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No.33132の一覧
[0] 【無印完結・チラ裏から】もしも海鳴市にキュゥべえもやってきたら?【リリカルなのは×まどか☆マギカ】[mimizu](2014/10/15 23:22)
[1] 【無印編】第1話 それは不思議な出会いなの? その1[mimizu](2014/08/15 03:40)
[2] 第1話 それは不思議な出会いなの? その2[mimizu](2012/05/19 14:49)
[3] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その1[mimizu](2012/06/24 03:48)
[4] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その2[mimizu](2012/05/15 19:24)
[5] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その3[mimizu](2012/05/19 14:52)
[6] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その1[mimizu](2012/05/23 19:04)
[7] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その2[mimizu](2012/06/02 12:21)
[8] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その3[mimizu](2012/12/25 18:08)
[9] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/02 12:52)
[10] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:39)
[11] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/12 23:06)
[12] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その4 [mimizu](2012/06/12 23:23)
[13] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/17 10:41)
[14] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:59)
[15] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/24 03:38)
[16] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その1[mimizu](2012/06/26 21:41)
[17] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その2[mimizu](2012/06/30 23:40)
[18] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その3[mimizu](2012/07/04 20:11)
[19] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その4[mimizu](2012/07/07 16:14)
[20] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その5[mimizu](2012/07/10 21:56)
[21] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その6[mimizu](2012/07/15 00:37)
[22] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その7[mimizu](2012/08/02 20:10)
[23] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その8[mimizu](2012/08/02 20:51)
[24] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その1[mimizu](2012/08/05 00:30)
[25] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その2[mimizu](2012/08/15 02:24)
[26] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その3[mimizu](2012/08/15 19:17)
[27] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その4[mimizu](2012/08/28 18:17)
[28] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その5[mimizu](2012/09/18 21:51)
[29] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その1[mimizu](2012/09/05 01:46)
[30] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その2[mimizu](2012/09/09 03:02)
[31] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その3[mimizu](2012/09/15 05:08)
[32] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その4[mimizu](2012/09/22 22:53)
[33] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その1[mimizu](2012/10/17 19:15)
[34] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その2[mimizu](2012/10/31 20:01)
[35] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その3[mimizu](2012/10/31 20:13)
[36] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その4[mimizu](2012/11/23 00:10)
[37] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その5[mimizu](2012/11/23 01:47)
[38] 第8話 なまえをよんで…… その1[mimizu](2013/01/07 00:25)
[39] 第8話 なまえをよんで…… その2[mimizu](2013/01/07 00:33)
[40] 第8話 なまえをよんで…… その3[mimizu](2013/03/23 19:15)
[41] 第8話 なまえをよんで…… その4[mimizu](2013/03/29 19:56)
[42] 第8話 なまえをよんで…… その5[mimizu](2013/03/29 19:57)
[43] 第8話 なまえをよんで…… その6[mimizu](2013/04/06 18:46)
[44] 第8話 なまえをよんで…… その7[mimizu](2013/04/06 19:30)
[45] 第8話 なまえをよんで…… その8[mimizu](2013/04/06 19:31)
[46] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その1[mimizu](2013/05/12 00:16)
[47] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その2[mimizu](2013/05/12 01:08)
[48] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その3[mimizu](2013/05/28 20:13)
[49] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その1[mimizu](2013/09/22 23:21)
[50] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その2[mimizu](2013/09/22 23:22)
[51] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その3[mimizu](2013/09/22 23:24)
[52] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その4[mimizu](2013/09/22 23:25)
[53] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その5[mimizu](2013/09/22 23:26)
[54] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その6[mimizu](2013/09/22 23:28)
[55] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その7[mimizu](2013/09/22 23:28)
[56] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その8[mimizu](2013/09/22 23:29)
[57] 第11話 わたしはアリシア その1[mimizu](2013/10/06 18:04)
[58] 第11話 わたしはアリシア その2[mimizu](2013/10/06 18:21)
[59] 第11話 わたしはアリシア その3[mimizu](2013/10/20 23:56)
[60] 第11話 わたしはアリシア その4[mimizu](2013/11/24 18:21)
[61] 第11話 わたしはアリシア その5[mimizu](2013/12/07 17:17)
[62] 第11話 わたしはアリシア その6[mimizu](2013/12/13 22:52)
[63] 第12話 これが私の望んだ結末だから その1[mimizu](2014/04/01 17:34)
[64] 第12話 これが私の望んだ結末だから その2[mimizu](2014/04/01 17:34)
[65] 第12話 これが私の望んだ結末だから その3[mimizu](2014/04/01 17:35)
[66] 第12話 これが私の望んだ結末だから その4[mimizu](2014/04/01 17:36)
[67] 第12話 これが私の望んだ結末だから その5[mimizu](2014/04/01 17:41)
[68] 第12話 これが私の望んだ結末だから その6[mimizu](2014/04/12 02:18)
[69] 第12話 これが私の望んだ結末だから その7[mimizu](2014/04/24 19:20)
[70] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その1[mimizu](2014/05/04 02:13)
[71] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その2[mimizu](2014/05/19 00:31)
[72] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その3[mimizu](2014/07/31 22:10)
[73] 第一部 あとがき[mimizu](2014/07/31 17:05)
[74] 第二部 次回予告[mimizu](2014/07/31 17:07)
[82] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 前編[mimizu](2014/09/16 20:40)
[83] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 中編[mimizu](2014/09/16 20:40)
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[33132] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その5
Name: mimizu◆6de110c4 ID:ab282c86 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/23 01:47
「プレシア、キミがどんな願いを抱いているのかは知らないが、そのために自分の娘をボクに売り渡そうっていうのかい?」

