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No.35430の一覧
[0] SWORD WORLD RPG CAMPAIGN 異郷への帰還[すいか](2012/10/08 23:38)
[1] PRE-PLAY[すいか](2012/10/08 22:31)
[2] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:32)
[3] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:33)
[4] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:34)
[5] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:35)
[6] インターミッション1 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:40)
[7] インターミッション1 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:41)
[8] インターミッション1 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:42)
[9] キャラクターシート(シナリオ1終了後)[すいか](2012/10/08 22:43)
[10] シナリオ2 『魂の檻』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:44)
[11] シナリオ2 『魂の檻』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:45)
[12] シナリオ2 『魂の檻』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:46)
[13] シナリオ2 『魂の檻』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:46)
[14] シナリオ2 『魂の檻』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:47)
[15] シナリオ2 『魂の檻』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:48)
[16] シナリオ2 『魂の檻』 シーン7[すいか](2012/10/08 22:49)
[17] シナリオ2 『魂の檻』 シーン8[すいか](2012/10/08 22:50)
[18] インターミッション2 ルーィエの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[19] インターミッション2 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[20] インターミッション2 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:52)
[21] インターミッション2 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:53)
[22] キャラクターシート(シナリオ2終了後)[すいか](2012/10/08 22:54)
[23] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:55)
[24] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:56)
[25] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:57)
[26] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:57)
[27] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:58)
[28] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:59)
[29] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:00)
[30] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:01)
