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No.34371の一覧
[0] 水色の星A(灼眼のシャナ)【完結】[水虫](2013/06/29 19:29)
[1] 1-1・『外れた世界』[水虫](2012/08/14 18:17)
[2] 1-2・『トーチ』[水虫](2015/05/23 20:18)
[3] 1-3・『紅世の徒』[水虫](2012/08/14 18:18)
[4] 1-4・『平井ゆかり』[水虫](2012/08/14 18:18)
[5] 1-5・『頂の座』[水虫](2012/08/14 18:19)
[6] 1-6・『白の狩人』[水虫](2012/08/14 18:20)
[7] 1-7・『紅世の王』[水虫](2012/08/14 18:20)
[8] 1-8・『坂井悠二』[水虫](2012/08/14 18:21)
[9] 1-☆・『零時迷子』[水虫](2012/08/14 18:23)
[10] 2-1・『二週間前の事』[水虫](2012/08/20 16:28)
[11] 2-2・『新しい日常』[水虫](2012/08/20 16:29)
[12] 2-3・『鍛練開始』[水虫](2012/08/22 13:16)
[13] 2-4・『愛染の兄妹』[水虫](2012/08/28 13:27)
[14] 2-5・『GW』[水虫](2012/09/01 16:27)
[15] 2-6・『人間の外へ』[水虫](2012/09/03 15:01)
[16] 2-7・『天道宮』[水虫](2012/09/10 15:29)
[17] 2-8・『霧中の異界』[水虫](2012/09/12 18:52)
[18] 2-9・『白骨』[水虫](2012/09/15 14:55)
[19] 2-10・『虹』[水虫](2012/09/28 17:39)
[20] 2-11・『溺愛の抱擁』[水虫](2012/09/18 13:37)
[21] 2-☆・『花散りし揺り籠で』[水虫](2012/09/20 12:30)
[22] 3-1・『炎の揺らぎ』[水虫](2012/09/28 17:41)
[23] 3-2・『メリヒム』[水虫](2012/09/28 17:50)
[24] 3-3・『避球』[水虫](2012/09/29 19:14)
[25] 3-4・『千々の行路』[水虫](2012/10/12 22:25)
[26] 3-5・『近衛史菜』[水虫](2012/10/17 06:12)
[27] 3-6・『巫女の託宣』[水虫](2012/10/18 10:30)
[28] 3-7・『嵐の前』[水虫](2012/10/20 20:18)
[29] 3-8・『万条の仕手』[水虫](2012/10/22 15:07)
[30] 3-9・『桜舞う妖狐』[水虫](2012/10/24 12:40)
[31] 3-10・『約束の二人』[水虫](2012/10/29 18:54)
[32] 3-11・『兆し』[水虫](2012/10/27 19:23)
[33] 3-☆・『少女の決意』[水虫](2012/10/29 18:47)
[34] 4-1・『名も無き紅蓮』[水虫](2012/11/03 11:29)
[35] 4-2・『デビュー』[水虫](2012/11/09 19:00)
[36] 4-3・『玻璃壇』[水虫](2012/11/20 13:25)
[37] 4-4・『リシャッフル』[水虫](2012/11/24 13:34)
[38] 4-5・『炎髪灼眼の討ち手』[水虫](2012/11/24 16:52)
[39] 4-6・『歩みは全て激突へ』[水虫](2012/11/29 16:29)
[40] 4-7・『銀と紅蓮』[水虫](2012/12/04 14:30)
[41] 4-8・『仮面の奥の』[水虫](2012/12/06 06:11)
[42] 4-☆・『転校生』[水虫](2012/12/07 14:31)
[43] 5-1・『校舎裏の宣戦布告』[水虫](2012/12/17 09:25)
[44] 5-2・『波紋』[水虫](2012/12/17 09:29)
[45] 5-3・『シャナ』[水虫](2012/12/19 05:56)
[46] 5-4・『心の距離』[水虫](2012/12/21 14:36)
[47] 5-5・『弔詞の詠み手』[水虫](2012/12/25 06:31)
[48] 5-6・『メロンパン』[水虫](2012/12/27 17:19)
[49] 5-7・『サッキーの魔手』[水虫](2013/01/04 07:42)
[50] 5-8・『鼓動の先』[水虫](2013/01/08 20:08)
[51] 5-9・『今日という日は戦い』[水虫](2013/01/09 21:36)
[52] 5-10・『屍拾い』[水虫](2013/01/15 14:55)
[53] 5-11・『蹂躙の爪牙』[水虫](2013/01/19 06:41)
[54] 5-12・『文法』[水虫](2013/01/22 11:53)
[55] 5-☆・『群青の狂狼』[水虫](2013/01/23 21:42)
[56] 6-1・『螺旋の風琴』[水虫](2013/02/17 14:39)
[57] 6-2・『いつか去る場所』[水虫](2013/04/13 14:56)
[58] 6-3・『ピット』[水虫](2013/04/13 14:55)
[59] 6-4・『勉強会』[水虫](2013/04/27 20:24)
[60] 6-5・『お化け屋敷』[水虫](2013/06/13 19:00)
[61] 6-6・『恋する資格』[水虫](2013/05/11 19:44)
[62] 6-7・『調律師』[水虫](2013/05/23 19:05)
[63] 6-8・『ミサゴ祭り』[水虫](2013/05/23 19:02)
[65] 6-9・『歪んだ花火』[水虫](2013/05/30 20:47)
[66] 6-10・『お助けドミノ』[水虫](2013/06/19 18:26)
[67] 6-11・『池速人』[水虫](2013/06/19 17:28)
[68] 6-12・『夜会の櫃』[水虫](2013/06/27 06:47)
[69] 6-13・『壊刃』[水虫](2013/06/29 19:28)
[70] 6-☆・『赤い涙』[水虫](2013/06/29 19:59)
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[34371] 2-11・『溺愛の抱擁』
Name: 水虫◆21adcc7c ID:e35eb391 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/18 13:37
 
