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No.32266の一覧
[0] 機動戦士ガンダムSEED BlumenGarten(完結)[後藤正人](2023/10/28 22:20)
[1] 第1話「コズミック・イラ」[後藤正人](2012/10/12 23:49)
[2] 第2話「G.U.N.D.A.M」[後藤正人](2012/10/13 00:29)
[3] 第3話「赤い瞳の少女」[後藤正人](2012/10/14 00:33)
[4] 第4話「鋭き矛と堅牢な盾」[後藤正人](2012/10/14 00:46)
[5] 第5話「序曲」[後藤正人](2012/10/14 15:26)
[6] 第6話「重なる罪、届かぬ思い」[後藤正人](2012/10/14 15:43)
[7] 第7話「宴のあと」[後藤正人](2012/10/16 09:59)
[8] 第8話「Day After Armageddon」[後藤正人](2014/09/08 22:21)
[9] 第9話「それぞれにできること」[後藤正人](2012/10/17 00:49)
[10] 第10話「低軌道会戦」[後藤正人](2014/09/08 22:21)
[11] 第11話「乾いた大地に、星落ちて」[後藤正人](2012/10/19 00:50)
[12] 第12話「天上の歌姫」[後藤正人](2012/10/20 00:41)
[13] 第13話「王と花」[後藤正人](2012/10/20 22:02)
[14] 第14話「ヴァーリ」[後藤正人](2012/10/22 00:34)
[15] 第15話「災禍の胎動」[後藤正人](2014/09/08 22:20)
[16] 第16話「震える山」[後藤正人](2012/10/23 23:38)
[17] 第17話「月下の狂犬、砂漠の虎」[後藤正人](2014/09/08 22:19)
[18] 第18話「思いを繋げて」[後藤正人](2014/09/08 22:19)
[19] 第19話「舞い降りる悪夢」[後藤正人](2012/10/25 21:56)
[20] 第20話「ニコル」[後藤正人](2014/09/08 22:18)
[21] 第21話「逃れ得ぬ過去」[後藤正人](2012/10/30 22:54)
[22] 第22話「憎しみの連鎖」[後藤正人](2012/10/31 20:17)
[23] 第23話「海原を越えて」[後藤正人](2012/10/31 21:07)
[24] 第24話「ヤラファス祭」[後藤正人](2012/11/01 20:58)
[25] 第25話「別れと別離と」[後藤正人](2012/11/04 18:40)
[26] 第26話「勇敢なる蜉蝣」[後藤正人](2012/11/05 21:06)
[27] 第27話「プレア」[後藤正人](2014/09/08 22:16)
[28] 第28話「夜明けの黄昏」[後藤正人](2014/09/08 22:15)
[29] 第29話「創られた人のため」[後藤正人](2012/11/06 21:05)
[30] 第30話「凍土に青い薔薇が咲く」[後藤正人](2012/11/07 17:04)
[31] 第31話「大地が燃えて、人が死ぬ」[後藤正人](2012/11/10 00:52)
[32] 第32話「アルファにしてオメガ」[後藤正人](2012/11/17 00:34)
[33] 第33話「レコンキスタ」[後藤正人](2012/11/20 21:44)
[34] 第34話「オーブの落日」[後藤正人](2014/09/08 22:13)
[35] 第35話「故郷の空へ」[後藤正人](2012/11/26 22:38)
[36] 第36話「慟哭響く場所」[後藤正人](2012/12/01 22:30)
[37] 第37話「嵐の前に」[後藤正人](2012/12/05 23:06)
[38] 第38話「夢は踊り」[後藤正人](2014/09/08 22:12)
[39] 第39話「火はすべてを焼き尽くす」[後藤正人](2012/12/18 00:48)
[40] 第40話「血のバレンタイン」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[41] 第41話「あなたは生きるべき人だから」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[42] 第42話「アブラムシのカースト」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[43] 第43話「犠牲と対価」[後藤正人](2014/09/08 22:10)
[44] 第44話「ボアズ陥落」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[45] 第45話「たとえどんな明日が来るとして」[後藤正人](2013/04/11 11:16)
[46] 第46話「夢のような悪夢」[後藤正人](2013/04/11 11:54)
[47] 第47話「死神の饗宴」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[48] 第48話「魔王の世界」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[49] 第49話「それが胡蝶の夢だとて」[後藤正人](2014/09/08 22:07)
[50] 第50話「少女たちに花束を」[後藤正人](2014/09/08 22:07)
[51] 幕間「死が2人を分かつまで」[後藤正人](2013/04/11 22:36)
[52] ガンダムSEED BlumenGarten Destiny編[後藤正人](2014/09/08 22:05)
[53] 第1話「静かな戦争」[後藤正人](2014/09/08 22:01)
[54] 第2話「在外コーディネーター」[後藤正人](2014/05/04 20:56)
[55] 第3話「炎の記憶」[後藤正人](2014/09/08 22:01)