「ええ、そうよ」

 キュゥべえの言葉にハッキリと断言するプレシア。契約前に魔法少女の末路について見抜く少女というのは、過去には何人か存在した。自分の魂が肉体から解き放たれ、ソウルジェムに作り替えられるというだけでも忌憚するのが人間だ。中にはそれでも契約したがる少女もいたが、そんな彼女たちでもいずれ魔女になるということを知っていれば契約を渋っただろう。プレシア自身、そういった事情を知っているからこそ、自分で契約するという選択肢を消したはずだ。

 しかしだからといって自分の娘を差し出すというのは異常である。キュゥべえたちのような感情のない生物ならともかく、人類は感情を行動の指針とする生物であり、それでいて個体間の血のつながりを大事にする。プレシアが行ったのは、そんなキュゥべえの知る人類とは間逆の行動なのだ。彼女が異世界人ということを加味しても、感情を持つ人類からそのような提案をされるとは思いもよらなかった。

「それでこの取引、受けるのかしら?」

 プレシアの問いかけ。それに対するキュゥべえの答えはもちろんイエスである。彼女の言う通りにフェイトと契約すれば、ジュエルシードが手に入り、またフェイトという優秀な魔法少女の感情エネルギーも回収することができる。断る理由は何一つない。だが……。

「……引き受けるのは構わないよ。だけどキミは一つ、勘違いをしている」

 プレシアは無言でキュゥべえに続きを促す。

「そもそもボクが少女たちの契約時に行っているのは、彼女たちの魂をソウルジェムに作り替えることだけなんだ。契約者の魂をソウルジェムに作り替える過程で発生した感情エネルギー。魂という器から強引に変換するにあたって、収まりきらなかった少女たちの想い。そういった彼女たち自身から溢れ出たエネルギーが、彼女たちの願いを叶えているんだ」

 巴マミの願いは『命を繋ぎ止めること』。あの場に置いて、彼女は何よりも自分の命を尊んだ。事故で一緒に死んだ両親のことは頭の外に追いやり、自分だけの生還を願った。その結果、彼女自身の生命力が増し、死ぬことを免れた。そして魔女との戦いでもそう簡単に命を落とさないだけの高度な魔法を覚え、戦闘技術を身に付けるに至った。

