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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/06/04 06:10
'16,06,03 upload
'16,06,04 誤字修正時通信不良により尻切れた後半を再up



Side アルフレッド・ウォーケン(米国陸軍第66戦術機甲大隊指揮官・少佐)


電源を入れた基地内のモニターから溢れるように、雄叫びが流れ出た。


これは・・・、歓喜・・・?
―――そうか、“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”が達した[●●●]か・・・。


トライアル最終日、そのお題[テーマ]となったのはH-1[オリジナル・ハイヴ]―――。
これだけ詳細なデータを集めていたこと自体にも唖然とさせられたが、事実とすればその中身は想定を遥かに超えていた。
―――どれほどの最新鋭機を集めようと、どれだけの規模を投入しようと、現在[いま]米軍[我々]では、攻略不可能―――。
それが私の下した結論だった。

単に誤ったATSFに基づいた戦術機[対人類用]という事だけではなく、機動・火力・戦術・・・何もかも足りないということだ。
当然“A-00[ヴァルハラ]”中隊による1回目の挑戦も見た。
彼らには、既に下層に至るまでに必要な要素が構築されており、我々には無い。
そこには厳然とした格差があることを認めなければならない。

ならば無駄なことに時間を割く気はなく、私は早々に戦術機を降りた。
今は他に遣らなければ成らない事案がある。


尤も対BETA戦闘の機会が少ない米国一般衛士にとってはまたとない“実戦”経験に近いことも事実、副官[ヒル]には“挑戦”を続けるも良し、“観戦”するも良しといい含めておいたが。
これ程の巨大ハイヴ、攻略可能性が在るとすれば、粛々と情報を集め、直向に必要な“機動”を修練し、侵攻と特化したタスク・フォースを創り上げてきたここ“横浜”のみであろうと予測はしていた。
とは言えあの1回目の結果から現有戦力では確率が低いとも思っていたので、制限時間内に辿り着くとは天晴[エクセレント]としか言い様がない。

・・・灯された“人類の希望”―――か。



「・・・スゲェな・・・。
―――だが、この戦力を、“米国[我が国]”以外が有しているコトを容認できるのかい?、少佐は―――。」


進まない尋問もトライアルの終了時間、これ以上此処で続けるのは問題があろうとモニターを付けてみれば、“被疑者”は早速に喰いつく。


「・・・論外、だ―――他国の主権を侵害するなど、栄えある合衆国軍人として恥ずべき事だ。」

「フッ―――、それが“綺麗事”であることも、佐官様なら重々承知だろ・・・。
過去、“米国[我が国]”の海外派兵に“利権”が絡んで居なかったコトなど一度も無ェ。
寧ろ、此処[●●]国連[●●]基地、ならば本来“米国”の“所有物”、還してもらうだけだぜェ。」


相手は勿論、事も有ろう“合衆国市民”である空母搭乗員に“後催眠暗示”を掛けた“被疑者”、“横浜”から提供された動画に捉えられた工作員。
情報ソースは明示はされなかったがかの大佐が絡んでいることを匂わせた。
今や世界中の注目を集める国連太平洋方面第11軍基地、周辺警戒は当然のこと。
それが2隻もの空母停泊を許可された横浜港周辺にまで及んでも、文句を付ける筋合いはない。
問題なのは、遥か上空から俯瞰する幾つもの監視衛星、その死角に当たる“食”の時間を、この“工作員”も、そして“横浜”側も知っていたということだ。
監視衛星軌道は当然一般職員レベルなど触れることも出来ず、現場指揮官である私とて中々にハードルの高い特別な申請をしなければ得られない情報、つまりはこの“工作”には相当に根の深い裏があるということだ。
“横浜”については・・・色々と現在の人類が有する技術レベルを凌駕している状況、当面捨ておくしかない。

XM3の確認に依る米軍ドクトリンの再構築を主題に派遣されて来たと考えていたが、どうもきな臭い謀略に巻き込まれたのかもしれない。
それ故、今のところ司令官(仮)にも知らせず、自らが信頼できる部下に命じて昨夜のうちに“被疑者”に“任意同行[もんどうむよう]”を願った。
“国連”が米国[我が国]のもの、との発言も同意はしないが、ならば何故、催眠暗示の対象が空母搭乗員なのか・・・?
無論、対象が国連職員や帝国民であったなら、この男の身柄は既に国連軍MPが抑えていた筈。
被害者も同じ国籍故に“コチラ”にリークしたのだろうが、基本的に我が陸軍[ US ARMY]を含め“米軍”は、“合衆国市民”を守護するものであり、米国[ステーツ]はそれを傷つける者に容赦しない。


―――ただ、事が危急を要すると判断し、自白剤を使用したのが裏目にでた―――。
前線のBETA戦など上官の判断で向精神薬の使用が常態化している為、気にも留めなかったが、まさか、“それ用”の訓練までされた工作員[エキスパート]とは思わなかった。
昨夜からの尋問で、“事”が起きた際、状況を撹乱する、ということだけしか判明していなかった。
しかし、誰の指示で動き、どんな“事”を起こし、何をするのか、その肝心なことについて未だ掴めていない。
薬で意識こそ茫洋としながらも、肝心なことははぐらかして余計なことばかりしゃべりつづける。
何処からこれ程の薀蓄を仕入れているのか―――闇の深さに戦慄を覚えざるを得ない。



先日耳にしたクーデター計画の件も大方、帝国内では親米派と見られながらその実、強硬で辣腕の帝国現政権がいろいろな意味で煙たかったのだろう。
その障害の排除―――加え混乱に乗じ、米国の“一部”による傀儡政権の樹立が目的・・・と言ったところか。
相変わらず荒っぽいCIA[ラングレー]の、唾棄すべき薄汚いやり方には違いない。


今や、世界の状況は大きく変わっているのである。
既にCIA[ラングレー]思惑[クーデター]も頓挫した。
・・・にも拘らず、今度は軍内部で“自国民”まで巻き込んで暗躍とは・・・。
この“横浜”で誰が、何をしようと企むのか。
今後の戦略上外せないXM3トライアルとは言え、2隻のニミッツ級戦術機母艦とともに最新鋭機2大隊を派遣するという異常事態もそれにむけてと言うことか―――。
軍内部でも、相当高位の関与があると見られる。
ここで暴挙[●●]に出る程暗愚とも思えないが・・・。
ステルスが万能だった時ならまだしも、看破された今では当然対策が進められているだろう。
情報によれば、帝国内では斯衛軍を皮切りに、帝国軍にもXM3が配備されているという。
たかが空母の2大隊だけで帝国首都制圧など到底不可能、いまさらの裏工作は益々帝国の反米感情を煽るだけだと言うのに、蒙昧も甚だしい。




―――待て・・・。

何かが引っかかる・・・。

なんだ・・・・・・?

