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No.32266の一覧
[0] 機動戦士ガンダムSEED BlumenGarten(完結)[後藤正人](2023/10/28 22:20)
[1] 第1話「コズミック・イラ」[後藤正人](2012/10/12 23:49)
[2] 第2話「G.U.N.D.A.M」[後藤正人](2012/10/13 00:29)
[3] 第3話「赤い瞳の少女」[後藤正人](2012/10/14 00:33)
[4] 第4話「鋭き矛と堅牢な盾」[後藤正人](2012/10/14 00:46)
[5] 第5話「序曲」[後藤正人](2012/10/14 15:26)
[6] 第6話「重なる罪、届かぬ思い」[後藤正人](2012/10/14 15:43)
[7] 第7話「宴のあと」[後藤正人](2012/10/16 09:59)
[8] 第8話「Day After Armageddon」[後藤正人](2014/09/08 22:21)
[9] 第9話「それぞれにできること」[後藤正人](2012/10/17 00:49)
[10] 第10話「低軌道会戦」[後藤正人](2014/09/08 22:21)
[11] 第11話「乾いた大地に、星落ちて」[後藤正人](2012/10/19 00:50)
[12] 第12話「天上の歌姫」[後藤正人](2012/10/20 00:41)
[13] 第13話「王と花」[後藤正人](2012/10/20 22:02)
[14] 第14話「ヴァーリ」[後藤正人](2012/10/22 00:34)
[15] 第15話「災禍の胎動」[後藤正人](2014/09/08 22:20)
[16] 第16話「震える山」[後藤正人](2012/10/23 23:38)
[17] 第17話「月下の狂犬、砂漠の虎」[後藤正人](2014/09/08 22:19)
[18] 第18話「思いを繋げて」[後藤正人](2014/09/08 22:19)
[19] 第19話「舞い降りる悪夢」[後藤正人](2012/10/25 21:56)
[20] 第20話「ニコル」[後藤正人](2014/09/08 22:18)
[21] 第21話「逃れ得ぬ過去」[後藤正人](2012/10/30 22:54)
[22] 第22話「憎しみの連鎖」[後藤正人](2012/10/31 20:17)
[23] 第23話「海原を越えて」[後藤正人](2012/10/31 21:07)
[24] 第24話「ヤラファス祭」[後藤正人](2012/11/01 20:58)
[25] 第25話「別れと別離と」[後藤正人](2012/11/04 18:40)
[26] 第26話「勇敢なる蜉蝣」[後藤正人](2012/11/05 21:06)
[27] 第27話「プレア」[後藤正人](2014/09/08 22:16)
[28] 第28話「夜明けの黄昏」[後藤正人](2014/09/08 22:15)
[29] 第29話「創られた人のため」[後藤正人](2012/11/06 21:05)
[30] 第30話「凍土に青い薔薇が咲く」[後藤正人](2012/11/07 17:04)
[31] 第31話「大地が燃えて、人が死ぬ」[後藤正人](2012/11/10 00:52)
[32] 第32話「アルファにしてオメガ」[後藤正人](2012/11/17 00:34)
[33] 第33話「レコンキスタ」[後藤正人](2012/11/20 21:44)
[34] 第34話「オーブの落日」[後藤正人](2014/09/08 22:13)
[35] 第35話「故郷の空へ」[後藤正人](2012/11/26 22:38)
[36] 第36話「慟哭響く場所」[後藤正人](2012/12/01 22:30)
[37] 第37話「嵐の前に」[後藤正人](2012/12/05 23:06)
[38] 第38話「夢は踊り」[後藤正人](2014/09/08 22:12)
[39] 第39話「火はすべてを焼き尽くす」[後藤正人](2012/12/18 00:48)
[40] 第40話「血のバレンタイン」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[41] 第41話「あなたは生きるべき人だから」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[42] 第42話「アブラムシのカースト」[後藤正人](2014/09/08 22:11)
[43] 第43話「犠牲と対価」[後藤正人](2014/09/08 22:10)
[44] 第44話「ボアズ陥落」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[45] 第45話「たとえどんな明日が来るとして」[後藤正人](2013/04/11 11:16)
[46] 第46話「夢のような悪夢」[後藤正人](2013/04/11 11:54)
[47] 第47話「死神の饗宴」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[48] 第48話「魔王の世界」[後藤正人](2014/09/08 22:08)
[49] 第49話「それが胡蝶の夢だとて」[後藤正人](2014/09/08 22:07)
[50] 第50話「少女たちに花束を」[後藤正人](2014/09/08 22:07)
[51] 幕間「死が2人を分かつまで」[後藤正人](2013/04/11 22:36)
[52] ガンダムSEED BlumenGarten Destiny編[後藤正人](2014/09/08 22:05)
[53] 第1話「静かな戦争」[後藤正人](2014/09/08 22:01)
[54] 第2話「在外コーディネーター」[後藤正人](2014/05/04 20:56)
[55] 第3話「炎の記憶」[後藤正人](2014/09/08 22:01)
[56] 第4話「ミネルヴァ」[後藤正人](2014/06/02 00:49)
[57] 第5話「冬の始まり」[後藤正人](2014/06/16 00:33)
[58] 第6話「戦争の縮図」[後藤正人](2014/06/30 00:37)
[59] 第7話「星の落ちる夜」[後藤正人](2014/07/14 00:56)
[60] 第8話「世界が壊れ出す」[後藤正人](2014/07/27 23:46)
[61] 第9話「戦争と平和」[後藤正人](2014/08/18 01:13)
[62] 第10話「オーブ入港」[後藤正人](2014/09/08 00:20)
[63] 第11話「戦士たち」[後藤正人](2014/09/28 23:42)
[64] 第12話「天なる国」[後藤正人](2014/10/13 00:41)
[65] 第13話「ゲルテンリッター」[後藤正人](2014/10/27 00:56)
