――ギューフの月、上旬。 アルビオンの港湾都市ロサイスの端にある共和国空軍工廠(こうしょう)では、昼夜を問わずの突貫作業が行われていた。内戦で損傷したフネの修繕のみならず、新装備の搭載など――見る者が見れば、あきらかに次なる戦いを想定していると考えるであろう。 そんな中でひときわ目立つのが、神聖アルビオン共和国空軍艦隊旗艦『レキシントン』号だ。全長200メイル超の巨艦の舷側から複数突き出た長砲身の大砲は、革命戦争中には実装されていなかったものだ。司令塔の窓からそれらを視界に入れた男は、自分のすぐ側で佇む女性へ向けて、満足げに微笑んだ。「なんともはや、素晴らしい砲ではないかね。設計士の計算によると、トリステインやゲルマニアの戦列艦が装備するカノン砲の、約1.5倍の射程を有するとのことだ」「はい、まことに。東方の技術は、これほどまでに進んでいるのですね。設計図を拝見した時には、本当に驚きましたわ」「だが、その技術を模倣し、ここまで早く実現することができたのは、きみをはじめとした優秀な土メイジたちの助力があってのことだよ、ミス・サウスゴータ」 アルビオン皇帝オリヴァー・クロムウェルは、傍らに立つ女性――ミス・ロングビル改めマチルダ・オブ・サウスゴータに向けて感謝の言葉を述べた。「とんでもありません。閣下は、わたくしの代わりに悲願を達成して下さったのです。帰国早々、その閣下のお役に立てるだなんて。まさに『始祖』のお導きですわ」「サウスゴータ家は、モード大公粛正の際に――」「……はい。連坐責任を問われ、両親は断頭台の露と消えました。残されたわたくしは貴族の地位のみならず、家名までも剥奪され……国外へ追いやられたのです」「あの悲劇が、全ての始まりだったのだ。ロンディニウム管区教会の大司教だった余が、テューダー王家の理不尽な横槍によってその座を追われたのも……あの時だった。で、あればこそ、余ときみは、志を同じくする『ともだち』になれるとは思わないかね?」「そんな、ともだちなどと……もったいないお言葉ですわ。わたくしのことは、ただの部下として扱って下さい。閣下はすでに、このアルビオンを統べる皇帝なのですから」 マチルダの台詞に、クロムウェルは笑った。「この余とて、元は一介の神官に過ぎぬ。しかしながら、貴族議会の投票により議長と皇帝の地位を任されたからには、微力を尽くさねばならない。そのためには、ひとりでも多くの『ともだち』が必要なのだ。余には、果たすべき使命があるのだから。それが何かわかるかね? ミス」「『聖地奪還』で、ございますね?」 クロムウェルは大きく頷くと、激しい身振り手振りを交えながら、まるで聴衆を前に演説をするかのような大声で語り始めた。「そうとも。『聖地』だ! 我々選ばれし貴族たちは、鉄の結束によってひとつとなり、忌まわしきエルフどもから『聖地』を取り戻す! それが『始祖』ブリミルより余に与えられし使命なのだ! その偉大なる使命のために『始祖』は余に<力>を授けられたのだ!」 マチルダの眉が、ぴくんと跳ねた。しかし彼女は、すぐさま戸惑ったような顔をすると、目の前の男に問うた。「『始祖』が閣下にお与えになった<力>……とは? あ、いえ、出過ぎたことをお聞きしました。どうかお忘れ下さい」 だが、そんな彼女の態度が皇帝のお気に召したようだ。にっこりと微笑むと、クロムウェルは口を開いた。「魔法の四大系統はご存知かね? ミス・サウスゴータ」 そんなことは、メイジであれば子供でも知っている。相手によっては侮辱ともとられかねないその問いに、マチルダは笑みを浮かべながら答えた。「はい、閣下。土、水、火、風の4つですわ」「その四大系統に加え、魔法にはもうひとつの系統が存在する。それは『始祖』が用いし零番目の系統にして、万物の元となる魔法だ。余は、その<力>を『始祖』ブリミルより授かった。で、あればこそ、貴族議会は満場一致で余を『レコン・キスタ』の総帥とし、ハルケギニアを統べる皇帝にすべしと決定したのだよ」「『始祖』の……ま、まさか、あの失われた伝説の系統が、閣下の……?」 クロムウェルは、不気味な笑みを浮かべながら頷いた。「ついてきたまえ、ミス・サウスゴータ。貴女に<虚無>の系統をお見せしよう」 クロムウェルによってマチルダが案内された先は、かび臭い暗室の中だった。そこに置かれていたものを視界に捉えた彼女は、思わず顔を引き攣らせた。「本来であれば、うら若き女性に見せるようなものではないのだがね……失礼するよ」 それは、棺の中に納められた死体だった。人形などではない、本物の。