 佐倉杏子は『父親の話に耳を傾けて欲しい』と願った。人々から蔑まれる父親を見て心を痛めた。父親の主張は正しい。なのに人々はそれに耳を傾けようともしない。だからこそ彼女には幻惑の魔法が生まれた。それが教会に近づいた人々に無作為に作用し、彼女の父親の元に足を運ばせ、その説法が正しいものだと信じさせた。

 美樹さやかが願ったのは『どんな病も怪我も治せるようになりたい』というものだ。大事な一人のためではなく、苦しんでいる多くの人を救いたい。一度限りの奇跡を自分の手により何度でも行えるようになりたい。魔法少女としての素質が少ないさやかがそう願ったからこそ、彼女の魔法は治癒に特化し、その他の能力が欠如する形で現れたのだ。

 月村すずかが望んだのは『強く在ること』。自分の弱さを否定し、他者を守れる強さを求めた。その結果、彼女は今でも際限なく強くなり続けている。彼女の意思に関係なく、人間を超えた強さを得続けている。

 それらは全て、彼女たちの望んだ願いである。そしてそれを叶え続けたのも彼女たち自身なのだ。キュゥべえはあくまで、それにほんの少し手を貸したに過ぎない。むしろ自分の利益を求めた副産物で少女たちの願いが叶う結果となったと言った方が正確だろう。

「確かにボクと契約することで、彼女たちの願いは叶っている。だけどそれはあくまでソウルジェムを作る上で発生する副産物なんだ。だからフェイトの意思を無視して、キミの願いを叶えるような契約はボクにはできない。それでもキミの願いをフェイトに叶えさせるつもりなら、フェイト自身にその願いを叶えさせたいと思わせなければならない」

 人々の願いは千差万別。長い年月、人類の願いを聞いてきたキュゥべえでさえ、その多様性には舌を巻く。だがそれらは一つとして、他者から強いられたものではない。自分の内から湧き出た願い。自分のために叶える者、他人のために願う者、世界のために祈る者、そういった違いはあれど、それらは全て他人に強いられたものではなかった。

 他人に強要された想いは弱い。あくまで他人のためにと自発的に発揮した願いでなければ、強い感情エネルギーは生まれない。どんなに魔法少女としての素質はあっても、強い想いからなる願いでなければ、一部の例外を除いて強い魔法少女、延いては強いエネルギーは発生しない。そういった意味では、プレシアの求めるものはキュゥべえとしては歓迎できるものではなかった。

「口で言うのは簡単だけど、これは非常に難しいことだよ。他人が抱いた願いを、さも自分の内から願いだと思い込ませる必要があるのだからね。……だからもし、キミが本当に願いを叶えたいのなら、そんな不確実な方法ではなく、キミ自身の願いとして叶えることをお勧めするよ」

 ジュエルシードをもらえる条件を反故にしてしまうのは惜しい。しかし極論を言えば、どちらに転んでもキュゥべえとしては問題がなかった。キュゥべえにとって一番身入りの少ないパターン、それはプレシアの言う通りに動き、失敗した場合だ。フェイトと契約することができず、プレシアからジュエルシードを譲り受けることもできない。仮に契約できたとしても、プレシアの望む形での契約でなければジュエルシードを貰うことはできないだろう。

 成功する可能性が大きいのなら試す価値がある。しかしプレシアから提案された取引には前例がないのだ。フェイトに契約の意思を芽生えさせる自信はあっても、人間の感情を理解できないキュゥべえには彼女の願いまで操作できる自信はない。

「……といっても、すでに魔法少女の行く末を知っているキミに契約を迫るのも酷な話か。とりあえずフェイトとの契約はキミの願いを叶えさせるように動いてみるけど、あまり期待しないでもらえるとありがたいかな」

 逆にキュゥべえにとって一番、事が上手く運んだパターンはフェイトとプレシア、両名との契約を達成することだ。二人が魔女になった時に発生するエネルギーは並みの魔法少女から発生するそれよりも明らかに純度が高い。その上ジュエルシードまで手に入れることができれば、回収ノルマ達成に大きく近づく。

