場所はDC支部。その中の薄暗い大きなホールのような場所に五人の人影があった。一人はアキ。だがアキは無言のままローブを深く被り俯いてしまっている。その隣には並び立つように三人の姿がある。レイナ、ジェガン、ユリウス。六祈将軍と呼ばれるDCの幹部たち。だがアキがそんな様子を見せているのは彼らが原因ではなかった。それは自分達を見下ろすような位置に座っている人物、男のせい。一国の力に匹敵すると言われる六祈将軍たちですらその男の存在によって緊張していることが伺える。これだけの実力者たちを前にして完全に場の空気を支配してしまうほどの圧倒的な存在感。
それがDC最高司令官キングという男の力だった――――
あれ……? 一体何がどうなってんの……? 俺、なんでこんなところにいるんだ? だって完全に場違いにも程があるんですけど? 確かに俺DCの協力者っていうことになってるけど明らかにおかしいよね? 周りが全部六祈将軍、幹部しかいないんですけど? その集まりに何で俺が加わってんの? い、いやそれはまあいい。全然よくはないのだがまあいいことにしよう。レイナの俺を驚かせる、からかう悪戯だと割り切ることもできる。でもどうしても、無視することのできない問題があった。
キングだった。どっからどうみてもキングだった。間違いなくDC最高司令官であり、この体、ルシア・レアグローブの父であるゲイル・レアグローブその人だった。
ふ、ふざけんなああああっ!? 何!? 何なのこの状況!? なんでこんなところにキングがいるわけっ!? 何の冗談っ!? ジークどころじゃない、絶対に接触しちゃいけないお人が目の前にいるんですけどっ!? い、一体何がどうなって……
アキはこの世界に来てから一番の緊張状態に陥り身動き一つとることができない。だがそれは無理のないこと。ルシアの身体であること。シンクレアを持っていること。他にも挙げれば一ダースでも持ってこれそうなほどの死亡フラグの塊と言ってもいいほどの存在が目の前にいるのだから。そんなアキの様子に気づくことなく六祈将軍たちは定期報告をキングに向かって行っていく。本来ならハードコア山脈にある本部で行うのだが今回はキングが視察にこの支部へと訪れる予定になっていたためこの場でそれが行われることになっているのだった。ようやく事情を悟ったアキが何とか落ち着きを取り戻しながらもローブの中から隣にいる恐らくはこの事態の元凶と思われる人物に目を向ける。そこには悪女、もとい六祈将軍であるレイナの姿があった。そしてそんなアキの視線に気づいたのかレイナはどこか楽しそうにウインクを返してくる。アキは確信する。間違いなくこの状況がレイナのせいであることを。
や、やっぱりてめえのせいか、レイナッ!? というかわざわざこんな支部に呼んだと思ったらこれが狙いかっ!? 一体何の恨みがあってこんなことを……い、いやレイナからすれば最高司令官であるキングに引き合わせることで俺の評価を上げようとしてくれたのかもしれんが……そういえば六祈将軍にも誘ってくれてたしその延長線上ってわけ? そんなに今の六祈将軍のメンバーに不満があんの? そのウインクは素晴らしいがそんなことでは誤魔化されんっつーの!? ち、ちくしょう……と、とりあえずは大人しくしておかねば。どうやらキングも六祈将軍たちの報告を聞くことに終始してるみたいだしこのまま気配を消しやりすごすしかない。今の俺ならハイドがなくても完全に気配を絶てる気がする。
しかし……やはりキング。その威圧感が、存在感が半端ない。流石は第一部のラスボスといったところか。しかもDBマスターである俺にはキングが持つDBの力も感じ取れる。
『デカログス』 『ブラックゼニス』 『ゲート』 『ワープロード』 『モンスタープリズン』
それがキングが持つ五つのDBたち。原作でも実際に戦闘で複数のDBを使っていたのはキングぐらいだろう。四天魔王アスラのは何と言うか反則というか別次元だから除外するとして……やはりその力、習熟度が半端ではない。ほぼ全てのDBの力を使いこなしていると言ってもいい。唯一デカログスだけは完全には使いこなせてはいないようだが……確かあいつが造られたのは最近のエンクレイムだったはずだし無理もないか。原作だと真空の剣までは使っていたはず。もしかしたら他の剣も使えたのかもしれんが……いや、それは無いと信じたい。キングの羅刹の剣とか冗談抜きで洒落にならん。ゲイルとハルの二人がかりでも絶対に勝てないに違いない。っていうかあれ使うと頭痛と筋肉痛が酷いことになるんだよな……とそれは置いといて。改めて考えると何か俺とキングのDBって結構被ってんだな。デカログスとワープロードは当然として見方によってはブラックゼニスはマザーの下位互換と言えるかもしれん……ん? そう言えばさっきからマザーの奴妙に静かだな。あんなに騒いでたのに。
