== 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
深夜のエマージェンシーコール……。
発しているのは、闇の書だ。
しかし、緊急事態を知らせようにも、やさぐれフェイトのAMFのせいで、主にも守護騎士にも連絡は届かない。
現在進行中の主への魔力接続エラーの無限ループの割り込み以外にも、緊急事態が発生している。
それは……。
「う~ん……。
むにゃむにゃ……。
はやへのみくじゃが……。」
やさぐれフェイトの口から流れ出ている液体。
動けない闇の書。
本は、水に弱い。
闇の書は、割り込みのエラーの緊急度を更に上げる。
しかし、主からも守護騎士からも返信が返って来ない。
事態は、進み続ける。
ピチャンという雫単位が、いつのまにかダラダラと水溜り単位へ。
そして……。
「~~~!」
何者かの悲鳴が響いた。
第8話 やさぐれとの生活③
耳元の大きな不協和音に、やさぐれフェイトは目を覚ました。
口元の涎を拭い、目を擦る。
目の前には、綺麗な銀髪の黒い服を着た女性がベタベタになっていた。
「はて……?」
やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻いてクセ毛を作った後、見知らぬ女性に首を傾げる。
件の女性は、闇の書を抱いて涙目になっていた。
仕方なしにやさぐれフェイトは、はやてとヴィータを揺すって起こす。
「……何?」
「……何だよ?」
「変なのが出て来た……。」
「「……変なの?」」
ヴィータは、件の女性を見て吹いた。
「何で、闇の書の完成前に管制人格が出て来てんだよ!」
「「管制人格(……)?」」
「どうなってんだ……。」
ヴィータは頭を抱えるが、数秒後には、はやての部屋を飛び出していた。
残されたはやてとやさぐれフェイトと……ベタベタの管制人格。
はやてが沈黙を破って部屋の出口を指差す。
「えっと……。
お風呂……使います?」
はやての呼び掛けに管制人格は黙って頷く。
そして、闇の書を差し出した。
「申し訳ありませんが……。
このベトベトになってしまった闇の書も、
どうにかして頂けませんか?」
「うぁ……。」
表紙の半分以上が涎で濡れ、側面のページにも寝食して涎が線を引いている。
はやては、ベッドから車椅子に乗る。
「兎に角、こっち来て。
案内するから。」
「はい……。」
深夜の八神家がバタバタし出した。
…
管制人格が風呂から上がる頃……。
闇の書の涎は丁寧に拭かれ、ファブリーズを振り撒き、ドライヤーで乾燥中だった。
そして、はやてと守護騎士達とやさぐれフェイトが見守る中で、シグナムから管制人格に質問が飛ぶ。
「一体、何が起きたのだ?
闇の書の完成前に姿を現わすなど……。」
「それは、こちらも伺いたいところです。
数日前から、主どころか守護騎士システムにもアクセス出来なくなりました。
いくらエラーコードを送信しても受け付けません。
そして、最大の危機に仕方なく目を覚ましました。」
「最大の危機?」
管制人格が、やさぐれフェイトを指差す。
「彼女が闇の書を枕に……。
そして、寝ながら涎を……。」
シグナムのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「枕にするな!」
「固い枕が欲しくて……。
それに人間寝ている時こそ、油断するもの……。
涎を垂らしてしまうのは、あたしだけじゃない……。」
「垂らすなんてレベルじゃねーけどな。」
闇の書にドライヤーを当てているヴィータが突っ込んだ。
はやてが管制人格に話し掛ける。
「ベタベタになってたんは、
やさぐれちゃんの涎のせいなんやね?」
「はい……。
彼女の涎が体を作る際に反映されて……。
闇の書と同じ様に私も……。」
何とも言えない溜息が漏れる。
今度は、シャマルが管制人格に質問する。
「あの……。
闇の書が完成しないと、あなたは、出て来ないはずですよね?
大丈夫なんですか?」
管制人格は、険しい表情をする。
「大丈夫ではありません。」
「え?」
「そもそも闇の書というものは、精密なプログラムが組み込まれています。
守護騎士システムや防衛プログラムなどがそうです。
そして、プログラムを組む際に緊急事態に対する優先度を持った割り込みプログラムもあります。
数日前から、主と守護騎士と魔力接続が出来なくなり、
エラーコードを吐き続けていました。
一向に返って来ない返信信号に、闇の書は、エラーの無限ループに入っていたということです。
・
・
更に闇の書自体の危機……。
涎による汚染により、別のエラーコードが発生し……。」
「そ、それで?」
「闇の書は、エラー中のエラーの無限ループから抜け出せず……完全に壊れています。」
「…………。」
守護騎士達にズーンと暗い影が落ちる。
「こ、壊れた……。」
「壊れた……。」
「壊れちゃった……。」
「どうすれば……。」
「どうしようもありません。」
やさぐれフェイトが、放心するヴィータから闇の書を取り上げる。
「じゃあ、これはただの本……?」
管制人格が頷く。
「ただの本です。
中で、延々とエラー解除を待っているので、
何も出来なくなっています。」
「エラーを解除すれば……?」
「エラーの解除条件がないのです。
主と守護騎士からの魔力接続のエラーは、
接続が再開されるか、
闇の書の魔力が尽き、新たな宿主を探す時にリセットされるかです。
・
・
しかし、エラー中のエラーの解除条件など存在しません。」
「何で、別のエラーが出たの……?」
「私は、人格を持っています。
唾液攻めに耐え切れず……。
緊急時のエラーコードを発行してしまいました……。」
「お前のせいか……。」
「「「「「お前のせいだ!」」」」」
管制人格以外の全員のグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
やさぐれフェイトは、頭を擦る。
「しかし、これからどうなるの……?
守護騎士とか……。」
「とりあえず、然るべき処置を取らないとこのままかと……。
私達は、闇の書に切り離されたままです。」
「そう……。
ん……?
切り離された……?」
「闇の書にアクセス出来ないので、
闇の書は、永遠に完成しません。」
「…………。」
守護騎士達は、考え込む。
そして、ヴィータが呟く。
「それって……。
もしかして、全てが解決してないか?」
「そうだな……。」
(主はやてへの影響も……。)
(闇の書が再生することも……。)
(蒐集のために戦うことも……。)
「全ては、あたしの計算通り……。」
「「「「「嘘つくな!」」」」」
やさぐれフェイトは、舌打ちした。
この日……。
やさぐれフェイトのせいで、壊れたロストロギア闇の書が、更に壊れてしまった。