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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/06/03 19:42
'16,04,29 upload  ※前回の前書きがフラグだったとは・・・
             年末から、期末・期初に掛け忙殺されてました---
             取り敢えず書けた分投下します
'16,06,03 誤字修正



Side 冥夜

早朝の第2グラウンド、その片隅で上がった息を整える。
ただ長く走る訳ではない。
緩急織り交ぜたランダムインターバルは、装着したヘッドギアの指示[ナヴィゲーション]による。
短時間で、全身の筋肉、そして心肺に対しギリギリの限界負荷を掛けるセットアップ。
しかも、錬成度合い・体調や周囲環境も加味し、毎日その内容が変わる。
如何なときにも即応できる柔軟性と即応性を求めてのことでもあった。


昨日から始まったXM3トライアルにて総合グランドはゲストに開放されているため、今は207訓練校でも使用していた第2グラウンドに居る。
こちらはゲストに解放されない機密エリアに属する為、基地所属の一般衛士の姿もチラホラ見える。
何時もの朝の風景であった。

と、そんな景色を眺めていたら呼吸が整うのもそこそこに、次のアイソメトリック・セットが指示された。



戦術機の機動は激しい。
基地のシミュレータや、戦術機を用いたV-JIVES、そして仮想現実[VR]シミュレータ:“VRS”を用いた訓練は、余人の数倍の密度で行って来たが、やはり感覚に掛かるだけの負荷と、全身に掛かる現実の負荷では、その疲労度が段違いである。
その為に耐G機能を備えた強化装備を装着すると言うのに、OSがXM3になって機動の厳しさに輪をかけた。
更に極めつけ、私に与えられた乗機は“XFJ-01”を飛び越えて“武御雷”・・・、それもG-コア搭載のTYPE-R仕様―――。
新潟防衛戦で篁大尉が試用した“IRFG”こそ未搭載だが、それをもトライアル後には搭載される事が決まっている。
本来悠陽殿下[姉上]の乗機であるこの機体、G-コアと“IRFG”の搭載後には“Type-REX”と呼称され、至高の性能を示現する。
無論、その機動もVRSやV-JIVESにて慣熟してきたし、新潟ではBETAとの実戦を経験し死の8分も超えているとはいえ、現実の限界機動にはまだまだ届いてはいない。

―――そう・・・、あの上位存在から閃光の如く飛来する触手の記憶を明確に有する今、これで良いとはとても言えないのだ。


焦がれた相手とは既に幾度も情愛を交し、果てに魂魄の接合すら垣間見た。
未だ完全な“合一”には届かぬが、その瞬間が近いことも感じる。
他ならぬ武の“魂魄”を繋ぎ止める、吾等のもうひとつの戦い・・・。

何も知らなかった“前回”とは異なり、あの至福を覚え、その途上にある今、この身は既に武のモノ―――。
ならばこそ、2度とあのような触手に侵食され、心身を穢される恥辱に塗れることなど、到底許容できることではない。
さりとて、武とともに人類の未来を賭けて赴くその戦いを忌避することなど出来よう筈もない。


―――故に心技体、極限まで鍛え上げ、融通無碍の境地に至るのみ―――。


目指すは鋭利さと強靭さを合わせ持つ、日本刀のような筋肉。
表層はスピード重視の瞬発力、深層に行くにしたがって、パワーと持久力を有する筋繊維構造。
再誕した純夏が実現し、今も維持しているその理想に至る道程も、純夏との“合一”で理解していたし、その為のナビゲーションプログラムも御子神大佐[義兄上]に組んで頂いた。

―――あとは、実践するのみ。




無機質な終了の指示に、力を抜く。
・・・ふ、と何者かの気配。


「!?―――こ、煌武院悠陽殿下?」


背後で護衛に当たっている巴が動く機先を、拡げた掌で制する。


「―――今は殿下名代の任にはない。
・・・私は国連太平洋方面第11軍A-0大隊A-00概念実証試験中隊所属少尉、御剣冥夜。
お間違いなきよう、お願いする。」

「!!ッ、これは失礼を致しました。
小官は、本土防衛軍戦術機甲戦闘団特殊戦第5戦術機甲戦隊少尉、前島正樹であります。」


・・・成程、A-01中隊と共にXM3の動画記録に当たっている前島少尉とはこの方か。
任務中ゲスト以上のセキュリティパスが発行されている為、このエリアなら問題ない。
自主的な自己鍛錬の途上であることも間違いないだろう。


