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No.33132の一覧
[0] 【無印完結・チラ裏から】もしも海鳴市にキュゥべえもやってきたら?【リリカルなのは×まどか☆マギカ】[mimizu](2014/10/15 23:22)
[1] 【無印編】第1話 それは不思議な出会いなの? その1[mimizu](2014/08/15 03:40)
[2] 第1話 それは不思議な出会いなの? その2[mimizu](2012/05/19 14:49)
[3] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その1[mimizu](2012/06/24 03:48)
[4] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その2[mimizu](2012/05/15 19:24)
[5] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その3[mimizu](2012/05/19 14:52)
[6] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その1[mimizu](2012/05/23 19:04)
[7] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その2[mimizu](2012/06/02 12:21)
[8] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その3[mimizu](2012/12/25 18:08)
[9] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/02 12:52)
[10] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:39)
[11] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/12 23:06)
[12] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その4 [mimizu](2012/06/12 23:23)
[13] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/17 10:41)
[14] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:59)
[15] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/24 03:38)
[16] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その1[mimizu](2012/06/26 21:41)
[17] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その2[mimizu](2012/06/30 23:40)
[18] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その3[mimizu](2012/07/04 20:11)
[19] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その4[mimizu](2012/07/07 16:14)
[20] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その5[mimizu](2012/07/10 21:56)
[21] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その6[mimizu](2012/07/15 00:37)
[22] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その7[mimizu](2012/08/02 20:10)
[23] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その8[mimizu](2012/08/02 20:51)
[24] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その1[mimizu](2012/08/05 00:30)
[25] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その2[mimizu](2012/08/15 02:24)
[26] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その3[mimizu](2012/08/15 19:17)
[27] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その4[mimizu](2012/08/28 18:17)
[28] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その5[mimizu](2012/09/18 21:51)
[29] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その1[mimizu](2012/09/05 01:46)
[30] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その2[mimizu](2012/09/09 03:02)
[31] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その3[mimizu](2012/09/15 05:08)
[32] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その4[mimizu](2012/09/22 22:53)
[33] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その1[mimizu](2012/10/17 19:15)
[34] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その2[mimizu](2012/10/31 20:01)
[35] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その3[mimizu](2012/10/31 20:13)
[36] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その4[mimizu](2012/11/23 00:10)
[37] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その5[mimizu](2012/11/23 01:47)
[38] 第8話 なまえをよんで…… その1[mimizu](2013/01/07 00:25)
[39] 第8話 なまえをよんで…… その2[mimizu](2013/01/07 00:33)
[40] 第8話 なまえをよんで…… その3[mimizu](2013/03/23 19:15)
[41] 第8話 なまえをよんで…… その4[mimizu](2013/03/29 19:56)
[42] 第8話 なまえをよんで…… その5[mimizu](2013/03/29 19:57)
[43] 第8話 なまえをよんで…… その6[mimizu](2013/04/06 18:46)
[44] 第8話 なまえをよんで…… その7[mimizu](2013/04/06 19:30)
[45] 第8話 なまえをよんで…… その8[mimizu](2013/04/06 19:31)
[46] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その1[mimizu](2013/05/12 00:16)
[47] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その2[mimizu](2013/05/12 01:08)
[48] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その3[mimizu](2013/05/28 20:13)
[49] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その1[mimizu](2013/09/22 23:21)
[50] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その2[mimizu](2013/09/22 23:22)
[51] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その3[mimizu](2013/09/22 23:24)
[52] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その4[mimizu](2013/09/22 23:25)
[53] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その5[mimizu](2013/09/22 23:26)
[54] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その6[mimizu](2013/09/22 23:28)
[55] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その7[mimizu](2013/09/22 23:28)
[56] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その8[mimizu](2013/09/22 23:29)
[57] 第11話 わたしはアリシア その1[mimizu](2013/10/06 18:04)
[58] 第11話 わたしはアリシア その2[mimizu](2013/10/06 18:21)
[59] 第11話 わたしはアリシア その3[mimizu](2013/10/20 23:56)
[60] 第11話 わたしはアリシア その4[mimizu](2013/11/24 18:21)
[61] 第11話 わたしはアリシア その5[mimizu](2013/12/07 17:17)
[62] 第11話 わたしはアリシア その6[mimizu](2013/12/13 22:52)
[63] 第12話 これが私の望んだ結末だから その1[mimizu](2014/04/01 17:34)
[64] 第12話 これが私の望んだ結末だから その2[mimizu](2014/04/01 17:34)
[65] 第12話 これが私の望んだ結末だから その3[mimizu](2014/04/01 17:35)
[66] 第12話 これが私の望んだ結末だから その4[mimizu](2014/04/01 17:36)
[67] 第12話 これが私の望んだ結末だから その5[mimizu](2014/04/01 17:41)
[68] 第12話 これが私の望んだ結末だから その6[mimizu](2014/04/12 02:18)
[69] 第12話 これが私の望んだ結末だから その7[mimizu](2014/04/24 19:20)
[70] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その1[mimizu](2014/05/04 02:13)
[71] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その2[mimizu](2014/05/19 00:31)
[72] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その3[mimizu](2014/07/31 22:10)
[73] 第一部 あとがき[mimizu](2014/07/31 17:05)
[74] 第二部 次回予告[mimizu](2014/07/31 17:07)
[82] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 前編[mimizu](2014/09/16 20:40)
[83] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 中編[mimizu](2014/09/16 20:40)
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[33132] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その1
Name: mimizu◆0b53faff ID:ab282c86 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/22 23:21
 なのはがキュゥべえと契約し、フェイトがクロノに捕まる一日前、時の庭園ではプレシアとキュゥべえによる情報交換が行われていた。

 プレシアが提供するのは主にミッドチルダの魔法と次元世界の仕組みである。肝心のプレシアの目的などの情報は一切、聞き出すことはできなかったが、多くの人類がまだ見ぬ別世界に存在していると知れただけでもキュゥべえとしては十分な成果と言えるだろう。

 もちろんキュゥべえ側もその対価としてプレシアにいくつかの情報を渡していた。その一つはキュゥべえが魔法少女と契約するメカニズムである。元々、プレシアは自力で魔法少女の真実に気付いたため、今更彼女に対して隠し立てしても無駄だと判断したキュゥべえは、惜しげもなくその技術を披露した。

 またそれと同時にキュゥべえはプレシアに、海鳴市で起きている事象をほぼリアルタイムで伝えていた。そのため、キリカが引き起こした事件はすでにプレシアの耳にも伝わっている。結界に取り込まれた無数の子供が喰われ、キリカを倒すために一人の魔法少女が相討ちとなった。

