== 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
時空管理局の一室……。
そこには、今回の闇の書事件に関わった魔導師が集まっていた。
なのはのデバイスのデータから情報を特定したことで、事件を担当したアースラ艦長のリンディとその息子で執務官のクロノ。
無限書庫での調査を手伝ったユーノ。
闇の書のせいで過去に決別出来ないグレアムとその使い魔二人、リーゼアリアとリーゼロッテ。
そして、話は、なのはの連絡を元にリンディが確認をとり、シャマルが絶叫したところから始まる。
「シャマルです!」
「シャ、シャマルさん?
ベヒーモスさんじゃなくて?」
「何で、そんなモンスターみたいな名前になっているんですか!」
「地球の協力者からの連絡では、間違いなくベヒーモスさんと……。」
シャマルがリインフォースに泣きついた。
この光景も何度見たか……。
「おかしいわね……。
なのはさんの話だと、月を見ると変身する生肉が大好きな方って……。
普段は、天然系の少女に擬態していると……。」
「その説明で気付いてくださいよ!
私だけ、妙な説明があるの変だと思いませんでした!?」
「その……。
守護騎士の方は、基本、そういう方の集まりかと……。」
「は?」
守護騎士達の脳裏に悪魔の笑顔がちらついた。
第14話 そして、時空管理局では……
シグナムがリンディに話し掛ける。
「嫌な予感しかしないが……。
どんな内容が?」
「え~っと……。
貴方は、本当は男で……。」
「違う!」
「その胸は、闇の書から出て来てから豊胸手術したから、
あまり触れないで欲しいと……。」
「どんな情報だ!」
シグナムがヴィータを引っ張る。
「何て、聞いている!」
「口から溶解液を吐き出す……。」
「っなわけあるか!」
ヴィータがザフィーラを引っ張る。
「ザフィーラは!」
「狼から人になる……?」
「……何で、ザフィーラだけ本当なんだよ。」
「…………。」
兎に角、これでは話が進まない。
シグナムがリンディに話す。
「……その情報は忘れてください。
ある者に吹き込まれた嘘です。」
「はあ……。」
プレシアは、隅で小さくなっていた。
…
フェイトの部屋……。
「え~!?
嘘なの!?」
「嘘だよ……。」
「シグナムさんが男じゃないのも?」
「うん。」
「ヴィータちゃんが溶解液吐かないのも?」
「うん。」
「ザフィーラさんが狼から人に変わるのも?」
「それは本当……。」
「どうしよう……。
リンディさんに嘘言っちゃったよぅ……。」
「よく信じたね?」
「だって……。
電話越しだと顔分かんないし……。
闇の書の話が途中に挟まれてたし……。
声だけは、真剣そのものだったんだもん……。」
「なのは……。
少し人を疑った方がいいよ。」
「…………。」
(何だろう……。
そのセリフだけは、フェイトちゃんに言われたくない……。)
結論、なのはもフェイトも同じぐらいアリサに言い包められている。
…
再び管理局の一室……。
ようやく誤解が解けた。
話をリセットして、リンディが質問する。
「大凡の話は、なのはさんから伺っています。
闇の書の改竄を貴女達は知らなかった。
そして、主の命を守るために行動した結果が、
今回の管理局魔導師のリンカーコアを奪うことだった。」
「間違いありません。」
「では……。
知らなかったということを証明出来ますか?」
その質問にプレシアが答える。
「私が証人になるわ。
彼女達は、主に対する改竄の影響。
一定期間蒐集がないと主のリンカーコアを侵食することを
呪いと思っていたから。」
「と、言いますと?」
「はやてちゃんのリンカーコアが未成熟だったために、
闇の書の魔力の抑圧に耐えられないと判断していたのよ。
だから、主として覚醒させてリンカーコアを成長させようとしていた。
そして、闇の書の魔力の抑圧=呪いという言葉にしていた。」
「なるほど。
しかし、そうなれば次元干渉レベルの力が
発揮されたのかもしれないのですよ?」
「残念ながら、それも彼女達は知らなかったわ。
そして、彼女達が、本来、蒐集する気がないのも証明出来る。」
「蒐集する気がない?」
「彼女達が現れたのは、半年前……。
その半年間、彼女達は、蒐集を一度もしていない。
それは、魔導師が襲われている事件が起きてないから分かるでしょう?」
「はい。」
「そして、半年前に現れたという証明は、現地の医師を訪ねれば分かるわ。
半年前にはやてちゃんと会っているから。」
「なるほど。
分かりました。
・
・
しかし、管理局の魔導師が襲われたのも事実。
理由があるにしろ、これを許すわけにはいきません。」
「それは、私が謝ります!」
「はやてさん?」
はやてが前に出て、強く声を張った。
「皆、私のためにしたことです!