 プレシアが魔法少女の行く末まで掴んでいるのがネックだが、最悪どちらかと契約できればそれで良い。むしろ異世界の情報を掴むためだけにプレシアの誘いに乗ったキュゥべえにとって、フェイトに契約を迫る機会を与えられたことだけでも、今回の成果は十分と言えるだろう。

「……そうね。期待しないで様子を見させてもらうわ」

 一方のプレシアはキュゥべえの言葉を聞いて、特に落胆した様子もなく淡々とそう告げる。

 アリシアの命を甦らせるだけなら、プレシア自身が契約すればいいのだろう。だがそれは論外だ。ソウルジェムになることには何ら抵抗はないが、もし自分が魔女になってしまった時、その凶刃がアリシアに向かないとは限らない。それ以前に魔女退治に追われ、アリシアと共に過ごす平和な時間が削られること自体、由々しき問題だった。

 プレシアが最も望むのはアリシアとの平穏な生活だ。そのためにはアリシアを蘇生させるだけでは事足りない。プレシア自身もまた、五体満足の身体でなければならないのだ。今の病魔に蝕まれた身体が健全な状態であるとは言い難いが、それでもいずれ魔女になってしまうような契約を受け入れるよりはマシだろう。

 元々、プレシアはそこまでキュゥべえに期待をしていたわけではない。あくまでキュゥべえとの取引は保険。本命はあくまでもアルハザードに至り、その技術を用いてアリシアの蘇生を図ることなのだ。

 いざという時は自身がキュゥべえと契約することも考えてはいるが、それは今ではない。本命と保険、その両方が失敗し万策が尽きた時に改めて考えればいい。

「――さぁ、もうあなたに用はないわ。行きなさい」

 キュゥべえに冷たく言い放つプレシア。プレシアからはこれ以上、キュゥべえに話すことは何もない。キュゥべえが自分の思い通りに動いてくれば上々、そうでなくてもこちらに失うものはない。

「その前にプレシア、簡単でいいからボクにキミたちの世界のことと魔導師について教えてくれないかな?」

「何故?」

「キミはボクのことを何かしらの方法で見て知っているのかもしれないけど、ボクはキミたちの世界のことを全く知らないんだ。もちろん、あの管理局って人たちのこともね。それに普通の人間ならともかく、魔導師と契約するなんて初めてだからね。何かあるといけないから念のために事前に色々と知っておきたいのさ」

 その言葉を聞いたプレシアは面倒くさそうにため息をつく。それがキュゥべえの方便であることはプレシアにはすぐにわかった。要はミッドチルダについての情報が欲しいのだろう。いずれそちらの世界に渡り、魔法少女の契約を行うために。

 だがキュゥべえがミッドチルダで何をしようと、プレシアには何ら関係がない。彼女が求めるのはあくまでアリシアとの平穏の生活なのだ。仮にミッドチルダが魔女だらけの世界になったとしても、時の庭園で暮らす限り直接的な被害を受けることはないだろう。

「……そうね。話す代わりにあなたが知っている魔法少女と魔女、それにあなたの持っている知識と技術を教えてくれるのなら考えなくもないわ」

「それぐらい、お安い御用だよ」

 ――そうしてプレシアとキュゥべえは互いの世界についての情報を交換していく。それぞれの思惑を内に秘めて。



     ☆ ☆ ☆



 ゆまが目を覚まして最初に見たのは、心配そうに自分の顔を覗き込むフェイトの姿だった。

「あ、ゆま。目が覚めた?」

 それに気付いたフェイトがゆまに優しく声を掛ける。

「あ、あれ? フェイト?」

 それに戸惑いながらも返事をしながら、ゆまは周囲を見渡す。……見覚えのない一室。見ただけでわかる清潔さと見たこともないような精密機器が立ち並んでいる。それも現代日本の科学技術では到底再現できないようなモノばかり。まるでSFドラマの中に来てしまったと錯覚してしまうような部屋だった。