おい、マザー! どうかしたのか? は? ちょっと見惚れてた? キングに? あっそ……やっぱお前から見てもキングってヤバいのか? 今まで会った人間の中で一番の力を感じるって? ふむ、なるほど……
どうやらマザーはキングの力に見惚れてしまっていたらしい。まあそうだろうな。レアグローブの血を持つ闇の頂点とまで言われた男だし。この様子なら間違いなくキングもシンクレアを持つ資格があるのだろう。本当ならこの厄介者を押し付け、もとい譲り渡して自由の身になりたいところなのだがそんなことすれば間違いなくハル達は負けてしまう。そうなれば世界はおしまい。非常に残念だがこの案はあきらめるしかないだろう。もっともそんなことは最初に出会った時から分かり切っていたことなのだが……
ん? 何だよ? は? 心配するな? 何の話だ? 自分のマスターは俺だけだって? そうですか……それは光栄なこって……というかそこで何で恥ずかしがってんの? 気色悪いんですけど? 痛てててっ!? こんなところで頭痛を起こすんじゃねえっ!? 声が出ちまうだろうがっ!?
そんなコントという名の脳内会議をアキがマザーと行っている間に六祈将軍の定期報告は終了し場に静けさが戻る。これでお開き。さっさと余計なことが起こる前にこの場を去らせてもらおうとアキが安堵しかけた瞬間
「では今日の本題に入る。最後の、六人目の六祈将軍についてだ」
それはキングの言葉によって木っ端微塵に砕かれてしまった。
……え? なんだって……? 何か恐ろしい言葉が聞こえたような気がするんですけど……? そうか、今日はそれを決めるための会合だったわけね。道理でキングはもちろん六祈将軍が三人も集まってるわけだ。納得納得……じゃねええっ!? どう考えてもこの流れって……
「レイナ、その男がお前の推薦する者か?」
「ええ。名前はアキ。今更言う必要もないかもしれないけど私たちに六星DBを提供し、今もDBをDCに提供してくれている男よ。貢献度で言えば十分だし私は彼を新しい六祈将軍に推すわ」
キングの言葉にレイナは笑みを浮かべながらどこか楽しげに応える。瞬間、全て視線がアキに向かって集中する。ユリウスはどこか嬉しげに、ジェガンはいつもと変わらない雰囲気で、そしてキングは圧倒的な威圧感をもって。だがいつまでたってもアキは身動き一つしない。ローブを被ったまま一言も発しようともしなかった。
『ちょっとアキ……いつまで黙ってるつもり? さっさとそのローブを脱いで挨拶なさいよ』
流石にこのままではまずいと感じたのか耳打ちするようにレイナがアキに向かって話しかける。せっかく自分がここまでお膳立てしたのにこのままでは御破算だ。そしてなによりこのままローブを被ったままなどキングに対する侮辱に等しい。何だかんだ言いながらアキのことを気に掛けてくれているレイナなりの心遣いだった。もっともそれはアキにとっては余計なお世話以外の何物でもなかったのだが。
ち、ちくしょう……何でこんなことに……まさかレイナのあの時の言葉が冗談じゃなくマジだったなんて……だ、だが六祈将軍はともかくこのままずっとローブを被ったままっていくらなんでも不味すぎる。心なしかキングからのプレッシャーが増していっている。このままではキングを敵に、最悪六祈将軍たちすら敵に回すことになりかねん。それだけは回避しなくては……! こんなことならずっとイリュージョンで顔自体を別人に変えておくべきだったか……? い、いやそんなこと常時してたらイリュージョンが保たんし今更どうしようもない! だ、大丈夫だよな……? うん、髪は黒く染めてるし、顔の傷はイリュージョンで隠してる。いくら親子だといってもキングが最後に見たのは四、五歳の頃のルシア。今の十六歳のルシアを見てもそれが息子だとまでは分からないはず! ここはもう腹をくくってやるしかない!