 一般人や魔法少女がいくら死のうがプレシアには一切、関係のないことだ。だがこの戦いの中には見過ごせない点があった。それはキリカがジュエルシードの力を用いて自身の魔力を向上させたという点である。

 ジュエルシードの仕組みについては、プレシアも未だ解明できていない。フェイトに手に入れさせた七個のジュエルシードをいくら調べても、正常な形で願いを叶える方法はわからず、またその魔力を自在に引き出す術も見つかっていなかった。

「その魔法少女は本当にジュエルシードの力を使いこなしていたのね?」

「実際にその姿を間近で見たわけではないけれど、おそらく間違いないと思うよ」

 訝しむような表情でキュゥべえを観察するプレシア。相手が人間であれば、その観察眼である程度の嘘を見抜くことはできたが、相手は異世界の知的生命体である。見た目はただの獣と相違なく、その表情からは何の感情も読みとれない。

 しかしキュゥべえからもたらされたその情報が本当ならば、プレシアには見過ごせない事柄である。

 プレシアの願いはアリシアの蘇生。それを叶えるためにジュエルシードの膨大な魔力を用いてアルハザードの道を開く。そうしてたどり着いたアルハザードの技術を用いてアリシアを蘇生させる。それが当初の計画であった。

 もちろんその計画自体は今も引き続き継続している。だがそれと同時にもう一つ、キュゥべえとフェイトを契約させアリシアを甦らせるという思惑も並行して企てていた。尤もこちらについてプレシアがやれることは何もないに等しい。最悪の場合、プレシア自身でキュゥべえと契約することも視野に入れてはいるが、それでも現状は黙って静観していることしかできなかった。

 どちらにしても現状のプレシアにできることはフェイトに命じ、ジュエルシードを集めさせること。そしてアルハザードの存在する次元座標を正確に特定する。その二点しかないのだ。

 そんな最中に提示された第三の可能性。ジュエルシードを用いてアルハザードに行くのでもなく、ジュエルシードを対価にキュゥべえと取引するのでもなく、ジュエルシードそのものを使ってアリシアを蘇生させる。

 当然プレシアとてその方法を考えなかったわけではない。違法研究に身を置いているとはいえ、彼女が一流の科学者であることは間違いない。だがその知識と技術を持ってしても、ジュエルシードの正確な解析はできなかった。それを未知のものとはいえ、別世界の魔法体系で解明されたというのは俄かに信じ難い話である。

「そしてジュエルシードの活用法を見出したのは、実際にジュエルシードの力を行使して死んだ魔法少女ではなく、美国織莉子という別の魔法少女というのも確かなのね」

「むしろそんなことができるのは、ボクの知る限りでは織莉子ぐらいだろうね。彼女の持つ未来視という魔法は契約時に生まれる魔法としては特殊なものだし、何より彼女はボクが情報をもたらす前にジュエルシードの存在を知っていたみたいだからね」

「……そう」

 キュゥべえの言葉を聞き、プレシアは思考を巡らせる。プレシアの持つジュエルシードの数は現在七個。アルハザードへの道を開くには聊か心伴い数である。しかし正しい意味で願いを叶えられるとすれば、十分過ぎる数だろう。織莉子という魔法少女がジュエルシードの正しい使い方を知っている保証はどこにもないが、それでも探し出す価値は十分にあった。

「念のため確認しておくわ。あなたはその美国織莉子という魔法少女が現在どこにいるのか知らないのね」

「残念ながらね。ボクが織莉子を最後に見たのは十日も前の話だよ。それも海鳴市ではなく見滝原っていう別の町でのことだし、今の彼女がどこにいるのか、ボクには想像もつかないね」

 海鳴市内でのみだったのならば、織莉子の捜索をフェイトに任せることもできるだろう。しかし織莉子が海鳴市にいる確証はないのだ。ジュエルシードの捜索も引き続き行っていかねばならない以上、海鳴市外にまで手を伸ばす余裕はない。

 プレシアが時の庭園からサーチャーを飛ばして捜索するという手もあるが、管理局が出てきてしまっている以上、余計な干渉をして時の庭園の次元座標をばらすような真似もしたくなかった。

「ところでプレシア。そろそろキミがフェイトにどんな願いを叶えさせようとしているのか教えてくれないかな? それさえわかればフェイトとの交渉はもう少し上手く行くと思うのだけど」

 そんなことを考えているプレシアに、連日のように尋ねられている言葉が耳に入る。それを聞いてプレシアは一瞬、不機嫌そうに顔を顰めるが、すぐに何かを思いついたかのように狂気を帯びた笑みを浮かべた。

「……そうね。でもその前に一つ頼まれごとを引き受けてくれないかしら。これを引き受けてくれたら、私がどんな願いを抱いているのか教えてあげてもいいわ」

「それは本当かい?」

「ええ、それであなたに頼みたいことというのはね――――」



     ☆ ☆ ☆



 時は戻って現在、クロノによって拘束されたフェイトと杏子はアースラに連れて来られていた。バルディッシュを没収され、手錠と足枷によって自由と魔力の両方が封じられているフェイト。そんなフェイトに対してクロノは何らかの情報を得ようときつい口調で問いただす。しかしフェイトはその一切に答えようとはしなかった。

「どれだけ聞いたところで、そいつが口を割るわけはねぇよ」

 その様子を横で眺めている杏子が口を挟む。フェイトとは違い今の彼女はすでに拘束が解かれている。それは彼女が管理局の民間協力者であるからに他ならない。リンディやエイミィ、それに多くの武装隊員が杏子に一定の信頼を置いている。クロノとしては杏子の拘束を解くことに一抹の不安はあったが、他の局員の心証を悪くしないためにもそれはやむを得ない判断だった。

「あたしだってフェイトがなんでジュエルシードを集めるのか知らないんだ。敵対関係にあるクロノに教えるわけがないだろう?」

「……どうやらそのようだね」

 そうして見据えるクロノの先にいるフェイトは、絶対に何もしゃべらないといった覚悟を見せるかのように口元に手を寄せている。不安げに瞳を揺らしながら、部屋の中にいる面々の顔を見まわしている。

