<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.33455の一覧
[0] ダークブリングマスターの憂鬱(RAVE二次創作) 【完結 後日談追加】[闘牙王](2017/06/07 17:15)
[1] 第一話 「最悪の出会い」[闘牙王](2013/01/24 05:02)
[2] 第二話 「最悪の契約」[闘牙王](2013/01/24 05:03)
[3] 第三話 「運命の出会い」[闘牙王](2012/06/19 23:42)
[4] 第四話 「儚い平穏」[闘牙王](2012/07/09 01:08)
[5] 第五話 「夢の終わり」[闘牙王](2012/07/12 08:16)
[6] 第六話 「ダークブリングマスターの憂鬱」[闘牙王](2012/12/06 17:22)
[7] 第七話 「エンドレスワルツ」[闘牙王](2012/08/08 02:00)
[11] 第八話 「運命の出会い(その2)」[闘牙王](2012/08/10 20:04)
[12] 第九話 「魔石使いと記憶喪失の少女」[闘牙王](2012/08/10 20:08)
[13] 番外編 「アキと愉快な仲間達」[闘牙王](2013/01/24 05:06)
[14] 第十話 「将軍たちの集い」前編[闘牙王](2012/08/11 06:42)
[15] 第十一話 「将軍たちの集い」後編[闘牙王](2012/08/14 15:02)
[16] 第十二話 「ダークブリングマスターの絶望」前編[闘牙王](2012/08/27 09:01)
[17] 第十三話 「ダークブリングマスターの絶望」中編[闘牙王](2012/09/01 10:48)
[18] 第十四話 「ダークブリングマスターの絶望」後編[闘牙王](2012/09/04 20:02)
[19] 第十五話 「魔石使いと絶望」[闘牙王](2012/09/05 22:07)
[20] 第十六話 「始まりの日」 前編[闘牙王](2012/09/24 01:51)
[21] 第十七話 「始まりの日」 中編[闘牙王](2012/12/06 17:25)
[22] 第十八話 「始まりの日」 後編[闘牙王](2012/09/28 07:54)
[23] 第十九話 「旅立ちの時」 前編[闘牙王](2012/09/30 05:13)
[24] 第二十話 「旅立ちの時」 後編[闘牙王](2012/09/30 23:13)
[26] 第二十一話 「それぞれの事情」[闘牙王](2012/10/05 21:05)
[27] 第二十二話 「時の番人」 前編[闘牙王](2012/10/10 23:43)
[28] 第二十三話 「時の番人」 後編[闘牙王](2012/10/13 17:13)
[29] 第二十四話 「彼と彼女の事情」[闘牙王](2012/10/14 05:47)
[30] 第二十五話 「嵐の前」[闘牙王](2012/10/16 11:12)
[31] 第二十六話 「イレギュラー」[闘牙王](2012/10/19 08:22)
[32] 第二十七話 「閃光」[闘牙王](2012/10/21 18:58)
[33] 第二十八話 「油断」[闘牙王](2012/10/22 21:39)
[35] 第二十九話 「乱入」[闘牙王](2012/10/25 17:09)
[36] 第三十話 「覚醒」[闘牙王](2012/10/28 11:06)
[37] 第三十一話 「壁」[闘牙王](2012/10/30 06:43)
[38] 第三十二話 「嵐の後」[闘牙王](2012/10/31 20:31)
[39] 第三十三話 「違和感」[闘牙王](2012/11/04 10:18)
[40] 第三十四話 「伝言」[闘牙王](2012/11/06 19:18)
[41] 第三十五話 「変化」[闘牙王](2012/11/08 03:51)
[44] 第三十六話 「金髪の悪魔」[闘牙王](2012/11/20 16:23)
[45] 第三十七話 「鎮魂」[闘牙王](2012/11/20 16:22)
[46] 第三十八話 「始動」[闘牙王](2012/11/20 18:07)
[47] 第三十九話 「継承」[闘牙王](2012/11/27 22:20)
[48] 第四十話 「開幕」[闘牙王](2012/12/03 00:04)
[49] 第四十一話 「兆候」[闘牙王](2012/12/02 05:37)
[50] 第四十二話 「出陣」[闘牙王](2012/12/09 01:40)
[51] 第四十三話 「開戦」[闘牙王](2012/12/09 10:44)
[52] 第四十四話 「侵入」[闘牙王](2012/12/14 21:19)
[53] 第四十五話 「龍使い」[闘牙王](2012/12/19 00:04)
[54] 第四十六話 「銀術師」[闘牙王](2012/12/23 12:42)
[55] 第四十七話 「騎士」[闘牙王](2012/12/24 19:27)
[56] 第四十八話 「六つの盾」[闘牙王](2012/12/28 13:55)
[57] 第四十九話 「再戦」[闘牙王](2013/01/02 23:09)
[58] 第五十話 「母なる闇の使者」[闘牙王](2013/01/06 22:31)
[59] 第五十一話 「処刑人」[闘牙王](2013/01/10 00:15)
[60] 第五十二話 「魔石使い」[闘牙王](2013/01/15 01:22)
[61] 第五十三話 「終戦」[闘牙王](2013/01/24 09:56)
[62] DB設定集 (五十三話時点)[闘牙王](2013/01/27 23:29)
[63] 第五十四話 「悪夢」 前編[闘牙王](2013/02/17 20:17)
[64] 第五十五話 「悪夢」 中編[闘牙王](2013/02/19 03:05)