[31] インターミッション3 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[32] インターミッション3 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[33] インターミッション3 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:03)
[34] キャラクターシート(シナリオ3終了後)[すいか](2012/10/08 23:04)
[35] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン1[すいか](2012/10/08 23:05)
[36] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン2[すいか](2012/10/08 23:06)
[37] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン3[すいか](2012/10/08 23:07)
[38] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン4[すいか](2012/10/08 23:07)
[39] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン5[すいか](2012/10/08 23:08)
[40] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン6[すいか](2012/10/08 23:09)
[41] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:10)
[42] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:11)
[43] インターミッション4 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:12)
[44] インターミッション4 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[45] インターミッション4 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[46] キャラクターシート(シナリオ4終了後)[すいか](2012/10/08 23:15)
[47] シナリオ5 『決断』 シーン1[すいか](2013/12/21 17:59)
[48] シナリオ5 『決断』 シーン2[すいか](2013/12/21 20:32)
[49] シナリオ5 『決断』 シーン3[すいか](2013/12/22 22:01)
[50] シナリオ5 『決断』 シーン4[すいか](2013/12/22 22:02)
[51] シナリオ5 『決断』 シーン5[すいか](2013/12/22 22:03)
[52] シナリオ5 『決断』 シーン6[すいか](2013/12/22 22:03)
[53] シナリオ5 『決断』 シーン7[すいか](2013/12/22 22:04)
[54] シナリオ5 『決断』 シーン8[すいか](2013/12/22 22:04)
[55] シナリオ5 『決断』 シーン9[すいか](2014/01/02 23:12)
[56] シナリオ5 『決断』 シーン10[すいか](2014/01/19 18:01)
[57] インターミッション5 ライオットの場合[すいか](2014/02/19 22:19)
[58] インターミッション5 シン・イスマイールの場合[すいか](2014/02/19 22:13)
[59] インターミッション5 ルージュの場合[すいか](2014/04/26 00:49)
[60] キャラクターシート(シナリオ5終了後)[すいか](2015/02/02 23:46)
[61] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン1[すいか](2019/07/08 00:02)
[62] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン2[すいか](2019/07/11 22:05)
[63] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン3[すいか](2019/07/16 00:38)
