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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/10/31 14:40
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Side 霞


「―――社、次の大東亜連合衛士が取り敢えずラスト。」


一旦視線を切ったモニタに映るその最後の衛士を、御子神さんが何故か再度確認したのが見えました。
最後であることをチェックしたのでしょうか?

大東亜と言えば激戦区、その中でも多分ベテランの域に入るでしょう。
けれど歴戦の衛士らしくなく、落ち着いて紳士然とした佇まいの相手は壁の向こう側、意識を集中します。
その思考の色に、瑕疵は感じられません。
食いしん坊なのか、それとも苦戦を強いられているアジア諸国では仕方ないのか、強く感じられるのは食事への期待?
その豪華に見えるメニューへの羨望や妬心は覚えているみたいですが、害意は無いと判断します。


・・・そして、その判別を終えたとき、ずっと張り詰めていた緊張感が一気に解け、そのまま意識が淡く白く崩れていきました。



気がつけば平衡感覚を喪って椅子から倒れた掛けたのでしょう、支えられた腕の中、額と項に添えられた優しい感触から温かいモノが頭に流れこんできます。

それはささくれた精神に染み込み、トンガッていた感覚を宥め、罅割れた意識を癒していくような感触。
貧血で霞んだ意識がすぅーっと明瞭に覚醒するのが解るほど劇的な効果・・・。
“氣功”なのか“心理技法”なのかワタシには判りませんが、御子神さんがサイコダイヴを代表とした、オカルトと表現される領域のスキルに卓越しているのは確実。
ESPなんていう不可思議領域にはみ出しているワタシ達発現者の最大の理解者でもあります。


「・・・有難うございます。」

「・・・こちらこそ少し無理させた、お疲れ様―――。」


意識がはっきりしたことで御子神さんの掌が離れました。
普段御子神さんは、人前であまり、というか殆ど女性に触りません。
親密な関係にある博士や神宮司大尉でも同じ、人前で接触しているのを見ることはかなり稀です。
すぐハグしたり、撫でたりしてくれる武さんと違い、接触することがレア[●●]なのです。

例外が、こうして体調を崩したとき―――。
特にESPを使い過ぎた時など、普通は眠ってゆっくり休まないと戻らないのですが、御子神さんの手当てだと、驚くほど早く回復します。
武さんに触れられるとドキドキしますが、御子神さんのは安心するので嫌いじゃないです。
ワタシにはいませんが―――お兄さんや、お父さんと言う存在は、きっとこんな感じなのでしょうか?
言うと怒られるので言いませんが、香月博士が実質上養母なのですから、その博士と所謂一つの内縁関係にある御子神さんは、やはりお父さんに当たるのではと気付きました―――口にはしませんが・・・。


「―――流石にこの数はキツかったか。」


代わりに比較的甘みの強いドリンクを渡されます。
エネルギー補給の他、ビタミン・ミネラル・必須アミノ酸の補給飲料だそうですが、件のゲロマズドリンクとは大違い、御子神さんのお手製です。


「・・・はい。
独りでは・・・とても無理でした。」


向こうのバンケットでは、簡単なオープニングセレモニーが始まった様子。
基地司令が挨拶している声が聞こえますが、ワタシはパーティそのものには参加しません。
相当奮発したように見える豪華な食事に釣られて、今回参加した衛士・整備兵、事務方含め、別基地や空母待機者を除く全てのゲストが参加しているウェルカム・パーティ。
それを狙ったスクリーニング―――リーディングでその意識を浚ったのです。
正直、かなり疲れる作業です。
例え純夏さんへのサイコ・ダイブや、イーニァさんやクリスカさん、そして真愛[まちか]さんや透未[すいみ]さんとのナストロイカに至る訓練で、私自身の技量やスタミナもそれなりに向上していても、この人数を短時間に全て走査するのは不可能です。


此処はバンケットの入り口袖、クローク裏にあるモニタールーム。
元々リーディングの有効範囲は約10m―――。
それはスパイフィルターとしての防衛上、トップシークレットだったりします。
スパイフィルターが広範囲に及ぶと考えているからこそ、各国の諜報機関は迂闊に手を出して来ませんが、それが狭小範囲だと知られると、この横浜基地の危険度は跳ね上がるでしょう。
かと言ってテロが予測される今、要注意人物を割り出すのは必須―――。
勿論パーティ会場を小さな私が歩きまわるのも悪手―――既にスパイフィルターとして一部に認知されているのだから、その行為は疑っているんですと公言して回るようなものです。
なので、自然こういうやり方・・・入り口での濾過となるのですが、これもまた完璧ではありません。と言うのも同時に大勢の人を“視る”ことはできないのです。

ワタシにとってリーディングは、視覚ではなく人のそばにある霊光[オーラ]の根源を感じる様なモノ。
その色や温度、固さと言った感覚的な情報でその心理や思考がなんとなく解る、といった能力ですが、慣れてきてそれに同調出来ると、直接的な画像や音声の記憶そのものに接触していることもあります。
実際は相性や資質、訓練にも因るので一概には言えませんが、ある程度の集中が必要なのは確か。
入り口で流れる人を視る場合、リーディングが追いつかず、結局4割方をスルーしてしまいました。


2ヶ月前の時は、国連のお偉方とのコトで、随行や護衛を入れても総勢で80人程度でしたから、一人でも何とかなりましたが、今回は戦術機衛士だけで180名、整備その他で1チーム平均10名、合計330名もの“客”であり、前回の約4倍に当たります。

当然今回の任務は、過保護な武さんに反対されました。
ワタシも戦います、と言う強い意思を示し、御子神さんが護衛がてら傍にいて無理をさせない、とフォローして貰えたので武さんも渋々折れてくれました。
ちょっと意識を失いかけましたが、御子神さんにとって即時回復可能な想定範囲内なのでしょう。
もしワタシが大丈夫と思っていても、御子神さんが無理と判断したら、止められていたはずです。


結局4割はスルーさせていますが、大丈夫―――。
今のワタシは、独りではないのです。


会場にはA-01隊のメンバーがナレーターとして、そしてA-00の新任メンバーがホステスとして、配されています。
全員がナレーション用と称したインカム様ヘッドセットを付けており、それが網膜投影を可能とし、専用のデータリンクに繋がっています。
細めのカチューシャ程度に小型軽量ですが、骨伝導による秘匿音声受信まで可能な、御子神さん謹製の装備です。

