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No.32266の一覧
[0] 機動戦士ガンダムSEED BlumenGarten(完結)[後藤正人](2023/10/28 22:20)
[1] 第1話「コズミック・イラ」[後藤正人](2012/10/12 23:49)
[2] 第2話「G.U.N.D.A.M」[後藤正人](2012/10/13 00:29)
[3] 第3話「赤い瞳の少女」[後藤正人](2012/10/14 00:33)
[4] 第4話「鋭き矛と堅牢な盾」[後藤正人](2012/10/14 00:46)
[5] 第5話「序曲」[後藤正人](2012/10/14 15:26)
[6] 第6話「重なる罪、届かぬ思い」[後藤正人](2012/10/14 15:43)
[7] 第7話「宴のあと」[後藤正人](2012/10/16 09:59)
[8] 第8話「Day After Armageddon」[後藤正人](2014/09/08 22:21)
[9] 第9話「それぞれにできること」[後藤正人](2012/10/17 00:49)
[10] 第10話「低軌道会戦」[後藤正人](2014/09/08 22:21)
[11] 第11話「乾いた大地に、星落ちて」[後藤正人](2012/10/19 00:50)
[12] 第12話「天上の歌姫」[後藤正人](2012/10/20 00:41)
[13] 第13話「王と花」[後藤正人](2012/10/20 22:02)
[14] 第14話「ヴァーリ」[後藤正人](2012/10/22 00:34)
[15] 第15話「災禍の胎動」[後藤正人](2014/09/08 22:20)
[16] 第16話「震える山」[後藤正人](2012/10/23 23:38)
[17] 第17話「月下の狂犬、砂漠の虎」[後藤正人](2014/09/08 22:19)
[18] 第18話「思いを繋げて」[後藤正人](2014/09/08 22:19)
[19] 第19話「舞い降りる悪夢」[後藤正人](2012/10/25 21:56)
[20] 第20話「ニコル」[後藤正人](2014/09/08 22:18)
[21] 第21話「逃れ得ぬ過去」[後藤正人](2012/10/30 22:54)
[22] 第22話「憎しみの連鎖」[後藤正人](2012/10/31 20:17)
[23] 第23話「海原を越えて」[後藤正人](2012/10/31 21:07)
[24] 第24話「ヤラファス祭」[後藤正人](2012/11/01 20:58)
[25] 第25話「別れと別離と」[後藤正人](2012/11/04 18:40)
[26] 第26話「勇敢なる蜉蝣」[後藤正人](2012/11/05 21:06)
[27] 第27話「プレア」[後藤正人](2014/09/08 22:16)
[28] 第28話「夜明けの黄昏」[後藤正人](2014/09/08 22:15)
[29] 第29話「創られた人のため」[後藤正人](2012/11/06 21:05)
[30] 第30話「凍土に青い薔薇が咲く」[後藤正人](2012/11/07 17:04)
[31] 第31話「大地が燃えて、人が死ぬ」[後藤正人](2012/11/10 00:52)
[32] 第32話「アルファにしてオメガ」[後藤正人](2012/11/17 00:34)
[33] 第33話「レコンキスタ」[後藤正人](2012/11/20 21:44)
[34] 第34話「オーブの落日」[後藤正人](2014/09/08 22:13)
[35] 第35話「故郷の空へ」[後藤正人](2012/11/26 22:38)
[36] 第36話「慟哭響く場所」[後藤正人](2012/12/01 22:30)
[37] 第37話「嵐の前に」[後藤正人](2012/12/05 23:06)
[38] 第38話「夢は踊り」[後藤正人](2014/09/08 22:12)
[39] 第39話「火はすべてを焼き尽くす」[後藤正人](2012/12/18 00:48)
[40] 第40話「血のバレンタイン」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[41] 第41話「あなたは生きるべき人だから」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[42] 第42話「アブラムシのカースト」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[43] 第43話「犠牲と対価」[後藤正人](2014/09/08 22:10)
[44] 第44話「ボアズ陥落」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[45] 第45話「たとえどんな明日が来るとして」[後藤正人](2013/04/11 11:16)
[46] 第46話「夢のような悪夢」[後藤正人](2013/04/11 11:54)
[47] 第47話「死神の饗宴」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[48] 第48話「魔王の世界」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[49] 第49話「それが胡蝶の夢だとて」[後藤正人](2014/09/08 22:07)
[50] 第50話「少女たちに花束を」[後藤正人](2014/09/08 22:07)
[51] 幕間「死が2人を分かつまで」[後藤正人](2013/04/11 22:36)
[52] ガンダムSEED BlumenGarten Destiny編[後藤正人](2014/09/08 22:05)
[53] 第1話「静かな戦争」[後藤正人](2014/09/08 22:01)
[54] 第2話「在外コーディネーター」[後藤正人](2014/05/04 20:56)
[55] 第3話「炎の記憶」[後藤正人](2014/09/08 22:01)
[56] 第4話「ミネルヴァ」[後藤正人](2014/06/02 00:49)
[57] 第5話「冬の始まり」[後藤正人](2014/06/16 00:33)
[58] 第6話「戦争の縮図」[後藤正人](2014/06/30 00:37)
[59] 第7話「星の落ちる夜」[後藤正人](2014/07/14 00:56)
[60] 第8話「世界が壊れ出す」[後藤正人](2014/07/27 23:46)
[61] 第9話「戦争と平和」[後藤正人](2014/08/18 01:13)
[62] 第10話「オーブ入港」[後藤正人](2014/09/08 00:20)