アキはもはややけくそ気味にそのローブから素顔を晒す。もっとも素顔といっても髪は黒く染まり、顔の傷は隠している状態だったのだが。
「もう、何でそんなに顔を見せたがらないわけ? 隠すような顔でもないでしょう?」
「その通りだよ。僕やジークには敵わないがそれでも十分美しい顔だよ」
「………」
レイナはやっと顔を晒したアキに内心安堵する。どうなる事かと思ったが何とかなりそうだ。ユリウスもジェガンもアキとは面識がありその印象は悪くはない。恐らくアキが六祈将軍になることに賛成することはあっても反対することなどないだろう。問題はアキ自身の強さなのだがそれも問題ないはず。聞いた話ではハジャとも面識があるようだし、自分のちょっかいにも対処できるだけの力はある。何よりも変人ばかりの六祈将軍に一人ぐらい常識人を入れたい。もっともアキもDBマニアといってもいい特殊な趣味があるようだが話ができる分ジェガンよりはマシだろう。
そんな失礼極まりないことを思われていることなど露知らずアキはただ無表情でキングと対面していた。もっともそんなことに気を割けるほど余裕がないだけだったのだが。
「貴様がアキか……」
「………」
あの……気のせいでしょうか? ガン見されてるんですけど。めっちゃガン見されてるんですけど? 無言のままずっとキングに睨まれてるんですけどどういうこと!? え!? ま、まさか俺がルシアだってバレちまったのかっ!? そ、そんな漫画みたいなことがってここ漫画の世界だったっけ……じゃなくて!? 威圧感が、プレッシャーがさっきまでの比じゃないんですけどっ!? 何か蛇に睨まれた蛙そのまま。もう俺はダメかもしれん。マジでちびる直前って感じだ。今になってあの時のフルメタルの気持ちが分かったような気がする。こりゃまともにしゃべれなくなっちまうわけだ。だ、だが絶対にそれは悟られないようにしなくては。弱みを、変なところを見せればますます怪しまれてしまう。耐えるんだ俺!
そんなよく分からないことを考えながらもただずっとキングとにらめっこをするという拷問のような状態がしばらく続く。レイナたちも不思議に思いながらもキングがいる手前待ち続けるしかない。そして
「………若いな。歳はいくつだ?」
どこか静かな、それでも響くような重い声でキングが疑問を口にする。だがその質問に咄嗟にアキは答えることができない。それは正直に答えるべきかどうかに迷ったから。だがあまりに不自然な年齢を言っても逆に怪しまれてしまうかもしれない。アキが背中に滝のように汗を流しながら口ごもっている中
「確か今年で十六だったはずよ。でしょ、アキ?」
アキに代わるようにレイナが答える。その言葉にアキは頷くことしかできない。どうやらキングの前で緊張してしまっているアキに代わりレイナは補足をする役目をすることにしたらしい。その後もアキに代わりレイナがキングの質問に答えていくという形で質問と言う名の面接が行われていく。だがアキにとってはそれは死刑宣告を待つ犯罪者同然の状況だった。
「……確かに我がDCへの貢献は申し分ない。だが六祈将軍となる者にはなによりも強さが必要だ。その意味でもう一人、オレが次の六祈将軍に相応しいと考えている男がいる……入ってこい、シュダ」
一通りアキのことを質問した後、キングは部屋の入口に向かって声を上げる。同時にそこから一人の男が現れる。その姿にレイナたちは視線を向ける。歳は二十代後半。どこか危険な雰囲気を感じさせる男。それだけでその男がかなりの実力者であることを六祈将軍たちは見抜く。だがアキだけは違っていた。顔は平静を装っているもののその内心は混乱の極致にあった。何故ならアキはその男を知っていたから。
六祈将軍の一人 『爆炎のシュダ』 後にハル達の仲間となる重要人物だった。
な、何でこんなところにシュダさんがいらっしゃるんですか!? い、いやよく考えれば六祈将軍を決めるための集まりなわけだし当たり前っちゃあ当たり前だが……てちょっと待って? じゃあこれって俺がそれを邪魔しちゃってるってこと? い、いかん! それはマジで勘弁して!? シュダって序盤でハルと何度もぶつかるいわば中ボス的なキャラ。それが変わってきたら物語が破たんしかねん!? 爆炎のアキとか絶対に御免だ! 全然似合ってないし何より六祈将軍になんてなるわけにはいかねえ!