[66] 第14話「燃える海」[後藤正人](2014/11/24 01:20)
[67] 第15話「倒すべき敵」[後藤正人](2014/12/07 21:41)
[68] 第16話「魔王と呼ばれた男」[後藤正人](2015/01/01 20:11)
[69] 第17話「鋭い刃」[後藤正人](2016/10/12 22:41)
[70] 第18話「毒と鉄の森」[後藤正人](2016/10/30 15:14)
[71] 第19話「片角の魔女」[後藤正人](2016/11/04 23:47)
[72] 第20話「次の戦いのために」[後藤正人](2016/12/18 12:07)
[73] 第21話「愛国者」[後藤正人](2016/12/31 10:18)
[74] 第22話「花の約束」[小鳥 遊](2017/02/27 11:58)
[75] 第23話「ダーダネルス海峡にて」[後藤正人](2017/04/05 23:35)
[76] 第24話「黄衣の王」[後藤正人](2017/05/13 23:33)
[77] 第25話「かつて見上げた魔王を前に」[後藤正人](2017/05/30 23:21)
[78] 第26話「日の沈む先」[後藤正人](2017/06/02 20:44)
[79] 第27話「海原を抜けて」[後藤正人](2017/06/03 23:39)
[80] 第28話「闇のジェネラル」[後藤正人](2017/06/08 23:38)
[81] 第29話「エインセル・ハンター」[後藤正人](2017/06/20 23:24)
[82] 第30話「前夜」[後藤正人](2017/07/06 22:06)
[83] 第31話「自由と正義の名の下に」[後藤正人](2017/07/03 22:35)
[84] 第32話「戦いの空へ」[後藤正人](2017/07/21 21:34)
[85] 第33話「月に至りて」[後藤正人](2017/09/17 22:20)
[86] 第34話「始まりと終わりの集う場所」[後藤正人](2017/10/02 00:17)
[87] 第35話「今は亡き人のため」[後藤正人](2017/11/12 13:06)
[88] 第36話「光の翼の天使」[後藤正人](2018/05/26 00:09)
[89] 第37話「変わらぬ世界」[後藤正人](2018/06/23 00:03)
[90] 第38話「五日前」[後藤正人](2018/07/11 23:51)
[91] 第39話「今日と明日の狭間」[後藤正人](2018/10/09 22:13)
[92] 第40話「水晶の夜」[後藤正人](2019/06/25 23:49)
[93] 第41話「ヒトラーの尻尾」[後藤正人](2023/10/04 21:48)
[94] 第42話「生命の泉」[後藤正人](2023/10/04 23:54)
[95] 第43話「道」[後藤正人](2023/10/05 23:37)
[96] 第44話「神は我とともにあり」[後藤正人](2023/10/07 12:15)
[97] 第45話「王殺し」[後藤正人](2023/10/12 22:38)
[98] 第46話「名前も知らぬ人のため」[後藤正人](2023/10/14 18:54)
[99] 第47話「明日、生まれてくる子のために」[後藤正人](2023/10/14 18:56)
[100] 第48話「あなたを父と呼びたかった」[後藤正人](2023/10/21 09:09)
[101] 第49話「繋がる思い」[後藤正人](2023/10/21 09:10)
[102] 最終話「人として」[後藤正人](2023/10/28 22:14)
[103] あとがき[後藤正人](2023/10/28 22:17)
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[32266] 第10話「低軌道会戦」
Name: 後藤正人◆ced629ba ID:8a6b0ab7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/08 22:21
 地球をその眼下に見下ろす低軌道上に、アーク・エンジェルはその白い艦体に青い光を写し取っていた。まもなく降下時間を迎えようとしている。アラスカの大西洋連邦軍総司令部ジョシュアへと降下をすべく時を重ねていた。
 大気圏突入における高熱に耐え目的の地点に降下するためには、タイミングと突入角が重要となる。定石をはずすことは許されない。定められた時間に定められた角度で降りなければならない。時間は計算によって求められる。すなわち、ザフト軍にさえその時刻を確かめることは容易であった。
 メネラオス級を旗艦とし第8軌道艦隊が布陣を描く。アーク・エンジェルを守るべく作れた壁は、ザフト軍の放つ燐光を前にしていた。
 出撃するTS-MA2メビウス。総数は約150。アサルト・ライフルを構えたZMF-X1017ジン。総勢約30機。ほぼ5倍の戦力差ながら戦術論に則るなら互角の戦力である。それほどまでに地球軍とザフト軍の技術力には多大な開きが認められた。
 しかし、利点は必ず欠点と対をなす。ザフト軍は30機のジンで十分と考えた訳ではない。30機をそろえることが精一杯なのだ。数を揃えることのできない国力差を、その技術力、パイロットの練度で補わざるを得ない。仮に地球軍がモビル・スーツの量産に成功すればザフトはその質的優位を失い、圧倒的な数に押しつぶされる。
 ザフトはガンダムを破壊しなければならない。この4年にわたった戦争のバランスをたやすく突き崩しかねない兵器であるのだから。大西洋連邦はガンダムを欲している。この止まった戦争を動かすために。
 第8軌道艦隊の布陣は戦艦1隻の護衛にしては何とも物々しい。ガンダム1機を守るにしては、それは妥当するとも不自然であるとも言えた。ガンダムにはそれほどの戦力を投入する価値がある。しかし、狼を守るために番犬をつなぐことなどあるだろうか。
 戦闘が開始された。メビウス、ジンの両主力機が前哨戦としてその砲火を交えた。
 放たれるレールガン。幾条もの高速弾がモビル・スーツの群に飛び込み、不注意なジンが胸部ジェレーターを撃ち抜かれるとともに爆散する。しかしほとんどのジンは小刻みな軌道を繰り返しレールガンの網を抜けてメビウスへと接近する。
 ジンの放つアサルト・ライフルの弾丸がメビウスの装甲に次々と穴を開け、撃墜されたメビウスは爆発することもなくコントロールを失い飛び去っていく。すると、ジンはくるりと体をひねり真後ろを向くなりさらにライフルを斉射する。ジンとすれ違うように飛行していたメビウスの無防備な腹を突き抜けた弾丸は今度こそ派手な爆発を披露した。
 推進力と機動力とは異なる概念である。メビウスは確かに最高速こそジンに勝るが、宙間戦闘における小回り、射角ではジンと比べるまでもなく劣っている。
 これが5倍とまで言われるキルレシオを支える理論であった。
 メビウスは、ジンの猛攻を前に驚くほどの早さでその数を減らしていた。