おそらくは、王党派に与していた貴族であろう男性の胸には、それが致命傷となったと思しき裂傷が刻まれ、身につけている衣服のそこかしこに、赤黒い染みがこびり付いていた。「余は、アルビオンのすべての貴族を知っておる。系図や紋章はもちろんのこと、土地の所有権に至るまで、大司教時代に余すことなく諳んじたのだ。もちろん、いま、目の前で眠るこの男についても」 クロムウェルは腰に差していた杖を引き抜くと、低い声で詠唱を開始した。それは、マチルダがこれまで聞いたことのない言葉であった。呪文が完成すると、クロムウェルは優しい仕草で、杖を死体に振り下ろした。 すると――なんと、冷たい骸であった貴族の瞳がぱちりと開いたと思うと、青白かった顔に、みるみるうちに血の気が戻っていく。それからすぐに、死体であったはずのものがゆっくりと身を起こすに至って、マチルダはまるで糸の切れた操り人形のように、へたりと地面に尻をついてしまった。あまりのことに、さすがの彼女も腰が抜けてしまったのだった。「おはよう、男爵」 蘇った死体は、クロムウェルに向かって微笑んだ。「おはよう、クロムウェル大司教」「今の余は大司教ではない。皇帝なのだよ、男爵」「そうでした。これは失礼をば致しました、閣下」「きみを余の『ともだち』に加えようと思うのだが。男爵」「喜んで」 膝をついて臣下の礼をとった男爵を満足げに見遣ったクロムウェルは、すぐ後ろで呆然と床にへたり込んでいたマチルダに近寄ると、苦笑しながら手を差し伸べた。「すまんすまん、やはり怖がらせてしまったようだね。さあ、手を貸してあげよう」 震えながらクロムウェルの手をとったマチルダは、彼の助力によって立ち上がると、畏怖に満ちた声で聞いた。「し、死者が蘇るだなんて……もしや、これが……?」「その通りだ。<虚無>は『生命』を司る系統なのだよ」「『生命』を……司る……」 クロムウェルは、マチルダの顔を見て不気味に笑った。「数多の生命が『聖地』に降臨せし『始祖』によって与えられたとするならば、全ての人間は<虚無>の系統で動いているとは言えないかね?」 マチルダは、思わず胸を押さえ、心臓の鼓動を確かめた。彼女はふいに、自分が間違いなく生きているという実感が欲しくなったのだ。そんな弱さを見せつつも『土くれ』としての鋭い目は、クロムウェルの指に填められた、古びた指輪を捉えていた。○●○●○●○●「あれが、わたしたちが探していた『お宝』で間違いなさそうよ。こうもあっさり懐に飛び込めるだなんて、これも新型カノン砲とやらのおかげだね」 ロサイスの一画にある宿に戻ったマチルダは<魔法探知>で周囲に魔法による『目』や『耳』がないことを確認すると、彼女付きの護衛という触れ込みでアルビオンに同行していたアニエスに、昼間見たものを余すことなく伝えた。 アルビオンの港町スカボローから、マチルダの故郷であるシティ・オブ・サウスゴータに辿り着いたふたりは、そこで情報収集をしていた際に、ロサイスの国立空軍工廠で優秀な土メイジを広く募集していることを知り、この地へやって来たのだ。 土メイジが集められた理由。それはもちろん内戦によって傷ついた船の修繕、そして東方からもたらされた知識によって設計されたという、新型カノン砲鋳造のためだった。 革命戦争によって疲弊し、高位のメイジを大幅に減らしていた貴族派連盟は、中でも貴重な土の『トライアングル』であるマチルダを諸手を挙げて歓迎した。 さらに、マチルダの実家がテューダー王家によって滅ぼされたという事情を多くの貴族たちが知っていたことが功を奏し、なんと皇帝自ら『レコン・キスタ』へ勧誘してくるという副産物までついてきた。まさに新型カノン砲さまさまだ。彼女にとって、クロムウェルは実家の恨みを間接的に晴らしてくれた恩人とはいえ、それと仕事とはまた別なのであった。 マチルダの話を聞き終えると、アニエスは形の良い眉根を寄せて言った。「それにしても、死体を蘇らせて操るなど……おぞましさもここに極まれり、だな」「演技のつもりが、本当に腰抜かしちゃったわよ! あれじゃあ、周りの貴族どもがクロムウェルを担ぐのも無理ないわね。いや、もしかすると、とっくに『貴族議会』は全員『ともだち』にされてるのかもしれないわ」 ぶるっと震えたマチルダに、アニエスが不安げな声で訊ねた。「まさかとは思うが、お前も『指輪』で操られていたりはしないだろうな!?」「だったら、こんな話を出したりすることなんて、できるはずないでしょ。でも、意外ね。あんたがそんな声を出すなんて」「うるさい。わたしにだって、嫌悪を感じることはある」 ふて腐れたように口を尖らせる女傭兵を見たマチルダは、思わず吹き出してしまった。