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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/05/06 11:44
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Side XXX(とある大東亜連合衛士)


11月も末の、日本の朝―――6:30は、漸く東の空が明るくなって来る頃。
照明の抑えられた廊下を玄関に向かう。

―――体調は悪くない。
慌ただしい準備と移動の疲れ、そして昨夜饗された食材の余りの旨さについ飲み食いが過ぎたのだが、日課にしているランニングの癖は抜けず、今日もいつも通り目が覚めた。
アレで合成食料と云うのだから、日本人の食に対する拘りは侮れない。
普段の食事がどうなっているのか興味はあるが、その期待の朝飯にはまだ少しの時間が在った。
今回の滞在、グランドや地上階トレーニングルームの使用は許可されている。
朝飯前のルーティーンを熟すとするか。

此処には基本ゲストしか滞在していないので移動途中挨拶するのは、清掃員やプラントやマットを交換する業者ばかりだが、他にも僅かばかり宿泊した衛士の姿も見える。
尤も此処に宿泊するのは大東亜、中華、オセアニア、南米連合の衛士だが、見かけるのは大東亜か中華連合のBDUばかり。
自分が勤勉だとは決して思わないが、衛士としての体力維持は自らの生死に関わる。
生き残るために遣る自主訓練は、やはり後方国家では流行らないらしい。

大東亜連合に関しては、部隊を丸々派遣する余裕など無いため、各部隊から選抜された寄せ集め中隊。
階級も所属もバラバラで、見知った顔もない。
今後の頒布に先駆けてのXM3の受領と教導が主たる目的だから、その場限りの連携など考えても居ないのだ。


降りてきたエレベータには、プラントとマットを載せた台車。
そのプラントが一様に萎れていた。

不思議に思い挨拶された中年女性に訊けば、1週間ほどでヘタルらしい。

・・・そう此処はG弾爆心地[グランドゼロ]の地だった。
雑草さえ生えない呪怨の大地―――。
此処に来て気にしたことも無かったが、植物に対しては置いてあるプラントでさえも、影響されるのだという。
特に背の高い鉢植えが顕著だとか。
短時間で駄目になるのが解っているにも拘わらずこうして毎週替えるのは、G弾の影響を把握するのに、その様子さえモニターしているとのこと。
流石に高レベル機密区画には置いて無いらしいが、周囲に一切の緑がない基地には潤いも必要との事で、調査を目的と名目とし結構なプラントが毎週出入りしていると教えてくれた。

ホールに降りると取り替えたマットを重ね始める話好きな彼女に挨拶して、踵を返す。
そこに集められた萎れるプラントの群れ、その横に積み上げられたマット。

―――なぜか、それを一瞥すると身体の芯が醒めた。


その自らの裡にある得体の知れないものを振り切るように、気を取り直してグランドに向かった。


Sideout





Side 前島正樹(本土防衛軍戦術機甲戦闘団特殊戦第5戦術機甲戦隊)

 横浜基地 第2演習場 13:30


網膜投影に映る戦術機を視線で追う。
俯瞰―――。
そして視野を左に振りながらズームアウト。
枠内に疾る噴射炎が4条。
射撃用よりも視野の広い撮影用レティクルだが、それさえが、ともすると振り切られる。

この偵察専用機SR-71[レイヴェン]に搭載されているのは、Cannon製の多連装レンズによるフェイズドアレイタイプの3次元多点参照動的予測自動焦点・・・要するに世界最高のマルチポイント・アクティブ・オートフォーカスになのに、それでも一騎だけ、時折ピントを外し、映像がブレる機体がある。


廃墟と化したビルの谷間、街路を隔てて瓦礫を避ける高速スラローム。
片方の戦術機が崩れたビルを踏み切り台にして機体を跳ね上げ、そのままバレルロールと云うか、コークスクリュー機動―――。
交差する街路で一瞬の倒立姿勢―――刹那の射線確保!
転旋機動による減速[●●]で、本来無かった射撃のタイミングを創出したのかッ!?。
走らせた視点の先、並走していた対戦機が回避行動を取る事もできず、胸部装甲が鮮やかな黄色に染まり、被さるように仮想映像が姿勢を崩し廃墟のビルに突っ込んで爆散した。

―――撃墜、9騎目。


視点追尾による間接制御が間に合わず、手動ズームでパンし画面ギリギリに辛うじて捉えた。
カメラ撮影に依る映像は実像だが、そこにJIVESの視野映像をオーバーレイするため、実戦宛らの動画になる。
勿論、フレームに捉えていることが条件で、撃墜シーンを収めきれなかったら師匠に何を言われるか判ったモノではない。
幾つか補助撮影用のドローンも飛んでいるが、国連ブルーの試製XFJ-01式(改)―――国連軍横浜基地仕様―――通称“Evolution4”を追い切れず、何度も振り切られてフラフラしていた。


戦闘開始から15分―――、相手は公式では初めてカメラの前に姿を表したA-12“アヴェンジャー”、米軍海兵隊が誇る特殊部隊“SEALS”仕様の虎の子であるにも関わらず、これで既に中隊12機中9機が沈んだ。
高いステルス性と固い装甲、攻撃機[アタッカー]の名に恥じない分厚い攻撃力。
だがしかし、中隊規模ならミサイル巡洋艦に匹敵するその多連装ミサイルの雨を嘲笑うように掻い潜り、鴨撃ちの如く呆気無く喰っていく“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”。

攻撃機でありながら、結構なステルス性能を有する A-12[アヴェンジャー]、このSR-71[レイヴェン]のレーダーでは捉えきれていない。
混戦になったからこそ、反応が見え隠れしているが、隠密行動を取られたら背後から襲われかねない。しかしあの白い機体には一切利いていないらしい。
コチラも横浜基地のデータリンクから情報を補完することで位置が掴めている。
と言うか・・・。
白銀少佐の機体は元より、横浜基地周辺は当然のようにマルチスタティックス化してある、と言うことだ。
A-12から待機するF-35EMDも、F-22Aも全て見えていた。

