≪前書きという名のご報告とお詫び≫2012年11月22日
まず、更新が滞ってしまっていることを深くお詫びいたします。
半年近くの更新停止にも関わらず、感想板に書き込まれる暖かなお言葉や、定期的に見にきてくださる方がいるのか地味に伸びるPV数に、感謝と申し訳なさを募らせる日々です……
今回の更新停滞についてですが、P4G一周目クリア後、執筆再開しようとしたものの、長らく書いてなかったせいか時間はあるのに巧く書けない→カンを取り戻してきたと思ったら忙しくなって時間がなくなる→暇が作れるようになったら今度は身体を壊す、という最悪のコンボをかましてしまった結果です。
体調に関しては現在も完全復調とはいかず……別に命にかかわる重病とかではないですし、タイピングができないような状態というわけでもないのですが、長時間集中することが少々難しい状態です。満夜はある程度纏まった時間PCに向かわないと執筆が進まない質(ちょこちょこ書きためるのが下手)なため、本編の更新は今しばらくお待たせしてしまうかと……本当に申し訳ありません。
これまで以上に亀になってしまいますが、それでも、生きてタイピングができるかぎり書き続けるつもりですので、お待ちいただければ幸いです。
以下は、本編更新停滞のせめてものお詫びがわりにと、初期の設定データから見つけてきた短編風の没エピソードになります。
序盤の時点で書いては見たものの、“白バージョン”の方が採用されてしまったことで没になった“足立のシャドウ(黒)”、そのマヨナカテレビエピソードと、ダンジョンの設定になります。
この短編での足立さんは特捜隊入りしていません。“テレビの中の世界”とかペルソナとかシャドウとか全く知らない状態でテレビの中に落っこちちゃった感じです。時期はメンバー的に『雪子パーティー入り後~完二パーティー入り前』のどこか。現在の本編を書き出す前、設定を固めるために書いた、チラ裏にある旧作と本編の中間みたいな設定なので、いろいろ適当です(汗)
本編から完全に乖離したIF短編の上、とんでもなく尻切れトンボですが、色々あって本編に出せなかった足立の黒シャドウを、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。
≪IF番外:神の居ない礼拝堂≫
電源を切ったテレビの画面に映し出されたのは、砂嵐がかかった不明瞭なものではなく、背景まで見える鮮明な映像だった。
皺ひとつない純白のタキシードに、洒落た臙脂のリボンタイ。短い黒髪をきっちりとオールバックに整えた細身の男性が、白い西洋風の建造物を背景に立っている。チャペルを思わせるその建物も相俟って、男の姿は結婚式を控えた新郎のように見えた。
『どぉも~、こんばんは~!』
どこか間延びして響く、憎めない声。聞き覚えのあるその声と同時に、その男の顔が大写しになった。
普段の見慣れた姿とは打って変わって整えられた髪型と服装のため、それまで気づけなかったが、にこやかな笑みを浮かべた愛嬌のあるその顔は、よく見知ったもので。
『今夜はこの僕、足立透の、一世一代の大勝負を皆さんにご覧いただきたいと思います!』
赤い薔薇の花束をマイク代わりに、その男ははっきりと己の名を口にした。
「――足立さん……」
思わず漏れた暁の声に返事が返るはずもなく、画面の中の男は笑顔のまま“番組”を進行し続ける。
『世知辛い都会で擦り切れた男が、行きついた小さな田舎町で得た安らぎ。そこから生まれた切ない想いは、果して叶えられるのでしょうか?――題して!』
間を置くように切られた言葉と同時に、顔のアップから大きくズームアウトし、一歩引いたような映像に切り替わる。そうして、花束を軽く掲げたようなポーズで立つ男の横に、カラフルなテロップが映し出された。
『――激白!愛の幸せ家族計画~!』
満面の笑みでテロップそのままのセリフを吐いて、男は画面に向かって花束を差し出す。――そのことで、満開の花の中に固く閉ざされた蕾が混じっているのが見て取れた。
『果たして愛の花は咲くのか散るのか……その結末を、どうぞお見逃しなく!』
その台詞を最後に画面が暗転し――沈黙が訪れる。
「……足立、さん……」
思わず、その場で崩れ落ちるようにへたり込む。