[56] 第4話「ミネルヴァ」[後藤正人](2014/06/02 00:49)
[57] 第5話「冬の始まり」[後藤正人](2014/06/16 00:33)
[58] 第6話「戦争の縮図」[後藤正人](2014/06/30 00:37)
[59] 第7話「星の落ちる夜」[後藤正人](2014/07/14 00:56)
[60] 第8話「世界が壊れ出す」[後藤正人](2014/07/27 23:46)
[61] 第9話「戦争と平和」[後藤正人](2014/08/18 01:13)
[62] 第10話「オーブ入港」[後藤正人](2014/09/08 00:20)
[63] 第11話「戦士たち」[後藤正人](2014/09/28 23:42)
[64] 第12話「天なる国」[後藤正人](2014/10/13 00:41)
[65] 第13話「ゲルテンリッター」[後藤正人](2014/10/27 00:56)
[66] 第14話「燃える海」[後藤正人](2014/11/24 01:20)
[67] 第15話「倒すべき敵」[後藤正人](2014/12/07 21:41)
[68] 第16話「魔王と呼ばれた男」[後藤正人](2015/01/01 20:11)
[69] 第17話「鋭い刃」[後藤正人](2016/10/12 22:41)
[70] 第18話「毒と鉄の森」[後藤正人](2016/10/30 15:14)
[71] 第19話「片角の魔女」[後藤正人](2016/11/04 23:47)
[72] 第20話「次の戦いのために」[後藤正人](2016/12/18 12:07)
[73] 第21話「愛国者」[後藤正人](2016/12/31 10:18)
[74] 第22話「花の約束」[小鳥 遊](2017/02/27 11:58)
[75] 第23話「ダーダネルス海峡にて」[後藤正人](2017/04/05 23:35)
[76] 第24話「黄衣の王」[後藤正人](2017/05/13 23:33)
[77] 第25話「かつて見上げた魔王を前に」[後藤正人](2017/05/30 23:21)
[78] 第26話「日の沈む先」[後藤正人](2017/06/02 20:44)
[79] 第27話「海原を抜けて」[後藤正人](2017/06/03 23:39)
[80] 第28話「闇のジェネラル」[後藤正人](2017/06/08 23:38)
[81] 第29話「エインセル・ハンター」[後藤正人](2017/06/20 23:24)
[82] 第30話「前夜」[後藤正人](2017/07/06 22:06)
[83] 第31話「自由と正義の名の下に」[後藤正人](2017/07/03 22:35)
[84] 第32話「戦いの空へ」[後藤正人](2017/07/21 21:34)
[85] 第33話「月に至りて」[後藤正人](2017/09/17 22:20)
[86] 第34話「始まりと終わりの集う場所」[後藤正人](2017/10/02 00:17)
[87] 第35話「今は亡き人のため」[後藤正人](2017/11/12 13:06)
[88] 第36話「光の翼の天使」[後藤正人](2018/05/26 00:09)
[89] 第37話「変わらぬ世界」[後藤正人](2018/06/23 00:03)
[90] 第38話「五日前」[後藤正人](2018/07/11 23:51)
[91] 第39話「今日と明日の狭間」[後藤正人](2018/10/09 22:13)
[92] 第40話「水晶の夜」[後藤正人](2019/06/25 23:49)
[93] 第41話「ヒトラーの尻尾」[後藤正人](2023/10/04 21:48)
[94] 第42話「生命の泉」[後藤正人](2023/10/04 23:54)
[95] 第43話「道」[後藤正人](2023/10/05 23:37)
[96] 第44話「神は我とともにあり」[後藤正人](2023/10/07 12:15)
[97] 第45話「王殺し」[後藤正人](2023/10/12 22:38)
[98] 第46話「名前も知らぬ人のため」[後藤正人](2023/10/14 18:54)
[99] 第47話「明日、生まれてくる子のために」[後藤正人](2023/10/14 18:56)
[100] 第48話「あなたを父と呼びたかった」[後藤正人](2023/10/21 09:09)
[101] 第49話「繋がる思い」[後藤正人](2023/10/21 09:10)
[102] 最終話「人として」[後藤正人](2023/10/28 22:14)
[103] あとがき[後藤正人](2023/10/28 22:17)
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[32266] 第8話「世界が壊れ出す」
Name: 後藤正人◆ced629ba ID:9ce9287d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/27 23:46
 フィンブルは小さな欠片を剥離させながら赤熱し、地球へと落下を続けていた。落ちていく星を背景に、3機のモビル・スーツがあった。切り裂かれた者と、切り裂いた者、そして、弟を想う姉。
 GAT-X137イクシードガンダム・バスターカスタムはビーム・サーベルの一太刀によって胴を切り裂かれていた。しかしうまく燃料に引火することを避けたのだろう。爆発することなく地球の重力に引かれて落ちていく。
 それが、ヒメノカリス・ホテルの希望を繋いでいた。
 ZZ-X300AAフォイエリヒガンダムは左腕をもがれながらもイクシードへと、弟の元へと進もうとしていた。そこに、ZGMF-42Sインパルスガンダムが立ちはだかる。イクシードを破壊した機体で、両手にビーム・サーベルを装備している。
 インパルスのコクピットにはシン・アスカが座っていた。生気をなくした目で、ただ機械的な動きで操縦を続けている。激昂しやすい普段のシンからは想像できない。
 フォイエリヒのコクピットではヒメノカリスが取り乱していた。