「笑うな! しかし、本当に大丈夫なのか? わたしは、このまま深入りを続けるのは危険過ぎると思うのだが」「あら、心配してくれてるの?」「当たり前だ。お前にもしものことがあったら、残された子供たちはどうなるんだ!」 いきり立つアニエスに、マチルダは静かな声で告げた。「だからこそ、やらなきゃいけないのよ」「なに!?」「あんただって、よく知ってるでしょう? 戦争が、いったい何を生み出すか。あの子たちはね、身勝手な理屈で戦い続けてるあの馬鹿どものせいで、住む場所も、親も失ったのさ。この戦いが続けば、同じような子供たちがもっと増えるわ。これはね、わたしたち家族にとっての復讐でもあるんだよ」 その言葉に、アニエスはぎりっと唇を噛んだ。彼女自身も理不尽な戦いの犠牲者であり、復讐者だから。魔法が一切使えない平民であるアニエスが、女だてらに傭兵などという荒々しい職業に就いているのも、すべては過去の清算のためなのだ。「『レコン・キスタ』の中枢にいれば――トリステインの王軍にいる『裏切り者』を見極めやすくなるわ。その中には、きっと……」「わかっている。わたしの故郷をロマリアに売ったという貴族も、きっといる。いや、いないはずがないんだ。金のために、平然と村ひとつ滅ぼしたくらいなのだから」 幼い頃は、何もわからなかった。だが、成長して剣と銃をとり、傭兵となったアニエスは『裏側』に触れることで、ついに知るに至ったのだ。彼女の故郷が、王軍によって焼かれたのは――当時、新教徒への弾圧を強めていたロマリア皇国が、トリステインの上層部にいる貴族に裏金をちらつかせて行わせた『新教徒狩り』であったのだと。 彼らは、ロマリアから逃げ込んだ新教徒たちを殲滅するために、無関係の村人たちをも虐殺したのだ。ただ、己の懐を暖めるためだけに。そんな腐りきった貴族が、国難の際にどう動くか。ほぼ間違いなく、保身に走る――圧倒的優位に立つ『レコン・キスタ』に、国を売ろうとするだろう。アニエスは、そう考えていた。だからこそ、彼女はマチルダと共にアルビオンを訪れ『レコン・キスタ』に身を投じたのだ。 サイドテーブルの上に置かれていたワインとグラスを手に取り、マチルダは言った。「その通り。だから、わたしたちは――」「目的を同じくする、同志だ」 それに答えたアニエスの手にあるグラスへ、血のように紅い液体が注がれた。○●○●○●○● ――空の上で、ふたりの女性が酒杯を交わし、盟約を結んでいたころ。「はあ……」 トリステインの魔法学院では、才人が何度も何度も、繰り返しため息をついていた。彼の頭の中は、現在ひとりの女の子に関することで、いっぱいになっていたのだ。それ以外のことなど、考える余裕すらなかった。「俺、ほんとにどうしたらいいのかな。異世界からピンポイントで召喚されるとか、ぶっちゃけもう運命としか思えねーくらいなんだけど、でもなあ……」 再びため息をついた才人は、窓から外を見る。「もういい加減、覚悟決めなきゃいけないのはわかってんだけどさ。またあの時みたいなことになったら、今度こそ冗談ヌキで立ち直れないんですケド……」 心の中でそう呟いた才人は、かつて自分が盛大にやらかしてしまった、とある失敗を思い起こした。 それは、才人がまだ中学生の時――2月14日に起きた事件。 彼の出身地である日本では、毎年その日になると『女の子が、想い人にチョコレートを渡して愛の告白をする』などという、一部の人間には甘く、そうでない者には塩辛過ぎるイベント『バレンタインデー』なるものが発生する。 思春期まっただ中の才人少年が、そんな一大イベントを忘れるはずもなく。朝、いつもより早い時間に起きるやいなや、放たれた矢のような勢いで学校へと向かった。「下駄箱に手紙と一緒に入ってる、とか、ベタ過ぎるけど憧れるよなあ。去年はダメだったけど、今年は1個くらいあるよな! そしたら俺、どうしようカナ! カナ!!」 だがしかし、そんな期待も虚しく下駄箱の中には上履き以外には何もなかった。「ああ、うん。わかってた。わかってたよコンチクショー!」 だばだばと涙を流し、周囲にドン引きされながら教室へ到着した才人は、いつものように鞄から取り出したノートと教科書を机の中に詰め込もうとして、異変に気付いた。何かに引っかかってしまい、入らないのだ。昨日は、間違いなく空っぽだったはずで――。「も、も、もしかして……?」 どきどきと高鳴る心臓を抑えながら、机の中を覗き込んでみると――そこには、可愛らしくラッピングされた小箱がひとつ入っていた。