシミュレータは、OS選択が可能な様に改修してある。
操作性に直接関わるから、個人の感覚も大事だろう。シミュレータで感覚を理解してもらってから、戦術機制御ボードの換装としたい。
・・・・どうする?」

彼方が引いたタケ坊のセリフを攫う。


おぉー。
重要なコトを話しながら、他の人には見えない角度で裾を弄っていた殿下の手を摂り、指を絡めてキュッと握ると、さりげに放す。
こういうさりげない小技はタケ坊にはまだ無理だわ。と言うか、素でジゴロっぽいぞ、彼方。
コイツが自分の欲だけでそうしているのなら、完全にそっちだな。

・・まあ、自分の欲だけなら、殿下のためにあんな“弾劾”は起こさないだろう。
冷酷に判断すれば、あの時点で殿下を庇ったところで、自分には何の得にもならないのだから。
寧ろ宗家を裏切り、孤立するデメリットの方が膨大だ。

そこまでして何を賭けたか? 決まっている。コイツは“未来”を賭けたのだ。

人の心は移ろうし、そもそも記憶もないらしいが、そこはまず賭けた未来を信じるべきであろう。
・・・殿下がそこまで鈍いとも思えないし。


「成る程、シミュレータで試して、戦術機を換装するかどうか、判断せよ、と言うわけですね?」

「・・・面白い。そのシミュレータで、タケ坊とヤレ[●●]るわけか!」

「残念ながら、あまり悠長なコトをしている時間はない。選択は、早めに行って欲しい。
来月11月10日前後に、大規模な実弾演習を実施し、実戦検証とする予定だ。」

「それはまた・・・随分急だな。何か急ぐ理由が在るのか?」

「・・・スマンが現時点ではそれ以上は、機密だ。」

「ナルホド。」

ナニカ在るわけだ、ソコ[●●]に。


頭の中で組み立てる。あと約2週間。確かに微妙な数字ではある。

「・・・判った。直ぐ臨時に隊を招集し、シミュレータ体験に入る。
この後4時から入れば、“御前”の所の連隊入れても、一大隊2時間は当てられるわけだな。」

流石に精鋭16大隊長。決断が速い。

「・・・こちらも了解よ。」

「1時間は導入用のチュートリアルを組んである。残り1時間が武の教導だ。」

「問題ない。・・・で、一つ聞きたいのだが。
白銀武少佐は良いとして、御子神彼方少佐の情報は、どこまで公開していいんだ?」


次は九條か。

‘99年の行方不明の後も、しばらく警戒していたからな。
コイツなら必要に応じて姿を隠すくらいするだろう。

そして行方不明が半年もすると、九條一門はまた裏でゴソゴソと動き出した。

“弾劾”以来、本土防衛軍も統合参謀本部も頭をすげ替えておとなしくしていた。別組織の斯衛軍はまだしも、指揮する立場の海軍や陸軍からも白い目で見られたのである。

「さっき説明した経歴も含めて公開して構わない。」

「・・・・戻ってきたと在っては、九條が黙っていないぞ?」

「どうせ、それほど長い期間でもない。さっき悠陽や閣下とも相談したが、無理に隠そうとしても何れバレるし、このまま隠していたからと言って奴らにあからさまな油断が出来るわけでもない。
今は国連軍所属が基本だから、顔を合わせる機会もないしな。
寧ろオープンにすることで、より警戒してくれたほうが、却ってコチラが動きやすい、という結論になった。
まあ、遥華や崇継に向かう嫌がらせがこっちに向かえば御の字だな。」

「そんな事はいいが・・・・良いのか?」

「・・・・正直な所、俺は九條なんかどうでもいい。
生き汚い鼠が沈み行く船から必死に逃げ出そうとしているだけだ。
当面の敵はBETA・上位存在。それさえ邪魔しないなら、構いもしない。」


