自由討議開幕のベルが無くと同時にアリシティアは、球形議場の一区画から向けられる穏やかではない視線と、敵意とも呼ぶべき怒りの感情を感じ取る。 しかもそれは単独ではなく複数。 それを発する主達は確認するまでもない。思わず震えそうになる体の感覚で分かる。 かつてアリシティアはあそこで殺されたのだ。完全に否定され、心を折られ、壊されたのだ。 「じゃあ予定通り、あっちはあたしがいくね」 もっともフラットな精神状態であるアリシティア・ディケライア。コードネーム【日本武尊アリス】は、内心に埋め込まれ、今も残る恐怖を自覚しながらも、自らを奮い立たせるために、残り299人のアリシティアへと宣言する。「耳震えてる。やっぱりあたしが行こうか? 嫌なことは速攻終わらせ。徹夜明けテンション状態の思考能力高速特化だから、レスバなら負ける気がないよ。それにコードネームの元ネタの神話的にも龍退治はぴったりでしょ」 伊〇1超速潜こと【須佐之男号アリス】をコードネームとした別のアリシティアが、頭のうさ耳を指し示して、ターゲット変更を申し出るが、アリシティアは首を横に振る。 「大丈夫。武者震い。それに神話的に言うならあたしのほうが適任でしょ。だって龍を倒すんじゃなくて、その力を物にするのがミッション目的。退治じゃなくて対峙しにいくんだから」 ありがたい申し出だが、強がりを口にし、笑って断る。 須佐之男は龍退治の英雄。トラウマを粉砕するなら、退治するなら適任。 しかし日本武尊は、その龍の尾から見つかった武器で窮地を脱している。 自分は過去のトラウマの元さえも、自分たちの力にするつもりで、この星連議会へと再度乗り込んできたのだ。 ならいくべきは、過去最大のトラウマと対峙し、飲み込み、力を手に入れるのは、やはり基本状態の、素のアリシティア・ディケライアでなくてはならない。「じゃあ予定通りいくよ。全域散開! あたし達は、こっちの味方と連動して基本は情報収集。状況に応じ臨機応変に対応!」「こっちも負けずに戦闘開始! 売られたレスバには即時応戦。正面火力で迎え撃つよ!」「基礎こそ王道! あたし達は奇襲特化! 隙を見せた相手に噛みつく虎狼!」 それぞれ役割ごとに分けた部隊はリーダー人格としたアリシティアのかけ声と共に、議場へと散らばったり、またはこの場にとどまり接触してきた議員達へと応対するために動き出す。『アリシティア様。各部および助っ人の方々も臨戦態勢へと移行いたしました』 同時にディケライア本社では、各議員やその出身惑星や所属国家情報や、情報収集に動くアリシティア達が見聞きした情報を元に、予測状況をリアルタイム更新していくサポート体制をフル稼働させた総力戦が始まったとリルから報告が入る。「打ち上げ準備も忘れないようにね。あたし達は攻勢。最優先標的を確認次第、挑んでいくよ!」 後世日本軍の海上艦や戦闘機をコードネームに主に当てたアリシティア達の役割は、ディケライアに基本的に敵対的だったり、銀河系内勢力分布や、物流網の変化を嫌う保守的勢力勢。 ここをいかに削るか、切り崩すかが今回の課題だ。「「「「「「りょーかい!」」」」」」 程度の違いはあれどそれぞれ難敵が待ち構えているが、ほかのアリシティア達はその不安を微塵も見せずに力強く答えて、空中に指を走らせ座標を打ち込み、次々に議場内の相手標準座標へと転移していく。 自由討議と言っても、各自がこの広い議場を勝手気ままに動いては、いくらコピー体が無数にいるからと言っても、目的の相手を探す時間で無駄に浪費してしまう。 だから、各議員や参加者には確実に一人はそこにいなければならない基本座標が決められている。すなわちその場所こそが相手の本城。最大拠点。 相手方の基本座標に乗り込み討論で打ち勝てば、周囲へ自らの優勢をアピールできるが、逆にこちらの基本座標に乗り込まれ打ち負けたり、人が足りずに対処できずもたつけば、周囲からは軽んじられる。 屁理屈と事実を武器にいかに攻め、理論武装と試案を盾にいかに守るか。 