 GAT-X105ストライクのコクピットの中にも戦況は伝わっている。メビウスの劣勢。そんなことはわかりきっていたことだと、キラ・ヤマトはヘルメットをかぶる。
 ザフトは10年以上も前からモビル・スーツを開発し準備を進めていた。当時メビウスは存在しなかったが、宇宙戦闘機を仮想敵として武装、戦術も開発されている。一日の長はザフトにあるのだ。
 キラははじめから地球軍には期待などしていない。

「バジルール少尉、出撃します。ハッチの展開お願いします」

 モニターをつけるなりそこに声を吹き込む。ブリッジのナタル・バジルール少尉の顔が映し出された。

「君には待機命令が出ている」
「ザフトにはガンダムがいる。あなたにだってわかっているはずだ。ガンダムを倒すには、ガンダムであたるしかないことくらい」

 たとえメビウスがどれだけ時間を稼いでもガンダムが出てくれば防衛線なんて簡単に突破されてしまう。それがわからない技術士官でもないだろう。そして、アーク・エンジェルのクルーならガンダムの恐ろしさはよくわかっているはずだ。
 防衛対象が最前線に立つことは矛盾だが、ガンダムは守る価値があるだけ、戦わせる価値がある。それだけの性能を有する機体であるからだ。キラは確信していた。出撃許可は下りると。

「出撃は許可された。だがこれだけは心に留めてもらいたい。我が軍の最重要目的はあくまでもガンダムをアラスカに届けることなのだということを」
「了解」

 敬礼する。これまで大西洋連邦軍に在籍していたことはなかったが、主な軍隊の敬礼の仕方なら大体頭に入っている。
 ストライクはすでにカタパルトまで移動を終えている。暗く、周囲の視界は不鮮明。ハッチが開けられさえすれば地球の光が戦場を見せてくれる、与えてくれる。

「ストライカーはどれを選択する、ヤマト軍曹?」

 ストライクガンダムの換装用のバック・パックはストライカーと呼ばれ、3種が用意されていた。
 ソード・ストライカー。アルテミスにおける戦闘でザフト軍ローラシア級の撃沈に使用された白兵戦用の装備は、ビーム・サーベル、対艦刀と呼ばれる巨大な刀を武器に近距離に特化した武装である。
 ランチャー・ストライカー。ユニウス・セブンにおいてアスアン・ザラのGAT-X103バスターガンダムとの撃ち合いに使用した。高火力で敵を一方的に殲滅することを目的としている装備だが燃費が激しく、長時間の使用には向いていない。

「エール・ストライカーをお願いします」

 そして、今回キラが使用を選択したのは最後のエール・ストライカー。大きな水平翼が特徴であり、追加スラスターまで取り付けられている高機動装備である。汎用性を重視した装備であり、ビーム・ライフルとシールドが常備されている。
 地球降下までの限られた時間で広範囲の敵を相手にするためには都合がいい。何より、ハウンズ・オブ・ティンダロスの練習には機動力が必要となる。
 背部からウイングを備えたバック・パックがストライクに接続される。それは瞬時にストライク本体に認識され、モニターには新たな武装が追加されたことが表示された。ビーム・ライフルとシールド。
 やがてハッチが開かれ、地球の青い光が途端にカタパルトを照らし出す。リニア・カタパルトのブリッジが左右から突き出すように延びている。

「進路、オール・グリーン」
「キラ・ヤマト、ストライク、出撃する!」

 カタパルト脇のランプが進路クリアを伝えるべき緑に変わる。まず足下のカタパルトがストライクを押し進めるとともに、背中に取り付けられていたバッテリー・ケーブルが外される。中空に投げ出される形でストライクが飛び立つ。両脇に展開されていたリニア・カアパルトがさらに加速させた。
 アーク・エンジェルから飛び出したストライクの前には地球が眩しいまでの輝きを放っていた。
 そして、後ろではすでに戦闘が火花を咲かせていた。機体の向きを変え、スラスター出力調整用のアクセルを踏み込む。エール・ストライカーはストライクを軽やかに進ませた。
 大西洋連邦の艦隊がジンを寄せ付けまいと砲撃を途切れさせない。その間をジンがかいくぐり、アサルト・ライフルで攻撃を加えている。しかし戦艦の分厚い装甲を破壊することは簡単ではない。攻撃を加えては対空砲火に追い払われるジン。戦艦が壁としてザフト軍の侵攻を食い止めているようだった。
 キラは、攻めあぐねいているジン、その内の1機に狙いを定めた。ライフルを向ける。初撃で撃墜してしまうつもりはない。こちらに気づかせるために敢えて外して放つ。
 ビームの輝きが近くを通り抜けたことで、ジンはストライクにモノアイを向け、アサルト・ライフルを構えた。キラはさらに機体を加速させた。

「そうだ……、撃ってこい!」

 アサルト・ライフルの銃口から無数の弾丸が発射される。ストライクの体をひねる。弾丸は頭部をかすめるように通り過ぎていく。加速は止まらない。かわせた。
 しかし、ジンがほんの少し手首をひねっただけで、弾道は大きく軌道を変える。点ではない線としての攻撃はストライクの動きを捉え、装甲を輝かせた。最低限の動きでかわそうとすると相手が狙いを変えたときにすぐに反応できない。完全にかわしきろうとストライクを大きく動かすと、とても直線とは言えない軌道を描いてしまう。敵の攻撃を最低限の動きでかわし、最短距離を最速で駆け抜ける戦法は、聞いただけで再現できるほど生やさしいものではなかった。
 結局、フェイズシフト・アーマーの防御力を頼りに強引な接近を果たす。キラは迷わず引き金を引いた。ビームがジンの腹部を貫き、遅れて生じた爆発が胴を引き裂いた。
 まだ次がある。キラはすでに別のジンを捉えていた。距離は適度。もう一度技を試そうと加速する。味方が一撃で撃墜されたことを見ていたからだろうか。標的のジンは攻撃もせずに逃げだそうとした。
 エール・ストライカーの機動力で距離を詰め、後ろからコクピットめがけてビームを叩き込んだ。ジンが爆発する頃には、キラの関心は移っていた。

「ジン如きじゃ練習台にしかならない」

 ストライクが首を振った。センサーが集中する頭部が効率よく情報を集めようとする。

「アスラン、どこだ……、どこにいる?」

 ストライクのコクピットにヘルメットを通したせいか、低く、底知れない感情がこもった声がした。




 カタパルトに乗せられたMA-TS2.mod-00メビウス・ゼロのコクピットの中で、久しぶりの愛機での出撃にムウ・ラ・フラガは体を伸ばした。

「それじゃあ、俺も行ってくるとするか」
「出撃準備整いました。出撃、どうぞ」

 事務的で、ずいぶんあっさりとしたナタル少尉の言葉。キラの時とは偉い違いだ。

「ストライクはキラに譲ってやるべきじゃなかったか?」




 新型の動きを目にすることは、ハルバートン少将にとって初めてのことであった。高い攻撃力を誇る。それはメビウスに毛の生えた程度のことだと捉えていた。防御力が極めて高い。しかし、まさかジンの攻撃を無傷で耐えられるとは考えていなかった。
 ストライクは瞬く間に2機のジンを撃墜してみせた。まさに嬉しい誤算である。新型を開発したのも、それを操るのもコーディネーター。コーディネーターというものはいつも想像を越えることをしてくれる。