・・・・・・・・・。

―――還してもらう[●●●●●●]


何を・・・?

これだけの戦力―――?


此処横浜で計測された結果からG弾の甚大な環境破壊可能性―――“大海崩”の誘発が明らかになり、米軍[わが軍]が掲げていた軍事ドクトリンは根本から覆された―――。
アラスカでF-22EMDを撃破し、対人に先鋭化したATSFを過去のものとしたのも“横浜”発のXM3。
この戦力―――“横浜”こそが、米国軍事ドクトリンの“最大の障害[アンチテーゼ]”と見做していた勢力の陰謀ではなかったのか?

それを・・・?



――――――成る程・・・そう言うことか―――。

最早、矜持も尊厳もなく、形振り構わない・・・とはな・・・。
“対抗”ではなく、“接収”―――。
協力関係を築くことなく、強引な強奪・・・、そんな厚顔無恥を臆面なく実行しようとするのは、欠陥兵器を検証もせず実戦投入した連中しかいないだろう。
G弾という、“切り札”を喪った“急進派”―――それが黒幕[バック]と言うわけか―――。
・・・であれば先の帝国傀儡化も、G弾によるBETA掃討作戦を実行するために、日本帝国が主導する“横浜”を排除しユーラシア制圧の橋頭堡を確保したい“軍部急進派”と、安保破棄以来殺がれた日本帝国への干渉力を回復したいCIA[ラングレー]の思惑が一致してのこと―――。

それが“将軍”の大権奉還により帝国そのものが磐石となった今、一転して“横浜接収”、露骨に言えば、“技術の奪取”に狙いを変えてきたに違いない。
確かに、横浜基地は“国連軍”―――。
帝国に対する主権の侵害ではなく、飽くまで国連内部権力闘争に終始することで、逆に帝国の介入をさせない胆なのだろう。
無論国連上層部の権力闘争に於いて、現国連事務総長はリベラル派と見られる。
急進派よりの派閥に抗するだけの穏健派派閥が存在する以上、帝国内にある横浜基地に米国の恣意的な人事は行われないよう、がっちりと対応はしている筈。
―――だが、それとて何か“[不祥事]”が起きれば話は変わる、と言うことか!



「・・・・・・確かに、“A-00[ヴァルハラ]”中隊は、その予算の40%以上を我が国が拠出する国連軍[●●●]であったな―――。」

「―――ああ、そういうコト・・・理解したかい・・・?」


澱んだ瞳でニヤける工作員。
私が応える前に、漸く歓声が静まったモニターからアナウンスが流れる。


『・・・以上を持ちまして、 H-1[オリジナル]とハイヴ・トライアルを終了致します。
また同時に、3日間に渡り参加頂きました“XM3トライアル”についても終了と成りますが、終了の辞に代えまして、ただ今より国連太平洋方面第11軍A-0大隊A-01戦術機特殊潜行中隊によるエキシビジョンを敢行致します。』

「・・・!?」


モニタールームを映す画面からも息を飲む気配が伝わってきた。
A-00[ヴァルハラ]”中隊による H-1[オリジナル]ハイヴ撃破―――それ以上に“エキシビジョン”で見せる様なモノがあるというのか?


『―――尚、本エキシビジョンに於きましては、V-JIVESによるクローニング・モード観戦は出来ませんので、戦術機搭乗中の方もモニター・モードにて観戦ください。』

「・・・な―――?!」


そのアナウンスと共に画面はV-JIVESの喀什上空に切り替わる
佇むのは中隊12騎―――これは・・・!
A-01戦術機特殊潜行中隊、通称“伊隅ヴァルキリーズ”。
A-00[ヴァルハラ]”よりも前から、“横浜” に存在する極秘特務部隊[タスク・フォース]
公式な所属こそ最近A-01連隊からA-0大隊に引き継がれてはいるが、その他は中隊長の伊隅大尉以外、部隊員名すら公表されていない。

そして、機体のカラーリングは白地にブルーの国連カラーであるが、さっきまで同じV-JIVESで“A-00[ヴァルハラ]”が騎乗していた機体と明らかに異なる。

―――この透き通るようなクリアカラーは!?
確か・・・新潟防衛戦の“Amazing5”と言われた機体色と同じ!

その後ユーコン・トライアルで姿を見せた“Evolution4”は、先程の“A-00[ヴァルハラ]”と同じ、マットな感じの塗装であったはず。
何よりも、先の“A-00[ヴァルハラ]”が背負っていた“増槽”が無いではないか―――ッ!

手にする装備こそメインは試製74式“改”近接戦闘長刀、及び、銃剣サプレッサ装備・試製87式“改”突撃砲―――通称“ガンブレード”であるが、制圧支援[ブラスト・ガード]砲撃支援[インパクト・ガード]が手にする中隊支援砲が違う。
背面担架に、専用のマガジンを装備し自らの背丈よりも長そうなシルエットは、ユーコン・トライアルで〈Thor-04〉が所持していた、Mk-57“改”中隊支援砲か。
当時のレポートでは、通常のMk-57と同程度の威力しか報告されていないが・・・。
サプレッサ装備・87式“改”突撃砲が新潟防衛戦で垣間見せたように電磁投射可能であるのなら、態々此処で使用するMk-57“改”中隊支援砲も同じ機能を有している、とでも言うのか・・・?