「こ、こ、こ、ここ、ここここここ」「なんだよ平賀、鶏みたいな声出して」 隣に座っていた同級生が、怪訝な面持ちで訊ねた直後。「うおおおお――ッ!!」 才人は、教室中に響き渡るような叫び声を上げた。 それまで、女の子からチョコレートはもちろんのこと、プレゼントなどもらったことのなかった才人は心の底から喜んだ。喜びすぎて、まるで天国への切符を手にした虜囚が如く、小箱を手にそこらじゅうを跳ね回った。「今思えば、あそこまでにしておけば良かったのかもしれねーけど、あんときは、ほんとに嬉しかったんだよなあ。嬉しくて、嬉しくて、もうどうにもならなかったっつーか……」 そう。叫び声を上げて、跳ね回ったところまではまだ良かったのだ。問題は、その後だ。才人は小箱を掲げ、とんでもない真似をしでかしてしまったのである。「誰? ねえ、誰!? これ俺にくれたの誰! もう一生愛しちゃうよ!!」 ……などと、聞いているほうが恥ずかしくなるようなことを叫んでしまったのだ。 と、そこへひとりの女の子が名乗りを上げた。ちょっと地味目の子だったが、顔立ちは割と整っていた。才人は、すぐさまその子に礼を言おうとしたのだが――次の瞬間、彼は地獄へ叩き落とされた。「ごめんなさい、入れる机……間違えた」 そして、唖然としている才人からひったくるように包みを取り上げると、少女は教室の外へ、小走りに去っていってしまった。「あれ、照れ隠しだったのかなあ。それとも、本当に入れ間違いだったのかな。どっちなのか確かめる勇気なんか、なかったし」 これで、別の女子生徒からチョコレートがもらえていたりすれば、その後の展開も変わっていたのだろうが――運命とは実に残酷で。 その日の夕方。いつも通り、教科書と筆記用具以外には何も入っていない学生鞄を抱えて自宅に戻った才人は、部屋の片隅でひとり布団にくるまって泣いた。「あれから、どうにも怖くなっちまったんだよなあ。気になる子がいても、声かけづらくなったっつーか、つい意地悪したくなっちまうってか……小学生かよ、俺は!」 とはいえ、異性にはものすごく興味があるし、彼女が欲しい。そんな才人が、思い余った末にとった行動はというと――。「出会い系サイトに、メアド登録したんだっけ。そういや、メール届いてるのかな。ここからじゃ確かめようがねーけど」 才人は、折りたたみベッドの脇で埃をかぶっているノートパソコンに目を向けた。既にバッテリーの充電は切れ、起動させることすらできない。そもそも異世界からインターネットが繋がるとも思えない。才人は三度ため息をついた。「ったく、こんなんで『伝説の勇者候補』とか! 笑っちまうよな。ただ好きな女の子にコクるってだけで、動けないんだぜ? 絶対選ぶ基準おかしいって!!」 だがしかし。伝説だろうとなんだろうと、怖いものは怖いのである。「ルイズに好きだって告白して、断られたらどうしよう。それどころか『キモイ』とか言われたりしたら……いや、絶対そうなる。んで、犬に逆戻りだ。わん。そんでもって部屋の外に追い出されて、きゅんきゅん鳴いてゴシュジンサマにお慈悲を願う俺……」 才人の思考は、またしても底なしの泥沼に沈みかけていた。「ここへ来た頃みたいに、使い魔に見られても気にしないわ! なーんて言いながら、いきなり目の前で服脱いだりしなくなったし、いい加減男として認められては……って、単に使い魔から従者にランクアップしたから、かなあ……でもでも、だいぶ仲良く話とかできるようになったし……ってそれは単に、俺が側にいるからってだけだよなあ……」 ――彼にヌケているのは、注意力だけではない。そっち方面の勘も大概だった。 そんな才人の心を揺り動かしたのは、アルビオンの勇敢な皇太子ウェールズだった。 アルビオンからの帰り道。ウェールズと語り合った才人は、激しい衝撃を受けた。王子の秘めた覚悟はもちろんのこと――彼が見せた、愛するひとへの心遣い。それに比べて、俺の心の奥底にあった、ルイズに対する身勝手な想いはなんなのだと。『俺はこれだけ頑張って守ってやってるんだから、好きになってくれて当たり前』 そんなふうに考えていた自分に気付き、心底嫌気が差したのである。だからこそ、きちんと「好きだ」と告白して、その上でルイズを守ろうと才人は決めた。別に、玉砕したっていい。王子さまも言ってたじゃないか。真実の愛には、見返りを求めるべきじゃないって。「けどなあ……」 実際に行動に移そうとすると……やはり、はじめの一歩が踏み出せない。今、ふたりの間にある良好な関係が壊れそうで、それが怖くてたまらなかった。 ぼけっと外を眺めながらそんなことを考え、時折ルイズのほうを見る。視線が合うと、慌てて顔を逸らす。