「やあ七海。いつにも増してげっそりしてるね」
夏音は廊下の向こうから危なげな足取りでやってきた七海に心配そうに声をかけた。新年度が始まって以来、ずっと忙しそうな夏音の友人は目許に立派なクマをこさえ、姿勢は常にうなだれ気味である。一見、ハードワークを重ねるサラリーマンに見えなくもない。
「ああ、君か。ちょっと生徒会も色々あってね。まあ生徒会だけじゃないんだけど」
「そういえば新しい子に男の子はいるの?」
「頑張って三人ほど獲得できたんだけどさ……まあ、問題児がいてね」
「へえー。問題児って?」
「……そのうち分かると思うよ」
七海は暗い顔でそれだけ言い残して、去っていった。遠ざかる背中から放たれる侘びしさに何故か夏音は胸がしくりと痛んだ。
首をかしげて友人を見送ると、夏音は再び歩き出したのだが。
「あ、夏音さんっ!」
今度は桜高に二つとない豪華縦ロールをぶら下げる堂島めぐみが満面の笑みを浮かべて夏音に近づいてくる。
「新入部員が入ったんですってね!」
「ああ、そうなんだよ。もっと入ってくれるかと思ったんだけど、一人だけだったんだ」
「ええ、ええ。それでもイイことだと思います! うちの部は経験者も結構入ってくれて、二年生が青い顔して必死になってますよ」
「そうか。バトン部みたいなのは人数の制限があるんだよね」
「個人は関係ないですけど、団体となると……はい!」
「そう考えるとうちの部はそういう心配はないから気楽でいいや」
夏音が暢気な笑いを漏らすと、めぐみはふと首を傾げた。
「でも、なかなかバンドで六人っていないですよね」
「うーん……あまり知られてなかったりするけど、いないわけではないんだよ。それに、ほら。大勢でやるのは慣れてるし」
夏音が含みをもたせて言うと、めぐみは「ああ!」と納得したようだ。
「こういうロックベースのバンドサウンドだと難しいかもしれないけど、色々とトライしてみるつもり」
「そうですか。頑張ってくださいね! 我々ファン倶楽部も応援していきますので!」
ぐっと握った拳を振り上げためぐみに夏音は苦笑した。
「とりあえず、うちのベースの方のファン倶楽部と仲良くね……」
「別に仲が悪いってわけではないですよ? 結局のところ、軽音部を応援するって部分で同じ理念を持ってるんで、いがみあったりとかはないです。何ていうんですかね。ライブの時、どれだけ盛り上がってるかとか、声出してるとか。曲完璧に覚えてるとか、そういうのでライバル? みたいな感じです」
「へ、へえー。全く分かんないけど、それならそれでいいんだ」
彼女達には彼女達の世界が築かれているのだろう。その場で深くは追求せずに、夏音はめぐみと別れた。
夏音は、歩きながら思った。この生活に順応している自分のことや、ごく自然な振る舞いでいられるこの空間のことを。
軽音部以外にも年の近い友人が出来た。ただ教室で言葉を交わすだけの人もいれば、挨拶するだけの関係の人もいる。
それでも、夏音にとって全てが真新しい世界だったのだ。そんな世界にもいつの間にかすっかり溶けこんで早一年が経つ。二年生になって一年の時のクラスメートと離れたことで不安もあったが、次第に打ち解けつつもあった。友人の友人はまた、自分の友人となり得るのだった。
この場所の居心地が良すぎて忘れがちになるが、夏音は自らの立場のことを深く考えないわけにはいかなかった。
自分がどういった存在であるか。立場や、それを継続するために成すべきことがあるのだ。
現在の夏音は、自分の築いた地位をかろうじて保っている。日本に来る以前に比べて仕事の量は十分の一以下。演奏する機会も断然、減った。
幾つもバンドを掛け持っていた夏音は、その活動範囲の広さで特徴を持っていたミュージシャンである。かつて所属していたSilent Sistersのようにレーベル所属でコンスタントに活動をすることもあれば、プロジェクトとして参加するような場合もある。