それが星連議会での議論、武力を使わぬ、言葉と情報の戦いだ。 他のアリシティア達がそれぞれの役割に分かれ活動を始めるなか、もっともフラットな日本武尊アリスは、他の自分へと声をかけ送り込み、自らが乗り込む座標も呼び出しはしたが、最後の一押しをわずかに躊躇してしまっていた。 かけ声の勢いに任せノリでいければ良かったが、やはり強がってみても怖い物は怖い。 もしあのときのように負ければと、どうしても考えてしまうのは仕方ない。 どうしても一歩が踏み出せない。 かつてはそこで止まってしまった。死んでしまった。 怖くて、動けない。 だが守りたい物があったから、下がる事だけはせず、それでも前には進めず、不安を先送りにして、何もできなくなってしまった。 そんな止まってしまったアリシティアを、そこから助けてくれたのは……「で、とりあえず俺は様子見しているから、MHに突っ込むのに必要なら最初は付いてくがどうするよアリス? こっちとしちゃ少し負けてくれたら、鑑賞会につきあわされる頻度が減って助かるけどな」 いつだって背中を押す、いや蹴り上げてくるのは、にやりと嫌な笑顔を浮かべる、宇宙で一番信頼している、そして負けたくないパートナー三崎伸太だ。 かつてアリシティアがあそこで負けてどうなったかを、どれだけ傷ついたか知っていても、それをわざと口にしてみせ、さらにはその再来があった方が助かるとまで言ってみせる。 アリシティアが、自分の相棒が負けるなど微塵も思っていない癖に。 「残念でした。祝勝会の後は夫婦の時間。この間ようやく手に入れた記念すべき100番目の戦隊ヒーロー『獣神戦隊ヒャクジュウオー』記念ボックスの封を開けて一気鑑賞会を要求するからね」「それ異例かつ初の二年シリーズで全100話あるとか言ってたやつじゃねぇか。しかも動画配信してるのに、プレミアついてたコレクターアイテムを開けるなよ。樽酒じゃねぇんだぞ」「べーだ。シンタがくれた誕生日プレゼントをどうしようと、あたしの勝手でしょ」 心底嫌そうな顔を浮かべる三崎に舌を出して笑って見せたアリシティアは、いつの間にやら震えの収まっていたうさ耳を楽しげに揺らしながら、転送開始を勇ましくタップする。 視界が一瞬ぶれて、次の瞬間にはアリシティアは、もっとも信頼する三崎に代わって、異形の者達が周囲を幾重にも取り囲む敵地へと転移する。 アリシティアが立つポイントを中心に十重に二十重に囲む敵勢力議員と、そのさらに外側で様子を見る観衆議員達。 この場に全議員のコピー達が集合していると言っても、過言ではない。 彼らはここがメイン会場になると、もっとも激しい議論が交わされると分かっていた訳ではない。 かつてのように一方的にアリシティアが叩きのめされる断罪の場となると予測した者が大半だろう。 そんな観客の内側。敵対勢力の議員達は、全身が毛に覆われていたり、口元から牙がはみでていたり、分厚い鱗の皮膚を持つ、いわゆる獣人タイプと呼ばれる者が大半。 生身で宇宙空間戦闘能力を持つ、戦闘特化種族である三つ首竜人や、コウモリじみた羽を有す翼獅子人などがちらほらと混じり、さらにアリシティアの真正面に位置する、このポイントを基本座標とする議員に至っては、トラックほどの巨体を横たわせる龍だ。「よくもあれだけの醜態を見せて、おめおめと星連議会へと顔を出せた物だ。さすが恥知らずのディケライア皇家末裔だけはあるな。この姿を忘れたわけではあるまい」 首をもたげた龍が、万人が居竦むであろう鋭い視線でアリシティアを睨め付け、万物へと潜在的恐怖を与える轟雷のような声を投げつける。 かの議員は、この銀河で唯一の生身での星間戦闘能力を持ち、戦闘艦と真正面から撃ち合えるブレス能力を持つ種族である希少種龍人種であるブルレッカ議員。 その仮想体もこの議会で許される最大限の大きさにしているだけで、本体はこの数百倍、小型戦艦と同等の体格に、戦略級戦艦と同等の攻撃力を持つ、単一種能力では宇宙最強戦闘種族の代表にして、星連議会でひときわ大きな勢力を持つ旧帝国アルデニアラミレット派を率いる首魁。 