・・・・言い切ったよ、コイツ。・・・九条兼実が聞いたら噴飯物だね・・・。

御子神憎し、に凝り固まる一門。
事実を巧みに隠蔽して仕掛けたり、荷抜きをするなど、晒されても自業自得だと思うのだが。自らの反省もせず、繋累の仕儀を暴いた彼方が裏切り者扱い。
まあ、いきり立って居たのは末端で、上の方は情報を抜かれた事そのものを自省し、より周到な隠蔽した工作を心がけているという。反省の方向が甚だおかしいが、その熱意だけはご立派なことだ。

恐らくは九條が見ているのは10年後。
形振りなど構わず“生き残る”、それを第1義とし、その方策を探し求めている。
彼方の言うとおり、沈み行く船から“必死”に逃げ出そうとしているのだろう。
ある意味“辣腕”には違いない。


御子神はあの“弾劾”のあと、九條からの明確な断絶は無かったが、当然そんな背景なら迫害はあり、御子神本家に従った親戚一同8世帯32家族に、有り余っていた特許収入を分け与え、海外に移住させた。職も在るところに送ったらしく、全く問題ないらしい。
本人は皇帝から家名と“赤”を纏う事の継続を許され、宗家と切れても独立して平然としている状態。その中で、唯一日本に残ったのが姉の遥華だった。
斯衛に属していた遥華に対しても、海外への移住を勧めたらしいが、本人が頑として望ま無かったという。私はその頃の遥華の上官。プンプン膨れていた遥華をよく覚えている。

その頃、元々精鋭を以て鳴る第16斯衛大隊は、京都防衛線で一時8騎にまでその数を減らしていた為、残った第1、第2連隊からも補充人員が送られていた。
性格は温厚だが、一度戦術機に乗れば鬼神とまで言われた遥華が16大隊に異動になったのも頷ける。
私は当時もう第2連隊で、大隊の一つを預かる身だったから異動は無理だったけど・・・。
同じ“青”だしね。一大隊に2騎の“青”はないでしょ。
・・・武御雷に乗れて無いのだけが残念だわ。

ただ、それからだと言っていた。彼方が海外に行けと言わなくなったのは。
崇継と遥華に噂が立ったのは、異動してすぐ。元々彼方を通して仲は良かったらしいし。
本人達は、否定も肯定もしていないが、周囲には歓迎されている。

実際斯衛の中でも九條門閥はどことなく警戒されていたのだ。それが彼方の“弾劾”で、空気が変わった。唯一の九條系将官も辞した。天下るように参謀本部に行ったが。
勿論、評価会の内容は武家の恥に当たる、と一般公開はされなかった。一応緘口令も敷かれた。警護以外は、将官クラスでないと出席出来ない。私だって五摂家繋累で出た。当主の崇継も同じだが、当時は九條繋累だった遥華は出ていない。
そこでプレゼンターに抜擢された弟が、どれだけ飛んでもない事をしでかしたのか、詳しくは知らない。聞かされたのは当主に楯突いた、という事だけだろう。
揉め事は昔かららしいので、とうとう切れたのね、と言うのが遥華の応えだった。切れたと言うよりは、極めて緻密に、用意周到に、ものの見事に嵌めた[●●●]と言うのが、私としては正しい表現だと思うのだが・・・。

“弾劾”以降、将軍職警護を最大の任務とする斯衛軍上層部にとって、BETA大禍の責から悠陽殿下を護りきった御子神は、“英雄”扱いなのだ。特に政威大将軍派である斉御司、斑鳩、煌武院にとって。現状、崇宰は中立の立場を崩しておらず、九條は相変わらずなのだが。
そんな中唯一国内に残った肉親が斑鳩当主の側に居れば、流石に心配性の弟も少しは安心したらしい。