無論、この映像[V-JIVES]が飽くまでシミュレーションであることは理解している。
故にその気になれば、この空間の中で幾らでも“誇張”は可能と言う事。
もし、新潟防衛戦で見たあの驚異的な戦果が無かったら、それこそ日本語で言う“絵に描いた餅”と一笑に付したかもしれない。
だが、このH-1[オリジナル・ハイヴ]モデル・・・伊達や酔狂で構築できる規模ではない。
今の人類にそんな“余裕”など無いことは、誰よりも“横浜”が理解している。

―――つまりはこの“エキシビジョン”、限りなく現実に近いモデルであり、そしてBETA技術の鹵獲を憶測される“横浜”が、その持てる全て投じて“ H-1[オリジナル・ハイヴ]”に侵攻したらどうなるか、と言うことかッ!


新潟防衛戦の公開映像に、多くの“加工”が為されていることも周知の事実―――それが“Amazing5”の性能を隠蔽する為の欺瞞であることも軍上層部には公知。
その意味では、このトライアルに於ける“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”との模擬戦や、昨日の教導に於ける“A-00[ヴァルハラ]”中隊の“Evolution4”の機動も、その公開映像から“欺瞞”を除いて類推される“Amazing5”の真の性能に届いていないとの報告も受けていた。


そのベールを今、かなぐり捨てる、と―――?




開始のブザーと共に、画面が不意に切り替わる。

開口“門”からスタブの躊躇なく侵入する中隊―――。
・・・音声は、無いらしい。

だが後方視点で中隊に追従する視野、そしてモニター地図上の輝点は、ここがSW-115であることを示す。
A-01[伊隅ヴァルキリーズ]”が選んだ突入経路は、奇しくも“A-00[ヴァルハラ]”中隊が最初に選んだ開口門と同じ位置。
基本的にSW-115からの侵入経路は、広い。
主幹と言えそうなスタブと大広間の連続であり、狭窄部位でも200m以上の高さを有する。
故に、BETAも大型種を含め、大挙してくる。


だが―――。
目を見張る。
この機動―――!!

先程までの、“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”よりも、明らかに機体の応答が疾い[●●]
これは・・・。
新潟防衛戦の映像から予想される欺瞞なしの“上限値”すら凌駕しているのではないかッ!?


やがてSW-115からの侵攻ルートを選んだ訳も知る。

一糸乱れぬ連携。
それでも、一個中隊・フル12騎が、このレスポンスでBETAを置き去りにしながら進むには、狭いスタブでは困難なのだ。
広い空間を最大限に使い縦横無尽に駆け、BETAを散らし、抜き去って往く。
その様は、プラチナ・コードでα-1が見せた機動を彷彿させる。
浅層を、殆ど戦闘らしい戦闘もせずに駆け抜ける“A-01[伊隅ヴァルキリーズ]”、可能なかぎり躱し、やがて後方からの追従BETAが10万単位に成ったところで大広間にS-11を設置、後顧の憂いを殲滅していく。

だが、1回目の“A-00[ヴァルハラ]”中隊が見せたスタブ内反復行動に依るBETA密集度向上戦術を取らないことから、やがて前方にも大広間を埋める“BETAの壁”が生成されていく。


―――無理だ・・・。

しかしその予想は即座に、閃光に埋め尽くされた。


最初はS-11Xかとも疑った閃光、それは圧倒的な火力―――。

これはッ!・・・やはり新潟防衛戦で垣間見せた、電磁投射砲―――ッッ!!!

大広間を埋めるあの絶望の壁を、数条の閃光が舐めて行く―――ッ!
中隊6騎が一斉に掃射する閃光の奔流は、目前に迫った“BETAの壁”を、余りにもあっさりと切り裂いた!



・・・“新潟”は実戦証明・・・しかも既に量産態勢に入っていると言う事か?




驚異的な機動、立ち塞がるBETAの膨大な質量を歯牙にもかけない火力、それによる電撃的な侵攻速度により僅か25分で巨大隔壁にまで到達―――。

A-01[伊隅ヴァルキリーズ]”中隊は此処ても、更なる驚愕を齎す―――。
驚いた事に、あの強固な“隔壁”に戦術機がギリギリ通れるだけの穴を穿つことで、開閉時間をロスすることなく突破したのだ。

使ったのはMk-57“改”中隊支援砲、その一掃射が巨大隔壁を易々と貫通した。
直径で優に200mを凌駕する“巨大隔壁”、確かに全開にするには、神経回路と思しき部位へのハッキング手法が必要なのだろう。
だが戦術機が通るだけなら、“通路”は20mも在ればいい。
ただし、直径200m超であれば、その 厚さも数十メートルは有る上に、強固なハイヴ特有強化素材、先の“A-00[ヴァルハラ]”戦、S-11Xでも数メートルの窪みを作ったのみ。
その隔壁を、Mk-57“改”のフル掃射は、僅か1分で貫通した。


―――後から技官に聞いた話では、Mk-57“改”が電磁投射砲化されているのは確実だが、実体弾を極超高速化していると思われる87式“改”突撃砲と異なり、投射する弾体の全質量[●●●]を砲塔内でプラズマ化、収束して射出していると推測していた。
36mm劣化ウラン弾で、その質量を全てプラズマ化することは難しい。
固体のまま飛翔した場合、無論空気との摩擦で表面はプラズマ化され質量は減るが、その有効射程内、つまり質量が残るうちに液相以上の障害に着弾すれば、その過大な速度故に運動エネルギーは全てプラズマ化され周辺領域を吹き飛ばす。
が、その分貫通力は無い。
そこで弾体を金属粉体や磁性流体を封入したものとすれば、質量は全て砲筒内で加速されてプラズマ化し、元の弾体が有していた転旋するモーメントのよって収束された超高速プラズマガス噴流が生成される、とか。
V-JIVESの映像が高速度撮影でないため概算だが、M20に近い速度で約0.01秒程度投射されていた。、
長さ換算すれば、およそ68mのプラズマ[スピア]
指向性の高いプラズマは触れたものを瞬時に侵食するが、後続する質量が更に同じ場所を穿ってゆく為、極めて高い貫通力を有し、着弾点射線周囲への拡散が少ない。
謂わば、一種のパルス式荷電粒子徹甲弾―――との結論だった。


―――出鱈目だ。

こんな装備が本当に運用出来ると言うのか?