アルビオンから戻って以降、才人はずっとこんな調子であった。ルイズが不安に思うのも、無理はない。○●○●○●○●「サイト……やっぱり、まだ戦場を見たショックから立ち直れないのね……」 かたやルイズのほうはというと、才人の挙動不審の原因をそう捉えていた。 正直なところ『虚無の担い手』である自分を守りし『盾』たる彼には、もっとしっかりして欲しいと思う。出会ったばかりの頃なら、いい加減煮え切らない態度にイラついて、「いい加減にしなさいよ、このバカ犬!」 などと叫んで、蹴りのひとつも入れていたかもしれない。しかし、それを望むのは酷なことなのだと考える自分も、ルイズの中に存在していた。「サイトのいたところって、確か60年以上も戦争どころか内紛も起きてない、平和な島国なのよね……」 紛争が日常茶飯事といっても過言ではないハルケギニアとは、まるで事情が異なるのだ。自分たちの常識に当てはめて、軟弱だなどと斬り捨てることはできない。「わたしだって子供の頃は、国境の近くで小競り合いが起きた、って聞いただけで部屋の隅で震えてたし、ニューカッスルのお城へ向かった時だって、強がってたけど……ほんとは怖くて仕方なかったもん。だけど……」 いつまでも元気のない才人を見ているのは辛い。小さな胸の奥が、チクリと痛むのだ。早く元の明るさを取り戻して欲しいと思うのだが、ルイズには、いったい何をどうすればいいのかわからなかった。自分以外の誰か、それも男の子を元気付ける方法など、彼女は知らなかったから。 才人を元に戻すための良い方法がないかどうか、誰かに相談しようという気にはならなかった。本人に聞くことすら思い浮かばなかった。ルイズはどうにかして、自分の手で才人を元気にしてあげたかったのだ。「なんで、そんなふうに思うのかしら。誰かに手伝ってもらうのがイヤだから? それは、どうして?」 ――そこまで考えるに至って、ルイズは気付いた。何故、こんなにサイトのことが気になるんだろう。最近、ずっとあいつのことばかり考えている。ふたりだけで過ごしたい、誰かに割り込まれたくないと思ってる。「まさか、これって、も、もしかして、サイトのことが『好き』ってことなのかしら?」 そう、心の中で呟いてみた途端――ルイズは、顔が紅潮していくのを感じた。 これまでルイズは、貴族としてのプライドや、高貴な家柄だのが邪魔をして、自分の中に芽生えつつあった気持ちをどうしても認めることができなかった。 これは絶対恋なんかじゃない。ただ、今まで周りにいなかった、仲のいい男の子ができただけ。それだけなんだから! ……彼女は、ずっとそんなふうに感情を抑え込んでいたのだ。「けど、だったらこれは、なんなのよ……」 心の内で呟きながら、そっと胸に手を当てると……そこがどきどきと高鳴っているのがわかる。才人のことを考えるだけで、心の奥がぽかぽかと暖かくなってくるのだ。 う~、とか、そんな、でも……などと頭の中で唸りつつも、ルイズは、ようやく自分が抱き続けてきた感情に、正面から向き合う覚悟をした。その途端、心がすっと軽くなったような気がした。まるで、大きな重石を取り除いたかのように。「やっぱり、そういうことなのよね……」 サイトが好き。そう考えるだけで、なんだか頬が熱くなる。やっぱり、これは恋なんだ。いったい、いつからあいつのことが気になり始めたんだろう。生真面目なルイズは、顔を赤らめながらも――過去の出来事を振り返りつつ、自分の気持ちを丁寧に分析し始めた。 初めて魔法が爆発するところを見せてしまったとき、あいつが笑わなかったから? それとも、お前はゼロじゃない。そう言って、励ましてくれたからかしら? 口調は、今と同じでぶっきらぼうだったけど。 ギーシュといさかいを起こした時かしら。わたしへの侮辱に、本気で怒ってくれたわ。名前すらろくに呼ぼうとしなかったわたしのために、決闘を受けて立ってくれた。魔法が使えない、平民の彼が。まだ<ガンダールヴ>のことも知らなかったのに。 フーケのゴーレムに立ち向かおうとしたときも「主人の『盾』になるのが俺の役目なんだろ」そう言って、ついてきてくれたわよね。足はちょっと震えてたけど。 フリッグの舞踏会の日に「いつか、一緒に行こう」そう約束してくれた。本当に使えるようになるどうかもわからない、わたしの魔法を信じてくれたわ。 そこまで思い出すに至って、再びルイズの頬は赤く染まった。そうだ、きっとあの時だ。わたしの心の片隅に、ほんのりと暖かいものが灯ったのは。「サイトは、わたしのことをどう思ってるのかしら? 