「・・・同じ位階故、楽にされるが良い。
加えて此方は任官したての新兵、先任に敬語を使われても戸惑う故。」

「あ、・・・え、は、はい、わかり・・・了解した。」


A-00との直接接触は無いが、純夏や柏木から聞き及んでいる伊隅大尉の攻略対象。
伊隅大尉[本人]から直接恋バナを聞く機会にもまだ恵まれていないが、面倒見の良い大尉のこと、想いを抱きつつもこの少尉を弟のように可愛がっている姿が想像できて、つい口元が歪んでしまった。


「―――特殊戦といえば、A-01中隊と共同任務に就いていることは聞き及んでいる。
昨日の模擬戦、あの白銀少佐の動きを見事に捉えていたのは、そなたの腕が確かな査証―――、今後もよろしく頼む。」

「あ、ありがとう・・・。
少尉はA-00中隊、と言うことは、白銀少佐直属、―――優秀なのだな。」

「なに、適々任官前の訓練からXM3の教導を受けたサンプルとして暫定的にA-00に任官したに過ぎん。
実力が評価された訳ではない。
己の未熟は誰よりも己が重々承知している。
たk・・・、白銀少佐は、遥か彼方に居られる―――。」

「!・・・そう―――凄いですよね・・・15中隊を一人で殲滅なんて・・・。」

「・・・」

「―――やっぱり全部持ってる人って、居られるんだな・・・。」

「それは違う。」

「は?」

「・・・白銀少佐―――武は全てを奪われ続けてきた。」

「え・・・。」

「・・・肉親も、友人も、故郷も、―――そして希望も、愛も、未来も、全て奪われ、失い続けてきた。」

「・・・」

「武がどんな状況に在っても、どんな苦境に喘いでも、唯一喪わなかったのは・・・、」

「・・・」

「―――その諦めない意志だけだ。」

「!!ッ」

「・・・どんなに奪われても、どれだけ喪われても、ついぞ諦めなかった。
だからこそ、今の武が在る―――。」

「・・・諦めない意志・・・。」


―――そう・・・その不屈の意志にこの世界の全ては救われている。
何度も奪われ、何度も喪い、その度に繰り返して、それでも届かない“未来”。
知れば知るほど絶望的なまでの戦力差。
何をしても好転しない状況。
足を引く人類同士の諍い。

何周も繰り返した1周目のループ記憶では、時に武との蜜時も在ったが、総じてそれ以降何れも砂を喰むような空虚しか残っていない。
武に死を懇願した2周目は余りに鮮烈で、翻ればそれはそれで幸せな記憶であるかもしれないが、未練が残るのは詮無いこと。
確かにループしたときにはその記憶もリセットされてはいるが、無意識に残った絶望感が徐々にその重さを増していたのもまた事実。
―――その押しつぶされそうな絶望に抗い続けた武が居たからこそ、今の僥倖がある。

それを理解しているのは、吾等武の嫁8人と・・・副司令・大佐のみ・・・。


・・・尤も、余人に理解して欲しいわけではない。
それは解っている。
ただ只管にBETA駆逐を目指す今の状況だけを傍から見れば、確かに全てを“持っている”ように見えるだろう。

それでも尚、武が恵まれた星の下に在るよう言われると反発してしまうのは我が身の未熟。


「・・・そなたは何を諦めた?
そんな顔をしているというのに、それは、そんな簡単に譲れるモノなのか?」

「!―――」

「昨日、そなたのカメラ[]に映ったのは、単なる幻なのか?」

「!!・・・ッ」

「・・・私などまだまだ未熟、それでも諦めきれぬモノは在る。
だからこそ―――こうして足掻いているのだ。」

「・・・。」

「・・・ならばこそ、そなたも足掻くが良い。
されば何時か、大切なものも見えてこよう―――。
・・・尤も、新兵などに指摘されるまでもないことであろうが、な。
老婆心と許すが良い。」


唇を噛み締めた前島少尉に、位階は同等といえ、過ぎたことをしたと自省しつつ目礼する。
私は踵を返し、指示の出た次のセットに戻る。
此方にも余裕なぞ、ない。
後に立ち尽くす姿は、直ぐに意識から外れた。


Sideout



Side シルヴィオ・オルランディ(欧州連合情報軍本部第六局・特殊任務部隊“ゴーストハウンド”中尉)

PX 喫食エリア 07:00


「―――な、なんだ・・・なんなんだアレ[●●]は―――?!ッ」


その朝、俺はそこに信じられないものを見た気がした。
自分の網膜に映った映像は、悪戯好きな香月夕呼[ドクター]が仕掛けた虚像ではないのか?
そんな疑問が猛然と湧き上がる程に・・・。