一方の白銀少佐―――、相手に射線を確保されても、トリガーを引いた瞬間にはそこに居ないと云う。
先読みをして偏差射撃を心がけようにも、その変幻自在の3次元機動に予測がつかない。
面で捉える撮影だから何とかフレーム内に収めることが出来ているだけで、点、乃至連射でも線で捉えるしかない突撃砲では追いきれないのが実情だろう。
・・・見えるのに、捉えられない―――それ程までに機動の次元が違っていた。


その姿は劇的―――。

それがレンズを通し網膜投影で見た、“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”だった。







元々今日トライアル初日は、XM3のデモンストレーション・・・極みと言われる白銀少佐の動きを“体験”してもらう為の、単騎対中隊の模擬戦。
白銀少佐一騎に対する中隊は、XM3未換装とはいえ、各国の開発部隊や最前線衛士、米軍の最新鋭戦術機部隊、そしてXM3実装済の帝国軍教導部隊とという凶悪なラインナップ
それでも先日ユーコン・トライアルで行った同じ中隊戦で白銀少佐が残したキルレートは、0.03対169と言う途轍もない数字。
故に相手に数の過信はなく、当然少佐の戦闘機動や戦法も検討され尽くしているはずだから、寧ろ白銀少佐といえ不利との見方も在った。

予定では1中隊30分―――補給の時間も入れて、南米・オセアニア・中華・大東亜の6中隊で12:30迄、昼食を挟み残りの米国・帝国9中隊では18:30までかかる長丁場、それを一人で行うには厳しく、しかも後になるほど新しい機体、精強な部隊が相手になる凶悪なスケジュール。
中華・大東亜は各前線の中堅クラス以上を寄せ集めで、連携を望むべくもないが、その分前線を生き抜いた各個の技量は高い。
撃墜が出来るかは微妙でも被弾ぐらいは稼げるし、30分という時間枠ならば相当数が生き残るのではないか、と言うのが開始前、参加側関係者の大方の見方だった。


だが、此処までの戦闘を自分の目で視る限り、“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”はユーコンの映像よりも更に早くなったように見える。
午前の部、十分な対策を取ってきたはずの南米、オセアニア、中華、大東亜の各中隊は、30分どころか、何れも15分を持たせる事すら出来ず、殲滅された。

鎧袖一触にも能わず、視認即撃。
その影が目に入ったときには、もうペイント弾を喰らっているという凶悪さ、予備照射の無い光線級に近い。

戦いにすらならない、極東の幻に魅せられただけ―――オセアニアの中隊長はそう零したという。


結局午前の部は、1チーム10分から15分程度しか掛からず、時間を繰り上げていくうちに11:00過ぎには予定していた6中隊が全て終了、昼食を1時間前倒しという出鱈目な状況だった。






昼食の間には戦術機を降りて殲滅された各中隊を足で取材したが、驚いたことに、その何れの部隊も短時間で撃破されたにも関わらず、その表情は明るかった。
午前の部は、運用機体も第2世代から2.5世代機でありOSも旧式、中隊とは言え大東亜や中華連合に至っては即席の寄せ集め、端からユーコンであのパフォーマンスを魅せた白銀少佐に勝てるとは考えて居なかったと言う。
有名な“レインダンサーズ”や欧州最強と言われる“ツェルベルス”をも無傷で下した相手。
機体は史上初の第4世代機であり、ファームウェアすら書き換えた正規版XM3搭載機、そこに単騎世界最高戦力と言われる“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”、である。
勝つことよりも、どれだけ粘れるかを目標にしていたらしい。
目にも留まらぬ裡に瞬殺された、正面から撃ち合ったが自弾がすり抜けた、部隊は10分以上持ちこたえた・・・、つまりは実際に“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”と模擬戦をした、それだけでも名誉なことで、地元部隊に戻れば自慢できるそうだ。


BETAにより確実に追い詰められつつある人類に在って、明確に数万の侵攻を退けた新潟防衛戦、そこに現れた英雄。
プラチナ・コードだXM3だと前評判だけは高かったが実際のBETA戦で使い物になるのか・・・後方支援国家は冷めた目で見ていたという。
だからこそ、その前評判以上の戦果を示した新潟防衛戦は相当センセーショナルだったらしい。
それは今も前線にいる中華連合や大東亜連合の衛士に取っても同じ。
旺溢するBETAを必死に押しとどめることで精一杯、徐々に深刻になる損耗に未来が見えない現況。

だが抗いきれないと感じていた圧力を、新潟では押し返したのだ。
更に次の大規模反攻は、日本帝国が基点となる H-21[佐渡ヶ島]奪還と期待されている。
同じ立場にある大東亜にとって、正しく希望であった。

つまりはその象徴的な衛士が強ければ勁いほど、後方国家に累が及ぶ可能性が減り、大東亜や中華連合にもBETA反攻の可能性が見えてくる・・・。
敵はBETA―――。
自分たちと隔絶した強さを魅せつけられることで、逆にBETA反攻の希望の星と捉えていることが感じられた。

しかも、あの機動にいつかは辿りつける可能性を秘めたOS、XM3を入手できるのだから・・・。


XM3―――。
既に帝国新潟防衛戦で実戦証明されており、その生存率は100%―――。
その後先行して配布されたユーコンからの欧州・中近東帰還組も、前線各地でBETAと接敵し始めていると言う。
まだサンプル数は圧倒的に少ないが、明らかに生存率が跳ね上がっているらしい。
既に欧州中近東に続き、大東亜や南アジアの幾つかの国は、供給に時間の掛かるUSB型LTEではなく、即時大量に配布できるソフトウェア型LITEの導入を、トライアルに先行して契約を打診してきているとも聞いた。

午前中、洗礼とも言える一方的な模擬戦の終わった機体は、直ぐにLITEがインストールされ、更にV-JIVESや教導システム稼働用のコ・プロが装着されている。
それさえ終われば、XM3慣熟訓練も開始可能。
用意されたモニタールームで午後の中隊戦を観戦することも出来るが、先のコ・プロが装着されると配信映像を網膜投影で観ることも出来る。
このトライアル中にレベル2まで全員を上げ、早い者はレベル3に至るのが目標だとレセプションで説明されていたから、いち早く慣熟に入りながら立体感のある網膜投影による観戦を選ばない衛士は居なかった。