「ゆま、気絶する前のこと、覚えてる?」

 困惑しているゆまにフェイトが尋ねる。その問いかけにゆまは頭を巡らす。脳裏に浮かんだのは赤い瞳。刹那、全身に寒気が走る。それを必死に抑えながら、断片的に記憶を掘り起こしていく。そうして徐々に気絶する前の出来事を思い出していく。

「えっと、すずかの寝ている部屋から物音がしたから皆で様子を見に行ったんだっけ?」

「そうだよ。それでゆまはすずかの暴走した魔力に当てられて気絶したの。それで念のために時の庭園、わたしの家に連れてきて後遺症がないかを調べてみることにしたんだ」

 そこでフェイトが一瞬、表情を曇らす。

「……それでね、魔力による後遺症は特に見当たらなかったんだけど、ゆまの身体に残ってる無数の痣を見つけたんだ」

 言いにくそうに続けるフェイトの言葉を聞き、ゆまは顔を曇らした理由をなんとなく察した。 

「もうほとんど、傷痕しか残っていないようなものばかりだったけど、あんな傷、いつまでも身体に残しておくのも良くないから、治しといたんだけど……」

 次の言葉を聞いたゆまは、その場で自分の上着をめくる。昨日、お風呂に入った時は確かにあった無数の痕。それが確かに消えていた。

「うわー、ほんとだー。ありがとー、フェイト」

 それを素直に喜ぶゆま。その態度にフェイトは思わず毒気が抜かれる。

「でも魔法ってすごいんだねー。こんなことまでできちゃうんだー」

「えと、治癒魔法が得意な人はできるだろうけど、ゆまの傷を消したのは時の庭園の医療設備によるものだよ」

「そうなんだー」

 あっけらかんと答えるゆま。そんなゆまにフェイトは自分の疑問をぶつけていいものか躊躇ってしまう。

 ゆまの身体につけられた暴力。それはフェイト自身の身体にも幾重に刻まれたこともあるものと同質のものだろう。すなわちプレシアからの仕打ち。プレシアの怒りに触れ、彼女の鞭によって行われた暴力。ゆまの身体についていたものには鞭によるものはなかったとはいえ、傷がついた理由自体はそこまで大差あるものではないだろう。

 だからこそフェイトは気になってしまう。そもそもフェイトはゆまと杏子について何も知らない。知っていることと言えば、杏子が魔法少女だということ。そして彼女がゆまを魔法少女になることを嫌っているということだけだ。それ以外についてフェイトはまだ、何も知らないのだ。

「……やっぱり気になる?」

「えっ……?」

「あれだけ傷だらけな身体していたんだもん。気にならなはずないよね」

「えと、その……」

 ゆまの問いかけにフェイトは上手く答えることができなかった。気にならない、と言えば嘘になる。だがそれはゆまにとって触れて欲しくないことなのではないだろうか?

 もしフェイトが逆の立場なのだとしたら、自分の身体につけられた傷痕について答えることを躊躇うだろう。戦いでついた傷なら話すのに何ら問題ない。しかしその傷をつけたのが自分の最愛の母親なのだとしたら……それはきっととても辛いことだから。

「別にフェイトが気にすることはないよ。もうわたしを痛めつける人はいなくなったんだし」

「えっ?」

「フェイトが治してくれた傷をつけたのはね、わたしのママ」

(……やっぱり)

 そう内心でフェイトは呟く。だがその前にゆまが言った「いなくなった」というのはどういう意味なのだろう。

「フェイトには話しとくね。この傷痕のこと。そしてわたしが杏子と出会った時のことを」

 そこから語られるゆまの痛ましい過去。不仲の両親。父親は家を留守にしがちで、たまに帰ってきても母親と喧嘩ばかり。母親はヒステリーに泣き喚き、周囲のものに当たり散らす。その様子をゆまはただ、黙って見ていることしかできなかった。

