<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.33886の一覧
[0] 【ゼロ魔×封神演義】雪風と風の旅人[サイ・ナミカタ](2018/06/17 01:43)
[1] 【召喚事故、発生】~プロローグ~ 風の旅人、雪風と出会う事[サイ・ナミカタ](2013/06/13 02:00)
[2] 【歴史の分岐点】第1話 雪風、使い魔を得るの事[サイ・ナミカタ](2012/09/30 14:52)
[3]    第2話 軍師、新たなる伝説と邂逅す[サイ・ナミカタ](2014/06/30 22:50)
[4]    第3話 軍師、異界の修行を見るの事[サイ・ナミカタ](2014/07/01 00:53)
[5]    第4話 動き出す歴史[サイ・ナミカタ](2014/07/01 00:54)
[6]    第5話 軍師、零と伝説に策を授けるの事[サイ・ナミカタ](2012/09/30 14:55)
[7] 【つかの間の平和】第6話 軍師の平和な学院生活[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:00)
[8]    第7話 伝説、嵐を巻き起こすの事[サイ・ナミカタ](2012/09/30 14:57)
[9] 【始まりの終わり】第8話 土くれ、学舎にて強襲す[サイ・ナミカタ](2012/09/30 14:58)
[10]    第9話 軍師、座して機を待つの事[サイ・ナミカタ](2012/07/15 21:07)
[11]    第10話 伝説と零、己の一端を知るの事[サイ・ナミカタ](2012/09/30 14:59)
[12]    第11話 黒幕達、地下と地上にて暗躍す[サイ・ナミカタ](2012/07/15 21:09)
[13] 【風の分岐】第12話 雪風は霧中を征き、軍師は炎を視る[サイ・ナミカタ](2012/07/15 21:09)
[14]    第13話 軍師、北花壇の主と相対す[サイ・ナミカタ](2012/09/30 15:03)
[15]    第14話 老戦士に幕は降り[サイ・ナミカタ](2013/03/24 19:47)
[16] 【導なき道より来たる者】第15話 閉じられた輪、その中で[サイ・ナミカタ](2012/09/30 15:05)
[17]    第16話 軍師、異界の始祖に誓う事[サイ・ナミカタ](2012/07/15 21:13)
[18]    第17話 巡る糸と、廻る光[サイ・ナミカタ](2012/07/15 21:13)
[19]    第18話 偶然と事故、その先で生まれし風[サイ・ナミカタ](2012/08/07 22:08)
[20] 【交わりし道が生んだ奇跡】第19話 伝説、新たな名を授かるの事[サイ・ナミカタ](2012/08/12 20:13)
[21]    第20話 最高 対 最強[サイ・ナミカタ](2012/09/30 15:06)
[22]    第21話 雪風、軍師へと挑むの事[サイ・ナミカタ](2012/09/30 15:07)
[23] 【宮中孤軍】第22話 鏡の国の姫君と掛け違いし者たち[サイ・ナミカタ](2012/08/02 23:25)
[24]    第23話 女王たるべき者への目覚め[サイ・ナミカタ](2012/08/12 20:16)
[25]    第24話 六芒星の風の顕現、そして伝説へ[サイ・ナミカタ](2012/08/12 20:17)
[26]    第25話 放置による代償、その果てに[サイ・ナミカタ](2012/10/06 15:34)
[27] 【過去視による弁済法】第26話 雪風、始まりの夢を見るの事[サイ・ナミカタ](2012/08/04 00:44)
[28]    第27話 雪風、幻夢の中に探すの事[サイ・ナミカタ](2012/08/12 20:18)
[29] 【継がれし血脈の絆】第28話 風と炎の前夜祭[サイ・ナミカタ](2012/08/12 20:19)
[30]    第29話 勇者と魔王の誕生祭[サイ・ナミカタ](2012/08/12 20:20)
[31]    第30話 研究者たちの晩餐会[サイ・ナミカタ](2012/08/12 20:20)
[32]    第31話 参加者たちの後夜祭[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:00)
[33] 【水精霊への誓い】第32話 仲間達、水精霊として集うの事[サイ・ナミカタ](2012/08/14 21:33)
[34]    第33話 伝説、剣を掲げ誓うの事[サイ・ナミカタ](2012/08/18 00:02)
[35]    第34話 水精霊団、暗号名を検討するの事[サイ・ナミカタ](2012/08/18 00:03)
[36] 【狂王、世界盤を造る】第35話 交差する歴史の大いなる胎動[サイ・ナミカタ](2012/08/18 00:05)
[37]    第36話 軍師と雪風、鎖にて囚われるの事[サイ・ナミカタ](2012/11/04 22:01)
[38] 【最初の冒険】第37話 団長は葛藤し、軍師は教導す[サイ・ナミカタ](2012/08/19 11:29)