 手足を締め上げられる痛み、斬撃とは別種の痛みを受けて、ヘカテーは数秒の暗転から覚醒した。
 
「あら、もう御目覚め? 今から“優しく”起こして差し上げようと思ってましたのに」
 
 目の前には、嗜虐的な笑みを浮かべ、ヘカテーを見下し勝ち誇るティリエル。そのティリエルに抱き締められながら瞳を輝かせるソラト。ヘカテー自身はと言えば、両手足を蔓に縛られて、磔にされた罪人のように吊されている。
 
「(………どうして)」
 
 身動ぎするだけで激痛に顔を歪め、理不尽な結果をヘカテーは恨む。
 ソラトの大剣を、ヘカテーは確かに受け止めた。だと言うのに今、彼女は全身に傷を負って捕えられている。
 
「これがお兄様の『吸血鬼(ブルートザオガー)』、刃に触れた相手を存在の力で斬り刻む宝具ですの。もっとも、もう古びた玩具でしかないのですけど」
 
 勝者の余裕からか、己が手の内を自ら語るティリエル。その眼が、鋭くヘカテーを睨んだ。
 
「お兄様は新しい宝具を求めている。判ったら、おとなしく渡して下さるかしら?」
 
「………新しい宝具?」
 
 その言葉に嫌な予感を覚えて、ヘカテーは気を失っても手放さなかった大杖『トライゴン』を強く握り締める。しかし、続くティリエルの唇は予想に反して、
 
「もちろん、『贄殿遮那』ですわ」
 
 全く身に覚えの無い単語を口に出した。
 
「おとなしく渡せば、余計な苦しみを与えずに一思いに葬って差し上げますわよ?」
 
 凄むように一歩、ティリエルが足を進める。見当外れな要求は脇に置いて、ヘカテーは自身の状態を確かめる。
 傷は……深い。先ほどの消耗戦と回復に費やしている力を合わせて、この拘束を砕く余裕が無い。
 
「(いま来られたら、不味い)」
 
 判っていても、こんな状態では時間を稼ぐ術も無い。一か八か、或いは自滅に繋がるかも知れない力の顕現を、それでも今やられるよりはマシと練り上げるヘカテーの、眼前で―――
 
「え…………?」
 
 ティリエルの上半身が、唐突に“落ちた”。残った下半身も、それに遅れて崩れ落ちる。
 胴体から彼女を両断したのは、ヘカテーでもなければ先ほど現れた気配の主でもない。
 
「ははっ! やったやった!」
 
 彼女のすぐ後ろで守られていた兄、“愛染自”ソラトの凶刃だった。
 
「やっとてにはいった! ぼくのだ! ぼくのヘカテー!」
 
 ヘカテーには、何がなんだか解らない。
 何故この徒は、いきなり自分の妹を斬り倒して、無邪気に笑って喜んでいるのだろう。目先の脅威が一先ず去った安堵以上に、目の前の異様な光景に寒気を覚える。
 その、嫌悪感しか持てない無邪気な瞳が、我欲を漲らせてヘカテーを見る。
 