その後、12:30から開始された米軍の各中隊との模擬戦―――、コチラは単なる前線衛士の英雄的崇拝とはまた別の米国の思惑も見て取れた。
要するに世界のリーダーを自負する米国、今はXM3と白銀少佐に後塵を拝しても、直ぐに追い付き、追い抜くという信念と言うか執念とでも言うのか・・・。
それがこの最新鋭機ばかりを集めたような参加布陣にも現れている。

だが僅か30分で、その米軍の2中隊が喰われ、今や3中隊目も残り少ない。




初戦はF-18D“ホーネット”を駆る米海軍アンボニー中隊。
2戦目はF-18E/F“スーパー・ホーネット”にバージョンアップした海兵隊のブラックパール中隊。

何れも多連装ミサイルを数多く揃えるなど面制圧を行う装備、勿論模擬戦なので炸薬ではなくペイント散弾を撒き散らず弾頭だが、誘導推進装置は必要故、使い捨ての模擬弾とは言え36mm弾とは比べ物にならない高価なシロモノ・・・それを各中隊に揃える辺り、金にモノを言わせた物量とパワーで押す米国らしい所作。

―――それでも午前中と異なり開始早々に近接戦闘に切り替えた“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”の敵ではなかった。


相手に接近を許さない過剰なまでの火力により一気に圧倒するかに見えたが、そのミサイルの雨の中でも白銀少佐に直撃はなかった。
フィールドが市街戦であることに加え、チャフやフレア、ジャマーを駆使し、赤外線・レーダー追尾も的確に振り切り、それでも接近する尽くを躱す。
全てを見切ったような、無駄を一切排除した最短最速の機動。
幾ら物量に厚くてもミサイルが無限湧きする訳ではない。
弾幕が息を継ぎ、弾幕密度が薄れたその瞬間、一気に距離を詰めていた。

そうなると回避しようにも重火器込みのF-18系初期加速は遅く、旧OS故瞬時の反応が鈍い。

離れた位置での足止めは出来ていたのだが、一旦接近を許せば味方を巻き込むミサイル等の重火器が使えない。
パワーに振った分、直線機動なら重火器の重さを物ともしないが、その大きすぎる慣性故、細かい動作や体捌きは苦手、加えて一般的な米国標準装備には長刀も無い。
混戦に引き込んだ少佐は、左右に持ったガンブレードの斬撃と点射で瞬時に周囲の敵を屠っていった。

アンボニー中隊F-18D“ホーネット”に関しては、対“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”戦では常識となりつつ在る自動照準[Auto Aim]敵味方識別[IFF]さえ外していない始末。
近接に持ち込まれて以降散々だったが、実際にはそれらを外していたブラックパール中隊も近接で詰んだから、その2つを外すことは、おまじないのような物、あまり意味はないのかもしれない。
なにせ、そのブラックパール中隊は接近された半分の味方を無視してミサイル飽和攻撃を実行した。
この奇襲には流石の“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”も沈んだかと思われたが、廃墟と捕獲した敵機体を盾にすることにより、それすら凌いでみせた。
自分たちのミサイルで僚機6を喪ったブラックパール中隊は、仕留め切れなかったことで逆に一気にジリ貧。
手持ちのミサイルを撃ち切ってウロウロしていた4騎を釣瓶撃ち、隙を突いて近接短刀で踊りかかった隊長騎は、そのまま腕を取られ体落しで大地に叩き付けられた。

JIVESの模擬戦でも地面は同じ・・・訓練とは言え墜落すれば死亡事故もある。
故に通常、近接格闘戦は剣技までで、戦術機にも被害が出る肉弾戦に近い格闘戦は控えるのだが、流石に白銀少佐もたかが模擬戦で囮戦術を使い、更には短刀で格闘戦を仕掛けてきた指揮官に腹を立てていたのかも知れない。
投げ落とす動作に微塵の躊躇も感じられなかった。
このえげつない戦法には米軍司令部からも批判が上がったらしく、後日、半壊したスーパーホーネットの修理費や、ムチ打ちの治療費を国連に回すようなコトは無かったと聞いた。






白銀の雷閃[シルバーライトニング]”に対し物量が決め手に成らないのは、F-18以上の攻撃能力を誇るA-12“アヴェンジャー”も同じ。
加えて最大メリットのステルスが効果を発揮しないとなれば、火力に特化し機動が劣化したF-18の様な機体、展開は同じようなものだ。
その特化した火力をも躱し切るのだから、A-12“アヴェンジャー”も“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”の敵ではなかった。



しかし・・・これが米軍戦術機部隊の実態・・・御子神大佐が否定したというATSF、その弊害か―――。

機体が違っても、目指すコンセプトはほぼ同じ。
ステルス艤装と大パワーで隠密急速に接近し、大火力で一気に殲滅する―――。
どう考えても元々ステルスの利かないBETA戦を想定した機体ではない。
勿論BETA戦でも戦術機に依る面制圧は可能だし有効な場面もあるが、物量を最大の武器とするBETAに物量で対抗して押しきれるわけはない。

つまりは極めて穿った見方をすれば、BETAは前線国と戦わせ、残った前線国戦術機を叩く為の概念、それがATSFだとも言える。




不意に流したフレームの中で、鮮紅のガンブレードが閃く。

あ―――、最後のアヴェンジャーが堕ちた。


A-12がアタッカータイプとは言え、第3世代から、3.5世代機とも言われる中隊を、20分足らずで片付ける。


そして・・・、珍しくわくわくしながら撮影している自分に気がついた。







・・・何時からだろう?
こんなにも情熱を持てなくなったのは・・・。
・・・ただ惰性で目の前のありふれた“悲劇”を映像として遺すだけの存在でしかなくなったのは・・・。


元々衛士になんかなりたくなかったから、尚更かも知れない。
中学卒業時の検査で、何故か戦術機適性が高かった為、衛士訓練校に行かされた。
情報が統制され、戦場の状況など概況しか判らない世間一般、知らないことは不安でしか無い。
なので可能であれば渡米して知り合いの戦場カメラマンに随行し、やがては自らカメラマンとして、世間に世界の現状を伝えたいと考えていたが、徴兵制の前に儚い夢でしか無かった。