[39]    第38話 水精霊団、廃村にて奮闘するの事[サイ・ナミカタ](2012/10/08 19:31)
[40]    第39話 雪風と軍師と時をかける妖精[サイ・ナミカタ](2013/04/20 22:17)
[41] 【現在重なる過去】第40話 伝説、大空のサムライに誓う事[サイ・ナミカタ](2013/04/20 22:18)
[42]    第41話 軍師、はじまりを語るの事[サイ・ナミカタ](2012/08/25 22:04)
[43]    第42話 最初の五人、夢に集いて語るの事[サイ・ナミカタ](2012/10/08 19:38)
[44]    第43話 微熱は取り纏め、炎蛇は分析す[サイ・ナミカタ](2014/06/29 14:41)
[45]    第44話 伝説、大空を飛ぶの事[サイ・ナミカタ](2012/10/08 19:43)
[46] 【限界大戦】第45話 輪の内に集いし者たち[サイ・ナミカタ](2012/10/08 19:47)
[47]    第46話 祝賀と再会と狂乱の宴[サイ・ナミカタ](2012/10/08 19:47)
[48]    第47話 炎の勇者と閃光が巻き起こす風[サイ・ナミカタ](2012/09/12 01:23)
[49]    第48話 ふたつの風と越えるべき壁[サイ・ナミカタ](2012/09/16 22:04)
[50]    第49話 烈風と軍師の邂逅、その序曲[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:00)
[51] 【伝説と神話の戦い】第50話 軍師 対 烈風 -INTO THE TORNADO-[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:01)
[52]    第51話 軍師 対 烈風 -INTERMISSION-[サイ・ナミカタ](2012/10/08 19:54)
[53]    第52話 軍師 対 烈風 -BATTLE OVER-[サイ・ナミカタ](2012/09/22 22:20)
[54]    第53話 歴史の重圧 -REVOLUTION START-[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:01)
[55] 【それぞれの選択】第54話 学者達、新たな道を見出すの事[サイ・ナミカタ](2012/10/08 20:01)
[56]    第55話 時の流れの中を歩む者たち[サイ・ナミカタ](2012/10/08 20:04)
[57]    第56話 雪風と人形、夢幻の中で邂逅するの事[サイ・ナミカタ](2012/10/28 13:29)
[58]    第57話 雪風、物語の外に見出すの事[サイ・ナミカタ](2017/10/08 07:40)
[59]    第58話 雪風、古き道を知り立ちすくむ事[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:02)
[60] 【指輪易姓革命START】第59話 理解不理解、盤上の世界[サイ・ナミカタ](2012/10/20 02:37)
[61]    第60話 成り終えし者と始まる者[サイ・ナミカタ](2012/10/20 00:08)
[62]    第61話 新たな伝説枢軸の始まり[サイ・ナミカタ](2012/10/20 13:54)
[63]    第62話 空の王権の滑落と水の王権の継承[サイ・ナミカタ](2012/10/25 23:26)
[64] 【新たなる風の予兆】第63話 軍師、未来を見据え動くの事[サイ・ナミカタ](2012/10/28 21:05)
[65]    第64話 若人の悩みと先達の思惑[サイ・ナミカタ](2012/10/28 20:01)
[66]    第65話 雪風と軍師と騎士団長[サイ・ナミカタ](2012/10/28 20:58)
[67]    第66話 古兵と鏡姫と暗殺者[サイ・ナミカタ](2013/03/24 20:00)
[68]    第67話 策謀家、過去を顧みて鎮めるの事[サイ・ナミカタ](2012/11/18 12:08)
[69] 【火炎と大地の狂想曲】第68話 微熱、燃え上がる炎を纏うの事[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:02)
[70]    第69話 雪風、その資質を示すの事[サイ・ナミカタ](2013/01/26 21:14)
[71]    第70話 軍師は外へと誘い、雪風は内へ誓う事[サイ・ナミカタ](2013/01/26 21:10)
[72]    第71話 女史、輪の内に思いを馳せるの事[サイ・ナミカタ](2013/01/26 21:11)
[73] 【異界に立てられし道標】第72話 灰を被るは激流、泥埋もれしは鳥の骨[サイ・ナミカタ](2013/01/27 23:01)
[74]    第73話 険しき旅路と、その先に在る光[サイ・ナミカタ](2013/01/27 23:01)
[75]    第74話 水精霊団、竜に乗り南征するの事[サイ・ナミカタ](2013/02/17 23:48)