[65] 第五十六話 「悪夢」 後編[闘牙王](2013/02/25 22:26)
[66] 第五十七話 「下準備」[闘牙王](2013/03/03 09:58)
[67] 第五十八話 「再会」[闘牙王](2013/03/06 11:02)
[68] 第五十九話 「誤算」[闘牙王](2013/03/09 15:48)
[69] 第六十話 「理由」[闘牙王](2013/03/23 02:25)
[70] 第六十一話 「混迷」[闘牙王](2013/03/25 23:19)
[71] 第六十二話 「未知」[闘牙王](2013/03/31 11:43)
[72] 第六十三話 「誓い」[闘牙王](2013/04/02 19:00)
[73] 第六十四話 「帝都崩壊」 前編[闘牙王](2013/04/06 07:44)
[74] 第六十五話 「帝都崩壊」 後編[闘牙王](2013/04/11 12:45)
[75] 第六十六話 「銀」[闘牙王](2013/04/16 15:31)
[76] 第六十七話 「四面楚歌」[闘牙王](2013/04/16 17:16)
[77] 第六十八話 「決意」[闘牙王](2013/04/21 05:53)
[78] 第六十九話 「深雪」[闘牙王](2013/04/24 22:52)
[79] 第七十話 「破壊」[闘牙王](2013/04/26 20:40)
[80] 第七十一話 「降臨」[闘牙王](2013/04/27 11:44)
[81] 第七十二話 「絶望」[闘牙王](2013/05/02 07:27)
[82] 第七十三話 「召喚」[闘牙王](2013/05/08 10:43)
[83] 番外編 「絶望と母なる闇の使者」[闘牙王](2013/05/15 23:10)
[84] 第七十四話 「四天魔王」[闘牙王](2013/05/24 19:49)
[85] 第七十五話 「戦王」[闘牙王](2013/05/28 18:19)
[86] 第七十六話 「大魔王」[闘牙王](2013/06/09 06:42)
[87] 第七十七話 「鬼」[闘牙王](2013/06/13 22:04)
[88] 設定集② (七十七話時点)[闘牙王](2013/06/14 15:15)
[89] 第七十八話 「争奪」[闘牙王](2013/06/19 01:22)
[90] 第七十九話 「魔導士」[闘牙王](2013/06/24 20:52)
[91] 第八十話 「交差」[闘牙王](2013/06/26 07:01)
[92] 第八十一話 「六祈将軍」[闘牙王](2013/06/29 11:41)
[93] 第八十二話 「集結」[闘牙王](2013/07/03 19:57)
[94] 第八十三話 「真実」[闘牙王](2013/07/12 06:17)
[95] 第八十四話 「超魔導」[闘牙王](2013/07/12 12:29)
[96] 第八十五話 「癒しと絶望」 前編[闘牙王](2013/07/31 16:35)
[97] 第八十六話 「癒しと絶望」 後編[闘牙王](2013/08/14 11:37)
[98] 第八十七話 「帰還」[闘牙王](2013/08/29 10:57)
[99] 第八十八話 「布石」[闘牙王](2013/08/29 21:30)
[100] 第八十九話 「星跡」[闘牙王](2013/08/31 01:42)
[101] 第九十話 「集束」[闘牙王](2013/09/07 23:06)
[102] 第九十一話 「差異」[闘牙王](2013/09/12 06:36)
[103] 第九十二話 「時と絶望」[闘牙王](2013/09/18 19:20)
[104] 第九十三話 「両断」[闘牙王](2013/09/18 21:49)
[105] 第九十四話 「本音」[闘牙王](2013/09/21 21:04)
[106] 第九十五話 「消失」[闘牙王](2013/09/25 00:15)
[107] 第九十六話 「別れ」[闘牙王](2013/09/29 22:19)
[108] 第九十七話 「喜劇」[闘牙王](2013/10/07 22:59)
[109] 第九十八話 「マザー」[闘牙王](2013/10/11 12:24)
[110] 第九十九話 「崩壊」[闘牙王](2013/10/13 18:05)
[111] 第百話 「目前」[闘牙王](2013/10/22 19:14)
[112] 第百一話 「完成」[闘牙王](2013/10/25 22:52)
[113] 第百二話 「永遠の誓い」[闘牙王](2013/10/29 00:07)
[114] 第百三話 「前夜」[闘牙王](2013/11/05 12:16)
[115] 第百四話 「抵抗」[闘牙王](2013/11/08 20:48)
[116] 第百五話 「ハル」[闘牙王](2013/11/12 21:19)
[117] 第百六話 「アキ」[闘牙王](2013/11/18 21:23)
[118] 最終話 「終わらない旅」[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[119] あとがき[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[120] 後日談 「大魔王の憂鬱」[闘牙王](2013/11/25 08:08)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[33455] 第七十四話 「四天魔王」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:7bdaaa14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/24 19:49
魔界。