「邪魔を……、するなぁ!」

 フォイエリヒが腕の先に発生させた高出力ビーム・サーベルを振り下ろす。光の剣はインパルスの左手足をたやすく切り裂いた。
 しかし、これは焦りすぎていた。インパルスの間合い深くにまで入り込んだため、反撃される。インパルスは右手に残されたビーム・サーベルをフォイエリヒの左足のフレームへと突き立て、足を引きちぎる。
 それほどヒメノカリスは焦っていた。
 フォイエリヒのバック・パックのビーム・サーベルを叩きつける動きは暴れる子どもと変わらない。インパルスの右手足を破壊しつつも致命傷にはならず、ただ進路上から弾き飛ばすしかできない。
 今のヒメノカリスには敵機の撃墜はどうでもよかった。一刻も早くスティング・オークレーの元へとたどり着きたかった。傷だらけのイクシードの上半身が、断熱圧縮によって赤熱していた。フォイエリヒもまた火に包まれ、コクピットには警報音が鳴り響いている。
 フォイエリヒは黄金の手をイクシードへと伸ばし近づいていく。
 その時、ある努力が結実しようとしていた。
 スティングが命がけで守り抜いたメテオ・ブレイカー、それが小惑星の内部で最後の爆発を導いた。突如砕けた小惑星は周囲の塊と衝突を繰り返し大量の破片をまき散らす。
 ビームを弾くフォイエリヒの装甲は一般的なフェイズシフト・アーマーは採用されていない。まき散らされた破片はフォイエリヒの全身に突き刺さりその機動力を大きく削いでいく。もはやイクシードへと追いつくだけの力をなくしていた。
 砕け続けるフィンブルに引き裂かれ、姉弟は引き離されていく。

「スティング……、スティング……!」

 星は地球へと落ちていく。




 シンの意識が覚醒したのは直後のことだった。覚醒したとは正確でないかもしれない。意識はあった。しかしまるで夢でも見ているように当事者意識が欠如し、シンは訳も分からず敵のガンダムを撃墜していた。
 そして、目覚めてみるとコクピットではアラームが鳴り続けている。無理もない。シンのインパルスは両手足を失い、大気圏降下の最中なのだから。