[76]    第75話 教師たち、空の星を見て思う事[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:03)
[77] 【今此所に在る理由】第76話 伝説と零、月明かりの下で惑う事[サイ・ナミカタ](2013/04/13 23:29)
[78]    第77話 水精霊団、黒船と邂逅するの事[サイ・ナミカタ](2013/03/17 20:06)
[79]    第78話 軍師と王子と大陸に吹く風[サイ・ナミカタ](2013/03/13 00:53)
[80]    第79話 王子と伝説と仕掛けられた罠[サイ・ナミカタ](2013/03/23 20:15)
[81]    第80話 其処に顕在せし罪と罰[サイ・ナミカタ](2013/03/24 19:49)
[82] 【それぞれの現在・過去・未来】第81話 帰還、ひとつの終わりと新たなる始まり[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:03)
[83]    第82話 眠りし炎、新たな道を切り開くの事[サイ・ナミカタ](2013/04/20 22:19)
[84]    第83話 偉大なる魔道士、異界の技に触れるの事[サイ・ナミカタ](2013/06/13 01:55)
[85]    第84話 伝説、交差せし扉を開くの事[サイ・ナミカタ](2013/06/13 01:54)
[86]    第85話 そして伝説は始まった(改)[サイ・ナミカタ](2018/06/17 01:42)
[87] 【風吹く夜に、水の誓いを】第86話 伝説、星の海で叫ぶの事[サイ・ナミカタ](2013/06/13 02:12)
[88]    第87話 避けえぬ戦争の烽火[サイ・ナミカタ](2013/06/13 01:58)
[89]    第88話 白百合の開花と背負うべき者の覚悟[サイ・ナミカタ](2013/07/07 20:59)
[90]    第89話 ユグドラシル戦役 ―イントロダクション―[サイ・ナミカタ](2013/09/22 01:01)
[91]    第90話 ユグドラシル戦役 ―閃光・爆音・そして―[サイ・ナミカタ](2014/03/08 00:04)
[92]    第91話 ユグドラシル戦役 ―終結―[サイ・ナミカタ](2014/05/11 23:56)
[93] 【ガリア王家の家庭の事情】第92話 雪風、潮風により導かれるの事[サイ・ナミカタ](2014/03/08 20:19)
[94]    第93話 鏡の国の姫君、踊る人形を欲するの事[サイ・ナミカタ](2014/06/13 23:44)
[95]    第94話 賭博場の攻防 ―神経衰弱―[サイ・ナミカタ](2014/07/01 09:39)
[96]    第95話 鏡姫、闇の中へ続く道を見出すの事[サイ・ナミカタ](2015/07/12 23:00)
[97]    第96話 嵐と共に……[サイ・ナミカタ](2015/07/20 23:54)
[98]    第97話 交差する杖に垂れし毒 - BRAIN CONTROL -[サイ・ナミカタ](2016/09/25 21:09)
[99]    第98話 虚無の証明 - BLACK BOX -[サイ・ナミカタ](2017/10/08 07:42)
[100] 【王女の選択】第99話 伝説、不死鳥と共に起つの事[サイ・ナミカタ](2017/01/08 02:09)
[101]    第100話 鏡と氷のゼルプスト[サイ・ナミカタ](2017/01/08 02:14)
[102]    第101話 最初の人[サイ・ナミカタ](2017/01/08 17:42)
[103]    第102話 始祖と雪風と鏡姫[サイ・ナミカタ](2017/01/22 23:14)
[104]    第103話 六千年の妄執-悪魔の因子-[サイ・ナミカタ](2017/02/16 23:00)
[105] 【王政府攻略】第104話 王族たちの憂鬱[サイ・ナミカタ](2017/03/06 22:52)
[106]    第105話 王女たちの懊悩[サイ・ナミカタ](2017/03/28 23:10)
[107]    第106話 聖職者たちの明暗[サイ・ナミカタ](2017/05/20 17:54)
[108] 【追憶の夢迷宮】第107話 伝説と零、異郷の地に惑うの事[サイ・ナミカタ](2017/10/08 07:46)
[109]    第108話 風の妖精と始まりの魔法使い[サイ・ナミカタ](2017/10/08 07:47)
[110]    第109話 始祖と零と約束の大地[サイ・ナミカタ](2017/06/09 00:54)
[111]    第110話 崩れ去る虚飾、進み始めた時代[サイ・ナミカタ](2017/10/28 06:35)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[33886] 【王政府攻略】第104話 王族たちの憂鬱
Name: サイ・ナミカタ◆e661ea84 ID:b8f45292 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/03/06 22:52
 ――ウィンの月・ヘイムダルの週・ユルの曜日。

