人間ならば鼓膜を破られる程の凄まじい咆哮に曝されて、悠二の心中を後悔が満たす。
「(これが……“フレイムヘイズ”!)」
紅世の徒への憎悪から人間を捨てた復讐者。その本当の意味を、背筋を伝う怖気として今こそ思い知る。
こんなミステスが仇なワケが無いと少し考えれば解りそうなものだが、炎の色だけでこれである。
「良かったじゃない。これで“屍拾い”は完全にあいつの眼中から消えたわよ」
「……全っ然よくない」
まあ、あそこで串刺しになるわけにもいかなかったので、後悔しても仕方ない。
そもそも、炎を隠して戦えるような相手ではなかったのだ。同様に、シャナ一人で勝てる相手でも無い。
「けど、肚は括れたかな」
つまり最初から、勝って倒す以外に道は無い。変わらず湧き上がる恐怖を、そう割り切る事で無理矢理に押さえ込み、悠二は左掌に銀炎を燃やす。その炎を人間大の火球に変えて撃ち放った。
「ガァアアアアーーー!!」
それを躱して、群青の獣が猛然と襲い掛かって来る。殺戮衝動に塗れた瞳には、悠二……いや、『銀炎を纏う何か』しか見えてはいない。
迎え撃つべく大剣を振りかぶる悠二との距離を、マージョリーは急激な加速で瞬く間に詰めた。
「くっ!」
自分の方が一拍遅いと判断して、悠二は咄嗟に後ろに跳ぶ。鋭い爪は紙一重、悠二のシャツを引き裂くに終わった。
「あ……!?」
が、その下、首から提げていた『アズュール』までもが、紐を切られて零れ落ちた。
路面を跳ねる切り札に気を取られた悠二の胴に、返しの裏拳が見事にめり込み、
「かは……っ」
全速のトラックに撥ねられたかのように、悠二の身体が宙を舞った。すかさず、トーガの腹が限界まで膨れ上がり……
「バハァアアアーーー!!」
群青の奔流が、中空の仇敵を焼き尽くさんと吐き出された。先程までとは比較にならない熱量と圧力。悠二は腹部の痛みに悶える中でもこれを感じて、足裏に菱形の切片を展開し、そこを足場に爆発を生んで横っ飛びに逃れる。
それを見届ける事もなく、
「はあっ!!」
上空に火を噴く獣の背中に、シャナが全力で大太刀を突き立てていた。
しかし、またしても手応えは無い。それどころか、貫いたトーガが複雑怪奇な自在式となってシャナの身体を捕縛した。
その間にも、上空に撒き散らした炎が数多の獣の姿に変じている。
「邪魔すんな!!!」
「っあああああ!?」
それらが一斉に炎弾を投擲し、灼熱の豪雨がシャナを呑み込む。
「シャナ!!」
あれだけの狂気を撒き散らしていながら、マージョリーは直線的な猛攻に走ってはくれない。呼吸同然に染み付いた戦闘術者としての思考が、冷徹に、効率よく、獲物を咬み千切る戦法を探し続けている。
「おいマージョリー落ち着け! やっと見つけた手掛かりだぞ!!」
それでも、止まる事は無い。契約者たるマルコシアスの声さえ無視して、獣の群れは一斉に悠二めがけて飛んで来る。
「(やれるか……!?)」
飛来するトーガのどれがマージョリーなのか、それとも全てが分身なのか、今の悠二には判別できない。
右腕を鋭く横に一閃させて、輝く銀を撒き散らす。溢れた炎を十に及ぶ火球に変え、飛ばした。
空を駆ける炎弾は獣を捉え、或いは避けられ、弾かれ、その数を半分ほどにも減らせない。
「うおっ!」
砲弾のように突進して来る獣を、上に跳んで避ける。避けた場所に突き刺さったトーガが爆発し、余波に怯む悠二を別のトーガが殴り飛ばした。