「もうぼくのだからな! かってにどこかにいったり、あばれたりしちゃだめなんだぞ!」
 
 子供が駄々を捏ねるように言いながら、我慢しきれなくなったようにソラトはヘカテーに飛び付いた。
 今度こそと、渾身の力を込めるヘカテーの前で、
 
「ぐぇ……!?」
 
 またしても、脅威は止まる。背後からソラトの首を掴む、小さな掌によって。
 
「ねぇ、お兄様。正直にお答えになって?」
 
 それは、山吹色の光を纏う少女の手。先ほどソラトに斬り倒された筈の、ティリエルの手だった。見れば、胴体を両断されたティリエルは、何事も無かったかのように無傷でそこに立っている。
 
「(……再生が、速過ぎる)」
 
 これでは接近戦も無駄、と現実の脅威を分析するヘカテーの存在など、今のティリエルの眼中には無い。
 見えるのは、振り返る事も出来ずに喉を潰されかけている最愛の兄の姿だけ。
 
「この地には、『贄殿遮那』を求めて来た。そうですわよね?」
 
「ぐぇ……ごっ……!」
 
 指先が深く、抉らんばかりに首にめり込む。
 
「お兄様を守るのは誰? お兄様の望みを叶えるのは誰? お兄様が甘えて良いのは誰? お兄様に愛を囁いて良いのは誰?」
 
 返事も出来ない相手に向けて、壊れた機械のようにティリエルは繰り返す。
 
「そう、私。私、私、私私私私私私私。私以外には有り得ない。そうですわよね?」
 
 言う間にも、ソラトの手に足に胴に蔓が巻き付き、一切の抵抗を封じている。
 ソラトに許された動きは一つだけ。
 
「……っ………!」
 
 さらなる痛みを伴うと判ってなお首を縦に振る、その小さな動作だけ。そうして初めて、ティリエルはソラトを解放した。
 
「あ……あ…ティリエル……」
 
 両目に涙をいっぱいに溜めて、弱々しく震えるソラト。そんな兄を自分という揺りかごに捕らえるように、ティリエルは優しく抱き締める。
 
「可哀想なお兄様。大丈夫ですよ、お兄様が求める物は、私が必ず手に入れて差し上げますから」
 
 抱き締めてから、怯える顔を両掌で柔らかく包み込み、そして――――
 
「っ……!?」
 
 その唇に、自身のそれを重ねていた。
 唇を貪り、舌を絡め合い、唾液を交換し合う。戦いの場で、ついさっき自分を斬り倒した相手と、浅ましい欲求に耽溺する。
 ヘカテーには何一つ理解できない、力とは全く違う衝撃に圧倒されていると………
 
「ぷはぁ……だから、まずは……」
 
 唇を離したティリエルの眼が、刃以上に冷たい光を宿してヘカテーを見た。
 
「邪魔者を、始末いたしましょう」
 
 もはや一切の容赦は無い。流石のソラトももう拘泥は出来ない。
 山吹色の炎を燃やす蔓の怒涛が、兄を誑かした恋敵を呑み込まんと押し寄せる。
 
 
 
 
 鞘を滑って、サーベルの刃が抜き放たれる。
 それに合わせて男の背中から七色七条の光が伸び、光背とも七色の翼とも見える壮麗な輝きで銀髪の騎士を飾った。
 
「虹の、翼……」
 
 徒の本質を顕す自在法の発現に、悠二は知らず男の真名を口にする。絶大な力を滾らせ光るその姿は、恐怖を越えて憧れを抱かせるほどに圧倒的だった。
 何百年ぶりかという力の充溢に笑みを浮かべる男の横眼が、ジロリと悠二を見る。
 立ち竦んでしまっていた悠二は、些か以上に格好悪く、呆けたように気配の核……この街の中心を指で示した。
 
「よく見ておけ」
 
 魅せるように、誇るように、サーベルが高々と振り上げられた。背にした翼が屈折して絡み合い、虹となった光を刀身が纏う。
 
「我が必殺の、『虹天剣』を」
 
 その刃が、振り下ろされた。
 
「――――――――」
 
 爆発的な光輝を放つ虹の濁流が、指した方角へ一直線に突き進む。その閃虹は地を削り、民家を消し、ビルを貫き、触れた物を問答無用に消し飛ばして驀進する。
 その途上……とある小学校の屋上で、澄んだ旋律を奏でていた小箱、ティリエルの自在法を支えていた『オルゴール』を、ついでのように消滅させて。
 
「ま、街が割れたぁー!?」
 
 その馬鹿馬鹿しいほど滅茶苦茶な破壊力に、悠二は堪らず頓狂な叫びを上げる。
 男が方角だけを訊ねた理由が、今なら良く解る。距離も障害も、この自在法の前では全くの無意味だからだ。
 勝手に盛り上がる悠二を、いい加減うんざりしたような男の眼が睨んでいる。
 