――「暁、今日、足立を見かけなかったか?アイツ、無断欠勤しやがってな。……風邪でも引いて寝込んでるのかと思って、帰りに様子を見に行ったんだが……家にも居なくてな」
つい数時間前に叔父からそう告げられた時、真っ先に浮かんだ最悪の事態。――それが現実のものとなってしまったのだ。
と、机の上に置いた携帯が着信を知らせる。サブディスプレイに映った仲間の名前を見て、慌てて通話を繋げた。
「は、はい、もしもし」
『あ、神代?今の見たか?』
スピーカー越しの陽介の声。耳慣れた仲間の声に、ほんの少し動揺が収まる。
『映ったの、アレ、刑事さんだよな?神代の叔父さんの相棒の……』
「――うん、足立さんだった。……叔父さんに聞いたんだけど、足立さん、今日無断欠勤して、家にも居なかったらしいの」
暁の答えに、『となると、ほぼ決まりかよ……』とため息まじりの声が返る。
『……しっかし……『事件に関わってる』って意味なら、事件捜査してる刑事は確かに“事件関係者”って言えなくもねぇけど……そんなん稲羽署の刑事、殆ど全員該当者になっちまわねぇ?そん中で、どうして足立さんだったんだ……?』
スピーカー越しに聞こえる陽介の声は、暁に問いかけているというよりも、疑問を口に出すことで思考を整理している調子だった。
しかし、現時点では判断材料が足りなかったのか、しばしの間の後、『ダメだ、わっかんねぇ』と苦々しげに呟くのが聞こえた。
『――とりあえず、明日の朝イチ、クマんとこ行こう。……神代も足立さんのことは心配だろうけど、ちゃんと休んで体力温存しとけな』
「……うん、ありがとう」
気持ちを切り替えるような声音の後、こちらを気遣うように添えられた言葉。それに何とか小さく頷けば、『じゃ、また明日な』と通話は切られた。
陽介と交わした言葉を嘘にしないよう、布団を敷いて横になるも、瞑った瞼の裏に先ほどの“マヨナカテレビ”の映像が浮かび上がる。
――画面に向かって差し出された、赤い薔薇の花束。
満開の花の中に蕾が混じっていたことが、妙に暁の意識に残っていた。
満開の花で揃えた方が花束としての見映えは良かっただろうに、そこに混ぜられた、未だ固く閉ざされた蕾。
(――あれも、何かの暗喩なのかな……)
鮮明な映像で写し出される“マヨナカテレビ”は、“あちら”に入れられた被害者の心理から生まれたもの――“あちら”の住人であるクマが、そんなようなことを雪子の時に言っていた。
だとするならば、そこに写し出されたものに、まるで無意味なものはきっとない。
そうは思うものの、結局その意味はわからないまま、暁はとろとろと浅い眠りに落ちていった。
* * *
「“こちら”に居るのはわかるが、どの辺にいるかわからない」というクマへのヒントとして、足立の“人柄”を調べることになったものの、いきなり一同は壁にぶち当たっていた。
足立がこの町に来てから日が浅いのもあってか、聞き込みをしても同じような情報しか得られないのだ。
――いつも笑っている、人当たりのいいお調子者。
しかし、その程度のことは、聞き込むまでもなく一同の知る情報だったし、それを告げてもクマセンサーは反応してくれなかった。
一番彼に詳しいだろう相棒である堂島にも聞き込んでみたが、「なんでそんなこと訊くんだ?」と逆に突っ込まれまくったあげく、そうこうしているうちに堂島へ仕事の連絡が入り、そこで話を切り上げられてしまったのだ。
仕方なしに、一同は切り口を変え、昨夜の“マヨナカテレビ”に何か手がかりはなかったかと、ジュネスのフードコートで話し合うことにした。
「後ろに映ってたの、あれ、教会っぽかったよね?」
「教会っていうより、チャペルみたいな感じだったけど……それも、結婚式とかに使われるウェディング・チャペル。足立さんの格好、何だか新郎さんみたいだったし」
千枝の呟きに、雪子が答える。その言葉に、陽介は思わず首をかしげた。
「ウェディング・チャペル?普通のチャペルと何か違うのか?」
「えっと……私も詳しくは知らないけど、結婚式のためのチャペルっていうか……」
雪子が説明してくれるが、余計によくわからなくなる。千枝も同じだったらしく、不思議そうな顔をした。
「結婚式専用のチャペルってこと?え、そんなんあるの?」
「えっと……チャペルは本来、神様への祈りを捧げるための礼拝堂のことなんだけど、それってつまり、信者さんのための場所なんだよね。――でも、信者じゃなくても、チャペルでの結婚式に憧れる人もいるでしょう?」