それでも教練を熟し、衛士として任官が出来たとき、引っ張ってくれたのが中学の時押しかけ弟子をしていたカメラマンのミツコ師匠・・・師匠ですらその時は本土防衛軍戦術機甲戦闘団特殊戦隊長の香月ミツコ中佐だった。
階級が部隊長で中佐なのにも驚いたが、元々偵察隊を率いてスポット参戦していたらしい。
相変わらず謎多き女性だ―――実は中学生以下が守備範囲のショタだけどコレは記憶を封印。


アンタの“目”で真実を写しなさい―――

言われてその気になって、そして初めて“現実”に直面した。


そう・・・戦場に満ちていたのは、まごう事無き“絶望”だった。



政府や軍部が詳細を伝えず情報統制を行っている理由も理解した。
これ[現実]を知らせれば、戦うすべを持たない市民は、今辛うじて保っている理性さえ破壊されかねない。
悲観した大量の自殺者や、自暴自棄に依る暴動がどれだけ発生するか知れない。

真実を伝えることが正義だなんていう、子供の論理はその現実の前に微塵に砕けた。
あと10年で滅亡するという現場が、どれだけ無慈悲で容赦なく凄惨なものであるか、余りにも想像を絶していた。



任官以来、日本各地を転戦、というか戦闘の在る所を渡り歩いた。
偵察部隊という任務、しかも自らは戦う術もほぼなく、ただ数多の同胞の死を見つめ続けるだけの日々。

それは、“絶望”を追認していくだけの、行為。

勿論、稀に小規模の間引き戦で勝利に沸く事もある。
だが、共に任務達成を祝った人たちが、次の戦闘ではBETAに喰われていくその現実。


隊が“アルコル[死兆星]”と呼ばれていることも、騎乗する戦術機甲戦闘電子偵察機SR-71“黒烏[レイヴェン]”が“タナトス[死神]”と呼ばれていることも理解した。

任務はBETAの戦闘時における記録、それを確実に持ち帰ること。
勿論その記録から、少しでも人類が生きながらえるヒントを探していることは理解できる。
だが、そこにヒントが存在する可能性はあるのだろうか。
無駄でも何でもそれが任務ならば、例えそこで戦闘する部隊が壊滅の危機に在っても、その姿だけを撮影し、全てを置き去りにして帰還する。
戦場にデータリンクが生きていれば、確かに転送することも可能だが、膨大な容量になる映像記録を送れば、細い回線自体を長時間独占し通信不能を発生しかねない。
もし重金属雲の影響を受ければ、データリンク自体が繋がらない。

故に、特殊戦にはSR-71という戦闘力僅少で逃げ足だけが早い機体が与えられている。

壊滅する部隊を見捨てて逃げる―――二つ名は妥当であろう。


まだ任官から1年半程なのに、自分が見捨てた部隊だけで、どれだけ程の人数になるのだろう?
思い浮かぶ無数の断末魔。
100や200では利かない・・・。

その中で受けた怨嗟も数えきれないほど在る。
そっちはまだマシ。
恨まれなくても、いつかは辿る道。
どうせ先が同じなら関係ない訳で、そのうち何も思わなくなった。

けれど、後を頼む、帝国を任せた、敵を・・・言われたって到底無理、無理無理。
今際の際に託されても、何もどうすることも出来ない自分に、ただただ凹む。
解っていても、更なる無力感に支配される。


任官からずっと見てきた“真実”―――。
余りにも残酷な“現実”―――。


それがすっかり心を支配してしまったみたいだった。




昨日横浜に来て、久しぶりにみちる姉に会った。
相変わらずキレイだった。
驚いたことに、美沙や優莉も居た。
弟子入りしてた師匠のスタジオ以来・・・ハーフの美沙は前からモデルをするくらい美形だったが、たった2年で磨きがかかり、優莉も幼さが抜け眩しいくらいになっていた。
戦乙女部隊[ヴァルキリーズ]は他の人も異様にレベルの高いアイドルグループみたいな集団だったが、顔なじみの3人が撮影の指示やサポートもしてくれるという。


みちる姉は両親から離れて暮らしていた自分をずっと世話してくれたヒト。
同年代でよくケンカした伊隅家三女まりかよりもちょっとお姉[次女]さんで、密かに憧れていた女性。
今は戦乙女部隊[ヴァルキリーズ]の中隊長で大尉とか、相変わらず優秀でしっかり者みたいだったけど、今では身長も追いぬいて、やっと少しは男としてみてもらえるかもしれない、なのに・・・。


―――心が動かなかった。



浮かぶのは、目の前で泣き叫びながら戦車級に貪り喰われていく女性衛士達―――。

悲鳴。
啼泣。
絶叫。

その声が、ぶつん、と途切れる。
その時の断末魔の表情が、喰いちぎられた肉片が、彼女たちの顔とラップする。

美沙や優莉、そしてみちる姉の、そんな姿を見たら確実に精神は崩壊する確信がある。

―――そして、何れその時は来る・・・。



だから・・・。

求めてはいけない。
望んではならない。

今以上を望めば、絶望もより深くなる。

ただ淡々と・・・与えられた任務を果たせばイイ―――。











なのに―――。

今目の前に展開される光景はなんなんだ?

余りに、衝撃的―――。


米軍の最新鋭機であるF-35EMD“ライトニング”を平然と置き去りにし、射線を掻い潜る様に反転、追う曳光弾をバレルロールで躱しきり、一瞬の交差、撃破する。
SMGに刀で勝つとか現実には在り得ないコトを平然と実行する。

午前中6中隊を平らげ、午後にも既に米軍の物量3中隊を下している機動からも、更に速くなっている。
見て解るほどに、“Evolution4”のギアが一段上がっているのだ。
F-35EMDは、確かに最新ではあるけれど、性能的に言ってしまえばF-22の劣化版・・・とはいえ、その運動性能は、やはりF-18やA-12より数段格上。
・・・にも関わらず、“Evolution4”はその機動を凌駕する。





噂を聞かなかった訳ではない。
27,000のBETAを迎撃・殲滅し、戦死者0という結果も聞いた。

けれど、何度も明るい噂に期待し、現実に蹂躙されて深く失望する事を繰り返してきたせいか、現実感が伴わなかった。
新潟防衛戦の時は、他の任務の関係で四国に居り、参加できなかった。
自分が見て、自分が感じたことしか信じられなくなっていた。