視線の先に広がるのは、砂糖を煮詰めた水飴なる物体よりも甘く、そしてネバ付く桃色空間―――。


「・・・アーーン。」


あの表情の少ない社嬢が抑揚のないセリフで突き出すスプーンを笑顔で咥えているのは、数多の二つ名を有し、単騎世界最高戦力が当確である英雄、白銀少佐その人だ。
その隣でニコニコとその様子を見ているのは、ガーネットの如き赤い髪に大きな黄色いリボンを結んだ少女。
彼女もその手には、次のおかずを載せたスプーンを用意している。
・・・つまり少佐は手にした箸を一切使わず食事を進めていた。

―――いや、箸は使う。
だがそれは、食事を自らの口に運ぶ為ではなく、二人の少女に“お返し”をするためだけに使われていることがその後確認された!



「ん?―――ああ、シルヴィオは初めて見たのか。
―――あれはもはや、国連横浜基地[ココ]では日常の光景と化した朝のひとコマだ。」


呆れたように言う美冴の言葉に、愕然とする。


な・・にッ?

何と言う剛毅!
この様な衆人環視のもと、羞恥を極める様な行為を日常の光景とするまでに、少佐は解脱していると言うのかッ!?
その表情が妙に達観して見えるのは、そのせいか!


―――ん?


「どうした?
シルヴィオも、あーいうのが好みなのか?」

「・・・いや、美冴がしてくれるのなら吝かではないが、この環境で実行する度胸はない。
それより、あのリボンの少女に何処かで在ったことがあるような気がしただけだ。」

陳腐[ベタ]だな・・・。
少尉にか?、それは―――無いと思うぞ・・・?」


僅かに美冴のツッコミの歯切れが悪い。
何かを言い足そうとして、止めた様だ。


「・・・そうか、なら俺の勘違いだろう。」


A-0大隊は元々機密部隊。
その個人情報も機密に該当するのは当然。
同じ作戦を展開するA-01なら付き合いの範囲で多少は踏み込めても、範囲を誤れば美冴に迷惑がかかるだけだ。
別に俺は横浜基地の内情を調べに来たわけではない。
局長辺りには垂涎かもしれないが、ご機嫌取りなど御免被る。


「・・・しかし彼女に興味があるのか?、これは少佐に進言しておかないといかんな。
折角横浜に来たのだから、あの[●●]白銀少佐に個人教導をしてもらうのも、乙だぞ?」


悪戯っぽい瞳をしながら、真面目口調で指差される。


「勘弁して下さい―――。」


それでなくてもイタリア男は軽佻浮薄の謗りを受ける。
あの[●●]白銀少佐に、嫁にこなをかけてる等と誤解されたら普通に死ねる。
当然白銀少佐の相手に関しては、欧州の情報軍にも報告が上がっていた。
アレだけの機動を実現し、一人で一個中隊分に相当するだろう働きをする少佐は、可能であれば取り込みたい各国の攻略対象でもある。
それがハニトラくらいで掛かってくれるならそれに越したことはない。
故にそのプライベートも、別部門の調査対象なわけだ・・・言ったように俺はしないが。
最新の情報でその相手は、ユーコンに随伴した4人の部下、そして国内にも3人、の筈。
日本帝国が人口激減の対策として制定する事が確実の拡大婚姻法、そのプロパガンダとしての側面もあるらしい。
人口比から8人までとのコトだが、その一角を占めるのがあの娘達、なのだろう。


「・・・俺としては、寧ろ美冴の事が知りたい。」


正直、他人の恋路は興味の対象外。


「!、・・・これは切り返されたな―――鷹徳のことかい?」

「いや、それはいずれはっきりすると言ってくれたのだから、それを待つ。」

「・・・。」

「一昨日美冴を目にしたとき、正直驚いた。
何というか・・・視線が変わった様な気がした。
普段から飄々として、なかなか素顔を見せてくれないから勘違いかとも思ったが・・・。
もし、許されるならそのワケを知りたい。」