「コーディネーターとは、やはりすごいものだな」

 艦長であるハルバートン小将がこう独り言をもらす余裕がある。それほどに、アガメムノン級メネラオスのブリッジは緊迫感とは無縁だった。戦力はほぼ互角とは言え、条件ははるかに有利だった。アーク・エンジェルが降下してしまえば勝ちなのである。ストライクの活躍もあれば負けることはない。
 そんな空気を一変させたのは、やはり新型の一挙手一投足であった。
 ブリッジ・クルーの1人が友軍であるネルソン級が撃沈されたと声を張った。モニターにはありえないものが映っていた。戦艦が黒い煙を上げながらブリッジを消し飛ばされていた。この被害は十分に驚愕するに値するものだが、このことがブリッジの心胆を冷やしたのではない。
 レーダーにない、存在しないはずの機体が戦艦の残骸に立っていた。漆黒の体でありながら宇宙の闇に存在感を譲ることはない。GAT-X207ブリッツガンダム。この姿が、消し飛ばされた僚艦のブリッジの前にあった。
 たしかに高度なステルス性を有していると聞いている。だが、まさかこの時代のレーダーに、それも多数の戦艦、メビウスの誰もが気づかないほどとはとてもではないが考えてはいなかった。未知の電波障害が頻発してるとしてもだ。

「メビウスを向かわせろ。逃せば取り返しがつかん!」

 レーダーに映らない機体を野放しにしては、視野の狭い戦艦では完全に見逃してしまう可能性が高い。1個小隊のメビウスが向かう。ところが、ブリッツは突然レーダーに投影されるようになる。

「フェイズシフト・アーマーを展開したということか……」

 ハルバートン小将の予想の答え合わせを買ってでたように、ブリッツはメビウスのレールガンを事も無げに弾いた。ブリッツ右手のライフルと左手の射出兵器がメビウス2機を1撃で撃墜する。小隊最後のメビウスはブリッツの蹴りを機首に浴びて破壊された。
 ジンを相手にしたとて、こうも圧倒的ではない。ブリッジの誰もが絶望的な眼差しでこの光景を眺めていた。だが、誰もがこのことに絶望していたわけではない。中には、友軍との通信を怠らないクルーもいたのである。そのクルーは残念なことに、さらなる絶望をハルバートン小将に伝えた。別のネルソン級がGAT-X103バスターの接近をうけているというものだった。
 ミサイル艦として対艦、対要塞が期待されるネルソン級は高い攻撃力を誇るが、基本設計からはすでに40年が立ち、モビル・スーツとの戦闘などそもそも想定されていない。連続して吐き出されるミサイル。直撃すればモビル・スーツを一撃で破壊する攻撃力をミサイルが群となったバスターへと向かう。
 これほどの火力ならば撃墜できる。それが戦術というものだ。
 バスターはライフルを放つ。視認できる輝きがミサイルの間を斜めに横切る。その高熱は直撃することもなく次々ミサイルを誘爆させ、巨大な火花にミサイルが呑み込まれていく。
 メネラオスのクルーの誰もがバスターの姿を見失っていた。爆発の余波、衝撃、次第に落ち着きを取り戻す光景の中にバスターの姿を見いだした時、しかしすべてが遅かった。
 2丁のライフルを連結させたバスターの姿がネルソン級の上空にあった。ハルバートンはメネラオス級のブリッジにてただその様子を眺めていることしかできない。
 光の柱がまずはネルソン級のブリッジに突き立てられた。そして、裏側へと吹き出す。さらに2度の攻撃が装甲を吹き飛ばす。鉄槌を打ち込まれたように開けられた3つの穴は戦艦の上を一直線に並んでいた。穴からは火と煙が溢れている。炎は戦艦を縦断し、応力が艦体そのものを歪ませる。やがて、被弾箇所に沿う形で戦艦が2つにちぎれた。
 メネラオスのブリッジでは沈黙が重苦しい。
 脆弱な戦艦のブリッジが破壊されたなら受け入れようもある。だが、バスターは戦艦そのものを破壊してしまった。規格外の性能が奇想天外な光景を演出してしまったのだ。
 わずか数分の出来事であった。戦艦が撃沈されるにはあまりに乏しいはずの時間で、第8軌道艦隊はその防衛線に突破されてしまったのである。




 ガンダムの猛攻を、ナタル・バジルールはアーク・エンジェルのブリッジに響かせた。

「バスター、ブリッツ、防衛線を突破しました!」

 ブリッジ・クルー、特にマリュー・ラミアス艦長の焦りようは手に取るようにわかった。右手で口元を押さえている。だが、左手は艦長としての威厳を保っていた。マリュー艦長は左手をナタルへと力強く伸ばした。

「ナタル小尉、デュエルを出撃させなさい。出撃準備、急がせて!」
「しかしパイロットは……?」
「……アイリス・インディア二等兵に操縦させなさい」

 一瞬聞き間違えたかと我が耳を疑ったほどだ。

「アイリスを……? 何のご冗談かわかりませんが、アイリスは軍属になったとは言えただの学生にすぎません」

 そもそもアイリスが入隊すること自体、ナタルは反対だった。ストライクの修復に時間をとられていなければ止められたのだが、一少尉に決定を翻す力などない。
 座席を回し、艦長へと体を向ける。聞き違えたと考えた訳ではない。冗談だと片づけてしまうには、マリュー艦長の顔は--普段通りといえばその通りだが--真剣そのものであった。

「まさかコーディネーターを便利な道具とお考えか? ヤマト軍曹のようなことができるはずがありません。アイリスにそのようなことはさせられません!」

 訓練も受けていない。軍人になるまではただの学生だった。そんなアイリスがモビル・スーツに乗った途端活躍するなどあり得ない。みすみす、死にに行かせるようなものだ。
 コーディネーターがそんなに便利な存在であるはずがないのだ。
 ナタルはヘッドフォンを外す。これはそんな命令を格納庫には伝えられないという意志表示であるとともに、艦長に投げつけてやれる武器にもなる。そんなナタルの意志を挫くように、新たに友軍艦が撃沈されたという報告が入る。ナタルがそのことに気を取られた隙をつくように、マリュー艦長はまくし立てた。