特に夏音は一介のベーシストというより、音楽製作、つまりはプロデュースの才能を発揮していたこともあって、仕事の間口は非常に広かった。夏音の年齢を考慮するとなかなか考えられないことだ。
ベーシスト個人としての、様々なメーカーとの契約もある。
流石にそれら全てに関わる業務を個人でやることはできないので、間にジョンのようなエージェントを置くことになるのだ。
ジョンは某有名楽器メーカーのやり手営業だったが、既にほぼ夏音の専属と化している。ジョンがいないと、夏音のミュージシャン人生は即座に終了するだろう。
ショウビズの世界は一度落ちたら、なかなか這い上がるチャンスはない。現在も、夏音がこうして遠く離れた地で生活していられるのも、これまでの功績や積み上げたこうしたキャリアの特殊性が大きく関わっているのだ。
作曲なら、どこにいてもできる。高校生を続けながらも、密かに仕事をこなすことの厳しさは身に沁みているが、夏音は何でもやるつもりだった。
それでも、この生活は期限つきだということは初めから承知している。ずっとここに留まることはできないし、また以前の生活に戻ることを夏音の周りも理解しているからこそ、目を瞑ってもらっているということも。
周りというのは、あくまで夏音のこれまでの関係者であって、新たに知り合った人々ではない。
彼女達は、いつか夏音がいなくなることをどのように考えているのだろうか。
どうしても自分がいなくなった後のことが頭をよぎってしまう。
一時、留まっているに過ぎない自分がいなくなることを悲しんでくれるだろうか。
流石にこれまで自分が彼女達に全く影響を与えなかったとは思っていない。自分が与えた影響を実際に目に見えて発揮する彼女達を知っているからこそ、予想がつく。
きっと皆、悲しんでくれるのだろう。
ショックを受けて、ひょっとしたら引き留めようとするかもしれない。それでも夏音は戻らなくてはならない。
そうなったとしても、彼女達は自分がいなくなった後も音楽を続けていくのだろう。
結局のところ、この生活から抜け出す覚悟ができていないのは自分自身なのだ。
人は、大切な人が死んでも、生きていく。どれだけ悲しみに打ちひしがれても、それでも前に進むものだ。
それならば、ただ夏音が別の場所で生きていくことになった程度で、彼女達の生活から大きく失われるものはないのだ。
夏音は潮時を探っていた。探しているというより、その瞬間が視界に入ってこないようにしたいのだ。怯えて、葛藤している。
春休みにポールに出会ったことは夏音の中で大きな心境の変化を起こしていた。かつての自分を色濃く思い出すきっかけとなる人物からの突然の誘いは、夏音の心を大きく揺さぶった。
彼は今すぐではないと言っていたが、おそらく「その時」が訪れるのはそれほど遠くないだろう。世の中は自分にばかり都合よくまわってくれない。
夏音が心から納得できる未来は来ないだろう。そんな確信に近い予感があるのだ。
それが決まったわけではないが、自分に優しい未来を想像してはいられない。
軽音部には新入生が入った。今年はただ一人だけの入部となったのだが、五人いれば軽音部は存続できるし、来年になれば新たな新入部員が入るかもしれない。
去年までとは状況が違い、夏音がいなくなることで軽音部に迷惑をかけることはなくなった。
夏音からしてみれば、梓はダイヤの原石だ。しかも才能だけではない。自分で自分を研磨することができる逸材である。
彼女ならば、夏音が作った曲のギターもいつか弾きこなせるようになるだろう。
ヴォーカルは唯と澪に任せた。強引な決定に彼女達は戸惑っていたが、やらせてみれば形が見えてきたことで、自信にもなったはずだ。
これで、バンドは成り立つ。
