サンダイル暦1220年
フィニー王ギュスターヴ12世とノール侯ソフィーとの間に二人の息子が生まれる。
オート侯との決戦に勝利と共に生まれた子達はこれからのメルシュマン統一に於ける兆しであろうと認識した。
「先に生まれたのは」
「この子ですわ陛下」
産後間もない双子の左の子を指さす母ソフィーは、若干疲れていたが意識もはっきりしている。
「よし、兄は父祖を継ぐギュスターヴ、弟はジャンと名付けよう」
時代の革命児たる二人の父親として歴史に名を残すギュスターヴ12世は、史書に於いて権謀の人だと言われる。しかし、この時はこの瞬間だけは自分の跡を継いでくれる息子の誕生を喜んでいた。
ジャン殿下は幼少時より視点が違う人物であった。ギュスターヴ殿下は利発な子どもだったが、ジャン殿下は子どもの皮を被った大人のようであった ある書記官の手記より
サンダイル暦1226年
『鋼のギュスターヴ』の双子の弟というのは遺伝子的にはどうなのだろうかというのが生まれ落ちた時のジャンの感想だった。死ぬまでの記憶を持ったまま異世界に生まれ落ちるというのは中々体験できるものでは無いのだが、時折テレビ番組などで前世の記憶を持っていたという人が出ているのだから皆無ではないのだろうと結論づけた。
自分はかつて日本という島国で生まれ育った人間である。術やらモンスターのいる世界とは無縁であったことを思いだすと同時に、ギュスターヴという人名とファイアブランドという言葉は、四半世紀前にやっていた懐かしいゲームの世界であることに気付いたのだ。
有り体にいってしまえば地球という星で国内の平均寿命と比較するとやや短いながらも人生を大過なく終えた自分は、サンダイルなる世界に飛ばされたということになる。もっとも、譫妄状態の自分が見ている夢であることも否定できないが。
「しかし、ギュスターヴの弟とはな」
術不能者から当代を代表する人物と成った鋼のギュスターヴ。その最期はどこか織田信長に似ているのにだが、とりあえず今の関心事と言えば自分に術の適正があるか否かである。
鏡に映る兄に似た容姿を訝しむジャンは現在、6歳。術という現象の発露を扱ったことはないものの、意識すれば自分の体にアニマが巡っているのも「視える」。そう視えるのである。
「どうしたんだジャン、シルマール先生がいらっしゃるぞ」
勢いよく部屋に兄であるギュスターヴが入ってきた。自分が病弱とは思っていないが、兄ほど体を動かす才能が無いことも理解している。
(術不能者の方が肉体的に強い? それともギュスターヴだけの遺伝的特質か。これは調査した方がいいか)
「もうそんな時間か。分かった」
嬉しそうにシルマール師の元へ向かうギュスターヴを視る。白い靄のようなものが世界に満ちあふれており、これが大気に溢れるアニマであるとジャンは認識している。普通の人はアニマを吸って、呼気と共に吸った量より少ないながらも靄を吐き出している。だがギュスターヴはアニマを吸っているが靄が出ることはない。
人間もそうだが、生き物は酸素を吸って二酸化炭素を出すように大気中のアニマを吸い排出する。しかしギュスターヴはアニマを吸い込んでも出すことはない。これは生物的には歪である。
自分たちの師として招かれているシルマールはアニマを大量に吸い込んで排出する量は少ない。これはアニマコントロールが優れている証拠なのだろう。しかし、ギュスターヴはアニマを全然出さない。しかし「目」を凝らせばギュスターヴの中には生まれて時から蓄え続けられ濃縮されているアニマが存在していることが分かる。
当代最高の術士であるシルマールは、それを強いアニマと評した。それは黒い箱の中に入っているダイヤモンドを見つけるようなものであり、通常の人間ができるわけがない。もはや超感覚と言ってもいいだろう。
「絶縁体みたいなものか」
「絶縁体?」
目の前にいる30代の男性こそ兄弟の教師であり、当代随一の術士と謳われるシルマール先生だ。穏和そうではあるが、中身は結構熱い人物であることをジャンは識っている。