 トリステインの王都で戦勝と新王の即位を祝うパレードが行われていた。

 聖獣ペガサスにひかれた豪奢な――サンドリオン一世とカリーヌ王妃が座す馬車を先頭に、三人の麗しき王女たちと国内の高名な貴族が続き、その周囲を礼装に身を包んだ魔法衛士隊が油断なく警護している。

 さらに、その華やかな一団の後ろを騎士や軍人たちが馬で闊歩していた。彼らは皆、気分が昂揚するのを隠すことができず、一様に顔を紅潮させていた。

「新国王サンドリオン一世陛下、万歳!」

「トリステイン軍、万歳!」

「我らが祖国、トリステインに栄光あれ!」

 街路に詰め掛けた大勢の観客たちから歓声が投げかけられる。道に入りきらなかったひとびとは
通り沿いの建物の窓や屋根の上から手を振り、この日のために用意された色とりどりの花びら――真冬に咲く花は少ないため、そのほとんどが〝錬金〟の魔法によって造られたものだったが――を撒き散らし、新国王を歓迎した。

 世界最強の空軍を擁する神聖アルビオン共和国を退けた軍事的手腕もさることながら、豊かで領民たちが安堵して暮らせると評判のラ・ヴァリエール領を長年に渡って統治してきた手腕こそが、国民に最も期待されている事柄であろう。

 おまけに、その伴侶は伝説と謳われた風メイジ『烈風』カリン。

 もともと「男装の麗人ではないか」という噂があったこともあり、彼女の正体は驚くほどあっさりと国民たちに受け入れられた。

 さらに、国王夫妻の後ろに続く三人の王女たちは全員が天上から舞い降りた女神と見紛うばかりの美しさだ。これでは群衆が熱狂しないほうがおかしい。

 ブルドンネ街を埋め尽くした民たちの歓声は、後方の列にも投げかけられている。それを耳にした人物――燦然と輝く勲章を身に付けた男は呆然と呟いた。

「提督……あなたにも、生きてこの場にいていただきたかった……」

 目にうっすらと涙を浮かべたこの人物の名はフェヴィス。トリステイン王国空軍旗艦の艦長を務めていた男だ。アルビオンの砲撃でフネと共に沈む覚悟を決めていた彼は、側にいた部下たちによって半ば強引に退艦させられ、九死に一生を得ていたのだった。

『卿らが文字通り命を賭けてくれたからこそ、トリステインは今日という日を迎えられた。まさしく貴族の鑑である』

 治療院のベッドに横たわっていた彼ら空軍兵士たちを見舞い、ひとりひとりに声をかけ、激励と謝辞を述べて回ったのは、誰あろうサンドリオン一世そのひとだった。

 彼は国王として取り組む二番目の仕事に、奮闘した兵たちと遺族への補償を選んだ。通常なら王族と一部の軍閥貴族だけが参加できる戦勝パレードへの同行もそのひとつであり、彼らが間違っても「敗軍」などと呼ばれぬよう、配慮した結果だ。

 王立空軍兵士たちの奮闘は、戦勝パレードでの華々しい行進というこの上ない名誉と、年金つきの勲章授与という実利によって、確かに報われたのだった。

 三番目に着手したのが、隣国ゲルマニアとの軍事防衛同盟条約の見直しと再締結である。

 両国の話し合いは、終始トリステイン側の優位で進行した。

 アンリエッタ姫と皇帝アルブレヒト三世の婚約は破棄。相手方の外交官は不満を露わにしたが、そもそもの原因がアルビオン急襲の際に発せられた援軍要請に応えなかった自国にあるため、強硬な姿勢など取れようはずもない。

 とはいえ、野心を露わにしたアルビオンの空襲に怯えるゲルマニアは〝乗法魔法〟の使い手を複数抱え、かつ精強な陸軍を持つトリステインとの同盟解消など論外であり、渋々ながらも受け入れざるを得なかった。

 その代わりに軍の共同演習や街道の整備、一部物資に限り関税を優遇するなどの条約が盛り込まれたため、皇帝の面目が丸つぶれになるような事態だけは辛うじて防がれたようである。

 新軍事防衛同盟の調印式典は王都トリスタニアで行われ、トリステインからは新国王と宰相マザリーニが、ゲルマニア側からは外交長官オルトーと陸軍大将ハルデンベルグが出席した。

 ゲルマニアとの外交交渉とほぼ並行して不穏分子の粛清も行われた。新王の手腕は苛烈を極め、一時はトリスタニアが膝下まで血に浸かるなどと言われた程である。

 賄賂で役人を懐柔し、アルビオンからの密航船を受け入れていた貴族。

 劇場に潜り込み、観客にトリステイン王家に対する嫌悪感を植え付けようとしていた脚本家。

 権力を笠に着て、平民たちから不当な大金をせしめていた徴税官。

 これらトリスタニアで蠢いていた『レコン・キスタ』やアルビオン貴族派の間者に加え、腐敗していた官僚たちが揃って罷免された。

 彼らを取り締まるべき立場にあった高等法院の参事官・高等法院長リッシュモンに至っては、厳しいという言葉が生温く感じる程の事情聴取を受けた後、過去の汚職や『レコン・キスタ』との繋がりなど恐るべき事実を自白。

 さらに、伝染病根絶のため王軍が焼いたと記録されていたいくつかの村落が、実はロマリアから多額の賄賂を受け取った見返りとして行われた新教徒弾圧・虐殺であることが判明するに至り、既に確定していた罪状に加え、収賄罪、外患幇助罪、外患誘致罪、大逆罪が適用された。