暁の言葉で、ようやく得心がいった。なるほどなぁ、と呟きが漏れる。
「日本人だと特にそういうの多そうだよな。神様は別に信じてないけど、『ステンドグラスと十字架の元で愛を誓う』的なシチュエーションには憧れるってヤツ。……つまり、ウェディング・チャペルっつーのは、そういうヤツのための場所な訳か」
「あー、そーゆー……ってことは、ウェディング・チャペルって、ようは外見似せただけの『チャペルっぽい式場』なんだ」
千枝の端的なまとめに、思わず苦笑が漏れた。自分の言い方も大概だったが、そういう風に言われてしまうと、途端に俗っぽい印象になる。
「――神様に祈る場所に似せた、でも、神様のいない場所……」
「……え?」
聞こえた呟きに、思わずそちらを振り返る。
何やら神妙な顔をしていた雪子は、こちらの視線に気づくと小さく頭を振った。
「千枝の言葉を聞いたら、何かそんな意味にも取れるな、って思っちゃって。気にしないで」
いくらなんでも深読みし過ぎだと思うし、と苦笑した雪子の横で、暁が「……深読みし過ぎ、かぁ」と小さく声を漏らす。
「ん?どうした、神代?」
声をかければ、彼女は慌てたように頭を振る。
「あ、ううん……大したことじゃないの。……昨日の“マヨナカテレビ”に映ってた花束が、ちょっと気になってて……私も深読みし過ぎかな、って」
「あ!あの薔薇の花束でしょ?あれ、あたしもちょっと気になってた」
と、千枝が勢いよく声をあげる。何か変なところがあっただろうか、と記憶を探るより先に、千枝が言葉を続けた。
「半分近く蕾だったよね、あの花束。それも半開き、とかじゃなくて、全然まだ開く気配のないヤツ。なんかちょっと花束としては不恰好だったから、記憶に残ったんだよね」
「え、マジで?……覚えてねぇ……」
“足立”の言動の方にばかり気をとられて、彼が持っていた花束の様子なんて、まるで記憶に残っていなかった。しかし、暁と千枝が言葉を揃え言う以上、確かだろう。
「それ、確かに気になるかも。薔薇って色ごとに花言葉が変わるし、花だけじゃなくて、葉や蕾にも個別に花言葉があったはず。花束とかになると蕾や葉が混じっているかどうかで、また意味が変わるし」
「そ、そうなのか?奥が深いな、花言葉……つーか、よく知ってんな、天城」
雪子の言葉に思わず目を剥けば、なんとも言えない苦笑が彼女の顔に浮かんだ。
「前にね、ロビーに飾ってたお花の花言葉に関して、お客さんからクレームが来たことがあって……その時に、もうそういうことがないようにって、花言葉に関して色々調べたの」
「……そりゃまた……大変だったな……」
客商売する上で大変なことは多々あるが、クレームへの対応はその筆頭と言える。些細な苦情でも、対応を誤ると後々面倒なことになるのだ。親が勤める店で体のいい便利屋扱いされている陽介も、その厄介さは身に染みて知っている。
「え、えっと……それで?その肝心の花言葉って何なの?雪子」
と、雪子と陽介の間に流れた微妙な空気を変えるように、千枝が声を張り上げた。
「あ、そうだった。――えっと、赤い薔薇の場合、花も蕾もどっちも“愛”を意味する花言葉なんだけど……両方を合わせた花束だとまるで違う意味になったはず」
「まるで違う意味?」
首をかしげた親友に一つ頷いて、雪子はその言葉を告げた。
「うん、確か――“秘密”って意味だったと思う」
秘密、と思わず告げられた単語を口の中で繰り返す。
「……言われてみると、確かに足立さんにぴったりの花言葉かも」
どこか悲しげな声音で、暁がそう呟いた。
「足立さん、よく叔父さんに連れられて家にご飯食べに来てたのに、私、足立さんのこと全然知らない。――足立さん、すごく話を盛り上げるのが上手で、お喋りっていってもいいくらいなのに……今思い返すと、不自然なくらい、自分に関することは何も話してくれなかった」
例えば、と悲しげに目を伏せたまま、暁は語る。
「私や菜々子ちゃんが、学校の話をして……その流れで、叔父さんや足立さんの時はどうだったか、訊いたことがあったの。その時も足立さん、叔父さんの方にばっかり話を振って、それを茶化す形で、自分のことは何も話さないまま話を流しちゃった」
盛り上げ方が上手だったせいで、その時は気づけなかったけど、今思うと不自然だった――そう、暁は呟いた。