意地悪で、わがままな女の子? それとも、キツいことばっかり言うご主人さま? わたしみたいな女の子のこと、どんな目で見てるのかしら」 自分の心に素直になった途端、ルイズは猛烈な不安を覚えた。彼女はもともと、幼い頃から抱え続けてきた劣等感のせいで、自分に自信が持てない。その上、こんなにも長く一緒に過ごしているにも関わらず、才人の気持ちがちっともわからなかったから。 大貴族の娘。大勢の召使いに傅かれるという、周りから常に気を遣われる環境にあり、婚約者こそいたものの、異性とのお付き合いなどしたことがないルイズにとって、男の子――それも、才人のような少年の気持ちを推し量ることなど、どだい無理な相談なのだ。「わたしのために、いろいろ頑張ってくれてるのはよく知ってるけど、それって従者としての役目を果たしてるからってだけなのかしら。ねえ、そこんとこ、どうなの?」 そんなことを考えながらふと顔を上げると、さっきまで窓の外を見ていた才人とばっちり目が合った。それがなんだか気恥ずかしくて、ルイズは思わず顔を背けてしまった。 ……使い魔と主人。いろいろな面で、本当によく似た主従なのであった。 気まずい空気が流れる中。コツコツと遠慮がちにドアをノックする音がした。この状況を打破してくれるものならなんでもいい。ルイズと才人は、奇しくも同時に扉へ向かって駆け寄ると――その手で鍵を開けた。 ――ドアの外に立っていたのは、学院長から寄越されたメッセンジャーだった。○●○●○●○●「ミス・ヴァリエール。姫殿下の結婚式で詠み上げる、詔の進み具合はどうかね?」 ルイズは俯いた。その後、ふるふると首を振った。「ふむ。どうやら、まだのようじゃな」「も、申し訳ありません……」 ルイズは落ち込んだ。自分たちのことばかり考えて、詔の作成を完全に忘れていたことを恥じた。姫殿下は、わたしとの友情を大切に思ってくださっていたからこそ、巫女の大役を与えてくださったのにと。 しかし、オスマン氏はそんなルイズを非難するでもなく、顎髭に手をやりながら大仰に口を開いた。「ま、そう急ぐこともなかろうて。式までは、まだ半月以上ある。君の大切な友人の式なんじゃから、念入りに言葉を選び、祝福してあげるといいじゃろう」 その言葉を聞いたルイズは、何だか悲しくなった。幼なじみのアンリエッタは、トリステインの未来を守るために、国を出て好きでもない相手と結婚しなければならないのだ。それが王族としての務めであるとはいえ、姫君の悲しそうな笑みを思い出すと、胸がぎゅっと締め付けられた。 だが。今は、それとは別に気にかかることがあった。「ところで、学院長。ひとつ聞きたいことがあるんですけど」「何かね?」「コルベール先生がいるのは、まだわかるんですけど……どうしてここに、エレオノール姉さまとミスタ・タイコーボーがいるんですか?」 『始祖の祈祷書』とデルフリンガーを持って、ふたりで学院長室へ来るようにとの伝言を受け取り、才人と共にやって来たのはよいのだが……何故か、そこに件のふたりが待ち構えていたのだ。「その件なのじゃが……コルベール君。例のものを」「……かしこまりました」 コルベールは頷くと、古びた小箱を持ってルイズの前へと移動した。その中に入っていたものを見て、ルイズは絶句した。 まるで血のように紅い宝玉の奥に、小さく踊る炎。それは、見覚えのある指輪の台座に留められていた。「ここ、これは、まま、まさか……」 ルイズは混乱した。始祖の秘宝。系統の指輪。どうしてこれが、ここにあるのか。「それを確かめるために、彼らと君たちに来てもらったのだよ。さあ……」 オスマン氏に勧められるまま、ルイズは指輪を手に取ると、そっと自分の右手薬指に填めた。それからマントの内ポケットから『始祖の祈祷書』を取り出し、開いてみると――指輪と書物から、淡く、紅い光が発せられた。「あの時と同じ反応……やはり本物か」 オスマン氏が唸る。コルベールの顔が陰る。エレオノールが息を飲む。太公望と才人はその光景を、ただ黙って見つめている。 『祈祷書』が光ったということは――つまり、呪文が読めるんだわ。以前の経験から、それを察したルイズは、無我夢中でページをめくり始めた。そして、新たに浮かび上がっていた文字列を見出した彼女は、その内容を声に出して詠み上げる。「<世界見の鏡>。『空間』の中の序。此、遙けき世界の様を映す呪文なり。以下に、発動に必要な魔法語と、媒体となる道具を記す」「遙けき世界って……もしかして!」「しッ、今はまだ黙っておれ」 思わず興奮する才人を、太公望が静かにさせた。 ルイズは思った。これは、サイトの故郷を映し出す呪文なのだろうか。