だが、その開発意図が続く重頭脳級戦で明らかになった。


重頭脳級の有する無数の触手―――。

貫通力のない87式(改)突撃砲の電磁投射は、その触手をなかなか突破できない。
故に“A-01[伊隅ヴァルキリーズ]”は、襲いかかってくる触手に対し、寧ろ迎撃の意味で本体に向けて撃つ。
触手は本体を守るように射線に密集する、と言う構図になった。

ここで電磁投射砲の意外な弱点が明らかになった。
着弾して周囲諸共プラズマ化するが、連続的に飛来する次弾は、そのプラズマ拡散に“着弾”し同じくプラズマ化してしまう。
その為連射しても次弾以降は“無駄弾”であり、“貫通”することが出来ない。
・・・そう言えば、新潟防衛戦でも着弾を散らし、表層を削り取るようにBETA塊に対処していた。
拡散させない為と見ていたが、電磁投射砲の特性故でもあるわけだ。

そして重頭脳級の触手は1本を撃破しても、即座に2本3本と増殖していくタイプらしい。
87式(改)突撃砲の掃射は、触手を集めその衝角攻撃を牽制する効果はありそうだが、その密度は寧ろ増したように思えた。
上手く触手と拮抗し、その隙を付いて本体なり触手の制御部なりを撃破できなければ、突破は困難、と言うことか。


しかし―――。

87式“改”突撃砲によって触手を防御に集中させ、攻撃の間を稼いだところで、Mk-57“改”が火を吹いた。
巨大隔壁すら貫通したプラズマの槍は、密集した触手ごと、重頭脳級本体を蹂躙する。
2門同時に行われた最初の掃射で、触手の制御部らしき場所を尽く破壊し、本体上部を瞬く間に削りとったのだ。

―――比類なき貫通力、これはすなわち、対・重頭脳級装備か―――ッッ!



結果――――――。

制御部が破壊されたことで墜ちる無数の触手の向こう、残る10門の電磁投射砲とS-11X炸薬弾の集中砲火は、残る重頭脳級本体を閃光に埋めた。











・・・・・・声もない。


このV-JIVESがどこまで真実に基づいたモデルなのか、作成者以外知る者は居ない。
だが此処迄綿密に調べた情報収集能力があるならば、当然それを撃破する“対策”も講じていて然るべき―――。

思うことは様々・・・。
疑惑も、・・・懸念も、・・・数多ある。

・・・だが、この魂の奥底から込み上がって来る“熱”は、なんだ・・・?




モニタールームも先程の歓喜とは異なり、いまだ驚愕に支配されている様子。

先刻までの“A-00[ヴァルハラ]”はスリルの連続、繰り返しトライした末の、薄氷の勝利だったことは間違いない。
苦労の先に達成した時、その分“歓喜”で迎えられた。

しかしそれは、言い換えれば人類最高とされる戦力をもってしても攻略の確実性は低いということ。
全てを見ていないので後で精査が必要だが、決して楽勝とは言えないギリギリの内容だったことだろう。
もし、“H-1[オリジナル・ハイヴ]”にこのモデルで想定した以上の“障害”があれば、それだけで潰えよう。
限定解除と言われる“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”を筆頭に、全てのメンバーが“レベル5er[ファイヴァー]”という奇跡の[ヴァルハラ]中隊だからこそ成し得た奇跡。
これがドラマや映画としてならば、最高のエンディングだが、或いは同じことをやろうとしても、2度とは出来ないかも知れないということだ。


―――人類の存亡を賭ける戦い。

何よりもまず、彼らをH-1[オリジナル・ハイヴ]のスタブまで突入させる為に、全世界規模の“陽動”が必要になろう。
そんな事が何度も出来るほど今の人類に余裕はない。

乾坤一擲を決断するのは、余りにも分が悪すぎた。



だがしかし―――。

A-01[伊隅ヴァルキリーズ]”は違う。

たった1回のトライで危なげもなく完遂。
オリジナル・ハイヴ攻略を前提に、準備され訓練してきた正しく特殊潜行部隊[スペシャリスト]
何回TRYしても完遂できるだろう安定感さえ有している。
多少の遅延など気にもしない余裕[マージン]
膨大な火力に支えられる想定外の事態を歯牙にもかけないだろう頑健性。

無論“A-01[伊隅ヴァルキリーズ]”の技量が低いわけがない。
A-00[ヴァルハラ]”に比すればという前提であって、少なくてもレベル3、トップは“レベル4er[フォウアー]”から“レベル5er[ファイヴァー]”に手が掛かっていることは確実。
XM3を付与され慣熟を始めたばかりのトライアル参加中隊では追従することすら難しいことはすぐに理解した。

それでも、他国がA-00レベルの中隊を望むことは極めて困難であっても、A-01レベルであれば可能性がある。
その中隊で、確実に“実現”可能なH-1[オリジナル・ハイヴ]完全攻略戦術―――。
つまりは、トップガンレベルの中隊とあの装備があれば、取りも直さず“全てのハイヴ”を殲滅できる―――ッ!!


A-00が技巧と戦術の粋を尽くした歓喜の撃破であったのなら、A-01は強靭な殲滅力で現状を叩き伏せる、驚愕の終焉。
そして当然、―――この装備群は“A-00[ヴァルハラ]”も使用できるのだから、この2隊がH-1[オリジナル・ハイヴ]に突入できたなら・・・。



・・・・・・これは・・・・・・勝てるのか?

滅びよという“運命”に人類は抗える―――と言うことか?