人間界と対を為すもう一つの世界。人間ではない亜人と呼ばれる存在が暮らしている場所。いわば世界の裏側。

そんな魔界の中でも凄まじい熱気が全てを支配し、その源である溶岩が今にも溢れださんとしている山脈に囲まれた場所。ウルブールグ地方。およそ人間はおろか亜人ですら生活することができないのではと思えるような場所を目指して進んでいる二つの人影があった。

一つは四天魔王の一人『絶望のジェロ』

ジェロは灼熱の世界であるにもかかわらず汗一つかくことなく、無表情のまま歩みを進めている。まるでその周囲だけが熱が遮断されているかのように。だがそれだけの力が彼女にはある。例え魔界で最も熱い地域であるウルブールグ地方であってもジェロには関係ない。まさに氷の女王に相応しい貫録。だがそんなジェロとは対照的な姿を晒している存在がいた。


(…………どうして俺、こんなところにいるわけ……?)


金髪に黒の甲冑を身に纏った少年、ルシア。金髪の悪魔、DC最高司令官という四点魔王にも引けをとらない異名を持つ存在なのだが今のルシアには威厳も何もあったものではない。その瞳には全く生気が感じられない。死んだ魚のような目を見せながらルシアはまるで夢遊病のようにふらふらとジェロの後に着いて行くだけ。ルシアの脳内にはドナドナが流れ続けている。まさに売られていく子牛のような心境。だがそれは無理のないこと。何故なら今、ルシアはかつてないほど危険な場所に、展開に晒されようとしているのだから。


(ち、ちくしょう……何でこんなことになっちまったんだ!? ようやくドリューの件に片がついたと思ったらこれかよ!? っていうかもしかしてこれって今までで一番ヤバイ状況なんじゃ……)


ルシアは息を飲みながらも自分の前を先導するかのように歩いているジェロの背中に目を向ける。今ルシアはジェロの案内によって魔界を訪れていた。それはルシアにとっては想像だにしなかった展開。シンクレアを持ってきてくれるだけでも信じられない事態であったにもかかわらず自分を魔界に連れて行くという行為。しかもどうやらジェロにとってはそちらの方が本命であったらしいことに戦慄するしかない。すなわちそれは残る三人の魔王、全ての四天魔王と会することを意味するのだから。はっきり言って死にに行くようなもの。一人でRPGのラストダンジョンに殴り込みをかけるかの如き蛮行。裏ボス四体を同時に相手にしかねない危険を孕むミッション。一応大魔王の器として認められているといっても何が起こるかは分からないため何とかルシアはそれを断らんと抵抗した。もちろん自分自身の身の危険が一番だったがそれ以外にも理由があった。


(何とかレディにだけは連絡できたが……大丈夫だよな? ディープスノーは無事でネクロマンシーも消えたし、ハル達も蒼天四戦士がいるから大事にはなってないはず……)


それはドリューによって巻き起こった大戦の事後処理。特にエクスペリメントにおける戦いではディープスノー一人に時間稼ぎを命じていたためルシアは気が気ではなかったのだが無事であることをレディから聞かされ肩の荷が下りた形。同時にドリューが操っていたネクロマンシー達も全て消滅してしまったらしい。ハル達に関しては直接確認できたわけではないがあの海域であれば恐らく蒼天四戦士の一人であるダルメシアンがいるため宵の剣の傷であっても治療できるはず。だが何にせよ安心しきることはできず一度本部に戻ることを告げようとしたのだがそれはマザーによって却下されてしまった。言うまでもなくそれはルシアがこの場から逃げ出すことを防ぐため。まさにドSに相応しい血も涙もない所業。許されたのはレディとの通信のみ。それによって自分が戻るまでは活動を停止するよう伝えることはできたもののルシアはこの魔界探検ツアー(マザー命名)から逃れることはできず今に至っているのだった。


(と、とにかく今はここを乗り切ることを第一に考えねえと……!)


とりあえず人間界の問題を切り捨てながら改めてルシアはジェロに視線を向ける。その姿は一年前に会った時と全く変わっていない。それどころか以前よりも力が増しているのでは思えるほど。だがそれはある意味間違っていない。ルシアが以前戦った時のジェロは半分の力しか出していなかったのだから。にも関わらず当時のルシアは手も足も出なかった。まさに絶望の二つ名に相応しい実力。


(しかし本当に傷一つ負わずにドリューを倒したってことは……やっぱ四天魔王はドリューを小僧扱いできるぐらいヤバいってことだよな……)


恐怖で顔を引きつかせながらルシアは改めて四天魔王がまさに規格外の怪物であることを理解する。この世界では現時点で間違いなく最強の四人。原作であれほどハル達を苦しめたドリューを片手間で葬れるほどの存在。知っていた気にはなっていたもののいざそれを目の当たりにすると正気の沙汰ではない。一年前は六祈将軍オラシオンセイス級であり、今はマザー達によれば四天魔王にも引けを取らないと言われているルシアだが全く実感が湧かないのが正直なところ。トラウマ的な意味でもルシアは全く勝てる気がしない。何故原作で三対一とはいえジュリア達が勝てたのか不思議なほど。そんなことを考えていると