だが、今目の前で宙を舞う“空宙の鬼神[Daemon Load of Aerial]”は、紛れもない現実。


もっと、もっと見たい・・・。
ずっと、ずっと見ていたい・・・。


そんな想いさえ抱かせるほど見事な“舞”。



華麗? そんな既存の概念など超越している。

奇天烈で出鱈目で変幻自在で融通無碍―――。

それでいて僅かな破綻もない、天衣無縫。



正直、意識の高揚とは裏腹に、撮影のためその動きに追従することすらしんどい。

撮影距離[カメラレンジ]だからどうにか可能にしているわけで、交戦距離[コンバットレンジ]だったら、一瞬で振り切られる。

それでも、戦術機甲戦闘電子偵察機SR-71“黒烏[レイヴェン]”が何時もより思い通りに動いてくれる。
帝国の機体だということで、昨夜遅く御子神大佐自らが、XM3正規版の換装と副推進器や電磁伸縮炭素帯の調整を行って呉れた。

今までは間接思考制御でカメラを操作し、手足で機体を制御していた。
だが、白銀少佐の動きは、追いきれない。
代わりに機体そのものを動かしてフレームに捉える。
それが、XM3なら出来た。


まだ、行ける・・・。
まだ、見られる・・・。


ただ只管、その姿だけを追って・・・。



Sideout





Side みちる

横浜基地管制塔 映像調整室 15:10


XM3トライアル初日。
私はライブ画像編集のためにコントロールルームに居た。
その対象である対“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”という模擬戦も、既に終盤にきていた。


同じA-0大隊でもA-00中隊はすでに、模擬戦を継続している演習場とは別のサイトに散り、午前中に模擬戦を終了しXM3LITEを導入し終えた部隊の教導や、単発のデモンストレーションを実施している。
御剣を除きユーコンでも経験した事であり手慣れたものだし、その御剣にしても戦術機動剣術に関しては部隊内でも篁大尉と双璧とも言える腕前であり、何の不安もない。
一方昨夜ナレーターとしてゲストの対応に当たったA-01中隊は、今の時間サポート対象の衛士の大半が戦術機に乗り込み出払っている為、過半数が此処コントロールルームに居る。
今現在XM3換装中の機体の衛士や、整備要員・事務方もサポート[監視]対象である為、宗像など別途哨戒しているメンバーもいるが、それも殆どが公式モニタールームで観戦している対象に付いていた。


ここでは、XM3プロモーション動画のディレクターとして、撮影された動画の編集と確認、そして配信を行う。
今回の模擬戦はユーコン・トライアルにも習いドローンによる近接映像・固定カメラの映像を利用するに加え、戦術機甲戦闘団特殊戦所属の偵察機SR-71“黒烏[レイヴェン]”による撮影が行われている。
要するに、この部屋ではその全ての映像がモニター出来るのである。
それらのソースを編集し、配信用映像にまとめて、10分遅れで専用データリンクに配信する試みだ。出来るだけライブ感を出すのはいいが、編集・確認を10分で行うなどなんて無謀な、と聞いた時は顔が引き攣ったが、実際始めて見ると何とかなっていた。

このデータリンクはV-JIVESのシステムが使える環境であれば、網膜投影で何時でも閲覧できる為、今回参加できなかった殆どの帝国軍や斯衛軍でも主要な基地エリアであれば、全模擬戦が視聴出来、それはまた同じシステムが稼働するユーコン基地でも可能であった。
今でこそV-JIVESが稼働可能な基地及び機体は殆どが国内にしか無いが、既に欧州は設置基地の具体的検討に入り、大東亜圏やオセアニアからは引き合い、当然米国も興味を示している。
共有される機動モデルを囲い込みたい等思惑も有るようで、まだまだ紆余曲折はありそうだが、教導システム、アグレッサーシステム、V-JIVESに続く、動画コンテンツの配信と成る。
受信が戦術機であれば、機動データも追加できる訳で、現在は映像だけだが将来的にはV-JIVESと組み合わせたリプレイモードの実現も視野に入れているらしい。
また映像ソースとしてなら、専用データリンク以外通常のネットワークにも載せられるので、別途視聴権を設定すれば通信に依る配信も可能であると云う。
白銀の機動を公にして良いのか、という疑問が無かったわけではないが、寧ろ横浜へのちょっかいの抑止力にもなると言う事で、公開される事になった。
横浜基地の有するソースは、プラチナ・コードのガンカメラ映像など衛士や戦術機の開発者に取って垂涎の的となるものが多数存在するわけで、その動画が何時でも閲覧可能と成ればその価値は計り知れない。

その初手となるのが、今回の動画配信だ。
たった10分で編集と確認など無理、と思ったが今回は対象が単騎・白銀をメインにすれば良いだけなので、殆どが自動作成で済む。
それもSR-71“黒烏[レイヴェン]”の撮影映像が角度的にも距離的にも一番臨場感がある。
メイン画面は殆どがそれを追えば良く、どうしても死角となる場面だけ、他のソースに差し替えるくらいなので、今回の撮影助手である遠乃だけでも十分に対応できていた。
そして、機密関連のチェック、つまり機密上映って不味い物についても、本来画像を差し替える等の措置が必要となるが、今回はJIVESの仮想映像を被せるとき機密対象物も自動的にカバーしてしまうため、殆ど手をかけることなく違和感ない隠蔽ができている。
隠蔽結果は確認時グレー領域で表示してくれるので、承認するだけであり、拍子抜けするほど手間はなかった。

と、なるとどうしても展開されている模擬戦の内容に引き込まれるわけで・・・。


そう、どことなく、SR-71“黒烏[レイヴェン]”の・・・正樹の映像に午前中よりも明るさを感じるのは私だけだろうか。
部下であり恋敵でもある二人も昨日、正樹の余りの変質に驚いていたが、今の映像には何処か安堵している雰囲気がある。
先刻の昼食で大東亜の衛士が言っていたが、白銀は一つの希望にまでなっている。
この神がかりとも言える機動は、勿論米国には大きな脅威となって映るのは間違いない。
だがその大きな力に、誰もが憧憬を抱かずにもいられないのだ。