「さあ。さよならの準備だけは整えておかなくちゃ」
★ ★
「これ、譜面だよ」
「わあ! ありがとうございます!」
前から渡すと約束していた曲の譜面を手に取って梓の顔が輝く。軽音部のオリジナル曲が一つできるまでには、様々なパターンがある。
誰かがふと紡いだメロディから押し広げていくこともあれば、夏音やムギが曲の骨子をほとんど作り上げた上で肉付けしていくといった作業になることもある。
前者の方は、譜面を用意しない場合が多い。共同で少しずつ曲の構成を練っていく作業はまた刺激的で面白いものだ。後者に至っては、譜面を用意した上で変更点などを書き込んだり、とどちらかと言えばこちらの方が「らしい」感じはする。
譜面が読めない者がいるので、結局は耳で覚えさせることになるのだが。
夏音が梓に手渡した数曲分の譜面は、夏音がそうした変更点などもまとめて手を加えた完成版といっていいだろう。
「これで一気に曲が覚えられます!」
「それは楽しみだね。一度コピーしてみたら、自分のやりたいように変えてみてもいいよ」
「え? でも、変な風に変えちゃったら……」
「そういう時は俺達もちゃんと意見を出すから大丈夫だよ。特に唯は時々変な手癖あるからね。譜面の上が正解ってわけじゃないよ」
「はいっ! 頑張ります!」
元気な返事に夏音は口許を緩めた。意欲もあり、努力家であろう彼女は言葉通りすぐに曲を覚えてくるのだろう。彼女に一度吸収されたフレーズがどんな色がついて出てくるのか、夏音は楽しみにすることにした。
「ねえ夏音くん。ちょっといいかしら?」
「なんだいムギ?」
「あのね。まだそういう時期じゃないって分かってるんだけど……一応、新曲のデモ、作ってみたの」
「本当!? 聴かせてよ!」
「うん。ちょっと今回は今までより変わった音色が多くなってるから、変かもしれないけど」
そう言ってムギは自分のiPodから伸びるイヤホンを夏音に差し出した。夏音は両耳にしっかりとイヤホンを装着すると、ムギに頷いた。
頷き返すムギが再生ボタンを押した。
「Wow……」
思わず、漏れてしまった感嘆の声。
確かに、初っぱなから聞こえてきた電子音は今までのムギからは想像できないほど「かっ飛んで」いた。
「ねえムギ。これ、機材増やした?」
「やっぱり分かるの夏音くん! すごーい!」
「TORITONに入ってないエフェクトがっつりかかってるんだけど、タッチがムギっぽいからかな。ワーミーでも導入したの?」
「そうなの! 私も色々やってみたいなーって」
「そ、そうか」
ニコニコとおっとり笑顔の彼女がとんでもない引き出しを開きつつあるのではないかとぞっとした夏音であった。
「この曲、また今までとは雰囲気が違うね。飛び道具とかたくさん使えそうな感じなのに、爽やかっていうか。デモの時点でこの爽やかさとエグさが相反し合ってるのが恐ろしいよ」
実際に曲をつけていく光景が思い浮かばないレベルである。夏音は、まさかムギがこんな曲を持ち込んでくるとは思ってもおらず困惑したが、単純に面白いとも思った。
「今度みんなでやってみよう!」
夏音が力強く返した返答にムギは嬉しそうに目を細めた。
「おーおー! お二人さん盛り上がりやがってー! 私にも聴かせろー!」
突然割り込んできた律がムギの肩に手を絡ませる。ムギは急に体重をかけて背後から抱きついてきた驚いたように目を大きくしたが、すぐに楽しそうな笑い声を上げた。
「りっちゃん重いよー」
「なにをー!? この羽根のように軽い私に何を言うか。これが澪だったらムギは今ごろ床に沈んでるぞ」
「何だと律っ!」
いつもの戯れを夏音は微笑を浮かべながら見守っていたが、ふと律が持ってきていたペダルケースに注目した。
「あれ、律? そのケースってもしかして」
「あん? ああ、これね。そうそう実はこれ買っちゃったんだよねー」