「……どうかしたのかしら?」


まるでルシアの思考を呼んだかのようなタイミングでジェロが振り返りながら尋ねてくる。その顔にはまったく感情が見られない。どこか人形のような雰囲気すら感じさせる視線に思わずルシアは体を振るわせるしかない。


「い、いや……そういえばどうしてわざわざ歩いていかなきゃなんねえんだ……? ゲートなら直接メギドの城に行けばいいんじゃ……?」


『あなたを倒す方法考えていました』などと白状するわけにもいかずルシアは慌てながらも何とかそれらしい疑問でその場を誤魔化さんとする。だがそれは魔界に来てからずっと気になりながらも聞くことができないでいたこと。今ルシア達は四天魔王の一人であるメギドの元に向かっているところ。だがゲートはいわば魔界版ワープロードのようなものであり門を開けば直接メギドの元にも行くことができる。にも関わらずわざわざ徒歩で山を登っているのかルシアには分からなかった。


「そうね……でも残念ながらメギドの城には瞬間移動できないようになっているの。アスラが勝手に出入りするのがよほど気になったみたいね。メギドは私達の中でも特に格式を重んじる所があるから」
「そ、そうか……」
「もちろんそれだけでなく外敵の侵入を防ぐことが本来の目的よ……」
「なるほど……ま、当たり前と言えば当たり前か。王がいる城なんだから命を狙う輩が瞬間移動してきたら面倒だもんな……」
「ええ……でも私が覚えている限りでは一度も侵入者はいないわ。それどころか逆らう者も二万年以上見たことがないわね……あのドリューとかいうのを除けばだけれど……」
「さ、さいですか……」


さも何でもないことのようにジェロは現状を口にする。ようするに魔界において四天魔王に逆らうことができる者は存在しないと言うこと。だが当然と言えば当然。あのドリューを子供扱いできるほどの強さに加えてそれが四人。逆らおうと考えることすらできない。むしろそれに逆らうことができただけでも称賛されるべきかもしれない。これからそんな四人の内の一人に会わなければならない事実に頭を悩ませていると


『でね、その時にジェロが何て言ったと思う? 役に立たないなら送り返すなんて言うのよ!? あたし一応シンクレアなのよ!? いくらなんでも酷すぎると思わない? ねえ、聞いてるのマザー?』
『ええい、やかましい! いい加減少しは黙らんか!? おい、主様よ! いつまで我をここに置いておく気だ!? ジェロとばかりしゃべっておらずに何とかせんか!?』


今まであえて無視してきた騒がしい声がルシアの耳に届いてくる。だが辺りにはジェロとルシア以外には人影はない。だがその騒がしさはまるで小さな子供が大声を上げながらじゃれあっているかのようなもの。マザーとバルドル。二つのシンクレアが言い争っている光景がそこにはあった。


「……いいじゃねえか。バルドルだってわざわざお前に会いに来るためにジェロに着いてきたんだ。話相手ができてちょうどいいんじゃねえか?」
『な、何を言っておる!? 我はそんなことなどこれっぽっちも思っておらん! それに何で我がジェロのところにおらねばならぬのだ!?』
「その方が話しやすいだろ……人の胸元でぎゃあぎゃあ騒がれるのも迷惑だしな。俺は魔界探検ツアーに忙しいんでな、後は好きにしてくれ」


どこかどうでもよさげにルシアはマザーに向かって告げる。だがそれはいつものように自分の胸元に向かってではなかった。それはジェロの胸元。今、ジェロの胸元にはバルドルだけでなくマザーも掛けられている。シンクレアを他人に預けると言う本来ならあり得ないような事態。だが今それをルシアは行っていた。相手がシンクレアを必要としないジェロであること。マザーとおしゃべりがしたいバルドルがジェロの胸元にいたこと。何よりも自分を有無を言わさずに魔界へ行かせたマザーへのささやかな嫌がらせだった。


『っ!? お、お主、魔界に連れてきたことをまだ根に持っているのか!? 言ったであろう、これはお主が大魔王の器になるためには必要なことで』
「ほう……じゃあ一年前から迎えが来るのが分かっていながら一言も俺に言わなかったのはどういうわけだ……?」
『そ、それは……まあ、なんだ。そっちの方が面白そうだったからで決して悪意があったわけでは……』
『何? 楽しそうな話じゃない、あたしも混ぜなさいよ。マザー、あなたったら面白い担い手を作ってるのね。もっとガチガチの支配者って感じかと思ってたんだけどこれはこれで面白くなりそうね♪』
『よ、余計なお世話だ! いいから纏わりつくでないうっとうしい! アナスタシス、貴様も何とか言わんか!? 一人だけアキの胸元を独占しおって……』
『私からは何も。今まで散々アキ様を軽んじてきたのですからたまにはいいのでは?』
『それよりも聞いてよマザー。ジェロったらこの恰好のまま人間界でもぶらぶらしてるのよ? 流石に着替えた方がいいんじゃないかって言っても全く聞いてくれないんだから! あなたはどう思う? いくら魔王だって言っても問題があると思わない?』