 次第にエスカレートしていく両親の喧嘩。その捌け口としてゆまが暴力を振るわれるようになったのはいつの頃からだっただろう。気にいらないことがある度に、母親は殴る蹴るの暴行を繰り返す。

 だがゆまはそれでも構わなかった。暴力を振るっている間だけ母親は自分のことを見てくれる。ゆまは一人じゃない。誰かに必要とされている。そう実感できるだけでゆまは幸せだった。

 だからゆまは痛めつけられながらも――笑っていた。

 いつか母親に言われた言葉を思い出す。――役立たず。だがこうして殴られている限り、ゆまは役立たずではない。両親を楽しませるのに役立っている。だからゆまは心の底から笑えていた。

 ……そんな日々が続いたある日、珍しく家族三人で買い物に出掛けた休日。父親がいて、母親がいて、自分がいる。父親は不遜な表情をし続けたが、母親は珍しく楽しそうに笑っていた。そんな二人の間に挟まり、手を繋いだゆまもまた自然な笑みを浮かべていた。

 久しぶりの外出で興奮したのだろう。ゆまははしゃぎ、両親とはぐれてしまった。気付いた時には周囲に人の姿はなく、見たこともないような花が咲き誇る空間へと迷い込んでいた。辺りを見回しながら、ゆまは両親を探す。そんなゆまの前に何かが落ちてくる。



 興味本位で近づき、目にしたもの。――それはゆまの両親だった。



 ゆまに気づいた母親は助けを求める。その身体はすでに下半身と別たれ、顔の半分がドロドロに溶け始めている。それでもゆまにはそれが母親だと、ハッキリとわかった。そしてわかったからこそ、ゆまは恐怖で身体の自由を失くす。

 そんなゆまの前に現れた人型の異形。一見すると小柄な子供のような外見をしているが、よく見ると頭にあたる部分は黒い球体でしかなく、纏う雰囲気が人間のものとは明らかに違った。今ではそれが魔女だということはわかるが、この時のゆまにはそれはただの化け物にしか見えなかった。ゆまのことは目に入ってないのか、化け物は助けを求める母親に喰らいつき、残った身体を引き裂いていく。

 ゆまに関心を示そうとしなかった父親。ボロ雑巾のように痛めつけた母親。その姿は見る影もない。そこにあるのはただの肉塊。ニンゲンだったモノ。辺りに血を撒き散らし、化け物はひたすらに両親だったものを貪っていく。

 その光景をゆまは、ただただ眺めていた。その場で膝を付き、魔女が両親を喰らう様を瞬き一つせず眺め続けた。その時、自分が何を思っていたのかゆまには思い出せない。ただ次にああなるのは自分だと、それだけは確信していた。

 だがそれは覆されることになる。佐倉杏子の手によって。彼女の魔法によって化け物は殺され、その場にはゆまと両親だったモノが残された。

「……あの時、キョーコがどーしてわたしに声を掛けてくれたのかはわからない。だけどわたしはキョーコに感謝してる。あの時、キョーコが声を掛けてくれなかったら、わたしは生きる意味を失くしてた。きっとこーして笑うことはできなかったと思う」

「……ごめんね、ゆま。辛いこと思い出させて」

 一通り話を聞き終わったフェイトは、思わずゆまの身体を強く抱きしめた。

「ううん、わたしはへーきだよ。パパとママのことはどーしようもなかったけど、今のわたしにはキョーコがいるから」

「……ゆま」

「だからね、フェイト。わたしに魔法を教えて。キョーコがわたしに魔法少女になるなって言うなら、わたしは魔導師になる。それでキョーコの役に立ちたいんだ」

 ゆまは改めてフェイトにそう告げる。満面の笑みを浮かべて。その顔がフェイトにはとても眩しかった。

 フェイトもプレシアのためなら何だってする覚悟はある。しかし時たまに思うのだ。本当にこれでいいのかと。年々、プレシアはやつれ、顔色も悪くなっている。たまに会うからこそ、その変化はフェイトには顕著にわかっていた。それにプレシアから与えられる任務の中には、倫理的にも法的にも問題なのではないかと思えるようなものまである。