「だいたい、どうしてあのタイミングでやってくるんだよ! あそこでてめぇが現れなければ、今頃は久しぶりにゆまと再会できてたってのに!」

 杏子にとって不満なのは、まさにその一点であった。今まさにゆまの元に行こうとその瞬間に、クロノによって阻まれた。それが杏子を苛立たせていた。

「杏子さん、ごめんなさいね。でも管理局としては彼女のことを見逃すことはどうしてもできなかったのよ」

「それにさ、ある意味ではあの場にフェイトちゃんがいたのはラッキーだったと思うんだよね。さっき調べてみたら杏子ってば自分で思っているより疲弊していたみたいだし」

 そう杏子をなだめるのはリンディとエイミィの二人である。そんな二人の言葉を聞いて杏子は小さく舌打ちする。

「ま、なんだかんだで一週間も行動をしてたら、あんたらの事情っていうのもなんとなくはわかるけどさ、それでもあたしはすぐにでもゆまと合流しなきゃならなかったんだ。それを邪魔した代償は高くつくぜ」

 杏子が懸念していたのは、フェイトと遭遇する直前に戦っていた魔女のことだ。四体の魔女が折り重なり集まってできた歪な魔女。しかしその姿とは裏腹にその力は普通の魔女とは一線を画していた。単純に四対一とは言い難いほどの戦闘力を持っていた魔女の群体。あれが一体だけとは考えにくい。今の海鳴市の状況を考えれば、町の至るところであのような魔女の群体が生まれているだろう。

 疲弊していたとはいえ、一歩間違えればあの場で杏子は死んでいた。相手はそのような強さをもった存在である。フェイトたちの力を信頼していないわけではないが、それでも目の届かないところで万が一、ゆまに何かがあれば後悔しても後悔しきれない。フェイトとの再会はそんな矢先の出来事だったのだ。彼女が怒るのも無理のない話である。

「杏子、さっきから何度も言っているがキミには悪いことをしたと思っている。だがこちらとしてもこれ以上、彼女を見過ごすわけにはいかなくなったんだ」

「……どういうことだ?」

 そんなクロノの物言いに杏子は疑問を挟む。クロノは一瞬、フェイトの方を見て意を決したように小さく呟く。

「……プレシア・テスタロッサ」

「――――ッ!?」

 クロノの口から出た名前を聞いて、フェイトがあからさまな反応を見せる。

「その様子だと、やはりキミは彼女と関係しているんだね」

「おい、あたしにもわかるように説明しろ」

 話についていけない杏子がクロノに食ってかかる。

「プレシア・テスタロッサはかつてミッドチルダのとある研究機関に所属していた優秀な科学者よ」

 そんな杏子にリンディからの補足説明が入る。その場にいる人物の視線がリンディに集中する。もちろんその視線の中にはフェイトのものも含まれていた。

「本人の魔導師としての資質も一級品で、次元世界でも数少ないSSランクに認定された魔導師だった。……だけど彼女はある事故がきっかけでその輝かしい経歴を全て失い、行方不明となった。もちろん管理局は血眼になって彼女を探したわ。プレシアは科学者としても魔導師としても超一流。そんな人物を管理局としては放っておくわけにはいかなかったからね。しかしいくら探しても彼女が見つかることはなかった」

「……母さんが事故に巻き込まれた?」

 リンディの話を聞いて、思わずフェイトがそう零す。リンディの口ぶりから察するに、その話はミッドでは有名な話なのだろう。しかしフェイトはそのことをまるで知らなかった。

 だがおぼろげに覚えていることもある。時の庭園に住むようになる前、確かにプレシアはどこかの研究機関で夜遅くまで研究に追われていた。まだ自分に微笑みかけてくれた優しかった頃のプレシア。幼かった自分はそんなプレシアの帰りを眠気と戦いながら待っていた記憶がある。事故というのにはまったく記憶はないが、それでもリンディの語っていることが真実であるとフェイトは理解していた。

「……そう、あなたは知らなかったのね」

 フェイトの呟きを耳聡く聞きつけたリンディがそう答える。その表情はどこか悲しげなものだった。

「それで、それのどこら辺がフェイトを見逃せない理由になるんだよ?」

「当時、プレシアを見つけることはできなかったけれど、それでもいくらかの情報を得ることができた。――その一つに、彼女が違法研究を行っているというものがあった。もしフェイトさんがプレシアの関係者なら、ジュエルシードを求める目的は間違いなく彼女の研究に関係しているはずよ。彼女ほどの科学者がジュエルシードのような膨大な魔力を秘めた結晶体を用いて行っている研究。場合によっては世界を滅ぼしかねない危険なものかもしれない。だからこそ、その事実確認をするためにも一刻も早くフェイトさんから話を聞く必要があったのよ」

「なるほどな。……それでフェイト、その話ってどこまでが本当なんだ?」

 リンディの話を聞いた杏子はそのままフェイトに事の真偽を尋ねる。

「……母さんがジュエルシードを求めているっていうのは、その人の言う通りです。だけど何のために必要としているのかは知りません」

 その問いにフェイトは躊躇しながら答える。これが管理局による問いかけだったのなら、先ほどと同様にフェイトは口を噤んでいただろう。だがそれをこのタイミングで聞いてきたのは杏子である。管理局は敵だが、杏子は敵ではない。さらに管理局には自分とプレシアの関係性をすでに知られてしまっている。だからこそ、フェイトは素直にその問いに答えたのだ。

「……そうか」

 それを聞いたそう呟くと杏子は目を瞑り、何かを考え込む。そして次に目を開いた時、彼女はフェイトの傍に駆け寄っていた。そんな杏子の突然の行動にフェイトはもちろん、リンディをはじめとしたこの場に同席している人物は誰一人として対応することができなかった。

「それでフェイト、おまえはこれからどうしたい? おまえが望むなら、あたしがここから逃がしてやってもいい。もちろんその後すぐにゆまのところには案内してもらうけどな」

「なっ!? 杏子、一体何を!?」

 杏子の言にクロノが驚きの声を上げる。

「何をってフェイトを助けようとしているだけだけど」

「だからなんでそんなことをしようとしてるのかと言っている!!」

 杏子の言葉にクロノは怒鳴り声を上げ、デバイスを向ける。だが杏子はそんなことに物おじをせず、言い放った。

「あたしが管理局に協力するにあたって提示した条件、クロノは覚えてるか?」

 杏子の言葉にクロノはその時のことを思い出す。そしてすぐに杏子の提示した条件の中で今の状況に当てはまるものを見つけ出した。

「『キミの行動に口を挟まない』だろう? しかし彼女は僕たちにとって重要な参考人だ。いくらなんでも、そんな勝手を許すと思うか?」

「……思わねぇよ。だからあたしはフェイトに聞いたんだ? 『これからどうしたい』ってな。もしフェイトが何も言わなきゃ、あたしはこれ以上、何もする気はねぇよ」

 言いながら杏子の服装が私服から魔法少女のものへと変わる。

「だけどフェイトがここから出ていくことを望むのなら、あたしはそれを全力で手助けする。なんたってフェイトにはゆまの面倒を見てもらった恩があるんだからな」

 一週間、管理局と行動を共にしてきた杏子にとって、彼らは決して敵ではない。ギブアンドテイクの関係ではあったが、それでも戦いの中で芽生えた絆というものも確かに存在した。