「そう、あんたがシュダなの。何度か名前は聞いたことがあるわ。前線で功績をあげてるって」
「困ったね……残っている六祈将軍の席は一つ。これじゃあ一人は余ってしまうよ」
「………」
シュダを前にしてレイナたちはどうしたものかと思いながらもそれ以上口を出すことができない。六祈将軍を任命する権利はキングにある。レイナとしてはアキを推したいところだがキングが候補として選んできた相手を無下にすることもできない。ユリウスとジェガンもそれ以上口を出さずに静観する構え。そんな中シュダは鋭い視線でアキを射抜いている。どうやら自分の昇進を邪魔する相手だと認識しているらしい。だがそれを受けながらもアキは表情一つ崩さない。それが余計にシュダの自尊心を刺激してしまっていた。そんな中
「仕方あるまい。ならばアキとシュダ。この場で戦い勝った方に六祈将軍の座を与えよう」
キングが判決を下す。勝った者、勝者にその名を与えると。ある意味で最も分かりやすい摂理。弱肉強食。悪の組織であるDCにとっては強さが全て。それを示すかのような形だった。
「ちょ、ちょっと! キングそれは……」
「あきらめなよレイナ。キングの決定だよ? それにいい機会じゃないか。アキが戦ってるところは見たことないんだろう?」
「それはそうだけど……」
レイナ達が騒いでいるのをよそにシュダはその腰から剣を抜きアキへと近づいて行く。どこか挑発的な笑みを浮かべながら。その姿からは強者の風格が滲みでている。これまで前線で戦い続けてきた者が持てるもの。自分の強さへの自信そのものだった。
「なるほど……分かりやすいじゃねえか。オレとお前、勝った方が六祈将軍になれるってことだ。なあ、アキ?」
瞬間、シュダの剣が炎に包まれる。それはシュダの腕にあるブレスレットから生まれていた。それこそがシュダが持つDB『ヴァルツァーフレイム』の力だった。
いやいやいやちょっと待って!? 俺一言もやるなんて言ってないんだけど!? 誰かこの脳筋止めてくれよ!? あれ? 誰も止めに入ってくれない? やっぱキングの命令には、決定には逆らえないってことですか? し、しかしどうしたもんか……やっぱ初期のシュダは何というか小物臭があるな。まあ実力的には申し分ないんだろうけど。あれが今シュダが使ってるDBね。そう言えばフルメタルも持ってるっぽい。その気配が感じ取れる。
久しぶりだな、フルメタル……っておい大丈夫かお前!? 何でそんなに震えて……ってそうか! 当たり前じゃん!? シュダは気づいてないが(というかハイドで気配を消しているので全員が気づいてないけど)DBたちは今自分達が戦いを挑もうとしてるのがシンクレアだと、マザーだと知っている。見ればヴァルツァーフレイムも恐怖でガクブル状態になっている。というかフルメタルは既に失神寸前だ。よく考えればこの状況二度目だしな。マザーに二度も喧嘩売るなんて正気の沙汰じゃない。もっともフルメタル自身はそんな気は微塵もないのだが……おいこらマザーっ!? 笑ってねえでお前も何とか言ってやれよ!? どんだけドSなのお前!? 児童虐待で訴えるぞこらっ!? と、とにかくここはもう賭けに出るしかない……死中に活を見出す! こうなったらどうとでもなれだ!