繋累は海外で安泰、姉は他の五摂家の庇護下。
周囲に杞憂の無い今、コイツにとって九條如き本当に路傍の石でしか無いのだろう。


どこかずれた、まるでヒトの権力や、欲望などのどろどろした範囲を完全に逸脱し、遙かに超越してしまった領域に棲んでいる様な感覚。


そんな彼らに全幅の信頼を寄せているのか、黙って微笑み、何も口を挟まない殿下。


・・・・・・唯一こんなのに惚れ込んでいそうな殿下の、苦労が思い遣られるわ。


Sideout




Side 榮二


今は自分以外誰もいないブリーフィングルームで、一人技術資料を読み耽る。
事前に渡されたのは、概要と映像の一部だったが、今回は仕様書と全ての映像記録が付いている。


白銀少佐が、自らが理想とするハイヴ内での3次元機動を実現するために発案し、御子神少佐が実現した新OS【XM3】。
その実戦緒戦となった“銀河作戦”、あのオリジナルハイヴの最奥部、“上位存在”にまで至った原動力。

シミュレータに於いて、平面制圧では自らを囮として光線属種をあぶり出し、優先的に殲滅。
ヴォールクでは、エレメント単位にて反応炉撃破どころか、ハイヴ崩落までさせ殲滅数7万をたたき出す。

そして今日、対人戦に於いてさえ、あの紅蓮閣下を凌駕した。
シミュレーションはデータに甘いところが在るのは認める。
こんなの現実的ではないと言うのは、当の本人も言っていた。
あの“銀河作戦”を生き抜いた者なら、当然だ。
それでも、示された成果が余りにかけ離れている所為か、何処か現実離れした夢物語のように感じていたのも確かだった。

それが、実際に目の前で何の変哲もない不知火に搭載され、紅蓮閣下の操る武御雷をも撃破した。

無論、白銀という衛士の技量が凄まじいのは理解した。
桁が違うと言うより、文字通り次元が違う。
2次元でしか戦っていない今の戦術機に対し、完全な3次元に適応している。
この僅か17歳の少年に秘められた力。
戦術機適合性と言う才の高さもあろうが、ハイヴ威力偵察を繰り返し、最後のミッションであるオリジナルハイヴの、あの地獄すら潜り抜けた“単騎世界最高戦力”。
死線を潜り抜けた経験でさえ一桁ではないだろう。
三桁にすら届くかも知れない。
九死に一生を得るどころではなく、万死に一生を掴んで来た存在なのだ。

しかし、それでも本来対人戦は勝手が違う所があるのだが、それすらも、ハイヴ攻略で培った3次元機動を駆使して見事凌駕してみせた。
過酷な任務で磨き抜かれた突き詰めた才能が、武を極めた達人にすら優ったのだ。


その天才の機動概念を具現化する【XM3】。
今後、白銀少佐の域まで届く者が現れるかどうかは不明だが、明確に戦術機という戦力全体[●●]を底上げしてしまう、画期的な技術で在ることは疑う余地も無かった。



しかし実はオレは、一つの危惧を抱いていた。
シミュレータでは顕在化し難い問題。

XM3は確かに素晴らしい。
その実現する機動、ルーキーからベテランまで間口広く懐深く、その全てに合わせる操作性。

・・・それ故に犠牲になるのは、耐久性や信頼性。
少なくとも不知火のハードで弄ったのは、CPUボードのみ。
動力系、駆動系から操作系すら、何も弄っていない。
ただ在るものの制御のみ。

それで、あの機動に保つのか?

それが最大の懸案だった。
今後の課題は、消耗が激しい関節強化や、整備体制の確保だな・・・。
そう、感じた。




だが。


こうして詳細な仕様書を目にすると判る。

ド派手な機動性。
懐深い柔軟性。

その裏にあったのは極めて精緻な制御。
XM3による不知火は、旧OS以上の堅牢性さえ手に入れていたのを知ったのだ。


戦術機のOSは、ほぼ一社独占状態にある。
開発用のOS以外、量産は全て同じと言える。
操縦者とのI/Fである管制ユニットが全世界統一規格だからと言えばそれまでだが、開発用が存在するように作れない事はない。
間接思考制御による操縦は、とっつきにくく、熟練に時間が掛かるとはいえ、悪いものではなく、これまで何の手も入れられていなかったのが実情だった。

