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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会
Name: maeve◆4e73cb56 ID:56336505 前を表示する
Date: 2019/05/05 21:16
‘19,05,05 upload  ※ストックの4/4



Side 夕呼


国際連合安全保障理事会緊急動議―――。

本来正確には公式決議の準備協議である非公式協議を指す。
しかし全世界がBETAと言う脅威に晒されて以来、危急の非公開全体会合を慣例でそう呼んでいた。
協議の結果、公式決議に掛けられれば正式な番号が付き、決議自体は公開となるけど、そこでは説明や質問もなく、案件に対する採決を取るだけなので、1件当たり数分で終わる手続きみたいなもの。
現実の議論は非公開で行われる非公式協議の場で行われる。
通常の非公式協議では関連する当事国同士の予備協議など数日から2週間ほど掛けることもある。
しかし緊急動議に関しては,BETAに関する即断即決が必要な場合が多く、今回もたった2日の短期決戦で挑む。

議決に加わる参加国は常任理事国である米・英・仏・中・ソ、それに1987年に常任理事国入りした、豪、そして日本帝国。
尤も日豪には2007年まで拒否権は無いけどね・・・。
更に非常任理事国が8か国、2001年現在は、シンガポール、チェニジア、マリ、モーリシャス、ジャマイカ、コロンビア、アイルランド、ノルウェー。
非公式協議で議決に掛けるか否かを決定し、且つ決議において15か国中拒否権を持つ5か国を全て含む8か国の賛成をもって可決される。
と言っても既に、非常任理事国への根回しは済んでいる。
大東亜連合であるシンガポールには政府の方から協力を要請しているし、EU圏のアイルランド・ノルウェーもプロミネンスを通し、打診済み。

此方の勝利条件は神鎚作戦[Op.ミョルニル]―――オリジナルハイヴ攻略計画―――の議決承認である・・・けど、前回珠瀬大使に話した時とはかなり状況が異なっていた。


オルタネイティヴ第4計画の対BETA戦略―――つまりハイヴ攻略順序の変更と、実戦証明のため帝国技術廠にてRes-G弾を試作するに当たり、彼方と共に極秘に、そして初めて帝都城に登城した。
第4計画[オルタネイティヴ4]の発案以来、帝国政府との折衝は全て榊首相や鎧衣を通して居たから、その頃雌伏していた殿下に拝顔するのは初めてだった。
全部彼方に任せたかったんだけど、殿下たっての希望、といわれちゃ、ね。
そして円卓の置かれた会議室に通され、そこで待っていた殿下と目が合った瞬間、理解したわ。
しかも黙って敬礼したアタシに、最敬礼を返された。
無論、これが非公開の極秘会議だからこそ出来る仕儀なんだけど。
言葉など不要―――成る程、元のポテンシャル[極上の原石]御子神[ネイティヴ]長年手塩にかけた[磨き抜いた]だけある日本帝国の宝珠だわ。

そこで行われたのは緊急動議での最終方針を決める極秘会議。
当然試作するブツを明らかにした際は、薄っすらと涙を浮かべた殿下はともかく、榊首相・珠瀬大使・紅蓮大将にまで号泣されドン引きしたけど。
方向性は定めたものの最終的にはアタシと随伴する彼方に一任された。

何故ならRes-G弾の完成は、クリア条件そのものを大幅に引き下げる。
前哨戦となるH-21侵攻作戦[鳴神]をクリアし、Res-G弾の鍵材料[コア・マテリアル]となるG-6[グレイ・シックス]さえ入手できれば、統一中華と手を組むだけでもH-1[オリジナル・ハイヴ]を攻略できるからね。
その際問題となるのは、エヴェンスクに出現するという超重光線級のみで、安保理議決すら不要となる。
エヴェンスクには既に対策[ブリッジス]を打っているけど、念のためソビエトの協力は取り付けたほうがいいくらいのもの。
出現位置が判っているから、予め突入本体のH-1[オリジナル・ハイヴ]への再突入軌道を、軌道傾斜角の小さいギリギリ北緯40°を掠る極低緯度軌道にすることで回避可能である。
高度200km程度の低軌道であれば、エヴェンスクから見た地平線下を周回して喀什[カシュガル]まで行けるのだ。


―――故に動議に関しては、最悪のオプション:米国が拒否権発動し否決されても、何とかなる。



既に最大の当事者となる中国とソビエトの国連大使には昨日の昼間、珠瀬大使と共に極秘裏に個別会談を設けた。
勿論、両国ともBITA[傀儡級]が存在する懸念もあるし、国・個人的に妙な欲を出されても困るので、Res-G弾までは明かしていない。
が、賛成してもらえればAmazing5の心臓部及び関連装備を供与可能なこと、国連方面軍[横浜]と当事国だけでもH-1[オリジナル・ハイヴ]の高い攻略可能性を示唆し、否決された場合の協力を取り付けている。

昨夜、第5計画執行責任者には協力が必要、みたいに言ったけど、H-21侵攻作戦[鳴神]が成功すれば相当量のG-11[グレイ・イレブン]も手に入る。
以前極秘裏に譲渡されて中身[ G-11]を抜いたG弾を再度Res-G弾に改造することは難しいことじゃない。
神鎚作戦[Op.ミョルニル]では、開幕湧出後の光線族種殲滅と反応炉攻略後の汪溢BETA殲滅の2発しか使わないので、彼方のXSSTで事足り、ICBMも必要ない。