シュダがいつまでも構えようとしないアキを不思議に思いながらもついに剣を振りかぶり戦闘が開始されんとしたその瞬間
「断る。俺は六祈将軍になるつもりはない」
それはアキの予想外の言葉によって止まってしまった。シュダだけではない。その場にいる全ての人間がアキの言葉によって驚きの表情を見せている。まるで信じられない言葉を聞いたかのように。当たり前だ。何故ならアキの言葉は降参でもない。それは戦わない、すなわちキングの言葉を無視するに等しい意味を持っていた。それはある意味シュダと戦うことよりも遥かに常軌を逸した選択だった。
瞬間空気が凍った。それはキングが発するプレッシャーによるもの。今まさに戦おうとしたシュダ、そして六祈将軍であるレイナたちですらその重圧に身体を振るわせ、息を飲む。キングに逆らえばどうなるか。それを身を以て知っているからこその反応。いかな六祈将軍といえどもキングに逆らえば命はない。
それが分かっているレイナはキングに気づかれないようにアキにアイコンタクトを送り続ける。先の言葉を撤回しろと。六祈将軍になれとは言わないがキングの命令、シュダと戦うことは承諾しろと。だがそれを知ってか知らずがアキはそのままただずっとキングと睨みあい続けている。これが自分の意志だと、覆すつもりはないと誇示するかのように。その姿に当事者ではないにもかかわらずレイナは寿命が縮む思いだった。レイナほどではないがユリウスとジェガンもこの一色触発の空気に身体をすくませていた。そしてまるで永遠にも感じられるほどの沈黙がつづいた後
「……いいだろう。シュダ、貴様を六祈将軍に任命する」
キングの言葉によってそれはようやく終わりを告げる。瞬間、先程までの空気が霧散していく。まるで時間が止まってしまっていたかのような出来事だった。まさにアキにとっては九死に一生を得たに等しかった。
あ、あぶねえ……ほんとに死ぬかと思った……寿命が十年以上縮んだわ間違いなく。もうキングはもちろんこの場にいる全員を敵に回しかねん勢いだった……そうなったらワープロードでトンズラさせてもらう気だったんだけどとりあえず助かった……DCを敵に回すことになってもそれだけは譲れん。これ以上原作からかけ離れるのは絶対にごめんだっつーの!
は? 何でもっと煽らないのかって? ふざけんなこれ以上そんなことしたらマジで全面戦争じゃねえか!? 最近力を使ってないからストレス発散になるって!? 俺のストレスは既にマッハだよ!? 俺をハゲさせるつもりかてめえっ!?
「シュダよ、六星DBを渡す前に一つ任務を与える。レイヴマスター、シバの居所が判明した。それを排除して来い」
「へえ、本当にレイヴマスターなんていたのね。てっきり噂だとばかり思ってたんだけど」
「光と闇。レイヴとDBが争い合うのは運命なのさ。もっとも今のレイヴマスターは年老いてしまっているらしいけど……ああ、年月というのは残酷だ」
「………」
『どうしたのアキ? 難しそうな顔してるわよ。今になって震えでも来たのかしら?』
『そ、そんなんじゃねえよ……』
アキのどこか不自然な様子に気づいたレイナが小声で話しかけてくるもののアキはそれをのらりくらりとかわすだけ。確かにそれもあるがもう一つ気になることがあった。
それはシュダ。シュダはキングの命を受けて退室していく時のアキを見る眼。あきらかに敵意があった。
やっぱそうなるわな……俺のせいでおこぼれにあずかるような形で六祈将軍に任命されたようなもんだし……もっとも六星DBを渡されるのはまだ先のようだが。もしこの場で渡されたらどうしようかと冷や冷やものだった。流石にそれは不味すぎる。いきなりバレッテーゼフレアとかハルには無理ゲーだ。ただでさえ初戦に勝てたのは偶然に近かったんだし。
ま、まあ色々あったが何とか乗り切った! マジでどうなるかと思ったがこれでしばらくは問題ないだろう。キングの命令から原作が始まるのはもうすぐのようだしそれに向けて動き出さなければ! おい、何いつまでぶつぶつ文句言ってるんだマザー? は? あのまま戦わなくて良かったのかって? ふざけんなよ!? なんでこんな敵陣のど真ん中で、しかもキングと六祈将軍が三人もいる状況で戦わにゃならんのだ!? DCを乗っ取るのはもっと先だよ! え? 本当に乗っ取る気があるのかって? あ、当たり前だろ……ちょっとまだ準備が色々いるんだよ! とにかく余計なことするなよ!? ったく……ほんとにこいつは状況が分かってんのか……? 付き合わされる身になれっつーの……
アキはそのままマザーと言い合いを続けながらも自分が何とか助かったと安堵していた。それはこの場にいる誰もが同じ。アキが九死に一生を得たのだと。だがDBたちにとっては違っていた。その場にいたDBたちは全員悟っていた。もしあのままアキとDCが全面対決になっていれば負けていたのは自分達だったろうと。六星DBたちですらその例外ではない。
『母なる闇の使者』と『魔石使い』
その力の前ではDBを持つ者では敵わない。同じシンクレアを持つ者、そしてレイヴマスターでなければ。もっともそのことにまだアキは本当の意味で気づいていない。まだ自分がどんな存在なのか理解できていない。
ルシアの身体を持っているとはいえマザーシンクレアを持ち、その力を使える自分が『普通』だと思い込んでいるのだから。
それぞれの思惑を胸についに運命の日、物語の始まりが訪れようとしていた―――――