[64] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン4[すいか](2019/07/19 15:29)
[65] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン5[すいか](2019/07/24 21:07)
[66] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン6[すいか](2019/08/12 00:00)
[67] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン7[すいか](2019/08/24 23:54)
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[35430] シナリオ5 『決断』 シーン3
Name: すいか◆1bcafb2e ID:e6cbffdd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/22 22:01
シーン3 鉄の王国

 満天の星明かりの下、無数に焚かれた篝火に照らされて、ひとつの巨大な門が闇の中に屹立していた。
 高さも幅も常識はずれ。
 その規模たるや、門の前で警戒に当たっている百人規模の戦士団が豆粒にしか見えないほどだ。
 これだけ大きければ、神話に出てくる古竜や巨人であっても、楽に出入りができるだろう。
 いつの時代、誰が誰のために築いたものなのか、それは分からない。
「ひとつだけ確かなことは、今も昔も、そしてこれからも、ここを守ることがわしらの務めだという事じゃ」
 ターバからの道中、先頭に立って案内してきたギムが、傍らの冒険者たちに言う。
 星空の下、荘厳な門と完全武装の戦士たちが織りなす幻想的な光景を前に、ドワーフ戦士の声は少しだけ誇らしげだった。
 白竜山脈の地下に広がるドワーフ族の地底都市“鉄の王国”。
 ここがその正門である。
「やっと着いたか」
 慣れない乗馬でさすがに疲れを隠せず、シンがやれやれと吐息をもらす。
「さすがに尻が痛いな」
 鞍の上で身じろぎしながらライオットが顔をしかめたが、彼らはまだマシな部類だった。
 後方に続く戦士たちは疲労困憊し、とても戦闘に耐えられる状態ではない。レイリアやソライアは体力の限界に達して意識が半分飛んでいるし、ルージュに至っては随伴の馬車に寝床を作らせて夢の中だ。
 無理もない。 
 ターバを出発した神官戦士団は不眠不休で山道を抜け、徒歩なら2日かかる道程をわずか半日で踏破してきたのだから。
 ギムが救援を求めるために鉄の王国を出発したのが2日前の夕刻。
 ターバにたどり着いたのが今日の未明で、夕暮れには先遣隊が、真夜中には本隊まで到着するという、常識では考えられない強行軍を成し遂げている。
「無理をさせて済まんの。しかし助かった。援軍が予定より2日も早く着いたのじゃからな」
 しかもその援軍たるや質・量ともに申し分ない。
 ドワーフ側とすればどれだけ頭を下げても下げ足りないところだ。
 ギムに先導された本隊が門へ近づいていくと、中から数十人の戦士たちが出迎えにきた。
 そのほとんどがドワーフだが、中には数人だけ人間も混ざっている。おそらく先遣隊の戦士たちだろう。
 彼らの顔が見えるところまで近づくと、神官戦士団に大声で号令が下った。
「全軍下馬! ボイル陛下とカザルフェロ戦士長がお見えだ! 特別訓練に参加したくない奴は背筋を伸ばせ! 気合いを入れろ!」
 ドワーフ族の王と神官戦士団の長の登場だ。
 疲れ果て、目を開けているだけでやっとの戦士たちに緊張が走る。弛緩していた空気が瞬時に張りつめ、馬たちまでが首を上げた。
 馬を下りた神官戦士団は序列に従って整列し、出迎えの戦士たちを待つ。
 やがて、壮年の戦士が戦士団の正面に進み出た。
「皆、ご苦労だった。疲れているとは思うが、最後にもうひと踏ん張りしてもらうぞ」
 その戦士を見たライオットの第一印象は“野生の狼”だった。
 年の頃は40歳くらいか。
 隙のない眼光を放ち、無精ひげをはやした精悍な風貌。
 長身はしなやかに引き締まり、誰の目にも一流の戦士に見えるだろう。
「あれがカザルフェロ戦士長か?」
 ライオットが小声で耳打ちすると、シンは小さくうなずいた。
「そうだ。戦士として強いのはもちろん、何より人を動かすのがうまい。戦士長にはうってつけの人材だよ」
 微妙な表情で壮年の戦士長を賞賛するシン。
 どうやら苦手意識を感じているようだが、これ以上の私語をできる雰囲気ではなかったので、ライオットは大人しくカザルフェロに視線を向けた。