「・・・流石情報軍だな、いい目をしている。」

「・・・この前、話していただろ、向き合って見る、と・・・。
なにか良い知らせでも在ったのか?」

「―――ああ、それについては逆だな。
漸く踏ん切りが付いて―――最近調べて知ったのだが・・・やはり母は既に亡くなっていた。」

「!!ッ―――それは・・・立ち入ったコト、申し訳ない・・・。」

「―――構わん、シルヴィオに謝ってもらう程でもない。
私も、覚悟してのコトだ。

・・・墓所すらBETAに奪われた。
納める一片の遺骨もない―――。

・・・思うことが無いわけではないが、格段特別なことでもない。」

「・・・。」

「・・・西日本の喪失当時、シャノアの輸送船がかなりの避難民を輸送してくれていた。
―――それでも全員を救えたわけじゃない。
BETAに齧り付かれる殿では、取りこぼしも多かったらしい。」

「あぁ・・・。」

「母もな・・・実際には、救助船に乗れたらしい。
定員はギリギリで、背後にはBETAが迫る中、岸壁に残る人も多かったという。
・・・それを母は、譲った・・・縁も縁もない娘の母に・・・。」

「!・・・」

「・・・御子神大佐が調べてくれたシャノアにな、語り継ぐべき記録として、そう云う人達の名前を遺してあるそうだ。
乗船は子供優先で、残った大人はクジ引き。
母は当たりを引いたが、中学生でも子供と母親は一緒に居るべきだと言って、譲ったらしい。
無論生死を分かつ選択だ・・・それが本当の母の気持ちだったんだろう。
まあ全世界の記録だから、そうして名前が残る人だけでも数千人に達しているらしいがな。
―――その名だけが、母の墓標なのだ。」

「・・・。」

「没落した様な分家筋なのに武家の仕来りに厳しくて、事あるごとに衝突ばかりしてたが・・・、母は母で最後までその矜持を持ち続けた。
母らしい死に様―――、理解しきれなかった放蕩娘がどうこう言うことじゃない。」

「・・・。」

「・・・もし、シルヴィオからみて私が・・・或いはA-01と言う中隊が違って見えるとしたのなら、全ての悲劇の元凶たるBETAに一矢報い、そして更なる反攻を勃す機会を得たからだろう。」

「!!ッ、第4計画・・・か」


唸るように口の中で呟いた言葉。
XM3、そして新潟の奇跡。
BETA技術鹵獲に依る新兵器の噂も絶えない今、確かな希望がここには在る、と言う事か。


「・・・これ以上は、朝のPXでする会話ではないが・・・、このトライアルが終われば、副司令が国連本部に行くことは既知なのだろう?」

「・・・・・・。」

「―――世界は変る・・・いや・・・私達が、変えてみせる―――のさ。」


物静かな、しかし力に溢れた宣言。
俺はといえば、戦乙女の凛々しい姿に魅入られるばかりだった。


Sideout




Side 前島正樹(本土防衛軍戦術機甲戦闘団特殊戦第5戦術機甲戦隊)

太平洋上空 14:00 


フッ―――、と長く息をつく。
毎度毎度のことながら、気を抜けばレッドアウトしそうな際限のない減速Gから漸く解放された。
眼球が飛び出さないよう堅く瞑っていた瞼にずっと押し付けられ、網膜投影すら歪んで見えていた視界が、やっと正常に戻る。

未だその視界、全天に広がるのは遮るもの何もない果て無き世界・・・。
間もなく横浜から西南西に500km、上空46000m―――まだ成層圏と呼ばれる領域の上の方に居る。
背後には燦々と照る太陽、そして真上には瞬きもしない星々が共存する、所謂“神の領域”だった。


網膜投影に映し出される機外360度の視界には、遥か前方に緩やかに弧を描き地平線と水平線が連なり、その下半分は所々霞むように雲の棚引く光る大気。
そして上半分は地平から天頂に掛け群青から漆黒に遷移するグラデーション、深遠の宇宙が見えている。

だが・・・。

ゆっくりとこの景観を眺めて、“神”を感じたことなど一度もない。
未だかつて、地球と宇宙の境界を実感している余裕なんて持てたコトが無いのだ。
と言うのも、頭蓋まで軋む強烈な減速Gが過ぎ去れば、今度は光線属種の照射範囲内を通過する脅威を感じながら時間との勝負―――。



もうこれで何度目になるのか・・・、それすら忘れた。
何時も着陸したあとは精神的にも肉体的にもぐったりで、詳細を覚えていない事が殆ど。
今回[●●]もどうにか無事、此処[●●]迄来た。