メンバーの網膜投影には視覚にそのままオーバーレイして会場の3次元情報が表示されます。
その中には各ゲストの判別・・・色分けされたマークが含まれています。
それだけではなく視野内の対象を視線による間接思考制御でピックすれば、所属や名前まで示すポップアップウインドウが開きます。
勿論システム化された横浜基地内限定ですが、必要に応じて音声や視覚情報の記録も可能というスグレモノ、武さんが言うゲーム感覚の情報端末なのです。
当然ワタシも装備、ウサ耳ヘッドギアに後付けして貰いました。

その視覚情報の中で、ワタシが読み逃した未判別対象には、注意[コーション]表示され、目立つようになっています。
会場内にいるナレーター[A-01]ホステス[A-00]涼宮(姉)[CP]さんの指示でさり気無く武さんの周囲に誘導します。
そこには勿論純夏さんが居て、未判別対象をリーディングし、取りこぼしを回収してくれるのです。
走査結果は、即座にオーバーレイに反映され、青緑黄赤のマーカーが表示されます。


そのスクリーニング結果に因って会場を見れば、ゲストの大部分が害意のない非対象[Blue]に示されています。
今はまだ未判別対象も3割ほど残っていますが、開始前から純夏さんが頑張っているので、パーティの終了を待たずに完了するでしょう。
ただ、何らかの理由で純夏さんが判別しない裡に退出する人がいるかも知れないため、未判別者がゼロになるまでは、ワタシも此処で待機です。


既に今の時点で監視対象とされたマークが3種類、存在しています。
感触は敵性ですが明確な破壊工作の意思が見えない不明[Green]が12、明確な害意と行動の意志を示す確定[Red]が2。
加えてリーディングでは分かりませんでしたがオルランディ中尉が判別した停滞工作員陽性[Yellow]が5、存在していました。

マークされた対象は、今後トライアルの3日間その行動がトレースされます。
流石に招待したゲストに関しては、明確な破壊工作に及ばない限り、状況だけで拘束することは出来ません。
その為に基地内の各撮影機材に加え、メンバーの録画機能、更には撮影専門の部隊や、潜入技能を有するオルランディ中尉にマークした対象を追ってもらい、決定的な証拠を握ると言うのが今回の作戦となります。
当然テロ行動迄に至ったときは、機先を制して対処することになるでしょう。


これら基地各所に存在するセキュリティのための監視装置やセンサー類を全て統合し、更に追加された3D振動センサアレイや3Dミリ波レーダーアレイによるメガデータを背景に、ゲストに対する横浜基地内の行動監視が行われます。
つまりは、純夏さんが“森羅”を使って新潟でBETA相手に実践したシステムを、今回はゲストを対象にこの巨大基地で展開し、基地内での動きを24時間態勢でトレースしている訳で、今回はその中核存在がアナスタシアさんでした。

・・・恐らくですが用心深い博士のコト、コレが実現出来るからリスクの高い米軍を基地内に誘いこむ決断したのだとも言えるのでしょう。

膨大なリアルタイムデータを瞬時に演算し域内を把握する運用は、実績ある純夏さんはもちろん、“天地”を装備したワタシでも可能です。
でも、今回のようにリーディングをしながら、流れてくる膨大なデータを背景に多層重積デジタルホーミングを行い、尚且つそれを24時間継続するのは絶対無理。
そこは眠らなくても良い量子電導脳とサイブリッド体で在るガイノイドのアナスタシアさんの独壇場なのです。
けれど・・・彼女は謎の存在です。
事実上の“00ユニット”・・・博士の最終目標であることは理解しています。
でも当初予定されていた人格の移植は行っていません。
リーディングは効きませんが明確な人格を匂わせ、機械やBETAに対しても一切感じたことのない霊光[オーラ]を微かに感じる様に思うのは、ワタシの思い過ごしなのでしょうか?




ふと思い出してモニターを切り替え、会場内のABSキャリア[Yellow]の対象を確認します。
―――私的な懸案事項です。


「・・・・・・“イルマ”さんが居ません・・・。」

「ん?、イルマ・テスレフのコトか?」

「―――はい。」


ホンの微か、つい、漏れた小さな声に御子神さんが反応しました。
うぅ・・・ミスです、と心の中で反省し舌を出しつつ、認めるしか有りません。


「―――彼女なら、武に前ループでのクーデター経緯を聞いてたから、武と相談して先んじて手を打った。」

「・・・え?」

「―――具体的には高天原に受け入れる外国人枠に、米国の難民キャンプ収容者も対象にして、彼女の家族を引き抜いた。
一応抽選ってことにはなっているが、周りに知られるとヤッカミもあるし、米国軍部の邪魔が入る前に鎧衣課長の部下が連れ出して、もう日本に向かっている。
正式な書類は出国後に米移民局に受理されたらしいが、米移民局も元々なるべく国内に受け入れたくない立場だから流入には極めて厳しいが、流出はあり得ないほどヌルいんだと。
状況的に米軍の一部派閥が、特に戦術機適性の高い難民に対し、グリーンカード取得を餌に過酷な部隊への派遣をしてるみたいだが、逆に地元の移民局はそんなこと知ったこっちゃないんだとさ。」

「・・・・・・。」


・・・遣ることが早すぎます。
高天原が公表されて、まだ2週間も経っていません。
国内からの移住でさえ先週始まったばかりです。
恐らく公開と同時に現地で手続きが進むよう、周到に手配していたのでしょう。


「・・・本人には先週グアムで家族の状況を説明、除隊を推奨したらしいから、既にその意志を上申したんだろうな。
流石に米国だって重要と見なしているこのトライアルに、除隊予定となった難民志願兵を連れてはこないだろ。」

「―――それはイルマさんが気に掛けていた家族が高天原に住む・・・と言うことですか?」

「ああ・・・。他にも何組か作為的に操作した相手が居るけどな。
今の高天原は圧倒的に人手不足だから、本人も除隊したら家族と一緒に普通の仕事を探してもいいし、逆に彼女にまだ戦う意志が在るなら、そのうち国連軍にでも志願してくるだろう。
もしまだ暗示が残っていればその時に対処すればいい。
・・・今のCIAに末端の停滞工作員に一々斟酌している余裕は無い。」

「・・・。」


ワタシは小さく拳を握ります。
武さんと珠瀬さんの杞憂がこれで解消です。
ハンター大隊で後催眠暗示を受けているとおぼしきイルマさんには、恐らくABSが使われているはず、此処に来れば確実に停滞工作員とみなされてしまいます。
ハンター大隊の隊長さんは寧ろ厳格でも清廉な感じだったというのがA-00隊皆さんの印象なので、コトの経緯に関わりなく、暗示を受けている難民志願兵の立場は相当に悪いものになるでしょう。
そうなる前に手を打ってくれた御子神さんと武さんに感謝です。