 そしてそれはクロノにとっても同じである。だからこそ、この時の杏子が本気であることはクロノにも深く理解することができた。

 もしこの場で杏子たちと戦うことになったとしても、今の疲弊した二人ならクロノ一人でも十分に制圧することが可能だろう。仮に一人では対応しきれなかったとしても、この場にはリンディとエイミィもおり、またアースラ内で待機している武装隊員もすぐに呼び出すことができる。

 そのことに杏子が気付いていないはずがない。故にクロノには杏子の態度が不気味に感じられた。彼女の表情は自信に満ち溢れている。この場にいるクロノを含めた三人を出し抜き、その上でアースラからフェイトを連れて逃げ果せる算段が必ず用意されているはずだ。

 杏子がここから逃げ出す手段として考えられる可能性として、まず考えられるのが杏子の持つ幻影魔法だ。自分や他者を分身させ、また姿を眩ますことができる杏子の魔法少女としての特性。それを有効に使えば誰にもばれずにアースラから地球へと戻ることは可能だろう。しかしそれはあくまでネタが割れていない場合の話である。クロノ達はすでに杏子がそのような魔法を使うことを知っている。ならば油断さえしなければこの部屋から逃がすことはないだろう。

 問題は別の手段で杏子がフェイトを逃がそうとしてきた場合である。クロノは杏子のことを決して甘くは見ていない。キリカが創り出した結界の中で初めて幻影魔法を披露したように、未だに隠し玉を何個か持っているのも十二分に想定できる。なればこそ、どんな方法に訴えてきても対応できるようにその一挙手一投足に全神経を注いでいた。

「それでフェイト、おまえはどうしたい? あたしとしてはこのまま二人で逃げ出して、その足でゆまのいる場所まで案内してもらいたいところなんだけどな」

 杏子は実に普段通りの口調でフェイトに告げる。それに対してフェイトは迷っていた。杏子の提案はフェイトにとって実に魅力的なものである。管理局にこのまま捕まってしまえば、プレシアの願いを叶えることができなくなってしまう。ジュエルシードを集めることができないし、キュゥべえと契約することもできない。むしろ捕まることでプレシアに迷惑を掛けることになってしまう。それだけはなんとしても避けたかった。

 けれども杏子の身体は万全ではない。片腕を失い、さらにはほんの一時間ほど前までは魔女との激戦を繰り広げていたのだ。いくら彼女が強い魔法少女だとしても、そんな状態では管理局の執務官を始め、多数の武装隊員とやり合うことなど不可能なはずだ。何らかの作戦があるのかもしれないが、それでも現状で逃げ出そうとするのは無謀だとフェイトも感じていた。

「……フェイト、あたしに気を使ってんなら、気にする必要はねぇよ。確かに今のあたしのコンディションじゃクロノ相手に勝利を掴むことは無理だろう。だがこれは勝つための戦いじゃない――逃げるための戦いだ。それなら十分にやりようはあるさ」

 だが次に杏子の言葉に、その不安が払拭される。思えば杏子はいつもそうだった。始めて出会ってジュエルシードを奪われた時、ジュエルシードを賭けて決闘をした時、その直後に魔女の結界に捕らわれてしまった時、屋上でクロノを相手に共同戦線を張った時、そのすべてにおいて杏子は知恵を巡らせ、その場その場に合った戦い方を行ってきた。そんな杏子がここまで自信たっぷりに告げたのだ。それならばとフェイトは覚悟を決めた。

「杏子、わたしはここから出たい。管理局の手から逃れて、アルフやゆま、そして母さんの待つ家に帰りたい」

 フェイトがそう告げた瞬間、彼女の手首を拘束していた手錠が真っ二つになる。手の自由と同時に魔力を奪っていた手錠が外れたことで、フェイトの身から溢れんばかりの魔力が解き放たれる。さらに杏子はクロノによって回収されていたバルディッシュをフェイトに返す。

「なっ!? いつの間に……!!」

 フェイトから没収したバルディッシュを、クロノは無警戒で懐に仕舞い込んでいた。普段からスリを行って食費や宿泊費を得ている杏子にとって、バルディッシュを気付かずに奪うのは実に簡単なことだった。

 そんな予想外の事態に一瞬とはいえ動揺してしまったクロノ達に対し、杏子は一気に分身を作り出し三方向に駆け出していく。その突然のアクションにそれぞれが対応しようと行動に移す。リンディやクロノはそんな杏子の動きにすぐ対応したが、普段から管制官でいることの多いエイミィはその動きについていくことができなかった。そしてそうなることがわかっていたからこそ、杏子自身はエイミィに向かって駆け出していた。反射的にデバイスを構えたエイミィだったが、それよりも早く杏子が槍を振るい、そのデバイスを吹き飛ばす。そしてそのまま当て身をぶつけ、その意識を一気に刈り取った。

 一方で杏子の攻撃にすかさず対応したリンディとクロノは、杏子の奇襲をカウンターの形で対処する。だがそれがすぐに分身体だということに気付いた二人は、間髪いれずに次の行動に出る。直接、攻撃してきたのは杏子だが、今の二人にとって重要なのはあくまでフェイトを逃がさないことである。それ故に二人は部屋を見回しフェイトの動きを阻害しようとした。

 しかし二人の目に映ったのはエイミィを制圧した杏子と、扉に向かって駆け出す杏子。そしてその場に佇んでいる杏子だけだった。分身に気を取られているうちに杏子はフェイトの姿を自分と同じものに差し替えてしまっていたのだ。その一瞬の早業にクロノは思わず舌を巻く。クロノ自身、杏子の幻影魔法を警戒していたはずなのに、こうも簡単に引っかかってしまった。