正に煌々と灯された、確かな希望―――。





いつの間にか、モニターが“唸り”に満たされていた。


滅亡の瀬戸際に立たされた種の、初めて見えた生存可能性に対する高揚か。
魂魄を揺さぶられる様な、根源的な感情の咆哮か。

モニタールームの、否、基地全体が激しく鳴動しているのを感じる。




しかし・・・何と言う―――。

人類の希望で在るとともに、G弾にも匹敵する超弩級の爆弾。
軍事的にA-00とA-01の戦績、どちらが重要かといえば、明白。
そしてG弾とこの装備、どちらが使いやすいかといえば、それもまた明白。
これらの隔絶した“性能”が齎す“優位性”は、量り知れない・・・。


「・・・これが魔窟“横浜”―――第4計画[●●●●]の隠し玉、―――我が軍から掠め取った“反応炉”から得た “BETA鹵獲技術”―――。
当然“我が国[ステーツ]”が保有するべき[●●●●●●] “技術”だと、少佐は思わ無ェか・・・?」

「・・・・・・。」


その未だ茫洋とした口調の問いかけは、どこか次元を超越した啓示にも聞こえて、直ぐに応えを返すことが出来なかった。




―――ピシィッッッ!!


逡巡したその刹那―――、異様に高まっていた基地の巨大な何か[●●]が弾けたのを知覚した。


―――何が、起きた?

嫌な予感を覚えた直後、部隊内秘匿通信が繋がる。


『―――ロア・ヴォーゼル、だ。
トライアルは終了した。
参加全隊、直ちに横浜港の空母に帰投せよ。』


臨時准将相当官―――名目上混成部隊となるトライアル参加部隊の司令官(仮)である。
実際ハンター隊・スパイク隊は自分の麾下にあるが、その他は各部隊中隊単位の参加。
現場指揮官として任されており、司令官(仮)は名目、とはいえ指揮権はある。
現場など知らない事務職、口出しは無いと思っていた。
何か良からぬコトが起きているのは確かだが、果たして今動くことが正解であるかは別。
先ずは情報収集に当たるべきだろう。


「・・・しかし、この後はフェアウェル・パーティの予定では?」


流れていたアナウンスに話を振る。


『・・・今の“異変”に気付かぬほど鈍いのかね?
我々は空砲とペイント弾しか持たぬ丸腰[●●]なのだよ!?』


・・・ユーコンテロの再現?
その抑止・・・それとも、逆に―――威力による基地制圧?
この臨時准将相当官が胡散臭いのは確かだが、何れにしても丸腰のトライアル装備では無力・・・か。


「―――Roger that」



Sideout




Side OOO (とある国連太平洋方面第11軍 第6戦術機甲大隊オーガ中隊衛士)

国連横浜基地 外郭 17:35



『『『『「  ッォォォォオォォォオオオオオオォォォオオォォオオォォォォォーーーー!!!!  」』』』』


叫ぶ。
吠える。
喚く。

―――キッッ、モッッ、チッッ、イイィィィィィッッッ!!


今まで経験したことのない、“異様”な程の高揚感!
何でも出来そうな、全能感!
ここのところ妙に鬱屈していた気分を吹き飛ばす、開放感!




広大な訓練エリアをも機密区画として行われている、XM3トライアル。

横浜基地の一般衛士には参加は疎か、参加部隊との接触すら認められていないし、その為の周辺警備として大隊ごとに駆りだされていた。
尤も、空き時間はモニター映像の視聴が許可されていて、今みたいな警備中も網膜投影片隅のモニターでならば確認することが出来る。
その措置自体に文句はない。
国連太平洋方面第11軍には、既に月初めからXM3LITEが供与され教導も始まっているのだから、今更トライアルは必要はないのだ。
寧ろ、忙しい合間を縫って実機教導に来てくれた白銀少佐や、“A-00[ヴァルハラ]”中隊メンバーの全力機動、それを見られることが楽しみだった。
・・・あの娘たちが、全て少佐の“嫁”という噂は、容認できないが―――リア充は爆ぜろ!


尤も、トライアルで訪れる部隊の半分は米軍、と聞いて本気で気分が悪くなった。

そこまで嫌悪していた自覚は無かったが、以来晴れない気分、鬱々な感情。
夜は眠れないか、眠れても悪夢に魘され、昼は逆に重く、膜が掛かった視界。
たった3日とは言え、演習エリアが占有され警備以外の戦術機搭乗が無い。
V-JIVESも今は使えないからXM3慣熟で発散することも出来ない。
どことなく周囲の全員が不機嫌そうで、どこかズシンと落ち込むような感覚に押しつぶされそうになっていた。

まあ一昨日、その“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”単騎に、他国を押しのけて2大隊を派遣してきた米軍の最新鋭機部隊が、為す術も無く墜とされていく様は、正に、ザマァ―――、胸のすく思いだったがな・・・。

加えて昨日の教導も、“A-00[ヴァルハラ]”メンバーが練度の高さを見せつけ、威張り散らしていたラプターやライトニングをコロコロと転がす様にPXで笑い転げた。



そして今日―――。
行われたH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略トライアル―――。

モニター映像で見ていても判る絶大なスケール、到底攻略不可能と思われた内容―――。
A-00[ヴァルハラ]”ですら何度も挑んで、そして成し遂げた時の歓喜―――。


だが、最後に目にしたのは、やはり横浜基地が誇る“戦乙女[伊隅ヴァルキリーズ]”が為した完全攻略[●●●●]だった。

その偉業は、先に“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”が灯した“希望”を強く確実にするものであり―――それは即ち喪われた祖国の奪還をも“現実”とすることと同じ。

最初、状況が上手く認識できずに呆然とし、それが実感できるに連れ、周囲含め沸々と唸り声が湧き上がる。


―――昂まる余りに激しい衝動を、抑えることは誰にも出来なかった。












国連太平洋方面第11軍基地―――通称横浜基地。
アジア圏極東の地であり、衛士を含む一般兵士は遠くは欧州・アラブ、そして主にインド亜大陸や大東亜圏から流れ着いた者で構成されている。
誰も彼も、津波のようなBETAの侵攻に家を喪い、家族を喪い、そして故郷である祖国すら失って、居場所を追われながら、流れ着いた果ての地―――。
それがG弾で永劫の未来を喪われた“横浜”だと言うのも何処か因縁めいていた。
・・・ここが自分の終焉の地、なのだろう―――、と。