[63] 第11話「戦士たち」[後藤正人](2014/09/28 23:42)
[64] 第12話「天なる国」[後藤正人](2014/10/13 00:41)
[65] 第13話「ゲルテンリッター」[後藤正人](2014/10/27 00:56)
[66] 第14話「燃える海」[後藤正人](2014/11/24 01:20)
[67] 第15話「倒すべき敵」[後藤正人](2014/12/07 21:41)
[68] 第16話「魔王と呼ばれた男」[後藤正人](2015/01/01 20:11)
[69] 第17話「鋭い刃」[後藤正人](2016/10/12 22:41)
[70] 第18話「毒と鉄の森」[後藤正人](2016/10/30 15:14)
[71] 第19話「片角の魔女」[後藤正人](2016/11/04 23:47)
[72] 第20話「次の戦いのために」[後藤正人](2016/12/18 12:07)
[73] 第21話「愛国者」[後藤正人](2016/12/31 10:18)
[74] 第22話「花の約束」[小鳥 遊](2017/02/27 11:58)
[75] 第23話「ダーダネルス海峡にて」[後藤正人](2017/04/05 23:35)
[76] 第24話「黄衣の王」[後藤正人](2017/05/13 23:33)
[77] 第25話「かつて見上げた魔王を前に」[後藤正人](2017/05/30 23:21)
[78] 第26話「日の沈む先」[後藤正人](2017/06/02 20:44)
[79] 第27話「海原を抜けて」[後藤正人](2017/06/03 23:39)
[80] 第28話「闇のジェネラル」[後藤正人](2017/06/08 23:38)
[81] 第29話「エインセル・ハンター」[後藤正人](2017/06/20 23:24)
[82] 第30話「前夜」[後藤正人](2017/07/06 22:06)
[83] 第31話「自由と正義の名の下に」[後藤正人](2017/07/03 22:35)
[84] 第32話「戦いの空へ」[後藤正人](2017/07/21 21:34)
[85] 第33話「月に至りて」[後藤正人](2017/09/17 22:20)
[86] 第34話「始まりと終わりの集う場所」[後藤正人](2017/10/02 00:17)
[87] 第35話「今は亡き人のため」[後藤正人](2017/11/12 13:06)
[88] 第36話「光の翼の天使」[後藤正人](2018/05/26 00:09)
[89] 第37話「変わらぬ世界」[後藤正人](2018/06/23 00:03)
[90] 第38話「五日前」[後藤正人](2018/07/11 23:51)
[91] 第39話「今日と明日の狭間」[後藤正人](2018/10/09 22:13)
[92] 第40話「水晶の夜」[後藤正人](2019/06/25 23:49)
[93] 第41話「ヒトラーの尻尾」[後藤正人](2023/10/04 21:48)
[94] 第42話「生命の泉」[後藤正人](2023/10/04 23:54)
[95] 第43話「道」[後藤正人](2023/10/05 23:37)
[96] 第44話「神は我とともにあり」[後藤正人](2023/10/07 12:15)
[97] 第45話「王殺し」[後藤正人](2023/10/12 22:38)
[98] 第46話「名前も知らぬ人のため」[後藤正人](2023/10/14 18:54)
[99] 第47話「明日、生まれてくる子のために」[後藤正人](2023/10/14 18:56)
[100] 第48話「あなたを父と呼びたかった」[後藤正人](2023/10/21 09:09)
[101] 第49話「繋がる思い」[後藤正人](2023/10/21 09:10)
[102] 最終話「人として」[後藤正人](2023/10/28 22:14)
[103] あとがき[後藤正人](2023/10/28 22:17)
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[32266] 第24話「黄衣の王」
Name: 後藤正人◆ced629ba ID:6a6cd985 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/05/13 23:33
 エインセル・ハンター。
 この男がプラントにおいて魔王のように語られる理由はあくまでも政治的な都合とする面が大きい。プラントにとってブルー・コスモスは絶対悪であり、それはデュランダル政権において顕著に主張されることとなった。その際、代表を務めていたのがエインセル・ハンターであった、ただそれだけのことである。
 かつてブルー・コスモスは三巨頭制が採用されていた。しかし、ムウ・ラ・フラガがジェネシスを道ずれに死去し、ラウ・ル・クルーゼが体調不良を理由として事実上の引退を迎えたことで1人残されたエインセル・ハンターが単独で代表を務めるに至ったにすぎない。
 その時期と、プラントが政治的なキャンペーンを始めた時期とが一致したにすぎないのだ。
 エインセル・ハンターは偶像の魔王でしかなかった。
 事実として、プラントの国民の多くはエインセル・ハンターの顔さえ知らない。むろん、彼自身がコーディネーターであり、ドミナントとして生まれた最初の1人であることなど言わずもがなである。
 ただコーディネーターの素質を妬む性根の腐ったみっともない男としか認識していない。
 ではなぜそんな小物が地球各国に影響力を有するのか。答えは簡単である。ナチュラルがそれだけ愚かな存在であるからだ。コーディネーターであれば考えられないことだが、ナチュラルであればこのような男に扇動されたとしても不思議ではない。
 プラントが攻撃されるのはナチュラルの嫉妬故である。そんなプラントの理屈を都合よく体現する存在こそが、エインセル・ハンターなのである。まさに偶像なのだ。こうであって欲しい、こうでなければならない、こうであるに決まっている、そんなコーディネーターの、プラントの都合のすべてをエインセル・ハンターにその一身に担っているのである。
 映画、「自由と正義の名の下に」ではそのような男として描かれた。
 プラントの民は信じている。エインセル・ハンターさえ倒すことができたならナチュラルは自らの愚かさを自覚し、この戦争は終わると。そして、プラントはようやく楽園への道を歩み出すことができるのだと。
 エインセル・ハンターは偶像の魔王だった。実在はしていなくとも存在しているのだ。まだ誰も、幽霊、悪魔、人にあだなす超自然の存在を証明してはいない。しかし、人はそのような存在に怯え、脅かされる。
 エインセル・ハンターは、まさに偶像の魔王だった。