ブルレッカは自らの周囲に、かつて何も言えずただ情けなくも泣きじゃくっていたアリシティアの姿を表示させると、周囲の議員達の中から、侮蔑とあざけりの色を隠そうともしない忍び笑いが聞こえ、先制の一撃を加えてくる。 国家代表として選出された議員達であるからこそ、品のない直接的な罵倒やヤジは響いてこないが、それでもなかなかにきつい一撃。 ブルレッカの周囲に集った者達も、その大半は姿や大きさは大きく異なるが、同じくアルデニアラミレット族に属する者達。 彼らアルデニアラミレットはかつて帝国の先兵として生み出され、長年にわたり帝国の覇業を支え、戦い続けていた実戦部隊種族。 だが一般には詳細は秘匿されているが先の大戦の直接原因となった、銀河帝国の別次元転移計画、いわゆる双天計画で、一部の親衛隊クラスをのぞき、その大半がまず真っ先に切り捨てられる事になっていた。 ブルレッカに至っては、銀河帝国末期にすでに一線級の地方司令として、帝国領土防衛のために、反乱軍と命を掛けて戦い続けてきた歴戦の勇士だというのに。 双天計画の情報が漏れると共に、忠義を尽くしてきた帝国に使い捨ての道具として見られ、そして実際に見捨てられることを知ったアルデニアラミレット達は帝国に反旗を翻したが、ある事情から、大半の者達は反乱軍へと合流するのではなく、他種族の机下に着くことを良しとせず、第三勢力であるアルデニアラミレットを立ち上げ、三つどもえの戦いを繰り広げて、自分たちの母星を確保した武闘派集団の末裔こそが、ここに集うアルデニアラミレット派だ。 そのような成り立ちで始まった集団であるから、旧帝国皇家の血筋であるディケライアに敵対的となるのは致し方なく、中には旧帝国系と分類される事を嫌う者達も少なくないほどだ。 向けられる数千の侮蔑と敵意の視線と声。 かつてアリシティアはこれに圧倒され、さらにその後のブルレッカの断罪に負けた。殺された。「うわっ。趣味悪……自分が泣かせた女の子の画像を後生大事に抱えているなんて、長期の稼働で精神にどこか問題抱えていません。いい病院をご紹介しましょうか。特にあなたはうちのご先祖の製品ですし」 だが今のアリシティアには、この程度の先制攻撃の嫌みなど通じるはずがない。 聞こえる程度に小声で罵倒してから、にこりと笑って見せながらも、うさ耳をのぼり旗のように堂々と掲げて、鼻で笑ってみせ、さらにはブルレッカの逆鱗をつく言葉を真正面からかます。 銀河においてもっとも尊ばれる価値観は、自然の物であること。それは出自にも当然適用される。 自然発生した種族が英知を重ね、自らの欲望を抑制し、やがて宇宙へと進出し、恒星間文明を築き上げる。 大きな戦乱も、惑星規模の災害も乗り越え、文明を発展させ積み上げた技術で得た勲章。それこそが恒星間文明。 だがアルデニアラミレット達は違う。彼らはキメラ種族。様々な遺伝子を組み合わせて、強化し、戦道具として帝国によって生み出されたデザイナー種族。 これが彼らが反乱軍に合流しなかった最大の理由。 作られた種族であることを理由に見下されることを嫌い、いいように利用される事を恐れたからだ。 そしてその懸念は事実でもある。 今では名目上も法律上も同等に扱われているが、彼らを作り物と見下す風潮は、少なくなっても、確実に存在する。 禁忌ともいえる発言を放ったアリシティアに向けて、刺さるような殺意が周囲から一気にふくれあがり、同時に外の観衆からはそんな彼らに、図星を指された事をあざける忍び笑いが聞こえてくる。「小娘が。我らへの無礼をさらに重ねるか。おまえのような愚物が、銀河文明をかき乱すあの未開文明の猿に股を開いたせいで、さらに混沌を呼び込むのだ」 だがブルレッカは顔色一つ変えず、あざけりをさらに繰り出し、アリシティアの趣味をくだらないとかつてのように断罪する。 