 リッシュモンの私腹を肥やすためだけに滅ぼされた村々が、今回戦場となったダングルテールに集中していることに、運命の皮肉が感じられる。

 高等法院長は貴族の地位と役職だけでなく家名までも剥奪され、領地を含む財産の全てを没収。彼の一族も連坐となり、最終的に死罪の中で最も重い火あぶりの刑に処された。

 処刑の当日。それを伝え聞いた『ダングルテールの虐殺』の生存者が、処刑台の下に積み上げられた薪に火をつけさせてくれと涙ながらに訴えていたと噂されているが……その結末がどうなったのか、そもそも何故ロマリアがわざわざ遠国の鄙びた寒村を滅ぼそうとしたのかは不明である。

 国内の統制を終えた後、新王は神聖アルビオン共和国に対する禁輸政策を執り、ラ・ロシェール及び国境からの出入国審査に多数の人員を割いた。

 魔法や薬などで操られてはいないか、貴族派連盟のメイジが紛れ込んでいないかどうか、危険なものを持ち込んでいないかを〝探知〟で調査するなど、幾重にも渡る確認を行うためである。

 一攫千金、あるいは同志への補給を目論んで密航船を出す者たちが現れたが、そのほとんどが軍事防衛同盟締結後ラ・ロシェールに停泊を許されたゲルマニア艦隊によって拿捕され、法により裁かれた。

 ごく稀にゲルマニア空軍の目を逃れて支配空域を抜けるフネもあったが、それらはことごとく空賊の餌食になった。法を犯しての密輸だけにトリステインやゲルマニアへ討伐を願い出るわけにもいかず、彼らは泣き寝入りするしかなかった。

 内戦により農地が荒れ、食料供給のほとんどをトリステインからの輸入に依存していたアルビオン貴族派連盟はこの措置を受け、他国へ救援を打診するも、ゲルマニアはトリステインと歩調を合わせ拒否。ガリアは自国における内乱発生の不安があると称して返答を先送りにし、ロマリアはこれまでと変わらず沈黙を貫いていた――。


○●

 ――戴冠式当日の夜。

 全ての行事を終え、国王専用の居室で休息を取っていたサンドリオン一世は、心の内側でひとり頭を抱えていた。

(おそらく、彼は気付いているのだろう……)

 現在彼を悩ませているのは、先日マザリーニ枢機卿自ら届けに来た報告書だ。それを記したのはダングルテールでの戦いにおいて捕虜となった敵兵たちを尋問した衛士であった。

 ――フェニックスに関する調書

 その報告書には、濃緑の竜に撃墜されながらもかろうじて生き残り、トリステイン軍に捕らえられたアルビオンの竜騎士たちの話が事細かに書き記されていた。

 強力な魔弾で次々と味方を撃ち落とした、見たことも聞いたこともない新種の竜。

 そんな竜騎士がトリステインにいることなど寡聞にして知らぬ衛士は、引き続き調査を行うことにした。結果、件の緑竜がタルブの村に伝わる『竜の羽衣』と呼ばれる機械であったことが判明したのである。

 この『羽衣』が、六十年ほど前に遥か東の彼方から飛来したこと。

 以後、村の守り神として寺院に祀られていたこと。

 驚くべきことに、火竜を圧倒したその『羽衣』には魔法が一切使われていないこと。

 『羽衣』を操っていたのは、ヴァリエール家令嬢の護衛士を務める少年だったこと――。

 それが判明した時点で、衛士は少年に接触することを躊躇した。何故なら、彼の主人はトリステインの第三王女となったルイズだったからである。

 そこで衛士は一旦調査を中断し、報告書をまとめ上げた上でマザリーニに判断を委ねたのだ。

 提出された書類の内容を把握した枢機卿は、何食わぬ顔で王の裁可を必要とする案件と共にこれをサンドリオン一世の執務室へ持ち込み、慎重に人払いをした上でこう述べた。

「わたしにとっての祖国は最早ロマリアではなく、このトリステインだと考えております」

 その一言だけを告げて退出した枢機卿の背中を、王はただ見送ることしかできなかった。

(ゲルマニア皇帝の朝食のメニューから、火竜山脈に生息する竜の正確な数まで把握していると言われるマザリーニのことだ。あの大鳳を切欠にサイトの情報を入手したことで、ルイズとの繋がりに気づき、そこから伝説の系統に辿り着いているに違いない……)

 マザリーニの情報収集能力はトリステイン国内において群を抜いている。ヴァリエール家の諜報員もそれなりの実力を持っているが、彼の部下たちはその遥か上を行く。

(これだけならまだ良かった……いや、決して良くはないのだが、ううむ……)

 昨日オスマン氏を通して届けられた伝言が、サンドリオンの心をより曇らせていた。

『ロマリアが、聖地奪還のために本腰を入れて虚無の担い手を捜している。その足がかりとして、ご主人さまに接触してきた』

 詳細は諜報の危険があるので、後ほど改めてとのことだったが、この情報が示すのは――。

(あの聡い姫君のことだ、おそらく彼女も……)

 王は、なんだか胃の奥がキリキリしてきた。

(オールド・オスマンやミスタ・タイコーボー、それにジャンという前例がある。気付かれる可能性は高いと警戒していたが、まさかここまで早いとは……!)