 その度にフェイトは迷うのだ。無理やりにでもプレシアに研究を止めさせ、療養させた方がいいのではないかと。

 もちろん自分にプレシアを押さえつける力量がないことは、フェイトも十分にわかっている。それにできることなら、プレシアの研究を妨げたくないという思いもある。だからこそフェイトは無茶をしてでもプレシアから任された任務をこなす必要があったのだ。

 プレシアのために、と思いつつもフェイトは常に迷いを抱えていた。だがゆまにはそれがない。その真っ直ぐさ、それがフェイトには純粋に羨ましかった。

「いいの? たぶん杏子は反対すると思うよ」

「わかってる。だけどお願い。わたしはやっぱり杏子を助けられるようになりたいから」

 ゆまは真っ直ぐフェイトの目を見つめて懇願する。先ほど問われた時はどうしようかと思ったゆまの願い。おそらく杏子が知れば、彼女はフェイトを恨むだろう。ゆまを戦いの場に置きたくない杏子の想いを、フェイトは踏みにじることになる。

 だけどフェイトにはゆまの想いを否定できない。ゆまが杏子のことを想う姿勢は、フェイトがプレシアを想う姿勢をとてもよく似ていたから。そんな一途なゆまの想いを応援したいと思ってしまったから。

「わかった。それじゃあ厳しく行くから、覚悟してね」

 そんなゆまの想いに応えるように、フェイトもまた彼女の目を真っ直ぐ見てそう告げた。



     ★ ★ ★



 管理局が杏子と、プレシアがキュゥべえと話し合いをしていた頃、海鳴市郊外に魔女の結界が広がっていた。その中で呉キリカは一体の魔女と戦っていた。

「――遅いッ!!」

 手に持った鍵爪が人の形を模した魔女の身体を引き裂くキリカ。肉を引き裂く独特の感触。魔法少女になりたてのうちは不快だったその感触も、今では慣れてしまい何も感じない。

「あれ?」

 キリカはその一撃を止めのつもりで放ったつもりだった。しかしその攻撃は確かに魔女の身体にダメージを与えたものの、致命傷にはならなかった。むしろ懐に入り込んだキリカを飛んで火にいる夏の虫と言わんばかりに攻撃を仕掛けてくる。それを慌ててよけながら一端、魔女から距離を取る。そんなキリカに放たれる無数の弾丸。散弾銃に広がりながら弾丸はキリカに襲いかかる。

「甘いよ」

 そんな弾丸に対してキリカは魔法を放つ。キリカの魔法は速度低下。あらゆるものから速度を奪う。その魔法に掛けられた魔女の弾丸は空中で静止し、文字通り止まって見えた。

 キリカは動きが遅くなった弾丸の隙間を縫うように移動し、再び魔女に肉薄する。――そして斬激。先ほどダメージを負わせた箇所への追撃。それも大振りで、だ。並みの魔女なら一溜まりもない攻撃だろう。

 しかしそれでも、目の前の魔女は平然としていた。痛みに動きを鈍らすことなく、キリカに攻撃を仕掛ける。それをギリギリのところで避けるキリカ。

(へぇ、こんなにも強くなるものなんだ)

 キリカは内心で感嘆を零す。先ほどからキリカが行っている行動は全て全力で行っている。攻撃も防御も回避も、魔力の消費を度外視した動きばかりだ。並みの魔女なら数体分を倒すのに使う魔力を要している。しかし目の前の魔女には効いてはいるものの、まだ平然と動いている。