―――今朝方早朝の鍛錬もそこそこに、横浜からマスドライバーで打ち上げられたHSSTのカーゴに極秘裏に搭載された再突入殻は、SR-71を内包したままインド洋上高度200kmで射出され、そのまま再突入軌道にて降下している。
無論直接ハイヴアタックを仕掛ける訳ではない。
ハイヴダイバーズの損耗率の激しさは聞き及んでいるから、それに比べれば幸せな事だと言うかも知れないが、それでも何時撃たれるか判らない恐怖を延々と繰り返すのと何方が幸せなのか、自分には判断がつかない。
そう―――、特殊戦は戦場で忌み嫌われながら人の死を撮り続ける以外に、当面の目標である佐渡ヶ島を掠めるような降下軌道を使ったダイブによるハイヴ偵察を繰り返してきたのだ。


SR-71を投下する為だけに地球を一周余計に周ったHSSTは、既に自らの目的地に向け虚空を飛び去っている。
グッドラックの声と共に射出された後は、直後徐々に増大していく減速Gに耐えながら、この宇宙に取り残されたようなたった一人―――。

ここに至る間にも、ハイヴからの照射脅威を減じるため可能なかぎり低緯度周回軌道を通ってはいる。それでも、最大射程は1,000km以上と考えられる重光線級の照射範囲でいえば、上昇過程でH26:エヴェンスクの射程圏内を横切り、単独の降下軌道に入ってからは、H17:マンダレー、H16:重慶にも捕捉され、今はH20:鉄原から重光線級の射程内を通過している事になる。
背中に絡みついてくる様な奴らの視線、降下を開始した辺りからずっと怖気として背中に張り付いていた。


もう間もなく関東上空―――ここは当然佐渡からの第4級光線照射危険空域に該当するわけで、40kmとされる積極的照射範囲こそ外れても、奴らの驚異的な捕捉能力によって追尾されているのは確実だろう。
そもそも20000mから25000mを飛ぶ高々度偵察機が光線属種の格好の標的であることは、過去の歴史が証明している。
例えM3近い速度が在ろうとも、光線属種が有する探知能力と光速の砲撃の前に高々度偵察機は瞬く間に絶滅に追い込まれた。
航空機にとって光線属種の能力は、正しく致命的であった。

だが、BETAは何故か200km以上の上空を周回する衛星や、低軌道往復帰還機の打ち上げ・再突入経路を通過するHSSTには探知範囲内であっても照射しない、という経験的事実がある。
高度200km以上に関しては無数のスペースデブリも周回していることから、BETAがそれらを無視すると言うのは判らないでもないが、低軌道往復帰還機が狙われないことに関しては、専門家をして全くその理由が判っていないと言う。
BETAの気紛れとも言われるこの事象は、今以て迅速な大陸間の物資輸送を可能とし、皮肉にもそれが人類の生存に大きく寄与している訳だが、逆にこの経路を利用すれば最終降下地点がハイヴの30km圏内でない限り有人偵察も可能、と言うことにもなる。

―――それを恒常的に実施しているのが特殊戦第5戦術機甲戦隊であり、その為にHSSTへの搭載性と高々度における自力巡行性能を有するSR-71が未だ運用されている理由でもあった。




で・・・、今回横浜基地のXM3イベントに撮影班として参加した自分であるが、今日のトライアル・メニューは参加した各国の機体に昨日換装されたXM3の慣熟・・・つまりは一日中教導である。
しかし教導の公式記録であれば定点カメラやドローンで十分なため、有人偵察機による撮影は必要ないと判断された。
一方、SR-71にもXM3換装が行われているが、元々地上での戦闘機動など殆どしない特殊戦、慣熟をするとすれば“戦域偵察”とそして今絶賛遂行中の“軌道降下” になるわけで、要するに慣熟と銘打った“実務” 、つまり諜報に関する周辺偵察の敢行となる。

今までの任務に於ける軌道降下による佐渡ヶ島ハイヴ偵察と同じく、高度50000mで早々に再突入殻をパージ、後は自力で降下軌道に乗る。
ここで今回は何時もより東寄り、事実上横浜上空をフライパスした後、仙台周辺に降着する。

―――と、まあ、言葉で言うのは簡単だが、その降下中4,000kmもの間、空気抵抗による熱と戦いながら射出時の周回速度M15程度からからM2.5程度まで一気に落とすため、ずっと強烈な減速Gが掛かっていた。
今も突入角で3度、更に速度を落としつつ100kmで5000m程降下している。
500km手前から横浜通過までは約15分程度、撮影可能範囲は通過後も含め10分程度―――それでも地上200kmを周回する監視衛星よりも鮮明な映像が撮れる。
そしてこの偵察方法には何よりも、周回している十数基の偵察衛星、その全てが“食”となる“空白の時間”、そこを意識的に狙って偵察が出来るというメリットが在った。
当然相手が衛星周期を熟知していると想定すれば、何か腹黒いコトを起こすとすればその“食”の時間が最も確率が高い、と言う予測。
故にこの降下は今日発生する“食”で一番長い1時間というタイミングに合わせてあった。