マザー、アナスタシス、バルドル。それぞれが性格も思考も全く異なる三人(?)がこれでもかと言うほど好き勝手に騒いでもみくちゃになっている。ルシアはどこか乾いた笑みを浮かべながらその光景にげんなりするしかない。バルドルが増えただけでもこの有様。しかも最悪あと二つ同じような存在が増える可能性も残っている。そうなればまともに会話ができるのかどうかすら怪しい。大量にあったDBのように袋に入れて持ち歩くしかないかもしれないと覚悟しながらもルシアは改めてマザーとバルドルを胸元に置きながらも意に介することなく歩いているジェロに目を奪われる。冗談半分でマザーを預かってくれと言ったもののまさか本当に預かってくれるとは思いもしなかったからこそ。


「な、なんか悪いな……でもほんとにいいのか? うるさかったら別に返してもらっても……」
「……構わないわ。バルドルがあなたに迷惑をかけるよりはマシだしね。それにこれぐらいは彼女にとっては日常茶飯事。いつものことよ……」
「そ、そうか……お前も苦労してたんだな……」
『ちょっと、それじゃまるであたしが一方的にジェロに迷惑かけてたみたいじゃない!? しゃべらないあなたを気にしてずっと話しかけてたのにあんまりよ!』
「…………」
『え? また無視? ちょっとお願いだから無視だけはやめてくれない?』


まるで勝手知ったるといった風にバルドルをあしらうジェロの姿にどこかルシアは親近感を覚えてしまう。事情は違うとはいえ同じようにシンクレアに振り回されているからかもしれない(もっともジェロの場合は逆なのだが)同時にどこか懐かしい感覚がルシアを支配する。それはエリーと共に暮らしていた頃の感覚。マザーという厄介者を一時的とはいえ預けることができたこと。形は違えどそれが今目の前にある。もしかしたらジェロは自分の味方なのでは。そう思ってしまうほどに今のルシアの精神は疲れ切ってしまっていた。


『まったく……それはどうでもいいとしてジェロ、お主少しアキに甘すぎるのではないか? ここについてからもずっとアキの周囲にまで冷気を張っておるではないか』
「……え? そうなの?」
「ええ……もっとも私は力を抑えているだけよ。そうしなければいくらウルブールグでも凍りついてしまうわ」
『ふん……つまらん。せっかく熱さで右往左往する姿が見れると思っておったというのに……』
「お、お前な……」


マザーのおよそ主に対する物とは思えない態度にルシアは顔を引きつかせるしかない。分かり切っていたもののやはりマザーは自分にとっては天敵なのだと再確認しながらもルシアもようやくジェロが自分の周囲を含めて冷気で覆っていることを悟る。火山地帯にも関わらず熱さが感じれない程の力。だがその理由を問うよりも早くバルドルがまるで何かを思い出したかのように騒ぎだす。


『っ! そ、そうよ! すっかり忘れてたわ! マザー聞いて! とっても面白いことがあるの! 『愛』!『愛』なのよ!』
『愛……? 何の話だ?』
『それがね、実はジェロったら』


まるで自分だけが知っている秘密をようやく誰かと共有できるかのように喜びに満ちた声でバルドルはマザーにそれを告げんとする。だがそれは


「そう……どうやらまだ理解していなかったようね。マグマに落とされるか氷漬けにされるか、好きな方を選びなさい……」


無慈悲な氷の女王によって封じられる。バルドルはいつかと同じようにバルドルだけを音もなくつまみあげる。だが既にバルドルは凍りつきつつある。滲みでているジェロの冷気によって。その瞳が言葉に偽りがないことを示している。バルドルは自分が調子に乗りすぎてしまったことを悟るしかない。


『じょ、冗談よ……ははっ……っていうか前よりもレベルが上がってない……? っていうかもう凍り始めてるんだけど……? いくらあたし達が壊れないっていってもやっていいことと悪いことが』
「……気にすることはないわ。マグマに落ちてもメギドに回収してもらえばいいだけよ……」
『さ、さあ! 早くメギドの城に行きましょう! 無駄話もこれ以上は必要ないわね!』


まるで何事もなかったかのようにバルドルは皆を先導する。それからバルドルはこれまでの騒ぎが嘘であったかのように黙りこんでしまう。飼い主に怒られてしまった飼い犬同然。そのあまりの豹変ぶりとジェロの姿にアナスタシスはもちろんマザーですら声を失ってしまう。もし余計なことを言えば自分たちもああなってしまうのだと悟るのに十分すぎる絶望。ルシアもまたその心情は同じ。一瞬でも親近感を覚えたのは間違いだったのだと。あれは一種のブラシーボ効果。ルシアは心に刻みつける。目の前のジェロは間違いなく自分を絶望に染める存在なのだと。


先程までの騒がしさが嘘のように静まり返った一行はそのまま一言も発することなくもくもくとメギドの城に向かって進み続けるのだった――――




「着いたわ……この先にメギドがいるわ」


ジェロはどこか淡々とした口調で自らの後ろに着いてきていたルシアに告げる。だがルシアはそんなジェロの言葉に返事を返すことができない。だがそれはジェロの言葉を無視しているわけではない。ただ目の前の光景に圧倒されているだけ。