「すみませんシルマール先生、別のことを考えてました」
「ギュスターヴ君は真剣に勉強しますけどジャン君は・・・」
「申し訳ありません」
自分が術を使えることは理解していたので、今の関心は術で何ができるのかということだ。そういった点でシルマールの術に対する視野の広さは勉強になっていた。
「ギュスターヴ君は先に戻って結構です、ジャン君は少しお話しましょうか」
「きっちり絞られろよジャン。シルマール先生失礼します」
ギュスターヴが出ていくとシルマールはため息をついた。
「かつて我が師であるルナストル先生が私を見つけた時の話を冗談だと思っていましたが、その時の気持ちが良く分かります。ジャン君のアニマは同じ頃の私よりも多い」
確かクヴェルと勘違いしただったかな。確かにあれだけ濃厚なアニマを蓄える先生はクヴェルに匹敵するだろう。
「アニマの濃さならギュスターヴの方が上ですよ。ただ」
「ただ?」
「俺も先生も含めた普通の人間はアニマを術という形で発現できますが、もしアニマがあっても術が使えないのなら何が原因だと思いますか?」
「難しい質問ですね。術不能者が術を使えないのはアニマを蓄える能力に欠けているからですという見解が一般的です」
「では、術者と一般人、術不能者を比較した場合の健康的な傾向は。アニマが生命の源であるならば術士は統計的に長生きの可能性は高いと思いますが、一般人と術不能者は大して違わない。その辺はどうなんでしょう」
「その視点はいいと思います。アニマを生命の力と仮定するならば術不能者は若くして命を失うことになるでしょう。しかし現実的に術不能者の寿命が短いのは生活環境にあると思います。これは社会的な問題であって、生物的な問題ではありません」
「先生、俺はアニマを扱う才能があると思います。ですがそれは力を誇示するためでもなく、社会の問題や軋轢を少しでも少なくするために使うべきではないでしょうか。計算するのにアニマは不要ですし、芸術にアニマは不要です」
差別を無くすことはできないが、相対的に差別を少なくすることはできる。それが貴種に生まれてしまった自分の成すべきことだとジャンは思っている。兄は鉄を使い、自分は術を使って世界を変える。だが、これからの運命は知らないシルマールは嬉しいような悲しいような表情でジャンを見据えた。
「ジャン君、君の考えは尊いと思います。ですが、メルシュマンという土地は良く言えば伝統的、悪くいえば頭が固い人たちの集まりです。将来君はノール侯になる身。おそらく配下達が付いてこないでしょう」
「では、もし俺がフィニーを離れたのなら先生は協力してくれますか」
「それは私の弟子になりたいということでしょうか? そんなことはあるはずもないですが、その時は君を私の弟子することにしましょう」
この時、シルマールは想像もしなかっただろう。フィニー王家の後継者であるギュスターヴがファイアブランドの継承に失敗して追放され、ジャンも出奔して共にグリューゲルに連れて行く運命を。
サガフロンティア2ファンの方はじめまして。
同じくチラ裏でバルドスカイのSSを書いています。
まあ他にも3つくらい書いて投げ捨てたのがありますが気にしないでください。
はい、よくある主役の兄弟に生まれたチートキャラが色々やらかすタイプの話ですが、相対的にギュス様の方にも設定的なプラス補正が加えてあります。
はーれむ? どんかん? 何それおいしいの? 貴族に恋愛の自由なんてあると思うの?
サガフロ2オリキャラものそれなりに増えて欲しいと思うんですけど中々無いんですよね。年代別に色々できるからやりやすいと個人的には思うのですが。つまるところはどうやってエッグをフルボッコにするかというのが課題になります。設定語りしてもウザイのでこれだけいきましょう。
ギュスレスは正義、浮気は認めない。
相愛なんだからさっさとガキ作っちゃえよ
目標は1週間に1回更新でメインストーリーは年内完結でしょうか。進めばサブシナリオを埋め込むことにもなるでしょうがそんな感じです。