私とて今は未だ機密部隊の中隊長という立場、正樹といえど多くを語る事は出来ないが、白銀の機動に何かを感じてくれたならそれでいい・・・そう願うのが精一杯だった。



それにしても―――。


「・・・相変わらず出鱈目な強さだな、白銀は・・・。」


今の相手はF-22A“ラプター”―――。

“ラプターショック”と米国に言わしめたブルーフラッグ戦―――御子神がユーコンでF-22EMDを撃墜したのだって、4vs4の小隊戦だった。
まあ、三味線弾いている御子神もまだまだ底が知れないのだが、少なくとも本人は無理無理と全くやる気がない。

一方で、白銀のユーコン・トライアル模擬戦結果は映像含め知っている。
それを踏まえたとしても、F-22A相手に中隊12騎vs単騎などという図式が成立する事自体が可笑しいし、あまつさえ相手を終始圧倒しているというのは、余りにも常軌を逸している。



XM3搭載の試製XFJ-01が初の第4世代機として認知され、米国軍事ドクトリンの崩壊に依って、確かにF-22Aは評判を落としたが、仮にもそれまで世界最強を標榜した機体なのだ。
旧OSであっても、根本がATSFに基づいたロングレンジファイターであっても、米国が威信をかけて作った機体、決して弱いわけではない。
近接戦闘が劣るのは飽くまで何処に重きを置くのかというバランスの問題であって、F-16の様な小回りこそ効かなくても、現実にF-15以上に機体を振り回せるだけのパワーと、可能な限り硬直を廃した柔軟な操作性に基づく敏捷性は、十分最高水準レベルを有しているのである。
それは、今の戦闘状況を見ても解るし、御子神がシミュレータに入れたF-22Aを実際に操縦しても解っている。
ステルスを抜きにしても機体性能は不知火よりかなり上だ。
近接機動に限定すればXM3搭載の不知火でそこそこ対等と言えるが、旧OS機や近接以外のロングレンジ戦ともなれば、その差を覆すのは相当に困難だろう。
実際ステルスの無効化が出来なければ、試製XFJ-01でも苦戦を強いられるのは間違いない。

今回参加したグアム基地の部隊は、謂わば米国における最前線を張る強面ばかり、米軍最後となるハンター隊も練度・連携ともに高い水準にある。
XM3トライアルということで、通常もっと多い難民系志願兵の比率を下げたらしく、隊が半分に割れている感はあるものの、そこは中隊長が巧く指揮している感じだ。

プレスを掛け、包囲し、逃げ道を塞ぎつつ、圧倒する―――。

警戒すべき単騎に対しての作戦も正しいし、指示も真っ当だ。
少なくとも同じF-22Aで五月雨式に各個撃破を狙ったスパイク中隊よりも戦術としてずっと良い。



それでも尚―――。


今までの部隊よりも明らかに撃墜速度は遅いが、ポツリ、ポツリとF-22Aが墜ちていく。
白銀は包囲されるたびに、穴を見つけ、あるいは強引に穿ち、一騎づつ喰いながら次を狙う。
4騎が堕ちた時点で、フォーメーションが変わった。
相手の指揮官が、白銀の意図に気付いたのだろう。
要はわざと包囲させて数を減らしていたのだ。
常に対角に僚機が居ない様包囲展開する中隊に対し、巧みに位置を変え、誘い込み、対角に味方の存在する状況に追い込む白銀。
包囲戦は自隊の弾幕を薄くしていることに気付いたと言う事。
尤も気付いたところで、打てる手など無いが・・・。




―――というか、そんなに簡単に届いて貰っても困る。

F-22Aよりも確実に近接戦闘に優れる“Evolution4”で我々A-01中隊が未だ届かない高みに居る“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”。
漸く被弾を取れる様になり、30分の中隊損耗が50%を切る様になってきたが、それでも未だ撃墜には至っていない―――。
この前、“レベル5er[ファイヴァー]”に達したというA-00中隊の新任5名を追加し、17対1で漸く堕としたのだ。




メイン画面で、また一騎、墜ちる。


「・・・コイツ―――良いモン持ってるな。」


当然こんな動画編集システムを組んだのは御子神で、システム確認の為一緒に画面を見ていてポツンと呟いた。
御子神は、普段白銀を褒めることなどしないし、堕ちた相手に視るべきところが在ったとは思えない。


「・・・は?、誰が・・・だ?」

「カメラマン―――SR-71[レイヴェン]を駆ってる彼さ。」

「・・・え?」

「戦闘を邪魔しない位置取りも悪くないし、フレーミングも及第・・・。
何よりもいままでのドローンや、カメラに慣れないA-01の誰が撮っても、武の撃墜シーンをこれだけ的確に捉えた奴は居ないだろ?」

「「「「あ―――!」」」」


・・・確かにそうだ。
編集がこれだけ楽なのも、一本幹になる映像があるからで、今まで自分たちやドローンで撮った時にはこんなに楽ではなかった。
午前中からリアルタイム配信用の画像チェックをずっとしてきたが、撃墜シーンを逃したことが無い。
参考としたユーコンの映像は、結構そこが抜けてて面白味・・・コホン、参考に成らなかった事も思い出した。

実際白銀の機動は、記録班泣かせある。
ドローンの追跡もあっさり振り切り、偵察機で出ても切り替えが早すぎて追えない。
大抵がその確認は自機のガンカメラか、固定のカメラ映像を組み合わせることになる。


「・・・カメラマンの嗅覚って言うか、要するに状況の先読みが巧い。
ビデオだから、その先、決定的な一瞬[シャッターチャンス]に対する“勘”を持っているかどうか知らないし、経験量が違うから、まだ武には比べるまでもないが、―――マジで鍛えればそこそこ迫れるかもな。」

「!、正樹が白銀にかッ!?」

「・・・5,6年扱けば・・・或いは。
尤も、その時武はもっと先に行ってるが、な。」

「・・・5,6年―――。」

「ハイハイハイ、ちょーっとまった大佐!
それで言うと私達[●●]はどの位で届くの?
10年?、20年?」


速瀬が慌てたように訊いてくるが、その目は真剣。
大佐が珍しく褒めた他の隊員。
相手が正樹だから私自身嬉しいことは嬉しいが、自分たちの評価ははっきり言って聞いたことがない。
周囲もその質問には興味が有るようだ。

大佐がメンバー全員を見回して小さなため息をついた。


「・・・夕呼センセが態々集めたお前らが、才能で負けてるわけ無いだろ。
“神鎚”を生き延びれば同じとこまでで3,4年だ。
前島も同程度なら、此処[●●]に居るだろうが。」

「あ―――そっか・・・!」


聞いていた全員がほっと息を付くが、私としては、微妙・・・。
正樹の才が僅かに足らなかったことで一緒の隊に成れなかったのを惜しめばいいのか、それともこの獰猛な部下共に喰い荒らされなかったことを喜べばいいのか・・・?