(な、何だよこのバカでかい扉は……? っていうか周りにいる護衛たちも半端じゃねえ……下手したら全員六祈将軍オラシオンセイス以上なんじゃ……)


ルシアはどこか呆気にとられながら目の前にある巨大な扉に目を奪われる。それは玉座であるメギドの部屋に入るために立ちふさがっているもの。その作りから調度に詳しくないルシアでもそれがどれだけ桁外れのものかは容易に想像がつく。まるでラスボスの前にある扉。どこかにセーブポイントはないかと見渡すもののそんな都合のいいものは存在しない。開ければ逃げることはできない禁忌の門。それに加えその門を守護するように控えている護衛達と城に配置されている無数の兵士たちにルシアは城に入ってから圧倒されていた。護衛達は間違いなく六祈将軍オラシオンセイス以上の力を持っていることが一目で分かるような精鋭ぞろい。その数も恐らくは目に見えるだけではないはず。DCやBGを優に超えるであろう戦力がこの城の中にはある。だがそれは当たり前と言ってもいい。ここは魔界を統治する魔王の城なのだから。その魔王の一人は隣にいるジェロ。その証拠にジェロが城に踏む込んでから兵士たち全てがその場に跪き首を垂れている。自分が完全に場違いな場所にやってきてしまったことをルシアが今更ながらに後悔している中


「邪魔するわよ」


まるで近所の友人に会いに来たかのような気軽さでジェロは無造作に扉を開け放つ。その細腕からは考えられないような力によって巨大な扉は呆気なくこじ開けられてしまう。息を整える暇さえなくルシアは驚愕したまま。ただ扉の奥を見つめるだけ。微動だにできない。できるのはその奥に君臨する魔王に向かい合うことだけ。


「久しぶりね、メギド。約束通り器を、アキを連れてきたわ……」


そんなルシアの姿に気づくことなく優雅に歩きながらジェロはそのままもう一人の魔王に告げる。瞬間、凄まじい熱気がルシアに襲いかかってくる。この玉座には既に灼熱の中。火山地帯の熱でさえ感じ取れなかったジェロの冷気の中にあっても熱気を感じてしまう。それはつまりこの城の主はジェロと同格の力を持つ怪物だと言うこと。


「貴公がアキか……」


四天魔王の一人。 『獄炎のメギド』 全てを燃やし尽くす炎の称号を持つジェロと対を為す魔王がそこにはいた。


メギドはジェロ達が入ってきたことを見届けた後、ゆっくりと座っていた玉座から腰を上げ立ち上がる。ただそれだけ。だがルシアにとってはその一挙一動に生きた心地がしない。メギドはそのまま階段を一歩一歩下りながらルシアへと近づいてくる。メギドにとっては何のことはないただの動き。しかしその足が歩みを踏むたびに部屋の空気が熱く、重苦しくなっていく。魔王の名を持つ者のみが持ち得る重圧。だがそれはルシアとて同じ。確かに四天魔王の重圧はルシアにとっても脅威。体が震えて余りあるもの。同じ四天魔王であるジェロと行動していたこと、不意打ちではなくわざわざ会いに来た(ルシアは会いたくなどなかった)のだから覚悟はしてきている。それでもルシアが恐怖するしかない理由があった。それは


(こ、怖えええええ――――っ?!?!)


単純なメギドの容姿。それがあまりにも怖かったから。まずはその体格。優にルシアの数倍はあろうかという巨大な体、鍛え上げられた屈強な肉体。次にその手足から覗き見える鋭い爪。触れれば全てを切り裂いてしまうような威圧感。何よりも問題なのがその風貌。それは人間ではない。獅子。つまりライオンの顔をした獣人とでもいうべき容姿。今までルシアは何度か亜人と接したことがある。だがその全てがその名の通り人に近い容姿。だが今ルシアの目の前にいるのは間違いなく人間ではない魔に近い容姿を持つ魔王。百獣の王の貌を持つ男。


「…………」


メギドは地鳴りのような足音とともにルシアの目の前にまでたどり着く。ルシアはそんなメギドの貌を見上げるしかない。大人と子供どころの身長差ではない。端から見れば捕食者と餌。どちらがどちらかなどもはや語るまでもない。ルシアはその場から逃げ出したい衝動を必死に抑えながらメギドと向かい合う。それは直感。ここで動けば命はない。冗談ではなくその瞬間頭から喰われかねない恐怖がルシアに襲いかかる。必死に息を飲み、背中を汗だくにしながらルシアは耐え忍ぶ。それがいつまで続いたのか


「ふむ……まさしく大魔王の器……」


感嘆の声を漏らしながらメギドは笑みを浮かべる。重苦しい空気も幾分か和らぎ、メギドはその場から離れて行く。ルシアは突然の理解できない状況に呆気にとられるしかない。だがこれと同じ光景をつい先ほど見たばかりだった。それはジェロの笑み。自分をまるで見定めるかのように見つめた後に二人とも同じようにどこか満足気な表情を浮かべていた。それが何を意味するかを心のどこかで理解しながらもルシアはとにかく目の前に危機が去ったことに安堵するしかない。ルシアは知らなかった。もしその段階で眼鏡にかなっていなければ自分の命がなかったことを。知らず自分が冗談抜きで二度死にかけていることに気づくことはない。