ちなみにSR-71が横浜をフライパスするときの高度は20000m、20mの機体でも地上から見上げた場合1m先の1mmの砂粒程度にしか見えない。
無論反射の抑制や背景に溶け込むような塗装処理が施されている。
今日の横浜地方は雲の薄い晴れだが、蒼穹の中でその存在を見出す者はまず居ない。
そして元々SR-71は、思いの外ステルス性が高い。
通信も発信は全て遮断しデータリンクの受信のみ。
流行りのアクティブステルスは持たないが、そこは“横浜”がデータリンクでの存在を隠蔽してくれている。

そして更に、この機体が有する特性は、超音速飛行による衝撃波の発生も抑えることができた。


―――戦術機甲戦闘電子偵察機SR-71“黒烏[レイヴェン]”。
最高速度は公表されていない・・・と言うか、気圧や湿度条件でも変化するため、明確な値がない。
それでも、高度20,000mにて全力で噴けば実際にはM3には届くだろうというバケモノ。
但しそんなことをすれば猛烈に燃料を喰う為、最高速は3分も維持できないだろう。
実際今もM1.5前後で継続降下中―――。


レーダーへのステルス性、難視認性、そして排気火焔まで絞っているが、この機体は更に音速で発生する衝撃波も対策してある。

1930年代に提唱されたとだけ聞いただけで正確な理論など知らないが、元は独特な2枚翼によって発生する衝撃波を相殺し下方に発生するエネルギーを減ずる手法、とのこと。
“ブーゼマン効果”と言うらしい。
それをSR-71では3次元に拡張・展開し、結果その飛行形態に因って下方衝撃波の85%を相殺する機構が搭載されている。
このとき干渉により上方への衝撃波は若干増加するらしいが指向性の高い衝撃波に於いてそれは問題に成らず、15000m以上の高空であれば音速を突破してもその衝撃波が音として地表まで届かない程の静粛性を纏っていた。

一方で衝撃波を減じるのは造波抵抗を小さくするのと同義であり、この事に因って空気密度が高く抵抗が大きい地表付近でも音速を突破出来るポテンシャルとなるが、通常ただ単に音速を出しただけでは地面に跳ね返った衝撃波で自分の機体が損傷してしまう。
しかし下方に放射される衝撃波を減少させる機構は、副次的に地表近くでの音速飛行に対しても地面の衝撃波反射に依る機体損傷を低減する効果も得ていた。
まあ、尤も幾ら抵抗を減らしたところで元の抵抗が高く、結局膨大な燃料を消費する為、地表付近での超音速飛行は極めて限定的な緊急避難的な使い方でしかない。


反面それだけの技術なら、通常の戦術機に応用すれば良いとも思うが、はっきり言えば汎用性のない速度特化技術―――つまるところSR-71は“直線番長”なのだ。
戦術機に普通に求められる可動性を考慮した途端、ブーゼマン効果の効率は大幅に落ちる。
曲がることなんか視野に入れてない構造だからこそ、そこまでの指向性を与えることが可能らしい。
SR-71は“戦術機”と称するのも烏滸がましいほど出来損ないのようなブレンデッドウィングの塊、寧ろ偵察機です、と言ったほうが納得出来るフォルムであり、実際その中身は高空でも使用可能な高性能ロケット燃料でピキピキに満たされている。
謂わば自身をロケットブースターと化した様なもの、なにしろ過去撃墜された機体は末端の被弾だったにも関わらず搭載された燃料に引火して爆散した、という超危険物でもあった。

そもそも超音速飛行中、無造作に姿勢変化をさせようものなら、その瞬間大気の壁に激突しその場で空中分解することは必至―――。
・・・SR-71は極めてとんがったコンセプトによる、正に偵察にしか使えない機体だった。