だから……すいませんでした!」
頭を下げたはやてに続いて、守護騎士達も前に出る。
「主だけではなく、我々からも謝罪します。
いかなる罰も受けるつもりです。」
シグナムの言葉に守護騎士達も頭を下げた。
「そうですか……。
もう、頭を上げてください。
・
・
クロノ執務官。」
「はい。」
「ここまでの話の経過から、
彼女達を処罰すると、どのような処遇になりますか?」
「今の話だけだと、それほど重い罪にはならないかと……。」
クロノが、はやて達に向き直る。
「ストリートファイトの闇討ちで怪我をさせて、
指導員の注意だけで済んだという例もある。 …… ※1
犠牲者の数が多いとはいえ、怪我人は少ない。
闇の書に喰われたリンカーコアも、元に戻っている。
・
・
軽犯罪で摘発されるか……。
厳重注意か……。」
「その程度よね?」
「今のところは……。
ちゃんと謝罪をしに、ここに来ているわけだし。
・
・
問題は、闇の書がどう使われたかだ。」
「そこの話は、これからということですよね?」
リンディは、プレシアに尋ねた。
(大したものだわ……。
私が仲介役に入ったのも、守護騎士達の味方になっているのも知っていて……。
・
・
何故か彼女とは、以心伝心が出来るのよね……。)
プレシアは、顔には出さずに説明を始める。
「説明の前に確認するわよ。
闇の書は、本来の情報収集型から、悪質なロストロギアに変わってしまった。
1.持ち主に強制的に蒐集を行なわせる悪質な改竄が施された。
一定期間、頁の蒐集がないと持ち主自身のリンカーコアを侵食する。
2.蒐集が完成すれば、次元干渉レベルの力の発揮。
3.本体が破壊されるか所有者が死ぬかすると、白紙に戻って別の世界で再生する。
故に停止させることの出来ない危険な魔導書になってしまった。」
全員が頷く。
「次に現在の闇の書の状態……。」
プレシアが言い淀む。
「非常に言い難いのだけど……。
壊れた魔導書が更に壊れてるわ。」
管理局側からは疑問符があがり、闇の書組からは溜息が漏れる。
「実は……。
私の娘の擬似人格が闇の書を……。」
「?」
「……壊しました。」
「…………。」
今まで黙っていたグレアムが質問する。
「ど、どういうことかね?」
「既に気付いていると思うけど……。
この部屋でおかしなことが起きているでしょう……。」
プレシアが指差す。
「闇の書の主が、ピンピンしてること……。
管制人格が闇の書完成の前に姿を見せていること……。」
「やっぱり、管制人格だったのか……。」
ユーノが質問する。
「無限書庫の記録だと、
覚醒した主が管理者権限を発動するために
管制人格が出て来るはずですよね?」
「その通りなんだけど……。」
「?」
「壊れていった経緯を話すと……。
うちの娘の擬似人格が、そこの守護騎士との戦闘で目を覚まして……。」
プレシアの歯切れは悪い。
「どんな手を使ったか、返り討ちにした後で守護騎士に理由を聞いたらしく……。
AMFという魔力を消す能力が擬似人格には働いていて……。
それで呪い……もとい侵食を止めていたと……。
・
・
ただ、完全に闇の書との接続を切り離したために、
闇の書は、エラーの無限ループ状態に……。
そして、決定的だったのが……。」
「だったのが?」
「あの馬鹿が闇の書を枕にして寝たことで……!」
プレシアは拳を握り、管理局側の疑問は深まる。
「寝ながら闇の書に涎を垂らしたもんだから、
管制人格が緊急事態に目を覚ましてしまったのよ!」
怒りのままに叫んだプレシアに対して、管理局側の人間は全員がこけた。
「何で、そうなるんだ!」
クロノの突っ込みは、尤もだった。
「こっちだって、理解したくないわよ!」
「一体、どういう状態なんだ!」
『クロスケがキレてる……。』
『クロノがキレなければ、私がキレてた……。』
クロノの突っ込みの裏で、リーゼ姉妹の念話が流れていた。
「きっちり説明してくれ!」
「言いたくないけど、してあげるわよ!