 ダーダネルス海峡の戦いはひどく不格好なものだった。
 エインセル・ハンターを倒せばすべてが終わる。そう信じるザフト軍が後先考えない攻撃に打って出た。隊列、戦術を無視した攻勢に、地球軍もまた呼応した。結果、両軍が海峡の上空で入り乱れる、近年あり得ないほどの混戦模様を繰り広げていた。
 シン・アスカは遅れてこの戦場に到着した。友軍の潜水艦、その海峡突入の支援を行っていたため、到着時刻がずれたのだ。
 そのため、シンは戦場を外から眺めることができた。
 交差するビームの線条。それが幾本も重なり合いまばゆいばかりだ。あまりに密集しているため、敵味方の区別がまともにつかない。撃ってきたら反射的に撃ち返す。それがせいぜいではないだろうか。
 ここに飛び込む以上、頭で考えてのお上品な戦いなんてできない。そう、シンは覚悟を決める必要があった。
 しかし、シンのわずか先を飛行するガンダムローゼンクリスタルのレイ・ザ・バレルは何かを感じ取っていたようだった。

「何か妙だな。無秩序は言うまでもないが、それでも動きに規則性が感じられる」

 隊長の言葉に疑問を抱いたのは、シンの隣で飛ぶヴィーノ・デュプレだ。

「おかしいって、何がです?」
「このような大混戦のさなかだ。互いに通信など連携などとれるはずもないが、個々が目的を有し、それが集団で共有される場合、群衆は擬似的に統率のとれた状態になることがある。知能に乏しい蟻の群が、それでも見事な隊列を組むようにだ」

 では目的とは何か、そのような観点から眺めてみると、シンには次第に大きな蚊柱かのような戦場に一定の方向性が見えてくるようになった。
 地球軍のモビル・スーツはばらばらに動いているように見えて決まって同じ方向に背を向けていた。背中で何かを取り囲んでいるように見えて、それは自然に解するならば何かを守っているかのように見える。
 対して、ザフト軍はその反対だ。おそらく、その多くが意識してはいないのだろうが、地球軍を倒そうとするため自然と地球軍が守ろうとしている何かへと銃を向ける形になっている。
 一見するなら混沌とした戦場だったが、確実に方向性が存在していた。
 ヴィーノにそれは確認できたのだろう。

「隊長、地球軍は何かを守ろうとしているみたいですね。でも、一体何を……?」
「答えは一つしかないだろう。この場所には、すでにエインセル・ハンターがいるということだ」
「どこに……!?」
「戦いの中心、そのどこかだろうな。……存在を匂わせるだけで人を扇動し殺し合わせるか。まさに悪魔のような男だな」