「お前たちはターバ神殿の誇る精鋭だ。“鉄の王国”のドワーフ族も、お前たちには並々ならぬ期待をしている。その期待に応えることが、今回のお前たちの任務だ」
 部下たちに訓示するカザルフェロは、要所を金属で補強した頑丈な革鎧をまとい、腰には長剣ともう1本、奇妙な小剣も用意しているようだ。
 実戦で揉まれた歴戦の傭兵のような軍装は、外見よりも実戦を優先したもの。
 少なくとも、お行儀の良いエリートとは一線を画する人物らしい。
「では静聴せよ。ボイル陛下よりお言葉がある」
 カザルフェロが脇に退くと、疲労など忘れたかのように整然と並ぶ戦士団の前に、今度は屈強なドワーフの戦士が進み出た。
 ドワーフ族の戦士たちはみな歴戦の風格を漂わせていたが、前に出たのはひときわ存在感にあふれた人物だった。
 長い年月を閲してきた顔には深いしわが刻まれ、眼差しはルノアナの湖よりも深く、藍い。
 “鉄の王国”最強の戦士にして、この地底都市の主。
 “石の王”ボイルだ。
「戦士諸君。この度の援軍、まことにかたじけない。礼を言う」
 身長は人間たちの肩にも届かないだろう。
 だがこのドワーフ王の発する威厳は、穏やかな声に乗って戦士団の隅々まで届いた。
「敵は上位魔神だ。わが戦士たちも数多く犠牲となった。かかる強敵を前にしてこれほどの助勢を得たことを、我らドワーフ族は末代まで忘れぬであろう」
 盛大に焚かれる篝火を背にして、ボイルの太い影が地面に揺れる。
 戦士たちはしわぶき一つたてず、ただ薪のはぜる音とボイルの言葉だけが、夜空に染み込んでいった。
「先に到着したカザルフェロ戦士長らの活躍により、魔神めは坑道のひとつに追い詰めることに成功した。決戦は明日だ。今宵はゆっくりとその身を休めてほしい。このような夜遅くまで、本当にご苦労であった」
 ボイルの言葉が終わり、戦士団が一斉に礼を施すと、カザルフェロが進み出て号令をかけた。
「部隊はここで解散する。今夜はドワーフ族が寝所を用意してくれた。小隊ごとにドワーフの戦士がついてくれるから、その指示に従え。くれぐれも明日に疲れを残すんじゃないぞ。中隊長以上はただちに集合。以上、解散」
 指示が終わると、とたんに戦士たちが騒がしくなった。
 先遣隊が上位魔神を追い詰めたという驚き。
 これでやっと休めるという安堵。
 私語を鎮めようと小隊長が躍起になって叫ぶ声。
「いやほんと、懐かしいな、この空気」
 ライオットがしみじみとつぶやく。
 よそ行きの外面と本音が号令ひとつで入れ替わる様は、まるっきり警視庁機動隊そのものだ。
 人が人として集まりながら、個を殺して組織で戦うというシステム。その機能のひとつである。
「私たちにも部屋はあるんでしょ? もう疲れたから早く寝に行こうよ」
 気の利いた司祭に起こされたのだろう。いつの間にか起き出してきたルージュが、あくびをかみ殺しながら提案した。
 突然背中にかけられた声に、少しだけ驚いてライオットが振り向く。
「おはよう。いつの間に?」
「静聴せよ、のあたりから。あのちょいワル戦士長の話はおおむね聞いてた」
 この上なく目立つ容姿なのに、神出鬼没ぶりを発揮するルージュには感心するしかない。
 銀色の細い髪は炎に照らされて黄金に輝き、影の落ちた紫水晶の瞳はまるで月のよう。疲れと眠さを前面に押し出してなお、鑑賞用としては最高級の素材だ。
「決戦が明日なら、今日はもう私たちの出番はないでしょ。本格的に寝たいんだけど」
 男が100人いたら、99人まではルージュの希望を叶えるために東奔西走することだろう。
 だがライオットは、あっさりと左右に首を振った。
「残念だけど、その考えは甘い」
 その視線を追って振り向いたルージュの視界に、ボイル王以下の上級幹部が歩み寄ってくる姿が映る。
「……私たちも集合?」
「だろうな」
 末端の戦士たちは明日まで休憩できるが、幹部はそうではない。
 今日までの戦況を共有し、それをふまえて明日への対策を話し合い、いかに効率よく戦うか、そのためには何が必要なのかを決める。
 その戦術会議でもっとも大きなウェイトを占めるのは、同行した冒険者たちに何をどこまで任せるか、だろう。
 ボイルとカザルフェロ以下、双方の戦士団幹部がいま最も関心を寄せているのは、ニースの肝いりで派遣された“砂漠の黒獅子”がどれだけ使えるかという点ではないだろうか。
 ライオットの予想を裏付けるように、ボイルの視線はシンたちから離れようとしなかった。
 巌のような風貌でじろりと睨まれ、ライオットは反射的に首をすくめたくなったが、どうにか我慢する。自分たちの役目を果たすためにも、ここは虚勢が肝心だ。
 横目で仲間たちを伺うと、シンはいつもどおり堂々と、ルージュは完全なポーカーフェイスで、小揺るぎもせずにボイルの視線を弾き返している。