―――こんなに特殊な機体、更に軌道降下という大掛かりな手法を取ったところで、得られる実質的偵察時間は、せいぜい10分程度。
そのタイミングで有益な情報が得られるか否か、は完全に運次第・・・正直言って宝くじ並みに期待値が低い賭けでもある。
確かに想定される相手は米軍部隊内の煽動者だから、セキリティとして配された多数の監視カメラが多数存在し、夜間は巡回するドローンさえ配されているという空母艦内での動きは無かろう。
また停泊している横浜港湾エリア内は上陸も許可されているが、逆に夜間の外出は禁止される。
それら監視の目を逃れて疚しいことに及ぶのは、実質昼間のみであり、空母を少し離れた屋外、加えて衛星監視を逃れる時間しか無い、と言う事にはなる。
しかし、例えそうであっても高々度偵察でその裏工作を捕捉できるかどうか等完全に運まかせ・・・。


結局―――自らの命まで賭けた膨大な無駄を覚悟に臨むしかない、何時もと同じ・・・砂を噛むような任務・・・。






―――そんな虚無感に苛まれながら、徒然に無常を感じつつ、突然視野には横浜・・・“監視領域”の画像が視野全面に展開される。


諦められないモノ―――か。

御剣少尉の言葉と去り際の儚げな微笑みに、とある人の面影が浮かぶ。

手を伸ばせば、届いた・・・否、届くかも知れないのに・・・。



・・・観測エリアが近い。

横浜港に入港した艦船や空母、及び周辺の僅かな港湾施設、そして国連横浜基地を広く俯瞰する。
今言ったエリアにしか人は居ない。
G弾による重力異常によって植生を破壊され未だ荒涼としたまま―――廃墟と化した街を映す。
その視界から視線でピックしたところが拡大され、雲に霞む所は透過する赤外線映像をオーバーラップしていく。

更に今回は、アナスタシア・マクダネル臨時特務大尉のサポートも受け、エクステンデット・データリンクからのデータを追加しているわけだが・・・。

―――その情報を追加した途端思わず息を呑んでいだ。


突然視界に現れたのは拡張現実[AR]による吹出し、つまり横浜基地周辺に張られているミリ波レーダーや各種センサアレイによる追尾情報―――第4計画がマークした人物の現在位置を示していた。
その部分をピックして望遠モードで拡大すれば、さらに細かい動きも見える。
当然の事ながらマークされたその半数以上は、今は衛士としてトライアルに参加している。

・・・が、残りの4割強・・・。
その動き―――。

殆どは室内にいて今回の偵察からの映像記録には残せないが、何故か[●●●]この時間に野外にいる者が存在する―――ッ!!


左手、遥か水平線上には今にも佐渡が姿を見せる―――が今はそれを気にする暇も無い。
佐渡からは、既に捕捉されていることは背筋の怖気からも確定、重光線級であれば地平線の壁が消えた途端、確実に射程内だろう。
けれど、どうせ出来ることはBETAが気紛れを起こさない事を頭の片隅で祈るのみ―――。

それよりも何よりも、今はマークした人物の行動―――。


既に降下コースは決まっている。
ここから記録する映像が、決定的なモノになるか否か、・・・あとは[]のみ。
この果てしなく無為にも思える繰り返し作業が、意味のあるものに変わるか変わらないかの瀬戸際とも言える―――。

そう・・・。
―――この決定的瞬間[チャンス]をモノに出来ないなら、カメラマンなんてッ!!

そして・・・絶対に諦めないッ!!


Sideout




Side 千鶴

A-00部隊執務室 19:00


トライアルの映像を統括している伊隅大尉からその報が齎されたのは、教導が終了しハンガーに戻った時だった。
先に報告した副司令は、部隊長に任せなさいと言っただけだという。


中身をみて納得、まあ、解らなくもない。

横浜基地周辺とはいえ、今のところ基地に何か実害が在ったわけではない。
これが被害者が基地要員である等、明白に基地に害なす内容なら別だったが、この映像をネタに何かを引き出せるわけでもない。
飽くまで、米軍内部の問題、なのだ。

例えその映像が、スタンガンに依る拉致から、薬液の投与、そして催眠暗示に至る一部始終を明確に記録したものだとしても・・・。
被害者も米軍、加害者も米軍。
寄港地である横浜港の周辺で行われた明確な犯罪行為ではあるが、米軍内部に捜査権を持たない日本の治安組織ではどうすることも出来ない。
何よりも映像の出処が問題となる。
下手をすれば、寄港した空母周辺を偵察していた、との抗議を受けかねない。

扱いに困った伊隅大尉が副司令を経て大隊長の白銀のところに持ち込んだ、と言うことだ。



だが、私には処理を白銀に委ねた副司令の意図が解る。

白銀は、過去の数多のループを知る存在、それは今の時点に於いて米軍の中で誰が信用に足り、第5計画派に組みしない人物なのか、知っていると言える。
それはアノ御子神大佐にも無い記憶であり、その記憶を元にプランが練られている重要な情報でもあった。
無論、純夏とのナストロイカでループ記憶を与えられた私達ABOTのメンバーも各々同じループの記憶を有しているが、これに関しては白銀や副司令にも明かしていない。