「くそ、メイン・スラスターもアポジ・モーターもやられてる!」

 推進力を担う機器が使用できなくなっていた。このままでは燃え尽きる危険さえあった。せめてドッキングを解除すれば戦闘機として飛行は可能になる。問題は、コクピットを持つ戦闘機にフェイズシフト・アーマーが搭載されていないことだった。
 シンは覚悟を決める必要があった。ドッキング解除用のレバーを握り、決意を再確認するために深呼吸をする。
 その時、突然女性の声がした。通信機から聞こえてきたのは、少女のような声だった。

「そこのインパルスのパイロット、ドッキングを解くなです!」
「女の子……?」

 シン自身、まだ16だが、子どもの声には違和感を覚えた。
 通信の相手はすぐにインパルスのモニターに映り込んだ。
 見たことのないガンダム・タイプだった。青と白を基調とした機体で、印象は映画「自由と正義の名の下に」の主役のアスラン・ザラが搭乗していたZGMFーX10Aフリーダムガンダムに似ている。この機体も剣のように鋭い翼を何対も持っていた。
 次に聞こえてきた声は凛とした雰囲気を持つ若い男の声だった。

「聞こえるか? 幸いフェイズシフト・アーマーは機能している。十分に減速するまでこちらで支える。ドッキングは解かない方がいい」
「り、了解です……!」

 モニターは繋がっていないのに、シンはつい敬礼してしまう。
 翼のガンダムがインパルスを後ろから抱えるように保持したこと姿勢が安定する。
 シンにとって数年ぶりの帰郷は、世界を破壊する災いとともにあった。




 フィンブルは大小9つの破片となって地球へと降り注いだ。多少なりとも破砕されたことで燃え尽きた破片も多く、最終的に予測された被害を大幅に下回ることができた。
 しかし、フィンブルは大平洋西岸からインド洋にかけての広い地域に落着。4つの国と地域に渡って多大な被害をもたらした。ユーラシア連邦、赤道同盟、東アジア共和国。そしてオーブ。
 ザフト軍の露骨な妨害工作は地球の反プラント感情をさらに悪化させ、プラントは一切の保証に応じる姿勢を見せなかった。
 これで終わったとは誰も考えていない。
 フィンブルとは、スカンジナビア王国に古くから伝わる神話に由来する冬の名である。フィンブルには三つの冬がある。第一の冬である嵐の冬では、大災害が人々を苦しめる。続く第二の冬は、人々が殺し合う剣の冬。
 この命名は、ユニウス・セブン休戦条約をとりまとめたリンデマン事務次官その人によってなされた。しかしそれが、今後の推移を見透かした上での命名か、あるいは単なる偶然か、リンデマン事務次官の口からは語られていない。




 4年前、プラントが大量破壊兵器ジェネシスによって地球全土を焼き払おうとした事実は地球各国に衝撃を与えた。この戦争は大西洋連邦が引き起こしたものであり、我々には関係ないと突き放していた中立勢力の判断の妥当性が大いに揺らいだからである。
 各国は高まる反プラント感情を受け止める形で他国との軍事的協力関係を深め、それは地球規模の軍事同盟として結実する。世界安全保障機構。プラントという共通の脅威に対抗すべく8つの国と地域によって結成されている軍事協力体である。
 参加国は反プラントを明確にしている7カ国が名前を連ね、唯一の例外はユニウス・セブン休戦条約の仲介にあたったスカンジナビア王国である。
 中立を表明しているオーブ首長国、また、比較的プラントへのシンパが多いとされる汎ムスリム同盟、アフリカ共同体の3カ国がこの椅子を並べてはいない。
 会場には各国が平等であることを示す円卓が置かれ、壁には参加各国の国旗とともに世界地図がかけられている。会議には各国の代表が参加し、議題はわかりきっていた。
 現在、1人の代表が発言に立っていた。
 立ち上がり熱弁を振るうのは赤道同盟代表ソル・リューネ・ランジュ。まだ30になった程度の若者であり、赤道同盟内で確たる影響力を有するロゴス・グループの御曹司である。着こなすスーツと短くそろえられた髪は上品さを印象づけるが、それは同時にソル代表の若さを強調してもいた。