もしかすると、彼を元気にしてあげたい、そればかり考えていたから『始祖』はわたしに、これを授けてくれたのかもしれない。「学院長、そこにある『鏡』をお借りします」 すっと杖を取り出したルイズは、それを指揮棒のように振りながら詠唱を開始する。「ユル・イル・クォーケン・シル・マリ……」 それは<瞬間移動>とは比べものにならない程に長い呪文だった。まるで、神に捧げる調べのような美しい古代のルーンが、ルイズの口から紡がれてゆく。 約5分ほどの詠唱を終え、呪文を完成させたルイズは、学院長室にあった『遠見の鏡』に向けて、静かに杖を振り下ろした。 全員が、息を飲んで見守る中。鏡が淡く輝き出すと、唐突に光が消え――そこに、何かが映し出された。それは間違いなく、この部屋ではない別の何処か。高い塔が立ち並ぶ、異国の風景。「こ、こ、これ、新宿だよ……間違いない。あの、てっぺんが2本突き出たビル……東京都庁舎だ」 才人の声を聞いて、全員が彼のほうを振り向いた。彼が知っている場所。つまり……。「これが、サイトの故郷なの?」 才人は<世界鏡>から視線を外さずに頷いた。ルイズは――いや、そこにいた全員が、鏡の中に映し出された光景を改めて見、そして目を奪われた。 たくさんの塔が、規則正しく立ち並んでいる。しかも、ただの塔ではない。その高さは、王立アカデミーの学術塔はおろか、ハルケギニアのどんな建造物も及ばない。 洗練された技術を伺わせる壁に、たくさんのガラスが填め込まれ、日差しを受けてきらきらと光り輝いている。熟達した土の『スクウェア』の腕をもってしても、到底造り出すことなどできそうもない――まるで芸術作品のような塔だ。 そんな塔が、一棟だけではない。両手の指で数え切れないほど並び立っているのだ。 このような建物が立ち並ぶ大都市など、ルイズはもちろんのこと、エレオノールも、オスマン氏でさえ見たことがない。コルベールは、以前『伏羲の部屋』で超文明世界の幻を目にしていたが、それともまた違っている。彼らは目を丸くして、ハルケギニアから遙か遠き世界の景色を見つめていた。 太公望は『新宿』と呼ばれた街を見て、感嘆のため息を漏らした。「才人の故郷は、相当に文明が進んでおるようだのう。魔法もなしに、これほどの街を造ることができるとは」「そそ、そんな馬鹿な。ここ、こんなに美しい塔の建造に、ま、魔法が使われていないですって!?」 太公望の言葉に動揺したエレオノールは、その場で才人を問い詰めようとした。だが、できなかった。何故なら、鏡の前に呆然と立ち尽くしている才人の両目から――ぽたり、ぽたりと大粒の涙が零れ落ちていたから。 その理由はともかく、ただでさえ精神的に参っていたところへ、この不意打ち。好きな女の子に見られている。そんなことを考える余裕すら、今の才人にはなかった。 高い場所から見下ろすような視点ではあるものの、懐かしく、見慣れた景色。それが、才人が心の奥底に押し込めていた望郷の念を激しく刺激した。 ルイズと一緒にいたい。大勢の仲間たちと、この世界で楽しく過ごしたい。それも才人の本心だ。けれど、家へ帰りたい、家族に会いたいと願う心は消えてなどいなかったのだ。 両親の顔。東京都内にある自宅玄関のブロック塀と、端が欠けた植木鉢。毎日歩いていた通学路。いつも一緒につるんでいた親友。小言ばかり言う担任の先生。隣の席に座っていた同級生。そんなひとたちやモノの全てが、才人の脳裏に浮かんでは消えていく。「ちきしょう、味噌汁飲みてぇよ……みんなに、会いてぇよ……」 まるで、水桶にかけられていた箍(たが)が外れ、中身が吹き零れてきたかのように、感情が次から次へと溢れ出してきて、才人はその場で無力な幼子のように泣くことしかできなかった。いつしか部屋は静まり返り、彼のすすり泣く声だけが小さく響いていた。 それを目にしたルイズは、愕然とした。やっぱりサイトは、故郷に帰りたいんだ。戦場へ行ったからってだけじゃない。平和な自分の世界を思い出して、元気をなくしていたんだわ。こんなに長い間、家族と離れ離れになってたんだもの……当たり前よね。それなのに、弱音ひとつ吐かずにわたしの側にいてくれた。わたしを手伝ってくれてた。 なら、わたしがするべきことは、決まってる。彼の世界を視ることができたのだ、きっとこの『本』の中に、あそこへ行くための『道』がある。それを探し出せれば、サイトを家へ帰してあげられる。トリステインとアルビオンの戦争なんかに巻き込まずに済む。 わたしは、これ以上サイトを危険な目に遭わせたくなんてない。『神の盾』がどうこうなんて、もう関係ない。だって――わたしは、サイトのことが好きだから。 