実際、オレも元はパキスタン国軍の衛士だった。

亡国パキスタン・・・実は首都イスラマバードはオリジナルハイヴのある喀什から、直線距離なら僅か700km弱しか離れていなかった。
なのに、オリジナル・ハイヴ落着後10年でソ連・中国、そして欧州が蚕食されていく中でも、間にあるカシミール地方の山岳地帯を嫌ったのかBETAの流入はなく、寧ろ安定していられた。
それこそ落着直後の子供だった当時、なんの情報も入らず戦況など読めない中で、大人からは強欲なソ連や中国がBETAなんて殲滅するだろうと聞かされたもんだ。
カシミール領有権争いの騒ぎが聞こえなくなってラッキー、位の感覚で居た。

けれど、長じるに連れ世界の危機的情勢がなんとなく判るようになり、周囲の雰囲気がどんどん悪くなっていくことは理解できて、それが尋常でないことも薄々感じ取っていた。
決定的になったのは徴兵年齢に達し、たまたま戦術機適性があったコトからペシャワール付近の訓練校に入った頃、遂にBETAが本格的な南進を始めたコトを知る。

つまりはその時点で自国よりも北は殆どがBETAに占拠され、欧州もアラビア半島も陥落目前、隣国アフガニスタンはそのルート上にあり、半分齧られた状態であった。
そのBETAが、祖国の盾となっていた北部山岳地帯を迂回、西側から雪崩れ込んでくるのだと言うこと。


・・・それから6年―――。
1億を超える人々を擁していたパキスタン[祖国]は、BETAに没した。



必死に足掻き続け、喪い続けた6年―――。

オレは任官後応援派遣されたカラチの国連基地で “死の8分”を越えた。
当時の主戦場はアラビア半島、そして欧州。
何れも人類が劣勢であることに変わりはなく、派遣後早い時期にイラク、そしてブダペストにもハイヴが建設され、やがてパリも陥落した。
同じころ西アジアでも散発的に、しかし継続的に東進するBETAに対し、主にアフガニスタンを戦場とする抗戦を継続していた。
インド亜大陸諸国や東南アジアの各国軍まで投入されたその中心がカラチ国連基地であり、当時は未だ優勢であると誰もが信じていた。


だが。
80年台後半、一気に状況が変わった―――まるで斜面を転がり始めた岩の様に。

北欧の一部を残して欧州の殆どが奪取された後、西のスエズへの侵攻に加え、BETA東進の圧力までが格段に膨れ上がった。
BETAの密度が増し、侵攻頻度が激増する。
戦闘は定期的な“出撃”から、スクランブルによる“迎撃”に変わり、やがて絶え間ない“防衛戦”へと移ろい行く。
ペシャワールからムルタン、そしてカラチに繋がる“インダス川最終防衛線”がいつの間にか主戦場と化し、隣国アフガニスタンは既に地図から消えていた。
BETAは東進圧力が極めて強く、北部の山岳地帯よりも南部のインダス流域に押し寄せていた。
その圧力に抗しきれず、遂にカラチ基地が放棄されたのは80年台最後の年、スエズ防衛戦敗北の翌月だった。


徹底抗戦―――これが当時の国連上層部の指示だ。
欧州が墜ち、アラビア半島も奪われた。
反攻の為にも、BETA本拠地・喀什への橋頭堡維持は絶対条件―――と言うことだ。

実際カラチ放棄後、オレは北部カムラ国軍基地に戻り、再構築されたインダス東岸防衛線の北端を務めていた。
そこには以前にも増して諸国軍、大東亜軍、国連軍による大規模な共同戦線が張られていたのだ。



なのに―――。

無限湧きするが如く絶え間ないBETAの圧力は日々その密度を増し、遂に壊滅的な損害を被り戦線が瓦解したのは、カラチ放棄後僅か3ヶ月だった。
アラビア半島を平らげたBETAは物量を東に集中し、異様なほど高まった東進圧力が防衛線を文字通り喰い破った。
その勢いは衰えず、そのままインド国軍が幾重にも張った国境防衛線も突破、結局翌年’90年にはインドのほぼ中央にまで達し、ポバール・ハイヴの建設を許す結果と成った。



インダス戦線が崩壊した時、オレが所属し戦線北端を担当していた戦術機甲連隊も僅か数騎がカムラ基地に戻ったのみ―――。
だがそこで直面したのは、とても信じられない現実・・・。


首都イスラマバードは内陸に有り、背後をカシミールを控える地域である。
先に言ったように喀什までは僅か700km、北部の高地に阻まれハイヴ周辺光線級のレーザーも届かない死角。
周辺には幾つもの国軍基地を擁し、喀什攻略の拠点として確かに最適であった。
故に最大の基地であったペシャワールは‘84年には拠点化を見越して国連基地となり、カラチ陥落後戦線の全体指揮もそこで執っていた。
元々喀什攻略への橋頭堡となるこの地域は最重要視され、防衛線死守が前提であり、周辺避難に関しては今後戦況の推移を鑑みる、と言うコトになっていた。

だが、南部の戦線が崩壊しBETAの東進は止まらなかった。
アラブや隣国アフガニスタンの兵士も接収していた国連軍であるが、動ける衛士の殆どはインダス川南部の防衛戦に駆りだされており、その戦線が崩壊した今、この基地に戻ってきたものは居ない。
と言うのも、この時点でイスラマバード周辺は南部へのルートをBETAに封じ込まれていた。
つまりは光線属腫の出現以降空路が使えない今、脱出は疎か物資の供給すらままならない、ということだった―――。


その状況に於いて、だ。

全体を指揮していたペシャワール基地の国連軍上層部、あるいは国軍上層部や政府高官は、オレが戻った時点で既にもぬけの殻、最上位の命令系統が全く機能していない、という事態に陥っていた。
聞いた話では、怒涛の南部侵攻状況を察した国連基地の、何時も偉そうにしていた米国高官が真っ先に逃げ出し、時の政府や国軍上層部までが追従したため周辺住民の系統だった避難が全く行われなかった、と言う。
それまでの戦線膠着が避難の判断を遅らせ、そして一転防衛線が余りに一気に崩れ去った為、とも言えなくもないが、何れにしろその時点で首都周辺にはまだ60%の一般市民が残っていたと推定されている。