「失礼した。我が名はメギド。魔界を収める四人の王の一人。よくぞ参られた」
「……え? あ、ああ!えーっと……俺は……」
「アキよ。人間界では金髪の悪魔、DCという組織のリーダーね」
「あ、ああ……宜しく……」
「済まぬな、本来なら我の方から出向くのが礼儀なのだが魔界を統治する身であるがゆえのこと、許されよ」
「い、いや……大丈夫で……じゃなくて大丈夫だ! 気にしないでくれ!」
「そう言ってもらえると助かる。とりあえず立ったままでは寛ぐこともできまい。すぐに用意を……」
「っ!? い、いいって!? お構いなく!」


ルシアは全力で手を振りながらメギドの提案を丁重にお断りする。残念ながらメギドとジェロを相手にしながらお茶をする度胸などルシアにはない。いや彼らと面と向かい合ってお茶ができる存在などいるはずもない。ある意味悪夢のような異次元空間が形成されかねないためルシアとしては絶対に御免な提案だった。


「あなたが飲むような飲み物がアキの口にあうとは思えないし……私も遠慮させてもらうわ。お茶をするためにここに来たわけでもないしね……」
「それもそうか……とにかく器の出迎えご苦労だった。期限は守ったようで安心したぞ。あのまますぐに連れてくるのではないかと心配していたのだが……」
「余計な心配ね。言われなくても期限は守るわ。そのためにあなたに後を任せたわけだし……」
「ふむ、違いない。だがやはりお主がバルドルを持って行ったのだな。何者かに奪われたと魔界では大騒ぎになったのだぞ」
「……? どういうこと? 私はバルドルがアスラに了承を得ていたと聞いたのだけれど……」


ルシアは四天魔王同士の会話に割って入ることができないまま聞くことしかできないものの話の内容は察することができた。その証拠にどこか冷や汗をかいているシンクレアがこの場に存在している。それを理解しているのかその場の全ての視線がジェロの胸元に集中する。そこには


『あ、あれ……? おかしいわね、ちゃんとアスラには伝えたはずなんだけど……やっぱりダメだったのかしら?』


どこか白々しい態度を取りながらも全く悪びれていないバルドルの姿があった。


「……どういうことか説明してもらおうかしら」
『い、いやねーそんなに見つめないでくれる? ちょっとした手違いなんだから! ちゃんと伝言は残したのよ! アスラに分かるように新しいDBも生み出して伝言を頼んだんだから! ね、何の問題もないでしょう?』
「そう……でもそれは結局許可は取っていないのと同じじゃないかしら……?」
『そ、そうとも言えるわね……だ、だってアスラに言っても聞いてもらえるわけないもの! あたしはとにかくマザーに会いたかったの! だって五十年間ずっとあたしだけ魔界なのよ? アスラはずっとホムしか言わないしならあなたが人間界に行くチャンスを逃すわけにはうぷっ!?』
「分かったわ……しばらく口を閉じていなさい……」


もう聞くことはないとばかりにジェロはその手にバルドルを握りしめそれ以上の反論を封じる。物理的には何の意味もない行為だがバルドルにとっては黙りこんでしまうには十分な恐怖だったらしい。


「まあアスラの城には我ら以外は入れぬから心配はしていなかったが、せめて一言残してゆけ。アスラはすぐに察したようだが……」
「ええ、私も軽率だったわ……でもシンクレアを探すのには役に立ったから今回は許してあげるわ」
「シンクレア……? お主、他のシンクレアを探しておったのか?」
「そうよ。アキを迎えに行くだけでは芸がないしね。手土産のつもりだったのだけれど色々あって上手くはいかなかったわ……」
「ふむ、だが我らが担い手のシンクレア争奪に関与するのは好ましくないのではないか。あくまでも我らが関与できるのはバルドルの儀式だけのはず」
「……そうね。それについては認めるわ。少し公正さを欠いていた行為だったわ」
『え? あたしが言った時には聞いてくれなかったのにどういうこと? この扱いの差は何なわ』


あんまりな扱いに抗議の声を上げようとするもバルドルはそのままジェロによって黙らされてしまう。シンクレアの頂点であるバルドルを子供扱いしているジェロの姿にルシアは驚きながらもどこかある種の尊敬すら抱いてしまう。このままマザーをジェロの預けていた方が色々と楽なのではと思えるほど。その証拠にマザーは自分が責められているわけでもないのに黙りこんだまま。ある意味レイヴとは違う意味でのシンクレアの天敵と言えるのかもしれない。


(と、とにかく俺がどうこうされる心配はひとまずなさそうだな……後は頃合いを見てお暇させてもらうことに……?)