「我が国はエイプリルフール・クライシスでカオシュン国際空港を失い、フィンブル落着では多くの民が苦しんでいる。プラントの行動は許しがたい。このことに異論を挟む者はいないだろう」

 各国の代表は静かに若き代表の言葉に聞き入っていた。

「東アジア共和国をはじめ、オーブ首長国、ユーラシア連邦、我が赤道同盟を中心として甚大な被害が生じている。死者行方不明者合わせて30万を超える。未曾有、プラントとの戦端が開かれて以来この言葉は聞き飽きたかもしれないが、それほどの被害が生じている」

 エイプリルフール・クライシスでは約10億の人命が失われた。
 ソル代表の鼻息は荒い。

「プラントは地球のことなど何とも思っていないのだ。もはや残された道は一つしかない。戦争だ!」

 しかしいざソル代表が戦争という言葉を口にした途端、各国の反応は分かれた。フィンブル落着一つとっても各国の状況は異なる。
 ソル代表が煮え切らない様子で着席すると、続いて発言した国は東アジア共和国であった。禿頭の初老の男性で、ラリー・ウィリアムズ首相である。どっしりと腰掛けたまま、その姿勢の通り一歩身を引いた発言となった。

「まずは被災地への救援と復興が肝要ではありませんかな?」

 自国もまたフィンブルによる被害を受け、国力も潤沢でない東アジア共和国らしい発言であった。
 しかし、この意見は南アメリカ合衆国代表にはお気に召さなかったらしい。野太い声で皮肉があった。

「そうしている内に今度はプレア・ニコル・キャンセラーとやらでも落とされるやもしれませんな」

 また原子力発電が封じられれば世界は今度こそ立ち直れないほどの打撃を受ける。
 この指摘はエドモンド・デュクロ准将である。礼装が似合わないほど無骨な顔に、隠しきれない屈強の肉体を持つ。ウィリアムズ首相が鋭い視線で睨みつけるも、意に介した様子を見せず剛毅な笑みを絶やさない。
 結局、各国は腹のさぐり合いをしているばかりで会議は進展する様子を見せない。この様子を、世界最大の国家である大西洋連邦代表ジョセフ・コープランド大統領は凡庸な印象ながら動じることのない態度で見守っていた。記者会見でフィンブル落着を世界に知らしめた時と何も変わっていない。
 コープランド大統領の発言もまた、何でもないようでありながら、しかし確かな意味を持っていた。

「どう対処するにしろ、プラントは地球にとって脅威に他ならない。それだけは忘れてはなりません」

 プラントへの抵抗の構えを崩すことは許さない。この静かな恫喝は厭戦派の国々を揺さぶることとなる。
 参加国は8カ国。しかし、9人目の人物がいた。世界地図を背にしていることで、その男性が国の代表ではないとわかる。色素の薄い髪と肌。ベージュ色をしたスーツが男の細面と相まって弱ながら紳士的な印象を演出している。
 コープランド大統領はその男へと問いかけた。

「ブルー・コスモスとしては、どうされるおつもりですか?」

 現ブルー・コスモス代表、ロード・ジブリールへと。
 ロード代表はネクタイを直す、そんなありふれた動作から話を始めた。

「休戦条約からわずか3年。宇宙戦力は再編が不完全であり、プラントと正面から戦う力は十分とは言えません。復興をしつつ、プラントの様子に目を光らせておくべきでしょう」

 冷静で、正しく、しかしどこか物足りない。かつての代表、3人のムルタ・アズラエルと比べてジブリール代表をそう評する者も少なくない。
 南アメリカ合衆国代表エドモンド将軍は大仰なほどに嘆いてみせた。

「何と弱気な。エインセル・ハンター殿が代表を務めていた折りには、かような発言が聞かれることなどなかった」
「ブルー・コスモスとは元来NGOにすぎません。私としては環境保護団体としての本来のブルー・コスモスの周知を望んでいるのです」