「・・・所で、彼女が家族を気にしていた、って誰に聞いた?」

「え・・・?」

「武からは、彼女が操られていたらしいコトや、珠瀬との会話を立ち聞きしたって聞いたけど、他の誰にも話していないって言ってたんだけど・・・?」

「―――。」


アガ~~~~~。
相変わらず、御子神さんは鋭すぎます。
勿論、この話は珠瀬さんの、前ループの記憶から出てきた話です。
でも全嫁[ ABOT]の皆さんがループ記憶を有している、と言うのはナイショなんです。


「・・・ま、いい―――社は結構、武の記憶も読めるんだったな。
今言ったコトは伝えても良いが、―――他の人には気取られるなよ。」


あ・・・。
―――ズルイです。
それなりに妥当な説明を、先に言われてしまいました!
これは・・・咄嗟に言い訳できるか、カマを掛けられたみたいです。
無意識のうちにアワアワしていたウサギ耳に軽い調子で笑って呉れますが、そもそも迂闊な一言は深く反省―――。
細かく説明してくれたのは、きっと伝えていい内容だからなのでしょう。

・・・お父さんは、相変わらず優しくて怖い人でした。


Sideout




Side 唯依

横浜基地 本館地上層 PX 22:00


宗像中尉からの連絡で、指定場所に向かう。
本館グランドフロアは既に何時もの静けさを取り戻していた。
ウェルカムパーティも恙無く終わり、一部の上級将校を除き他は皆、それぞれの宿舎に戻った。

ちなみに上級将校は、専用のバーラウンジにでもいるのだろう。
今回のトライアルは、表向きはどうあれ、米国穏健派の要請に第4計画が応えたから実現した。
末端や裏側の意図は知る由もないが、米国第7艦隊の総司令官も表敬訪問して来ている。
ウェルカムパーティは寧ろ一般衛士向けのレセプションであり、香月副司令は顔も見せなかったが、大佐によれば夜の部こそが狐狸闘争の場らしく、そこには出席するとか。
当然御子神大佐が副司令のエスコート及び護衛につく。


既に、窓越しの前庭にも観閲式の如き壮観な隊列など無く、漆黒の帳に沈む。

明確な消灯時間は無いがエネルギー節約のため、一般施設は22:00に減灯される。
PXも自販機が並ぶカフェエリア一角を除き、照明は落ちている筈。
網膜投影に示されるトレーサーマップには、カフェエリアにブルーの輝点がポツンとひとつだけ。
他に人気は無く、陰に潜むような存在もいない。
が、待ち合わせ相手を待たせるには、少々寂しすぎる。
私は足を早めた。


・・・それにしてもこのシステムはやはり反則だな、と思う。
新潟では“森羅”が齎したBETA位置情報に舌を巻いたが、コレも半端ない。
ミリ波電波の通らないB-6以下の大深度地下区画を除けば、建物もほぼ透過しているのだ。
このシステムがあれば、少なくとも横浜基地に居る限り、不意を突かれることがないだろう。
無論現状はゲストに限定してトレースしており、他には一切触れていないが、基地要員にも同じことが出来ない理屈は無い。
全ての要員のリアルタイム位置把握・・・それだけでも様々な状況を想定した有効な使い方は幾つでも思いつくが、逆に邪な使い方も同じくらい浮かぶのが悩みどころ。
セキュリティとプライバシーは常に相反する。
基地内での軍人にプライバシーなど無い、と言ってしまえばそれまでだが、居住空間も基地内に在る以上人権擁護も標榜する国連の基地としては微妙なところだろう。
もしすべての行動がモニタリング出来ると聞けば、むしろ上位者のほうが嫌がるかもしれない。
軍とて清濁合わせ持つ存在、すべてが清廉潔白であることなどあり得ないのだから。

なればこそ御子神大佐は、このシステムの存在自体を重要機密とし、更にその管理を鑑少尉や社少尉ではなく、人ならぬ人工知能であるアナスタシアに限定しているのだろう。
このヘッドセットも個人認識し、登録した者しか使えない様になっている。



今回のトライアルに於けるA-0大隊の任務は、A-01はナレーター、A-00の隊長と新任組がデモンストレーター、そしてA-00古参組の任務は重要人物の護衛である。
勿論テロの未然防止、そして可能な限りその背景を詳らかにする、との裏の目的もある。
護衛に関しては、フレイヤ隊の警護対象は常に決まっているので、あとは副司令、社少尉、鑑少尉、そしてアナスタシア・・・“00ユニット”がその対象だった。
実際には、Amazing5―――事実上ユーコンでMIA扱いである“紅の姉妹”と帝都城の殿下を除いた3名、白銀少佐、神宮司大尉、そして自分もテロの攻撃対象と成り得ると言われたが、気にも留めなかった。
狙撃まで経験した身、今更である。

と言ってもその護衛対象だって一癖も二癖も在る面々。
鑑少尉は白銀少佐のナヴィゲータにして、“森羅”を装備していれば感知能力は破格、近接格闘能力も相当にあり、白銀少佐の傍に居る限り対象から外れる。
同じく副司令とアナスタシアは、G弾をも耐えた横浜ハイヴ深部に作られ、核が落ちても揺るぎないと言われる要塞のB-19に引き篭る。
副司令は今の時間だけ、バーラウンジで嬉々として騙し合いをしているだろう。
完成した“00ユニット”アナスタシア・マクダネル大尉も同じ、ゲスト全員のリアルタイム・トレースなんていう芸当を今もサラリとこなしているが、B-19で情報ターミナルと化していた。

結局、護衛対象らしい護衛対象は、スパイフィルターとして頑張っていた社少尉位だったが、それも御子神大佐が走査のサポートに付いたことで、その間の護衛は不要になったし、以降はずっとB-19に居る。
要するに明日からは、実質警護対象が居ない。
神宮司大尉はXM3教導の祖とも言える立場であり、トライアルが始まれば演習にも参加するが、私にはそれもない。
先刻のレセプションでは神宮司大尉と苦笑しあって、新しい合成食材を使い師匠の仕上げた珠玉のパーティメニューを久々に心ゆくまで堪能した次第である。