この程度の罵倒など、長い時を生きるブルレッカは何度ぶつけられたか数え切れない。程度の低い挨拶代わりの挑発だと見切り、自分のペースを保ち続けている。「かつてのように頭を垂れ謝罪行脚を開始すれば良かろう。自らの評価に触れることを怯え、逃避先として未開文明のしかも創作物に興じたおまえには、どうせ打開策を論じる脳もなく謝ることしかできないのだからな」 かつてアリシティアを打ちのめしたのと、同じような言葉を意図的にブルレッカは放つ。 不慮の事故で受け継いだ社長業。そしてその後の身の丈を顧みない失敗の数々によって、星間ネットワークに溢れた罵詈雑言に晒されたアリシティアが、自らや会社の名前が絶対に出てこない場所。 唯一残った資産星系である太陽系の未開文明惑星地球を観察するという、現実逃避的趣味に逃げ込んだことを指摘し、恒星間企業のトップたる資格などないと断言してみせる。 鋭い視線、居竦む声による強い精神的重圧を伴う圧迫。そして自分でも分かっていた逃げ。 純然たる事実を指摘され、強い声と視線でまるで洗脳されるかのように、自分を否定して、アリシティアはかつて殺された。 過去の自分の行いを、趣味を、完全否定し、引きこもってしまうほどに、打ちのめされた。 しかし、あえて言おう。だがこの程度の圧迫など今のアリシティアに通じるはずがないと。 現役時代、三崎の悪辣な場外戦術や心理トラップにはまった、”敵、味方”の罵詈雑言が溢れたギルド攻防戦を無数に超えて、鍛え上げられたレスバトル能力。 最終装備として愛用した防具一式は、レア通常モンスター最強格黄金龍アルドドラゴンを千匹討伐して、1つ出るか出ないかという黄金龍鱗を10枚必要とした廃神御用達高防御&確率自動魔法反射スキル付属の廃装備『夜明けの黄金龍』。そのために倒したドラゴンの数だけ龍とは対峙してきた。 周囲を取り囲む異形の集団? そんなMH。モンスターハウスに三崎と突っ込んだ数なぞ数え切れないくらい。むしろ敵たっぷり、ほかに競合無し。 これを狩り場と言わずになんと呼ぶ! それらアリシティアが積み上げてきたものは、ブルレッカが、他の議員が、銀河文明が、未開文明の創作とあざ笑い、見下す物達から生み出された経験。 だがその経験を武器に、アリシティアはこの場で、星連議会で一切ひるまず戦えるのだ。 だったらそれは作り物ではない。しっかりと、目に見えずとも、物として存在しなくても、ここに、心に存在する真実。本物以外の何物でもない。 そして今この瞬間は隣におらずとも、この戦場は、最愛の、最大の、最優のパートナーが支配しようとする場。 ならば負ける要素など、ひるむ理由など皆無。打ち込まれた皮肉を、さらに何十倍にでも強めて返してやるだけだ。「あれ、前の時はともかく、何か謝るようなことが今回はありましたっけ? あー前にうちの人に、支配下のはずのお味方をいくつか切り崩されたことですか。初めて知りました。猿とあざけんでいる人に負ける、宇宙最強戦闘種族(笑)の方がいらっしゃるんですね」 身一つ。コピー体さえ作れず、制御できない脆弱な知能と精神と三崎を侮ったが故の、手ひどい失敗を、今思い出したかのようにわざとらしく告げて見せる。 「とぼけるな小娘! 我らの情報を、おまえ達はゲームと称して断りもなく利用し、あまつさえ恥とする試作星間戦闘甲冑のデータをどこから持ち出してきた!」 「先ほどの映像ですか。許可は取ってますよ。だってあたしの父や、叔母それに従兄弟の姉は旧帝国親衛隊長の血を引く一族、つまりはアルデニアラミレットの本家本元。そーれーにー私も当然その血を引くんだから、無断使用じゃないでしょ。見事なまでに反対無しで可決されましたよ。賛成の人……はーいっ。てかんじで」 屁理屈にもほどがあると我ながら思うが、三崎の編み出した相手を激怒させる理論理屈をぶつけ、手を挙げてみせる小芝居も付け加える。 このふざけきった態度にさすがにブルレッカの顔色が変わる。 