 フィンブル落着に際して開かれた特別会議は、事実上各国代表の顔見せに終わった。
 地球の総意は決して一枚岩ではない。大西洋連邦、ユーラシア連邦、南アメリカ合衆国は徹底抗戦を主張するが、フィンブル落着の被害激しい地区は割れている。赤道同盟は抗戦派であるが、東アジア共和国は現状維持の弱腰の姿勢が透けて見える。残りの南アフリカ統一機構、大洋州連合の姿勢は東アジア共和国に近い。
 結果、中立であるスカンジナビア王国を除いた国々の反応は抗戦派と現状維持派とで4対3と半分に割れていた。
 この状態は1国でも主張を変えればたやすく情勢が定まる危うい数である。では、スカンジナビア王国はどのような反応を示すのか。各国を代表する7名の視線が自然と円卓の一角へと集中していく。
 それを待ちかまえていたように、スカンジナビア王国代表、マリア・リンデマン事務次官がその静かな物腰を保ったまま、その眼差しを瞬かせる。宗教上の理由からブルカを被り、その全身の内、瞳しか露わとされているところはない。まだ若く、そして王女でもあるこの女性は、静かな声で話し出す。

「地球は大変な被害に見舞われました。戦線拡大は地球にさらなる損害を与えかねません。こんな時こそ、私は引き締めが必要と考えます。ユニウス・セブン休戦条役は守られなければなりません」

 単に条約の仲介国としてユニウス・セブン休戦条約の形骸化を警戒しているだけなのだろうか。事実、モビル・スーツの開発数などすでにその効力を疑問視する向きがある。
 だが、単に自身の功績に拘泥しているだけにしては、マリアの眼差しは確かな光をたたえている。物怖じせず、どのような反論さえ受け入れる構えを見せていた。
 このマリア・リンデマンこそが、リンデマン・プランと呼ばれることもあるユニウス・セブン休戦条約の起草者である。




 赤道同盟、旧ベトナム地区ソンミ市。
 フィンブルの落着の被害が最も大きな場所の1つである。元々大きな街ではなかったが、中央に欠片が落下した。高層ビルが数基に渡ってなぎ倒され現在判明した死者だけで5000、行方不明者はその10倍に達するとする意見も悲観的な見方ではない。
 瓦礫の山の中、中腹で胴裂きにされたビルの亡骸が冷たい雨に打たれていた。雨粒は瓦礫を濡らし、人の死を嘆く涙のように滴となって落ちる。
 人々は郊外に張られたいくつもの簡易テントの下で雨をしのいでいた。避難民たちが狭いテントの中で肩を寄せ合っていた。
 そんな中にあって、その声は風のように人々の間を吹き抜けた。

「痛くなったらすぐに言ってください。包帯を取り替えましょう」

 それは青年であった。丁寧な手つきで幼い少女の手に包帯を巻いている。身を包む純白のスーツは袖口が血に汚れ、背中は水に塗れていた。高級スーツを汚すことを厭わないほど、この青年が多くのテントを周り、怪我人の応急手当に当たっていたことを物語っている。
 少女は遠慮がちにお礼を述べた。

「うん……、ありがとう、お兄さん」

 少女の屈託のない微笑みに、青年は微笑み返す。
 雲に遮られたわずかな光にさえ、その黄金の髪は豊かな光沢を放つ。その肌は透き通るような白であり、瞳は澄んだ青。その微笑みは描かれた絵画のように完成されていた。
 成年は少女の額を優しく撫でると、テントの外へと歩き出す。いつの間にか、雨は上がっていた。夕日が瓦礫の山と化した街を赤く染めていた。昼に流された血は雨にも流されることなく街に染み着いたように。
 破壊されし尽くした街は、テントが張られた郊外の丘からはよく見えた。その場所で、青年は街を見下ろしていた。微笑みを絶やすことなく、しかしその青い瞳は少女に向けられていたものとは明らかに違う色をたたえている。
 そんな青年の元へと、女性が歩み寄った。スーツ姿で、眼鏡がよく似合う女性だった。