その会談自体、実は行動予測[MAcPro-III ]を使った出たトコ勝負の1点賭けにジャックポットした。
無論バビロン作戦の執行責任者が、副責任者のようなBITA[傀儡級]である可能性が低く、引き込めると判断した上で。
アタシとしてはどっちに転んでも三ツ星レストランのディナーを堪能できるんだから最悪外れても構わなかったんだけど。
なにしろ前回来た国連演説の折は折角のニューヨークだって言うのに、襲撃を警戒してホテルのルームサービスが精一杯、だったのよね。
ちなみに今回は、アタシのドレスコーディネートも、ヘアを含めたメイクアップも全て彼方の手配任せ。
狙われる可能性がないわけじゃないのに、そんな気配を微塵も感じさせないエスコート。
あとで聞けばCIAが張り巡らせたサイバーネットによる個人探査システム、その裏を掻いて、入国審査から市中の防犯カメラ映像まで、電子的に完全欺瞞していたらしい。
入国時システム側ののアラートチェックを外して一般人に成りすました。
[CIA]側は司令する[HQ]がターゲット認識出来ていないのだから、手足[実行部隊]は動かない。
CIAがアタシ達の入国に気づいたのさえ会議開催時間的におかしい、と再検索を掛けた12時間後と聞いた。
その際にコチラ側の瑕疵はなし。
ハッキングの痕跡は残してないし、飽くまで単なるアラートシステムのバグによる取りこぼし、としか説明のつかない状況。
パスポートと顔認識による自動サーチを逆手に取り、一度通過させたてしまえば後はフリー。
念の為、バレるまでは撮影映像を光学迷彩で微妙にデフォルメ、肉眼でも判別できない加工をしているとか言ってたけど、なにをすればそんなコトが可能なのかは知らない。
何せ電子機器に関しては00ユニット同等以上のハッキング能力を有する存在。
結果さえ出るなら過程なんてこの際無問題。
お陰で中ソの極秘会合の済んだ午後からは、た~っぷりとセレブ気分を満喫させてもらったわ。

レストランの仕切り、特に相手が無類のワイン好きなのを調べて仕掛けたのも彼方。
そういえばこっちの御子神[ネイティヴ]は、個人でも色々と世界的な特許を持つ金持ちで、相当な個人的備蓄と共に、シャノアを通して世界中にコネクションを持っているんだっけ。
それを“記録”だけで相手に一切の違和感を与えることなく使うんだから確かに魂魄と思考は一緒、というコトか。
当然元の世界でもいろいろ[同じような]経験があるらしいし。
そんなだから料理もワインも最高に美味しかったし、それなりの話は出来たので、一応第5計画の執行責任者の協力は得られるでしょう。
情報は貰えた上に、無駄な手間は省けるから上々ね。
勿論米国としての決定は第5計画執行責任者一人の裁量で決められる事じゃないからこの後どう転ぶかわからない。
ま、米国の上層部がそこまでおバカじゃないことを望むわ。



白銀や鑑の経験した前回のループ。
残念ながら00ユニットとしての鑑は既に失われていたから詳しい数字は不明だけど、白銀の記憶によれば“桜花作戦”の支援に回った世界全体陽動作戦の損耗は、40~60%と聞く。
“桜花作戦”そのものの損耗に至っては、一緒に宇宙に上がった国連含む軌道艦隊は文字通りの全滅、つまり絶滅状態。
光線属腫は投下されたAL弾を選択的に照射せず、一方今まで対象から外れていた再突入軌道にある再突入駆逐艦にまで照射をし始めたと言う。
集中砲火を浴びたXG-70dを降下させるために、全ての再突入艦がその盾となり、虚空に散った。
それだけの犠牲を払ってH-1[オリジナル・ハイヴ]に突入したA-01とA-04。
結果的に重頭脳級撃破に成功したものの、生還者はたった2名・・・。
一足先に再突入した米国軌道艦隊も最終的な残存戦力は、10%前後だったらしい。


この記憶と、それに抗い続けた先で彼方の見出したRes-G弾は、膨大な損耗を大きく減じることができる。
米軍のICBMが必要なのは、神鎚作戦[Op.ミョルニル]本体ではなく、全世界規模の反抗作戦を仕掛ける時の、辺縁部陽動を行う部隊支援。
ICBM支援がない場合、損耗は白銀の記憶にある惨憺たる数字。
人類そのものの犠牲を減らし、世界の天秤を傾ける希望とするには、あまりに比重の大きい数字なのよね。
加えて米からの支援ICBMは地理的に動かし様がなく、しかも高度が1,500kmにも達するため、確実に超重光線級の照射範囲に入る。
勿論SLBMの運用も可だが、これも結局は弾道弾なので発射後高度1,000km以上に上昇する。
となると照射可能範囲はエヴェンスクから3,000~4,000km圏であり確実に避けられるのは欧州、中東・西アジア方面だけとなる。
最悪帝国軍が参加するであろう鉄源ハイヴ[H-20] の支援すら危ういって訳ね。


そのためにも第5計画の協力と、ブリッジスの活躍を期待するしかない。

ま、何を言おうと現状米国が持つ国力が、頭2つも3つも抜けている事は否定できないのよね。
完全にハブっちゃうと、別件含めて色んな意味で問題が出てくる[面倒くさくなる]のは必至。
可能な限り取り込むに越したことはない、と言うのが帝国首脳含め第4計画サイドの結論。

結局、最大の懸案は米国の出方のみ―――。
ホント、ガキ大将[ジャイ〇ン]のあしらいは頭痛いわ。







迎えた非公式協議―――。
理事国の国連大使に欠席者は、いない。
各国の背後に補佐として十数人の関係者が着いている。
つまり議場は満席だった。


今はまず、第4計画の得た成果として、例の会話ログを流しているところ。
内容は前の世界での白銀の記憶を音源化したものだが、過日に於いて喀什辺縁部からXM3試験部隊が潜入し、試作型00ユニットを用いて上位存在に接触した、という事になっている。
現実的課題のスタブ突入に関しては、ハイヴ拡大の過程で丘陵部にてモニュメントから死角となる開口門が偶々発見されたため、急遽実施された威力偵察としている。
無論、その後丘陵はBETAに削られ、既に現在は潜入不能―――と言う設定ね。
帰還機体が1機だけでも、GPSデータを偽造して客観的信憑性は補足してある。
00ユニット以外では偽造できない規模だけど、元々スタブ内部では観測できないから本来完全なんていらない。
もっとも実行者が白銀という事で、そこに疑問を挟むものはいなかった。
白銀の雷閃[シルバーライトニング]”ならH-1[オリジナル・ハイヴ]だろうと単騎脱出くらい出来ると思われているらしい。

むしろその信憑性に疑問を持たれなかったのは、その衝撃的な内容からだろう。
初めて聞いたとき、アタシだって疑問を持たなかった。
地球の現況を何よりも如実に語る、その存在。
珪素系生命体の創造主や、人類の抵抗を重大災害としか捉えていないその在り方。
余りに人間離れした感覚が、直感的に完全に異質な相手を認識させてしまうのだろう。