と言うのも新潟迎撃戦以来、ユーコンに決着をつけに行ったことを除けば、横浜基地ではなく、ずっと帝国技術廠の最高機密エリアに篭っていた。
当然、対BETA戦略の切り札、Res-G弾を完成せしめるためである。
実際、G弾は以前第5計画から譲渡された内、 G-11[グレイ・イレブン]未摘出の弾頭が半分残っていたので、それを改修し、G-6[グレイ・シックス]を配置する作業である。
勿論燃料用に使うと言う事で、譲渡される際、起爆できないよう重要な部品は全て抜かれていたが、そこは御子神大佐が起爆できるレベルまで修復してあった。
その起爆に対し、最大効率で崩壊重力波Gravitic Disintegration Waveを発生する配置も計算してある。
しかし、通常弾頭を共鳴弾頭に変更する現実の作業手順実現までは至って無かったのだ。
そして今回、限られた手数で御子神大佐抜きでも製造が可能なレベルにまで作業工程を普遍化し、現在保有するG-6[グレイ・シックス]の量からたった1発ではあるが、Res-G弾の完成を見た。
この後の作戦で、その威力が実証され、結果佐渡島ハイヴ制圧が成り、G-6[グレイ・シックス]を確保出来れば、量産もできる―――。

―――トライアルの期間、私に実質何の任務も無いのは、休みない2週間の振り替え休日代わりらしい。
正直、無用の心遣いである。



Res-G弾―――それはBETA大戦に革命を齎す一弾。
人類の希望、世界の曙光そのもの。

その存在を知る者はまだ極めて僅かだが、その誰もがG弾と聞いてあからさまに嫌悪し、運用方法を聞いて怪訝な表情に変わり、効果とその理屈を聞いて愕然とした。
―――そして最後には、その齎す未来を思い描き、涙する。

出来ることなら、一刻も早くその効果を確かめたかった。

あれから、更に3度の確認実験も行った。
BETAに効果が在ることは検証できたし、大気や地殻に対する崩壊重力波Gravitic Disintegration Waveの透過性も、貴重なG-6[グレイ・シックス]を消費することで検証された。
効果は99%まで保証されたが、実際の大規模爆発による高高度試験だけはぶっつけ本番となる。
最悪の1%は、計算通りの効果が出ないことも考えられるから、佐渡ではそれを考慮した作戦を展開する必要もある。

だが、期待する計算値通りに威力を発揮すれば・・・。
G-6[グレイ・シックス]の確保にもハイヴ潜行という難関が消えたわけではないが、今までは為す術も無く蹂躙された数十万クラスの大侵攻にも対処が可能となる。
西日本を喪失したあの悲劇を繰り返すことは、もう無くなる。
佐渡という喉元に突き付けられた刃を外すだけではなく、大陸のBETAも押し返せる未来が来る。


その実戦検証の場でもある“鳴神”作戦―――甲21号作戦の隠語として使い始めた名称―――が、静かに浮上しつつ在る。
来る29日―――国連の緊急安保理事会で、第4計画から緊急動議として喀什に繋がる一連の侵攻作戦が上申される。
その初端である“鳴神”作戦に関しては、安保理の動議可否に関わらず、国連太平洋方面第11軍と帝国主導の局地的BETA反攻作戦として来月16日に決行される。

―――今はその日が、待ち遠しくさえあるのだ。
BETAと相対する作戦決行を心待ちにするなど考えたこともなかったが、人類反抗の狼煙を上げるのである。
休暇などどうでもいいくらいに、期すものがあるのは仕方のないコトだろう?





「ごめんなさい、待たせた―――、上総、久しぶり!」

「大丈夫ですわ、唯依・・・、久しぶりね。
―――そして最年少での大尉昇進、おめでとう!」

「あ―――、ありがとう。」


人気無いカフェスペースの椅子に座っていた相手は、私の接近を察して立ち上がっていた。
キリっとしたキツそうな目尻が綺麗な三日月型に下がる、滅多に見ない満面の笑み、そのままハグしあう。
ユーコンで徐々に慣れ、親しい者にはしていた所為かつい出てしまったが、一方の上総もシャノアで世界をまたにかけている身、慣れているのか極自然な対応だ。


「―――唯依の活躍は海外まで聞こえてきましてよ。
同期が頑張って居るのは、とても誇らしいですわ!」

「―――ありがとう、上総。
けど―――、まだまだ、これからが正念場・・・。」


慢心など、無い―――。
喪ってきた人を想う。
父様を・・・、恭子様を想う。
志摩子や安芸、和泉を想う。
私達の間で、同期といえばどうしても偲ばずには居られない。
勿論それを解っている上総はしっかり頷いてくれた。


「・・・そう云う上総の活躍も、大佐から聞いている。
クアラルンプールでは、不義理をした中華連合の将校を一喝したんだって?」

「―――え?、あ、アレが御子神様・・・“統括”とお呼びしましょうか・・・にまで知られているんですのッ!?」


前回、帝都城で逢ったときのシャノア制服とは違う。
抜群のプロポーションを際立たせる細身のスタイリッシュなパンツスーツに、敢えてラフなゴアテックス・ジャケットを羽織る。
それがデキル女で在りながら、状況を厭わない行動力も感じさせる。
スーツの襟章と、ジャケットにある控えめな肩章だけが、シャノア関係者であることを示していた。

搬送のためのヘリや航空機、護衛や救助のための戦術機すら有し、排水量で原子力空母にも匹敵する巨大なシャノアの病院船“ミーミル”。
世界の最前線各地を転戦し医療支援中枢として機能する、機動医療基地。
ミーミルに在って、現地政府や軍、そして国連との連携に於ける補給や要加療者の受け入れ等を行う渉外チーム、上総は今、そのマネージャーとして世界を相手にしている、とあの後シャノアの統括でもある御子神大佐に聞いた。
シャノアに関して実質的な総指揮を摂っているのはハワイ本部の副統括だが、大佐も情報は随時確認しているらしく、しっかり把握していたりする。
前述のように、上総が既にかなりの辣腕で知られているとも伝えてくれた。
お互いあれから3年の時を経たが、それでも武勇伝に誇るでもなく受け流す姿もあの頃のまま。