「・・・お前らなんでそんなに自己評価が低いんだ?」

「あ~~、なんて言うかさ、少佐はアレ[●●]じゃん?
完全に突き抜けてるって言うか、私達も未だ中隊じゃ敵わないし・・・。
それはそれで仕方ないんだけどさ、最近新任に先越されたって言うのがちょっとね。
寝る間も惜しんでの実験台って凄いと思うし、自分でも体験していつまで続けられるか自信は無いって頭じゃ判ってるけど―――気持ちが、・・・さ。」

「ああ、あれか・・・。
まーあいつらも流石武の嫁、無茶ばっかりするからなぁ・・・。
実際アレは極めて特殊なケースだから、気にするな・・・と言っても気になるだろうが、例外と思って諦めるしか無いな。
けど、徐々に上がっているお前らが今のままで行けば、“鳴神”或いは“神鎚”後には1つ上がる可能性が高い。
そうなれば“5”に届く奴もいるだろ。」

「!!―――ホントに?」

「ああ。
生産速度の関係で未供与のメンバーもいるが、G-コアを与えられているって時点で理解しろよな。」

「「「「 あ 」」」」


そう言われればそうだ。
A-01は、この後“鳴神”に赴く前には、メンバー全員がG-コア装備の“Evolution4”が与えられる。
今はV-JIVESを使って該当機体による慣熟に入っていた。
当然佐渡ヶ島ハイヴでも、反応炉制圧を目指すことになる。


「そう言えば御子神・・・、“Evolution4”用装備として一緒に支給された試製01式衛士強化装備は、00式とは違うのか?
白銀は大佐に聞くといいって言っていたが・・・?」

「ああ―――、元々武御雷の運動性能を背景に、不足する耐G性能や応答性を改良したのが00式強化装備なんだけどな。
試製XFJ-01そのものなら00式で事足りるが、“Evolution4”のエクステンドモードとなると更に突出した機動が実現できるから、00式でも足りない。
で、作ったのが試製01式衛士強化装備なんだが・・・実は“横浜仕様”のコイツには一つ、とあるBETA由来の素子がつかわれているのさ。」

「―――え?」

「元々強化装備は第1層皮膜で筋電反応を拾う機能を有し、それを間接思考制御で機体の制御に使用しているってことは承知していると思う。
けど脳の指令が神経を伝播して筋電反応を起こすには当然時間が掛かる・・・。
その時間を削れるように、意志そのものを戦術機の制御に伝え、望む動作をそのまま戦術機で実現する直接思考制御[●●●●●●]のシステムが取り入れられている。」

直接思考制御[●●●●●●]ッ!?」

「そう云う類のBETA由来素子が存在するんだ。
勿論重要機密で、採取量もそれほど取れるわけではないから、数作れるものじゃないし、機能的にも誰もが直ぐ使えるようなシロモノじゃないから、飽くまで横浜仕様だけど。
ちょっと前に篁に試してもらったんだが、素のままだと一般には使いにくいんで、制御を間接思考制御とのハイブリッドにした訳だ。」

「「「「・・・・・・。」」」」

「尤も“直接”といっても思うだけで戦術機を動かすには、思考と今までの筋電位モデルそして動作が一致しなければ話にならないから結構難しいんだぜ?」

「・・・なんで? 思うだけなんでしょ?」

「・・・例えば、頭で思い描くだけでバック転が出来るなら、誰でも出来る―――ってことだ。」

「あー、そっか・・・。」

「けれど、普通の人は出来ない。
身体が思い通りに動かない、と云うよりは考えた動作と、現実に実現する動作には結構齟齬があって、その差を詰める練習をしないと実現できない―――ってことだな。
つまり筋肉に経験から来る様々な制御の掛かった厳密な動作モデルがなければ、実際のバック転は出来ない。
それを戦術機のコンボは、コマンド入力と間接思考制御で最適な動作モデルを実行しているわけで、それに依存している限りは“直接思考制御”なんか関係ないのさ。
モデル化もろくに出来ていないレベルじゃ無意味。
レベル4から僅かに混じり始めて、レベル5でも直接率は30%ってとこか。
殆どの機動モデルを構築した武でさえまだまだ発展途上、現状直接率は50%にも達していないはず。
鑑が“森羅”を使えば即100%だが、アイツは逆に実戦経験値が乏しいから動作が十全に機能しない。」

「!、白銀少佐はまだ早くなるって言うのッ!?」

「―――思考から戦術機動作までの“反応[レスポンス]”速度が・・・ってだけだがな。」

「―――ちぇッ!、少しは追いつけるかと思ったのにィ。
まだまだ遠いのか・・・。」

「速瀬は・・・そんなコト言ってると一生掛かっても追いつけなくなるそ。
武が反応速度だけでアレ[●●]を為してると思ってるのか?」

「は―――?」


画面ではまた一騎、F-22Aが墜ちる。


「速瀬このまえ、XM3換装の吹雪に乗った武に墜とされていただろ?」

「ぐ・・・む―――。」

「確かに武はZONEも使えるし、XM3も直接思考制御の領域に入ってる。
伝達経路を短くして、反応時間こそ短縮しているが、思考のサンプリングや、伝達速度そのものを早く出来ているわけじゃない。
それらは状況の変化に対する修正のマージンを広げているだけだぜ。」

「・・・じゃあ、なんであんなに・・・。」

「―――前にも言ったと思うけどな、予測と同調[●●●●●] が重要って・・・。
武はさ、戦術機操作に於けるその“時空間的一致性[Spatiotemporal Coincidence]”能力が超絶的に高いんだ。」

予測と同調[●●●●●] ・・・」

「戦術機の・・・」

「時空間的一致性・・・?」

「―――御子神・・・それは?」

「難しく言っただけで、大したコトじゃない。
お前らも日常的に使っている。
例を言えば、突進してくるBETAに36mm突撃砲弾を当てる能力だ。」

「「「「―――は?」」」」

「止まっている突撃級に36mmを当てるのは、誰でも出来る。
なら、走っている相手には?
それも慣れればそれなりに当てられるだろう?