「・・・成程―――。
面倒なシーンを撮っちゃいましたね・・・。
確かに扱いは難しい―――。」

「―――申し訳ない。」

「あぁ、いえ、謝る必要は在りません。
これが元で米軍内が粛清されれば、結果的に我々[第4計画]が有利になることは間違いありませんから。
寧ろこんな決定的な映像をよく撮れた、と褒めるべきでしょう・・・ただ、ちょーっと面倒くさいだけで・・・。」


珍しく、白銀らしくないねちっこい言い方。
伊隅大尉は兎も角、後ろに控えている前島少尉は憮然としている。
自分が譴責されるなら構わないが、大尉に嫌味を言われるのはイヤだと言うことか。


「・・・私に出来ることなら何でもするが・・・。」

「いえね、実は今日、例の件[●●●]俺の番だったんですよ。
この分じゃ、勿論無理ですけどね。」

「例の件・・?・・・!ッ」


思い当たった大尉が、コクンと息を飲み込んだ。


「・・・例の件[●●●]とは地下の、あの―――?」

「ええ―――。
・・・そうですね、伊隅大尉が俺の“代わり”にアレをヤッて戴けるなら、この件は此方で処理をしましょう。」


・・・なんだ―――そう言うコトか。
切っ掛けの掴めない伊隅大尉に例の作戦を決行させようという腹の、クッサイ演技・・・ちょっと待て!?
もしかして今晩は私の順番だったのにッ!?


「―――発言、宜しいでしょうかッ?」

「正樹!」

「・・・構わない、なにかな前島少尉。」

「ハッ、小官が適々撮影してしまった映像です。
責任は、伊隅大尉ではなく、全て小官に在ります。
ですからその例の件[●●●]の肩代わりは、小官に勤めさせてください!」

「・・・前島少尉には寧ろ報奨を与えなければ成らないのだが、それよりも肩代わりを望む、と?」

「ハッ、そのとおりでありますッ!」

「・・・解りました。
では、前島少尉は、伊隅大尉と共に例の件[●●●]に赴き、しっかり[●●●●]と伊隅大尉を慰労するように!」

「し、白銀ッ!、それはッ」

「Yes,Sir!!、小官は大尉と共に赴き、誠心誠意大尉を慰労しますッ!!」

「ま、・・・正樹―――。」


ここに来て踏ん切りが付いていない大尉に白銀がダメ押し。


「伊隅大尉、純夏に聞きました。
―――頑張ってくださいね。」

「え?・・・あ、な―――」


白銀にイイ笑顔で言われ、真っ赤になる大尉。
目の前の前島少尉が更にムッとしたのが解る。
一種のパワハラか、セクハラと取ったらしい。
例の件[●●●]の内容を理解したときの顔が見てみたいものね。
まあ、それは伊隅大尉だけに与えられる特権だろう。
―――仕方ない、伊隅大尉の幸せの為だ、涙を飲んで今日は譲ろう。


「大尉、ここで極めないと、遠乃や相原に出し抜かれちゃいますよ?」

「・・・!!、う、ウム、判った。
私も女だ、覚悟を決めよう。
―――正樹、末永くよしなに頼む。」

「はいッ!、任せてくださいッ!」


大尉の言い回しが微妙だった気がしないでもないが、前島少尉は気付かず応えていた。





妙にテンションの上がった大尉を見送った後、当然の事ながらハンター大隊の指揮官であるウォーケン少佐と映像を元に密談を交わしたのは言うまでもない。
1周目の大海崩以降の世界や、2周目のクーデターに於いても、かの少佐は米国の規範とすべき真っ当な軍人で在ったことは間違いないだろう。
因みに映像の出処は、御子神大佐のXSSTと言えば、それ以上の追求は無かった。
高空が照射範囲に掛かる日本の上空は、いくらXSSTとはいえ、衛星高度か特殊戦と同じ軌道降下でしか偵察できないから万能ではない、と大佐が仰っていた。
間違いなく前島少尉の“運”が招いた映像だが、対外的にソースを隠す意味では確実に“万能”だった。



―――そしてその夜、私は温泉の代わりに無重力XXXと言う稀有な体験が出来たことを追記する。


Sideout



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