 だがまだ負けたわけではない。最終的にフェイトを逃がしさえしなければ問題ないのだ。そう考えたクロノは手近な杏子に向かって駆け出そうとする。だがその前に無数の槍が立ち塞がる。まるで檻のようにクロノの行く手を遮る槍。それはリンディも同じようで、狭い部屋の中に敷き詰められている槍にその自由を奪われている。その隙に部屋の中にいる三人の杏子は悠々自適にドアを開けて部屋の外へと駆け出していった。



     ☆ ☆ ☆



 アースラの医務室の中でアリサは枕に顔を埋め、声を殺して涙を流し続けていた。クロノから伝えられたすずかの死。口ではそれを否定したアリサだったが、内心ではクロノの言ったことは真実なのではないかとも考えていた。それはアリサの目の前ですずかがキリカの手によって串刺しにされていたというのもあるが、それ以上に彼女が目覚めた時、その手に見覚えのあるカチューシャを握りしめていたのが何よりの理由だった。

 一見するとどこにでもあるような何の変哲もないカチューシャ。しかしアリサにはすぐにそれがすずかが大事にしているカチューシャであるということがわかった。

 彼女が両親に貰った宝物。アリサがすずかと話をするきっかけとして使われ、結果的に三人の友情を結び付けた思い出の品。アリサの知る限り、すずかは外に出る時はいつもこのカチューシャを身に着けていた。それが今、アリサの手の中にある。その事実がどうしようもなくクロノの言葉に信憑性を与えていた。

「……信じない。あたしは絶対に信じないわよ」

 それでもアリサは頑なにその死を認めようとはしなかった。あくまでアリサが見たのは満身創痍になったすずかの姿であり、彼女の死体を見たわけではないのだ。さらにすずかの死を伝えたのは初対面のクロノである。もしこれがなのはや忍の言葉であるなら信じる他なかったが、見も知らぬ相手から伝えられた友人の死など、とても受け入れられるはずなどない。

「……そういえば、なのははあの後、どうなったのかしら?」

 そこでアリサはふと、もう一人の親友のことを思い出す。魔女の結界の中ではぐれたもう一人の親友。先ほどはすずかの死のことで頭がいっぱいでなのはのことを聞くことを忘れてしまっていたが、こうして思い出した以上その安否が心配である。もしすずかの死が事実であれば、あの心優しい友人は心を痛めてしまうだろう。それはアリサにとっても避けたい事態だった。

「……あんな知らない奴にすずかが死んだだなんて言われてメソメソしている場合じゃないわね。あたしが気絶している間に何があったのか、確かめに行かないと」

 アリサは顔を上げ、涙を拭う。真っ赤になった瞳には先ほどまでなかった強い意思が宿る。そして身体中に付けられている医療器具を無造作に外すと、そのまま医務室から飛び出した。

 しかしそんなアリサが廊下に飛び出し目にしたものは、所狭しと生え出している無数の槍だった。しかもそれは消えては突き出し、消えては突き出しといったことを繰り返す。それはまるで行く手を阻む槍の迷路だった。

「……なんだかわからないけど、こんなことで今のあたしを止められるとは思わないことね」

 日常を生きてきたものにとって、槍が突き出しては消えるなどという光景は間違いなく非現実的なものだ。しかしすでにアリサは魔法少女の存在も異世界の存在も知っている。だから彼女は怯むことなく、その槍の合間を縫って歩を進め始める。ただ真っ直ぐ、真実を確かめるために――。



     ☆ ☆ ☆



 杏子の考えた逃亡作戦は実にシンプルなものだった。最初にフェイトの拘束を解き、クロノ達の隙をついて部屋から脱出する。その後は幻影の魔法を使って槍を生み出し、行く先々に槍を生え渡らせ時間を稼ぐ。そして転送装置の元まで行き、地球へと帰る。ただそれだけのものだった。

 もちろんただ幻影の槍を生やすだけでは足止めとしては不十分なので、幻影の中には本物の槍を混ぜている。またそれだけではなく自分やフェイトの幻影を作り、捕まえにやってくる管理局員を撹乱させていた。

 念のために転送装置へ向かう最短ルートは避け、大きく迂回しながら目的地へと目指す杏子とフェイト。足を一切止めることなく、ただただ通路を駆けていく。その行く先々で何人かの武装隊員とも遭遇したが、杏子は何の苦もなく一瞬でそれらを無力化していた。

「ねぇ、杏子。本当にいいの?」

 そんなことを何度か繰り返しているうちにフェイトは思わず疑問を零す。自分たちの前に姿を現した管理局員には、どことなく杏子に攻撃を仕掛けることに躊躇いを感じているようだった。それに対して杏子には一切の容赦が感じられない。片腕であるのにも関わらず、大振りで槍を振り、立ち塞がる管理局員を一撃の元で薙ぎ払う。フェイトにとってはありがたい話ではあるが、自分のせいで親しくなった相手に攻撃を仕掛け、心を痛めているのではないかと心配になったのだ。

「別に気にすることねぇよ。こいつらだってそんな軟な鍛え方をしてきたわけじゃねぇんだ。これぐらいの攻撃を受けたところで対して問題にはならねぇだろうよ」

 そんなフェイトの心遣いとは裏腹に、まるで気にしている様子はない杏子。だがそれは杏子にとっての信頼の裏返しでもあった。自分と共に戦った何人かの武装隊員。最初は魔女相手に杏子がいないと歯が立たず中には魔女を見ただけで及び腰だった者もいたが、この一週間の間に連携に磨きを賭け、チームで戦いを挑めば杏子の手助けなしでも魔女を倒せるように成長した。

 だからこそ、杏子は武装隊員に対しての攻撃に手心を加えない。今後、海鳴で戦いを続けるということは、普通の魔女だけではなく数時間前に杏子が戦ったような魔女の群体と戦うこともあるかもしれない。融合したことで普通の魔女よりも遥かに上の力を持つ魔女の群体。今、ここで杏子の攻撃を受けて受け身を取れないようでは、その命を無駄に散らすことになるだろう。

 管理局の在り方自体は今でも受け入れていない杏子だったが、それでも個人としてはそれなりに親しみを持てるような相手もいる。そんな相手が無残に死なれるというのは、やはり寝覚めが悪い。だからこそ彼女は、自分の実力を再認識させる意味でも出会う管理局員一人ひとりに大仰な攻撃を仕掛けていたのだ。

「……一応、フェイトにも言っておくけど、できることなら早くこの町から離れた方がいいぜ。今のこの町はかなりやばい。そこら中に魔女や使い魔がうようよしているし、挙句の果てに魔女同士が合体して襲ってきやがった。しかもただ合体したんじゃなく、その特性までも併せ持った非常に強い魔女となってだ。正直、あたしもゆまと再会したらすぐにでもこの町を離れるつもりだしな」