「………で、当たったのか?」
 
 もう何度目か、呆れた催促が悠二を叱った。
 
 
 
 
「なっ……!?」
 
 『オルゴール』を破壊されたティリエルはもちろん、
 
「ッ!?」
 
 磔にされたヘカテーも、即座に異変に気付いた。
 それも当然。制止していなければ人間でも一目瞭然の大破壊が、さして離れてもいない場所を貫いたのだから。
 
「(ピニオンから力を集められない……ッ!)」
 
 ティリエルの『オルゴール』は、一旦自在式を込めればどんな複雑な音色でも奏で続けてくれる、彼女の『揺りかごの園(クレイドル・ガーデン)』を無敵の結界たらしめる中核だった。それを失った愛染兄妹は、もう燐子からの供給を受けられない。
 
 案の定――――
 
「はあっ!!」
 
 蔓の拘束、妖花の怒涛、それら全てが、ヘカテーの全身から弾けた炎にいとも容易く焼き散らされた。
 
「(悠二)」
 
 ティリエルだけではなく、ヘカテーも気付いていた。
 
「(悠二が、いる)」
 
 海の方に現れた気配が、ヘカテーには何も感じなかった場所を攻撃した。
 無関係な徒がそんな事をする理由もなければ、都合良く鋭敏な感知能力を持っている事もまず無い。だが、不自然な空白に悠二というピースを埋める事で、状況と狙いが読めて来る。
 
「(一緒に、戦ってる)」
 
 悠二が“あれ”をしたとは思えない。それでも、何らかの方法で……恐らく『天道宮』にいた徒を味方につけて……敵の結界を無力化した。
 さして遠くもない過去、銀に彩られた光景に宿る想いが、炎より熱く胸を焦がす。その熱さが、満身創痍の身体に十分過ぎる力を呼び起こし、
 
「『星(アステル)』よ!!」
 
 水色の流星群に変えて、撃ち放つ。連鎖的な爆発が絨毯爆撃のように溢れ返って、愛染の兄妹を通りごと呑み込んだ。
 
「やっ、た……」
 
 傷む身体を大杖で支えて、ヘカテーは爆煙に目をやる。いくらヘカテーが消耗しているとは言え、元来の格が違う。
 結界を崩された今、彼女らにヘカテーの『星』を凌ぐ術は…………
 
「っ」
 
 あった、らしい。
 山吹色に輝く光のケープを羽織った“愛染自”ソラトが、爆煙を裂いて飛び出して来た。
 
「(もう一人が、居ない………?)」
 
 そう、ヘカテーはまず思って、
 
「―――やって、くれましたわ、ね―――」
 
 次いで、ソラトから聞こえて来た声の正体に気付いて目を見張った。
 ソラトを護る光のケープは、只の防護ではない。己が顕現する力すら自在法に変換した、“愛染他ティリエルそのもの”。
 
「……どうして?」
 
 燐子から力を供給できなくなったティリエルは、事もあろうに自分そのものを削って兄を護った。そこまでする理由が、全く解らない。
 
「そいつは、お前をゴミのように斬り捨てた。そんな相手に、どうして命を懸けられるのですか」
 
 不可解だった片方は、朧気ながらも理解できた。己が我欲だけにしか興味を持たない、自儘な徒の中でも極端な享楽主義者。
 解らないのは彼女、“愛染他”ティリエル。
 
「―――可哀想な、女ね―――」
 
 消滅を待つ者とは思えない強い瞳が、嘲りを宿した、気がした。
 
「ヘカテーーーー!!」
 
 命を懸けて自分を護っている妹を気にも留めず、大剣を手にソラトが駆けて来る。こんな時でも変わらず、ただ欲しい物を求めて。
 
「………『星』よ」
 
 流星が奔り、ソラトを叩く。光弾は直撃した端から弾かれ、その前進を止める事すら出来ない。
 が………
 
「ぐぇあ……!!」
 
 光ではないモノ。流星に紛らせ投擲された大杖『トライゴン』が、ソラトの胸を貫いていた。
 
「ヘカ、テ………」
 
 届かぬモノに手を伸ばす欲望の使途に、星の巫女を右手を翳し、特大の炎弾を放つ。溢れ返った水色の炎が、浅ましい獣を消滅させる。
 
「………私にも、命を懸ける使命は在ります」
 
 負け惜しみのように、届かない言葉を手向けに贈る。
 
 ―――水色に燃える炎の中、血染めの大剣が墓標の如く突き立っていた。
 
 
 


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