ルシアがひとまず命の危険はないことを悟り、そのままじゃあお邪魔しましたといった自然さを装いながらその場をお開きにせんとした瞬間、それは起きた。


「ホム」
「…………え?」


それは声だった。いや、どこか鳴き声にも似た意味を為さない言葉。それが部屋の中に響き渡るもそれはあり得ない。ここはメギドの部屋。無数の兵によって守られている絶対の城。それを突破することができるものなど存在しない。それができるのはメギドと同じ四天魔王の名を持つ存在だけ。それは


「思ったよりも遅かったのね、アスラ。あなたのことだからもっと早く来るかと思っていたのだけれど……」
「うむ……だが前にも我が城に入るときには正面から来るよう言ったはずだが……」
「ホム?」


ジェロはさも当然のように、メギドは溜息を吐きながらも慣れた様子で突然の来訪者を迎え入れるもルシアは驚愕するしかない。何故ならそれは床を通り抜けるようにして姿を現したのだから。だがその力をルシアは感じ取ることができる。当然だ。それはDBの力なのだから。


『漆黒のアスラ』


それが今この場に現れた侵入者の正体。四天魔王の一人であり『魔石王』というもう一つの二つ名を持つ存在。その容姿はまるで小柄な老人のよう。だがまるで生き物ではないかのような不気味さと禍々しさを纏っている。その二つ名の通り全てのDBをその身に宿しているいわば生きたDBに等しい怪物。床を通り向けてきたのもその能力の内の一つだった。


「紹介するわ。彼の名はアスラ。魔石王の二つ名を持つ四天魔王の一人よ……本当の姿もあるのだけれど戦うとき以外はこの姿なの」
「どうやら貴公がやってきたことを感じ取ってきたらしい。アスラよ、お主も見定めるがよい。我々が探し求めた大魔王の器になり得る担い手だ」
「ホム?」


ジェロとメギドの言葉に誘われるようにひょこひょこと動きながらアスラはそのままルシアの目の前まで近づいてくる。どこか間抜けさを、頼りなさを感じさせるような動き。だがそれとは裏腹にルシアは感じ取っていた。それはDBマスターとしての感覚。それがルシアの心に警鐘を鳴らす。


(これは……シンクレアの気配!? いや、下手したらシンクレアよりも……!?)


それは圧倒的なエンドレスの力。DBの力の源とでもいるエンドレスの力が信じられない規模でアスラの体の中には感じられる。その凄まじさはシンクレアを超えるほど。全てのDBの力を有しているに相応しいデタラメぶり。ジェロやメギドとは違う次元での危うさがそこにはある。それはDBマスターのルシアをして恐怖するほど。底がしれない不気味さがそこにはある。


「…………」
「ア、 アキだ……よろしく……」


もはや心ここに非ずと言った風にルシアはアスラに挨拶するも全く反応がない。声を上げることもなくアスラはただじっとルシアを見つめているだけ。メギドとは違い小柄であるため下から見上げられている形だがその不吉さは先の比ではない。しかもジェロやメギドのような反応が全く見られない。まるでかつて何度か感じたエンドレスの存在にも似た感覚にルシアはその場に固まるしかない。だがしばらく睨み合いが続いたものの満足したのかアスラはそのまま視線を向けたまま下がって行く。


(な、何だ……? もういいってことなのか……?)


ようやく四天魔王とのにらめっこというかつてのキングとの耐久にらめっこを遥かに超える試練が終わったことにルシアは大きな溜息を吐く。ようやくこの魔界探検ツアーも終わりが近づいてきたかに思えたその時


「どうやらようやくお出ましのようね。てっきり一番に来ているかと思っていたのに」
「うむ。だがあの距離を一気にここまでやってくるとは。やはり一年前から待ちわびていただけはあると言ったところか」
「ホムホム」
「……? 一体何の話を……」


ジェロ達がまるでここではないどこかに意識を集中させながら会話していることにルシアは頭に疑問符を浮かべるしかない。だがそんな中、マザーだけは知っていた。それを示すように紫の光が怪しく光っている。まるで悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべながら。


瞬間、凄まじい揺れが城に襲いかかる。まるで地震が起こったかのような揺れの連続。だがそれは地震ではない。その証拠にその揺れは凄まじい轟音とともに一定の感覚で起こっている。


まるでそれは足音。巨人が一歩一歩この城に向かって近づいているかのような感覚。


ルシアは顔面を蒼白にしながら開かれた扉からその光景に目を奪われる。


それは剣だった。剣が一人で動きながら少しずつこちらに向かって近づいてくるというあり得ない光景。だがそれは間違い。


一つはその剣はただの剣ではなかったこと。遠目から見れば唯の剣だかそれはあり得ない。何故ならそれは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。優に数十メートルを超え、刀身には『戦』の一文字。本当に巨人が持つかのような超巨大な剣。


もう一つが剣一人でに動いているのではないということ。ルシアから見れば微かに見えるほど小さな人影。だがその人物こそが何よりもルシアを恐怖させていた。それは見間違いだったのかもしれない。だが確かにルシアは見た。その男と自分の視線が交差したのを。


同時に男の表情に笑みが浮かぶ。だがそれはジェロやメギドとは根本から意味が違っていた。本来なら表情すら見えない程離れているにも関わらずルシアは悟った。それがまるで獲物を見つけたかのような強者の笑みであったことを。



「……待ちわびたぞ、器よ。さあ、オレを楽しませてくれ」



『永遠のウタ』


四天魔王最強であり戦王の称号を持つ男。


今、ルシアにとって史上最大の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた――――


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034676074981689