で、その音源が途切れても、会議場は静まりかえっている。
重金属雲も斯くやと思うほど、重苦しい空気。



「・・・しかし、これは・・・」

「絶望的ではないかッ!・・・」

「これが・・・オルタネイティヴ1以降、30年もの年月と莫大な犠牲を支払って得た結論だと言うのか―――。」


一人がごちると、悲壮な意見とも言えない感想が噴出する。
次いで・・・。
禅問答のような質問が延々と続く。


「―――上位存在、いや創造主とやらに、人類が生命であるという認識を与えることは出来ないのか?」

「存在基盤が異なり過ぎます。
創造主は、珪素を基盤とする自己増殖・散逸型の生命。
少なくともその発生も、進化も、生命としての概念も、全く異なると想像できます。

・・・いえ、炭素系である人類には想像すら及ばないかもしれません。
例えれば、地球が生命体である、と言うようなものかと・・・。
地球が生命と言われて我々は直ぐに納得出来ますか?
そして地球が生命体で在った場合、地球にとって、人類など自分の表面に発生したタンパク質の泡のようなもの、良くて細菌でしょうか。
相手は数億年を生き、更に寿命さえ見えないイモータル。
そんな存在にとって、人類など気まぐれで作った寒天培地に、勝手に繁殖した雑菌のようなものです。
現実的に、この会話からは創造主が地球にも炭素系生命の礎を蒔いた、とも解釈出来ます。」

「・・・人類を含む地球生命の創造主、正しく”神”である可能性もあるというコトか・・・。」


更に会場がザワつく。


「地球生命の起源はこの際、置いておきますが、創造主は神では在りません。
神の概念にもよりますが、少なくとも人類を守り慈しむ存在ではない。
科学者が要らなくなった培養地を廃棄し、リセットしようとしているようなものです。
もし、人類の細菌学者が廃棄する寒天培地の細菌に自我を持つ知性があることを見つけた時、どうするでしょうか?
但し、ライフサイクルが極端に違うので、細菌は1時間で世代交代しますが・・・。」

「・・・なるほど、創造主からすれば知性は認めても継続したコミュニケーションすら取りようもなく、その意味もない、と。」

「興味を持つ可能性も皆無では在りませんが、創造主はBETAも送りっぱなしでしょう。
現実に彼我の距離が数千万から数億光年離れている可能性もあり、もし興味を持ちBETAを止める判断をしたところで早くて数万年後の話になります。」

「創造主そのものの対処は、考えることがそもそも無意味、か。」

「はい。
逆の可能性としては、本体のある恒星系の寿命が尽き、創造主が既に存在しないことも在り得るのですから。
無論、母星系消滅にすら対処している可能性も。
けれどそんな宇宙の果ての事象に何ら関係なく、我々は“現在”を生きています。
細菌が、我々の知らないところでも生きているように、すでに人類は創造主の手を離れて進化しているのです。
理不尽に廃棄されるのを待つ謂われは在りません。」

「・・・そのためにはBETAを駆逐する必要があるのだな。」

「しかしBETAは炭素系生命であろう?」

「いえ、創造主にとっては上位存在を含め、資源回収用の作業用ロボットに過ぎません。
材料が金属やプラスチックではなくタンパク質というだけで。
そして我々に取ってすら生命とは言えません。
自由意志を持たず、ただプログラムされた資源回収をするだけの存在、それはロボットとしか言えないでしょう。」

「だが、あの会話が成立しているが?」

「人工知能でも思考は可能で、会話は出来ます。
彼我の区別は付いているので、仮初の “自意識”は持っていると考えます。
BETAで言えばあ号標的[重頭脳級]・・・今後H-1[オリジナル・ハイヴ]の反応炉をこのように称しますが・・・この個体だけがそれを持ちます。
横浜の反応炉には、存在しません。
“生命”という概念は、実はあやふやで正確な定義は在りません。
しかし問題は、我々が如何に策定しても、創造主の認識、つまりはBETAに組み込まれた定義を変えることができない、というコトです。
上位存在と似非禅問答しても状況は何も変わりません。
BETAは決められた命令に沿って行動しているだけの存在―――ロボットですから。」

「・・・むぅ・・・」


この議論になると何時も思う。
抑々現在の生物学や生物物理学においては、生命の定義そのものが明確には定まっていない。
タンパク質とレトロウイルスの境界は曖昧だったりする。
そして地球人的に生命活動と呼ばれるものは、基本的に炭素系生命体固有の事象であり、創造主のような非炭素系生命体は含まれない。
更には一般論や宗教観、哲学・神智学まで絡んで、定義を定めようとすればするほど境界がぼやけてくるテーマだ。
上位存在の問いに在るように、未だ明確な解に至っていないのだ。

“母生命(根源)を礎とする魂魄と結合した、基質を問わず自我を有する散逸自律体を生命と言う”―――彼方の言う生命の定義。
それは母生命や魂魄の存在を肯定した一種神智学じみたかなり荒唐無稽な解釈とも言える。
しかしこの定義に沿えば、人も創造主も、幾つかのテストで自我が確認されたアナスタシアでさえ“生命”となり、一方で自律行動をするロボットや一般的なAI,そしてBETAも“非生命”と分類される。
また“自我”の定義により、その範囲も拡大する。
“自我”の概念には当然自己と他を区別する境界を含み、本能的な欲望である自己増殖(複製)を有すると解釈すれば、細菌やウィルスさえも生命に含まれる。
寧ろ彼方の推論では、一塊のDNAやRNA、謂わば一種の蛋白質に過ぎないレトロウィルスに自己増殖や進化を促すスイッチ[●●●●]こそが“魂魄”との結合らしい。
対してBETAを生産する―――そのスイッチは自然発生的なものではなく、プログラムに従った他己による操作なので、結局は生命の範疇にない。

と言ったところで恐らく上位存在にはそんな概念はないし、創造主に有るか否かは論じることすら意味がない。


「先ほども説明したように、創造主にとって人類など、人類にとっての細菌と同じ。
我々は細菌を生命体と認めながら、その謂わば生存権を尊重していますか?
我々が細菌を認識したのは、病気の原因となるからであり、むしろ殲滅の対象でした。
無論酵母や乳酸菌のような有益な細菌も存在し、積極的に利用してきた事も事実です。
有用なら利用し、有害なら駆逐する―――創造主にとっての人類の認識は、その程度の存在でしかないのです。」