「これは上官命令です!」

 ナタルはヘッドフォンを持つ手に力を込めた。

「あなたは卑怯者だ! 本当にアイリスを戦わせることで危機から脱出できるとお考えか? コーディネーターは万能ではない。あまりに安易な手にすがろうとしてるだけだ!」

 艦長からの返事はなかった。代わりに、撃鉄が引き起こされる小さな音。マリュー艦長がナタルへ銃を向けていた。

「これ以上は艦長批判と判断します、ナタル・バジルール小尉」

 ナタルには銃を携帯する権限はない。このまま粛正されるのもいいかもしれない。少なくとも、アイリスに対する言い訳ができる。しかし、ナタルが死んだところでアイリスが戦場に行かされることに変わりはない。それならせめて、彼女が生還できるようオペレートするほかない。
 ナタルはヘッドフォン・マイクをつけなおした。我が身かわいさにアイリスの命を差し出すのだと思うと、ずいぶんと冷めた気持ちになった。自然と表情が落ち着いた。
 椅子にかけなおす前に、ナタルは最後に問いかけておきたかった。

「ゼフィランサスをザフトに差し出した時はどんなお気持ちでしたか?」

 大切な手駒を失うことへの焦燥。それとも子どもを犠牲にしてしまうことへの罪悪感だろうか。正直、答えを期待してはいなかった。返事を待つことなく、ナタルは椅子に戻った。銃をしまいなおす音がしてから、マリュー艦長のお言葉があった。

「デュエルの出撃準備を急がせて」

 気のせいかもしれない。そうだとしても、この声には子どもを戦わせることへの躊躇と、それでも戦わせなければならないのだという決意、そして、心変わりが起きる前にことをすませてしまいたいという懇願が含まれているように感じられた。




 出撃命令。まだとても実感がわかない。軍人になるということ、敵と戦うということがどんなことか理解していた気でいても、それがどのようなものなのかなかなか想像できない。
 人を殺すとはどんな気分なのだろう。案外と簡単にできてしまいそうな気がして少し怖い。できないとしたら自分が殺されてしまう。殺意みたいな強烈な悪意をこれまでに向けられたことなんてない。結局、みんなみんなこれまでに経験したことのないことばかり。
 アイリスはノーマル・スーツ--避難訓練で一度着たことがあっただけだ--を着て、脇にヘルメットを抱えて通路を歩いていた。格納庫へと通じている。すでに地球は近く、明らかな重力を感じながら、アイリスは一歩一歩を踏みしめていた。

「フレイさん……」

 通路の脇にフレイ・アルスターを見つけたのだ。軍服姿のまま。厳しい表情で腕を組んでいる。アイリスに関心のないように視線をそらしているが、ただ、時折アイリスを盗み見ては気にしているようでもあった。
 どうしていいかわからない。ただ、ここで話ておかないと後悔してしまう。そんな意識だけがあった。もう、会えなくなる--実感なんて伴わないのに--かもしれないから。
 どんな顔でフレイのことを見ればいいのかわからない。顔を見ることなんてできなくて胸のあたりを見るようにして近づくことにする。その時、意外にも話しかけてきたのはフレイの方だった。

「アイリ……」
「アイリス! 話は聞いた。出撃するんだろ?」

 その声を男性の声が押し潰した。ノーマル・スーツ姿のサイ・アーガイルが慌てた様子で走ってきた。有無いわせない様子で、サイはアイリスの手を掴んで走り出した。

「フレイも早く!」

 アイリスは手を引かれて、フレイはその後ろに続いて走らされる。そしてたどり着いたのは、格納庫ではなくて倉庫に使われているような小さな部屋であった。

「ここって……」

 出撃に必要な何かがあるようには思えない。アイリスの横でフレイもわからないといった顔をしていた。ここに何があるのだろう。サイに確かめようと振り向いた。すると、その時ちょうど部屋の扉が閉められた。
 閉じこめられた。とっさに扉にとりつくと、やはり扉は開かない。フレイが扉を叩くも開く気配はない。

「ちょっとサイ!」

 扉の向こう側にいるはずのサイからは、何故か反応がなかった。




 デュエルがカタパルトに到達したことをナタルはモニターで確認していた。ただ、不可解なことがあった。格納庫から整備士の連絡が入ったのだ。慌てていて要領を得ない。子どもがデュエルに乗ったなどと、こちらの神経を逆なでするような報告を繰り返すので一方的に切ってしまった。
 まだほんの15にすぎないアイリスがパイロットとして搭乗させられるということくらい、わかっているのだ。
 デュエルの出撃は近い。アイリスにどんな言葉をかけてあげるべきか思案している内に、思いも寄らない人物がブリッジに入ってきた。
 声がした。高く、少女の声がナタルを呼んだ。

「ナタルさん!」

 それは聞き違えるはずのないアイリスの声だった。慌てて振り返ると、髪を振り乱したアイリスがナタルに飛びついた。椅子とアイリスに挟まれて、肺から声にならない声が出た。さらにアイリスは両肩を鷲掴みにして、ナタルを揺さぶる。首を起点に頭が前後に揺さぶられる。その間アイリスは友人である少年の名前を繰り返していた。

「サイさんが、サイさんがー」

 完全に混乱している。フレイが引き離してくれるまで頭を揺さぶられ続けた。フレイにしても不機嫌な表情を作っているようでも、瞬きが多く焦りを滲ませていた。
 子どもがデュエルに乗った。アイリスとフレイの焦りよう。それが揺れる脳内で混ざりあう。アイリスとフレイはここにいる。キラは出撃中。トール・ケーニヒ、ミリアリア・ハウはすでにオーブへと帰ったはずだ。では、残る1人が勝手に乗り込んだと判断することが一番妥当だろう。
 すっかりずれてしまったマイクの位置を直すとすぐにデュエルのコクピット内に呼びかける。