 ルイズと才人が騎乗していた『竜の羽衣』は魔法に依らぬ飛行を可能とする機械だそうだが、マザリーニがここからルイズの正体を看破したのだとしたら。

(オールド・オスマンも、エレオノールも、聖地には『始祖』が降臨した際に用いた〝扉〟があるのではないかという仮説を立てていた……)

 ブリミル教の聖典には〝始祖は天上より神に遣わされた〟と記されており、一部の熱心な神学者を除くハルケギニアの民は、それこそが真実だと教えられてきた。

 だが、その話がロマリアの偽装工作なのだとしたら。

(枢機卿はふたりの説こそが事実であることを知っていて、あの大鳳が〝扉〟の向こうから飛来したのだと考えたのではなかろうか)

 だとすると、マザリーニは未だサンドリオンたちが知らない〝虚無〟に関する情報を持っていることになる。

(故郷、か……)

 生まれた国ではなく、自分がこれまで守り抜いてきた場所はトリステインだ。マザリーニ枢機卿はそう言いたいのであろう。

(元々穏健派で、トリステインとアルビオン会戦の際も最後まで直接対決を避けようとしていた。教皇選出会議による召還すら固辞し、至高の座に就くことを拒んでまでこの国を救おうと奮闘していた彼が、聖地奪還運動に賛同するとは思えないが……う~む)

 マザリーニ枢機卿は信頼に値する人物である。

 しかし、かつてはロマリアで最も教皇の座に近いとされた聖職者でもある。

 トリステインを守りたいという彼の言葉に嘘はないだろうが、ブリミル教の司教枢機卿として、聖典の教えから外れるような真似ができるとは考えにくい。

 サンドリオン王は、見事なまでの二律背反状態に陥ってしまっていた。

「随分とお悩みのようですね」

 そんな王に声を掛けてきたのは、彼の妻だった。

「やはり、ジャンの件ですか?」

 カリーヌ夫人の問いに、サンドリオンは曖昧に頷く。

 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。彼もまた、王の悩みの種だった。

「あのときの判断を後悔しているわけではない。だが……」

 息子も同然の若者を、二重間諜として『レコン・キスタ』へ潜り込ませる。彼の技量と知謀を評価してのことだったが、それ自体は問題なかった。事実、ワルド子爵は敵と通じる裏切り者のあぶり出しに大きく貢献してくれたし、先の会戦でも見事な活躍をしてみせた。

 しかし……。

「あの子なら、エレオノールを支える次代の王配に相応しかったのですが」

「ああ、本当にな」

 小さく肩を落とす王妃に、王は心の底から同意していた。

 あの依頼は、ラ・ヴァリエール公爵がオスマン氏に助言を請う前に行われたものだ。もしもこれらの順番が逆であったなら、ワルドにあんな真似はさせなかっただろう。

 例の粛正時、当然のことながらワルドは難を逃れていた。彼が二重間諜であることを誤魔化すために、あえて黒と判定された――しかしながら、さほど罪の重くない者を複数見逃している。

 ところが、リッシュモンの自白中に子爵の名が出てしまったがために、無罪放免というわけにはいかなかった。もちろん、マザリーニ枢機卿やグラモン元帥など信用できる一部の貴族には事情を説明してあるが……それを公にすることはできない。

 そんな真似をすれば、ワルドは卑劣な裏切り者として『レコン・キスタ』から命を狙われるという重荷を背負うことになるだろう。

 本人に状況を説明した上で、何も知らないトリステイン側の監視を付けることにより彼の立場を黒から灰色にし、やがて白へと塗り替える――。

 応急処置にも程があるが、現時点ではこれが最良の手であった。

「ですが、敵と繋がっているという疑惑を持たれている者を、王室に迎えるわけには参りません。あの子は、国と、わたくしたち家族のために命を賭けてくれたというのに……!」

 無念のあまり臍を噛む妻に、夫は沈痛な表情で告げた。

「全くだ。なればこそ、せめてジャンのささやかな願いを叶えてやらねばなるまい」

 ワルド子爵の願い。それは、かつて王立アカデミーの主席研究員であった母が遺した論文及び、研究に関する資料の開示依頼であった。

『僕は、亡き母の遺志を継ぎたいのです。いえ、どうしても継がねばなりません』

 終始堅い表情を崩さなかったワルドは、王が手配した偽装工作に関して礼を述べた後、手を取って詫びる義父になるはずだった人物に対し、そう切り出してきたのだ。

『陛下は、母が心の病に罹っていたことをご存じでしたか?』

 その問いに、サンドリオンは頷いた。もともとワルド子爵家とは家族ぐるみの付き合いがあり、先代の領主は王の友人でもあった。

 公爵家の当主として顔の広い彼は、友から妻の病を治す方法についての相談を受けている。

『母が狂気に囚われてしまったのは、どうやらその研究に原因があるようで……』

 ワルド曰く、子爵夫人が遺した日記に「怖ろしい秘密を知ってしまった」「どうしてあんな研究をしてしまったのか」「これは誰にも話せない」などという記述を発見したのだという。