「・・・つまり、例えBETAとの意思疎通が出来ても、少なくとも和解は成立し得ない、と?」

「命令を履行するだけの存在には、和解という概念がありません。
ロボットと何を和解するのですか?」

「結局、全戦力を以て対峙する以外に道はない、と言うのだな?。」

「会話ログを解析した結果、第4計画[オルタネイティヴ4]としての結論は、―――それ以外あり得ません。」

「「「「・・・・・」」」」


再び議場を沈黙が埋める。
どう転んでも覆らない“現実”を漸く認識したかしら・・・。
はぁぁ・・・くっだらない質問バッカ。
自らの想像力・理解力の欠如を晒してどうするんだか。
全く、これだから国際会議はやんなるわ。
ほんとッ、文官の頭の固さに辟易する。
余りに絶望的な事実からどうにか逃避しようとするのも分からないでもないが、もう少し冷静に現実を把握し、理性的に思考できないものかしらね。



「―――それでは、質問もないようなので、動議本題に移ります。
第4計画[オルタネイティヴ4]によるBETA諜報の結果、人類の置かれた状況は斯様にも厳しいことが判明しました。
そこで第4計画[オルタネイティヴ4]は現在まで得られた情報を元に、“対BETA戦略の構築”を推進してきました。
こちらをご覧ください。」


空間に浮かび上がったのは、全ハイヴの内部構造を示す3次元マップの立体投影。
勿論全世界初公開、その精度に幾つかの嘆声が漏れる。


「過日完成した正規版00ユニットによって、現在地球上に存在する全ハイヴの精査が行われています。
また、この精査や先のログにより、ハイヴの支配構造が従来言われていた“ピラミッド型”ではなく、先の重頭脳級を頂点とする直接支配、謂わば“箒型”であることも判明しました。

嘗てオルタネイティヴ3の対BETA陽動効果実証実験にて推測されたように、BETA個体の持つ情報は各反応炉の通信によって重頭脳級に集約され、2週間程度で対策が検討され、通信により各反応炉にフィードバック、更に5日以内には各ハイヴから全個体にいきわたることが確認されていました。
その際今までは、辺縁ハイヴから順次内側のハイヴに伝達されると考えられていましたが、今回の調査により各ハイヴの反応炉には、周辺の存在する能動BETA群、及びH-1[オリジナル・ハイヴ]に存在するあ号標的[重頭脳級]との電波に依らない直接の通信機能が存在することが確認されました。
先程のMAPは、横浜よりあ号標的[重頭脳級]の通信をハッキングし、そこから各ハイヴの状況を調査し作成したもので、この間には複雑な情報を伝達し得る通信システムが存在します。
一方で各BETAからハイヴへの無線通信は、存在を示す等の簡単なモノしかなく、人類との戦闘において、得られた複雑な内容の情報等は、各BETA個体からエネルギー補給時に接触による循環体液の交換によって伝達されています。

つまり人類がBETAを駆逐するためには、活動エネルギーを生産しているハイヴの殲滅が必要となりますが、今までの戦略のように辺縁ハイヴより攻撃した場合、その情報はあ号標的[重頭脳級]に集約され、解析による対応策が検討されたのち、各ハイヴに通達、順次末端BETAに伝達されるるため、次のハイヴに対し同じ戦術が取れなくなることとなります。
しかし、逆に考えれば、あ号標的[重頭脳級]さえ完全に撃破してしまえば、地球上に存在する全てのハイヴ攻略が可能になるというコトに他なりません。
故に、可及的速やかにH-1[オリジナル・ハイヴ]を攻略し支配構造の頂点であるあ号標的[重頭脳級]を破壊することこそが、人類勝利の肝となります。

以上を鑑み、第4計画[オルタネイティヴ4]からの緊急動議として、本年12月24日にH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略を目的とした“神槌作戦[Op.ミョルニル]”の発動を具申させていただきます。」


再び議場がザワつくが、そう大きなものでもない。
BETAの支配構造に関しては初出だが、提案内容はある程度予測していたのだろう。
珠瀬大使によれば、元々全世界規模の反抗作戦が必要であることは内々協議され準備も始まっていたという。
その一端は勿論第5計画派の突き上げであったが、例のレポート配布以降はその戦略が定まらず迷走していたとか。


「こちらに作戦の概要を示します。

―第1段階
  ユーラシア大陸の前線を押し上げ、BETA支配圏外縁部の全ハイヴを同時攻撃し陽動。
―第2段階
  オリジナルハイヴへ反復軌道爆撃後、地表に湧出したBETAを殲滅。
  突入国連軍本隊・米戦略軌道軍が目標開口門へ降下。
  米軍部隊は第2制圧目標『い号標的[特殊物質精製プラント]』を目指し、本隊は最下層『あ号標的[重頭脳級]』を撃破。
―第3段階
  あ号標的[重頭脳級]撃破から2時間経過後、周辺部への汪溢BETAを殲滅。

―――以上のプロセスとなります。」

「・・・全世界規模の陽動は理解する。
観測された箒型支配の頂点がH-1[オリジナル・ハイヴ]であるなら有効であろう。
・・・しかし、いきなりH-1[最難関]を目標の反抗作戦・・・か。」

「ハイヴの支配構造が正しいなら仕方ないとはいえ、難易度が格段に跳ね上がりますな。」

「Umm―――。」

「成功の見込みはあるのかねェ・・・。」

「・・・第2段階・第3段階にある地表湧出BETAの殲滅とは、具体的に何かね?
随分簡単に表現されている様に思うが・・・」

「G弾―――、による湧出BETAの無力化を行います。」

「「ナッ!?」」「「・・・は!?」」


あっさり応えれば、一瞬で議場には疑問符が満ちる。


「―――ふ、フザケるなぁッ!!
G弾の使用が“大海崩”を招くコトを予測したのは、香月博士、貴女ではありませんか!?」


叫んだのは米国国連大使。
次いで渦巻く怒号。
喧々囂々―――。
非公開会合は勿論非公開で議事録も取られず、関係者の出席も特に規制がないから大抵荒れるらしい。
けど荒れる議場すら、この次の反応を思うと心地よいわね。
その喧騒にも口元に微かな笑を刻み、全てを涼やかに受け流す。