「サイ・アーガイル二等兵、君か!?」

 どこで覚えたのか、こちらからコクピット内を映せないよう操作されている。もっとはやくこのことに気づいていれば、みすみすカタパルトまで移動させなかったものを。



 
 以前ナタルに聞かされた通りモビル・スーツの操縦はゲームに近いものだった。コクピット内はパイロット・シートが大半を占めていた。正面には大型のモニターが大小さまざま取り付けられている。モニター下、シートの脇には細かいボタンやつまみがあったが、動かすだけならこれらの操作は必要ない。
 レバーの向きを変えると、機体もその方を向く。進みたい方向に向き直ったところでレバーを垂直に直すと、今度はその方へまっすぐ歩き出す。歩かせるにはアクセルを踏み込むだけで事足りた。足元に資材があっても、機体の方が勝手に最適な動きでかわして進みたい方向に歩いてくれた。
 加圧室に繋がる扉の前にカタパルトらしい足場があった。さすがにどうやってここに足を乗せればいいのかわからない。とりあえずカタパルトの方へと歩かせながら、モニターを眺めているしかなかった。すると、モニターに文字列が表示された。それはカタパルトを指し示すと、その名称を表示していた。カタパルトばかりではない。扉だの、そのノブなどが認識され名称が表示されている。
 ガンダムのコンピュータがそれがどのようなものか認識して、それをモニターに表示しているらしい。では、デュエルはカタパルトが何かを理解しているということなのだろうか。そう漠然と考えながらカタパルトを眺めていると、それを示していた文字列の色が変わった。すると、デュエルが自動でカタパルトに両足をおき、体を固定した。
 操縦は受け付けるようだが、デュエルと発進口に移動するカタパルトに乗せられたままにしておく。カタパルトはデュエルを乗せたまま細長い通路に出た。正面には両脇から突き出た細長い棒状の構造物に囲まれるようにカタパルトのレールが取り付けられた床が伸びていた。そして、そのさらに先には宇宙が広がっている。
 思わず見とれていると、機体側面を映している両横のモニターに文字列が新たに加わったことに気づいた。右にビーム・ライフル、左にはシールドが表示されている。カタパルトと同じ要領で文字列を眺めていると、やはり自動で武装を手に取った。
 思わず両手を握り締めて声を出した。

「よし!」

 すると、せっかくのいい気持ちをかき消すような声がした。

「サイ・アーガイル二等兵、君か!?」

 ナタル少尉の声だ。すぐにばれるかと思っていたが、思ったよりももった方だろう。ここまで来れば出撃の邪魔はできないはずだ。サイは確信をもっていた。

「ナタルさん、俺が出撃します。カタパルトの方、お願いします」

 案の定、すんなり出撃させてはくれない。

「待機命令が出ていたはずだ。上官の命令不履行は軍法会議ものの重罪だ! わかっているのか!?」

 だいたい予想したとおりの言葉が返ってきた。だから、言うことはもう決まっている。

「射撃なら素人でも形になる。ナタルさんはそう言ってましたよね? それなら俺にもできるはずだ」

 ナタル少尉からの返事は遅れた。だいたい理由は想像がつく。少しでも早くデュエルを出撃させないといけないのだが、ここでサイと押し問答をしていてはそれができなくなる。それをつく形で、サイは言葉を繋いだ。

「早く出撃しないといけないんでしょ?」

 もう一言、言っておきたいことがある。

「それとも、そうまでしてアイリスを戦わせたいんですか?」

 少しの間をおいて聞こえたナタルの声は、躊躇を含ませた小さなものだった。

「わかった……。出撃を許可する」

 通信を通して、ブリッジのざわめきが聞こえてくる。その中にはアイリスがサイのことを呼ぶ声が聞こえた。
 この子の声を、これまで無視したことは一度もなかった。これがはじめてのことで、そして、最後にしようと心に決めた。それをこれから戦いに行く覚悟と重ね合わせて、サイは真正面を見据えた。




 この戦いは2度目のことになる。
 ストライクはブリッツと交戦していた。以前アルテミスで戦闘したときとは当然ながらパイロットが違っている。現在のパイロットはディアッカ・エルスマンに比べて慎重で、攻撃に苛烈さがない反面安定した戦い方を得意としているらしい。
 うまく距離をつめることができない。ビームはアサルト・ライフルほどの連射こそきかないが、一撃でストライクの装甲を破壊してしまう。しかし、かわしながらではブリッツに追いつくことができない。

「あの技を、あの技さえ使えれば!」

 ムウ・ラ・フラガが言っていた荒唐無稽の技を、キラは疑いながらも決して絵空事と捉えてはいなかった。ビームをわずかな動きのみでかわし接近することができればキラが得意とする白兵戦に持ち込むことが可能となる。
 ブリッツからのビームを少しずつ小さな動きでかわそうとする。徐々に近く、ビームが装甲をかすめるほどの距離でかわすことができたとしても、ある程度接近してしまうと反応が間に合わない。これ以上接近すると被弾してしまう、そんなどうしても近寄りきれない距離の壁があった。

「なぜなんだ、なぜできない!?」

 苛立つ。歯を食いしばり、その隙間から強く息を吐き出した。
 不用意に近づいてきたジンを露払いとして撃ち抜いても、心は晴れるどころかわらなる苛立ちだつのる。

「力のない奴が戦場に出てくるな!」

 この攻撃は隙となってしまった。一瞬注意をそらした隙に、ブリッツが急速に接近していた。エール・ストライカーに装備されているビーム・サーベルを抜く時間はない。ブリッツが右手の複合兵装から腕と水平に伸びるビーム・サーベルが生じていた。
 すぐにシールドを構える。ビーム・サーベルを受け止めると、サーベルの形が崩れ、大量のビームがシールドに浴びせられる。赤いシールド表面が焼け爛れ、内部の装甲板が剥き出しになる。シールドを投げ捨てる形で離脱したところで、サーベルは盾を溶断した。
 シールドこそ失ったが、代わりに左手があいた。肩越しにエール・ストライカーのサーベルに手をやる。それは、柄しかない剣のような形状をしていた。ストライクに握られ、掌のコネクタからエネルギーが送り込まれると、光が刃となる。
 サーベルとサーベルとがぶつかり合い、漏れだしたビームがスパークする。出力は互角。このままでは埒があかない。2機のガンダムが離れ、距離をあけたところで睨み合う。その距離はちょうどキラがこれ以上被弾なしには接近できない、そう考える位置だ。
 これでラウ・ル・クルーゼには勝てない。
 突然甲高い声で通信が入った。エコーでも生じているのかとさえ思えた声は、アイリスのものだった。

「キラさん! サイさんが、サイさんがブリッツで出撃してぇー!」

 今にも泣き出しそうな声だった。




 カズイ・バスカーク。この親友を失った時、サイはもちろん悲しかった。ただ、戸惑うことも多すぎた。本当にカズイは死んでしまったのだろうか。キラはどうしてカズイを助けてくれなかったのだろう。本当に助けることができなかったのだろうか。
 キラは何も答えてはくれなかった。
 カズイのことが悲しいはずなのに、キラを問いつめることもできなかった。どうしてカズイを助けてくれなかった。そうもっと聞けばよかった。そうすると、今度はキラとの関係を壊してしまうそうな気がした。