『屋敷の中には、それらしき研究資料は一切残されていませんでした。ですが、ひょっとするとアカデミーになら、何か痕跡があるのではないかと思った次第でして』

 サンドリオンの目には、ワルドが他にも何か言い淀んでいることがあると映った。しかし、多大なる働きをしてくれた息子に対し、報いることができていないと感じていた王は、エレオノールの伝手で調べてみることを約束したのである。

 ……後日、この調査結果によってヴァリエール家の主と長女の胃に穴が開きかけるのだが、それはもうしばらく先の話――。


○●○●○●○●

 ――同じ頃。

 サンドリオン王とはまた別の意味で胃を痛めていた人物がいた。

 ガリアの王女、イザベラである。

「あなたに会って欲しいひとがいる」

 タバサに請われ、何事かと思いつつも彼女は了承した。

「向こうは寒い。外套と、厚手の服を用意して」

「どこへ連れて行くつもりだい?」

「着けばわかる」

 従姉妹は相変わらず言葉足らずな上に無愛想だが、表情に僅かな緊張が見て取れた。

(……今更、謀殺なんか疑っても仕方ないわよね)

 そう考えながらも、用心深く懐に『地下水』を潜ませている。イザベラは、そんな自分が嫌で嫌でたまらなかった。

『つくづく救えないよね。心を開いてくれた実の従姉妹を、まだ信じられないなんてさ!』

『そいつは職業病ってやつですよ、イザベラさま』

 心の内で『地下水』相手に愚痴りながら、伏羲の開いた『窓』をくぐる。

 そこは、どこかの都市――ほぼ間違いなくガリアではない、うらぶれた住宅街の一角。

「うわ、ほんとに寒ッ……」

 イザベラは思わず大きな声を上げてしまった。無理もない、リュティスでは雨が降っていたが、ここではちらちらと雪が舞っていたのだから。

(トリステインの裏町かしら? それにしては建物の構造がらしくないような……)

 きょろきょろと周囲を見回すも、やはりこんな場所に覚えはない。

「シャルロット、ここはどこなのさ?」

 訝しげに問う姫君に、タバサはいつもと変わらず簡潔に応えた。

「ゲルマニア」

「ふうん、ゲルマニアねえ……って、ええええええ!」

「静かに。住民に迷惑」

 忠告後、蒼い髪の少女は近くにあった共同住宅らしき建物の玄関を開け、中に入ってゆく。イザベラは慌ててその後に続いた。

 廊下を進んで一番奥の部屋の前に立ったタバサは、扉に付けられた叩き金を打ち付ける。少し待つと中から返事があり、身なりの整った老爺が姿を現した。

「これはこれはお嬢さま、お待ち致しておりました」

「ペルスラン。お客さまがふたり」

「はい、もちろん承っておりますとも」

 そう言って入室を促す老人の顔に、イザベラは全く覚えがない。とはいえ、見たところ彼は単なる使用人に過ぎないようだ。待ち人とやらは奥にいるのだろう。

 そんなことを考えながら扉をくぐると、ようやくタバサの後方にいた少女に気付いた老爺は、ぎょっと目を丸くした。

「こんなことが、よもや……!」

 ペルスランと呼ばれた老従僕は聖具の形に印を切ると、天を仰いだ。

「お嬢さま、その……本当によろしいのですか?」

「到着前に伝えておいたはず」

「しかし……」

「いいから、案内して」

「……ご無礼を致しました。どうぞ、こちらへ」

 ペルスランは主人と来客に対して深々と礼をすると、奥の部屋へ先導した。

 タバサと伏羲、そしてイザベラは彼の後について静かに廊下を進んでゆく。

(この使用人の顔は、わたしの記憶にない。だけど、こいつはわたしを知っている。それに、シャルロットをお嬢さまと呼ぶってことは……元オルレアン家の、いや、今も従僕なのか)

 住宅の内部は質素な造りで、ほのかな明かりに照らされた床には塵ひとつ見当たらなかったが、歩くたびにぎしぎしと音を立てるし、壁には生活によってつけられた傷らしきものがいくつも刻まれていた。どう考えても貴人が住まうような場所ではない。

(シャルロットは、一体誰に会わせようっていうんだろう? もしかして、大公家に仕えていた使用人かしら。そいつから昔のことを聞くつもりなのかね?)

 そうこうしているうちに、先頭のペルスランが目指していた部屋の前へ辿り着いた。

「奥さま、お嬢さまとお客さまをお連れしました」

「ありがとう。中へ入っていただいて」

 その声を聞いた途端、イザベラの心臓がばくんと跳ねる。

(嘘、この声は……!)