次のスライドが示された。
示されるのはHAGE[高高度重力爆発]のCGアニメーション。
宇宙空間から俯瞰する地球の実写映像に、突如出現する黒い太陽と拡散する黒い衝撃波―――。


「「「な・・・!?」」」

「・・・このように、高高度重力爆発―――HAGE[High Atitude Gravity Explosion]という運用手法を執ります。
起爆は地上500km上空の宇宙空間、発生する乱数重力効果域は遥か上空ですので、勿論地殻への重力偏重効果は微塵も在りません。」

「・・・馬鹿な!!
多重乱数指向重力効果域が全く意味をなさないではないかッ?」

「そんな攻撃に何の意味が!?」

「この特殊なG弾が爆発時に放射する崩壊重力波[Gravitic Disintegration Pulse]には、爆心から約1,000km以内、地下100m程度までの、全てのBETA[●●●●●●●]を無力化する効果が在ります。
即ち高度500kmで起爆する場合―――地表での効果範囲は、凡そ半径840km以内。
そして、この崩壊重力波[Gravitic Disintegration Pulse]は範囲内の地球環境をはじめ、人体や電子機器等に如何なる影響も及ぼさ無いことも確認されております。
勿論、使うのはその効果を高めた特殊な弾頭―――“ResonantG弾”を使用します。」


言葉の意味を理解したのか、喧騒はざわめきにかわり、それも徐々に静まり返る。


「―――地表半径840km圏内・・・だと?」

「・・・ほ、本当にそんなことが可能なのか―――?」

「地殻に影響を与えない極小規模の実験検証は、この通り―――。」


呻くような問に、更に捕獲BETAに対する実験映像を示す。
小さな起爆により画面内で距離の近い檻内のBETAのみが停止した。
停止した個体は突いても叩いても反応しない。


「検証規模での効果範囲は、このような近距離に止まりますが、BETAを行動不能にする原理も推定されております。
謂わば、核爆発におけるEMPのようなモノだとお考え下さい。
G弾の起爆時に発する崩壊重力波[Gravitic Disintegration Pulse]は、―――BETA特有の感覚器を破壊すると推定しています。
一旦感覚器を破壊されたBETAは自己修復ができず、一切の動作を止めたままエネルギーの枯渇と共に活動を停止することが確認されております。」


BETAのみに効く広域大量破壊兵器―――。
物量を最大の武器とするBETAに対する理想的な殲滅を可能とする人類の夢、その実現。

沸々と湧いた呟きや唸りは、やがて叫びや慟哭・歓声と変じ、遂に議場は爆発したような騒ぎとなり、議事は一時中断された。


―――ま、仕方ないわね。













「年甲斐もなく興奮してしまって申し訳ない。
しかし・・・素晴らしい成果、偉業を成し遂げたとしか言いようがない!
国連を、・・・否、全人類を代表して礼を述べよう。」


どうにか場を収めた議長が言葉を紡ぐ。
が、変なフラグは立てないで欲しい。


「・・・その言葉は、作戦の完遂までとっておいて下さい。」

「Umm・・・では改めて質疑を再開させて頂くが―――この効果は既存のG弾には存在しないのかね?」

「既存のG弾にも存在します。
嘗て唯一G弾が実戦使用された明星作戦でも爆心から一部範囲のBETAに行動不能が観測されています。
お手元の添付資料にその一節を記してあります。
但し、我々の検証の結果、既存のG弾の場合、横浜で使用された規模であってもその効果は空気中で最大10km圏内と推定され、ほぼ多重乱数指向重力効果域による破壊とほぼ被る範囲に留まっています。
そのため、地下以外では明確な確認が困難となっていました。」

「・・・つまり、Resonant [共鳴]・・・と呼称される特殊な改造によって効果範囲を大幅に拡大することに成功した、と?」

「はい。
詳細は申し上げられませんが、その効率を高めたことにより、地殻に影響を与えない高高度爆発という運用方法を可能としました。」

「その“Res-G弾”で地表のBETAを一掃し、その間に突入部隊が開口門に軌道降下ができる・・・、という理解でいいかね?」

「はい。
残念ながら先程述べた様に、この崩壊重力波[ Gravitic Disintegration Pulse ]は地殻透過力が低く、地下100m程度までしか効果を持ちません。
しかし地上ではRes-G弾により凡そ10分間、レーザー照射が存在しない空白時間が得らると予測されています。
その間に突入本隊が軌道降下しスタブに侵入、反応炉であるあ号標的[重頭脳級]撃破を目指します。」

「―――突入からは、昨日の横浜トライアルでも示されたデモンストレーションに繋がる・・・と?」

「その通りです。」


背景にA-01のV-JIVES映像を流しながらスライドを示す。


「・・・そして―――こちらが、過日新潟防衛戦で実戦証明致しました、ハイヴ潜行装備の概要になります。」


配布用G-コアのスペックと付随する電磁投射砲筒をはじめとする装備の数々。
無論、本当の意味での切り札となる森羅やIRFG等には触れていないけどね。


「Umw――――――、これが、あのAmazing5の心臓部か・・・。」

「・・・第4計画の得たBETA鹵獲技術―――これほどのモノとはッ!!」


基本文官とはいえ、補佐には軍関係者や技術担当もいる。
ざっと示すスペックだけでも現行の戦術機と隔絶しているのは、見ただけでわかるわよね。
それにしてもBETA鹵獲技術―――便利な言葉だこと。
横浜に於けるBETA鹵獲技術は、人ゲノム情報とそれを基にした再生関連の技術が主。
G-コアに関しては彼方が反応炉内部のG-11[グレイ・イレブン]の使い方を参考にしてるからあながち外れとも言えないけど、元はと言えばG元素周りの構造情報理解が比重は高い。
此方はBETA鹵獲技術なんて一言も言ってないんだけど、勝手に解釈してくれたお陰でG元素の情報[最重要機密]を全て伏せて置ける。