「くっそ……!」
展開した切片に着地した悠二の肩に、また別のトーガが喰らいつく。その胴を大剣で串刺しにしても、その向こうから四匹の獣が飛んで来た。飛んで来て………身構える悠二の眼前で爆ぜた。
「――――――」
群青に燃えて落下する悠二の見る先で、新たなトーガが、腹を一杯に膨れさせる。
「ッガアアアアァーー!!!」
滾る憎悪を全て乗せたような叫びが、灼熱の怒涛となって追い撃つ。叫ぶ事も出来ず焼かれた悠二は、燃える流星となって眼下の寂れたパビリオンに落ちた。
「痛ぅ~……やっぱり、付け焼き刃じゃ通じないか……」
屋根をブチ抜いて墜落し、冷たい床に大の字に引っ繰り返った悠二は、揺れる視界で天井の大穴を見つめる。実力の差は如何ともし難い。窮地でも変わらず働く強靭な理性が、考えたくない未来を予想しようとした時……
「君は随分と頑丈だな。あれだけ手酷くやられて まだ動けるとは」
「っ!!?」
殆ど耳元で囁くような至近距離から声が聞こえた。
心臓が止まるかと思いつつ、悠二は首を横に倒して声の主を見る。そこに居たのは……見た目には何の変哲もない白い鳩。
「今“頂の座”を探しているが、この人混みで“人間一人”を見つけるのは中々難しい」
聞き覚えの無い声が、聞き覚えのある落ち着いた響きで喋っている。言葉の内容と合わせて、ピンと来た。
「……ラミー、逃げたんじゃなかったのか」
悠二らに危機を伝え、自らの庇護を頼んで来た徒……“屍拾い”ラミーだ。この鳩が本体とも思えないが、徒の割りには律儀である。
「そっか……ヘカテーは見つからないのか」
だが、その律儀な報告によって知らされたのは凶報以外の何物でもない。最後の希望が奪われた気分だった。
「このまま君たちが敗れ、“頂の座”の身体が破壊されるのは私としても困る。だからあくまで私の安全の為に、この小さき身で出来得るだけの助言はしよう」
助力ではなく助言なのか、という落胆を抱きつつ、悠二は痛む身体をゆっくりと起こす。
「君が扱い切れていない君自身の自在法に、名前を付けてやろう」
「………名前?」
その肩に乗った白い鳩が、戦術的なアドバイスとも思えない奇妙な提案を持ち掛ける。
「そう、己の本質を確固として顕現させる自在法に於いて、名前の有無は重要だ。君の場合は特にな」
真剣に聞き入れ悠二の顔を見て、『まだ名前を付けていない』という自身の見立てが正しかったとラミーは悟る。
そして、告げた。
「――『グランマティカ』――」
たった今 名付けた、坂井悠二というミステスの本質を顕す自在法の名を。
悠二がパビリオンで倒れている間、マージョリーは何もせず待っていたわけではない。
「邪魔すんなって言ってんでしょうが!!」
炎の豪雨をまともに受け、それでも退かずに向かって来るシャナと交戦していた。
「(あいつ、やられたの……?)」
そんな筈は無い。おそらく気絶もしていない。今でも、戦闘体勢と呼べる程度の気配は感じる。しかし、落ちたパビリオンから出て来ない。
「(足並み揃えろとか言ってたくせに……!)」
劣勢の為か、まるで頼るようならしくない愚痴が、心中のみで吐き捨てられる。
シャナとマージョリーの相性は、ヴィルヘルミナ以上に最悪だ。それでもここまで戦えているのは……と、そこまで考えて、何だか癪なので打ち切る。
「チビジャリがぁ!!」
マージョリーが前方に伸ばした両手の十指から、群青の炎弾が機関銃のように放たれる。