あの馬鹿のせいで、エラーにエラーの割り込みが入って、
エラー解除出来なくなってるのよ!」
「な……!」
「だけど、そのエラーの優先順位が高いから、
主への干渉も止まって、安定しちゃってるのよ!」
クロノは、頭を抱えて座り込んだ。
「有り得ない……。」
『それでか……。
守護騎士が蒐集しなくなったのは……。』
『管制人格が出て来た理由も分かった……。』
『でも……。』
((((((馬鹿過ぎるだろう……。))))))
管理局の人間の姿は、昨日までの守護騎士の姿だった。
「何か凄い虚しいぞ……。」
「ヴィータ……。
お前もか……。」
「私達のせいじゃないのに、
私達が馬鹿みたいだ……。」
グレアムが額に手を置き、呟く。
「つまり……。
何百年と封印も出来なかった闇の書が、
訳の分からない理由で安定しているのか……。」
「認めたくないけど……。」
クロノが、プレシアに叫ぶ。
「納得出来るか!
じゃあ、暴走前に闇の書に涎を掛ければ止まったのか!」
「止まんないんと思うわよ。
あくまで、その前に管制人格を呼び出すぐらいの
エラー状態にして置かないといけないんだし……。
・
・
はっきり言って、エラーにエラーを重ねるなんて暴挙をするわけないじゃない……。
あの馬鹿以外に……」
「その馬鹿が居れば、父さんはーーーっ!」
「クロノ! 落ち着いて!」
リンディがクロノを必死に宥める。
プレシアがリンディ達を指差し、グレアムに質問する。
「あの……何か悪い事でも?
あの馬鹿を求めるなんて、相当なことですけど……。」
「今は、やめて置こう……。
クロノの心の傷を抉ることになる……。」
ちなみにグレアムもリーゼ姉妹も、心の傷を抉られていた。
…
再びフェイトの部屋……。
「アリシアちゃんとアルフさんは?」
「一緒に付いて行ったよ。
居住エリアで、アルフがアリシアの面倒を看てるって。」
「そうなんだ。
・
・
プレシアさん達、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。
母さんが居るんだもん。
もう一人の私が居なければ、問題は起きないよ。」
「そうだよね。」
なのはとフェイトは、渦中の中心で、信頼していたプレシアが絶叫したなど思いもしなかった。
そして、居ないはずのやさぐれフェイトの影響が、次元を挟んだ別の場所で迷惑を掛けているなど、知る由もなかった。
…
※※※※※ 刑罰について ※※※※※
※1 …… 正直、管理局の刑罰はよく分かりません。
ただ、wiki などを調べると vivid の方でアインハルトという少女がストリートファイトで闇討ちをしていた時、午前中で解放された経緯から、罪はそれほど大きくないと判断しました。
・蒐集時期が短いこと(多くは襲ってない。ワザと暈かして書いたつもり)。
・ヴィータが言っているように、はやての人生のために殺しはしていない。
・怪我とリンカーコアの魔力調達のみ。
怪我…S級魔導師なら十分な手加減可能と判断。
リンカーコア…なのはが数日で復活したところを見ると、実は、それほど大それたことではないのかもしれないと判断。
以上の理由で、このSSの管理局の罪の扱いは低いものとしました。