東へ―――。

それが絶望的な逃避行の始まり。


その時の事は思い出したくない、というか、思い出せない。
恐らくオレだって、その後“シャノア”の大型ホバー輸送船団が来てくれなければ、そのままBETAに完全包囲された地で終わっていただろう。
―――否、覚えているのは・・・このまま最後まで抗戦すると言ったオレに、自主的に基地に残った佐官が船団の護衛と言うカタチで戦術機ごとの乗船を命じた以降のこと。

ま、その逃避行も命がけだったのは違いない。
なにせ、パキスタン北部からインド・パンジャブのガンジス源流まで至り、さらにヒマラヤ南際をガンジス川沿いにバングラデシュのダッカまでの長駆、約2,000km―――それをほぼ1日で駆け抜けると言う無茶振りなのだから。

オレがその後、中アンダマン島の国連オースティン基地に編入されて以降も、件の“シャノア”はBETAの群が掠めるまでイスラマバードを往復し、更にポバールハイヴ建設以降もニューデーリーまで、食料と避難民のピストン輸送を続けていたらしい。
そこまでしても―――到底あの避難民全員を運び出せたわけじゃない。
後年スマトラ島のパキスタン租借地にまで辿りつけた国民は僅か200万―――元の人口の2%に満たないと聞いた。



喀什への橋頭堡に固執した国連上層部、とりわけ中国やソ連領内に影響力を持てない米政府の意向により避難活動よりもBETA抗戦が優先された為とも言われているが、先に逃げ出した政府高官による暫定政府は同じ穴の狢であり抗議もしないし、まして難民レベルが何を言ったところで届く訳も無く、何よりも祖国は既にBETAに没し、死者は何も発しない―――。

―――その年の終わり、祖国はオレの家族親戚縁者含め国民の殆どを道連れに、・・・地図から消えた。





今更悲劇を嘆いたところで、祖国を喪い、国連軍に編入された衛士なんざ、ゴマンと居る。
BETAの侵攻に流れ流されて・・・。
悲劇を比べたところで意味などない。

それでも、後退と共に守るべきモノが喪われていく、取り戻したい祖国とも更に遠ざかる―――。


『目には目を、歯には歯を』

ペシャワールでオレに船団護衛を命じた佐官の、最後の言葉。
余りに有名なイスラムの言葉ではあるが、実は本来“同害報復”と言って、過剰な復讐、謂わば倍返し等を抑制する言葉である。
―――だが、祖国は滅びた。
“同害報復”は、即ちBETAの絶滅しか在り得ない。

以来、それだけを目指し生き延びて来た。


アンダマン基地ではインド亜大陸撤退を決定づけたクソッタレなスワラージ作戦にも参加した。
ポバールハイヴ攻略が目標だった筈なのに、不可解な国連計画優先の侵攻、足を引っ張り合う米ソの確執。
初の宇宙軍すら投入し、最大深度の侵攻記録さえ出しながら、何らかの“調査”を優先し、挙句BETAに喰われる戦術機で偶然目にしたのは、年端も行かない童女を使い潰す意味不明の作戦。
一方の米軍は共同と言いつつ作戦上、常に国連軍や国軍の上位にいて威張りちらし、目指したのは何故か反応炉とは別の“アトリエ”と奴らが呼んでいた区画。
結局BETAに挟み込まれ、都合が悪くなればオレ達を盾にして真っ先に逃げる。
“調査”による遅滞や、目標を“反応炉”にしておけば、当時のハイヴ規模なら届いたかも知れないスワラージの大失敗。


その後インド亜大陸の全面撤退からアンダマン基地が飽和し、異動したフィリピンのクラーク基地からは、あの忌まわしき明星作戦にも参加した。
前年日本帝国の落日に掌を返して逃げ帰った米軍[チキン]の話は聞いていた。
性懲りも無く明星作戦に参加した米軍は極めつけ、ここ横浜でG弾を無断使用し、多くの友軍をも消滅させこの地を永劫不毛と化した。
当時は後方支援であった為、巻き込まれずに済んだが、あの禍々しい黒いドームは今も脳裏に張り付いている。
しかも米国はそれで飽きたらず、今もG弾による攻撃を主張しているのだから・・・。
正にユーラシア[他人の祖国]など、どうでもいいという“傲慢”。
G弾が地球の重力場にまで影響し、多用すれば自国[アメリカ]さえ水没させると指摘されて、尚、一部には推進派が存在するという“気狂”。



そしてオレが横浜に転属になったのは、2001年今年の初頭―――あの明星作戦から1年半程経ち、基地の設備が漸く整い本格稼働し始めた時だった。

祖国から、インド、大東亜圏と流れ流れて極東の、よりによって呪詛の地と化したあの横浜[グランド・セロ]に配属とは・・・。
その爆心地にこそ基地は在るが、逆に基地より外の周囲は寂れた廃墟のまま。
基地近くはG弾により発生した突風の被害で荒れているが、ある程度離れれば、人一人居ない街並みだけが今もそのまま残っていた。
・・・それが逆に無残ですら在った。
草木も生えず人の営みもないから、野良猫や野良犬をはじめ鳩やカラス、昆虫ですら見えない正しく死の世界と化した横浜。
基地内でならカラスだけは見かけるが、他の貧民街よりは残飯が出るからなのだろう。
食物連鎖の根幹である植生が無い、と言うのはそういう事だ。

周辺でも辛うじて港湾施設が動いている程度。
人の住むエリアと言えば、川崎あたり多摩川の際まで行かなければならない。
しかも基地要員とは言え、基地外では普通に外国人扱いだから、外出にかなりメンドクサイ許可まで必要。