ルイズは、一端魔法を停止すると、再び祈祷書のページをめくり始めた。だが、書かれているのは<瞬間移動>と<世界見の鏡>の呪文のみで、他のページは全て白紙だった。ルイズは、才人に背負われたデルフリンガーに向かって抗議した。「ちょっと、ボロ剣」「なんだよ、娘っ子」「あんた、前に言ったわよね? 心から必要とすれば、読めるって」「ああ、そんなこと言ったっけな」「間違いなく言ったわよ! なのに、わたしが今、本当に欲しい呪文が浮かび上がってこないのは、どうしてなのよ!!」 デルフリンガーは、カチカチと鍔を鳴らした。何かを思い出そうとするかのように。「う~ん、他にも何か条件があったような気がするんだが……忘れた」「こッ……この……!」 思わず拳を振り上げそうになったルイズを制止したのは、太公望だった。「もしかすると、だが……まだ足りないからなのではないのかのう?」「足りないって?」「わしがタバサに与えた『如意羽衣』を覚えておるだろう?」「ええ、もちろん。先住の<飛行>と<変化>が込められた魔法具よね?」 それを聞いたオスマン氏とエレオノールは、目を丸くした。飛行だけならばともかく、変化の効果まで備わっているマジック・アイテムなど、それこそ国宝級の品だからだ。「実はな……あの『羽衣』には、これまでにわしが見せてきたもの以外にも、特殊な効果が込められておる。しかし、わしの力量が不足しておるせいで、それを引き出せないのだよ。タバサが<飛行>だけで<変化>できぬのと同じようにな」「それってつまり……わたしの実力が、まだ『扉』を開くには足りてないってこと?」「あくまで仮説だがな。しかし、異界を視る『窓』を造り出すことができたのだから、もっと修行を積んで、<力>の底上げをすれば、あるいは――」「呪文が浮かび上がってくるかもしれない。そういうことね!?」 そんなふたりの推測を後押ししたのは、神学の研究者であるエレオノールだった。「『始祖』の聖像は、全て両手を前に突き出す格好をしているわよね? あれは、かつて『始祖』ブリミルが『扉』を開いて、このハルケギニアに降臨したという伝承が残っているからなのよ。もしもそれが、ただの言い伝えではなく事実なのだとしたら……」 エレオノールの発言に、オスマン氏が補足する。「うむ。それゆえに『始祖』は、ハルケギニアとは違う、別の世界――すなわち東方からおいでになったという説が神学会では有力なのじゃ。それに<サモン・サーヴァント>という実例がある。移動のための『扉』の魔法が隠されていてもおかしくない。いや、ほぼ間違いなく存在しておるはずじゃ!」 エレオノールの眼鏡の端が、きらりと光った。「おちび。できうる限り早急に、その『扉』の呪文を探し出しなさい」「えっ?」「見つけることができたら、何を置いてもまずわたくしに連絡すること。いいわね?」「え、あの……」「あの『鏡』に映った場所は『始祖』ブリミル生誕の地と、深い繋がりがある可能性が高いの。研究者として、どうあっても行く必要があるのよ!」「えええええええ!!!」 その発言に、先程までやや沈みがちだったコルベールが激しく反応した。「私も、是非ともサイト君の故郷に行ってみたい! 頼むよ、ミス・ヴァリエール。もちろん、できうる限りの協力はしますぞ!」「ちょ、あの……」 ルイズの返事を聞く間もなく、エレオノールはオスマン氏に詰め寄った。「オールド・オスマン。お願いがあります」「な、何かね?」「この指輪をしばらくおちび、いえ、ルイズに預けていただくわけには……?」 その問いに、オスマン氏は重々しく頷いた。そして、彼は机の引き出しの中から、1本の細い鎖を取り出した。それはミスリル銀で作られた、シンプルなネックレスだった。「それはかまわん。というか、もともとそのつもりじゃったからの。じゃが、その指輪はとても目立つ。万が一、何者かに奪われたり、無くしたりしたら大変じゃ。だから、普段はこの鎖に通して、首にかけて隠しておきなさい」 そう言って、オスマン氏はルイズにネックレスを手渡した。ルイズの顔が、ぱあああっと輝いた。「ありがとうございます! 決して粗末には扱いません」 ルイズは、言われた通り指輪を鎖に通し、首にかけてシャツの奥にたくし込んだ。それから懐に入れてあった絹のハンカチを取り出すと、遠見の鏡の前で膝をつき、未だ涙を流し続けている才人の手に、それを握らせた。「ほら、涙を拭いて! 大丈夫、きっとわたしが、あんたを故郷に帰してみせるわ」 ――20年の刻と、様々な出逢いを経て。『炎のルビー』は、本来の歴史とは異なる『担い手』の元へ渡った。