今日、簡単な説明を聞いたとき、最初XM3とは、戦術機の操作における“随意領域”の拡張を図ったシステムである、と思った。
先行入力やコンボ、そのモジュレーション、そして自律領域の割り込みも行うキャンセル。
確かにその恩恵は凄まじく、習熟までに時間を要する間接思考制御の補助を待つまでもなく、あの3次元機動を実現する。
なので、その思想にテイミングやレベリングと言うパーソナライズが考慮されていることに驚いた。
兵器の在り方が、ちゃんと解っているのだ。


そして、技術資料を読み進めるうちに愕然とした。

このXM3と言うOSのアーキテクチャは、“自律領域”どころか、主機の出力、燃料電池のスタック流量、電磁伸縮炭素帯のファームウェアにまでに渡る、“統合制御”を行っていたのだった。



今までのOSに於いて、自律制御中は随意制御が出来なかった様に、“自律領域”は、全て機械都合で決定され、固定化されていた。
設計者は戦術機の保全を最優先にそれを決め、操縦者は、それを前提に腕でそれをカバーした。

だが、操縦者の意思というヒューマンコンシャスの思想で構成されたXM3は、その固定化された自律制御を撤廃した。
と言って自律制御は戦術機保護のために行われる内部動作であるため、無くしてしまう訳にはいかない。
御子神少佐が行ったのは、“固定”された制御を排し、“柔軟”な制御を取り入れる事だった。
元々今までの自律制御はバランスにしても反力相殺にしても、“静的”、つまり止まった状態を前提とする。なので、“硬化時間”が出現する。
しかし戦術機は動いているのだ。
先行入力や、コンボで次の動作が決められているなら、その動きの中で、“動的”に対処していけばいい。
そのための電磁伸縮炭素帯は、全身関節周りにいくらでもある。
停止している他部位の電磁伸縮炭素帯を統合的に使用することによって、正しく人体が全身で運動をするように、全ての衝撃や平衡を動作の中で受け流す様になった。
動作や力が全身に渡るため、個々の駆動量は微小で済む。
自律制御なので、操縦者ですら気付かない。
次動作が決まっているときには、その動作を阻害しない方向に持っていく。
出力が必要なら、そのタイミングに合わせて準備し、キャンセルが入れば、その余剰動作と次動作を結合するように自律制御が動いていく。
 それを実現する為に、主機や燃料電池、そして電磁伸縮炭素対まで統合下においた。
ファームウェアの許す限りのクロックアップを行い、制御を緻密化させた。
それは、急峻な大出力の為ではなく、寧ろ出力を平滑化し、バランスを取るもの。
故に立ち上がりに於けるオーバーシュートや、制御遅れに寄るエネルギ損失が格段に減る。

結果、お仕着せの自律制御しか出来なかった旧OSに対し、操縦者に十分に馴致された状態では、摩耗率が30~40%程も低減されるシステムに変更されていた。
全身に渡るエネルギーマネージメントで燃費も3%向上している。

しかもそれらの自律制御ですら、操縦者のクセによって、逐次最適化され使う位置が徐々に修正、搭乗者に合わせた機体テイミングが行われていく。
乗れば乗るほど滑らかに軽やかに全身で馴染んでいく機体。
操縦者のデータはリンクで保存され、機体を乗り換えた場合にも適用される。
機体ごとのクセは、換装初期にアナライズされ関数化されることにより、どの機体に乗ろうと同じ操作を実現できる。



この機能のお陰なのだ。

白銀少佐が、紅蓮閣下に対し、15分もラッシュを掛け、その機体が保ったのは。






しかし・・・・。

これだけのモノを入れ込んだOSで在りながら、ハードを弄らない、この縛りがどれだけ困難なことであったか。
巧みに伝達モデルを構築したり別の信号変換したりして、回避しているが、それがCPUの負荷を上げ、冗長性を欠いている事には変りないのだ。

その理由も既に知っている。
年内、つまりH1とH21の攻略までは、時間が無い。
それを重々承知しているから、全てを“改良”だけで済まそうとしている。
年初に昏睡から覚醒したと言っていたから、まだ1年も経っていない。
その限られた時間で、差し迫った問題を解決しなければならない。


けれど逆に言えば、この“思想”を100%実現できるハードが組めたなら・・・・。
この国が、無事来年を迎えることが出来たなら・・・。


・・・・そしてまた、それ[●●]こそが真のXFJが求めたものでは無かったか?