 そう、ここにエインセル・ハンターがいる。その事実は、シンの体を自然とこわばらせた。口数が少ないことを怪しまれたのか、あるいは単に気が向いただけか、ヴィーノは通信越しにシンに声をかけた。

「シン、母さんの仇だからって無茶するなよ」
「ああ……」

 シンは、そんな空返事をすることしかできないでいた。




 戦いは激化していた。パイロットたちは友軍と連絡をとる時でさえ、操縦桿を動かさずにはいられなかった。わずかでも動きを止めると敵の攻撃、味方の流れ弾、どのような形であれ被弾の危険性があった。
 すでに珍しい光景が展開されていた。ウイングに青い薔薇のエンブレムが描かれたディーヴィエイトガンダム、ファントムペインの機体でさえ損傷していた。左腕を失い、熱を帯びた装甲からは黒煙が薄く立ち上っていた。
 部下の状態を確認したキラ・ヤマトは、乗機であるガンダムラインルビーンをディーヴィエイトのすぐそばにまで飛行させた。混戦状態であるため中空で制止することはできず、絶えず位置を変える落ち着きのない状態のまま通信をつないだ。

「ミューディー、今日の君は無理をしすぎる」

 ミューディー・ホルクロフト、キラの部下の中で唯一の女性パイロットは、そのヘルメットの奥で額から血を流していた。流れ込んだ血で右目をあけていられず半目となっている。しかし、そんな状態にも関わらずミューディーはあくまでも落ち着き払っていた。

「エインセル・ハンター守って戦えるなんて滅多にないんだし。見逃してよ、隊長」
「撤退した方がいい。いいね?」

 ミューディーにはそう言い残し、キラは乗機である赤い機体を翻した。

「この空気、あまり好きになれそうにないな……」

 無造作に飛び込んできたヅダをビーム・サーベルで切り裂き、ラインルビーンはすぐさま爆発する敵機から離れる。
 ただエインセル・ハンターを殺す、それだけのために命を投げ捨てていく様は異常と言えた。
 しかし、それは何もザフト軍に限った話ではないのかもしれない。コクピット内を浮遊する人形の少女、真紅がキラの顔の横から囁きかけた。

「お父様、ミューディーのことだけれど……」

 しかし、真紅が続けるよりも先にキラがラインルビーンを鋭く機動させた。ビームが2人が場所を通り過ぎる。
 ビームの方向、そこから後光を背負う純白の機体、ガンダムローゼンクリスタルが急降下してくる。パイロットであるレイ・ザ・バレルは敵との間に通信をつなぐことを躊躇しなかった。

「キラ! お前までいるとはな!」
「レイ! 君までエインセル・ハンターを狙うのか?」
「それがザフトの悲願らしいからな。だが、サイサリスはお前たちゲルテンリッターにご執心だ」

 ライフルから次々とローゼンクリスタルがビームを放つも、ラインルビーンは無駄のない動きでそのすべてを回避する。ラインルビーンのアリスである真紅は余裕の笑みさえ浮かべていた。

「優れた技術者であることの証明のため? そんな子どもじみた考えだからいつまでも背中を追うことしかできないのだわ」
「本人にそう言ってやれ。だがキラ、兄弟のよしみとは言え、お互い手加減はできんな」

 そう、レイは特殊な操作をした。ローゼンクリスタルが背負うリング状のユニットが静かに起動する。

「お父様」

 真紅の言葉に導かれ機体を動かすキラ。すると、その場所に突如、ビームの塊が生じる。偶然ではない。キラのラインルビーンの動きは明らかにビームの塊を避ける動きだった。
 レイはビームで追撃を加えながらも、その声にはわずかながら動揺が見られた。

「ローゼンクリスタルの手品がわかっているのか?」

 キラがビーム飛び交う混戦の中、レイの攻撃を交わし続けている間に真紅はとうとうと語り続けていた。

「バックパックのリングに多数搭載されたマイクロ波照射装置から微弱なマイクロ・ウェーヴを無数に照射して一点に集中する。そのことでその地点のミノフスキー粒子がビームへと変化して、突如、中空にビームが発生したように見えるのだわ」

 戦場でそのような低出力のマイクロ波を観測している機体などありはしない。すると、虚空に突然、ビームが発生したようにしか見えないことになる。しかし、トリックさえわかれば回避はたやすい。原料とも言えるミノフスキー粒子の密度が高い場所を避ければいいだけだからである。
 試すかのように、ローゼンクリスタルは再びビームを発生させた。だが、ラインルビーンはたやすく発生地点を避けて飛行する。