 ボイルの値踏みするような眼差しは、しばらく3人を眺め回していたが、どうやらつけいる隙を見出せなかったらしい。
 重い視線がカザルフェロに向けられた。
「戦士長。この者たちが、ギムの言っておった冒険者かな?」
「はい、陛下」
 壮年の戦士長が、渋く響く声でうなずく。
「彼らこそが、過日ザクソンの村で上位魔神を倒した“魔神殺し”の勇者です。ニース最高司祭直々の依頼により、援軍として同行いただきました」
 必要以上に大きな声は、ボイルだけでなく、周囲の戦士たちにも聞かせるためだろう。
 道中オーガーを一蹴した場面を見た者は、神官戦士団の中でもひとにぎりだ。シンの実力を見たことがない大勢の戦士たちは、興味深そうに聞き耳を立てている。
「上位魔神をたった3人で? 信じられん。与太話ではないのか?」
 ボイルは胡乱げな表情を浮かべた。
 胡散臭い連中だ、と言わんばかりの眼光が、またしてもシンたちに突き立てられる。
 ボイルは30年前、自らハルバードを振るって魔神戦争を戦い抜いた戦士だ。カザルフェロは簡単に“魔神殺し”と口にするが、いかに腕が立とうが、上位魔神とは3人程度で倒せるほど生易しい相手ではない。それを嫌というほど経験しているのだから。
 現に“鉄の王国”の精鋭が100名以上の犠牲を払ってなお、手も足も出ないほどの強敵ではないか。
 すると、ボイルの視線を浴びていたシンが口を開いた。
「俺は戦士です。実力の証は言葉ではなく、剣で立てるものでしょう?」
 強い弱いなど、いくら口で主張しても意味のないこと。実際に剣を交えればすぐに分かる。
 シンが堂々と主張した体育会系の思考は、どうやらボイルのお気に召したらしい。王の顔が初めて愉快そうな笑みを浮かべた。
 いつの間にか私語は止み、周囲は静まり返っていた。
 これから何が始まろうとしているのか。
 周囲の戦士たちはそれを察すると、休憩に向かう足を止め、王たちを囲むようにしてやりとりを見つめた。
「なるほど、そなたの言うとおりだな」
 背後の部下を手招きして、愛用のハルバードを取り寄せる。
 独特の光沢をもつ銀色の戦戟は、どう見てもミスリル銀で鍛えたもの。鋼より軽いとは言え、相当な重量があるはずだ。
 そのハルバードを、ボイルは片腕で軽々と振り回してみせた。
 ひとしきり手に馴染ませると、石づきを地面に突き立て、ドワーフ王は改めてシンを見据える。
「まだ名乗っていなかったな。わしはボイル。この“鉄の王国”で王を勤めておる」
「シン・イスマイール。戦士です」
 軽やかな音をたてて精霊殺しの魔剣が鞘走った。
 白い燐光を宿す刀身を見て、ボイル王の楽しげな笑みが大きくなる。
「よい剣を持っておるな」
「剣だけじゃないつもりですが」
「ふん、言いおるわ」
 口髭の中で唇をつり上げ、ハルバードを構え直すと、ボイルの発する気迫が桁違いに膨れ上がった。
「大口を叩いたからには、今さら待ったは聞かぬぞ」
 王とはいえ、ボイルはドワーフだ。身長はシンの肩にも及ばない。だがその小さな体躯から発する闘気は、シンの肌を粟立たせるほどのもの。
 本気でやっても勝てるかどうか分からない。
 直感がそう告げたが、シンが感じたのは恐怖でも緊張でもなく、胸が躍るような高揚感だった。
 自分の剣がどこまで通用するか、全力で試してみたい。
 このドワーフ王と自分と、どちらが強いのか確かめたい。
 純粋に強さを求める戦士の本能が、無意識のうちにシンの頬に笑みを刻む。
「なるほど、わしと貴様は同類らしい」
 ボイルが得心したように鼻を鳴らすと、怒号が雷霆となってあたりを震わせた。
「参るぞ!! シン・イスマイール!!」
 即座に銀色の暴風がうなりを上げる。
 持っているのがハルバードだとは信じられないほどの速度。水平に振るわれた刃がシンの腰を両断しようと襲いかかる。
「応ッ!!」
 それを、シンは直上から叩き落とした。剣を振った勢いそのまま、軽やかに身をひねってハルバードの軌道を跳び越える。
 ほんの一挙動でボイルの懐に入り込むと、シンはお返しとばかりに逆袈裟に斬り上げた。
 狙うは完全無防備な胴。相手が並の戦士ならこれで勝負あっただろう。
 だが魔法のように伸びた長柄が剣を易々と受け止め、今度は反対側の石突きが弧を描いてシンの側頭部を襲った。
 ハルバードは長柄武器だ。右を払われれば左が、左を打たれれば右が相手を攻撃できる。
 シンは反射的に跳びのいて間合いを切ると、小さく息をついて剣を握りなおした。
「さすがですね」
「よもや、これで終わりではなかろうな?」
「まさか。本番はこれからです」
 一息ついて笑みを交わすと、ふたりは再び激しい戦いを始めた。
 相手の技量を見極めるという目的など、最早ふたりの眼中から消しとんでいた。