「もう、仕方有りませんわね・・・。」

「ふふ、―――でも今回こんな時間てコトは、横浜基地[ココ]滞在[とまり]?」

「ええ―――。
9月からミーミルに戻ってきた、と言うか新規採用になった医師が居るのですわ。
今回は彼がHMS在学中に開発したワクチンの件で2,3日・・・。」

「―――だったら、私の部屋に来ない?
私室の方なら入室許可出せるし、セキュリティも一つ上。
この前は立ち話の時間しか取れなかったから・・・。
それにPXは営業終えたけど、部屋ならお茶も・・・、あ、今なら試作したスイーツとかも在るけど?」

「勿論!、お邪魔いたしますわ!」


即答だった。










「βブリッド・・・人工生化学物質[Airtificial Biochemical Substans]関連か・・・。」

「―――ええ。
彼が開発したワクチンは、何でもレトロウイルスであるHIVウイルスが、核の中でDNAに結合するのを阻害する酵素を生成する効果があるのだそうです。
その酵素を作るのに、僅かにβブリッドの転写を利用したとか・・・。
これ以上詳しいことは専門でなければ判りませんが、その技術がABSの機能阻害にも使える可能性が在ると、声が掛かったそうです。」

「成程―――、私にはさっぱり解らないことが判った。
けど、現実にABSが悪用されているのは確かで、今回もABS使用によるテロも警戒しているわ。」


大尉になって与えられた私室は、半分が執務室として使えるよう、ちょっと広い。
だが、部隊執務室隣にも個別に執務室があるから、機密の関わる書類仕事はそちらで行うので問題はない。
上総が既にABSの検査と社少尉のスクリーニングは受けていたため、申請は私の権限だけで通せた。

今はそこにサブベッドを持ち込んでいる。
既にお互いの近況は伝え合い、今回の横浜訪問を聞いていた。
京都駅で上総を喪ったと思っていた時から既に3年が過ぎている。
聞きたいこと、語りたいことはいくらでもあった。

既に上総はスーツを脱ぎ、私の貸したスエット姿で焙じ茶を啜り、わらび餅をつついている。
その姿さえどこか凛としているのは、やっぱり上総ならでは。
実はジャリジャリ君ラ・フランス味も上総の好みだったらしいが、甘味も大好きらしい。
私もあの夏以降は口にしたことは無かった。
大佐の試作した疑似合成食料のサンプルが、何故わらび粉などというコアな食材なのか微妙だが、粉物の分化を試す関係で、一般的な小麦粉の他、片栗粉、葛粉、わらび粉と色々試した結果らしい。
何れにしろ、ありがたく頂戴した次第だ。


「・・・防諜上重要なのは理解しますが、本来病院船には無縁の存在ですわ。
ワクチンや薬剤も広義の意味ではABSでしょうが、今のABSとは“特定機能性蛋白”のみを指しているのですから。」

「・・・となると本当に2,3日なんだ。」

「ええ。
“ミーミル”だって、今も一人でも即戦力が欲しい状況なのですわ。
此処に“統括”が居らっしゃたって、引き抜かれたら現場が困るし、権利に関しても可能な限り有利な条件を付けて貰います。
―――なんて、実際は彼の“疑似生体”調整、正確には“再分化”もして戴いた後なので、“統括”の意向次第、なのですけど。」

「・・・大丈夫、大佐なら悪いようにはしないわ。」

「・・・随分理解しているのね。」

「―――そうか、な?
まあ、・・・かなりお世話に成っているのは確かだが・・・。」


自分で言いながら、苦笑いする。
と言うか、ここ横浜に出向以来お世話になりっぱなしだ。
抑々命の恩人だというのに・・・。
それに対し、果たして私はどれだけを返せているのだろうか。
・・・恥ずかしながら、今はまだ、何も返したという実感がない。
恭子様は、受けた恩は全て返せない分、他の人に分け与えれば良いと仰っていらしたが・・・。


「・・・ところで、その“新人医師”と言うのは、上総の、あの・・・コレ[●●]?」

「・・・下品ですわよ、唯依。」


少しニヤついた私に、上総がツンと返してきた。
心苦しくて強引に話題を変えたが、“当たり”みたいだ。


「・・・上総が否定しない―――ってことは、満更でもないわけか―――。」

「ぐ―――、そう・・・ですわね、尊敬できる方ですわ。
一見してチャランポランに見える怪しい京都弁野郎―――ですけど。
・・・彼は、私と同じ・・・京都防衛戦でBETAに貪り食われて、ミーミルに収容された斯衛軍の新人衛士でしたわ。」

「え・・・?
新人医師って言わなかった?」

「ええ、私と同じく当時BETAに喰われ、衛士の道を断たれて・・・。
それから3年で米国の医師になって戻ってきたのですわ。」

「3年!?・・・・・・それって、物理的に可能なのか?」

「大学統合された日本では無理ですわ。
けど米国の場合、必要単位さえ揃えれば、学歴に関係なく医科学校入学資格であるMCATの受験資格を得られるのです。
無論これも、通常は語学習得を含めて資格取得まで3年程掛かるらしいですが、彼の場合、半年はリハビリしながら病院船で履修して、次の半年はハワイのシャノア本部に奨学生として滞在し、結局1年で資格を取得してしまいましたわ。」

「・・・超優秀なんだ・・・・・・。」

「勿論シャノアの医療部門には、救難した負傷者の社会復帰を促すプログラムが多数存在しています。
それは肉体的な機能回復だけではなく、子供や若者に対する様々な奨学支援プログラムもその内の一つで、通信講座に依る学習や単位習得も可能ですし、更には各国の大学・・・今となっては殆どが米国ですが・・・への奨学制度も存在します。
・・・とは言え、現状希望する母数が多すぎるから、国内の進学許可が聞いて呆れるくらいの極めて狭き門ですが―――。」

「・・・つまり・・・それを通過した?」

「―――ええ。
元々男子16歳の徴兵を控えた中学卒業時にも、兵役免除を受けて大学進学できるくらい成績は良かったみたいですわね。
お能が趣味で、勉強は嫌いやから平和なら能舞っとたで、って今でも言ってますけど。
当然の如くその年のMCATに合格、HMS[ハーバード・メディカル・スクール]に留学しましたわ。」

「・・・HMS・・・今度はそこを2年で・・・?」

「正直、私も聞いて呆れましたわ。
米国の教育形態が帝国とは違うので一概には言えませんが、それでも2年というのは破格だそうです。
普通は5年、スキップがあるから優秀なら4年、超優秀でも3年だそうですわ。」