「各隊攻撃準備、整ったとのことです。ザフトの降下部隊を捕捉したと」
「ではメリオル、攻撃を始めてください。今の私は、一滴でも多くの血が見たい」

 女性は頭を下げ、青年の名前を呼んだ。
 エインセル・ハンターと。




 不気味なほどの静謐さが空間を占有し、金属の板が張り付けられた壁と床は時折冷たく鳴った。モビル・スーツが左右に並ぶ格納庫の中、居並ぶ人々は誰1人として声を発しようとしない。
 並ぶ機体はZGMF-23Sセイバーガンダムですべて統一されている。ザフト軍が有するもう一つのガンダム・タイプ、可変機構を有する強襲機である。
 全身を赤く染め上げ、バック・パックには長大な銃身を1対背負う。銃身には大型の可変ウイングが取り付けられていた。素早さと力強さを兼ね備えるような機体である。
 やがて、格納庫を見下ろすキャット・ウォークに黒い軍服を身につけたザフト軍兵士が姿を見せる。右手を高く上げ、その声を張り上げた。

「我々は危険な降下をくぐり抜け、敵の懐奥深くに潜むことに成功した! これはまさに天恵と言わざるを得ない。世界は我々による変革を期待しているのだ!」

 ここは地球である。誰も知らぬ海の中なのだ。
 ザフト軍はフィンブル落着の混乱に乗じる形で、多数のボズゴロフ級潜水母艦を地球へと降下させた。悲劇の裏側で、戦いの準備を着々と進めていたのである。
 演説する男の鼻息は荒い。

「デュランダル閣下は言われた。正義は我らにあるのだと! 我らコーディネーターこそが唯一世界に正しき未来をもたらすことができるのだ!」

 格納庫に並ぶ整備兵、パイロットたちが厳粛な様子で演説に聴き入っている。
 その静寂が、突如として破られた。
 格納庫全体を大きな揺れが襲う。演説者はキャット・ウォークの手すりに掴まり、耐えなければならなかった。
 格納庫の天井が裂け、膨大な水が文字通り堰を切ったように流れ込み始めた。水が人々を押し流し、格納庫は瞬く間に荒れた海の様相を呈する。
 水が柱となって一際勢いよく流れ込む。その水は輝く眼を持っていた。深海の暗い水が悪意を持って動き出したような深い青をした巨人が柱の中にいる。
 水柱を突き破り、三叉戟がセイバーガンダムへと突き刺さった。そのまま三叉戟が横に振るわれ、セイバーが引きずり倒される。その深紅の機体は水に浮かぶザフト兵の上へと倒れ込む。
 降り注ぐ水の中から、それは現れた。全身を青く染めたガンダムだった。GAT-252インテンセティガンダムは、甲殻類を思わせるバック・パックで頭部を覆い隠すと、口を思わせる部分にビーム砲の銃口が開いている。
 荒波に翻弄され続けるザフト兵たちは資材に掴まるなどして辛うじて浮かんでいた。その目は見開かれ、青いガンダムを見上げている。フィンブル落着に便乗し地球降下を果たした喜びを一瞬で奪い去ったモビル・スーツは紋章が描かれていた。
 アームで連結されたシールドに描かれた青い薔薇。その意味をザフト兵ならば誰でも知っている。ブルー・コスモスのかつての代表、エインセル・ハンターが地球各国に私兵として所有する特殊部隊、ファントム・ペインであることを示す紋章であるからだ。
 インテンセティガンダムのビーム砲、その発射口が熱を帯び始める。それは格納庫からブリッジの側へ、演説者の立つキャット・ウォークへと狙いが定められていた。
 演説者は手すりに掴まったまま、その口を震わせていた。

「私の部隊が……、馬鹿な、そんな馬鹿な……」

 コーディネーター排斥を謳うブルー・コスモスの力そのものを担うファントム・ペインのガンダムは、エインセル・ハンターの意志を体現する。
 血には血を。
 青い薔薇を掲げるインテンセティの放ったビームが、強烈な輝きでもって演説者を包み込んだ。