「レイ、実は、ゲルテンリッターにも同様のシステムを搭載した機体があるんだ」
「ほう。サイサリスの奴、結局はゼフィランサスの手の上か。だが、これほどの戦場だ。ビームに由来するミノフスキー粒子はあり得ないほどに濃密だ。この意味がわかるだろう、キラ!」

 次々と発生するビームの塊に加え、レイは続けざまにライフルの引き金を引き続ける。点と線、ラインルビーンの逃げる空間を急速に潰していく攻撃はゲルテンリッター5号機を追いつめつつあるかのように思われた。キラ・ヤマトの実力を知らない者にとっては。
 ラインルビーンがミノフスキー・クラフトの輝きを一際強めたかと思うと、その真紅の機体は突如としてローゼンクリスタルへと軌道を変えた。無謀なほどに直線的な接近は、当然、ビーム・ライフルの直撃を受ける。命中を、誰もが確信したはずだった。そうであるにも関わらず、ラインルビーンは無傷のまま突き進みローゼンクリスタルの脇を通り過ぎた。
 レイはとっさに機体を逃がしたつもりだったが、ビーム・ライフルは切断されており投げ捨てられるとともに中空で爆発する。失った武器を惜しんでいる暇もなく、レイはビーム・サーベルを抜く必要に駆られた。通り過ぎたはずのラインルビーンがすぐさま両手のビーム・サーベルを叩きつけてきたからだ。

「レイ、エースの戦いにライフルは役立たない!」
「そうでなくてはな!」

 衝突する度に粒子の輝きがまき散らされる。2機のガンダムは空で激突しては切り結び、一度離れたかと思うとまた激突する。敵味方入り乱れる戦場において周囲をかまうことなく決闘に興じ続けていた。




 戦いは消耗戦の様相さえ呈し始めていた。隊列もなく、敵が四方に点在する戦場では回避さえ運試しじみている。流れ弾がかすめる度、装甲が削れていく。そんな戦場に身をおく多くのモビル・スーツは何かしらの損傷を受けるとともにそれは時を追うごとに深刻化していく。
 だが、それでも戦いは終わる気配を見せない。
 形式的には隊長であるはずのレイから離れたヘルベルト、マーズの2人は戦場のさらに奥へと進んでいた。

「どこだ!? どこにいる、エインセル・ハンター!」
「ヘルベルト、前に出すぎだ! 死ぬつもりか!」
「前衛も後衛もねえだろうが!」
「たしかにこの混戦じゃな……」

 マーズの言葉は予言じみていた。ビームがヘルベルトの機体をかすめたからだ。

「おい、ヘルベルト!」

 すぐに機体を横付けするマーズだが、幸いにしてフォース・シルエットのウイングを削る程度の損傷であることはすぐに確認できた。そんなことよりも、モニター越しに見えるヘルベルトの血走った目の方がよほどマーズを動揺させた。

「かすり傷だ……。だが、エインセル・ハンターを見つけた! 奴だ、奴がエインセル・ハンターだ!」

 マーズのインパルスにもマークされた敵機が表示される。それは何の変哲もないストライクダガーにすぎなかった。

「どうしてわかる?」

 この指摘はもっともなことだろう。しかし、そんなマーズの声がヘルベルトに冷静さを取り戻させることはなかった。

「こんなドンパチやってる最中にこそこそしてる奴がほかにいるか? みんな、よく聞け! エインセル・ハンターは奴だ! 手柄をあげたければ今しかねえぞ!」

 飛び出していくヘルベルト機に、マーズはすぐについて行くことはできなかった。
 だが、ヘルベルトの言い分もまったく見当はずれとも言い切れなかった。そのストライクダガーはこの戦場のまっただ中にいるにも関わらずまるで攻撃に参加することなく、まるで周囲を気にした様子もなくある場所を目指していた。
 海に浮かぶコンテナ、魔王の棺へと向かっていたのだ。その様は、ある種の風格さえ漂わせていた。
 ひょっとすると本物かもしれない。そう、マーズもまた考えたのも当然のことかもしれない。他にも大勢いたのだ。ヘルベルトに焚きつけられるまま奴を本物と認定した者が大勢。
 混沌としていた戦場に、突如流れが生み出された。棺へと向かうストライクダガーへとザフト機のビームが集中し、地球軍機が撃ち返す。その様は、大輪の花が咲き乱れたかのようである。
 悪魔が人の血と死で咲かせた花の中、生まれた秩序のもと、人と人とが殺し合う。
 無理に突撃したヅダのブレイズ・ウィザードを敵とも味方からともわからなうビームが命中すると、もとより捨て身の速度であったヅダは体勢を立て直すこともできないまま海へと墜落する。
 ビームを放っていたストライクダガーは接近してくるヅダを捉えることができなかった。ビーム・アックスを肩深くに突き立てられる。同時に、ヅダ自身、自らの速度を抑えることができない。両機は激突し一塊となって海へと墜落する。
 海面に漂う棺。その周囲には瞬く間に残骸が浮かび、流れ出した機械油は血であり海を燃え上がらせた。
 そして、例のストラクダガーは棺の上に降り立っていた。攻撃することもない。逃れることもない。地獄のような情景の中、人々の断末魔を耳に魔王はまどろんでいた。
 ヘルベルトもまた、その叫びを魔王へと捧げていた。