「事なかれ主義って奴なのかな……?」

 もう死んでしまったカズイのことなんて忘れて、今あるものを維持しようとした。そんな自分の弱さがいやだった。
 軍隊に志願したのもきっとそんなことだ。アイリスやフレイに死んでもらいたくない。でも、キラには2人を守ることができない。それならサイが自分で守るしかない。もうカズイのような別れ方なんてしたくないから。
 コクピットの中、サイは一度息を大きく吸い込んでから吐き出す。
 デュエルはすでにアーク・エンジェルの甲板に足を着けて立っていた。まだ飛び回って戦うことはできなくても砲台としてならサイにも戦えるはずだ。アイリスやフレイを守ってあげることができる、キラに代わって。

「アーガイル二等兵、決して無茶はするな。我々の目的は時間稼ぎにすぎない。何も敵を撃墜する必要はないのだ」
「わかってます」

 それとも了解と言うべきだっただろうか。
 モニターには宇宙戦艦とその間を弾丸の光が飛び交っていた。

(これが戦場なんだな……)

 テレビでしか見たことのないような光景だ。もう一度ロックオン・カーソルの動かし方を復習してみる。視線入力と操縦桿を使用しての二通り。それはデュエルのOSがどちらを使用すべきか判断してくれる。敵をロックオンして、後は操縦桿の引き金を引く。
 よし、できるはずだ。
 敵がくる。何故かそんなことがわかった。誰かが意識に語りかけてくるような感覚があった。するとその通り、1機の一つ目--確かジンとか言う機体だ--がライフルを構えてアーク・エンジェルに接近してた。
 宇宙だと距離間が掴みにくい。そんなことをどこかで言われたことがあった。計器を見てみるとまだ遠いと思っていたジンは思ったよりも近くに接近していた。そう気づいた時には攻撃された。ライフルから弾丸が次々吐き出されて思わず操縦桿から手を離して叫んでしまった。

「うわ!」

 ジンは一度大きく飛び上がって離れていった。見ると、デュエルには傷一つない。衝撃だってほとんどなかった。

「無事か?」

 ナタル少尉--それが軍内でどれくらいの地位かなんてわからないけど--からの通信には大丈夫、そんな返事をしておく。
 大丈夫に決まってる。敵の攻撃は大したことがなかった。またジンが接近してくる。また同じように弾丸をばらまきながらモニターの中で少しずつ大きくなっていく。

(ライフルって、マシンガンみたいなこともできるんだな……)

 1発ずつ撃つだけかと思ってた。
 敵のライフルの弾はガンダムにまったく効かない。サイは自分を落ち着かせるようにゆっくりと操縦桿を動かして、ロックオン・サイトが敵に重なっていく。これで撃っていいのだろうか。とりあえず、そんな気持ちで引き金を引いた。
 光線が飛び出して、ジンの肩を撃ち抜いた。

「当たった!」

 ジンは肩が完全に吹き飛び、重力に引かれたように地球側に煙を出しながら落ちていった。そして、胸のあたりから火が噴きだして一気に爆発した。
 初めての戦果。俺にだってできる。気づくと、思ったよりも息が乱れていた。興奮しすぎたみたいだ。ただ、とても気分がいい。

「サイ! 何をしているんだ、早くアーク・エンジェルに戻れ!」
「キラ、見てなかったのか? 俺が敵を倒したんだ。俺にだってアイリスやフレイは俺が守ることができるんだ!」

 モニターには戻ろうとしているストライクが見えている。まだ戻ってくるまで時間がかかる。それなら、今アーク・エンジェルを守ることができるのはサイしかいないことになる。わかりきったことだ。

「カズイを助けられなかったのは僕の力不足かもしれない。でも、カズイはすでに瀕死の重傷だったんだ!」
「それならなんであの時そう言ってくれなかったんだよ!」
「それは……」
「別にいいさ。お前は特殊な訓練を受けたコーディネーターで、俺たちとは違うんだろ。お前がゼフィランサスさんを大切に思ってるならゼフィランサスさんだけを守っていればいいんだ。アイリスやフレイは俺が守る!」
「サイ!」

 確か通信はこれで切ることができるはずだ。ストライクのことが表示されているモニターのすぐ下のボタンを押す。するとキラの声は聞こえなくなった。これで敵を倒すことに集中できる。
 また新しい敵の接近がわかる。戦場に出て感覚が研ぎすまされているのだろうか。モニターの中にはデュエルと同じ顔をした機体だ。長いライフルを2つも持った奴で、全体的にゴテゴテした印象だ。

「敵のガンダムか。落ち着け……。落ち着けば、いけるはずだ!」

 ライフルを発射する。さっきのジンの時みたいに光線がまっすぐに飛んでいく。命中するに決まってる。命中する、そう思った瞬間のことだ。敵が横へと滑るように動く。

(かわされた……?)

 ジンには当たったのに。
 次こそ当てる。ライフルから次々と光線が放たれる。そのどれも当たらない。敵はかわしながらどんどん近づいてくる。操縦桿の引き金を押し込む指が痛くなってきた。何度引き金を引いても光線は一定の間隔でしか発射されてくれない。

「なんで当たらないんだよ……?」

 敵は見る間に大きくなっていく。ライフルは当たる気配なんて見せないまま、敵の蹴りが画面一杯に広がっていく。鋼鉄の足がモニターを覆い尽くした時、デュエルを強い衝撃が襲った。顔面を思い切り蹴られたのだ。
 備えなんてまるでしてなかった。衝撃が機体をそのまま揺らして、デュエルの体が後ろへと倒れていく。このまま地球に落ちてしまうような感覚に声さえでない。次に襲ってきた衝撃は、デュエルがアーク・エンジェルの甲板に倒れたことを意味している。
 まだ死んでない。敵はどこにいる。早く起きあがらないと。考えばかりが回って、それでもどうすればいいのかわからない。操縦桿を掴んでいるのは操縦のためではなくて、何か掴んでいないと落ち着かないからだ。それだけだ。
 再び訪れた衝撃。今度のは弱い。敵がデュエルを踏みつけて銃を突きつけていた。
 早く逃げないと。ライフルを向けようとして、でも右腕は踏みつけられていて動かせない。操縦桿をでたらめに動かして脱出しようにも敵はしっかりとデュエルの動きを封じていた。突きつけられた銃口の奥に光が見えた。