「・・・・・・。」

「先刻話したHIVワクチンの功績が単位に上乗せされたとのコト。
宝くじブチ当てたようなもんや!、とういうのが本人の弁ですが、履修で取った生化学演習のエクステンドコースで、適々研究室にサンプルとして在ったβブリッドの転写を応用したらしく、ミーミルの医局員に言わせると、欧州が無事な世ならノーベル賞ものだそうですわ。
平和な世ならβブリッドがないから無理やな―――、と笑ってましたけど。」


・・・何処かで同じような科白を聞いたことがある。
やはりBETAの有する科学技術が人類のそれを遥かに上回って居ることは、紛れもない事実。
βブリッドの平和利用、ということか。


「・・・少し妬ける―――随分と愛おしそうに話すんだ・・・。
上総のそんな表情は初めて見た。
私には男なんか必要ありません!って表向きツンとしてた昔からは、想像もできない。」

「―――あら、その言葉、そのまま唯依に返しましてよ?
お互い様ですわ。
・・・私も同じですが、当時は何もかもがギリギリで、余裕なんか少しも無かった・・・。
唯依も随分と物憂げな顔をするようになりましたわね。」

「・・・違いない。」


帝都陥落以降の日々。
幾多の人に守られ、支えられ、今日まで生き延びてきた。
迷い、行き摺り、すれ違い、喪った。
求め、抗い、ぶつかり、拘りもした。
そして・・・幻だった恋も、・・・今は思い出・・・。


「そうですわね・・・。
私が辛うじて生きながらえたのは、ミーミルに搬送してくれた“統括”のお蔭ですが、―――本当の意味で“生還”することが出来たのは、“彼”のお蔭かもしれません―――。」

「・・・・・・。」

「・・・正直に言えば、前回唯依には結構偉そうなこと言いましたけど・・・あの当時、私は完全に心折れて、壮絶に腐っていたのですわ。
何故殺してくれなかったのかと唯依を恨んでたは、かなり本気でしたのよ。」

「・・・・・・。」


四肢欠損・・・特に左下肢は骨盤まで喰いちぎられて、疑似生体による再生後も正常な歩行は出来なかったと大佐に聞いた。
今でこそ再分化により完全再生を果たし、通常の運動は勿論、諦めろと言われていた妊娠や出産も可能になったらしいが、当時の疑似生体ではそれも望めなかった。
加えて当時実験的に使われていた向精神薬や後催眠暗示は相当強いものだったらしい。


「・・・衛士復帰は絶望的、女性として子供も産めないポンコツで、普段の生活さえ支障が残る・・・外様とは言え武家に生まれながらお国の周囲の足手まといにしか成らない―――。
本気で自害も考えましたわ。」


気位と言うより気概に溢れていた上総にとって、その状況が生き地獄だったのは想像に難くない。
私が同じ立場だったら・・・上総の様に笑って話せるだろうか・・・。


「・・・・・・けれど、同じ境遇に在るはずの彼は違いましたわ―――。」


自分は衛士の道が絶たれたけど、幸運にも生きながらえた。
ならば、散って行った多くの同胞の為にも、約束を守れなかった自らの償いとしても、今、出来るコトをする―――そう言っては腐る上総を連れてリハビリに行っていたという彼。
彼も、欠損した四肢を再生した体であり、リハビリの負荷は耐えられるギリギリまで掛けられるため、その辛さは同じ。
彼も当時の技術では歩行は出来ても走ることは出来ないと言われ、衛士の道が断たれた状況は上総と変わらなかったと言う。


「・・・彼も私と同じ、外様とはいえ武門の家柄、故郷である京都を護りたいと京都にある斯衛の衛士訓練校を修了し、3年前のあの年の春に斯衛に任官していたそうですわ。
その初戦が帝都防衛・・・。
ヘラヘラ笑いながらリハビリを続ける彼に一度聞いたことが在りますの、・・・なぜ夢破れても頑張れるのか、と―――。
・・・力足らず、願い届かず、京都は奪われた・・・なら、その奪還を目指すだけ・・・。
衛士という直接的な手段が閉ざされたなら、その衛士を支援するだけのこと―――そう言って彼が次に目標としたのは、その私達を救ってくれた医師の道でした。」

「・・・・・・。」

「諦めたら終いや、諦めん限り道はあるんや・・・だ、そうですわ。」

「・・・。」

「しかも時間が無いと言って、安易に国内の大学に編入するのではなく、最短で帰ってくると笑って、過酷な米国留学に征きました。
最短という言葉通り、通常6,7年掛かる米国の医師資格を3年で取得したのです・・・。
そこでは私など想像もできないくらいの・・・無謀とも言える頑張りがあった筈・・・。
けれど彼に取って、HMS[そこ]もBETAと戦うための戦場としていたみたいですわ。
衛士としてダメなら、一人でも負傷者を救い、完璧に癒し、再起させ、何れは故郷である京都を奪還する為の力となる・・・それだけを胸に、前進することを諦めませんでした。」

「・・・・・・。」


そして約束通り最短時間で医師として最前線に還って来た訳か・・・。
確か米国の医師資格では帝国国内の医療機関で医療行為をするわけには行かない。
別途帝国の医師免許を取得する必要がある筈で、それなりに時間も掛かる。
しかしミーミルなら国境なき医師団と同じ、国際的に認められた国の医師免許さえあれば、従事できる。
ミーミルに勤務する理由もシャノア奨学金返還免除が適用されるからと言うが、最短時間で医師資格を取り、ノーベル賞級の新薬開発を為した彼には、幾つもの研究所からオファーが在ったらしい。
と言うか、今でもミーミル渉外の上総の下にも様々なオファーが舞い込むという。
相当に優遇された条件も多いため、奨学金の即時返還など条件としてはざらに存在するだろう。
それでもミーミルに固執するのは、そこがBETA最前線に最も近い医療施設であり、BETAの前線を維持、反抗することでしか最終的に帝都奪還に至れない、と考えているからに違いはない。
国内に従事することも考えたらしいが、硬直化している組織に下っ端として属するよりも自由度の高いミーミルに残る方が最終的に多くの人を救える、というのが二人の結論だった。


「結局私も・・・気がついたら、リハビリを乗り越えて、BETAから地球を、京都を取り戻す為、ついでに何れ還って来るだろう“彼”の為に、ミーミルのスタッフとして従事させてもらいましたわ―――。」


一足先にリハビリを終えた彼は、単位履修のため半年後にハワイに移ったし、その後はそのままHMSの在るボストンに留学となった。
諦めたら終わり―――逆に言えば、諦めない限り道は在る。
例えそれがどんなに細く険しい道でも―――。
その時点では、何年掛かるか判らないわけだが、その忙しい合間にも手紙のやりとりは途絶えなかったという。