スピードならシャナも負けていない。“とっくに人混みの吹き飛んだ広場”を、高速で左右に、時折フェイントを混ぜながら駆け回る。
的を絞らせない動きで炎弾を外す回避の延長で、足裏に爆発を生んで後ろに跳んだ。
そうして張った煙幕を“迂回して”、煙の中からの攻撃を警戒するマージョリーを強襲する。
「ぇやあ!」
狙いは見事に当たり、マージョリーの反応は僅かに遅れた。だが、それは自在法による撹乱をする余裕を与えなかったというだけ。
マージョリーの殺意に同調するように強度を増したトーガの左腕が、半ばまで斬られながらも大太刀を止めた。
「グルァア!!」
間を置かず獣の右腕がギュルンと伸びて、シャナの胸部に重々しい拳撃を叩き込む。
「あっ、ぐ……!」
肺の空気を全て吐き出すように息を詰まらせながら、炎髪の少女は無惨に路面を転がった。
まだ、息が出来ない。それほどの苦痛さえも精神力でねじ伏せて、何よりまず立ち上がろうとするシャナ。
「“月火水木金土日 誕婚病葬生き急ぎ”」
その周囲に群青の剣が七本、檻の如く突き刺さった。
「“ソロモン・グランディ”」
斜め前方の空で、マージョリーを護るトーガが腹を膨らませ、
「“はい、それまでよ!!”」
火炎の津波を、躊躇も加減もなく吐き出した。
「(避け―――)」
られない。
七本の剣に阻まれ、そうでなくとも身体が言う事を聞かない。『夜笠』を重ねる事すら、叶わない。
避ける事も防ぐ事も出来ないのなら……受けるしかない。
「(“あいつは耐えた”!)」
歯を食い縛って高熱と激痛に備える、瞬発的に統御できる精一杯の力を全身に巡らせる、右腕で眼を庇う。
ゴオオオオッ! と獄炎が吹き荒れる音が鼓膜を震わせ………
「………?」
それと裏腹に、覚悟していた熱と痛みが来ない。恐る恐る……ではなく即座に灼眼を見開いて見れば、群青の炎が見覚えのある自在法に……初めて見る形態で塞き止められている。
「(これは………)」
坂井悠二の、自在法。
但し、これまでのように一つではなく、数多が四方に連結された壁として。
奇妙な菱形の切片としか見えなかった自在法は、こうなる事で真の姿を顕していた。
―――それは、鱗。
内に燃やす銀の自在式を星座のように鮮やかに紡ぐ、半透明の蛇鱗だった。
「遅れてごめん。“これ”の使い方 試すのに手間取っちゃって」
マージョリーの『屠殺の即興詩』を軽々と止めた少年が、片膝を着いたシャナの背中に声を掛ける。
「………………」
複雑そのものという顔で振り返るシャナの前で……
「さあ、反撃開始だ」
―――坂井悠二は、燃え立つ喜悦を浮かべて笑った。
左手を、翻す。その動きに誘われるように銀の片鱗が離れ、踊り、また繋がる。
そうして新たな星座を描く鱗壁から、先程とは比較にならない圧倒的な数と威力の炎弾が飛び出した。
「舐めんじゃないわよ!!」
マージョリーも負けていない。同数、同威力の炎弾を瞬時に構築し、放出する。
複雑な曲線を無数に描く銀と群青が真っ向から衝突、連鎖的な爆発を巻き起こし、燃え盛る炎による雲海を広げた。
「流石」
悠二は再び半透明な鱗……『グランマティカ』を指先で繰り、勇躍するように高々と“飛び上がる”。
「(今度は“飛翔”……!?)」
「(“何でも出来る”という事か)」
今までは不可能だった炎の防御、強力な炎弾、飛翔、それら数々の力を間近で目にして、二人で一人の『炎髪灼眼』はその正体を看破する。