「キミ、やるね」 

 思わずキリカは目の前の魔女に声を掛ける。もちろん相手は魔女。人間性などありはしないので、返事が返ってくるはずもない。それでもキリカはしゃべるのをやめない。

「流石はジュエルシードを取りこんだ魔女ってことはあるね。……でもさ、私も負けるわけにはいかないんだよ、織莉子のために」

 今、この場に織莉子の姿はない。この場にいるのはキリカとジュエルシードを取りこんだ魔女だけだ。――だからこそ負けられない。

 織莉子の力を用いれば、魔女がジュエルシードを取りこんでしまう前に見つけだすことも容易いだろう。事実、海鳴市に来て二日、彼女たちはすでにジュエルシードを二つ、手に入れている。そのいずれも発動前のモノ。他の捜索者にはとても真似のできない芸当だろう。

 海鳴市に魔女が集まっているとはいえ、ジュエルシードを取りこんだ魔女は存外少ない。町に散らばっている物の多くが発動前のもので、そのほとんどの位置をすでに織莉子は未来視で把握している。ジュエルシードを集めるだけなら、そういった道端に落ちているものを拾っていくのが一番手っ取り早いのだろう。

 それなのにも関わらず、キリカはこうしてジュエルシードを取りこんだ魔女と戦っている。キリカとて馬鹿ではない。それが如何に非効率なことであるかは十分に理解している。

 それでも彼女がこうして挑んでいるのは織莉子のため。織莉子が視たという未来。それを変えるために戦っている。

 キリカには織莉子がどのような未来を視て、目の前の魔女を倒すことでどう変わるかは知らない。尋ねれば教えてくれたかもしれないが、キリカにとってそこに意味はない。

 織莉子がキリカに願った。キリカにとってはそれで十分なのだ。織莉子のためなら何だってする。他の魔法少女を殺してと言われれば何も考えずに実行するし、自分の通う学校を魔女化して結界で取り込めと言われればキリカは笑顔で応じるだろう。

 キリカにとって世界=織莉子なのだ。

 織莉子のため。そう思うだけでキリカには無限の力が溢れてく。例えどんな魔法を使えるようになったとしても、織莉子が与えてくれた愛の魔法に勝るものはない。

「私と織莉子のラブパワーは、ジュエルシードを取りこんだくらいで覆せるわけがない!!」

 キリカは一気に走り出す。真っ直ぐ、真正面から魔女に向かって全速力で駆けていく。もちろんそれを魔女が黙って見過ごすわけがない。キリカ目掛けて弾丸を撃ち放つ。先ほどとは違い、一発だけ。だがその一発は速かった。キリカの魔法の影響を受けているのにも関わらず、ライフル並みの速度でキリカの脳天目掛けて放たれる。それでもキリカは怯むことなく走り続けた。そして弾丸がキリカの額に触れる寸前、無言で手に持った鍵爪を使って打ち払った。

 そのお返しと言わんばかりに、キリカは左手に持った鍵爪を魔女に向かって投げつける。魔女の身体に吸い込まれるように鍵爪が食い込む。その瞬間、魔女は鍵爪に込められた魔力によって石像になってしまったかのようにピタリと動きを止める。

 それを確認したキリカは、空中に大量の鍵爪を配置し巨大な鋸を作り出す。不均等に配置された鍵爪がさも鋸のギザギザの刃を再現する。その柄をキリカが握ると、まるでチェーンソーのようにその刃が回転し出す。そしてそれをそのまま魔女の脳天から叩きつけた。鈍い音と共に魔女の身体が削られていく。辺りに魔女の肉片を飛び散らしながら、少しずつ抉っていく。それでも魔女は微動だにしない。――否、できないのだ。キリカの魔法によって。

 それでもしばらくの間は結界を保たれていたが、ついに耐えきれず絶命したのだろう。周囲の景色が広大な荒野から狭い裏路地へと変わっていく。あとに残されたのは一組のグリーフシードとジュエルシード。念のために確認したジュエルシードのシリアルナンバーはⅩⅢ。事前に織莉子から伝えられた通りの番号だ。

「やっぱり織莉子と私の愛の力は偉大だね」

 私服姿に戻ったキリカは一言そう呟くと、落ちているグリーフシードとジュエルシードを仕舞い込み、早々に織莉子が待っているであろうホテルへと帰って行った。



2012/11/23 初投稿


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