「・・・元々は、βブリッド・ワクチンも、再分化による生体の完全再生を狙った技術だったらしいですわ。
その分野を、“統括”が先に実現してしまったのですけど、今回の滞在ではその技術をミーミルに移植する事も含まれていますの・・・。
彼自身の再分化を行うことと・・・更に言えば、彼がずっと探していた“約束”の相手[●●]に会うことも、今回の滞在目的の一つです。」

「―――え? “約束”の相手[●●]?」

「・・・彼の従妹・・・故郷であった嵐山の風景を護ると約束したのは、宗像さん、とおっしゃる方ですわ・・・。」

「!―――宗像美冴中尉か!」


そういえば、先刻私に連絡を呉れたのも彼女だった。
クスンと上総が笑う。
同じ境遇で共に頑張り、遠く離れても手紙で繋がっていた相手。
けれど彼の“約束”の相手[●●]は、別の女性・・・。
宗像中尉の飄々とした風情が浮かぶ。
流石に私は直接からかわれたことは無いが、上位である白銀少佐を弄っている様子は時折目にしていた。
階級こそ上に成ったが、年齢では上であり、その視野の広さは見習うべきものが在った。


「・・・鷹徳が不義理をした後、彼女は仙台の衛士訓練校に行ってしまったらしく、関係を修復できないまま約束していた嵐山も護れず、帝都戦後探せるようになった時には彼女も行方不明だったのです。
彼が頑なに京都奪還を目指していたのも、それが一因でしょう。
ボストンに行った彼の代わりに、日本に来た折には私が探していましたわ。
まさか、国連軍の機密部隊に任官して所属も明らかにしていなかったとは、考えませんでした。
今回、たまたま“統括”の方から連絡を頂いて、来る直前に初めて解ったのです。」

「・・・それは、その・・・特別な関係だったのか?」

「ええ・・・。
明確な言葉はないものの、本人同士の意識では結婚も視野に入れていたみたいですわ。
・・・ただ当時、従兄妹と言う事で彼女の母が猛反対、鷹徳の方が躊躇して彼女の願いを無下にしてしまったらしく・・・。
―――今、その辺を話しているはずですわ。」

「・・・あ、え、・・・と、その・・・。」


なんと声を掛けていいか判らない私に、上総は嫣然と微笑んだ。


「大丈夫ですわ。
幸い年明け早々拡大婚姻法も施行されます。
私は他に女性が居ても気にしませんわ。
それでももし宗像中尉が重婚を拒まれるのでしたら、その時は子種だけ戴いて人工授精で子供を産みたいと思っていますから・・・。」

「・・・は?」

「―――私も兄二人を大陸で喪いました。
山城の家を存続させなければ成らない身、とはいえ殿方の少ない今の時勢ではそうそう結婚の縁もままならないでしょう。
婿養子となればなおの事。
無論ミーミルにも殿方は居りますが、出来れば日本の方、それも仕来りに理解ある武家の方が望ましいのですわ。
・・・私が尊敬できる、優秀な遺伝子の持ち主なら、その子を授かることが出来るだけでも言う事は有りません。」

「な・・・・・・。」

「・・・可笑しいですか?」


呆気にとられた私に、悪戯っぽい笑み。
何というか、腹を据えた女の貫禄・・・母様に似たものすら感じさせる。


「・・・あ、いや・・・それは・・・うん、必要なコトだと思う。
けれど、それなら折角だからちゃんと妻の座を目指すべきだと・・・。
―――えっと、知ってる?、白銀少佐―――、既に今、嫁が7人は居る。」

「ええ、存じてますわ。
主に情報元は、時折シャノアに来る帝都の怪しい人ですけど。」

「・・・滅亡の危機にあるからこそ、次代を望むのは生物としての自然な摂理らしい。
その中でも、優秀な遺伝子はできるだけ多く残せというのが、殿下を唆した此処の香月副司令の意向って聞いた。
個人的には、倫理的にどうなのかとも思うけど・・・、当人たちが納得し、法が必要性を認めた以上、口出しするべきじゃない。
確かに私生児が増えて責任の所在が曖昧になるよりは、女性とっても歓迎すべき法なんでしょう?
・・・白銀少佐に関しては、一種プロバガンダ扱いよね。
優秀な遺伝子なのも、当人たちの仲が良いことも知っているから、是非もないけど・・・。」

「理解が在るようで嬉しいですわ。
―――でも、評論家[ひとごと]の様なコメントでしてよ?
・・・唯依―――唯依も私と同じ立場であること、―――解っています?
譜代篁家の一粒種でしょう?」

「――――――え・・・?」


あ―――。


家の存続・・・。
それは・・・決して、失念していたわけではない。
実際ユーコンで崔中尉に言われたとき、初めてだが強く意識した。
だがその後ユウヤとの血縁を知って諦めたことで、家の事も意識から外れていたのは否めない。
文字通り命懸けだったXFJ開発、そしてその後のここ横浜での怒涛の展開、新潟を乗り越え新たなBETA戦略にずっと没頭していたが、逆に言えばそれらに逃避していたとも言える。

今、この地で秘密裏に進められる計画―――その計画が荒唐無稽な夢想などではなく、現実味を帯びれば帯びるほど、現在[いま]とは違う“来年”がやってくる。
日本帝国が佐渡を奪還し、オリジナル・ハイヴの支配を討ち果たし、人類反抗の狼煙を上げる日が近い。


その悲願が成ったとき、篁一統、そして仕えるべき崇宰家は?
今の当主が皇家守護代として仙台にいらっしゃる関係でその関連の圧力は希薄だったが、佐渡奪還が成れば当然陛下の遷宮も現実的になる。
高天原という選択肢もあるが、その後の復興の象徴としては東京が有力だろう。
篁にしても今後の崇宰を支える譜代として、その責は否応にも増すに違いない。
当然、独身女性の当主となれば、婚姻の話が噴出するのは、自明の理だ。
しかも母の出自、血筋でいえば、宗家筋から話があることも、十分考えられる。
篁の血筋を疎んじていた分家筋もXFJ-01という成果に掌を返した。