「……それ、逆に言えば、自分の過去に触れられることを極端に嫌ってた、ってことじゃないかな」
「うん……何か聞いてる限り、そんな感じだよね」
雪子の言葉に千枝が同意する。陽介も同感だった。
「表向きには人当たりのいいお調子者だけど、その反面、自分の過去に触れられるのを嫌う秘密主義……これ、クマへのヒントになるんじゃね?」
「わかんないけど……何もないよりマシだろうし、言うだけ言ってみよう!」
とりあえず動こう!と言わんばかりの千枝の言葉に背を押される形で、一同はクマの元へと向かう。
結果として――クマはその“ヒント”によって、一同を白いチャペルまで導いてくれた。
――“秘密にしている”ことさえ“秘密”にしていた男が待つ、神のいない祈りの場へと。
* * *
そのダンジョンの中は、チャペルのような外観からはまるで想像できない内装だった。
まず入ってすぐのフロアが、堂島家の一階そのままの作りだったことに、愕然とした。
そこだけ外観に合わせてステンドグラス風に姿を変えた、居間の大窓。そこから差し込む光に照らされた食卓には、使い込まれたごく普通の食器類の上に、暖かな色合いの花々が盛り付けられていて。
生活感溢れる居間と、神聖なものでも祀るような飾りつけ。そんなちぐはぐな取り合わせに立ち尽くす一同の耳に届いたのは、暁自身を含む堂島家の面々と足立の談笑の声。
暁自身の記憶にもある、足立を堂島家の食卓に招いた際に交わした、他愛ない会話。――けれど、それも目の前の光景と合わされば、意味深な響きを帯びて聞こえて。
――その印象は、地下へと続くダンジョンを進んでいくほどに、確信を深めていく。
本来の堂島家であれば、二階に続く階段がある場所に、地下一階に続く階段はあった。
さも普通の床のように偽造された隠し戸の下にあった、その階段を下った先には、またまるで別の光景が広がっていた。
見覚えのあるその廊下が、足立が勤める稲羽署のものだと気づいたのは、揶揄を含んだ男たちの声を聞き終えた後だった。
――『あの間抜け面。あれで本当に本庁勤めエリートだったのかよ』
――『間抜けだから、“元エリート”に落ちぶれちまったんだろ』
――『あははは!道理だな!』
知らない声たちが語る“元エリート”が誰のことか、考えるまでもなくわかった。――だが、この言葉を聞いた時の彼の心境は、とても察しきることなどできなくて。
“彼”の内心を表したはずの場所なのに、“彼”自身の声が聞こえてこなかったことが、余計に胸に刺さった。
次の階は、地下一階と似ているはいるものの、より小綺麗な印象を受ける廊下だった。
――『足立警部の左遷、本当らしいぜ』
――『マジで!?ヘマしたとは聞いたけど、左遷されるほどのもんじゃなかったろ!?』
――『あれだけなら確かにそうだけどな。あの人、出世のために色々黒いこともやった、なんて噂もあるし……それでじゃね?』
――『あー、そういうことか……だとすると、自業自得ってことなのかもな』
聞こえてくる声から、この廊下が本庁を表したものだと言うことは察せられた。だが、やはり足立自身の声は聞こえてくることなく――故に、その内容の真偽まではわからなかった。
次の階は、また少し趣が違った。廊下の様子だけでは判断できなかったが、並んだ扉の先に講堂を思わせる部屋が広がっているのを見て、どうやら大学を模したらしいフロアだと知れた。
下りてすぐにクマが告げた「この階に何かいる」という言葉の通り、廊下の突き当たりにあった扉の向こうに、“彼”は居た。
『ああ、暁ちゃん!僕のために、わざわざこんなところまで来てくれたんだね』
「――あ、だち、さん……?」
こちらを認めた“彼”にいきなりそんな言葉を投げられて、思わず呆然とその名を呟いていた。
聞き慣れた声音と口調、敵意の欠片も感じられないにこやかな笑み――どれもよく知る“足立透”そのもので。
だが、妖しい金の瞳と白いタキシード、そして手にした赤い薔薇の花束が、目の前の男が“影”の方であると、明確に示していた。
『お友達さんたちも、面倒に巻き込んじゃってごめんね~?――お詫びにお茶でもご馳走するからさ、ゆっくりしていってよ』
あまつさえ、千枝たちの方を見て詫びるその様は、とても“影”のものとも思えなくて。
「あ、いえ、お構い無く……」
「――って、待て待て!アレ、あからさまに“影”の方じゃねぇか!『お構い無く』とかいう以前の問題だろ!?」