半透明な鱗片に自在式を込め、それをパズルのように組み合わせる事で様々な効能を発揮する多岐万能な自在法。正に、その本質が理性の側にある悠二らしい理詰めの力。
それこそが『文法(グランマティカ)』の本当の性質だったのである。
「っ…………」
シャナの奥歯が軋みを上げる。
飛び去る背中に“二重の意味で置いて行かれたと感じて”、それでも絶対に認めない。
「………けない」
怒り……だろうか。己そのものたる使命ではない何かが、身体の底から沸々と湧いて来る。
とても熱くて、無茶苦茶に暴れ回るそれが………
「絶対、負けない!!」
―――紅蓮に煌めき、燃え上がる。
爆発的な殺戮衝動を燃え盛る炎と纏い、砲弾のようにマージョリーが突進する。
「ふ……っ!」
恐ろしく暴力的なトーガの拳撃を、悠二は左手一本で受け止めた。受け止め、押され、その先にあったジェットコースターのレール上で踏み止まる。
「バハァアアアアーーー!!」
その至近距離から、マージョリーが炎を吐き出す。
群青の業火は悠二を攫ってレールを走り、コースターのように綺麗な円を描いてから爆発した。
「まだまだぁ!!」
爆発に飛ばされる悠二の全身からは、銀の炎が凄まじい勢いで放射されている。落としてしまった『アズュール』の代わりに、相手と同様に炎をぶつける事で威力を殺したのだ。消耗も激しいが、直撃されるよりマシである。
「(組み合わせた効果しか発揮しないから、自在法を幾つも同時には使えないか。どっちにしても空中戦は避けた方がいいな)」
ミラー・ラビリンスの屋根に着地しながら、冷静に『グランマティカ』の検証を続ける。そんな理性とは裏腹に、何とも形容し難い気持ちが悠二の中にあった。
「来い」
あの……自分の命を狙う戦闘狂を、否定する気になれない。それどころか、憎悪の全てを吐き出させてやりたい。……そんな、自分でも可笑しく思う珍妙な衝動。
その衝動が、苛烈に過ぎる喜悦となって笑みを浮かべさせる。
「うおおおっ!!」
猛スピードで追撃を掛けて来るマージョリー。その獣の拳に、悠二も同じく左の拳を衝突させた。至近で解放された互いの炎が爆発を呼び、迷宮の天井を粉砕する。
着地も待たず落下しながら、悠二は再び蛇鱗を構築する。それによる飛翔で素早く迷宮から脱し………
「はあっ!!」
『グランマティカ』に頼らない単発の構成で、崩れるミラー・ラビリンスに渾身の炎弾を撃ち下ろし、丸ごと吹き飛ばした。
「(当たった、のか……?)」
轟然と燃え盛る銀炎の海を見下ろす悠二には、確信が持てない。鋭敏な感知能力の欠如が、敵の気配を掴ませない。
いつ炎幕から飛び出して来るか解らない敵に身構える悠二。
―――その頭上で、群青の獣が両手を組み、
「!?」
組んだ両手が、纏めて斬り飛ばされた。
斬られたマージョリーも、
「っ……上か!」
その斬裂音に気付いて顔を上げた悠二も……刹那、目を奪われた。
「お前だけにやらせない」
そこに居たのは、髪と瞳を鮮やかに燃やす『炎髪灼眼の討ち手』。可憐な少女の背中に広がるのは、空を駆ける紅蓮の双翼。
「(こいつも飛んだ……!?)」
狂熱に駆られ、憎悪に蝕まれ、それでも辛うじて己を保つマージョリーは、次々に変化する状況に焦燥を重ねる。
ほんの数分前まで自分が一方的に蹂躙していた敵。呆気なく咬み千切れたはずの炎。それが、戦いの中で急激に………!