勿論ユウヤの存在を表にする気はない。
私が篁の当主なのである。
であれば、家を継ぐ次代を成すのは、避け様のない絶対の責務であった。



「―――?、何を思案することが在るのです?
唯依には、“統括”・御子神大佐がいらしゃるでしょう?」

「―――は・・・?」

「・・・XFJのXM3搭載に依るF-22の撃破、加えて国連横浜基地仕様[XFJ カスタム]や武御雷の先行改修によるAmazing5の実現、・・・まだ公表は在りませんが、電磁投射砲の実用化や更なる対BETA戦略の構築―――。
武闘の白銀少佐も知れ渡っていますが、知略の御子神大佐も有名ですわ。
皇帝陛下御自ら宗家に依らず赤を纏う事をお許しになった孤高の武門、その御子神家男子が未婚の武家子女である唯依を常に随伴しているのです。
今更他の話など押しこむ痴れ者は居りませんわよ?」

「ま、・・・まさか―――。
―――大佐は殿下のご伴侶であろう?」

「ええ。
勿論、数多の功績を為し、殿下の信厚く、陛下の覚え目出度き唯一の存在と成れば、何れご成婚の話が持ち上がるでしょう。
けれど、拡大婚姻法を提案したのは殿下ご本人、その殿下が大佐の重婚を認めないとは思われていませんわ。
煌武院家の後嗣は殿下が、篁家後嗣は唯依が産めばいいだけのこと、何の問題が在りまして?」

「・・・・・・。」

「抑々五摂家の御側役を始め、武家に於いて長く随伴する者は同性か、異性の場合いずれかを既婚者とするのが基本。
昨今はそこまででもありませんが、少し古い仕来りでは双方未婚の異性の場合、婚姻の意思ありと見られますわ。
斑鳩公が真壁家の他に傍に置くのは、許嫁でしょう?
唯依は大佐が唯一傍に居ることを許した武家の女子、・・・適齢の武家女子に取っては、垂涎の立場にありましてよ?
実際の関係はどうあれ、今更唯依を放擲したら大佐は無責任の謗りを受け兼ねませんし、唯依は唯依で何か婚姻に致命的な欠陥が有るのかと疑われますわ。」

「・・・・・・・・・」



声もない。

確かに、横浜に出向以来、ずっと御子神大佐に随伴させて貰っている。
技術将校としての知識・技能、そしてその広い視野と、深く慮る思考にはただただ頭が下がるばかり。
それを学ぶことが技術将校として必要なことだと、そればかりに目が行っていた。

・・・だがそう言えば、横浜出向を打診された時、上位命令ではないとまで言われた。
紅蓮閣下も巌谷のおじさまも、何処か歯切れが悪かった。
それは、上総の言った事を気にしての選択肢の提示だったに違いないのだ。
・・・全く以て今更だが我ながら迂闊にも程がある・・・。

逆に言えば、私がそうなることを容認した、とも取れる。
巌谷のおじさまに会う度に、大佐とのことを聞かれるのは、そう云う意味か・・・。
だが二人きりの作業は無数に在ったが、そういえば大佐とそんな雰囲気になった事は無い。
・・・つまりはそんな意図など全くない私に大佐が気を使ってくれていたと言うコト・・・。
上官にそんな気を使わせるなど汗顔の至りでしかない。

更に私の方と言えば・・・。
思い出して見ても、XM3の個人教授をして戴いたのも大佐で、ブルーフラッグを勝ってXFJ完遂を成し遂げてられたのも大佐だ。
その後ユーコンで初めて飲んだお酒に、大佐の膝枕で眠っていたと後でステラにからかわれた。
滞っていた電磁投射砲の実用化、武御雷の“魔”改修、・・・何よりもその基となる極めて貴重なG-コアを当たり前のように授けられている。
―――挙句は手ずから打った日本刀まで貰ってしまった。
傍から見れば、どう見ても優遇、特別扱いされているのは明白、その一方でどう考えても、妙齢の武家女子が、上官とは言え独身の殿方にして許される態度ではない。

先般の篭りの間、手の空いた夜は篁家東京屋敷に戻っていた。
と言って帰れても殆ど午前様なのだが、久々にばあやの手料理と和風の風呂を堪能した。
その居り、刀剣鑑定に詳しい母様に“縹渺蒼月”を見せたところ、古刀の名作と比しても全く遜色ない出色の出来との評を受け、目が点になった。
刀は献上品など上作ほど無銘である事が多いため、その価値は銘ではなく造りや出来で決まる。
無銘でも名工の作と認められた作は多く、正宗など銘が在る方が珍しい場合も少なくない。
例え本人がプライスレス[ただ]と言う自作だろうと、国土と共に古刀の多くが喪われ、刀鍛冶そのものが絶滅に瀕した現代に於いては正しく値がつかない程[プライスレス]の逸品だと鑑定された。
相当の出来とは感じていたが、現代刀で母様にそこまで言わせた作はない。
今思えば、信じられない様な技術を有し、且つ異様なまでに凝り性の大佐が、半端な刀鍛冶などする訳がなかった。
そして、逆に母様がそれ程の刀を貰った事に何のお小言もなかったのは・・・、つまり私にその認識があるものと思っているからに違いない。
・・・今更何も無いとは、とても言えない。


「・・・そんな・・・殿下に何と・・・。」

「恐らく、歓迎されるはずですわ。
シャノア含め世界的にも大きな影響力を有する“統括”です。
今後海外有力者、国内他家含め、更に積極的にハニートラップを仕掛けてくるでしょう。
今は斯衛ではなく、国連基地の機密部隊に所属しているのが調度良い防壁と成っているのですわ。
そこに信頼できる唯依が随伴しているのは、殿下にとっても都合が良いでしょう?
もし・・・唯依が本当に望まないなら、“統括”の事ですからきっと何とかしてくれます。
―――後は当の唯依がどうしたいか、・・・だけですわ。」


上総が嬉しそうに微笑みながら余りに鈍感だった私を虐める。
指摘されればそれは今の状況の正鵠を射ているわけで、反論の余地もない。
上総の恋バナを聞く筈だったのに、まさかブーメランだったとは・・・。
上総自身は既に開き直っているとも思える為、私には有効打がないのだ。
一方の私はサンドバック状態、もう反撃するだけの気力すらない。


もうすぐ日本は、捲土重来の反攻作戦に打って出る。
それを超えられれば、確実に歴史が動き、世界が変わる。
拡大婚姻法が施行され、人口維持に今以上に多産が奨励される。
日ノ本の、そして人類の未来を紡ぐだろう赤子―――。



―――私が御子神大佐と・・・?
篁の家を継ぐ子を為す・・・?

・・・コトを夢想して烈火の如く火照る顔に、私の思考は真っ白になった。



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