具体的には怒りで赤く染まるが、言葉は出てこない。どうやら怒りのあまりで二の句が継げなくなったようだ。 レスバは怒った方が負けだと教えてやれと三崎は言っていて、さすがヘイト上げの達人と、あきれ半分で感心はするが、そこまでおんぶでだっこもちょっとしゃくに障る。 だから自分なりのスパイスを追加。自分が好きな物が、足かせではなく行動するための活力やアイデアの元であると指し示すために。「試作宙間戦闘甲冑って正式名もいいですけど、わかりにくいですよね。獣人族の方が身につけるが逆転の一手。祖霊転身【メガビースト】の方がしっくり来ませんか」 終わりが見えず続く先の銀河大戦で、上位族である宙間戦闘能力を持つ者達の戦死による不足を補うべく、下位族である獣人タイプの力を最大限活用した能力底上げ用の試作兵器がアリシティアがメガビーストと呼び、祖霊転身に組み込んだギミックだが、その現実での扱いはいわゆる珍兵器と呼ばれる物になる。 能力を最大限に生かす趣旨は分かるがなぜ人型にする。 効果的に使える宙域が限定されすぎる。 人手不足を補うために、一人一艦構想はいいが、個々の能力差がありすぎて統一された艦隊行動や、安定した作戦を立てるのに支障がありすぎる。 戦場への輸送能力を考えた移動形態と、戦闘形態の両立だからといって、あそこまでの変形機構はコストにあわない。 そもそも規格が違いすぎて、製造工場も、部品も、補修設備も一から作り直す必要があるうえに、大戦で疲弊した今の生産応力にそんな余裕があるわけがない。 考えるまではまだ分かるが、なぜ本当に試作した。する前に欠点に気づけ。 所詮は戦うしか脳がない、戦闘種族の浅知恵等々。 散々に叩かれ馬鹿にされた、宇宙版パンジャンドラムのような試作兵器。 悪い意味で黒歴史化した珍兵器。それが試作型宙間甲冑の正体だ。 だがアリシティアには違う。そう違うのだ。「悪評がいろいろあるのは知っていますよ。でもそんなのはくだらないんですよ。あざ笑う輩になぜ変形するか!? なぜ獣人型にしたか!? と問われたら、私はこう答えます。『カッコイイからだ!』ってね」「ふざけるのもいい加減にしろ小娘! 脳まで毒が回って知性が下がったようだな!」 「あらお気に召しませんか。じゃあまじめにいくならこっちで。『武器の可能性というのはアイデアだ。性能を満たすのは技術の問題だ。私ならその試作宙間戦闘甲冑のアイデアは捨てんぞ』でしょうか」 これらが借り物の言葉であろうとも、その勢いと力強い説得力は、アリシティアにあの機構を、あの機体を愛する事が間違っていないと確信させてくれる力強い名言。 そう迷言ではなく紛れもない名言なのだ。「理解できないなら語ってみせましょうか! 私が愛する物の格好良さを、浪漫を! 理解できないってなら、理解するまで布教してあげますよ! ゲーム内で試してみたくなるくらいまでに!」 これは戦い。復讐と取り戻すための戦いだ。 かつて全否定されたオタク趣味を、それによって否定してしまった機会損失は数十年分に及ぶ。 宇宙では一瞬かもしれないが、文明発展速度が早い地球では致命的だ。 見逃した作品群を後から見ても、つい欲求に負けてネタバレを知ってしまっていたために、超展開に心の底から驚けなかった恨みを。 DVDで修正される前の放映時作画崩壊をある意味で楽しんだり、原作レイプだと罵倒する祭りに参加できなかった寂しさを。 偉い人から怒られて、放送禁止になったり、差し替えられた初回放送を今では見られない悲しみを。 たとえ手元になくともと満足していた初回限定生産品を当時手に入れられず、地球が近くに来たからと手に入れようとしても、プレミアが付いて、無駄にオークションで張り合って相場を荒らして、リルに叱られ、三崎にあきれられた無念を。 万感の思いを込めて、アリシティアは過去のトラウマと向き合う。 他者に理解されずとも、すばらしい物だと思われずとも、自分が地球文化(恣意的かつ限定的)が大好きだと大いに唄うための戦いだ。