 残っているのは戦士としての闘争本能だけだ。
 眼前の好敵手を相手に、鍛えた技と力がどこまで通用するか試したい。己を極限まで追いつめ、最後の一滴までを絞り尽くすような戦いに身を投じたい。
 激流にそびえる巌のようなボイルと、清冽な風のようなシン。
 ぶつかり合う気迫は嵐のごとく吹き荒れ、刃は雷光となって閃く。
 重い金属音と青白い火花が断続的に舞い散る中、ふたりの戦いは演舞と呼べるほどに芸術的だった。
 成り行きを見守っていたドワーフの戦士たちも、ターバの神官戦士団も、息を飲んでただ食い入るように見つめている。
 カザルフェロやライオットでさえ、真剣な表情でふたりを注視し、微動だにしていなかった。
 仮にも剣の道を志した者たちなら、最高の戦士たちの戦いを見て、何も感じないはずがないのだ。
 誰もが無言で見守る中。
 時を忘れたかのような打ち合いにも、やがて終わりが訪れた。
 弾かれたように距離を取り、互いに呼吸を整える溜めが入る。
 次の一撃で最後にしよう。
 無言でそう申し合わせると、ふたりは己のすべてを込めた、必殺の一撃を見舞った。
 精霊殺しの魔剣は大上段から“石の王”の頭頂を。
 真銀の戦戟は横薙ぎに“砂漠の黒獅子”の脇腹を。
 ふたりの斬撃は無慈悲で美しい軌跡を描き、相手の息の根を止める直前で、ぴたりと停止していた。
「……よい魂をしているな、シン・イスマイール」
 最大級の賛辞を送り、ボイルがハルバードを引く。
 死力を尽くした戦いは、ボイルにとって万の言葉を費やすよりも確かな対話だ。
 この男は信用できる。
 シンの清冽な気を思う存分に感じた今、その事実を疑う余地などなかった。
「これほど痛快な手合わせは数十年ぶりであった」
「俺もです」
 タイミングを合わせて剣を引いたシンの瞳にも、まごうことなき賞賛が浮かんでいる。
 ボイルの強さは本物だ。戦闘力で言えばライオットに匹敵する。
 だが、技巧の粋を極め、緩急自在でまったく気を抜けないライオットの剣とは対照的に、ボイル王の攻撃はひたすらに心地良いのだ。
 戦意をぶつければ真っ直ぐに打ち返してくる。裏表のない純粋な戦い。互いに打ち合ううちに戦意は相乗的に膨れ上がり、相手の次の手すらも見えてしまうような、不思議な感覚に満たされる。
 それは知覚の限界を意識して踏み超えていくという、例えようもない爽快感だった。
「そなたの実力のほどはよく分かった。“魔神殺し”の称号に偽りなしだ。そなたの仲間も、さぞや強いのであろうな?」
 ボイルが重装甲に身を鎧っているライオットに視線を向ける。
 王の意図するところは一目瞭然だ。
 興奮して好戦的になっていたのか、シンは小さく頷いてすぐに答えた。
「ご覧に入れましょう」
 身体のウォームアップは十分だ。今なら最高のパフォーマンスを発揮する自信がある。
 シンは軽く剣をひと振りすると、何の前触れもなくライオットに襲いかかった。
 問答無用の完全な奇襲だ。その速度はボイルですら目で追うのがやっと。見守る観衆たちの力量では、いつシンが動いたのかすら分からなかっただろう。
 だが精霊殺しの魔剣は“勇気ある者の盾”にあっさりと弾き返され、間髪入れずにライオットの剣光が宙を薙いだ。
 お返しとばかりに繰り出された反撃は、シンのいた場所を正確に斬り上げたが、シンはすでに跳びすさっている。
 剣を高々と頭上に振り抜いたまま、ライオットは憮然として文句を言った。
「いきなり何しやがる。俺じゃなかったら死んでたぞ」
「そういう流れだったから」
 ひらりと地面に舞い降りたシンが、平然と応じる。
「やるならやるって先に言えよな。こっちにも心の準備ってものが必要なんだ。万一のことがあってからじゃ遅いんだぞ」
「その時はその時だ。自分の力が足りなかったと思って諦めてくれ」
「……ちょっとそこを動くな。その根性を修正してやる」
 半眼になったライオットがぼそりと言った。
 シンの背筋に冷たいものが走る。
 やばい、と思った次の瞬間、甲高い金属音と青白い火花が闇夜に散っていた。
 それまで言葉を失っていた大観衆がどよめいた。
 ライオットが披露したのは、基本どおりの上段からの振り下ろし。形だけを見れば単なる素振りと変わらない。
 しかし、ごまかしのきかない単調な動作であるがゆえに、技がどれほど研ぎ澄まされているか一目瞭然なのだ。
「危ないって。本気出しすぎだろ」
「残念。本気はこれからだ」
 冷や汗を垂らすシンに、ライオットが薄く笑う。
 ここまでは先ほどまでの演舞と同じだが、この先はまるで展開が違った。
 正面から受けたはずのライオットの剣が、なぜか下から逆袈裟に切り上げてきた。シンがあわてて後退すると、今度は喉元に向かって一直線に突き込まれる。
 なぜそこに剣がある?
 なぜそっちに動ける?