 杏子にとって片腕ということはハンデにはなり得ない。片腕なら片腕なりの戦い方を行うことは十分に可能である。それでも四体の魔女の群体と戦った時は満身創痍の末の勝利だった。多大に魔力を消費し、一歩間違えればあの場で死ぬところであった。たった四体でそれである。これがもし数十、数百の魔女が一つとなったとしたら、その強さは計り知れないものとなるだろう。いくらフェイトが強い魔導師とはいえ、そうして生まれた魔女の強さには敵わないはずである。それ故の忠告だ。

「ごめん杏子。心配してくれる気持ちは嬉しいけど、それはできないよ」

 フェイトは申し訳なさそうに俯きながら口にする。杏子の気遣いは非常に嬉しい。しかしフェイトにはジュエルシードを集めるという目的がある。フェイトが手に入れたジュエルシードの数は七個。全体のちょうど三分の一の数である。しかしそれでもプレシアが求めている数には程遠い。管理局に奪われてしまっているため最早、全て入手することは不可能に近いが、それでも集められるだけ集めなければならないという使命感がフェイトにはあった。

「……フェイト、参考までに聞かせて欲しいんだが、ジュエルシードは何個回収したんだ?」

「えっと、七個だけど?」

 反射的に答えたフェイトだったが、杏子の問いの意味がわからず首を傾げる。そんなフェイトの疑問を解消するかの如く、杏子は自分の考えを口にする。

「あたしの知る限り、管理局が回収したジュエルシードの数は八個。その内、四個は管理局が地球に来る前になのはが回収した奴だけどな。それでいてフェイトが持っているジュエルシードが七個ってことは、逆算するとまだ六個ものジュエルシードの行方が知れないってことになる。……でもそれってよく考えたらおかしくないか? 今、海鳴には魔女が大量発生しているんだぜ。もしそんだけのジュエルシードが道端に落ちているんだとしたら、すでにジュエルシードを手に入れた魔女と遭遇していてもおかしくないだろ?」

「あっ……!?」

 杏子に指摘されてフェイトはようやく、状況の違和に気付く。この二日間、すずかの死を忘れるためにフェイトは血眼になってジュエルシードを探し続けた。それでも一つとして見つけることができなかった。どこでサーチしても探知できるのは魔女ばかり。今までフェイトは魔女のことを民間人を襲うこの世界特有の脅威として認識していたが、そもそも魔女がここまで海鳴市に集まったのはジュエルシードの魔力に惹かれたからである。

「魔女の数は膨大だ。この町の至る所に魔女がいると言っても過言じゃねぇ。にも関わらず、魔女がジュエルシードを見つけた様子はねぇ。もし魔女が見つけたとしたら、その膨大な魔力ですぐにわかるはずだからな」

 実際、キリカが結界を創り出した時、管理局もフェイトたちもその結界を創り出した相手がジュエルシードの魔力を運用していることがわかっていた。キリカは魔女ではないが、創り出された結界の性質は魔女のものと相違なかった。

「あたしが管理局と協力することにした一番の理由が、ジュエルシードを手にした魔女の脅威を警戒したからだ。温泉街の時は都合よく四人もの魔法少女や魔導師が集まったが、次もそうとは限らねぇ。だからこそ、あたしは最悪、一人で戦うような自体に陥らないように管理局と手を組んだんだ。だけど結局、あれからジュエルシードを取り込んだ魔女は現れていない。二日前の戦いも結界を創り出していたのは、あのキリカとかいう頭のいかれた魔法少女だったみたいだしな」

「……つまり杏子はこう言いたいんだね。わたしたち以外にもジュエルシードを集めている人たちがいるって」

「ああ」

 管理局もフェイトたちもあれだけ熱心にジュエルシードを探し回っているのに、未だに見つかってないものが六個もある。これが一個や二個ならたまたま見過ごしてしまっているという可能性もあるだろう。しかし海鳴市の現状を考えると、三分の一に近い数が見つかっていないのは明らかに異常である。

「でも杏子、それってキュゥべえのことじゃないの? キュゥべえもジュエルシードを欲しがっていたよね?」

「確かにその可能性もある。だけどあいつ自身には魔女どころか使い魔と戦う戦闘力すらないからな。どちらにしてもあたしたちの知らない魔法少女が絡んでいる可能性は高いはずだ」

 そもそも杏子がジュエルシードのことを知ったのも、キュゥべえから回収するように取引を持ちかけられたからである。そうでなければここまで海鳴市に留まることもなく、次の町へと向かっていただろう。

「もちろんジュエルシードはたまたま誰にも見つけられていないだけなのかもしれない。もしくは海鳴市周辺だけではなくもっと遠く、例えば他の国とかにまで散らばってしまって見つけられていないだけなのかもしれない。だけど現実的に考えれば、誰かが回収しているって考えるのが一番しっくりくるんだ」

 事実、キリカの存在がその裏付けとなっている。杏子の知らない魔法少女であり、ジュエルシードを運用したという技術。そして何より、あの結界の中にあるジュエルードの反応は複数あったはずなのに、管理局が回収できたのはキリカの目に埋め込まれていた一つだけだったのだ。そのすべてが管理局ともフェイトたちとも魔女とも違う、第四のジュエルシードを集める存在を示していた。

 それがキュゥべえに頼まれた人物なのか、それともまた別の魔法少女や魔導師なのか。それは今の杏子にもわからない。だが一つだけ確かなことは、管理局にもフェイトたちにもその動向を掴ませていない相手が海鳴市に潜んでいる。魔法少女としての魔法の力なのか、それとも本人が思慮深い性格をしているのか。どちらにしても脅威であることは間違いないだろう。

「……もしフェイトがこれから先、さらにジュエルシードを求めるというのなら、それは人間同士の戦いになる。そしてあたしが思うに管理局の連中もまだ見ぬ敵も今のフェイトには荷が重い。フェイトの母親が何の目的でジュエルシードを集めているのかは知らないけど、七個もありゃあ充分なんじゃないか?」

 杏子は親切心からそう口にしていた。彼女としてはフェイトの母親がジュエルシードを集めてどう使おうがどうでもいいことだ。元々、フェイトたちは異世界の魔導師。たまたまこの世界にジュエルシードが散らばったからやってきただけだ。それならば少なくともこの世界や自分たちに害を成すような目的で集めているわけではないことはわかる。ならばどう使おうがそれは手に入れた当人の自由である。