「うわああああぁぁぁぁぁぁー!」

 少しでも、少しでも逃げだそうとシートに体を押しつける。押しつけて、目を閉じることさえできないままサイは叫び続けるしかなかった。




「サイ!」

 ストライクの放ったビームがバスターのそばをかすめた。アスランは反応早く機体を飛びのかせると発射直前であったライフルの銃口からビームが撃ち出される。
 狙いをそらすには十分ではなかった。バスターのビームはデュエルのわき腹をかすめ、アーク・エンジェルの装甲を滑るように抜けていく。直撃はしなかったがフェイズシフト・アーマーに深刻なダメージを負っていることは輝きでわかった。アーク・エンジェルは入射角が鋭角であったことが幸いした。表面が溶解された程度のダメージだ。
 このままバスターを引き離す。ライフルで牽制しながらバスターをアーク・エンジェルから引き離し、間にわって入るようにストライクを移動させた。

「アスラン、君のあいては僕だ!」

 先程通信は切られてしまったためデュエルの様子は確認できない。モニターから判断するなら、装甲そのものは無事だ。内部機構に深刻なダメージが及んでいるとも思わない。ただ、コクピットにある程度の熱が伝わったことだろう。

「ガンダムを地球に下ろす訳にはいかないんだ、キラ!」

 アスランは手加減なんてしてくれない。2機のガンダムがビームを発射し、同時に飛び上がる。撃って、かわす。かわして撃つ。たかだかビームに直撃されるほどキラもアスランも間抜けではない。撃ち合いを続けていても決定打が存在していない。
 ここで仕掛けるしかない。アクセルを一気に踏み込む。加速したストライクがまずビームを頭部をかすめるほどのぎりぎりの位置でかわした。伝わった熱に頭部のフェイズシフト・アーマーが輝いた。そして、さらに接近をかける。
 そこに、鈍い衝撃が伝わった。レールガンがストライクの肩に直撃した。フェイズシフト・アーマーは破壊こそされなかったものの勢いは完全に殺された。
 バスターからの攻撃をかわすためにバック・ブーストをかけて、しきり直しにされる。こうしているうちに防衛線を突破してきたジンがアーク・エンジェルを目指していた。サイのことも気にかかる。
 アーク・エンジェル降下まで残りわずか。この時間をやりすごせばこちらの勝ちだ。




「ナタルさん!」
「サイ、聞こえるか、サイ・アーガイル二等兵!」

 アイリスに言われるまでもなくナタルはサイへの呼びかけを続けていた。通信は通じているはず。だが返事がないのだ。

「嫌だ! 嫌だー!」

 返ってくるのはこんな言葉ばかり。モニターには狭いコクピットで暴れるサイの様子があった。完全に錯乱している。無理もない。ゲーム感覚--言葉は悪いが、ナタルがサイに吹き込んでしまった言葉だ--の戦いが突然純然たる現実に変わったのだ。

「サイさん!」

 アイリスの言葉も届いていない。とにかく逃げだそうと手当たり次第操作している。操縦桿そのものはデュエルが異常を感じロックをかけているらしい。デュエルはアーク・エンジェルの甲板上に横たわったままである。
 だが、ナタルは映像の中に違和感を感じていた。特に明確な理由があったわけではない。サイはヘルメットをつけている。宇宙空間においてヘルメットをつけること、コクピット内を真空にすることは常識である。そうしなければハッチが破損した際の圧力差からパイロットが外へと吸い出されてしまうからだ。

「内圧を調整していないのか? ……馬鹿者! ハッチを開けるな!」

 コクピット・ハッチの緊急展開用のレバーに手を伸ばしたサイにナタルの声が聞こえたのかは定かではない。何かが一息に呑み込まれるような、そんな君の悪い音がブリッジに響いた。直後、サイの姿がモニターから消える。

「アーガイル二等兵! アーガイル二等兵!」

 この時、モニターに集中するナタルとアイリスは気づくことはなかった。デュエルはアーク・エンジェルの甲板に仰向けに横たわっていた。コクピット・ハッチから飛び出したサイの体は上へ上へ、それはアーク・エンジェルのブリッジの前を下から上へと飛び上がっていくこととなる。このことに、ナタルとアイリスは気づくことはなかったのである。
 唯一、モニターから目をそらしていたフレイだけが、その光景を目撃した。

「サイ……?」

 まるで人には思えなかった。小さな人形が吹き飛ばされていくような一瞬の光景。ただフレイがそれを目にした。




「サイー!」

 飛ばされていく人の体。宇宙はあまりに広大で人はあまりに小さい。レーダーで補足できない人体は一度見失ってしまえばもう見つけだすことはできない。
 ストライクが手を伸ばす。しかし、右手にはライフルを、左手にはサーベルを握りしめたまま。武器を握るその手では友を掴みとめることなどできなかった。
 サイとの出会いはいつのことだっただろうか。確かヘリオポリスに潜入して間のなくのことだ。話しかけてきたのはサイの方だった。
 キラには友人なんていなかった。同じ施設で育った仲間たちは友達とは違って、1人で生きていくことに友人なんて必要がなかった。ヘリオポリスでも1人で同級生たちとは交わるつもりなんてなかった。

「君、いつも1人だけど……」

 そんなキラに声をかけてきのは、眼鏡をかけた少年だった。一度も人を傷つけたことさえない。そんな屈託のない微笑みが印象的で、これまでキラが見てきた誰とも違った。
 利用されるためだけに生み出された少女でもなくて、戦うことしかできない人たちとも違う。そして、この世界の裏側の悪意とも無縁。そんな少年との出会いはよほどのことがなければ驚くことをやめてしまったキラの心に一滴を投げかけた。水面を揺らすように、染み込むように混ざり込んできた。

「いや、ごめん、1人でいたいならいいんだ」

 この時、キラは一体どんな顔をしていたのだろう。きっと、曖昧な笑みを返したいたのだろうと思う。

「別にそんな訳じゃないけど。元々アフリカの方に住んでて、まだオーブに馴染めてないだけだから」

 地球上で数少ないマスドライバーを保有するジブラルタル基地。それを巡ってプラントをはじめとして大洋州連合、アフリカ共同体、南アフリカ統一機構が入り乱れての激戦地にいた。その地にはいなかった。サイのような少年は。

「迷惑じゃなかったら案内でもしようか? 一応、俺の生まれも育ちもヘリオポリスだからさ。仲間にもそんな奴、結構多いし」
「じゃあ、お願いしようかな?」
「俺、サイ・アーガイル」
「キラ・ヤマト」

 沈黙という嘘に包まれた友情は、はがれ落ちた嘘とともに崩れてしまった。


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