 イザベラの知るかの人物は、ラグドリアン湖畔の屋敷に閉じ籠もっているはずだ。それも、魔法の毒に冒された状態で――。

 立ち尽くす王女の手を、傍らにいた少女がきゅっと握り締めた。

「お願い。いっしょに来て」

 そう言って見つめる従姉妹の瞳は、僅かに揺れていた。

 ごくりと喉を鳴らすと、イザベラはタバサの手をそっと握り返す。

 キィ、という音を立てて扉が開く。部屋の奥には丸テーブルが置かれていた。奥の椅子に座っていた赤毛の女性が、ふたりの姿を確認した途端、ゆっくりと立ち上がった。

 それから、イザベラに向けて優雅にお辞儀する。

「姫殿下。このような遠方まで、ようこそお越しくださいました」

 柔らかな声と物腰。髪の色こそ、本来の濃い蒼ではなくなっているものの――。

「お、叔母上……」

 父王ジョゼフが宴席で毒を呷らせた、オルレアン公夫人そのひとであった。

 夫人は、イザベラを見て微笑んだ。

「嬉しいわ。あなたは、わたくしを叔母と呼んでくれるのね」

「と、当然です! で、ですが、その、あなたは……」

 困惑の色を浮かべた姪を訝しげに見遣ると、オルレアン公夫人は娘に向き直る。

「まさか……事情を説明せずに、公務でお忙しい姫殿下をここへお連れしたの?」

 こくりと頷くタバサ。

「まったく、この子は……。申し訳ございません、昔から、こんな風に悪戯ばかりして……」

 イザベラが最後に夫人と顔を合わせたのは、もう四年近く前であったか。毒によって錯乱していた当時と異なり、魔法薬の影響は完全に消え失せている。

 どうやって、あの薬を無効化したのか。

 どうして、こんな侘しい部屋に元とはいえ王族に連なる者が住んでいるのか。

 そんな疑問が蒼き姫の脳内を駆け巡ったが、実際に口から出たのは全く別のことだった。

「わたしを、責めないのですか?」

 オルレアン公夫人は目を丸くした。

「まあ、どうしてわたくしがそんなことをする必要があるのです?」

「どうして、って……わたしは、あなたの夫であるオルレアン公を殺し、あなたに怖ろしい毒薬を飲ませた男の娘なのですよ!?」

「わたくしは、この通り元に戻っています」

「でも、叔父上は戻りません」

 深いため息と共に、オルレアン公夫人は吐き出した。

「そうね、これが夢であればどんなに良かったか。ですが、全て現実に起こったこと。悲しきことですが、それでもわたくしたちは前に進まねば。未来に生きてゆかねばなりませぬ」

 静かに姪の側へ歩み寄った夫人は、優しくイザベラの頬を撫でた。

「簡単にですが、事情は聞いています。あなたも、さぞや辛かったことでしょう……」

 その言葉に、イザベラはぐっと唇を噛み締めた。

 全身を震わせながら立ち尽くしていた王女は、ふいに温かなものに包まれた。オルレアン公夫人が彼女を優しく抱き締めたのだ。

「叔母上……」

「そう、わたくしはあなたの叔母。わたくしたちは皆、同じ一族なのですよ。周囲に煽られて本来無用な憎しみを向け合うなど……馬鹿げたことです」

「わたしを、赦してくださると? わたしは、エレーヌに酷いことを……」

「赦すも赦さぬもありません。あなた自身が悔いているのなら、それだけで充分」

 夫人に同意するように、タバサも頷く。

 ガリアから遠く離れた異国の片隅で、血筋を同じくする三人は抱擁を交わした。

 ――イザベラと母を対面させる。

 この、一歩間違えば全てを失う危険を孕んだ行動を決断したのは、タバサ自身だった。

 当時のことを知る、王族の大人。オルレアン公夫人はそういう意味でも貴重な人材である。

 さらにタバサは、太公望と王天君が融合した姿と、彼の言動を注意深く観察していた。その上でふたりが〝分離〟した後も記憶を共有していると判断したのだ。

 もちろん、太公望本人にもその仮説が合っているかどうか確かめ、ある程度の時差は発生するものの、最終的に同じ記憶を持つに至ると聞かされたタバサは即行動に出た。

 何故なら、最も隠しておきたかった家族の安否が筒抜けになってしまったからである。

(それなら、聞かれる前に見せてしまったほうがいい)

 ……と、いうのは実は建前で。

(イザベラは手札の全てを明かしてくれた。ならば、こちらも誠意を見せるべき)

 それ程までに、あの夜の出来事はタバサの心を揺さぶった。

 太公望も、そのほうがよいと後押ししてくれたし――何より、母が賛成してくれた。

 そうしていざ決断してはみたものの、やはり不安で……結局、ここへ来るまでに本当のことを打ち明けられなかった。

 でも。

(やっぱり、これで良かったのね……)

 胸の奥が温かなものが満たされてゆくのを感じながら、タバサは小さく微笑んだ。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.033267974853516