 フェイントを多用するライオットの剣は、まさしく変幻自在だ。軌跡もタイミングも、まるで予測できない。
 それを反射神経だけでどうにか捌きながら、苦心して反撃を繰り出しても、危なげなく盾に弾かれてしまう。
 ライオットの防御は鉄壁だ。城壁相手に剣を振っているような気分になり、シンは内心ため息をついた。
 流れはいつもの稽古と全く同じ。
 互いの防御をまったく崩せず、千日手の様相を呈していた。
「ったく、厄介な相手だな、お前は」
「どっちがだ! フェイントに掛かったんなら本命に反応するんじゃない。おとなしく切られろ。すぐに治してやるから」
「無茶言うなよ。そんなことしたら痛いだろ」
 シンとライオットの、いつもどおりのじゃれ合い。とても必殺の斬撃を交わしながらとは思えない。
 その頃になってようやく事態を理解すると、観衆は一気に騒然となった。
「……凄いわね、あの人たち。まさかこれほどとは思わなかったわ」
 神官戦士団の一角で、ソライアが感嘆のため息をもらした。
 戦士として厳しい訓練を積んでいるソライアには、シンとライオットの強さがどれほど規格外か理解できる。
 じゃれ合いながら片手間に繰り出す剣の一振りすら、自分ではとても受け止めきれないだろう。
 もっとも、ここまで隔絶した差があると、悔しさすら感じないが。
「でしょう? きっとシンは“白騎士”ファーンや“赤髪の傭兵”ベルドにも劣らぬ勇者ですよ」
 並んで戦いを見つめていたレイリアが、我が事のように誇らしげに微笑む。
「魔神だろうとドラゴンだろうと、シンがいれば心配いりません。絶対に勝てます」
 まるで神託を受けた聖女のように。
 ゆるぎない確信を込めて宣言するレイリアを眺めて、ソライアは苦笑を浮かべた。
 レイリアの視界には、残念ながらライオットは全く入っていないらしい。
 こういうのを『恋は盲目』というのだろう。
「もっともあの人は、その盲信も受け止めるくらい強いんでしょうけどね」
 ソライアが視線を転じれば、親友の剣からひらりひらりと逃げ回る“砂漠の黒獅子”が映った。
 清楚で美しく、上品で優しいレイリア。戦士としても司祭としても優秀で、背負った運命さえなければニースの後継者として申し分なかったはずの娘。
 いったいどんな男が現れればレイリアとつり合うのだろう、と皆が考えていたが、どうやらその答えがあの黒い戦士らしい。
 周りを見渡せば、同僚たちもシンの実力を好意的に評価しているようだ。
 強さで見れば互角かもしれないが、裏技や絡め手を多用するライオットとは対照的に、シンの剣は素直で嫌みがない。
 そこが見る者に素直な好感を抱かせるのだろう。
 シン・イスマイールは今の戦いで、ボイルだけではなくターバの神官戦士団にも自分を認めさせた形になる。
「カザルフェロ戦士長も、今ので少しは軟化してくれるといいんですが……」
「どうかな? 無理じゃない?」
 カザルフェロ戦士長はシン・イスマイールが気に入らないようだ。
 その事実は、神官戦士団内部ではもはや常識だ。一部ではレイリアの恋が成就するかの賭けも行われているらしい。
 レイリアの許嫁という存在に誰よりも反発している上司を思い浮かべて、ソライアはくすりと笑った。
 カザルフェロは、レイリアの背負った運命を知る数少ない重鎮のひとりである。
 真実を知ってからは誰よりもレイリアに目をかけ、自分の時間を割いて直接の指導に当たってきた。
 すべては、いざという時にレイリアが自分自身を守れるよう育てるために。
 レイリアが17歳の若さでこれほどの使い手になったのは、偶然でも才能でもない。指導者の熱意と本人の努力の結晶なのだ。
 それなのに、どこの馬の骨ともしれない冒険者が横からかっさらったのでは、好意的になれと言うのがそもそも無理な話だろう。