「―――これら装備の根幹であるリアクター、通称“G-コア”は、素材の残存限界により、最大生産数が468基―――、現状生産数も週に3基が限界です。
来月半ばに漸く今回の作戦実行必要数が揃う予定になっています。
しかし、神鎚作戦[Op.ミョルニル]完遂の暁には、続く世界中のハイヴ殲滅に向けて、各国に順次供与することを検討しています。」


議場がザワリと揺れ、嘆声が漏れる。
当然、その目の色が変わる。
これだけの技術―――その提供。
圧倒的―――、故に事後は全世界から危険視されること確実な過大な戦力、それを自ら分配するというのだ。
謂わば第4計画[オルタネイティヴ4]、ひいてはそれを擁立する日本帝国は、世界の覇権には興味がないと最高責任者自ら[アタシ自身]が言い放ったようなものよね。
実際、そんな面倒くさいものには一切興味はないし。
供与に関しても、既にXM3の供与[前例]があるからこそ、その信憑性も高い。
無論、これが今回の動議の議決に対する対価であることは猿でも理解できるでしょ。


「実戦証明は・・・既に新潟にて行ったわけか。」

「―――国連太平洋方面軍第11軍は今回の安保理議決可否に拘わらず、神鎚作戦[Op.ミョルニル]に先駆けて、日本帝国軍と共にH-21攻略を目的とするH-21侵攻作戦[鳴神]を12月16日に実施いたします。
その場にて、提示した“G-コア”関連装備、及び試作Res-G弾の高高度重力爆発[ High Atitude Gravity Explosion]よる最終実戦証明を行います。」

「佐渡島でか!?」

神鎚作戦[Op.ミョルニル]は、謂わば人類総決起となる大規模作戦、おいそれとやり直しの利かない規模の、正しく乾坤一擲となりましょう。
万全を期すためにも、Res-G弾広域殲滅の実戦検証が必要と考えます。
依って、H-21侵攻作戦[鳴神]の結果を以て、神鎚作戦[Op.ミョルニル]発動の最終シークエンスとすることとしています。
無論、先のあ号標的[重頭脳級]による対処時間を考慮し、両作戦の日程設定を行っています。」

「・・・確かにRes-G弾の広域殲滅効果は、先行検証が必要、か。」

「至極妥当ですな。」

「但し―――問題が一つ。
元々第4計画は今回実戦検証用に試作した1発を除き広域殲滅用のG弾を所有していません。
提案するH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略や、世界各地のハイヴ攻略における支援を考えると、G弾及びその運用方法を確立している機関の支援が必要です。

因って―――神鎚作戦[Op.ミョルニル]には第5計画の協力を要請します。」


全員の視線が机上に星条旗を掲げる席に集まる。
抑々G元素を略略独占し大量のG弾を有するのは第5計画。
隔絶したBETA鹵獲技術までもつ第4計画だからこそサラッと作ったと言われて何の疑問も持たなかったが、今まで米国以外でG弾が作成されたことはない。
そして第4計画と第5計画の長年にわたる確執は、ここに居る国連大使なら誰もが知るところ。
予想外ではあるが、G弾を使用する以上考えれば極めて妥当な提案。
問題は、当の第5計画、そして米国がどう出てくるか―――。







「異議あり―――。」


応えた声は、米国国連大使でも第5計画執行責任者でもなく、後方随行員の中から発せられた。
立ち上がった見覚えのある男は、怪訝そうな米国フロント席に無遠慮に割り込む。

―――横浜のトライアルで見た、その場限りの派遣部隊司令官・・・だったっけ?。


「CIA戦略作戦局長、ロア・ヴォーゼルだ。
合衆国より国連太平洋方面第2軍臨時准将相当官として横浜トライアルを調査させていただいた。
ここで一つの疑義を申し述べたい。」


発言を制止しようとした大使に書状を一つ。
それを見て大使は発言を認めた。
CIAが第5計画を支援しているのは、米国でも公然の秘密ってヤツ?
今の米国国連大使の人となりは興味ないけど、攻略対象から外す程度に日和見っぽいし。


「此度の動議、この作戦の執行責任者としての資質を糺したい。
・・・元来、第4計画の目的は、基本“対BETA諜報”、そこからの発展として得られた情報による“対BETA戦略の構築”即ち―――本来その執行は含んでいない。
第4計画は、既に十二分に目的を達成されたのではないかね?」

「・・・人類の悲願はBETAの殲滅、第4計画としても戦略の構築だけでは道半ば、ですわ。」

「なるほどBETA情報の鹵獲から装備、戦略・戦術の構築―――為された提案は想像を超えた素晴らしい内容だ!
実に称賛に値するっ!
―――しかし第5計画は、逆に元々G弾運用によるBETA殲滅の執行を検討してきた。
ここで貴女の提案とは逆に、第4計画が協力してくれれば、より効率的に運用が図れると考えるが如何かな?」

「―――つまり、第4計画の成果を丸々“簒奪”するというコトですね。」

「―――そうは言わない。
が、少なくとも執行責任者として、Dr.香月、貴女に疑義があるのだよ。」

「―――資質がない、と?」


粘着質な男だ。
恭順派ではなさそうだけど、コイツは碌な奴じゃない。
雑魚だから今まで気にもせず、此方にちょっかい出さないならどうでもよかったんだけど・・・。


「それ以前の問題だな。
―――昨日、貴女のひざ元・横浜基地で発生したテロで、米国陸軍第66戦術機甲大隊ハンター中隊の戦術機12機がMIAとなった。」

「・・・それは、国連安保理のこの場で議論する必要のあることかしら?」

「非公開会合の議論内容には制限が無いのでね、ああ―――これを見たまえ。」


スクリーンに示されたのは、データリンクの動画。


「・・・昨日のテロ発生時、空母からのデータリンクが切れる直前のデータだ。
MIAであるハンター中隊は基地防衛部隊・・・暴動を起こした部隊だが・・・と基地内で確実にエンゲージしている。
その直後、2機がLOST―――次いで、全機の通信途絶が起きた。」

「・・・。」

「ここに記録された状況からは、横浜基地の警備部隊によってハンター中隊に犠牲者が出た事は明白といえる。
しかし、それに対するトライアルの執行責任者であった貴女の答えは―――」