ノックの音がした。

返事をすると国連軍の青を基調としたC型軍装の女性が入ってきた。


「――篁唯依中尉、ただ今アラスカから帰還いたしました。」


ピッとした敬礼をしたのは、篁唯依中尉である。


「おぉ、唯依ちゃん! おかえり・・・無事で良かった―――。」


表情が硬い。
が、その顔を見て安堵したのも事実。
遠い地で狙撃を受け倒れたと聞いて以来、実際に元気な姿を目にするのは初めてなのだ。
祐唯の忘れ形見、そして幼少より面倒を見てきた愛娘にも等しい。
その表情が揺れる。

「あ・・・その節は大変ご心配、お掛けしました。」

「ウム―――。
復帰後も問題無さそうで何より。
後で栴納さんにも元気な姿を見せてきなさい。」

「は!、ご配慮感謝致します。」

「殆ど完治したとは聞いたが、未だ大事を取ることも必要、先ずは座りなさい。」

「は。」


近くの椅子に座り、居住まいを正す。


「さて、ユーコンでのXFJ計画の推進、大義であった。
・・・しかも昨日の今日とは随分早い到着、ご苦労だったな。
今はオレしか居ない。普段どおりで構わないぞ。」

「あ、・・・はぁ・・。
今朝方、丁度臨時のHSSTが有りましたので、それに・・・。
先に市ヶ谷に伺ったら、コチラにいらっしゃるとお聞きしました。」

「そうか、それは幸運だったな。
―――それでは、此度XFJ計画に掛けられた技術漏洩疑惑について報告してくれ。」


態度は硬いまま。
まあ、今回の帰国命令も有無を言わせずイキナリだったしな。
しかも漏洩疑惑の直後だ。
唯依ちゃんのことだ、譴責も覚悟して来たのだろう。




事の発端はやはりソ連機の評価試験。
被弾後、意識を回復した中尉は、オレの帰国命令とその説明で裏にあった意図に気付いてしまった。
継続を上申するその勁い意思に評価試験を認めた訳だが、既に実施されていた戦況は実際芳しくなかった。
彼女が復帰後直ちに状況を把握するに、ユーコン事件の折り垣間見せたという精神的・薬物的処置を施されたソ連軍開発衛士の技量は凄まじく、Su-47の性能とも合目って不知火弐型Phase2では不足と判断。
更に当地での専任開発衛士より齎された、目を瞠るような的確且つ大量の改善勧告。
そしてSu-47の性能に危機感を抱いたボーニング上層部の懸念。
それらの状況を鑑み本来帰国後実施予定だったPhase3の前倒しを決めた。

ユーコン事件に於いては謂わばソ連軍最強衛士とも言える相手を凌駕し、そして自らが凶弾に伏せていた間にもその遺志を汲んでくれた開発衛士に応えるべく、その要望を満たせるPhase3の前倒しに至るのは必着、と言うこと。

しかし―――成程、カエルの子はカエル。
いや、寧ろ祐唯とあのミラのハイブリッド[●●●●●●]が、只者で在るわけがないか―――。



それにしても、何という皮肉―――。

互いに受け継いだ血が抜きんでていたがために彼の地で巡り逢い、そしてまた似たところが在るが故に共鳴してしまえば、惹きあうのもしかたないこと。
損な役を押し付けたフランクには申し訳なかったが、どうにか今は落ち着いた様子。
何らかの割り切りが出来たことは確かなのだろう。


「・・・成程、対Su-47と開発衛士の熱意に応えるべくPhase3の前倒しを要望し、フランクがそれに応じた・・・、と。」

「は―――。
当初予定に背き、極秘だったPhase3を当地で前倒したばかりにこのような事態を招いた暗愚、全て私の責任。如何様な処分も受ける所存い御座います。
誠に申し訳ありません。」