「エインセル! ハンターぁぁぁぁぁ!」

 インパルスガンダムがただ棺へと急降下する。すでに全身に被弾しはがれ落ちた装甲からはフレームが剥き出しとなっていた。飛来したビームが顔面に命中すると顔面の皮を剥がされた亡者の様相を呈する。ヘルベルトもまた、血走った眼のまま声ともならない声で叫び続けていた。
 もはや、魔王を討ち果たさんとする騎士の姿はない。
 憎悪と妄執に突き動かされるインパルスはわずかに原形をとどめる右腕をつきだし、悪魔の喉元へと落ちていく。

「貴様がぁぁぁぁぁ!」

 もはや特攻である。その腕に武器はなく、折れたマニュピレーター、こぼれ落ちる潤滑油、人の形を模したモビル・スーツの腕とは思えない異形が魔王をくびり殺さんとする。
 その歪んだ願いは叶えられたことだろう。魔王と亡者の間に、青薔薇の翼を持つ魔王の眷属が割り込まなかったなら。
 ファントムペインに所属するディーヴィエイトが、その傷だらけの体を割り込ませたことで、インパルスガンダムはなすすべなく激突する。すでにフェイズシフト・アーマーがどれほど機能しているのか疑わしい2機は激突とともに破片をまき散らし一瞬のうちに巨大な爆発に包まれた。
 その爆煙は棺を包み隠す。
 戦場の風に吹き流され、視界が徐々に取り戻されていく。魔王の棺がその姿を再び露わにしていく。その時、誰もが気づいた。棺の上に、件のストライクダガーがひざまずいているのだと。
 忠誠か、祈りか、あるいはもはや立つことさえかなわぬ死に体か。そのどれとも思わせる。
 悪魔は事前に通告するほどの礼儀をわきまえてはいなかった。それは突然で唐突で、突如としておきた。
 ひざまずくストライクダガー、その背中から光の翼が生えたのだ。しかし、人々はすぐに気づいた。それは翼のような優雅でもなければ情緒的なものではないことを。それが、単なる致命的なビームの輝きにすぎないのだと。棺から飛び出たビーム・サーベルがストライクダガーの胸を貫き背中から飛び出しているにすぎないのだと。
 しかし、頭ではそうと理解しながらも人々は恐れずにはいられなかった。魔王の棺に捧げられた人の形、その中から何かが這い出てこようとしている。輝く何かが脱皮しようとしている。人を内側から食い破り、何かが生まれ出ようとしているのだと。
 再び背中から翼が生え、人の皮が一気に引き裂かれる。ストライクダガーが熱量に耐えきれずに爆発したのだ。その爆煙が、内側から吹き飛ばされる光景はミノフスキー・クラフトによる斥力によるものだと誰もが理解しながらも、超自然的な力の発露を目撃したかのような錯覚にさえとらわれた。
 棺に封じられていた魔王が人に憑依し、人を中から食らいつくし生まれ出た。
 世界が闇に包まれる。無論、太陽は健在である。日中の日差しは変わらず降り注いでいる。しかし、人々は太陽の存在を忘れてしまった。ただ目の前に黄金の輝きがあったからだ。
 それは人の形をしながら、しかし巨大であって、洗練された造形を有していた。人は神を模して創られた。だが、これは人ではない。人ではなく、しかし人の姿をしている。では、これは神なのだろうか。そんなはずはない。
 万物の造物主である太陽。それは同じく黄金の輝きを放つ。
 人を創りし神。決して人でないそれはその似姿をしている。
 だがそれは神ではない。神であってはならない。では何か。
 かつて、自らを偽り創造主へと反逆した天使は明けの明星。夜空においては太陽のように振る舞い輝くが、夜明けとともに太陽の威光にかき消される定めにある。そして、それは太陽のごとき輝きを放ちながら太陽ではなく、人の姿をしようとも人ではない。ましてや、神であるはずもない。
 故に魔王。黄金の魔王の再誕であった。