「横浜基地は、当該中隊の行動に関知致しませんわ。」

「―――そう。
しかし、この状況からは暴動による米軍被害を隠蔽するために、残ったハンター中隊を殲滅した、としか見えないが如何かね?」


議場がザワつく。

米国国連大使は思いもよらぬ展開に、今や期待に満ちた表情を隠さない。
此方が提案した内容の妥当性は誰もが認めるところ、その実行主体が米国でないことだけが米側の不満。
けど、第4計画の最高責任者[アタシ]に軍務上の重大な瑕疵があれば、協力という従属的立場では無く、あわよくば全て、悪くても第4計画内部に関係者を送り込める可能性が高い・・・、とか思っているのよね。


「―――それでは、米国代表として修正動議を提出する。
第4計画の最高責任者には米軍将兵殺害教唆及び隠蔽の嫌疑が在る。
依って第4計画最高責任者の国連軍と米軍による尋問及び軍法会議への訴追を要求する。
尚、今回提出された動議については、別途第4計画執行責任者を選定したうえで第5計画との共同執行を軸に修正案を提出、決議することを提案する。」


言っていることはまともに聞こえるけど、嫌疑を嵩に第4計画の成果を丸ごと接収する、ってことね。


「―――因みにこれは米国としての総意ですか?
それともCIAとしての独自の動議、かしら?」

「米k「統合参謀本部からの連絡はない。」―――。」


棚ぼた動議に欲の皮を突っ張らせた米国国連大使が答え掛けたが、第5計画執行責任者が遮る。


「出された以上は我が国の動議になるが・・・現段階では、他国の成果に集る蝿のようなCIAの独断と言っておこう。」

「そう・・・賢明な判断ね。
議長―――安保理の場には本来そぐいませんが、あらぬ嫌疑をかけられたので新たな関係者に証言をしていただきたいと思います。
許可を願います。」

「・・・Umm、今回の動議議決に関し必要な措置と認める。」

「―――では、こちらも“当事者”に登場していただきますわ。」


第5計画執行責任者からのリーク通り・・・未だに諦めていないらしいCIAの蠢動。
まあ、あれだけ“似非BETA鹵獲技術”[撒き餌]を見せびらかしたのだから喰い付いてくれないと。
せっかく用意した対応策[カウンター]が不発じゃあ勿体無い。
これがオルタネイティヴ第5計画も巻き込んでの陰謀なら端から協力なんか要請しないけど、少なくとも主計画は引き込めたらしい。
これ以上、こんな茶番に付き合って引き伸ばされるのは気に食わないし、粘着な雑魚[MOB]と話す気も、サラサラない。
一撃でキメる―――アタシは薄く嗤った。


Sideout




Side アルフレッド・ウォーケン(米国陸軍第66戦術機甲大隊指揮官・少佐)

ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会 11:30(GMT-5)


指名されて、議場に上がる。
無論、驚愕しているのは修正動議を切り出したヴォーゼルのみ。


「?!ッッッッ、ま、まさか、ウォーケンッ!?」

「米国陸軍第66戦術機甲大隊所属、アルフレッド・ウォーケンだ・・・。
いま局長殿が香月女史を告発した根拠・MIAとされるハンター中隊指揮官でもある。」


議場が大きく揺れる。


「な、何故貴様が生きている?
―――当時あの周囲に他の部隊は存在しなかったはず・・・。」

「・・・語るに落ちたな。
ハンター中隊はMIAに過ぎない。
先の襲撃状況説明にしても、ハンター中隊機は腐ってもF-22A、対して横浜基地警備部隊はF-04―――。
順当に考えてあの状況が即ち警備部隊による撃墜とは判断出来ん。
―――にも拘らずそれを断言した貴様には、他にKIAと断じる根拠が在ったというコトだ。」

「!!・・・。」

「尤も、実際謀略に嵌って私も死にかけたがね―――なに、間一髪の所で、隠蔽された埋没坑から飛び出した白銀少佐に救われたのだ。」

「・・・埋没坑だと?」

「横浜基地はH-22ハイヴに被せて作られた基地、その広大なスタブの全てが埋められたわけじゃないそうだ。
以前の開口門だけは基本的に埋め戻してある。
少佐は地下のハンガーから残存スタブを飛び抜け最短距離で駆けつけてくれた、というコトだ。
無論謀略を仕掛けた、工作員[エキスパート]の2名、及びその工作員[エキスパート]に操られ殺害された2名以外は貴様の帰国後、既にアンダーセン基地に帰投した。
内2名に負傷は在ったものの、迅速な加療により問題無かったのでな。」

「・・・加療だとッ?、馬鹿な!、横浜基地はハンター中隊に関知しない、―――と。」

「私は横浜トライアルを舞台に行われていた米軍内の諜報行為について調査を行っていた。
故に意図的に中隊をMIAとして貰った。
香月女史が関知しないと仰ったのは、米軍内部の犯罪、乃至米国の内政に関わる事項であり、国連基地として政治的に関与できない―――と言う意味だ。」

「!!―――。」


手の中にある2枚の焼け焦げたドッグタグを握りしめる。


「確かに昨日の横浜トライアルでは、残念ながら米国民の死亡者が存在する。
〈Hunter-09〉[ジャン]〈Hunter-12〉[テッド]という2名の若者だ。
しかしそれは横浜基地の暴動によるものではなく、米軍内部に仕掛けられた謀略により一部の先鋭化した米兵に背後から殺害されたものだ。
しかも当時ハンター中隊の機体にはコンピューターウィルスが仕掛けられ、機能を阻害されたうえで、暴動に巻き込まれる手はずになっていた。」


再生されるガン・カメラの映像。
Hunter-05とHunter-10の言葉。


「・・・この2名は現場で捕縛し、現在取り調べ中だ。
機体にウィルスを仕掛けた整備兵や、その洗脳を行っていた空母要員も全て摘発した。
―――何れ軍法会議で裁かれる。

ロア・ヴォーゼル、貴様にも逮捕状が出ている。
今回基地の暴動そのものを誘引したのが貴様である証拠も全て揃っている。
国連横浜基地にも暴動による死傷者が多数出ている。
通信破壊と最高責任者襲撃こそ別動した“恭順派”の仕業と見られるが、そっちに被害者はいないともな。
ハンター中隊のみならず、横浜基地内に居た整備兵61名をも犠牲にしようとした件も全てだッ!!」