「うん、杏子の言う通りかもしれない。だけどわたしはそれでも母さんのためにジュエルシードをもっと集めたいんだ」

 それでもフェイトは譲らない。頑なにプレシアのためにジュエルシードを集め続けるつもりだった。杏子の言葉を信じていないわけではない。彼女の言う仮説には確かな説得力があり、こうして簡単に管理局に捕まってしまった自分では、これ以上ジュエルシードを集めるのは難しいというのは紛れもない事実である。

 しかしプレシアはきっとそれでは納得しない。彼女はフェイトに頼んだのは『ジュエルシードを全て集めること』なのだ。例えどんなに力が及ばない状況だろうとも、プレシアの望みを叶えなくてはならない。それが自分の務めだとフェイトは感じていた。

「……あたしは忠告したからな」

「うん、心配してくれてありがとう、杏子」

「さっきも言ったと思うけど、ゆまの面倒を見てもらった礼だから気にすんな」

 その言葉を最後に、二人の間からは一切の会話がなくなった。無言で廊下を掛けながら、着実に転送ポートのある場所に向かって駆けていく。

 そんな中、フェイトは密かにあることを考えていた。今のフェイトにジュエルシードを全て集めることができるほどの力はない。ならばその力を得るためにプレシアのもう一つの願いである『キュゥべえと契約し、自分の願いを叶える』というのもありなのではないか。フェイトが契約し魔法少女となることで、プレシアの望みを一つ叶えることができ、さらにジュエルシードの奪い合いを行う上でのさらなる力を手に入れることができる。

 まだフェイトの中ではっきりとした答えが出たわけではない。プレシアが何を望んでいるのか、その願いは見当もつかない。それでも自分に力が足りないのなら何だってする。そういった覚悟がフェイトの中で芽生えつつあった。



     ★ ★ ★



 その頃、とあるホテルの一室で、一人の少女が熱心にテレビを眺めていた。昼下がりの小学校を襲った惨劇。それはキリカが引き起こし、すずかを死に至らしめた事件のニュースだった。

 夜の一族による情報規制によって、現代的な事件として解釈された内容を延々とニュースキャスターが語っている。何度かチャンネルを変えてみるが、どのチャンネルでも大体が同じような内容だった。

「これじゃあ本当のことは何もわからないわね」

 そんなニュースを見て、少女はため息をつきながらテレビの電源を落とす。少女にはこの事件が常識の外の要因で引き起こされたものだということは解っていた。それどころか大まかにではあるが、事件の概要も掴んでいる。それでも彼女がテレビのニュースなどというものに情報を求めたのは、自分の半身とも言うべき存在が死に至ったより詳しい情報を知りたかったか らだ。

 だから彼女は、情報を知っているであろう存在をおびき寄せるために自分の魔力を辺りに散らした。ごく少量の微弱な魔力。魔女の魔力が飽和している今の海鳴市に置いて、とても探査できるほどの魔力ではなかったが、それでもかの生物ならそれだけの魔力でも自分の居場所を特定できると少女は考えていた。

「やれやれ、こんなところにいたんだね。探したよ、織莉子」

 そんなホテルの一室に何の前触れもなく現れるキュゥべえ。そのあまりにも予想通りの展開に少女――織莉子は全く動じず、ただ優雅に笑みを浮かべながらキュゥべえを迎え入れる。

「……そろそろ来る頃だと思っていたわ」

「織莉子、あれはどういうことだい?」

「あれ、と言われてもわからないわね。いったいなんのことかしら?」

 キュゥべえに問いかけられた織莉子は、微笑みながらわざとらしくはぐらかす。

「とぼけても無駄だよ。キリカのことさ。キミならキリカがあんな暴挙に出ると知ったら、即座に止めると思ったんだけど。それともあれはキミの指示なのかい?」

「……そう、やっぱりあれはキリカが起こした事件なのね」

 キュゥべえの言葉を聞いて、織莉子の中にあった疑問が確信に変わる。先ほどまでニュースで騒いでいた集団幻覚事件。しかし実際にあの場で起きたのは一人の魔法少女によって引き起こされた集団拉致事件である。すずかを逃がさないために人質として彼女の通う小学校を丸ごと結界で取り込んだ。その中で約七〇人もの人間が死んだのは、不幸な偶然によるものである。

「一つ訂正させてもらうけど、私はこの数日すずかさんによって眠らされていて、目覚めたのもほんの数時間前のことなの。だからその間にキリカが何をしたとしても、私にはそれを知る由はないわ。だから逆に聞かせてくれない? あの中でいったい何があったのかを」

「そうなのかい? ボクもその場にいたわけじゃないから人から聞いた話になってしまうけど、それでも良いかい?」

「ええ、構わないわ」

 織莉子は自分のカップに口をつけながら、キュゥべえの話に耳を傾ける。キュゥべえから聞かされた話の大部分は織莉子がすでに知っていたことだった。しかしそれはあくまで未来視で視た知識としてである。そのため織莉子としても確認の意味で本当にキリカが死んだのかを確かめておきたかったのだ。

 ほんの数時間前に目覚めた織莉子は、眠っている間に長い夢を見ていた。未来視という名の今後、現実で起こり得る出来事を。その中で織莉子は今回の事件の顛末も全て視っていた。

 キリカが織莉子のためにジュエルシードの力を使い、すずかに戦いを挑んだこと。小学校の子供たちを人質に取り、すずかを本気にさせたこと。その上で一度、すずかを打ち破ったこと。アリサと合流したすずかを追い詰めたこと。それを杏子によって阻まれるも、彼女を圧倒し続けたこと。そして魔力を回復させたすずかの命を賭けた一撃によってジュエルシードごとキリカは葬られたということ。

 それは今まで視たことのなかった未来。織莉子が倒れたことでキリカがすずかに復讐心を抱き、それを止める者もいなかったために引き起こされた凶行。おそらくはすずかに記憶を読みとられた時に生まれた未来。織莉子はそう推察していた。

 もちろん未来視による未来は確実に引き起こされるものではない。しかし可能性が高かったからこそ、無意識の内に見るはずの夢の中にまでその未来は現れたのだろう。そして織莉子にはそれを止めるだけの時間はなかった。何故なら彼女が目覚めた時、すでに事が起きた後だったから。