途端に嬉しそうな声を出す律。注目の中、律はもったいぶったような動作でケースを開けた。
「あ、ツインペダル!」
澪が驚きの声を上げた。その反応に気をよくした様子の律は腰に手をあててふんぞり返った。
「私のし・ん・へ・い・き。まあネットで安かったから買ってみたんだー。好きなドラマーが昔使ってたっていうし、レビュー観ても今の私にはぴったりなやつ選んだつもりなんだけどさ」
間近で真新しいツインペダルを覗き込んでいた唯が慌てたように立ち上がった。
「り、りっちゃん!」
「なんだー唯? うらやましいのか?」
ギタリストである唯がツインペダルをうらやましいと思うはずないのだが、そんなツッコミがなされる前に唯から衝撃の言葉が飛んだ。
「これ、何!?」
その言葉に一瞬で足の力が抜けた律は机に頭をゴツンとぶつけた。
「さすが唯だなあ。予想の斜め上をいく」
「ま、まあ。唯はあんまり機材とかに興味ないから」
苦笑を浮かべた夏音と澪が全くフォローになっていない言葉を紡ぐ間にふらふらと立ち上がった律はきょとんと首を傾げる唯を恨めしそうに睨んだ。
「そうだった……お前はテレキャスとストラトの違いも分からないような機材音痴だったなコノヤロウ!」
それは、機材音痴というよりただの無知ではないかと夏音は思った。
少し離れた所でこの様子を傍観していた梓は、唖然とした表情で突っ立っている。若干呆れかえっているような表情だが、その視線は律のペダルに釘付けになっていた。
どんなことを考えているのか見当も付かないが、少なくとも梓の中では律に対する評価が上がったに違いない。
新たな機材を求める裏には、向上心があるものだ。財力にかまけて次々と機材を揃える者がいる中、普通の高校生である律にとっては安い買い物ではなかったはずだ。
夏音も、密かにそんな律を見直していた。
目を閉じると、一年生の時に交わした会話を思い出される。
『この曲、本当はツインのフレーズでやって欲しいんだけどな』
『えー? ツインペダルなんて持ってないし、難しそうじゃん』
『まあワンペダルでも足がもたっちゃう律には難しいか』
『なにをーっ!?』
彼女も、確実に前へと進んでいる。
一年前とは実力も違う彼女は、いつもそれを買う機会を窺っていたのだろう。新しい武器を求めて。
爆メロ以降、やる気を失ったように見えた彼女達もきちんと自分なりの模索を続けてきたのだ。
そう考えると、たまらなく夏音の中のやる気が燃焼し始めた。
「じゃあ律! 新曲に早速それ入れてみよう! それで今までの曲のべードラもちょっと変えていこうか!」
「えぇー! ちょっ、いきなりは無理だって!」
「やれ」
「いきなりエ○ァネタ絡めんな!」
その後の練習は滞りなく進んだ。今までの曲のおさらいをすると同時に、梓が覚えた曲を本人も参加して行った。
唯のレスポールに代わって入った梓のムスタングの音。違和感こそあるが、曲はすんなり通った。
「音作りも変えていかないとな」
顎に手を当てながらぽつりと漏らした夏音だったが、演奏してみて好感触を得ていた。梓のギターがどうしても浮いてしまうのは、今後の課題である。
それも、これから練習を重ねて試行錯誤を繰り返していけばいいだけだ。絶対に良くなるに決まっている。それは夏音の中では希望ではなく、決定事項だった。
「あぁー。慣れないツイン。だるー」
練習が終わった途端、いち早く機材を片付けた律はどさっと音を立ててソファに倒れ込んだ。ただでさえ短いスカートなのに、人目を気にしない振る舞いは男の子として夏音の目には刺激的だ。
「律……いい加減に男の前だってことを自覚してくれよ」
夏音が常日頃から抱えている悩みである。眉を顰めて苦情を出してきた夏音に律が鼻を鳴らして笑んだ。その笑い方が何となく艶めいた風に感じられて、夏音は「律のくせに」と心で吐き捨てた。