「ッガァアアアア!!」
慟哭と共に、トーガが数十に分裂する。それより一拍早く、悠二が『グランマティカ』を“足下で”組み換える。
光る蛇鱗から縦横無尽に広がったのは、銀に揺らめく無数の波紋。
「(探査の―――)」
気付いた時には、もう遅い。跳ね返った波紋は“どの獣が最も強い存在か”を報せ、
「っりゃあ!!」
紅蓮の輝きを映す大太刀の刺突が、トーガの上からマージョリーを斬り裂いた。
「ぐ……うっ……!」
痛みと動揺で、獣の群れが炎に還り、散る。
凶悪なまでの切れ味で脇腹を裂かれた傷は、決して深くはない。
「“綺麗な曲を もう一つ”」
それでもマージョリーは歌う。怖気を誘う炎に向けて、憎悪を込めた即興詩を。
「“お願い貴方 聞いてよね”」
弔詞に呼ばれて巻き起こる群青は、不慣れな飛翔で追撃の遅れたシャナに、後退を選ばせる程の凄絶さを備えていた。
しかし標的は当然、炎翼を広げる少女ではない。
「“綺麗な曲を もう一つ!”」
放たれたのは大気をも焼き尽くすような特大の……否、極大の炎弾。
「くたっばれぇえーーー!!」
太陽の落下を錯覚させる復讐の業火をその身に向けられて……悠二は退かない。
両の掌を頭上に翳して、真っ向から受け止める。
「(これが、フレイムヘイズ……)」
掌から溢れた炎が蛇の鱗壁を形成し、その内で新たな自在式が燃える。
「(こんなにも熱い、憎しみの炎………)」
火輪が衝突し、蛇鱗が硬く耳障りな軋みを上げる。
防御壁の上からでも肌が灼ける。
「(それでも、僕は……)」
決して、退かない。
眼前の敵ではない。自分を、自分たちを弄ぶこの世の不条理そのものに挑むように、天を衝くほどの叫びを上げる。
「っっだああああああぁぁーーー!!」
火球が歪み、“跳ね返った”。『グランマティカ』の内で燃える、『反射』の自在式を受けて。
「っ………!?」
己をも焼き尽くす憎しみの炎が―――大輪の華となって陽炎の空に咲いた。
「(―――初めから、大切なものなど何も無かった)」
群青の炎が全てを呑み込み、己が憎悪に我が身を焼かれる。
「(―――全てを奪われて生きていた)」
自分の全て……何も無い自分の空白を焼き尽くされる、酷く懐かしい感覚。
「(―――だから、私から全てを奪った、そこにある全てを……壊して、殺して、奪って、嘲笑ってやろうとした)」
人間を捨てて、終わる事なき戦いの輪廻に身を投じた時の記憶。
「(―――それも……それさえも“奴”が奪った)」
そうさせた狂気の姿が、炎の中で克明に蘇る。
銀の炎を巻き上げる、歪んだ西洋鎧。その隙間からザワザワと蠢く虫の脚、兜から吹き出す炎の鬣、そして、まびさしの奥で嘲笑う無数の眼。何もかもが、はっきりと。
「(―――私から全てを奪って、壊して、嘲笑った)」
もう壊すモノさえ残っていない。―――たった一つ、目の前にある存在だけを除いて。
「(―――せめて、こいつだけでも壊させて)」
求めるように、掴むように、握り潰すように、眼前のそれに手を伸ばす。必死に、がむしゃらに、無茶苦茶に、ブチ殺しの雄叫びを上げようとする。
その時―――世界を埋める色が変わった。
「…………え?」
記憶に燃える銀の炎が、現実に燃える群青の炎に染め上げられる。
その中で根強く残影を残す怪物の鎧が、炎に焼かれて崩れるように剥がれ落ちていく。
「……あ……ぁ……」
鎧が砕け、鬣が散り、兜が溶けたその向こうで………“彼女”は笑っていた。
群青に燃える炎の中で、歪んだ愉悦に身を震わせて嘲笑っていた。
「ッッ―――――――」
何かが壊れてしまう。
その予感にかつてないほどの拒絶を抱いて、マージョリー・ドーは絶叫した。
―――陽炎の世界に屹立する、巨大な群青の狼と化して。