「ボクが知っているのはこんなところかな? それで織莉子、本当にこれはキミの意思じゃないんだね?」

 大体の説明を終えたキュゥべえは訝しむような口調で織莉子に尋ねる。

「……何故、そう思うのかしら?」

「正直なところ、キミの考えはボクにも想像がつかないからね。それでいて、キミが起こす行動には何らかの意味が感じられる。この前ボクにジュエルシードを与えたのも、ただの気まぐれではないのだろう?」

「そうね。貴方にジュエルシードを与えたのは、その必要があったからというのは確かよ。でも今回の件に関して言えば、私は何も関与していない。強いて言うなら、キリカが行動を起こす原因となってしまったことぐらいね」

 織莉子は再度、カップに口をつける。

「……本当のことを話すとね、今回の事件は本来、別の魔女が起こすはずだったのよ」

 織莉子が最初に視た未来では、あの日、結界を創り出して小学校ごとなのはたちを取り込んでしまうのは、ジュエルシードを二つ取り込んだ魔女であった。中に入ったら最後、自力で脱出できるようなものではなく、脱出するためには魔女を倒すしか手立てのない状況。しかし結界の仕掛けや使い魔によって中にいる魔法少女や魔導師を分断・消耗させられ、個々の力で魔女に立ち向かわなければならなかった。それでも少しずつ魔女を消耗させ倒すことはできたが、すでにその頃には結界内にいた八割の人が死んでしまっているという未来だ。その死者の中にはなのはの姿もあった。

 だが問題はその後である。なのはの死を知ったすずかがどうなるか、そんなことは未来を視なくてもわかる。一番守りたかった場所で一番守りかった人が死んだ。その絶望にすずかが耐えられるはずがなく、彼女は間違いなく魔女になてしまっていただろう。それもただの魔女ではない。強さだけを求め続ける性質を持つ吸血の魔女。先の戦いとの連戦ということもあり、魔女になったすずかを止められるものは誰もいないだろう。



 ――だからこそ織莉子は、事前になのはの死を伝えたのだ。最悪の未来を回避するために。



 なのはの死を知れば、すずかは正常ではいられない。死をもたらす相手に執着し、なのはを守りながらも確実に殺しきるだろう。本来ならばそれだけで最悪の未来は回避されるはずだった。

 しかし織莉子はすずかの力を測りかねていた。魔眼によって記憶の一部を読み取られ、さらにその意識も刈り取られた。その結果、事件を起こす相手が変わり、事件の顛末も変わった。結果的には織莉子に取っても予想外の結末を迎えてしまった。

「今回の戦いで偶然が悪い方に重なってしまえば、その時点でこの世界が終わってしまう可能性もあった。尤もそれは限りなく低い可能性ではあるけれど、それでも零ではなかった。もちろんこの結果が良いとは言わないけれど、それでも最悪ではないでしょう? 私にとっても、貴方にとっても」

 そう言って織莉子は冷ややかな目線をキュゥべえに向ける。その瞳に明確な言葉を籠めて、織莉子はキュゥべえを見降ろし続ける。

「……キミには敵わないね。確かにその通りだよ。この事態はあまりボクにとってもよろしい状況ではないけど、それでもやり方次第ではすずかという戦力を失った以上の実入りがあった。キミはそう言いたいんだろう?」

「ええ、その通りよ。それが解っているのなら、早く行動を起こした方が良いんじゃないかしら?」

「……止めないのかい? キミにはボクが何をしようとしているのか、全てわかっているんだろう?」

「そうね。でも今回に限って言えば、貴方と私の利害は一致している。それに私には他にもやらなければならないことがあるの。だからこれ以上、貴方に構っている暇はないわ」

 そう言って織莉子は立ちあがる。今まで眠ってしまっていた分、彼女もまたあまりのんびりはしていられない。後に控えている戦いのために、さらなる準備を行う必要があった。

「待ってくれ織莉子。今回、ボクがキミの元を訪れたのはキリカのことを聞くためだけじゃないんだ」

 そんな織莉子をキュゥべえが止める。この時、初めて織莉子に動揺が奔ったが、彼女はそれを表情におくびにも出さなかった。

「他の用事?」

「キミのことだからすでに掴んでいると思うけど、今、この町には異世界の魔法少女がやってきているんだ。その中の一人がキミに会いたがっている。だからボクについてきて、その人と会ってくれないかな?」

 その言葉を聞いて、織莉子は一考する。実のところ、織莉子には自分を呼び出す魔導師に心当たりはない。直接、尋ねてくることは考えていても、キュゥべえを使って呼び出されることなど想像すらしていなかった。

 ――それはつまり、彼女がこうしてキュゥべえを通じて魔導師に呼び出される未来を視ていないことを意味する。本来ならば、未来視で視ていてもおかしくない出来事であるはずなのに、一度たりとも織莉子はこのような光景を目にしたことはなかった。これはつまり、キリカが引き起こした事件によって生まれた未来ということだ。

「わかったわ。会いましょう」

 だからこそ、織莉子はその人物が誰なのかを聞かずに、会うことを了承する。普段の思慮深い織莉子なら、会うかどうかを決める前に誰が会いたがっているのかキュゥべえに尋ねたところである。仮にそうではなくとも、有無を言わずに断ってしまっていたところだろう。

 しかしこの未来を生み出したのはキリカである。ならばその先に待ち受けるものは自分たちの望みに通ずる未来であると織莉子は信じていた。

「まさか二つ返事でOKをもらえるとは思わなかったよ。もしかしてキミは知っていたのかい? 今日こうしてボクがキミを呼びにくることを」

「いえ、そういうわけではないわ。でも今回の誘いに関しては何の情報がなくとも受けるだけの理由があった。ただそれだけよ」

「……わけがわからないよ」

「別に貴方に理解してもらおうとは思わないから安心なさい。それよりも待ち人を待たせるのも悪いから、早速案内してくれない?」

「わかったよ。それじゃあボクについてきて」

 織莉子に促されたキュゥべえはゆったりとした足取りでホテルから出る。そんなキュゥべえのあとを織莉子は無言でついていく。思えば未来を全く視らずに何かをすることなど、久しぶりにことである。だというのに織莉子には一切の不安がない。それは織莉子の中でキリカという少女の存在が大きかったからに他ならない。

(キリカ、貴女が残してくれた可能性は、決して無駄にはしないわ。だから貴女はいつまでも私を見守っていて)

 知らぬ間にキリカを失ってしまった喪失感は確かにある。だがそれでも織莉子は歩みを止めることはない。絶望ではなく、希望のある世界を手にするために――。



2013/6/15 初投稿
2013/9/22 サブタイトル変更。および誤字脱字修正


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