「夏音くんのえーっちいー」
その言い方にいらっとしたのは夏音だけではなかったことは間違いない。
「調子にのるなっ」
よく律のことを「はしたない!」と注意する澪が黙っているはずもない。割と真剣な口調で言われたことで律は口を尖らせて「何だよ~」と不平を漏らす。
「なんか、澪先輩。お母さんみたいですね」
「お、お母さんっ!?」
後輩が発した感想に澪はとてつもないショックを受けたようだ。もちろん梓は律をたしなめる澪の行動を評して言ったのだろうが、澪にとっては「お母さん=年配」といったネガティブなイメージがわき上がったのだろう。
「梓はすごい逸材だなー。ナチュラルに澪にダメージを与える才能があるぞ」
「ええっ!? わ、私そんな変なつもりで言ったんじゃありません!」
「いくら澪ちゃんが大人びてるからってお母さんって感じはないよねえ?」
「そうねー。私も澪ちゃんはどちらかというとお姉さんって感じかも~?」
仲間達のフォローもあってか、澪は何とか立ち直った。
「でも、律と澪の関係って友達っていうか親兄弟みたいに思える瞬間があるよね」
「そうかー?」
律が夏音の言葉に曖昧に笑って返す。
「あーたしかにそうかも。友達よりもっと近い感じの時あるよね」
唯も何だかんだで他人を観察しているようだ。夏音も同意見で、この二人の関係は基本的に親友、幼なじみといった言葉が当てはまるのだろうが、時折彼女達のやり取りや会話の空気感から、身内に対するような気安さを感じるのだ。
「あの、澪先輩と律先輩は昔っからのお知り合いなんですか?」
「おいおい知り合いなんて他人行儀なんてもんじゃないぞ梓~? 私と澪はそう……ベストフレンドってやつだな」
「べ、ベストフレンド!」
言葉の響きに感銘を受けた唯が顔を輝かせて繰り返した。
「ステディな関係ともいう」
「律、たぶんそれ違う」
律の発言にぶっと色々噴き出した澪に代わって、夏音が律の勘違いであろう発言を正す。
「まあ、りっちゃんたら……」
何故かムギがぽっと頬を染めて律を見詰める。どういうわけか、その眼差しには妙な熱が込められていた。
「そ、そうだったんですか。私……そういうの別に、あの……お二人がよければ、いいと思います……たぶん」
若干ヒキ気味なのを隠せていないが、梓は先輩方に現れた新事実に何とか適応しようとしていた。思い切り勘違いなのだが、こういうのを呑み込めてこそ大人の階段を上るんだと自分に言い聞かせている心の葛藤が駄々漏れだった。
「あ、梓! そんなんじゃないから! この馬鹿は言葉の意味わかってないだけだからな!?」
あらぬ方向に視線を逸らし続ける梓の肩を掴んで必死の形相の澪に、ようやく律は自分の発言の威力に気付いたらしい。
ぽりぽりと頬を掻いて、白い歯を見せてあっけらかんと笑った。
「あー……なんか、珍しい語彙を出したくってさ……すまん!」
「すまんで済むかー!」
普段、その鉄拳で律を沈める澪だったが、怒り心頭のあまり滅多に拝むことのできない伝家の宝刀・上段回し蹴りが律の懐に炸裂した。
実際には足が上がりきっていないので、腰あたりに入った澪の蹴りに律が白目を剥いて倒れた。
「み、みお…………せかい、ねらえるよ」
不思議な言葉を遺して、律は逝った。
「り、りっちゃーーん!!?」
最近、よく叫ぶ唯は泡を吹いて倒れる律に駆けよるとその上体に手を回した。明らかにグロッキーな律の顔に視線を落とした唯は、ふるふると首を横に振って、天井に向かって慟哭した。
「りっちゃん……りっちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」
「やれやれ」
展開についていくことが面倒くさくなった夏音はさっさと帰り支度を進めることにした。
※なんか日常回みたいのが多いですね。もうすぐ、お話進みます。