「―――その件に付いては、中尉の現場判断として妥当であり、不問としよう。
実際Su-47で特殊技能持ち衛士相手では厳しかったこともある。
状況を見るにソ連の計画は衛士の先鋭化であり、機体の進化を目指すXFJ計画そのものの存否とは本来比較しようもない。」

「――は。御勘酌頂き恐縮です。」

「・・・しかしそこで軍事機密漏洩とは・・・。
Phase3の内容は国内で実施する分に付いても、機密漏洩規定に当たるものは無かったと思うが?」

「は・・・。
それにつきまして担当した捜査官が私の動揺を狙いリークした所によると、1号機には当初Phase3計画には無かった統合補給支援機構[JRSS]が搭載されている疑惑が在ると―――。」

「―――なッ!?、それは、篁中尉の要望ではなく?」

「天地神明に誓ってそのような要望は致しておりません。
統合補給支援機構[JRSS]なるシステムそのものが初めて聞く内容ですし、模擬戦が中心の試験機に必要な装備とは思えません。
・・・更に捜査官の話では、YF-23にて使われていた第2世代アクティブステルスも搭載の可能性もあるとか・・・」

「―――少なくとも2号機の仕様書にはその記載はない。
と言うことは、1号機だけ・・・か。」

「・・・・・・。」


どうやらフランクに何らかの意図があったのは確実か。
統合補給支援機構[JRSS]なんぞ実戦それも最前線でしか使わない代物、中尉の言う様に模擬戦が殆どの試験機につける装備ではない。
またアクティブステルスが米国の国防上重要な技術だというのはフランク本人が最も理解しているはず。
そして米国が国防に関することには強硬な事も十分に理解しているはずだが。
今回のSu-47を見る限り前科[●●]もありそうだ。
或いは自分は投獄されることはないと踏んだか・・・?。

それでも模擬戦などで使えば一発で露見するステルスシステムを、その危険を犯してまで追加するのも妙だ。
殆ど敵陣への潜行や脱出戦を想定しているような・・・!、まさか亡命まで視野にいれたのか?

・・・第5計画の内容を聞かされた今なら判る。
ボーニング社とは言えその主流は第5計画派。
しかしその内実は移民計画の宇宙船建造に関わっているからであって、G弾を基本としたドクトリンに沿った戦術機の開発、或いは本当に戦術機を必要とする前線国家への供給と言ったマーケティングを考慮すれば、フランクの才はまだまだ必要だ。
しかし彼は “戦術機の鬼”。
寧ろ自分がやりたい開発が出来るなら、何処でも良いと考えている節もある。
G弾後の世界制覇に向けてステルス技術の流出を絶対阻止したい第5計画派と、亡命までチラつかせたフランクの鬩ぎ合いが今回の疑惑騒動、と見るべきか。

―――それだけに急転直下で嫌疑は晴れた事のほうが謎だ。


「・・・何れにしても査察が実施されればかなり危機的な状況だった様だが、何故急に嫌疑が晴れたのだ?」

「―――それが判りません。
突然捜査も査察も打ち切られ、即刻釈放されました。
理由を尋ねても捜査官は、高度な政治的な判断、としか言いませんでした。
ただその後に会ったハイネマン氏は、どうやら第5計画派に不利な情報が齎されたらしい、とだけ・・・・。
―――私には意味がわかりませんでしたが。」

「―――あ・・・。」


はたと思い当たる。
先の浜離宮の話では、第5計画派の思想はG弾最優先。
プロミネンス計画、曳いてはフェニックス計画など不要とさえ思っている第5計画派ならば、戦術機設計の鬼だろうと神様だろうと不要と見切った可能性もある。
それを見誤ったフランクが弐型をPhase3に改修したのを見計らって、XFJ・フェニックス計画の打ち切り、よしんばプロミネンス計画自体の潰滅を狙ったと考えらるのが妥当か・・・。
事実不知火弐型Phase3に機体から統合補給支援機構[JRSS]だのアクティブステルスだの見つかれば、当然フランクは投獄、XFJ開発メンバーも良くて強制送還、悪ければ一生幽閉となろう。
踏み込んでしまえば、曖昧な落とし所は存在しない。
当然それを助長したプロミネンス計画も縮小、或いは打ち切りも有り得る。