「どうしたらシンを評価してくれるんでしょうか」
 柳眉を下げ、レイリアが肩を落とす。
 師と慕う人物と恋人の仲が悪いのは、レイリアにとって目下最大の懸案事項だ。何とかできるならしたいのだが。
「分かってないわね。カザルフェロ戦士長は、あなたのカレシを評価してないから気に入らないんじゃないわ。その逆よ」
 相手が欠点だらけの男なら、公然と非難して縁談を潰すことができる。
 だがあいにくと、シン・イスマイールはニース最高司祭が認めるほどの勇者だ。それはたった今、神官戦士団の目の前でも証明されてしまった。
 だからこそ余計に腹が立つのだろう。
「もっとも、戦士長にとって本当の問題はそこじゃないんだけどね」
 ソライアが小さく本音をもらしたとき、当のカザルフェロが部下たちに再び解散の号令を発した。
 立ち止まって戦いを見ていた戦士たちが、興奮も冷めやらぬまま、ドワーフの案内に従って“門”の中へと移動を始める。
「ほらレイリア。私たちも行くわよ」
「はい……」
 口ではそう答えながらも、レイリアの視線はシンに釘付けだ。
 戦い(?)はいつの間にか終わりを告げ、シンはライオットと並んでルージュに怒られている。
 ソライアはひとつため息をつき、親友の腕を取って歩きだした。
「あ、ちょっとソライア」
「私もう眠いの。悪いけどカレシを眺めるのはまた明日にしてくれる?」
「あ、待ってください。いま大事なところなんです」
 横目で見れば、今度はカザルフェロがシンに何やら話しかけていた。
 このふたりは犬猿の仲だ。戦士長がシンに皮肉を言うのは日常茶飯事だから、また喧嘩にならないか心配なのだろう。
「あのねレイリア。明日戦う相手は上位魔神。あなたのカレシがいないと勝負にもならないわ。そんなことはカザルフェロ戦士長だって知ってるんだから、今この状況で喧嘩を売るわけないでしょ。そんなことより周りを見なさい」
 あきれた口調のソライアに言われて視線を巡らせると、部下に当たる女性神官たちがレイリアの様子を遠巻きに気にしていた。
 ターバ神殿の位階で言えば、レイリアは司祭の中でもかなりの高位にある。その上司を差し置いて休憩には行けない、というわけだ。
「あなたが休まないとあの娘たちも休めないの。分かった? 分かったらさっさと歩く」
 律動的な歩調で前をいくソライアと、半歩遅れて引きずられていくレイリア。
 いつもどおりの光景を、周囲の司祭や戦士たちが微笑ましげに見送る。
 シンも遠目にレイリアの後ろ姿を眺めていると、カザルフェロが意味ありげに笑った。
「気になるか?」
「当たり前だろ。そもそも俺はレイリアを守るためにここに来たんだから」
 今さら言うまでもない、と躊躇のかけらもない口調。
「それにしても驚いたよ。先遣隊だけで上位魔神を追い詰めたって?」
 シンの言葉は露骨な話題そらしだが、レイリアについて話していれば、いずれは喧嘩になってしまう。
 この非常時に、ボイル王の前で女をめぐって口論など願い下げだ。無言の提案はカザルフェロも同感だったらしく、いつもの皮肉は返ってこなかった。
「先遣隊の力というより、マッキオーレの功績だな。あいつが用意した氷竜ブラムドの宝物を使った」
「あれは壮観であったのう。おかげで隧道がひとつ崩れてしまったが」
 ボイルが愉快そうに腹を揺らした。
「ま、その話は長くなるのでな。シン・イスマイール。それに冒険者たちよ。わが王国へ招待させてもらえるか? カザルフェロ戦士長らの活躍はそこで披露するとしようぞ」
 すっかり白くなった顎髭をしごきながら、ボイル王がシンたちを差し招く。
 いっぱいに開いた巨大な門の向こう。
 大隧道の奥、“鉄の王国”の中枢部へ。


 


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