 シンの乗る戦闘機は無事、ミネルヴァと合流することができた。事実上、撃墜されたも同然とは言え、以前コロニーに奇襲を仕掛けた時と比べればずいぶん落ち着いた帰還だった。
 風防を開き、整備士がかけてくれた梯子を頼りに床に降りた。久しぶりの重力に思わず膝が折れたところを、シンは何とか踏みとどまる。
 出迎えたのは、シンにとって意外な人物だった。よくも悪くも軽い調子の少年、ヴィーノ・デュプレだった。
 フィンブルなんて落とせばいい。そんなことを言っていた少年に対して、シンは皮肉の一つでも言ってやるつもりでいた。しかし、その顔を見た途端、シンは思わず戸惑ってしまう。
 ヴィーノは沈んだ顔をしていた。

「あのさ、シンは地球出身なんだろ? やっぱ、地球に友達とかいたりした……?」
「ああ……、もう連絡もとってないけど、オーブにいるはずだ……」
「悪かったよ……、その……、落とせばいいなんて言ってさ……」

 どうしてこんなことを聞いてくるのか、そんなシンの疑問に答えることもなく、ヴィーノは走って行ってしまった。
 1人残されたシンの元に、今度こそ予測した人物が訪れた。ルナマリア・ホークがシンのことを呼びながら駆け寄ってきた。

「シン、無事だったのね?」
「ああ、なんとか……。それより、あいつ、どうしたんだ?」

 走り去るヴィーノの背中はまだ見えていた。
 聞かれると、ルナマリアもまた先程のヴィーノと同じような顔をする。

「バレル隊長は大丈夫なんだけど、他の人たち、みんな戦死したの……」

 シンは思わず首を回した。フィンブル破砕活動阻止前まで8機のモビル・スーツが並んでいたはずが、今ではちょうど半分に減っていた。戦死したパイロットの中にはヴィーノの友人も含まれていたのだろうと、ようやくシンは納得することができた。

「そっか……、あいつ……。でも、何があったんだ? 一度の出撃で損耗率5割なんて外人部隊だってそうそうないだろ」
「あの黄金のガンダムにみんなやられたって。それに……、ねえ、シン、戦闘中、おかしなことなかった?」

 心当たりは、シンにもすぐに思い当たった。戦闘中、当事者意識が喪失して、まるで夢でも見ているような感覚に襲われたことだった。

「ああ。妙な感覚があった。たしか……」

 シンの言葉は途中で止まってしまう。格納庫を揺らす足音が聞こえたからだ。シンを助けた青い翼のガンダムが整備士の誘導に従いレイ・ザ・バレル隊長のガンダム、ZGMF-X17Sガンダムローゼンクリスタルの横に並んだ。
 ルナマリアがシンのノーマル・スーツの袖を引いた。

「ねえ、フリーダムガンダムに似てるみたいだけど、あれ何?」
「いや、俺も知らないけど……。ただ、俺を助けてくれたガンダムなんだ」

 青いガンダムがとまると、コクピット・ハッチはすぐに開かれた。赤いノーマル・スーツを来たパイロットがハッチ備え付けの乗降用ロープに足をかけ、ゆっくりと降りてきた。そのノーマル・スーツの胸元には、当然のように翼を模した紋章があった。シンたちの隊長であるバレル隊長と同じく議長直属の正規兵、フェイスの証である。
 フェイスのパイロットはシンの方へと落ち着いた足取りで歩いてくる。

「君だな、無茶なインパルスのパイロットは」

 覇気を感じさせるほど声は力強い。ヘルメットを脱ぐと、シンが思っていたよりも若い。シンよりも年上であることは確かだが、まだ20歳にもなっていない印象だった。敬礼の仕方一つとっても堂に入っている。
 シンはつい慌てた様子になりながらも敬礼を返す。

「危ないところをありがとうございました。俺はシン・アスカ……」

 シンの声を、ルナマリアが突然遮った。

「アスラン! アスラン・ザラさん、ですよね!?」

 ミーハーな少女は目を輝かせていた。こんな同僚の様子に、シンは改めて相手の顔を見た。
 アスラン・ザラ。ザフト軍最強のエースで、映画「自由と正義の名の下に」の主人公のモデルとなった人物。ザフト軍どころか、プラント国民で知らない者はいないことだろう。
 そんな歴戦の戦士はルナマリアの勢いにさえ動じることなく、平静とその名乗りを上げた。

「ああ、俺はアスラン・ザラだ」


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