しかし、午前中見せられたG弾の危険性、バーナード星の現実、そして或いはあの珠玉の機動映像までを米軍の上層部が見せられたら・・・。
第5計画派が今の段階で見切ったのは、第4計画の打ち切りが近いことが要因。
しかし突如出てきた情報そしてOSは、その第4計画から出てきているのだ。
この土壇場に来て第4計画に何らかの進展が在ったと見るべきで、しかもその成果はOS一つ取っても並々ならぬものがある。
当然打ち切りの話など立ち消え、当面予備計画の繰り上げはなくなるだろう。

と成れば、戦術機開発自体を停滞させ、日本のXFJ、或いはプロミネンスを潰し、EU・ソ連を含めた諸外国との関係を一気に悪くする状況に、今の段階[●●●●]で踏み込むわけには行かなく成った。


―――そう言うことだろう。


あんな有利な情報を手にしたのだ、性格のひねた魔女なら嬉々として真っ先に米国国防省辺りにリークしそうだ。
あの手の否定情報は手の内に隠しても全く意味が無い。
相手にこそ認識され、そして広く大衆が知ることによりその効果を発揮する。
だったら真っ先にG弾使用に忌憚ない相手の懐に落とすのが効果的。

鎧衣課長に聞いた限りでは、あの国の国防省も当然幾つか派閥があるらしい。
さらには第5計画派と言っても、移民推進派とG弾推進派で別れ、更にG弾過信派とG弾慎重派が居り、慎重派は必ずしもG弾が絶対とは思っておらず、飽くまでBETA殲滅の一手段としてG弾が最も効率が良いと考えている良識派らしい。
当然、あの“大海崩”の様な予測があればその科学的検証が優先される。
何しろその被害は凡地球規模、自国でさえ国土の半分を喪失する予測とも成れば今までのような対岸の火事では済まないのだ。

結果G弾使用が困難と成れば、BETA戦は再び戦術機主体に立ち戻る可能性が急浮上した。

ならば今この段階で、戦術機開発に深刻な悪影響を与え、ましてや戦術機の“天才”を喪失[●●]流出[●●]する可能性が高い捜査を強行するわけには行かない。

―――その結果がこの高度な政治的判断。
これが、フランク想い描いた通りなのかどうかは別として―――。



苦笑する。
知らぬ内に魔女に助けられていたか・・・。





「―――了解した。その件に関しては以上勘酌しない事とする。」

「は?、・・・はぁ、了解しました。」


釈然とはしないが、己の踏み込む領域ではないと納得したか。
今後の流れ次第では、早々に気付くこともあるだろう。


「で、・・・だ。実はいきなり帰国してもらったのは、それだけではない・・・と言うか寧ろ此方がメインだ。」

「え? 未だ私はユーコンで遣るべき事があると考えていますが・・・?。」

「・・・実質日本に戻ってから行う予定だったPhase3までをも完了し、評価試験で最後発新鋭機Su-47を凌駕する性能を見せた。
つまり実機検証まで完遂している事と成るのだが―――これ以上、何が在る?」

「!・・・・・・。」

「・・・簡単にいえば、それどころでは無くなった、と言うのが一番正しい。」

「え?」


・・・そう、あと2ヶ月で帝国の存亡が、ひいては人類の運命が決すると言っても過言ではない。
彼らが示したのは、謂わば可逆分岐点[●●●●●]―――。
瀬戸際といつも意識してきたはずだが、まさかここまで差し迫っているなどとは思っていなかった。
燃え尽きた帝都の二の舞をこの東京で決して起こしてはならない。
それを許せば、後は地滑り的に人類の滅亡は進む。
その流れを誰も止められなくなる。



「・・・実際に見てもらった方が早い。」


 そしてオレは端末を操作し、モニターに画像を映す。


「―――まずはこれをXFJ開発主任として評価してくれ。」



Sideout



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