 戦場の空気が一変した。
 ただ1機、たった1機のモビル・スーツが現れた、ただそれだけのことで。ZZZ-X300AAフォイエリヒガンダム。エインセル・ハンターの専用機は25m、通常の1.5倍ほどもある大型機であり、その全身を黄金の輝きに包み込まれていた。
 何ともふざけた色である。いくら隠密性が事実上、放棄されている昨今のモビル・スーツとは言えここまで目立つ色をした機体はそうは存在しない。事実、その姿にこの戦場の誰もが心を奪われていた。
 誰も戦闘などしていない。敵機のすぐ隣で無防備な隙をさらすことさえいとわず、ただフォイエリヒを眺めているだけの者も少なくない。ここがついさきほどまでビームが絶え間なく飛び交う大混戦だったと言われて素直に信じることのできる者はすくないのではないだろうか。
 シン・アスカもまた、操縦を忘れてただ見つめ続けていた。

「これがフォイエリヒ……、これが、エインセル・ハンター……」

 シンは一度、フォイエリヒとの交戦経験があった。しかし、今、モニターに映る黄金のガンダムからは以前とは比べものにならないほどのプレッシャーを覚えていた。
 見ほれているのではない。見とれているのでもない。ではなぜ目を離すことができないのか、シンは自分の腕が小刻みに震えていることに気づいたことであまりに簡単に判明する。
 恐怖だ。
 怖くてたまらず、目を離すことができないのだ。多くの兵士が訓練を経て、戦場の空気を感じ取ることで自然と培われる戦士としての勘がこのガンダムを危険な相手と認識していた。
 シン自身、すでに腕の震えに現れている。本当なら逃げ出してしまいたい、そんな感覚さえ芽生えていたかもしれない。
 もはや時間の問題だったのだろう。誰か1人が恐怖に負ければ止まった時は一気に動き出す。
 それはすぐに訪れた。
 ザフト兵の1人が緊張に耐えきれずビーム・ライフルの引き金を引いた。ビームの線条がフォイエリヒを目指し、黄金のガンダムは身じろぎ一つなくそのビームを弾く。
 その黄金の装甲を焦がすことさえできなかった。しかし、一度動き出した戦いは止めることができない。戦場は瞬く間に混戦状態へと立ち返った。
 魔王を殺すため、魔王を守るため、両軍が魔王と中心として戦いの坩堝にたたき込まれた。
 黄金の魔王を中心とした戦いのさなか、シンは思うように動くことができなかった。またたく間に再発した混戦に巻き込まれ願う方向に進むことができないのである。
 しかし、ただそれだけではないのかもしれない。シンは、体が震えていると自覚し始めていた。フォイエリヒはただでさえ25mと大型の機体である。しかし、その大きさ以上のプレッシャーがシンに重圧をかけていたのである。それでも、シンは魔王の元へと混迷の空を進んでいた。
 進む理由も曖昧なまま、強大な敵に対する恐怖を明確に覚えながらも。
 エインセル・ハンターの存在は戦場を浸食している。ザフト兵の多くはただエインセル・ハンターに気を取られ多数展開している地球軍への注意が散漫になりつつあった。そのため、明らかに被弾率が上昇している。このままでは長い時間をかけることなくザフトは徹底を余儀なくされることだろう。
 しかし、それでもザフトは戦い方を変えることができない。ただの一撃、エインセル・ハンターの命を奪うことさえできたならすべてが終わる。守りに入るよりも先に攻撃に専念するしかない。そんな焦りにただ突き動かされていた。
 地球軍モビル・スーツが狙っている。しかし、フォイエリヒを射線上に捉えた。よってそのザフト兵は攻撃することを選択し、その直後、ビームによって1機のヅダが撃ち抜かれた。そうして放ったビームさえ、フォイエリヒの黄金の装甲はただ弾いてしまう。
 いくつもの無謀の果て、ザフト軍は射撃の無為を悟る。フォイエリヒはビームでは貫けない。ならば簡単なことである。ビームではなく物理的な破壊を加えればよい。ただそれだけなのだ。
 数機のヅダが接近戦を仕掛けた。衝突、体当たり、何らかの質量攻撃を加えることができたなら魔王を倒すことができる。地球側のビームに撃墜されてしまったモビル・スーツがいる。しかし、くぐり抜けることのできた機体もまたあった。ビームを弾く装甲、魔王の不死を演出するもそれは単なる偽りにすぎない。ビームを発振していないビーム・アックスを振りかざし突撃するヅダたちによって、黄金の幻想はたやすくかき消える。
 黄金の盾の後ろに隠れた魔王の実態、それはやはり偽りだった。ザフトが想定していた以上の怪物であったからだ。両手足、バックパックの4本のアーム、そのすべてから発振される合計8本もの大型ビーム・サーベルが一斉に展開した。
 斧構える一つ目の巨人たちは、一瞬にして切り裂かれた。誰も、彼らがどのように撃墜されたのか理解できない。ただ、フォイエリヒがまばゆく輝いたかと思うと切断されたヅダが次の瞬間には爆発していた。
 そして、黄金の魔王は無傷の姿を猊下に示す。
 かつての戦いではそんなこと、感じたことなどなかった。しかし、シンは確かに感じていた。プラントからは魔王と恐れ蔑まれ、ブルー・コスモスからは青薔薇の王と称えられる男、その存在を。