そして何よりも帝国民の横浜基地に対する感情は極めてネガティヴ。
帝国民に言わせれば、横浜は米軍のG弾によって永遠に奪われた地。
何よりも彼らは横浜が国連基地だと言うだけで、米国の手先だと思っていることも知った。
遠くは欧州、そしてアラブ、イスラム、インド、大東亜の寄せ集め―――実際米国人は特別占有区画に数人いるらしいが、他には居ない。
全くの誤解である。
尤も実際基地内で何でも揃うから、面倒な外出する必要もなく接触する機会も殆ど無い。
あの米軍の手下とか思われるのは到底納得できないが、さりとて態々出張って誤解を解く意味も、意志も無かった。

―――所詮、無関係。
と言うのも、国内にハイヴを抱え国土の半分はBETAに蹂躙され荒廃したままの日本帝国。
それでも国土防衛は、まだ健在な帝国軍が担っていて国連軍には一切手伝わせない。
辛うじて極秘の特務部隊であり日本からの出向で構成されていると噂されるA-01連隊が時折極秘任務で出撃しているらしいが、レベルの高い機密故に基地要員でも中身を知る由もない。
つまりは、2001年半ばの段階で戦術機甲大隊だけでも7大隊も揃えながら、遠征は一度としてないのが国連横浜軍の実態。

日々膨れ上がる佐渡ハイヴの圧力。
しかし集められた戦力は、次の大侵攻時この基地を死守する為の守備隊そのもの、と言う訳だ。

そして―――。

一般レベルの衛士が真実を知る由もないが、都市伝説ではH-22の反応炉は生きているらしい。
もし真実なら、佐渡を出撃するBETAは、脇目もふらずこの横浜基地を目指してくる、ということ。

そんなだから、来て3ヶ月は、訓練に励んだ。
此処まで生き延びたのは、単に運に恵まれただけと誰よりも自分が知っている。
守るべきものなどもう無く、取り戻したい祖国は余りに遠い。
諦念に驅られながらも、ただただ可能なかぎりBETAを殺す―――。
もう、オレにはそれしか無かった。

だが・・・。

危機感も長く続けば集中力を失う。
オオカミが来た、は直に信用がなくなるわけで・・・。
半年も出撃が無ければ、気持ちは倦み、身体は弛む。
ただ規定通りの生活、マニュアル通りの訓練。
いつの間にか危機感も、工夫も、進歩も、達成感もなく、唯繰り返すだけの毎日。
腐っている、あるいは、ただ塩漬けの毎日。

―――そもそもここはH-22の跡地、ここにBETAが押し寄せるということは、首都を防衛する帝国が崩壊したと言うことになる。
その段階で、一体何を守れというのか?
命がけで守らなければならないモノなど存在するのか?
―――まさか反応炉を守れと?

そう気付いちまえば、モチベーションすら持てず、士気も、気概も、喪った。




その状況が唐突に変わったのは、この11月に入ってからだ。

最初はこの横浜基地に存在する極秘特務部隊A-01部隊によるシミュレーション・データの公開。
単騎で連隊規模のBETAを翻弄し、エレメントでヴォールクを陥落させた驚愕の内容。
初めは、誰もがジョークとしか見なかった。
その時には、その際に使われた新OS、XM3のシミュレータが整備され、希望者への換装も開始されていた。

最初はそんな怪しげなOSに誰も見向きもしなかったが、部隊内の新米[ルーキー]が物は試しと、トライした。

3日後―――。
その新米[ルーキー]に小隊の全員が模擬戦で敗れ、戦慄が走った。

実際に試してみれば、XM3LITEなる新OSの恩恵は多大。
シミュレータには教導から対戦モードまで準備され、至れり尽くせり。
最初は16基中2基しか無かったXM3用シミュレータが、衛士要望から瞬く間に全てがXM3対応になり、それでも稼働率は常に100%という混雑ぶりを呈していた。

そこは腐っても衛士。
自らの生存確率を上げるものには、何処までも貪欲。

そしてXM3の機動を理解し、あのプラチナ・コードがホントなんじゃね?、と思い始めた頃、新潟防衛戦が起きた。
朝の5時からけたたましい警報で起こされれば、Code991―――。
しかも初っ端から20,000超の大規模侵攻。

―――ついに来たか、とい気持ちだったのは否めない。

しかしそのBETAが横浜どころか、新潟さえ抜けることはなかった。


オレはそこに小さな・・・まだとても小さな“希望”を見つけた。

オレの望むBETA絶滅に繋がる“希望”を・・・。














『『『『『『『『『『『『「  オオオォォォッオオオオォォオオォオオォォォォォ~~~~!!!!! 」』』』』』』』』』』』』


コックピットを満たす、雄叫びが止まらない。
自分の声なのか、周辺に展開した僚機の部隊間通信、或いはCPの声なのかすら区別がつかない。


おかしい・・・、おかしいな―――。

けど。


惚れた!
濡れた!
漏れた!


なにせ、あのBETAの親玉、クソッタレなH-1[オリジナル・ハイヴ]の反応炉を、一方的に蹂躙し、殲滅した!!


イケルッ!
勝つるッ!
萌えるッ!


小さな“希望”・・・それは果てしなく遠く思えた“祖国”への道程。
・・・どこか、怪しいと感じた小さな意識さえ、湧き上がる巨大な感情の放流に掻き消える。


開けッ!!
放てッ!!
爆ぜろッ!!










―――アレ?

オレは、何をしている?


基地外郭で、トライアルの警備をしていたんじゃなかったっけ?

此方は機密エリアじゃあ・・・!!ッ―――


その瞬間、網膜投影に幻視したのは、モニターで見たこの横浜[]いる、米軍機[●●●]―――。


・・・そうか―――、コイツ[簒奪者]等がまた[●●]此処に奪いに来たのか―――ッ!。

・・・オレの“希望”を―――ッ!!





視界が赤く染まった―――。


Sideout



※不定期更新になってしまいました。
 ラストまでのラフプロットは在るんですが、間を埋めるのに時間が掛かっています。
 書きあがった分は金曜日にupします。
 来週は恐らくupできるかな・・・。


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