元々、我々の脳による“認識”と“現実”の間には、0.15から0.2秒ほどのタイムラグが有る。
視覚情報の伝達と、理解にその位の時間がかかるからだ。
その時差は、静止している物なら、問題ない。
しかし相手が動いている場合は、その位置と速度を認識し、時間差のズレを織り込んだ上で未来位置を“予測”し、これも自分の操作遅れと弾の着弾までの時間を考慮して“同調”しないと、当てられない。
謂わばみんな0.2秒の未来予測と動作同調を行っているわけだ。」

「「「「・・・・・・」」」」

「―――では次に、時速140km/hで突進してくる突撃級の、前肢に当てるのは?
更に、自身が噴射跳躍で移動しながらだったら?」

「あ―――。」


御子神が説明した映像・・・。
それは、以前白銀が、CASE-29シミュレーションの中で当然のように実行して魅せた動作であり、新潟の防衛戦では、A-01中隊の幾人かが成功した突撃級無力化の攻撃手法。


「・・・当然、早く動く物、複雑な挙動をする物に対しては、その予測とタイミングの難易度が極端に上がる。
さらに自分も動けば、相手だけではなく自分の空間における位置、運動を把握・認識し、時間的に一致するタイミングで必要な動作をしなければ要求を満たすことが出来ない。
つまり武はその空間的時間的状況認識と、それに対する自分・・・正確には戦術機操作タイミングの取り方が桁違いに精確なんだ。
尚且つ武はそれを、殆ど反射だけで遣っている―――。
才能とか天禀が無いとは言わないが、反射モデルをあそこまで形成するのは、愚直なまでの経験の積み重ねが必要。
―――前話した武が少年時代から遣り込んだゲーム、そしていきなりの戦地任用以降、死地で動かしてきた戦術機・・・、それら全ての経験を訥々と重畳し、只管に累積してきた夥しい動作の記憶・・・、それが昇華したものがアレ[●●]ってコトだ。」

「「「「 ・・・・・・。 」」」」

「・・・例えば[●●●]未来が見える相手が居たとしても、予知事象が起きる時間的精度が低ければ、所詮“同調”することは出来ない。
何処かの誰かの目論見など、武は歯牙にも掛けないのさ―――。」

「「「「 ・・・・・・。 」」」」

「相手の動作を予測し、位置を把握するのは、武術なら“見切り”とか“先読み”って言われる。
当然空間的な位置だけではなく、時間的な概念も含んでいる。
その概念のみを突き詰め、身体による近接格闘術にして極めたのが、植芝翁―――“合気道”とも言えるかな。
相手の力と自分の力を空間的時間的に一致させることで、効果を為し相手を倒す。
勿論武術だから、誘いや受け、躱し、往なし、崩しと様々な技や型は在るだろうが、本来の極意は如何に彼我の動作を見切り、如何様に合わせれば相手を倒せるか、と言う事にあるだろう。
ま、他の格闘技に比べ速度や力を重視しないところが理解し難く不可思議だったのか、あるいは時空間把握は“覚醒”や“悟り”に通じるものがあるのか、妙に宗教っぽくなった節もあるけどな。

どんなに力が強くても、どんなに速度が速くても、有効に作用するような場所・時間に当てなければ、意味が無い。
逆に言えば、必要最低限の速度とパワーがあれば、ある程度の差は覆せる。
武は戦術機に於ける“合気の極意”を自分自身で獲得したようなもんだ。
だから、武は戦術機が非力な吹雪になったって、“武御雷”や“Evolution4”を倒すなんてことを平気でやる。
少なくともXM3なら余計な硬直は無いし、タイミングを取る最低限の反射速度は得られるからな。
―――尤も、ノーマルじゃ武の機動に何処まで機体が耐えられるか、微妙だが・・・な。」

「「「「 ・・・。 」」」」


・・・今もノーマルモードの“Evolution4”で、パワーに勝るF-22Aの中隊を相手にしても圧倒しているのは、そう云うコトか・・・。
見切り、先読み・・・時空間を刹那的に一致させるのは、攻守に渡る“一重の極み”とでも云うのだろうか。
当然自分の攻撃が出来るということは、相手の攻撃も見切っていると云うことで、ギリギリなのに余裕を持って躱している訳だ。
加えてそれを理解している御子神が、白銀の能力を十全に発揮出来るよう開発したのが“Evolution4”―――。
応答性、耐久性、継戦能力―――ノーマルモードではパワーこそ封印されているが態々“Evolution4”を謳っているのだから差別化と云う意味で、応答性の抑制は然程大きくなく、試製XFJ-01よりも少し早い。

F-22Aを苦も無く圧倒する今の状況は、必然でしかない・・・か。


「・・・アイツは、敗けることが在るの・・・?」

「当然、捌ききれない密度の攻撃を受けるか、反射出来ない時間[タイミング]で “先読みの裏”を突かれれば、敗ける。
実際17騎なら、勝てたんだろ?
―――此処横浜に集められた才が、そうそう劣っている筈がない。
アイツは追いつけないほど彼方にいる訳じゃないんだぜ―――?」

「「「「 !!・・・。 」」」」


白銀が自らの才に溺れること無く、連綿と積み重ねたのは死と隣り合わせの膨大な経験―――。
技量を得たその苦行を羨むのは、同時に重ねた悲劇を無視した行為、どう考えてもお門違い・・・。
空間把握、動体把握、時間把握、そして身体把握。
剣術も砲撃も“根底”は同じ、・・・か。
先人の得た極意を“型”に遺す流派に依らず、自らの“経験”でそれを昇華させたその意味では正しく“天禀”。
だが、彼が辿ったその“道”は、我々の前にもだた“在る”。

征くか、停まるかは各人の意志次第、―――と云うことか・・・。



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