 戦い、生と死。そのすべてがエインセル・ハンターを中心として動いていた。生きている者は、ある者はエインセル・ハンターを守るために戦い、またある者はエインセル・ハンターを殺害するために戦っている。そして、エインセル・ハンターのため、エインセル・ハンターのせいで死んでいく。
 ここにも1人、エインセル・ハンターに狂った男がいた。

「ミネルヴァ、こちらマーズだ。アリスを発動させろ! 奴を一気に片づける!」

 戦友を失ったこの男は、明らかに冷静さを欠いていた。この通信を受けたミネルヴァのブリッジでは、オペレーターたちがただならぬ様子に動揺していた。本来ならば通信を担当するはずのクルーが思わず言葉を失っているため、タリア・グラディスが変わりに返答する他なかった。
 タリアはためらいを見せながらも普段通り、はっきりとした口調で応じた。

「まだあなた方とデュプレ、アスカ両名とのリンクが完了していません。アリスが連携を前提としたシステムである以上、システムの発動は事実上不可能です」
「ボパールから今まで何してた!? まあ、いい。それなら俺だけで行く。発動させろ!」

 タリアが考えあぐねている間、システムを担当するクルーは落ち着かない様子で艦長席の方を見やっていた。
 何が切っ掛けだったのかはわからない。しかし、タリアは拍子抜けするほどあっさりと指示を出した。

「許可します」

 もはやクルーにためらいはなかった。癖としてマイクを手で直すと、マーズへと通信を返す。

「アリス、発動します」
「おう!」

 そして、アリスが発動した。マーズは極度の集中状態に陥るとともに、まるで夢の中に放り込まれてしまったかのように意識を残しながら現実感を消失させていく。マーズ機は搭載されるアリスによって敵、フォイエリヒガンダムを分析、把握し、撃墜するための最適解を構築、それをマーズの脳裏に投影することで描いた情報そのままに機体を動かさせようとする。
 その結果、フォイエリヒへと向かっていたマーズ機は戦場のただ中であるにも関わらず、ダーダネルス海峡、その海の上空でその動きを止めた。
 無論、あまりに無防備なマーズ機がこのような混戦状態で無事でいられるはずがなかった。周囲から次々とビームが命中し、鳥についばまれた屍のような無残な姿となり爆発する。




 マーズ機の明らかに異常な挙動を、シンは確かに目にした。それはヴィーノもおなじだったようだ。

「おい、シン! 今の……、何だよ……!?」
「わかる訳ないだろ!」

 単なるパイロットにすぎないシンに原因などわかるはずもない。ただ、インパルスガンダム自体の不具合である可能性もあった。それがヴィーノを必要以上に混乱させたのかもしれない。
 ただでさえエインセル・ハンターによって戦場そのものが混乱させられている状況である。シン自身、すでに現状を把握しきれず混乱し始めていた。たえず機体を動かし、被弾を避けなければならない状況である。集中力の消耗がかつてないほどシンを、その他の多くのパイロットたちを苦しめていた。
 この戦いはどのような結果であれ長くは続かないことだろう。そう、誰もが理解していた。そして、誰もが察していた。魔王を倒すことはできだろうとも。
 だが、そんな時のことだった。
 シンは、突然、戦場の空白帯に入り込んだ。モニターには激しい戦闘が投影されている。まだ戦いは続いている。しかし、シンのインパルスの周囲に敵機の姿はなく、友軍機の姿もまたなかった。
 見ていると、友軍のヅダはこの空間に入り込もうとしている。しかしできない。敵のストライクダガーはどこか遠慮したかのように入ってこようとはしなかった。
 ここは謁見の間だと言えた。招待されない敵は力尽くで立ち入る他ない。臣下は主の許可なく立ち入ることはない。よって、ここには三種の者だけが存在しうる。招かれた客か、押し通った敵、そして、主たる魔王そのもの。
 そう、シンは思わず心臓を握られたかのような感覚を覚えた。左頬のアザがうずき思わず呼吸することを忘れる。その見開かれた双眸にはまばゆいほどの光が飛び込んでいた。 3年前、憎悪とともに見上げるしかできなかった黄金に輝く魔王の姿。それが、今はシンの目の前にいた。


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