思わず“彼”の言葉につられたような雪子の言葉に、我に返ったらしい陽介のツッコミが響く。
――その言葉を、合図にしたように。
どこかズレたものではあれど、穏やかだった空気が一変した。
『……ひっどいなぁ……』
それまでと、何が変わったわけでもない、そのままの声音と口調。
『“影”の僕とは、一緒にお茶もしたくないって?』
だというのに――足元から這い上がるこの怖気は、何なのか。
『ね、暁ちゃん……暁ちゃんは、そんな酷いこと言わずに、僕に付き合ってくれるよね……?』
見慣れたままのにこやかな笑みが――どうしてこんなにも恐ろしいのか。
得体の知れない恐怖に、思わず凍りついたその一瞬――その隙をつくように、“彼”が動いた。
こちらに向かって投じられた、薔薇の花束。――暁の真上に来たそれは、一瞬にして伸びて解け、茨の檻と化して暁を閉じ込める。
「えっ――きゃぁっ!」
我に返るより先に檻が動き、気づけば暁は、檻ごと“彼”の真横に移動させられていた。
「――暁ッ!」
「……テメェ、やっぱ猫被ってただけかッ!」
「アンタ、暁をどうする気ッ!?」
気色ばむ仲間たちの様子などまるで無視して、“彼”は檻の中の暁を見つめ、どこか陶然とした笑みを浮かべる。
『大丈夫。僕と一緒ならシャドウは襲ってこない。僕が、そんなこと赦さない。……だから、一緒にここで暮らそう?』
どこまでも穏やかに。――それでいて、底知れぬ狂気を感じさせる声音で、彼は告げるのだ。
『堂島さんや菜々子ちゃんも呼んで……皆で一緒に……ずーっとずーっと一緒に……』
それが“妄執”と呼ばれるものだとわからぬまま――ただ、そこに込められた歪な感情は察せられて。
(――これは、誰?)
ただ愕然と、見知った男の顔をした、知らない誰かを――怯えた眼で見つめ返していた。
――――――――――――――
やべぇこのまま行くとこの影R18なことやらかす――という書き込みと共に、ここで終わっていました(汗)
この黒シャドウを本編で没にしたのは、R18(エロだけじゃなくグロ含む)な展開になりかねん、と思ったからでした(汗)
この後、もうちょっと言動マトモなシャドウにしたい→や、でも足立って根がゲスいし……→じゃ、いっそ、逆に“八十稲羽に来てからの白足立”をシャドウとして出せばいいじゃん!という過程を経て、本編のようになったわけです。
以下は、一緒に残ってた箇条書きの設定です。もう日の目を見ないと思うと、思わず勿体ない根性ががが。
・足立の心の中で“八十稲羽に来てからのお調子者な自分(仮面だと思ってる部分)”と、“それ以前からの腹黒い自分(本性だと思ってる部分)”が解離してしまっている。
・前者でありたいと望む分だけ後者を拒絶し、後者が本性だと思う分だけ前者を否定する(受け入れきれない)という、どっちつかずな状態。
・上の結果、どっちでもありどっちでもない、“にこやかに外道な影”が爆誕☆
・“仮面”部分しか見せていないことで『暁たちを騙している』という罪悪感を募らせている。
・『暁たちに好かれているのは“仮面”としての自分であり、“本当の自分”が好かれているわけではない』という思いを抱いてしまっている。
・『暁を筆頭とした堂島家への執着』と、幼少期から“愛”を実感したことがない反動で生まれた『愛したい』『愛されたい』という願望が加わり、言動がヤンデレっぽい。
・ダンジョンの外観はチャペル。でも、中に入ると堂島家。(聖域のように思っている心理の反映)
・本来二階に続く階段がある場所に、地下へ続く隠し扉がある。(隠し扉は内心を暴かないで欲しいという願いの反映)
・稲羽署(B1)→本庁(B2)→大学(B3)→高校(B4)→中学(B5)→小学校(B6)→小綺麗だが暖かみのない実家の食卓(B7)→原作のマガツっぽい荒野(B8)と続く。
・暴走した影は、生気のない人型が無数に寄り集まって出来た巨人。顔の部分には、笑顔の仮面が張り付いている。(親や教師の顔色を窺って押し殺してきた足立自身の心(人型)と、良い子でいなければ捨てられるという恐怖(笑顔の仮面))
なんでここまで設定した時点でR18の危険性に気づけず、本文を書き出し始めたのかと、過去の自分に訊ねたいです。
出来るだけ早いうちに再びお目にかかれることを祈って、今回はこれで失礼いたします。