「クッ―――!」

「ああ―――、因みに言っておくが・・・先程ラングレーの貴様の局長室にも捜査の手が入り、関係書類が押収された。
今回の薄汚い作戦の指示書も発見されている。」

「・・・は?」

「組織ぐるみ、ということが明白だ。
幾ら他国に対する非合法活動を認められた組織とは言え、度が過ぎた。
米国民のために在る組織が、守るべき米国民を犠牲にし、国連軍に謀略を仕掛けるなど国家反逆罪の疑いすらある。
―――追ってこの陰謀を示唆し承認したCIA長官にも逮捕状が出る。」

「ま、まさか―――“あの方”、に・・・?」


ヴォーゼルの顔面が蒼白になる。
全身が諤々震える。
何かと黒い噂の絶えなかった現CIA長官、聖域とまで言われた権力。
そこに手が届く決定的な証拠を残してしまったというコトに気が付いたらしい。

ヴォーゼルは横浜で見せ付けられた第4計画の輝かしい成果奪取に逸り、血眼になってデータを漁ったのだろう。
ついには微かに残されたリンクデータの位置情報を見つけ、そこから強引に横浜基地の責任問題を問うため、安保理非公式会合と言う最後の機会に帰国早々直接乗り込んできていた。
それが逆に作戦完了後には真っ先に行うべき証拠隠滅を行う暇を作らせなかった。
こちらも香月女史が生存を秘匿してくれたため全く警戒されずに動くことができ、迅速な手配が可能となったのだ。



自分の犯した大失態に崩れかけた男の左右を、背後に来ていたFBIの捜査官2名が抑える。


「―――貴様が第4計画の偉大な成果を掠め取ろうなど要らぬ欲を出し、この場で卑劣な修正動議なんぞしたせいで、我が国の威信は地に堕ちた。
CIA長官は業腹だが、貴様に関しては犯行当時国連太平洋方面第2軍臨時准将相当官の軍籍に在った。
FBIの取り調べの後は、終身刑が最重の甘い連邦裁判ではなく、死刑もある軍法会議に掛かることになる。
―――覚悟することだな。」


既に拘束されている男の内ポケットを探る。
顔色は土色、何かブツブツ呟く言葉は意味をなさず、視線は虚ろで抵抗もない。
出てきたのは、小さな1回使い切り射出型の注射器。


「・・・これも証拠だ。
指示書に在った“アムリタ”、か―――下種の極みが!」


引き摺られるように連行されるヴォーゼル。
アムリタを手元に所持していたことから、修正動議が成立しなくても、最悪個別の事情聴取さえ行われれば良いと考えていたのかもしれない。
いずれにしても非公開会合とは言え、国連本部安保理会議での政府関係者逮捕など前代未聞の不祥事。
議事録には残らなくても各国国連大使の前で晒したCIA長官という米国政府高官まで関与した一大スキャンダル。
この後の政府や連邦議会が荒れに荒れ、米国内に粛清の嵐が来ることは必至。
溜息を吐きつつ議場を見回す。


「―――重要な安保理会議の場で、我が国の恥を晒す醜態、誠に申し訳ない。
身勝手な願いだとは重々承知だが、この様な薄汚い謀略を仕掛けるのは米国民の総意ではなく、極一部の先鋭化した人間だと理解してほしい。
此度横浜トライアルに参加させて戴いた部隊指揮官として、Dr.香月の成し遂げた多大な成果と、これから実施される対BETA戦略に心からの称賛と感謝を捧げ、そしてその推進に於いては可能な限り協力を惜しまない事を誓約する。」


一時はヴォーゼルの企みに乗りかけた我が国の国連大使も、修正動議は完全にCIA[一部組織]の勇み足として即時撤回した。
今は各国大使の冷たい視線に小さくなっている。
寧ろオルタネイティヴ第5計画執行責任者は先程CIAと袂を分かつ発言をしている。
当然の如くオルタネイティヴ第4計画の協力要請を受諾した。
係る状況では米国国連大使も拒否権など行使などできるわけがない。




―――ここに、対BETA一大反攻作戦の大勢は決した。









粛々と非公式協議は進められ、いくつかの要望を添えたうえで非公式協議は結審、翌日の採決で全会一致を以て緊急動議は承認された。



作戦名称 神鎚作戦(Op.“Mjöllnir”)

年月日 2001年12月25日
場所 ユーラシア大陸全土(地上戦線延べ約30,000km)
交戦勢力 国連軍・米軍・ソ連軍・日本帝国軍・欧州連合軍・大東亜連合軍・アフリカ連合軍・統一中華軍 他多数
統合作戦司令部 国連軍総司令部
神鎚作戦司令部 国連太平洋方面軍第11軍 横浜GHQ
        (総司令官:香月 夕呼臨時准将相当官)

各方面作戦
黎明作戦司令部 ウダロイII級駆逐艦1番艦アドミラル・チャバネンコ
        (総司令官:ブラート・リトヴィネンコ中将)
  他多数
作戦目的 種の保存。甲一号排除に伴う地球全戦線の安定化。
作戦目標 第一目標、オリジナルハイヴ最深部に存在する超大型反応炉『あ号標的』の完全破壊
     第二目標、特殊物質精製プラント『い号標的』の制圧
作戦立案 オルタネイティヴ第4計画司令部
作戦承認 国連安全保障理事会(決議第3666号)
作戦命令 国連統合参謀会議(命令第24172号)




作戦名称 甲21号作戦(Op.“鳴神[Thor]”)

年月日 2001年12月16日
場所 日本帝国領佐渡島
交戦勢力 国連軍・日本帝国軍・日本帝国斯衛軍
作戦旗艦 最上級大型巡洋艦一番艦最上(提督:小沢久彌)
作戦目的 樺太、日本、台湾、比島からなる極東防衛ラインの安定化
作戦目標 第一目標、甲21号目標の無力化
第二目標、敵施設の占領
第三目標、Res-G弾及びG-コア関連装備の実戦証明
作戦立案 オルタネイティヴ第四計画司令部
作戦発令 国連軍第11軍司令部及び、日本帝国軍参謀本部


Sideout




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